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特開2023-45648前立腺癌患者におけるホルモン治療感受性を判別する方法およびキット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045648
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】前立腺癌患者におけるホルモン治療感受性を判別する方法およびキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20230327BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20230327BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20230327BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20230327BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/6851 Z ZNA
C12Q1/6886 Z
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154185
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】509013703
【氏名又は名称】公立大学法人福島県立医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000135162
【氏名又は名称】株式会社ニッポンジーン
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100156443
【弁理士】
【氏名又は名称】松崎 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】今井 順一
(72)【発明者】
【氏名】星 誠二
(72)【発明者】
【氏名】小島 祥敬
(72)【発明者】
【氏名】富樫 玲子
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA07
4B063QQ02
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 前立腺癌患者において、ホルモン治療が有効な症例を検出するためのバイオマーカー(遺伝子セット)の同定、および、当該バイオマーカーを用いてホルモン治療が有効な症例を検出する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
前立腺癌のホルモン治療に対する感受性を判別する方法であって、被験者由来の被検試料におけるFHL1遺伝子、LTBP4遺伝子、PLAGL1遺伝子、AXIN2遺伝子、ATP2C2遺伝子、TNFRSF19遺伝子、ITGA8遺伝子、F13A1遺伝子、SIX1遺伝子、HS3ST1遺伝子、APOE遺伝子、POLB遺伝子、PYCR1遺伝子、F5遺伝子、AMIGO2遺伝子、FABP5遺伝子、CNN1遺伝子、TNS1遺伝子、PDE5A遺伝子、C9orf152遺伝子、AFF3遺伝子、HSD17B4遺伝子、DEGS1遺伝子、PRR16遺伝子、MYH11遺伝子、ZWINT遺伝子、HMGB2遺伝子およびMK167遺伝子からなる群における少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む、判別方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺癌のホルモン治療に対する感受性を判別する方法であって、
被験者由来の被検試料におけるFHL1遺伝子、LTBP4遺伝子、PLAGL1遺伝子、AXIN2遺伝子、ATP2C2遺伝子、TNFRSF19遺伝子、ITGA8遺伝子、F13A1遺伝子、SIX1遺伝子、HS3ST1遺伝子、APOE遺伝子、POLB遺伝子、PYCR1遺伝子、F5遺伝子、AMIGO2遺伝子、FABP5遺伝子、CNN1遺伝子、TNS1遺伝子、PDE5A遺伝子、C9orf152遺伝子、AFF3遺伝子、HSD17B4遺伝子、DEGS1遺伝子、PRR16遺伝子、MYH11遺伝子、ZWINT遺伝子、HMGB2遺伝子およびMK167遺伝子からなる群における少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む、判別方法。
【請求項2】
請求項1に記載の判別方法であって、
前記被験者がホルモン治療未治療の状態にある、判別方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の判別方法であって、
前記測定工程が、SIX1遺伝子、AMIGO2遺伝子、ZWINT遺伝子の発現レベルを測定する工程である、判別方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の判別方法であって、
前記測定工程において得られた遺伝子の発現レベルと、ホルモン治療感受性患者もしくはホルモン治療抵抗性患者または健常者由来試料における対応する遺伝子の発現レベルとを比較する工程
をさらに含む、判別方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の判別方法であって、
前記測定工程において得られた遺伝子の発現レベルと、ホルモン治療感受性患者由来試料における対応する遺伝子の発現レベル、ホルモン治療抵抗性患者由来試料における対応する遺伝子の発現レベル、または、健常者由来試料における対応する遺伝子の発現レベルとをクラスタ分析により比較する工程
をさらに含む、判別方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の判別方法であって、
前記測定工程において得られた前記被検試料における遺伝子の発現レベルを所定の閾値と比較する工程
をさらに含む、判別方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の判別方法であって、
前記被検試料が前立腺癌由来の細胞である、判別方法。
【請求項8】
請求項1~9のいずれか一項に記載の判別方法であって、
前記測定工程において、前記遺伝子の発現レベルの測定が前記遺伝子のmRNAの発現量の測定である、判別方法。
【請求項9】
前立腺癌のホルモン治療に対する感受性を判別するためのマーカー遺伝子セットであって、FHL1遺伝子、LTBP4遺伝子、PLAGL1遺伝子、AXIN2遺伝子、ATP2C2遺伝子、TNFRSF19遺伝子、ITGA8遺伝子、F13A1遺伝子、SIX1遺伝子、HS3ST1遺伝子、APOE遺伝子、POLB遺伝子、PYCR1遺伝子、F5遺伝子、AMIGO2遺伝子、FABP5遺伝子、CNN1遺伝子、TNS1遺伝子、PDE5A遺伝子、C9orf152遺伝子、AFF3遺伝子、HSD17B4遺伝子、DEGS1遺伝子、PRR16遺伝子、MYH11遺伝子、ZWINT遺伝子、HMGB2遺伝子およびMK167遺伝子からなる群における少なくとも1つの遺伝子を含む、マーカー遺伝子セット。
【請求項10】
前立腺癌のホルモン治療に対する感受性を判別するためのキットであって、
FHL1遺伝子、LTBP4遺伝子、PLAGL1遺伝子、AXIN2遺伝子、ATP2C2遺伝子、TNFRSF19遺伝子、ITGA8遺伝子、F13A1遺伝子、SIX1遺伝子、HS3ST1遺伝子、APOE遺伝子、POLB遺伝子、PYCR1遺伝子、F5遺伝子、AMIGO2遺伝子、FABP5遺伝子、CNN1遺伝子、TNS1遺伝子、PDE5A遺伝子、C9orf152遺伝子、AFF3遺伝子、HSD17B4遺伝子、DEGS1遺伝子、PRR16遺伝子、MYH11遺伝子、ZWINT遺伝子、HMGB2遺伝子およびMK167遺伝子からなる群における少なくとも1つの遺伝子の発現を測定する測定手段を含む、キット。
【請求項11】
請求項10に記載のキットであって、
前記遺伝子の発現を測定する測定手段が、前記遺伝子に対するプライマー、プローブ、または、それらの標識物からなる群より選択される少なくとも一つの手段である、キット。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌患者におけるホルモン治療感受性を判別する方法およびキットに関する。特に、ホルモン治療未治療の進行前立腺癌患者におけるホルモン治療の効果を判別する方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は他の癌と比較して比較的予後が良好な癌であり、stageI-IIIの5年相対生存率は100%、stageIVでは63.7%である(非特許文献1)。これまで転移性ホルモン治療感受性前立腺癌(mHSPC)に対してはアンドロゲン除去療法(ADT)による去勢が第一選択治療となっていた。本邦では、両側精巣摘除術または黄体化ホルモン放出ホルモンアナログを投与するADTと第一世代抗アンドロゲン薬であるビカルタミドを併用する併用アンドロゲン遮断療法(CAB)が広く用いられている(非特許文献2-4)。しかし、近年mHSPCに対して、第二世代抗アンドロゲン薬を併用することで全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を延長できることが報告(ADTないしCAB群 OS 36-47か月PFS 22-26か月、第二世代抗アンドロゲン薬群 OS 53-63か月 PFS未到達)されており(非特許文献5、6)、本邦でも使用されている。
【0003】
第二世代抗アンドロゲン薬としては、アビラテロン、エンザルタミド、アパルタミドがmHSPCに対して本邦で使用可能であるが、これらの治療にはいくつかの問題点がある。1つは、副作用である。アビラテロンはCYP17阻害によりアンドロゲン合成を阻害するが、そのため糖質コルチコイドの産生も低下させるためステロイド補充が必須になることや、鉱質コルチコイドの産生過剰に伴う電解質異常、体液貯留が起こりうることが問題である。またこれらに起因した不整脈や心不全も報告されている。エンザルタミド、アパルタミドはアンドロゲン受容体を遮断するが、アンドロゲン受容体への結合力や核内移行性が第一世代抗アンドロゲン薬に比較して高く、倦怠感、食思不振、けいれんなどの副作用とアパルタミドでは薬剤特異的な皮疹が出ることが問題とされている。第2は、治療費用の問題である。第二世代抗アンドロゲン薬の月の薬剤費用は25-40万円におよび、第一世代抗アンドロゲン薬が月7,000円程度であることに比較すると、非常に高額である。さらに前立腺癌は男性で最も罹患率の高い疾患であり、その罹患患者数は9万人に及び、stageIVの患者は10%前後とされている(非特許文献7)。新規罹患患者すべてに第二世代抗アンドロゲン薬の投与を行えば、1年の新規患者だけで24~39億円程度の医療費増加、これらの患者が平均5年以上生存することを考えると年間100-200億円程度の医療費増加につながる可能性がある。
【0004】
一方で、前述したとおり、前立腺癌に対してはホルモン治療(ADTないしCAB)が有効であり、第二世代抗アンドロゲン薬の臨床試験における対象群でも、ホルモン治療のみで少なくない患者が長期生存している。実際に臨床でも、mHSPCであるが10年以上もホルモン治療のみで進行が認められない症例を経験する。そこで、ホルモン治療が有効な症例を事前に検出することができれば、不要な第二世代抗アンドロゲン薬による治療を避けられるのではないかと考えた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cancer Statistics in Japan 2017: Foundation for Promotion of Cancer Research.
【非特許文献2】Tanaka N, Fujimoto K, Hirayama A, Yoneda T, Yoshida K, Hirao Y. Trends of the primary therapy for patients with prostate cancer in Nara uro-oncological research group (NUORG): a comparison between the CaPSURE data and the NUORG data. Japanese journal of clinical oncology. 2010; 40: 588-592.
【非特許文献3】Fujimoto H, Nakanishi H, Miki T, et al. Oncological outcomes of the prostate cancer patients registered in 2004: report from the Cancer Registration Committee of the JUA. International journal of urology : official journal of the Japanese Urological Association. 2011; 18: 876-881.
【非特許文献4】Onozawa M, Hinotsu S, Tsukamoto T, et al. Recent trends in the initial therapy for newly diagnosed prostate cancer in Japan. Japanese journal of clinical oncology. 2014; 44: 969-981.
【非特許文献5】Chi KN, Agarwal N, Bjartell A, et al. Apalutamide for Metastatic, Castration-Sensitive Prostate Cancer. The New England journal of medicine. 2019; 381: 13-24.
【非特許文献6】Fizazi K, Tran N, Fein L, et al. Abiraterone acetate plus prednisone in patients with newly diagnosed high-risk metastatic castration-sensitive prostate cancer (LATITUDE): final overall survival analysis of a randomised, double-blind, phase 3 trial. The Lancet Oncology. 2019; 20: 686-700.
【非特許文献7】Cancer Statistics in Japan 2017: Foundation for Promotion of Cancer Research.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、前立腺癌患者において、ホルモン治療が長期間有効な症例を検出するためのバイオマーカー(遺伝子セット)を同定し、当該バイオマーカーを用いてホルモン治療が長期間有効な症例を検出する方法を提供すること及び当該遺伝子セットを用いて、ホルモン治療が長期間有効な症例を検出するキットの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、前立腺癌患者(33症例)をホルモン治療に対して感受性が認められた群とホルモン治療に対して感受性が認められなかった群に分け、両者の間で有意に発現レベルに差のある遺伝子をピックアップすることに成功し本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は以下の態様を含む:
本発明は一態様において、
〔1〕前立腺癌のホルモン治療に対する感受性を判別する方法であって、
被験者由来の被検試料におけるFHL1遺伝子、LTBP4遺伝子、PLAGL1遺伝子、AXIN2遺伝子、ATP2C2遺伝子、TNFRSF19遺伝子、ITGA8遺伝子、F13A1遺伝子、SIX1遺伝子、HS3ST1遺伝子、APOE遺伝子、POLB遺伝子、PYCR1遺伝子、F5遺伝子、AMIGO2遺伝子、FABP5遺伝子、CNN1遺伝子、TNS1遺伝子、PDE5A遺伝子、C9orf152遺伝子、AFF3遺伝子、HSD17B4遺伝子、DEGS1遺伝子、PRR16遺伝子、MYH11遺伝子、ZWINT遺伝子、HMGB2遺伝子およびMK167遺伝子からなる群における少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む、判別方法に関する。
ここで本発明の判別方法は一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕に記載の判別方法であって、
前記被験者がホルモン治療未治療の状態にあることを特徴とする。
また本発明の判別方法は一実施の形態において、
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の判別方法であって、
前記測定工程が、SIX1遺伝子、AMIGO2遺伝子、ZWINT遺伝子の発現レベルを測定する工程であることを特徴とする。
また本発明の判別方法は一実施の形態において、
〔4〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の判別方法であって、
前記測定工程において得られた遺伝子の発現レベルと、ホルモン治療感受性患者もしくはホルモン治療抵抗性患者、または、健常者由来試料における対応する遺伝子の発現レベルとを比較する工程をさらに含むことを特徴とする。
また本発明の判別方法は一実施の形態において、
〔5〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の判別方法であって、
前記測定工程において得られた遺伝子の発現レベルと、ホルモン治療感受性患者由来試料における対応する遺伝子の発現レベル、ホルモン治療抵抗性患者由来試料における対応する遺伝子の発現レベル、または、健常者由来試料における対応する遺伝子の発現レベルとをクラスタ分析により比較する工程をさらに含むことを特徴とする。
また本発明の判別方法は一実施の形態において、
〔6〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の判別方法であって、
前記測定工程において得られた前記被検試料における遺伝子の発現レベルを所定の閾値と比較する工程をさらに含むことを特徴とする。
また本発明の判別方法は一実施の形態において、
〔7〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の判別方法であって、
前記被検試料が前立腺癌由来の細胞であることを特徴とする。
また本発明の判別方法は一実施の形態において、
〔8〕上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の判別方法であって、
前記測定工程において、前記遺伝子の発現レベルの測定が前記遺伝子のmRNAの発現量の測定であることを特徴とする。
また本発明は別の態様において、
〔9〕進行前立腺癌を患う対象におけるホルモン治療に対する感受性を判別するためのマーカー遺伝子セットであって、FHL1遺伝子、LTBP4遺伝子、PLAGL1遺伝子、AXIN2遺伝子、ATP2C2遺伝子、TNFRSF19遺伝子、ITGA8遺伝子、F13A1遺伝子、SIX1遺伝子、HS3ST1遺伝子、APOE遺伝子、POLB遺伝子、PYCR1遺伝子、F5遺伝子、AMIGO2遺伝子、FABP5遺伝子、CNN1遺伝子、TNS1遺伝子、PDE5A遺伝子、C9orf152遺伝子、AFF3遺伝子、HSD17B4遺伝子、DEGS1遺伝子、PRR16遺伝子、MYH11遺伝子、ZWINT遺伝子、HMGB2遺伝子およびMK167遺伝子からなる群における少なくとも1つの遺伝子を含む、マーカー遺伝子セットに関する。
また本発明は別の態様において、
〔10〕進行前立腺癌を患う対象におけるホルモン治療に対する感受性を判別するためのキットであって、
FHL1遺伝子、LTBP4遺伝子、PLAGL1遺伝子、AXIN2遺伝子、ATP2C2遺伝子、TNFRSF19遺伝子、ITGA8遺伝子、F13A1遺伝子、SIX1遺伝子、HS3ST1遺伝子、APOE遺伝子、POLB遺伝子、PYCR1遺伝子、F5遺伝子、AMIGO2遺伝子、FABP5遺伝子、CNN1遺伝子、TNS1遺伝子、PDE5A遺伝子、C9orf152遺伝子、AFF3遺伝子、HSD17B4遺伝子、DEGS1遺伝子、PRR16遺伝子、MYH11遺伝子、ZWINT遺伝子、HMGB2遺伝子およびMK167遺伝子からなる群における少なくとも1つの遺伝子の発現を測定する測定手段を含む、キットに関する。
ここで本発明のキットは一実施の形態において
〔11〕上記〔10〕に記載のキットであって、
前記遺伝子の発現を測定する測定手段が、前記遺伝子に対するプライマー、プローブ、または、それらの標識物からなる群より選択される少なくとも一つの手段であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の前立腺癌のホルモン治療に対する感受性を判別する方法によれば、被験者由来の被検試料におけるマーカー遺伝子セットに含まれる遺伝子の発現解析により再現性高くホルモン治療の感受性を判別することができる。本発明の判別方法はホルモン治療未治療の進行前立腺癌を患う被験者由来の試料に対しても適用することができるため、当該対象のホルモン治療に対する感受性を事前に確認することで適切なホルモン治療を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるFHL1遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図2図2は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるLTBP4遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図3図3は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるPLAGL1遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図4図4は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるAXIN2遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図5図5は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるATP2C2遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図6図6は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるTNFRSF19遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図7図7は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるITGA8遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図8図8は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるF13A1遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図9図9は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるSIX1遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図10図10は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるHS3ST1遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図11図11は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるAPOE遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図12図12は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるPOLB遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図13図13は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるPYCR1遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図14図14は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるF5遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図15図15は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるAMIGO2遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図16図16は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるFABP5遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図17図17は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるCNN1遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図18図18は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるTNS1遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図19図19は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるPDE5A遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図20図20は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるC9orf152遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図21図21は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるAFF3遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図22図22は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるHSD17B4遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図23図23は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるDEGS1遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図24図24は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるPRR16遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図25図25は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるMYH11遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図26図26は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるZWINT遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図27図27は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるHMGB2遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図28図28は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群におけるMK167遺伝子の遺伝子発現スコアを示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
図29図29は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群に属する患者由来の被検試料における遺伝子セットの発現レベルを示すヒートマップ図を示す。各被検試料はクラスタ分析により並び替えている。ヒートマップ図の右側に、またホルモン治療感受性群における遺伝子発現スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における遺伝子発現スコアに基づき作成したROC曲線のAUC面積をグラフで示す。
図30図30は、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群に属する患者由来の被検試料における遺伝子セットの発現レベルを測定し、検体スコアの順に並べた各検体における遺伝子セット1の発現レベルを示すヒートマップ(上段)およびその検体スコアのグラフ(下段)を示す。
図31図31は、ホルモン治療感受性群の検体スコア値とホルモン治療抵抗性群の検体スコア値を示す群散布図を示す。またホルモン治療感受性群における検体スコア、および、ホルモン治療抵抗性群における検体スコアに基づくROC曲線および感度・特異度曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.前立腺癌のホルモン治療に対する感受性を判別する方法
1-1.概要
本発明の第1の態様は、マーカー遺伝子セットに含まれる遺伝子の発現レベルを指標として、前立腺癌と診断された患者において、ホルモン治療の感受性を判別することが可能な方法である。本発明のマーカー遺伝子セットは、28種の遺伝子群から選択される遺伝子より構成され、被検者(前立腺癌を患う対象)の試料中における当該遺伝子群のうちの特定の遺伝子の発現レベルを測定することで、当該被験者がホルモン治療感受性を有しているかまたはホルモン治療抵抗性であるかを判別できる(または判別を補助できる)。
【0011】
1-2.定義
本明細書において「前立腺癌」とは前立腺に生じる悪性腫瘍をいう。また「進行前立腺癌」とは、前立腺の被膜外などに進展した局所進行性がんや遠隔転移を有する前立腺癌をいう。
前立腺癌治療において典型的に「ホルモン治療感受性」の症例とは、24か月以上ホルモン治療が有効であったと判断した症例をいい、「ホルモン治療抵抗性」の症例とは、ホルモン治療の有効性が24か月未満であったと判断した症例をいう。本明細書において「ホルモン治療感受性」というとき、24か月以上ホルモン治療が有効である、または、その可能性が高いことも含み、「ホルモン治療抵抗性」というとき、ホルモン治療の有効性が24か月未満である、または、その可能性が高いことも含む。
本明細書において「ホルモン治療」とは、男性ホルモンの分泌や働きを抑えることによって、前立腺がん細胞の増殖を抑制しようとする治療法を意味し、公知の治療法やホルモン薬の投与による治療を含む。「ホルモン治療」としてはLH-RHアゴニスト、LH-RHアンタゴニスト、GnRH受容体アンタゴニスト、エストロゲン薬、アンドロゲン合成阻害薬、抗アンドロゲン剤(ビカルタミド、アビラテロン、エンザルタミド、アパルタミドなど)、もしくは、リン酸エストラムスチンの投与、または、精巣摘出術などを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、「進行リスク高」とは、LATITUDE試験を基に、転移腫瘍量や悪性度(グリソンスコア≧8、骨転移3か所以上、骨以外の臓器転移1つ以上のいずれか2つ以上を満たす)から進行リスクが高いと判断した症例をいい、それ以外を「進行リスク低」という。
【0012】
本明細書において「マーカー遺伝子」は、前立腺癌と診断された患者において、ホルモン治療の効果を判別することのできるバイオマーカーとして利用可能な遺伝子をいう。本発明においてマーカー遺伝子セットに含まれる各遺伝子の発現レベルは、転写産物(mRNA)、そのcDNAまたは各遺伝子がコードするタンパク質の発現の情報に関する。
【0013】
本明細書において「マーカー遺伝子セット」とは、FHL1遺伝子、LTBP4遺伝子、PLAGL1遺伝子、AXIN2遺伝子、ATP2C2遺伝子、TNFRSF19遺伝子、ITGA8遺伝子、F13A1遺伝子、SIX1遺伝子、HS3ST1遺伝子、APOE遺伝子、POLB遺伝子、PYCR1遺伝子、F5遺伝子、AMIGO2遺伝子、FABP5遺伝子、CNN1遺伝子、TNS1遺伝子、PDE5A遺伝子、C9orf152遺伝子、AFF3遺伝子、HSD17B4遺伝子、DEGS1遺伝子、PRR16遺伝子、MYH11遺伝子、ZWINT遺伝子、HMGB2遺伝子およびMK167遺伝子からなる28のマーカー遺伝子を含む。表1に「マーカー遺伝子セット」に含まれる各遺伝子のアクセッション番号および対応する配列番号を記載する。
【0014】
【表1】
【0015】
本明細書において、「マーカー遺伝子セット」に含まれる遺伝子には、同一アミノ酸配列をコードする縮重コドンを含む塩基配列からなる遺伝子、各遺伝子の各種変異体(バリアント)や点突然変異遺伝子等の変異遺伝子、及びチンパンジー等の他種生物のオルソログ遺伝子なども含まれる。このような遺伝子としては、下記表に記載のGenBankアクセッション番号により特定される遺伝子の塩基配列と70%以上(好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上)の塩基同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、かつ、対象遺伝子の機能を保持する遺伝子を含む。
例えば、一実施の形態において、本発明に用いられるFHL1遺伝子は配列番号1に示される塩基配列を含む遺伝子として特定することができ、このときFHL1遺伝子には配列番号1に示される塩基配列と70%以上(好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上)の塩基同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、FHL1遺伝子の機能を保持する遺伝子を含む。なお、本明細書において「塩基同一性」とは、二つの塩基配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両塩基配列の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの、遺伝子の全塩基数に対する比較するヌクレオチドの塩基配列中の同一塩基数の割合(%)をいう。
【0016】
本明細書において、「遺伝子発現スコア」とは、「マーカー遺伝子セット」に含まれる各遺伝子または複数の遺伝子の発現レベルにより定まるスコアである。スコアの種類や算定方法は特に制限されない。一実施の形態において遺伝子発現スコアは、マーカー遺伝子のうちの14遺伝子(FHL1、LTBP4、PLAGL1、AXIN2、ATP2C2、TNFRSF19、ITGA8、F13A1、CNN1、TNS1、PDE5A、C9orf152、AFF3およびMYH11、)について発現レベルに-1を乗じたものを「遺伝子発現スコア」とし、残り14遺伝子について、それぞれの発現レベルをそのまま「遺伝子発現スコア」として扱うことができる。また別の実施形態においては、遺伝子ごとに発現レベルのカットオフ値を設定し、当該カットオフ値との比較により定まるスコアとする(例えば、発現レベルがカットオフ値以上であれば遺伝子発現スコアを「1」とし、カットオフ値未満であれば遺伝子発現スコアを「-1」とする)こともできる。
本明細書において、「検体スコア」とは被検試料ごとに与えられるマーカー遺伝子の発現レベルにより求められるスコアである。スコアの種類や算定方法は特に制限されないが、例えば、「検体スコア」は各被検試料におけるマーカー遺伝子の遺伝子発現スコアの総和として扱うことができる。
【0017】
本明細書において「測定値」とは、遺伝子発現レベルの測定方法によって得られた値である。測定値は、試料中のmRNA量等をng(ナノグラム)やμg(マイクログラム)等の重量で表した絶対値であってもよいし、また対照値に対する吸光度や標識分子による蛍光強度等で表した相対値であってもよい。
なお、各遺伝子の発現レベルの測定値は測定方法にもよるが、例えば、共通のサンプル(以下「共通リファレンス」という。)に対する相対比(発現比)として算出することができる。発現比を算出する際の共通リファレンスは、比較する試料間の測定条件において同じであればどのようなものでも構わない。例えば、特定の細胞株でもよく、複数の細胞株を混合したものでもよい。または、市販のユニバーサルリファレンスや、公知のハウスキーピング遺伝子またはそれらの組み合わせを共通リファレンスとして用いることもできる。
【0018】
本明細書において「遺伝子の発現レベル」とは、マーカー遺伝子の転写産物量、翻訳産物量、発現強度又は発現頻度をいう。ここでいう遺伝子の発現レベルは、マーカー遺伝子の野生型遺伝子の発現レベルに限らず、点突然変異遺伝子等の変異遺伝子の発現レベルも含み得る。また、マーカー遺伝子の発現を示す転写産物には、スプライスバリアントのような異型転写産物(バリアント)及びそれらの断片も含み得る。変異遺伝子、転写産物、又はその断片に基づく情報であっても本発明におけるマーカー遺伝子の発現レベルとして扱うことが可能である。
遺伝子の発現レベルは、マーカー遺伝子セットを構成する遺伝子群の転写産物、すなわちmRNA量等の測定により得られる測定値として得ることができる。
【0019】
1-3.測定方法
本発明のホルモン治療感受性の患者を判別する方法は、マーカー遺伝子セットに含まれる少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを測定する工程を必須の工程として含む。より具体的には、本発明のホルモン治療感受性の患者を判別する方法は、当該患者由来の被検試料におけるFHL1遺伝子、LTBP4遺伝子、PLAGL1遺伝子、AXIN2遺伝子、ATP2C2遺伝子、TNFRSF19遺伝子、ITGA8遺伝子、F13A1遺伝子、SIX1遺伝子、HS3ST1遺伝子、APOE遺伝子、POLB遺伝子、PYCR1遺伝子、F5遺伝子、AMIGO2遺伝子、FABP5遺伝子、CNN1遺伝子、TNS1遺伝子、PDE5A遺伝子、C9orf152遺伝子、AFF3遺伝子、HSD17B4遺伝子、DEGS1遺伝子、PRR16遺伝子、MYH11遺伝子、ZWINT遺伝子、HMGB2遺伝子およびMK167遺伝子からなる群における少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む。
【0020】
本発明の検出方法の一実施の形態は、前立腺癌患者由来の被検試料においてホルモン治療感受性の患者を判別する方法であって、FHL1遺伝子、LTBP4遺伝子、PLAGL1遺伝子、AXIN2遺伝子、ATP2C2遺伝子、TNFRSF19遺伝子、ITGA8遺伝子、F13A1遺伝子、SIX1遺伝子、HS3ST1遺伝子、APOE遺伝子、POLB遺伝子、PYCR1遺伝子、F5遺伝子、AMIGO2遺伝子、FABP5遺伝子、CNN1遺伝子、TNS1遺伝子、PDE5A遺伝子、C9orf152遺伝子、AFF3遺伝子、HSD17B4遺伝子、DEGS1遺伝子、PRR16遺伝子、MYH11遺伝子、ZWINT遺伝子、HMGB2遺伝子およびMK167遺伝子からなる群における少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを測定することによりホルモン治療感受性の患者を判別する方法である。
【0021】
以下、測定方法について具体的に説明をする。
「測定工程」とは、被検試料においてマーカー遺伝子の発現レベルを測定してその測定値を得る工程である。マーカー遺伝子の発現レベルの測定は、各マーカー遺伝子における単位量あたりの発現レベルを測定することが好ましい。
測定するマーカー遺伝子は、上記マーカー遺伝子セットに含まれる28の遺伝子から少なくとも1つ以上を選択することができる。選択する遺伝子の数は、2~28のいずれの組み合わせでもよい。測定する遺伝子の数が増えた場合、ホルモン治療感受性またはホルモン治療抵抗性であるかの判別の精度が向上する点において好ましい。二以上の遺伝子を選択する場合、遺伝子の組み合わせも限定されない。
二以上の遺伝子を選択して測定する場合、好ましい一実施の形態において当該遺伝子の組み合わせは、健常者またはホルモン治療感受性群とホルモン治療非感受性群との発現レベルのp値が0.05以下、より好ましくは0.01以下となるように選択することができる。また別の実施の形態において当該遺伝子の組み合わせは、ホルモン治療感受性群とホルモン治療非感受性群においてROC曲線を描いた際に、感度および特異度が70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上となるカットオフ値を設定可能なように選択することができる。
本明細書において「被検試料」とは、被検者より採取された試料である。「被検者」は特に制限されないが、前立腺癌の罹患に疑いのある個体、または、前立腺癌に罹患歴のある個体であってもよい。ここでいう「前立腺癌に罹患歴のある個体」とは、現在前立腺癌に罹患している患者、及び過去前立腺癌に罹患した前立腺癌既往歴者を含む。また本明細書において「被検者」は、試料を提供し、検査に供されるヒト個体である。本発明の方法の対象となる被検者としてより好ましくは、前立腺癌と診断された被検者である。本発明はまた進行前立腺癌の罹患に疑いのある個体、または、進行前立腺癌に罹患歴のある個体に対してホルモン治療感受性を判別することができる。また好ましい実施の形態において、「被験者」は根治切除不可能な進行前立腺癌と診断された個体、または、根治切除不可能な進行前立腺癌の罹患に疑いのある、もしくは、罹患歴のある個体である。
本態様で用いる「被検者」は、性別、年齢、身長、体重等の身体的条件や、人数は特に制限はされない。
【0022】
本明細書において「試料」とは、前記被検者から採取され、本態様の判別方法に供されるものであって、例えば、組織、細胞または体液が該当する。ここでいう「組織」及び「細胞」は、被検者のいずれの部位由来でもよいが、好ましくは生検により採取された、又は手術により切除された検体、より具体的には前立腺組織又は前立腺の細胞である。特に好ましくは生検により採取された前立腺癌組織若しくは前立腺癌由来の細胞又は前立腺癌罹患の疑いのある前立腺組織若しくは細胞である。なお、これらの組織又は細胞は、ホルマリン固定後パラフィンに包埋されたもの(FFPE:Formalin-Fixed Paraffin Embedded)でもよい。また、ここでいう「体液」とは、被検者から採取された液体状の生体試料をいう。例えば、血液(血清、血漿及び間質液を含む)、髄液(脳脊髄液)、尿、リンパ液、消化液、腹水、胸水、神経根周囲液、各組織若しくは細胞の抽出液等が挙げられる。好ましくは血液である。
試料の採取は、組織又は細胞であれば、生検又は手術による外科的摘出により入手すればよい。また、体液であれば、当該分野の公知の採取方法に基づいて行なえばよい。例えば、血液やリンパ液であれば公知の採血方法に従えばよい。本態様の検出方法において必要となる試料の量は、特に限定するものではない。組織又は細胞であれば少なくとも10μg、好ましくは少なくとも0.1mgあれば望ましい。また生検材料でも構わない。血液、又はリンパ液のような体液であれば、少なくとも0.1mL、好ましくは少なくとも1mL、より好ましくは少なくとも10mLの容量があればよい。試料は、マーカー遺伝子の発現レベルの測定が可能なように、必要に応じて調製、処理することができる。例えば、試料が組織又は細胞であれば、ホモジナイズ処理や細胞溶解処理、遠心や濾過による夾雑物除去、プロテアーゼインヒビターの添加等が挙げられる。これらの処理の詳細についてはGreen & Sambrook, Molecular Cloning, 2012, Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Pressに詳しく記載されており、参考にすることができる。
【0023】
本明細書において「単位量」とは、任意に定められる試料の量をいう。例えば、容量(μL、mLで表される)や重量(μg、mg、gで表される)が該当する。単位量は特に特定しないが、一連の検出方法で測定される単位量は一定とすることが好ましい。例えば、健常者またはホルモン治療感受性の前立腺癌患者由来の試料とホルモン治療抵抗性の前立腺癌患者由来の試料等とを比較する場合、単位量を一定とすることでより正確な検出が可能となる。特に、マーカー遺伝子の発現レベルを絶対値として測定する際には、単位量を一定にする必要がある。
【0024】
以下、遺伝子の転写産物の測定方法について具体的に説明をする。なお、遺伝子の転写産物の測定方法は公知である。以下では、特開2016-13081号公報の遺伝子の転写産物又は翻訳産物の測定方法に関する記載を参照または引用して記載する。なお、以下では代表的な遺伝子の転写産物又は翻訳産物の測定方法を説明するが、これらの方法に限定されず、公知の測定方法を用いることができる。
【0025】
マーカー遺伝子の転写産物の測定は、mRNA量の測定とすることができ、またmRNAから逆転写されて得られたcDNA量の測定であってもよい。一般に遺伝子の転写産物の測定には、上記の遺伝子の塩基配列の全部又は一部を含むヌクレオチドをプライマー又はプローブに用いて、遺伝子の発現レベルを絶対値又は相対値として測定する方法が採用される。
本態様のプライマー又はプローブは、通常、DNA、RNA等の天然核酸で構成される。安定性が高く、合成が容易で低廉なDNAは特に好ましい。また、必要に応じて天然核酸と化学修飾核酸や擬似核酸を組み合わせることもできる。化学修飾核酸や擬似核酸には、例えば、PNA(Peptide Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid;登録商標)、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等が挙げられる。また、プライマー及びプローブは、蛍光物質及び/又はクエンチャー物質、又は放射性同位元素(例えば、32P、33P、35S)等の標識物質、あるいはビオチン若しくは(ストレプト)アビジン、又は磁気ビーズ等の修飾物質を用いて標識又は修飾してもよい。標識物質は、限定されず、市販のものを用いることができる。例えば、蛍光物質であればFITC、Texas、Cy3、Cy5、Cy7、Cyanine3、Cyanine5、Cyanine7、FAM、HEX、VIC、フルオレサミン及びその誘導体、及びローダミン及びその誘導体等を用いることができる。クエンチャー物質であれば、AMRA、DABCYL、BHQ-1、BHQ-2、又はBHQ-3等を用いることができる。プライマー及びプローブにおける標識物質の標識位置は、その修飾物質の特性や、使用目的に応じて適宜定めればよい。一般的には、5’又は3’末端部に修飾されることが多い。また、一つのプライマー及びプローブ分子が一以上の標識物質で標識されていても構わない。これらの物質のヌクレオチドへの標識は公知の方法で行うことができる。
【0026】
プライマー又はプローブとして用いるヌクレオチドは、上記マーカー遺伝子を構成する各遺伝子のセンス鎖、又はアンチセンス鎖からなるヌクレオチドのいずれであってもよい。
プライマー又はプローブの塩基長は特に限定しない。プローブの場合、後述するハイブリダイゼーション法に使用するのであれば、少なくとも10塩基長以上から遺伝子全長、好ましくは15塩基長以上から遺伝子全長、より好ましくは30塩基長以上から遺伝子全長、さらに好ましくは50塩基長以上から遺伝子全長であり、マイクロアレイに使用するのであれば、10~200塩基長、好ましくは20~150塩基長、より好ましくは30~100塩基長である。一般にプローブは長いほどハイブリダイゼーション効率が上昇し、感度は高くなる。一方、プローブは短いほど感度は低くなるが、逆に特異性が上昇する。一方、プライマーの場合、フォワードプライマー及びリバースプライマーのそれぞれが10~50bp、好ましくは15~30bpあればよい。
上記したプライマー又はプローブの調製は当業者に既知であり、例えば、前述のGreen & Sambrook, Molecular Cloning(2012)に記載された方法に準じて調製することができる。また、核酸合成受託メーカーに配列情報を提供し、委託製造することも可能である。
【0027】
マーカー遺伝子の転写産物の測定は、公知の核酸検出・定量方法であればよく、特に限定はしない。例えば、ハイブリダイゼーション法、核酸増幅法又はRNAシーケンシング(RNA-Seq)解析法が挙げられる。
「ハイブリダイゼーション法」とは、検出すべき標的核酸の塩基配列の全部又は一部に相補的な塩基配列を有する核酸断片をプローブとして用い、その核酸と該プローブ間の塩基対合を利用して、標的核酸若しくはその断片を検出、定量する方法である。本態様で標的核酸は、マーカー遺伝子を構成する各遺伝子のmRNA若しくはcDNA、又はその断片が該当する。一般にハイブリダイゼーション法は、非特異的にハイブリダイズする目的外の核酸を排除するためストリンジェントな条件で行うことが好ましい。低塩濃度かつ高温下の高ストリンジェントな条件はより好ましい。ハイブリダイゼーション法には、検出手段の異なるいくつかの方法が知られているが、例えば、ノザンブロット法(ノザンハイブリダイゼーション法)、マイクロアレイ法、表面プラズモン共鳴法又は水晶振動子マイクロバランス法が好適である。
「ノザンブロット法」は、遺伝子の発現を解析する方法の1つで、試料より調製した全RNA又はmRNAを変性条件下でアガロースゲル若しくはポリアクリルアミドゲル等による電気泳動によって分離し、フィルターに転写(ブロッティング)した後に、標的RNAに特異的な塩基配列を有するプローブを用いて、標的核酸を検出する方法である。プローブを蛍光色素や放射性同位元素のような適当なマーカーで標識することで、例えば、ケミルミ(化学発光)撮影解析装置(例えば、ライトキャプチャー;アトー社)、シンチレーションカウンター、イメージングアナライザー(例えば、FUJIFILM社:BASシリーズ)等の測定装置を用いて標的核酸を定量することも可能である。ノザンブロット法は、当該分野において周知著名な技術であり、例えば、前述のGreen, M.R. and Sambrook, J.(2012)を参照すればよい。
「マイクロアレイ法」は、基板上に標的核酸の塩基配列の全部若しくは一部に相補的な核酸断片をプローブとして小スポット状に高密度で配置、固相化したマイクロアレイ又はマイクロチップに標的核酸を含む試料を反応させて、基盤スポットにハイブリダイズした核酸を蛍光等によって検出する方法である。標的核酸は、mRNAのようなRNA、又はcDNAのようなDNAのいずれであってもよい。検出、定量には、標的核酸等のハイブリダイゼーションに基づく蛍光等をマイクロプレートリーダーやスキャナにより検出、測定することによって達成できる。測定した蛍光強度により、mRNA量若しくはcDNA量又はレファレンスmRNA(参照mRNA)に対するそれらの存在比を決定することができる。マイクロアレイ法も当該分野において周知の技術である。例えば、DNAマイクロアレイ法(DNAマイクロアレイと最新PCR法(2000年)村松正明、那波宏之監修、秀潤社)等を参照すればよい。
「表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)法」とは、金属薄膜へ照射したレーザー光の入射角度を変化させると特定の入射角度(共鳴角)において反射光強度が著しく減衰するという表面プラズモン共鳴現象を利用して、金属薄膜表面上の吸着物を極めて高感度に検出、定量する方法である。本発明においては、例えば、金属薄膜表面に標的核酸の塩基配列に相補的な配列を有するプローブを固定化し、その他の金属薄膜表面部分をブロッキング処理した後、被検体から採取された試料を金属薄膜表面に流通させることによって標的核酸とプローブの塩基対合を形成させて、サンプル流通前後の測定値の差異から標的核酸を検出、定量することができる。表面プラズモン共鳴法による検出、定量は、例えば、Biacore社で市販されるSPRセンサを利用して行なうことができる。本技術は、当該分野において周知である。例えば、永田和弘、及び半田宏, 生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法, シュプリンガー・フェアラーク東京, 東京, 2000を参照すればよい。
「水晶振動子マイクロバランス(QCM: Quarts Crystal Microbalance)法」とは、水晶振動子に取り付けた電極表面に物質が吸着するとその質量に応じて水晶振動子の共振周波数が減少する現象を利用して、共振周波数の変化量によって極微量な吸着物を定量的に捕らえる質量測定法である。本方法による検出、定量も、SPR法と同様に市販のQCMセンサを利用して、例えば、電極表面に固定した標的核酸の塩基配列に相補的な配列を有するプローブと被検体から採取された試料中の標的核酸との塩基対合によって標的核酸を検出、定量することができる。本技術は、当該分野において周知であり、例えば、Christopher J. et al., 2005, Self-Assembled Monolayers of a Form of Nanotechnology, Chemical Review,105:1103-1169や森泉豊榮,中本高道,(1997) センサ工学,昭晃堂を参照すればよい。
「核酸増幅法」とは、フォワード/リバースプライマーを用いて、標的核酸の特定の領域を核酸ポリメラーゼによって増幅させる方法をいう。例えば、PCR法(RT-PCR法を含む)、NASBA法、ICAN法、LAMP(登録商標)法(RT-LAMP法を含む)が挙げられる。好ましくはPCR法である。核酸増幅法を用いた遺伝子の転写産物の測定方法には、リアルタイムRT-PCR法のような定量的核酸増幅法が使用される。リアルタイムRT-PCR法には、さらに、SYBR(登録商標)Green等を用いるインターカレーター法、Taqman(登録商標)プローブ法、デジタルPCR法、及びサイクリングプローブ法が知られているが、いずれの方法であってもよい。これらはいずれも公知の方法であり、当該技術分野における適当なプロトコルにも記載されているので、それらを参照すればよい。
「RNAシーケンシング(RNA-Seq)解析法」とは、RNAをcDNAに逆転写反応により変換し、それらを次世代シーケンサー(例えば、HiSeqシリーズ(illumina社)やIon Protonシステム(Thermo Fisher社)が存在するが、これに限らない。)を用いてリード数をカウントすることで遺伝子の発現量を測定する方法をいう。これらはいずれも公知の方法であり、当該技術分野における適当なプロトコルにも記載されているので、それらを参照すればよい。
【0028】
リアルタイムRT-PCR法で遺伝子の転写産物を定量する方法について、以下で一例を挙げて簡単に説明をする。リアルタイムRT-PCR法は、試料中のmRNAから逆転写反応によって調製されたcDNAを鋳型として、PCRの増幅産物が特異的に蛍光標識される反応系で、増幅産物に由来する蛍光強度を検出する機能の備わった温度サイクラー装置を用いてPCRを行う核酸定量方法である。反応中の標的核酸の増幅産物量をリアルタイムでモニタリングして、その結果をコンピュータで回帰分析する。増幅産物を標識する方法としては、蛍光標識したプローブを用いる方法(例えば、TaqMan(登録商標)PCR法)と、2本鎖DNAに特異的に結合する試薬を用いるインターカレーター方法とがある。TaqMan(登録商標)PCR法は、5’末端部がクエンチャー物質で、また3’末端部が蛍光色素で修飾されたプローブを用いる。通常は、5’末端部のクエンチャー物質が3’末端部の蛍光色素を抑制しているが、PCRが行われるとTaqポリメラーゼのもつ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性により当該プローブが分解され、それによってクエンチャー物質の抑制が解除されるため蛍光を発するようになる。その蛍光量は、増幅産物の量を反映する。増幅産物が検出限界に到達するときのサイクル数(CT)と初期鋳型量とは逆相関の関係にあることから、リアルタイム測定法ではCTを測定することによって初期鋳型量を定量している。数段階の既知量の鋳型を用いてCTを測定し、検量線を作製すれば、未知試料の初期鋳型量の絶対値を算出することができる。RT-PCRで使用する逆転写酵素は、例えば、M-MLV RTase、ExScript RTase(TaKaRa社)、Super Script II RT(Thermo Fisher Scientific社)等を使用することができる。
リアルタイムPCRの反応条件は、一般に、公知のPCR法を基礎として、増幅する核酸断片の塩基長及び鋳型用核酸の量、並びに使用するプライマーの塩基長及びTm値、使用する核酸ポリメラーゼの至適反応温度及び至適pH等により変動するため、これらの条件に応じて適宜定めればよい。一例として、通常、変性反応を94~95℃で5秒~5分間、アニーリング反応を50~70℃で10秒~1分間、伸長反応を68~72℃で30秒~3分間行い、これを1サイクルとして15~40サイクルほど繰り返して伸長反応を行うことができる。前記メーカー市販のキットを使用する場合には、原則としてキットに添付のプロトコルに従って行えばよい。
リアルタイムPCRで用いられる核酸ポリメラーゼは、DNAポリメラーゼ、特に熱耐性DNAポリメラーゼである。このような核酸ポリメラーゼは、様々な種類のものが市販されており、それらを利用することもできる。例えば、前記Applied Biosystems TaqMan MicroRNA Assays Kit(Thermo Fisher Scientific社)に添付のTaq DNAポリメラーゼが挙げられる。特にこのような市販のキットには、添付のDNAポリメラーゼの活性に最適化されたバッファ等が添付されているので有用である。
【0029】
1-4.判別方法
本発明のホルモン治療感受性の患者を判別する方法は、上記のようにして測定したマーカー遺伝子の発現レベルをもとに、ホルモン治療感受性の有無を判別する。
【0030】
ここで、本発明の検出方法の一実施の形態は、測定工程において測定されたマーカー遺伝子の発現レベルと、前立腺癌患者由来の試料における対応するマーカー遺伝子の発現レベルとを比較する工程を含み、ホルモン治療感受性の有無を判別する。ここで、マーカー遺伝子の発現レベルの比較は、単独のマーカー遺伝子の発現レベル同士の比較に加え、二以上のマーカー遺伝子の発現レベルより得られる発現プロファイル同士の比較も含まれる。
被検試料に対して比較対象となる、前立腺癌患者由来の試料のマーカー遺伝子の発現レベルまたはマーカー遺伝子セットに含まれる各遺伝子の発現プロファイルは、予め測定したものを用いてもよいし、または、新たに健常者、ホルモン治療感受性の前立腺癌患者またはホルモン治療抵抗性の前立腺癌患者由来の試料についてマーカー遺伝子セットに含まれる各遺伝子の発現レベルを測定したものを用いても良い。
よって、本発明の検出方法は、一実施の形態において、健常者、ホルモン治療感受性の前立腺癌患者、または、ホルモン治療抵抗性の前立腺癌患者由来の試料において、ホルモン治療感受性の有無を判別するためのマーカー遺伝子セットに含まれる少なくとも1つのマーカー遺伝子の発現レベルを測定する工程をさらに含む。この工程により得られた発現レベルまたは発現プロファイル(以下、「発現レベル等)という)と被検試料の発現レベル等とを比較することができる。検出対象である前立腺癌患者由来の試料は、1個体由来の試料でもよいし、2個体以上の試料を含んでいてもよい。由来する個体の数が多いほど、試料の個体差を平均化でき、検出の精度が高まるので好ましい。
【0031】
ここで、測定工程において得られたマーカー遺伝子の発現レベル等と、健常者、ホルモン治療感受性の前立腺癌患者、または、ホルモン治療抵抗性の前立腺癌患者由来の試料における対応するマーカー遺伝子の発現レベル等とを比較する工程は、例えば、被検試料が、前立腺癌患者の中でホルモン治療感受性を有すると認められた患者由来の試料における対応するマーカー遺伝子の発現レベル等と同等の発現レベル等を有する場合にホルモン治療感受性を有すると評価するか、または、ホルモン治療感受性を有すると認められた患者由来の試料における対応するマーカー遺伝子の発現レベル等と異なる遺伝子の発現レベル等を有する場合にホルモン治療に抵抗性を有していると評価することができる。また被検試料が健常者由来の試料における対応するマーカー遺伝子の発現レベル等と同等の発現レベル等を有する場合にホルモン治療感受性を有すると評価するか、または、ホルモン治療感受性を有すると認められた患者由来の試料における対応するマーカー遺伝子の発現レベル等と異なる遺伝子の発現レベル等を有する場合にホルモン治療に抵抗性を有していると評価することができる。
ここで、「同等の遺伝子の発現レベル等を有する」とは、マーカー遺伝子セットに含まれる各遺伝子の発現レベル等が同じであるかまたは類似していることをいう。また、「異なる遺伝子の発現レベル等を有する」とは、遺伝子セットに含まれる各遺伝子の発現プロファイルが類似していないことをいう。
遺伝子セットにおける各遺伝子の発現レベル等が同等であるか異なっているかについて判断する具体的な手法は、公知の方法を採用することができる。以下に限定されないが、例えば、(i)階層的クラスタリング分析に基づいて被検試料をホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群へ分類する方法、(ii)遺伝子の発現レベル等の比較により評価する方法、(iii)閾値の設定により被検試料がホルモン治療感受性かホルモン治療抵抗性かを評価する方法などを挙げることができる。
【0032】
(i)階層的クラスタリング分析
本発明の検出方法は一実施の形態において、被検試料におけるマーカー遺伝子セットに含まれる各遺伝子の発現レベル等をクラスタ分析することにより被検試料の分類が可能となる。クラスタ分析に用いるデータは、マーカー遺伝子セットに含まれる複数の遺伝子に関する発現プロファイルであることが好ましい。
より具体的には、被検試料において測定したマーカー遺伝子セットの発現プロファイルを、前立腺癌患者由来の試料における対応するマーカー遺伝子セットの発現プロファイルと比較して階層的クラスタ分析を行うことができる。階層的クラスタリング分析により被検試料を提供する被検者がホルモン治療感受性またはホルモン治療抵抗性であるかを判別する際には、階層的クラスタを作成できるように、(i)被検試料におけるマーカー遺伝子セットの発現プロファイル、および、(ii)ホルモン治療感受性もしくはホルモン治療抵抗性の前立腺癌患者または健常者由来の試料における遺伝子セットの発現プロファイルが必要となる。
階層的クラスタ分析の手法は公知の手法を採用することができる。特に本発明における好ましい実施形態においては、ユークリッド距離による群平均法によるクラスタ分析である。クラスタ分析には公知のソフトウェアを用いることができ、以下に限定されないが、例えば、市販のソフトウェアとしてExpressionView Pro software(MicroDiagnostic, Tokyo, Japan)を用いることができる。
階層的クラスタ分析を行うことで、前立腺癌の中でホルモン治療感受性を有する患者由来に属するクラスタと、ホルモン治療抵抗性を有する患者由来に属するクラスタとからなる階層構造(樹形図)を描くことができる。これにより、被検試料を提供する被検者が、ホルモン治療感受性を有しているか否かを判別することができる。
【0033】
(ii)遺伝子の発現レベルの比較により評価する方法
また、一実施の形態においては、被検試料におけるマーカー遺伝子セットに含まれる遺伝子の発現レベル等の合計値と、健常者、ホルモン治療感受性の前立腺癌患者、または、ホルモン治療抵抗性の前立腺癌患者由来の試料における対応する遺伝子の発現レベル等とを比較することにより、被検者のホルモン治療感受性の有無を判別することができる。
以下に限定されないが、一形態を挙げて説明すると、複数のマーカー遺伝子を対象として発現レベルを測定し、健常者、ホルモン治療感受性の前立腺癌患者、または、ホルモン治療抵抗性の前立腺癌患者におけるマーカー遺伝子セットに含まれる遺伝子の発現レベルの合計値をそれぞれ群散布図として作図して、被検試料におけるマーカー遺伝子セットの遺伝子の発現レベルの合計値がどこにプロットされるかを確認する。プロットされた位置により、被検試料を提供する被検者がホルモン治療感受性を有する可能性が高いか否かを評価することができる。一実施の形態において、プロットした値が、比較対象の発現レベル(もしくは発現レベルの合計値)またはそれらの群散布図における平均値に対して有意差を有しないときに「同等の遺伝子の発現レベル等を有する」と判断することができ、有意差を有するときに「異なる遺伝子の発現レベル等を有する」と判断することができる。
なお、遺伝子の発現レベルの合計値を用いる際、FHL1遺伝子、LTBP4遺伝子、PLAGL1遺伝子、AXIN2遺伝子、ATP2C2遺伝子、TNFRSF19遺伝子、ITGA8遺伝子、F13A1遺伝子、CNN1遺伝子、TNS1遺伝子、PDE5A遺伝子、C9orf152遺伝子、AFF3遺伝子およびMYH11遺伝子については得られた発現レベルの値を反転して用いる。例えば、遺伝子の発現レベルについてマイクロアレイ等の方法により得られた各遺伝子の発現レベルの合計値を利用する際には、FHL1遺伝子、LTBP4遺伝子、PLAGL1遺伝子、AXIN2遺伝子、ATP2C2遺伝子、TNFRSF19遺伝子、ITGA8遺伝子、F13A1遺伝子、CNN1遺伝子、TNS1遺伝子、PDE5A遺伝子、C9orf152遺伝子、AFF3遺伝子およびMYH11遺伝子の発現レベル(例えば、共通リファレンスに対するLog2比)に対して-1を乗じて反転した値を求め、反転した値と他の遺伝子の発現レベルとの合計値を算出する。
【0034】
(iii)閾値の設定によ判別又は分類する方法
また、一実施の形態においては、被検試料におけるマーカー遺伝子セットの発現レベル等を、所定の閾値と比較することによりホルモン治療感受性を有していることを判別することができる。
ここで、「所定の閾値」とは、健常者、ホルモン治療感受性の前立腺癌患者、または、ホルモン治療抵抗性の前立腺癌患者由来の試料におけるマーカー遺伝子の発現レベル等に基づく所定のカットオフ値をいう。カットオフ値の設定は、例えば、以下のようにして設定することができるが、これに限定されない。すなわち、健常者、ホルモン治療感受性の前立腺癌患者、または、ホルモン治療抵抗性の前立腺癌患者由来の試料についてマーカー遺伝子セットに含まれる遺伝子の発現レベルを測定し、各試料について遺伝子の発現レベルを算出する。次いで、得られた遺伝子の発現レベルの値からROC曲線を作成することにより所定のカットオフ値を導くことができる。ROC曲線は例えば、ホルモン治療感受性の前立腺癌患者における発現レベルとホルモン治療抵抗性の前立腺癌患者における発現レベルとに基づいて、または、健常者における発現レベルとホルモン治療抵抗性の前立腺癌患者における発現レベルとに基づいて作成することができる。カットオフ値を設定することにより、被検試料より得られたマーカー遺伝子セットの発現レベル等が当該カットオフ値を超えるか否かで、ホルモン治療感受性であるか、もしくは、ホルモン治療抵抗性であるか、またはその可能性について判別することができる。
【0035】
「ROC曲線(Receiver Operatting Characteristic curve、受信者動作特性曲線)」は、縦軸を真陽性率(TPF: True Position Fraction)、すなわち感度、横軸を偽陽性率(FPF: False Position Fraction)、すなわち(1-特異度)とし、検査結果のどの値を所見ありと判断するかの閾値、つまりカットオフポイント(cutoff point)を媒介変数として変化させてプロットしていくことで作成される。特異度とは、陰性者を正確に陰性と判断する率である。
作成したROC曲線からカットオフ値を設定する方法は、基本的に感度、特異度をともに高める(1に近づくようする)ように設定することができる。そのためには、カットオフ値がROC曲線上で点(0,1)に最も近い点を与える値に設定すればよい。最も好ましい実施の形態においては、ホルモン治療感受性を有する患者群とホルモン治療抵抗性の患者群由来の試料とを明確に区別可能なカットオフ値とすることである。
【0036】
1-5.効果
本態様の前立腺癌患者におけるホルモン治療感受性の有無を判別する方法によれば、被検者から採取した試料中のマーカー遺伝子の発現レベルを調べることで、その被検者がホルモン治療感受性を有しているか否かを判別することができる。正診率の高い本態様の検出方法によって、前立腺癌患者について、ホルモン治療実施の判断を考慮し、対応できる利点がある。
例えば本発明の判別方法によりホルモン治療感受性と判別された患者に対しては、第二世代抗アンドロゲン薬による治療を避けたホルモン治療法を採用することができる。
【0037】
2.前立腺癌を患う対象におけるホルモン治療に対する感受性を判別するためのキット
2-1.概要
本発明の別の態様は、ホルモン治療感受性の患者を判別するための試薬(判別用試薬)である。本態様判別用試薬は、例えば前立腺癌と診断された被検者由来の試料に適用することで、その被検者がホルモン治療感受性を有しているか否かを判別することができる。
【0038】
2-2.構成
本態様の検出キットは、マーカー遺伝子セットを構成するマーカー遺伝子群の発現レベルを測定するための測定手段を含む。遺伝子の発現レベルの測定が転写産物、すなわちmRNA又はcDNAの測定である場合、検出手段はプローブ又はプライマーセットを含む。これらの具体的な構成については、測定工程の欄に記載している。また例えば、マーカー遺伝子セットを構成する4種のマーカー遺伝子群の転写産物を検出する場合、判別用キットは、対応する遺伝子の転写産物を検出可能な4種のプローブ群を含むことができる。
本態様の測定手段が上記のようなプローブの場合、当該測定手段は、各プローブを基板上に固定したDNAマイクロアレイ又はDNAマイクロチップの状態で提供することもできる。各プローブを固定する基板の素材は、限定はしないが、ガラス板、石英板、シリコンウェハー等が通常使用される。基板の大きさは、例えば、3.5mm×5.5mm、18mm×18mm、22mm×75mmなどが挙げられるが、これはプローブのスポット数やそのスポットの大きさなどに応じて様々に設定することができる。プローブは、1スポットあたり通常0.1μg~0.5μgのヌクレオチドが用いられる。ヌクレオチドの固定化方法には、ヌクレオチドの荷電を利用してポリリジン、ポリ-L-リジン、ポリエチレンイミン、ポリアルキルアミン等のポリ陽イオンで表面処理した固相担体に静電結合させる方法や、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基などの官能基を導入した固相表面に、アミノ基、アルデヒド基、SH基、ビオチンなどの官能基を導入したヌクレオチドを共有結合により結合させる方法が挙げられる。
マーカー遺伝子セットに対するプローブ又はマーカーは、マーカー遺伝子の発現レベルの測定に用いることができれば限定されず、当業者であれば適宜設計することができる。プローブの具体例としては、以下に限定されないが、例えば下記表2に記載のプローブを用いることができる。
【0039】
【表2】
【0040】
2-3.効果
本態様の判別用キットを用いて、被検者に適用することで、当該被検者がホルモン治療感受性を有しているか否かを判別することができる。
本発明の検出キットは、マーカー遺伝子の検出に必要な他の試薬、例えば、バッファや二次抗体、検出及び結果判別に用いる説明書を含んでいてもよい。
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【実施例0042】
(実施例1.RNA 調製)
生体より採取した前立腺癌を含む組織からRNAを調製した。具体的には、採取した組織からISOGEN(Nippon Gene Co., Ltd., Tokyo, Japan)を用いてtotal RNAを抽出した。
ヒト共通リファレンスRNAは、Human Universal Reference RNA Type II(MicroDiagnostic)を使用した。
【0043】
(実施例2.網羅的遺伝子発現解析)
遺伝子発現プロファイル取得のためのDNAマイクロアレイは、ヒト由来の転写産物に対応する14,400種類の合成DNA(80 mers)(MicroDiagnostic)をカスタムアレイヤーでスライドガラス上にアレイ化したものを用いた。
検体由来の5 μgのtotal RNAからSuperScript II(Invitrogen Life Technologies, Carlsbad, CA, USA)およびCyanine 5-dUTP(Perkin-Elmer Inc.)を用いて標識cDNAを合成した。同様に、ヒト共通リファレンスRNAは5 μgのtotal RNAからSuperScript IIおよびCyanine 3-dUTP(Perkin-Elmer Inc.)を用いて標識cDNAを合成した。
DNAマイクロアレイとのハイブリダイゼーションは、Labeling and Hybridization kit(MicroDiagonostic)を用いて行なった。
【0044】
DNAマイクロアレイとのハイブリダイゼーション後の蛍光強度は、GenePix 4000B Scanner(Axon Instruments, Inc., Union city, CA, USA)を用いて測定した。また、検体由来Cyanine-5標識cDNAの蛍光強度をヒト共通リファレンスRNA由来Cyanine-3標識cDNAの蛍光強度で除することにより発現比(検体由来Cyanine-5標識cDNAの蛍光強度/ヒト共通リファレンスRNA由来Cyanine-3標識cDNAの蛍光強度)を算出した。さらに、GenePix Pro 3.0 software(Axon Instruments, Inc.,)を用いて、算出した発現比にノーマライゼーションファクターを乗じてノーマライズを行なった。次に発現比をLog2に変換し、変換した値を発現レベル値と名付けた。なお、発現比の変換はExcel software(Microsoft, Bellevue, WA, USA)およびMDI gene expression analysis software package(MicroDiagnostic)を用いて行なった。
【0045】
(実施例3.ホルモン治療感受性の有無をモニタリングするための有用なマーカー)
本発明では、発現レベルがホルモン治療感受性の有無と相関する28種のマーカー遺伝子セットを提供する。
【0046】
前立腺癌患者(ホルモン治療感受性患者17人およびホルモン治療抵抗性患者21人を含む)から採取した組織サンプル(38検体)から14,400遺伝子の遺伝子発現プロファイルを取得した。当該組織サンプルを採取した各前立腺患者は、ホルモン治療感受性の有無と進行リスクの程度により4つのグループに分けた(表3)。
【0047】
【表3】
次に、ホルモン治療感受性群(17検体)のうち4検体以上またはホルモン治療抵抗性群(21検体)のうち5検体以上で発現レベルが検出限界未満でデータ取得ができていない遺伝子を削除した。また、ホルモン治療感受性群およびホルモン治療抵抗性群ごとに各遺伝子の発現レベル値の平均値を算出し、両者の差の絶対値が0.5以上となる遺伝子を抽出した。さらに、ホルモン治療感受性群とホルモン治療抵抗性群の間でスチューデントのt検定による二群比較を行いp値が0.01未満の遺伝子(28遺伝子)(以下「遺伝子セット」という。)を抽出した。
【0048】
遺伝子セットに含まれる各遺伝子についてホルモン治療感受性群の発現レベル値とホルモン治療抵抗性群の発現レベル値を比較した。
FHL1遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.9099、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.3218であり、両者間でのp値が0.0056(図1)と有意差があることが判明した。さらに、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルおよびホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルに基づいたROC(Receiver Operating Characteristic curve)曲線を用いて、ROC曲線下面積(AUC:area under the curve)を求め、感度・特異度曲線を作成して至適カットオフ値を求めた。ROC曲線、群散布図の作成はStatFlex ver.6.0 software(Artech Co., Ltd., Osaka, Japan)を用いて行ない、至適カットオフ値の設定は、感度と特異度の和が最大となる値とした(以下、ROC曲線、感度・特異度曲線の作成および至適カットオフ値の設定は同様とした)。その結果、FHL1遺伝子については、AUCが0.7507、カットオフ値が0.6453、このときの感度および特異度は64.7%であった(図1)。
LTBP4遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.9605、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.3814であり、両者間でのp値が0.0076(図2)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7479、カットオフ値が0.6435、このときの感度および特異度は66.7%であった(図2)。
PLAGL1遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.3171、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が-0.2418であり、両者間でのp値が0.0058(図3)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7714、カットオフ値が0.0442、このときの感度および特異度は65.0%であった(図3)。
AXIN2遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.8011、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.0546であり、両者間でのp値が0.0079(図4)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7531、カットオフ値が0.1799、このときの感度および特異度は68.8%であった(図4)。
ATP2C遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.199、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.4299であり、両者間でのp値が0.0020(図5)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.8588、カットオフ値が0.6903、このときの感度および特異度は80.0%であった(図5)。
TNFRSF19遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.3629、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.4732であり、両者間でのp値が0.0039(図6)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.8157、カットオフ値が0.6659、このときの感度および特異度は70.6%であった(図6)。
ITGA8遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.6951、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.9218であり、両者間でのp値が0.0059(図7)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7899、カットオフ値が1.2406、このときの感度および特異度は82.4%であった(図7)。
F13A1遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.8896、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.3204であり、両者間でのp値が0.0079(図8)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7262、カットオフ値が1.6786、このときの感度および特異度は57.1%であった(図8)。
SIX1遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.4091、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.0479であり、両者間でのp値が0.0002(図9)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.8403、カットオフ値が0.7333、このときの感度および特異度は71.4%であった(図9)。
HS3ST1遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.4787、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.1852であり、両者間でのp値が0.0053(図10)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7395、カットオフ値が0.5965、このときの感度および特異度は64.7%であった(図10)。
APOE遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.6232、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.2937であり、両者間でのp値が0.0060(図11)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7588、カットオフ値が0.8812、このときの感度および特異度は65.0%であった(図11)。
POLB遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.0590、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.7315であり、両者間でのp値が0.0013(図12)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7927、カットオフ値が0.4014、このときの感度および特異度は66.7%であった(図12)。
PYCR1遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が-0.1441、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.4030であり、両者間でのp値が0.0067(図13)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7563、カットオフ値が0.2005、このときの感度および特異度は64.7%であった(図13)。
F5遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が0.6312、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.3663であり、両者間でのp値が0.0047(図14)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7862、カットオフ値が0.8637、このときの感度および特異度は73.7%であった(図14)。
AMIGO2遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が-0.9457、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が-0.4142であり、両者間でのp値が0.0008(図15)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7906、カットオフ値が-0.7765、このときの感度および特異度は70.0%であった(図15)。
FABP5遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が-0.3241、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.0405であり、両者間でのp値が0.0026(図16)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7759、カットオフ値が0.5436、このときの感度および特異度は70.6%であった(図16)。
CNN1遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が2.8739、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.9824であり、両者間でのp値が0.0034(図17)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7871、カットオフ値が2.5030、このときの感度および特異度は71.4%であった(図17)。
TNS1遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が2.6578、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が2.0129であり、両者間でのp値が0.0055(図18)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7311、カットオフ値が2.3694、このときの感度および特異度は61.9%であった(図18)。
PDE5A遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.9266、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.3417であり、両者間でのp値が0.0090(図19)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7265、カットオフ値が1.6995、このときの感度および特異度は60.0%であった(図19)。
C9orf152遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が2.9980、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が2.2135であり、両者間でのp値が0.0070(図20)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7441、カットオフ値が2.5886、このときの感度および特異度は65.0%であった(図20)。
AFF3遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が2.4342、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.4745であり、両者間でのp値が0.0098(図21)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7585、カットオフ値が1.8730、このときの感度および特異度は68.4%であった(図21)。
HSD17B4遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.2784、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が2.1637であり、両者間でのp値が0.0011(図22)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7731、カットオフ値が1.8091、このときの感度および特異度は66.7%であった(図22)。
DEGS1遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.0523、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.8416であり、両者間でのp値が0.0047(図23)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7675、カットオフ値が1.4345、このときの感度および特異度は64.7%であった(図23)。
PRR16遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が1.7574、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が2.5946であり、両者間でのp値が0.0079(図24)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7675、カットオフ値が1.4345、このときの感度および特異度は64.7%であった(図24)。
MYH11遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が4.0287、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が2.8811であり、両者間でのp値が0.0018(図25)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7731、カットオフ値が3.5933、このときの感度および特異度は70.6%であった(図25)。
ZWINT遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が-2.4935、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が-1.8762であり、両者間でのp値が0.0003(図26)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.8459、カットオフ値が-2.1890、このときの感度および特異度は81.0%であった(図26)。
HMGB2遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が-2.3073、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が-1.8046であり、両者間でのp値が0.0068(図27)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7731、カットオフ値が-2.0894、このときの感度および特異度は76.5%であった(図27)。
MKI67遺伝子については、ホルモン治療感受性群の遺伝子発現レベルの平均値が-2.8720、ホルモン治療抵抗性群の遺伝子発現レベルの平均値が-2.2004であり、両者間でのp値が0.0026(図28)と有意差があることが判明した。さらに、AUCが0.7843、カットオフ値が-2.5322、このときの感度および特異度は71.4%であった(図28)。
【0049】
(実施例4.遺伝子セットを用いたクラスタ分析)
実施例3において得られた28種の遺伝子を含む遺伝子セットの遺伝子発現レベルの測定結果を用いてクラスタ分析を行った。クラスタ分析はExpressionView Pro software(MicroDiagnostic)を用い、ユークリッド距離による群平均法にて行なった。クラスタ分析の結果を図29に記載する。図29に示すように、抽出した28遺伝子の発現プロファイルに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、主としてホルモン治療感受性患者が含まれるクラスタ(図29中のBIO#00947~BIO#00999のクラスタ)と主としてホルモン治療抵抗性患者が含まれるクラスタ(図29中のBIO#00607~BIO#00197のクラスタ)に分類することができた。また図29は、当該二つのクラスタ間における各遺伝子の発現レベル値に基づき作成したROC曲線のAUC面積を示す。
【0050】
(実施例5.遺伝子セットのスコア化によるホルモン治療感受性の判別)
最初に、遺伝子セットに含まれる各遺伝子の遺伝子発現スコアを下記のように算出した。実施例3において測定した遺伝子セットに含まれる各遺伝子の発現レベル値について、ホルモン治療感受性群の発現レベル値の平均値とホルモン治療抵抗性群の発現レベル値の平均値を比較した場合に、ホルモン治療感受性群の平均値よりもホルモン治療抵抗性群の発現レベル値の平均値の方が小さい遺伝子(合計14遺伝子( FHL1遺伝子、LTBP4遺伝子、PLAGL1遺伝子、AXIN2遺伝子、ATP2C2遺伝子、TNFRSF19遺伝子、ITGA8遺伝子、F13A1遺伝子、CNN1遺伝子、TNS1遺伝子、PDE5A遺伝子、C9orf152遺伝子、AFF3遺伝子およびMYH11遺伝子))については、発現レベル値に-1を乗じたものを「遺伝子発現スコア」とし、残りの14遺伝子についてはそれぞれの発現レベル値を「遺伝子発現スコア」とした。さらに検体ごとに、28遺伝子の遺伝子発現スコア値の総和を「検体スコア値(遺伝子セット)」として算出した。
検体スコア値(遺伝子セット)の大きい順に検体を並べなおしたところ、適切な閾値を設定することでホルモン治療感受性患者とホルモン治療抵抗性患者を区別することができることが判明した(図30)。
さらにホルモン治療感受性群の検体スコア値とホルモン治療抵抗性群の検体スコア値を用いて群散布図を作成し比較した。その結果、ホルモン治療感受性群の検体スコア値の平均値が-27.7962、ホルモン治療抵抗性群の検体スコア値の平均値が-7.5300であり、両者間でのp値が1.9054E-08(図31)と有意差があることが判明した。さらに二群間のROC曲線を作成したところAUCが0.9580、カットオフ値が-17.3252、このときの感度および特異度は88.2%であった(図31)。

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