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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046074
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】固形描画材
(51)【国際特許分類】
   C09D 13/00 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
C09D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154768
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】喜多 宣竹
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB02
4J039AB04
4J039AB12
4J039BE01
4J039GA29
(57)【要約】
【課題】着色性が良好であるとともに、描き味が良く、かつ折れにくい固形描画材を提供することである。
【解決手段】 ワックス成分と、顔料成分と、水溶性樹脂と、体質材と、を含む固形描画材である。前記ワックス成分は、パラフィンワックスである第1ワックス成分と、マイクロクリスタリンワックスである第2ワックス成分と、フィッシャー・トロプシュワックスである第3ワックス成分と、植物由来硬化油である第4ワックス成分と、を含む。前記ワックス成分に対する前記第4ワックス成分の含有割合は、30質量%以上70質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワックス成分と、顔料成分と、水溶性樹脂と、体質材と、を含む固形描画材であって、
前記ワックス成分は、
パラフィンワックスである第1ワックス成分と、
マイクロクリスタリンワックスである第2ワックス成分と、
フィッシャー・トロプシュワックスである第3ワックス成分と、
植物由来硬化油である第4ワックス成分と、
を含み、
前記ワックス成分に対する前記第4ワックス成分の含有割合は、30質量%以上70質量%以下である、
固形描画材。
【請求項2】
前記ワックス成分において、前記ワックス成分に対する前記第3ワックス成分の含有割合が、20質量%以上51質量%以下である、請求項1に記載の固形描画材。
【請求項3】
前記ワックス成分の25℃における針入度が10以下である、請求項1または請求項2に記載の固形描画材。
【請求項4】
前記固形描画材の全量に対する前記ワックス成分の含有割合が、16質量%以上20質量%以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の固形描画材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形描画材に関する。
【背景技術】
【0002】
色鉛筆は、線を描くこと、面を着色すること、また、グラデーションや陰影の表現など幅広い表現力を有する。色鉛筆の芯材として、ワックスと、着色成分と、体質材等を含む固形描画材が知られている。例えば特許文献1には、熱可塑性樹脂と、体質材と、ワックスと、滑剤と、着色剤からなる色鉛筆芯であって、ワックスとしてモンタンワックスとパラフィンワックスとを特定の割合で含むものが開示されている。また、クレヨンにおけるワックス成分として、針入度が異なる2種のワックスと、ケトンワックスと、パラフィンワックスとを特定の割合で配合するものが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-104004号公報
【特許文献2】特開2019-014886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固形描画材は、軽く繊細な線から濃く太い線まで幅広く表現可能であることが好ましい。また、様々な描画面に対して確実に描画部が形成されることが好ましい。これらを実現するために、固形描画材は、描画面に対して描画材が付着しやすい、つまり、着色性が良好であることが好ましい。また同時に、描き味が良いものであることが好ましい。さらに、折れにくいことが好ましい。
【0005】
そこで、固形描画材において、着色性が良好であるとともに、描き味が良く、かつ折れにくいものを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従う固形描画材は、ワックス成分と、顔料成分と、水溶性樹脂と、体質材と、を含み、前記ワックス成分は、パラフィンワックスである第1ワックス成分と、マイクロクリスタリンワックスである第2ワックス成分と、フィッシャー・トロプシュワックスである第3ワックス成分と、植物由来硬化油である第4ワックス成分と、を含み、前記ワックス成分に対する前記第4ワックス成分の含有割合は、30質量%以上70質量%以下である。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成の固形描画材は、着色性が良好であるとともに、描き味が良く、かつ折れにくい。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示に従う固形描画材は、ワックス成分と、顔料成分と、水溶性樹脂と、体質材と、を含み、前記ワックス成分は、パラフィンワックスである第1ワックス成分と、マイクロクリスタリンワックスである第2ワックス成分と、フィッシャー・トロプシュワックスである第3ワックス成分と、植物由来硬化油である第4ワックス成分と、を含み、前記ワックス成分に対する前記第4ワックス成分の含有割合は、30質量%以上70質量%以下である。
【0009】
従来、固形描画材として、ワックス成分と、顔料成分と、水溶性樹脂と、体質材と、を含むものが知られている。ワックス成分は固形描画材の基材成分であり、ワックス成分として複数の成分を組み合わせた固形描画材が提案されている。例えば、ワックス成分として、ワックスとしてモンタンワックスとパラフィンワックスとを特定の割合で含むものが開示されている(特許文献1)。また、クレヨンにおけるワックス成分として、針入度が異なる2種のワックスと、ケトンワックスと、パラフィンワックスと、を特定の割合で配合するものが提案されている(特許文献2)。
【0010】
固形描画材を芯とする色鉛筆を使用するとき、描画面が確実に着色され、描画部がわかりやすいことが好ましい。これを着色性という。また、描画材が描画面に対して付着する量を着色量という。着色量が多いと着色性が良好であるという関係がある。着色量を上げるためには、描画面に多くの固形描画材が乗るように、固形描画材を柔らかくすることが好ましい。柔らかい固形描画材は、なめらかで描き味が良い。ただし、柔らかい固形描画材には、折れやすいという課題が生じる。そこで、着色量と描き味の良さを保ちながらも、折れにくい固形描画材が検討された。
【0011】
検討の結果、ワックス成分として、パラフィンワックスである第1ワックス成分と、マイクロクリスタリンワックスである第2ワックス成分と、フィッシャー・トロプシュワックスである第3ワックス成分と、植物由来硬化油である第4ワックス成分と、を含み、第4ワックス成分の含有割合が30質量%以上70質量%以下である固形描画材によれば、着色性と描き味に優れ、かつ折れにくいものが得られることが見出された。本開示にかかる固形描画材のワックス成分のうち、パラフィンワックスおよびフィッシャー・トロプシュワックスは直鎖状の炭化水素を多く含むワックス成分である。一方、マイクロクリスタリンワックスおよび植物由来硬化油は、分枝状の炭化水素を多く含むワックス成分である。本開示の固形描画材ではこれらの4種のワックス成分を、植物由来硬化油を中心として特定の組成割合としたときに、着色量と描き味、折れにくさを両立できる固形描画材が得られることを見出した。
【0012】
前記ワックス成分において、前記ワックス成分に対する前記第3ワックス成分の含有割合が、20質量%以上51質量%以下であるものとできる。フィッシャー・トロプシュワックスをこの範囲とするとき、十分な折れにくさを有しながら、着色量と描き味が良好である固形描画材を得ることができる。
【0013】
前記ワックス成分は、25℃における針入度が10以下であるものとできる。25℃における針入度が10以下であるとき、折れにくさと、着色量および描き味を両立する固形描画材が得られ、色鉛筆の芯として好適に用いられうる。
【0014】
前記固形描画材の全量に対する前記ワックス成分の含有割合が、16質量%以上20質量%以下であるものとできる。固形描画材の全量に対するワックス成分がこの範囲であるとき、顔料や体質材その他の成分と組み合わせて、所望の色彩を有する色鉛筆を得ることができる。
【0015】
以下に、本開示にかかる固形描画材の実施の形態を説明する。以下に示す実施形態の固形描画材は、典型的には色鉛筆の芯として好適に用いられる。色鉛筆は、芯を木軸に装填した木軸色鉛筆であってもよく、シートや紙等で芯が被覆されており、芯を削り出して用いる描画材であってもよく、その他の形態であってもよい。芯のみで構成される固形描画材であってもよい。
【0016】
(固形描画材)
本開示にかかる固形描画材の外形は、特に限定されない。固形描画材が色鉛筆の芯として用いられるとき、例えば、長さが100mm~200mm程度、直径が2.5~4.0mm程度の細長い円柱状の形状を有する。固形描画材の形状は、四角柱、六角柱状といった多角柱状であってもよいし、断面が楕円の楕円柱状であってもよい。
【0017】
固形描画材は、木材、樹脂、紙等の外装材の中心に装填される芯であってもよく、外装材を備えず、固形描画材で全体が構成される描画材であってもよい。特に制限されるものではないが、削り器やナイフを用いて固形描画材の先端を尖らせて用いるものであることが好ましい。
【0018】
固形描画材は、アート紙やコート紙、コピー用紙、画用紙といった吸収性の描画面に描画することができる。また、ガラスやプラスチックといった非吸収性の描画面にも描画することができるものであってもよい。
【0019】
本開示にかかる固形描画材は、ワックス成分と、顔料成分と、水溶性樹脂と、体質材と、を含む。これらの成分について以下に説明する。
【0020】
(ワックス成分)
本開示の固形描画材において、固形描画材の全量に対するワックス成分の含有割合は、16質量%以上20質量%以下であるものとでき、17質量%以上19質量%以下であればより好ましい。ワックス成分は固形描画材における基材であり、硬さや崩れやすさ、なめらかさといった固形描画材の物性に影響を与える。また、発色成分である顔料を描画面に定着させる役割を有する。
【0021】
本開示の固形描画材は、4種類のワックス成分を含む。パラフィンワックスである第1ワックス成分、マイクロクリスタリンワックスである第2ワックス成分、フィッシャー・トロプシュワックスである第3ワックス成分および植物由来硬化油である第4ワックス成分である。本開示の固形描画材において、ワックス成分は、これらの4種類のワックス成分以外にさらなるワックス成分を含んでもよいが、これら4種類のワックス成分からなることが好ましい。なお、ワックス成分の組成は、例えば、固形描画材から公知の方法によって顔料を分離した後、顔料以外の成分についてガスクロマトグラフィー分析を実施し、組成分析を行うことによって確認できる。
【0022】
(パラフィンワックス)
第1ワックス成分としてのパラフィンワックスは、天然由来のワックスであり、直鎖状の炭化水素化合物を主成分とする。パラフィンワックスは、分子量が300から500の汎用的なパラフィンワックスであり、n-パラフィンを主成分とし、若干のイソパラフィンやシクロパラフィンを含む。パラフィンワックスは、典型的には、原油を減圧蒸留し、軽質留分を取り出して冷却濾過し粗ロウを得、発汗または溶剤脱油をし、硫酸での洗浄後、活性白土で処理して得られるワックスである。パラフィンワックスは、常温で固体であり、加熱すると溶融する。パラフィンワックスの融点は40℃~70℃程度であり、本発明の効果を得られる限り特に制限されないが、融点が55℃~65℃程度であるパラフィンワックスが好ましく用いられる。
【0023】
パラフィンワックスの含有量は特に制限されないが、ワックス成分の全量に対する含有割合が、2質量%以上21質量%以下であることが好ましい。また、固形描画材の全量に対して、0.5質量%以上4.0質量%以下とすることができ、0.9質量%以上2.0質量%以下であればより好ましい。パラフィンワックスは、崩れやすい性質を有する。このため、固形描画材の着色性を向上させる効果がある。ワックス成分の全量に対するパラフィンワックスの含有量が2質量%以上であれば、崩れやすさが得られて、描き味および着色性が向上する。ワックス成分の全量に対するパラフィンワックスの含有量が21質量%以下であれば、折れにくさが得られる。
【0024】
(マイクロクリスタリンワックス)
第2ワックス成分としてのマイクロクリスタリンワックスは、天然由来のワックスであり、分枝状の炭化水素(イソパラフィン)および飽和環状炭化水素(シクロパラフィン)を多く含有する。マイクロクリスタリンワックスは、分子量が500から800程度である。マイクロクリスタリンワックスは、原油の減圧蒸留残渣油部分から取り出されるワックスである。マイクロクリスタリンワックスは、常温で固体であり、加熱すると溶融する。マイクロクリスタリンワックスの融点は60℃~90℃程度であり、本発明の効果を得られる限り特に制限されないが、融点が60℃~70℃程度のマイクロクリスタリンワックスが好ましく用いられる。
【0025】
マイクロクリスタリンワックスの含有量は特に制限されないが、ワックス成分の全量に対する含有割合が、4質量%以上18質量%以下であることが好ましい。また、固形描画材の全量に対して、0.7質量%以上3.5質量%以下とすることができ、1.0質量%以上2.0質量%以下であればより好ましい。マイクロクリスタリンワックスは、パラフィンワックスと比較して粘度が高く、接着性と粘調性を有する。このため、描画面に対して描画材を付着させる効果がある。ワックス成分の全量に対するマイクロクリスタリンワックスの含有量が4質量%以上であれば、着色性が向上する。ワックス成分の全量に対するマイクロクリスタリンワックスの含有量が18質量%以下であれば、べたつかず、なめらかで良好な描き味が得られる。
【0026】
(フィッシャー・トロプシュワックス)
第3ワックス成分としてのフィッシャー・トロプシュワックスは、合成ワックスであり、パラフィンワックスよりもさらに直鎖状の炭化水素化合物の含有量が高い。フィッシャー・トロプシュワックスは、分子量が500から700程度のものを用いることができる。フィッシャー・トロプシュワックスは、常温で固体であり、加熱すると溶融する。融点は70℃~110℃程度であり、融点は高いが粘度が低い性質を有する。本開示の固形描画材では、融点が85℃~100℃程度のフィッシャー・トロプシュワックスが好ましく用いられる。
【0027】
フィッシャー・トロプシュワックスとしては、具体的には例えば、FT115(日本精鑞株式会社製、融点113℃)、SX105(日本精鑞株式会社製、融点102℃)、FT-0165(日本精鑞株式会社製、融点73℃)、FT-0070(日本精鑞株式会社製、融点72℃)、サゾールワックスH1(サゾール株式会社製、融点112℃)、サゾールワックスC80(サゾール株式会社製、融点88℃)等が挙げられる。
【0028】
フィッシャー・トロプシュワックスの含有量は特に制限されないが、ワックス成分の全量に対する含有割合が、20質量%以上51質量%以下であることが好ましい。また、固形描画材の全量に対して、3.5質量%以上9.5質量%以下とすることができ、5.0質量%以上7.0質量%以下であればより好ましい。フィッシャー・トロプシュワックスは合成ワックスであり、不純物が少なく、直鎖状の炭化水素化合物の含有量が高い。このためフィッシャー・トロプシュワックスは板状の結晶構造を有し、硬い。一方で、フィッシャー・トロプシュワックスを含有させると、固形描画材の表面がなめらかになり、描き味が向上する。ワックス成分の全量に対するフィッシャー・トロプシュワックスの含有量が20質量%以上であれば、硬さが得られて固形描画材の折れにくさが得られる。ワックス成分の全量に対するフィッシャー・トロプシュワックスの含有量が51質量%以下であれば、他のワックス成分の崩れやすさを阻害せず、着色性の良好な固形描画材が得られる。
【0029】
(植物由来硬化油)
第4ワックス成分としての植物由来硬化油は、植物由来の油脂に水素を添加した、常温で固体の加工油脂である。植物由来硬化油としては、例えば、パーム硬化油、ナタネ硬化油、ヒマシ硬化油、大豆硬化油、ホホバ硬化油等が挙げられる。植物由来硬化油は分枝構造を有する。
【0030】
植物由来硬化油は、ワックス成分の全量に対して、30質量%以上70質量%以下の割合で含有される。好ましくは、40質量%以上60質量%以下の割合で含有される。また、固形描画材の全量に対して、7.0質量%以上12.0質量%以下とすることができ、8.0質量%以上10.0質量%以下であればより好ましい。植物由来硬化油は天然由来の加工油脂であり、分子内に複数の炭化水素鎖を含む。ワックス成分の全量に対する植物由来硬化油の含有量が30質量%以上であれば、硬さとともに崩れやすさが得られ、固形描画材の着色性が良好になる。ワックス成分の全量に対する植物由来硬化油の含有量が70質量%以下であれば、他のワックス成分の柔らかさを阻害せず、描き味の良い固形描画材が得られる。
【0031】
従来、固形描画材に含まれるワックス成分の1つとして植物由来硬化油は公知であった。しかしながら、植物由来硬化油をワックス成分の主な成分として含有し、さらに他のワックス成分との組み合わせることによって、折れにくさと着色性、描き味の良さを両立する固形描画材が得られることは、本開示の固形描画材において初めて見出された。特定の理論に拘束されるものではないが、本開示の固形描画材は、直鎖状の炭化水素化合物を主成分するワックス成分と、分枝状の炭素化合物を主成分とするワックス成分とをそれぞれ含有すること、さらに、分子量の異なるワックス成分を含有することによって、折れにくさと着色性、描き味が両立する固形描画材が得られるものと考えられる。
【0032】
(顔料成分)
顔料成分は、固形描画材に所望の色(無彩色あるいは有彩色)を付与し、描画面で発色させるものであって、従来、固形描画材において着色剤として用いられているものを用いることができる。顔料成分としては、有機顔料、無機顔料、レーキ顔料、複合顔料のいずれであってもよい。顔料成分としては、酸化チタン、硫化亜鉛等の白色顔料、フタロシアニン、キナクリドン等の有色顔料、カーボンブラック等が挙げられるが、当然ながらこれらに限定されない。これら顔料は、1種類を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることも好ましい。白色顔料と有色顔料とを組み合わせて用いることも好ましい。
【0033】
固形描画材における顔料成分の含有量は、所望の色が得られる限り特に制限されないが、例えば、固形描画材の全量に対して、0.5質量%以上25.0質量%以下とすることができ、4.0質量%以上6.0質量%以下であれば好ましい。顔料成分がこの範囲であるとき、発色性が良好で、折れにくさと着色性、描き味が両立する固形描画材が得られる。
【0034】
(体質材)
体質材は、発色に影響を与えない無機成分である。体質材は、固形描画材を用いて描画面に描画するとき、固形描画材を崩れやすくして描画面に対する滑り性を向上させる。また、描画面への固形描画材の接着量を多くして描線の着色性を高める効果を有する。体質材の具体例としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩、タルク、クレー、カオリン、ベントナイト等の粘度鉱物、リトポン(硫化亜鉛、硫酸バリウムの混合物)等の組成物の1種を、または2種以上を組み合わせて、用いることができる。これらのうち、カオリン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、リトポン等が好ましく用いられる。体質材は粉体であり、その粒径は例えば炭酸マグネシウムの場合、1.0~14μm程度であり、炭酸カルシウムの場合、0.14~15.0μm程度である。リトポンの粒径は0.1~5.0μm程度である。
【0035】
体質材は、固形描画材において、固形描画材に対して15~50質量%の範囲で含有されてよく、好ましくは35~45質量%の範囲で含有される。体質顔料が50質量%以下であれば、カサカサした質感になりにくく、描き味の良さを損なわない。体質顔料が15質量%以上であれば、発色性や物性のコントロールをする効果が得られる。
【0036】
(水溶性樹脂)
水溶性樹脂は、固形描画材に含まれる成分をまとめ、成型性を高めるための結合剤として用いられる成分である。水溶性樹脂は、水溶性の合成または天然高分子化合物である。水溶性樹脂としては、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCナトリウム)、カルボキシメチルセルロースアンモニウム(CMCアンモウニウム)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、アラビアガム、ベントナイト等が挙げられる。これらは単独または組み合わせて使用することができる。
【0037】
水溶性樹脂の含有割合は、結合剤としての効果が得られる限り特に制限されないが、例えば固形描画材に対して3~6質量%の範囲で含有されてよく、好ましくは3.0~4.0質量%の範囲で含有される。水溶性樹脂が6質量%以下であれば、固形描画材の着色性が損なわれることがない。水溶性樹脂が3質量%以上であれば、結合剤としての機能が得られ、固形描画材に折れにくさを与えられる。
【0038】
(その他の成分)
本開示の固形描画材は、上記以外の成分を含んでもよい。例えば、ワックス成分としてさらに、例えば、蜜ロウ、鯨ロウ等の動物由来のワックス、カルナバロウ、木ロウ等の植物由来のワックス、ポリエチレンワックス、α-オレフィンオリゴマー等の石油由来ワックス等を含んでもよい。
【0039】
また、オイル成分として、例えば、ヤシ油、ヒマシ油等の動植物性のオイル、流動パラフィン、シリコーンオイル、長鎖脂肪酸等の石油由来のオイルを含んでもよい。さらに、必要に応じて、通常の固形描画材において用いられる種々の成分や添加剤を、本開示にかかる固形描画材の作用効果を妨げない範囲で含んでもよい。他の成分としては例えば分散剤が挙げられる。添加剤としては例えば、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤が挙げられる。
【0040】
(製造方法)
本開示にかかる固形描画材の製造方法の概略を説明する。本開示にかかる固形描画材は、公知の固形描画材の製造方法を逸脱することなく、既存の設備や条件を適用ないし応用して製造できる。次に示す製造方法は一例であり、本開示の効果を有する固形描画材が得られる限りにおいて、製造方法は限定されない。
【0041】
まず、混練組成物作製工程として、ワックス成分のみで加熱撹拌し、ワックスの混合物を作製する。次いで、得られたワックス成分の混合物、水溶性樹脂、顔料成分、体質材、オイル成分、その他の成分を例えば、混練機(ニーダーなど)を用いて加熱状態(例えば60℃で約8時間)で混練させる。次いで当該混練物を脱気した後、プランジャー型成型機を用いて予備成形し、続いてプランジャー型押し出し成型機で例えば3mm径の鉛筆芯に押し出し成型し、乾燥(例えば70℃で12時間)させることにより所望の形状の成型物、すなわち、本開示にかかる固形描画材を得ることができる。なお、混練や押し出し成型などは、加熱下で行うことができる。なお、これらの工程に加えて、所望の形状に調整するための切断工程、調整工程、測定工程、検査工程等を含んでもよい。
【0042】
[実施例]
組成の異なる実施例1~実施例9の固形描画材を作製し、評価試験を実施した。実施例1~実施例9の配合および評価結果を、[表1]および[表2]に示す。また、本開示の範囲外である比較例1~比較例7の固形描画材を作製し、同様に評価試験を実施した。比較例1~比較例7の配合および評価結果を、[表3]および[表4]に示す。なお、各表中の「‐」は、材料が含まれていないことを示す。各表中の数値の単位は質量%である。以下に、実施例1~実施例9および比較例1~比較例7の製造方法および評価方法の詳細について説明する。
【0043】
[実施例1]
以下の手順で固形描画材を作製し、着色量、塗り心地およびワックス成分の針入度を評価した。
1.練り工程
(1)ワックス成分としてフィッシャー・トロプシュワックス(Sasol Chemicals)35gとパラフィンワックス(日本精蝋株式会社)5gとマイクロクリスタリンワックス(日本精蝋株式会社)10gと菜種硬化油としてハイエルシン菜種極度硬化油(横関油脂工業株式会社)50gを加熱撹拌し、混合ワックスを作製した。
(2)次いで、水溶性樹脂としてメチルヒドロキシエチルセルロース(SE Tylose GmbH & CO.KG)3gとpH調整剤として2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(ARUBA CHEMICAL JAPAN LLC)0.5gと分散剤としてテトラデスルホン酸ナトリウム水溶液(クラリアントジャパン株式会社)0.5gと体質顔料としてカオリン(BASF CORPORATION)41gと着色顔料としてPR4(Clariant Benelux n.v.)0.5gとPBk7(Columbian Chemicals Company)1.5gとPW6(デュポン株式会社)4.0gと(1)で混合したワックス18.36gと溶剤(イオン交換水)をニーダーに加え、80℃で約4時間混練することで、混練組成物を得た。
上記に記載した各成分の配合比率(質量%)は[表1]に示すとおりである。
【0044】
2.成形工程
加熱混練した混練組成物をプランジャー型成型機を用いてまずプレ成型した後、直径3mmの色鉛筆芯状に押し出し成型し、70℃で12時間以上乾燥させて、固形描画材を得た。
【0045】
3.評価
(1)着色量の評価
白色の画用紙に、固形描画材を用いて手塗りで上下方向に均一に塗るように反復して塗布し、描画部を目視にて評価した。
着色量の評価基準は次のとおりとした。
描画部がはっきりわかり、その面に光沢がある:〇
描画部が分かり、その面に光沢はない:△
描画部がうっすら分かる、分からない:×
【0046】
(2)塗り心地の評価
着色量の評価と同様に、白色画用紙上に描画部を形成した。描画部を形成するときの感覚(塗り心地)を評価した。
塗り心地の評価基準は次のとおりとした。
描画したときに引っかかりがなく、さらさら、または滑らかな塗り心地である:〇
描画したときに少し引っかかりがあり、重たく感じる:△
描画した時に重たく感じ、描画するのに力が必要:×
【0047】
(3)針入度
ワックス成分のみの混練成型物について、JIS K2235を参考にして、重さ200gで10秒間進入させ、進入した深さを10倍した数値で表す。
25℃における針入度が10.0以上のものは色鉛筆の芯として適さないと判断した。
【0048】
[実施例2]~[実施例9]
[表1]、[表2]に示す配合としたほかは実施例1と同様の方法で、固形描画材を作製し、評価を行った。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】

【0051】
実施例1~実施例9に示されるとおり、ワックス成分と、顔料成分と、水溶性樹脂と、体質材と、を含み、4種のワックス成分のうち植物由来硬化油の含有割合が30質量%以上70質量%以下である固形描画材は、着色性および塗り心地が良好であるとともに針入度が10以下であり、折れにくさも有するものであった。植物由来硬化油として菜種硬化油(実施例1,3~8)、パーム硬化油(実施例2)、ヒマシ硬化油(実施例9)を用いたものはいずれも、着色性および塗り心地が良好であるとともに針入度が10以下であった。
【0052】
[比較例1]~[比較例7]
[表3]、[表4]に示す配合としたほかは実施例1と同様の方法で、固形描画材を作製し、評価を行った。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
比較例1に示されるとおり、植物由来硬化油に代えて牛脂硬化油を用いた固形描画材は、塗り心地と針入度は良好だったが、着色性が不充分であった。また、パラフィンワックスを含まない比較例2も、着色性が不充分であった。また、ワックス成分中、植物由来硬化油を75質量%含有する比較例3は塗り心地の評価が×であり、植物由来硬化油の含有割合が25質量%である比較例4は着色量の評価が×であった。さらに、ワックス成分がマイクロクリスタリンワックスのみからなる比較例5は着色性が不足し、塗り心地も×であった。ワックス成分がパラフィンワックスのみからなる比較例6は針入度が過大であり、折れやすいものになった。ワックス成分が菜種硬化油のみからなる比較例7は塗り心地の評価が×であった。
【0056】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
この発明にかかる固形描画材は、色鉛筆の芯材などの描画用材料として特に有効に利用される。