(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046096
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】車両衝突試験装置
(51)【国際特許分類】
G01M 7/08 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
G01M7/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154802
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(74)【代理人】
【識別番号】100129377
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬川 耕司
(72)【発明者】
【氏名】北村 政裕
(57)【要約】
【課題】テスト車両を衝突対象に精度よく衝突させることができるとともに、ピット内から適正に撮影することが可能な車両衝突試験装置を提供する。
【解決手段】本発明の車両衝突試験装置は、テスト車両Tを衝突対象に対して衝突させる試験を行う車両衝突試験装置であって、牽引用ワイヤロープにより牽引されるドーリー装置と、連結用ワイヤロープを介してテスト車両に連結されるとともに、ドーリー装置に対して連結された状態とドーリー装置から切り離された状態とを取り得る牽引治具と、ドーリー装置をピットに向かって走行させる第1ガイドレールと、第1ガイドレールの下流側に配置され、ドーリー装置から切り離された牽引治具を走行させる第2ガイドレールとを備え、第2ガイドレールは、ピットの上方の少なくとも一部に設置されており、第2ガイドレールの幅が、第1ガイドレールの幅よりも小さい。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テスト車両を衝突対象に対して衝突させる試験を行う車両衝突試験装置であって、
牽引用ワイヤロープにより牽引されるドーリー装置と、
連結用ワイヤロープを介してテスト車両に連結されるとともに、前記ドーリー装置に対して連結された状態と前記ドーリー装置から切り離された状態とを取り得る牽引治具と、
前記ドーリー装置をピットに向かって走行させる第1ガイドレールと、
前記第1ガイドレールの下流側に配置され、前記ドーリー装置から切り離された前記牽引治具を走行させる第2ガイドレールとを備え、
前記第2ガイドレールは、前記ピットの上方の少なくとも一部に設置されており、
前記第2ガイドレールの幅が、前記第1ガイドレールの幅よりも小さいことを特徴とする車両衝突試験装置。
【請求項2】
前記第1ガイドレールには、前記牽引治具が連結された状態の前記ドーリー装置の走行速度を減速させるための第1ブレーキ装置が取り付けられており、
前記牽引治具は、前記第1ブレーキ装置により前記ドーリー装置の走行速度が減速された際に前記ドーリー装置から切り離されることを特徴とする請求項1に記載の車両衝突試験装置。
【請求項3】
前記ドーリー装置は、穴部を有するとともに、前記牽引治具は、前記穴部に嵌入可能なシャフトを有しており、
前記牽引治具は、前記シャフトが前記穴部に嵌入されることにより前記ドーリー装置に対して回転しないように連結されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両衝突試験装置。
【請求項4】
前記第2ガイドレールには、前記ドーリー装置から切り離された前記牽引治具の走行速度を減速させるための第2ブレーキ装置が取り付けられており、
前記テスト車両は、前記第2ブレーキ装置により前記牽引治具の走行速度が減速された際に前記牽引治具から切り離されることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の車両衝突試験装置。
【請求項5】
前記第2ブレーキ装置は、その下端部と前記第2ガイドレールとの間に配置されるブレーキパッドと、その上端部と前記第2ガイドレールとの間に配置される摩擦抵抗低減部材とを有していることを特徴とする請求項4に記載の車両衝突試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばテスト車両を衝突壁に衝突させたり、あるいは、2台のテスト車両を衝突させて、その損壊状況を試験したり、撮影したりするための車両衝突試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両衝突試験装置として、例えば、特許文献1には、テスト車両を衝突壁に衝突させる車両衝突試験装置が開示され、特許文献2には、2台のテスト車両を衝突(正面衝突など)させる車両衝突試験装置が開示されている。従来の車両衝突試験装置501は、
図13(a)および
図13(b)に示されるように、エンドレスの牽引用ワイヤロープWaで牽引することによって所定の速度で走行させたテスト車両T(T1)を、衝突壁あるいは、走行させたもう1台のテスト車両T2に衝突させて、その損壊状況を試験したり、撮影したりするための装置である。テスト車両Tは、連結用ワイヤロープWbを介してドーリー装置(スケータ)Dに連結されている。ドーリー装置Dは、クランプ装置を有しており、クランプ装置により牽引用ワイヤロープWaが咬合されている。
【0003】
そして、ウインチ(図示せず)等の駆動手段によって牽引用ワイヤロープWaが牽引されることにより、テスト車両Tは、ガイドレールGを走行するドーリー装置Dに引っ張られて直進走行する。テスト車両Tが所定の速度に達した時点で、ドーリー装置Dに取付けられたトリガレバー(図示せず)をガイドレールGの近傍に固定配置されたストライカ503に衝突させて、テスト車両Tと牽引用ワイヤロープWaを切り離し、テスト車両T(T1)を自走させて衝突壁あるいは、走行させたもう1台のテスト車両T2に衝突させる。なお、撮影機材等を設置するためのピット502は、衝突壁の直前、あるいは、テスト車両2台が衝突する地点の下方に位置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-65889号公報
【特許文献2】特開2002-340732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図13(a)および
図13(b)に示すように、従来の車両衝突試験装置501では、テスト車両T(T1)がピット502に到達するまでにテスト車両T(T1)の自走が開始されるため、ドーリー装置Dから切り離されたテスト車両T(T1)が拘束されずに走行する距離が長くなり、テスト車両T(T1)が左右方向にずれて衝突壁あるいは、走行させたもう1台のテスト車両T2に精度よく衝突させるのが困難である。
【0006】
そこで、ドーリー装置Dから切り離されたテスト車両T(T1)を左右方向にずれないように惰性走行させて衝突壁あるいは、走行させたもう1台のテスト車両T2に精度よく衝突させるためには、テスト車両T(T1)を衝突壁あるいは、走行させたもう1台のテスト車両T2の直前までドーリー装置Dにより拘束して牽引するのが好ましい。そのためには、
図14(a)および
図14(b)に示すように、ドーリー装置Dが走行するガイドレールGを、ピット502の上方にも設置する必要がある。なお、ピットの上方開口部は走行路面と面一な例えば透明または半透明のピットカバー(アクリル製のピットカバー)によって覆われており、ピットとこのピットカーバーを総称して、ここではアクリルピットと呼ぶ。また、中央衝突点は、2台のテスト車両が衝突する衝突点を示す。
【0007】
ドーリー装置Dは、上述したように、牽引用ワイヤロープWaを咬合するクランプ装置を有している。クランプ装置Cでは、例えば締め付けボルトの締め付けトルクにより牽引ワイヤロープWaが咬合される。その場合、十分な締め付け強度を得るためには、比較的大きい締め付けボルトを使用する必要があり、クランプ装置Cを小型化するのは困難である。
【0008】
そのため、ドーリー装置Dが走行するガイドレールGの幅が比較的大きくなり、ガイドレールGをピット502の上方に設置した場合、ピット502内から上方を撮影する際にガイドレールGが撮影の死角となり、適正に撮影することが困難な場合がある。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、テスト車両を衝突対象に精度よく衝突させることができるとともに、ピット内から適正に撮影することが可能な車両衝突試験装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係る車両衝突試験装置は、テスト車両を衝突対象に対して衝突させる試験を行う車両衝突試験装置であって、牽引用ワイヤロープにより牽引されるドーリー装置と、連結用ワイヤロープを介してテスト車両に連結されるとともに、前記ドーリー装置に対して連結された状態と前記ドーリー装置から切り離された状態とを取り得る牽引治具と、前記ドーリー装置をピットに向かって走行させる第1ガイドレールと、前記第1ガイドレールの下流側に配置され、前記ドーリー装置から切り離された前記牽引治具を走行させる第2ガイドレールとを備え、前記第2ガイドレールは、前記ピットの上方の少なくとも一部に設置されており、前記第2ガイドレールの幅が、前記第1ガイドレールの幅よりも小さいことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る車両衝突試験装置では、テスト車両を左右方向にずれないように惰性走行させて衝突対象に精度よく衝突させることができるとともに、ピットの上方に設置された第2ガイドレールの幅が小さいため、ピット内から上方を撮影する際に第2ガイドレールが撮影の死角となるのを抑制することができ、適正に撮影することができる。
【0012】
本発明に係る車両衝突試験装置において、前記第1ガイドレールには、前記牽引治具が連結された状態の前記ドーリー装置の走行速度を減速させるための第1ブレーキ装置が取り付けられており、前記牽引治具は、前記第1ブレーキ装置により前記ドーリー装置の走行速度が減速された際に前記ドーリー装置から切り離されることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る車両衝突試験装置では、ドーリー装置が第1ブレーキ装置に衝突したときの衝撃により、牽引治具をドーリー装置から容易に切り離すことができる。
【0014】
本発明に係る車両衝突試験装置において、前記ドーリー装置は、穴部を有するとともに、前記牽引治具は、前記穴部に嵌入可能なシャフトを有しており、前記牽引治具は、前記シャフトが前記穴部に嵌入されることにより前記ドーリー装置に対して回転しないように連結されることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る車両衝突試験装置では、牽引治具がドーリー装置に連結された状態である場合に、牽引治具が有するガイドローラが第1ガイドレールに接触するのを抑制することができる。そのため、ドーリー装置がテスト車両を牽引している際にドーリー装置が有するガイドローラに大きい負荷が作用するが、そのときに牽引治具が有するガイドローラにほとんど負荷が作用しない。よって、牽引治具のガイドローラの軸受けとして比較的強度の低いものを使用することができる。
【0016】
本発明に係る車両衝突試験装置において、前記第2ガイドレールには、前記ドーリー装置から切り離された前記牽引治具の走行速度を減速させるための第2ブレーキ装置が取り付けられており、前記テスト車両は、前記第2ブレーキ装置により前記牽引治具の走行速度が減速された際に前記牽引治具から切り離されることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る車両衝突試験装置では、牽引治具が第2ブレーキ装置に衝突したときの衝撃により、テスト車両を牽引治具から容易に切り離すことができる。
【0018】
本発明に係る車両衝突試験装置において、前記第2ブレーキ装置は、その下端部と前記第2ガイドレールとの間に配置されるブレーキパッドと、その上端部と前記第2ガイドレールとの間に配置される摩擦抵抗低減部材とを有していることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る車両衝突試験装置では、ドーリー装置から切り離された牽引治具が連結用ワイヤロープを介してテスト車両を牽引しており、牽引治具には、上方斜め後方に引っ張られる力が作用するが、第2減速装置8の下端部と第2ガイドレールとの間にブレーキパッドが取り付けられているため、牽引治具を容易に停止させることができる。また、第2減速装置8の上端部と第2ガイドレールとの間に摩擦抵抗低減部材が取り付けられているため、第2減速装置8の上端部が摩耗するのを低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、テスト車両を衝突対象に精度よく衝突させることができるとともに、ピット内から適正に撮影することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(a)及び
図1(b)は、本発明に係る車両衝突試験装置の全体概略図である。
【
図2】
図2(a)は、ドーリー装置Dの斜視図であり、
図2(b)は、ドーリー装置Dの正面図である。
【
図3】
図3(a)は、牽引治具Nの斜視図であり、
図3(b)は、牽引治具Nの正面図である。
【
図4】
図4(a)は、ドーリー装置D及び牽引治具Nが連結された状態を示す斜視図であり、
図4(b)は、ドーリー装置D及び牽引治具Nが連結された状態を示す正面図である。
【
図5】
図5(a)は、牽引治具Nがドーリー装置Dから切り離された状態を示す斜視図であり、
図5(b)は、牽引治具Nがドーリー装置Dから切り離された状態を示す正面図である。
【
図8】
図8(a)は、ドーリー装置Dから切り離された状態の牽引治具Nの斜視図であり、
図8(b)は、牽引治具Nが第2ガイドレールGbを走行する状態を示す平面図である。
【
図9】
図9(a)及び
図9(b)は、第1ガイドレールGa及び第2ガイドレールGbの平面図である。
【
図10】
図10(a)は、第1ブレーキ装置6の模式断面図であり、
図10(b)は、第2ブレーキ装置8の模式断面図である。
【
図11】
図11(a)~
図11(c)は、ドーリー装置D及び牽引治具Nの動作を説明する図である。
【
図12】
図12(a)及び
図12(b)は、ドーリー装置D及び牽引治具Nの動作を説明する図である。
【
図14】
図14(a)及び
図14(b)は、従来の車両衝突試験装置のガイドレールGaの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態の車両衝突試験装置について、図面を参照して説明する。
【0023】
本実施形態の車両衝突試験装置1は、
図1(a)および
図1(b)に示すように、エンドレスの牽引用ワイヤロープWaで牽引することによって所定の速度で走行させたテスト車両T(T1)を衝突対象である衝突壁あるいは、テスト車両T1に向かって走行するもう1台のテスト車両T2に衝突させて、その損壊状況を試験したり撮影したりするための装置である。撮影機材等が設置されているピット2は、衝突壁の直前、あるいは、テスト車両T1とテスト車両T2が衝突する衝突点の下方に位置する。
【0024】
車両衝突試験装置1は、テスト車両T(T1)を牽引するためのドーリー装置Dと、ドーリー装置Dの上面に連結される牽引治具Nと、衝突対象に衝突したときのテスト車両T(T1)、T2の損壊状況を撮影するためのピット2と、ピット2に向かうドーリー装置Dが走行する第1ガイドレールGaと、ピット2の上方に設置された第2ガイドレールGbとを有している。
【0025】
第1ガイドレールGaには、牽引用ワイヤロープWaをドーリー装置Dから切り離すために使用されるストライカ3と、牽引治具Nをドーリー装置Dから切り離すために使用される第1ブレーキ装置6とが取り付けられている。また、第2ガイドレールGbには、テスト車両T(T1)と接続される連結用ワイヤロープWbを牽引治具Nから切り離すために使用される第2ブレーキ装置8が取り付けられている。
【0026】
【0027】
ドーリー装置Dは、略直方体形状のベース板10を有し、ベース板10の上面には、4本のガイドローラ11が回転自在にして取付けられている。4本のガイドローラ11は、ベース板10の長手方向(ドーリー装置Dの前後方向)の両端部に取付けられている。4本のガイドローラ11は、ドーリー装置Dの幅方向の両端部においてベース板10から少し突出した状態で千鳥状に配置される。4本のガイドローラ11の上方は、カバー板12により覆われている。
【0028】
ベース板10の上面の長手方向中央部には、上方に向かって突出する直方体形状の突部16が形成されている。突部16には、前後方向に延びる2つの円筒穴16aが形成される。各円筒穴16aは、牽引治具Nが連結されるために使用されるものである。2つの円筒穴16aは、同一の高さにおいて所定距離離れた状態で平行に配置される。
【0029】
【0030】
牽引治具Nは、
図3に示すように、略直方体形状のベース板30を有し、ベース板30の上面には、4本のガイドローラ31が回転自在にして取付けられている。4本のガイドローラ31は、ベース板30の長手方向(牽引治具Nの前後方向)の両端部に取り付けられている。4本のガイドローラ31は、牽引治具Nの幅方向の両端部においてベース板30から少し突出した状態で千鳥状に配置される。4本のガイドローラ31の上方は、カバー板32により覆われている。
【0031】
カバー板32の上面の後端部には、テスト車両T(T1)を連結する連結用ワイヤロープWbを引っ掛けるための一対の連結ブラケット33が形成されている。一対の連結ブラケット33は、牽引治具Nの長手方向に沿って並列状態で配置される。各連結ブラケット33は、開口部分33aを有しており、それらの開口部分33aに連結用ワイヤロープWbが収容される。
【0032】
牽引治具Nの後端部には、前後方向に延びる2つのシャフト35が形成される。各シャフト35は、略円柱形状であり、その外径は、ドーリー装置Dの突部16に形成された2つの円筒穴16aの内径と略同一である。2つのシャフト35は、同一の高さにおいて所定距離離れた状態で平行に配置される。2つのシャフト35は、ドーリー装置Dの突部16に形成された2つの円筒穴16aにそれぞれ嵌入可能である。
【0033】
そのため、牽引治具Nは、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、シャフト35がドーリー装置Dの円筒穴16aに嵌入されてドーリー装置Dの上面に連結された状態と、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、シャフト35がドーリー装置Dの円筒穴16aに嵌入されなくなりドーリー装置Dの上面から切り離された状態とを取り得る。
【0034】
上述したように、牽引治具Nの2つの連結シャフト35がドーリー装置Dの突部16に形成された2つの円筒穴16aにそれぞれ嵌入されることにより、牽引治具Nがドーリー装置Dの上面に連結された状態において、牽引治具Nは、ドーリー装置Dに対して回転しないように構成される。
【0035】
第1ガイドレールGaについて、
図6に基づいて説明する。
図6では、ドーリー装置D及びそれに連結された牽引治具Nが走行する部分が図示されている。
【0036】
第1ガイドレールGaは、二段式に形成されており、ドーリー装置Dが配置される下側ガイドレールGa1と、その上面に配置され、牽引治具Nが配置される上側ガイドレールGa2とを有している。上側ガイドレールGa2の上面が、床面(テスト車両T(T1)の走行面)と同一になるように埋設状態で設置されている。
【0037】
なお、ドーリー装置Dのベース板10の下端部には、
図6に示すように、クランプ装置Cを構成する一対の咬合体18a,18bを接近・離間させ、牽引用ワイヤロープWaをクランプしたり、そのクランプ状態を解除するためのトリガレバー20が設けられている。そのため、一対の咬合体18a,18bの間に牽引ワイヤロープWaが咬合状態で保持された状態で、ドーリー装置Dが走行して第1ガイドレールGaの所定位置に達すると、トリガレバー20が第1ガイドレールGaの内側面に取付けられたストライカ3に衝突する。すると、トリガレバー20が回動して、一対の咬合体18a,18bが開かれて、牽引ワイヤロープWaの咬合状態は解除される。
【0038】
まず、下側ガイドレールGa1について説明する。下側ガイドレールGa1は、一対の溝形鋼50が、所定の間隔をおいて対向して設置されたものである。一対の溝形鋼50の間には、テスト車両T(T1)を牽引するためのエンドレスの牽引用ワイヤロープWaが設置されている。
図6では、牽引用ワイヤロープWaが、ドーリー装置Dのクランプ装置Cにクランプされる状態を示している。
【0039】
一対の溝形鋼50の間(各溝形鋼50における上下のフランジ部50a)には、幅方向に一定の間隔を有する開口部が設けられており、その上側の開口部にドーリー装置Dが配置される。すなわち、ドーリー装置Dの4本のガイドローラ11が、第1ガイドレールGaの上側のフランジ部50a(上側の開口部)に嵌まり込むことにより、ドーリー装置Dが下側ガイドレールGa1(第1ガイドレールGa)に配置される。
【0040】
上側ガイドレールGa2について説明する。上側ガイドレールGa2は、一対の上側ガイドレール単体51が、所定の間隔をおいて対向して設置されたものである。一対の上側ガイドレール単体51は、設置される向きが反対であることを除いてほぼ同一構成であるため、一方側(
図6の図面視における右側)の上側ガイドレール単体51についてのみ説明する。
【0041】
上側ガイドレール単体51は、下側ガイドレールGa1の一対の溝形鋼50の上面に設置されている。上側ガイドレール単体51は、床面(テスト車両T(T1)の走行面)と同一面となる上板部52と、上板部52を下側ガイドレールGa1の溝形鋼50の上面から離間させるために上板部52の底面部にほぼ直角に取り付けられた4枚の起立板部53とを有している。起立板部53は、上板部52の幅方向(上側ガイドレールGa2の長さ方向と直交する方向)の一端部と、上板部52の幅方向のほぼ中間部とに配置されている。
【0042】
一対の上側ガイドレール単体51の上板部52の間には、幅方向に一定の間隔を有する開口部が設けられており、その開口部に牽引治具Nが配置される。牽引治具Nは、ドーリー装置Dの上面に連結された状態において、上側ガイドレール単体51とほとんど接触しない。
【0043】
第2ガイドレールGbについて、
図7に基づいて説明する。
図7では、牽引治具Nが走行する部分が図示されている。
【0044】
第2ガイドレールGbは、上側が開口した溝形鋼60が埋設されたものである。溝形鋼60の上側のフランジ部60aには、幅方向に一定の間隔を有する開口部が設けられており、その開口部に牽引治具Nが配置される。すなわち、
図8に示すように、牽引治具Nの4本のガイドローラ31が、第2ガイドレールGbの上側のフランジ部60a(上側の開口部)に嵌まり込むことにより、牽引治具Nが第2ガイドレールGbに配置される。牽引治具Nは、第2ガイドレールGbに対して上下方向及び幅方向に移動が規制された状態で配置される。なお、
図8(b)では、カバー板32の図示を省略している。
【0045】
第2ガイドレールGbは、
図9に示すように、ピット2の長手方向全域に設置されている。第1ガイドレールGaの幅は、第1所定幅t1であるのに対して、第2ガイドレールGbの幅は、第2所定幅t2であり、第1ガイドレールGaの第1所定幅t1よりも小さい。そのため、本実施形態の車両衝突試験装置1では、ピット2に設置される第2ガイドレールGbの第2所定幅t2が、
図14に示す従来の車両衝突試験装置501のように、ピット502に設置されるガイドレールGの幅と比較して小さくなる。
【0046】
第1ガイドレールGaに取り付けられた第1ブレーキ装置6について、
図10(a)に基づいて説明する。
【0047】
第1ブレーキ装置6は、上下の各ブレーキパッド6aが第1ガイドレールGaの下側ガイドレールGa1を上下から挟み込んで押圧することにより、所定の押圧力(ブレーキ力)がかけられた状態で下側ガイドレールGa1に取り付けられる。第1ブレーキ装置6は、ドーリー装置Dを衝突させて、上下の各ブレーキパッド6aと下側ガイドレールGa1との間に生じるすべり摩擦抵抗に抗してドーリー装置Dと一体に走行することにより、ドーリー装置Dの運動エネルギーを吸収して停止させるものである。
【0048】
牽引ワイヤロープWaとの連結が解除され、惰性走行するドーリー装置Dは、第1ブレーキ装置6に衝突する。ドーリー装置Dの衝突力が第1ブレーキ装置6のブレーキ力(第1ブレーキ装置6のブレーキパッド6aの押圧力)を超えると、第1ブレーキ装置6は、ドーリー装置Dと一体になって前進させられる。第1ブレーキ装置6には、常にブレーキ力が作用しているため、ドーリー装置Dの走行速度は徐々に低下して停止する。
【0049】
なお、第1ガイドレールGaにおいて第1ブレーキ装置6よりも下流側には、
図9に示すように、ドーリー装置Dと一体になって前進する第1ブレーキ装置6を停止させるための第1停止装置6Aが取り付けられている。第1停止装置6Aは、ドーリー装置Dが衝突したときの衝撃を吸収するための緩衝材(例えばゴム材、ハニカム材など)を有している。そのため、ドーリー装置Dが第1ブレーキ装置6により停止しない場合でも、ドーリー装置Dは、第1停止装置6Aの緩衝材に衝突して停止する。
【0050】
第2ガイドレールGbに取り付けられた第2ブレーキ装置8について、
図10(b)に基づいて説明する。
【0051】
第2ブレーキ装置8は、下面に取り付けられたブレーキパッド8aが第2ガイドレールGbを上方から押圧することにより、所定の押圧力(ブレーキ力)がかけられた状態で第2ガイドレールGbに取り付けられる。第2ブレーキ装置8は、牽引治具Nを衝突させて、ブレーキパッド8aと第2ガイドレールGbとの間に生じるすべり摩擦抵抗に抗して牽引治具Nと一体に走行することにより、牽引治具Nの運動エネルギーを吸収して停止させるものである。
【0052】
ドーリー装置Dとの連結が解除され、惰性走行する牽引治具Nは、第2ブレーキ装置8に衝突する。牽引治具Nの衝突力が第2ブレーキ装置8のブレーキ力(第2ブレーキ装置8のブレーキパッド8aの押圧力)を超えると、第2ブレーキ装置8は、牽引治具Nと一体になって前進させられる。第2ブレーキ装置8には、常にブレーキ力が作用しているため、牽引治具Nの走行速度は徐々に低下して停止する。
【0053】
ドーリー装置Dから切り離された牽引治具Nは、連結用ワイヤロープWbを介してテスト車両T(T1)を牽引しており、牽引治具Nには、上方斜め後方に引っ張られる力が作用する。そのため、第2ブレーキ装置8の下面にブレーキパッド8aが取り付けられているのに対して、第2ブレーキ装置8の上面には、第2ガイドレールGbとの間に摩擦抵抗が作用しないように樹脂製部材8bが取り付けられている。
【0054】
なお、第2ガイドレールGbにおいて第2ブレーキ装置8よりも下流側には、
図9に示すように、牽引治具Nと一体になって前進する第2ブレーキ装置8を停止させるための第2停止装置8Aが取り付けられている。第2停止装置8Aは、牽引治具Nが衝突したときの衝撃を吸収するための緩衝材(例えばゴム材、ハニカム材など)を有している。そのため、牽引治具Nが第2ブレーキ装置8により停止しない場合でも、牽引治具Nは、第2停止装置8Aの緩衝材に衝突して停止する。
【0055】
本実施形態の車両衝突試験装置1のドーリー装置D及び牽引治具Nの動作について、
図11及び
図12に基づいて説明する。
【0056】
まず、
図11(a)に示すように、ウインチ(図示せず)等の駆動手段によって牽引用ワイヤロープWaが牽引されることにより、ドーリー装置D及びその上面に連結された牽引治具Nが牽引用ワイヤロープWaに牽引される。そのとき、テスト車両T(T1)が連結用ワイヤロープWbにより牽引治具Nに接続されているため、テスト車両(T1)Tがドーリー装置D及び牽引治具Nに引っ張られて第1ガイドレールGaを直進走行する。
【0057】
その後、テスト車両T(T1)が所定の速度に達した時点で、
図11(b)に示すように、ドーリー装置Dに取付けられたトリガレバーをストライカに衝突して、ドーリー装置Dが牽引用ワイヤロープWaから切り離される。
【0058】
ドーリー装置Dが、
図11(c)に示すように、第1ガイドレールGaに取り付けられた第1ブレーキ装置6に接触すると、ドーリー装置Dの走行速度が減速する。すると、ドーリー装置Dの上面に連結されていた牽引治具Nが慣性力により前方に移動するため、牽引治具Nがドーリー装置Dから切り離される。第1ブレーキ装置6に接触したドーリー装置Dは、第1ブレーキ装置6と接触した状態で減速しながら走行した後で停止する。
【0059】
ドーリー装置Dから切り離された牽引治具Nは、
図12(a)に示すように、第1ガイドレールGaを走行した後、第2ガイドレールGbに進入する。そのとき、テスト車両T(T1)が連結用ワイヤロープWbにより牽引治具Nに接続されているため、テスト車両T(T1)も第2ガイドレールGbに沿って直進走行する。
【0060】
その後、牽引治具Nが、
図12(b)に示すように、第2ガイドレールGbの衝突対象の近くに取り付けられた第2ブレーキ装置8に接触すると、牽引治具Nの走行速度が減速する。すると、テスト車両T(T1)が慣性力により前方に移動するため、テスト車両T(T1)が牽引治具Nから切り離されて、テスト車両T(T1)のみが自走して衝突対象に衝突する。
【0061】
本実施形態の車両衝突試験装置1は、テスト車両T(T1)を衝突対象に対して衝突させる試験を行う車両衝突試験装置であって、牽引用ワイヤロープWaにより牽引されるドーリー装置Dと、連結用ワイヤロープWbを介してテスト車両T(T1)に連結されるとともに、ドーリー装置Dに対して連結された状態とドーリー装置Dから切り離された状態とを取り得る牽引治具Nと、ドーリー装置Dをピット2に向かって走行させる第1ガイドレールGaと、第1ガイドレールGaの下流側に配置され、ドーリー装置Dから切り離された牽引治具を走行させる第2ガイドレールGbとを備え、第2ガイドレールGbは、ピット2の上方の少なくとも一部に設置されており、第2ガイドレールGbの幅が、第1ガイドレールGaの幅よりも小さいことを特徴とする。
【0062】
本実施形態の車両衝突試験装置1では、テスト車両T(T1)を左右方向にずれないように惰性走行させて衝突対象に精度よく衝突させることができるとともに、ピット2の上方に設置された第2ガイドレールGbの幅が小さいため、ピット2内から上方を撮影する際に第2ガイドレールGbが撮影の死角となるのを抑制することができ、適正に撮影することができる。
【0063】
本実施形態の車両衝突試験装置1において、第1ガイドレールGaには、牽引治具Nが連結された状態のドーリー装置Dの走行速度を減速させるための第1ブレーキ装置6が取り付けられており、牽引治具Nは、第1ブレーキ装置6によりドーリー装置Dの走行速度が減速された際にドーリー装置Dから切り離される。
【0064】
本実施形態の車両衝突試験装置1では、ドーリー装置Dが第1ブレーキ装置6に衝突したときの衝撃により、牽引治具Nをドーリー装置Dから容易に切り離すことができる。
【0065】
本実施形態の車両衝突試験装置1において、ドーリー装置Dは、穴部16aを有するとともに、牽引治具Nは、穴部16aに嵌入可能なシャフト35を有しており、牽引治具Nは、シャフト35が穴部16aに嵌入されることによりドーリー装置Dに対して回転しないように連結される。
【0066】
本実施形態の車両衝突試験装置1では、牽引治具Nがドーリー装置Dに連結された状態である場合に、牽引治具Nが有するガイドローラ31が第1ガイドレールGaに接触するのを抑制することができる。そのため、ドーリー装置Dがテスト車両T(T1)を牽引している際にドーリー装置Dが有するガイドローラ11に大きい負荷が作用するが、そのときに牽引治具Nが有するガイドローラ31にほとんど負荷が作用しない。よって、牽引治具Nのガイドローラ31の軸受けとして比較的強度の低いものを使用することができる。
【0067】
本実施形態の車両衝突試験装置1において、第2ガイドレールGbには、ドーリー装置Dから切り離された牽引治具Nの走行速度を減速させるための第2ブレーキ装置8が取り付けられており、テスト車両T(T1)は、第2ブレーキ装置8により牽引治具Nの走行速度が減速された際に牽引治具Nから切り離される。
【0068】
本実施形態の車両衝突試験装置1では、牽引治具Nが第2ブレーキ装置8に衝突したときの衝撃により、テスト車両T(T1)を牽引治具Nから容易に切り離すことができる。
【0069】
本実施形態の車両衝突試験装置1において、第2ブレーキ装置8は、その下端部と第2ガイドレールGbとの間に配置されるブレーキパッド8aと、その上端部と第2ガイドレールGbとの間に配置される樹脂製部材8bとを有している。
【0070】
本実施形態の車両衝突試験装置1では、ドーリー装置Dから切り離された牽引治具Nが連結用ワイヤロープWbを介してテスト車両Tを牽引しており、牽引治具Nには、上方斜め後方に引っ張られる力が作用するが、第2ブレーキ装置8の下端部と第2ガイドレールGbとの間にブレーキパッド8aが取り付けられているため、牽引治具Nを容易に停止させることができる。また、第2ブレーキ装置8の上端部と第2ガイドレールGbとの間に樹脂製部材8bが取り付けられているため、第2ブレーキ装置8の上端部が摩耗するのを低減することができる。
【0071】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【0072】
例えば上記実施形態では、第2ガイドレールGbがピット2の長手方向全域に設置されているが、それに限られない。第2ガイドレールGbは、ピット2の上方の少なくとも一部に設置されている場合に、本発明の効果が得られる。
【0073】
上記実施形態では、牽引治具Nが、第1ブレーキ装置6によりドーリー装置Dの走行速度が減速された際にドーリー装置Dから切り離されるが、それに限られない。牽引治具Nをドーリー装置Dから切り離す方法は任意である。
【0074】
上記実施形態では、牽引治具Nが、そのシャフト35が穴部16aに嵌入されることによりドーリー装置Dに対して連結されるが、それに限られない。牽引治具Nをドーリー装置Dに連結する方法は任意である。
【0075】
上記実施形態では、牽引治具Nが、その2つのシャフト35が2つの穴部16aに嵌入されることによりドーリー装置Dに対して回転しないように連結されるが、それに限られない。牽引治具Nをドーリー装置Dに対して回転しないように連結する方法は任意である。また、牽引治具Nが、ドーリー装置Dに対して回転しないように連結されなくてもよい。
【0076】
上記実施形態では、テスト車両T(T1)が、第2ブレーキ装置8により牽引治具Nの走行速度が減速された際に牽引治具Nから切り離されるが、それに限られない。テスト車両T(T1)を牽引治具Nから切り離す方法は任意である。
【0077】
上記実施形態では、第2ブレーキ装置8が、その下面に取り付けられたブレーキパッド8aと、その上面に取り付けられた樹脂製部材8bとを有しており、ブレーキパッド8aが第2ガイドレールGbを上方から押圧することにより所定の押圧力(ブレーキ力)がかけられるが、それに限られない。
【0078】
例えば、第2ブレーキ装置8が、第1ブレーキ装置6と同様に、上下の各ブレーキパッドが第2ガイドレールGbを上下から挟み込んで押圧することにより所定の押圧力(ブレーキ力)がかけられてもよい。その場合、第2ブレーキ装置8の上面に樹脂製部材8bは取り付けられない。
【0079】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の
趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 車両衝突試験装置
2 ピット
3 ストライカ
6 第1ブレーキ装置
8 第2ブレーキ装置
16a 穴部
35 シャフト
T、T1、T2 テスト車両
D ドーリー装置
N 牽引治具
Ga 第1ガイドレール
Gb 第2ガイドレール
Wa 牽引用ワイヤロープ
Wb 連結用ワイヤロープ