(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004572
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】録音装置及び録音方法
(51)【国際特許分類】
G11B 3/68 20060101AFI20230110BHJP
G11B 3/70 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
G11B3/68 Z
G11B3/70 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106359
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】521283225
【氏名又は名称】山根 淳史
(74)【代理人】
【識別番号】100096699
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿嶋 英實
(72)【発明者】
【氏名】山根 淳史
(57)【要約】
【課題】樹脂製原盤に直接、音溝を刻設する際の帯電防止対策を講じる。
【解決手段】録音装置(1)は、樹脂製原盤(2)に音溝刻設する録音装置であって、音溝刻設前に前記樹脂製原盤(2)に帯電防止剤を塗布する塗布手段(105)を備えたことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製原盤に音溝刻設する録音装置であって、
音溝刻設前に前記樹脂製原盤に帯電防止剤を塗布する塗布手段を備えたことを特徴とする録音装置。
【請求項2】
前記録音装置は、
樹脂製原盤に音溝刻設するカッティングマシン部と、
音溝刻設後の樹脂製原盤を高周波洗浄する高周波洗浄部と、
前記高周波洗浄後の樹脂製原盤に残された洗浄液を吸引するバキューム吸引部と、を具備し、
前記カッティングマシン部は、音溝刻設前に前記樹脂製原盤に帯電防止剤を塗布する塗布手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の録音装置。
【請求項3】
音溝刻設前に樹脂製原盤に帯電防止剤を塗布する帯電防止工程と、
帯電防止剤塗布後の樹脂製原盤に音溝刻設する音溝刻設工程と、
音溝刻設後の樹脂製原盤を高周波洗浄する洗浄工程と、
前記高周波洗浄後の樹脂製原盤に残された洗浄液を除去する洗浄液除去工程と、を含むことを特徴とする録音方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レコード盤に適用する録音装置及び録音方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レコード盤、特に大量生産向けのレコード盤は、アルミニウム等の金属円盤にニトロセルロースを主体としたラッカー剤を塗布した、いわゆるラッカー盤(以下、金属製原盤という。)に音溝を刻設し、この金属製原盤に金属メッキを施して音溝を写し取ったスタンパーを作成し、このスタンパーを用いて樹脂素材をプレスしてレコード盤を作成するという工程を経て製造される。
【0003】
ところで、少量生産向け、たとえば、試聴用のような一品生産のレコード盤を製造する場合には、大量生産向けの工程はコスト的に見合わないことから、上記の金属製原盤(1枚当たり3万円ほど)の代わりに安価な樹脂製原盤(1枚当たり3千円ほど)を使用し、この樹脂製原盤に直接、音溝を刻設してレコード盤を製造することが行われている(特許文献1。以下、関連技術という。)。
【0004】
この関連技術では、板状の塩化ビニル樹脂を心材として、その両面にビニル樹脂を主体としたシートを積層した樹脂製原盤に直接、音溝を刻設してレコード盤を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この関連技術にあっては、樹脂製原盤に音溝を刻設する際に発生する静電気の帯電防止対策がまったく講じられていないため、静電気による不都合(ノイズの発生等)を阻止できないという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、樹脂製原盤に直接、音溝を刻設する際の帯電防止対策を講じた録音装置及び録音方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の録音装置は、樹脂製原盤に音溝刻設する録音装置であって、音溝刻設前に前記樹脂製原盤に帯電防止剤を塗布する塗布手段を備えたことを特徴とする。
または、本発明の録音装置は、好ましくは、樹脂製原盤に音溝刻設するカッティングマシン部と、音溝刻設後の樹脂製原盤を高周波洗浄する高周波洗浄部と、前記高周波洗浄後の樹脂製原盤に残された洗浄液を吸引するバキューム吸引部と、を具備し、前記カッティングマシン部は、音溝刻設前に前記樹脂製原盤に帯電防止剤を塗布する塗布手段を備える。
本発明の録音方法は、音溝刻設前に樹脂製原盤に帯電防止剤を塗布する帯電防止工程と、帯電防止剤塗布後の樹脂製原盤に音溝刻設する音溝刻設工程と、音溝刻設後の樹脂製原盤を高周波洗浄する洗浄工程と、前記高周波洗浄後の樹脂製原盤に残された洗浄液を除去する洗浄液除去工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂製原盤に直接、音溝を刻設する際の帯電防止対策を講じた録音装置及び録音方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】カッティングマシン部100の外観を示す図である。
【
図3】カッティングマシン部100の主たる機能の概念説明図である。
【
図4】カッティングマシン部100の帯電防止機能の説明図である。
【
図6】バキューム吸引部300の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態の概念図であり、録音装置1は、カッティングマシン部100、超音波洗浄部200及びバキューム吸引部300を含む。
【0012】
各部の主たる機能は、カッティングマシン部100はレコード盤2に音溝を刻設し、超音波洗浄部200は音溝刻設後のレコード盤2を超音波洗浄し、バキューム吸引部300は超音波洗浄後のレコード盤2から洗浄液を吸引するものである。
【0013】
カッティングマシン部100は、後述の塗布手段105を備える。
【0014】
ここで、レコード盤2は、冒頭で述べた金属製原盤(ラッカー盤)よりも安価な樹脂製原盤、たとえば、塩化ビニル素材の円盤である。
【0015】
各部の詳細を説明する。
〔カッティングマシン部100〕
図2は、カッティングマシン部100の外観を示す図であり、(a)は外観写真、(b)は写真の説明図である。
この図において、カッティングマシン部100は、キャビネット101、レコード盤2を載置して回転するターンテーブル102、試聴用トーンアーム部103、制御パネル104、塗布手段105及び音溝刻設部106などを備えおり、音溝刻設部106は、さらに音溝刻設用のヘッド部107と、ヘッド駆動機構108と、刻設時の削りカスを吸引するノズル109とを備える。なお、これら以外にも、たとえば、樹脂製原盤の表面温度を40度以上に上昇させる為の昇温手段(一例としてランプ)110、111などを備えていてもよい。
【0016】
カッティングマシン部100の主たる機能は、先に概説したとおり、樹脂素材の円盤(レコード盤2)に音溝を刻設するというものである。
【0017】
図3は、カッティングマシン部100の主たる機能の概念説明図である。この図において、ヘッド駆動機構108は、ヘッド部107に取り付けられた硬質素材(たとえばサファイア)からなる刻設針112の針先をレコード盤2の盤面に所定の圧力Pで押し付ける第1の機能と、この押しつけ動作と並行してヘッド部107をレコード盤2の外周から中心に向かって半径方向Dに駆動する第2の機能と、これらの第1の機能及び第2の機能を実行中に、音源113からの電気信号を増幅器114で増幅してその増幅後の電気信号で刻設針112を振動させる第3の機能とを備え、これらの第1~第3の機能によって概説の主たる機能、すなわち、樹脂素材のレコード盤2に音溝を刻設する。以下、この主たる機能のことを「音溝刻設機能」ということにする。
【0018】
実施形態のカッティングマシン部100は、かかる音溝刻設機能に加え、さらに、音溝刻設時の帯電を防止する機能を備えることに特徴がある。以下、この機能のことを「帯電防止機能」ということにする。
【0019】
図4は、カッティングマシン部100の帯電防止機能の説明図である。この図において、塗布手段105は帯電防止機能を実現するための要素であり、この塗布手段105は、レコード盤2の半径方向に長手を向けた本体115と、この本体115に取り付けられたパッド116とを備え、帯電防止剤を染み込ませたパッド116を、回転駆動されているレコード盤2の盤面に軽く押し付けて使用する。
【0020】
ここで、帯電防止剤は、音溝刻設時の帯電を防止できる性能を有しているものであればよく、たとえば、Miscellaneous社製の製品名「AntistaticWax」を使用してもよい。
【0021】
この帯電防止剤をレコード盤2に塗布してから音溝を刻設すると、音溝刻設時のレコード盤2の帯電と、音溝削りカスの帯電を防止できる。
【0022】
ここで、塗布手段105のパッド116への帯電防止剤の供給と、パッド116のレコード盤2への押し付けは手動で行ってもよいが、機械的に行うことが望ましい。
【0023】
〔超音波洗浄部200〕
図5は、超音波洗浄部200の外観を示す図であり、(a)は外観写真、(b)は写真の説明図である。
この図において、超音波洗浄部200は、レコード盤2の全体が十分に浸る程度の容積を持つバスタブ形状の凹部ケース201と、この凹部ケース201に入れられた洗浄液202と、この洗浄液202を超音波で加振する振動源203とを備えるとともに、洗浄液202に浸されたレコード盤2を保持する保持部材204とを備える。
【0024】
ここで、洗浄液202は、音溝刻設後のレコード盤2を洗浄するためのものであり、たとえば、不純物を含まない水(好ましくは蒸留水や無水エタノールなど)75~80%、エチレングリコール15~20%、メタノール2~5%、ポリオキシアルレンアルキルエーテル機能2~5%の溶液とすることができる。
このような成分の洗浄液202を使用すると、超音波振動に伴って音溝刻設時の削りカスをきれいに洗い流すことができるとともに、音溝刻設前にレコード盤2に塗布した帯電防止剤の残渣も一緒に洗い流すことができる。
【0025】
くわえて、この洗浄液202にも帯電防止の効果があるため、長期にわたってレコード盤2のホコリ付着等を予防することができる。
【0026】
〔バキューム吸引部300〕
図6は、バキューム吸引部300の外観を示す図であり、(a)は外観写真、(b)は写真の説明図である。
この図において、バキューム吸引部300は、不図示の駆動機構によって回転駆動されるターンテーブル301と、このターンテーブル301に載置されたレコード盤2の盤面を非接触でバキューム吸引する吸引ヘッド302とを備え、レコード盤2の盤面に残された洗浄液を除去して乾燥する。
【0027】
この実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(効果1)レコード盤2に金属製原盤よりも安価な樹脂製原盤を使用するので製造コストを抑えることができる。
(効果2)レコード盤2に樹脂製原盤を使用すると音溝刻設時に静電気、すなわち、刻設針112とレコード盤2とのこすれによってレコード盤2それ自体に発生する静電気、刻設時の削りカスに生じる静電気、削りカスの吸引によって生じる静電気など様々発生するが、この実施形態では音溝の刻設に先立って塗布手段105により、レコード盤2に帯電防止剤を塗布するので、かかる静電気による帯電問題を生じない。
(効果3)超音波洗浄部200で削りカスや帯電防止剤の残渣を洗い流す際に使用する洗浄液202にも帯電防止効果を持たせているので、長期にわたってレコード盤2のホコリ付着等を予防することができる。
【0028】
図7は、実施形態における録音方法の工程図である。この図において、工程は、帯電防止工程S1、音溝刻設工程S2、洗浄工程S3及び洗浄液除去工程S4の順に行われる。帯電防止工程S1と音溝刻設工程S2はカッティングマシン部100で行われ、洗浄工程S3は超音波洗浄部200で、また、洗浄液除去工程S4はバキューム吸引部300で行われる。
【0029】
以上の説明ではレコード盤2に塩化ビニル素材の円盤を用いたが、これに限定されない。金属製原盤(ラッカー盤)よりも安価な樹脂製原盤であればよい。
【0030】
塗布手段105のパッド116に塗布する帯電防止剤についてもMiscellaneous社製の製品名「AntistaticWax」に限定されない。音溝刻設時の帯電を防止できる性能を有しているものであればよい。
【0031】
洗浄液202の成分についても前記の例示に限定されない。超音波振動に伴って音溝刻設時の削りカスをきれいに洗い流すことができるとともに、音溝刻設前にレコード盤2に塗布した帯電防止剤の残渣も一緒に洗い流すことができるものであればよい。
【0032】
以下、本発明の特徴を付記する。
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
付記1は、樹脂製原盤に音溝刻設する録音装置であって、
音溝刻設前に前記樹脂製原盤に帯電防止剤を塗布する塗布手段を備えたことを特徴とする録音装置である。
(付記2)
付記2は、前記録音装置は、
樹脂製原盤に音溝刻設するカッティングマシン部と、
音溝刻設後の樹脂製原盤を高周波洗浄する高周波洗浄部と、
前記高周波洗浄後の樹脂製原盤に残された洗浄液を吸引するバキューム吸引部と、を具備し、
前記カッティングマシン部は、音溝刻設前に前記樹脂製原盤に帯電防止剤を塗布する塗布手段を備えたことを特徴とする付記1に記載の録音装置である。
(付記3)
音溝刻設前に樹脂製原盤に帯電防止剤を塗布する帯電防止工程と、
帯電防止剤塗布後の樹脂製原盤に音溝刻設する音溝刻設工程と、
音溝刻設後の樹脂製原盤を高周波洗浄する洗浄工程と、
前記高周波洗浄後の樹脂製原盤に残された洗浄液を除去する洗浄液除去工程と、を含むことを特徴とする録音方法である。
【符号の説明】
【0033】
1 録音装置
100 カッティングマシン部
105 塗布手段
200 超音波洗浄部
300 バキューム吸引部