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特開2023-46432色光照射醗酵による日本酒の醸造方法及び製造装置
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  • 特開-色光照射醗酵による日本酒の醸造方法及び製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046432
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】色光照射醗酵による日本酒の醸造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/022 20190101AFI20230329BHJP
【FI】
C12G3/022 119J
C12G3/022 119L
C12G3/022 119K
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155016
(22)【出願日】2021-09-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年11月19日付け株式会社日本経済新聞社のウェブサイト(電子版日本経済新聞)で公開:URL;https://www.nikkei.com/article/DGXXMZO66420970ZllC20A1L60000/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年3月29日付け株式会社産業経済新聞社のウェブサイトで公開:URL;https://www.sankei.com/article/20210328-LIQ47PHXVNNYLMQM5X3BWJEEKY/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年6月2日付け株式会社日本経済新聞社のウェブサイト(電子版日本経済新聞)で公開:URL;https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC013AZ0R00C21A6000000/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年8月21日付けYouTubeで公開:URL;https://www.youtube.com/watch?v=nPJVh3luTZ0
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年10月27日下野新聞第11面にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年11月20日日本経済新聞第43面にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年3月20日下野新聞第11面にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年3月31日産経新聞第12にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年4月9日下野新聞第11面にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年6月3日日本経済新聞第31面にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年4月13日18時30分~NHK宇都宮放送局「とちぎ630」で発表
(71)【出願人】
【識別番号】502234226
【氏名又は名称】西堀酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160657
【弁理士】
【氏名又は名称】上吉原 宏
(72)【発明者】
【氏名】西堀 哲也
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115CN03
4B115CN63
4B115CN64
(57)【要約】
【課題】特定の波長(520nm以上)の光を照射することにより、麹菌や酵母の増殖が促進されるという研究結果から、これとは逆に波長の短い光(500nm未満)を当てると発酵を適度に抑制できのではないか、また、成分や味わいも変化するのではないか、という着想の下、異なる波長の電磁波(光の色)を使い分けることで、並行復発酵における糖化と発酵のバランスの調整を図る方法の技術、並びにその効果を最大限に発揮させる装置に関する技術の提供を課題とする。
【解決手段】透過性素材を用いたタンク内に収容された醪に対し、複数のLED光源を等角等距離に配置してLED光を照射し、前記LED光に波長の長さが異なるものを使い分けることで糖化とアルコール発酵の促進又は抑制をコントロールして酒質の設計を可能とする構成の色光照射醗酵による日本酒の醸造方法及び製造装置とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過性素材を用いたタンク(10)内に収容された醪(M)に対し、複数のLED光源(20)を等角等距離に配置してLED光(21)を照射し、前記LED光(21)に波長(H)の長さが異なるものを使い分けることで糖化とアルコール発酵の促進又は抑制をコントロールして酒質の設計を可能とすることを特徴とする色光照射醗酵による日本酒の醸造方法(1)。
【請求項2】
前記醪(M)に照射される前記LED光(21)の波長(H)が、赤色発光(R)する610nmから780nmであることを特徴とする請求項1に記載の色光照射醗酵による日本酒の醸造方法。
【請求項3】
前記醪(M)に照射される前記LED光(21)の波長(H)が、青色発光(B)する460nmから500nmであることを特徴とする請求項1に記載の色光照射醗酵による日本酒の醸造方法(1)。
【請求項4】
前記醪(M)の発酵状態に応じ、前記LED光(21)の波長(H)を青色発光(B)する460nmから500nm、及び赤色発光(R)する610nmから780nmのそれぞれに適宜切り替えて前記醪(M)に照射することを特徴とする請求項1に記載の色光照射醗酵による日本酒の醸造方法(1)。
【請求項5】
前記LED光源(20)を前記タンク(10)内にも配置することにより前記醪(M)の内部から前記LED光(21)を照射することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の色光照射醗酵による日本酒の醸造方法(1)。
【請求項6】
前記色光照射醗酵による日本酒の醸造方法(1)に用いられる醸造装置であって、透過率が少なくとも82%以上の素材からなる透明のタンク(10)と複数のLED光源(20)とから成り、
前記LED光源(20)が透明の前記タンク(10)を中心に等角等距離に配置されることを特徴とする色光照射醗酵による日本酒の醸造装置(2)。
【請求項7】
前記LED光源(20)から照射されるLED光(21)の波長(H)が、赤色発光(R)する610nmから780nmであることを特徴とする請求項5に記載の色光照射醗酵による日本酒の醸造装置(2)。
【請求項8】
前記LED光源(20)から照射されるLED光(21)の波長(H)が、青色発光(B)する460nmから500nmであることを特徴とする請求項5に記載の色光照射醗酵による日本酒の醸造装置(2)。
【請求項9】
前記LED光源に、青色発光(B)する460nmから500nm、及び赤色発光(R)する610nmから780nmのそれぞれに切り替え可能な色光切替機構(30)を備え、異なる波長(H)のLED光(21)を前記醪(M)に照射可能としたことを特徴とする請求項5に記載の色光照射醗酵による日本酒の醸造装置(2)。
【請求項10】
前記LED光源(20)を前記タンク(10)内にも配置し、前記醪(M)の内部から前記LED光(21)を照射することを特徴とする請求項6から請求項9のいずれかに記載の色光照射醗酵による日本酒の醸造装置(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日本酒の醸造方法及びその装置に関し、詳しくは、透明タンク内において発酵中の醪にLED光を照射し、糖化とアルコール発酵の促進又は抑制をコントロールすることで酒質の設計を可能とする日本酒の新たな醸造方法及びこれに用いられる醸造装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
古くから、酒類の醸造には木製、ホーロー製、又は金属製の樽等が使用されており、日光に当たることは避けている。通常、酒類の発酵には、糖分をアルコールに代えて、炭酸ガスを発生させるアルコール発酵が一般的である。しかし、日本酒の醸造においては、原料となる米に糖分が含まれていないため、麹の酵素によって米のでんぷんを糖分に変える糖化と、酵母を用いたアルコール発酵の二つの化学反応を、同時に同じ容体内で行う並行複発酵という製法を用いており、係る並行複発酵は、他国の酒造りにおいて例を見ない高度な醸造方法である。
【0003】
係る並行複発酵における醪造り工程は、麹、酒母、水、及び蒸し米を容体内に投入する初添えから、仕込み工程が終わるまでの期間、変化する醪の糖化と発酵の状態(以下、「糖化」と「発酵」の双方の状態を含む用語として「発酵状態」という。)を確認する作業が行われる。また、糖化と発酵は温度変化を伴うため、温度管理は重要である。
【0004】
一般的に「酒蔵」は、光を極力使わず、薄暗いところで作業をするという印象がある。実際、酒の品質への影響を考え、光、特に赤外線が含まれる太陽光が物質に当たると物質の分子を振動させて熱を発生してしまう。係る熱の発生は酵母菌や麹菌の増殖に作用することから太陽光の照射を受けることは極力避けるように蓋体により遮光されており、また醸造樽等の容体は、前記の通り光を遮る木製、ホーロー製、ステンレス製等であって、透過性のない素材である。このように特に日本酒の醸造の世界では光の照射を受けることはタブーとされてきた訳であるが、他方、植物を育てるときは積極的に光の照射が行われる、これは光合成により育成する植物の特性から行われるものであるが、光の色の違いで育つ速度や、栄養成分が変化するという実験結果があることも知られている。例えば、水耕栽培のレタスの場合、当てる光の色によってレタスの育成に変化が出るといわれており、赤色の光は、光合成が盛んになる効果があり成長が早くなる。青色の光には、実や葉を成長させる効果があり、仮に青色のLED単色光で野菜を育てると、ポリフェノールやアントシアニンといった、抗酸化剤が多く生成されることが知られている。
【0005】
そして、植物のみならず、光の色の違いは、麹菌や酵母に確かな影響を受けることも一部、分かっている。例えば、特許文献1には特定の波長(520nm以上)の光を照射することにより、麹菌や酵母の増殖が促進されるという研究結果が示されている。ただし、酒造りにおける発酵は旺盛であればあるほど良いというわけではない。即ち、糖化と発酵のバランスを調整することが重要であり、発酵が旺盛になりすぎないように温度の管理・抑制も必要である。
【0006】
そこで、本願の発明者は、長い波長の光を当てることで麹菌や酵母の増殖が促進するならば、逆に波長の短い光を当てると発酵を適度に抑制できるのではないかという着想の下、光に熱を殆ど含まないLED光を使用し、照射する光の色を使い分けることで、発酵状態をコントロールする本願発明を完成するに至ったものである。
【0007】
なお、光を透過しない従来の醸造タンクでは、醪に効率よく光の照射を受けさせることができないという問題がある。しかしながら、この点について本願の出願人は、既に「透過性素材を用いた醸造装置」(特許文献1)について特許を取得しており、係る装置を利用することで、醪に効率よく光の照射を受けさせることができると考えた。
【0008】
また、本願の発明者以外からも、従来より、これらに関する様々な技術提案がなされている。例えば、先に示した発明の名称を「真核微生物の培養方法」とするもの(特許文献2参照)で、具体的には、「温度管理に代わる簡便な手法により酵母やカビ等の真核微生物の増殖速度を容易に制御することができる培養方法を提供すること」を課題とし、解決手段として「酵母やカビ等の真核微生物を培養する際に、光を照射しながら培養すると、特定の波長の光を照射することにより、その増殖が促進されることを見出し、この知見に基づき本発明を完成させるに至った。」というものである。しかし、係る技術のみでは、増殖の促進を図れても抑制できず、また、大量の醪に効率よく光の照射を受けさせることができないという問題についても解決できていないといえる。
【0009】
また、発明の名称を「製麹方法及び清酒の醸造方法」とする技術で(特許文献3)、具体的には、「GA活性が高くかつACP活性が低い清酒醸造に適した麹を製造し得る方法及びそれを用いた清酒の製造方法を提供する。」ことを課題とし、解決手段として「蒸米に種麹をふる床もみから、でき上がった麹を麹室から出す出麹までの製麹工程において、好ましくは赤色光である光を、種麹をふった蒸米に照射する。特に、盛以降の製麹工程において、種麹をふった蒸米に赤色光を照射すると、GA/ACP値の高い麹が得られる。得られた麹を用いることにより、良好な酒質の清酒を製造することができる。」という技術が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、特許文献3に記載の発明は特許文献1に記載の発明と同様、大量の麹に均一な光の照射という問題を解決するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5934458
【特許文献2】特開2010-220587
【特許文献3】特開2010-136696
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、特定の波長(520nm以上)の光を照射することにより、麹菌や酵母の増殖が促進されるという研究結果から、これとは逆に波長の短い光(500nm未満)を当てると発酵を適度に抑制できるのではないか、また、成分や味わいも変化するのではないか、という着想の下、異なる波長の電磁波(光の色)を使い分けることで、並行復発酵における糖化と発酵のバランスの調整を図る方法の技術、並びにその効果を最大限に発揮させる装置に関する技術の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、透過性素材を用いたタンク内に収容された醪に対し、複数のLED光源を等角等距離に配置してLED光を照射し、前記LED光に波長の長さが異なるものを使い分けることで糖化とアルコール発酵の促進又は抑制をコントロールして酒質の設計を可能とする構成の醸造方法とした。
【0013】
また、本発明は、前記醪に照射される前記LED光の波長が、赤色発光する610nmから780nmである構成の醸造方法とすることもできる。
【0014】
また、本発明は、前記醪に照射される前記LED光の波長が、青色発光する460nmから500nmである構成の醸造方法とすることもできる。
【0015】
また、本発明は、前記醪の発酵状態に応じ、前記LED光の波長を青色発光する460nmから500nm、及び赤色発光する610nmから780nmのそれぞれに適宜切り替えて前記醪に照射する構成の醸造方法とすることもできる。
【0016】
また、本発明は、前記LED光源を前記タンク内にも配置することにより前記醪の内部から前記LED光を照射する構成の醸造方法とすることもできる。
【0017】
また、本発明は、前記色光照射醗酵による日本酒の醸造方法に用いられる醸造装置であって、透過率が少なくとも82%以上の素材からなる透明のタンクと複数のLED光源とから成り、
前記LED光源が透明の前記タンクを中心に等角等距離に配置される構成の醸造装置とすることもできる。
【0018】
また、本発明は、前記LED光源から照射されるLED光の波長が、赤色発光する610nmから780nmである構成の醸造装置とすることもできる。
【0019】
また、本発明は、前記LED光源から照射されるLED光の波長が、青色発光する460nmから500nmである構成の醸造装置とすることもできる。
【0020】
また、本発明は、前記LED光源に、青色発光する460nmから500nm、及び赤色発光する610nmから780nmのそれぞれに切り替え可能な色光切替機構を備え、異なる波長のLED光を前記醪に照射可能とした構成の醸造装置とすることもできる。
【0021】
また、本発明は、前記LED光源を前記タンク内にも配置し、前記醪の内部から前記LED光を照射する構成の醸造装置とすることもできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造方法及び醸造装置によれば、透過性素材を用いた醸造タンク内に収容された醪に、特定の波長のLED光を使い分けて照射することで、温度管理に加えて並行復発酵における糖化と発酵のバランスの調整を図ることが可能となる優れた効果を発揮するものである。
【0023】
また、本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造方法及び醸造装置によれば、透過性素材を用いた醸造タンク内に収容された醪に、赤色発光の波長のLED光を照射することで、発酵を促進し、ドライで酸味のきいた辛口タイプの発酵酒が得られるという優れた効果を発揮するものである。
【0024】
また、本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造方法及び醸造装置によれば、透過性素材を用いた醸造タンク内に収容された醪に、青色発光の波長のLED光を照射することで、発酵を抑制し、香り豊かで甘みの乗った吟醸タイプの発酵酒が得られるという優れた効果を発揮するものである。
【0025】
また、本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造方法及び醸造装置において、前記醪(M)の発酵状態に応じ、前記LED光の波長を、青色発光する460nmから500nm、及び赤色発光する610nmから780nmのそれぞれに適宜切り替えて前記醪に照射可能とするLED光源を用いる構成とした場合には、色光の異なる光の照射パターンを組み合わせることにより、より多くの酒質の設計を可能にするという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造方法及び製造装置における基本構成を説明する基本構成説模式図である。
図2】本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造方法における各工程を説明するフローチャート図である。
図3】本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の製造装置における光源の配置構成を説明する光源配置構成説明図である。
図4】本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造方法及び製造装置におけるLED光照射による効果を示す試験結果説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、透過性素材を用いたタンク内に収容された醪に対し、複数のLED光源を等角等距離に配置してLED光を照射し、前記LED光に波長の長さが異なるものを使い分けることで糖化とアルコール発酵の促進又は抑制をコントロールして酒質の設計を可能とする構成としたことを最大の特徴とするものである。以下、図面に基づいて説明する。但し、係る図面に記載された形状や構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の創作として発揮する効果の得られる範囲内で変更可能である。
【0028】
図1は、本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造方法及び製造装置1の基本構成を説明する基本構成説明図であり、図1(a)に装置全体の基本構成を示し、図1(b)から図1(d)に内部から色光照射するLED光源の実施例を示している。以下、各構成について詳細な説明をする。
【0029】
色光照射醗酵による日本酒の醸造方法1は、透過性素材を用いたタンク10内に収容された醪Mに対し、複数のLED光源20を等角等距離に配置してLED光21を照射し、前記LED光21に波長Hの長さが異なるものを使い分けることで糖化とアルコール発酵の促進又は抑制をコントロールして酒質の設計を可能とすることを特徴とするものである。
【0030】
色光照射醗酵による日本酒の醸造装置2は、前記色光照射醗酵による日本酒の醸造方法1に用いられる醸造装置であって、透過率が少なくとも82%以上の素材からなる透明のタンク10と複数のLED光源20とから成り、前記LED光源20が透明の前記タンク10を中心に等角等距離に配置され、図1(a)に記載されているように、タンク10を中心として外側にLED光源20を配置することを基本構成とし、タンク10の内部にLED光源20を配置することを特徴とするものである。以下、各構成について説明する。
【0031】
タンク10は、醪Mの仕込みに使用する容器であり、酒母を麹、水、蒸米を収容し、醪Mを発酵させるためのものである。一般的には仕込タンク・仕込桶・発酵タンク・酒母タンク・醪タンクなどといわれるものであり、タンク10の形状は図1に示すような円筒型が望ましい。他に角型等も考えられるが、可能な限り均一な受光となるようにするためである。またタンク10の素材には、LED光源20からの光を透過させる素材を用い、その透過性については、少なくとも透過率82%以上を有する素材とし、例えば、アクリル(PMMA:ポリメチルメタクリレート 透過率93%)、PC(ポリカーボネート:ポリカ 透過率89%)、PET(ポリエチレンテフタレート:ペット 透過率90%)、PVC(ポリ塩化ビニル:塩ビ 透過率82%)等の樹脂素材の他、ガラス 透過率92%を素材とすることが望ましい。また、その大きさについては特に限定されるものではないが、試験に用いたタンク10は直径約1.2m、高さ約1.5mのものを用いた。また、図面には表していないが、醪Mの品温管理のために冷却装置を付属させることも望ましい。係る冷却方式には、一般にジャケット式、内部冷却式、或いはシャワー水冷式などがある。但し、本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の製造装置2では光の透過を妨げる部材は極力避けたいため、内部冷却式とすることが望ましい。
【0032】
LED光源20は、発光ダイオード(LED:Light Emissiom Diode)、即ち、半導体レーザーと同じくp-n接合に電流を流して発光させる半導体発光素子を半導体材料の紫外線、可視、赤外線領域の様々な波長の光を発光させることができるものである。白熱電球や蛍光灯に比べて長寿命、低消費電力であることから照明の利用が進んでいる光源である。なお、LED光源20は、タンク10を中心に等角等距離となるように複数配置するのを基本構成とし、前記LED光源20を前記タンク10内にも配置することによって前記醪Mの内部から前記LED光21を照射する構成を採用することも好適である。係る内部照射については、図1(b)に示すような点光源、図1(c)に示すような線光源、又は図1(d)に示すような面光源とすることが考えられ、タンク10と同様の透過性を備えた素材のケージに収容し、醪Mの内部に挿入してタンク内に満遍なくLED光21を照射する。
【0033】
LED光21は、LED光を用いた醸造における発酵工程に必要な温度管理に際し、可視光の波長の数値に対応する光の色は、おおよそ次のとおりである。
「紫:380~430nm」「藍:430~460nm」「青:460~500nm」「緑:500~570nm」「黄:570~590nm」「橙:590~610nm」「赤:610~780nm」。
【0034】
また、可視光の「紫」よりも波長が短くなると、人の目には見えなくなり、紫の外ということで「紫外線」と呼ばれ、これとは逆に「赤」よりも波長が長くなると、再び人の目には見えなくなり、赤の外ということで「赤外線」と呼ばれる。この「紫外線」、「赤外線」と、人の目に見える「可視光」を含めたものが、広義で「光」と呼ばれる。なお、「赤色の光」、「赤外線」、「波長が520nm」以上」、「波長の長い光」等で表現される光は、それぞれの特性を有するものであり、即ち、照射する光によって醪の分子が刺激されて、分子間運動が激しくなるため熱が発生する光と、可視光領域において赤色に見える光とは厳密にいえば別の意味である。しかし、これらを総称する用語として「赤色発光」を用いることとする。他方、「青色の光」、「紫外線」、「波長が520未満」、「波長の短い光」等で表現される光についても、それぞれの特性を有するものであるが、熱の発生にほとんど影響せず、可視光領域において青色に見える光を含む意味で、「青色発光」を用いることとする。
【0035】
色光切替機構30は、タンク10に収容された醪Mに照射する光の色を切り替える機構であり、前記の通り波長の異なるLED光源20を赤、青、黄、緑というように、複数の色光の種類として備え、少なくとも赤色、及び青色のLED光源を備え、醪Mの発酵状態に応じて光の色を適宜切り替えることができるようにするものである。
【0036】
青色発光Bは、およそ460nmの波長で発光するLEDであり、本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造装置(2)で試験的に用いた青色光照射の発光ダイオードには波長が460から500nmで、ピークが462nmのものを用いた。
【0037】
緑色発光Gは、今回の試験的に用いた光照射の発光ダイオードには含めていないが、およそ520nmの波長で発光するLEDであり、本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造装置(2)で用いることが可能な発光ダイオードであり、その場合波長は500から570nmで、ピークが518nmのものを用いることが考え得る。
【0038】
赤色発光Rの場合、工業用の赤色LEDチップの波長は一般的に630nmであり、植物の光合成に適するLEDチップは660nmとなっている。本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造装置(2)で試験的に用いた赤色光照射の発光ダイオードには波長が610から780nmで、ピークが632nmのものを用いた。
【0039】
波長Hは、光が電磁波という波の一種であり、波長Hは波の山から山までの長さであり、人間の目で見える可視光領域は紫から赤までのおよそ380から780nmの範囲であって、その外側には目には見えない紫外線や赤外線があり、更に紫外線よりも短い波長にX線やガンマ線が存在し、赤外線よりも長い波長に電波が存在するものである。
【0040】
醪Mは、発酵中の液体のことであり、酒母(しゅぼ)・麹(こうじ)・蒸米(むしまい)・仕込み水をいれて造る、いわば「日本酒になる前段階」のものである。タンク10に酒母(酵母仕込みでは酵母)、蒸米、麹、水を仕込み、その後発酵している状態を醪Mという。仕込直後は流動性がなく膨れた米飯のような状態であるが、糖化が進むと流動性を帯びてゆっくり対流を始める。対流が始まった状態を「醪が返った」などという。醪Mの初期は、流動性があるものの比重が重く、とろみと甘みがあるが、発酵が進むにつれて比重が軽くなり、とろみと甘みがなくなってくる。このため、発酵の進み具合を比重の変化(ボーメ度)や甘みの変化で推し量ることができる。醪Mが熟成すると醪Mの比重は水か水より軽い状態となり、液状も水のようにとろみがなくなり、味も、甘さよりアルコールによる辛さを強く感じるようになる。熟成した醪Mを搾る(上槽する)ことで澄んだ清酒となるものである。
【0041】
図2は、本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造方法における各工程を説明するフローチャート図である。
【0042】
図2に示されるとおり、日本酒の製造過程において、酒母に麹、蒸米、水を加えて発酵させ、「醪M(もろみ)」を造る工程が「仕込み」であり、醪Mは日本酒のもとになるため、日本酒の味を左右する大変重要な工程といえる。ここで、仕込みの際に全量を一気に発酵させると、酒母の中の酸が薄くなり、酵母菌の増殖が間に合わなくなる。これは、酒母が酸性を保てなくなり、雑菌が繁殖してしまうからである。そのため、酵母の様子を見ながら数回に分けて、麹、蒸米、水を加え、ゆっくりと発酵させることが重要である。このように、3回に分けて発酵させる仕込み方が一般的であり、これは「三段仕込み」と呼ばれている。三段仕込みは、およそ4日間の工程で行われ、1日目:初添(はつぞえ)、2日目:踊(おどり)、3日目:仲添(なかぞえ)、4日目:留添(とめぞえ)という流れである。初添では、タンクに酒母を移し、そこへ麹、蒸米、水を加える。量は、酒母の2倍程。櫂棒(かいぼう)でよく撹拌させ、発酵を促す。係る初添えからLED光21の照射をはじめる。2日目は、踊と呼ばれる酵母の増進を待つ期間を設ける。これは、清酒酵母が野生酵母に負けないように、優勢に保つために必要な期間である。そして3日目の仲添が、二段目の仕込みである。初添のときの量の略2倍、麹・蒸米・水を加えていき、4日目の留添で、さらに仲添のときの略2倍量の麹・蒸米・水を加える。段階を踏んで原料の量を増やし、環境の変化に対応させながら醪Mを仕込んでいくことが大切である。4日間の三段仕込みの工程が終わった後は、温度を調節しながら発酵させていき、発酵が終わって醪Mが出来上がるまでの間、即ち、初添よりおよそ20日から30日となる上槽(搾り)までの間、青色発光B又は赤色発光R、若しくはこれらを切り替えて照射する。
【0043】
図3は、本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の製造装置における光源の配置構成を説明する光源配置構成説明図である。図3(a)は、光源20を90度ずらして4個配置した場合の本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の製造装置2を側方から見た断面模式図であり、図3(b)は光源20を90度毎にずらして4個配置した場合の本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の製造装置2を上方から見た断面模式図であり、図3(c)は光源20を60度毎にずらして6個配置した場合の本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の製造装置2を上方から見た断面模式図であり、図3(d)は光源20を30度毎にずらして全周となるように12個配置した場合の本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の製造装置2を上方から見た断面模式図である。
【0044】
図3に示されるとおり、光源の数と距離は、タンク10に収容される醪M全体に均一に光を照射できるように配意する。特にLED光21は、一定の方向に向かって発する性質があるため、ピンスポット照射とならないようにし、光源20には拡散光とするリフレクターが付いているものが望ましい。なお、図3(a)では、タンク10の底部に光源20を配置し、上向きにLED光21を照射しているが、略中央の高さに光源20を配置し、上下均等に拡散光を照射しても良い。なおまた、図1及び図3(a)にはタンク10の上部にも光源20を示したが、上部の配置には気をつけなければならない。その理由は、酵母菌が上層に集まる傾向があるためLED光21の影響を受けやすく、発酵状態のバランスに影響するからである。
【0045】
図4は、本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造方法及び製造装置において、LED光照射による効果を示す試験結果説明図であり、図4(a)は試験的実施条件の一部と結果を示し、図4(b)は発酵の強弱による日本酒度、酸度、及びアルコール度の傾向を示している。
【0046】
また図4は、LED光照射の無いNと比較した青色発光(B)照射による効果の相違、LED光照射の無いNと比較した赤色発光(R)照射による効果の相違、並びに青色発光(B)照射と赤色発光(R)照射による効果の違いについて、それぞれを表した試験結果の一覧表でもある。清酒製造は、並行複醗酵(糖化と発酵の同時並行)の形態を採り、次に示す諸要件から厳密な比較は事実上不可能であり、数年から数十年単位の試行を経て蓋然性が高まるものである。その要件には、根本的な仕込みの本数、環境条件設定、原料の年度違いや気候・生育条件、発酵タンクの位置・温湿度・通気条件、種麹の品種、麹の破精込み具合、酵素力価、仕込水の組成、醪工程に至るまでの酒母期間における酵母数、麹米から蒸米に至る全バッチの吸水歩合、精米時の割れの多寡、蒸し工程でのα化変性、蒸米のβ化変性、酒母の枯らし期間、上槽時の圧力差、空気との接触時間、火入れ温度、等々、醸造における最終製品に至るまでには、この他にも非常に多くの要素が絡んでいる。そこで条件を可能な限り揃えるため、醪日数19日目の時点で比較したものが図4である。
【0047】
また、酒類総合研究所における試験においても、上記の次元まで完全な要素分解をして理想条件を設定し、試験されている論文結果などは存在せず、日本醸造協会誌における論文も同様である。即ち、完全な理想環境・条件を整備し試験することは現実的にほぼ不可能であるものの、発明者における経験値ベースで、櫂棒を醪Mに入れたときの流動性や泡の立ち方等、そして酒質の官能評価において、同一スペック酒質の既存商品との比較における違いは既に認識しており、分析値ベースでの差異を参考情報として提示すると、図4に示すような結果となった。
【0048】
(1)「照射なしN」と「青色発光B」の比較(発酵の抑制)
日本酒度の高低、酸度の高低、アルコール度数の高低にて判断すると、酸度、アルコール度数ともに同一値ながら、日本酒度に5の差が出ている。日本酒度(ボーメ度)が高いということは、糖度を多く残している(消化しきれていない)ということである。また、醪管理温度帯を高くすればするほど、発酵を促進する方向に働くことが知られているが、照射なしNに比べて平均的に高い醪管理温度帯を推移した青色発光Bの方が、糖度を多く残している。従って、これらの事実は、青色発光Bの照射により、発酵が抑えられている傾向を示す。一般的に、発酵を抑制する方法による清酒製造では、華やかな吟醸香を放ち、甘みのある味わいの清酒が出来上がる。
【0049】
(2)「照射なしN」と「赤色発光R」の比較(発酵の促進)
アルコール度数に関しては発酵約1日分の差があるが、経験則上1日遅れで数値が出る現象は一般的であり、ほぼ同一とみなして良い。この前提を踏まえると、赤色発光Rは照射なしNよりも日本酒度がプラス(糖分が少ない)であり、酸度が高い(酵母の活動が多い)ことから、赤色発光の照射により、発酵の促進が実現されていることを示している。一般的に、発酵を促進する方法による清酒製造では、ドライで酸味のある味わいの清酒が出来上がる。
【0050】
(3)「青色発光B」と「赤色発光R」の比較
(1)、(2)を踏まえて比較すると、日本酒度および酸度に大きな開きがみられる。これは長い波長と短い波長の光照射の差異がもたらした、対称的な結果である。なお、分析値が同じでも、官能評価では全く異なる評価に分かれることは、例えば全国新酒鑑評会(独立行政法人 酒類総合研究所により毎年開催)の出品酒からも、よく知られている事実である。即ち、分析値が同じ中でも、数値で導出できない数多の微少要素を抱えているということであり、裏を返せば、分析値による差異は、大きな差異であるといえる。ガスクロマトグラフィー等の最新機器であっても人間の鼻・味覚が把捉する複雑性評価(官能評価)には適わないというのが、業界の通説である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る色光照射醗酵による日本酒の醸造方法及び製造装置によれば、酒蔵の持続可能な生産と伝統の継承へ資するものであり、応用展開等を視野に入れるものである点で、酒造業界に先進的な技術導入を取り入れるきっかけとなり、産業上利用可能性は高いと思慮されるものである。
【符号の説明】
【0052】
1 色光照射醗酵による日本酒の醸造方法
2 色光照射醗酵による日本酒の醸造装置
10 タンク
20 LED光源
21 LED光
30 色光切替機構
B 青色発光
G 緑色発光
R 赤色発光
H 波長
M 醪
N 照射なし
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-03-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過性素材を用いたタンク(10)内に収容された醪(M)に対し、複数のLED光源(20)を等角等距離に配置してLED光(21)を照射し、前記LED光(21)に波長(H)の長さが異なる青色発光(B)する460nmから500nm、及び赤色発光(R)する610nmから780nmのそれぞれを適宜切り替えて前記醪(M)に照射することで糖化とアルコール発酵の促進又は抑制をコントロールして酒質の設計を可能とすることを特徴とする色光照射醗酵による日本酒の醸造方法(1)。
【請求項2】
前記LED光源(20)を前記タンク(10)内にも配置することにより前記醪(M)の内部から前記LED光(21)を照射することを特徴とする請求項1に記載の色光照射醗酵による日本酒の醸造方法(1)。
【請求項3】
前記色光照射醗酵による日本酒の醸造方法(1)に用いられる醸造装置であって、透過率が少なくとも82%以上の素材からなる透明のタンク(10)と複数のLED光源(20)とから成り、
前記LED光源(20)が透明の前記タンク(10)を中心に等角等距離に配置されるとともに前記LED光源には、青色発光(B)する460nmから500nm、及び赤色発光(R)する610nmから780nmのそれぞれに切り替え可能な色光切替機構(30)を備え、異なる波長(H)のLED光(21)を前記醪(M)に照射可能としたことを特徴とする色光照射醗酵による日本酒の醸造装置(2)。
【請求項4】
前記LED光源(20)を前記タンク(10)内にも配置し、前記醪(M)の内部から前記LED光(21)を照射することを特徴とする請求項3に記載の色光照射醗酵による日本酒の醸造装置(2)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
【特許文献1】特許第6523366号
【特許文献2】特許第5934458号
【特許文献3】特開2010-136696号