(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045869
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】PC鋼材の緊張定着装置およびPC鋼材の緊張定着方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20230327BHJP
E04C 5/12 20060101ALI20230327BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
E04G21/12 104C
E04C5/12
E01D1/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154475
(22)【出願日】2021-09-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木原 通太郎
(72)【発明者】
【氏名】井隼 俊也
(72)【発明者】
【氏名】池田 達也
(72)【発明者】
【氏名】桑名 浩二
(72)【発明者】
【氏名】細居 清剛
(72)【発明者】
【氏名】荒木 茂
(72)【発明者】
【氏名】野田 一成
(72)【発明者】
【氏名】松平 拓人
(72)【発明者】
【氏名】平尾 みなみ
【テーマコード(参考)】
2D059
2E164
【Fターム(参考)】
2D059AA05
2D059GG39
2E164AA01
2E164AA31
2E164DA24
(57)【要約】
【課題】狭小作業空間においても容易な作業でPC鋼材を規定の緊張力で緊張させる。
【解決手段】緊張定着装置1000は、緊張用定着具1100を用いてPC鋼材210を緊張する緊張用ジャッキ1400と、固定用定着具1200のウェッジ1210を圧入する圧入用ジャッキ1500とを含み、PC鋼材210の中心軸を含む断面において、緊張用ジャッキ1400のフレーム1420に圧入用ジャッキ1500が内包されるとともに、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410と圧入用ジャッキ1500の圧入用ピストン1510とがPC鋼材210の長手方向において重なり合う(L(1)とL(2)とが重なり合う)部分を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に圧縮力を付与するPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着するPC鋼材の緊張定着装置であって、前記構造物の端面に設けられた支圧板に固定用定着具が当接し、前記PC鋼材の端部側に前記緊張用定着具が設置され、
前記緊張定着装置は、
前記緊張用定着具を用いて前記PC鋼材を緊張する緊張用ジャッキと、
前記固定用定着具のウェッジを圧入する圧入用ジャッキとを含み、
前記PC鋼材の中心軸を含む断面において、前記緊張用ジャッキのフレームに前記圧入用ジャッキが内包されるとともに、前記緊張用ジャッキのピストンと前記圧入用ジャッキのピストンとが前記PC鋼材の長手方向において重なり合う部分を備え、
前記緊張用ジャッキと前記圧入用ジャッキとは、別体で組み合わせられて前記緊張定着装置を形成、または、前記緊張定着装置として一体化されて形成される、PC鋼材の緊張定着装置。
【請求項2】
前記緊張用ジャッキのピストンは、前記固定用定着具の反対側である前記PC鋼材の端部側に伸びるようにシリンダーが配置されている、請求項1に記載のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項3】
前記緊張用ジャッキを作動させて前記PC鋼材を緊張する前と緊張した後とでは、前記支圧板、前記固定用定着具、前記圧入用ジャッキ、および、前記緊張用ジャッキのフレームの位置関係が変化しない、請求項1または請求項2に記載のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項4】
前記固定用定着具は、前記緊張用ジャッキを用いた一次緊張の除荷後に発生したセット量を前記緊張用ジャッキを用いた二次緊張により補正する構成を備え、
前記PC鋼材の緊張定着装置は、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとの間に、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合う状態と当接し合わない状態とを切り替え可能な切替治具をさらに含み、
前記切替治具により前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合い、かつ、前記圧入用ジャッキと前記緊張用ジャッキとが当接し合う状態で前記一次緊張して、
前記一次緊張後に前記切替治具が切り替えられて前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合わない状態で、かつ、前記支圧板に当接した緊張用ジャッキのフレームを反力架台として機能させて前記二次緊張する、請求項1~請求項3のいずれかに記載のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項5】
前記切替治具は、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能な切欠き部を備えるとともに前記PC鋼材の長手方向を含む面から見て略平板形状のシムプレートであって、
前記シムプレートが前記固定用定着具および前記圧入用ジャッキと当接し合い、かつ、前記圧入用ジャッキと前記緊張用ジャッキとが当接し合う状態で前記一次緊張して、
前記一次緊張後に前記シムプレートが取り外されて、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合わない状態で、かつ、前記支圧板に当接した緊張用ジャッキのフレームを反力架台として機能させて前記二次緊張する、請求項4に記載のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項6】
前記緊張用ジャッキは、そのフレームに前記圧入用ジャッキが内包される空間を備えるとともに、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能な切欠き部を備える、請求項1~請求項5のいずれかに記載のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項7】
前記緊張用ジャッキのピストンは、前記PC鋼材を軸として対称に偶数本数が配置される、請求項1~請求項6のいずれかに記載のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項8】
前記緊張用ジャッキは、そのピストンにより押圧される、少なくとも片面が前記PC鋼材の長手方向を含む面から見て略平面状のプレートを含み、前記プレートは、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能な切欠き部を備えるとともに、前記PC鋼材の端部側に穴部を備え、前記穴部は前記片面の反対面または前記片面の反対面に連続的かつ一体的に設けられた凸部に設けられ、前記前記穴部の内面が前記スリーブの内面として機能する、請求項1~請求項7のいずれかに記載のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項9】
構造物に圧縮力を付与するPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着するPC鋼材の緊張定着装置を用いたPC鋼材の緊張定着方法であって、前記構造物の端面に設けられた支圧板に固定用定着具が当接し、前記PC鋼材の端部側に前記緊張用定着具が設置され、
前記PC鋼材の緊張定着装置は、
前記緊張用定着具を用いて前記PC鋼材を緊張する緊張用ジャッキと、
前記固定用定着具のウェッジを圧入する圧入用ジャッキとを含み、
前記PC鋼材の中心軸を含む断面において、前記緊張用ジャッキのフレームに前記圧入用ジャッキが内包されるとともに、前記緊張用ジャッキのピストンと前記圧入用ジャッキのピストンとが前記PC鋼材の長手方向において重なり合う部分を備え、
前記固定用定着具は、前記緊張用ジャッキを用いた一次緊張の除荷後に発生したセット量を前記緊張用ジャッキを用いた二次緊張により補正する構成を備え、
前記PC鋼材の緊張定着装置は、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとの間に、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合う状態と当接し合わない状態とを切り替え可能な切替治具をさらに含み、
前記切替治具により前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合い、かつ、前記圧入用ジャッキと前記緊張用ジャッキとが当接し合い、前記構造物側から、前記支圧板、前記固定用定着具、前記圧入用ジャッキ、前記緊張用ジャッキ、前記緊張用定着具が当接し合う状態になるように準備をする一次緊張準備ステップと、
前記一次緊張準備ステップ後に、前記緊張用ジャッキおよび前記緊張用定着具を用いて前記PC鋼材を緊張する一次緊張ステップと、
前記一次緊張ステップ後に、前記緊張用ジャッキの荷重を開放することなく、前記圧入用ジャッキを用いて、前記固定用定着具の前記ウェッジを圧入する圧入ステップと、
前記圧入ステップ後に、前記緊張用ジャッキの荷重を開放する除荷ステップと、
前記除荷ステップ後に、前記切替治具により前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合わない状態へ切り替える二次緊張準備ステップと、
前記二次緊張準備ステップ後に、前記切替治具が切り替えられたことにより前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合わない状態で、かつ、前記支圧板に当接した緊張用ジャッキのフレームを反力架台として機能させて、前記緊張用ジャッキおよび前記緊張用定着具を用いて前記PC鋼材を緊張する二次緊張ステップと、
前記二次緊張ステップ後に、前記二次緊張により前記PC鋼材と前記固定用定着具とが一体として前記PC鋼材の端部側へ移動されて発生した前記支圧板と前記固定用定着具との間隙であって前記除荷ステップにて発生したセット量を補正するセット量補正ステップとを含む、PC鋼材の緊張定着方法。
【請求項10】
前記一次緊張ステップにおいて、前記支圧板、前記固定用定着具、前記切替治具、前記圧入用ジャッキ、前記緊張用ジャッキ、前記緊張用定着具、前記PC鋼材の順に、前記緊
張用ジャッキによる緊張力を受けて、
前記二次緊張ステップにおいて、前記支圧板、前記緊張用ジャッキ、前記緊張用定着具、前記PC鋼材の順に、前記緊張用ジャッキによる緊張力を受ける、請求項9に記載のPC鋼材の緊張定着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物、鋼構造物、複合構造物、その他の構造物(以下においてこれらを纏めて単に構造物と記載する場合がある)に対して圧縮力を加えるために、PC鋼材に緊張力を導入するためのPC鋼材の緊張定着装置およびPC鋼材の緊張定着方法に関し、特に、狭小作業空間においても容易な作業でPC鋼材を規定の緊張力で緊張させることのできるPC鋼材の緊張定着装置およびPC鋼材の緊張定着方法に関する。なお、本発明において、PC鋼材には、PC鋼線およびPC鋼より線、ならびに、これらのPC鋼線およびPC鋼より線を劣化対策のために被覆材で被覆した(高耐久性エポキシ樹脂で被覆した防錆目的、高密度ポリエチレンで被覆した橋梁用途等の)PC鋼材を含む。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物にPC鋼材により圧縮力を付与したプレストレストコンクリートを、たとえば桁に用いた橋梁(以下においてPC橋またはPC橋梁と記載する場合がある)の経年による劣化が顕在化しており、更新が必要となる場合がある。このような場合において、交通量が多いことや迂回経路が存在しないこと等による重要なPC橋梁においては車線規制等を行ないながら部分的に撤去・更新を進める必要がある。そのような場合、施工スペース(緊張作業空間と同義)が十分に確保できないことが問題となっている。
【0003】
まず、緊張作業空間が狭くなるために、以下に示す、施工スペースに関する問題点(第1の問題点と記載する場合がある)が生じる。
PC橋梁において桁を部分的に撤去して更新する場合、橋梁直角方向に配置されるPC鋼材については、更新対象の桁と更新対象ではない桁とがすぐ隣接するために施工スペースが極めて小さくなる。一方、プレストレスを導入する際に用いられるジャッキは、センターホール型のジャッキ(定着用ジャッキ(圧入用ジャッキやロックオフピストンを備えたジャッキと同義)と緊張用ジャッキとが直列(PC鋼材の軸方向に沿って並ぶ)に位置して一体となったものでPC鋼材の軸方向に長い)が主流であり、PC鋼材の余長部分にセンターホール型のジャッキをセット(差し抜き)する施工スペースが必要となるため、緊張方向の緊張作業空間は比較的広い施工スペースが必須となる。
【0004】
しかしながら、上述したように桁がすぐ隣接するために施工スペースが極めて小さい。このため、PC橋梁において桁を部分的に撤去して更新する場合に、従来の主流であるセンターホール型のジャッキを用いて、橋梁直角方向に配置されるPC鋼材を緊張することは困難である。
次に、桁を分割して部分的に撤去・更新するために、PC鋼材の長さが短いために、以下に示す、セットロスに関する問題点(第2の問題点と記載する場合がある)が生じる。
【0005】
PC鋼材は緊張作業により伸びを確保した状態でコンクリートに定着することにより、コンクリートに圧縮力を作用させている。定着方法の一つとしてくさび型の定着具(ウェッジ(くさび、オスコーン)とスリーブ(くさびのテーパーに対応した内面を有する筒、メスコーン)との組み合わせたものでグリップとも呼ばれる)があるが、PC鋼材を緊張した状態でくさびをスリーブに圧入して定着する機構となっているが、緊張作業後にPC鋼材に負荷している荷重を除荷する際にも、くさびがスリーブに入り込むため、PC鋼材の伸びがわずかに損失する問題(セットロスが発生するという問題)がある。通常の場合、くさびの入り込み量に対してPC鋼材の長さが長い場合にはその伸びが十分に大きいので、その損失が問題とならないことが多いが、PC鋼材の長さが短い場合にはその伸びが小さいのでその影響が無視できなくなる。
【0006】
PC橋梁の桁を分割して部分的に撤去・更新する場合には、PC鋼材の長さが短くなることが多く、PC鋼材の伸びが小さくなるので、最も一般的なくさび式定着具(グリップ)を用いた場合のくさびの入り込み(セットロス)の影響が大きくなりセットロスが無視できないという問題がある。また、再劣化対策としてセットロスが大きい防錆被覆鋼材が用いられることが多くセットロスについてはさらに厳しい条件となる。
【0007】
このセットロスが無視できない場合は、定着後に失った伸びを確保する作業(補正作業
)を行なうことが好ましい。所定の緊張力で一次緊張した後に、チェア(反力架台)をセットして所定の緊張力になるように二次緊張する。定着具は失った伸びの分(セットロスの分だけ)浮いて来て間隙が発生するので、その間隙を間詰めして伸びを確保する。リングナット付き定着具を用いてリングナットを締め込むことにより伸びを確保する方法やシムプレートをその間隙に挿入することにより伸びを確保する方法(セット量補正方法)が一般的に行なわれている。
【0008】
しかしながら、上述したように桁がすぐ隣接するために施工スペースが極めて小さい。このため、PC橋梁において桁を部分的に撤去して更新する場合に、従来の主流であるセンターホール型のジャッキを用いて、さらにセット量補正のための反力架台を設けて、橋梁直角方向に配置されるPC鋼材をセット量を補正して緊張することはさらに困難である。
【0009】
特開2000-110353号公報(特許文献1)は、上述した第1の問題点を解決するストランドの緊張装置を開示する。この特許文献1に開示されたストランドの緊張装置は、ストランドに緊張力を与えつつメスコーンとオスコーンとからなる定着グリップで緊張状態を維持するストランドの緊張工事に使用する緊張装置であって、定着グリップのオスコーンを押圧し且つ中心孔にストランドを挿通し得る定着用センターホールジャッキを中央部に内蔵するとともに、側部に複数の受圧部を備えた定着ジャッキと、中央部に一側面を開放した凹溝部を有し且つ該凹溝部に前記ストランドを挾持する楔形の緊張爪を備えるとともに、側部に複数のシリンダージャッキを内蔵した緊張ジャッキとよりなり、前記定着ジャッキの中心孔にストランドを貫挿し、前記緊張ジャッキの凹溝部内にストランドを受け入れ且つ各シリンダージャッキのピストンロッド先端部をそれぞれ定着ジャッキの受圧部に連係させた状態での緊張方向の装置寸法を抑制してなることを特徴とする(特許文献1の請求項1)。さらに好ましくは、前記定着ジャッキと緊張ジャッキとの対向面側であって、定着ジャッキの各受圧部の端面をセンターホールジャッキを内蔵した中央部の端面よりも後退させることによって形成した中央部の突出部を、前記緊張ジャッキの中央部の端面に形成した凹所内に受け入れとしている(特許文献1の請求項4)。
【0010】
このような構成を備えることにより、緊張方向の装置寸法を抑制してストランドの緊張方向に対する空間が狭い場所でも使用できるようにするとともに、また定着部分と緊張部分を分離し、脱着できるようにすることで、ストランドへの装着が容易であるばかりでなく、取扱いを容易にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に開示されたストランドの緊張装置は、定着具・圧入ジャッキ・緊張ジャッキが直列(PC鋼材の軸方向に沿って)に並び、かつ、緊張ジャッキのピストンは構造物側に伸びるために、第1の問題点を十分に解決することができるものでは到底あり得ない。
さらに、特許文献1には、セット量補正についての記載も示唆もされていないために、第2の問題点を解決することができない。特に、第1の問題点である施工スペースが極めて小さい場合において、セット量を補正して規定の緊張力で緊張させるためにはチェア(反力架台)を設置しなければならず、そのチェア(反力架台)のスペースがさらに必要になる。このため、施工スペースが極めて小さい場合においては、第2の問題点を解決することはさらに困難を極める。
【0013】
本発明は、従来技術の上述の問題点(第1の問題点および第2の問題点)に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、構造物に対して圧縮力を加えるために、PC鋼材に緊張力を導入するためのPC鋼材の緊張定着装置およびPC鋼材の緊張定着方法であって、狭小作業空間においても容易な作業でPC鋼材を規定の緊張力で緊張させることのできるPC鋼材の緊張定着装置およびPC鋼材の緊張定着方法を提供することである
。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係るPC鋼材の緊張定着装置およびPC鋼材の緊張定着方法は以下の技術的手段を講じている。
本発明のある局面に係るPC鋼材の緊張定着装置は、構造物に圧縮力を付与するPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着するPC鋼材の緊張定着装置であって、前記構造物の端面に設けられた支圧板に固定用定着具が当接し、前記PC鋼材の端部側に前記緊張用定着具が設置され、前記緊張定着装置は、前記緊張用定着具を用いて前記PC鋼材を緊張する緊張用ジャッキと、前記固定用定着具のウェッジを圧入する圧入用ジャッキとを含み、前記PC鋼材の中心軸を含む断面において、前記緊張用ジャッキのフレームに前記圧入用ジャッキが内包されるとともに、前記緊張用ジャッキのピストンと前記圧入用ジャッキのピストンとが前記PC鋼材の長手方向において重なり合う部分を備え、前記緊張用ジャッキと前記圧入用ジャッキとは、別体で組み合わせられて前記緊張定着装置を形成、または、前記緊張定着装置として一体化されて形成される。
【0015】
好ましくは、前記緊張用ジャッキのピストンは、前記固定用定着具の反対側である前記PC鋼材の端部側に伸びるようにシリンダーが配置されているように構成することができる。
さらに好ましくは、前記緊張用ジャッキを作動させて前記PC鋼材を緊張する前と緊張した後とでは、前記支圧板、前記固定用定着具、前記圧入用ジャッキ、および、前記緊張用ジャッキのフレームの位置関係が変化しないように構成することができる。
【0016】
さらに好ましくは、前記固定用定着具は、前記緊張用ジャッキを用いた一次緊張の除荷後に発生したセット量を前記緊張用ジャッキを用いた二次緊張により補正する構成を備え、前記PC鋼材の緊張定着装置は、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとの間に、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合う状態と当接し合わない状態とを切り替え可能な切替治具をさらに含み、前記切替治具により前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合い、かつ、前記圧入用ジャッキと前記緊張用ジャッキとが当接し合う状態で前記一次緊張して、前記一次緊張後に前記切替治具が切り替えられて前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合わない状態で、かつ、前記支圧板に当接した緊張用ジャッキのフレームを反力架台として機能させて前記二次緊張するように構成することができる。
【0017】
さらに好ましくは、前記切替治具は、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能な切欠き部を備えるとともに前記PC鋼材の長手方向を含む面から見て略平板形状のシムプレートであって、前記シムプレートが前記固定用定着具および前記圧入用ジャッキと当接し合い、かつ、前記圧入用ジャッキと前記緊張用ジャッキとが当接し合う状態で前記一次緊張して、前記一次緊張後に前記シムプレートが取り外されて、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合わない状態で、かつ、前記支圧板に当接した緊張用ジャッキのフレームを反力架台として機能させて前記二次緊張するように構成することができる。
【0018】
さらに好ましくは、前記緊張用ジャッキは、そのフレームに前記圧入用ジャッキが内包される空間を備えるとともに、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能な切欠き部を備えるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記緊張用ジャッキのピストンは、前記PC鋼材を軸として対称に偶数本数が配置されるように構成することができる。
【0019】
さらに好ましくは、前記緊張用ジャッキは、そのピストンにより押圧される、少なくとも片面が前記PC鋼材の長手方向を含む面から見て略平面状のプレートを含み、前記プレートは、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能な切欠き部を備えるとともに、前記PC鋼材の端部側に穴部を備え、前記穴部は前記片面の反対面または前記片面の反対面に連続的かつ一体的に設けられた凸部に設けられ、前記穴部の内面が前記スリーブの内面として機能するするように構成することができる。
【0020】
また、本発明の別の局面に係るPC鋼材の緊張定着方法は、構造物に圧縮力を付与するPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着するPC鋼材の緊張定着装置を用いたPC鋼材の緊張定着方法であって、前記構造物の端面に設けられた支圧板に固定用定着具が当接し、前記PC鋼材の端部側に前記緊張用定着具が設置され、前記PC鋼材の緊張定着装置は、前記緊張用定着具を用いて前記PC鋼材を緊張する緊張用ジャッキと、前記固定用定着具のウェッジを圧入する圧入用ジャッキとを含み、前記PC鋼材の中心軸を含む断面において、前記緊張用ジャッキのフレームに前記圧入用ジャッキが内包されるとともに、前記緊張用ジャッキのピストンと前記圧入用ジャッキのピストンとが前記PC鋼材の長手方向において重なり合う部分を備え、前記固定用定着具は、前記緊張用ジャッキを用いた一次緊張の除荷後に発生したセット量を前記緊張用ジャッキを用いた二次緊張により補正する構成を備え、前記PC鋼材の緊張定着装置は、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとの間に、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合う状態と当接し合わない状態とを切り替え可能な切替治具をさらに含み、前記切替治具により前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合い、かつ、前記圧入用ジャッキと前記緊張用ジャッキとが当接し合い、前記構造物側から、前記支圧板、前記固定用定着具、前記圧入用ジャッキ、前記緊張用ジャッキが当接し合う状態になるように準備をする一次緊張準備ステップと、前記一次緊張準備ステップ後に、前記緊張用ジャッキおよび前記緊張用定着具を用いて前記PC鋼材を緊張する一次緊張ステップと、前記一次緊張ステップ後に、前記緊張用ジャッキの荷重を開放することなく、前記圧入用ジャッキを用いて、前記固定用定着具の前記ウェッジを圧入する圧入ステップと、前記圧入ステップ後に、前記緊張用ジャッキの荷重を開放する除荷ステップと、前記除荷ステップ後に、前記切替治具により前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合わない状態へ切り替える二次緊張準備ステップと、前記二次緊張準備ステップ後に、前記切替治具が切り替えられたことにより前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合わない状態で、かつ、前記支圧板に当接した緊張用ジャッキのフレームを反力架台として機能させて、前記緊張用ジャッキおよび前記緊張用定着具を用いて前記PC鋼材を緊張する二次緊張ステップと、前記二次緊張ステップ後に、前記二次緊張により前記PC鋼材と前記固定用定着具とが一体として前記PC鋼材の端部側へ移動されて発生した前記支圧板と前記固定用定着具との間隙であって前記除荷ステップにて発生したセット量を補正するセット量補正ステップとを含む。
【0021】
好ましくは、前記一次緊張ステップにおいて、前記支圧板、前記固定用定着具、前記切替治具、前記圧入用ジャッキ、前記緊張用ジャッキ、前記緊張用定着具、前記PC鋼材の順に、前記緊張用ジャッキによる緊張力を受けて、前記二次緊張ステップにおいて、前記支圧板、前記緊張用ジャッキ、前記緊張用定着具、前記PC鋼材の順に、前記緊張用ジャッキによる緊張力を受けるように構成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るPC鋼材の緊張定着装置およびPC鋼材の緊張定着方法によれば、構造物に対して圧縮力を加えるためにPC鋼材に緊張力を導入するにあたり、狭小作業空間においても容易な作業でPC鋼材を規定の緊張力で緊張させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張定着装置およびPC鋼材の緊張定着方法が好ましく適用されるPC橋梁の部分的な撤去・更新作業手順を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張定着装置の側面図である。
【
図4】
図3に示す本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張定着装置を構成する主な部材の側面図である。
【
図5】
図4に示す緊張用ジャッキの上面図、側面図および下面図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張定着装置をPC鋼材にセットする手順を説明するための側面図である。
【
図9】緊張用ジャッキと圧入用ジャッキとのPC鋼材の中心軸を含む断面における位置関係を説明するための図(一部透視)である。
【
図10】本発明の実施の形態に係る緊張定着方法における(1)一次緊張準備ステップを説明するための概要図である。
【
図11】本発明の実施の形態に係る緊張定着方法における(2)一次緊張ステップを説明するための概要図である。
【
図12】本発明の実施の形態に係る緊張定着方法における(3)圧入ステップを説明するための概要図である。
【
図13】本発明の実施の形態に係る緊張定着方法における(4)除荷ステップを説明するための概要図である。
【
図14】本発明の実施の形態に係る緊張定着方法における(5)二次緊張準備ステップを説明するための概要図である。
【
図15】本発明の実施の形態に係る緊張定着方法における(6)二次緊張ステップを説明するための概要図である。
【
図16】本発明の実施の形態に係る緊張定着方法における(7)セット量補正ステップを説明するための概要図である。
【
図17】緊張用ジャッキのピストン配置を説明するための図である。
【
図18】緊張用ジャッキのピストンにより押圧されるプレートがスリーブを兼ねる形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下において、本発明の実施の形態に係る、構造物に圧縮力を付与するPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着するPC鋼材の緊張定着装置、および、そのPC鋼材の緊張定着装置を用いた緊張定着方法について詳しく説明する。
ここで、以下の説明において参照する図については、本発明の容易な理解のために、内部ではなく外形で表現すべき部分を内部を透視するように表現している場合があったり、外形ではなく断面で表現すべき部分を外形で表現している場合があったり、断面ではなく外形で表現すべき部分を断面で表現している場合があったり、断面であってもハッチングを付していない場合があったり、断面でないのにハッチングを付している場合があったり、詳細な構造を省略した場合があったり、詳細な構造を省略または変更したために同じ部材であっても図面間で一致しない場合があったりする。また、破断線を記載していない場合もある。
【0025】
<緊張定着装置の使用が想定される構造物>
まず、本実施の形態に係るPC鋼材の緊張定着装置、および、そのPC鋼材の緊張定着装置を用いた緊張定着方法が好適に使用されることが想定される構造物について、PC橋梁の部分的な撤去・更新作業手順を示す
図1およびその拡大図である
図2を参照して説明する。
本実施の形態に係るPC鋼材の緊張定着装置およびPC鋼材の緊張定着方法が好適に使用されることが想定される構造物は、
図1(A)に示すPC橋梁100の桁200である。このPC橋梁100は、概略的には(本発明と関連の低い構造は省略している)、桁200と舗装面310とを含んで構成され、ここでは桁200がPC鋼材210により圧縮力が付与されている。このようにPC鋼材210はPC橋梁100の直角方向(橋梁の長手方向に垂直な方向)に配置されている。また、このPC橋梁100は、交通量が多いことや迂回経路が存在しないこと等による重要なPC橋梁であって、ここでは交通量が多く片側2車線の構造をこのPC橋梁100は備える。
【0026】
このPC橋梁100を部分的に撤去・更新作業する場合(ここでは撤去・更新する対象は中央の2つの桁200であって他の6つの桁202は対象ではないものとする)、
図1(A)に示す状態から、たとえば、
図1(B)に示すように片側2車線を維持しながら(仮の中央分離帯322を2つ設置して)、
図1(C)に示すように、中央の2つの桁200をPC鋼材210とともに黒塗り矢示の方向へ撤去して、
図1(D)に示すように新しい2つの桁204をPC鋼材214とともに白抜き矢示の方向へ設置(架替)する。
【0027】
図2(A)に示すように、新しい2つの桁204(桁200と同じ構造)にPC鋼材214(PC鋼材210と同じ構造)により圧縮力を付与するために、PC鋼材214を本実施の形態に係る緊張定着装置1000を用いて緊張および定着させる。このときに上述した第1の問題点である施工スペースを
図1(D)および
図2(A)に示す。このように、緊張定着装置1000を用いた施工箇所(PC鋼材214の他端は固定用定着具220が設けられており両引きではなく片側で緊張するため緊張定着装置1000は片側のみ)には隣の桁200が隣接しているために、施工スペースが極めて小さい。さらに、この極めて小さい施工スペースにおいて、PC鋼材214に所定の緊張力を付与するためには、上述した第2の問題点であるセットロス補正することが必要となる。このセットロス補正のためのチェア(反力架台)が設置するスペースがこの施工スペースには不足している。このため、本実施の形態に係る緊張定着装置1000は、以下に説明する特徴的な構造を備えて、さらにこの構造の説明に続けて説明する特徴的な緊張定着方法を実行することができる。
【0028】
<緊張定着装置の構造>
図2(B)、
図3~
図9、
図17および
図18を参照して、本実施の形態に係る緊張定着装置1000の構造について説明する。なお、くさびとウェッジとは同義である。
これらの図に示すように、この緊張定着装置1000は、構造物である桁200に圧縮力を付与するPC鋼材210を、ウェッジ1110とスリーブ1120とから構成される緊張用定着具1100およびウェッジ1210とねじ付きスリーブ1220と(さらにリングナット1230と)から構成される固定用定着具1200を用いて緊張および定着する。緊張用定着具1100および固定用定着具1200は、ともに、ウェッジ内周でPC鋼材210を噛み込ませ、ウェッジ外周のテーパー面とスリーブ内周のテーパー面とで固定して定着する。
【0029】
桁200の端面に設けられた支圧板1300に固定用定着具1200が当接し、PC鋼材210の端部側に緊張用定着具1100が設置されている。この緊張定着装置1000は、緊張用定着具1100を用いてPC鋼材210を緊張する緊張用ジャッキ1400と、固定用定着具1200のウェッジ1210を圧入する圧入用ジャッキ1500とを含み、PC鋼材210の中心軸を含む断面において、緊張用ジャッキ1400のフレーム1420に圧入用ジャッキ1500が内包されるとともに、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410と圧入用ジャッキ1500の圧入用ピストン1510とがPC鋼材210の長手方向において重なり合う部分を備える。これは、
図3等に示す、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410の(略最長の)ストローク長L(1)と圧入用ジャッキ1500の圧入用ピストン1510の(略最長の)ストローク長L(2)とがPC鋼材210の長手方向において重なり合う部分が存在していることで示される。さらに、この重なり合う部分が存在していることは、緊張用ジャッキ1400と圧入用ジャッキ1500とが、並列(横並び、PC鋼材210の軸方向に垂直な方向に沿って並ぶ)に位置することを意味する。
【0030】
なお、緊張用ジャッキ1400と圧入用ジャッキ1500とは、別体で組み合わせられて緊張定着装置1000を形成されていても構わないし、緊張定着装置1000として一体化されて形成されていても構わない。
ここで、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410は、固定用定着具1200の反対側であるPC鋼材210の端部側に伸びるように(
図3の黒塗り矢示で示すように)緊張用ピストン1410が配置されている。
【0031】
このように緊張用ジャッキ1400と圧入用ジャッキ1500とを並列(横並び、PC鋼材210の軸方向に垂直な方向に沿って並ぶ)に位置させること、および/または、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410をPC鋼材210の端部へ伸びるように配置したことにより、特許文献1においては固定用定着具・圧入ジャッキ・緊張ジャッキが直列(PC鋼材の軸方向に沿って並ぶ)に位置することに対して、本実施の形態に係る
緊張定着装置1000においては緊張用ジャッキ1400が(後述するように固定用定着具1200および)圧入用ジャッキ1500と並列(横並び、PC鋼材210の軸方向に垂直な方向に沿って並ぶ)に位置するために(
図3参照)、および/または、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410をPC鋼材210の端部へ伸びるために(
図3参照)、緊張方向(PC鋼材の軸方向)に対して緊張定着装置1000の大きさ(長さ)を小さく(短く)することができる。
【0032】
また、緊張用ジャッキ1400を作動させてPC鋼材210を緊張する前と緊張した後とでは、支圧板1300、固定用定着具1200、圧入用ジャッキ1500、および、緊張用ジャッキ1400のフレーム1420の位置関係が変化しない。より詳しくは、後述する、一次緊張準備ステップ(
図10)、一次緊張ステップ(
図11)および一次緊張後の圧入ステップ(
図12)で、支圧板1300、固定用定着具1200、圧入用ジャッキ1500、および、緊張用ジャッキ1400のフレーム1420の位置関係が変化しない。
【0033】
また、固定用定着具1200は、緊張用ジャッキ1400を用いた一次緊張の除荷後に発生したセット量を(リングナット方式またはシムプレート方式等を用いて(ここではリングナット方式を採用))緊張用ジャッキ1400を用いた二次緊張により補正する構成を備える。
緊張定着装置1000は、固定用定着具1200と圧入用ジャッキ1500との間に、固定用定着具1200と圧入用ジャッキ1500とが当接し合う状態と当接し合わない状態とを切り替え可能な切替治具(具体的には後述するシムプレート1600がその一例である)をさらに含む。
【0034】
この切替治具により固定用定着具1200と圧入用ジャッキ1500とが当接し合い、かつ、圧入用ジャッキ1500と緊張用ジャッキ1400とが当接し合う状態で一次緊張して、一次緊張後に切替治具が切り替えられて固定用定着具1200と圧入用ジャッキ1500とが当接し合わない状態で(すなわち、固定用定着具1200に緊張力が伝達されない状態で)、かつ、支圧板1300に当接した緊張用ジャッキ1400のフレーム1420を反力架台として機能させて、緊張用ジャッキ1400および緊張用定着具1100を用いて二次緊張する。
【0035】
詳しくは、この切替治具は、固定用定着具1200と圧入用ジャッキ1500との間に、PC鋼材210の長手方向に垂直な面から見てPC鋼材210が挿入可能な切欠き部1614を備えるとともにPC鋼材210の長手方向を含む面から見て略平板形状のシムプレート1600がその一例である。
このシムプレート1600は、主に
図7に示すように、側面形状(PC鋼材210の長手方向を含む面から見た形状)が平板形状でPC鋼材210の長手方向と垂直な面から見た形状が中空円形形状の(すなわち中空円筒形状)本体1610に、PC鋼材210を内包する中空部1612と、その中空部1612にPC鋼材210を挿入するための切欠き部1614とを備える。
【0036】
このシムプレート1600が固定用定着具1200および圧入用ジャッキ1500と当接し合い(シムプレート1600が固定用定着具1200と圧入用ジャッキ1500との間に挟まり)、かつ、圧入用ジャッキ1500と緊張用ジャッキ1400とが当接し合う状態で一次緊張して、一次緊張後にシムプレート1600が取り外されて、固定用定着具1200と圧入用ジャッキ1500とが当接し合わない状態で、かつ、支圧板1300に当接した緊張用ジャッキ1400のフレーム1420を反力架台として機能させて、緊張用ジャッキ1400および緊張用定着具1100を用いて二次緊張する。
【0037】
このように構成されているために、このシムプレート1600が緊張定着装置1000にセットされて緊張用ジャッキ1400が作動すると(一次緊張)、シムプレート1600は固定用定着具1200および圧入用ジャッキ1500と当接し合うために、支圧板1300、固定用定着具1200、シムプレート1600、圧入用ジャッキ1500へと緊張力が伝達される。一方、このシムプレート1600が緊張定着装置1000にセットされていないで緊張用ジャッキ1400が作動すると(二次緊張)、シムプレート1600が取り外されているために固定用定着具1200と(緊張用ジャッキ1400と当接する)圧入用ジャッキ1500とは当接し合わないために、固定用定着具1200へ緊張力が伝達されないで、固定用定着具1200とPC鋼材210とが一体としてPC鋼材210の端部側へ移動される。
【0038】
ここで、この一次緊張において、緊張力の伝達される順番(経路)は、支圧板1300、固定用定着具1200、固定用定着具1200と圧入用ジャッキ1500とを当接させている切替治具(シムプレート1600)、圧入用ジャッキ1500、緊張用ジャッキ1400、緊張用定着具1100、PC鋼材210である。
また、この二次緊張において、緊張力の伝達される順番(経路)は、支圧板1300、緊張用ジャッキ1400、緊張用定着具1100、PC鋼材210である。このとき、緊張用ジャッキ1400のフレーム1420が支圧板1300に当接して反力架台(チェア)として機能している。
【0039】
また、緊張用ジャッキ1400は、
図5に示すように、そのフレーム1420に圧入用ジャッキ1500が内包される空間1422を備えるとともに、PC鋼材210の長手方向に垂直な面から見てPC鋼材210が挿入可能な切欠き部1424を備える。
また、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410は、
図17(A)に示すように、緊張用ジャッキ2400のように、PC鋼材210を軸として対称に(ここでは水平方向に)2本、または、
図17(B)に示すように、緊張用ジャッキ3400のように、PC鋼材210を軸として対称に(ここでは水平方向および垂直方向に)4本、配置されることが好ましい。さらに、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410は、PC鋼材210を軸として対称に偶数本数が配置されることが好ましい。
【0040】
また、緊張用ジャッキ1400は、
図3、
図5に示すように、その緊張用ピストン1410により押圧される平面状のプレート1440を含み、このプレート1440は、PC鋼材の長手方向に垂直な面から見てPC鋼材が挿入可能な切欠き部1424を備えるとともに、PC鋼材210の端部側に凹部1442を備え、この凹部1442に緊張用定着具1100のスリーブ1120が嵌合される。
【0041】
さらに、
図18(A)に示すように、緊張用ジャッキ4500として、その緊張用ピストン1410により押圧される、少なくとも片面(ここでは両面とも平面)がPC鋼材210の長手方向を含む面から見て平面状のプレート4540を含み、このプレート4540は、PC鋼材210の長手方向に垂直な面から見てPC鋼材210が挿入可能な切欠き部4424を備えるとともに、PC鋼材210の端部側に穴部4443を備える。この穴部4443は、
図18(A)に示すように片面の反対面4541に設けられ、穴部4443の内面がスリーブの内面として機能する。
【0042】
また、
図18(B)に示すように、緊張用ジャッキ4400として、その緊張用ピストン1410により押圧される、少なくとも片面(ここでは後述する凸部4442を備えるために緊張用ピストン1410側のみが平面)がPC鋼材210の長手方向を含む面から見て略平面状(凸部4442を備えるために略と称する)のプレート4440を含み、このプレート4440は、PC鋼材210の長手方向に垂直な面から見てPC鋼材210が挿入可能な切欠き部4424を備えるとともに、PC鋼材210の端部側に穴部4443を備える。この穴部4443は、
図18(B)に示すように片面の反対面4441に連続的かつ一体的に設けられた略立方体形状の凸部4442に設けられ、穴部4443の内面がスリーブの内面として機能する。
図18(A)および
図18(B)のいずれの場合であっても、緊張用ピストン1410を受けるプレート4440およびプレート4540は、そのプレート自体に穴部4443を備え、その穴部4443の内周に、2つ割りでテーパー面をその外周に備えたウェッジ1110を受けるテーパー面を有する。このため、緊張用ジャッキ1400とそのプレート4440、緊張用定着具1100を一体にすることができる。
【0043】
さらに、詳しく緊張定着装置1000の構造について説明する。
緊張用定着具1100は、
図4、
図8等に示すように、PC鋼材210の長手方向に垂直な面から見て2分割や3分割されたウェッジ1110(このウェッジ1110は2分割
)と、ウェッジ1110のテーパー面1112に対応するテーパー面1122をその内周1124に備えたスリーブ1120とを組み合わせたものであって、ウェッジ内周1114でPC鋼材210を噛み込ませ、ウェッジ外周(テーパー面1112)とスリーブ内周1124のテーパー面1122とで固定して定着する。
【0044】
固定用定着具1200は、
図4、
図8等に示すように、PC鋼材210の長手方向に垂直な面から見て、ウェッジ1210と、ウェッジ1210のテーパー面1212に対応するテーパー面1222をその内周1224に備えたねじ付きスリーブ1220とを組み合わせたものであって、ウェッジ内周1214でPC鋼材210を噛み込ませ、ウェッジ外周(テーパー面1212)とねじ付きスリーブ内周1224のテーパー面1222とで固定して定着する。ここで、この固定用定着具1200は、リングナット方式を採用したセット量補正される定着具であって、ねじ付きスリーブ1220は外周に雄ねじ1226が切られており、この雄ねじ1226はリングナット1230の内周1234に切られた雌ねじ1236と螺合する。穴部1232に治具(てこの原理を利用するため棒状物で構わない)を嵌め込んでリングナット1230を回転することにより、支圧板1300と固定用定着具1200との間に一次緊張の除荷後に発生したセット量(間隙)が、二次緊張を経てゼロになるようにセット量補正を実行することができる。
【0045】
緊張用ジャッキ1400は、主に
図5に示すように、緊張用ピストン1410と、その緊張用ピストン1410(の押圧面1430)により押圧される平面状のプレート1440と、固定用定着具1200とシムプレート1600と圧入用ジャッキ1500とが内包される空間1422を備えるとともに、PC鋼材210の長手方向に垂直な面から見てPC鋼材210が挿入可能な切欠き部1424を備える。そして、この緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410の(略最長の)ストローク長L(1)は、後述するように約70mmである。なお、本実施の形態において説明する長さの絶対値(mm単位)は、PC鋼材の種類や構造物の大きさ等により変化するために限定されるものではなく、一例でしかない。
【0046】
圧入用ジャッキ1500は、主に
図6に示すように、PC鋼材210の挿通孔1512を備えるとともにPC鋼材210の端部とは反対側の固定用定着具1200のウェッジ1210をねじ付きスリーブ1220に圧入する圧入用ピストン1510と、この圧入用ピストン1510を内部に含むフレーム1520とで構成される。さらに、この圧入用ジャッキ1500の圧入用ピストン1510の(略最長の)ストローク長L(2)の位置は、PC鋼材210の長手方向において、上述した緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410の(略最長の)ストローク長L(1)の位置と重なり合う部分が存在している。
すなわち、この緊張定着装置1000において、緊張用ジャッキ1400が(固定用定着具1200および)圧入用ジャッキ1500と並列(横並び、PC鋼材210の軸方向に垂直な方向に沿って並ぶ)に位置する。
【0047】
図3に示すように、この緊張定着装置1000においては、少なくとも、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410の部分(ストローク長L(1))と圧入用ジャッキ1500の圧入用ピストン1510の部分(ストローク長L(2))とが、PC鋼材210の長手方向において重なり合う部分が存在している。そして、このように緊張用ジャッキ1400が圧入用ジャッキ1500と並列(横並び、PC鋼材210の軸方向に垂直な方向に沿って並ぶ)に位置することになり、これに加えて、緊張用ジャッキ1400が固定用定着具1200とも並列(横並び、PC鋼材210の軸方向に垂直な方向に沿って並ぶ)に位置する。すなわち、緊張用ジャッキ1400と固定用定着具1200と圧入用ジャッキ1500とが並列(横並び、PC鋼材210の軸方向に垂直な方向に沿って並ぶ)に位置するために、PC鋼材210の緊張方向(PC鋼材の軸方向)に対して緊張定着装置1000の大きさを小さくすることができる。
【0048】
なお、本発明に係る緊張定着装置1000は、緊張用ジャッキ1400が圧入用ジャッキ1500と並列(横並び、PC鋼材210の軸方向に垂直な方向に沿って並ぶ)に位置すればよく、緊張用ジャッキ1400が固定用定着具1200と並列(横並び、PC鋼材210の軸方向に垂直な方向に沿って並ぶ)に位置することについては任意構成である。
【0049】
<緊張定着方法>
以下において、
図8~
図16を参照して、上述した緊張定着装置1000を使用した本実施の形態に係る緊張定着方法について詳しく説明する。この緊張定着方法は、概略的には、以下に示す7つのステップにより構成される。なお、切替治具は、シムプレート1600であるとして説明するが、シムプレート1600に限定されるものではない。切替治具は、固定用定着具1200と圧入用ジャッキ1500との間で、たとえば、切替治具自体の機能により緊張定着装置1000から取り外すことを必要としないで、または、シムプレート1600のように緊張定着装置1000から取り外すことを必要として、固定用定着具1200および圧入用ジャッキ1500と当接し合う状態と当接し合わない状態とを切り替え可能な治具であれば、シムプレート1600に限定されるものではない。
【0050】
(1)一次緊張準備ステップ
図2(A)の施工スペースに、緊張定着装置1000を設置する。ここで、この緊張定着装置1000は、緊張用ジャッキ1400と圧入用ジャッキ1500とは別体で組み合わせられるものとする。
図8および
図9を参照して、緊張定着装置1000を設置(セットと同義)する手順、すなわち、施工スペースにおいて桁200の端部から露出したPC鋼材210に緊張定着装置1000をセットする手順を説明する。
【0051】
図8(A)に示すように、まず、PC鋼材210の端部からリングナット1230とねじ付きスリーブ1220とウェッジ1210とから構成される固定用定着具1200をPC鋼材210の端部(開放端)からPC鋼材210を挿入するように(
図8(A)の黒塗り矢示で示すように)セットする。このとき、ねじ付きスリーブ1220の外周に設けられた雄ねじ1226とリングナット1230の内周に切られた雌ねじ1236とを螺合させる。また、ウェッジ内周1214でPC鋼材210を噛み込ませるとともに、ウェッジ外周(テーパー面1212)とスリーブ内周1224のテーパー面1222とを当接させる。
【0052】
次に、
図8(B)に示すように、PC鋼材210の端部から圧入用ジャッキ1500をPC鋼材210の端部(開放端)からPC鋼材210を挿通孔1512へ挿入するように(
図8(B)の黒塗り矢示で示すように)セットする。
また、シムプレート1600を、固定用定着具1200と圧入用ジャッキ1500とで挟まれるように(
図8(B)の白抜き矢示で示すように)セットする。このとき、シムプレート1600の切欠き部1614からPC鋼材210を挿入して、中空部1612にPC鋼材210を内包する。なお、圧入用ジャッキ1500の圧入用ピストン1510は、このシムプレート1600を通過してピストン端面1530がウェッジ1210を押圧してウェッジ1210をねじ付きスリーブ1220に圧入する。
【0053】
次に、
図8(C)に示すように、緊張用ジャッキ1400を、固定用定着具1200とシムプレート1600と圧入用ジャッキ1500とを緊張用ジャッキ1400が内包するようにセットする。具体的には、
図8(C)の白抜き矢示に示すように、緊張用ジャッキ1400の空間1422にPC鋼材210に先にセットした固定用定着具1200とシムプレート1600と圧入用ジャッキ1500とが内包され、切欠き部1424からPC鋼材210が挿入されるように、緊張用ジャッキ1400をセットする。
【0054】
また、PC鋼材210の端部からスリーブ1120とウェッジ1110とから構成される緊張用定着具1100をPC鋼材210の端部(開放端)からPC鋼材210を挿入(ウェッジ1110は半割(2分割)タイプであるために挿入するのではなく上下方向からPC鋼材210に被せることも可能)するように(
図8(C)の黒塗り矢示で示すように)セットする。緊張用定着具1100のスリーブ1120は、緊張用ジャッキ1400のプレート1440が備える凹部1442に嵌合される。このとき、ウェッジ内周1114でPC鋼材210を噛み込ませるとともに、ウェッジ外周(テーパー面1112)とスリーブ内周1124のテーパー面1122とを当接させる。なお、このウェッジ1110は半割(2分割)タイプである。
【0055】
このようにして、施工スペースにおいて桁200の端部から露出したPC鋼材210に緊張定着装置1000がセットされる(
図2参照、ただし上下方向が逆)。
このセットされた緊張定着装置1000において、圧入用ジャッキ1500が緊張用ジャッキ1400の空間1422に内包される状態について、
図9(B)に側面図を、
図9(D)にPC鋼材210の開放端部とは逆側の支圧板1300から見た正面図を、
図9(E)に
図9(D)の反対側のPC鋼材210の開放端部から見た正面図をそれぞれ示すとともに、
図9(A)に緊張用ピストン1410の透視図を、
図9(C)に圧入用ジャッキ1500の透視図をそれぞれ示す。
【0056】
このようにして、構造物(桁200)側から、支圧板1300、固定用定着具1200、シムプレート1600、圧入用ジャッキ1500、緊張用ジャッキ1400、緊張用定着具1100が当接し合う状態になるように準備をする。そして、このようにPC鋼材210にセットされた緊張定着装置1000において、緊張用ジャッキ1400を作動させて一次緊張させる場合の緊張力が伝達される順番(経路)は、支圧板1300、固定用定着具1200、シムプレート1600、圧入用ジャッキ1500、緊張用ジャッキ1400、緊張用定着具1100、PC鋼材210となる。
図10に、この(1)一次緊張準備ステップが完了した状態を示す。数値の絶対値は一例ではあるが、点線で示す基準線から構造物(桁200または支圧板1300)の端面までの長さは611mmで、点線で示す基準線からPC鋼材210の端部までの長さは129mmで、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410は10mm出ている。
【0057】
(2)一次緊張ステップ
上述した(1)一次緊張準備ステップの後に、緊張用ジャッキ1400および緊張用定着具1100を用いてPC鋼材210を緊張する。このとき、
図11に示すように、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410は黒塗り矢示で示す方向へストローク70mmで作動して(出幅80mm)、緊張用ジャッキ1400がPC鋼材210を緊張する。そして、点線で示す基準線からPC鋼材210の端部までの長さは129mmから(緊張用ピストン1410のストローク分の)70mm減少して59mm(規定の緊張力が付与)となる。
【0058】
(3)圧入ステップ
上述した(2)一次緊張ステップの後に、緊張用ジャッキ1400の荷重を開放することなく、圧入用ジャッキ1500を用いて、固定用定着具1200のウェッジ1210を圧入する。このとき、
図12に示すように、圧入用ジャッキ1500の圧入用ピストン1510は黒塗り矢示で示す方向へ作動して、圧入用ピストン1510のピストン端面1530がシムプレート1600を通過してウェッジ1210を押圧してウェッジ1210をねじ付きスリーブ1220へ圧入する。このとき、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410の出幅80mm、および、点線で示す基準線からPC鋼材210の端部までの長さ59mm(規定の緊張力が付与)は変化がない。
【0059】
(4)除荷ステップ
上述した(3)圧入ステップの後に、緊張用ジャッキ1400の荷重を開放(除荷)する。このとき、
図13に示すように、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410は黒塗り矢示で示す方向へ戻り、また、圧入用ジャッキ1500の圧入用ピストン1510は黒塗り矢示で示す方向へ戻しておく。この除荷ステップにより、固定用定着具1200のウェッジ1210がねじ付きスリーブ1220に(7mm)入り込み、7mmのセット量が発生して、規定の緊張力がPC鋼材210に付与されていない。これにより、点線で示す基準線からPC鋼材210の端部までの長さは59mmから(セット量分の)7mm増加して66mmとなる。
【0060】
なお、圧入用ジャッキ1500の圧入用ピストン1510を戻すのは、二次緊張時に固定用定着具1200が干渉する可能性があることが主な理由である。また、従たる理由として、シムプレート1600の切り欠きが小さい場合は圧入用ジャッキ1500の圧入用ピストン1510のピストン端面1530がシムプレート1600を通過してウェッジ1210を押圧してウェッジ1210をねじ付きスリーブ1220に圧入しているために、切り欠きが小さいシムプレート1600では、取り外すことができないことが挙げられる。
ここで、シムプレート1600に代わる切替治具が圧入状態の圧入用ピストン1510と干渉しない場合には、このような従たる理由が存在しないために、圧入用ジャッキ1500の圧入用ピストン1510を戻すタイミングに条件は存在しなくなる。
【0061】
(5)二次緊張準備ステップ
上述した(4)除荷ステップの後に、圧入用ジャッキ1500の圧入用ピストン1510が戻されていて二次緊張時に固定用定着具1200が干渉することがない。さらに、シムプレート1600を緊張定着装置1000から(切り欠きが小さなシムプレート1600は圧入用ジャッキ1500の圧入用ピストン1510が戻されているので、切り欠きが大きなシムプレート1600はその切り欠きを用いて)取り外す。このとき、
図14に示すように、シムプレート1600を取り外したことにより、固定用定着具1200と圧入用ジャッキ1500との間に13mm(>セット量7mm)の隙間が発生する。この隙間は、少なくともセット量よりも大きい必要がある。このとき、点線で示す基準線からPC鋼材210の端部までの長さ66mmは変化がない。そして、このようにPC鋼材210にセットされた緊張定着装置1000において、シムプレート1600が取り外されて緊張用ジャッキ1400を作動させて二次緊張させる場合の緊張力が伝達される順番(経路)は、支圧板1300、緊張用ジャッキ1400(フレーム1420が反力架台)、緊張用定着具1100、PC鋼材210である。
【0062】
なお、この二次緊張ステップにおいて、緊張用定着具1100を、PC鋼材210の端部(開放端)から緊張定着装置1000側へ、緊張用定着具1100のスリーブ1120が緊張用ジャッキ1400のプレート1440が備える凹部1442に嵌合されるまでPC鋼材上を(作業者により)移動させておいても、移動させなくて二次緊張時に緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1510が伸びて緊張用定着具1100のスリーブ1120が緊張用ジャッキ1400のプレート1440が備える凹部1442に嵌合される。
【0063】
(6)二次緊張ステップ
上述した(5)二次緊張準備ステップの後に、シムプレート1600が取り外されたことにより固定用定着具1200および圧入用ジャッキ1500と当接し合わない状態で(すなわち13mmの隙間がある状態で)支圧板1300に当接した緊張用ジャッキ1400のフレーム1420を反力架台として機能させて、緊張用ジャッキ1400および緊張用定着具1100を用いてPC鋼材を緊張する。このとき、
図15に示すように、緊張用ジャッキ1400の緊張用ピストン1410は黒塗り矢示で示す方向へ作動して、緊張用ジャッキ1400がPC鋼材210を緊張する。そして、点線で示す基準線からPC鋼材210の端部までの長さは66mmから(セット量分の)7mm減少して59mm(規定の緊張力が付与)となる。
【0064】
このとき、
図15に示すように、この二次緊張により固定用定着具1200と支圧板1300との間にセット量に対応する間隙が発生する。この間隙は、二次緊張ステップにおいて(シムプレート1600が取り外されており)固定用定着具1200に緊張力が伝達されないためにPC鋼材210と固定用定着具1200とが一体としてPC鋼材210の端部側へ移動されて発生した支圧板1300と固定用定着具1200との間隙であって、除荷ステップにて発生したセット量7mmに対応する間隙である。
【0065】
(7)セット量補正ステップ
上述した(6)二次緊張ステップの後に、二次緊張により発生した支圧板1300と固定用定着具1200との間隙であって除荷ステップにて発生したセット量に対応する間隙を、リングナット方式(またはシムプレート方式)により補正する。
このとき、
図16に示すように、固定用定着具1200のリングナット1230を回転させて固定用定着具1200と支圧板1300とを当接させて、二次緊張で発生したセット量7mmの間隙をゼロに補正する。点線で示す基準線からPC鋼材210の端部までの長さは59mm(規定の緊張力が付与)である。
その後、緊張用ジャッキ1400の荷重を開放(除荷)して、固定用定着具1200以外の緊張定着装置1000をPC鋼材210から取り外す。これにより、PC鋼材の緊張定着方法が完了して、PC鋼材210には規定の緊張力が付与されて、構造物である桁2
00に規定の圧縮力が付与される。
【0066】
以上のようにして、本実施の形態に係る緊張定着装置および/または緊張定着方法によると、構造物に対して圧縮力を加えるためにPC鋼材に緊張力を導入するにあたり、狭小作業空間においても容易な作業でPC鋼材を規定の緊張力で緊張させることができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、構造物(PC橋梁等)に対して圧縮力を加えるために、PC鋼材に緊張力を導入する緊張定着装置および/または緊張定着方法に好ましく、狭小作業空間においても容易な作業でPC鋼材を規定の緊張力で緊張させることができる点で特に好ましい。
【符号の説明】
【0068】
1000 緊張定着装置
1100 緊張用定着具
1200 固定用定着具
1300 支圧板
1400 緊張用ジャッキ
1500 圧入用ジャッキ
1600 シムプレート(切替治具)
【手続補正書】
【提出日】2022-09-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に圧縮力を付与するPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着するPC鋼材の緊張定着装置であって、前記構造物の端面に設けられた支圧板に固定用定着具が当接し、前記PC鋼材の端部側に前記緊張用定着具が設置され、
前記緊張定着装置は、
前記緊張用定着具を用いて前記PC鋼材を緊張する緊張用ジャッキと、
前記固定用定着具のウェッジを圧入する圧入用ジャッキとを含み、
前記PC鋼材の中心軸を含む断面において、前記緊張用ジャッキのフレームに前記圧入用ジャッキが内包されるとともに、前記緊張用ジャッキのピストンと前記圧入用ジャッキのピストンとが前記PC鋼材の長手方向において重なり合う部分を備え、
前記緊張用ジャッキと前記圧入用ジャッキとは、別体で組み合わせられて前記緊張定着装置を形成、または、前記緊張定着装置として一体化されて形成され、
前記固定用定着具は、前記緊張用ジャッキを用いた一次緊張の除荷後に発生したセット量を前記緊張用ジャッキを用いた二次緊張により補正する構成を備え、
前記PC鋼材の緊張定着装置は、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとの間に、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合う状態と当接し合わない状態とを切り替え可能な切替治具をさらに含み、
前記切替治具により前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合い、かつ、前記圧入用ジャッキと前記緊張用ジャッキとが当接し合う状態で前記一次緊張して、
前記一次緊張後に前記切替治具が切り替えられて前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合わない状態で、かつ、前記支圧板に当接した緊張用ジャッキのフレームを反力架台として機能させて前記二次緊張する、PC鋼材の緊張定着装置。
【請求項2】
前記切替治具は、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能な切欠き部を備えるとともに前記PC鋼材の長手方向を含む面から見て略平板形状のシムプレートであって、
前記シムプレートが前記固定用定着具および前記圧入用ジャッキと当接し合い、かつ、前記圧入用ジャッキと前記緊張用ジャッキとが当接し合う状態で前記一次緊張して、
前記一次緊張後に前記シムプレートが取り外されて、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合わない状態で、かつ、前記支圧板に当接した緊張用ジャッキのフレームを反力架台として機能させて前記二次緊張する、請求項1に記載のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項3】
前記緊張用ジャッキのピストンは、前記固定用定着具の反対側である前記PC鋼材の端部側に伸びるようにピストンが配置されている、請求項1または請求項2に記載のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項4】
前記緊張用ジャッキを作動させて前記PC鋼材を緊張する前と緊張した後とでは、前記支圧板、前記固定用定着具、前記圧入用ジャッキ、および、前記緊張用ジャッキのフレームの位置関係が変化しない、請求項1~請求項3のいずれかに記載のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項5】
前記緊張用ジャッキは、そのフレームに前記圧入用ジャッキが内包される空間を備えるとともに、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能な切欠き部を備える、請求項1~請求項4のいずれかに記載のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項6】
前記緊張用ジャッキのピストンは、前記PC鋼材を軸として対称に偶数本数が配置される、請求項1~請求項5のいずれかに記載のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項7】
前記緊張用ジャッキは、そのピストンにより押圧される、少なくとも片面が前記PC鋼材の長手方向を含む面から見て略平面状のプレートを含み、前記プレートは、前記PC鋼材の長手方向に垂直な面から見て前記PC鋼材が挿入可能な切欠き部を備えるとともに、前記PC鋼材の端部側に穴部を備え、前記穴部は前記片面の反対面または前記片面の反対面に連続的かつ一体的に設けられた凸部に設けられ、前記穴部の内面が前記スリーブの内面として機能する、請求項1~請求項6のいずれかに記載のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項8】
構造物に圧縮力を付与するPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着するPC鋼材の緊張定着装置を用いたPC鋼材の緊張定着方法であって、前記構造物の端面に設けられた支圧板に固定用定着具が当接し、前記PC鋼材の端部側に前記緊張用定着具が設置され、
前記PC鋼材の緊張定着装置は、
前記緊張用定着具を用いて前記PC鋼材を緊張する緊張用ジャッキと、
前記固定用定着具のウェッジを圧入する圧入用ジャッキとを含み、
前記PC鋼材の中心軸を含む断面において、前記緊張用ジャッキのフレームに前記圧入用ジャッキが内包されるとともに、前記緊張用ジャッキのピストンと前記圧入用ジャッキのピストンとが前記PC鋼材の長手方向において重なり合う部分を備え、
前記固定用定着具は、前記緊張用ジャッキを用いた一次緊張の除荷後に発生したセット量を前記緊張用ジャッキを用いた二次緊張により補正する構成を備え、
前記PC鋼材の緊張定着装置は、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとの間に、前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合う状態と当接し合わない状態とを切り替え可能な切替治具をさらに含み、
前記切替治具により前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合い、かつ、前記圧入用ジャッキと前記緊張用ジャッキとが当接し合い、前記構造物側から、前記支圧板、前記固定用定着具、前記圧入用ジャッキ、前記緊張用ジャッキ、前記緊張用定着具が当接し合う状態になるように準備をする一次緊張準備ステップと、
前記一次緊張準備ステップ後に、前記緊張用ジャッキおよび前記緊張用定着具を用いて前記PC鋼材を緊張する一次緊張ステップと、
前記一次緊張ステップ後に、前記緊張用ジャッキの荷重を開放することなく、前記圧入用ジャッキを用いて、前記固定用定着具の前記ウェッジを圧入する圧入ステップと、
前記圧入ステップ後に、前記緊張用ジャッキの荷重を開放する除荷ステップと、
前記除荷ステップ後に、前記切替治具により前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合わない状態へ切り替える二次緊張準備ステップと、
前記二次緊張準備ステップ後に、前記切替治具が切り替えられたことにより前記固定用定着具と前記圧入用ジャッキとが当接し合わない状態で、かつ、前記支圧板に当接した緊張用ジャッキのフレームを反力架台として機能させて、前記緊張用ジャッキおよび前記緊張用定着具を用いて前記PC鋼材を緊張する二次緊張ステップと、
前記二次緊張ステップ後に、前記二次緊張により前記PC鋼材と前記固定用定着具とが一体として前記PC鋼材の端部側へ移動されて発生した前記支圧板と前記固定用定着具との間隙であって前記除荷ステップにて発生したセット量を補正するセット量補正ステップとを含む、PC鋼材の緊張定着方法。
【請求項9】
前記一次緊張ステップにおいて、前記支圧板、前記固定用定着具、前記切替治具、前記圧入用ジャッキ、前記緊張用ジャッキ、前記緊張用定着具、前記PC鋼材の順に、前記緊張用ジャッキによる緊張力を受けて、
前記二次緊張ステップにおいて、前記支圧板、前記緊張用ジャッキ、前記緊張用定着具、前記PC鋼材の順に、前記緊張用ジャッキによる緊張力を受ける、請求項8に記載のPC鋼材の緊張定着方法。