(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004558
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】ローラハース炉およびローラハース炉の運転方法
(51)【国際特許分類】
F27B 9/30 20060101AFI20230110BHJP
F27B 9/24 20060101ALI20230110BHJP
F27B 9/26 20060101ALI20230110BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20230110BHJP
B65G 13/02 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
F27B9/30
F27B9/24 R
F27B9/26
F27D3/12 S
B65G13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106333
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000219750
【氏名又は名称】東海高熱工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇津木 幸夫
【テーマコード(参考)】
3F033
4K050
4K055
【Fターム(参考)】
3F033BC03
3F033GA06
3F033GD07
4K050AA04
4K050BA16
4K050CG05
4K050CG29
4K055AA05
4K055HA02
4K055HA14
4K055HA23
4K055HA25
4K055HA27
(57)【要約】 (修正有)
【課題】被焼成物を安定して搬送しつつ優れたエネルギー効率下で焼成処理可能なローラハース炉を提供する。
【解決手段】被焼成物oを載置するセッターsと、前記被焼成物を焼成する焼成室hと、前記被焼成物を載置したセッターを前記焼成室の内部に搬入し搬出するための複数の搬送ローラrとを有し、前記セッターが厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有する多孔性の薄板からなり、前記複数の搬送ローラのうち少なくとも一部がその表面の少なくとも一部に表面凹凸加工処理が施されたものであることを特徴とするローラハース炉1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被焼成物を載置するセッターと、前記被焼成物を焼成する焼成室と、前記被焼成物を載置したセッターを前記焼成室の内部に搬入し搬出するための複数の搬送ローラとを有し、
前記セッターが厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有する多孔性の薄板からなり、
前記複数の搬送ローラのうち少なくとも一部がその表面の少なくとも一部に表面凹凸加工処理が施されたものである
ことを特徴とするローラハース炉。
【請求項2】
前記多孔性の薄板が、複数の線状部材が交差する網目状物からなる請求項1に記載のローラハース炉。
【請求項3】
前記網目状物を構成する線状部材の直径が、0.01~1.0mmである請求項2に記載のローラハース炉。
【請求項4】
前記網目状物を構成する線状部材は、線状基材の表面に厚さ10~1000μmのコート層が形成されてなるものであって、前記コート層が、アルミナ、ジルコニア、ジルコン、ムライトおよび希土類金属酸化物のうち少なくとも一種を含む請求項2または請求項3に記載のローラハース炉。
【請求項5】
前記線状基材が、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケル系耐熱鋼から選ばれる一種以上の金属からなる請求項4に記載のローラハース炉。
【請求項6】
前記表面凹凸加工処理がローレット加工処理である請求項1~請求項5のいずれかに記載のローラハース炉。
【請求項7】
前記表面凹凸加工処理が施された搬送ローラが、焼成処理した被焼成物を焼成室から搬出する出口部近傍の搬送ローラである請求項1~請求項6のいずれかに記載のローラハース炉。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれかに記載のローラハース炉を用いて被焼成物を焼成することを特徴とするローラハース炉の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラハース炉およびローラハース炉の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体チップや積層セラミックコンデンサ(MLCC)等の被焼成物を焼成するためのローラハース炉が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図7は、従来のローラハース炉の断面を模式的に示す図である。
図7に示すように、一般的に、ローラハース炉11は、所定の長さを有する焼成室hを備え、被焼成物oを焼成室h内に搬入し搬出するための、被焼成物oの搬送方向と直交する方向に各々延びる多数の駆動ローラが搬送ローラrとして敷設されている。
【0004】
図7に示す例において、ローラハース炉を用いて被焼成物oを焼成する場合には、被焼成物oを、アルミナやムライト等のセラミックスで形成されたセッター(敷板)s上に載置した状態でローラr上に配置し、多数の搬送ローラrをその軸周りに回転させることで、セッターs及びその上部に載置された被焼成物oを焼成室hの入口部iから出口部e方向に(搬送方向であるd方向に)搬送する。そして被焼成物oは、ローラハース炉の焼成室h内で、例えば1000℃程度に加熱されて焼成された後、焼成室hから搬出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のローラハース炉においては、セッターsと被焼成物oとが高温の焼成室内で直接触れると両者が反応することが考えられる。
そこで、このような反応を抑制するために、
図8に側面図により例示するように、セッターsと被焼成物oとの間に、少なくともその表面が被焼成物oとの反応性が低い素材で形成された多孔性の薄板M(例えば、メッシュ(網)等)を介装させつつ焼成する態様が考えられた。
【0007】
一方、近年においては、被焼成物oの小型化が進んでいるため、焼成室h内に投入されるエネルギーのうち、被焼成物o以外の部材の加熱に使用されるエネルギーが増加する傾向にあり、加熱効率の低下を招いている。
【0008】
このため、本発明者は、上記セラミックス板からなるセッターsを使用することに代えて、上記多孔性の薄板をセッターsとして使用することを着想した。
【0009】
しかしながら、本発明者が検討したところ、上記多孔性の薄板をセッターsとして使用した場合、セッターsと搬送ローラrとの摩擦が低減し、セッターsが回転したり蛇行したりして安定して搬送し得ないことが判明した。
【0010】
このような状況下、本発明は、被焼成物を安定して搬送しつつ優れたエネルギー効率下で焼成処理可能なローラハース炉を提供するとともに、ローラハース炉の運転方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術課題を解決するために本願発明者等が鋭意検討したところ、被焼成物を載置するセッターと、前記被焼成物を焼成する焼成室と、前記被焼成物を載置したセッターを前記焼成室の内部に搬入し搬出するための複数の搬送ローラとを有し、前記セッターが厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有する多孔性の薄板からなり、前記複数の搬送ローラのうち少なくとも一部がその表面の少なくとも一部に表面凹凸加工が施されたものであることを特徴とするローラハース炉により、上記目的を達成し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)被焼成物を載置するセッターと、前記被焼成物を焼成する焼成室と、前記被焼成物を載置したセッターを前記焼成室の内部に搬入し搬出するための複数の搬送ローラとを有し、
前記セッターが厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有する多孔性の薄板からなり、
前記複数の搬送ローラのうち少なくとも一部がその表面の少なくとも一部に表面凹凸加工処理が施されたものである
ことを特徴とするローラハース炉、
(2)前記多孔性の薄板が、複数の線状部材が交差する網目状物からなる上記(1)に記載のローラハース炉、
(3)前記網目状物を構成する線状部材の直径が、0.01~1.0mmである上記(2)に記載のローラハース炉、
(4)前記網目状物を構成する線状部材は、線状基材の表面に厚さ10~1000μmのコート層が形成されてなるものであって、前記コート層が、アルミナ、ジルコニア、ジルコン、ムライトおよび希土類金属酸化物のうち少なくとも一種を含む上記(2)または(3)に記載のローラハース炉、
(5)前記線状基材が、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケル系耐熱鋼から選ばれる一種以上の金属からなる上記(4)に記載のローラハース炉、
(6)前記表面凹凸加工処理がローレット加工処理である上記(1)~(5)のいずれかに記載のローラハース炉、
(7)前記表面凹凸加工処理が施された搬送ローラが、焼成処理した被焼成物を焼成室から搬出する出口部近傍の搬送ローラである上記(1)~(6)のいずれかに記載のローラハース炉、および
(8)上記(1)~(7)のいずれかに記載のローラハース炉を用いて被焼成物を焼成することを特徴とするローラハース炉の運転方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ローラハース炉を構成するセッターが多孔性の薄板からなることから、従来の板状のセッターに比較して熱容量を低減し焼成室内で焼成処理する際に使用されるエネルギー量を低減することができる。
また、本発明によれば、セッターが多孔性の薄板からなるとともに、搬送ローラがその表面の少なくとも一部に表面凹凸加工処理が施されたものであることにより、上記多孔性の形状に由来してセッターの表面に複数形成される凹部(貫通孔)に搬送ローラ表面に施された凸部が係合し、搬送ローラの回転により生じる搬送力をセッターに対して効果的に伝達することができる。
このため、本発明によれば、被焼成物を安定して搬送しつつ優れたエネルギー効率下で焼成処理可能なローラハース炉を提供することができるとともに、ローラハース炉の運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るローラハース炉の例において、その断面の模式図である。
【
図2】本発明に係るローラハース炉の例において、被焼成物のセッターへの載置形態を模式的に示す側面図である。
【
図3】本発明に係るローラハース炉において、多孔性の薄板が網目状物である場合の形態例を示す図である。
【
図4】搬送ローラ表面に転造式によりローレット加工処理を施す方法の一例を示す模式図である。
【
図5】表面がローレット加工処理された搬送ローラの一例を示す図である。
【
図6】本発明に係るローラハース炉において、表面凹凸加工処理が施された搬送ローラの表層部断面を部分的に拡大した模式図である。
【
図7】従来のローラハース炉の断面を模式的に示す図である。
【
図8】被焼成物のセッターへの載置形態例を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
先ず、本発明に係るローラハース炉について説明する。
本発明に係るローラハース炉は、
被焼成物を載置するセッターと、前記被焼成物を焼成する焼成室と、前記被焼成物を載置したセッターを前記焼成室の内部に搬入し搬出するための複数の搬送ローラとを有し、
前記セッターが厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有する多孔性の薄板からなり、
前記複数の搬送ローラのうち少なくとも一部がその表面の少なくとも一部に表面凹凸加工が施されたものである
ことを特徴とするものである。
【0016】
以下、本発明に係るローラハース炉について、適宜、図面を参照しつつ説明するものとする。
【0017】
図1は、本発明に係るローラハース炉の例において、その断面を模式的に示す図である。
図1に示すように、ローラハース炉1は、所定の長さを有する焼成室hを備え、被焼成物oを焼成室h内に搬入し搬出するための、複数の駆動ローラが搬送ローラrとして敷設されている(
図1に示すその他の符号は、
図7に記載したものと対応している)。
【0018】
図2は、本発明に係るローラハース炉において、被焼成物のセッターへの載置形態例を模式的に示す側面図である。
図2に例示するように、本発明に係るローラハース炉において、被焼成物oは、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有する多孔性の薄板からなるセッターs上に載置された状態で、
図1に示す焼成室hの入口部iから出口部e方向に(搬送方向であるd方向に)搬送される。
【0019】
本発明に係るローラハース炉において、セッター上に載置される被焼成物としては、特に制限されないが、例えば、半導体チップ、積層セラミックコンデンサ(MLCC)等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0020】
本発明に係るローラハース炉において、セッターは、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有する多孔性の薄板からなる。
上記多孔性の薄板としては、複数の線状部材が交差する網目状物や、薄板材をパンチング処理したパンチング処理物を挙げることができる。
【0021】
本出願書類において、複数の線状部材が交差する網目状物とは、一方向に向けて複数並行して配置された第一の線状部材と、係る第一の線状部材と交差する方向に複数並行して配置された第二の線状部材とにより形成されてなる、格子状の部材を意味する。
本発明に係るローラハース炉において、多孔性の薄板が上記網目状物である場合、上述した第一の線状部材と第二の線状部材の交差部において、両線状部材が固定され一体化されたものであってもよいし、両線状部材が交互に上下しつつ網状に織り込まれたのであってもよい。
【0022】
線状部材が交互に上下しつつ網状に織り込まれた網目状物の例としては、
図3(a)や
図3(b)に示すように、各々線状部材からなる縦線と横線とを一定の間隔を保ちつつ交互に上下するように交わらせて網状に織ったものを挙げることができる。
図3(a)は、平織(縦線と横線とを一定の間隔を保ちつつ1本づつ交互に上下するように交わらせて網状に織り込んだもの)の例を示し、
図3(b)は、綾織(縦線と横線とを一定の間隔を保ちつつ複数本づつ交互に上下するように交わらせて網状に織り込んだもの)の例を示すものである。
【0023】
上記線状部材を交差することにより形成される格子形状パターンとしては、(
図3(a)や
図3(b)に例示するような)正方形状の他、長方形状、菱形状等の四角形状を挙げることができ、正方形状であることが好ましい。
【0024】
本発明に係るローラハース炉において、多孔性の薄板が上記網目状物である場合、網目状物を構成する線状部材の直径は、0.01~1.0mmであることが好ましく、0.05~0.5mmであることがより好ましい。
【0025】
本発明に係るローラハース炉において、上記網目状物を構成する線状部材の直径が上記範囲内にあることにより、被焼成物の搬送時において、網目状物を構成する線状部材と搬送ローラ表面に設けられた凸部とを効果的に係合させ、被焼成物を安定して容易に搬送することができる。
【0026】
本発明に係るローラハース炉において、多孔性の薄板が複数の線状部材が交差する網目状物であり、(
図3(a)や
図3(b)に例示するような)正方形状の格子パターンを有するものである場合、上記網目状物は、4~500メッシュであるものが好ましく、20~300メッシュであるものがより好ましい。
なお、本出願書類において、メッシュとは、編目状物の縦方向または横方向の1インチの長さの間に形成される格子の数を意味する。
【0027】
本発明に係るローラハース炉において、多孔性の薄板が複数の線状部材が交差する網目状物からなる場合、互いに交差する線状部材間に形成される(
図3(a)や
図3(b)の例における幅w
1や幅w
2に対応する)格子の幅は、0.01~4.0mmであることが好ましく、0.05~1.0mmであることがより好ましい。
【0028】
本発明に係るローラハース炉において、網目状物の格子の幅が上記範囲内にあることによっても、網目状物を構成する線状部材と搬送ローラ表面に設けられた凸部とを効果的に係合させ、被焼成物を安定して容易に搬送することができる。
【0029】
本発明に係るローラハース炉において、多孔性の薄板は、その厚さが0.1~6.0mmであることが好ましく、0.5~3.0mmであることがより好ましい。
【0030】
本発明に係るローラハース炉において、多孔性の薄板の厚さが上記範囲内にあることにより、焼成室内で加熱された場合においても十分な耐熱性や形態保持性を発揮しつつ、従来の板状のセッターに比較して熱容量を低減し焼成室内で焼成処理する際に使用されるエネルギー量を効果的に低減することができる。
また、本発明に係るローラハース炉において、多孔性の薄板の厚さが上記範囲内にあることにより、本発明に係るローラハース炉の高さを抑制し、炉のサイズを容易にコンパクト化することができる。
【0031】
本発明に係るローラハース炉において、多孔性の薄板は、少なくともその表面が、焼成処理時に溶融して被焼成物に付着したり被焼成物との反応を抑制し得る耐熱性材料により形成されていることが好ましい。
【0032】
本発明に係るローラハース炉において、多孔性の薄板は、全体が耐熱性材料で形成されてなるものであってもよいし、基材の表面に耐熱性材料のコート層が形成されてなるものであってもよい。
【0033】
上記耐熱性材料として、具体的には、アルミナ、ジルコニア、ジルコン、ムライトおよび希土類金属酸化物から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0034】
本発明に係るローラハース炉において、多孔性の薄板が網目状物である場合、網目状物を構成する線状部材は、線状基材の表面にコート層が形成されてなるものであって、上記コート層が、耐熱性材料により形成されてなるものが好ましい。
【0035】
上記線状基材の構成材料としては、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケル系耐熱鋼から選ばれる一種以上の金属が好ましい。
ニッケル系耐熱鋼としては、ニッケルを20~65質量%含む耐熱鋼が好ましく、具体的にはハステロイC-22等を挙げることができる。
上記線状基材上に形成されるコート層を構成する耐熱性材料の具体例は上述したとおりである。
【0036】
上記線状基材上に形成されるコート層の厚みは、10~1000μmが好ましく、10~100μmがより好ましい。
【0037】
上記線状基材上に形成されるコート層の厚みが上記範囲内にあることにより、被焼成物を載置した状態で焼成処理した場合においても、十分な耐熱性を発揮しつつ、焼成処理時における溶融や、被焼成物との反応を容易に抑制することができる。
【0038】
本発明に係るローラハース炉において、網目状物が、線状基材の表面にコート層が形成された線状部材の交差物からなる場合、係る網目状物は、例えば、ニッケル線材等の金属線材を平織りして形成した金属メッシュの表面にジルコニア等の耐熱性材料を溶射すること等により形成することができる。
【0039】
本発明に係るローラハース炉によれば、ローラハース炉を構成するセッターが多孔性の薄板からなることから、従来の板状のセッターに比較して、被焼成物との接触面積が低減して両者間の融着や反応等を抑制することができるとともに、熱容量が低減し焼成室内で焼成処理する際に使用されるエネルギー量を低減することができる。
また、上記のとおりセッターの熱容量が低減されることから、加熱効率が改善され、例えば超小型積層セラミックコンデンサ等の小型の被焼成物を焼成処理する場合に、被焼成物の温度を急激に上昇または下降させる等、温度制御を容易に行うことができる。
【0040】
本発明に係るローラハース炉において、複数の搬送ローラのうち少なくとも一部はその表面の少なくとも一部に表面凹凸加工処理が施されたものである。
【0041】
本発明に係るローラハース炉において、上記表面凹凸加工処理は、ローレット加工処理であることが好ましい。
ローレット加工処理とは、ローレット工具と称される工具により被処理物の表面に網目状等の種々の凹凸パターンを形成する加工処理であり、ローレット工具を押し付けて塑性変形させる転造式と、ローレット工具により切削する切削式とが挙げられる。
本発明に係るローラハース炉において、ローレット加工処理は、転造式および切削式のいずれの方式によるものであってもよい。
【0042】
図4は、搬送ローラ表面に転造式によりローレット加工処理を施す方法の一例を示す模式図である。
図4に示す例においては、搬送ローラ表面に施そうとする凹凸パターンに対応する凹凸パターンが表面に各々形成された上部ダイスd1および下部ダイスd2間に処理対象となるローラr’を挟み混み、上部ダイスd1によりローラr’を上方から押圧しつつ、係るローラr’を作業台上に固定された下部ダイスd2上で転動させることにより、ローラr’表面に所望の凹凸パターンを形成することができる。
【0043】
ローレット加工処理により搬送ローラ表面に施される凹凸パターン形状としては、平目、傾斜目、綾目等から選ばれる一種以上を挙げることができ、綾目であることが好ましい。
図5は、表面がローレット加工処理された搬送ローラの一例において、その表面の拡大図であり、
図5に示す例においては、搬送ローラの表面に綾目ローレット加工処理が施されている。
【0044】
ローレット加工処理により搬送ローラ表面に施される凹凸パターンが例えば平目である場合、搬送ローラ表面の凹凸は筋状の連続した山と谷で構成されることになるが、搬送ローラ表面に施される凹凸パターンが綾目である場合、(
図5に例示するように)目の交叉箇所で凸部が分断され、独立した多数の頂部が形成されるため、搬送ローラとして使用したときに、多孔性の形状に由来してセッターの表面に複数形成される凹部(貫通孔)との係合性が向上して、被焼成物を安定して容易に搬送することができる。
【0045】
図6は、本発明に係るローラハース炉において、表面凹凸加工処理が施された搬送ローラの表層部断面を部分的に拡大した模式図である。
表面凹凸加工処理により搬送ローラ表面に施される凹凸パターン形状において、(
図6において符号tで表される)凸部の高さは、0.1~2.0mmが好ましく、0.5~1.0mmがより好ましい。
また、表面凹凸加工処理により搬送ローラ表面に施される凹凸パターン形状において、(
図6において符号pで表される)凸部のピッチは、0.1~3.0mmが好ましく、0.5~2.0mmがより好ましい。
【0046】
表面凹凸加工処理により搬送ローラ表面に施される凹凸パターン形状において、凸部の高さやピッチは、例えば、ローレット加工処理する場合においては、加工時に使用するダイス表面の刻み目の間隔および深さと、ダイスを搬送ローラに押しつける圧力を調整することにより、容易に制御することができる。
【0047】
本発明に係るローラハース炉において、表面凹凸加工処理により搬送ローラ表面に施される凸部の高さやピッチが上記範囲内にあることにより、搬送ローラとして使用したときに、多孔性の薄板からなるセッターとの係合性が向上して、被焼成物を安定して容易に搬送することができる。
【0048】
本発明に係るローラハース炉において、上記表面凹凸加工処理は、搬送ローラ表面の少なくとも一部に施されてなる。
【0049】
搬送ローラ表面のうち、セッターと接触し得る面積に対し、搬送ローラ表面に表面凹凸加工処理が設けられる割合は、可能な限り多いことが好ましく、100%であること(セッターと接触し得る面の全体に設けられていること)が望ましい。
【0050】
本発明に係るローラハース炉において、上記表面凹凸加工処理は、複数の搬送ローラの少なくとも一部に施されてなる。
【0051】
本発明に係るローラハース炉において、表面凹凸加工処理が施された搬送ローラは、焼成処理した被焼成物を焼成室から搬出する出口近傍の搬送ローラであることが好ましい。
【0052】
図1に例示するように、本発明に係るローラハース炉としては、入口部iと、焼成室hと、出口部eとを有するものを挙げることができ、係るローラハース炉においては、被焼成物oを焼成室hの入口部iから出口部e方向に(搬送方向であるd方向に)搬送する複数の駆動ローラが搬送ローラrとして施設されている。
この場合、被焼成物の焼成処理時において、焼成室hが高温雰囲気下になることから、焼成室h内に配置する搬送ローラrとしても、表面が耐熱性のセラミック等で形成されたセラミックローラであることが望まれる。
一方、入口部iや出口部eにおいては、被焼成物の焼成処理時において、焼成室hに比較して低温雰囲気であることから、コスト低減の観点からも表面が金属製の金属ローラを使用することが望まれる。
一般にセラミックローラに比較して金属ローラの方が表面凹凸加工処理を施し易く、また、全ての搬送ローラに表面凹凸処理を施さなくても、焼成室hの入口部近傍や出口部近傍の搬送ローラにのみ、特に焼成室hの出口部e等、焼成室の出口近傍の搬送ローラにのみ表面凹凸加工を施すだけでも、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0053】
本発明に係るローラハース炉においては、セッターが多孔性の薄板からなり、搬送ローラ表面の少なくとも一部に表面凹凸加工処理が施されたものであることにより、上記多孔性の形状に由来してセッターの表面に複数形成される凹部(貫通孔)に搬送ローラ表面に施された凸部が係合し、搬送ローラの回転により生じる搬送力を効果的にセッターに伝達することができることから、セッター上に載置される被焼成物を安定して搬送することができる。
【0054】
本発明によれば、被焼成物を安定して搬送しつつ優れたエネルギー効率下で焼成処理可能なローラハース炉を提供することができる。
【0055】
次に、本発明に係るローラハース炉の運転方法について説明する。
本発明に係るローラハース炉の運転方法は、本発明に係るローラハース炉を用いて被焼成物を焼成することを特徴とするものである。
【0056】
本発明に係るローラハース炉や被焼成物の詳細は、上述したとおりである。
【0057】
本発明に係るローラハース炉の運転方法において、被焼成物を焼成する際の温度は、被焼成物に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、800~1400℃が適当であり、1000~1300℃がより適当である。
【0058】
本発明に係るローラハース炉の運転方法において、被焼成物を焼成する際の焼成時間(焼成室内の搬送時間)は、被焼成物に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、0.5~20時間が適当であり、2~5時間がより適当である。
【0059】
本発明によれば、本発明に係るローラハース炉を用いることにより、被焼成物を安定して搬送しつつ優れたエネルギー効率下で焼成処理可能なローラハース炉の運転方法を提供することができる。
【0060】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
被焼成物を載置するためのセッターとして、直径0.4mmのニッケル線材を平織りして形成した金属メッシュの表面にジルコニアを溶射することにより、ニッケル線材の表面に厚さ100μmのジルコニアからなるコート層が設けられた、
図3(a)に示すような平織形態を有し、格子の幅w
1が0.4mmである、縦250mm、横250mm、厚さ2mmのメッシュ形状を有する編目状物を複数用意した。
また、表面凹凸加工処理が施された搬送ローラとして、セッターと接する表面全体にJIS B0951の規定によるモジュールmが0.33である(凸部高さ1.1mm、凸部のピッチ0.6mmに相当する)綾目ローレット加工処理による表面凹凸加工処理が施されたステンレス鋼製の金属ローラを複数本用意した。
図1に示す形態を有するローラハース炉において、セッターとして上記編目状物を配置するとともに、出口部eにおける搬送ローラとして上記綾目ローレット加工処理による表面凹凸加工処理が施された金属ローラを設置した。
被焼成物である積層セラミックコンデンサを上記編目状物からなるセッター上に載置した状態で、複数の搬送ローラにより入口部iから出口部eに向けて(搬送方向であるd方向に)搬送することにより、焼成室h内に搬入し、被焼成物を各々1200℃で2.0時間焼成処理した後、焼成室hから搬出した。
上記焼成処理において、セッターと被焼成物との反応を生じることなく、被焼成物を焼成処理することができた。
上記焼成処理においては、セッターがメッシュ形状を有する編目状物からなることから、従来の板状のセッターに比較して熱容量を低減し焼成室内で焼成処理する際に使用されるエネルギー量を低減することができた。
また、上記焼成処理において、セッターがメッシュ形状を有する編目状物薄板からなり、搬送ローラが、その表面の少なくとも一部に表面凹凸加工処理が施されたものであることにより、渋滞や詰まり、搬送の遅延等を生じることなく、セッターを安定して搬送することができた。
【0062】
(比較例1)
セッターとして、縦250mm、横250mm、厚さ6mmのアルミナ製の板材を用意した。
上記セッター上に、実施例1で用いた縦250mm、横250mm、厚さ2mmのメッシュ形状を有する編目状物を介装材として配置し、その上部に被焼成物である積層セラミックコンデンサを載置するとともに、搬送ローラとして表面凹凸処理加工を施したものを用いなかった以外は、実施例1と同様にして焼成処理を行った。
上記焼成処理において、セッターとしてアルミナ製の板材を用いるとともに介装材として編目状物を用いていることから、実施例1に比較して焼成室内で焼成処理する際に使用されるエネルギー量が増大した。
【0063】
(比較例2)
搬送ローラとして表面凹凸処理加工を施したものを用いなかった以外は、実施例1と同様にして焼成処理を行った。
上記焼成処理において、搬送ローラとして表面凹凸処理加工を施したものを用いなかったために、焼成炉の出口部eにおいてセッターが渋滞し、詰まって動かない状態となったため、搬送を中断した。
【0064】
上記実施例および比較例の結果を表1に記載する。
【0065】
【0066】
表1より、実施例1においては、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有する多孔性の薄板をセッターとして用いるとともに、複数の搬送ローラの少なくとも一部に表面凹凸加工処理が施されたものであることにより、被焼成物を安定して搬送しつつ優れたエネルギー効率下で被焼成物を焼成し得ることが分かる。
【0067】
一方、表1より、比較例1および比較例2においては、セッターとして厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有する多孔性の薄板を用いていないためにエネルギー効率に劣っていたり(比較例1)、搬送ローラの表面に凹凸加工処理が施されたものでないために被焼成物を安定して搬送し得ない(比較例2)ことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、被焼成物を安定して搬送しつつ優れたエネルギー効率下で焼成処理可能なローラハース炉を提供することができるとともに、ローラハース炉の運転方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0069】
1、11:ローラハース炉
o:被焼成物
s:セッター
r:搬送ローラ
M:多孔性の薄板
d:搬送方向
h:焼成室
i:入口部
e:出口部