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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046302
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】機能性コーティングを備える溶接電極
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/02 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
B23K35/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022149061
(22)【出願日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】63/261,462
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/930,993
(32)【優先日】2022-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510202156
【氏名又は名称】リンカーン グローバル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】バドリ ナラヤナン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィヴェック セングプタ
(72)【発明者】
【氏名】デヴィッド ビー.ルッセル
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ファラー
(72)【発明者】
【氏名】イジアン ジョウ
(57)【要約】
【課題】 機能性コーティングを備える溶接電極を提供する。
【解決手段】 本開示の技術は一般に、溶接電極に関し、特に機能性コーティングを有する消耗溶接電極に関する。1つの態様において、溶接電極は、卑金属組成物を有するコアワイヤと、コアワイヤの少なくとも一部を被覆する2つ以上のコーティングと、を含む。2つ以上のコーティングは、銅(Cu)に追加される、又はそれ以外の1つ又は複数の導電元素又は化合物を含む導電コーティングを含む。2つ以上のコーティングは追加的に、溶接電極から形成された溶滴の表面張力を変化するようになされた1つ又は複数の追加的な元素又は化合物を含む追加的な機能性コーティングを含む。他の態様において、溶接電極の製造方法は、卑金属組成物を有するコアワイヤを提供するステップと、2つ又は複数のコーティング層を形成するステップをと、を含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電極において、
鉄(Fe)系の卑金属組成物を有するソリッドコアワイヤと、
前記ソリッドコアワイヤ上に形成され、銅(Cu)に追加される、又はそれ以外の1つ又は複数の導電元素又は化合物を含む導電コーティングと、
前記導電コーティング上に形成され、アンチモン元素(Sb)と1つ又は複数のSb酸化物の一方又は両方を含む追加的な機能性コーティングと、
を含む溶接電極
【請求項2】
前記溶接電極中のSbの総量は、前記溶接電極から形成される溶滴の表面張力を、Sbの存在を除いて前記溶接電極と同じ参照溶接電極から同じ溶接条件下で形成された参照溶滴より10%以上低下させるのに有効である、請求項1に記載の溶接電極。
【請求項3】
Sbの前記総量は前記溶接ワイヤの0.0005~2重量%である、請求項2に記載の溶接電極。
【請求項4】
前記追加的な機能性コーティングは、Sb元素と前記1つ又は複数のSb酸化物を含むサブミクロン粒子を含む、請求項1に記載の溶接電極。
【請求項5】
前記サブミクロン粒子はSb元素粒子とSb粒子を含む、請求項4に記載の溶接電極。
【請求項6】
前記追加的な機能性コーティングは、サブミクロン粒子の隣接する粒子間に形成された複数の細孔を含む多孔質層である、請求項4に記載の溶接電極。
【請求項7】
前記細孔は、下地となる前記導電コーティングを露出させる、請求項6に記載の溶接電極。
【請求項8】
溶接金属を、Sb又は1つ若しくは複数のSb酸化物の存在を除いて前記溶接電極と同じ前記参照溶接電極を使って前記同じ溶接条件下で参照溶接金属を形成するための溶接速度より30%以上高い溶接速度で溶接金属を形成するように構成される、請求項2に記載の溶接電極。
【請求項9】
前記1つ又は複数の導電元素又は化合物は、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、クロミウム(Cr)、プラチナ(Pt)、銀(Ag)、グラファイト、グラフェン、酸化グラフェン、及びチタン(Ti)で構成される群から選択される、請求項1に記載の溶接電極。
【請求項10】
前記1つ又は複数の導電元素又は化合物は、Cuを持たない前記導電コーティング中に存在する、請求項9に記載の溶接電極。
【請求項11】
前記1つ又は複数の導電元素又は化合物は、Cuに追加して、前記1つ又は複数の導電元素又は化合物とCuの合計の90原子%を超える量で存在する、請求項9に記載の溶接電極。
【請求項12】
前記溶接電極は、前記溶接電極を使って形成される溶接金属が、前記溶接ワイヤ中に存在するSbの総量の25~60%をその中に含めるように構成される、請求項3に記載の溶接電極。
【請求項13】
溶接電極において、
鉄(Fe)系の卑金属組成物を有するソリッドコアワイヤと、
前記ソリッドコアワイヤの少なくとも一部を被覆する2つ以上のコーティングと、
を含み
前記2つ以上のコーティングは、
前記ソリッドコアワイヤ上に形成される、銅(Cu)に追加される、又はそれ以外の1つ又は複数の導電元素又は化合物を含む導電コーティングと、
アンチモン(Sb)を含み、多孔質構造を有し、前記導電コーティング上に形成される追加的な機能性コーティングと、
を含む溶接電極
【請求項14】
溶接電極中に存在するSbの総量は、前記溶接ワイヤから形成される溶接金属上に形成される酸化物アイランドの接触角を、Sbの存在を除いて前記溶接ワイヤと同じ参照溶接ワイヤから同じ溶接条件下で形成された参照溶接金属上に形成される参照酸化物アイランドの接触角より10%増大させるのに有効な量である、請求項13に記載の溶接電極。
【請求項15】
前記溶接ワイヤ中のSbの総量は0.0005~2重量%である、請求項14に記載の溶接電極。
【請求項16】
前記SbはSb元素及び1つ又は複数のSb酸化物の形態である、請求項13に記載の溶接電極。
【請求項17】
前記追加的な機能性コーティングは、前記Sb元素と前記1つ又は複数のSb酸化物を含むサブミクロン粒子を含む、請求項16に記載の溶接電極。
【請求項18】
前記サブミクロン粒子はSb元素粒子とSb粒子を含む、請求項17に記載の溶接電極。
【請求項19】
前記サブミクロン粒子は、前記導電コーティングの一部が前記サブミクロン粒子の隣接する粒子間で露出するように、前記導電コーティングを部分的に被覆する、請求項17に記載の溶接電極。
【請求項20】
Sbの総量は前記溶接電極中に、前記溶接ワイヤから形成される溶接金属上に形成されるケイ酸塩アイランドの体積が、前記Sbの存在を除いて前記溶接電極と同じ参照溶接電極を使って同じ溶接条件下で形成された参照溶接金属上に形成される参照ケイ酸塩アイランドの体積より少なくとも50%小さくなるような量及び形態で存在する、請求項13に記載の溶接電極。
【請求項21】
前記コアワイヤと前記2つ以上のコーティング層との間の界面領域に、前記溶接ワイヤの重量の0.0005~1重量%の量のカルシウム(Ca)をさらに含む、請求項13に記載の溶接電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年9月21日に出願された、“WELDING ELECTRODE WITH FUNCTIONAL COATINGS”と題する米国仮特許出願第63/261,462号の利益を主張するものであり、同仮出願の内容の全体を参照によって本願に援用する。
【0002】
本願で開示する技術は一般に、溶接電極に関し、より詳しくは、コアワイヤ上に機能性コーティングを有する消耗溶接電極に関する。
【背景技術】
【0003】
各種の溶接技術において、溶接金属の供給源の役割を果たす消耗溶接電極が利用される。例えば、メタルアーク溶接では、母材に向かって繰り出される、1つの電極の役割を果たす消耗溶接電極と、他の電極の役割を果たす母材との間に電圧が印加されると、電気アークが作られる。アークは金属ワイヤの先端を溶融させ、それによって溶融金属電極の小滴が生成され、それが母材上に堆積して溶接金属又は溶接ビードを形成する。
【0004】
溶接技術に対する技術的及び経済的要求はより複雑さを増す一方であり、より高い製造フレキシビリティへのニーズとより高い機械的性能へのニーズとが同時に存在する。それに加えて、溶接金属の1つの性能パラメータを最適化すると、他のパラメータにおける妥協が余儀なくされかねない。幾つかの溶接技術は、これらの競合する要求に、消耗品を改良することによって、例えば消耗電極の物理的設計及び/又は組成を改良することによって対処しようとしている。本開示による技術は、機能性コーティングを有する、改良された消耗溶接電極に対するニーズに応える。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
第一の態様において、溶接電極は、鉄(Fe)系の卑金属組成物を有するソリッドコアワイヤと、ソリッドコアワイヤ上に形成された導電コーティングと、を含む。導電コーティングは、銅(Cu)に追加される、又はそれ以外の1つ又は複数の導電元素又は化合物を含む。溶接電極は追加的に、導電コーティング上に形成される、アンチモン元素(Sb)と1つ又は複数のSb酸化物の一方又は両方を含む追加的機能性コーティング含む。
【0006】
第二の態様において、溶接電極は鉄(Fe)系の卑金属組成物を有するソリッドコアワイヤと、コアワイヤの少なくとも一部を被覆する2つ以上のコーティングと、を含む。2つ以上のコーティングは、ソリッドコアワイヤ上に形成された、銅(Cu)に追加される、又はそれ以外の1つ又は複数の導電元素又は化合物を含む導電コーティングを含む。2つ以上のコーティングは追加的に、導電コーティング上に形成された、アンチモン(Sb)を含む多孔質構造を有する追加的な機能性コーティングを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本明細書で開示される実施形態による消耗電極と共に使用可能なアーク溶接システムを示す。
図2】本明細書で開示される実施形態による消耗電極を用いた溶接プロセスを示す。
図3】実施形態による被覆された溶接消耗電極を示す。
図4A】実施形態による2つ以上のコーティングを含む被覆された溶接消耗電極を示す。
図4B】実施形態による3つ以上のコーティングを含む被覆された溶接消耗電極を示す。
図5】実施形態による被覆された溶接消耗電極の製造方法を示す。
図6A】従来の消耗電極を使って形成された溶接金属を示す。
図6B】実施形態による機能性コーティングを有する消耗電極を使って形成された溶接金属を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
幾つかの溶接電極は2つの主要コンポーネント:コアワイヤ又はロッドと被覆又はコーティングを有する。コアは、溶接金属の合金基本元素を含む。コーティングは、様々な機能性に寄与する様々な材料を含むことができる。例えば、コーティングは中でも、数例を挙げれば、溶接金属のシールディング、アークの安定化、各種の物性を持たせるための溶接金属の合金元素、フラックス用スラグ、溶接金属中のガスポケットの削減、導電性又は絶縁性の増大、環境からの保護、送給及び魅力的な外観のための潤滑を提供する役割を果たすことができる。
【0009】
幾つかの従来のソリッド溶接ワイヤは、ワイヤ及び溶接ノズルの導電性と耐食性を高め、また送給ホース又は溶接ノズルとの摩擦が軽減させるために、ワイヤの表面が銅を含むコーティングで被覆される。しかしながら、溶接プロセス中、銅の一部が、望ましくないことに、溶融して溶接部の中へと入り込む可能性がある。溶接の銅汚染は、「銅による割れ」の原因となり、又は溶接継手の機械的特性、特に低温での衝撃靭性及び伸度を低下させる可能性がある。銅はまた、酸化して銅粒子となって空気中に漏出し、これを吸い込むと人の健康にとって有害である。銅被覆溶接ワイヤの生産はまた、廃酸及び汚染物質を環境中に生成する可能性もある。それゆえ、溶接電極のコーティングの銅を少なくとも削減し、又は排除しながら、その機能的利益は保持するような被覆ワイヤが求められる。
【0010】
これら及びその他のニーズに対応するために、本明細書で開示される実施形態は、卑金属組成物を有するコアワイヤと、コアワイヤの少なくとも一部を被覆する2つ以上のコーティングと、を含む溶接電極に関する。2つ以上のコーティングは、銅(Cu)に追加される、又はそれ以外の1つ又は複数の導電元素又は化合物を含む導電コーティングを含む。2つ以上のコーティングは追加的に、溶接電極から形成される溶滴の表面張力を変化させるようになされた1つ又は複数の追加的な元素又は化合物(溶融溶接金属表面張力調整剤)を含む追加的な機能性コーティングを含む。
【0011】
機能性コーティングを有する電極を用いた溶接のためのアーク溶接プロセス
アーク溶接は、金属を接合するための幾つかの融合プロセスの中の1つである。高い熱を加えることにより、2つの部品間の接合部の金属が溶融し、直接、又はより一般的には中間溶融溶加材と混合する。
【0012】
本明細書で開示される実施形態と共に使用可能なアーク溶接システム100が図1に示されている。AC又はDC電源と制御手段を含む電源システム110は、ワークケーブル114により溶接対象の母材102に、また「ホット」ケーブルにより、溶接電極106との電気コンタクトをなす電極ホルダ118に接続される。アークは、通電回路と電極チップが母材102に接触すると母材102と溶接電極106との間のギャップに生成され、閉コンタクトの状態のまま停止される。電気アークは、消耗電極であり得、1つの電極(例えば、DCのアノード(+))の役割を果たす溶接電極106と、他の電極(例えば、DCのカソード(-))の役割を果たす母材102との間に生成され得る。アーク発生後、プラズマ108が保持され、これには中性ガス及びイオン化ガス分子のほか、アークにより気化された金属ワイヤ材料の中性クラスタ及び帯電クラスタ又は小滴が含まれる。溶接電極106は母材102に向かって繰り出され、金属ワイヤの溶滴が母材の上に堆積し、それによって溶接ビード又は溶接金属を形成する。アークは、先端において約6500°Fの高温を生成できる。この熱は、母材102と溶接電極106の両方を溶融させ、溶融金属の池を生成し、これは「クレータ」と呼ばれることがある。クレータは電極が接合部に沿って移動させられる際にその背後で固化する。冷却及び固化の際に冶金的接合部が作られる。接合は金属の混合部であるため、最終的な溶接部は母材102のその部分の金属と同等又は実質的に同じ機械的特性、例えば強度を有することができる。これは、基材の機械的及び物理的特性が接合部において母材102と不同等であり得る非融合接合プロセス(例えば、はんだ、ロウ付け等)との顕著な違いである。
【0013】
高温の金属には、空気-酸素と窒素の中の元素と化学的に反応する傾向がある。溶融池中の金属が空気と接触すると、酸化物及び窒化物が形成され得て、これは溶接部の強度と靭性にマイナスの影響を与える可能性がある。したがって、幾つかのアーク溶接プロセスは、アークと溶融池を保護用シールドガス、蒸気、及び/又はスラグにより被覆するための幾つかの手段を提供する。これは、アークシールディングと呼ばれる。このシールディングにより、溶融金属と空気との接触が低減又は最小化する。シールディングはまた、溶接部も改良し得る。一例はフラックスであり、これは溶接金属のための脱酸剤を含むことができる。
【0014】
溶接中、アークは電極と卑金属を溶融させるのに必要な熱を提供するだけでなく、特定の条件下で、電極の先端から母材へと溶融金属を輸送するための手段を供給しなければならない。金属輸送のための幾つかの機構がある。その例には、溶融金属の液滴が溶融金属池と接触し、表面張力によりその中に引き込まれる表面張力輸送や、電気ピンチにより電極先端で液滴が溶融金属から排出され、それが溶融池へと推進されるスプレイアークが含まれる。
【0015】
電極106が本明細書で開示されるような消耗電極である場合、先端がアークの熱によって溶融し、溶滴が分離してアークコラムを通じて母材102へと輸送される。本明細書に記載の実施形態による電極が溶け落ちて溶融部の一部となるアーク溶接は、金属アーク溶接と呼ばれる。これは、ギャップを渡って母材へと付勢される溶滴のないカーボン又はタングステン(ティグ)溶接と異なる。溶加材は別のロッド又はワイヤから接合部へと融合される。消耗電極により、アークにより発せられる熱のうちのより多くの部分が溶融池へと運ばれる。これによって、より高い熱効率とより狭い加熱領域が得られる。
【0016】
アーク溶接は、電極がプラス(DCEP)又はマイナス(DCEN)の直流(DC)でも、又は交流(AC)でも実行され得る。電流及び極性の選択は、プロセス、電極の種類、アーク雰囲気、及び溶接される金属に依存する。
【0017】
消耗電極を使用するプロセスにおいて、電極又はワイヤは溶融して、ギャップを充填して2つの金属母材を接合する溶接接合部を形成する追加の金属を提供する。消耗電極を用いる溶接プロセスとしては、シールドメタルアーク溶接(SMAW)、ガス金属アーク溶接(GMAW)、又は金属不活性ガス(ミグ)溶接、フラックスコアアーク溶接(FCAW)、金属コアアーク溶接(MCAW)、及びサブマージドアーク溶接(SAW)等が含まれる。消耗溶接電極を用いる溶接プロセスは、直流電極プラス(DCEP)モード、直流電極マイナス(DCEN)モード、又は交流(AC)モードで実行できる。DCEPモードでは、直流が使用されて、ワイヤは電源のプラス端子に接続され、溶接対象の母材又はプレートはマイナス端子に接続され、DCENモードの溶接ではその逆となる。ACモードでは、ワイヤと母材又はプレートが周波数に依存する周期でプラスからマイナスに切り替わる。プラス電極の役割を果たす端子はアノードと呼ばれ得て、マイナス電極の役割を果たす端子はカソードと呼ばれ得る。以下に、実施形態による酸化物被覆溶接ワイヤを用いて実装可能な様々な消耗電極ベースの溶接プロセスについて説明する。
【0018】
図2は、ガスメタルアーク溶接(GMAW)プロセス200を示しており、これは金属不活性ガス(MIG(ミグ))溶接プロセスと呼ばれることもあり、本明細書で開示される実施形態と共に使用できる。GMAWプロセスは、溶加材のための連続的なソリッドワイヤ電極106と、シールドのための外部供給ガス(典型的に、高圧シリンダから)を使用する。電極106は軟鋼とすることができ、様々な実施形態によるコーティングの薄層で被覆することができ、これは導電コーティングと、溶接電極から形成される溶滴の表面張力を変化させるようになされた追加的な機能性コーティング(溶融溶接金属表面張力調整剤)とを含む2つ以上のコーティングを含むことができる。アーク108が電極106と母材102との間に当てられると、電極106と母材102の表面の両方が気化して金属の小球体を形成し、それが母材102の表面へと輸送され、それによって被覆電極106の金属と母材102の金属を含む溶融池204が形成される。溶接機はDCプラス極性用に構成できる。シールドガスは、通常、二酸化炭素又は二酸化炭素とアルゴンの混合物であり、溶融金属を雰囲気から保護する。シールドガスはガン及びケーブルアセンブリを通って流れ、溶接ワイヤと共にガンノズルから出て、溶融した溶融池をシールドし、保護する。溶融金属は、雰囲気にさらされた場合、そこからの酸素、窒素、及び水素と容易に反応する可能性がある。各種の実施形態によれば、上述の様々な溶接プロセス、例えばGMAW用として構成される溶接電極は、卑金属組成物を有するコアワイヤと、コアワイヤの少なくとも一部を被覆する2つ以上のコーティングを含む。本明細書に記載されているように、2つ以上のコーティングは、銅(Cu)に追加される、又はそれ以外の1つ若しくは複数の導電元素又は組成物を含む導電コーティングを含む。2つ以上のコーティングは追加的に、追加の機能性コーティングを含む。追加的な機能性コーティングは、溶接電極から形成される溶滴の表面張力を変化させるようになされた1つ又は複数の追加的元素又は化合物を含む。
【0019】
図3は、各種の実施形態による溶接消耗電極300を示す。電極300は、コアワイヤ304とコーティング308を含む。コアワイヤ304は、適当な炭素鋼、例えばGMAW用軟鋼を含むことができ、これはコーティング308で被覆されて、本明細書中で説明するように、結果として得られる溶接金属のための元素の合金化のほか、合金化以外の様々な追加的な機能性を提供する。本明細書で開示するコアワイヤ304とコーティング308の化学元素と化合物は、構成元素が溶接金属の合金の一部として組み込まれるか否かに基づいて区別できる。以下において、結果として得られる溶接金属の中に実質的に組み込まれる元素は合金元素と呼ばれることもあり、結果として得られる溶接金属の中に実質的に組み込まれず、その他の機能、例えばスラグ若しくはガス形成又はアーク安定化等に寄与する元素は非合金元素と呼ばれることもある。
【0020】
図4A及び4Bは、幾つかの他の実施形態による、それぞれ被覆溶接消耗電極400A及び400Bを示す。電極400A及び電極400Bは、コアワイヤ304とコーティング308を含み、図3に示される電極300Aと同様に構成されるが、電極400A及び400Bは複数のコーティングを含む点が異なる。例えば、電極400Aは第一のコーティング308Aと第二のコーティング308Bを含む2つのコーティング308を含む。電極400Bは、第一のコーティング308A、第二のコーティング308B、及び第三のコーティング308Cを含む複数のコーティング308を含む。それに加えて、図示されていないが、他の実施形態による複数のコーティングは、第一~第nのコーティングを含むn個のコーティングを含み得る。
【0021】
前述のように、溶接金属は母材の固化金属と消耗電極の金属を含むことができる。溶融した母材が含まれることによる溶接金属中の元素の希釈又は濃縮量は大きく異なる可能性があるため、特に別段の明確な記載がないかぎり、本明細書中で開示される溶接金属中の各種の元素及び化合物の重量パーセンテージは、母材からの希釈又は濃縮が起こらなかった場合に得られる、希釈されない溶接金属のそれを指す。
【0022】
引き続き図3及び4A~4Bを参照すると、コアワイヤ304は炭素鋼組成物、例えば軟鋼組成物を含む。各種の実施形態による炭素鋼組成物は、Feと、C、Cr、Ni、Mo、V、Cu、Mn、及びSiのうちの1つ又は複数を不純物レベルより高い濃度で含む。幾つかの実施形態において、コアワイヤ304は、合金元素含有量が約1.5重量%~5重量%の低合金鋼組成物を含む。不純物レベルで存在し得るその他の元素もあり得る。本明細書で説明するように、不純物レベルとは、意図的に含められていないが、それでも存在する元素の重量パーセンテージを指し、これは一般的に0.05%未満とすることができる。意図的に添加されていないが、それでもコアワイヤ304中に存在する不純物には、S、P、Al、Cu、N、Cr、Ni、Mo、V、Nb、及びTiが含まれる。コアワイヤ304の残りの重量はFeとすることができる。
【0023】
引き続き図4A~4Bを参照すると、コーティング308は、銅(Cu)に追加される、又はそれ以外の1つ又は複数の導電元素又は化合物を含む導電コーティングと、溶接電極から形成される溶滴の表面張力を変化させるようになされた1つ又は複数の追加的な元素又は化合物を含む追加的な機能性コーティングとを含む。本明細書に記載されるように、電極400A(図4A)の第一及び第二のコーティング308A、308Bの何れの1つ又は電極400B(図4B)の第一、第二、及び第三のコーティング308A、308B、及び308Cの何れの1つも、何れの順序の導電層又は追加的な機能性層とすることもできる。それゆえ、実施形態による導電コーティングは、電極400A、400Bの複数のコーティング308のうちの最も内側のコーティングである第一のコーティング308Aと呼ばれ得るが、導電コーティングはまた、電極400A、400Bの第二のコーティング308B又は電極400Bの第三のコーティング308Cでもあり得ると理解されたい。同様に、実施形態による追加的な機能性コーティングは、電極400A、400Bの複数のコーティング308のうちの最も内側のコーティングである第一のコーティング308Aと呼ばれ得るが、追加的な機能性コーティングはまた、電極400A、400Bの第二のコーティング308B又は電極400Bの第三のコーティング308Cでもあり得ると理解されたい。
【0024】
導電コーティング
各種の実施形態によれば、第一、第二、及び第三のコーティング308A、308B、308C(図4A又は4B)は、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、クロミウム(Cr)、プラチナ(Pt)、銀(Ag)、グラファイト、グラフェン、酸化グラフェン、及びチタン(Ti)からなる群から選択される1つ又は複数の導電元素又は化合物を含む導電コーティングである。
【0025】
各種の実施形態によれば、導電コーティングは、電極400A、400Bに実質的な導電性を提供する役割を果たし、それによって溶接中に電極400A及び400Bを通る電流の実質的な量(例えば、>10%、>30%、>50%、>70%、>90%、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の値)が第一のコーティング308Aを通って流れる。幾つかの実施形態において、1つ又は複数の導電元素又は化合物は、溶接電極400A、400Bが導電元素又は化合物を持たないコアワイヤ304と相対してより低い電気抵抗を有するような量及び形態で存在する。
【0026】
幾つかの実施形態において、1つ又は複数の導電元素又は化合物は、導電コーティングの一部として、又は複数のコーティング308の何れかの一部としてCuがない状態で存在する。すなわち、幾つかの実施形態において、1つ又は複数の導電元素又は化合物により、例えば必要な導電性を提供するために、コーティングの一部としてのCuの使用を不要とし得て、Cuは複数のコーティング308から省かれ得る。幾つかの他の実施形態において、1つ又は複数の導電元素又は化合物は、導電コーティングの一部として、又は複数のコーティング308の何れかの一部としてのCuに追加して存在する。すなわち、幾つかの実施形態において、1つ又は複数の導電元素又は化合物は、例えば必要な導電性を提供するために、同じ又は異なるコーティングの一部としてのCuを補足し得る。
【0027】
1つ又は複数の導電元素又は化合物は、従来の被覆電極ワイヤの中のコーティングの一部としての銅の必要性を大幅に減少させ、又は排除することができる。それゆえ、実施形態によれば、1つ又は複数の導電元素又は化合物は、Cuがなくても、又はCuに追加しても存在できる。Cuに追加して存在する場合、1つ又は複数の導電元素は、1つ又は複数の導電元素又は化合物とCuの合計の50原子%、60原子%、70原子%、80原子%、90原子%、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の値を超える量で存在する。それゆえ、Cu含有量の削減により、有利な点として、溶接部の銅による割れという不利な効果を低減させることができる。
【0028】
存在する場合、Cuは溶接ワイヤの重量の0.0005重量%、0.0010重量%、0.0020重量%、0.0050重量%、0.010重量%、0.020重量%、0.050重量%、0.10重量%、0.20重量%、0.5重量%、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の値を超える量で存在する。
【0029】
追加的な機能性コーティング
各種の実施形態によれば、第一、第二、及び第三のコーティング308A、308B、308C(図4A又は4B)の何れの1つも、溶融溶接金属表面張力調整剤を含む追加的な機能性コーティングであり、これについて後述する。
【0030】
溶接金属を形成するための溶接速度等の各種の生産性パラメータは、一部に、溶接金属の溶滴の表面張力により決まる可能性がある。所望の溶融溶接金属表面張力を提供するために、幾つかの実施形態によれば、追加的な機能性コーティングは溶融溶接金属表面張力調整剤を含む。溶融溶接金属表面張力調整剤は、溶接電極400A、400Bから形成される溶接金属の溶滴の表面張力を変化させるようになされた1つ又は複数の追加的な元素又は化合物を含む。各種の実施形態によれば、表面張力を変化させるようになされた1つ又は複数の追加的な元素又は化合物は、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、及びポロニウム(Po)からなる群から選択される。
【0031】
溶融溶接金属の表面張力を変化させるようになされた1つ又は複数の追加的な元素又は化合物は、溶融溶接金属小滴の表面張力を変化、例えば低下させることができ、それによって溶滴は、溶融溶接金属の表面張力を変化させるようになされた1つ又は複数の追加的な元素又は化合物を用いない参照電極から形成された金属小滴より高速で電極から分離する。小滴の大きさは、固化した溶接金属又は母材上に形成される小滴の平衡接触角に関係する可能性があり、これはヤング-デュプレの式として知られる関係により定義される。溶融溶接金属間の固-気間界面エネルギをγSGで表し、固-液間界面エネルギをγSLで表し、液-気間界面エネルギ(すなわち、表面張力)をγLGで表すと、平衡接触角θはこれらの数量からヤング-デュプレの式により特定される:
γSG-γSL-γLG cosθ=0
【0032】
換言すれば、接触角は、接着力(液体は固体との接触を保持したがる)と液体内の凝集力(内部凝集力と表面張力の両方)のバランスにより決定される。液体と固体との間の接着力の増大又は液体内の凝集力(表面張力)の低下の結果として、濡れ性がより高く、接触角がより小さくなる。溶接速度を高めるには、より低い表面張力が有利であり得、これは小滴径の縮小のほか、溶融溶接金属による母材又は固化した溶接金属の濡れ性の改善による。例えば、実施形態による電極によって形成される平均小滴径は、これらの元素の添加により30%、40%、50%、60%、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の値だけ縮小できる。溶接電極から形成される溶融小滴の表面張力は、表面張力調整剤の存在を除き、溶接電極と同じ参照溶接電極から同じ溶接条件下で形成された参照溶滴より10%、20%、30%、40%、50%、又はそれ以上だけ低下する。平均小滴径と表面張力を縮小、低下させて、実施形態による溶接電極を使って溶接金属を形成する溶接速度は溶融溶接部の表面張力を変化させるようになされた1つ又は複数の追加的な元素又は化合物を用いない溶接電極を使用せずに溶接金属を形成する溶接速度より30%、40%、50%、60%又はそれ以上だけ高くすることができる。
【0033】
本発明者らは、溶融溶接金属の表面張力を変化させるようになされた1つ又は複数の追加的な元素又は化合物により、スラグ又は、溶接金属上に形成される残留酸化物若しくはケイ酸塩のアイランドの量を相乗効果によって同時に減らすことができることを見出した。酸化物のアイランドは除去するのが難しく、溶接金属の視覚的外観を悪化させる可能性がある。酸化物又はケイ酸塩アイランドの相対的な除去しやすさは、溶接金属上に形成される酸化物又はケイ酸塩アイランドの平衡接触角に関係付けることができ、これはヤング-デュプレの式として知られる関係により定義される。固-気間界面エネルギをγSGで表し、固-液間界面エネルギをγSLで表し、液-気間界面エネルギ(すなわち、表面張力)をγLGで表すと、平衡接触角θはこれらの数量から、同じく、前述したヤング-デュプレの式により特定される。すなわち、同じ式が適用可能であり得るものの、関係する界面はケイ酸塩アイランドとその下の溶接金属との間のそれである。
【0034】
実施形態によれば、溶融溶接金属の表面張力を変化させるようになされた1つ又は複数の追加的な元素又は化合物は、溶接ワイヤから形成される溶接金属上に形成されるケイ酸塩アイランドの体積が、溶融溶接の表面張力を変化させるようになされた1つ又は複数の追加的な元素又は化合物を用いずに、コアワイヤから形成される溶接金属上に形成されるケイ酸塩アイランドの体積より少なくとも30%、40%、50%、60%、又はそれ以上だけ小さくなるような量及び形態で存在する。
【0035】
各種の実施形態によれば、1つ若しくは複数の導電元素又は化合物及び追加的な元素又は化合物の各々は、溶接ワイヤの重量の0.0005重量%、0.0010重量%、0.0020重量%、0.0050重量%、0.010重量%、0.020重量%、0.050重量%、0.10重量%、0.20重量%、0.5重量%、1.0重量%、2.0重量%、5.0重量%、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の値を超える量で存在する。
【0036】
それゆえ、溶接ワイヤは、Fe及び、C、Mn、Si、Ni、Mo、Cr、及びVのうちの1つ又は複数、導電元素若しくは化合物のうちの1つ又は複数、及び追加的な元素若しくは化合物を不純物レベルより高い濃度で含む、Fe系又は鋼鉄組成物、例えば軟鋼組成物を有するコアワイヤを含む。コアワイヤは本明細書において、実質的に均質な組成物を有するソリッドワイヤを指す。
【0037】
図4Bを参照すると、幾つかの実施形態において、第一、第二、及び第三のコーティング308A、308B、及び308Cのうちの2つは導電コーティングとして構成される。例えば、第一及び第三のコーティング308A及び308Cは同じ又は異なる導電コーティングであり得、追加的な機能性コーティングとして配置される第二のコーティング308Bがそれらの間に挿入され得る。
【0038】
引き続き図4Bを参照すると、他の幾つかの実施形態において、第一、第二、及び第三のコーティング308A、308B、及び308Cのうちの2つは追加的な機能性コーティングとして構成される。例えば、第一及び第三のコーティング308A及び308Cは同じ又は異なる追加的な機能性コーティングであり得、導電コーティングとして配置される第二のコーティング308Bがそれらの間に挿入され得る。
【0039】
図3及び図4A~4Bを参照すると、各種の実施形態によれば、コアワイヤ304の直径は1/16インチ(1.6mm)、3/32インチ(2.5mm)、1/8インチ(3.2mm)、5/32インチ(4.0mm)、3/16インチ(5.0mm)、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の直径、例えば3.2mmとすることができる。コアワイヤ304の長さは250mm、300mm、350mm、400mm、450mm、500mm、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の長さとし得る。コーティング308の厚さは、1~1.5mm、1.5~2.0mm、2.0~2.5mm、2.5~3.0mm、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の厚さ、例えば1.2mmとすることができる。あくまでも例として、コアワイヤ径3.2mm、コーティング厚さ1.2mmの電極の全体的な直径は5.6mmとすることができ、コアワイヤ径4.0mm、コーティング厚さ1.35mmの電極の全体的直径は6.7mmとすることができる。各種の実施形態によれば、コーティング308の、電極300の総重量に基づく重量パーセンテージは、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%、30~35%、35~40%、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の値とすることができる。
【0040】
特定の実施形態において、追加的な機能性コーティング308Bは導電コーティング308Aの上に形成される。追加的な機能性コーティング308Bが溶融溶接金属表面張力調整剤を含む場合、これはアンチモン元素(Sb)と1つ又は複数のSb酸化物の一方又は両方を含む。1つ又は複数のSb酸化物は、四酸化二アンチモン(Sb)、三酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)、ヘキシタトリデキサイドアンチモン(antimony hexitatridecoxide)(Sb13)、及び黄安華(Sb(OH))のうちの1つ又は複数の形態で存在することができる。これらの酸化物の亜化学量論的酸化物も使用可能である。
【0041】
本発明者らは、Sbを含む追加的な機能性コーティング308Bを電気化学堆積法により形成することが、本明細書に記載の様々な理由から特に有利であり得ることを発見した。本明細書に記載の、2つ以上の機能性コーティングで被覆されたソリッドコアワイヤを含む電極構造は、電着にとって特に有利であり、それは、下地のソリッドコアワイヤ304又は導電コーティング308Aが関連する電気化学反応のための有効な電極の役割を果たすことができるからである。これは、コアが不連続的又は不十分な導電性を有し得るような電極、例えばコアが金属コア電極等のような粉末で形成される場合と対照的である。
【0042】
本発明者らはさらに、Sbを含む追加的な機能性コーティング308Bを電気化学堆積により形成することが特に有利である可能性があり、これはそれによって巨視的レベルでも微視的レベルでも組成物に対し高い制御性を提供できるからであることを発見した。特に、電着により、アンチモン元素(Sb)と1つ若しくは複数のSb酸化物の一方又は両方の形成が可能になる。1つ特定の例において、例えば、Sb及び1つ又は複数のSb酸化物の粒子を含む追加的な機能性コーティングは酒石酸アンチモニルの定電流還元により堆積させることができる。このような電着法を使用するアンチモン元素(Sb)及び/又は1つ若しくは複数のSb酸化物の一方又は両方を含む複合薄膜を形成できる。Sb及び/又はSb酸化物の相対量は、結果として得られるSb/Sb酸化物混合物の全体的組成物のSb:O比が0.1、0.2、0.5、1、2、5、10、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の値とするとができるように制御できる。
【0043】
幾つかの実施形態において、結果として得られる薄膜は、元素Sb及びSb酸化物の均質な混合物とすることができる。他の幾つかの実施形態において、結果として得られる追加的な機能性コーティング308Bは、元素Sb及び/又はSb酸化物の何れか1つ又は複数を含むことのできるアイランド、領域、グレイン、又は粒子を含むことができる。一例として、元素SbとSb酸化物の相対量、例えば元素Sb粒子とSb酸化物粒子の相対量は、電極/電解質界面における局所pHを制御することによって制御できる。導電コーティング、例えばCuコーティングで被覆されたソリッドコアワイヤを有する溶接電極の中間生成物は、これらの電気化学反応において電極としての役割を果たすことができる。何れの理論にも拘束されることなく、Sbは低pHで熱力学的に安定であるが、Sbの形成には、より高いpH値が有利である。それゆえ、電極/電解質界面のpHを制御することにより、追加的な機能性コーティングのSbの粒子と1つ又は複数のSb酸化物粒子を制御された量となるようにすることができる。さらに、電極/電解質界面におけるpHの初期pHに応じて、追加的な機能性コーティング308Bは、元素SbとSb酸化物の一方又は他方が大半を占める、又はより豊富である初期核形成層を有するように制御できる。これら及びその他の方式を使用して、元素Sb粒子対Sb酸化物粒子の重量比は0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の値となるように制御できる。
【0044】
本発明者らはさらに、Sbを含む追加的な機能性コーティング308Bを電気化学堆積法により形成することが特に有利であり得ることを発見し、これによって追加的な機能性コーティングの形態を制御する。特に、本発明者らは、サブミクロン粒子でコーティングを形成することが有利であり得ることを発見し、これによって結果として得られるコーティングの形態を、巨視的レベルでも微視的レベルでも高度に制御できる。その下の、ソリッドコアワイヤ上に形成される導電コーティング、例えばCuコーティングの表面の状態を制御することにより、元素Sb及びSb酸化物の電気化学堆積中に核形成密度を制御できる。例えば、より粗い下地表面を提供することによって、より高密度の核を実現でき、その結果、アイランド、領域、グレイン、又は粒子の平均径はより小さくなる。アイランド、領域、グレイン、又は粒子の平均径は、1000nm、800nm、600nm、400nm、200nm、100nm、50nm、20nm、10nm、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の値未満とすることができる。
【0045】
アイランド、領域、グレイン、又は粒子は、結果として得られる追加的な機能性コーティング308Bが制御された多孔性を有するように、制御された形状並びに平均径及び径分布を有することができる。制御された多孔性は様々な理由により有利である可能性があり、その数例を挙げれば、物理的外観、その上のコーティングとの接着性の改善、及び下地材料の露出の制御性が含まれる。例えば、空乏体積対コーティングの全体積の比として定義される多孔性は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の値となるように制御できる。
【0046】
それに加えて、幾つかの実施形態において、追加的な機能性コーティング308Bは、不連続的、パッチ状又は、下地のソリッドコアワイヤ304又は導電コーティング308Aを部分的に被覆するためのその他の形態とすることができる。部分的な被覆は、幾つかの状況下で、例えば溶接ワイヤの表面摩擦及び溶接速度を最適化するために有利であり得る。例えば、Cuコーティング等の下地となる導電コーティング308Aの摩擦が実質的により低い場合、導電コーティング308Aを部分的に露出させることが望ましい場合がある。追加的な機能性コーティング308Bにより被覆される下地材料(例えば、導電コーティング308A)の表面積対下地材料の全表面積の比として定義される表面被覆比は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、又はこれらの値の何れかにより画定される範囲内の値となるように制御できる。
【0047】
本発明者らは、Sbの表面張力低減効果を向上させながら、Sbが結果として得られる溶接金属の機械的特性に与える不利な影響の可能性を低下させるために、溶接ワイヤを、制御された量のSbが溶接金属の一部となるように構成することが有利である可能性があることを発見した。実施形態によれば、溶接電極の中で溶接金属と合金化されるSbの量は、溶接ワイヤ中に存在するSbの総量の60%、50%、40%、30%、20%未満、例えば溶接ワイヤ中に存在するSbの総量の25~60%とすることができる。溶接金属中に含められる比較的少量のSbは、前述の追加的な機能性コーティング308Bの様々な特徴に寄与することができ、これには元素SbとSb酸化物の両方の存在が含まれ、これは電気化学堆積法により可能となり得る。様々な量のSbを、例えば元素Sb対Sbの酸化物の比を制御することによって気化させることができる。下の表1は、実験的に製造された溶接ワイヤ中のSbの実験的な原子%と結果として得られた溶接金属中のSbの検出された原子%とを示す。示されているように、溶接ワイヤ中のSbが0.009~0.024%であると、結果として得られる溶接金属中のSbは0.004~0.010%となる。
【0048】
【表1】
【0049】
被覆電極の製造方法
図5は、実施形態によるコアワイヤ上に2つ以上のコーティングを形成する方法500を示す。方法500は、卑金属組成物を有するコアワイヤ304(図4A、4B)を提供するステップ510と、2つ以上のコーティングを形成する準備としてコアワイヤの表面を処理するステップ520と、を含む。方法500は、銅(Cu)に追加される、又はそれ以外の1つ又は複数の導電元素又は化合物を含む導電コーティングと、追加的な機能性コーティングとのうちの一方を含む第一のコーティング308A(図4A、4B)を形成するステップ530を含む。第一のコーティング308Aを形成するステップ530の後に、方法500は、第一のコーティング308Aの表面を後処理するステップ540に進む。方法500は追加的に導電コーティングと追加的な機能性コーティングとのうちの他方を含む第二のコーティング308B(図4A、4B)を形成するステップ550を含む。第二のコーティング308Bを形成するステップ550の後に、方法500は第二のコーティング308Bの表面を後処理するステップ560に進む。
【0050】
幾つかの実施形態において、方法500は任意選択的に第三のコーティング308C(図4B)を形成するステップ540に進む。幾つかの実施形態において、第三のコーティング308Cは、銅(Cu)に追加される、又はそれ以外の1つ又は複数の導電元素又は化合物を含む第二の導電コーティングとすることができる。他の幾つかの実施形態において、第三のコーティング308Cは、第一の機能性コーティングとは異なる第二の追加的な機能性コーティングとすることができる。
【0051】
前述のように、電極400A(図4A)の第一及び第二のコーティング308A、308Bの何れの一方も、又は電極400B(図4B)の第一、第二、及び第三のコーティング308A、308B、及び308Cの何れの1つも、導電コーティング又は追加的な機能性コーティングの何れとしても、何れの順序でも配置できる。
【0052】
方法500は、コアワイヤを提供するステップ510のためのローディングステーション、コアワイヤを処理するステップ520のための表面処理ステーション、線引きステーション、第一のコーティングを形成するステップ530のための第一のコーティングステーション、第一のコーティングの表面を後処理するステップ540のための第一の後処理ステーション、第二のコーティングを形成するステップ550のための第二のコーティングステーション、第二のコーティングの表面を後処理するステップ560のための第二の後処理ステーション、第三のコーティングを形成するステップ570のための第三のコーティングステーション、及び第三のコーティングの表面を後処理するステップ580のための第三の後処理ステーションを含む生産ライン内で実行され得る。
【0053】
コアワイヤを提供するステップ510は、前述の卑金属組成物、例えば、軟鋼組成物等の鋼鉄組成物を含むコアワイヤ304(図3、4A~4B)を提供するステップを含む。コアワイヤの表面を処理するステップ520は、クリーニングステーションでその表面をクリーニングするステップを含む。1つの例示的な実施形態において、クリーニングステーションは、材料の外面をクリーニングするための洗浄及び/又はコーティング剤を使用する。
【0054】
クリーニング後、材料は線引きステーションへと移動する。線引きステーションは少なくとも1つのダイスを含む。1つの例示的な実施形態において、線引きステーションは一連のダイスを含み、各ダイスは連続的に、先行するダイスより小さい開口を有する。潤滑剤(例えば、粉末潤滑剤)をダイスに加えて、コアワイヤがダイス中を通過しやすくなるようにし、ダイスの摩耗を軽減させ得る。コアワイヤが線引きステーションを通過する際、材料の直径は塑性変形によって徐々に減少し、所望の寸法となり得る。幾つかの実施形態において、線引きプロセスでは線引き用石鹸が使用され、これはステアリン酸塩、例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム等とすることができる。これらの石鹸は線引きプロセスを支援する。線引きステップ後、コアワイヤはさらに酸のタンクを通過して、送給されるコアワイヤをさらにクリーニングし、その上に1つ又は複数のコーティングを形成するように準備し得る。クリーニングステップの後、ワイヤ上の所望のCa範囲はワイヤをさらにコーティングに使用できる程度である。Ca含有量は、さらにコーティングを行うのに最適化された表面を形成するために、ワイヤの0.0005重量%~1重量%の範囲とすることができる。
【0055】
コアワイヤの表面を処理するステップ520の後に、方法500は、銅(Cu)に追加される、又はそれ以外の1つ又は複数の導電元素又は化合物を含む導電コーティングと、追加的な機能性コーティング、例えば本明細書に記載のSb含有コーティングのうちの一方を含む第一のコーティング308A(図4A、4B)を形成するステップ530に進む。
【0056】
各種の実施形態において、第一のコーティングを形成するステップ530は、例えば所望のコーティングレシピを含むワイヤめっきタンク内での湿潤コーティングを行うステップを含む。湿潤コーティングプロセスは、化学/電気化学又は機械/物理プロセスにより実行できる。化学プロセスは、数例を挙げれば、置換反応、ゾル-ゲル薄膜プロセス、電気めっき、又は無電解めっきとすることができる。機械/物理プロセスでは、コーティングはバインダを使ってワイヤ表面に接着される。
【0057】
第一のコーティング308Aを形成するステップ530の後、方法500は第一のコーティング308Aの表面を後処理するステップ540に進む。幾つかの例において、後処理するステップ540は、例えばインライン加熱を使って硬化するステップを含む。インライン加熱は、伝導、対流、放射、又はジュール加熱等の何れかにより実現される。加熱は、電気/抵抗加熱、誘導加熱、火炎又は熱風による加熱、LASER加熱、プラズマ加熱等とすることができる。
【0058】
方法500は追加的に、導電コーティングと追加的な機能性コーティングとのもう一方を含む第二のコーティング308B(図4A、4B)を形成するステップ550を含む。各種の実施形態において、第二のコーティングを形成するステップ550は、例えば所望のコーティングレシピを含むワイヤめっきタンク中での湿潤コーティングを行うステップを含む。湿潤コーティングプロセスは、化学/電気化学又は機械/物理プロセスを通じて実行できる。化学プロセスは、数例を挙げれば、置換反応、ゾル-ゲル薄膜プロセス、電気めっき、又は無電解めっきとすることができる。機械/物理プロセスでは、コーティングはバインダを使ってワイヤ表面に接着される。
【0059】
存在する場合、方法500は追加的コーティング308C(図4B)を形成するステップを含み、このプロセスは、第一及び/又は第二のコーティング308A、308Bを形成するステップ530、550と同様とすることができる。
【0060】
幾つかの実施例では、導電コーティングと追加的な機能性コーティングとの一方又は両方は複数の細孔を含み、細孔は、細孔を有する導電コーティング及び追加的な機能性コーティングとは異なる材料で少なくとも部分的に充填される。それが存在する場合、細孔構造を有することは、異なる層間の接着を改善するために有利である可能性がある。
【0061】
第二のコーティング308Bを形成するステップ550の後、方法500は第二のコーティング308Bの表面を後処理するステップ560に進む。幾つかの実施形態において、後処理するステップ560は、仕上げ/研磨ダイスを通過させるステップを含む。最終的なコーティングがCuコーティング等の金属コーティングを含む場合、研磨ダイスは特に、ワイヤ表面を平滑化し、余剰の銅を除去し、ワイヤが均質で光沢のある外観となるようにする。ダイスは多結晶ダイヤモンドダイス又はタングステンカーバイドダイスとすることができる。
【0062】
図6Aは、従来の消耗電極を使って形成された溶接金属を示す。図6Bは、実施形態による機能性コーティングを有する消耗電極を使って形成された溶接金属を示す。図6A及び6Bの溶接金属を形成するために使用される2つの消耗電極は、機能的コーティングを除き、同じ組成を有する。特に、図6Bに示される溶接金属は、銅(Cu)を含む1つ又は複数の導電元素を含む導電コーティングと、導電コーティング上に形成され、アンチモン元素(Sb)と1つ又は複数のSb酸化物とを含む追加的な機能性コーティングとを有する電極を使って形成された。図4Aに関して前述したように、実施形態による消耗電極を使って形成された溶接金属では、ケイ酸塩アイランドと溶接金属との間の接触角の増大により、ケイ酸塩アイランドの量が大幅に削減されている。例えば、図のように、溶接金属の被覆された表面積は、
【0063】
文脈上、明らかに他の解釈が必要な場合を除き、明細書と特許請求の範囲の全体を通じて、「~を含む(comprise、comprising、include、including)」等の単語は、排他的又は網羅的意味ではなく、包含的意味で、すなわち「~を含むがこれらに限定されない」の意味で解釈されるものとする。「連結される(coupled)」という単語は、本明細書で一般的に使用される場合、2つ以上の要素が直接接続されるか、又は1つ若しくは複数の中間要素によって接続され得ることを指す。同様に、「接続される(connected)」という単語は、本明細書中で一般的に使用される場合、2つ以上の要素が直接接続される、又は1つ若しくは複数の中間要素によって接続されることを指す。追加的に、「本明細書中(herein)」、「上で(above)」、「下で(below)」という単語及び同様の意味の単語は、本願で使用される場合、本願の何れか特定の部分ではなく、本願全体を指すものとする。文脈上可能なかぎり、前述の詳細な説明の中で単数又は複数を使用する単語はまた、それぞれ複数又は単数も含み得る。2つ以上の項目のリストに関する「又は」という単語は、その単語の以下の解釈の全部をカバーする:リスト中の項目の何れか、リスト中の項目の全部、及びリスト中の項目のあらゆる組合せ。
【0064】
さらに、本明細書で使用される条件付き文言、例えば「~することができる(can、could)」、「~かもしれない(might、may)」、「e.g.」、「例えば」、「等」その他は、特に別段の明記がないかぎり、又は使用される文脈内でそれ以外に理解されないかぎり、一般的に特定の実形形態が特定の特徴、要素、及び/又は状態を含み、他の実施形態はそれを含まないことを伝えるものとする。それゆえ、このような条件付き文言は一般に、特徴、要素、及び/又は状態が1つ又は複数の実施形態にとって何らかの方法で必要であること、又はこれらの特徴、要素、及び/又は状態が何れか特定の実施形態に含められ、若しくはその中で実行されることになるか否かを黙示しようとするものではない。
【0065】
特定の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示されたにすぎず、本開示の範囲を限定しようとするものではない。実際に、本明細書に記載されている新規な装置、方法、及びシステムは、他の様々な形態で実施され得て、さらに、本明細書に記載の方法及びシステムに対する様々な省略、代替、及び形態の変更を、本開示の主旨から逸脱せずになし得る。例えば、ブロックはある配置で記されているが、代替的な実施形態では、同様の機能を異なる構成要素及び/又は回路配置でも実現してよく、幾つかのブロックを削除し、移動し、追加し、再分割し、組み合わせ、及び/又は変更してよい。このようなブロックの各々は、様々な方法で実装され得る。上述の様々な実施形態の要素及び行為の何れかの適当な組合せを組み合わせて、さらに別の実施形態を提供できる。上述の様々な特徴及びプロセスは、相互に独立して実行しても、又は様々な方法で組み合わせてもよい。本開示の特徴のあらゆる考え得る組合せと部分組合せは、本開示の範囲内に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0066】
100 アーク溶接システム
102 母材
106 電極
108 アーク
110 電源システム
114 ワークケーブル
118 電極ホルダ
204 溶融池
300 溶接消耗電極
304 コアワイヤ
308 コーティング
308A 第一のコーティング
308B 第二のコーティング
308C 第三のコーティング
400A、400B 消耗電極
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
【外国語明細書】