(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045787
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】判定プログラム、判定方法、および情報処理装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20230327BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20230327BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20230327BHJP
E01C 23/01 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
G01N21/88 J
G01N21/17 F
G06T7/00 650A
E01C23/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154357
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506095696
【氏名又は名称】株式会社荒谷建設コンサルタント
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 明
(72)【発明者】
【氏名】坂元 浩太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 順
(72)【発明者】
【氏名】住田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】林 栄一
(72)【発明者】
【氏名】山田 透
(72)【発明者】
【氏名】稲村 啓志
(72)【発明者】
【氏名】渡部 宗広
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 智之
【テーマコード(参考)】
2D053
2G051
2G059
5L096
【Fターム(参考)】
2D053AA31
2D053FA02
2D053FA03
2G051AA90
2G051AB01
2G051AB07
2G051AB08
2G051AC16
2G051AC21
2G051CA04
2G051CB05
2G051EA14
2G051EA21
2G051EC01
2G051ED04
2G051ED30
2G059AA05
2G059BB20
2G059EE02
2G059FF01
2G059FF08
2G059KK04
2G059MM05
2G059MM20
5L096AA09
5L096BA02
5L096BA18
5L096CA27
5L096DA01
5L096DA03
5L096FA06
5L096FA64
5L096FA66
5L096FA69
5L096GA08
5L096HA07
5L096HA13
(57)【要約】
【課題】画像を用いた異常検知の精度を向上させる。
【解決手段】情報処理装置10は、所定の領域にある法面と路面との位置を計測した計測データ3a,3b,・・・に基づいて、所定の位置から所定の領域を観察したときに法面が占める法面領域5aと路面が占める路面領域5bとを特定する。次に情報処理装置10は、所定の位置から所定の領域を撮影した画像を含む定点観測データ4に基づいて、異常の可能性がある対象物が写っている部分領域を検出する。そして情報処理装置10は、部分領域が、法面領域5aに含まれるのか路面領域5bに含まれるのかに基づいて、所定の領域における異常の発生の有無を判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の領域にある法面と路面との位置を計測した計測データに基づいて、所定の位置から前記所定の領域を観察したときに前記法面が占める法面領域と前記路面が占める路面領域とを特定し、
前記所定の位置から前記所定の領域を撮影した画像を含む定点観測データに基づいて、異常の可能性がある対象物が写っている部分領域を検出し、
前記部分領域が、前記法面領域に含まれるのか前記路面領域に含まれるのかに基づいて、前記所定の領域における異常の発生の有無を判定する、
処理をコンピュータに実行させる判定プログラム。
【請求項2】
前記計測データは、前記所定の領域内の前記法面または前記路面上の計測対象の複数の点それぞれの位置を示す点群データであり、
前記法面領域と前記路面領域との特定では、前記点群データに対して、機械学習による学習済みのモデルを用いたセグメンテーションを行うことで、前記法面領域と前記路面領域とを特定する、
請求項1記載の判定プログラム。
【請求項3】
前記部分領域の検出では、前記定点観測データに示される前記画像に対して、機械学習による学習済みのモデルを用いたセグメンテーションを行うことで、前記画像に写る対象物のカテゴリを特定し、所定のカテゴリに属する物が写っている領域を前記部分領域として検出する、
請求項1または2に記載の判定プログラム。
【請求項4】
前記部分領域の検出では、石が写っている領域を前記部分領域として検出し、
前記所定の領域における異常の発生の有無の判定では、前記部分領域が前記路面領域内にある場合、前記部分領域に落石があると判定する、
請求項3記載の判定プログラム。
【請求項5】
前記部分領域の検出では、亀裂が写っている領域を前記部分領域として検出し、
前記所定の領域における異常の発生の有無の判定では、前記部分領域が前記法面領域内にある場合、前記法面に亀裂があると判定する、
請求項1から4までのいずれかに記載の判定プログラム。
【請求項6】
前記定点観測データには、前記所定の領域を異なる日時に撮影した複数の画像が示されており、
前記部分領域の検出では、前記複数の画像の間の差分がある領域を、前記部分領域として検出する、
請求項1から5までのいずれかに記載の判定プログラム。
【請求項7】
前記部分領域の検出では、前記複数の画像それぞれにおける亀裂が写る領域を前記部分領域として検出し、
前記所定の領域における異常の発生の有無の判定では、前記部分領域が前記法面領域内にある場合、前記法面に亀裂があると判定すると共に、前記亀裂の大きさの進行速度に応じて危険度を決定する、
請求項6記載の判定プログラム。
【請求項8】
前記所定の領域を定期的に通過する車両に搭載されたカメラで異なる日時に撮影された画像を示し、撮影日時を示す日時情報と撮影場所を示す位置情報とが付与された複数の第1の画像データを取得し、前記位置情報に基づいて前記所定の領域を異なる日時に撮影された時系列の複数の第2の画像データを前記複数の第1の画像データから抽出し、抽出した前記複数の第2の画像データを含む前記定点観測データを生成する、
処理を前記コンピュータにさらに実行させる請求項6または7に記載の判定プログラム。
【請求項9】
所定の領域にある法面と路面との位置を計測した計測データに基づいて、所定の位置から前記所定の領域を観察したときに前記法面が占める法面領域と前記路面が占める路面領域とを特定し、
前記所定の位置から前記所定の領域を撮影した画像を含む定点観測データに基づいて、異常の可能性がある対象物が写っている部分領域を検出し、
前記部分領域が、前記法面領域に含まれるのか前記路面領域に含まれるのかに基づいて、前記所定の領域における異常の発生の有無を判定する、
処理をコンピュータが実行する判定方法。
【請求項10】
所定の領域にある法面と路面との位置を計測した計測データに基づいて、所定の位置から前記所定の領域を観察したときに前記法面が占める法面領域と前記路面が占める路面領域とを特定し、前記所定の位置から前記所定の領域を撮影した画像を含む定点観測データに基づいて、異常の可能性がある対象物が写っている部分領域を検出し、前記部分領域が、前記法面領域に含まれるのか前記路面領域に含まれるのかに基づいて、前記所定の領域における異常の発生の有無を判定する処理部、
を有する情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判定プログラム、判定方法、および情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
公共の道路は、安全に通行できるように定期的な異常の有無が点検される。道路の点検では、路面の状態たけではなく、例えば道路脇の法面の状態の点検も行われる。点検において異常もしくは予兆が発見された場合、該当箇所の補修工事が行われる。
【0003】
道路および道路周辺の点検は、例えば人による目視点検である。ただし、目視点検では膨大な量の道路それぞれについて高頻度で行うのは困難である。また目視点検では検査員ごとに判断のぶれが生じやすく、検査の品質が安定しない。
【0004】
そこで、カメラで撮影した画像を用いて点検することが考えられている。例えば、移動体の周囲を撮影するカメラで撮影された画像に基づいて、移動体の走行路または走行路の周囲の建造物に生じた変化の事象を検出する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カメラで撮影した画像に対しては、例えば機械学習技術の1つであるセグメンテーションを行い、画像に写り込んだものの種別を分類することができる。道路周辺を撮影した画像であれば、その画像に写っているものが道路なのか、石なのかなどを、セグメンテーションによって判別することができる。セグメンテーションを行うことで、道路上の落石などを検出することができる。
【0007】
しかし、画像のセグメンテーションだけでは、異常か否かの判別が難しい場合がある。例えば道路脇の法面が石垣であった場合、画像のセグメンテーションでは、石垣として積まれた石それぞれが石であると分類される。すると道路と接する領域に石が存在しても、その石が落石なのか、石垣を構成する石なのかを判別できない。
【0008】
1つの側面では、本件は、画像を用いた異常検知の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの案では、以下の処理をコンピュータに実行させる判定プログラムが提供される。
コンピュータは、所定の領域にある法面と路面との位置を計測した計測データに基づいて、所定の位置から所定の領域を観察したときに法面が占める法面領域と路面が占める路面領域とを特定する。コンピュータは、所定の位置から所定の領域を撮影した画像を含む定点観測データに基づいて、異常の可能性がある対象物が写っている部分領域を検出する。そしてコンピュータは、部分領域が、法面領域に含まれるのか路面領域に含まれるのかに基づいて、所定の領域における異常の発生の有無を判定する。
【発明の効果】
【0010】
1態様によれば、画像を用いた異常検知の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施の形態に係る判定方法の一例を示す図である。
【
図2】道路を点検するためのシステム構成の一例を示す図である。
【
図3】道路検査サーバのハードウェアの一例を示す図である。
【
図4】道路検査サーバの機能を示すブロック図である。
【
図7】道路検査処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】定点観測データの生成方法の一例を示す図である。
【
図11】カテゴリ分類処理の手順の一例を示す図である。
【
図12】石垣が写る画像データのセグメンテーションの一例を示す図である。
【
図13】石垣周辺の点群データのセグメンテーションの一例を示す図である。
【
図14】セグメンテーションの結果を用いた落石検出の一例を示す図である。
【
図15】画像データ内の落石部分の明示処理の一例を示す図である。
【
図16】正対画像への補正処理の一例を示す図である。
【
図17】深度マップ作成処理の一例を示す図である。
【
図18】差分抽出による異常検出の一例を示す図である。
【
図19】亀裂の進行の速さに基づく異常検出の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施の形態について図面を参照して説明する。なお各実施の形態は、矛盾のない範囲で複数の実施の形態を組み合わせて実施することができる。
〔第1の実施の形態〕
まず第1の実施の形態について説明する。第1の実施の形態は、法面と路面とを撮影した画像とLiDAR(Light Detection and Ranging)センサで計測した法面と路面との位置に基づいて、道路周辺の異常を高精度に検出することが可能な異常の判定方法である。
【0013】
図1は、第1の実施の形態に係る判定方法の一例を示す図である。
図1には、判定方法を実現する情報処理装置10が示されている。情報処理装置10は、例えば判定プログラムを実行することにより、以下に示す判定方法を実施することができる。
【0014】
情報処理装置10は、記憶部11と処理部12とを有する。記憶部11は、例えば情報処理装置10が有するメモリまたはストレージ装置である。処理部12は、例えば情報処理装置10が有するプロセッサまたは演算回路である。
【0015】
情報処理装置10は、例えば車両1に搭載されたカメラ1aおよびLiDARセンサ1bから、画像データ2a,2b,・・・と計測データ3a,3b,・・・とを取得する。車両1は、例えば調査対象となる所定の領域を含む道路を定期的に通過する路線バスである。カメラ1aは、車両1が走行中に車外を撮影し、画像データ2a,2b,・・・を生成する。画像データ2a,2b,・・・には、撮影日時を示す日時情報と撮影場所を示す位置情報とが付与される。位置情報は、例えばGPS(Global Positioning System)によって測定された緯度・経度の情報である。なおGPSと準天頂衛星システムとを併用することで、撮影場所を高精度に計測可能である。
【0016】
計測データ3a,3b,・・・は、所定の領域にある法面と路面との位置を計測したデータである。例えばLiDARセンサ1bは、計測対象物にレーザ光を照射し、反射した光に基づいてその計測対象物までの距離と方向を計測する。計測した距離と方向に基づいて、レーザ光が照射された点の3次元の座標が得られる。この座標はLiDARセンサ1bからの相対座標である。LiDARセンサ1bは、周囲の異なる方向にレーザ光を照射することで、計測対象の複数の点の座標を得る。そしてLiDARセンサ1bは、計測した点それぞれの座標を示す点群データを、計測データ3a,3b,・・・として生成する。計測データ3a,3b,・・・には、計測した日時を示す日時情報と、計測場所を示す位置情報とが付与される。計測場所を示す位置情報と点群データに示される座標とに基づいて、計測した点の絶対位置(緯度・経度)を求めることができる。
【0017】
情報処理装置10は、取得した画像データ2a,2b,・・・と計測データ3a,3b,・・・とを記憶部11に格納する。処理部12は、記憶部11に格納された画像データ2a,2b,・・・と計測データ3a,3b,・・・とに基づいて、道路周辺の異常の有無を判定する。
【0018】
例えば処理部12は、計測データ3a,3b,・・・に基づいて、所定の位置から所定の領域を観察したときに法面が占める法面領域5aと路面が占める路面領域5bとを特定する。所定の位置とは、例えば異常の有無の判定に用いる画像(定点観測データ4に含まれる画像)を撮影したときのカメラ1aの位置である。所定の領域とは、例えば異常の有無の判定に用いる画像に写る範囲内の領域である。すなわち処理部12は、異常の有無の判定に用いる画像の撮影時のカメラ1aの位置から、カメラ1aの光軸方向にカメラ1aの画角で観察できる領域から、法面領域5aと路面領域5bとを特定する。
【0019】
法面領域5aと路面領域5bとの特定は、例えば点群データに対するセグメンテーションによって実現することができる。例えば処理部12は、機械学習によって生成された、点群データに基づくセグメンテーション用の学習済みモデルを有する。処理部12は、最新の点群データを学習済みモデルへの入力とすることで、法面領域5aと路面領域5bとを特定する。
【0020】
また処理部12は、所定の位置から所定の領域を撮影した画像を含む定点観測データ4に基づいて、異常の可能性がある対象物が写っている部分領域を検出する。定点観測データ4は、複数の画像データ2a,2b,・・・に基づいて作成される。例えば処理部12は、位置情報に基づいて、所定の領域を異なる日時に撮影した時系列の複数の画像データ(第2の画像データ)を、記憶部11に格納された画像データ2a,2b,・・・(第1の画像データ)から抽出する。そして処理部12は、抽出した複数の第2の画像データを含む定点観測データ4を生成する。
【0021】
定点観測データ4に基づく部分領域の検出により、例えば石6a、土砂6b、亀裂6cなどが写っている領域が、部分領域として検出される。部分領域の検出は、定点観測データ4に示される画像のセグメンテーションによって実現することができる。例えば処理部12は、機械学習によって生成された、画像データに基づくセグメンテーション用の学習済みモデルを有する。処理部12は、最新の画像データを学習済みモデルへの入力とすることで、画像内に写っている物のカテゴリを特定する。この場合、処理部12は、所定のカテゴリ(石6a、土砂6b、亀裂6cなど)に属する物が写っている領域を、部分領域として検出する。
【0022】
処理部12は、定点観測データ4における所定の領域を異なる日時に撮影した複数の画像の間の差分がある領域を、部分領域として検出することもできる。例えば処理部12は、所定の領域を撮影した直近の画像データと、1月前に撮影した画像データとの差分を抽出する。1月以内に落石があった場合、石6aが写る領域が差分として抽出される。また1月以内に法面への土砂6bの堆積があった場合、土砂6bが写る領域が差分として抽出される。
【0023】
そして処理部12は、部分領域が、法面領域5aに含まれるのか路面領域5bに含まれるのかに基づいて、所定の領域における異常の発生の有無を判定する。例えば石6aが写っている領域が部分領域として検出されたものとする。このとき処理部12は、部分領域が路面領域5b内にある場合、部分領域に異常(種別「落石」)があると判定する。また亀裂6cが写っている領域が部分領域として検出されたものとする。このとき処理部12は、部分領域が法面領域5a内にある場合、部分領域に異常(種別「法面の亀裂」)があると判定する。
【0024】
なお処理部12は、複数の画像それぞれにおける亀裂が写る領域を部分領域として検出し、法面に亀裂があると判定したとき、その判定と共に、亀裂の大きさの進行速度に応じて危険度を決定してもよい。例えば処理部12は、亀裂の進行速度が速いほど危険度を高くする。
【0025】
このようにして、異常の可能性がある対象物が写っている部分領域が、法面領域5a内か路面領域5b内かに基づいて、異常の発生の有無を高精度に判定することができる。例えば画像に石が写っている場合であっても、その石が写っている部分領域が法面領域5a内であれば、その石は石垣の一部であると考えられ、異常ではない。他方、その石が写っている部分領域が路面領域5b内であれば、落石の異常があると正しく判定できる。
【0026】
また計測データ3a,3b,・・・として取得した点群データのセグメンテーションにより法面領域5aと路面領域5bとを決定することで、法面領域5aと路面領域5bとを高精度に決定することができる。法面領域5aと路面領域5bとの決定精度が向上することで、異常の判定精度も向上する。
【0027】
さらに画像のセグメンテーションにより画像に写る物のカテゴリを特定し、所定のカテゴリに属する物が写っている領域を部分領域として検出することで、任意のカテゴリの対象物が写っている領域を抽出できる。これにより、落石・亀裂などの検出が容易となる。
【0028】
また異なる日時に撮影した複数の画像の間の差分がある領域を部分領域として検出することで、異常の検知漏れを抑止することができる。例えばガードレールの脱落のように、本来あるべきものが無くなった場合、最新の画像だけでは検知できない。過去の画像との差分を検出することで、ガードレールの脱落のような異常を検知することもできる。また複数の画像間の差分がある領域を部分領域とすることで、法面の亀裂のような、セグメンテーションでは区別しづらい領域についても、部分領域として抽出できる。その結果、異常の検出漏れを抑止できる。
【0029】
異なる日時に撮影した複数の画像の間の差分がある領域を部分領域として検出し、法面に亀裂があると判定した場合、亀裂の大きさの進行速度に応じて危険度を決定することで、法面の亀裂の危険度を正確に求めることができる。
【0030】
また路線バスのような車両1に搭載したカメラ1aで撮影した画像に基づいて異常を検知することで、異常が発生した場合に迅速にそのことを検知することができる。例えばカメラ1aで撮影した画像を示す画像データを、無線通信によってリアルタイムに情報処理装置10に送信することで、路面または法面の異常を迅速に発見し、対処することが可能となる。その結果、道路周辺の安全性を向上させることができる。
【0031】
〔第2の実施の形態〕
次に第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、監視対象の道路を定期的に巡回する車両に搭載したカメラで道路の状況を撮影し、撮影した画像に基づいて道路の異常を早期に発見するシステムである。
【0032】
図2は、道路を点検するためのシステム構成の一例を示す図である。ネットワーク20には、道路検査サーバ100、GIS(Geographic Information System)サーバ200、および気象情報サーバ300が接続されている。またネットワーク20には無線通信の基地局20aが設けられている。
【0033】
道路検査サーバ100は、道路の状態を示す画像などの情報に基づいて道路、法面などの異常を検知するコンピュータである。GISサーバ200は、地理的位置を手がかりに、その位置に関する情報を持ったデータを管理・加工などの処理を行うコンピュータである。気象情報サーバ300は、気象情報を配信するコンピュータである。
【0034】
道路の状態を示す情報の収集には、車両30,40が用いられる。車両30は、路線バス、スクールバス、郵便車両などの、監視対象の道路を高頻度で定期的に巡回する車両である。車両30には、無線によって、基地局20a経由でデータを道路検査サーバ100に送信可能なカメラ31が搭載されている。カメラ31は、車両30が走行中に、道路およびその周辺の画像を撮影し、撮影した画像を道路検査サーバ100に送信する。主に道路の法面を検査する場合、カメラ31は、車両30の進行方向に対して横向き(例えば進行方向から90度ずれた方向)に設置される。
【0035】
車両40は、道路点検の作業者が点検のために使用する車両である。車両40には、無線によって、基地局20a経由でデータを道路検査サーバ100に送信可能なLiDARセンサ41が搭載されている。車両40は、検査対象の道路を走行する。LiDARセンサ41は、車両40が走行中に、道路およびその周辺の物体上の点までの車両40からの距離およびその点の方向を計測する。LiDARセンサ41は、計測した物体上の点ごとに、その点の位置を示す座標を算出し、計測した複数の点それぞれの座標を示す点群データを生成する。LiDARセンサ41は、生成した点群データを、道路検査サーバ100に送信する。主に道路の法面を検査する場合、LiDARセンサ41は、車両40の進行方向に対して横向き(例えば進行方向から90度ずれた方向)に設置される。
【0036】
図3は、道路検査サーバのハードウェアの一例を示す図である。道路検査サーバ100は、プロセッサ101によって装置全体が制御されている。プロセッサ101には、バス109を介してメモリ102と複数の周辺機器が接続されている。プロセッサ101は、マルチプロセッサであってもよい。プロセッサ101は、例えばCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、またはDSP(Digital Signal Processor)である。プロセッサ101がプログラムを実行することで実現する機能の少なくとも一部を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)などの電子回路で実現してもよい。
【0037】
メモリ102は、道路検査サーバ100の主記憶装置として使用される。メモリ102には、プロセッサ101に実行させるOS(Operating System)のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。また、メモリ102には、プロセッサ101による処理に利用する各種データが格納される。メモリ102としては、例えばRAM(Random Access Memory)などの揮発性の半導体記憶装置が使用される。
【0038】
バス109に接続されている周辺機器としては、ストレージ装置103、GPU(Graphics Processing Unit)104、入力インタフェース105、光学ドライブ装置106、機器接続インタフェース107およびネットワークインタフェース108がある。
【0039】
ストレージ装置103は、内蔵した記録媒体に対して、電気的または磁気的にデータの書き込みおよび読み出しを行う。ストレージ装置103は、道路検査サーバ100の補助記憶装置として使用される。ストレージ装置103には、OSのプログラム、アプリケーションプログラム、および各種データが格納される。なお、ストレージ装置103としては、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)を使用することができる。
【0040】
GPU104は画像処理を行う演算装置であり、グラフィックコントローラとも呼ばれる。GPU104には、モニタ21が接続されている。GPU104は、プロセッサ101からの命令に従って、画像をモニタ21の画面に表示させる。モニタ21としては、有機EL(Electro Luminescence)を用いた表示装置や液晶表示装置などがある。
【0041】
入力インタフェース105には、キーボード22とマウス23とが接続されている。入力インタフェース105は、キーボード22やマウス23から送られてくる信号をプロセッサ101に送信する。なお、マウス23は、ポインティングデバイスの一例であり、他のポインティングデバイスを使用することもできる。他のポインティングデバイスとしては、タッチパネル、タブレット、タッチパッド、トラックボールなどがある。
【0042】
光学ドライブ装置106は、レーザ光などを利用して、光ディスク24に記録されたデータの読み取り、または光ディスク24へのデータの書き込みを行う。光ディスク24は、光の反射によって読み取り可能なようにデータが記録された可搬型の記録媒体である。光ディスク24には、DVD(Digital Versatile Disc)、DVD-RAM、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD-R(Recordable)/RW(ReWritable)などがある。
【0043】
機器接続インタフェース107は、道路検査サーバ100に周辺機器を接続するための通信インタフェースである。例えば機器接続インタフェース107には、メモリ装置25やメモリリーダライタ26を接続することができる。メモリ装置25は、機器接続インタフェース107との通信機能を搭載した記録媒体である。メモリリーダライタ26は、メモリカード27へのデータの書き込み、またはメモリカード27からのデータの読み出しを行う装置である。メモリカード27は、カード型の記録媒体である。
【0044】
ネットワークインタフェース108は、ネットワーク20に接続されている。ネットワークインタフェース108は、ネットワーク20を介して、他のコンピュータまたは通信機器との間でデータの送受信を行う。ネットワークインタフェース108は、例えばスイッチやルータなどの有線通信装置にケーブルで接続される有線通信インタフェースである。またネットワークインタフェース108は、基地局やアクセスポイントなどの無線通信装置に電波によって通信接続される無線通信インタフェースであってもよい。
【0045】
道路検査サーバ100は、以上のようなハードウェアによって実現することができる。GISサーバ200および気象情報サーバ300も、道路検査サーバ100と同様のハードウェアによって実現できる。第1の実施の形態に示した情報処理装置10も、
図3に示した道路検査サーバ100と同様のハードウェアにより実現できる。
【0046】
道路検査サーバ100は、例えばコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムを実行することにより、第2の実施の形態の処理機能を実現する。道路検査サーバ100に実行させる処理内容を記述したプログラムは、様々な記録媒体に記録しておくことができる。例えば、道路検査サーバ100に実行させるプログラムをストレージ装置103に格納しておくことができる。プロセッサ101は、ストレージ装置103内のプログラムの少なくとも一部をメモリ102にロードし、プログラムを実行する。また道路検査サーバ100に実行させるプログラムを、光ディスク24、メモリ装置25、メモリカード27などの可搬型記録媒体に記録しておくこともできる。可搬型記録媒体に格納されたプログラムは、例えばプロセッサ101からの制御により、ストレージ装置103にインストールされた後、実行可能となる。またプロセッサ101が、可搬型記録媒体から直接プログラムを読み出して実行することもできる。
【0047】
図2に示すシステムでは、車両30からは、道路の画像が高頻度(例えば1日数回)で道路検査サーバ100に送られる。なお送信される画像には、GPSなどの測位システムによって取得された位置情報が付与されている。また車両40からは、一定の期間ごとに点群データが道路検査サーバ100に送られる。なお送信される点群データには、GPSなどの測位システムによって取得された位置情報が付与されている。道路検査サーバ100は、同じ場所についての画像と点群データとを用いて、道路およびその周辺の異常の有無を判定する。
【0048】
図4は、道路検査サーバの機能を示すブロック図である。道路検査サーバ100は、画像データ受信部110、画像データ記憶部120、点群データ受信部130、点群データ記憶部140、画像前処理部150、セグメンテーション部160、差分検出部170、および可視化部180を有する。
【0049】
画像データ受信部110は、車両30から送られる画像を受信する。例えば車両30は、カメラ31で撮影した画像を示す画像データを送信する画像データ送信部32を有する。例えば画像データ送信部32は、撮影時点での車両30の位置情報や撮影日時を示す日時情報を画像データに付与し、位置情報および日時情報を含む画像データを道路検査サーバ100に送信する。画像データ受信部110は、画像データ送信部32から、位置情報と日時情報を含む画像データを受信する。画像データ受信部110は、受信した画像データを画像データ記憶部120に格納する。
【0050】
画像データ記憶部120は、画像データを記憶する。例えば道路検査サーバ100のメモリ102またはストレージ装置103の記憶領域の一部が、画像データ記憶部120として使用される。
【0051】
点群データ受信部130は、車両40から送られる点群データを受信する。例えば車両40は、LiDARセンサ41が計測した各点の位置を示す点群データを送信する点群データ送信部42を有する。例えば点群データ送信部42は、計測時点での車両40の位置情報や撮影日時を示す日時情報を点群データに付与し、位置情報および日時情報を含む点群データを道路検査サーバ100に送信する。点群データ受信部130は、点群データ送信部42から、位置情報および日時報を含む点群データを受信する。点群データ受信部130は、受信した点群データを点群データ記憶部140に格納する。
【0052】
点群データ記憶部140は、点群データを記憶する。例えば道路検査サーバ100のメモリ102またはストレージ装置103の記憶領域の一部が、点群データ記憶部140として使用される。
【0053】
画像前処理部150は、解析しやすいように画像の前処理を行う。例えば画像前処理部150は、画像の色情報の正規化、深度マップ作成などの処理を行う。また画像前処理部150は、画像の2値化、輪郭抽出などを行うこともできる。画像前処理部150は、前処理後の画像をセグメンテーション部160に送信する。
【0054】
セグメンテーション部160は、AI(Artificial Intelligence)技術によるセグメンテーションを行う。例えばセグメンテーション部160は、画像に写っているものの種別を判別するための学習済みのモデルを有する。モデルは、例えばニューラルネットワークによって表される。セグメンテーション部160は、そのモデルに画像を入力し、モデルに従った演算を行い、出力結果として、画像の領域ごとに、該当領域に写っているものが属するカテゴリを出力する。
【0055】
またセグメンテーション部160は、画像に写っている範囲の点群データに基づくセグメンテーションを行う。例えばセグメンテーション部160は、点群データで表されているものの種別を判別するための学習済みのモデルを有する。モデルは、例えばニューラルネットワークによって表される。セグメンテーション部160は、そのモデルに点群データを入力し、モデルに従った演算を行い、出力結果として、点群データで示される物が法面なのか路面なのかを出力する。
【0056】
セグメンテーション部160は、画像と点群データとのセグメンテーションの結果に基づいて、落石などの問題箇所を検出する。例えばセグメンテーション部160は、道路の上に所定以上のサイズの石が存在する場合、その石は落石であると判断する。
【0057】
差分検出部170は、同じ場所を異なる日時に撮影した複数の画像の差分を検出する。差分検出部170は、画像の差分を検出する際、例えば画像前処理部150によって前処理が行われた画像を用いる。差分検出部170は、異なる日時の画像の差分に基づいて、異常の有無を判定する。例えば差分検出部170は、法面の亀裂が急激に広がっている場合、異常であると判定する。
【0058】
可視化部180は、セグメンテーション部160または差分検出部170が異常を検出した場合に、異常箇所に関する情報を出力する。例えば可視化部180は、異常が検出された箇所の画像と共に、検出された異常の内容を出力する。また可視化部180は、異常が検知された箇所に関する危険度を判定し、危険度を示す情報も出力する。危険度は、例えば堆積している土砂の量、落石のサイズ、亀裂の大きさおよび進行速度などに基づいて決定される。
【0059】
可視化部180は、GISサーバ200から取得可能な情報を利用して危険度を判定することもできる。例えばGISサーバ200は、法面情報DB210と危険度評価DB220とを有している。法面情報DB210には、道路の場所ごとの法面の種別などの情報が格納されている。危険度評価DB220には、道路の場所ごとに、道路または法面の危険度に関する情報が格納されている。GISサーバ200は、気象情報サーバ300から気象情報を取得して、最近の気象情報に基づいて法面の危険度を求め、危険度評価DB220に格納することもできる。例えば気象情報サーバ300は、過去の気象に関する情報(降雨量など)が格納された気象情報DB310を有する。GISサーバ200は、気象情報サーバ300の気象情報DB310から検査対象の道路周辺の気象情報を取得し、該当箇所の危険度に反映する。例えばGISサーバ200は、直近の数日間の総雨量が所定値以上の場所については、道路で異常が検知された場合の危険度を高く設定する。
【0060】
なお、
図4に示した各要素間を接続する線は通信経路の一部を示すものであり、図示した通信経路以外の通信経路も設定可能である。また、
図4に示した各要素の機能は、例えば、その要素に対応するプログラムモジュールをコンピュータに実行させることで実現することができる。
【0061】
道路検査サーバ100は、例えば新たな画像データを受信するごとに、その画像データに写っている場所の道路、法面などに異常があるかないかの判定を行う。その際、道路検査サーバ100は、判定対象の画像データに示される画像だけでなく、その画像の撮影場所周辺の点群データを利用して、異常の有無を判定する。また道路検査サーバ100は、同じ場所の過去の画像を示す画像データとの比較も行い、異常の有無を判定する。撮影場所の点群データは点群データ記憶部140から取得することができ、過去の画像を示す画像データは画像データ記憶部120から取得することができる。
【0062】
図5は、画像データ記憶部の一例を示す図である。画像データ記憶部120には、複数の画像データ121,122,・・・が格納されている。各画像データ121,122,・・・には、画像を撮影した日時と撮影地点の位置座標(緯度、経度)が付与されている。
【0063】
図6は、点群データ記憶部の一例を示す図である。点群データ記憶部140には、複数の点群データ141,142,・・・が格納されている。各点群データ141,142,・・・には、点の位置を計測した日時と計測時のLiDARセンサ41の位置座標(緯度、経度)が付与されている。点群データ141,142,・・・内には位置を計測した複数の点のLiDARセンサ41からの3次元の相対座標が示されている。
【0064】
図5,6に示すように、画像データ121,122,・・・および点群データ141,142,・・・には、日時(日時情報)と位置座標(位置情報)とが含まれる。この位置座標に基づいて、異常の有無の判定対象の画像データの撮影場所周辺の点群データを特定することができる。また位置座標に基づいて、異常の有無の判定対象の画像データと同じ場所で撮影された過去の画像データを特定することができる。
【0065】
次に道路検査サーバ100における道路検査処理の手順について、フローチャートを参照して説明する。
図7は、道路検査処理の手順の一例を示すフローチャートである。以下、
図7に示す処理をステップ番号に沿って説明する。道路検査サーバ100は、例えば道路検査処理を定期的(毎時、毎日など)に実行する。また道路検査サーバ100は、新たな画像データを受信するごとにリアルタイムに道路検査処理を実行することもできる。
【0066】
[ステップS101]画像前処理部150は、未検査の最新の画像データを選択する。例えば画像前処理部150は、前回の道路検査処理以降に受信した画像データのうち、未検査の画像データの1つを選択する。また画像前処理部150は、リアルタイムに道路検査を行う場合、新たな画像データが画像データ記憶部120に格納されると、その画像データを検査対象として選択する。
【0067】
[ステップS102]画像前処理部150は、選択した画像データの同一地点の過去の画像データ、および同一地点の最新の点群データを取得する。例えば画像前処理部150は、選択した画像データの撮影地点位置座標と所定の誤差の範囲内で同じとみなすことができる撮影地点位置座標が付与された過去の画像データを、画像データ記憶部120から取得する。また画像前処理部150は、選択した画像データの撮影地点位置座標と所定の誤差の範囲内で同じとみなすことができる計測地点の位置座標が付与された最新の点群データを、点群データ記憶部140から取得する。
【0068】
[ステップS103]画像前処理部150は、選択した画像データの撮影地点における定点観測データを作成する。例えば画像前処理部150は、該当地点で撮影された画像データを時系列に並べ、定点観測データとする。
【0069】
[ステップS104]画像前処理部150とセグメンテーション部160とが連係し、選択した画像データに対するカテゴリ分類処理を行う。カテゴリ分類処理の詳細は後述する(
図11参照)。
【0070】
[ステップS105]セグメンテーション部160は、カテゴリ分類により異常が検知されたか否かを判断する。例えばセグメンテーション部160は、道路上に所定値以上のサイズの石が存在する場合、異常「落石」があると判断する。セグメンテーション部160は、異常がある場合、処理をステップS109に進める。またセグメンテーション部160は、異常がなければ処理をステップS106に進める。
【0071】
[ステップS106]画像前処理部150は、時系列の画像データに対して、特徴点を強調させる前処理を行う。例えば画像前処理部150は、時系列の画像データの特徴箇所を基準に位置合わせを行う。また画像前処理部150は、時系列の画像データそれぞれに対して、角度補正、深度マップの作成、画像の色情報正規化、2値化、輪郭抽出などの画像処理のうちの1または複数の処理を行い、1画像当たり1または複数の加工後の画像データを生成する。このような前処理により、日照条件、日陰、植物等の影響が低減され、変化分が強調される。
【0072】
[ステップS107]差分検出部170は、定点観測データに基づいて時系列での画像の差分を検知する。例えば差分検出部170は、1月間隔の画像データを抽出し、法面の亀裂(クラック)の1月ごとの進行度合いを検知する。
【0073】
[ステップS108]差分検出部170は、画像の差分に基づいて異常の有無を判断する。差分検出部170は、異常がある場合、処理をステップS109に進める。また差分検出部170は、異常がなければ処理をステップS110に進める。
【0074】
[ステップS109]可視化部180は、検知された異常の内容を示す異常情報を出力する。例えば可視化部180は、亀裂の時系列の変化量、該当地点の降水量、該当地点の警戒区域レベルなどの情報をモニタ21に表示する。
【0075】
[ステップS110]画像前処理部150は、道路検査処理を終了するか否かを判断する。例えば画像前処理部150は、道路検査処理終了を指示する操作が行われた場合、道路検査処理を終了すると判断する。また画像前処理部150は、定期的な道路検査処理において、未検査の画像データがなくなった場合、道路検査処理を終了すると判断する。画像前処理部150は、道路検査処理終了と判断すると、処理を終了する。また画像前処理部150は、道路検査処理を継続すると判断した場合、処理をステップS101に進める。
【0076】
このようにして取得した画像データに基づいて、道路およびその周辺の異常を自動で検知することができる。例えば車両30が路線バスであれば、車両30は毎日同じ道路をほぼ同じ時刻に走行する。車両30に搭載したカメラ31で撮影した画像の画像データをリアルタイムに道路検査サーバ100に送信して道路検査処理を行えば、道路の異常を早期に見つけ出すことができる。
【0077】
図8は、画像データ取得方法の一例を示す図である。
図8では、地
図51上に、路線バスである車両30が巡回する路線バス経路51aが示されている。路線バスである車両30は、路線バス経路51aに沿って、毎日定時に走行する。車両30に搭載されたカメラ31は、走行中に車外を撮影する。そして、撮影した画像を示す画像データが、画像データ送信部32によって道路検査サーバ100に送信される。
【0078】
例えば調査地点51bで撮影された画像の画像データ52には、調査地点51bの位置情報と撮影日時が付与される。その画像データを受信した道路検査サーバ100では、位置情報に基づいて、その画像データ52に調査地点51bの周囲の画像が写っていると認識できる。
【0079】
このような画像データが画像データ記憶部120に蓄積される。画像前処理部150は、画像データ記憶部120に蓄積された画像データに基づいて、特定の調査地点における定点観測データを生成することができる。
【0080】
図9は、定点観測データの生成方法の一例を示す図である。例えば道路検査サーバ100は、7月に、ある地点の画像を示す画像データ53を車両30から受信したものとする。この場合、画像前処理部150は、例えば画像データ53と同じ地点における1ヶ月単位の過去の画像データ54,55・・・を画像データ記憶部120から取得する。例えば、画像データ54は、画像データ53の撮影日の1月前(6月)に撮影された画像の画像データのうち、位置情報が画像データ53に最も近い画像データである。また画像データ55は、画像データ53の撮影日の2月前(5月)に撮影された画像の画像データのうち、位置情報が画像データ53に最も近い画像データである。
【0081】
なお同じ路線を通るバスで撮影された画像であっても、異なる日に撮影された画像は、画面に写る範囲がずれる。そこで画像前処理部150は、例えば画像データ53を基準として、撮影地点位置座標に基づいて他の画像データ54,55,・・・のおおまかな位置合わせを行う。さらに画像前処理部150は、例えば画像データ53と他の画像データ54,55,・・・それぞれとの間で特徴量マッチングを行う。さらに画像前処理部150は、画像内の特徴部分が重なるように、画像データ54,55,・・・それぞれの拡大・縮小、上下左右への位置の移動、回転などの処理を行う。そして画像前処理部150は、加工後の複数の画像61,62,63,・・・を時系列につなぎ合わせることで定点観測データ60を作成する。
【0082】
このように特徴量マッチングによる画像の修正を行うことで、走行時の経路のずれ、天候条件の違い、画角の違いなどを吸収することができる。
検査対象となった画像データに対しては、機械学習により学習済みのセグメンテーション用のモデルを用いて、画像の領域のカテゴリ分類が行われる。カテゴリ分類では、画像領域ごとに、その領域に移っているものが属するカテゴリが判定される。
【0083】
図10は、カテゴリ分類結果の一例を示す図である。例えばセグメンテーション部160は、画像データ52をセグメンテーション用の学習済みモデルへの入力として、画像データ52のセグメンテーションを実行する。セグメンテーション部160は、セグメンテーションの結果として画像の領域ごとのカテゴリを示すカテゴリ情報71を出力する。
【0084】
カテゴリ情報71には、カテゴリとして法面71a,71b、植物71c、路面71d、石71eが示されている。各カテゴリは、カテゴリ情報71を画像データ52に重ねたときに、そのカテゴリの領域と重なる画像データ52内の領域に写っているものの属するカテゴリを示している。
【0085】
セグメンテーション部160は、カテゴリ情報71を解析して、異常の有無を判断する。例えばセグメンテーション部160は、路面71dの上に大きな石71eがある場合、落石が発生していると判断することができる。
【0086】
なお
図10に示したように、画像データ52から生成したカテゴリ情報からだけでも、明らかに路面71dの中程に大きな石71eがある場合には、落石と判断することは可能である。しかし路面71dの端に石があるとき、その石が落石なのか、石垣を構成する石なのかを区別しづらい。そこでセグメンテーション部160は、点群データに基づくセグメンテーションを併用することで、カテゴリ分類による異常検出の精度を向上させる。
【0087】
図11は、カテゴリ分類処理の手順の一例を示す図である。以下、
図11に示す処理をステップ番号に沿って説明する。
[ステップS201]セグメンテーション部160は、画像データのセグメンテーション用の学習済みモデルを用いて、画像データに基づくセグメンテーションを実行する。
【0088】
[ステップS202]セグメンテーション部160は、点群データのセグメンテーション用の学習済みモデルを用いて、LiDARセンサ41から得られた点群データに基づくセグメンテーションを実行する。点群データに基づくセグメンテーションでは、例えば路面と法面とを明確に区別することができる。例えばセグメンテーション部160は、点群データに示される複数の点を包含する平面を生成し、生成した平面が水平に近い(傾斜角度が所定値以下)場合には、その平面のカテゴリを「路面」とする。またセグメンテーション部160は、点群データに示される複数の点を包含する平面を生成し、生成した平面が垂直に近い(傾斜角度が所定値以上)場合には、その平面のカテゴリを「法面」とする。
【0089】
[ステップS203]セグメンテーション部160は、画像データに基づくセグメンテーションで得られたカテゴリ情報と、点群データに基づくセグメンテーションで得られたカテゴリ情報とを合成する。例えばセグメンテーション部160は、画像データに基づくセグメンテーションで得られたカテゴリ情報におけるカテゴリ「石」の領域と、点群データに基づくセグメンテーションで得られたカテゴリ情報におけるカテゴリ「路面」の領域との論理積を計算する。これにより落石の画像が写った領域が抽出される。
【0090】
このように画像データのセグメンテーションだけではなく、点群データに基づくセグメンテーションも行うことで、カテゴリ分類の精度を向上させることができる。例えば法面が石垣であっても、石垣を構成する石と落石とを明確に区別できる。
【0091】
図12は、石垣が写る画像データのセグメンテーションの一例を示す図である。石垣が写る画像データ72に対して、AIにより学習済みのモデルを用いてセグメンテーションを行うと、画像データ72に写る物のカテゴリがカテゴリ情報73に示される。
図12の例では、植物73a、石垣を構成する多数の石73b、路面73c、および路面73c上の石73d,73eが写っていることがカテゴリ情報73に示されている。
【0092】
このときセグメンテーション部160は、明らかに路面73c上にある石73d,73eについては、落石であると判断可能である。しかしセグメンテーション部160は、画像データ72に基づくカテゴリ情報73だけでは、石垣を構成している多数の石73bについて、路面上の落石なのか、あるいは石垣なのかを判別することができない。
【0093】
そこでセグメンテーション部160は、LiDARセンサ41によって取得した点群データに基づいてセグメンテーションを実施する。
図13は、石垣周辺の点群データのセグメンテーションの一例を示す図である。点群データ74に示される点群は、画像データ72と同じ光軸および同じ画角としたときにビューボリューム(表示対象の範囲を示す空間)内に存在する点群である。すなわち画像データ72に写った物の表面の多数の点が点群である。点群データ74には、その点群の各点の位置が示される。点群データ74において、石垣上の点群は、垂直からやや傾いた平面上に存在する。また路面上の点群は、ほぼ水平な平面上に存在する。この点群データ74に対してAIにより学習済みのモデルを用いてセグメンテーションを実施すると、カテゴリ情報75が生成される。カテゴリ情報75には、法面75aと路面75bとが含まれる。
【0094】
セグメンテーション部160は、画像データ72から得られたカテゴリ情報73と点群データ74から得られたカテゴリ情報75とに基づいて、落石を検出する。
図14は、セグメンテーションの結果を用いた落石検出の一例を示す図である。例えばセグメンテーション部160は、画像データ72から得られたカテゴリ情報73を石とそれ以外とで2値化する。
図14の例では、石を「1(白)」、石以外を「0(黒)」とした2値データ76が生成されている。またセグメンテーション部160は、LiDARセンサ41によって取得した点群データ74から得られたカテゴリ情報75を、路面とそれ以外とで2値化する。
図14の例では、路面を「1(白)」、それ以外を「0(黒)」とした2値データ77が生成されている。
【0095】
セグメンテーション部160は、2つの2値データ76,77の画素単位の論理積を採る。すなわちセグメンテーション部160は、2値データ76,77上の同じ位置の画素を比較し、両方とも「1(白)」である場合にのみ「1(白)」のままとし、それ以外を「0(黒)」とした2値データ78を生成する。2値データ78では、落石の部分のみ白で表される。
【0096】
セグメンテーション部160は、論理積によって生成した2値データ78を画像データ72に重ね合わせることで、画像データ72内の落石を明示することができる。
図15は、画像データ内の落石部分の明示処理の一例を示す図である。例えばセグメンテーション部160は、2値データ78の「1(白)」の部分を半透明の強調色(例えば赤)に変換し、画像データ72に合成する。合成後の画像データ79では、落石79a,79bが強調表示される。なお画像データ72と点群データ74とは、光軸と画角とが同じとなっている。これにより
図15に示す合成を容易に行うことができる。
【0097】
カテゴリ分類処理によって異常がないと判断された場合、差分検出部170が、画像前処理部150が画像データを加工することで特徴点が強調された画像を用いて、特徴点の時間変化に基づいて異常の有無を判断する。例えば画像前処理部150は、LiDARセンサ41から取得した点群データに基づいて、法面の傾きを計算し、光軸に正対するように画像データを補正する。
【0098】
図16は、正対画像への補正処理の一例を示す図である。例えば画像データ81に傾斜する法面が写っている場合、補正前の法面は上の方ほど遠方となる。そのため画像データ81に写っている法面の矩形の形状は、上の方が狭くなっている。画像前処理部150は、例えばLiDARセンサ41によって取得された点群データに基づいて、法面の光軸に対する傾斜角度を算出する。そして画像前処理部150は、画像データ82に対して正対画像となるように画像角度補正を行う。これにより法面がカメラの視点に向かって正対した画像データ82が生成される。正対画像に補正することで、画像に写っているものの遠近の違いに基づく画像のゆがみがなくなり、差分検出部170による差分検出の精度を向上させることができる。
【0099】
また画像前処理部150は、画像データに基づいて深度マップを生成することもできる。深度マップは、画像に写っているものの奥行きの違いを表すデータである。
図17は、深度マップ作成処理の一例を示す図である。例えば画像前処理部150は、同じ場所を撮影した時系列の複数の画像データ83a,83b,・・・それぞれに基づいて、深度マップ84a,84b,・・・を作成する。作成された深度マップ84a,84b,・・・を比較することで、例えば深度の異なる部分が明確となる。深度が異なる部分には、落石、土砂などが存在する可能性がある。
【0100】
図18は、差分抽出による異常検出の一例を示す図である。例えば差分検出部170は、6月に撮影された画像データ85と、7月に撮影された同じ場所の画像データ86との差分を抽出する。
図18の例では、画像データ86の一部に堆積した土砂と石が写っている。差分抽出によって生成された差分データ87には土砂87a、石87b、および亀裂87cが示されている。
【0101】
差分データ87と
図13に示したカテゴリ情報75とを比較すると、石87bが路面75b上に存在することが分かる。従って、石87bは落石であり、異常として検知される。他方、土砂87aは法面75a内にある。法面75aの窪みなどに堆積した土砂87aは、その量が所定量を超えていれば異常として検知される。亀裂87cは法面75a内にある。法面75aの亀裂87cは、その大きさが所定量を超えていれば異常として検知される。
【0102】
このように時系列の画像データ85,86の差分を抽出することで、土砂堆積、落石、法面の亀裂などの異常を容易に検出することができる。また差分検出部170は、時系列の画像データの比較により、例えば法面の亀裂の進行の速さを求めることができる。
【0103】
図19は、亀裂の進行の速さに基づく異常検出の一例を示す図である。例えば5月の画像データ91には小さな亀裂91aが写っている。6月の画像データ92には成長した亀裂92aが写っている。7月の画像データ93にはさらに成長した亀裂93aが写っている。
【0104】
差分検出部170は、時系列の画像データ91~93を比較することで、亀裂の進行度合いを認識する。そして差分検出部170は、例えば1月間での亀裂の長さの変化量が所定値を超えていれば、異常ありと判断する。また差分検出部170は、最新の画像データ93における亀裂の長さが所定値を超えた場合にも、異常ありと判定する。
【0105】
可視化部180は、異常が検出されると、異常を検出した画像データに付与された位置情報、検知結果などの情報に基づいて、GISと連動して危険度を求める。そして可視化部180は、GISサーバ200から取得した地図上に異常箇所を示すアイコンを追加する。可視化部180は、異常箇所がクリックされると、異常箇所の時系列データの確認、差分の変化、過去の工事記録などの様々な情報を表示する。
【0106】
図20は、異常表示画面の一例を示す図である。可視化部180は、異常を検出すると、例えば異常検出画面94をモニタ21に表示する。異常検出画面94には、地図表示部94aが設けられている。地図表示部94aには、GISサーバ200から取得した、検査対象の道路周辺の地図が表示される。また地図表示部94aに表された地図において、異常が検知された箇所には、異常の検知を示すアイコン94bが表示されている。
【0107】
アイコン94bが選択されると、可視化部180は、異常内容の詳細を示す詳細表示部94cを表示する。詳細表示部94cには、例えば異常箇所の危険度が表示される。危険度は、可視化部180が異常内容とGISサーバ200から取得した情報とに基づいて決定する。
【0108】
例えば可視化部180は、GISサーバ200から、異常箇所周辺の直近の降水量・土壌雨量指数、地形的な要因による危険度の情報を取得する。降水量と土壌雨量指数は、気象情報サーバ300から提供される情報である。地形的な要因による危険度は、例えばGISサーバ200で管理されているハザードマップから取得できる。
【0109】
そして可視化部180は、画像データなどから取得した異常の度合い(例えば亀裂の深度・幅の進行速度)に、直近の降水量と該当地域の警戒区域レベルを加味して、危険度を決定する。例えば可視化部180は、亀裂の深さが深いほど危険度を高くする。また可視化部180は、亀裂の進行速度が速いほど危険度を高くする。また可視化部180は、降水量が多いほど、または土壌雨量指数が高いほど危険度を高くする。さらに可視化部180は、警戒区域レベルが高いほど危険度を高くする。
【0110】
また詳細表示部94cには、異常を検知した箇所の画像が表示される。法面の亀裂であれば、亀裂の箇所の拡大画像が詳細表示部94cに表示される。
なお亀裂深度は、LiDARセンサ41によって計測することができる。LiDARセンサ41を車両40の進行方向に対して90度横方向を向けることで、LiDARセンサ41は法面までの距離をほぼ正面から計測できる。法面の正面から計測することで、法面に亀裂があった場合、LiDARセンサ41が発したレーザ光が亀裂の奥まで届く。その結果、亀裂の奥までの距離を計測することができる。例えば差分検出部170は、画像データの解析によって亀裂と判断した部分の最も奥までの距離と、その周囲までの距離との差分を、亀裂の深さとする。
【0111】
なお可視化部180は、崩落の危険性が高い箇所、崩落範囲が広い箇所などの優先的に補修するべき箇所を、特徴的な色、サイズにより地図上で視覚的にわかり易く表示してもよい。例えば可視化部180は、危険度が「高」の異常検知箇所のアイコンは赤色で表示し、危険度が「中」の異常検知箇所のアイコンは黄色で表示することで、危険度の違いをアイコンの色で表すことができる。
【0112】
このようにして、路線バスなどの車両30,40に搭載したカメラ31とLiDARセンサ41とで取得した画像データおよび点群データに基づいて、道路周囲の異常を迅速に発見することが可能となる。すなわち路線バスなどの一定の経路を巡回する車両30が異常箇所を通過すると、その異常箇所の画像データが道路検査サーバ100に送られ、異常が即座に検知される。その結果、落石、豪雨による土砂の堆積などを迅速に発見し、障害の除去、または住民の避難などの対処を迅速に行うことができる。
【0113】
〔その他の実施の形態〕
第2の実施の形態では、カメラ31とLiDARセンサ41とを別の車両30,40に搭載しているが、1台の車両にカメラ31とLiDARセンサ41とを搭載してもよい。
【0114】
以上、実施の形態を例示したが、実施の形態で示した各部の構成は同様の機能を有する他のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や工程が付加されてもよい。さらに、前述した実施の形態のうちの任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【符号の説明】
【0115】
1 車両
1a カメラ
1b LiDARセンサ
2a,2b,・・・ 画像データ
3a,3b,・・・ 計測データ
4 定点観測データ
5a 法面領域
5b 路面領域
6a 石
6b 土砂
6c 亀裂
10 情報処理装置
11 記憶部
12 処理部