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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045615
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】電動クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 28/00 20060101AFI20230327BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
F16D28/00 Z
F16D13/52 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154141
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 道憲
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA60
3J056AA62
3J056BA04
3J056BE06
3J056BE07
3J056CC02
(57)【要約】
【課題】クラッチの回転シャフトを支持するベアリングの複雑化の回避、及びクラッチの配置の適正化を図る。
【解決手段】電動クラッチではクラッチのドラム側クラッチ板を支持する回転ドラムが、互いに相対回転を阻止するように連結され、規制部材によって軸方向に互いに離間する移動を阻止するように連結される内側ドラム部と外側ドラム部を有する。内側ドラム部と外側ドラム部のいずれかは、クラッチとは軸方向で反対側の位置に形成され径方向内側に延伸する壁部を有する。電動アクチュエータは少なくともその一部が回転ドラム内に配置されるように設けられ、モータによって回転する回転部と、回転部の回転変位を軸方向の変位に変換してクラッチに締結力を付与する軸方向駆動部を有する。軸方向駆動部は、クラッチ締結の際にクラッチに向けて軸方向に移動する移動部材と、壁部にニードルベアリングを介して外周部位で当接する配置とされる当接部材を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転シャフトに支持されたシャフト側クラッチ板、及び回転ドラムに支持されたドラム側クラッチ板をクラッチとして有し、電動アクチュエータによって発生させた軸方向の力を付与して前記クラッチを摩擦締結させる電動クラッチであって、
前記回転ドラムは、互いに相対回転を阻止するように連結されるとともに、規制部材によって軸方向に互いに離間する移動を阻止するように連結される内側ドラム部及び外側ドラム部を有し、
前記内側ドラム部と前記外側ドラム部とのいずれか一方は、前記クラッチとは軸方向で反対側の位置に形成され径方向内側に延伸する壁部を有し、
前記電動アクチュエータは、当該電動アクチュエータの少なくとも一部が前記回転ドラム内に配置されるように設けられ、モータによって回転する回転部と、前記回転部の回転変位を軸方向の変位に変換して前記クラッチに締結力を付与する軸方向駆動部とを有し、
前記軸方向駆動部は、前記クラッチを締結する際に前記クラッチに向けて軸方向に移動する移動部材と、前記壁部にニードルベアリングを介して外周部位で当接する配置とされる当接部材とを有する、
電動クラッチ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動クラッチであって、
前記回転部は、螺旋状のねじが外周面に形成された回転軸を有し、前記当接部材に設けられたねじ穴に螺合する、
電動クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、作動装置(10)を有する差動変速機(1)が開示されている。作動装置(10)では、第1拡張ディスク(22)及び第2拡張ディスク(23)がボール(23)を介して軸方向に支持される。ボール(23)は傾斜に設けられている。このため、第1拡張ディスク(22)及び第2拡張ディスク(23)の一方が他方に対して周方向に捩じられると、第2拡張ディスク(23)の軸方向位置が変化する。作動装置(10)から始まり、作動力(15)は一方側で第1クラッチ(8)に導入されるとともに、他方側でベアリング(12)及びストッパ(13)を介して第1出力軸(6)に導入される。これにより、第1クラッチ(8)を押す際の反力が第1出力軸(6)に入力されるので、作動力(15)に起因するハウジング(10)の変形が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第10,962,096号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クラッチの回転シャフトを支持するベアリングにクラッチを押す際の反力を導入する場合、ベアリングには軸支持のほか反力を受ける機能が求められる。このため、ベアリングのインナーレースやアウターレースが複雑な形状になり、コスト面で不利となる虞がある。また、ベアリングの転動部位が変化し摩耗位置が変わるといったことに起因し、難しい品質管理が求められる虞がある。さらに、ベアリングは遠心力の観点から内周側配置が理想的で、クラッチは伝達トルクの観点から外周側配置が理想的なところ、ベアリング、作動装置及びクラッチを近くに配置しようとすると、クラッチが内周側配置になってしまう虞がある。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、クラッチの回転シャフトを支持するベアリングの複雑化の回避、及びクラッチの配置の適正化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の電動クラッチは、回転シャフトに支持されたシャフト側クラッチ板、及び回転ドラムに支持されたドラム側クラッチ板をクラッチとして有し、電動アクチュエータによって発生させた軸方向の力を付与してクラッチを摩擦締結させる。回転ドラムは、互いに相対回転を阻止するように連結されるとともに、規制部材によって軸方向に互いに離間する移動を阻止するように連結される内側ドラム部及び外側ドラム部を有する。内側ドラム部と外側ドラム部とのいずれか一方は、クラッチとは軸方向で反対側の位置に形成され径方向内側に延伸する壁部を有する。電動アクチュエータは、当該電動アクチュエータの少なくとも一部が回転ドラム内に配置されるように設けられ、モータによって回転する回転部と、回転部の回転変位を軸方向の変位に変換してクラッチに締結力を付与する軸方向駆動部とを有する。軸方向駆動部は、クラッチを締結する際にクラッチに向けて軸方向に移動する移動部材と、壁部にニードルベアリングを介して外周部位で当接する配置とされる当接部材とを有する。
【発明の効果】
【0007】
この態様によれば、クラッチ締結時の反力を当接部材、ニードルベアリング及び壁部を介して外周側に逃がすことができる。結果、クラッチの回転シャフトを支持するベアリングに反力を入力せずに済むので、ベアリングの複雑化を回避できる。また、クラッチをベアリングに近づける必要がなくなるので、クラッチの配置適正化も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、動力伝達装置の概略構成図である。
図2図2は、クラッチ部及びアクチュエータ部を拡大して示す図の第1図である。
図3図3は、クラッチ部及びアクチュエータ部を拡大して示す図の第2図である。
図4図4は、クラッチの締結力及び反力の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は動力伝達装置1の概略構成図である。図2図3はクラッチ部5及びアクチュエータ部6を拡大して示す図である。図2ではクラッチ部5のクラッチC解放時の状態を示し、図3ではクラッチC締結時の状態を示す。
【0011】
動力伝達装置1は、エンジン2と第1モータ3と入力軸4とクラッチ部5とアクチュエータ部6と第2モータ7とトルクコンバータ8と出力軸9とを備える。動力伝達装置1は車両に搭載され、エンジン2の動力を入力軸4、クラッチ部5、トルクコンバータ8、出力軸9を介して駆動輪に伝達する。換言すれば、入力軸4、クラッチ部5、トルクコンバータ8、出力軸9は、エンジン2の動力を駆動輪に伝達する動力伝達経路に設けられる。
【0012】
エンジン2は内燃機関であり、車両の駆動源を構成する。エンジン2の動力は入力軸4に設けられたダンパ41を介して入力軸4に伝達される。ダンパ41はダンパスプリング41aを介してエンジン2と入力軸4とを接続する。第1モータ3はエンジン始動用モータであり、ダンパ41に接続する。ダンパ41はダンパスプリング41aを介さずに第1モータ3と入力軸4とを接続する。入力軸4はダンパ41を介して第1モータ3のハウジング31に設けられたボールベアリング15により支持される。第1モータ3の動力は上述の動力伝達経路を介して駆動輪に伝達することもできる。このため、第1モータ3は例えば車両の発進に用いることもできる。本実施形態では入力軸4はボールベアリング15により直接支持されていないが、入力軸4はボールベアリング等のベアリングにより直接支持されてもよい。なお、入力軸4は図示省略したニードルベアリングを介してハウジング31の内径部に直接支持されている。
【0013】
図2図3に示すように、入力軸4の後端部4aにはクラッチ部5のクラッチハブ51が接続する。クラッチ部5はクラッチハブ51とクラッチドラム52とドライブプレート53とドリブンプレート54とを備える。クラッチハブ51は筒状の部材であり、固定部51aと筒状部51bとを有する。固定部51aはクラッチハブ51の径方向中央に設けられる。固定部51aはリングプレート状に形成され、固定部51aの穴には入力軸4の後端部4aが挿入され溶接で固定される。筒状部51bはクラッチハブ51の外周部を構成する。クラッチハブ51は固定部51aの周縁部から軸方向に沿ってクラッチC側に延伸した後、径方向に広がって筒状部51bに接続する形状を有する。筒状部51bの外周にはスプライン結合によって軸方向に摺動自在に複数のドライブプレート53が設けられる。ドライブプレート53はクラッチハブ51を介して入力軸4に支持される。入力軸4は回転シャフトに相当し、ドライブプレート53はシャフト側クラッチ板に相当する。入力軸4はクラッチハブ51とともに回転シャフトを構成していると把握されてもよい。
【0014】
クラッチドラム52は内側ドラム部811aと外側ドラム部521とを備える。内側ドラム部811aは筒状の形状を有する。内側ドラム部811aはトルクコンバータ8のフロントカバー811に接続する。内側ドラム部811aはフロントカバー811の一部で構成され、フロントカバー811のカバー面から軸方向に沿ってフロントカバー811の外側に延伸して形成される。内側ドラム部811aは周方向に複数の歯が整列する櫛歯状に形成され、軸方向に延伸する複数の歯により構成される櫛歯を有する。このため、周方向に隣り合う歯同士の間には隙間が形成される。内側ドラム部811aの内周にはスプライン結合によって軸方向に摺動自在に複数のドリブンプレート54が設けられる。クラッチドラム52は回転ドラムに相当し、ドリブンプレート54はドラム側クラッチ板に相当する。
【0015】
ドライブプレート53とドリブンプレート54とは軸方向に互いに対向するとともに、軸方向に交互に設けられる。複数のドライブプレート53及び複数のドリブンプレート54は、クラッチCを構成する。クラッチCは多板式クラッチとして構成されるが、多板式クラッチでなくてもよい。クラッチCには入力軸4及びクラッチハブ51を介してエンジン2からの動力と第1モータ3からの動力とが入力される。エンジン2からの動力と第1モータ3からの動力とは例えば個別にクラッチCに入力される。クラッチCは入力される動力の伝達、遮断を行う。
【0016】
外側ドラム部521は内側ドラム部811aの外周に設けられ、筒状の形状を有する。内側ドラム部811aと外側ドラム部521とは互いに嵌合する。このため、外側ドラム部521の内径は内側ドラム部811aの外径と概ね同等に設定される。外側ドラム部521の内周には径方向内側に延伸する係合部521aが設けられる。係合部521aはクラッチCとは軸方向で反対側の位置に形成され、周方向に複数設けられる。複数の係合部521aは径方向に延伸する櫛歯を構成する。係合部521aは内側ドラム部811aの周方向に隣り合う歯同士の隙間に挿入される。これにより、内側ドラム部811aの軸方向の櫛歯と外側ドラム部521の径方向の櫛歯とが係合する。結果、外側ドラム部521と内側ドラム部811aとが互いに相対回転を阻止するように連結される。
【0017】
内側ドラム部811aは内側ドラム部811aより径方向内側の部分のフロントカバー811をさらに含む構成として把握されてよい。このような内側ドラム部811aは外側ドラム部521とともに、フロントカバー811及び係合部521aでクラッチCを軸方向で間に挟み込む構造とされる。これにより、後述するようにクラッチC締結時の反力F2を外周側に逃がすための構造が得られる。
【0018】
アクチュエータ部6は、ケース61とモータ62とロータ63と回転部材64と当接部材65とピストン押し部材66とニードルベアリング67とピストン68とを備える。図1に示すように、アクチュエータ部6は第2モータ7のロータ72よりも径方向内側に配置され、ケース61で第1モータ3のハウジング31に固定される。ケース61はリング状に形成され、ケース61の外周と外側ドラム部521の内周との間にはボールベアリング20が設けられる。ボールベアリング20は外側ドラム部521を支持する。
【0019】
図2図3に示すように、アクチュエータ部6はクラッチドラム52内に配置される。アクチュエータ部6は少なくともその一部がクラッチドラム52内に配置されるように構成されてもよい。例えば、回転部材64はモータ62やロータ63とともに軸方向にクラッチドラム52からはみ出していてもよい。アクチュエータ部6は電動アクチュエータに相当する。
【0020】
ケース61には軸方向においてクラッチC側に開口した収容部61aが形成される。収容部61aにはモータ62やロータ63が収容される。モータ62はケース61に固定され、ロータ63を回転させる。ロータ63は円筒状の形状を有し、ロータ63の内周には係合部63aが設けられる。係合部63aは内歯からなる平歯車で構成され、回転部材64と係合する。
【0021】
回転部材64はロータ63の内側に設けられ、入力軸4に沿って延伸する。回転部材64は一端部(クラッチCとは軸方向で反対側の端部)でケース61に回転自在に支持される。回転部材64は周方向に均等に複数(例えば3つから4つ)設けることができる。回転部材64は係合部64aと軸部64bとを備える。係合部64aは軸部64bよりも大きな外径を有し、回転部材64においてクラッチCとは軸方向で反対側の部分に設けられる。係合部64aは外歯からなる平歯車で構成され、係合部63aと係合する。係合部63a及び係合部64aはロータ63の回転を回転部材64に伝達するとともに、ロータ63に対して回転部材64を軸方向に移動自在に係合させる。軸部64bは係合部64aから軸方向に沿ってクラッチC側に向かって延伸する。軸部64bは螺旋状のねじ64cを有し、ねじ64cは当接部材65に設けられたねじ穴65aに螺合する。これにより、回転部材64が当接部材65に係合する。ねじ64c及びねじ穴65aは例えばボールねじにより構成することができる。回転部材64は回転部に相当し、軸部64bは回転軸に相当する。
【0022】
当接部材65はリングプレート状の形状を有する。当接部材65は、軸方向位置が保持される位置保持部材であり、軸方向に移動しないように設けられる。例えば、内側ドラム部811aの内周にはクラッチC側から当接部材65の軸方向の移動を規制するスナップリング21が設けられ、これによりクラッチC側への当接部材65の軸方向移動が阻止される。内側ドラム部811aの内周にはさらにスナップリング22が設けられる。スナップリング22は内側ドラム部811a及び外側ドラム部521の軸方向に互いに離間する移動を阻止する。スナップリング22はさらに、係合部521aとニードルベアリング23とを介してクラッチCとは反対側への当接部材65の軸方向移動を阻止する。ニードルベアリング23は軸方向において係合部521aと当接部材65との間に設けられ、軸方向荷重を受ける。ニードルベアリング23は当接部材65の外周部に設けられた段差部に設けられる。また、スナップリング21及び係合部521a間のクリアランスはニードルベアリング23によって詰められる。これにより、当接部材65は係合部521aにニードルベアリング23を介して外周部位で当接する配置とされる。スナップリング22は規制部材に相当し、係合部521aは壁部に相当する。
【0023】
ピストン押し部材66は、ねじ64cよりも先端側の部分の軸部64bに設けられる。ピストン押し部材66はリングプレート状の部材であり、軸方向でクラッチC側に突出した外周壁部を有する。当該外周壁部により形成される角隅部には軸方向の荷重を受けるニードルベアリング67が配置され、ピストン押し部材66はニードルベアリング67を介してピストン68を押す。ニードルベアリング67は回転中のピストン68をピストン押し部材66により押すことを可能にする。
【0024】
ピストン68はリングプレート状の形状を有するとともに、外周部が軸方向でクラッチC側に張り出した形状を有する。ピストン68は外周部でクラッチCに当接するとともに、内周部でニードルベアリング67に当接する。なお、ピストン68は軸方向に移動自在にクラッチハブ51に設けられ、クラッチハブ51とともに回転する。また、ピストン68とクラッチハブ51との間にはピストン68をクラッチCの締結解除方向に付勢するリターンスプリングが設けられる。それに代えて、内側ドラム部811aに軸方向に移動自在にピストン68を設け、内側ドラム部811aとともに回転するようにして、ピストン68をクラッチCの締結解除方向に付勢するリターンスプリングをピストン68と内側ドラム部811aとの間に設けるようにしてもよい。
【0025】
クラッチCの締結、解放について説明すると、次の通りである。すなわち、まず図2に示す状態でモータ62がクラッチ締結方向に回転すると、これに応じてロータ63が回転して回転部材64をクラッチ締結方向に回転させる。回転部材64が回転すると、ねじ穴65aがねじ64cを送りねじとして機能させ、回転部材64の回転変位を軸方向変位に変換する。結果、ピストン押し部材66が回転部材64とともにクラッチCに向けて軸方向に移動し、ニードルベアリング67を介してピストン68をクラッチCに向けて押す。そして、ピストン68がクラッチCに到達してクラッチCを押すと、複数のドライブプレート53及び複数のドリブンプレート54間で摩擦が発生し、締結が開始される。結果、クラッチハブ51とクラッチドラム52との相対回転が小さくなる。さらに、これらの相対回転がゼロになるとクラッチCの締結が完了し、図3に示す状態になる。ピストン押し部材66は移動部材に相当し、当接部材65とともに軸方向駆動部を構成する。軸方向駆動部としての当接部材65及びピストン押し部材66は、回転部材64の回転変位を軸方向変位に変換してクラッチCに締結力F1を付与する。
【0026】
クラッチCの解放時には、モータ62がクラッチ解放方向に回転し、これに応じてロータ63を介して回転部材64がクラッチ解放方向に回転する。結果、回転部材64が送りねじの作用でクラッチCとは反対側に向けて軸方向に移動する。これにより、ピストン68がクラッチCを押さなくなると、クラッチCの摩擦締結力がなくなり、クラッチCが解放される。クラッチCの解放時には回転部材64はモータ62により図2に示す位置まで戻される。また、ピストン68はリターンスプリングによりクラッチCとは反対側に向けて軸方向に移動する。
【0027】
図1に示す第2モータ7は走行用モータであり、ハウジング71とロータ72とステータ73とコイル74とを備える。ハウジング71は円筒状の形状を有し、ロータ72、ステータ73及びコイル74を収容する。ハウジング71には第2モータ7を冷却するための冷却液流路71aが設けられる。ロータ72はクラッチドラム52に設けられる。ロータ72は外側ドラム部521の外周に固定される。このため、第2モータ7の動力はクラッチCを介さずにトルクコンバータ8に入力される。ステータ73はハウジング71の内周に固定される。ロータ72とステータ73とはともに薄板の電磁鋼板を多数積層して構成される。コイル74はステータ73に設けられる。コイル74はインシュレータを介してステータ73に巻き付けられる。
【0028】
クラッチCの締結時には、クラッチCを介してエンジン2の動力をトルクコンバータ8に伝達することで、エンジン走行を行うことができる。またクラッチCの締結時には、エンジン2の動力と第2モータ7の動力とをトルクコンバータ8に伝達することで、HEV走行つまりハイブリッド走行を行うことができる。クラッチCの解放時には、入力軸4に設けられたクラッチハブ51とクラッチドラム52との間での動力伝達が遮断される。このため、クラッチCの解放時には第2モータ7の動力をトルクコンバータ8に伝達することで、EV走行を行うことができる。
【0029】
トルクコンバータ8は、カバー81とポンプインペラ82とタービンランナ83とステータ84とロックアップクラッチ85とを備える。トルクコンバータ8はエンジン走行時に駆動輪から負のトルクが入力される場合に備え、エンジン2と駆動輪との機械的な直結状態を避けるためにエンジン走行時に補助的に用いられる。
【0030】
カバー81は、ポンプインペラ82とタービンランナ83とステータ84とロックアップクラッチ85とを収容し、トルクコンバータ8の筐体部を構成する。カバー81はフロントカバー811を有し、フロントカバー811は内側ドラム部811aを有する。従って、トルクコンバータ8は、クラッチCを介してエンジン2からの動力と第1モータ3からの動力が入力されるとともに、クラッチCを介さずに第2モータ7からの動力が入力されるように構成されている。
【0031】
フロントカバー811は器状の形状を有し、トルクコンバータ8の外周の一部を構成する。フロントカバー811はトルクコンバータ8においてエンジン2側に設けられる。ポンプインペラ82は、カバー81に設けられる。タービンランナ83は、ポンプインペラ82に対向して配置され、出力軸9に接続される。ステータ84は、ポンプインペラ82及びタービンランナ83間に配置される。出力軸9は変速機構に接続され、変速機構に動力を出力する。出力された動力は変速機構を介して駆動輪に伝達される。ロックアップクラッチ85はフロントカバー811とタービンランナ83との締結、締結解除を行う。
【0032】
図4はクラッチCの締結力F1及び反力F2の説明図である。締結状態のクラッチCでは、回転部材64に設けられたピストン押し部材66が締結力F1でニードルベアリング67を介してピストン68を押す。ピストン68に入力された締結力F1はクラッチCを介して内側ドラム部811aに入力される。結果、内側ドラム部811aには外側ドラム部521と離間する方向(トルクコンバータ8に向かう方向)に締結力F1が作用する。
【0033】
ピストン押し部材66が締結力F1でピストン68を押すと、締結力F1の反力F2が発生し、ピストン押し部材66から回転部材64に伝達される。互いに螺合するねじ64c及びねじ穴65aは、軸方向荷重に耐えることが可能な態様で係合している。このため、回転部材64に伝達された反力F2は当接部材65に伝達され、当接部材65に伝達された反力F2はニードルベアリング23を介して係合部521aに入力される。結果、外側ドラム部521には内側ドラム部811aと離間する方向(エンジン2に向かう方向)の反力F2が作用する。
【0034】
スナップリング22は、内側ドラム部811a及び外側ドラム部521の互いに離間する移動を阻止するように設けられる。このため、スナップリング22では内側ドラム部811aから入力される締結力F1と外側ドラム部521から入力される反力F2とが釣り合うことになる。従って、モータ62からの動力によりクラッチCを締結するにあたり、締結力F1と反力F2とを釣り合わせることができる。
【0035】
反力F2は当接部材65、ニードルベアリング23及び係合部521aを介して外周側に逃がされる。このため、クラッチハブ51及び入力軸4を支持するボールベアリング15に反力F2を入力せずに済み、ボールベアリング15の代わりに複雑なベアリングを用いることが回避される。また、クラッチCをボールベアリング15に近づける必要がなくなるので、クラッチCの配置の適正化も図られる。さらに、ねじ64c及びねじ穴65aは互いに螺合するので、モータ62の制御電流をゼロにしても、ねじ64c及びねじ穴65a間の摩擦によってクラッチCの締結状態は維持される。結果、電力消費も抑えられる。
【0036】
次に、本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0037】
(1)本実施形態に係る電動クラッチは、入力軸4に支持されたドライブプレート53、及びクラッチドラム52に支持されたドリブンプレート54をクラッチCとして有し、アクチュエータ部6によって発生させた軸方向の力を付与してクラッチCを摩擦締結させる。クラッチドラム52は、内側ドラム部811a及び外側ドラム部521を有する。内側ドラム部811a及び外側ドラム部521は、互いに相対回転を阻止するように連結される。内側ドラム部811a及び外側ドラム部521は、スナップリング22によって軸方向に互いに離間する移動を阻止するように連結される。外側ドラム部521は、クラッチCとは軸方向で反対側の位置に形成され径方向内側に延伸する係合部521aを有する。アクチュエータ部6はクラッチドラム52内に配置され、モータ62によって回転する回転部材64と、回転部材64の回転変位を軸方向の変位に変換してクラッチCに締結力F1を付与する軸方向駆動部としての当接部材65及びピストン押し部材66とを有する。ピストン押し部材66は、クラッチCを締結する際にクラッチCに向けて軸方向に移動する。当接部材65は、係合部521aにニードルベアリング23を介して外周部位で当接する配置とされる。
【0038】
このような構成によれば、反力F2を当接部材65、ニードルベアリング23及び係合部521aを介して外周側に逃がすことができる。このため、ボールベアリング15に反力F2を入力せずに済み、ボールベアリング15の代わりに複雑なベアリングを用いることを回避できる。結果、コスト面で有利な構成とすることができる。また、クラッチCをボールベアリング15に近づける必要がなくなるので、レイアウトの自由度が高くなり、クラッチCの配置適正化も図ることができる。
【0039】
(2)回転部材64は、螺旋状のねじ64cが外周面に形成された軸部64bを有し、当接部材65に設けられたねじ穴65aに螺合する。このような構成によれば、モータ62の制御電流をゼロにしても、ねじ64c及びねじ穴65a間の摩擦によってクラッチCの締結状態を維持できるので、電力消費を抑えることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0041】
上述した実施形態では、アクチュエータ部6が電動アクチュエータを構成する場合について説明した。しかしながら、電動アクチュエータは例えば、第1ディスク及び第2ディスクがボールカムを介して軸方向に支持される構成とされてもよい。この場合、第1ディスクで回転部を構成するとともに、第1ディスク、第2ディスク及びボールカムで軸方向駆動部を構成することができる。この場合、第1ディスクで回転部と当接部材とを兼ねることができる。
【0042】
上述した実施形態では、外側ドラム部521に設けられた係合部521aが壁部を構成する場合について説明した。しかしながら、壁部は内側ドラム部811aに設けられてもよい。この場合、内側ドラム部811aから径方向内側に延伸する部分のフロントカバー811を壁部とすることができる。この場合、当接部材65がニードルベアリング23を介して当該部分のフロントカバー811に外周部位で当接する配置となるように、ニードルベアリング23やアクチュエータ部6やクラッチC等を配置及び構成することができる。
【0043】
上述した実施形態では、スナップリング22が規制部材を構成する場合について説明した。しかしながら、規制部材は例えばくさび等により軸方向に互いに離間する移動を阻止するように内側ドラム部811a及び外側ドラム部521を連結するアンカー機構であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 動力伝達装置
4 入力軸(回転シャフト)
5 クラッチ部
51 クラッチハブ
52 クラッチドラム(回転ドラム)
521 外側ドラム部
521a 係合部(壁部)
53 ドライブプレート(シャフト側クラッチ)
54 ドリブンプレート(ドラム側クラッチ)
6 アクチュエータ部(電動アクチュエータ)
62 モータ
64 回転部材(回転部)
64b 軸部(回転軸)
64c ねじ
65 当接部材(軸方向駆動部)
65a ねじ穴
66 ピストン押し部材(軸方向駆動部、移動部材)
8 トルクコンバータ
811 フロントカバー
811a 内側ドラム部
22 スナップリング(規制部材)
23 ニードルベアリング
C クラッチ(電動クラッチ)
図1
図2
図3
図4