(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000465
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】水生生物の養殖装置
(51)【国際特許分類】
A01K 61/60 20170101AFI20221222BHJP
A01K 63/06 20060101ALI20221222BHJP
G06Q 50/02 20120101ALI20221222BHJP
【FI】
A01K61/60 322
A01K63/06 C
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101304
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】520002760
【氏名又は名称】株式会社クラハシ
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】釘宮 雄一
【テーマコード(参考)】
2B104
5L049
【Fターム(参考)】
2B104CA01
2B104CB12
2B104CB44
2B104CB48
2B104CB52
2B104CB53
2B104CC01
2B104CC08
2B104CD01
2B104EG03
5L049CC01
(57)【要約】
【課題】異なる場所に設置される複数の収容容器を連動させて最適な条件での養殖管理を行える、水生生物の養殖装置を提供する。
【解決手段】本発明の水生生物の養殖装置は、異なる場所に設置される複数の収容容器での水生生物の育成を制御する水生生物の養殖装置であって、前記複数の収容容器は、マスター収容容器と該マスター収容容器以外のクライアント収容容器を含み、前記マスター収容容器での水生生物の育成条件であるマスター育成条件を記憶部に送信する送信部と、前記記憶部に記憶される前記マスター育成条件に基づいて、前記クライアント収容容器での水生生物の育成条件であるクライアント育成条件を生成するクライアント育成条件生成部と、前記クライアント育成条件を、前記クライアント育成条件を、前記クライアント収容容器に出力する出力部と、を備え、前記マスター収容容器での水生生物の育成条件と、前記クライアント収容容器での水生生物の育成条件とを連動させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる場所に設置される複数の収容容器での水生生物の育成を制御する水生生物の養殖装置であって、
前記複数の収容容器は、マスター収容容器と該マスター収容容器以外のクライアント収容容器を含み、
前記マスター収容容器での水生生物の育成条件であるマスター育成条件を記憶部に送信する送信部と、
前記記憶部に記憶される前記マスター育成条件に基づいて、前記クライアント収容容器での水生生物の育成条件であるクライアント育成条件を生成するクライアント育成条件生成部と、
前記クライアント育成条件を、前記クライアント育成条件を、前記クライアント収容容器に出力する出力部と、を備え、
前記マスター収容容器での水生生物の育成条件と、前記クライアント収容容器での水生生物の育成条件とを連動させる、水生生物の養殖装置。
【請求項2】
前記異なる場所は、同一施設内部での異なる場所および地理的に異なる場所の少なくとも一方を含み、
前記マスター収容容器と前記クライアント収容容器とは、前記異なる場所に設置されている、請求項1記載の水生生物の養殖装置。
【請求項3】
前記記憶部は、前記送信部および前記出力部とネットワーク接続される仮想空間に備わる、請求項1または2記載の水生生物の養殖装置。
【請求項4】
前記マスター収容容器および前記クライアント収容容器のそれぞれは、水生生物と育成水を収容し、
前記マスター育成条件は、
前記マスター収容容器への光の照射条件、
前記マスター収容容器内部の育成水の温度条件、
前記マスター収容容器内部の育成水の溶存酸素濃度、
前記マスター収容容器内部の育成水のPH濃度、
前記マスター収容容器内部の育成水の塩分濃度、
の、少なくとも一つを含み、
前記クライアント育成条件は、
前記クライアント収容容器への光の照射条件、
前記クライアント収容容器内部の育成水の温度条件、
前記クライアント収容容器内部の育成水の溶存酸素濃度、
前記クライアント収容容器内部の育成水のPH濃度、
前記クライアント収容容器内部の育成水の塩分濃度、
の、少なくとも一つを含む、請求項1から3のいずれか記載の水生生物の養殖装置。
【請求項5】
前記光の照射条件は、光の照射強度、照射量、照射時間、照射時間間隔および照射波長の少なくとも一つを含む、請求項4記載の水生生物の養殖装置。
【請求項6】
前記クライアント育成条件生成部は、前記マスター育成条件と同等となるように、前記クライアント育成条件を生成する、請求項1から5のいずれか記載の水生生物の養殖装置。
【請求項7】
前記クライアント育成条件生成部は、前記マスター育成条件に基づいて、前記マスター収容容器と前記クライアント収容容器との環境差分を加味して、前記クライアント育成条件を生成する、請求項1から5のいずれか記載の水生生物の養殖装置。
【請求項8】
前記マスター収容容器は、前記マスター育成条件を制御するマスター制御部を備え、
前記マスター制御部は、前記マスター収容容器内部の水生生物の育成に最適となるように、前記マスター育成条件を決定し、
前記送信部は、前記マスター制御部で制御された結果である前記マスター育成条件を、前記記憶部に送信する、請求項1から7のいずれか記載の水生生物の養殖装置。
【請求項9】
前記マスター制御部は、時間帯、水生生物の個体数、水生生物の収容率、水生生物の種類、水生生物の育成段階、前記マスター収容容器の容量および前記マスター収容容器の外部環境の少なくとも一つに基づいて、前記マスター収容容器内部の水生生物の育成が最適となるように、前記マスター育成条件を制御する、請求項8記載の水生生物の養殖装置。
【請求項10】
前記クライアント収容容器は、前記クライアント育成条件に基づいて、前記クライアント収容容器での水生生物の育成を制御するクライアント制御部を備える、請求項1から9のいずれか記載の水生生物の養殖装置。
【請求項11】
前記クライアント収容容器が複数の場合には、前記複数のクライアント収容容器のそれぞれは、前記クライアント制御部を備え、
前記複数のクライアント制御部のそれぞれは、同等ないしは前記クライアント収容容器のそれぞれに対応した異なる前記クライアント育成条件に基づいて、前記複数のクライアント収容容器のそれぞれでの水生生物の育成を制御する、請求項10記載の水生生物の養殖装置。
【請求項12】
前記記憶部は、前記送信部から送信される前記マスター育成条件の記憶を蓄積し、
前記クライアント育成条件生成部は、前記蓄積された前記マスター育成条件に基づく前記クライアント育成条件の生成を調整する、請求項1から11のいずれか記載の水生生物の養殖装置。
【請求項13】
前記クライアント育成条件生成部は、前記クライアント収容容器と前記マスター収容容器との、時間帯、水生生物の個体数、水生生物の収容率、水生生物の種類、水生生物の育成段階、前記マスター収容容器の容量および前記マスター収容容器の外部環境の少なくとも一つの差分に基づいて、前記マスター育成条件と前記クライアント育成条件との差分を作り、当該差分により、前記クライアント育成条件を生成する、請求項1から12のいずれか記載の水生生物の養殖装置。
【請求項14】
前記水生生物は、近海魚を含み、
前記近海魚は、キス類(シロギスなど)、アジ類、イワシ類、イカ類(アオリイカなど)、ベラ類(キュウセンなど)、ハタ類(キジハタなど)、メバル、アナゴ、ハゼ、カワハギ類、オコゼ、舌平目、カニ類の少なくとも一つを含む、請求項1から13のいずれか記載の水生生物の養殖装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類などを含む水生生物養殖装置であって、複数の場所に分散した状態でも、適切な養殖を行える水生生物の養殖装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の世界的な人口増加、中流層の増加、途上国の経済成長、魚介物を食す嗜好の向上などが相まって、世界的に魚介類の消費が増加している。また、魚介類を収穫する方法(漁業方法)の技術開発や、流通技術開発などが相まって、魚介類の収穫量も増加している。
【0003】
このように、魚介類などの水産資源の需要の増加、およびこれに対応する供給能力の増加が同時並行的に進んでいる。この同時並行的な増加により、水産資源の減少や、場合によっては枯渇が懸念されている。特に、過去においては魚介類の食文化の少なかった新興国においても魚介類を食す文化が発達して、多くの国で魚介類の需要が上がっている側面もある。これに人口増加や経済成長も加わって、全世界的に水産資源の減少や枯渇が進んでいる。
【0004】
需要の増加とこれに伴う供給増加以外にも、地球温暖化による海水温の上昇や環境悪化に伴って、水産資源の減少が進んでいる。このため、漁獲量以上に、水産資源が減少していたり枯渇に近づいていたりする実情がある。
【0005】
実際に、魚種によっては、世界的な枠組みで漁獲量に制限を行う方向もある。各国において割り当てられる漁獲量は、各国の需要希望を満たすレベルになく、歴史的に水産資源を多く消費してきた日本においては、自国の需要希望を満たすことが供給として難しくなってきている。
【0006】
また、漁獲制限や漁獲割り当てでは、国力によって変動しうる。近年の日本は、経済力の相対的低下などの国力低下によって、漁獲割り当てでは十分な需要希望を満たせない結果になっていることも多い。加えて、従来では魚介類を食べる文化が低かった国でも嗜好が変化して、魚介類を食すことが多くなってきている。これらの結果、漁獲制限に対して漁獲割り当てを希望する国や地域が増加している。この点でも、日本における需要に見合う漁獲量を得ることが難しくなっている。
【0007】
もちろん、漁獲割り当ての管理がなされていない種類の魚介類でも、漁獲能力の違いや市場での調達力などによって、日本が需要を満たす水産資源の確保が難しくなっている状況がある。
【0008】
このように、世界全体での水産資源の減少や枯渇の問題というマクロの問題と、世界の中の相対的な位置において、日本が需要を満たす水産資源の確保が難しくなっているミクロの問題がある。また、このマクロの問題とミクロの問題は、魚種によっては、非常にシビアな状況となっている。魚種によっては、天然での漁獲が非常に厳しくなっているものもある。
【0009】
このような状況においては、天然の魚介類を収穫することから、養殖、蓄養といった水産資源の育成を行うことが求められるようになっている。養殖や蓄養によって、安定的に水産資源を確保すると共に需要を満たすためである。また、天然の水産資源の枯渇を防止して、循環可能な水産ビジネスを作り上げることも目指されている。
【0010】
養殖や蓄養に関する技術が提案されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009-284828号公報
【特許文献2】特開2016-77267号公報
【特許文献3】特開2006-204235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1は、採卵・受精後の孵化期,養魚期,飼育期を経て河川に放流前の稚魚を生産する回帰魚の稚魚生産方法であって、孵化期,養魚期,飼育期の一部又は全てで使用する生産水に、任意に設定できる1日相当周期の温度変化を付与することを特徴とする回帰魚の稚魚生産方法を開示する。
【0013】
特許文献1では、既に稚魚となって育成されている生産方法に関するものであり、産卵された卵の孵化などに適用できる技術ではない。
【0014】
特許文献2は、マグロの稚魚を未成魚になるまで飼育する未成魚飼育槽を備えた陸上飼育装置であって、前記未成魚飼育槽は、稚魚を飼育する稚魚飼育槽での飼育を終えた稚魚を前記稚魚飼育槽から水流によって未成魚飼育槽に受け入れるための第1 配管を有することを特徴とするマグロの陸上飼育装置を開示する。
【0015】
特許文献2は、マグロの稚魚から未成魚になるための飼育装置に関わり、近海魚の卵の孵化に適用できない。また、孵化に対する技術や示唆を与えるものではなく、近海魚の卵の孵化や育成に係るものではない。
【0016】
特許文献3は、隔膜2で仕切られた陽極室3と陰極室4とを備え、飼育水槽1から供給される海水Sを電気分解する電解槽5。陽極室3から海水Sが供給される曝気槽8。水面より上の空間部14が曝気槽8の水面より上の空間部15と連通され、水Wが貯溜あるいは通水されている塩素溶解槽10。塩素溶解槽10の空間部14の空気を曝気槽8の海水S中及び塩素溶解槽10の水W中に噴出して曝気する散気装置16。曝気槽8から供給される海水S中に残留する活性塩素を炭化剤6で中和する中和槽7。陰極室4から供給される海水Sと中和槽7から供給される海水Sを混合して飼育水槽1に返送する混合槽9。これらを備えて形成されるpH調整装置100を具備する。海水Sの電気分解で、海水SのpH調整を行なうことができる閉鎖式循環養殖システムを開示する。
【0017】
特許文献3は、電気分解を用いて、海水のPH調整を行うことを開示している。しかしながら、特許文献3の技術は、水質浄化を実現することを開示していない。
【0018】
仮に、電気分解を水質浄化に用いるとしても、水質浄化は不十分である問題がある。上述したように、水生生物を保管する容器内部の水質悪化の主原因は、排泄などによるアンモニアである。電気分解では、このアンモニアを分解するために、次亜塩素酸を必要とする。しかしながらこの次亜塩素酸そのものも、収容容器に戻されると、水生生物に悪影響を与える。電気分解による水質浄化は、収容容器の水を電気分解に取り込んで、分解後の水を収容容器に循環させるからである。
【0019】
この循環によって、次亜塩素酸が収容容器に還流されることは、水生生物への悪影響をもたらす点で好ましくない。
特許文献1~3から分かるように、水生生物の養殖において、適切な養殖を実現する技術が不十分である問題がある。例えば、海に作られた大型施設で、一定の稚魚から親魚にするまで、マグロやブリを養殖するのであれば、施設の大型化で対応可能である。また、海洋と同じ環境であるので、養殖における水質管理などでのデリケートな制御は少なくて済む。
【0020】
これに対して、近海魚や小型魚は、海洋生簀以外の陸上施設で養殖されることが多い。海洋では、潮位変化や波などの影響が大きく、作業の困難性に加えて、近海魚や小型魚が成長していくのに好ましくないことがあるからである。勿論、中型魚や大型魚の種苗や稚魚の育成においても同様である。
【0021】
このような近海魚や小型魚、あるいは種苗や稚魚の育成を含む養殖では、デリケートな水質管理が求められる。また、海洋生簀のような外的影響を受けやすい場所での養殖より、地上の施設に設置された養殖装置での養殖の方が好ましい。
【0022】
また、一つの大型の収容容器で大量の水生生物を養殖するよりも、小型あるいは中型の収容容器で一定数に制限された水生生物を養殖することが好ましい。種苗や稚魚の育成や、これらから成魚への育成では、デリケートな環境が必要だからである。また、数が多すぎると、共喰いや争いなどで水生生物が傷つく問題もあるからである。
【0023】
このような地上の施設での養殖であるので、一つの施設で養殖できる水生生物の量に限界がある。コストの問題などもあり、地上施設の大型化には限界があるからである。
【0024】
また、食用魚介類においては、新鮮さや輸送コスト(環境負荷軽減の視点もあるので)の観点から、地産地消が求められることもある。あるいは、既に各地に存在する養殖施設を再活用することもあり得る。例えば、各地に設置済みの養殖施設があり、これらのいくつかが活用されていない場合がある。これらを再活用することで、養殖量の拡大や初期コストを抑えた各地域での養殖事業の実行などが考えられる。
【0025】
従来技術は、このようなことも考慮されているものではなかった。
【0026】
すなわち、従来技術では、(1)水生生物の養殖において、生育に適切な水質管理を行うこと、(2)複数の養殖施設全体での均一性の高い養殖を実行すること、ができていない問題があった。
【0027】
本発明は、これらの課題に鑑み、異なる場所に設置される複数の収容容器を連動させて最適な条件での養殖管理を行える、水生生物の養殖装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題に鑑み、本発明の水生生物の養殖装置は、異なる場所に設置される複数の収容容器での水生生物の育成を制御する水生生物の養殖装置であって、
複数の収容容器は、マスター収容容器と該マスター収容容器以外のクライアント収容容器を含み、
マスター収容容器での水生生物の育成条件であるマスター育成条件を記憶部に送信する送信部と、
記憶部に記憶されるマスター育成条件に基づいて、クライアント収容容器での水生生物の育成条件であるクライアント育成条件を生成するクライアント育成条件生成部と、
クライアント育成条件を、クライアント育成条件を、クライアント収容容器に出力する出力部と、を備え、
マスター収容容器での水生生物の育成条件と、クライアント収容容器での水生生物の育成条件とを連動させる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の水生生物の養殖装置は、最適な育成条件を把握するマスター収容容器と、クライアント収容容器での育成条件とを連動させることができる。この連動により、異なる場所に設置されている複数の収容容器での育成条件の均一化を実現できる。
【0030】
また、マスター収容容器で検出される最適な育成条件をクライアント収容容器でも適用できる。この適用により、異なる場所に設置されている複数の収容容器のそれぞれで、最適な育成条件での水生生物の養殖が実現できる。
【0031】
また、より適切な種類のパラメーターでの水質管理による育成条件が制御されるので、種苗、稚魚、近海魚、小型魚、中型魚などの養殖の難しい水生生物でも、適切に養殖できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施の形態1における水生生物の養殖装置のブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態1における養殖装置のブロック図である。
【
図3】本発明の実施の形態1におけるますたー収容容器の制御を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施の形態1におけるクライアント収容容器の制御を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施の形態1における養殖装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の第1の発明に係る水生生物の養殖装置は、異なる場所に設置される複数の収容容器での水生生物の育成を制御する水生生物の養殖装置であって、
複数の収容容器は、マスター収容容器と該マスター収容容器以外のクライアント収容容器を含み、
マスター収容容器での水生生物の育成条件であるマスター育成条件を記憶部に送信する送信部と、
記憶部に記憶されるマスター育成条件に基づいて、クライアント収容容器での水生生物の育成条件であるクライアント育成条件を生成するクライアント育成条件生成部と、
クライアント育成条件を、クライアント育成条件を、クライアント収容容器に出力する出力部と、を備え、
マスター収容容器での水生生物の育成条件と、クライアント収容容器での水生生物の育成条件とを連動させる。
【0034】
この構成により、実際の育成で実証されたマスター収容容器でのマスター育成条件に連動させて、クライアント収容容器での水生生物の育成ができる。結果として、クライアント収容容器でのクライアント育成条件を手作業あるいはその他の手段で作ったり監視したりなどの手間が削減でき、クライアント収容容器でも、マスター収容容器と同レベルの品質での育成ができる。また、育成における精度や均質性を高めることができる。トータルとしての人員、人的作業、作業工数などのコストを抑えつつ、全体での育成品質を高めることを両立できる。
【0035】
本発明の第2の発明に係る水生生物の養殖装置では、第1の発明に加えて、異なる場所は、同一施設内部での異なる場所および地理的に異なる場所の少なくとも一方を含み、
マスター収容容器とクライアント収容容器とは、異なる場所に設置されている。
【0036】
この構成により、地産地消に合わせた養殖や、地域にある養殖施設の活用を行った水生生物の養殖が実現できる。
【0037】
本発明の第3の発明に係る水生生物の養殖装置では、第1または第2の発明に加えて、記憶部は、送信部および出力部とネットワーク接続される仮想空間に備わる。
【0038】
この構成により、クラウドなどの仮想空間を活用できる。また、養殖装置全体のシステムを構築しやすくなる。
【0039】
本発明の第4の発明に係る水生生物の養殖装置では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、マスター収容容器およびクライアント収容容器のそれぞれは、水生生物と育成水を収容し、
マスター育成条件は、
マスター収容容器への光の照射条件、
マスター収容容器内部の育成水の温度条件、
マスター収容容器内部の育成水の溶存酸素濃度、
マスター収容容器内部の育成水のPH濃度、
マスター収容容器内部の育成水の塩分濃度、
の、少なくとも一つを含み、
クライアント育成条件は、
クライアント収容容器への光の照射条件、
クライアント収容容器内部の育成水の温度条件、
クライアント収容容器内部の育成水の溶存酸素濃度、
クライアント収容容器内部の育成水のPH濃度、
クライアント収容容器内部の育成水の塩分濃度、
の、少なくとも一つを含む。
【0040】
この構成により、水生生物の養殖における品質向上に必要な要素での育成が可能となる。結果として、育成での品質向上が図られる。
【0041】
本発明の第5の発明に係る水生生物の養殖装置では、第4の発明に加えて、光の照射条件は、光の照射強度、照射量、照射時間、照射時間間隔および照射波長の少なくとも一つを含む。
【0042】
この構成により、水生生物の養殖での品質向上を実現できる。
【0043】
本発明の第6の発明に係る水生生物の養殖装置では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、クライアント育成条件生成部は、マスター育成条件と同等となるように、クライアント育成条件を生成する。
【0044】
この構成により、クライアント収容容器での育成を、実地で確認されているマスター収容容器での育成条件に合わせることができる。これにより、クライアント収容容器では人的作業や細かな変更作業などを節減しつつ、水生生物の育成を図ることができる。
【0045】
本発明の第7の発明に係る水生生物の養殖装置では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、クライアント育成条件生成部は、マスター育成条件に基づいて、マスター収容容器とクライアント収容容器との環境差分を加味して、クライアント育成条件を生成する。
【0046】
この構成により、クライアント収容容器での環境に応じつつ、実績が確認されているマスター育成条件に基づいたクライアント育成条件により、最適な育成を行える。
【0047】
本発明の第8の発明に係る水生生物の養殖装置では、第1から第7のいずれかの発明に加えて、マスター収容容器は、マスター育成条件を制御するマスター制御部を備え、
マスター制御部は、マスター収容容器内部の水生生物の育成に最適となるように、マスター育成条件を決定し、
送信部は、マスター制御部で制御された結果であるマスター育成条件を、記憶部に送信する。
【0048】
この構成により、マスター収容容器で実際に育成を行う過程で最適と把握された育成条件がマスター育成条件とされる。これにより、マスター収容容器での育成品質向上だけでなく、連動するクライアント収容容器での育成品質向上も実現される。
【0049】
本発明の第9の発明に係る水生生物の養殖装置では、第8の発明に加えて、マスター制御部は、時間帯、水生生物の個体数、水生生物の収容率、水生生物の種類、水生生物の育成段階、マスター収容容器の容量およびマスター収容容器の外部環境の少なくとも一つに基づいて、マスター収容容器内部の水生生物の育成が最適となるように、マスター育成条件を制御する。
【0050】
この構成により、マスター収容容器での育成が適切となることを反映して、マスター育成条件が決定される。これにより、マスター収容容器およびクライアント収容容器でも、育成品質を向上させることができる。特に、実際の育成環境を反映した育成条件であることで、環境依存性も含めた育成品質の向上が実現できる。
【0051】
本発明の第10の発明に係る水生生物の養殖装置では、第1から第9のいずれかの発明に加えて、クライアント収容容器は、クライアント育成条件に基づいて、クライアント収容容器での水生生物の育成を制御するクライアント制御部を備える。
【0052】
この構成により、クライアント収容容器での水生生物の育成の自動化が図られる。この自動化の中でも、マスター収容容器で実際に確認されたマスター育成条件に基づいているので、クライアント収容容器での自動的な育成も実際の状況を反映できる。
【0053】
本発明の第11の発明に係る水生生物の養殖装置では、第10の発明に加えて、クライアント収容容器が複数の場合には、複数のクライアント収容容器のそれぞれは、クライアント制御部を備え、
複数のクライアント制御部のそれぞれは、同等ないしはクライアント収容容器のそれぞれに対応した異なるクライアント育成条件に基づいて、複数のクライアント収容容器のそれぞれでの水生生物の育成を制御する
【0054】
この構成により、クライアント収容容器のそれぞれの状況に細かく対応した育成が行える。
【0055】
本発明の第12の発明に係る水生生物の養殖装置では、第1から第11のいずれかの発明に加えて、記憶部は、送信部から送信されるマスター育成条件の記憶を蓄積し、
クライアント育成条件生成部は、蓄積されたマスター育成条件に基づくクライアント育成条件の生成を調整する。
【0056】
この構成により、マスター育成条件のレベルアップを図ることができる。結果として、クライアント育成条件のレベルアップも図ることができる。
【0057】
本発明の第13の発明に係る水生生物の養殖装置では、第1から第12のいずれかの発明に加えて、クライアント育成条件生成部は、クライアント収容容器とマスター収容容器との、時間帯、水生生物の個体数、水生生物の収容率、水生生物の種類、水生生物の育成段階、マスター収容容器の容量およびマスター収容容器の外部環境の少なくとも一つの差分に基づいて、マスター育成条件とクライアント育成条件との差分を作り、当該差分により、クライアント育成条件を生成する。
【0058】
この構成により、クライアント収容容器とマスター収容容器との差分を考慮した育成を実現できる。
【0059】
本発明の第14の発明に係る水生生物の養殖装置では、第1から第13のいずれかの発明に加えて、水生生物は、近海魚を含み、
近海魚は、キス類(シロギスなど)、アジ類、イワシ類、イカ類(アオリイカなど)、ベラ類(キュウセンなど)、ハタ類(キジハタなど)、メバル、アナゴ、ハゼ、カワハギ類、オコゼ、舌平目、カニ類の少なくとも一つを含む。
【0060】
この構成により、従来は大量の養殖が難しかった魚介類でも、複数の収容容器を活用した養殖を実現できる。
【0061】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0062】
(実施の形態1)
【0063】
(全体概要)
図1は、本発明の実施の形態1における水生生物の養殖装置のブロック図である。水生生物の養殖装置1は、種々の水生生物を育成・養殖する。魚介類などであり、食用を目的とする場合、学術的な繁殖を目的とする場合、観賞用の繁殖を目的とする場合など、様々な目的に使用されればよい。また、卵からの育成や養殖をする場合、稚魚などから育成や養殖をする場合など、様々なパターンに対応できる。
【0064】
水生生物の養殖装置(以下、必要に応じて「養殖装置」と略す)1は、異なる場所に設置される複数の収容容器での水生生物の育成を制御する。複数の収容容器は、マスター収容容器100とマスター収容容器100以外のクライアント収容容器200とを含む。
図1では、一つのマスター収容容器100と複数のクライアント収容容器200が示されている。
図1では、図示の見やすさの都合上、3つのクライアント収容容器200が示されているが、これ以外の数であってもよい。
【0065】
マスター収容容器100は、養殖装置1全体でのマスターに該当する。クライアント収容容器200は、マスター収容容器100での育成条件に基づいた育成を行う下層に位置するクライアントに該当する。すなわち、養殖装置1は、マスター収容容器100で得られる(あるいは設定される)育成条件であるマスター育成条件を全体の軸とする。この全体の軸であるマスター育成条件を踏まえて、クライアント収容容器200での育成条件であるクライアント育成条件が生成される。このクライアント育成条件によりクライアント収容容器200で水生生物の育成が行われる。
【0066】
すなわち、複数の収容容器の全てで、個別に育成条件を探し出したり決定したり設定したりといった手間をかけずに、一つのマスター収容容器100でのマスター育成条件に連動させて、クライアント収容容器200での育成を連動させることができる。
【0067】
この連動により、手間を削減できる。勿論、収容容器毎に育成がばらつくような品質低下を防止することもできる。養殖装置1は、マスター収容容器100とクライアント収容容器200とが連動して、均一性や高品質を維持する水生生物の育成を可能とする。
【0068】
養殖装置1は、送信部3,クライアント育成条件生成部6、出力部7を備える。また、送信部3がマスター育成条件を送信する先である記憶部2を備える。記憶部2は、養殖装置1の内部要素であってもよいし外部要素であってもよい。外部要素である場合には、マスター育成条件がクライアント育成条件の生成のために用いられるのに合わせて、記憶部2で記憶されている状態が作られている。
【0069】
送信部3は、マスター収容容器100水生生物の育成条件であるマスター育成条件を記憶部2に送信する。記憶部2は、この送信されたマスター育成条件を記憶する。記憶部2は、送信部3による送信の都度で記憶してもよいし、送信結果を記憶しておくことでもよい。あるいは、記憶部2と同じ役割は、クライアント育成条件生成部6に備わっていてもよい。
【0070】
記憶部2に記憶されているマスター育成条件は、クライアント育成条件生成部6によって読み出される。クライアント育成条件生成部6は、マスター育成条件に基づいて、クライアント収容容器200での水生生物の育成条件であるクライアント育成条件を生成する。クライアント育成条件が、マスター育成条件に基づくことで、クライアント収容容器200での育成がマスター収容容器100での育成に連動できる。
【0071】
魚種が同じであるとか、育成ステージが似ている場合などは、クライアント収容容器200でのクライアント育成条件がマスター育成条件に連動することで、クライアント収容容器200での水生生物の育成精度が高まる。マスター育成条件は、マスター収容容器100での水生生物の育成に適していることで得られた育成条件である。
【0072】
クライアント育成条件生成部6は、この適した育成条件であるマスター育成条件に基づいてクライアント育成条件を生成する。すなわち、クライアント収容容器200での水生生物の育成にも適している育成条件が生成される。このような連動性により、マスター収容容器100で適切な育成が行われていれば、クライアント収容容器200でも適切な育成が行われる。
【0073】
出力部7は、生成されたクライアント育成条件をクライアント収容容器200に出力する。この出力されたクライアント育成条件により、クライアント収容容器200での水生生物の育成がなされる。これにより、マスター収容容器100での育成が適切であることに連動して、クライアント収容容器200での育成も適切になる。
【0074】
連動による適切化が図られることで、複数の収容容器での育成精度が向上する。また、均一性なども図られる。加えて、マスター収容容器100での最適な育成条件であるマスター育成条件を整理することができれば、複数の収容容器全体を、最適な育成条件でカバーすることができる。個々の手間を省くことができる。
【0075】
このように、養殖装置1は、マスター収容容器100での水生生物の育成条件と、クライアント収容容器200での水生生物の育成条件を連動させることができる。この連動により、複数の収容容器全体での育成精度や均質性を上げることができる。
【0076】
育成条件の連動とは、同等(同一あるいは意味合いやレベルとして同等である)でもよいし、後述するように、クライアント育成条件がマスター育成条件と差分を持つことでもよい。ただ、いずれの場合でも、適切として把握されたマスター育成条件に基づいたクライアント育成条件でクライアント収容容器200でも育成されるので、クライアント収容容器200でも適切な育成が行われる。
【0077】
逆に、マスター収容容器100で育成が不調だった場合に、この不調となった育成条件をマスター育成条件とすることもよい。この場合には、不適なマスター育成条件に基づいたクライアント育成条件が生成される。この不適なクライアント育成条件でのクライアント収容容器200での育成が行われる。これにより、育成不調の原因となった育成条件を再現して確認・改良することもできる。
【0078】
複数の収容容器は異なる場所に設置される。すなわち、マスター収容容器100とクライアント収容容器200とは、異なる場所に設置されている。クライアント収容容器200が複数である場合には、複数のクライアント収容容器200のそれぞれが、異なる場所に設置されていてもよい。
【0079】
この異なる場所は、同一施設内部での異なる場所および地理的に異なる場所の少なくとも一方を含む。マスター収容容器100とクライアント収容容器200とは、異なる場所や地域に設置されている。また、
図2のように、複数のクライアント収容容器200のそれぞれは、異なる地域に設置されていてもよい。
【0080】
図2は、本発明の実施の形態1における養殖装置のブロック図である。
図2に示されるように、複数のクライアント収容容器200は、地域A、地域B、地域Cのそれぞれに設置されている。地産地消や育成対象の水生生物の卵の収穫地域などの違いなどに併せて、複数の場所で養殖を行いたいことがある。
【0081】
このような場合には、異なる地域にクライアント収容容器200が設置されることがある。
図2は、このような状態を示している。異なる地域にクライアント収容容器200が設置されている場合に、それぞれで育成条件を検討したり解析したり決定したりする作業は手間である。
【0082】
図2のように、マスター収容容器100において最適な育成条件が見つかれば、これをマスター育成条件としてクライアント育成条件生成部6に渡すことができる。これにより、ばらばらの地域にクライアント収容容器200が備わっている場合でも、マスター収容容器100で実証された最適な育成条件を反映して(連動して)、最適な育成が行われる。
【0083】
記憶部2は、
図2のように送信部3および出力部7とネットワーク接続される仮想空間に備わることでもよい。例えば、クラウド空間に記憶部2が備わって、マスター育成条件が記憶される。
【0084】
次に、各部の詳細などについて説明する。
【0085】
(マスター収容容器)
マスター収容容器100は、複数の収容容器の中で、水生生物の育成条件を様々に設定しながら、最適な育成条件を探り決定するのに用いられる。全体のマスターの立場になる。種々の作業や解析あるいは経験則などを用いて、最適な育成条件を、マスター収容容器100において探る。これが、マスター育成条件として取り出される。
【0086】
マスター収容容器100においてマスター育成条件が生成される。これが、養殖装置1での複数の収容容器全体の育成の精度向上や均質性の軸となる。
【0087】
(クライアント収容容器)
クライアント収容容器200は、マスター収容容器100にぶら下がる他の収容容器である。クライアント収容容器200は、マスター収容容器100での育成に連動しながら水生生物を育成する。この連動により、養殖装置1全体での育成の精度や均質性の向上を実現できる。
【0088】
また、物理的あるいは地理的に分散して設置されている複数のクライアント収容容器200のそれぞれでの育成条件の手作業などを通じた検出や探索などの手間が削減できる。
【0089】
クライアント収容容器200がマスター収容容器100の育成に連動することで、より幅広くまたより多くの水生生物の養殖を実現できる。
【0090】
(マスター育成条件とクライアント育成条件)
マスター収容容器100およびクライアント収容容器200のそれぞれは、育成対象となる水生生物を収容する。食用魚介類や、観賞用魚介類、あるいは学術的に繁殖を行いたい魚介類などである。
【0091】
一例として近海魚を含む。陸上施設などでの養殖に適しており、また必要とされるからである。近海魚は、キス類(シロギスなど)、アジ類、イワシ類、イカ類(アオリイカなど)、ベラ類(キュウセンなど)、ハタ類(キジハタなど)、メバル、アナゴ、ハゼ、カワハギ類、オコゼ、舌平目、カニ類の少なくとも一つを含む。
【0092】
マスター収容容器100とクライアント収容容器200のそれぞれは、このような育成対象となる魚介類などを収容する。また、マスター収容容器100で得られるマスター育成条件にクライアント育成条件を連動させることで、離隔した複数の収容容器での育成の精度や均質性の向上を目的とする。このため、マスター収容容器100とクライアント収容容器200においては、同種の水生生物が収容されていることが好ましい。同種でなくても、同等の育成条件で育成される種類の水生生物が収容されていることが好ましい。
【0093】
マスター育成条件は、次の少なくとも一つを含む。
マスター収容容器への光の照射条件、
マスター収容容器内部の育成水の温度条件、
マスター収容容器内部の育成水の溶存酸素濃度、
マスター収容容器内部の育成水のPH濃度、
マスター収容容器内部の育成水の塩分濃度。
【0094】
クライアント育成条件は、次の少なくとも一つを含む。
クライアント収容容器への光の照射条件、
クライアント収容容器内部の育成水の温度条件、
クライアント収容容器内部の育成水の溶存酸素濃度、
クライアント収容容器内部の育成水のPH濃度、
クライアント収容容器内部の育成水の塩分濃度。
【0095】
マスター収容容器100においては、種々の方法で、これらの要素の少なくとも一つをマスター育成条件として決定される。例えば、マスター収容容器100の育成を制御するマスター制御部4が、これらの要素を含んでマスター育成条件を決定する。決定する際には、マスター収容容器100での水生生物の育成状況を確認しながら決定する。自動、手動あるいはこれらの混在により、決定されればよい。
【0096】
あるいは、これまでの経験則に基づいたマスター育成条件がマスター制御部4に組み込まれて置き、育成状況を見ながら上述した要素の少なくとも一つを調整しながら、全体としてのマスター育成条件が調整されて行けばよい。
【0097】
例えば、ある時間帯での光の照射条件や育成水の温度条件が調整され、この調整結果が含まれたマスター育成条件がマスター制御部4で生成される。育成をより促進させるために、ある時間帯での光の照射強度を上げるなどの調整が行われればよい。
【0098】
あるいは、マスター制御部4とは異なる要素(含まれる要素でもよい)が、このような手順でマスター育成条件を生成してもよい。送信部3は、このマスター育成条件を記憶部2に送信する。記憶部2を介して、調整などを経て決定されたマスター育成条件がクライアント育成条件生成部6に出力される。
【0099】
クライアント育成条件も、上述の通り、マスター育成条件と相関を持った要素を含むことが好ましい。同様の魚種のような水生生物を育成するからである。同様の水生生物の育成を連動して行うことを目的とするので、同様の要素を含むクライアント育成条件で水生生物を育成することが好ましいからである。
【0100】
クライアント育成条件生成部6は、マスター育成条件と同等となるように、クライアント育成条件を生成することが一つの手法である。連動性を直接的に高めて、マスター収容容器100でうまく育成できている状態を、クライアント収容容器にダイレクトに反映できるからである。
【0101】
すなわち、マスター育成条件が次の場合を例とする。
【0102】
マスター収容容器への光の照射条件:A
マスター収容容器内部の育成水の温度条件:B
マスター収容容器内部の育成水の溶存酸素濃度:C
マスター収容容器内部の育成水のPH濃度:D
マスター収容容器内部の育成水の塩分濃度:E
【0103】
この場合、クライアント育成条件生成部6は、このマスター育成条件に基づいて、次の通りのクライアント育成条件を生成する。
クライアント収容容器への光の照射条件:A‘
クライアント収容容器内部の育成水の温度条件:B‘
クライアント収容容器内部の育成水の溶存酸素濃度:C‘
クライアント収容容器内部の育成水のPH濃度:D‘
クライアント収容容器内部の育成水の塩分濃度:E‘
【0104】
このように同等となるようにクライアント育成条件が生成されることで、クライアント収容容器200での育成は、育成に適していることが確認されたマスター育成条件に連動して実行される。すなわち、育成の精度や均質性の向上が実現されやすくなる。
【0105】
勿論、クライアント収容容器200の設置環境、容積、収容している水生生物の個体数、水生生物の個体数密度などに基づいて、クライアント育成条件はマスター育成条件と差分をもって生成されてもよい。
【0106】
ここで、光の照射条件は、光の照射強度、照射量、照射時間、照射時間間隔および照射波長の少なくとも一つを含む。光の照射に関するこれらの要素は、水生生物の育成に大きくかかわるからである。
【0107】
また、温度条件は、温度の数値あるいは変化量などを含む。あるいは変化曲線を含む。温度の絶対値の設定や温度変化によって、育成の良しあしに影響があるからである。
【0108】
溶存酸素濃度、PH濃度、塩分濃度も、濃度の絶対値(数値)であってもよいし、変化量や変化曲線などであってもよい。これらも、絶対値だけでなく変化によって水生生物の育成に影響を与える要素だからである。
【0109】
また、ここで挙げたマスター育成条件およびクライアント育成条件の要素は一例であり、これら以外であってもよい。また、マスター育成条件などは、上述した要素の全てを含んでいてもよいし一部を含んでいてもよい。また、マスター育成条件に基づいて生成されるクライアント育成条件は、マスター育成条件の含む要素と完全対応してもよいし、一部のみが対応することでもよい。
【0110】
これらは、育成される水生生物の種類や育成環境、また育成に求めるクオリティなどに応じて定められればよい。
【0111】
(マスター収容容器での育成)
図3に示されるように、マスター収容容器100は、マスター育成条件を制御するマスター制御部4を備える。
図3は、本発明の実施の形態1におけるますたー収容容器の制御を示すブロック図である。マスター制御部4は、上述したような要素を含むマスター育成条件を調整しつつ決定する。決定したマスター育成条件に基づいて、マスター制御部4は、マスター収容容器100での水生生物の育成を行う。
【0112】
このとき、マスター制御部4は、マスター収容容器100の水生生物の育成に最適になるようにマスター育成条件を調整しつつ決定する。調整は、自動あるいは手動で行われる。実際の育成状態を見ながら、マスター育成条件に含まれる光照射などの要素を調整して決定される。
【0113】
マスター制御部4は、決定した(調整している途中も含む)マスター育成条件に基づいて、マスター収容容器100での水生生物の育成条件を制御する。一例として、
図3のように制御する。
【0114】
図3では、マスター収容容器100での育成に対応して、光照射部41,温度制御部42、酸素供給部43、PH制御部44、塩分制御部45を備えている。これらの各制御部は、マスター育成条件に含まれる要素条件に対応する制御を行う。例えば、光の照射条件に対応して、光照射部41は、マスター収容容器100に光を照射する。温度制御なども同様である。これらにより、マスター育成条件に従った育成が行われる。
【0115】
また、マスター制御部4は、育成状況を把握しながら光の照射条件などを調整する機能も有している。この機能により、最適となるマスター育成条件を調整してアップデートしていく。このアップデートされたマスター育成条件は、再びマスター収容容器100での育成に用いられる。併せて、送信部3を通じて記憶部2に送られる。随時、記憶部2に記憶されるマスター育成条件がアップデートされることで、これに基づくクライアント育成条件も、随時アップデートされる。
【0116】
随時のアップデートにより、クライアント収容容器200での育成の精度や均質性向上が実現される。
【0117】
また、マスター制御部4は、時間帯、水生生物の個体数、水生生物の収容率、水生生物の種類、水生生物の育成段階、マスター収容容器100の容量(容積)およびマスター収容容器100の外部環境の少なくとも一つに基づき、最適なマスター育成条件を制御・決定すればよい。
【0118】
これらの状況を考慮してマスター育成条件が調整されつつ決定されることで、より実際の育成に即したマスター育成条件が決定できる。すなわち、これに連動するクライアント育成条件も実際の育成に即したものとなる。
【0119】
(クライアント収容容器での育成)
クライアント収容容器200は、マスター収容容器100とは別の収容容器である。別の場所、別の地域など、距離の大小にかかわらず、離隔した場所に備わる。また、複数のクライアント収容容器200も、別の場所、別の地域など、距離の大小にかかわらず、離隔した場所に備わる。
【0120】
クライアント収容容器200は、
図4のようにクライアント制御部5を備える。
図4は、本発明の実施の形態1におけるクライアント収容容器の制御を示すブロック図である。クライアント制御部5は、クライアント育成条件に基づいて、クライアント収容容器200での水生生物の育成を制御する。
【0121】
クライアント育成条件は、クライアント育成条件生成部6により生成され、出力部6を通じてクライアント制御部5に出力される。クライアント制御部5は、マスター制御部4と同じように、クライアント育成条件に含まれる各要素に対応する制御を行う。
【0122】
図4に示されるように、光照射部51、温度制御部52,酸素供給部53、PH制御部54、塩分制御部55を備えている。これらが備わることで、クライアント育成条件の要素に対応して、照射する光の強度を制御したり、温度を制御したりする。クライアント育成条件は、最適な育成条件であるマスター育成条件に基づいている。
【0123】
すなわち、
図4のように、クライアント育成条件に対応して、光照射部51、温度制御部52,酸素供給部53、PH制御部54、塩分制御部55がそれぞれの要素を制御することで、クライアント収容容器200での水生生物の育成が適切となる。結果として、よりよい育成が行われる。
【0124】
このように、育成条件に加えて、これに対応する制御もマスター収容容器100に連動することで、離隔する複数の収容容器での水生生物の育成の精度や均質性が高まる。
【0125】
(クライアント育成条件生成部)
クライアント育成条件生成部6は、
図1のように、クライアント収容容器200のそれぞれに備わっていてもよい。この場合には、出力部7も、クライアント収容容器200のそれぞれに備わっていてもよい。
【0126】
あるいは、
図5のように、複数のクライアント収容容器200をまとめる形で一つのクライアント育成条件生成部6と出力部7が備わっていることもよい。
図5は、本発明の実施の形態1における養殖装置のブロック図である。
【0127】
複数のクライアント収容容器200に対して、一つのクライアント育成条件生成部6がクライアント育成条件を生成する。このまとめた対応により、全体の効率化を図ることができる。
【0128】
なお、複数のクライアント収容容器200の全てを一つのクライアント育成条件生成部6がまとめるだけでなく、一定数のクライアント収容容器200を一つのクライアント育成条件生成部6がまとめることでもよい。例えば同一地域に複数のクライアント収容容器200がある場合には、一つのクライアント育成条件生成部6が、これらを取りまとめるなどである。
【0129】
出力部7については、クライアント育成条件生成部6と対応してもよいし、別でもよい。
【0130】
また、一つのクライアント育成条件生成部6が複数のクライアント収容容器200をまとめる場合には、個々のクライアント収容容器200に応じた異なるクライアント育成条件を生成してもよい。
【0131】
以上のように、実施の形態1における水生生物の養殖装置1は、実際の養殖現場において育成精度を上げることで決定されたマスター育成条件を、クライアント収容容器200での育成に連動させる。この連動により、全体の養殖での精度や均質性を向上させて、養殖全体のレベルアップを図ることができる。
【0132】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2では、様々なバリエーションについて説明する。
【0133】
(マスター育成条件)
実施の形態1では、マスター育成条件は、マスター収容容器100での水生生物の育成が最適となる場合での育成条件を決定する。一方で、あえて、マスター収容容器100での水生生物の育成が好ましくないと判断される条件で、マスター育成条件が決定されることもあり得る。
【0134】
例えば、マスター収容容器100で水生生物の育成が好ましくないこととなることもある。この時の条件がマスター育成条件としてクライアント収容容器200での育成に反映されることで、実際に好ましくないことが実地で確認できる。マスター育成条件は、クライアント育成条件の生成の基礎となるからである。
【0135】
このようなマイナス面の実地での確認のために、マスター育成条件を敢えて最適以外の場合として決定して記憶部2に送信することも好適である。こうして、育成条件の問題点を確認・再現することもよい。
【0136】
(クライアント育成条件の生成)
【0137】
実施の形態1において説明したように、クライアント育成条件生成部6は、マスター育成条件に基づいて、クライアント育成条件を生成する。この時、マスター育成条件と一致するあるいは相関関係をもってクライアント育成条件を生成する。
【0138】
一方で、クライアント育成条件生成部6は、マスター収容容器100とクライアント収容容器200との環境差分を加味して、クライアント育成条件を生成してもよい。
【0139】
例えば、マスター収容容器100に比較して寒冷地にクライアント収容容器200がある場合には、クライアント育成条件での温度条件は、マスター育成条件での温度条件よりも高くすることもあり得る。このような環境差分に基づいて、マスター育成条件とは異なる設定でのクライアント育成条件が生成されることも好適である。
【0140】
もちろん、光照射やPH濃度などにおいても、クライアント育成条件を環境差分に併せて生成することもよい。
【0141】
このように、マスター育成条件と同等ではないクライアント育成条件が生成されることは、クライアント収容容器200での環境に適した育成につながるメリットがある。
【0142】
(クライアント制御部での制御)
クライアント収容容器200が複数である場合には、複数のクライアント収容容器200のそれぞれが、クライアント制御部5を備える。このクライアント制御部5には、出力部7からクライアント育成条件生成部6で生成されたクライアント育成条件が付与される。
【0143】
クライアント育成条件生成部6が、
図1のように複数のクライアント収容容器200のそれぞれに備わっている場合には、個々のクライアント育成条件がクライアント制御部5に出力される。このため、個々のクライアント育成条件が同等である場合には、それぞれのクライアント育成条件で育成を制御する。
【0144】
このとき、クライアント育成条件がクライアント収容容器200のそれぞれで同等である場合には、同等のクライアント育成条件で育成される。異なる場合には、異なるクライアント育成条件で育成される。すなわち、クライアント制御部5は、同等もしくは異なるクライアント育成条件で、水生生物の育成を制御する。
【0145】
クライアント収容容器200のそれぞれの環境条件などの違いに応じて、異なるクライアント育成条件で水生生物の育成が制御されることも好適である。例えば、あるクライアント収容容器200では、光の照射について他のクライアント収容容器200とは異なる条件でのクライアント育成条件が適用される。勿論、温度条件やPH濃度条件などが他のクライアント収容容器200とは異なるクライアント育成条件で、あるクライアント収容容器200での育成が制御されてもよい。
【0146】
クライアント育成条件生成部6は、クライアント収容容器200のそれぞれの環境条件などに対応してクライアント育成条件を生成できる。この個別状態を考慮したうえで、クライアント収容容器200に合わせたクライアント育成条件が生成される。勿論、マスター収容容器100での適切な育成により定まったマスター育成条件に基づいて、クライアント育成条件が生成されるので、クライアント育成条件は、育成に適した育成条件である。
【0147】
更に、クライアント収容容器200の環境条件も加味して得られるクライアント育成条件による制御である。このような個別対応した制御をクライアント制御部5が制御することで、マスター収容容器100で実証されていることに加えて、個別対応も含めた育成成魚がなされる。
【0148】
これにより、より詳細な制御が行われる。結果として、水生生物の育成の精度がさらに向上する。
【0149】
また、クライアント育成条件生成部6は、クライアント収容容器200とマスター収容容器100との、時間帯、水生生物の個体数、水生生物の収容率、水生生物の種類、水生生物の育成段階、マスター収容容器100の容量およびマスター収容容器100の外部環境の少なくとも一つの差分に基づいて、マスター育成条件とクライアント育成条件との差分を作り、当該差分により、クライアント育成条件を生成することも好適である。
【0150】
上述したことに関わるが、クライアント育成条件生成部6は、マスター収容容器100とクライアント収容容器200との種々の環境状態の差分を考慮して、クライアント育成条件を生成する。このようにして生成されたクライアント育成条件は、マスター収容容器100で育成に適していると確認されたマスター育成条件をベースとしつつ、クライアント収容容器200との種々の差分も考慮したものとなる。この結果、実績に環境差分が加味されたクライアント育成条件となり、クライアント収容容器200での水生生物の育成の精度がより高まるメリットがある。
【0151】
このような手法で生成されたクライアント育成条件で、クライアント制御部5は、クライアント収容容器200での水生生物の育成を制御する。この育成により、より育成での精度や品質向上が実現される。
【0152】
(記憶部での蓄積)
記憶部2は、送信部3から送信されるマスター育成条件の記憶を蓄積する。マスター制御部4は、状況に応じて、マスター育成条件をアップデートする。経験則や過去の実績から設定されたマスター育成条件で育成をスタートして、育成状況の変化やステージ進行に合わせて、マスター育成条件がアップデートされる。
【0153】
マスター制御部4でアップデートされたマスター育成条件は、送信部3によって記憶部2に送信される。この送信が繰り返されることで、記憶部2には、マスター育成条件が蓄積される。
【0154】
クライアント育成条件生成部6は、この蓄積されたマスター育成条件に基づいて、クライアント育成条件の生成を調整する。例えば、現時点より前のマスター育成条件からの変化を考慮して、クライアント育成条件にこの変化を反映させるなどを行なう。
【0155】
このような反映により、過去、現在、未来の状況を踏まえたクライアント育成条件が生成される。特に、実際に確認されたマスター育成条件をより反映したものとなる。よって、クライアント収容容器200での育成がより好ましくなる。
【0156】
特に、マスター収容容器100での育成では、作業者などが監視などをしており、この監視などに基づいて、マスター育成条件が調整される。この実際の監視などに基づいて調整されることで、マスター育成条件が決定される。つまり、マスター育成条件は、実際の育成の最適状態をより表したものである。このマスター育成条件を、クライアント育成条件の生成ベースにできることで、複数の収容容器のそれぞれでの水生生物の育成の精度や均質性が向上する。すなわち、品質向上につながる。
【0157】
また、記憶部2にマスター育成条件が次々と蓄積されることで、マスター育成条件そのものの精度を上げていくこともできる。経験値を含めた学習により、マスター育成条件をレベルアップできる。このレベルアップされたマスター育成条件が、記憶部2からクライアント育成条件生成部6に出力されることで、クライアント育成条件のレベルアップが図られる。
【0158】
もちろん、記憶部2からマスター制御部4にレベルアップされたマスター育成条件が出力されて、マスター収容容器100での育成もレベルアップすることもできる。
【0159】
特に、記憶部2での蓄積により、マスター育成条件の変化状態や過去の履歴からの学習機能が発揮されて、マスター育成条件のよりよいレベルの予測に基づいて、マスター育成条件が自動的にレベルアップすることもよい。
【0160】
以上のように、実施の形態2の養殖装置1では、より細かな制御での育成ができる。
【0161】
なお、実施の形態1~2で説明された水生生物の養殖装置は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0162】
1 水生生物の養殖装置
2 記憶部
3 送信部
4 マスター制御部
5 クライアント制御部
6 クライアント育成条件生成部
7 出力部
100 マスター収容容器
200 クライアント収容容器