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  • 特開-太陽電池及び太陽電池製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046212
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】太陽電池及び太陽電池製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20230327BHJP
【FI】
H01L31/04 168
H01L31/04 112Z
H01L31/04 182Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027734
(22)【出願日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2021154363
(32)【優先日】2021-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】兼松 正典
(72)【発明者】
【氏名】三島 良太
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151CB13
5F151DA16
5F151FA04
5F151GA04
5F151HA03
(57)【要約】
【課題】光電変換効率が高い太陽電池及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る太陽電池1は、陽極層21と、正孔輸送層22と、ペロブスカイト化合物を含み、前記正孔輸送層22と接する光電変換層23と、電子輸送層24と、陰極層26と、をこの順番に備え、前記正孔輸送層22は、2種類のカルバゾール化合物分子により形成される単分子膜であり、前記2種類のカルバゾール化合物分子は、カルバゾールの窒素原子に同じ炭素鎖が結合し、ベンゼン環の置換基のみが異なる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極層と、正孔輸送層と、ペロブスカイト化合物を含み、前記正孔輸送層と接する光電変換層と、電子輸送層と、陰極層と、をこの順番に備え、
前記正孔輸送層は、2種類のカルバゾール化合物分子により形成される単分子膜であり、
前記2種類のカルバゾール化合物分子は、カルバゾールの窒素原子に同じ炭素鎖が結合し、ベンゼン環の置換基のみが異なる、太陽電池。
【請求項2】
前記2種類のカルバゾール化合物分子は、2PACz及びMeO-2PACzである、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記正孔輸送層における前記2PACzと前記MeO-2PACzとの質量比は、1:99以上60:40以下である、請求項2に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記正孔輸送層における前記2PACzと前記MeO-2PACzとの存在面積率は、1:99以上50:50以下である、請求項2に記載の太陽電池。
【請求項5】
基材に導電性材料を積層する工程と、
前記導電性材料の層に2種類のカルバゾール化合物分子を含有する単分子膜形成材料溶液を塗布する工程と、
前記単分子膜形成材料溶液の塗膜を乾燥する工程と、
乾燥後の前記単分子膜形成材料溶液の塗膜に光電変換層形成材料溶液を塗布する工程と、
を備え、
前記2種類のカルバゾール化合物分子は、カルバゾールの窒素原子に同じ炭素鎖が結合し、ベンゼン環の置換基のみが異なる、太陽電池製造方法。
【請求項6】
前記2種類のカルバゾール化合物分子は、2PACz及びMeO-2PACzであり、
前記光電変換層形成材料溶液における前記2PACzと前記MeO-2PACzとの質量比は、1:99以上70:30以下である、請求項5に記載の太陽電池。
【請求項7】
前記光電変換層形成材料溶液の塗布は、スピンコートにより行う、請求項5又は6に記載の太陽電池製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池及び太陽電池製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷が小さいエネルギー源として、太陽電池の利用が拡大している。様々な機器、車両、建築物等に太陽電池を配設する場合、設置可能面積が限定されるため、太陽電池の光電変換効率が重要となり得る。光電変換効率が高い太陽電池として、有機材料を使用するペロブスカイト太陽電池が研究されている。基本的なペロブスカイト太陽電池は、基材に、第1電極(陽極又は陰極)、正孔輸送層(正孔輸送層又は電子輸送層)、光電変換層(ペロブスカイト層)、電子輸送層(電子輸送層又は正孔輸送層)、及び第1電極(陰極又は陽極)がこの順番に積層されてなる。さらに、第1電極と正孔輸送層との間に第1バッファ層を設けることや、電子輸送層と第2電極との間に第2バッファ層を設けることによって、光電変換効率を向上し得ることも知られている。
【0003】
また、特許文献1には、基材に積層した第1電極の表面に単分子膜を形成し、単分子膜に光電変換層を直接積層し、さらに電子輸送層及び透明電極を積層した太陽電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-141165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、電荷をより効率的に取り出すことを可能にするために、単分子膜と光電変換層の間に正孔輸送層を追加することが推奨されている。正孔輸送層は、電子をブロックし、正孔を選択的に電極に到達させることで光電変換効率を向上するものであるが、正孔の移動距離の増大により光電変換効率を制限することにもなる。つまり、特許文献1に記載される太陽電池は、単分子膜の正孔選択(電子ブロック)機能が十分ではないため、正孔輸送層を追加することにより得られる電子ブロック効果向上のメリットが正孔の移動距離の増大によるデメリットを上回るといえる。逆にいうと、正孔選択性の高い単分子膜を形成できれば、正孔輸送層として十分に機能するため、より光電変換効率が高い太陽電池を製造することができる。
【0006】
本発明は、光電変換効率が高い太陽電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る太陽電池は、陽極層と、正孔輸送層と、ペロブスカイト化合物を含み、前記正孔輸送層と接する光電変換層と、電子輸送層と、陰極層と、をこの順番に備え、前記正孔輸送層は、2種類のカルバゾール化合物分子により形成される単分子膜であり、前記2種類のカルバゾール化合物分子は、カルバゾールの窒素原子に同じ炭素鎖が結合し、ベンゼン環の置換基のみが異なる。
【0008】
上述の太陽電池において、前記2種類のカルバゾール化合物分子は、2PACz及びMeO-2PACzであってもよい。
【0009】
上述の太陽電池において、前記正孔輸送層における前記2PACzと前記MeO-2PACzとの質量比は、1:99以上60:40以下であってもよい。
【0010】
上述の太陽電池において、前記正孔輸送層における前記2PACzと前記MeO-2PACzとの存在面積率の比は、1:99以上50:50以下であってもよい。
【0011】
本発明の別の態様に係る太陽電池製造方法は、基材に導電性材料を積層する工程と、前記導電性材料の層に2種類の自己組織化単分子膜形成分子を含有する単分子膜形成材料溶液を塗布する工程と、前記単分子膜形成材料溶液の塗膜を乾燥する工程と、乾燥後の前記単分子膜形成材料溶液の塗膜に光電変換層形成材料溶液を塗布する工程と、を備え、前記2種類のカルバゾール化合物分子は、カルバゾールの窒素原子に同じ炭素鎖が結合し、ベンゼン環の置換基のみが異なる。
【0012】
上述の太陽電池製造方法において、前記2種類のカルバゾール化合物分子は、2PACz及びMeO-2PACzであり、前記光電変換層形成材料溶液における前記2PACzと前記MeO-2PACzとの質量比は、1:99以上70:30以下であってもよい。
【0013】
上述の太陽電池製造方法において、前記光電変換層形成材料溶液の塗布は、スピンコートにより行ってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光電変換効率が高い太陽電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る太陽電池の層構造を示す模式断面図である。
図2図1の太陽電池における正孔輸送層の構成を示す模式断面図である。
図3図1の太陽電池の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る太陽電池1の層構造を示す模式断面図である。
【0017】
太陽電池1は、基材10と、基材10の表面に積層されるペロブスカイト太陽電池部20と、基材10の裏面に積層される裏面収集電極31と、ペロブスカイト太陽電池部20の表面に部分的に積層される表面収集電極32と、ペロブスカイト太陽電池部20及び表面収集電極32の表面を覆う反射防止層33と、を備える。太陽電池1は、反射防止層33を通して光が入射し、ペロブスカイト太陽電池部20において光電変換を行う。
【0018】
基材10は、ペロブスカイト太陽電池部20を支持する構造体であり、光電変換機能を備えてもよい。具体的には、基材10は、例えばガラス基板、樹脂シート等であってもよいが、本実施形態の太陽電池1において、基材10は、結晶シリコン太陽電池である。太陽電池1では、反射防止層33を通して入射する光を先ずペロブスカイト太陽電池部20により光電変換し、ペロブスカイト太陽電池部20を透過する波長の光を結晶シリコン太陽電池10により光電変換する。結晶シリコン太陽電池は、十分な強度を有するため、ペロブスカイト太陽電池部20を支持する基材10として機能することができるとともに、ペロブスカイト太陽電池部20を透過した光を電気に変換することで、光電変換効率を向上できる。太陽電池1は、基材10となる結晶シリコン太陽電池にペロブスカイト太陽電池部20が積層されることで、結晶シリコン太陽電池とペロブスカイト太陽電池部20とが直列に接続されたものとなっている。
【0019】
本実施形態の基材10は、半導体基板11と、半導体基板11の表面側に積層される第1半導体層12と、半導体基板11の裏面側に積層される第2半導体層13とを備える。
【0020】
ペロブスカイト太陽電池部20は、基材10側から、陽極層21と、正孔輸送層22と、光電変換層23と、電子輸送層24と、バッファ層25と、陰極層26と、をこの順番に備える。
【0021】
陽極層21は、ペロブスカイト太陽電池部20の一方の電極である。陽極層21は、導電性及び光透過性を有する透明導電性酸化物(TCO:Transparent Conductive Oxide)により形成され得る。陽極層21を形成する透明導電性酸化物としては、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン及びそれらの複合酸化物等を用いることができる。これらの中でも、酸化インジウムを主成分とするインジウム系複合酸化物が好ましい。高い導電率と透明性の観点からは、インジウム酸化物が特に好ましい。さらに、信頼性またはより高い導電率を確保するために、インジウム酸化物にドーパントを添加することが好ましい。ドーパントとしては、例えば、Sn、W、Zn、Ti、Ce、Zr、Mo、Al、Ga、Ge、As、Si、S等が挙げられる。例えば、インジウム酸化物にスズが添加されたITO(Indium Tin Oxide)が広く知られている。
【0022】
陽極層21は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法などの方法で基材10上に積層され得る。陽極層の厚みとしては、ペロブスカイト太陽電池部20から基材10に面で電力を出力する場合(厚み方向に電流が流れる場合)には例えば5nm以上100nm以下とすることができ、陽極層に接続される配線に電力を出力する場合(面方向に電流が流れる場合)には例えば500nm以上1000nm以下とされ得る。
【0023】
正孔輸送層(HTL)22は、光電変換層23で発生する正孔を選択的に陽極層21に伝達する。正孔輸送層22は、2種類のカルバゾール化合物分子により形成される自己組織化単分子膜(SAM:Self-Assembled Monolayers)である。正孔輸送層22を形成する2種類のカルバゾール化合物分子は、カルバゾールの窒素原子に同じ炭素鎖が結合し、ベンゼン環の置換基(一方は水素であってもよい)のみが異なる。2種類のカルバゾール化合物分子は、2PACz([2-(9H-Carbazol-9-yl)ethyl]phosphonic Acid)及びMeO-2PACz([2-(3,6-Dimethoxy-9H-carbazol-9-yl)ethyl]phosphonic Acid)であることが好ましい。カルバゾールの窒素原子に同じ炭素鎖が結合し、ベンゼン環の置換基のみが異なる2種類のカルバゾール化合物分子、特に2PACz及びMeO-2PACzにより形成される自己組織化単分子膜は、十分な正孔選択機能を有するため、直接光電変換層23を積層しても電子を遮断しつつ正孔を効率よく取り出すことができる。
【0024】
正孔輸送層22は、2PACz及びMeO-2PACzを例えばエタノール、イソプロパノール等の有機溶媒に溶解してなる単分子膜形成材料溶液の塗工及び乾燥によって形成することができる。単分子膜形成材料溶液における2PACz及びMeO-2PACzの合計濃度としては、0.3mg/mL程度とされる。
【0025】
光電変換層23を形成する光電変換層形成材料に対する濡れ性、メトキシ基によるペロブスカイト層とのホール選択性だけを考慮すれば、MeO-2PACzが有利となると考えられる。しかしながら、MeO-2PACzだけを含む単分子膜形成材料溶液では、結晶粒のように別々に成長するMeO-2PACzの単分子膜の個別領域の間にピンホールを生じて陽極層21の表面を完全に被覆することができない。そこで、MeO-2PACzに加えて2PACzを含む単分子膜形成材料溶液を用いることで、図2に模式的に示すように、MeO-2PACzの単分子膜の個別領域の間に、個別領域の形状の自由度が高い2PACzの単分子膜の個別領域を形成し、正孔輸送層22のピンホールを低減できると考えられる。2PACz及びMeO-2PACzを含む単分子膜形成材料溶液では、MeO-2PACzの単分子膜の成長が優位となるため、形成される正孔輸送層22における2PACzの存在面積率のMeO-2PACzの存在面積率に対するの比は、単分子膜形成材料溶液における2PACzの含有量のMeO-2PACzの含有量に対する比よりも小さくなる。
【0026】
正孔輸送層22における2PACzとMeO-2PACzとの質量比(2PACzの割合)の下限としては、1:99が好ましく、10:90がより好ましい。一方、2PACzとMeO-2PACzとの質量比の上限としては、60:40が好ましく、55:45がより好ましく、50:50がさらに好ましく、30:70が特に好ましい。2PACzとMeO-2PACzとの質量比を前記範囲内とすることにより、正孔輸送層22のピンホールを低減しつつ、光電変換層23を形成するための光電変換層形成材料溶液に対する濡れ性が適切となるので、光電変換層23を適切に形成することができる。これにより、光電変換層23によるキャリア(正孔及び電子)の生成及び光電変換層23から正孔輸送層22への正孔の受け渡しが最適化されるので、太陽電池1の光電変換効率を向上することができる。
【0027】
正孔輸送層22における2PACzとMeO-2PACzとの質量比の下限としては、1:99が好ましく、10:90がより好ましい。一方、2PACzとMeO-2PACzとの存在面積率の上限としては、50:50が好ましく、30:70がより好ましい。2PACzとMeO-2PACzとの存在面積率を前記範囲内とすることにより、正孔輸送層22のピンホールを低減しつつ、光電変換層23を形成するための光電変換層形成材料溶液に対する濡れ性が適切となるので、光電変換層23を適切に形成することができる。
【0028】
単分子膜形成材料溶液における2PACzとMeO-2PACzとの質量比の下限としては、1:99が好ましく、30:70がより好ましい。一方、2PACzとMeO-2PACzとの質量比の上限としては、70:30が好ましく、60:40がより好ましい。単分子膜形成材料溶液における2PACzとMeO-2PACzとの質量比を前記下限以上とすることにより、MeO-2PACzの単分子膜の間に2PACzの単分子膜を形成して正孔輸送層22のピンホールを低減できる。また、単分子膜形成材料溶液における2PACzとMeO-2PACzとの質量比を前記上限以下とすることにより、2PACzがMeO-2PACzの単分子膜の成長を阻害しないので、正孔輸送層22の形成が確実となる。
【0029】
光電変換層23は、光を吸収してキャリアを生成する。光電変換層23は、ペロブスカイト化合物を含み、正孔輸送層22と接するよう形成される。ペロブスカイト化合物としては、1価の有機アンモニウムイオンおよびアミジニウム系イオンのうちの少なくとも1種を含む有機原子A、2価の金属イオンを生成する金属原子B、及びヨウ化物イオンI、臭化物イオンBr、塩化物イオンCl、およびフッ化物イオンFのうちの少なくとも1種を含むハロゲン原子Xを含み、ABXで表される化合物を用いることができる。中でも、光電変換層23を蒸着法(ドライプロセス)により形成する場合、有機原子AとしてはメチルアンモニウムMA(CHNH)が好ましく、金属原子Bとしては鉛Pbが好ましく、ハロゲン原子Xとしてはヨウ化物I、臭化物イオンBrおよび塩化物イオンClのうちの少なくとも1つが好ましい。
【0030】
具体的に、好ましいペロブスカイト化合物としては、メチルアンモニウムハロゲン化鉛MAPbX(CHNHPbX)、MAPbI、MAPbBr、MAPbCl等が挙げられる。なお、ハロゲン原子Xとしては複数種類を含んでもよい。ヨウ化物Iと他のハロゲン原子Xとを含むペロブスカイト化合物としては、例えばメチルアンモニウムヨウ化鉛MAPbI(3-y)(CHNHPbI(3-y))、MAPbIBr(3-y)、MAPbICl(3-y)等が挙げられる(yは任意の正の整数)。
【0031】
ペロブスカイト化合物がメチルアンモニウムハロゲン化鉛(MAPbX(CHNHPbX))である場合、光電変換層23は、ハロゲン化鉛(PbX)材料およびハロゲン化メチルアンモニウム(MAX)材料を順に製膜し、これらの材料の薄膜を反応温度で反応させることにより形成され得る。例えば、ペロブスカイト化合物がメチルアンモニウムヨウ化鉛(MAPbI(3-y)(CHNHPbI(3-y)))である場合、光電変換層23は、例えばハロゲン化鉛(PbX)材料およびヨウ化メチルアンモニウム(MAI)材料を順に製膜し、これらの材料の薄膜を反応温度で反応させることにより形成される。また、光電変換層23は、ハロゲン化鉛(PbX2)材料およびヨウ化メチルアンモニウム(MAI)材料を混合して溶媒に溶かし、その溶液を製膜して反応温度で反応させることにより形成してもよい。
【0032】
光電変換層23を形成する材料の成膜は、均一な薄膜を形成できる点で、光電変換層形成材料を例えばDMF(N,N-dimethylformamide)、DMSO(Dimethyl sulfoxide)等の極性溶媒に溶解した光電変換層形成材料溶液のスピンコートによって行うことが好ましい。また、スピンコートにより材料を成膜する場合、正孔輸送層22の濡れ性を最適化した効果が顕著となる。このため、上述の正孔輸送層22にスピンコートにより材料を積層して光電変換層23を形成することにより、太陽電池1の光電変換効率を特に向上することができる。
【0033】
具体例として、光電変換層形成材料溶液は、ヨウ化鉛(II)、ホルムアミジンよう化水素酸塩、臭化鉛(II)、メチルアミン臭化水素酸塩を秤量し、DMF、DMSOに溶解させ、別途調液したヨウ化セシウムのDMSO溶液と混合した混合液として調液され得る。このとき、ホルムアミジンよう化水素酸塩のモル濃度に対するヨウ化鉛(II)のモル濃度は1~1.1倍、メチルアミン臭化水素酸塩のモル濃度に対する臭化鉛(II)のモル濃度は1~1.1倍であることが好ましく、さらにはそれぞれ1.06~1.09倍であることがより好ましい。ヨウ化鉛(II)と臭化鉛(II)のモル濃度の比は、72:28~79:21であることが好ましく、さらには74:26~77:23であることがより好ましい。ホルムアミジンよう化水素酸塩とメチルアミン臭化水素酸塩のモル濃度の合計は、1.5~2.0Mであることが好ましく、1.6~1.8Mであることがより好ましい。ヨウ化鉛(II)、ホルムアミジンよう化水素酸塩、臭化鉛(II)、メチルアミン臭化水素酸塩を溶かす溶媒としてのDMF、DMSOの比率としては、3:1~5:1であることが好ましい。ヨウ化セシウムのDMSO溶液を混ぜて混合液とする場合は、ホルムアミジンよう化水素酸塩のモル濃度に対してヨウ化セシウムのモル濃度が4~6%にすることが好ましい。このような光電変換層形成材料溶液は、上述の単分子膜からなる正孔輸送層22にスピンコートにより適切に成膜することができる。
【0034】
光電変換層23の厚みとしては、光電変換層形成材料の種類等にもよるが、光の吸収率を大きくしつつ、生成する電荷の移動距離を小さくするために、100nm以上1000nm以下とすることが好ましい。
【0035】
電子輸送層(ETL)24は、光電変換層23で発生する電子を選択的にバッファ層25を通して陰極層26に伝達する。電子輸送層24の主材料としては、例えば、PTAA(Poly(bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine))、Spiro-MeOTAD、フラーレン等が挙げられる。フラーレンとしては、例えばC60、C70、これらの水素化物、酸化物、金属錯体、アルキル基等を付加した誘導体などが挙げられる。電子輸送層24をリチウムLiを内包させたフラーレンを含む材料から形成することにより、電子の輸送効率を向上することができる。
【0036】
電子輸送層24は、例えばゾルゲル法、塗布法等の方法により形成され得る。電子輸送層24の厚みとしては、例えば3nm以上30nm以下とされ得る。
【0037】
バッファ層25は、陰極層26の金属が電子輸送層24に拡散することひいてはそれによる電荷の再結合を防止する。また、バッファ層25は、陰極層26をスパッタリング等で形成する際に電子輸送層24にダメージを及ぼさないための緩衝層としても機能する。バッファ層25は、例えば酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)等の安定な金属酸化物、又は、例えばバソクプロイン(2,9-Dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline)等の有機材料から形成される。
【0038】
バッファ層25は、真空蒸着法、スパッタリング法、原子層堆積法等の方法により形成され得る。バッファ層25の厚みとしては、例えば3nm以上30nm以下とされ得る。
【0039】
陰極層26は、ペロブスカイト太陽電池部20の陽極層21と対をなす電極である。陰極層26は反射防止層33を通して入射する光を透過する透明電極であり、アモルファスITOから形成される。また、陰極層26は、酸化錫(SnO)がドープされることが好ましい。
【0040】
陰極層26は、スパッタリング法により形成することができる。陰極層26の厚みの下限としては、例えば10nm以上200nm以下とされ得る。
【0041】
裏面収集電極31及び表面収集電極32は、結晶シリコン太陽電池とペロブスカイト太陽電池の積層体から電力を取り出して外部に出力するための電極対である。裏面収集電極31は、全面に積層されてもよいが、表面収集電極32は、ペロブスカイト太陽電池部20への光の入射を可能にするため、間隔を空けて配置される複数の線状の部分、いわゆるフィンガー電極を有するものとされる。
【0042】
裏面収集電極31及び表面収集電極32は導電性を有する材料により形成される。裏面収集電極31及び表面収集電極32の形成方法としては、例えばスパッタリング、めっき等の公知の方法を用いることができるが、表面収集電極32については、ペロブスカイト太陽電池部20にダメージを与えずに形成できる方法として、例えば銀の蒸着により形成することが好ましい。裏面収集電極31及び表面収集電極32の厚みとしては、例えば100nm以上300nm以下とすることができる。
【0043】
反射防止層33は、太陽電池1の受光面における光の反射を低減する。反射防止層33は、例えば、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、フッ化セリウム(CeF)などの低屈折率材料から形成することができる。また、反射防止層33は、低屈折率材料と高屈折率材料とを交互に積層した多層膜であってもよい。反射防止層33の厚みとしては、例えば50nm以上200nm以下とされ得る。
【0044】
以上の説明から明らかなように、太陽電池1を製造する本発明に係る太陽電池製造方法の一実施形態は、図3に示すように、基材10に陽極層21を形成する導電性材料を積層することにより工程(ステップS1:陽極導電性材料積層工程)と、導電性材料の層つまり陽極層21に2種類のカルバゾール化合物分子を含有する単分子膜形成材料溶液を塗布する工程(ステップS2:単分子膜形成材料溶液塗布工程)と、単分子膜形成材料溶液の塗膜を乾燥する工程(ステップS3:塗膜乾燥工程)と、乾燥後の単分子膜形成材料溶液の塗膜、つまり正孔輸送層22に光電変換層23を形成する材料を含む光電半乾燥形成材料溶液を塗布する工程(ステップS4:光電変換層形成材料溶液塗布工程)と、光電変換層形成材料を加熱によって反応させることにより光電変換層23を形成する工程(ステップS5:反応工程)と、光電変換層23に電子輸送層24を形成する材料を積層する工程(ステップS6:電子輸送層形成材料積層工程)と、電子輸送層24にバッファ層25を形成する材料を積層する工程(ステップS7:バッファ層形成材料積層工程)と、バッファ層25に陰極層26を形成する導電性材料を積層する工程(ステップS8:陰極導電性材料積層工程)と、を備える。
【0045】
このような太陽電池製造方法により製造される太陽電池1は、正孔輸送層22を2種類のカルバゾール化合物分子により形成される単分子膜としたことによって、正孔輸送層22が十分な正孔選択性を有すると共に、光電変換層23を適切に形成できるため、比較的高い光電変換効率を有する。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更および変形が可能である。例として、本発明に係る太陽電池は、透明な基材を用い、基材側から入射する光を電力に変換するものであってもよい。また、本発明に係る太陽電池は、層同士の密着性を向上するために介設される中間層、電荷又は材料の好ましくない層間の移動を防止するブロッキング層、特定の層にドーパントを提供するためのドープ層(例えばフラーレンを含む電子輸送層にフッ化リチウムを提供するために設けられ得るフッ化リチウム薄層)等をさらに有してもよく、例えばバッファ層、反射防止層等の一部の層が省略されたり、複数の層がそれらの機能を併せ持つ単一の層に置換されてもよい。また、本発明に係る太陽電池は製造する太陽電池の構成に応じて工程の省略、追加及び変更がなされ得る。
【符号の説明】
【0047】
1 太陽電池
10 基材
11 半導体基板
12 第1半導体層
13 第2半導体層
20 ペロブスカイト太陽電池部
21 陽極層
22 正孔輸送層
23 光電変換層
24 電子輸送層
25 バッファ層
26 陰極層
31 裏面収集電極
32 表面収集電極
33 反射防止層
図1
図2
図3