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▶ 株式会社淺沼組の特許一覧

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  • 特開-版築構造物 図1
  • 特開-版築構造物 図2
  • 特開-版築構造物 図3
  • 特開-版築構造物 図4
  • 特開-版築構造物 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046446
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】版築構造物
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/86 20060101AFI20230329BHJP
   E04B 1/16 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
E04B2/86 611G
E04B1/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155041
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000156204
【氏名又は名称】株式会社淺沼組
(74)【代理人】
【識別番号】100095647
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】古東 秀文
(72)【発明者】
【氏名】林 晃子
(57)【要約】
【課題】従来と比較して軽量であり、かつ高く構築することができる版築構造物、およびこれを施工するための工法を提供する。
【解決手段】基盤に対して縦横に適宜間隔で垂直に設けられた支柱と、この支柱の中間部に設けられた抵抗板と、この抵抗板の前記基盤からの距離よりも厚く土を締め固めた版築部からなる版築構造物およびその施工方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基盤に対して縦横に適宜間隔で垂直に設けられた支柱と、この支柱の中間部に設けられた抵抗板と、この抵抗板の前記基盤からの距離よりも厚く土を締め固めた版築部からなることを特徴とする版築構造物。
【請求項2】
基盤は、鉛直方向に対して斜めに傾斜した請求項1記載の版築構造物。
【請求項3】
基盤は、鉛直方向に立設し、この基盤の両面と天面には支柱が設けられ、この支柱に対して抵抗板が設けられた請求項1記載の版築構造物。
【請求項4】
抵抗板は、平板状である請求項1~3のいずれか記載の版築構造物。
【請求項5】
基盤の表面にはラス網が張られた請求項1~4のいずれか記載の版築構造物。
【請求項6】
基盤に縦横に適宜間隔で複数の支柱を垂直に設け、この支柱の中間部には平板上の抵抗板を固定し、前記基盤から所望の間隔で型枠を設け、前記基盤と型枠の間に土を投入したのちに締め固め、前記型枠を撤去することを特徴とする版築構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、公知の構造である版築によって構築された版築壁あるいは版築塀を改良したもので、全体の構造を軽量にすることができる版築構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から土塀などを版築で行うことは広く知られており、寺社などの土塀に見られることが多い。この工法は、型枠内に土を投入して適宜な高さごとに一層ずつ締め固め、これを何層も繰り返すことによって施工するものであった。しかしながら、版築によって壁を作成する場合、壁厚が薄ければ脆弱な壁体となるのである程度の壁厚を必要とする結果、総重量が重くなることや、土を締め固めるという構造的な不安定さから高く積み上げることが困難であるといった基本的な問題がある。
【0003】
また、屋内などの化粧壁として、壁面に漆喰などを鏝で層をなすように版築風に塗り固める技術があるが、表面だけに版築風の意匠を施すものであり、土を締め固めて施工するという本来的な版築ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-143764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、その図4に示されたように、従来から行われている版築工法が記載されている。しかしながら、従来から行われている構造では上記したように高さを要求するのであれば十分な壁厚が必要であり、全体の重量がかさむという課題を解決することはできない。
【0006】
本発明は従来から公知である版築壁あるいは版築塀の構造を採用しながら、従来と比較して軽量であり、かつ高く構築することができる版築構造物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、基盤に対して縦横に適宜間隔で垂直に設けられた支柱と、この支柱の中間部に設けられた抵抗板と、この抵抗板の前記基盤からの距離よりも厚く土を締め固めた版築部からなる版築構造物を構築した。そして、基盤は版築壁や版築塀の雰囲気に近づけるように鉛直方向に対して斜めに傾斜した。あるいは基盤を鉛直方向に立設し、この基盤の両面と天面には支柱を設け、この支柱に対して抵抗板を設けるという手段を採用した。支柱は抵抗板を設けるためのアンカーピンの機能を有しており、基盤に対して堅固に立設している。また、抵抗板は版築部に対する応力への抵抗要素として働き、版築部が崩落したり表面が崩れることを抑制している。
【0008】
また、抵抗板は平板状として基盤に対して並行に設けられ、これによって確実な抵抗要素として働かせるようにしている。基盤の表面に張られたラス網は、土の基盤に対する定着性を高める作用を奏している。
【0009】
本発明の版築構造物の施工方法は、まず基盤に縦横に適宜間隔で複数の支柱を垂直に設け、次にこの支柱の中間部には平板上の抵抗板を固定し、前記基盤から所望する間隔、すなわち版築物の厚みを確保するために型枠を設け、前記基盤と型枠の間に土を投入したのちに上側の開口から土を締め固め、養生したのちに型枠を撤去するという工法を用いることとした。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、上記のような構成を採用したので、簡単に版築ブロック壁を施工することができるとともに、崩れやすい版築ブロックであっても自重によって崩落することを回避することができる。その結果、従来と比べて高い版築壁、あるいは版築塀を施工することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】片側壁面に版築壁を設けた横断面図
図2図1の版築壁の基盤を示した正面図
図3図1の一部拡大横断面図
図4】両側壁面に版築壁を設けた横断面図
図5図4の変形例を示した横断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面に従って説明する。図1図2は、本発明の版築壁の一実施形態を示す横断面図、図3はその拡大断面図であって、1は既設建造物の壁面、2は同、床スラブである。なお、本実施形態は既設の建物の壁面1を利用して構築する形態を示しているが、本発明の適用はこの構成に限定されるものではない。3は壁面1に対して建物の室内側に鉛直方向に対して斜めに設けられた基盤、4は基盤3に対して縦横方向に適宜間隔で垂直に立設された支柱、5は支柱4の長さ方向の途中に設けられた抵抗板である。支柱4は基盤3に対して確実に立設するために、溶接によって固定することを予定するが、確実に立設することができる手段であれば、例えばナット止めを利用することも可能である。抵抗板5の支柱に対する定着は、支柱4にネジが切られているようなボルトである場合にはダブルナット6・6によって適宜高さに固定することができる。支柱4にネジが切られていない場合でも、抵抗板5を支柱に溶接するという手段を採用することも可能である。7は版築に用いる土が基盤3に確実に定着するために張られたラス網であり、任意に設けられる。基盤3を壁面1に対して斜めに設置するために、適宜間隔で下から上に向かって徐々に長さが長くしたLアングル8などで基盤3を壁面1に支持している。ただし、このような支持の構成については特に限定する必要はなく、基盤3を堅固に斜めに支持できるものであれば公知の構成を採用することもある。
【0013】
ここで、基盤3の構成は、全面を一面とした面板の構造でもよいが、比較的幅が狭い板をユニットとして幅方向、あるいは縦方向に接合して基盤を構成すれば、施工面積に対応してユニットを組み立てることが可能である。
【0014】
上記のような構成に対して版築壁を積層するが、この場合、版築壁を突き固めるために、基盤3から適宜間隔を設けて型枠(図示せず)を設け、基盤3と型枠の間に土を投入しながら常法に基づいて土を締め固める。このようにして版築部9の施工が完了する。型枠は、予め基盤3の全面に設けることもあるが、あまり高すぎれば上側の開口から土を突き固めることが困難であるため、一定高さごとに複数段に型枠を設け、徐々に版築壁を積層する。ただし、版築壁が数十センチと比較的低いものである場合には、締め固めは一度で足りるので、型枠の複数段の積層は不要である。
【0015】
ここで、基盤3に立設した支柱4に抵抗板5を設けたのは、締め固めた土が基盤3に対する定着性を保持することを目的としている。すなわち、抵抗板5が支柱4を介して基盤3と一体化することになるので、地震による揺れが発生した場合でも面外方向への応力に対して抵抗要素として働かせることができる。また、抵抗板5によって締め固められた土の面外方向への動きを全体として拘束するので、従来の版築壁と比較すると厚みを薄くし、軽量化することができる。なお、抵抗板5の厚み方向に対する位置については特に限定するものではないが、例えば壁厚が250mmの場合には飲み込み(A)を150mm、背面かぶり(B)を100mmに設定する。背面かぶりが厚すぎれば抵抗板5の抵抗要素としての機能が十分に発揮できないからである。ただし、版築壁を崩落せずに保持することができるのであればAとBの関係は任意である。また、抵抗板5の設置頻度については、本実施形態では幅方向に600mm、高さ方向に450mmの間隔でマトリックス状に設けている。この頻度については、抵抗板5に本来的に求める作用を発揮できるのであれば、ある程度の範囲で広く、または狭く設けることもある。
【0016】
抵抗板5は、本実施形態の場合では200mm×100mm程度の矩形平板であるが、外形は特に限定する必要はなく、例えば円板状、多角形状でもよい。抵抗板5として必要なことは、基盤3に対して並行に設けられ、締め固められた土が面外方向に移動する応力に抵抗することであり、この作用を奏するのであればその形状は広く採用することができる。抵抗板5の素材は特に限定しないが、版築壁あるいは版築塀における抵抗要素として十分に応力に耐えることができる素材である必要がある。
【0017】
図4は本実施形態の変形例であって、版築壁を向かい合わせて設定したところを示す。この場合、版築壁の基礎を構成する基盤3は、Lアングル8の両端に支持固定されるが、両側に出現する版築壁の基本的な構成は図1の版築壁と異なるところはない。
【0018】
図5は本実施形態のさらなる変形例であって、床スラブ10に対して垂直に立設した基盤11の両側表面に支柱4を立設し、それぞれの支柱4に対して抵抗板5を固定したものである。さらに、この実施形態では天面にも版築を行うために、基盤11の頂部にも支柱4を立設し、この支柱4に対しても抵抗板5を固定している。そして、先の実施形態と同様に版築の厚みに応じて型枠(図示せず)を順次積層して施工し、この型枠と基盤11の間に土を投入して突き固める。そして最終段階にて天面に相当する部分にも土を投入して突き固めることによって、版築塀を施工する。この実施形態においても、基本的な構成は先の実施形態に説明したところと変わるところはない。
【符号の説明】
【0019】
1 壁面
2 床スラブ
3 基盤
4 支柱
5 抵抗板
6 ナット
7 ラス網
8 Lアングル
9 版築部
11 基盤
図1
図2
図3
図4
図5