(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046532
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】水栓金具及び水栓金具の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/14 20060101AFI20230329BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
C23C14/14 D
C23C26/00 B
C23C14/14 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155168
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 菜樹沙
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩司
【テーマコード(参考)】
4K029
4K044
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029BA07
4K029BA26
4K029BB02
4K029CA03
4K029CA13
4K029DD06
4K029EA01
4K044AA06
4K044BA02
4K044BA06
4K044BB01
4K044BB03
4K044BC09
4K044CA13
4K044CA14
4K044CA71
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ニッケルめっき等の湿式めっきを行うことなく得られる外観のよい水栓金具、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】水栓金具10は、銅基合金からなる基材部11と、ドライプロセスによって、前記基材部11の表面11Aに直接成膜された皮膜部12と、を備えている。前記皮膜部12は、Cr:10%以上25%以下、Ni:4%以上10%以下、残部:Fe及び不可避的な成分からなる組成を有し、前記皮膜部12の膜厚が0.3μm以下である水栓金具10とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅基合金からなる基材部と、
ドライプロセスによって、前記基材部の表面に直接成膜された皮膜部と、を備える水栓金具。
【請求項2】
前記皮膜部は、
Cr:10%以上25%以下、
Ni:4%以上10%以下、
残部:Fe及び不可避的な成分からなる組成を有し、
前記皮膜部の膜厚が0.3μm以下である請求項1に記載の水栓金具。
【請求項3】
ドライプロセスによって、前記皮膜部の表面に直接成膜された外観皮膜部を備え、
前記外観皮膜部の主成分はCrであり、
前記外観皮膜部の膜厚が0.1μm以下である請求項2に記載の水栓金具。
【請求項4】
表面に現れる非溶融金属粒子の直径が0.1μm未満である請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の水栓金具。
【請求項5】
算術平均粗さRaが0.10μm以下である請求項4に記載の水栓金具。
【請求項6】
銅基合金からなる基材部を準備し、
ドライプロセスによって、前記基材部の表面に皮膜部を直接成膜する水栓金具の製造方法。
【請求項7】
ドライプロセスにおいて、前記皮膜部の材料と前記基材部との間に物理的な遮蔽物を配置し、前記皮膜部を成膜する請求項6に記載の水栓金具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水栓金具及び水栓金具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水栓金具の表面にニッケルめっきを施し、イオンプレーティング処理を行う水栓の表面処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ニッケルめっき等の湿式めっきを行うことなく、水栓装置の外観をよくする技術が求められている。
【0005】
本開示は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、湿式めっきを行うことなく、外観のよい水栓装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の水栓金具は、銅基合金からなる基材部と、ドライプロセスによって、前記基材部の表面に直接成膜された皮膜部と、を備える。
【0007】
本開示の水栓金具の製造方法は、銅基合金からなる基材部を準備し、ドライプロセスによって、前記基材部の表面に皮膜部を直接成膜する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る水栓装置の断面を示す概念図である。
【
図3】実施例のX線光電子分光スペクトル図である。
【
図4】実施例の電界放出形走査電子顕微鏡像を示す図である。
【
図5】比較例の電界放出形走査電子顕微鏡像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.水栓金具10
水栓金具10は、飲料用の水を供給する。水栓金具10は、一般的には、水を通す通水路を有している。水栓金具10の表面10Aは、水栓金具10の外観を構成する。
【0010】
図1に示すように、水栓金具10は、基材部11、皮膜部12、及び外観皮膜部13を備える。皮膜部12及び外観皮膜部13は、基材部11の表面11Aに、基材部11側からこの順に積層されている。水栓金具10の表面10Aは、外観皮膜部13によって構成されている。水栓金具10の通水路は、略全面に亘って基材部11が露出している。
【0011】
(1)基材部11
基材部11は、銅基合金からなる。基材部11の材料は、銅基合金であれば特に限定されない。基材部11の材料は、例えば、各種の黄銅及び青銅から選択できる。
【0012】
(2)皮膜部12
皮膜部12は、ドライプロセスによって、基材部11の表面11Aに直接成膜されている。ドライプロセスは、物理気相成長法(以下、PVD)及び化学気相成長法(以下、CVD)などから選択できる。ドライプロセスは、成膜速度や基材自由度などの観点から、PVDの1種であるイオンプレーティング法であることが好ましい。
【0013】
皮膜部12は、Cr:10%以上25%以下、Ni:4%以上10%以下、残部:Fe及び不可避的な成分からなる組成を有している。なお、Crはクロムである。Niはニッケルである。Feは鉄である。本開示において、各成分の割合(%)は、atm%、すなわち原子百分率を意味する。不可避的な成分としては、C及びOが挙げられる。Cは炭素である。Oは酸素である。Cの量は、2%以下であることが好ましい。Oの量は、6%以下であることが好ましい。上記組成を有する皮膜部12は、SUS304等のステンレス鋼からなる材料を用いて成膜できる。皮膜部12の組成は、例えば、材料の組成、及び、成膜時の雰囲気等の成膜条件を調整してコントロールできる。皮膜部12の組成の求め方は後に説明する。
【0014】
皮膜部12の膜厚は、0.3μm以下である。皮膜部12の膜厚の下限は特に限定されない。皮膜部12の膜厚は、0μmより大きければよく、耐食性の観点から、0.05μm以上であることが好ましい。皮膜部12の膜厚は、例えば、印加電圧、成膜時間等の成膜条件を調整してコントロールできる。皮膜部12の膜厚の求め方は後に説明する。
【0015】
(3)外観皮膜部13
外観皮膜部13は、ドライプロセスによって、皮膜部12の表面12Aに直接成膜されている。ドライプロセスについては、上記の皮膜部12についての説明を援用する。外観皮膜部13のドライプロセスは、皮膜部12のドライプロセスと異なってもよいが、製造装置を兼用する観点から、皮膜部12のドライプロセスと同じであることが好ましい。
【0016】
外観皮膜部13の主成分は、Crである。外観皮膜部13の主成分の特定方法は、後に説明する。X線光電子分光法による深さ方向分析において、外観皮膜部13におけるCrのピーク値は70%以上であることが好ましい。上記組成を有する外観皮膜部13は、Crからなる材料を用いて成膜できる。外観皮膜部13の組成は、例えば、材料の組成、及び、成膜時の雰囲気等の成膜条件を調整してコントロールできる。外観皮膜部13の組成の求め方は後に説明する。
【0017】
外観皮膜部13の膜厚は、0.1μm以下である。外観皮膜部13の膜厚の下限は特に限定されない。外観皮膜部13の膜厚は、0μmより大きければよく、外観をよくする点から、0.01μm以上であることが好ましい。外観皮膜部13の膜厚は、例えば、印加電圧、成膜時間等の成膜条件を調整してコントロールできる。外観皮膜部13の膜厚の求め方は後に説明する。
【0018】
(4)成分組成及び膜厚の測定法
皮膜部12及び外観皮膜部13の成分組成及び膜厚は、X線光電子分光法(以下、XPS)による深さ方向分析により測定する。
図3は、実施例のX線光電子分光スペクトル図である。横軸はスパッタリング時間を表し、縦軸は元素割合を表す。スパッタリング時間の単位は、「min」である。元素割合の単位は、「%」、すなわち「atm%」である。スパッタリング時間0minは、水栓金具10の表面10Aの位置に対応する。横軸のスパッタリング時間を深さに換算するには、スパッタリング速度を算出し、スパッタリング時間にスパッタリング速度を掛ければよい。
図3に示すX線光電子分光スペクトル図において、スパッタリング速度は20nm/minである。
【0019】
皮膜部12及び外観皮膜部13の膜厚は次のように算出する。外観皮膜部13において最大ピークを示すCrが水栓金具10の表面10Aから深さ方向に向かって増加し、最大となった時の値をXとし、Crが水栓金具10の表面10Aから深さ方向に向かって減少し、略一定になった時の値をYとする。
図3において、Crの元素割合Xは74.7%であり、Yは20.1%である。Crの元素割合が(X+Y)/2の値になった深さを、外観皮膜部13と皮膜部12との境界とする。外観皮膜部13の膜厚は、水栓金具10の表面10Aから、外観皮膜部13と皮膜部12との境界までの寸法として算出する。
【0020】
外観皮膜部13の主成分は、水栓金具10の表面10Aから、外観皮膜部13と皮膜部12との境界までの範囲において、最大ピークを示す成分として特定する。なお、外観皮膜部13の表面には、外観皮膜部13を成膜する上で、C成分及びO成分を含む物質が付着し得る。C成分及びO成分を含む物質を完全に除去することは困難であるため、外観皮膜部13の主成分を特定する際には、C成分及びO成分を考慮しない。
図3においては、C及びOのスペクトルを省略している。
【0021】
続いて、皮膜部12において最大ピークを示すFeの元素割合が水栓金具10の表面10Aから深さ方向に向かって増加し、最大となった時の値をVとし、Feの元素割合が水栓金具10の表面10Aから深さ方向に向かって減少し、略一定になった時の値をWとする。
図3において、Vは71.9%であり、Wは9.5%である。Feの元素割合が(V+W)/2の値になった深さを、皮膜部12と基材部11との境界とする。皮膜部12の膜厚は、外観皮膜部13と皮膜部12との境界から、皮膜部12と基材部11との境界までの寸法として算出する。
【0022】
皮膜部12の組成は、上記で求められた外観皮膜部13と皮膜部12との境界から、皮膜部12と基材部11との境界までの範囲において、観察された成分によって特定する。C及びOが観察された場合には、C及びOを不可避的な成分として特定する。各成分の割合は、上記の範囲内において、略一定になった時の元素割合の平均値として規定する。
【0023】
(5)水栓金具10の表面10A
水栓金具10の表面10Aに現れる非溶融金属粒子の直径は、0.1μm未満である。「非溶融金属粒子の直径が0.1μm未満である」とは、非溶融金属粒子の直径が0μmである場合、すなわち、水栓金具10の表面10Aに非溶融金属粒子が観察されない場合も含む。非溶融金属粒子とは、外観皮膜部13に存在する金属の粒子である。非溶融金属粒子は、ドロップレットとも称される。水栓金具10の表面10Aに現れる非溶融金属粒子の直径は、例えば、外観皮膜部13を成膜する際に、外観皮膜部13の材料と成膜対象物との間に物理的な遮蔽物6(
図2参照)を配置することで小さくできる。
【0024】
非溶融金属粒子の直径は、次のようにして計測する。水栓金具10の表面10Aを、電界放出形走査電子顕微鏡(以下、FE-SEM)を用いて、倍率1万倍で観察し、5μm×5μmの観察像を得る。
図4は、後述する実施例のFE-SEM像である。
図5は、後述する比較例のFE-SEM像である。
図5のFE-SEM像において、周囲とのコントラストの違いから、非溶融金属粒子の略円形状の外形が確認される。観察像を解析して、非溶融金属粒子の最大径を直径として計測する。5μm×5μmの観察像において、直径0.1μm以上の非溶融金属粒子が1つも存在しない場合に、非溶融金属粒子の直径が0.1μm未満であると規定する。
【0025】
水栓金具10の算術平均粗さRaは、0.10μm以下である。水栓金具10の算術平均粗さRaの下限値は、特に限定されず、0.00μmであってもよい。算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2013に準拠して測定される。
【0026】
水栓金具10の表面10Aは、明度L=70、色度a=-0.3、色度b=-1.0の基準色に対し、色差ΔE=4.0以下であることが好ましい。基準色は、NiCrめっきを施した一の水栓金具の色である。基準色に対する色差ΔEが上記の範囲内であることは、水栓金具10がNiCrめっきを施した水栓金具と同等の外観性を有することの一つの指標である。
【0027】
水栓金具10の写像性は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。水栓金具10の写像性の上限値は、特に限定されない。水栓金具10の写像性の上限値は、一般的には、99%以下である。本開示において、水栓金具10の写像性は、ウェーブスキャンDOI測定装置(BYK Gardner社製、Wave-Scan)により測定されるDOI値を意味する。
【0028】
上記の算術平均粗さRa、色差ΔE、及び写像性は、外観皮膜部13の材料、後述する遮蔽物6の有無等の成膜条件を適宜設定して、調整できる。
【0029】
2.水栓金具10の製造方法
水栓金具10の製造方法は、銅基合金からなる基材部11を準備し、ドライプロセスによって、基材部11の表面11Aに皮膜部12を直接成膜し、ドライプロセスによって、皮膜部12の表面12Aに外観皮膜部13を直接成膜する。すなわち、水栓金具10は、湿式めっきを行う工程を経ることなく製造できる。以下、基材部11を準備する工程を、準備工程ともいう。皮膜部12を直接成膜する工程を、第1成膜工程ともいう。外観皮膜部13を直接成膜する工程を、第2成膜工程ともいう。
【0030】
水栓金具10は、
図2に示すイオンプレーティング装置1を用いて製造できる。イオンプレーティング装置1は、チャンバ2、アーク式蒸発源3、支持台4、図示しないバイアス電源及びアーク電源、図示しない排気部及びガス供給部、及び遮蔽物6を備えている。
【0031】
準備工程は、支持台4に基材部11を配置する。
図2においては、水栓金具10の通水路等を省略して基材部11を概念的に描いている。準備工程後、チャンバ2を密閉して所定の真空度まで減圧する。
【0032】
第1成膜工程は、イオンプレーティング装置1を用いたイオンプレーティング法によって行う。具体的には、皮膜部12の材料であるターゲット8をアーク放電回路の陰極とし、アークにより皮膜部12の材料を蒸発させるとともにイオン化する。イオン化した皮膜部12の材料を、バイアス電圧の印加によって生じた電場にて加速して、基材部11の表面11Aに堆積させて皮膜部12を成膜する。印加電圧、成膜時間、反応ガス等の成膜条件は、皮膜部12の特性に応じて適宜設定する。
【0033】
ドライプロセスにおいて、ターゲット8と基材部11との間に物理的な遮蔽物6を配置し、皮膜部12を成膜する。遮蔽物6は、イオン化した皮膜部12の材料が、遮蔽物6を回り込んで基材部11に堆積するように設けられている。具体的には、遮蔽物6は、ターゲット8の蒸発面と略平行に配置された板状部材によって構成されている。遮蔽物6は、ターゲット8の蒸発面の少なくとも一部を覆うようにして配置されている。
【0034】
第2成膜工程は、外観皮膜部13の材料であるターゲットを用いて、第1成膜工程と同様にして行うことができる。詳細については、第1成膜工程についての説明を援用する。
【0035】
3.本実施形態の効果
水栓金具10は、銅基合金からなる基材部11と、ドライプロセスによって、基材部11の表面11Aに直接成膜された皮膜部12と、を備えている。この構成によれば、水栓金具10の耐食性を高くでき、水栓金具10の表面10Aの外観をよくできる。詳細には、皮膜部12がドライプロセスによって、基材部11の表面11Aに直接成膜されているから、皮膜部12の欠陥を低減でき、欠陥から基材部11が腐食することを抑制できる。
【0036】
本実施形態の皮膜部12は、Cr:10%以上25%以下、Ni:4%以上10%以下、残部:Fe及び不可避的な成分からなる組成を有している。皮膜部12の膜厚は0.3μm以下である。この構成によれば、水栓金具10の耐食性を高くでき、水栓金具10の表面10Aの外観をよくできる。詳細には、上記の組成及び膜厚の皮膜部12によれば、強固な酸化被膜を形成でき、皮膜部12及び基材部11の腐食を抑制できる。
【0037】
本実施形態の水栓金具10は、ドライプロセスによって、皮膜部12の表面12Aに直接成膜された外観皮膜部13を備える。外観皮膜部13の主成分はCrである。外観皮膜部13の膜厚は0.1μm以下である。この構成によれば、水栓金具10の外観をさらによくできる。具体的には、ドライプロセスによって成膜された外観皮膜部13は、表面が滑らかであり、また、従来のNiCrめっきと同等の金属光沢を有する外観が期待できる。
【0038】
本実施形態の水栓金具10は、表面10Aに現れる非溶融金属粒子の直径が0.1μm未満である。この構成によれば、皮膜部12が緻密となり、さらに耐食性及び外観性を高くできる。
【0039】
本実施形態の水栓金具10は、算術平均粗さRaが0.10μm以下である。この構成によれば、皮膜部12が緻密となり、さらに耐食性及び外観性を高くできる。
【0040】
本実施形態の水栓金具10の製造方法は、銅基合金からなる基材部11を準備し、ドライプロセスによって、基材部11の表面11Aに皮膜部12を直接成膜する。この構成によれば、湿式めっきを行う工程を経ることなく、外観のよい水栓金具10を製造できる。
【0041】
本実施形態の水栓金具10の製造方法は、ドライプロセスにおいて、皮膜部12の材料と基材部11との間に物理的な遮蔽物6を配置し、皮膜部12を成膜する。この構成によれば、表面10Aに現れる非溶融金属粒子を低減でき、外観のよい水栓金具10を製造できる。
【実施例0042】
以下、実施例により更に具体的に説明する。
1.実施例及び比較例の作製
銅基合金からなる基材部の表面に、イオンプレーティング法によって皮膜部を直接成膜した。皮膜部の材料には、SUS304を用いた。皮膜部の材料と基材部との間には、物理的な遮蔽物を配置した。続いて、皮膜部の表面に、イオンプレーティング法によって外観皮膜部を直接成膜した。外観皮膜部の材料には、Crを用いた。外観皮膜部の材料と皮膜部との間には、物理的な遮蔽物を配置した。以上のようにして、実施例のサンプルを作製した。
【0043】
比較例のサンプルは、遮蔽物を配置せずに2回のイオンプレーティング法を行った他は、実施例と同様にして作製した。
【0044】
2.XPSによる深さ方向分析
実施例のサンプルについて、XPSによる深さ方向分析を行った。深さ方向分析におけるスパッタリング速度は、20nm/minとした。C、O、Cr、Fe、Ni、Cu、及びZnの元素割合の合計を100%とした。得られたX線光電子分光スペクトル図を
図3に示す。X線光電子分光スペクトル図において、説明の便宜のためにC及びOのスペクトルは省略した。なお、Cの元素割合は、時間0minにおいて最大値46.5%を示した。Oの元素割合は、時間0minにおいて最大値35.9%を示した。X線光電子分光スペクトルに基づき、実施形態に記載の方法によって、皮膜部及び外観皮膜部の組成及び膜厚を測定した。
【0045】
3.FE-SEM観察
実施例及び比較例のサンプルの表面を、FE-SEMを用いて1万倍で観察した。実施例のFE-SEM像を
図4に示す。比較例のFE-SEM像を
図5に示す。実施形態に記載の方法によって、非溶融金属粒子の直径を計測した。
【0046】
4.算術平均粗さRa、色差ΔE、及び写像性の測定
実施例のサンプルの表面について、実施形態に記載の方法によって、算術平均粗さRa、色差ΔE、及び写像性を測定した。
【0047】
5.結果
実施例のサンプルの結果は次のとおりである。皮膜部は、Cr:20.6%、Ni:4.8%、残部:Fe,C,Oからなる組成を有していた。皮膜部の膜厚は、0.3μmであった。外観皮膜部の主成分はCrであった。Crのピーク値は、74.7%であった。皮膜部の膜厚は、0.05μmであった。表面に現れる非溶融金属粒子の直径は0.1μm未満であった。算術平均粗さRaは、0.01μmであった。明度L=70、色度a=-0.3、色度b=-1.0の基準色に対する色差ΔEは、4.0であった。写像性は90%以上であった。本実施例によれば、外観がよい水栓金具を提供できる。
【0048】
他方、比較例のサンプルは、表面に直径が0.1μm以上の複数の非溶融金属粒子が観察された。比較例のサンプルは、外観がよくなかった。
【0049】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本開示の技術的範囲に含まれる。
【0050】
水栓金具は、外観皮膜部を備えていなくてもよい。すなわち、水栓金具の表面は、皮膜部によって構成されていてもよい。水栓金具の表面が皮膜部によって構成されている場合において、水栓金具の表面に現れる非溶融金属粒子の直径、及び表面の算術平均粗さRaは、実施形態に記載の構成と同様にできる。水栓金具の表面が皮膜部によって構成されている場合の非溶融金属粒子の直径、及び表面の算術平均粗さRaについての説明は、上記の実施形態の説明を適宜援用する。
【0051】
皮膜部の組成及び膜厚は特に限定されない。例えば、皮膜部の材料は、SUS304以外のステンレス鋼であってもよく、ステンレス鋼以外の金属であってもよい。皮膜部の組成が実施形態と異なる場合には、最大ピークを示す元素を特定して、Feに替えて実施形態に記載の方法によって、組成及び膜厚を測定すればよい。皮膜部の膜厚は0.3μmより大きくてもよい。その場合であっても、皮膜部の膜厚は1.0μm以下であることが望ましい。
【0052】
外観皮膜部の組成及び膜厚は特に限定されない。例えば、外観皮膜部の材料は、Cr以外の金属であってもよい。外観皮膜部の組成が実施形態と異なる場合には、最大ピークを示す元素を特定して、Crに替えて実施形態に記載の方法によって、組成及び膜厚を測定すればよい。外観皮膜部の膜厚は0.1μmより大きくてもよい。その場合であっても、外観皮膜部の膜厚は1.0μm以下であることが望ましい。
【0053】
水栓金具の表面において、非溶融金属粒子の直径、算術平均粗さRa、色差ΔE、及び写像性は特に限定されない。実施形態に記載の非溶融金属粒子の直径、算術平均粗さRa、色差ΔE、及び写像性に関する各要件うち、充足しない要件が有ってもよい。
【0054】
水栓金具の製造方法は、所望の水栓金具を得ることができれば特に限定されない。水栓金具は、イオンプレーティング法以外のドライプロセスで行われてもよい。そのようなドライプロセスとしては、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマCDV法等が挙げられる。水栓金具の製造方法において、遮蔽物の有無、遮蔽物を設置する場合の遮蔽物の形状、大きさ、及び位置は適宜変更可能である。
1…イオンプレーティング装置、2…チャンバ、3…アーク式蒸発源、4…支持台、6…遮蔽物、8…ターゲット、10…水栓金具、10A…水栓金具10の表面、11…基材部、11A…基材部11の表面、12…皮膜部、12A…皮膜部12の表面、13…外観皮膜部