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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046202
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】磁性ビーズ試薬
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20230327BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
C12N15/10 114Z
C07K1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008498
(22)【出願日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2021153106
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕成
(72)【発明者】
【氏名】中森 理夫
(72)【発明者】
【氏名】保刈 宏文
(72)【発明者】
【氏名】花村 雅人
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA30
4H045AA40
4H045EA50
4H045GA20
(57)【要約】
【課題】磁性ビーズの分散性が良好であり、かつ、超音波処理によるFeイオンの溶出が抑制されている磁性ビーズ試薬を提供すること。
【解決手段】Fe基金属軟磁性粒子、および、前記Fe基金属軟磁性粒子を被覆する平均厚さ3nm以上のシリカ膜、を備える磁性ビーズと、界面活性剤と、前記磁性ビーズを分散させる分散媒と、を含有することを特徴とする磁性ビーズ試薬。また、前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であることが好ましい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe基金属軟磁性粒子、および、前記Fe基金属軟磁性粒子を被覆する平均厚さ3nm以上のシリカ膜、を備える磁性ビーズと、
界面活性剤と、
前記磁性ビーズを分散させる分散媒と、
を含有することを特徴とする磁性ビーズ試薬。
【請求項2】
前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である請求項1に記載の磁性ビーズ試薬。
【請求項3】
前記界面活性剤の含有量は、前記界面活性剤の臨界ミセル濃度以上である請求項1または2に記載の磁性ビーズ試薬。
【請求項4】
前記磁性ビーズの平均粒径は、0.05μm以上10.0μm以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の磁性ビーズ試薬。
【請求項5】
前記磁性ビーズの飽和磁化は、50emu/g以上220emu/g以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁性ビーズ試薬。
【請求項6】
前記Fe基金属軟磁性粒子は、Fe基アモルファス金属もしくはFe基ナノ結晶金属を含む請求項1ないし5のいずれか1項に記載の磁性ビーズ試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性ビーズ試薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、抗体、ペプチド、核酸等の目的分子を抽出する方法として、磁性ビーズ分離方法が知られている。磁性ビーズ分離方法は、磁力によってビーズを分離、回収する方法であるため、迅速な分離操作が可能である。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属Feのコアとシリカ被膜を備える高磁化磁気ビーズと溶解結合液を用いて、血液試料から核酸を抽出すること、ビーズ表面に対象生体物質を吸着させ、永久磁石との組み合わせにより、核酸を分離捕集すること、核酸抽出の自動化が可能であること、が開示されている。
【0004】
また、高磁化磁気ビーズは、緩衝溶液または極性有機溶媒にあらかじめ分散させることが開示されている。そして、このような操作を行うことにより、核酸回収量が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-33995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の核酸抽出方法では、高磁化磁気ビーズをあらかじめ分散させたとき、凝集が発生するおそれがある。高磁化磁気ビーズの凝集が発生すると、再分散性が低下するため、核酸が吸着した高磁化磁気ビーズの洗浄や核酸の溶出において効率の低下を招く。
【0007】
また、高磁化磁気ビーズの凝集が発生すると、超音波処理による撹拌に供されたとき、高磁化磁気ビーズ同士の摩擦によってシリカ被膜の損傷が発生する。シリカ被膜が損傷すると、コアが露出するため、Feイオンが溶出する。溶出したFeイオンは、核酸の回収量を低下させる原因となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の適用例に係る磁性ビーズ試薬は、
Fe基金属軟磁性粒子、および、前記Fe基金属軟磁性粒子を被覆する平均厚さ3nm以上のシリカ膜、を備える磁性ビーズと、
界面活性剤と、
前記磁性ビーズを分散させる分散媒と、
を含有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】磁性ビーズ試薬を用いた核酸の抽出方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図2】実施形態に係る磁性ビーズ試薬が含む磁性ビーズを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の磁性ビーズ試薬の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
1.目的分子の抽出方法
まず、磁性ビーズ試薬を用いた目的分子の抽出方法の一例について説明する。目的分子としては、例えば、タンパク質、抗体、ペプチド、核酸等が挙げられるが、以下の説明では、目的分子が核酸である場合について説明するが、以下の説明は、他の目的分子についても同様である。なお、核酸は、例えば、細胞や生体組織等の生体試料、ウィルス、細菌等に含まれた状態で存在していてもよい。また、核酸は、DNA(デオキシリボ核酸)であっても、RNA(リボ核酸)であってもよい。
【0012】
図1は、磁性ビーズ試薬を用いた核酸の抽出方法の一例を説明するためのフローチャートである。図2は、実施形態に係る磁性ビーズ試薬が含む磁性ビーズを模式的に示す断面図である。
図1に示す核酸の抽出方法は、分散工程S102と、混合工程S104と、分離工程S106と、洗浄工程S108と、溶出工程S110と、を有する。
【0013】
1.1.分散工程
分散工程S102では、図2に示す磁性ビーズ2および界面活性剤を分散媒に分散させる。この分散には、例えば、超音波照射等を用いる。これにより、磁性ビーズ2が分散媒中に略均一に分散する。
【0014】
界面活性剤は、磁性ビーズ試薬の表面張力を低下させ、磁性ビーズ2の凝集を抑制する。これにより、分散媒に対する分散性を高める。
【0015】
1.1.1.磁性ビーズ
図2に示す磁性ビーズ2は、Fe基金属軟磁性粒子21と、それを被覆するシリカ膜22と、を備える。Fe基金属軟磁性粒子21は、Fe基金属で構成され、軟磁性を有する粒子である。シリカ膜22は、核酸を吸着させ、保持することができる親水性表面を有する被膜である。吸着とは、可逆的な物理的結合のことをいう。シリカ膜22を所定の厚さで備えることにより、超音波照射等により磁性ビーズ2同士の摩擦が生じても、シリカ膜22の損傷が抑制される。これにより、Fe基金属軟磁性粒子21が露出しにくくなるため、Feイオン等の溶出を抑制することができる。
【0016】
磁性ビーズ2は、磁化があるので、外部磁場を印加することにより、磁気吸引される。このため、磁性ビーズ2を用いることにより、核酸が吸着した磁性ビーズ2、すなわち固相と、夾雑物が含まれる液相とを選択的に分離することができる。
【0017】
Fe基金属は、Feを主成分とする金属である。主成分とは、Fe基金属においてFeの含有率が原子数比で50%以上であることをいう。このようなFe基金属は、フェライト等に比べて飽和磁化が高く、靭性や硬度も高い。このため、磁気分離性に優れるとともに、良好な耐久性を有する。また、軟磁性とは、保磁力が低く、透磁率が高い性質をいう。
【0018】
Fe基金属は、Feの他に、NiまたはCoのように単独で強磁性を示す元素を含んでいてもよく、目標とする特性に応じて、Cr、Nb、Cu、Al、Mn、Mo、Si、Sn、B、C、P、TiおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。特に、Cr、Nb、Cu、Si、B、C、およびPからなる群から選択される少なくとも1種は後述するアモルファス金属もしくはナノ結晶金属を形成するために好適に含むことができる。また、軟磁性材料には、実施形態の効果を損なわない範囲で、不可避的不純物が含まれていてもよい。
不可避的不純物とは、原料や製造時に意図せずに混入する不純物である。不可避的不純物としては、例えば、O、N、S、Na、Mg、K等が挙げられる。
【0019】
このようなFe基金属としては、特に限定されないが、例えば、純鉄、カルボニル鉄の他、センダストのようなFe-Si-Al系合金、Fe-Ni系、Fe-Co系、Fe-Ni-Co系、Fe-Si-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Zr-B系、Fe-Cr系、Fe-Cr-Al系のようなFe基合金等が挙げられる。
【0020】
また、Fe基金属は、Fe基アモルファス金属もしくはナノ結晶金属であってもよいし、Fe基結晶金属であってもよいが、Fe基アモルファス金属もしくはFe基ナノ結晶金属が好ましく用いられる。ここでアモルファス金属とは結晶が存在しない非晶質金属であり、ナノ結晶金属とはその結晶粒径がおよそ100nmである微細結晶が存在する金属を指す。アモルファス金属もしくはナノ結晶金属は、例えば金属酸化物等に比べて靭性および硬度が高いため、摩耗や欠損、それに伴う金属イオンの溶出、特にFeイオンの溶出を抑制することができるし、アモルファス金属もしくはナノ結晶金属とすることで保磁力が低い値となり、既述の通り磁性ビーズ2の分散性が向上する。
【0021】
Fe基金属軟磁性粒子21の金属組織は、磁性ビーズ2あるいはシリカ膜22を形成する前のFe基金属軟磁性粒子21に対してX線回折法や透過電子顕微鏡(TEM)などによる同定で行うことができる。より具体的にはアモルファス金属の場合はX線回折法におけるピーク解析に於て、例えばαFe相などの金属結晶に由来する回折ピークが検出されないことで同定できるし、またTEMでの電子線回折パターンにおいていわゆるハローパターンを形成し、結晶によるスポットの形成が見られないことから同定できる。ナノ結晶金属はおよそ粒径が100nm以下の結晶組織からなるが、TEM観察像から確認することができる。より正確には複数の結晶が存在する複数のTEM組織観察画像から画像処理などにより平均粒径を算出することができる。またX線回折法による対象となる結晶相の回折ピークからシェラー法により結晶粒径を推測することができる。さらに粒径の大きな結晶組織については光学顕微鏡やSEMにより断面を観察する等の手法により結晶粒径などを観察・測定することができる。
【0022】
Fe基金属軟磁性粒子21は、いかなる方法で製造された粒子であってもよい。製造方法の例としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等の各種アトマイズ法の他、粉砕法等が挙げられる。このうち、アトマイズ法によれば、粒子形状がより真球に近いFe基金属軟磁性粒子21が得られる。このようなFe基金属軟磁性粒子21は、充填率が高く、単位体積当たりの核酸の回収量が多い磁性ビーズ2の実現に寄与する。また水アトマイズ法や回転水流アトマイズ法は急冷速度が高いのでアモルファス金属もしくはナノ結晶金属を得るのに好適に用いられる。
また、上記製造方法で製造した金属粉末を、各種分級機で分級し、粒径を調整した後の金属粉末を、Fe基金属軟磁性粒子21としてもよい。
【0023】
磁性ビーズ2の飽和磁化の下限は、50emu/g以上であるのが好ましく、100emu/g以上であるのがより好ましい。磁性ビーズ2の飽和磁化の下限が前記範囲であれば、磁性ビーズ2に十分な磁気吸引力が働き、磁性ビーズ2をより確実に固定することができ、また、磁場による磁性ビーズ2の移動速度を向上させることができるので検査時間を短縮できる。一方、磁性ビーズ2の飽和磁化の上限は、特に限定されないが、純鉄の飽和磁化220emu/g以下としてよい。これにより、液相と固相をより精度よく分離することができる。
【0024】
磁性ビーズ2の飽和磁化は、例えば、振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定される。また、Fe基金属軟磁性粒子21の飽和磁化を、磁性ビーズ2の飽和磁化とみなしてもよい。
【0025】
磁性ビーズ2の保磁力は、1500A/m以下であるのが好ましく、800A/m以下であるのがより好ましい。このような磁性ビーズ2は、保磁力が十分に低いため、外部磁場が印加されたときにのみ磁化され、外部磁場の印加を止めると元に戻る。このため、このような磁性ビーズ2を用いることにより、外部磁場によって磁気吸引する操作を行ったり、その後に磁気吸引を解除する操作を行ったりするとき、その操作性を高めることができる。さらに、保磁力が十分に低いので、磁気吸引や磁気吸引の解除を繰り返しても、磁気吸引を解除した後に、磁性ビーズ2同士の凝集が抑制され、分散媒中に磁性ビーズ2を均一に分散させることができる。
【0026】
磁性ビーズ2の平均粒径は、0.05μm以上10.0μm以下であるのが好ましく、0.10μm以上5.0μm以下であるのがより好ましく、0.3μm以上2.0μm以下であるのがさらに好ましい。磁性ビーズ2の平均粒径が前記範囲内であれば、磁性ビーズ2の比表面積が十分に大きくなるため、核酸の回収量を増やすことができる。なお、磁性ビーズ2の平均粒径が前記下限値を下回ると、磁性ビーズ2が凝集しやすくなり、核酸の吸着効率が低下して回収量が減少するおそれがある。一方、磁性ビーズ2の平均粒径が前記上限値を上回ると、磁性ビーズ2の比表面積が小さくなるため、核酸の回収量が減少するおそれがある。また、磁気吸引力の大きさによっては、磁気吸引によって磁性ビーズ2を固定する操作の操作性が低下するおそれがある。
【0027】
なお、磁性ビーズ2の平均粒径は、レーザー回折法により取得された体積基準の粒度分布において、小径側から累積50%となるときの粒径D50として求められる。
【0028】
シリカ膜22の構成材料は、前述した親水性表面を形成し得る材料であれば、特に限定されないが、例えば、二酸化ケイ素を含有する材料である。具体的には、シリカ、ケイ素含有ガラス、珪藻土等が挙げられる。また、任意の材料の表面に、これらの酸化ケイ素を含有する材料を修飾した複合材料であってもよい。
【0029】
シリカ膜22の平均厚さは、3nm以上とされ、好ましくは30nm以上、より好ましくは40nm以上とされる。シリカ膜22の平均厚さが前記範囲内であれば、シリカ膜22がムラなく成膜されるため、超音波照射に伴うFeイオン等の溶出をより確実に抑制することができる。
【0030】
なお、シリカ膜22の平均厚さの上限値は、特に限定されないが、磁性ビーズ2全体における金属の比率、シリカ膜22の密着性、核酸抽出性能の飽和、シリカ膜22の成膜時間の増大等を考慮すると、1000nm以下であるのが好ましく、100nm以下であるのがより好ましい。
【0031】
シリカ膜22の平均厚さは、磁性ビーズ2の断面を電子顕微鏡で観察し、10か所以上の膜厚を平均した値である。なお、測定箇所は、異なる磁性ビーズ2にまたがっているのが好ましい。
【0032】
シリカ膜22の成膜方法は、特に限定されないが、例えば、ゾルゲル法やゾルゲル法の一種であるストーバー法のような湿式成膜法、化学気相成膜(CVD)法や原子層堆積(ALD)法、イオンプレーティングのような乾式成膜法等が挙げられる。これらのうち、ストーバー法やALD法は、シリカ膜22の形成法として好適に用いられる。
【0033】
磁性ビーズ2におけるFe基金属の含有率は、50体積%以上であるのが好ましく、70体積%以上であるのがより好ましく、90体積%以上であるのがさらに好ましい。このような磁性ビーズ2は、Fe基金属の含有率が十分に高いため、小径であっても大きな磁気吸引力を得ることができる。一方、Fe基金属の含有率が前記下限値を下回ると、磁気吸引力が低下し、磁性ビーズ2と液相との分離性が低下するおそれがある。
【0034】
なお、磁性ビーズ2におけるFe基金属の含有率は、磁性ビーズ2の断面を電子顕微鏡で観察し、Fe基金属が占める面積率に基づいて算出される。必要に応じて、元素マッピングを行い、Fe基金属が占める面積率を算出するようにしてもよい。
【0035】
磁性ビーズ試薬における磁性ビーズ2の含有率は、特に限定されないが、10質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、20質量%以上50質量%以下であるのがより好ましく、30質量%以上45質量%以下であるのがさらに好ましい。磁性ビーズ2の含有率を前記範囲内に設定することにより、核酸を効率よく回収することができる。また、超音波照射等による磁性ビーズ2同士の衝突頻度が著しく高くなるのを抑制し、シリカ膜22の摩耗を抑えることができる。
【0036】
1.1.2.界面活性剤
界面活性剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等が挙げられるが、非イオン性界面活性剤が好ましく用いられる。これにより、抽出後の核酸を分析するとき、イオン性界面活性剤による影響が抑えられる。その結果、電気泳動法による分析が可能になり、分析手法の選択肢を広げることができる。
【0037】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、Triton(登録商標)-Xのようなトリトン系界面活性剤、Tween(登録商標)20のようなツイーン系界面活性剤、アシルソルビタン等が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate:SDS)とも称されるラウリル硫酸ナトリウムや、N-ラウロイルサルコシンナトリウム、コール酸ナトリウム、、サルコシン等が挙げられる。両イオン性界面活性剤としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0038】
磁性ビーズ試薬における界面活性剤の含有量は、界面活性剤の臨界ミセル濃度以上であるのが好ましい。臨界ミセル濃度とは、cmc(critical micelle concentration)とも呼ばれ、液中に分散している界面活性剤の分子が集合してミセルを形成するときの濃度のことをいう。界面活性剤の含有量が臨界ミセル濃度以上であることにより、界面活性剤が磁性ビーズ2の周囲に層を形成しやすくなる。これにより、磁性ビーズ2の凝集を抑制するという効果をさらに高めることができる。
【0039】
なお、界面活性剤の含有量は、臨界ミセル濃度以上に限定されるものではなく、臨界ミセル濃度未満であってもよい。例えば、磁性ビーズ試薬における界面活性剤の含有量は、臨界ミセル濃度を問わず、0.05質量%以上3.0質量%以下であるのが好ましい。
【0040】
超音波照射には、例えば、超音波ホモジナイザー等の超音波分散機が用いられる。超音波照射により、微小な気泡(キャビテーション)が発生し、磁性ビーズ2および界面活性剤をより均一に分散させることができる。
【0041】
一方、超音波照射によって磁性ビーズ2に衝撃が加わると、シリカ膜22が損傷を受けるおそれがある。シリカ膜22が損傷を受ける原因としては、磁性ビーズ2同士の衝突の他、キャビテーション・エロージョンも考えられる。シリカ膜22が損傷を受けると、Fe基金属軟磁性粒子21が露出し、Feイオン等が溶出するおそれがある。
【0042】
これに対し、磁性ビーズ試薬に界面活性剤が添加され、かつ、シリカ膜22の平均厚さが前記範囲内であれば、超音波照射によるシリカ膜22の損傷が十分に抑制される。その結果、Feイオン等の溶出が抑制される。また、磁性ビーズ2の凝集が抑制され、磁性ビーズ試薬において磁性ビーズ2を良好に分散させることができるので、核酸の吸着効率を容易に高めることができる。
【0043】
なお、界面活性剤は、磁性ビーズ試薬の表面張力を低下させることにより、キャビテーション・エロージョンによる物質の摩耗を抑制していると考えられる。界面活性剤が添加されると、磁性ビーズ試薬の表面張力が低下する。表面張力とキャビテーション・エロージョンによる物質の摩耗との間には、正の相関関係があることが知られている。したがって、界面活性剤の作用により、磁性ビーズ試薬の表面張力を低下させることで、キャビテーション・エロージョンによるシリカ膜22の損傷を抑制することができる。
【0044】
超音波照射の時間は、特に限定されないが、1分以上60分以下であるのが好ましく、5分以上40分以下であるのがより好ましい。
【0045】
1.1.3.分散媒
分散媒としては、例えば、水、食塩水、アルコール類のような極性有機溶媒またはその水溶液等が挙げられる。
水としては、例えば、滅菌水、純水等が挙げられる。アルコール類としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0046】
さらに分散媒の長期保存性、防腐効果を持たせるために、防腐剤を添加することが好ましい。防腐剤としては、アジ化ナトリウムなどが挙げられる。防腐剤の添加濃度は0.02重量%以上、0.1%未満が好ましい。0.02重量%未満では長期保存性および防腐に十分な効果が得られず、0.1%以上では生体物質の抽出効率を低下させるなどの課題が生じる。
【0047】
またpH調整を目的とした緩衝液を加えてもよい。緩衝液としてはトリスバッファなどが挙げられる。
【0048】
なお、磁性ビーズ試薬には、上述したもの以外の成分が含まれていてもよい。
【0049】
以上のように、実施形態に係る磁性ビーズ試薬は、磁性ビーズ2と、界面活性剤と、磁性ビーズ2を分散させる分散媒と、を含有する。磁性ビーズ2は、Fe基金属軟磁性粒子21、および、Fe基金属軟磁性粒子21を被覆する平均厚さ3nm以上のシリカ膜22と、を備える。
【0050】
このような構成によれば、磁性ビーズ2が、フェライト等に比べて磁化が高いFe基金属軟磁性粒子21を備え、かつ、十分な厚さのシリカ膜22を備えるとともに、磁性ビーズ試薬が界面活性剤を含有することで、超音波照射等によるシリカ膜22の損傷を抑制し、Feイオンの溶出を抑制することができる。また、界面活性剤によって磁性ビーズ試薬の表面張力が低下するため、磁性ビーズ2を良好に分散させることができる。これにより、核酸の吸着効率を高めることができる。
【0051】
1.2.混合工程
混合工程S104では、核酸を含む試料を容器に入れ、この容器に、磁性ビーズ試薬および溶解吸着液を混合する。これにより、核酸は、磁性ビーズ2に吸着する。
【0052】
溶解吸着液には、例えば、カオトロピック物質を含む液体が用いられる。カオトロピック物質は、水溶液中でカオトロピックイオンを生じ、疎水性分子の水溶性を増加させる作用を有し、核酸の磁性ビーズ2への吸着に寄与する。カオトロピックイオンは、イオン半径の大きな1価の陰イオンである。カオトロピック物質としては、例えば、グアニジンチオシアン酸塩、グアニジン塩酸塩、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、過塩素酸ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、タンパク質変成作用の強いグアニジンチオシアン酸塩またはグアニジン塩酸塩が好ましく用いられる。
【0053】
溶解吸着液におけるカオトロピック物質の濃度は、カオトロピック物質によって異なるが、例えば、1.0M以上8.0M以下であるのが好ましい。また、特に、グアニジンチオシアン酸塩を使用する場合には、3.0M以上5.5M以下であるのが好ましい。さらに、特に、グアニジン塩酸塩を使用する場合には、4.0M以上7.5M以下であるのが好ましい。
【0054】
溶解吸着液は、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤は、細胞膜の破壊または細胞中に含まれるタンパク質を変性させる目的で用いられる。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、トリトン系界面活性剤やツイーン系界面活性剤といった非イオン性界面活性剤、N-ラウロイルサルコシンナトリウム等の陰イオン性界面活性剤が挙げられる。このうち、非イオン性界面活性剤であるのが好ましい。これにより、抽出後の核酸を分析するとき、イオン性界面活性剤による影響が抑えられる。その結果、電気泳動法による分析が可能になり、分析手法の選択肢を広げることができる。
【0055】
溶解吸着液における界面活性剤の濃度は、特に限定されないが、0.1質量%以上2.0質量%以下であるのが好ましい。
【0056】
溶解吸着液は、還元剤およびキレート剤の少なくとも一方を含んでいてもよい。還元剤としては、例えば、2-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール等が挙げられる。キレート剤としては、例えば、EDTA(二ナトリウム塩二水和物)等が挙げられる。
【0057】
溶解吸着液における還元剤の濃度は、特に限定されないが、0.2M以下であるのが好ましい。溶解吸着液におけるキレート剤の濃度は、特に限定されないが、0.2mM以下であるのが好ましい。
溶解吸着液のpHは、特に限定されないが、6以上8以下の中性であるのが好ましい。
【0058】
混合工程S104では、必要に応じて、超音波ホモジナイザー、ボルテックス・ミキサー、手振り振とう等により、容器の収容物を撹拌する。撹拌する時間は、特に限定されないが、5秒以上30分以下であるのが好ましい。
【0059】
1.3.分離工程
分離工程S106では、核酸が吸着した磁性ビーズ2に外部磁場を作用させ、磁気吸引する。これにより、磁性ビーズ2を容器の壁面に移動させ、固定する。その結果、固相である磁性ビーズ2と、液相と、を分離することができる。
【0060】
分離工程S106では、外部磁場を印加した状態で、必要に応じて、超音波ホモジナイザー、ボルテックス・ミキサー、手振り振とう等により、容器の収容物を撹拌する。これにより、磁性ビーズ2が外部磁場に磁気吸引される確率が高くなる。
【0061】
なお、磁性ビーズ2を固定した後、必要に応じて、容器に加速度を与えるようにしてもよい。これにより、磁性ビーズ2に付着していた液体を振り落とすことができるので、固相と液相とをより精度よく分離することができる。加速度は、遠心加速度であってもよい。遠心加速度の付与には、遠心分離機を用いればよい。
【0062】
以上のようにして、磁性ビーズ2と液相とを分離した後、磁性ビーズ2を容器の壁面に固定した状態で、容器内の液相をピペット等により排出する。
【0063】
1.4.洗浄工程
洗浄工程S108では、核酸が吸着した磁性ビーズ2の洗浄を行う。洗浄とは、磁性ビーズ2に吸着した夾雑物を除去するため、核酸が吸着している磁性ビーズ2を洗浄液と接触させた後、再び分離することによって、夾雑物を除去する操作である。
【0064】
具体的には、まず、ピペット等により、容器内に洗浄液を供給する。そして、磁性ビーズ2および洗浄液を撹拌する。これにより、洗浄液が磁性ビーズ2と接触し、核酸が吸着している磁性ビーズ2が洗浄される。このとき、一時的に、外部磁場を除去するようにしてもよい。これにより、磁性ビーズ2が洗浄液に分散するため、洗浄効率をより高めることができる。
【0065】
次に、再び、磁性ビーズ2を固定し、洗浄液を排出する。以上のような洗浄液の供給および排出を1回以上繰り返すことにより、磁性ビーズ2を洗浄することができる。
【0066】
洗浄液は、核酸の溶出を促進せず、かつ、夾雑物の磁性ビーズ2に対する結合を促進しない液体であれば、特に限定されないが、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン等の有機溶媒またはその水溶液、低塩濃度水溶液等が挙げられる。低塩濃度水溶液としては、例えば緩衝液が挙げられる。低塩濃度水溶液の塩濃度は、0.1mM以上100mM以下が好ましく、1mM以上50mM以下がより好ましい。緩衝液にするための塩は、特に限定されないが、トリス、ヘペス、ピペス、リン酸等の塩が好ましく用いられる。
【0067】
洗浄液は、Triton(登録商標)、Tween(登録商標)、ドデシル硫酸ナトリウム等の界面活性剤を含有していてもよい。また、洗浄液のpHは、特に限定されない。
【0068】
洗浄工程S108では、洗浄液を磁性ビーズ2に接触させた状態で、必要に応じて、超音波ホモジナイザー、ボルテックス・ミキサー、手振り振とう等により、容器の収容物を撹拌する。これにより、洗浄効率を高めることができる。
なお、洗浄工程S108は、必要に応じて行えばよく、洗浄が必要ない場合には、省略されていてもよい。
【0069】
1.5.溶出工程
溶出工程S110では、核酸を吸着している磁性ビーズ2から、核酸を溶出させる。溶出とは、核酸が吸着している磁性ビーズ2を溶出液と接触させた後、再び分離することによって、核酸を溶出液に移行させる操作である。
【0070】
具体的には、まず、ピペット等により、容器内に溶出液を供給する。そして、磁性ビーズ2および溶出液を撹拌する。これにより、溶出液が磁性ビーズ2と接触し、核酸を溶出させることができる。このとき、一時的に、外部磁場を除去するようにしてもよい。これにより、磁性ビーズ2が溶出液に分散するため、溶出効率をより高めることができる。
【0071】
次に、再び、磁性ビーズ2を固定し、核酸が溶出した溶出液を排出する。これにより、核酸を回収することができる。
【0072】
溶出液は、核酸が吸着している磁性ビーズ2から核酸の溶出を促進する液体であれば、特に限定されないが、例えば、滅菌水や純水のような水の他、TE緩衝液、すなわち、10mMトリス塩酸緩衝液および1mMのEDTAを含み、pHが8の水溶液が好ましく用いられる。
【0073】
溶出液は、Triton(登録商標)、Tween(登録商標)、ドデシル硫酸ナトリウム等の界面活性剤を含有していてもよい。
【0074】
溶出工程S110では、溶出液を核酸が吸着している磁性ビーズ2に接触させた状態で、必要に応じて、超音波ホモジナイザー、ボルテックス・ミキサー、手振り振とう等により、容器の収容物を撹拌する。これにより、溶出効率を高めることができる。
【0075】
また、溶出工程S110では、溶出液を加熱するようにしてもよい。これにより、核酸の溶出を促進することができる。溶出液の加熱温度は、特に限定されないが、70℃以上200℃以下であるのが好ましく、80℃以上150℃以下であるのがより好ましく、95℃以上125℃以下であるのがさらに好ましい。
【0076】
加熱方法としては、例えば、あらかじめ加熱した溶出液を供給する方法、未加熱の溶出液を容器に供給した後に加熱する方法等が挙げられる。加熱時間は、特に限定されないが、30秒以上10分以下であるのが好ましい。
【0077】
なお、溶出工程S110は、必要に応じて行えばよく、例えば、分離工程S106における磁性ビーズ2と液相との分離のみが目的である場合には、省略されていてもよい。
【0078】
以上、本発明の磁性ビーズ試薬を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明の磁性ビーズ試薬は、前記実施形態の各部が同様の機能を有する任意の構成のものに置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【実施例0079】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
2.核酸の回収
2.1.実施例1
まず、容器に入れた磁性ビーズ試薬に超音波を30分間照射する処理を行い、磁性ビーズを分散させた。使用した磁性ビーズの質量は、23mgであった。
次に、磁性ビーズ試薬と、大腸菌DNAおよび溶解吸着液と、を混合した。そして、ボルテックス・ミキサーにより、容器の収容物を10分間撹拌した。なお、容器の収容物の体積に対する大腸菌DNAの含有率は、20ng/μLであった。
【0080】
次に、磁性ビーズを磁気分離した状態で、液相を排出し、代わりに洗浄液を供給した。そして、容器の収容物を撹拌して洗浄を行った。洗浄液には、濃度8Mのグアニジン塩酸塩水溶液および濃度70%のエタノール水溶液を使用した。そして、前者の洗浄液を使用した洗浄を2回行い、その後、後者の洗浄液を使用した洗浄を2回行った。
【0081】
次に、磁性ビーズを磁気分離した状態で、液相を排出し、代わりに溶出液を供給した。そして、容器の収容物を撹拌して核酸の溶出を行った。溶出液には、純水を使用した。
次に、磁性ビーズを磁気分離した状態で、溶出液を排出した。これにより、試料中の核酸を回収した。
【0082】
2.2.実施例2~9
磁性ビーズ試薬の構成を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして試料中の核酸を回収した。
【0083】
2.3.比較例1
界面活性剤の添加を省略した以外は、実施例1と同様にして試料中の核酸を回収した。
【0084】
2.4.比較例2
シリカ膜の平均厚さを1nmとした以外は、実施例2と同様にして試料中の核酸を回収した。
【0085】
2.5.比較例3
界面活性剤の添加を省略した以外は、実施例3と同様にして試料中の核酸を回収した。
【0086】
3.回収した核酸の評価
3.1.回収した核酸の濃度
各実施例および各比較例の磁性ビーズ試薬を用いて回収した核酸について、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、リアルタイムPCR装置により、回収量を測定し、溶出液における核酸の濃度を算出した。そして、算出した濃度を、以下の評価基準に照らして評価した。
【0087】
AA:回収した核酸の濃度が12ng/μL以上である
A :回収した核酸の濃度が8ng/μL以上12ng/μL未満である
B :回収した核酸の濃度が4ng/μL以上8ng/μL未満である
C :回収した核酸の濃度が4ng/μL未満である
評価結果を表1に示す。
【0088】
3.2.電気泳動法による分析の適性
各実施例および各比較例の磁性ビーズ試薬を用いて回収した核酸について、電気泳動法による分析の適性を、以下の評価基準に照らして評価した。
適 :電気泳動法による分析が適正である
不適:電気泳動法による分析が不適性である
評価結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示すように、各実施例の磁性ビーズ試薬を用いることにより、核酸を高濃度で回収可能であることが認められた。また、特に、磁性ビーズ試薬が非イオン性界面活性剤を含むことにより、電気泳動法による分析が可能になることが認められた。なお、各実施例の磁性ビーズ試薬では、超音波照射後も、Feイオンの増加は認められなかった。
【0091】
これに対し、比較例1、3の磁性ビーズ試薬は、界面活性剤を含有していないため、それを用いて回収した核酸の濃度が低かった。また、比較例2の磁性ビーズ試薬は、磁性ビーズにおけるシリカ膜の平均厚さが薄いため、それを用いて回収した核酸の濃度が低かった。
【0092】
なお、各比較例の磁性ビーズ試薬では、超音波照射後、Feイオンの増加が認められた。したがって、回収した核酸の濃度が低かったのは、溶出したFeイオンが影響したものと考えられる。また、各比較例の磁性ビーズ試薬を用いて回収した核酸は、Feイオンの溶出の影響により、電気泳動法による分析ができなかった。
【符号の説明】
【0093】
2…磁性ビーズ、21…Fe基金属軟磁性粒子、22…シリカ膜、S102…分散工程、S104…混合工程、S106…分離工程、S108…洗浄工程、S110…溶出工程
図1
図2