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特開2023-46235医薬組成物及びSTAT3のリン酸化阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046235
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】医薬組成物及びSTAT3のリン酸化阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/495 20060101AFI20230327BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
A61K31/495
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092488
(22)【出願日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2021154347
(32)【優先日】2021-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】中田 光俊
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 惇也
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】グリオーマの治療又は予防可能な医薬組成物、及び前記医薬組成物に適用可能な、STAT3のリン酸化阻害剤の提供。
【解決手段】ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、グリオーマを治療又は予防するための医薬組成物。また、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、STAT3のリン酸化阻害剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、グリオーマを治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項2】
グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞の増殖を抑制する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
グリオーマ幹細胞の自己複製を阻害する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞において、STAT3のリン酸化を阻害する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞のアポトーシスを誘導する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞の遊走を阻害する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞の浸潤を阻害する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、STAT3のリン酸化阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物およびSTAT3のリン酸化阻害剤に関する。特に、グリオーマを治療又は予防するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん治療薬の開発において、がん幹細胞の存在が注目されている。がん幹細胞は、他のがん細胞とは異なり、腫瘍形成能を有する細胞であり、既存の放射線療法や抗がん剤に対して治療抵抗性を示すことから、がんの再発や転移の主要因であると考えられている。そのため、がん細胞と共にがん幹細胞を標的とする薬剤の開発が求められている。
【0003】
膠芽腫は未だ予後不良な原発性悪性脳腫瘍であり、積極的加療にも抵抗性が生じ、その平均生存期間は18か月と短い。治療抵抗性の発現には、腫瘍形成の起源となるグリオーマ幹細胞が関与していると考えられることから、グリオーマ幹細胞を標的とする化学療法が奏功する可能性がある。
【0004】
一方、薬物治療開発研究分野において、既存医薬品の適応外疾患に対する効果を調査し適応拡大を目指す、ドラッグリポジショニングの有効性が注目されている。ドラッグリポジショニングでは、既に安全性試験や薬物動態試験が済んでおり、製造方法が確立されている医薬品を用いるため、開発期間の短縮及び開発コストの削減が可能である。
【0005】
ロメリジンは、片頭痛の予防薬として知られている。ロメリジンは、卵巣がん(非特許文献1)及び結腸直腸がん(非特許文献2)に対し、抗腫瘍活性を有することが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Heejin Lee, et al., Calcium Channels as Novel Therapeutic Targets for Ovarian Cancer Stem Cells. Int J Mol Sci. 2020 Mar 27;21(7):2327.
【非特許文献2】Xiang-Peng Tan et al., Lomerizine 2HCl inhibits cell proliferation and induces protective autophagy in colorectal cancer via the PI3K/Akt/mTOR signaling pathway. MedComm. 2021;1-14.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1及び2には、ロメリジンが卵巣がん又は結腸直腸がん以外のがんに対し、抗腫瘍効果を有することは示されていない。がんは、発生する臓器により特性が異なっており、有効な薬剤も異なる。したがって、ロメリジンが、卵巣がん又は結腸直腸がん以外のがんに有効であるかは不明である。
一方、膠芽腫等の悪性度の高いグリオーマに対して有効な抗腫瘍薬は限られている。そのため、グリオーマに有効な新規治療薬が求められる。
【0008】
そこで、本発明は、グリオーマの治療又は予防可能な、医薬組成物を提供することを目的とする。また、前記医薬組成物に適用可能な、STAT3のリン酸化阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を含む。
[1]ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、グリオーマを治療又は予防するための医薬組成物。
[2]グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞の増殖を抑制する、[1]に記載の医薬組成物。
[3]グリオーマ幹細胞の自己複製を阻害する、[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
[4]グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞において、STAT3のリン酸化を阻害する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[5]グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞のアポトーシスを誘導する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[6]グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞の遊走を阻害する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[7]グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞の浸潤を阻害する、[1]~[6]のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[8]ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、STAT3のリン酸化阻害剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、グリオーマの治療又は予防可能な、医薬組成物が提供される。また、前記医薬組成物に適用可能な、STAT3のリン酸化阻害剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ロメリジンによる、膠芽腫幹細胞の増殖阻害効果を示す。
図2】ロメリジンによる、膠芽腫細胞の増殖阻害効果を示す。
図3】0~10μMのロメリジン存在下で、膠芽腫幹細胞のスフェア形成アッセイを行ったウェル画像を示す。
図4】ロメリジンによる、膠芽腫幹細胞のスフェア形成阻害効果を示す。
図5】膠芽腫幹細胞における、ロメリジンによる、STAT3、AKT、及びERKのリン酸化阻害効果を示す。
図6】膠芽腫細胞における、ロメリジンによる、STAT3、AKT、及びERKのリン酸化阻害効果を示す。
図7】膠芽腫細胞における、ロメリジンによるアポトーシスの誘導効果を示す。アポトーシス誘導は、ヘキスト33258染色及びヨウ化プロピジウム(PI)染色により確認した。
図8】膠芽腫細胞における、ロメリジンによるアポトーシスの誘導効果を示す。アポトーシス誘導は、Annexin V assayにより確認した。
図9】膠芽腫細胞における、ロメリジンによるアポトーシスの誘導効果を示す。アポトーシス誘導は、cleaved caspase9量を検出することにより確認した。
図10】膠芽腫細胞における、ロメリジンによる遊走阻害効果を示す。
図11】膠芽腫細胞における、ロメリジンによる浸潤阻害効果を示す。
図12】膠芽腫細胞を移植したマウスモデルにおける、ロメリジンによる腫瘍増殖抑制効果を示す。0mg/kg、4.7mg/kg、又は30mg/kgのロメリジンによる処置後、53日目の腫瘍サイズを示した。
図13】膠芽腫幹細胞株KGS10を移植したマウスモデルにおける、ロメリジンによる腫瘍増殖抑制効果を示す。0mg/kg、4.7mg/kg、又は30mg/kgのロメリジンによる処置後、53日目の脳組織切片を示した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[医薬組成物]
一態様において、本発明は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、グリオーマを治療又は予防するための医薬組成物を提供する。
【0013】
<ロメリジン又はその薬学的に許容される塩>
ロメリジンは、下記式(1)で表される化合物である。
【0014】
【化1】
【0015】
ロメリジンは、ロメリジン塩酸塩の形態で市販されている(商品名:ミグシス;ファイザー)。ロメリジン塩酸塩は、経口投与用の錠剤として販売されている。
【0016】
ロメリジンは、前記式(1)で表される遊離の化合物であってもよく、ロメリジン塩酸塩であってもよく、他の薬学的に許容される塩の形態であってもよい。「薬学的に許容される塩」とは、ロメリジンの薬理作用を阻害しない塩の形態を意味する。ロメリジン塩酸塩もロメリジンの薬学的に許容される塩の一形態である。ロメリジン塩酸塩以外の薬学的に許容される塩としては、特に制限されず、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)との塩;アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)との塩;有機塩基(ピリジン、トリエチルアミンなど)との塩、アミンとの塩、有機酸(酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、グルコン酸、乳酸など)との塩、及び無機酸(塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸など)との塩等が挙げられる。ロメリジン又はその薬学的に許容される塩は、無水物であってもよく、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。以下、「ロメリジン又はその薬学的に許容される塩」を、単に「ロメリジン」という場合がある。
【0017】
<グリオーマ>
グリオーマ(神経膠腫)は、髄上皮から分化してくる細胞系(グリア細胞、神経細胞、松果体実質細胞)の細胞から発生する腫瘍の総称である。一般に、グリア細胞系の腫瘍としては星細胞腫瘍系、乏突起細胞腫系、上衣腫系及び膠芽腫が挙げられ、神経細胞系としては髄芽腫、髄様上皮腫、神経芽細胞腫、神経節性神経腫及び神経細胞神経膠腫が挙げられ、松果体実質細胞系としては松果体細胞腫及び松果体芽細胞腫が挙げられる。
グリオーマは、例えば、表1に示すように分類できる。
【0018】
【表1】
【0019】
本実施形態の医薬組成物は、上記全ての種類及び悪性度のグリオーマの治療又は予防に用いることができる。本実施形態の医薬組成物は、特に、悪性度の高い膠芽腫(グリオブラストーマ)に対して有効である。
【0020】
本実施形態の医薬組成物を適用する動物は、グリオーマを発生する動物であれば、特に限定されない。本実施形態の医薬組成物の適用対象としては、例えば、ヒト、又はヒト以外の哺乳類が挙げられる。ヒト以外の哺乳類としては、特に限定されないが、霊長類(サル、チンパンジー、ゴリラなど)、げっ歯類(マウス、ハムスター、ラットなど)、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ等が挙げられる。
【0021】
本実施形態の医薬組成物は、グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞の増殖を抑制するために用いられてもよい。本実施形態の医薬組成物は、グリオーマ幹細胞の自己複製を阻害するために用いられてもよい。本実施形態の医薬組成物は、グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞において、STAT3のリン酸化を阻害するために用いられてもよい。本実施形態の医薬組成物は、グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞のアポトーシスを誘導するために用いられてもよい。本実施形態の医薬組成物は、特に膠芽腫細胞及び膠芽腫幹細胞に有効である。
【0022】
ロメリジンは、特に、グリオーマ幹細胞に対して、高い増殖阻害効果、高いスフェア形成阻害効果、及び高いSTAT3リン酸化阻害効果を有する。
グリオーマ幹細胞は、グリオーマ形成能を有し、自己複製能と多様なグリオーマ細胞への分化能(多分化能)を有する細胞である。薬剤が、グリオーマ幹細胞の自己複製阻害活性を有するか否かは、スフェア形成アッセイにより評価することができる。スフェア形成アッセイは、グリオーマ幹細胞の自己複製能(又はグリオーマ形成能)を利用して、培養系中に形成されるコロニー(スフェア)数によりグリオーマ幹細胞の数を定量する方法である。グリオーマ幹細胞は、浮遊状態で培養すると、スフェアと呼ばれる細胞塊を形成するが、グリオーマ幹細胞ではないグリオーマ細胞はスフェアを形成することなく死滅する。ロメリジンは、グリオーマ幹細胞(例えば、膠芽腫幹細胞)を用いたスフェア形成アッセイにより、グリオーマ幹細胞のスフェア形成を濃度依存的に阻害することが確認された。したがって、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩は、グリオーマ幹細胞の自己複製阻害剤であるということもできる。
ロメリジンは、グリオーマ細胞(例えば、膠芽腫細胞)及びグリオーマ幹細胞(例えば膠芽腫幹細胞)の増殖を効果的に抑制することができる。したがって、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩は、グリオーマ細胞又はグリオーマ幹細胞の増殖阻害剤であるということもできる。
ロメリジンは、グリオーマ細胞(例えば、膠芽腫細胞)及びグリオーマ幹細胞(例えば膠芽腫幹細胞)のアポトーシスを誘導することができる。したがって、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩は、グリオーマ細胞又はグリオーマ幹細胞のアポトーシス誘導剤であるということもできる。
ロメリジンは、グリオーマ細胞(例えば、膠芽腫細胞)及びグリオーマ幹細胞(例えば膠芽腫幹細胞)の遊走を効果的に抑制することができる。したがって、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩は、グリオーマ細胞又はグリオーマ幹細胞の遊走阻害剤であるということもできる。ロメリジンは、グリオーマ細胞(例えば、膠芽腫細胞)及びグリオーマ幹細胞(例えば膠芽腫幹細胞)の浸潤を効果的に抑制することができる。したがって、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩は、グリオーマ細胞又はグリオーマ幹細胞の浸潤阻害剤であるということもできる。
【0023】
本実施形態の医薬組成物は、STAT3を発現しているグリオーマ細胞又はグリオーマ幹細胞を含むグリオーマであることが好ましい。
STAT3は、シグナル伝達と転写活性化を行うことで、細胞の分化、生存、及び増殖等を制御するSignal Transducers and Activator of Transcription(STAT)ファミリー分子の1つである。STAT3は、非活性化状態では細胞質に局在するが、活性化したJanusキナーゼ(JAK)によりチロシン残基がリン酸化されることにより活性化する。リン酸化されたSTAT3は、ホモ二量体または異なるSTATファミリー間でヘテロ二量体を形成して核内に移行し、標的遺伝子の転写を誘導する転写因子として作用する。この転写活性化経路は、JAK/STAT経路と呼ばれ、発がんに関与することが知られている。
ロメリジンは、グリオーマ幹細胞及びグリオーマ細胞において、STAT3のリン酸化を阻害することができる。したがって、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩は、STAT3のリン酸化阻害剤であるということもできる。
【0024】
本実施形態の医薬組成物は、グリオーマの再発及び転移の少なくとも一方を抑制するために用いることもできる。グリオーマ幹細胞は、腫瘍形成能を有するため、外科手術又は放射線療法若しくは化学療法によりグリオーマを除去した場合であっても、グリオーマ幹細胞が残存しているとがんが再発する恐れがある。さらに、グリオーマ幹細胞が、体内を移動すると、移動先で腫瘍を形成する恐れがある。本実施形態の医薬組成物は、グリオーマ幹細胞の自己複製を阻害し、グリオーマ幹細胞を除去することができる。また、本実施形態の医薬組成物は、グリオーマ細胞又はグリオーマ幹細胞の遊走を阻害することができる。そのため、本実施形態の医薬組成物は、グリオーマの再発及び転移を効果的に抑制することができる。
【0025】
本実施形態の医薬組成物は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分は、特に限定されないが、薬学的に許容される担体が挙げられる。「薬学的に許容される担体」とは、有効成分の生理活性を阻害せず、且つ、その投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体を意味する。「実質的な毒性を示さない」とは、その成分が通常使用される投与量において、投与対象に対して毒性を示さないことを意味する。本実施形態の医薬組成物において、薬学的に許容される担体は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩のグリオーマ治療活性を阻害せず、且つその投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体である。薬学的に許容される担体は、典型的には非活性成分とみなされる、公知のあらゆる薬学的に許容され得る成分を包含する。薬学的に許容される担体は、特に限定されないが、例えば、溶媒、希釈剤、ビヒクル、賦形剤、流動促進剤、結合剤、造粒剤、分散化剤、懸濁化剤、湿潤剤、滑沢剤、崩壊剤、可溶化剤、安定剤、乳化剤、充填剤、保存剤(例えば、酸化防止剤)、キレート剤、矯味矯臭剤、甘味剤、増粘剤、緩衝剤、着色剤等が挙げられる。薬学的に許容される担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
他の成分としては、上記の薬学的に許容される担体として挙げたものに加えて、医薬分野において常用されるものを特に制限なく使用することができる。
【0026】
本実施形態の医薬組成物の剤型は、特に制限されず、医薬品製剤として一般的に用いられる剤型とすることができる。本実施形態の医薬組成物は、経口製剤であってもよく、非経口製剤であってもよい。経口製剤としては、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、細粒剤、液剤、ドロップ愛、乳剤等が例示される。非経口製剤としては、例えば、注射剤、坐剤、軟膏、スプレー剤、外用液剤、点耳剤、点眼剤、点鼻剤、吸入剤等が例示される。これらの剤型の医薬組成物は、定法(例えば、日本薬局方記載の方法)に従って、製剤化することができる。
【0027】
ロメリジン製剤として市販されているロメリジン塩酸塩は、錠剤であり、経口投与される。したがって、本実施形態の医薬組成物も、錠剤又はカプセル剤等の経口投与製剤としてもよい。
本実施形態の医薬組成物が錠剤、カプセル剤である場合、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤等と混和して製剤化することができる。カプセル剤である場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。
【0028】
本実施形態の医薬組成物は、非経口投与製剤としてもよい。例えば、注射用水等の適切な溶媒に溶解し、注射剤又は吸入剤としてもよい。
注射剤の水性溶媒としては、注射用水のほか、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等が挙げられ、適当な溶解補助剤(例えば、アルコール(具体的には、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等))、又は非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50等)と併用してもよい。また、注射剤の油性溶媒としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が挙げられ、溶解補助剤として、例えば、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等と併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液等)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール等)、又は酸化防止剤をさらに配合してもよい。また、注射剤は、非水性の希釈剤(例えば、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類等)、懸濁剤、又は乳濁剤として調製することもできる。
調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填されてもよい。注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。
【0029】
本実施形態の医薬組成物は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩以外の活性成分を含んでいてもよい。前記活性成分としては、特に限定されず、例えば、ビタミン類及びその誘導体類、消炎剤、抗炎症剤、血行促進剤、刺激剤、ホルモン類、刺激緩和剤、鎮痛剤、細胞賦活剤、植物・動物・微生物エキス、鎮痒剤、消炎鎮痛剤、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、抗高血圧剤、降圧利尿剤、抗生物質、麻酔剤、抗菌性物質、抗てんかん剤、冠血管拡張剤、生薬、止痒剤、角質軟化剥離剤等が挙げられるが、これらに限定されない。また、活性成分は、抗がん剤であってもよい。抗がん剤は、適用するがんの種類に応じて適宜選択すればよい。他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
本実施形態の医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、経口又は非経口経路で投与することができる。なお、非経口経路は、経口以外の全ての投与経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、鼻腔内、皮内、点眼、脳内、直腸内、腟内及び腹腔内等への投与を包含する。また、投与は、局所投与であっても全身投与であってもよい。
【0031】
本実施形態の医薬組成物は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩の治療的有効量を投与することができる。「治療的有効量」とは、グリオーマの治療又は予防のために有効な薬剤の量を意味する。治療的有効量は、患者の症状、体重、年齢、及び性別等、並びに医薬組成物の剤型、及び投与方法等によって適宜決定すればよい。例えば、本実施形態の医薬組成物は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩の投与量として、投与対象の体重1kgあたり、0.01~1000mgとすることができる。前記投与量は、0.1~500mg/kgであってもよく、0.5~300mg/kgであってもよく、1~100mg/kgであってもよく、1~50mg/kgであってもよい。
【0032】
本実施形態の医薬組成物は、単位投与形態あたり、治療的有効量のロメリジン又はその薬学的に許容される塩を含むことができる。本実施形態の医薬組成物における治療的有効量は、例えば、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩の合計含有量として、例えば0.001~40質量%であってもよく、例えば0.01~130質量%であってもよく、例えば0.1~20質量%であってもよく、例えば0.5~15質量%であってもよく、例えば1~10質量%であってもよい。
【0033】
本実施形態の医薬組成物の投与間隔は、患者の症状、体重、年齢、及び性別等、並びに医薬組成物の剤型、及び投与方法等によって適宜決定すればよい。投与間隔は、例えば、1日1回、2~3日に1回、1週間に1回、2~3週間に1回程度等とすることができる。
【0034】
本実施形態の医薬組成物は、他の抗がん剤と併用してもよい。例えば、他のグリオーマの治療薬(テモゾロミド、プロカルバジン、ロムスチン、ビンクリスチン、ダカルバジン等)と併用することができる。本実施形態の医薬組成物を抗がん剤と併用する場合、本実施形態の医薬組成物と抗がん剤とは、同時に投与してもよく、時期をずらして投与してもよい。グリオーマ幹細胞は、一般的に、グリオーマ細胞よりも抗がん剤耐性が高いため、通常の抗がん剤で除去することが難しい。一方、本実施形態の医薬組成物は、グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞の両方を標的とすることができる。そこで、まず、他の抗がん剤によりグリオーマ細胞を除去した後、本実施形態の医薬組成物により残存するグリオーマ幹細胞及びグリオーマ細胞を除去してもよい。
【0035】
本実施形態の医薬組成物は、グリオーマ細胞に対して増殖阻害効果を有するとともに、グリオーマ幹細胞に対しても強い増殖抑制効果及び自己複製阻害効果を有する。そのため、本実施形態の医薬組成物は、グリオーマを治療又は予防するために、効果的に用いることができる。
【0036】
[STAT3のリン酸化阻害剤]
一態様において、本発明は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、STAT3のリン酸化阻害剤を提供する。
【0037】
ロメリジン又はその薬学的に許容される塩は、グリオーマ細胞及びグリオーマ幹細胞において、STAT3のリン酸化を阻害する。したがって、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩は、STAT3のリン酸化阻害剤として用いられてもよい。本実施形態のSTAT3のリン酸化阻害剤は、STAT3のリン酸化を阻害するために、in vitro又はin vivoで使用することができる。
【0038】
ロメリジン又はその薬学的に許容される塩は、STAT3の705位のチロシン及び/又は727位のセリンのリン酸化を阻害することができる。したがって、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩は、STAT3の705位のチロシン及びSTAT3の727位のセリンからなる群より選択される少なくとも1個のアミノ酸のリン酸化を阻害するために用いられてもよい。ロメリジン又はその薬学的に許容される塩は、グリオーマ細胞又はグリオーマ幹細胞における、STAT3のリン酸化阻害剤として用いてもよい。
【0039】
本発明は、以下の実施形態もまた含み得る。
一実施形態において、本発明は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、グリオーマの再発及び転移の少なくとも一方を抑制するために用いられる、医薬組成物を提供する。
一実施形態において、本発明は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、放射線療法又は抗がん剤治療後に残存するグリオーマ幹細胞を除去するために用いられる、医薬組成物を提供する。
一実施形態において、本発明は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、グリオーマ幹細胞の自己複製阻害剤を提供する。
一実施形態において、本発明は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、がんの再発及び転移の少なくとも一方を抑制するために用いられる、医薬組成物を提供する。
一実施形態において、本発明は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、他のグリオーマ治療薬と併用して投与される、グリオーマを治療又は予防するための医薬組成物を提供する。
【0040】
一実施形態において、本発明は、グリオーマの再発及び転移の少なくとも一方を抑制するために用いられる、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を提供する。
一実施形態において、本発明は、放射線療法又は抗がん剤治療後に残存するグリオーマ幹細胞を除去するために用いられる、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を提供する。
一実施形態において、本発明は、グリオーマを治療又は予防するために用いられる、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を提供する。
一実施形態において、本発明は、他のグリオーマ治療薬と併用して投与され、グリオーマを治療するために用いられる、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【0041】
一実施形態において、本発明は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、グリオーマの再発及び転移の少なくとも一方を抑制する方法を提供する。
一実施形態において、本発明は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、放射線療法又は抗がん剤治療後に残存するグリオーマ幹細胞を除去する方法を提供する。
一実施形態において、本発明は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、グリオーマを治療又は予防する方法を提供する。
一実施形態において、本発明は、他のグリオーマ治療薬と併用して、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、グリオーマを治療又は予防する方法を提供する。
【0042】
一実施形態において、本発明は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、グリオーマ幹細胞の自己複製を阻害する方法を提供する。
一実施形態において、本発明は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、グリオーマ幹細胞及びグリオーマ細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞の増殖を阻害する方法を提供する。
一実施形態において、本発明は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、STAT3のリン酸化を阻害する方法を提供する。
【0043】
一実施形態において、本発明は、グリオーマの再発及び転移の少なくとも一方を抑制するための医薬組成物の製造におけるロメリジン又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
一実施形態において、本発明は、放射線療法又は抗がん剤治療後に残存するグリオーマ幹細胞を除去するための医薬組成物の製造におけるロメリジン又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
一実施形態において、本発明は、グリオーマを治療又は予防するための医薬組成物の製造におけるロメリジン又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
一実施形態において、本発明は、他のグリオーマ治療薬と併用して投与される医薬組成物であって、グリオーマを治療又は予防するための医薬組成物の製造におけるロメリジン又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【実施例0044】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(細胞株)
膠芽腫幹細胞は、膠芽腫患者の手術検体から膠芽腫幹細胞を単離して樹立された4株(KGS01、KGS07、KGS10、KGS15)を用いた。膠芽腫細胞株は、A172、T98、SNB19、及びU87(Manassas, WA, USA)の4株を用いた。
【0046】
(培地)
膠芽腫幹細胞及び膠芽腫の培養に用いた培地の組成を以下に示す。
【0047】
培地組成
DMEM/F-12(gibco(登録商標)) 400mL
Penicillin/streptomycin(gibco(登録商標)) 5mL
MACS(登録商標) NeuroBrew-21 w/o Vitamin A (MACS Media) 800μL
GlutaMAX(gibco(登録商標)) 400μL
FGF-Basic,Human,Recombinant,Animal Free (Funakoshi(登録商標)) 40μL
Epidermal Growth Factor human,recombinat expressed in E-coli (Sigma aldrich) 40μL
【0048】
(膠芽腫幹細胞及び膠芽腫細胞の増殖アッセイ)
15000cells/mLの膠芽腫幹細胞又は5000cells/mLの膠芽腫細胞を含む培地0.2mLを、96-well Costar ultra-low attachment plate(Corning(登録商標))に播種した。次いで、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したロメリジン(LKT LABS)を、ロメリジンの最終濃度が0μM、1μM、5μM又は10μMとなるように前記培地に添加した。その後、37℃で培養した。ロメリジン曝露下での培養開始(0時間)から72時間後まで、alamarBlueTM Cell Viability Reagent(Bio-Rad Laboratories)を用いて、膠芽腫幹細胞又は膠芽腫細胞の増殖を測定した。
【0049】
膠芽腫幹細胞の結果を図1に示す。膠芽腫細胞の結果を図2に示す。いずれの膠芽腫幹細胞株及び膠芽腫細胞株においても、1~10μMのいずれのロメリジンの濃度でも、増殖が抑制された。膠芽腫幹細胞株では、1~5μMと比較的低濃度のロメリジンでも強い増殖抑制効果が観察され、且つ増殖抑制効果が長期間持続することが確認された。膠芽腫細胞では、ロメリジンの濃度依存的に、増殖が抑制された。
【0050】
(スフェア形成アッセイ)
15000cells/mLの膠芽腫幹細胞を含む培地0.2mLを、96-well Costar ultra-low attachment plate(Corning(登録商標))に播種した。次いで、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したロメリジンを、ロメリジンの最終濃度が0μM、1μM、5μM又は10μMとなるように前記培地に添加した。37℃で7日間培養し、100μm以上のスフェアの数をカウントした。
【0051】
図3は、スフェア形成アッセイを行ったウェル画像を示す。スフェア数カウントの結果を図4に示す。いずれの膠芽腫幹細胞株においても、1~10μMのいずれのロメリジン濃度でも、スフェア数が顕著に減少した。KGS01、KGS07、及びKGS10では、1~10μMのロメリジン濃度で、スフェア数がほぼ0となった。これらの結果から、ロメリジンは、膠芽腫幹細胞のスフェア形成能を阻害することが確認された。
【0052】
(細胞内シグナル変化)
8x10cells/mLの膠芽腫幹細胞又は膠芽腫細胞を含む培地2mLを、6-well Costar ultra-low attachment plate (Corning(登録商標))に播種した。次いで、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したロメリジンを、ロメリジンの最終濃度が0μM、1μM又は5μMとなるように前記培地に添加した。37℃で24時間培養した時点で膠芽腫幹細胞又は膠芽腫細胞を回収し、ProteaseおよびProtease Inhibitor(Sigma aldrich)を用いてタンパク質を抽出した。次いで、抽出したタンパク質について、抗Y705リン酸化-STAT3抗体(Cell Signaling Technology)、抗S727リン酸化-STAT3抗体(Cell Signaling Technology)、抗STAT3抗体(Cell Signaling Technology)、抗リン酸化-AKT抗体(Cell Signaling Technology)、抗AKT抗体(Cell Signaling Technology)、抗リン酸化-ERK抗体(Cell Signaling Technology)、抗ERK抗体(Cell Signaling Technology)及び抗β-アクチン抗体(wako(登録商標))を用いて、ウェスタンブロッティングを行った。
【0053】
膠芽腫幹細胞の結果を図5に示す。膠芽腫細胞の結果を図6に示す。いずれの膠芽腫幹細胞株及び膠芽腫細胞においても、ロメリジン曝露群と非曝露群との間で、STAT3の総量(Total-Stat3)、AKTの総量(AKT)及びERKの総量(ERK)に差は認められなかった。
膠芽腫幹細胞では、いずれの細胞株においても、ロメリジンの濃度依存的に、Y705リン酸化STAT3(pStat3 Y705)及びY727リン酸化STAT3(pStat3 Y727)の量が減少した。膠芽腫幹細胞では、いずれの細胞株においても、ロメリジンの濃度依存的に、リン酸化ERK(pERK)の量が減少した。KGS07及びKGS10では、ロメリジンの濃度依存的に、リン酸化AKT(pAKT)の量が減少した。STAT3は、リン酸化により活性化して、転写因子として機能することが知られている。AKTは、リン酸化により活性化して、細胞増殖の制御及びアポトーシス阻害等に関与することが知られている。ERKは、リン酸化により活性化して、細胞増殖に関与することが知られている。図5に示す結果から、ロメリジンによる膠芽腫幹細胞の増殖阻害及びスフェア形成阻害は、STAT3、AKT、及びERK等のリン酸化阻害に起因する可能性が示唆された。
膠芽腫細胞株では、ロメリジンの濃度依存的に、Y705リン酸化STAT3(pStat3 Y705)の量が減少した。図6に示す結果から、ロメリジンによる膠芽腫細胞の増殖阻害は、STAT3のリン酸化阻害に起因する可能性が示唆された。
【0054】
(アポトーシス誘導)
<ヘキスト/PI染色>
1x10cells/mLの膠芽腫細胞を含む培地2mLを、6-well Costar ultra-low attachment plate (Corning(登録商標))に播種した。次いで、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したロメリジンを、ロメリジンの最終濃度が0μM、1μM又は5μMとなるように前記培地に添加した。37℃で24時間培養した時点で膠芽腫細胞を回収し、ヘキスト33258(同仁化学研究所)染色及びヨウ化プロピジウム(PI)(同仁化学研究所)染色を行った。ヘキスト33258陽性細胞数及びPI陽性細胞数をそれぞれカウントし、全体の細胞数に対するヘキスト33258陽性かつPI陽性となる細胞数の割合を算出した。
【0055】
結果を図7に示す。いずれの膠芽腫細胞株でも、ロメリジンの濃度依存的に、死細胞数が増加していることが確認された。
【0056】
<Annexin V assay>
1x10cells/mLの膠芽腫細胞を含む培地2mLを、6-well Costar ultra-low attachment plate (Corning(登録商標))に播種した。次いで、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したロメリジンを、ロメリジンの最終濃度が0μM、1μM又は5μMとなるように前記培地に添加した。37℃で24時間培養した時点で膠芽腫細胞を回収し、Annexin V assay(abcam)を行った。
【0057】
結果を図8に示す。いずれの膠芽腫細胞株でも、ロメリジンの濃度依存的に、Annexin V陽性細胞の割合が増加していることが確認された。
【0058】
<カスパーゼ9の検出>
8x10cells/mLの膠芽腫細胞を含む培地2mLを、6-well Costar ultra-low attachment plate (Corning(登録商標))に播種した。次いで、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したロメリジンを、ロメリジンの最終濃度が0μM、1μM又は5μMとなるように前記培地に添加した。37℃で24時間培養した時点で膠芽腫幹細胞又は膠芽腫細胞を回収し、Protease および Protease Inhibitor(Sigma aldrich)を用いてタンパク質を抽出した。次いで、抽出したタンパク質について、抗caspase9抗体(Cell Signaling Technology)及び抗β-アクチン抗体(wako(登録商標))を用いて、ウェスタンブロッティングを行った。
【0059】
結果を図9に示す。いずれの膠芽腫細胞株でも、ロメリジンの濃度依存的に、cloaved caspase9の量が増加していた。
【0060】
これらの結果から、ロメリジンにより、膠芽腫細胞のアポトーシスが誘導されることが確認された。
【0061】
(細胞遊走アッセイ)
膠芽腫細胞株を用いて、細胞遊走アッセイを行った。細胞遊走アッセイはboyden chanber(CORNING(登録商標))を用いて行った。底面にマトリゲル層を有さないインサートの水和を行い、下部のウェルに10%FBSと0μM(control)、1μM、5μMのロメリジンを含む培地を添加した。上部のインサートにはFBSを含まない培地に下部ウェルと同濃度のロメリジンを添加した細胞浮遊液を調整し、添加した。12時間培養を行い、固定染色後に観察を施行、インサートに付着した細胞数を計算し、1μMまたは5μMのロメリジンを添加した群とcontrol群で浸潤細胞数の比をとり、%浸潤として算出、グラフ化した。
結果を図10に示す。いずれの膠芽腫細胞株でも、ロメリジンにより膠芽腫細胞の遊走が有意に阻害された。
【0062】
(細胞浸潤アッセイ)
膠芽腫細胞株を用いて、細胞浸潤アッセイを行った。細胞浸潤アッセイはboyden chanber(CORNING(登録商標))を用いて行った。底面にマトリゲル層を有するインサートの水和を行い、下部のウェルに10%FBSと0μM(control)、1μM、5μMのロメリジンを含む培地を添加した。上部のインサートにはFBSを含まない培地に下部ウェルと同濃度のロメリジンを添加した細胞浮遊液を調整し、添加した。12時間培養を行い、固定染色後に観察を施行、インサートに付着した細胞数を計算し、1μMまたは5μMのロメリジンを添加した群とcontrol群で浸潤細胞数の比をとり、%浸潤として算出、グラフ化した。
結果を図11に示す。いずれの膠芽腫細胞株でも、ロメリジンにより膠芽腫細胞の浸潤が有意に阻害された。
【0063】
(in vivo試験)
膠芽腫幹細胞株KGS10を右前頭葉内に移植した膠芽腫マウスモデルを用いて、ロメリジンによる腫瘍増殖効果を確認するin vivo試験を行った。0mg/kg、4.7mg/kg、又は30mg/kgのロメリジンを、ハミルトンシリンジにより、膠芽腫マウスモデルに投与した。ロメリジンの投与から53日後に、腫瘍体積を測定した。また、脳切片を作製して、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行った。
【0064】
腫瘍体積の測定結果を図12に示す。脳腫瘍を含む脳組織切片のHE染色写真を図13に示す。図12、13に示す結果から、ロメリジンにより濃度依存的に腫瘍増殖が抑制されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、グリオーマの治療又は予防可能な、医薬組成物が提供される。また、前記医薬組成物に適用可能な、STAT3のリン酸化阻害剤が提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13