(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046066
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】合成繊維布帛
(51)【国際特許分類】
D06M 15/507 20060101AFI20230327BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20230327BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20230327BHJP
D06M 15/65 20060101ALI20230327BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20230327BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
D06M15/507
D06M13/256
D06M15/643
D06M15/65
D06M15/564
D06N3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154760
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000180058
【氏名又は名称】山陽色素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 朋子
(72)【発明者】
【氏名】田中 泉
(72)【発明者】
【氏名】村岡 明治
【テーマコード(参考)】
4F055
4L033
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA02
4F055AA21
4F055BA02
4F055CA15
4F055CA16
4F055DA07
4F055EA03
4F055EA04
4F055EA11
4F055EA12
4F055EA14
4F055EA21
4F055EA22
4F055EA23
4F055EA25
4F055EA27
4F055EA28
4F055EA30
4F055EA31
4F055FA05
4F055FA15
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4F055FA24
4F055FA27
4F055FA39
4F055GA03
4F055HA03
4F055HA04
4F055HA11
4F055HA22
4L033AA04
4L033AA07
4L033AB04
4L033AB06
4L033AC08
4L033AC15
4L033BA28
4L033CA45
4L033CA50
4L033CA58
4L033CA61
4L033DA00
(57)【要約】
【課題】耐光性、摩擦堅牢度に優れ、高い発色性を有し、風合いも良好な、顔料着色された合繊繊維布帛の提供。
【解決手段】合成繊維で構成された合成繊維布帛であって、該合成繊維に、
ポリオレフィン系又はポリエステル系のアニオン系高分子;
カチオン性分散剤を含有する顔料;
芳香族スルホン酸縮合物よりなるアニオン性の固着剤;並びに
ジメチル変性、エポキシ変性及びカルボキシル変性の内のいずれかから選択されるノニオン性の又はカチオン性の変性シリコーン剤;
が付着している合成繊維布帛。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維で構成された合成繊維布帛であって、該合成繊維に、
ポリオレフィン系又はポリエステル系のアニオン系高分子;
カチオン性分散剤を含有する顔料;
芳香族スルホン酸縮合物よりなるアニオン性の固着剤;並びに
ジメチル変性、エポキシ変性及びカルボキシル変性の内のいずれかから選択されるノニオン性の又はカチオン性の変性シリコーン剤;
が付着している合成繊維布帛。
【請求項2】
前記変性シリコーン剤がエポキシ構造を有する、請求項1に記載の合成繊維布帛。
【請求項3】
JIS-L-0843:2006記載のe)第5露光法に準拠し、キセノンアーク照射機を使用、ブラックパネル温度63℃で実施した耐光性評価において、100MJの照射において4級以上である、請求項1又は2に記載の合成繊維布帛。
【請求項4】
JIS-L-0849記載の摩擦堅牢度評価において、乾摩擦2.5級以上、湿摩擦2.5級以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の合成繊維布帛。
【請求項5】
前記合成繊維に高分子弾性体がさらに付着している、請求項1~4のいずれか1項に記載の合繊繊維布帛。
【請求項6】
前記高分子弾性体がポリウレタンである、請求項5に記載の合成繊維布帛。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の合成繊維布帛を含む人工皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維布帛に関する
【背景技術】
【0002】
近年、衣料用素材をはじめとして家具用途や自動車シート材など、人が直接触れる用途において、その風合いの良さから細繊度繊維からなる布帛が使用されることが多くなっている。繊維素材としては様々なものが使用されているが、特に耐摩耗性や水粗い洗濯が可能などのイージーケア性を兼ね備えている点で合成繊維、特にポリエステルの細繊度繊維を使用した布帛が多く使用されている。
細繊度繊維を使用する場合、高い発色性を得るために、通常の繊維よりも多量の染料を吸尽させる必要がある一方で、堅牢度が低下する懸念がある。特に染料の分解、昇華などが影響する耐光堅牢度は繊度が小さくなるほど悪化する傾向にある。一般に自動車用シート、アウトドア用途等では、高価な高耐光性染料を使用することで耐光性を向上させているが、細繊度繊維の場合は、染料濃度を上げる必要があり、コスト的にデメリットになる場合が多く、また、耐光性も不十分であることが多かった。更に、カーシート等で使用される人工皮革においては、布帛中に含まれる高分子弾性体により、耐光性を含めた堅牢度がより低下しやすいなどの問題があった。
【0003】
耐光性、その他の堅牢度の問題を解決するために、染料ではなく顔料による着色技術が開発されている。また、染料を用いた浸染染色法よりも使用水量、排液等に優れるなど、環境負荷低減の観点から、顔料を用いた着色技術は昨今検討されることが増えてきている。
【0004】
顔料による着色技術の1つとして、以下の特許文献1には、繊維形成の際に予め原料樹脂に顔料を混錬する方法が挙げられている。しかしながら、細繊度繊維の場合には、顔料の粒形が繊維径に比べて充分に小さくない限りは、紡糸性及び繊維物性に悪影響を及ぼすため、適用できる顔料の範囲がカーボンブラックなどごく一部に限定され、そのためカラーバリエーションが限られたものとなるという問題があった。
また、樹脂液に顔料を分散させ、繊維表面に固定化するなどの方法も採られているが、樹脂による風合い硬化のため、繊維の風合いを損ねるだけでなく、表面の硬度化により耐摩耗性が劣るといった問題があった。また、プリントやインクジェットにより生地を着色する方法も採られているが、生地への顔料の浸透性の低さから、摩耗すると無着色部分が露呈し、色変化が大きいといった問題もあった。
【0005】
また、以下の特許文献2には、カチオン性水性顔料分散体を染色と同様の方法で繊維に着色させる方法が提案されている。樹脂による固定がないことや、揉布効果により風合いの低下はないものの、顔料の場合、染料と異なり繊維表面に吸着している割合が多いため、特に摩擦堅牢度に劣るという問題があった。
【0006】
さらに、以下の特許文献3には、極細繊維と高分子弾性体からなるシートの立毛部分を吸尽着色タイプの水性顔料で着色し、さらにその上に低分子量ポリウレタン及びシリコーン樹脂からなる配合物を付与し、耐光性を上げたシートが報告されている。しかしながら、繊維と顔料の結合がイオン結合のみであるため、合成繊維への着色力が弱いものであり、摩耗などによる顔料の脱落が大きく、堅牢度的に不十分なものであった。
【0007】
また、以下の特許文献4には、合成繊維で構成された布帛に、カチオン性を有する黒色の水性顔料を用い着色した色むらの少ない布帛が報告されている。特許文献4では、堅牢度を向上させるためにポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリル酸エステルなどのバインダーの使用が推奨されている。しかしながら、バインダーを使用することで風合いの硬化を招いたり、摩擦堅牢度や、摩耗性に劣るなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-331782号公報
【特許文献2】特開2007-16368号公報
【特許文献3】特開2004-315986号公報
【特許文献4】特開2007-239162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記した従来技術に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、耐光性、摩擦堅牢度に優れ、高い発色性を有し、風合いも良好な、顔料着色された合繊繊維布帛を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、以下の特徴を有する合成繊維布帛であれば該課題を解決しうることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
[1]合成繊維で構成された合成繊維布帛であって、該合成繊維に、
ポリオレフィン系又はポリエステル系のアニオン系高分子;
カチオン性分散剤を含有する顔料;
芳香族スルホン酸縮合物よりなるアニオン性の固着剤;並びに
ジメチル変性、エポキシ変性及びカルボキシル変性の内のいずれかから選択されるノニオン性の又はカチオン性の変性シリコーン剤;
が付着している合成繊維布帛。
[2]前記変性シリコーン剤がエポキシ構造を有する、前記[1]に記載の合成繊維布帛。
[3]JIS-L-0843:2006記載のe)第5露光法に準拠し、キセノンアーク照射機を使用、ブラックパネル温度63℃で実施した耐光性評価において、100MJの照射において4級以上である、前記尾[1]又は[2]に記載の合成繊維布帛。
[4]JIS-L-0849記載の摩擦堅牢度評価において、乾摩擦2.5級以上、湿摩擦2.5級以上である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の合成繊維布帛。
[5]前記合成繊維に高分子弾性体がさらに付着している、前記[1]~[4]のいずれかに記載の合繊繊維布帛。
[6]前記高分子弾性体がポリウレタンである、前記[5]に記載の合成繊維布帛。
[7]前記[1]~[6]のいずれかに記載の合成繊維布帛を含む人工皮革。
【発明の効果】
【0012】
本発明の合成繊維布帛は、耐光性、摩擦堅牢度に優れ、高い発色性を有し、風合いも良好な、顔料着色された合繊繊維布帛ある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の1の実施形態は、合成繊維で構成された合成繊維布帛であって、該合成繊維に、
ポリオレフィン系又はポリエステル系のアニオン系高分子;
カチオン性分散剤を含有する顔料;
芳香族スルホン酸縮合物よりなるアニオン性の固着剤;並びに
ジメチル変性、エポキシ変性及びカルボキシル変性の内のいずれかから選択されるノニオン性の又はカチオン性の変性シリコーン剤;
が付着している合成繊維布帛である。
【0014】
本実施形態の合成繊維布帛を構成する合成繊維は、マルチフィラメント糸、短繊維のどちらでもあってもよい。合成繊維の成分に限定はなく、ポリエステル系合成繊維、ポリアミド系合成繊維、ポリオレフィン系合成繊維などを挙げることができる。ポリエステル系合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、常圧可染タイプのポリエチレンテレフタレート等、ポリアミド系繊維としては、ナイロン6、ナイロン66などが挙げられる。これらの合繊マルチフィラメントの紡糸方法は、特に限定はなく、公知の方法を用いることができ、場合により未延伸糸や半延伸糸(POY)を用いてもよい。また、原糸であっても、仮撚加工や撚糸加工された加工糸であってもよい。さらに2種以上の糸を空気混繊加工、複合仮撚加工したものでもよい、また、アルカリや、溶剤で脱海処理する海島型繊維、または割繊糸を用いてもよい。
【0015】
合成繊維の断面形状は特に限定されず、丸型、偏平型、三角、L型、T型、Y型、W型、π型、十字型、井型、八葉型、八輝型、メガネ型、メガネ型2つ孔中空、ドッグボーン型などの多角形型、多葉型、1つ穴中空型、複数孔中空型、又は不定形なものであってもよく、これらを混合したものであってもよい。
また、本実施形態の合成繊維布帛には、必要に応じてポリウレタンを含浸してもよいし、繊維状のポリウレタンを含んでいてもよい。ストレッチ性や、保形性観点から本実施形態の合成繊維布帛を100質量%とした場合、ポリウレタンの含有量は3質量%~20質量%が好ましく、より好ましくは3質量%~15質量%である。
合成繊維の単糸繊度、総繊度、単糸数は特に限定されず、布帛の形状、用途によって変わる。例えば、編物、織物に用いる場合には、風合いの観点から単糸繊度は0.05detx以上5dtex以下が好ましく、3.5dtex以下がより好ましい。総繊度としては、20dtex以上450dtex以下が好ましく、より好ましくは350dtex以下である。
人工皮革に用いる場合には、単糸繊度は0.01dtex以上1.1dtex以下が好ましく、0.7dtex以下がより好ましい。
何れも繊度がより細くなるほど、所望の高発色性と高堅牢性の効果がより発揮される。
繊維布帛の形態は織物、編物、人工皮革など、特定されることはない。また、それぞれの製造方法も限定されることない。織物、編物の組織も限定されることなく、また、必要に応じて起毛処理を加えても問題ない。
人工皮革の製造方法も特に限定されることなく、通常使用されるポリウレタンが含有されるものだけではなく、平均粒子径が5.0μm以下の熱可塑性樹脂エマルジョンをバインダーとして用いることを特徴とする人工皮革であってもよい。
【0016】
本実施形態の合成繊維には、カチオン性分散剤を含有する顔料が付着していることが必要である。カチオン性分散剤を有する顔料を高濃度で繊維に吸着させるためには、該繊維に予めアニオン系高分子を用いてアニオン処理することが必要である。使用するアニオン処理剤であるアニオン系高分子としては、ポリオレフィン系又はポリエステル系のエマルジョン系アニオン化剤を使用できる。
アニオン化工程は、浸染処理にて行う。処理時の温度は75℃以上85℃以下で10分以上20分以下とすることが好ましい。また、アニオン化工程で使用されるアニオン化剤の固形分濃度は20質量%以上30質量%以下であることが好ましく、処理時の濃度は繊維に対し、1%owf以上、より好ましくは2%owf以上であることが好ましい。濃度の上限は特にないが、処理液の安定性、経済性、未固着剤が多くなることによる排液負荷を考慮し、10%owf程度の処理濃度を上限とすることが好ましい。アニオン系高分子の合成繊維布帛への付着量としては、0.8%owf以上が好ましく、2.4%owf以上10%owf以下がより好ましい。
アニオン系高分子の合成繊維布帛への付着量が0.8%owf未満の場合は、カチオン性顔料の付着率が低く、発色が不良、又は色ムラを誘発するため不適である。
【0017】
また、繊維へのアニオン処理化をより効率的に行うべく、前記アニオン化工程に先立ってカチオン化を行うことも可能である。カチオン化剤としては、アミン系カチオン化剤、例えば、第仲1級アミノ基、第3級アミノ基又は第4級アンモニウム基を含むカチオン化剤が好ましく、アニオン化剤としては、エマルジョン系アニオン化剤、例えば、ポリオレフィンエマルジョン又はポリエステルエマルジョンであるアニオン化剤などが使用できる。
カチオン化工程も浸染処理にて実施し、処理時の温度は75℃以上85℃以下で15分以上25分以下とすることが好ましい。カチオン化工程で使用されるカチオン化剤の固形分濃度は10質量%以上20質量%以下であることが好ましい。付与時の処理濃度は0.1~1%owfでよい。
【0018】
本実施形態の合成繊維布帛の着色に使用する顔料としては、カチオン性分散剤を含有する顔料であることが、高吸着性の観点で必要である。繊維に顔料を高吸着できることで、高い発色性を発現することが可能となる。
前記カチオン性分散剤は、顔料との相溶性と、昇温下で分散性が低下する観点から、第三級アミン分散剤であることが好ましい。
カチオン性分散剤であるアクリルアミドの第三級アミン分散剤としては、例えば、
(a)アルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの重合体、例えば、ジメチル又はジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド又はジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の重合体;
(b)ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの重合体、例えば、ジメチル又はジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート又はジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の重合体;
(c)アクリルアミド・スチレン共重合体;
(d)第三級アミノ基含有ウレタン系重合体等を挙げることができる。
【0019】
前記カチオン性分散剤を含有する顔料は、水などの液状媒体に分散することができる。
顔料自体の含有量は、12質量%以上30質量%以下とすることが好ましく、15質量%以上25質量%以下とすることがより好ましい。顔料自体の含有量が12質量%未満の場合、必要な着色力を得ることが困難であり、他方、30質量%を超える場合、粘度安定性が悪化するため好ましくない。
【0020】
さらに、下記式:
A=(カチオン性分散剤含有量/顔料自体の含有量)×100
で示される値Aは、20%以上70%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以上50%以下である。20%未満の場合、顔料の分散安定性が悪化し、他方、70%超の場合、分散安定性は良好なものの、分散性に寄与しない分散剤を多く含むこととなり、経済的に不利になるため好ましくない。
【0021】
布帛に対するカチオン性分散剤を含有する顔料の付着量は、必要とする色目や色濃度により異なり範囲は特に限定されないが、明確な発色性が発現することを考慮すると、例えば200g/m2の生地においては、0.048g/m2以上13.6g/m2以下が好ましく、0.096g/m2~6.8g/m2であることがより好ましい。
【0022】
本実施形態の合成繊維布帛では、前記カチオン性分散剤を含有する顔料を繊維に固定化し、顔料脱落を抑制するために、特定構造を有するアニオン性の固着剤が付着している。この固着剤は、芳香族スルホン酸縮合物よりなるアニオン性の固着剤であることが必要である。
【0023】
一般的に染料を固定する染料固着剤には、カチオン性のものとアニオン性のものがあるが、カチオン性を有する固着剤を、前記顔料着色布に適用した場合、繊維に着色した顔料を脱落させる懸念があり好ましくない。これはカチオン性の固着剤が顔料を分散させるカチオン性分散剤と同様の働きをするためと推察される。
【0024】
本実施形態の合成繊維布帛で使用されるアニオン性の固着剤は、芳香族スルホン酸縮合物の構造を有すものであればよく、分子量は特に限定されない。さらに具体的には、フェノールスルホン酸ホルマリン縮合物、チオフェノールスルホン酸ホルマリン縮合物、ビスフェノールSスルホン酸ホルマリン縮合物が好適に用いられる。
【0025】
通常、顔料を用いて繊維を着色する場合、アクリル樹脂等で顔料を被膜固定化することで、顔料着色の脱落を除去することが一般的であるが、風合いを硬化させるなどの問題がある。本実施形態の合成繊維布帛では、カチオン性分散剤を有する顔料とイオン結合が可能なアニオン性の固着剤を使用することで、イオン結合によって繊維に吸着した顔料を強固に結合でき、かつ、風合い硬化も抑制できる。更に、アニオン性の固着剤の中でも芳香族スルホン酸縮合物よりなるものを使用することで、より顔料固着化の効果が高い。これらは、本願発明者らにより今般初めて見出された事項である。
【0026】
顔料脱落を抑制するアニオン性固着剤がより強固に該特定の顔料を固着させる効果は、カチオン性顔料に対して強いイオン効果を発揮するためと考えられ、特に芳香族スルホン酸は構造上顔料に吸着や付着などの作用をしやすく、より強く固着を促進させるためと考えられる。
アニオン性固着剤の処理方法としては、染料(顔料)を固着させるフィックス処理と同様の方法が用いられる。カチオン性分散剤を含有する顔料で着色処理を行った後、浸染処理にて付与することが好ましい。温度は75~85℃、処理時間は15~25分で処理される。処理時の液中の固着剤濃度は、顔料濃度の1/2程度が好適である。最終的な固着剤の付着量は0.04~15%owfであることが好ましい。
【0027】
本実施形態の合成繊維布帛では、着色及び固着化処理を行った後、仕上げ加工として、DIP-NIPなどの加工によりジメチル変性、エポキシ変性、及びカルボキシル変性のいずれかから選択されるノニオン性又はカチオン性の変性シリコーン剤を付与することが必要である。
一般的に染料よりもより繊維表面に吸着する顔料の場合、摩擦や摩耗などにより顔料が脱落しやすい傾向にある。表面の平滑性を上げることで、染料の脱落を抑制することが可能となる。
【0028】
一般的に繊維に使用される変性シリコーンには、ジメチルシリコーン、アミノ構造を有するアミノ変性シリコーン、エポキシ構造を有するエポキシ変性シリコーン、カルボキシル構造を有するカルボキシル変性シリコーンなどがある。本実施形態の合成繊維布帛では、このうちジメチル変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーンを使用する場合に、乾摩擦堅牢度、湿摩擦堅牢度の改善効果がより発揮される。該剤の固形分濃度も特に限定されないが、一般的には15質量%~45質量%のものが多く使用される。
ジメチル変性シリコーン又はカルボキシル変性シリコーン、又はエポキシ変性シリコーン剤を付与することで、摩擦低減による染料脱落が抑制される。一般的に平滑剤付与により基材の糸滑り性が高まると、引っ掛かりなどによって糸が抜け出しやすく、その結果スナッギング性の低下や、縫い目滑脱性の低下、糸飛び出しが懸念される。また、抄造シートとポリウレタンからなる人工皮革の場合には、糸抜けが多発する問題が発生する懸念もある。上記3種の変性シリコーン剤の中でも特にエポキシ構造を有する変性シリコーンを用いると、糸抜け抑制、糸飛び出しを抑制しながら、かつ摩擦低減による染料脱落抑制効果も発揮でき、好適である。
【0029】
前記変性シリコーン剤は、固形分含有量によっても異なるが、7~60g/Lの濃度で処理することが好ましく、より好ましくは10~50g/Lで処理することが好ましい。処理液のピックアップ率は65質量%以上90質量%以下、好ましくは70質量%以上85質量%以下が妥当である。生地(布帛)への付着量は使用する生地の目付によっても異なるが、例えば、200g/m2目付の生地の場合では、0.19~4.9g/m2、より好ましくは0.2~4.3g/m2であることが好ましい。0.19g/m2未満であると、平滑性が不十分であり、他方、4.9g/m2超えであると過度な平滑性により布帛を縫製した後の縫い目滑脱性などに問題が生じる場合がある。また、風合いもヌメリ感が強すぎるものとなり触感的に好ましくないためである。
また、変性シリコーン剤による処理後の乾燥温度は、110℃~150℃が好ましい。110℃未満であると、剤の固着性が劣る懸念があり、他方、150℃超では、風合い硬化に繋がりやすい。また、乾燥時間は、生地の厚みや目付により変わるが、30秒間~90秒間、より好ましくは30秒間~60秒間で乾燥処理すればよい。
【実施例0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。実施例における各評価測定値は次の方法で測定した。
(1)発色性
X-Rite社製ベンチトップ分光測色計 Ci7800を用い、光源D65、測定面積25mmφで、3か所で測色を行った。黒色の場合はL値を、その他の色ではK/S値を測色値とし、平均値を採用した。また、色むらの評価指標には、測定3か所間の色のバラツキΔEを判定基準とした。
【0031】
(2)耐光性
JIS-L-0843:2006記載のe)第5露光法に準拠し、スガ試験機製キセノンウェザーメーターXL75を用い、ブラックパネル温度63℃で、100MJ、200MJ、400MJの照射量を与えた場合の変退色を級判定し、表中に100MJの結果を記載した。評価点数は夫々3点とし、そのうちの最も低い判定値で判断した。
【0032】
(3)摩擦堅牢度
JIS-L-0849に準拠し、学振型摩擦試験機を用い綿布を摩擦布帛として乾および湿摩擦堅牢度の測定を行った。汚染用グレースケールで汚染の度合いを級判定した。評価点数は夫々3点とし、そのうちの最も低い級数値で判断した。
【0033】
(4)スナッギング性
JIS-L-1058 D3(金のこ法)法に準拠し、5時間操作した後、JISの判定写真に基づいて級判定を行った。評価点数は夫々3点とし、最も低い判定値で判断した。
【0034】
(5)縫い目滑脱
JIS-L-1096B法に準拠し、評価を行った。評価点数は夫々3点とし、最大値にて判断した。
【0035】
(6)耐摩耗性
JIS-L-1096(E法マーチンデール法、押圧荷重12kPa)に準拠し評価を行った。摩耗回数35000回とし、摩耗前後の試料重量比から減量を算出した。
評価点数は夫々3点とし、最も減量度の大きいもので判断した。
【0036】
(7)風合い官能評価
被験者10名で、(i)表面の滑らかさの観点、(ii)曲げ硬さの観点から、風合いを評価した。(i)は、つっかかりや、ザラザラ感のないものを良好とした。また、(ii)曲げ柔らかいものを良好とした。
(i)と(ii)の観点からの風合いを夫々1~5で点数化した。点数は1が非常に悪い、2が悪い、3が悪くはない、4が良い、5が非常に良いとして点数づけした。各人の(i)と(ii)の点数が夫々3点以上であり、かつ、(i)と(ii)の点数の合算値の10名平均値が7点以上の場合を風合い「良好」と判断、これを満たさないものを風合い「不良」と判定した。
【0037】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート仮撚糸150dtex/48フィラメントの糸を用い、24ゲージのシングル丸編み機で天竺編地を編成した。該編地を、液流染色機を用いて精練を行った後、ポリエステル系のアニオン化処理剤(山陽色素社製 CT I1201)を2%owf追加添加した浴内で80℃20分処理し、編地のアニオン化処理を行った。該アニオン化処理編地を同じく液流染色機を用い、カチオン性分散剤を含有する顔料(山陽色素社製EMACOL CT BLACK 4939N)を10%owf添加し昇温、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃で各10分程度たきこんだ後、排液、水洗処理した。
次いで、芳香族スルホン酸縮合物よりなるアニオン性の酸固着剤(山陽色素社製CT FX01)を5%owf添加し、80℃で20分処理し、排液後水洗を行い、脱水後シュリンクサーファーなどで乾燥したのち、ノニオン性のジメチル変性シリコーン剤(山陽色素株式会社製CT WT23 固形分20質量%)の30g/L水溶液をDIP-NIPにて付与し、ピンテンターにて130℃×45秒の仕上げ加工を行い、目付が210g/m2、ジメチルシリコーン剤が1.2g/m2付着した、着色された編地を得た。
表面が滑らかさ、曲げ柔らかく、風合いとして良好であり、L値が17.5で発色性に優れ、色むらもなく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れ、スナッギングも良好なものであった。
【0038】
[実施例2]
カチオン性分散剤を含有する顔料を山陽色素社製のEMACOL CT YELLOW 4631Nを0.4%owf、固着剤の処理濃度を0.2%owfに代えた以外は、実施例1と同様に、実施例2の着色編地を得た。
表面が滑らかさ、曲げ柔らかく、風合いとして良好であり、発色性に優れるとともにΔE=0.4で色むらが少なく均一性に優れ、耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度にも優れ、さらにスナッギングも良好なものであった。
【0039】
[実施例3]
染後に付与する平滑剤としてエポキシ変性シリコーン剤(山陽色素社製CT WT03 固形分30質量%)の30g/L水溶液を使用する以外は、実施例1と同様に、実施例3の顔料着浴布帛を得た。
表面が滑らかさ、曲げ柔らかく、風合いとして良好であり、L値が17.5で発色性に優れ色むらも少なく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れ、スナッギングもより向上したものであった。
【0040】
[実施例4]
染後に付与する平滑剤としてカルボキシル変性シリコーン剤(山陽色素社製CT WT13 固形分12質量%)の50g/L水溶液を使用する以外は、実施例1と同様に、実施例3の顔料着浴布帛を得た。
表面が滑らかさ、曲げ柔らかく、風合いとして良好であり、L値は17.6で発色性に優れ色むらも少なく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れたものであった。
【0041】
[実施例5]
使用する仮撚糸を66ナイロンの78dtex34フィラメントの仮撚加工糸にした以外は、実施例1と同様に、実施例5の編地を得た。
表面が滑らかさ、曲げ柔らかく、風合いとして良好であり、L値は16.1で発色性に優れ色むらも少なく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れ、スナッギングも良好なものであった。
【0042】
[実施例6]
カチオン分散剤を含有する顔料を山陽色素社製のEMACOL CT YELLOW 4631Nを0.4%owfに代えた以外は、実施例5と同様に、実施例6の着色編地を得た。
風合いやタッチ感が良好で、発色性に優れるとともにΔE=0.3で色むらも少ないものであり、耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れ、スナッギングも良好なものであった。
【0043】
[実施例7]
28ゲージで3枚の筬を有するトリコット編機を使用し、フロント筬にはポリエステル84dtex/72フィラメントの双糸を、ミドル筬、バック筬にはポリエステル84dtex/36フィラメントの糸を使い、組織はフロント筬1-0/3-4、ミドル筬1-0/1-2、バック筬2-3/1-0で、編機上においてコース70コース/インチでトリコット編地を編成した。該編地を用いる以外、実施例1と同様に、実施例7の編地を得た。
風合いやタッチ感が良好で、L値は17.5で発色性に優れ色むらもなく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れたものであり、スナッギングも良好なものであった。
【0044】
[実施例8]
経緯に167dtex/72フィラメントの仮撚加工糸を用い、3/1綾織物を製織した。該織物を通常の方法で精練した後、実施例1と同様に前処理、カチオン性分散剤を含有する顔料で着色、アニオン性固着剤処理、仕上げ加工処理を行い、綾織物を得た。
風合いやタッチ感が良好で、L値は17.8で発色性に優れ色むらもなく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れたものであり、スナッギングや、縫い目滑脱も良好なものであった。
【0045】
[実施例9]
仕上げ加工時の平滑剤としてエポキシ変性シリコーンCT WT03(山陽色素株式会社製)の30g/L水溶液を使用する以外は、実施例8と同様に、実施例9の顔料着浴布帛を得た。
風合いやタッチ感が良好で、L値は17.8で発色性に優れ色むらもなく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れたものであり、実施例8よりも縫い目滑脱に優れるものであった。
【0046】
[実施例10]
フロント糸に84dtex/24フィラメント(16分割)のポリエステル海島繊維糸を、ミドル筬とバック筬にはポリエステル56dtex/2フィラメントを夫々用い、
組織は実施例7と同じにしてトリコット編地を得た。該編地を液流染色機中で、水酸化ナトリウムを10g/L添加し、90℃で30分処理し、易溶アルカリ成分を除去しフロント糸の単繊維繊度が約0.2dであるトリコット編地を得た。その後、フロント部分を起毛処理した。布帛として上記起毛トリコット布帛を用いた以外は、実施例1と同様に、実施例10の起毛顔料着色トリコットを得た。
得られた起毛トリコット編地の性能結果を表1に示す。風合いやタッチ感が非常に良好で、L値が20で発色性に優れ色むらもなく、かつ耐光堅牢度に優れたものであった。
【0047】
[実施例11]
直接紡糸法によって単繊維繊度0.17dtex、融点255℃の極細ポリエチレンテレフタレート繊維を製造し、長さ5mmに切断して主体短繊維とした。この短繊維を水中に分散させて表層用と裏層用の抄造スラリーを作成した。得られたスラリーを用い、表総目付100g/m2裏層目付50g/m2とし、その中間に167dtex/48fのポリエステル繊維加工糸を800t/m撚糸した糸を用いた経53本/吋、緯62本/吋の織物をスクリムとして挿入し、三層積層構造の不織布シートを連続抄造で製造した。次いで、高速水流の噴射により三次元交絡不織布を得た。次いでピンテンターで乾燥し、目付200g/m2のシート状物を製造した。
このシート状物の表層を、♯400のサンドペーパーでバフィングし、次いで、9wt%濃度のポリエーテル系水系ポリウレタンに3wt%の芒硝を添加した液を、付着率12wet%になるように含浸させ、ピンテンター乾燥機で3分間兼加熱し、目付200g/m2の人工皮革原反を製造した。
得られた人工皮革原反を繊維布帛として用いる以外は、実施例1と同様に、ジメチルシリコーン剤が1.3g/m2付着した実施例11の着色された人工皮革を得た。
得られた人工皮革は、風合いやタッチ感が良好で、L値が20と発色性が高く色むらもなく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れたものであり、摩耗時の減量も低いものであった。
【0048】
[実施例12]
使用するカチオン性分散剤を含有する顔料をEMACOL CT YELLOW 4631Nを0.4%owfに代えた以外は、実施例11と同様に、実施例12の人工皮革を得た。
実施例11と同様、風合いやタッチ感が良好で、発色性に優れ、ΔEが0.6と色むらもほぼないものであり、耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れ、さらに剥離強度も高く摩耗時の減量も低いものであった。
【0049】
[実施例13]
使用するカチオン性分散剤を含有する顔料をEMACOL CT BLUE 4824Eを10%owf使用、アニオン性固着剤濃度を5%owfとした以外は、実施例11と同様に、実施例13の顔料着色布帛を得た。
風合いやタッチ感が良好で、K/S値は23と発色性が高く色むらもなく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れたものであり、摩耗時の減量も低いものであった。
【0050】
[実施例14]
仕上げ加工時の平滑剤をエポキシ変性シリコーン剤(山陽色素社製CT WT03 固形分30%)の30g/L水溶液を使用した以外は、実施例11と同様に、実施例14の顔料着色布帛を得た。
得られた顔料着色布帛は、風合いやタッチ感が良好で、L値は19.8と発色性が高く色むらもなく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れたものであり、摩耗時の減量も実施例11よりさらに低いものであった。
【0051】
[実施例15]
直接紡糸法によって単繊維繊度0.17dtex、融点255℃の極細ポリエチレンテレフタレート繊維を製造し、長さ5mmに切断して主体短繊維とした。熱融着性短繊維として融点181℃のポリエチレンテレフタレートコポリマーからなる単繊維繊度1.7dtex、長さ5mmの全融タイプ熱融着性短繊維キャスベン8000(ユニチカ(株)製1.7T5-8000タイプ)を用いた。
該主体短繊維と該熱融着性短繊維の混合比率が、重量比で95:5に混合したものを用い、これらの短繊維を水中に分散させてスラリーを作製した。このスラリーから抄造法によって目付110g/m2の表面繊維層用抄造シートを作製した。裏面繊維層として該主体短繊維と該熱融着性短繊維の混合比率が、重量比で97:3に混合したものを水中に分散させてスラリーを作製した後、抄造法によって目付60g/m2の裏面繊維層用抄造シートを作製した。
表面繊維層用抄造シートと裏面繊維用抄造シートの間に166dtex/48fのポリエチレンテレフタレート糸から成る目付100g/m2の織物スクリムを挿入し、3層積層体を作製した。
該3層積層体へ直進流噴射ノズルを用いた高速水流を噴射して絡合させて交絡一体化した後に、エアースルー方式のピンテンター乾燥機を用いて100℃で乾燥して3層構造の人工皮革用不織布を得た。
該人工皮革用不織布の表面繊維層の表面を400メッシュのサンドペーパーでバフィングすることによって起毛処理した後にピンテンター乾燥機を用いて200℃で熱処理することで熱融着性短繊維の熱融着処理を行った。
用いる繊維布帛以外は、実施例11と同様に、実施例15の着色された人工皮革を得た。
得られた人工皮革は、風合いやタッチ感が良好であり、L値が19.8と発色性が高く色むらもなく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れたものであり、摩耗時の減量も低いものであった。
【0052】
[実施例16]
海成分として、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを用い、海成分が20質量%で島成分が80質量%の複合比率で、島数16島/1f、平均繊維径が18μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カード及びクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により繊維シートを得た。得られた繊維シートを95℃熱水中に浸漬させて収縮させ、そのピンテンター乾燥機を用いて100℃で5分間乾燥し、目付600g/m2の単層の繊維シートを得た。
得られた繊維シートを、95℃の温度に加熱した濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して25分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去する脱海処理を行った。脱海後の繊維シートを構成する繊維の単繊維の平均直径は4μmであった。
次いで、平均一次粒子径:0.3μm、ポリエーテル系水分散型PU分散液「AE-12」(日華化学株式会社製)(固形分濃度:35質量%)を、含浸液中の量(固形分の質量%として)9.0質量%、含浸助剤として無水芒硝を含浸液中の量(固形分の質量%として)30質量%を含む含浸液を上記繊維シートに含浸させ、次いで、100℃で5分間湿熱凝固させ、ピンテンター乾燥機を用いて130℃~150℃で2~6分間で熱風乾燥させた。
その後、95℃に加熱した熱水に浸漬させて、含侵した無水芒硝を抽出、除去し、水分散型PU樹脂が充填されたシート状物を得た。このシート状物の繊維総質量に対する水分散型PU樹脂の比率は30質量%であった。
その後、エンドレスのバンドナイフを有する半裁機を用いて、シート状物を厚み方向に対して垂直に半裁し、半裁されていない面を#400のエメリペーパーを用いて起毛処理した後、テンター乾燥機を用いて100℃で5分間乾燥し、単層の人工皮革を得た。
得られた人工皮革を使用する以外は、実施例11と同様に、実施例16の着色された人工皮革を得た。
得られた着色人工皮革は、風合いやタッチ感が良好で、L値が20.5と発色性も高く色むらもなく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れたものであり、摩耗時の減量も抑えられたものであった。
【0053】
[実施例17]
実施例16で使用した生地を用いた以外は、実施例2と同様に、実施例17の着色された人工皮革を得た。
得られた着色人工皮革は、風合いやタッチ感が良好で、発色性が高くΔEが0.6と色むらの少ないものであり、耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れ、さらに摩耗時の減量も低いものであった。
【0054】
[実施例18]
精練後、カチオン化処理剤(山陽色素社製CT F1101 固形分濃度15%)を0.5%owf添加し、80℃で20分処理、次いで該浴にアニオン化処理剤(山陽色素社製CT I1201)を5%owf添加しさらに80℃20分処理する以外は、実施例1と同様に、実施例18の編地を得た。
該編地は、風合いやタッチ感が良好で、L値が17.6で発色性に優れ色むらもなく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れたものであり、スナッギング性にも優れたものであった。
【0055】
[実施例19]
布帛を精練後、実施例18と同様の着色前処理を行い、実施例11と同様に、カチオン性分散剤を含有する顔料で着色、アニオン性固着剤処理した後、仕上げ加工を行い実施例19の着色された人工皮革を得た。
得られた人工皮革は、風合いやタッチ感が良好で、L値が19.4と発色性が高く、色むらもなく、耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れたものであり、さらに摩耗時の減量も低いものであった。
【0056】
[実施例20]
仕上加工時の平滑剤を実施例3と同じにした以外は、実施例11と同様に処理し、実施例20の顔料着色布帛を得た。
得られた人工皮革は、風合いやタッチ感が良好で、L値は19.4と発色性が高く色むらもなく、かつ耐光堅牢度、乾湿摩擦堅牢度に優れたものであり、摩耗時の減量も実施例18よりもさらに低いものであった。
【0057】
[比較例1]
顔料着色前のアニオン化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様に、比較例1の丸編地を得た。
得られた着色編地のL値は22.8で発色性に劣るものであり、生地の場所による色むらが大きいものであった。
【0058】
[比較例2]
顔料着色前のアニオン化処理を行わなかった以外は、実施例2と同様に、比較例2の丸編地を得た。
得られた着色編地は、生地の場所による色むらが極めて大きいものであった。
【0059】
[比較例3]
仕上げ剤を添加せず、水をDIP-NIPして熱セットした以外は、実施例1と同様に、比較例3の丸編地を得た。
得られた着色編地は、L値が17.9で発色性は良好、色むらもなく、耐光性は良好であるものの、風合いやタッチに劣り、また摩擦堅牢度も低いものであった。
【0060】
[比較例4]
仕上げ剤を添加せず、水をDIP-NIPして熱セットした以外は、実施例11と同様に、比較例4の人工皮革を得た。
得られた着色編地は、L値が20で発色性は良好、色むらもなく、耐光性は良好であるものの、風合いやタッチに劣り、また摩擦堅牢度、摩耗性に劣るものであった。
【0061】
[比較例5]
着色後に固着剤処理を除いた以外は、実施例1と同様に、比較例5の着色丸編地を得た。
得られた編地は風合い、タッチ感が良好、L値が17.5で発色性は高く色むらもなく、また耐光性に優れるものではあったが、摩擦堅牢度が非常に低いものであった。
【0062】
[比較例6]
着色後にアニオン性固着剤処理を除いた以外は、実施例11と同様に、比較例6の着色人工皮革を得た。
得られた人工皮革は、風合い、タッチ感が良好、L値が19.8で発色性は高く色むらもなく、また耐光性に優れるものではあったが、摩擦堅牢度が非常に低いものであった。
【0063】
[比較例7]
仕上げ加工時の平滑剤をアミノ変性シリコーンであるニッカシリコーンAMZ(日華化学社製)を用いた以外は、実施例1と同様に仕上げ、比較例7の着色丸編地を得た。
得られた編地は風合い、タッチ感が良好、L値が17.5で発色性は高く色むらもなく、また耐光性に優れるものではあったが、摩擦堅牢度とスナッギング性が低いものであった。
【0064】
[比較例8]
仕上げ加工時の平滑剤をアミノ変性シリコーンであるニッカシリコーンAMZ(日華化学社製)を用いた以外、実施例11と同様に仕上げ、比較例8の着色人工皮革を得た。
得られた人工皮革は風合い、タッチ感が良好、L値が20で発色性は高く色むらもなく、また耐光性に優れるものではあったが、摩耗性が劣り、摩擦堅牢度が非常に低いものであった。
【0065】
[比較例9]
着色後の固着剤処理に使用する剤を、カチオン性を有する固着剤であるフィックスオイルR-737(明成化学工業社製 固形分50%)7.8%owfとした以外は、実施例1と同様に、比較例8の着色編地を得た。
得られた編地は風合い、タッチ感は良好、L値が17.5で発色性は高く色むらもなく、また耐光性に優れるものではあったが、摩擦堅牢度が非常に低いものであった。
【0066】
[比較例10]
実施例11で用いた生地を用い、精練後にカチオン性分散剤を含有する顔料ではなく、分散染料Sumikaron UL Blue GF(A)200を5%owf用い、通常の方法で130℃30分の分散染料染色を行った後、中和処理、二酸化チオ尿素と水酸化ナトリウムをそれぞれ4g/L添加した液中で80℃20分の還元洗浄を行った。仕上げ加工は実施例11と同様に処理し比較例13の着色布帛を得た。
得られた事項比較は、風合い、タッチ感は良好で、K/Sは23と発色性は良好、色むらもないものの、耐光性に劣るものであった。
【0067】
上記実施例1~20、比較例1~10で得られた編地又は人工皮革の性能結果等を以下の表1~4に示す。
【表1】
【0068】
【0069】
【0070】
本発明に係る繊維布帛は、特定の顔料、特定の顔料固着剤、特定のシリコーン平滑剤が付着していることで、高い発色性を有し、耐光性、摩擦堅牢度、及び風合いに優れたものである。極細繊維を用いた布帛に使用されることで、高価な高耐光染料を使用することなく耐光性が得られるため、比較的安価で耐光性が必要とされる用途に適用する素材に利用が可能である。
具体的用途としては、特に限定されず、屋内外で用いられる鞄、靴表皮材、衣服、家具材などに用いられるが、特に車輛用のカーシート、カーインテ、屋内外で使用されるソファーや椅子張地、グランピング等アウトドア向け布帛等、高耐光性を求められる用途に好適に用いられる。
また、本願の該顔料を用いた着色技術は一般の分散染料を用いた場合の浸染法に比較し、使用数量、排液量を低減でき環境負荷削減にも繋がる技術である。