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特開2023-46187ブラインド信号分離方法およびその装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046187
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】ブラインド信号分離方法およびその装置
(51)【国際特許分類】
   G10L 21/028 20130101AFI20230327BHJP
【FI】
G10L21/028 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021172716
(22)【出願日】2021-09-22
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】509257961
【氏名又は名称】齋藤 晋哉
(71)【出願人】
【識別番号】506178874
【氏名又は名称】大石 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 晋哉
(72)【発明者】
【氏名】大石 邦夫
(57)【要約】      (修正有)
【課題】入手できるデータ数が制限されている場合でも、演算量を増加させることなく、未知信号源信号を高い精度で推定するブラインド信号分離方法及びその装置を提供する。
【解決手段】方法は、未知信号源の個数よりも観測点の個数が多いオーバーディターミンド混合系において観測信号の共分散行列の推定値から信号空間を求め、これを分離行列の初期値に設定すると同時に、対象行列を信号空間に写像し、インダイレクト・ダイレクト型最小2乗型同時対角化問題を逐次的に解法することによって対角行列、残差分離行列、残差混合行列を交互に推定する。ディターミンド混合系の解法と同等な演算量で、低信号対雑音比の環境であっても分離性能を向上させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに統計的に独立な未知信号源信号と未知の混合系により、未知信号源の個数よりも観測点の個数が多いオーバーディターミンド混合において複数の未知信号源信号が混在した観測信号のみからブラインドで分離行列を推定する方法であって、最小2乗型同時対角化問題において対象行列を対角化するために残差分離行列を推定する過程と残差対角化行列を推定する過程、対角行列を推定する順に繰り返す方法で、対象行列の平均値から信号空間を張る正規直交基底を求め、これを分離行列の初期値に設定することによって対象行列を信号空間に写像してディターミンド混合と同じ次元で最小2乗型同時対角化問題を解法でき、オーバーディターミンド混合であっても演算量を削減できることが特徴であり、インダイレクト型最小2乗評価量を最小とする対角行列を推定した後、混合行列の列ベクトルのノルムが1になることを制約条件に課したダイレクト型最小2乗評価量を最小とする残差混合行列を推定し、残差混合行列の条件数が平均対象行列の条件数より大きい場合は、混合行列の条件数が小さくなるように混合行列の全ての特異値に正の定数を加算した後、一般化逆行列を用いて残差混合行列から残差分離行列を算出し、収束するまでインダイレクト型最小2乗評価量とダイレクト型最小2乗評価量の最小化問題の解法を交互に繰り返し、反復終了基準が誤差の限界を下回った後、全ての残差分離行列と分離行列の初期値を乗算することによって分離行列を推定することを特徴とするブラインド信号分離方法。
【請求項2】
請求項1記載の最小2乗型同時対角化問題の解法を用いたブラインド信号分離方法において、反復毎に対角化された対象行列の平均値から求めた条件数を残差混合行列の条件数の改善判定に用い、残差混合行列の条件数をできる限り小さくすることを特徴とする適応ブラインド信号分離方法。
【請求項3】
請求項1乃至請求項2のいずれか1項に記載の最小2乗型同時対角化問題の解法を用いたブラインド信号分離方法において、対象行列の平均値から信号空間を張る正規直交基底を求め、これを分離行列の初期値に設定することによって対象行列を信号空間に写像してディターミンド混合と同じ次元で最小2乗型同時対角化問題を解法でき、オーバーディターミンド混合であっても演算量を削減でき、対象行列から雑音成分を低減することができることから低信号対雑音比の環境であっても高い分離性能が得られることを特徴とする適応ブラインド信号分離方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のブラインド信号分離方法を用いて信号源分離を行うように構成されていることを特徴とするブラインド信号分離方法を用いたブラインド信号分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未知の混合系により混在した互いに統計的に独立な未知信号源信号を、観測信号のみから推定するブラインド信号分離方法に係わり、特に、最小2乗型同時対角化問題の解法を用いて高い精度で信号を分離することができるブラインド信号分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
未知の混合系により複数の未知信号源信号が混在されて観測されるとき、観測信号を分離して混在前の未知信号源信号を推定する処理をブラインド信号分離という。ブラインド信号分離では、未知信号源信号間の統計的独立性のみを条件として、観測信号から未知信号源信号を推定する方法であり、信号源の位置或いは観測信号の到来方向の推定を必ずしも必要としない方法である。
【0003】
最小2乗型同時対角化問題の解法を用いたブラインド信号分離方法が非特許文献3から非特許文献6で提案されている。これらの方法は、最小2乗型同時対角化問題の解法による混合行列の推定、最小2乗型一般化逆行列を用いた混合行列からの分離行列の推定の解法の手順から成る。
【先行技術論文】
【0004】
【非特許文献1】G.H.Cheng,S.M.Li,and E.Moreau,“New Jacobi-like algorithms for non-orthogonal joint diagonalization of Hermitian matrices,”Signal Process.,vol.128,pp.440-448,2016.
【非特許文献2】C.Osterwise and S.L.Grant,“On over-determined frequency domain BSS,”IEEE Trans.Audio Speech,Lang.Process.,vol.22,no.5,pp.956-966,May 2014.
【非特許文献3】P.Tichavsky and A.Yeredor,“Fast approximate joint diagonalization incorporating weight matrices,”IEEE Trans.Signal Process.,vol.57,no.3,pp.878-891,Mar.2009.
【非特許文献4】A.Yeredor,“Non-orthogonal joint diagonalization in the least-squares sense with application in blind source separation,”IEEE Trans.Signal Process.,vol.50,no.7,pp.1545-1553,July 2002.
【非特許文献5】S.Degerine and E.Kame,“A comparative study of approximate joint diagonalization algorithms for blind source separation in presence of additive noise,”IEEE Trans.Signal Process.,vol.55,no.6,pp.3022-3031,June 2007.
【非特許文献6】H.Ghennioui,E.M.Fadaili,N.Thirion-Moreau,A.Adib,and E.Moreau,“A nonu nitary joint block diagonalization algorithm for blind separation of convolutive mixtures of sources,”IEEE Signal Process.Lett.,vol.14,no.11,pp.860-863,Nov.2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
同時対角化問題とは、与えられた複数の対象行列を対角行列に変換するための対角化行列を求める問題である。一般に、与えられた対象行列の個数が多いほど、推定精度の高い対角化行列を求めることができるが、演算コストが増大することが問題となっている。また、一般の応用では、評価の対象となる対象行列の個数が制限されていることが多く、推定精度の高い対角化行列を求めることが難しい。
【0006】
同時対角化問題をブラインド信号分離に導入するためには、同時対角化問題の対象になる対象行列の個数を増加させることなく、推定精度の高い対角化行列が求められることが望まれる。
【0007】
従来のブラインド信号分離方法で使用されている最小2乗型同時対角化問題の解法は、実環境下で十分な信号分離精度を得ることができるが、解法手順が収束に要する演算量が多く、演算コストが増大することが問題となっている。
【0008】
反復型同時対角化問題の解法では、対角化行列と対角行列が交互に推定される。最小2乗型同時対角化問題の解法では、対角化行列の解法と対角行列の解法に逆行列をそれぞれ使用している。ところで、ある行列から、その逆行列を計算する際、行列の条件数が小さいと数値的に安定な逆行列が求められることが証明されている。最小2乗型同時対角化問題の解は評価量を最小とする解であるが、推定した混合行列の条件数が最小になることは保証されていないため、反復回数の増加、不十分な分離性能の要因となっている。
【0009】
本発明はこのような事情を鑑みてなされたものであり、同時対角化問題の対象になる対象行列の個数が制限された場合において、信号分離精度を損なうことなく、少ない演算量で最小2乗型同時対角化問題の解法を用いて、分離行列を推定するブラインド信号分離方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的に応えるために本発明(請求項1記載の発明)に係るブラインド信号分離方法は、互いに統計的に独立な未知信号源信号と未知の混合系により、未知信号源の個数よりも観測点の個数が多いオーバーディターミンド混合において複数の未知信号源信号が混在した観測信号のみからブラインドで分離行列を推定する方法であって、最小2乗型同時対角化問題において対象行列を対角化するために残差分離行列を推定する過程と残差対角化行列を推定する過程、対角行列を推定する順に繰り返す方法で、対象行列の平均値から信号空間を張る正規直交基底を求め、これを分離行列の初期値に設定することによって対象行列を信号空間に写像してディターミンド混合と同じ次元で最小2乗型同時対角化問題を解法でき、オーバーディターミンド混合であっても演算量を削減できることが特徴であり、インダイレクト型最小2乗評価量を最小とする対角行列を推定した後、混合行列の列ベクトルのノルムが1になることを制約条件に課したダイレクト型最小2乗評価量を最小とする残差混合行列を推定し、残差混合行列の条件数が平均対象行列の条件数より大きい場合は、混合行列の条件数が小さくなるように混合行列の全ての特異値に正の定数を加算した後、一般化逆行列を用いて残差混合行列から残差分離行列を算出し、収束するまでインダイレクト型最小2乗評価量とダイレクト型最小2乗評価量の最小化問題の解法を交互に繰り返し、反復終了基準が誤差の限界を下回った後、全ての残差分離行列と分離行列の初期値を乗算することによって分離行列を推定することを特徴とすることを特徴とする。
【0011】
本発明(請求項2記載の発明)に係るブラインド信号分離方法は、反復毎に対角化された対象行列の平均値から求めた条件数を残差混合行列の条件数の改善判定に用い、残差混合行列の条件数をできる限り小さくすることを特徴とする。
【0012】
本発明(請求項3記載の発明)に係るブラインド信号分離方法は、対象行列の平均値から信号空間を張る正規直交基底を求め、これを分離行列の初期値に設定することによって対象行列を信号空間に写像してディターミンド混合と同じ次元で最小2乗型同時対角化問題を解法でき、オーバーディターミンド混合であっても演算量を削減でき、対象行列から雑音成分を低減することができることから低信号対雑音比の環境であっても高い分離性能が得られることを特徴とする。
【0013】
すなわち、本発明によれば、未知信号源の個数よりも観測点の個数が多いオーバーディターミンド混合系を採用すると、同時対角化問題の対象になる対象行列の個数が制限されている場合においても精度良く分離行列を推定することができ、インダイレクト・ダイレクト型最小2乗型同時対角化問題の解法によって演算量を低減させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、未知信号源の個数よりも観測点の個数が多いオーバーディターミンド混合系を採用することによって、同時対角化問題の対象になる対象行列の個数が制限されている場合においても精度良く分離行列を推定することができるという効果がある。
【0015】
また、本発明に係るブラインド信号分離方法及びその装置では、ダイレクト型最小2乗型同時対角化問題に、混合行列の列ベクトルのノルムが1になること、混合行列の推定に用いられる行列の条件数が小さくすることをそれぞれ制約条件として加え、この問題をラグランジュの未定乗数を導入して反復することなく解法することによって、演算量が増加することなく混合行列を精度良く推定できるという効果がある。
【0016】
更に、本発明に係るブラインド信号分離方法及びその装置では、制約条件付きダイレクト型最小2乗型同時対角化問題の解法によって推定した混合行列の条件数が観測信号の共分散行列の条件数より大きい場合は、混合行列の条件数が小さくなるように混合行列の全ての特異値に正の定数を加算した後、一般化逆行列を用いて混合行列から分離行列を算出することによって、少ない反復回数で精度良く対角行列を推定できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】 本発明に係る適応ブラインド信号分離方法の実施の形態を示す図である。
図2】 本発明に係るブラインド信号分離方法において最小2乗型同時対角化問題の対角行列、並びに分離行列の解法について説明するためのフローチャートである。
図3】 本発明に係るブラインド信号分離方法の実施例1における信号対雑音比対分離性能を既存の方法と比較する図である。
図4】 本発明に係るブラインド信号分離方法の実施例2における対象行列の次元対分離性能、及び、演算時間を既存の方法と比較する図である。
図5】 実施例3における本発明に係るブラインド分離方法の反復回数対分離性能を既存の方法と比較する図である。
図6】 本発明に係るブラインド信号分離方法の実施例4における対象行列の個数対分離性能、及び、演算時間を既存の方法と比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るブラインド信号分離方法の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
1.混合過程と最小2乗型同時対角化問題
図1に示すように、時刻tにおいてN個の信号源11、12、…、1Nから発せられた信号源信号s(t)が混合されてx(t)として観測される。s(t)は平均0で互いに統計的独立な非定常信号である。hij(t)は信号源1jからセンサ2iまでの経路の時不変な応答である。また、n(t)はセンサ2iに加わる平均0、分散σのガウス性白色雑音で、s(t)と統計的独立である。時刻tにおいてJ個のセンサ21、22、…、2Jで観測される観測信号x(t)は式(1)で表される。ここで、J≧N≧2とする。分離行列をWで表記すると、ベクトル表記で分離信号y(t)は式(5)によって表される。
【0020】
【数1】
ここで、上付き添字Tは転置を表す。
【0021】
J×Nは混合行列、P(m)∈RN×Nは対角行列、は複素共役転置、Q(m)∈CJ×Jは加法性雑音、または、推定誤差をそれぞれ表す。P(m)とQ(m)は互いに統計的に独立であると仮定する。J=N≧2であるとき、混合過程をディターミンド、J>N≧2であるとき、混合過程をオーバーディターミンドという。P(m)、T(m)、Q(m)は式(6)、(7)、(8)で定義される。
【0022】
同時対角化問題は、式(10)のダイレクト型二乗誤差評価量を最小にすることによっ
スノルムを表す。
【0023】
オーバーディターミンド混合過程のブラインド信号源分離は分離性能が高いことであるが、高次元の対角化対象行列の同時対角化問題解法となるため演算量が増大する。
【0024】
同時対角化問題の解法には、式(11)のインダイレクト型二乗誤差評価量を最小にすることによって対象行列の分離行列W∈CN×Jを求める方法もある。オーバーディターミンド混合過程では、対象行列に分離行列を左側から、分離行列の複素共役転置行列を右側からそれぞれ乗算すると、対象行列の次元を削減することができる。
【0025】
残差混合行列B∈CN×Nを導入すると、式(12)の逆インダイレクト型二乗誤差評価量を最小にすることによって対象行列の分離行列W∈CN×Jを求めることができる。
(m)∈RN×Nは対角行列である。ディターミンド混合過程を対象とした式(12)の解法が非特許文献3で提案されている。
【0026】
【数2】
【0027】
2.オーバーディターミンド混合過程における逆インダイレクト型二乗誤差最小化問題の効率的な解法
とができる。オーバーディターミンド混合過程においてE[Q(m)]が平均零、分散σ
ある。Σ=σJ-Nで、Uの列ベクトルは固有値σに対応したJ-N個の直交基底である。信号空間Uは雑音空間Uの直交補空間である。
【0028】
【数3】
【0029】
本発明に関するブラインド信号分離方法では、式(15)に示すように分離行列は残差分離行列の積で与えられる。ここで、上付き添字(n)は反復回数を示す。また、S(1)=Iで、ステップS102において分離行列の初期値W(0)を式(16)のように設定する。式(16)によるW(n)の初期化は対象行列の次元をJからNに下げるだけでなく、信号空間上に対象行列を写像する。残差正方分離行列S(n)は分離行列W(n-1)を更新するために使用される。
【0030】
【数4】
【0031】
分離行列の更新後、W(n)の要素値が小さく、または、大きくなることを防ぐため、残差分離行列S(n)は更新毎に正規化され、S(n)の行列式は式(18)になる。
【0032】
【数5】
【0033】
正規化の結果、式(19)に示すようにW(n)(n)Hの要素値の増大も防ぐことができる。ここで、式(20)に示すように、W(n)(n)Hの行列式は1に初期化されている。
【0034】
式(21)のように、対象行列に残差分離行列を左側から、残差分離行列の複素共役転置行列を右側からそれぞれ乗算すると、ステップS104において対象行列を更新するこ
【0035】
【数6】
【0036】
残差混合行列B(n)∈CN×Nを導入すると、逆インダイレクト型二乗誤差評価量を式(
ある。即ち、B(n)とS(n)が単位行列に近づくことで達成することができる。
【0037】
2.1 逆インダイレクト型二乗誤差最小化問題の効率的な解法
(n)とB(n)を固定すると、逆インダイレクト型二乗誤差評価量はインダイレクト型二
レクト型二乗誤差評価量はダイレクト型二乗誤差評価量として扱うことができる。これら二つの評価量を交互に最小化することによって逆インダイレクト型二乗誤差評価量を最小化することができる。
【0038】
列S(n)と残差混合行列B(n)を用いた評価量を最小化する。次いで、制約条件付き最小2乗型同時対角化問題を解法することによって残差混合行列B(n)を推定した後、残差分
合行列B(n)の推定を交互に繰り返す。
【0039】
2.2 対角行列の解法
式(24)のインダイレクト型最小2乗型同時対角化問題に最小2乗法を適用すると、
【0040】
【数7】
【0041】
2.3 残差混合行列の解法
によって、対角化行列B(n)、即ち、残差混合行列を求める。評価量を式(25)に示す。式(25)はダイレクト型最小2乗型同時対角化問題として知られている。
【0042】
ベクトル表現を用いると、式(26)の評価関数は式(27)のように表現することが
り表される。ただし、vec{A}は行列Aの列を積み重ねることによって行列Aを列ベクトル
(m)のi番目の要素を表す。
【0043】
【数8】
【0044】
ステップS105においてF、R(n)を式(32)、(33)によってそれぞれ計算する
ステップS106において式(35)と式(36)のラグランジェの未定乗数法によって
【0045】
【数9】
ここで、vec-1{a}はJ×1の列ベクトルaをJ×Jの行列Aに変換する演算を表す。
【0046】
42)によって与えられる。σ(A)は行列Aのi番目に大きい固有値、または特異値を
【0047】
【数10】
【0048】
ステップS109において残差分離行列は式(44)によって推定される。ステップ
【0049】
推定値が誤差の限界εを下回った後、ステップS111において式(14)に基づき分離行列を求める。
【実施例0050】
3.1 評価データ
オーバーディターミンド混合過程において既存の方法(非特許文献4から非特許文献6まで)と本発明方法の性能を比較する。対象行列は式(45)に基づき生成する。混合行列Hの要素は複素数で、標準正規分布に基づくガウス性白色雑音によって設定する。
(m)の要素は実数で、標準正規分布に基づくガウス性白色雑音の絶対値に設定する。Q(m)はエルミート正定値符号複素数行列で、信号対雑音比(SNR)は式(46)によって決定する。分離性能は式(47)に基づいて算出する。Matlabで作成したプログラムをインテル製コアi9-9880H 2.3GHzプロセッサを用いて実行した。誤差の限界はε=10-12に設定した。
【0051】
【数11】
ここで、Γ=WH、γijは行列Γのi行j列の要素を表す。
【0052】
3.2 評価結果
信号対雑音比対分離性能を図3に示す。対象行列の個数、対象行列の次元、対角行列の次元はそれぞれM=300,N=100,J=200に設定している。本発明に係る分離方法は低SNRにおいて対象行列を効果的に対角化できることが明らかになった。
【実施例0053】
対象行列の次元対分離性能、及び、演算時間を図4に示す。SNRは0デシベルに設定した。ディターミンド混合過程に比べオーバーディターミンド混合過程において、本発明に係る分離方法は演算量を増加させることなく分離性能を大幅に向上させることができることが明らかになった。
【実施例0054】
本発明に係る分離方法の反復回数対分離性能を図5に示す。SNRは0デシベルに設定した。オーバーディターミンド混合過程では、本発明に係る分離方法は既存の方法に比べ、少ない反復回数で収束値に達することが明らかになった。また、分離性能も既存の方法に比べ大幅に改善できることも明らかになった。
【実施例0055】
対象行列の個数対分離性能、及び、演算時間を図6に示す。SNRは0デシベルに設定した。一般に、対象行列の個数を増やすと、分離性能が向上することが確認できた。本発明に係る分離方法はオーバーディターミンド混合過程において分離性能を大幅に向上させることができる。また、既存の方法は本発明に比べ、約400倍の演算量を必要とする。
【符号の説明】
【0056】
11~1N…信号源、21~2J…センサ、30…ブラインド信号分離システム、41~4N…ブラインド信号分離システムの出力
図1
図2
図3
図4
図5
図6