IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ダイヘンの特許一覧

<>
  • 特開-溶接ロボットシステム 図1
  • 特開-溶接ロボットシステム 図2
  • 特開-溶接ロボットシステム 図3
  • 特開-溶接ロボットシステム 図4
  • 特開-溶接ロボットシステム 図5
  • 特開-溶接ロボットシステム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046500
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】溶接ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/127 20060101AFI20230329BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20230329BHJP
   B25J 9/22 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
B23K9/127 509B
B23K9/12 331K
B23K9/127 501A
B25J9/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155119
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】中川 慎一郎
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS11
3C707BS10
3C707KS03
3C707KS36
3C707LT17
(57)【要約】
【課題】溶接位置のうち、設置されている溶接ロボットによって適切に溶接できる溶接可能位置を把握可能な溶接ロボットシステムを提供することである。
【解決手段】溶接ロボットシステム100は、溶接対象及び溶接ロボットを含む画像を取得する画像取得部110と、画像に基づいて、溶接ロボットのロボット位置と溶接位置とを認識する位置認識部120と、ロボット位置及び溶接位置と、少なくとも溶接ロボットのアームの可動域とに基づいて、溶接位置のうち、当該溶接ロボットの溶接可能位置を判定する溶接可能位置判定部140と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接対象及び溶接ロボットを含む画像を取得する画像取得部と、
前記画像に基づいて、前記溶接ロボットのロボット位置と溶接位置とを認識する位置認識部と、
前記ロボット位置及び溶接位置と、少なくとも前記溶接ロボットのアームの可動域とに基づいて、前記溶接位置のうち、当該溶接ロボットの溶接可能位置を判定する溶接可能位置判定部と、を備える、
溶接ロボットシステム。
【請求項2】
前記位置認識部によって認識される溶接位置は、前記溶接ロボットのロボット位置から算出される当該溶接ロボットの最大到達範囲内における溶接位置である、
請求項1に記載の溶接ロボットシステム。
【請求項3】
前記溶接可能位置判定部は、前記溶接ロボットの溶接姿勢が維持された状態で、前記溶接位置に沿って移動可能となる溶接可能位置を判定する、
請求項1又は2に記載の溶接ロボットシステム。
【請求項4】
前記溶接ロボットのトーチの先端が前記溶接可能位置に対して所望の角度を有し、
前記所望の角度は、前記溶接可能位置における溶接箇所に応じて設定される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の溶接ロボットシステム。
【請求項5】
前記溶接ロボットのトーチの先端が前記溶接可能位置に対して所望の狙い位置に配置され、
前記所望の狙い位置は、前記溶接可能位置における溶接箇所に応じて設定される、
請求項1から4のいずれか一項に記載の溶接ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業界において、多くのロボットが普及している。当該ロボットは、例えば、電子部品及び機械部品の組み立て、溶接及び搬送等に用いられ、工場の生産ラインの効率化及び自動化が図られている。このようなロボットは、所望の動作をさせるためのプログラムを作成して、所謂教示データとして予め記憶させておく必要がある。当該教示データは、操作者がティーチングペンダントを用いて実際のロボットを操作することによって動作を記憶させて生成されたり、実際のロボットを動作させずに、シミュレータを用いたオフラインティーチングによって生成されたりする。
【0003】
操作者がティーチングペンダントを用いて実際にロボットを動作させながら教示データを作成するには、操作者のスキルへの依存度が大きく、長時間を要する場合がある。
【0004】
また、シミュレータを用いたオフラインティーチングによって教示データを作成する場合には、実際の環境との相違により、オフラインティーチングによって生成された教示データに基づいて実際にロボットを動作させると、ズレが生じてしまう場合がある。
【0005】
特許文献1では、溶接ロボットの動作教示に関する技術が開示されている。具体的には、特許文献1に開示されている溶接ロボット動作教示システムは、溶接箇所の画像を撮影する撮影部がマニピュレータに取り付けられており、当該撮影された画像に基づいて溶接箇所位置情報を生成する。そして、溶接箇所位置情報とマニピュレータ位置姿勢情報とに基づいて、溶接箇所の溶接に必要なマニピュレータの位置及び姿勢の軌跡を生成する。
【0006】
これにより、当該溶接ロボット動作教示システムは、実際の溶接時における動作と同じ動作を動作教示時に溶接ロボットに行わせる必要なく、溶接ロボットの動作教示を容易に行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-150930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示される溶接ロボット動作教示システムでは、撮影された画像に基づいて生成された溶接箇所位置情報と、マニピュレータ情報取得部によって取得されたマニピュレータ位置姿勢情報とに基づいて、溶接箇所の溶接に必要なマニピュレータの位置及び姿勢の軌跡である教示データを生成しているものの、溶接位置とマニピュレータの位置との関係において、本来溶接すべき溶接箇所のうち、当該マニピュレータによって溶接を完了することができるか否か等については考慮されていない。
【0009】
例えば、溶接すべき溶接箇所が広範囲に亘っていると、当該マニピュレータの位置からではトーチが届かずに、適切に溶接できない箇所が発生してしまう場合がある。
【0010】
そこで、本発明は、溶接位置のうち、設置されている溶接ロボットによって適切に溶接できる溶接可能位置を把握可能な溶接ロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る溶接ロボットシステムは、溶接対象及び溶接ロボットを含む画像を取得する画像取得部と、画像に基づいて、溶接ロボットのロボット位置と溶接位置とを認識する位置認識部と、ロボット位置及び溶接位置と、少なくとも溶接ロボットのアームの可動域とに基づいて、溶接位置のうち、当該溶接ロボットの溶接可能位置を判定する溶接可能位置判定部と、を備える。
【0012】
この態様によれば、位置認識部は、画像取得部によって取得された画像に基づいて溶接ロボットのロボット位置と溶接位置とを認識し、溶接可能位置判定部は、少なくとも溶接ロボットのアームの可動域に基づいて、溶接位置のうち、当該溶接ロボットの溶接可能位置を判定する。すなわち、溶接位置のうち、設置されている溶接ロボットによって適切に溶接できる溶接可能位置を把握することができる。
【0013】
上記態様において、位置認識部によって認識される溶接位置は、溶接ロボットのロボット位置から算出される当該溶接ロボットの最大到達範囲内における溶接位置であってもよい。
【0014】
この態様によれば、位置認識部は、溶接ロボットの最大到達範囲内において溶接位置を検出して認識するため、画像全体から溶接位置を検出して認識することに比べて、計算量を軽減することができ、処理速度の向上に繋がる。
【0015】
上記態様において、溶接可能位置判定部は、溶接ロボットの溶接姿勢が維持された状態で、溶接位置に沿って移動可能となる溶接可能位置を判定してもよい。
【0016】
この態様によれば、溶接可能位置判定部は、溶接ロボットの溶接姿勢が維持された状態で、溶接位置に沿って移動可能となる溶接可能位置を判定するため、設置されている溶接ロボットによって、より適切に溶接できる溶接可能位置を把握することができる。
【0017】
上記態様において、溶接ロボットのトーチの先端が溶接可能位置に対して所望の角度を有し、所望の角度は、溶接可能位置における溶接箇所に応じて設定されてもよい。
【0018】
この態様によれば、溶接ロボットのトーチの先端が溶接可能位置に対して所望の角度を有し、所望の角度は、溶接可能位置における溶接箇所に応じて設定されるため、設置されている溶接ロボットによって、溶接箇所に応じて、より適切に、溶接の仕上がり品質が良く溶接できる溶接可能位置を把握することができる。
【0019】
上記態様において、溶接ロボットのトーチの先端が溶接可能位置に対して所望の狙い位置に配置され、所望の狙い位置は、溶接可能位置における溶接箇所に応じて設定されてもよい。
【0020】
この態様によれば、溶接ロボットのトーチの先端が溶接可能位置に対して所望の狙い位置に配置され、所望の狙い位置は、溶接可能位置における溶接箇所に応じて設定されるため、設置されている溶接ロボットによって、溶接箇所に応じて、より適切に、溶接の仕上がり品質が良く溶接できる溶接可能位置を把握することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、溶接位置のうち、設置されている溶接ロボットによって適切に溶接できる溶接可能位置を把握可能な溶接ロボットシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る溶接ロボットシステム100の各機能を示す機能ブロック図である。
図2】溶接対象及び溶接ロボット10を含む画像と、当該画像に表示された溶接位置L1~L5及び3次元座標系とを示す図である。
図3】2つの平板の交線(接続箇所)である溶接線L1に沿って、トーチ11の姿勢が維持されながら移動する様子を示す図である。
図4】溶接ロボット10の設置位置に応じて、溶接位置(溶接線L1)におけるトーチ11の姿勢を示す図である。
図5】溶接線L1~L5のうち溶接ロボット10によって溶接可能な溶接可能位置が表示される様子を示す図である。
図6】溶接ロボットシステム100が実行する、溶接ロボットの溶接可能位置判定方法M100の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施形態は、あくまで、本発明を実施するための具体的な一例を挙げるものであって、本発明を限定的に解釈させるものではない。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する場合がある。
【0024】
<一実施形態>
[溶接ロボットシステムの構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る溶接ロボットシステム100の各機能を示す機能ブロック図である。図1に示されるように、溶接ロボットシステム100は、画像取得部110と、位置認識部120と、ロボット情報取得部130と、溶接可能位置判定部140と、溶接可能位置情報出力部150とを備える。なお、溶接ロボットシステム100は、例えば、溶接ロボットの動作を制御するロボットコントローラ、操作者が操作するタブレット等の端末機器、又はこれらを含む機器の組み合わせによって実現される。
【0025】
画像取得部110は、溶接対象及び溶接ロボットを含む画像を取得する。具体的には、画像取得部110は、実環境において、溶接ロボットによって溶接される溶接対象及び当該溶接ロボットが含まれるように撮像可能なカメラ等である。
【0026】
例えば、画像は、実環境において、操作者がカメラを用いて溶接対象及び溶接ロボットを含むように撮像したり、溶接対象及び溶接ロボットの周辺に設置されているカメラを用いて溶接対象及び溶接ロボットを含むように撮像されたりしても構わないし、予め溶接対象及び溶接ロボットを含むように撮像されて保存されている画像であっても構わない。なお、カメラは、溶接ロボットの動作を制御するロボットコントローラと連携するタブレット等に搭載されていても構わない。
【0027】
さらに、実環境においてカメラで撮像される範囲に、AR(Augmented Reality)マーカが含まれているとよい。撮像された画像において、当該ARマーカに基づくXYZ軸で示される3次元座標系を用いて、実環境における位置情報と整合させることができる。
【0028】
図2は、溶接対象及び溶接ロボット10を含む画像と、当該画像に表示された溶接位置L1~L5及び3次元座標系とを示す図である。図2(a)は、溶接対象及び溶接ロボット10が含まれるように撮像された画像であり、図2(b)は、当該画像において溶接位置(溶接箇所)となる溶接線L1~L5が表示されている。さらに、図2(b)では、上述したARマーカによって、当該ARマーカの位置を原点OとするXYZ軸で示される3次元座標系が形成されている。
【0029】
ここで、溶接線L1~L5は、例えば、画像処理によって、画像における2つの平板の交線(接続箇所)が溶接位置として判定され、当該画像において溶接線として表示されている。また、上述したカメラは、レーザを照射して対象物までの距離を計測する距離計測センサを含み、当該距離計測センサによって取得した点群データに基づいて、2つの平板の交線(接続箇所)が溶接位置として判定され、当該画像において溶接線として表示されるようにしても構わない。
【0030】
溶接ロボット10のロボット位置も同様に画像処理又は点群データに基づいて判定されても構わないし、溶接ロボット10のうちの一部を認識することによりロボット位置を判定されても構わない。例えば、溶接ロボットの識別情報や種別等を予め把握しておけば、画像に含まれる溶接ロボット10の一部を認識することにより当該溶接ロボット10全体を推測することができるため、当該溶接ロボット10のロボット位置及び可動範囲等を判定することができる。また、溶接ロボットの識別情報や種別等を把握していない場合であっても、複数の溶接ロボットの種別等を予め記録しておけば、画像に含まれる溶接ロボット10の一部を認識することにより、複数記録している溶接ロボットのうち、いずれの溶接ロボットであるかを推測し、当該溶接ロボット10のロボット位置及び可動範囲等を判定することができる。
【0031】
なお、画像取得部110によって取得された画像について、画像処理又は点群データに基づいて溶接位置及びロボット位置を判定する処理は、当該溶接ロボットシステム100によって実行されても構わないし、別システムによって実行されても構わない。別システムによって実行された場合、溶接ロボットシステム100は、溶接位置及びロボット位置が表示された画像を取得すればよい。また、これらに限定されるものではなく、画像において、溶接位置及びロボット位置を認識できれば、その他の手段を用いても構わない。
【0032】
このように、位置認識部120は、画像取得部110によって取得された画像に基づいて溶接位置及びロボット位置を認識する。具体的には、位置認識部120は、画像に表示された溶接線L1~L5及び溶接ロボット10のロボット位置を認識し、さらに、当該溶接線L1~L5及び溶接ロボット10のロボット位置について、原点OとするXYZ軸で示される3次元座標系での位置情報として認識しても構わない。
【0033】
また、位置認識部120は、上述した画像処理又は点群データに基づいて、予め溶接位置及びロボット位置が表示されている画像から溶接線L1~L5及びロボット位置を認識しても構わないし、画像取得部110によって取得された画像について、自ら上述した画像処理又は点群データに基づいて溶接位置及びロボット位置を判定する機能を含んでいても構わない。
【0034】
ロボット情報取得部130は、当該溶接に用いられる溶接ロボット10のロボット情報を取得する。具体的には、ロボット情報には、溶接ロボット10の識別情報、種別、性能、アーム情報、軸情報、関節情報、可動域(アーム、軸、トーチ、関節の伸縮範囲、回転範囲、屈曲範囲等)及びトーチ情報(トーチ長、トーチ角度等)等の当該溶接ロボット10に関する種々の情報が含まれてもよい。なお、トーチ角度は、溶接トーチの形状がカーブ形状を有していれば、そのカーブの程度を示す角度情報を含んでもよいし、溶接トーチの形状が真っ直ぐであれば、当該真っ直ぐであることを示す情報等を含んでもよい。ロボット情報取得部130は、当該ロボット情報を、例えば、予め記録されているメモリから取得しても構わないし、当該溶接ロボット10から取得しても構わない。
【0035】
溶接可能位置判定部140は、位置認識部120によって認識されたロボット位置及び溶接位置と、ロボット情報取得部130によって取得されたロボット情報のうち、少なくとも溶接ロボット10のアームの可動域とに基づいて、溶接位置のうち当該溶接ロボット10のトーチの先端(溶接ワイヤ)が届く溶接可能位置を判定する。
【0036】
具体的には、溶接ロボット10は、アームを稼働させてトーチの先端を図2(b)に示された溶接線L1~L5に沿って移動させながらアーク溶接を行なおうとする。この際、溶接ロボット10のロボット位置から、溶接ロボット10のアームを伸縮させたり、関節を回転させたりすることによって、溶接ロボット10のトーチの先端が溶接線L1~L5のうち、どの範囲まで届くかを判定する。
【0037】
ここで、溶接ロボットに応じて、溶接ロボットのアームの可動域が異なることから、トーチの先端が届く範囲も異なり、溶接可能位置判定部140は、溶接ロボット10のアームの可動域に関する情報を含むロボット情報に基づいて、当該溶接ロボット10のトーチの先端が溶接線L1~L5のうち、どの範囲まで届くかを判定する。
【0038】
また、例えば、溶接ロボット10は、溶接線L1~L5に沿ってトーチを移動させながらアーク溶接を行なおうとするが、この際、トーチの先端を溶接線L1~L5に対して所望の角度で接触させるようにしたり、所望の狙い位置に配置させるようにしたりすることによって、溶接ロボット10の適切な溶接姿勢を維持させるとよい。
【0039】
溶接可能位置判定部140は、溶接線L1~L5のうち、トーチの先端を所望の角度で接触させることができる溶接箇所を溶接可能位置として判定し、トーチの先端を所望の角度で接触させられない溶接箇所を溶接可能位置として判定しなくてもよい。
【0040】
図3は、2つの平板の交線(接続箇所)である溶接線L1に沿って、トーチ11の姿勢が維持されながら移動する様子を示す図である。図3に示されるように、トーチ11の先端は溶接線L1に対して45度で接触し、当該トーチ11の姿勢が維持された状態で、当該溶接線L1に沿って移動している。ここでは、2つの平板によって形成される接続箇所の角度は90度であるため、トーチ11の先端は、当該接続箇所である溶接線L1に対して、その中角である45度で接触するようにしている。
【0041】
このように、溶接可能位置判定部140は、図2(b)で示された溶接線L1~L5のうち、トーチ11の先端を適切な角度(ここでは、45度)で接触させて、トーチ11の姿勢を維持した状態で移動させながらアーク溶接することができる溶接箇所を判定すればよい。トーチ11の先端を適切な角度で接触させて、トーチ11の姿勢を維持した状態で移動させながらアーク溶接すれば、溶接の仕上がり品質を向上させ、安定させることができる。
【0042】
なお、ここでは、溶接位置に対して、トーチ11の先端を45度で接触させているが、これに限定されるものではなく、溶接の仕上がり品質を確保できるのであれば、例えば、30度であっても構わないし、その他の角度であっても構わない。さらに、図3では、トーチ11は、溶接線L1に溶接を行う前進方向/後退方向に対して直交する姿勢を維持しているが、これに限定されるものではなく、例えば、前進方向又は後退方向に傾く姿勢(数度程度)を取る場合も考えられる。
【0043】
また、トーチ11の先端をどのような状態で溶接位置に接触させるかについては、例えば、溶接位置、方向、溶接対象の種類、形状、トーチの種類、及びワイヤの種類に応じて設定すればよく、さらには、溶接線や溶接箇所に応じて、溶接位置に対するトーチの先端の角度を設定しても構わない。
【0044】
このように、溶接可能位置判定部140は、ロボット位置及び溶接位置と、溶接ロボット10のアームの可動域に関する情報を含むロボット情報とに基づいて、溶接線L1~L5のうち、当該溶接ロボット10のトーチ11の先端が適切な角度で接触できる溶接可能位置を判定すればよい。
【0045】
図3では、トーチ11の先端を溶接線L1に対して所望の角度で接触させる様子を説明したが、トーチ11の先端を溶接線に対して所望の狙い位置に配置させることによって溶接ロボット10の適切な溶接姿勢を維持させる場合もある。すなわち、溶接可能位置判定部140は、溶接線L1~L5のうち、トーチの先端を所望の狙い位置に配置させることができる溶接箇所を溶接可能位置として判定し、トーチの先端を所望の狙い位置に配置させられない溶接箇所を溶接可能位置として判定しなくてもよい。ここで、所望の狙い位置とは、トーチの先端を溶接線に対して、例えば、上板狙いや下板狙い等が含まれる。具体的には、2つの平板の交線(接続箇所)に対して、上側又は下側に2mmの位置を狙って溶接を行う等である。
【0046】
さらに、溶接ロボット10の適切な溶接姿勢として、ワイヤの突き出し長等も考慮されても構わない。例えば、溶接線に沿ってトーチを移動させながらアーク溶接を行なおうとする際に、溶接可能位置判定部140は、溶接線L1~L5のうち、トーチの先端から突出させるワイヤの突き出し長について、所望の突き出し長を維持できる溶接箇所を溶接可能位置として判定し、所望の突き出し長を維持できない溶接箇所を溶接可能位置として判定しなくてもよい。
【0047】
なお、所望の狙い位置及び所望の突き出し長は、例えば、溶接位置、方向、溶接対象の種類、形状、トーチの種類、及びワイヤの種類に応じて設定すればよく、さらには、溶接線や溶接箇所に応じて設定しても構わない。
【0048】
図4は、溶接ロボット10のロボット位置に応じて、溶接位置(溶接線L1)におけるトーチ11の姿勢を示す図である。図4(a)では、溶接ロボット10のロボット位置は、溶接線L1に対して適切な距離を有するエリアA1であり、溶接ロボット10のアームの関節を調整することによってトーチ11の先端を溶接線L1に適切な角度で接触させることができる。この場合、溶接可能位置判定部140は、溶接線L1を溶接可能位置と判定すればよい。
【0049】
図4(b)では、溶接ロボット10のロボット位置は、溶接線L1に対して近距離であるエリアA2であり、溶接ロボット10のアームの関節を調整することによってトーチ11の先端を溶接線L1に接触させることができているものの、適切な角度で接触させることができない場合がある。この場合、溶接可能位置判定部140は、溶接線L1を溶接可能位置と判定しなくてもよい。
【0050】
図4(c)では、溶接ロボット10のロボット位置は、溶接線L1に対して遠距離であるエリアA3であり、溶接ロボット10のアームの関節を調整することによってトーチ11の先端を溶接線L1に接触させることができているものの、適切な角度で接触させることができない場合がある。この場合、溶接可能位置判定部140は、溶接線L1を溶接可能位置と判定しなくてもよい。
【0051】
このように、溶接ロボット10のロボット位置は、図4(a)~(c)のうち、図4(a)に示されたエリアA1であれば、溶接ロボット10のアームの関節を調整することによってトーチ11の先端を溶接線L1に適切な角度で接触させることができる。換言すれば、溶接ロボット10のロボット位置がトーチ11の先端を溶接線L1に適切な角度で接触させることができる図4(a)に示されたエリアA1であれば、溶接可能位置判定部140は、溶接線L1を溶接可能位置と判定すればよい。
【0052】
さらに、溶接可能位置判定部140は、溶接線L1及び溶接ロボット10のロボット位置(例えば、エリアA1~A3)について、原点OとするXYZ軸で示される3次元座標系での位置情報として認識しても構わない。
【0053】
また、このとき、溶接可能位置判定部140によって溶接可能位置と判定された溶接箇所について、当該溶接ロボット10のアームの関節を調整することによってトーチ11の先端を適切な角度で接触させて移動させながらアーク溶接を行う一連の処理手順を含む教示データを生成しても構わない。
【0054】
溶接可能位置情報出力部150は、溶接可能位置判定部140によって判定された溶接可能位置を出力する。
【0055】
図5は、溶接線L1~L5のうち溶接ロボット10によって溶接可能な溶接可能位置が表示される様子を示す図である。図5に示されるように、溶接可能位置情報出力部150は、画像取得部110によって取得された画像について、溶接可能位置として溶接線L11、L21、L31を重畳して、例えば、タブレット等の表示画面に表示している。これにより、操作者は、実環境において、溶接ロボット10がどの範囲まで適切に溶接可能であるかを把握することができる。
【0056】
[溶接ロボットの溶接可能位置判定方法]
次に、溶接ロボットシステム100が実行する、溶接ロボットの溶接可能位置を判定する方法について、具体的に詳しく説明する。
【0057】
図6は、溶接ロボットシステム100が実行する、溶接ロボットの溶接可能位置判定方法M100の手順を示すフローチャートである。図6に示されるように、溶接ロボットの溶接可能位置判定方法M100は、ステップS110~S150を含み、各ステップは、溶接ロボットシステム100に含まれるプロセッサによって実行される。
【0058】
ステップS110では、溶接対象及び溶接ロボットを含む画像を取得する(画像取得ステップ)。具体例としては、溶接ロボットシステム100における画像取得部110は、実環境において、ロボットコントローラ又はタブレットに搭載されるカメラを用いて、溶接対象及び溶接ロボットが含まれるように撮像された画像を取得する。
【0059】
ステップS120では、溶接ロボットシステム100は、ステップS110で取得された画像に基づいて、溶接ロボットのロボット位置と溶接位置と認識する(位置認識ステップ)。具体例としては、溶接ロボットシステム100における位置認識部120は、画像処理又は点群データに基づいて溶接位置及びロボット位置が判定され、当該溶接位置及びロボット位置を認識する。
【0060】
ここで、位置認識部120は、ステップS110で取得された画像全体からではなく、溶接ロボットのロボット位置から算出される当該溶接ロボットの最大到達範囲内から溶接位置を認識するようにしても構わない。具体例として、位置認識部120は、先ず、ステップS110で取得された画像に基づいて、溶接ロボットのロボット位置を認識し、当該溶接ロボットの最大到達範囲を判定する。そして、位置認識部120は、画像全体のうち、当該最大到達範囲において溶接位置を検出して認識する。これは、画像全体のうち、溶接ロボットのトーチが明らかに届かない範囲にまで、例えば、画像処理を施すことによって溶接位置を検出して認識する必要はなく、予め、処理の範囲を絞るためのものである。これにより、位置認識部140は、画像全体から溶接位置を検出して認識することに比べて、計算量を軽減することができ、処理速度の向上に繋がる。
【0061】
ステップS130では、溶接ロボットシステム100は、溶接に用いられる溶接ロボットのロボット情報を取得する(ロボット情報取得ステップ)。具体例としては、溶接ロボットシステム100におけるロボット情報取得部130は、溶接ロボットの識別情報、種別、性能、アーム情報、軸情報、関節情報、可動域(アーム、軸、トーチ、関節の伸縮範囲、回転範囲、屈曲範囲等)及びトーチ情報等の当該溶接ロボットに関する種々の情報を含むロボット情報を、例えば、予め記録されているメモリから取得したり、当該溶接ロボットから取得したりする。
【0062】
ステップS140では、溶接ロボットシステム100は、ステップS120で認識されたロボット位置及び溶接位置と、ステップS130で取得されたロボット情報のうち、少なくとも溶接ロボットのアームの可動域とに基づいて、当該溶接位置のうち、当該溶接ロボットのトーチが届く溶接可能位置を判定する(溶接可能位置判定ステップ)。具体例としては、溶接ロボットシステム100における溶接可能位置判定部140は、ロボット位置及び溶接位置と、少なくとも溶接ロボットのアームの可動域とに基づいて、当該溶接位置のうち、溶接ロボットのトーチの先端が適切な角度で接触しつつ、トーチの姿勢を維持した状態で移動できる溶接箇所を溶接可能位置として判定する。
【0063】
ステップS150では、溶接ロボットシステム100は、ステップS140で判定された溶接ロボットの溶接可能位置を出力する。具体例としては、溶接ロボットシステム100における溶接可能位置情報出力部150は、ステップS110で取得された画像に、ステップS140で判定された溶接ロボットの溶接可能位置を重畳して、タブレット等の表示画面に表示する。
【0064】
以上のように、本発明の一実施形態に係る溶接ロボットシステム100及び溶接ロボットの溶接可能位置判定方法M100によれば、位置認識部120は、画像取得部110によって取得された画像に基づいて溶接ロボット10のロボット位置と溶接線L1~L5とを認識する。溶接可能位置判定部140は、少なくとも溶接ロボット10のアームの可動域に基づいて、溶接線L1~L5のうち、当該溶接ロボット10のトーチ11の先端が所望の角度で接触して、当該トーチ11の姿勢を維持された状態で移動できる溶接可能位置を判定する。すなわち、溶接位置のうち、設置されている溶接ロボット10によって適切に溶接できる溶接可能位置を把握することができる。
【0065】
また、実際の溶接ロボット10を動作させずに、溶接ロボット10によって適切に溶接できる溶接可能位置を判定し、さらには、教示データを自動的に作成することができる。このとき、シミュレータを用いたオフラインティーチングとは異なり、実環境において撮像された画像に基づいて、ロボット位置及び溶接位置等を認識するため、実環境における位置情報と整合させることができるため、より適切な教示データを生成することができる。その結果、溶接の仕上がり品質を向上させ、安定させることができる。
【0066】
なお、本実施形態では、溶接可能位置判定部140は、溶接線L3のうち、その一部を溶接可能位置L31として判定し、その他は溶接可能位置として判定していないが、例えば、溶接線L3を1つの溶接範囲とする場合、溶接線L3全体を溶接可能位置として判定しないとしても構わない。
【0067】
また、本実施形態では、位置認識部120は、画像に表示された溶接線L1~L5を溶接位置として認識していたが、溶接位置は、2つの平板の交線で形成される溶接線に限定されるものではない。例えば、棒形状の部材と平板との接続箇所、及びその他種々の形状を有する部材の接続箇所等が溶接位置として表示されても構わない。
【0068】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0069】
10…溶接ロボット、11…トーチ、100…溶接ロボットシステム、110…画像取得部、120…位置認識部、130…ロボット情報取得部、140…溶接可能位置判定部、150…溶接可能位置情報出力部、O…原点、A1~A3…エリア(ロボット位置)、L1~L5,L11~L31…溶接位置(溶接線)、M100…溶接ロボットの溶接可能位置判定方法、S110~S150…溶接ロボットの溶接可能位置判定方法M100の各ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6