(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046604
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】ヒートポンプサイクル装置
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20230329BHJP
【FI】
F25B1/00 304Q
F25B1/00 101Z
F25B1/00 304T
F25B1/00 361P
F25B1/00 371C
F25B1/00 371J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155295
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武市 康太
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 淳
(72)【発明者】
【氏名】加見 祐一
(72)【発明者】
【氏名】杉村 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大輝
(57)【要約】
【課題】加熱対象物を加熱する際の作動の安定性を向上させたヒートポンプサイクル装置を提供する。
【解決手段】ヒートポンプサイクル装置である車両用空調装置1は、圧縮機11と、第1三方継手12aと、室内凝縮器13と、冷却用膨張弁14cと、バイパス通路21aと、バイパス側流量調整弁14dと、第6三方継手12fと、目標高低圧差決定部S11と、を備える。そして、ホットガス暖房モード時に、圧縮機11から吐出された吐出冷媒の吐出冷媒圧力から圧縮機へ吸入される吸入冷媒の吸入冷媒圧力を減算した高低圧差ΔPが、目標高低圧差決定部S11にて決定された目標高低圧差ΔPOに近づくように、圧縮機11、冷却用膨張弁14c、およびバイパス側流量調整弁14dの少なくとも1つの作動を制御する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)と、
前記圧縮機から吐出された吐出冷媒の流れを分岐する分岐部(12a)と、
前記分岐部にて分岐された一方の前記吐出冷媒を熱源として加熱対象物を加熱する加熱部(13)と、
前記加熱部から流出した前記冷媒を減圧させる加熱部側減圧部(14c)と、
前記分岐部にて分岐された他方の前記吐出冷媒を前記圧縮機の吸入口側へ導くバイパス通路(21a)と、
前記バイパス通路を流通する前記冷媒の流量を調整するバイパス側流量調整部(14d)と、
前記バイパス側流量調整部から流出した前記冷媒と前記加熱部側減圧部から流出した前記冷媒とを混合させて、前記圧縮機の吸入口側へ流出させる混合部(12f)と、
前記吐出冷媒の吐出冷媒圧力(Pd)から前記圧縮機へ吸入される吸入冷媒の吸入冷媒圧力(Ps)を減算した高低圧差(ΔP)の目標値である目標高低圧差(ΔPO)を決定する目標高低圧差決定部(S11)と、を備え、
前記高低圧差(ΔP)が前記目標高低圧差(ΔPO)に近づくように、前記圧縮機、前記加熱部側減圧部、および前記バイパス側流量調整部のうち少なくとも1つの作動を制御するヒートポンプサイクル装置。
【請求項2】
前記加熱対象物の目標温度(TAO)を決定する目標温度決定部(S3)を、備え、
前記目標高低圧差決定部は、前記目標温度(TAO)の上昇に伴って、前記目標高低圧差(ΔPO)を増加させるように決定する請求項1に記載のヒートポンプサイクル装置。
【請求項3】
前記バイパス側流量調整部の作動を制御するバイパス側制御部(60c)を備え、
前記バイパス側制御部は、前記高低圧差(ΔP)が前記目標高低圧差(ΔPO)に近づくように前記バイパス側流量調整部の作動を制御する請求項1または2に記載のヒートポンプサイクル装置。
【請求項4】
前記バイパス側制御部は、前記目標高低圧差(ΔPO)を用いて前記バイパス側流量調整部の絞り通路面積(Ab)を推定し、フィードフォワード制御によって前記バイパス側流量調整部の作動を制御する請求項3に記載のヒートポンプサイクル装置。
【請求項5】
冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)と、
前記圧縮機から吐出された吐出冷媒を減圧させる上流側減圧部(14c、14f)と、
前記上流側減圧部から流出した前記冷媒を熱源として低圧側加熱対象物を加熱して、前記冷媒を前記圧縮機の吸入口側へ流出させる低圧側加熱部(20、30、13)と、
前記吐出冷媒の吐出冷媒圧力(Pd)から前記圧縮機へ吸入される吸入冷媒の吸入冷媒圧力(Ps)を減算した高低圧差(ΔP)の目標値である目標高低圧差(ΔPO)を決定する目標高低圧差決定部(S11、S111)と、を備え、
前記高低圧差(ΔP)が前記目標高低圧差(ΔPO)に近づくように、前記圧縮機および前記上流側減圧部の少なくとも1つの作動を制御するヒートポンプサイクル装置。
【請求項6】
冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)と、
前記圧縮機から吐出された吐出冷媒を熱源として高圧側加熱対象物を加熱する高圧側加熱部(15、13)と、
前記高圧側加熱部から流出した前記冷媒を減圧させて、前記圧縮機の吸入口側へ流出させる下流側減圧部(14e、14g)と、
前記吐出冷媒の吐出冷媒圧力(Pd)から前記圧縮機へ吸入される吸入冷媒の吸入冷媒圧力(Ps)を減算した高低圧差(ΔP)の目標値である目標高低圧差(ΔPO)を決定する目標高低圧差決定部(S11、S111)と、を備え、
前記高低圧差(ΔP)が前記目標高低圧差(ΔPO)に近づくように、前記圧縮機および前記下流側減圧部の少なくとも1つの作動を制御するヒートポンプサイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機の仕事によって生じた熱を用いて加熱対象物を加熱するヒートポンプサイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に、車両用空調装置に適用されたヒートポンプサイクル装置が開示されている。特許文献1のヒートポンプサイクル装置では、車室内の暖房を行う暖房モード時に、冷媒回路をホットガスヒータ回路に切り替える。特許文献1のホットガスヒータ回路では、圧縮機から吐出された冷媒を、固定絞り、室内熱交換器、圧縮機の吸入口側の順に循環させる。
【0003】
そして、特許文献1のヒートポンプサイクル装置では、暖房モード時に、室内熱交換器にて、固定絞りにて減圧された冷媒と車室内へ送風される送風空気とを熱交換させて、送風空気を加熱している。つまり、特許文献1のヒートポンプサイクル装置では、暖房モード時に、外気等から吸熱した熱を用いることなく、圧縮機の仕事によって生じた熱を用いて加熱対象物である送風空気を加熱している。
【0004】
さらに、特許文献1のヒートポンプサイクル装置では、暖房モード時に、圧縮機から吐出された吐出冷媒の圧力である吐出冷媒圧力が目標高圧に近づくように制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1のヒートポンプサイクル装置では、暖房モード時に、室内熱交換器における送風空気の加熱能力を調整しにくい。その理由は、特許文献1のヒートポンプサイクル装置では、目標高圧に近づくように昇圧させた吐出冷媒を固定絞りで減圧させるので、サイクルの高低圧差を変化させにくいからである。
【0007】
ここで、室内熱交換器における送風空気の加熱能力は、室内熱交換器の入口側の冷媒のエンタルピから室内熱交換器の出口側の冷媒のエンタルピを減算したエンタルピ差と、室内熱交換器を流通する冷媒の流量(質量流量)との積算値で定義することができる。
【0008】
このため、特許文献1の暖房モードのように、圧縮機の仕事によって生じた熱を用いて送風空気を加熱する運転モードでは、圧縮機の仕事量が、室内熱交換器における送風空気の加熱能力となる。さらに、室内熱交換器における冷媒のエンタルピ差は、サイクルの高低圧差によって決定される。そのため、サイクルの高低圧差を変化させにくいと、送風空気の加熱能力を変化させにくくなってしまう。
【0009】
これに対して、特許文献1のヒートポンプサイクル装置の固定絞りに代えて、可変絞り機構を採用する手段が考えられる。そして、可変絞り機構の絞り開度を変化させることによって、サイクルの高低圧差を調整して、室内熱交換器における送風空気の加熱能力を調整することが考えられる。
【0010】
しかしながら、特許文献1のヒートポンプサイクル装置では、可変絞り機構を採用しても、圧縮機の仕事量を、送風空気を加熱するために適切な熱量となるように調整することができないと、サイクルを安定的に作動させることが難しい。
【0011】
例えば、可変絞り機構を採用した特許文献1のヒートポンプサイクル装置において、室内熱交換器における送風空気の加熱能力を増加させるために、圧縮機の冷媒吐出能力を増加させたとする。圧縮機の冷媒吐出能力を増加させると、吐出冷媒圧力が上昇する。このため、吐出冷媒圧力を目標高圧に近づけるために、可変絞り機構の絞り開度を増加させることが考えられる。
【0012】
ところが、可変絞り機構の絞り開度を増加させると、室内熱交換器へ流入する冷媒の圧力が上昇してしまうので、高低圧差が縮小してしまう。このため、室内熱交換器における送風空気の加熱能力を充分に増加させることができなくなってしまう。その結果、圧縮機の冷媒吐出能力をさらに増加させなければならなくなってしまい、サイクルを安定的に作動させることができなくなってしまう。
【0013】
本発明は、上記点に鑑み、加熱対象物を加熱する際の作動の安定性を向上させたヒートポンプサイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1に記載のヒートポンプサイクル装置は、圧縮機(11)と、分岐部(12a)と、加熱部(13)と、加熱部側減圧部(14c)と、バイパス通路(21a)と、バイパス側流量調整部(14d)と、混合部(12f)と、目標高低圧差決定部(S11)と、を備える。
【0015】
圧縮機は、冷媒を圧縮して吐出する。分岐部は、圧縮機から吐出された吐出冷媒の流れを分岐する。加熱部は、分岐部にて分岐された一方の吐出冷媒を熱源として加熱対象物を加熱する。加熱部側減圧部は、加熱部から流出した冷媒を減圧させる。バイパス通路は、分岐部にて分岐された他方の吐出冷媒を圧縮機の吸入口側へ導く。バイパス側流量調整部は、バイパス通路を流通する冷媒の流量を調整する。混合部は、バイパス側流量調整部から流出した冷媒と加熱部側減圧部から流出した冷媒とを混合させて、圧縮機の吸入口側へ流出させる。目標高低圧差決定部は、吐出冷媒の吐出冷媒圧力(Pd)から圧縮機へ吸入される吸入冷媒の吸入冷媒圧力(Ps)を減算した高低圧差(ΔP)の目標値である目標高低圧差(ΔPO)を決定する。
【0016】
そして、高低圧差(ΔP)が目標高低圧差(ΔPO)に近づくように、圧縮機、加熱部側減圧部、およびバイパス側流量調整部のうち少なくとも1つの作動を制御する。
【0017】
これによれば、高低圧差(ΔP)が目標高低圧差(ΔPO)に近づくように、圧縮機(11)、加熱部側減圧部(14c)、およびバイパス側流量調整部(14d)のうち少なくとも1つの作動を制御する。従って、目標高低圧差(ΔPO)を適切に決定することで、圧縮機(11)の仕事量を、加熱対象物を適切に加熱可能な熱量となるように調整することができる。
【0018】
その結果、請求項1に記載のヒートポンプサイクル装置によれば、加熱対象物を加熱する際の作動の安定性を向上させることができる。
【0019】
また、請求項5に記載のヒートポンプサイクル装置は、圧縮機(11)と、上流側減圧部(14c、14f)と、低圧側加熱部(20、30、13)と、目標高低圧差決定部(S11、S111)と、を備える。
【0020】
圧縮機は、冷媒を圧縮して吐出する。上流側減圧部は、圧縮機から吐出された吐出冷媒を減圧させる。低圧側加熱部は、上流側減圧部から流出した冷媒を熱源として低圧側加熱対象物を加熱して、冷媒を圧縮機の吸入口側へ流出させる。目標高低圧差決定部は、吐出冷媒の吐出冷媒圧力(Pd)から圧縮機へ吸入される吸入冷媒の吸入冷媒圧力(Ps)を減算した高低圧差(ΔP)の目標値である目標高低圧差(ΔPO)を決定する。
【0021】
そして、高低圧差(ΔP)が目標高低圧差(ΔPO)に近づくように、圧縮機および上流側減圧部の少なくとも1つの作動を制御する。
【0022】
これによれば、高低圧差(ΔP)が目標高低圧差(ΔPO)に近づくように、圧縮機(11)および上流側減圧部(14c、14f)の少なくとも1つの作動を制御する。従って、目標高低圧差(ΔPO)を適切に決定することで、圧縮機(11)の仕事量を、低圧側加熱対象物を適切に加熱可能な熱量となるように調整することができる。
【0023】
その結果、請求項5に記載のヒートポンプサイクル装置によれば、加熱対象物を加熱する際の作動の安定性を向上させることができる。
【0024】
また、請求項6に記載のヒートポンプサイクル装置は、圧縮機(11)と、高圧側加熱部(15、13)と、下流側減圧部(14e、14g)と、目標高低圧差決定部(S11、S111)と、を備える。
【0025】
圧縮機は、冷媒を圧縮して吐出する。高圧側加熱部は、圧縮機から吐出された吐出冷媒を熱源として高圧側加熱対象物を加熱する。下流側減圧部は、高圧側加熱部から流出した冷媒を減圧させて、圧縮機の吸入口側へ流出させる。目標高低圧差決定部は、吐出冷媒の吐出冷媒圧力(Pd)から圧縮機へ吸入される吸入冷媒の吸入冷媒圧力(Ps)を減算した高低圧差(ΔP)の目標値である目標高低圧差(ΔPO)を決定する。
【0026】
そして、高低圧差(ΔP)が目標高低圧差(ΔPO)に近づくように、圧縮機および下流側減圧部の少なくとも1つの作動を制御する。
【0027】
これによれば、高低圧差(ΔP)が目標高低圧差(ΔPO)に近づくように、圧縮機(11)および下流側減圧部(14e、14g)の少なくとも1つの作動を制御する。従って、目標高低圧差(ΔPO)を適切に決定することで、圧縮機(11)の仕事量を、高圧側加熱対象物を適切に加熱可能な熱量となるように調整することができる。
【0028】
その結果、請求項6に記載のヒートポンプサイクル装置によれば、加熱対象物を加熱する際の作動の安定性を向上させることができる。
【0029】
なお、この欄及び特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】第1実施形態の車両用空調装置の模式的な全体構成図である。
【
図2】第1実施形態の室内空調ユニットの模式的な構成図である。
【
図3】第1実施形態の車両用空調装置の電気制御部を示すブロック図である。
【
図4】第1実施形態の制御プログラムのメインルーチンのフローチャートである。
【
図5】第1実施形態の制御プログラムのサブルーチンのフローチャートである。
【
図6】第1実施形態のヒートポンプサイクルのホットガス暖房モード時の冷媒の流れを示す模式的な全体構成図である。
【
図7】第1実施形態のヒートポンプサイクルのホットガス暖房モード時の冷媒の状態の変化を示すモリエル線図である。
【
図8】第1実施形態のヒートポンプサイクルのホットガス除湿暖房モード時の冷媒の流れを示す模式的な全体構成図である。
【
図9】第1実施形態のヒートポンプサイクルのホットガス除湿暖房モード時の冷媒の状態の変化を示すモリエル線図である。
【
図10】第1実施形態のヒートポンプサイクルの単独暖機モード時の冷媒の流れを示す模式的な全体構成図である。
【
図11】第1実施形態のヒートポンプサイクルの単独暖機モード時の冷媒の状態の変化を示すモリエル線図である。
【
図12】第1実施形態のヒートポンプサイクルの除霜モード時の冷媒の流れを示す模式的な全体構成図である。
【
図13】第1実施形態のヒートポンプサイクルの除霜モード時の冷媒の状態の変化示すモリエル線図である。
【
図14】第2実施形態の空調装置の模式的な全体構成図である。
【
図15】第3実施形態の空調装置の模式的な全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の実施形態を説明する。各実施形態において先行する実施形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の実施形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示していなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0032】
(第1実施形態)
図1~
図13を用いて、本発明に係るヒートポンプサイクル装置の第1実施形態を説明する。本実施形態では、本発明に係るヒートポンプサイクル装置を、電気自動車に搭載された車両用空調装置1に適用している。電気自動車は、走行用の駆動力を電動モータから得る車両である。車両用空調装置1は、空調対象空間である車室内の空調を行うとともに、車載機器の温度調整を行う。従って、車両用空調装置1は、車載機器温度調整機能付きの空調装置、あるいは、空調機能付きの車載機器温度調整装置と呼ぶことができる。
【0033】
車両用空調装置1では、車載機器として、具体的に、バッテリ70の温度調整を行う。バッテリ70は、電気によって作動する複数の車載機器へ供給される電力を蓄える二次電池である。バッテリ70は、積層配置された複数の電池セルを、電気的に直列あるいは並列に接続することによって形成された組電池である。本実施形態の電池セルは、リチウムイオン電池である。
【0034】
バッテリ70は、作動時(すなわち、充放電時)に発熱する。バッテリ70は、低温になると出力が低下しやすく、高温になると劣化が進行しやすい。このため、バッテリ70の温度は、適切な温度範囲内(本実施形態では、15℃以上、かつ、55℃以下)に維持されている必要がある。そこで、本実施形態の電気自動車では、車両用空調装置1を用いてバッテリ70の温度調整を行う。もちろん、車両用空調装置1の温度調整対象となる車載機器は、バッテリ70に限定されない。
【0035】
車両用空調装置1は、ヒートポンプサイクル10、低温側熱媒体回路30、室内空調ユニット50、制御装置60等を備えている。
【0036】
まず、ヒートポンプサイクル10について説明する。ヒートポンプサイクル10は、車室内へ送風される送風空気、および低温側熱媒体回路30を循環する低温側熱媒体の温度を調整する蒸気圧縮式の冷凍サイクルである。ヒートポンプサイクル10は、車室内の空調および車載機器の冷却のために、後述する各種運転モードに応じて、冷媒回路を切替可能に構成されている。
【0037】
ヒートポンプサイクル10では、冷媒としてHFO系冷媒(具体的には、R1234yf)を採用している。ヒートポンプサイクル10は、高圧側冷媒の圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成する。冷媒には、圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されている。冷凍機油は、液相冷媒に相溶性を有するPAGオイル(すなわち、ポリアルキレングリコールオイル)である。冷凍機油の一部は、冷媒とともにヒートポンプサイクル10を循環している。
【0038】
圧縮機11は、ヒートポンプサイクル10において、冷媒を吸入し、圧縮して吐出する。圧縮機11は、吐出容量が固定された固定容量型の圧縮機構を電動モータにて回転駆動する電動圧縮機である。圧縮機11は、後述する制御装置60から出力される制御信号によって、回転数(すなわち、冷媒吐出能力)が制御される。
【0039】
圧縮機11は、車室の前方側に形成された駆動装置室内に配置されている。駆動装置室は、車両走行用の駆動力の発生や調整のために用いられる機器(例えば、走行用の電動モータ)等の少なくとも一部が配置される空間を形成している。
【0040】
圧縮機11の吐出口には、第1三方継手12aの流入口側が接続されている。第1三方継手12aは、互いに連通する3つの流入出口を有している。第1三方継手12aとしては、複数の配管を接合して形成された継手部や、金属ブロックや樹脂ブロックに複数の冷媒通路を設けることによって形成された継手部を採用することができる。
【0041】
さらに、ヒートポンプサイクル10は、後述するように、第2三方継手12b~第6三方継手12fを備えている。第2三方継手12b~第6三方継手12fの基本的構成は、第1三方継手12aと同様である。
【0042】
これらの三方継手は、3つの流入出口のうち1つが流入口として用いられ、残りの2つが流出口として用いられた際には、冷媒の流れを分岐する。また、3つの流入出口のうち2つが流入口として用いられ、残りの1つが流出口として用いられた際には、冷媒の流れを合流させる。第1三方継手12aは、圧縮機11から吐出された吐出冷媒の流れを分岐する分岐部である。
【0043】
第1三方継手12aの一方の流出口には、室内凝縮器13の冷媒入口側が接続されている。第1三方継手12aの他方の流出口には、第6三方継手12fの一方の流入口側が接続されている。第1三方継手12aの他方の流出口から第6三方継手12fの一方の流入口へ至る冷媒通路は、バイパス通路21aである。バイパス通路21aには、バイパス側流量調整弁14dが配置されている。
【0044】
バイパス側流量調整弁14dは、後述するホットガス暖房モード時等に、第1三方継手12aの他方の流出口から流出した吐出冷媒(すなわち、第1三方継手12aにて分岐された他方の吐出冷媒)を減圧させるバイパス通路側の減圧部である。バイパス側流量調整弁14dは、バイパス通路21aを流通する冷媒の流量(質量流量)を調整するバイパス側流量調整部である。
【0045】
バイパス側流量調整弁14dは、絞り開度を変化させる弁体、および弁体を変位させる電動アクチュエータ(具体的には、ステッピングモータ)を有する電気式の可変絞り機構である。バイパス側流量調整弁14dは、制御装置60から出力される制御パルスによって、その作動が制御される。
【0046】
バイパス側流量調整弁14dは、弁開度を全開にすることで冷媒減圧作用および流量調整作用を殆ど発揮することなく単なる冷媒通路として機能する全開機能を有している。バイパス側流量調整弁14dは、弁開度を全閉にすることで冷媒通路を閉塞する全閉機能を有している。
【0047】
さらに、ヒートポンプサイクル10は、後述するように、暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14b、冷却用膨張弁14c、および除霜用流量調整弁14eを備えている。暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14b、冷却用膨張弁14c、および除霜用流量調整弁14eの基本的構成は、バイパス側流量調整弁14dと同様である。
【0048】
暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14b、冷却用膨張弁14c、バイパス側流量調整弁14d、および除霜用流量調整弁14eは、上述した全閉機能を発揮することによって冷媒回路を切り替えることができる。従って、暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14b、冷却用膨張弁14c、バイパス側流量調整弁14d、および除霜用流量調整弁14eは、冷媒回路切替部としての機能を兼ね備えている。
【0049】
もちろん、暖房用膨張弁14a、冷房用膨張弁14b、冷却用膨張弁14c、バイパス側流量調整弁14d、および除霜用流量調整弁14eを、全閉機能を有していない可変絞り機構と絞り通路を開閉する開閉弁とを組み合わせて形成してもよい。この場合は、それぞれの開閉弁が冷媒回路切替部となる。
【0050】
室内凝縮器13は、後述する室内空調ユニット50の空調ケース51内に配置されている。室内凝縮器13は、第1三方継手12aの一方の流出口から流出した吐出冷媒(すなわち、第1三方継手12aにて分岐された一方の吐出冷媒)と、後述する室内蒸発器18を通過した送風空気とを熱交換させる加熱用熱交換部である。室内蒸発器18では、吐出冷媒の有する熱を送風空気へ放熱させて、送風空気を加熱する。
【0051】
従って、室内凝縮器13は、第1三方継手12aにて分岐された一方の吐出冷媒を熱源として、加熱対象物である送風空気を加熱する加熱部である。
【0052】
室内凝縮器13の出口には、第2三方継手12bの流入口側が接続されている。第2三方継手12bの一方の流出口には、暖房用膨張弁14aの入口側が接続されている。第2三方継手12bの他方の流出口には、四方継手12xの1つの流入口側が接続されている。第2三方継手12bの他方の流出口から四方継手12xの1つの流入口へ至る冷媒通路は、除湿用通路21bである。
【0053】
除湿用通路21bには、除湿用開閉弁22aが配置されている。除湿用開閉弁22aは、除湿用通路21bを開閉する開閉弁である。除湿用開閉弁22aは、制御装置60から出力される制御電圧によって、その開閉作動が制御される電磁弁である。除湿用開閉弁22aは、除湿用通路21bを開閉することによって冷媒回路を切り替えることができる。従って、除湿用開閉弁22aは、冷媒回路切替部である。
【0054】
四方継手12xは、互いに連通する4つの流入出口を有する継手部である。四方継手12xとしては、前述の三方継手と同様に形成された継手部を採用することができる。四方継手12xとして、2つの三方継手を組み合わせて形成されたものを採用してもよい。
【0055】
暖房用膨張弁14aは、後述する暖房モード時等に、室外熱交換器15へ流入する冷媒を減圧させる室外熱交換器側の減圧部である。さらに、暖房用膨張弁14aは、室外熱交換器15へ流入する冷媒の流量(質量流量)を調整する室外熱交換器側の流量調整部である。
【0056】
暖房用膨張弁14aの出口には、室外熱交換器15の冷媒入口側が接続されている。室外熱交換器15は、暖房用膨張弁14aから流出した冷媒と図示しない外気ファンにより送風された外気とを熱交換させる室外熱交換部である。室外熱交換器15は、駆動装置室の前方側に配置されている。このため、車両走行時には、グリルを介して駆動装置室へ流入した走行風を室外熱交換器15に当てることができる。
【0057】
室外熱交換器15の冷媒出口には、第3三方継手12cの入口側が接続されている。第3三方継手12cの一方の流出口には、第1逆止弁16aを介して、四方継手12xの別の1つの流入口側が接続されている。第3三方継手12cの他方の流出口には、第4三方継手12dの一方の流入口側が接続されている。第3三方継手12cの他方の流出口から第4三方継手12dの一方の流入口へ至る冷媒通路は、暖房用通路21cである。
【0058】
暖房用通路21cには、除霜用流量調整弁14eが配置されている。除霜用流量調整弁14eは、後述する除霜モード時に、室外熱交換器15から流出した冷媒を減圧させる暖房用通路側の減圧部である。除霜用流量調整弁14eは、暖房用通路21cを流通する冷媒の流量(質量流量)を調整する暖房用通路側の流量調整部である。
【0059】
第1逆止弁16aは、第3三方継手12c側から四方継手12x側へ冷媒が流れることを許容し、四方継手12x側から第3三方継手12c側へ冷媒が流れることを禁止する。
【0060】
四方継手12xの1つの流出口には、冷房用膨張弁14bを介して、室内蒸発器18の冷媒入口側が接続されている。冷房用膨張弁14bは、後述する冷房モード時等に、四方継手12xの1つの流出口から流出した冷媒を室内蒸発器側の減圧部である。さらに、冷房用膨張弁14bは、室内蒸発器18へ流入する冷媒の流量(質量流量)を調整する室内蒸発器側の流量調整部である。
【0061】
室内蒸発器18は、室内空調ユニット50の空調ケース51内に配置されている。室内蒸発器18は、冷房用膨張弁14bにて減圧された低圧冷媒と室内送風機52から車室内へ向けて送風された送風空気とを熱交換させる冷房用蒸発部である。室内蒸発器18では、低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させることによって、送風空気を冷却する。
【0062】
室内蒸発器18の冷媒出口には、蒸発圧力調整弁19および第2逆止弁16bを介して、第5三方継手12eの一方の流入口側が接続されている。
【0063】
蒸発圧力調整弁19は、室内蒸発器18における冷媒蒸発温度を、室内蒸発器18の着霜を抑制可能な温度(本実施形態では、1度)以上に維持する可変絞り機構である。蒸発圧力調整弁19は、室内蒸発器18の冷媒出口側の冷媒の圧力上昇に伴って、弁開度を増加させる機械的機構で構成されている。
【0064】
第2逆止弁16bは、蒸発圧力調整弁19の出口側から第5三方継手12e側へ冷媒が流れることを許容し、第5三方継手12e側から蒸発圧力調整弁19側へ冷媒が流れることを禁止する。
【0065】
四方継手12xの別の1つの流出口には、冷却用膨張弁14cを介して、第6三方継手12fの他方の流入口側が接続されている。第6三方継手12fの流出口には、チラー20の冷媒通路の入口側が接続されている。
【0066】
冷却用膨張弁14cは、後述するホットガス暖房モード時等に、チラー20へ流入する冷媒を減圧させるチラー側の減圧部である。さらに、冷却用膨張弁14cは、チラー20へ流入する冷媒の流量(質量流量)を調整するチラー側の流量調整部である。
【0067】
チラー20は、冷却用膨張弁14cにて減圧された低圧冷媒と低温側熱媒体回路30を循環する低温側熱媒体とを熱交換させて、低圧冷媒を蒸発させる冷却用蒸発部である。チラー20では、低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させることによって、低温側熱媒体を冷却する。
【0068】
チラー20の冷媒通路の出口には、第4三方継手12dの他方の流入口側が接続されている。第4三方継手12dの流出口には、第5三方継手12eの他方の流入口側が接続されている。
【0069】
第5三方継手12eの流出口には、アキュムレータ23の入口側が接続されている。アキュムレータ23は、内部に流入した冷媒の気液を分離して、サイクル内の余剰液相冷媒を蓄える低圧側の気液分離器である。アキュムレータ23の出口は、圧縮機11の吸入口側に接続されている。
【0070】
次に、低温側熱媒体回路30について説明する。低温側熱媒体回路30は、低温側熱媒体を循環させる熱媒体回路である。低温側熱媒体回路30では、低温側熱媒体として、エチレングリコール水溶液を採用している。低温側熱媒体回路30には、
図1に示すように、低温側ポンプ31、バッテリ70の冷却水通路70a、チラー20の熱媒体通路等が接続されている。
【0071】
低温側ポンプ31は、バッテリ70の冷却水通路70aから流出した低温側熱媒体を、チラー20の熱媒体通路の入口側へ圧送する圧送部である。低温側ポンプ31は、制御装置60から出力される制御電圧によって、回転数(すなわち、圧送能力)が制御される電動水ポンプである。チラー20の熱媒体通路の出口側には、バッテリ70の冷却水通路70aの入口側が接続されている。
【0072】
バッテリ70の冷却水通路70aは、積層配置された複数の電池セルを収容するバッテリ専用ケースの内部に形成されている。冷却水通路70aの通路構成は、バッテリ専用ケースの内部で複数の通路を並列的に接続した通路構成となっている。これにより、冷却水通路70aでは、全ての電池セルを均等に冷却できるようにしている。冷却水通路70aの出口には、低温側ポンプ31の吸入口側が接続されている。
【0073】
次に、室内空調ユニット50について説明する。室内空調ユニット50は、車室内の空調のために適切な温度に調整された送風空気を、車室内の適切な箇所へ吹き出すために、複数の構成機器を一体化したユニットである。室内空調ユニット50は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されている。
【0074】
室内空調ユニット50は、
図2に示すように、送風空気の空気通路を形成する空調ケース51内に、室内送風機52、室内蒸発器18、室内凝縮器13等を収容することによって形成されている。空調ケース51は、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。
【0075】
空調ケース51の送風空気流れ最上流側には、内外気切替装置53が配置されている。内外気切替装置53は、空調ケース51内へ内気(すなわち、車室内空気)と外気(すなわち、車室外空気)とを切替導入する。内外気切替装置53は、制御装置60から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0076】
内外気切替装置53の送風空気流れ下流側には、室内送風機52が配置されている。室内送風機52は、内外気切替装置53を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する。室内送風機52は、制御装置60から出力される制御電圧によって、回転数(すなわち、送風能力)が制御される。
【0077】
室内送風機52の送風空気流れ下流側には、室内蒸発器18および室内凝縮器13が配置されている。室内蒸発器18は、室内凝縮器13よりも、送風空気流れ上流側に配置されている。空調ケース51内には、室内蒸発器18通過後の送風空気を、室内凝縮器13を迂回させて流す冷風バイパス通路55が形成されている。
【0078】
空調ケース51内の室内蒸発器18の送風空気流れ下流側であって、かつ、室内凝縮器13および冷風バイパス通路55の送風空気流れ上流側には、エアミックスドア54が配置されている。
【0079】
エアミックスドア54は、室内蒸発器18通過後の送風空気のうち、室内凝縮器13側を通過させる送風空気の風量と冷風バイパス通路55を通過させる送風空気の風量との風量割合を調整する。エアミックスドア54の駆動用のアクチュエータは、制御装置60から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0080】
室内凝縮器13および冷風バイパス通路55の送風空気流れ下流側には、混合空間56が配置されている。混合空間56は、室内凝縮器13にて加熱された送風空気と冷風バイパス通路55を通過して加熱されていない送風空気とを混合させる空間である。
【0081】
従って、室内空調ユニット50では、エアミックスドア54の開度調整によって、混合空間56にて混合されて車室内へ吹き出される送風空気(すなわち、空調風)の温度を調整することができる。
【0082】
空調ケース51の送風空気流れ最下流部には、空調風を車室内の様々な箇所へ向けて吹き出すための図示しない複数の開口穴が形成されている。複数の開口穴には、それぞれの開口穴を開閉する図示しない吹出モードドアが配置されている。吹出モードドアの駆動用のアクチュエータは、制御装置60から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0083】
従って、室内空調ユニット50では、吹出モードドアが開閉する開口穴を切り替えることによって、車室内の適切な箇所へ適切な温度に調整された空調風を吹き出すことができる。
【0084】
次に、本実施形態の電気制御部について説明する。制御装置60は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路を有している。制御装置60は、ROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行う。そして、制御装置60は、演算、処理結果に基づいて、出力側に接続された各種制御対象機器11、14a~14e、22a、31、52、53等の作動を制御する。
【0085】
制御装置60の入力側には、
図3のブロック図に示すように、内気温センサ61a、外気温センサ61b、日射センサ61c、吐出冷媒温度圧力センサ62a、高圧側冷媒温度圧力センサ62b、室外器側冷媒温度圧力センサ62c、蒸発器側冷媒温度圧力センサ62d、チラー側冷媒温度圧力センサ62e、吸入冷媒温度圧力センサ62f、低温側熱媒体温度センサ63a、バッテリ温度センサ64、空調風温度センサ65等の制御用のセンサ群が接続されている。
【0086】
内気温センサ61aは、車室内温度(内気温)Trを検出する内気温検出部である。外気温センサ61bは、車室外温度(外気温)Tamを検出する外気温検出部である。日射センサ61cは、車室内へ照射される日射量Asを検出する日射量検出部である。
【0087】
吐出冷媒温度圧力センサ62aは、圧縮機11から吐出された吐出冷媒の吐出冷媒温度Tdおよび吐出冷媒圧力Pdを検出する吐出冷媒温度圧力検出部である。
【0088】
高圧側冷媒温度圧力センサ62bは、室内凝縮器13から流出した冷媒の高圧側冷媒温度T1および高圧側冷媒圧力P1を検出する高圧側冷媒温度圧力検出部である。
【0089】
室外器側冷媒温度圧力センサ62cは、室外熱交換器15から流出した冷媒の室外器側冷媒温度T2および室外器側冷媒圧力P2を検出する室外器側冷媒温度圧力検出部である。
【0090】
蒸発器側冷媒温度圧力センサ62dは、室内蒸発器18から流出した冷媒の蒸発器側冷媒温度Teおよび蒸発器側冷媒圧力Peを検出する蒸発器側冷媒温度圧力検出部である。
【0091】
チラー側冷媒温度圧力センサ62eは、チラー20の冷媒通路から流出した冷媒のチラー側冷媒温度Tcおよびチラー側冷媒圧力Pcを検出するチラー側冷媒温度圧力検出部である。
【0092】
吸入冷媒温度圧力センサ62fは、圧縮機11へ吸入される吸入冷媒の吸入冷媒温度Tsおよび吸入冷媒圧力Psを検出する吸入冷媒温度圧力検出部である。
【0093】
また、本実施形態では、冷媒温度圧力センサとして、圧力検出部と温度検出部が一体化された検出部を採用しているが、もちろん、それぞれ別体で構成された圧力検出部と温度検出部とを採用してもよい。
【0094】
低温側熱媒体温度センサ63aは、バッテリ70の冷却水通路70aへ流入する低温側熱媒体の温度である低温側熱媒体温度TWLを検出する低温側熱媒体温度検出部である。
【0095】
バッテリ温度センサ64は、バッテリ70の温度であるバッテリ温度TBを検出するバッテリ温度検出部である。バッテリ温度センサ64は、複数の温度センサを有し、バッテリ70の複数の箇所の温度を検出している。このため、制御装置60では、バッテリ70を形成する各電池セルの温度差や温度分布を検出することができる。さらに、バッテリ温度TBとしては、複数の温度センサの検出値の平均値を採用している。
【0096】
空調風温度センサ65は、混合空間56から車室内へ送風される送風空気温度TAVを検出する空調風温度検出部である。
【0097】
さらに、制御装置60の入力側には、
図3に示すように、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル69が接続されている。制御装置60には、操作パネル69に設けられた各種操作スイッチからの操作信号が入力される。
【0098】
操作パネル69に設けられた各種操作スイッチとしては、具体的に、オートスイッチ、エアコンスイッチ、風量設定スイッチ、温度設定スイッチ等がある。
【0099】
オートスイッチは、車両用空調装置1の自動制御運転を設定あるいは解除する操作スイッチである。エアコンスイッチは、室内蒸発器18で送風空気の冷却を行うことを要求する操作スイッチである。風量設定スイッチは、室内送風機52の風量をマニュアル設定する操作スイッチである。温度設定スイッチは、車室内の設定温度Tsetを設定する操作スイッチである。
【0100】
なお、本実施形態の制御装置60は、その出力側に接続された各種制御対象機器を制御する制御部が一体に構成されたものである。従って、それぞれの制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が、それぞれの制御対象機器の作動を制御する制御部を構成している。
【0101】
例えば、制御装置60のうち、圧縮機11の冷媒吐出能力(具体的には、回転数)を制御する構成は、吐出能力制御部60aを構成している。冷却用膨張弁14cの作動を制御する構成は、加熱部側制御部60bを構成している。バイパス側流量調整弁14dの作動を制御する構成は、バイパス側制御部60cを構成している。
【0102】
次に、上記構成における本実施形態の車両用空調装置1の作動について説明する。本実施形態の車両用空調装置1では、車室内の空調およびバッテリ70の温度調整を行うために、各種運転モードを切り替える。運転モードの切り替えは、予め制御装置60に記憶されている制御プログラムが実行されることによって行われる。
【0103】
制御プログラムは、いわゆるIGスイッチが投入状態(ON)にされて、車両システムが起動している際だけでなく、外部電源からバッテリ70に充電されている際等にも実行される。
図4のフローチャートを用いて、制御プログラムのメインルーチンについて説明する。
図4等のフローチャートに記載された各制御ステップは、制御装置60が有する各種の機能実現部である。
【0104】
まず、
図4のステップS1では、フラグ、タイマ等の初期化、並びに、電動アクチュエータの初期位置合わせ等のイニシャライズが行われる。次に、ステップS2では、制御用のセンサ群の検出信号および操作パネル69の操作信号を読み込む。次に、ステップS3では、目標吹出温度TAOを決定する。目標吹出温度TAOは、車室内へ吹き出される送風空気の目標温度である。従って、ステップS3は、目標温度決定部である。
【0105】
ステップS3では、具体的に、以下数式F1を用いて目標吹出温度TAOを決定する。
TAO=Kset×Tset-Kr×Tr-Kam×Tam-Ks×As+C…(F1)
Tsetは、温度設定スイッチによって設定された車室内目標温度である。Trは、内気温センサ61aによって検出された内気温である。Tamは、外気温センサ61bによって検出された外気温である。Asは、日射センサ61cによって検出された日射量である。また、Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
【0106】
次に、ステップS4では、ステップS2で読み込んだ検出信号および操作信号、並びに、ステップS3で決定された目標吹出温度TAOを用いて、運転モードを選択する。次に、ステップS5では、ステップS4で選択された運転モードが実行されるように、各種制御対象機器の作動が制御される。
【0107】
次に、ステップS6では、予め定めた車両用空調装置1の終了条件が成立しているか否かが判定される。ステップS6にて、終了条件が成立していないと判定されて際には、ステップS2へ戻る。ステップS6にて、終了条件が成立したと判定された際には、プログラムを終了させる。
【0108】
ここで、本実施形態の終了条件は、外部電源からバッテリ70に充電されていない状態で、IGスイッチが非投入状態(OFF)にされた際に成立する。あるいは、IGスイッチが非投入状態(OFF)になっている状態で、外部電源からバッテリ70への充電が終了した際に成立する。以下、ステップS4にて選択される各運転モードの詳細作動について説明する。
【0109】
(a)冷房モード
冷房モードは、冷却された送風空気を車室内へ吹き出すことによって車室内の冷房を行う運転モードである。本実施形態の制御プログラムでは、主に夏季のように外気温Tamが比較的高い温度(本実施形態では、25℃以上)となっている際に、冷房モードが選択される。
【0110】
冷房モードには、バッテリ70の冷却を行うことなく車室内の冷房を行う単独冷房モード、およびバッテリ70の冷却を行うとともに車室内の冷房を行う冷却冷房モードがある。本実施形態の制御プログラムでは、バッテリ温度TBが、予め定めた基準上限温度KTBH以上となった際に、車載機器であるバッテリ70を冷却する運転モードを実行する。
【0111】
(a-1)単独冷房モード
単独冷房モードのヒートポンプサイクル10では、制御装置60が、暖房用膨張弁14aを全開状態とし、冷房用膨張弁14bを冷媒減圧作用を発揮する絞り状態とし、冷却用膨張弁14cを全閉状態とし、バイパス側流量調整弁14dを全閉状態とし、除霜用流量調整弁14eを全閉状態とする。また、制御装置60は、除湿用開閉弁22aを閉じる。
【0112】
このため、単独冷房モードのヒートポンプサイクル10では、圧縮機11から吐出された冷媒が、室内凝縮器13、全開状態となっている暖房用膨張弁14a、室外熱交換器15、絞り状態になっている冷房用膨張弁14b、室内蒸発器18、蒸発圧力調整弁19、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に循環する冷媒回路に切り替えられる。
【0113】
また、単独冷房モードの室内空調ユニット50では、空調風温度センサ65によって検出された送風空気温度TAVが目標吹出温度TAOに近づくように、制御装置60がエアミックスドア54の開度を調整する。また、制御装置60は、目標吹出温度TAOに基づいて、内外気切替装置53、および吹出モードドアの作動が制御する。また、制御装置60は、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。
【0114】
従って、単独冷房モードのヒートポンプサイクル10では、室内凝縮器13および室外熱交換器15を、冷媒を放熱させて凝縮させる凝縮器として機能させ、室内蒸発器18を、冷媒を蒸発させる蒸発器として機能させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
【0115】
単独冷房モードの室内空調ユニット50では、室内送風機52から送風された送風空気が室内蒸発器18にて冷却される。室内蒸発器18にて冷却された送風空気は、エアミックスドア54の開度に応じて、目標吹出温度TAOに近づくように室内凝縮器13にて再加熱される。そして、温度調整された送風空気が車室内へ吹き出されることによって、車室内の冷房が実現される。
【0116】
(a-2)冷却冷房モード
冷却冷房モードのヒートポンプサイクル10では、単独冷房モードに対して、制御装置60が、冷却用膨張弁14cを絞り状態とする。
【0117】
このため、冷却冷房モードのヒートポンプサイクル10では、圧縮機11から吐出された冷媒が、単独冷房モードと同様に循環する。同時に、圧縮機11から吐出された冷媒が、室内凝縮器13、全開状態となっている暖房用膨張弁14a、室外熱交換器15、絞り状態になっている冷却用膨張弁14c、チラー20、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に循環する冷媒回路に切り替えられる。つまり、室内蒸発器18とチラー20が、冷媒の流れに対して並列的に接続される冷媒回路に切り替えられる。
【0118】
また、冷却冷房モードの低温側熱媒体回路30では、制御装置60が、予め定めた基準圧送能力を発揮するように、低温側ポンプ31を作動させる。このため、低温側熱媒体回路30では、低温側ポンプ31から圧送された低温側熱媒体が、チラー20の熱媒体通路、バッテリ70の冷却水通路70a、低温側ポンプ31の吸入口の順に循環する。
【0119】
また、冷却冷房モードの室内空調ユニット50では、制御装置60が、単独冷房モードと同様に、室内送風機52の送風能力、エアミックスドア54の開度、内外気切替装置53、および吹出モードドアの作動を制御する。また、制御装置60は、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。
【0120】
従って、冷却冷房モードのヒートポンプサイクル10では、室内凝縮器13および室外熱交換器15を、凝縮器として機能させ、室内蒸発器18およびチラー20を、蒸発器として機能させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
【0121】
冷却冷房モードの低温側熱媒体回路30では、低温側ポンプ31から圧送された低温側熱媒体がチラー20へ流入して冷却される。そして、チラー20にて冷却された低温側熱媒体がバッテリ70の冷却水通路70aを流通することによって、バッテリ70が冷却される。
【0122】
冷却冷房モードの室内空調ユニット50では、単独冷房モードと同様に、温度調整された送風空気が車室内へ吹き出されることによって、車室内の冷房が実現される。
【0123】
(b)直列除湿暖房モード
直列除湿暖房モードは、冷却されて除湿された送風空気を再加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の除湿暖房を行う運転モードである。本実施形態の制御プログラムでは、外気温Tamが予め定めた中高温域の温度(本実施形態では、10℃以上、25℃未満)になっている際に、直列除湿暖房モードが選択される。
【0124】
直列除湿暖房モードには、バッテリ70の冷却を行うことなく車室内の除湿暖房を行う単独直列除湿暖房モード、およびバッテリ70の冷却を行うとともに車室内の除湿暖房を行う冷却直列除湿暖房モードがある。
【0125】
(b-1)単独直列除湿暖房モード
単独直列除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、制御装置60が、暖房用膨張弁14aを絞り状態とし、冷房用膨張弁14bを絞り状態とし、冷却用膨張弁14cを全閉状態とし、バイパス側流量調整弁14dを全閉状態とし、除霜用流量調整弁14eを全閉状態とする。また、制御装置60は、除湿用開閉弁22aを閉じる。
【0126】
このため、単独直列除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、圧縮機11から吐出された冷媒が、室内凝縮器13、絞り状態になっている暖房用膨張弁14a、室外熱交換器15、絞り状態になっている冷房用膨張弁14b、室内蒸発器18、蒸発圧力調整弁19、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に循環する冷媒回路に切り替えられる。
【0127】
また、単独直列除湿暖房モードの室内空調ユニット50では、制御装置60が、単独冷房モードと同様に、室内送風機52の送風能力、エアミックスドア54の開度、内外気切替装置53、および吹出モードドアの作動を制御する。また、制御装置60は、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。
【0128】
従って、単独直列除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、室内凝縮器13を、凝縮器として機能させ、室内蒸発器18を、蒸発器として機能させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
【0129】
さらに、単独直列除湿暖房モードでは、室外熱交換器15における冷媒の飽和温度が外気温Tamよりも高い場合には、室外熱交換器15を凝縮器として機能させる。また、室外熱交換器15における冷媒の飽和温度が外気温Tamよりも低い場合には、室外熱交換器15を蒸発器として機能させる。
【0130】
単独直列除湿暖房モードの室内空調ユニット50では、室内送風機52から送風された送風空気が室内蒸発器18にて冷却されて除湿される。室内蒸発器18にて冷却されて除湿された送風空気は、エアミックスドア54の開度に応じて、目標吹出温度TAOに近づくように室内凝縮器13にて再加熱される。そして、温度調整された送風空気が車室内へ吹き出されることによって、車室内の除湿暖房が実現される。
【0131】
(b-2)冷却直列除湿暖房モード
冷却直列除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、単独直列除湿暖房モードに対して、制御装置60が、冷却用膨張弁14cを絞り状態とする。
【0132】
このため、冷却直列除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、圧縮機11から吐出された冷媒が、単独直列除湿暖房モードと同様に循環する。同時に、圧縮機11から吐出された冷媒が、室内凝縮器13、絞り状態となっている暖房用膨張弁14a、室外熱交換器15、絞り状態になっている冷却用膨張弁14c、チラー20、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に循環する冷媒回路に切り替えられる。つまり、室内蒸発器18とチラー20が、冷媒の流れに対して並列的に接続される冷媒回路に切り替えられる。
【0133】
また、冷却直列除湿暖房モードの低温側熱媒体回路30では、制御装置60が、冷却冷房モードと同様に、低温側ポンプ31の作動を制御する。このため、冷却直列除湿暖房モードの低温側熱媒体回路30では、冷却冷房モードと同様に、低温側熱媒体が循環する。
【0134】
また、冷却直列除湿暖房モードの室内空調ユニット50では、制御装置60が、単独冷房モードと同様に、室内送風機52の送風能力、エアミックスドア54の開度、内外気切替装置53、および吹出モードドアの作動を制御する。また、制御装置60は、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。
【0135】
従って、冷却直列除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、室内凝縮器13を、凝縮器として機能させ、室内蒸発器18およびチラー20を、蒸発器として機能させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
【0136】
さらに、冷却直列除湿暖房モードでは、単独直列除湿暖房モードと同様に、室外熱交換器15における冷媒の飽和温度が外気温Tamよりも高い場合には、室外熱交換器15を凝縮器として機能させる。また、室外熱交換器15における冷媒の飽和温度が外気温Tamよりも低い場合には、室外熱交換器15を蒸発器として機能させる。
【0137】
冷却直列除湿暖房モードの低温側熱媒体回路30では、冷却冷房モードと同様に、チラー20にて冷却された低温側熱媒体がバッテリ70の冷却水通路70aを流通することによって、バッテリ70が冷却される。
【0138】
冷却直列除湿暖房モードの室内空調ユニット50では、単独直列除湿暖房モードと同様に、温度調整された送風空気が車室内へ吹き出されることによって、車室内の除湿暖房が実現される。
【0139】
(c)並列除湿暖房モード
並列除湿暖房モードは、冷却されて除湿された送風空気を直列除湿暖房モードよりも高い加熱能力で再加熱し、車室内へ吹き出すことによって車室内の除湿暖房を行う運転モードである。本実施形態の制御プログラムでは、外気温Tamが予め定めた低中温域の温度(本実施形態では、0℃以上、10℃未満)になっている際に、並列除湿暖房モードが選択される。
【0140】
並列除湿暖房モードには、バッテリ70の冷却を行うことなく車室内の除湿暖房を行う単独並列除湿暖房モード、およびバッテリ70の冷却を行うとともに車室内の除湿暖房を行う冷却並列除湿暖房モードがある。
【0141】
(c-1)単独並列除湿暖房モード
単独並列除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、制御装置60が、暖房用膨張弁14aを絞り状態とし、冷房用膨張弁14bを絞り状態とし、冷却用膨張弁14cを全閉状態とし、バイパス側流量調整弁14dを全閉状態とし、除霜用流量調整弁14eを全開状態とする。また、制御装置60は、除湿用開閉弁22aを開く。
【0142】
このため、単独並列除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、圧縮機11から吐出された冷媒が、室内凝縮器13、絞り状態となっている暖房用膨張弁14a、室外熱交換器15、暖房用通路21c、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に冷媒が循環する。同時に、圧縮機11から吐出された冷媒が、室内凝縮器13、除湿用通路21b、絞り状態となっている冷房用膨張弁14b、室内蒸発器18、蒸発圧力調整弁19、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に冷媒が循環する冷媒回路に切り替えられる。つまり、室外熱交換器15と室内蒸発器18が、冷媒の流れに対して並列的に接続される冷媒回路に切り替えられる。
【0143】
また、単独並列除湿暖房モードの室内空調ユニット50では、制御装置60が、単独冷房モードと同様に、室内送風機52の送風能力、エアミックスドア54の開度、内外気切替装置53、および吹出モードドアの作動を制御する。また、制御装置60は、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。
【0144】
従って、単独並列除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、室内凝縮器13を、凝縮器として機能させ、室外熱交換器15および室内蒸発器18を、蒸発器として機能させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
【0145】
単独並列除湿暖房モードの室内空調ユニット50では、室内送風機52から送風された送風空気が室内蒸発器18にて冷却されて除湿される。室内蒸発器18にて冷却されて除湿された送風空気は、エアミックスドア54の開度に応じて、目標吹出温度TAOに近づくように室内凝縮器13にて再加熱される。そして、温度調整された送風空気が車室内へ吹き出されることによって、車室内の除湿暖房が実現される。
【0146】
さらに、単独並列除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、暖房用膨張弁14aの絞り開度を、冷房用膨張弁14bの絞り開度よりも減少させることができる。これによれば、室外熱交換器15における冷媒蒸発温度を、室内蒸発器18における冷媒蒸発温度よりも低い温度に低下させることができる。
【0147】
従って、単独並列除湿暖房モードでは、単独直列除湿暖房モードよりも室外熱交換器15における冷媒の外気からの吸熱量を増加させて、室内凝縮器13における冷媒から送風空気への放熱量を増加させることができる。その結果、単独並列除湿暖房モードでは、室内凝縮器13における送風空気の加熱能力を、単独直列除湿暖房モードよりも向上させることができる。
【0148】
(c-2)冷却並列除湿暖房モード
冷却並列除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、単独並列除湿暖房モードに対して、制御装置60が、冷却用膨張弁14cを絞り状態とする。
【0149】
このため、冷却並列除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、圧縮機11から吐出された冷媒が、単独並列除湿暖房モードと同様に循環する。同時に、圧縮機11から吐出された冷媒が、室内凝縮器13、除湿用通路21b、絞り状態になっている冷却用膨張弁14c、チラー20、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に循環する冷媒回路に切り替えられる。つまり、室外熱交換器15、室内蒸発器18、およびチラー20が、冷媒の流れに対して並列的に接続される冷媒回路に切り替えられる。
【0150】
また、冷却並列除湿暖房モードの低温側熱媒体回路30では、制御装置60が、冷却冷房モードと同様に、低温側ポンプ31の作動を制御する。このため、冷却直列除湿暖房モードの低温側熱媒体回路30では、冷却冷房モードと同様に、低温側熱媒体が循環する。
【0151】
また、冷却並列除湿暖房モードの室内空調ユニット50では、制御装置60が、単独冷房モードと同様に、室内送風機52の送風能力、エアミックスドア54の開度、内外気切替装置53、および吹出モードドアの作動を制御する。また、制御装置60は、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。
【0152】
従って、冷却並列除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、室内凝縮器13を、凝縮器として機能させ、室外熱交換器15、室内蒸発器18およびチラー20を、蒸発器として機能させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
【0153】
冷却並列除湿暖房モードの低温側熱媒体回路30では、冷却冷房モードと同様に、チラー20にて冷却された低温側熱媒体がバッテリ70の冷却水通路70aを流通することによって、バッテリ70が冷却される。
【0154】
冷却並列除湿暖房モードの室内空調ユニット50では、単独並列除湿暖房モードと同様に、温度調整された送風空気が車室内へ吹き出されることによって、車室内の除湿暖房が実現される。
【0155】
(d)暖房モード
暖房モードは、加熱された送風空気を車室内へ吹き出すことによって車室内の暖房を行う運転モードである。本実施形態の制御プログラムでは、主に冬季のように外気温Tamが比較的低い値(本実施形態では、0℃未満)になっている際に、暖房モードが選択される。
【0156】
暖房モードには、バッテリ70の冷却を行うことなく車室内の暖房を行う単独暖房モード、およびバッテリ70の冷却を行うとともに車室内の暖房を行う冷却暖房モードがある。
【0157】
(d-1)単独暖房モード
単独暖房モードのヒートポンプサイクル10では、制御装置60が、暖房用膨張弁14aを絞り状態とし、冷房用膨張弁14bを全閉状態とし、冷却用膨張弁14cを全閉状態とし、バイパス側流量調整弁14dを全閉状態とし、除霜用流量調整弁14eを全開状態とする。また、制御装置60は、除湿用開閉弁22aを閉じる。
【0158】
このため、単独暖房モードのヒートポンプサイクル10では、圧縮機11から吐出された冷媒が、室内凝縮器13、絞り状態となっている暖房用膨張弁14a、室外熱交換器15、暖房用通路21c、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に冷媒が循環する冷媒回路に切り替えられる。
【0159】
また、単独暖房モードの室内空調ユニット50では、制御装置60が、単独冷房モードと同様に、室内送風機52の送風能力、エアミックスドア54の開度、内外気切替装置53、および吹出モードドアの作動を制御する。また、制御装置60は、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。
【0160】
従って、単独暖房モードのヒートポンプサイクル10では、室内凝縮器13を、凝縮器として機能させ、室外熱交換器15を、蒸発器として機能させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
【0161】
単独暖房モードの室内空調ユニット50では、室内送風機52から送風された送風空気が、室内蒸発器18を通過する。室内蒸発器18を通過した送風空気は、エアミックスドア54の開度に応じて、目標吹出温度TAOに近づくように室内凝縮器13にて加熱される。そして、温度調整された送風空気が車室内へ吹き出されることによって、車室内の暖房が実現される。
【0162】
(d-2)冷却暖房モード
冷却暖房モードのヒートポンプサイクル10では、単独暖房モードに対して、制御装置60が、冷却用膨張弁14cを絞り状態とする。また、制御装置60は、除湿用開閉弁22aを開く。
【0163】
このため、冷却暖房モードのヒートポンプサイクル10では、圧縮機11から吐出された冷媒が、単独暖房モードと同様に循環する。同時に、圧縮機11から吐出された冷媒が、室内凝縮器13、除湿用通路21b、絞り状態になっている冷却用膨張弁14c、チラー20、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に循環する冷媒回路に切り替えられる。つまり、室外熱交換器15とチラー20が、冷媒の流れに対して並列的に接続される冷媒回路に切り替えられる。
【0164】
また、冷却暖房モードの低温側熱媒体回路30では、制御装置60が、冷却冷房モードと同様に、低温側ポンプ31の作動を制御する。このため、冷却直列除湿暖房モードの低温側熱媒体回路30では、冷却冷房モードと同様に、低温側熱媒体が循環する。
【0165】
また、冷却暖房モードの室内空調ユニット50では、制御装置60が、単独冷房モードと同様に、室内送風機52の送風能力、エアミックスドア54の開度、内外気切替装置53、および吹出モードドアの作動を制御する。また、制御装置60は、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。
【0166】
従って、冷却暖房モードのヒートポンプサイクル10では、室内凝縮器13を、凝縮器として機能させ、室外熱交換器15およびチラー20を、蒸発器として機能させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
【0167】
冷却暖房モードの低温側熱媒体回路30では、冷却冷房モードと同様に、チラー20にて冷却された低温側熱媒体がバッテリ70の冷却水通路70aを流通することによって、バッテリ70が冷却される。
【0168】
冷却暖房モードの室内空調ユニット50では、単独暖房モードと同様に、温度調整された送風空気が車室内へ吹き出されることによって、車室内の暖房が実現される。
【0169】
(e)ホットガス暖房モード
ホットガス暖房モードは、外気温Tamが極低温(本実施形態では、-10℃未満)になっている際に、車室内の暖房を行う運転モードである。本実施形態の制御プログラムでは、外気温Tamが極低温になっており、かつ、エアコンスイッチが非投入状態(OFF)になっている際に、ホットガス暖房モードが選択される。
【0170】
ホットガス暖房モードでは、
図5のフローチャートに示される高低圧差制御が実行される。
図5に示すフローチャートは、メインルーチンのステップS4にて、高低圧差制御が実行される運転モードが選択された際に、ステップS5にて、サブルーチンとして実行される制御処理である。
【0171】
まず、
図5のステップS11では、選択された運転モードに応じて、高低圧差ΔPの目標値である目標高低圧差ΔPOを決定する。高低圧差ΔPは、吐出冷媒温度圧力センサ62aによって検出された吐出冷媒圧力Pdから吸入冷媒温度圧力センサ62fよって検出された吸入冷媒圧力Psを減算した値である。従って、ステップS11は、目標高低圧差決定部である。
【0172】
ホットガス暖房モードのステップS11では、目標吹出温度TAOに基づいて、予め制御装置60に記憶されている制御マップを参照して目標高低圧差ΔPOを決定する。ホットガス暖房モードの制御マップでは、目標吹出温度TAOの上昇に伴って、目標高低圧差ΔPOを増加させるように決定する。
【0173】
次に、ステップS12では、各運転モードに応じて各制御対象機器の作動状態が決定される。次に、ステップS13では、ステップS12で決定された作動状態となるように、制御装置60から各制御対象機器へ制御信号が出力されて、メインルーチンへ戻る。
【0174】
ホットガス暖房モードのヒートポンプサイクル10では、制御装置60が、暖房用膨張弁14aを全閉状態とし、冷房用膨張弁14bを全閉状態とし、冷却用膨張弁14cを絞り状態とし、バイパス側流量調整弁14dを絞り状態とし、除霜用流量調整弁14eを全閉状態とする。また、制御装置60は、除湿用開閉弁22aを開く。
【0175】
このため、ホットガス暖房モードのヒートポンプサイクル10では、
図6の実線矢印で示すように、圧縮機11から吐出された冷媒が、第1三方継手12a、室内凝縮器13、除湿用通路21b、四方継手12x、絞り状態となっている冷却用膨張弁14c、第6三方継手12f、チラー20、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に循環する。同時に、圧縮機11から吐出された冷媒が、第1三方継手12a、絞り状態となっているバイパス通路21aに配置されたバイパス側流量調整弁14d、第6三方継手12f、チラー20、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に循環する冷媒回路に切り替えられる。
【0176】
従って、ホットガス暖房モード時の冷却用膨張弁14cは、室内凝縮器13から流出した冷媒を減圧させる加熱部側減圧部となる。また、ホットガス暖房モード時の第6三方継手12fは、バイパス側流量調整弁14dから流出した冷媒と冷却用膨張弁14cから流出した冷媒とを混合させる混合部となる。
【0177】
さらに、制御装置60は、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。具体的には、圧縮機11については、制御装置60は、吸入冷媒圧力Psが第1目標吸入冷媒圧力PSO1に近づくように、圧縮機11の冷媒吐出能力(すなわち、回転数)を制御する。より詳細には、制御装置60は、比例積分制御によるフィードバック制御手法を用いて、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御する。
【0178】
ここで、吸入冷媒圧力Psを予め定めた値に近づくように制御することは、圧縮機11の吐出流量Gr(質量流量)を安定化させるために有効である。より詳細には、吸入冷媒圧力Psを一定の圧力の飽和気相冷媒とすることで、吸入冷媒の密度が一定となる。従って、吸入冷媒圧力Psを一定の圧力に近づくように制御すると、同一回転数時における圧縮機11の吐出流量Grを安定化させやすい。
【0179】
また、制御装置60は、室内凝縮器13から流出した冷媒の過冷却度SC1が第1目標過冷却度SCO1に近づくように、冷却用膨張弁14cの絞り開度を調整する。過冷却度SC1は、高圧側冷媒温度圧力センサ62bによって検出された高圧側冷媒温度T1および高圧側冷媒圧力P1から求めることができる。第1目標過冷却度SCO1は、サイクルの成績係数(COP)を極大値に近づけるように決定されている。
【0180】
また、制御装置60は、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、バイパス側流量調整弁14dの絞り開度を調整する。より詳細には、制御装置60は、目標高低圧差ΔPOに基づいて、フィードフォワード制御手法を用いて、バイパス側流量調整弁14dの作動を制御する。
【0181】
ここで、制御装置60がバイパス側流量調整弁14dの作動を制御する際のフィードフォワード制御手法について説明する。前述の如く、ホットガス暖房モードでは、吸入冷媒圧力Psが第1目標吸入冷媒圧力PSO1に近づくように、圧縮機11の冷媒吐出能力が制御される。このため、圧縮機11の吸入冷媒の密度ρおよび吐出流量Grが、一定値に近づく。
【0182】
そこで、ホットガス暖房モードでは、以下数式F2を用いて、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOとなるバイパス側流量調整弁14dの絞り通路面積Abを推定する。
Gr=ρ×Ab×(2×ΔPO/ρ)0.5 …(F2)
ここで、Grは、圧縮機11の吐出流量であって、絞り通路面積Abを算定する際には一定値(const)として用いる。そして、数式F2を用いて推定した絞り通路面積Abとなるように、バイパス側流量調整弁14dの作動を制御する。
【0183】
従って、現在の高低圧差ΔPを増加させる際には、バイパス側流量調整弁14dの絞り開度を減少させる。一方、現在の高低圧差ΔPを減少させる際には、バイパス側流量調整弁14dの絞り開度を増加させる。
【0184】
また、ホットガス暖房モードの低温側熱媒体回路30では、制御装置60が、低温側ポンプ31を停止させる。
【0185】
また、ホットガス暖房モードの室内空調ユニット50では、制御装置60が、単独冷房モードと同様に、室内送風機52の送風能力、エアミックスドア54の開度、および吹出モードドアの作動を制御する。ホットガス暖房モードでは、制御装置60は、室内送風機52から送風された送風空気の殆ど全風量が室内凝縮器13を通過するように、エアミックスドア54の開度を制御することが多い。
【0186】
また、制御装置60は、空調ケース51内へ内気を導入するように内外気切替装置53の作動を制御する。
【0187】
従って、ホットガス暖房モードのヒートポンプサイクル10では、
図7のモリエル線図に示すように、冷媒の状態が変化する。
【0188】
すなわち、圧縮機11から吐出された吐出冷媒(
図7のa7点)の流れが、第1三方継手12aにて分岐される。第1三方継手12aにて分岐された一方の冷媒は、室内凝縮器13へ流入して、室内蒸発器18を通過した送風空気に放熱する(
図7のa7点からb7点へ)。これにより、送風空気が加熱される。
【0189】
室内凝縮器13から流出した冷媒は、除湿用通路21bへ流入する。除湿用通路21bへ流入した冷媒は、冷房用膨張弁14bが全閉状態となっているので、冷却用膨張弁14cへ流入して減圧される(
図7のb7点からc7点へ)。冷却用膨張弁14cから流出した比較的エンタルピの低い冷媒は、第6三方継手12fの他方の流入口へ流入する。
【0190】
また、第1三方継手12aにて分岐された他方の冷媒は、バイパス通路21aへ流入する。バイパス通路21aへ流入した冷媒は、バイパス側流量調整弁14dにて流量調整されて減圧される(
図7のa7点からd7点へ)。バイパス側流量調整弁14dにて減圧された比較的エンタルピの高い冷媒は、第6三方継手12fの一方の流入口へ流入する。
【0191】
バイパス側流量調整弁14dから流出した冷媒と冷却用膨張弁14cから流出した冷媒は、第6三方継手12fにて混合される。第6三方継手12fから流出した冷媒は、チラー20へ流入する。ホットガス暖房モードでは、低温側ポンプ31が停止しているので、チラー20へ流入した冷媒は、冷媒通路を流通する際に、低温側熱媒体と熱交換することなく、チラー20にて均質に混合される(
図7のe7点)。
【0192】
チラー20の冷媒通路から流出した冷媒は、アキュムレータ23へ流入する。アキュムレータ23にて分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0193】
ホットガス暖房モードの室内空調ユニット50では、室内蒸発器18を通過した送風空気が、室内凝縮器13にて加熱されて車室内へ吹き出される。これにより、車室内の暖房が実現される。
【0194】
ここで、ホットガス暖房モードは、外気温Tamが極低温になっている際に実行される運転モードである。このため、室内凝縮器13から流出した冷媒を室外熱交換器15へ流入させると、室外熱交換器15にて冷媒が外気に放熱してしまう可能性がある。さらに、低温側ポンプ31を作動させていると、チラー20にて冷媒が低温側熱媒体に放熱してしまう可能性がある。
【0195】
そして、冷媒が外気や低温側熱媒体に放熱してしまうと、室内凝縮器13にて冷媒が送風空気に放熱する放熱量が減少して、送風空気の加熱能力が減少してしまう。
【0196】
これに対して、本実施形態のホットガス暖房モードでは、室内凝縮器13から流出した冷媒を室外熱交換器15へ流入させない冷媒回路とすることで、室外熱交換器15にて冷媒が外気に放熱してしまうことを抑制している。さらに、低温側ポンプ31を停止させることで、チラー20にて冷媒が低温側熱媒体に放熱してしまうことを抑制している。
【0197】
従って、ホットガス暖房モードでは、圧縮機11の仕事によって生じた熱を、送風空気を加熱するために有効に利用することができる。その結果、外気温Tamが極低温になっていても、送風空気の加熱能力の低下を抑制することができる。
【0198】
(f)ホットガス除湿暖房モード
ホットガス除湿暖房モードは、外気温Tamが極低温となっている際に、車室内の除湿暖房を行う運転モードである。本実施形態の制御プログラムでは、外気温Tamが極低温(-10℃未満)になっており、かつ、エアコンスイッチが投入状態(ON)になっている際に、ホットガス除湿暖房モードが選択される。
【0199】
ホットガス除湿暖房モードは、外気温Tamが低温となっている際に、車室内の除湿暖房を行う運転モードである。本実施形態の制御プログラムでは、外気温Tamが低温(本実施形態では、0℃以上、10℃未満)になっており、かつ、エアコンスイッチが投入状態(ON)になっている際に、ホットガス除湿暖房モードが選択される。
【0200】
ホットガス除湿暖房モードでは、ホットガス暖房モードと同様に、
図5を用いて説明した高低圧差制御が実行される。ホットガス除湿暖房モードのステップS11では、ホットガス暖房モードと同様に、目標吹出温度TAOに基づいて、予め制御装置60に記憶されている制御マップを参照して目標高低圧差ΔPOを決定する。
【0201】
ホットガス除湿暖房モードの制御マップでは、目標吹出温度TAOの上昇に伴って、目標高低圧差ΔPOを増加させるように決定する。さらに、ホットガス除湿暖房モードの制御マップによって決定される目標高低圧差ΔPOは、同一の目標吹出温度TAOとなっている際に、ホットガス暖房モードの制御マップによって決定される目標高低圧差ΔPO以上の値となる。
【0202】
ホットガス除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、制御装置60が、暖房用膨張弁14aを全閉状態とし、冷房用膨張弁14bを絞り状態とし、冷却用膨張弁14cを絞り状態とし、バイパス側流量調整弁14dを絞り状態とし、除霜用流量調整弁14eを全閉状態とする。また、制御装置60は、除湿用開閉弁22aを開く。
【0203】
このため、ホットガス除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、
図8の実線矢印で示すように、圧縮機11から吐出された冷媒が、ホットガス暖房モードと同様に循環する。同時に、圧縮機11から吐出された冷媒が、第1三方継手12a、室内凝縮器13、除湿用通路21b、四方継手12x、絞り状態となっている冷房用膨張弁14b、室内蒸発器18、蒸発圧力調整弁19、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に冷媒が循環する冷媒回路に切り替えられる。
【0204】
従って、ホットガス除湿暖房モード時の冷却用膨張弁14cは、加熱部である室内凝縮器13から流出した冷媒を減圧させる加熱部側減圧部となる。また、ホットガス除湿暖房モード時の第6三方継手12fは、バイパス側流量調整弁14dから流出した冷媒と冷却用膨張弁14cから流出した冷媒とを混合させる混合部となる。
【0205】
さらに、制御装置60は、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。具体的には、圧縮機11については、制御装置60は、吸入冷媒圧力Psが第2目標吸入冷媒圧力PSO2に近づくように、ホットガス暖房モードと同様に、圧縮機11の冷媒吐出能力(すなわち、回転数)を制御する。第2目標吸入冷媒圧力PSO2は、確実な除湿を実現するために、第1目標吸入冷媒圧力PSO1以下の値に設定されている。
【0206】
また、制御装置60は、室内凝縮器13から流出した冷媒の過冷却度SC1が第2目標過冷却度SCO2に近づくように、冷却用膨張弁14cの絞り開度を調整する。第2目標過冷却度SCO2は、サイクルの成績係数(COP)を極大値に近づけるように決定されている。
【0207】
また、制御装置60は、予め定めたホットガス除湿暖房モード用の絞り開度となるように、冷房用膨張弁14bの絞り開度を調整する。
【0208】
また、制御装置60は、ホットガス暖房モードと同様に、フィードフォワード制御手法を用いて、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、バイパス側流量調整弁14dの絞り開度を調整する。
【0209】
また、ホットガス除湿暖房モードの低温側熱媒体回路30では、制御装置60が、低温側ポンプ31を停止させる。
【0210】
また、ホットガス除湿暖房モードの室内空調ユニット50では、制御装置60が、ホットガス暖房モードと同様に、室内送風機52の送風能力、エアミックスドア54の開度、内外気切替装置53、および吹出モードドアの作動を制御する。
【0211】
従って、ホットガス除湿暖房モードのヒートポンプサイクル10では、
図9のモリエル線図に示すように、冷媒の状態が変化する。
【0212】
すなわち、圧縮機11から吐出された吐出冷媒(
図9のa9点)の流れが、第1三方継手12aにて分岐される。第1三方継手12aにて分岐された一方の冷媒は室内凝縮器13へ流入して、室内蒸発器18にて冷却されて除湿された送風空気に放熱する(
図9のa9点からb9点へ)。これにより、送風空気が再加熱される。
【0213】
室内凝縮器13から流出した冷媒は、除湿用通路21bを介して、四方継手12xの1つの流入口へ流入する。
【0214】
四方継手12xの1つの流出口から流出した冷媒は、冷房用膨張弁14bへ流入して減圧される(
図9のb9点からf9点へ)。冷房用膨張弁14bで減圧された冷媒は、室内蒸発器18へ流入する。室内蒸発器18へ流入した冷媒は、室内送風機52から送風された送風空気(本実施形態では、内気)と熱交換して蒸発する(
図9のf9点からe9点へ)。これにより、室内送風機52から送風された送風空気が冷却されて除湿される。
【0215】
室内蒸発器18から流出した冷媒は、蒸発圧力調整弁19および第2逆止弁16bを介して、第5三方継手12eへ流入する。
【0216】
また、四方継手12xの別の1つの流出口から流出した冷媒は、ホットガス暖房モードと同様に、冷却用膨張弁14cへ流入して減圧される(
図9のb9点からc9点へ)。冷却用膨張弁14cにて減圧された冷媒は、ホットガス暖房モードと同様に、第6三方継手12fの他方の流入口へ流入する。
【0217】
ここで、
図9では、図示の明確化のため、冷却用膨張弁14cにて減圧された冷媒(
図9のd9点)の圧力を、冷房用膨張弁14bで減圧された冷媒(
図9のf9点)の圧力よりも高い値としているが、これに限定されない。冷却用膨張弁14cにて減圧された冷媒の圧力は、冷房用膨張弁14bで減圧された冷媒の圧力よりも低い値になっていてもよいし、同等の値となっていてもよい。
【0218】
また、第1三方継手12aにて分岐された他方の冷媒は、バイパス通路21aに配置されたバイパス側流量調整弁14dにて流量調整されて減圧される(
図9のa9点からd9点へ)。バイパス側流量調整弁14dにて減圧された冷媒は、ホットガス暖房モードと同様に、第6三方継手12fの一方の流入口へ流入する。
【0219】
バイパス側流量調整弁14dから流出した冷媒と冷却用膨張弁14cから流出した冷媒は、ホットガス暖房モードと同様に、第6三方継手12fにて混合される。さらに、第6三方継手12fからチラー20へ流入した冷媒は、チラー20にて均質に混合される。チラー20から流出した冷媒は、第5三方継手12eへ流入する。
【0220】
第5三方継手12eでは、室内蒸発器18から流出した冷媒の流れとチラー20から流出した冷媒の流れが合流する。第5三方継手12eから流出した冷媒は、アキュムレータ23へ流入する。アキュムレータ23にて分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0221】
ホットガス除湿暖房モードの室内空調ユニット50では、室内蒸発器18にて冷却されて除湿された送風空気が、室内凝縮器13にて再加熱されて車室内へ吹き出される。これにより、車室内の除湿暖房が実現される。
【0222】
従って、ホットガス除湿暖房モードでは、ホットガス暖房モードと同様に、圧縮機11の仕事によって生じた熱を、送風空気を加熱するために有効に利用することができる。さらに、室内蒸発器18にて冷媒が送風空気から吸熱した熱を、送風空気を加熱するために利用することができる。その結果、ホットガス除湿暖房モードでは、外気温Tamが低温になっていても、送風空気の加熱能力の低下を抑制することができる。
【0223】
(g)単独冷却モード
単独冷却モードは、車室内の空調を行うことなく、バッテリ70の冷却を行う運転モードである。
【0224】
単独冷却モードのヒートポンプサイクル10では、制御装置60が、暖房用膨張弁14aを全開状態とし、冷房用膨張弁14bを全閉状態とし、冷却用膨張弁14cを絞り状態とし、バイパス側流量調整弁14dを全閉状態とし、除霜用流量調整弁14eを全閉状態とする。また、制御装置60は、除湿用開閉弁22aを閉じる。
【0225】
このため、単独冷却モードのヒートポンプサイクル10では、圧縮機11から吐出された冷媒が、室内凝縮器13、全開状態となっている暖房用膨張弁14a、室外熱交換器15、絞り状態になっている冷却用膨張弁14c、チラー20、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に循環する冷媒回路に切り替えられる。
【0226】
また、単独冷却モードの低温側熱媒体回路30では、制御装置60が、冷房冷却モードと同様に、低温側ポンプ31を作動させる。このため、低温側熱媒体回路30では、低温側ポンプ31から圧送された低温側熱媒体が、冷却冷房モードと同様に循環する。
【0227】
また、単独冷却モードの室内空調ユニット50では、制御装置60が、室内送風機52停止させる。
【0228】
従って、単独冷却モードのヒートポンプサイクル10では、室外熱交換器15を、凝縮器として機能させ、チラー20を、蒸発器として機能させる蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
【0229】
単独冷却モードの低温側熱媒体回路30では、冷却冷房モードと同様に、チラー20にて冷却された低温側熱媒体がバッテリ70の冷却水通路70aを流通することによって、バッテリ70が冷却される。
【0230】
(h)単独暖機モード
単独暖機モードは、バッテリ70の暖機を行う運転モードである。本実施形態の制御プログラムでは、バッテリ温度TBが、予め定めた基準暖機温度KTBL1以下となっている状態で、IGスイッチが投入状態(ON)にされた際に、単独暖機モードが選択される。
【0231】
単独暖機モードでは、ホットガス暖房モードと同様に、
図5を用いて説明した高低圧差制御が実行される。単独暖機モードのステップS11では、外気温Tamに基づいて、予め制御装置60に記憶されている制御マップを参照して目標高低圧差ΔPOを決定する。単独暖機モードの制御マップでは、外気温Tamの低下に伴って、目標高低圧差ΔPOを増加させるように決定する。
【0232】
単独暖機モードのヒートポンプサイクル10では、制御装置60が、暖房用膨張弁14aを全閉状態とし、冷房用膨張弁14bを全閉状態とし、冷却用膨張弁14cを絞り状態とし、バイパス側流量調整弁14dを全閉状態とし、除霜用流量調整弁14eを全閉状態とする。また、制御装置60は、除湿用開閉弁22aを開く。
【0233】
このため、単独暖機モードのヒートポンプサイクル10では、
図10の実線矢印で示すように、圧縮機11から吐出された冷媒が、室内凝縮器13、除湿用通路21b、絞り状態となっている冷却用膨張弁14c、チラー20、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に冷媒が循環する冷媒回路に切り替えられる。
【0234】
さらに、制御装置60は、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。具体的には、圧縮機11については、制御装置60は、吐出冷媒圧力Pdが、単独暖機モード用の目標吐出冷媒圧力PDO1に近づくように、ホットガス暖房モードと同様に、圧縮機11の冷媒吐出能力(すなわち、回転数)を制御する。
【0235】
また、制御装置60は、ホットガス暖房モードと同様に、フィードフォワード制御手法を用いて、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、冷却用膨張弁14cの絞り開度を調整する。
【0236】
また、単独暖機モードの低温側熱媒体回路30では、制御装置60が、冷却冷房モードと同様に、低温側ポンプ31の作動を制御する。このため、冷却直列除湿暖房モードの低温側熱媒体回路30では、冷却冷房モードと同様に、低温側熱媒体が循環する。
【0237】
また、単独暖機モードの室内空調ユニット50では、制御装置60が、室内送風機52を停止させる。
【0238】
従って、単独暖機モードのヒートポンプサイクル10では、
図11のモリエル線図に示すように、冷媒の状態が変化する。
【0239】
すなわち、圧縮機11から吐出された吐出冷媒(
図11のa11点)が、室内凝縮器13および除湿用通路21bを介して、冷却用膨張弁14cへ流入して減圧される(
図11のa11点からb11点へ)。ここで、単独暖機モードでは、室内送風機52が停止しているので、室内凝縮器13にて冷媒が送風空気に放熱してしまうことはない。
【0240】
冷却用膨張弁14cから流出した冷媒は、チラー20の冷媒通路へ流入する。チラー20の冷媒通路へ流入した冷媒は、チラー20の熱媒体通路を流通する低温側熱媒体に放熱する(
図11のb11点からc11点へ)。これにより、低温側熱媒体が加熱される。チラー20から流出した冷媒は、アキュムレータ23へ流入する。アキュムレータ23にて分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0241】
単独暖機モードの低温側熱媒体回路30では、低温側ポンプ31から圧送された低温側熱媒体がチラー20へ流入して加熱される。そして、チラー20にて加熱された低温側熱媒体がバッテリ70の冷却水通路70aを流通することによって、バッテリ70の暖機がなされる。
【0242】
上述の説明から明らかなように、単独暖機モード時の冷却用膨張弁14cは、上流側減圧部である。単独暖機モード時のバッテリ70は、低圧側加熱対象物である。単独暖機モード時のチラー20および低温側熱媒体回路30の各構成機器は、低圧側加熱部である。また、単独暖機モードは、バッテリ温度TBが、予め定めた暖機終了KTBL2以上となった際に終了すればよい。
【0243】
(i)除霜モード
除霜モードは、室外熱交換器15に付いた霜を取り除くために実行される運転モードである。本実施形態の制御プログラムでは、並列除湿暖房モードおよび暖房モードの実行中に、着霜条件が成立したと判定された際に、除霜モードが選択される。
【0244】
ここで、本実施形態の着霜条件は、並列除湿暖房モードおよび暖房モードの実行中に、室外器側冷媒温度圧力センサ62cによって検出された室外器側冷媒温度T2が基準着霜温度KTDF(本実施形態では、-5℃)以下となっている時間が、基準着霜時間KTmDF(本実施形態では、5分)以上となった際に成立する。
【0245】
除霜モードでは、ホットガス暖房モードと同様に、
図5を用いて説明した高低圧差制御が実行される。除霜モードのステップS11では、外気温Tamに基づいて、予め制御装置60に記憶されている制御マップを参照して目標高低圧差ΔPOを決定する。除霜モードの制御マップでは、外気温Tamの低下に伴って、目標高低圧差ΔPOを増加させるように決定する。
【0246】
除霜モードのヒートポンプサイクル10では、制御装置60が、暖房用膨張弁14aを全開状態とし、冷房用膨張弁14bを全閉状態とし、冷却用膨張弁14cを全閉状態とし、バイパス側流量調整弁14dを全閉状態とし、除霜用流量調整弁14eを絞り状態とする。また、制御装置60は、除湿用開閉弁22aを閉じる。
【0247】
このため、除霜モードのヒートポンプサイクル10では、
図12の実線矢印で示すように、圧縮機11から吐出された冷媒が、室内凝縮器13、全開状態となっている暖房用膨張弁14a、室外熱交換器15、絞り状態となっている暖房用通路21cに配置された除霜用流量調整弁14e、アキュムレータ23、圧縮機11の吸入口の順に冷媒が循環する冷媒回路に切り替えられる。
【0248】
さらに、制御装置60は、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。具体的には、圧縮機11については、制御装置60は、吸入冷媒圧力Psが除霜モード用の第3目標吸入冷媒圧力PSO3に近づくように、ホットガス暖房モードと同様に、圧縮機11の冷媒吐出能力(すなわち、回転数)を制御する。
【0249】
また、制御装置60は、ホットガス暖房モードと同様に、フィードフォワード制御手法を用いて、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、除霜用流量調整弁14eの絞り開度を調整する。
【0250】
また、除霜モードの室内空調ユニット50では、制御装置60が、室内送風機52を停止させる。
【0251】
従って、除霜モードのヒートポンプサイクル10では、
図13のモリエル線図に示すように、冷媒の状態が変化する。
【0252】
すなわち、圧縮機11から吐出された吐出冷媒(
図13のa13点)が、室内凝縮器13を介して、室外熱交換器15へ流入する。ここで、除霜モードでは、室内送風機52が停止しているので、室内凝縮器13にて冷媒が送風空気に放熱してしまうことはない。
【0253】
室外熱交換器15へ流入した冷媒は、室外熱交換器15に着いた霜に放熱する(
図13のa13点からb13点へ)。これにより、室外熱交換器15についた霜が融解して、室外熱交換器15の除霜が実現される。室外熱交換器15から流出した冷媒は、暖房用通路21cに配置された除霜用流量調整弁14eへ流入して減圧される(
図13のb13点からc13点へ)。
【0254】
除霜用流量調整弁14eから流出した冷媒は、アキュムレータ23へ流入する。アキュムレータ23にて分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0255】
上述の説明から明らかなように、除霜モード時の室外熱交換器15は、高圧側加熱部である。室外熱交換器15に着いた霜は、高圧側加熱対象物である。除霜モード時の除霜用流量調整弁14eは、下流側減圧部である。また、除霜モードは、予め定めた所定時間が経過した際に終了させて、並列除湿暖房モードおよび暖房モードへ移行すればよい。
【0256】
以上の如く、本実施形態の車両用空調装置1では、運転モードを切り替えることによって、車室内の快適な空調、および車載機器であるバッテリ70の適切な温度調整を行うことができる。
【0257】
ところで、本実施形態の車両用空調装置1のホットガス暖房モードおよびホットガス除湿暖房モードでは、主に圧縮機11の仕事によって生じた熱を用いて、加熱対象物である送風空気を加熱している。このため、ホットガス暖房モードおよびホットガス除湿暖房モードでは、圧縮機11の仕事量が、送風空気を加熱するために適切な熱量となるように、制御対象機器の作動を適切に制御する必要がある。
【0258】
例えば、吸入冷媒圧力Psが目標吸入冷媒圧力PSOに近づくように制御されるサイクルにおいて、室内凝縮器13における送風空気の加熱能力を増加させるために、圧縮機11の冷媒吐出能力を増加させたとする。この場合、サイクルを安定的に作動させることができなくなってしまう可能性がある。
【0259】
より詳細には、圧縮機11の冷媒吐出能力を増加させると、バイパス通路21aを介して吸入冷媒へ供給される熱量が増加するので、吸入冷媒圧力Psが上昇する。このため、吸入冷媒圧力Psを目標吸入冷媒圧力PSOに近づけるために、バイパス側流量調整弁14dの絞り開度を減少させて、吸入冷媒に供給される熱量を減少させることが考えられる。
【0260】
ところが、バイパス側流量調整弁14dが絞り開度を減少させて、吸入冷媒圧力Psを目標吸入冷媒圧力PSOに近づけることができたとしても、室内凝縮器13へ流入する吐出冷媒の有する熱量が供給過多になっていると、吐出冷媒圧力Pdが上昇し続けてしまう。その結果、サイクルを安定的に作動させることができなくなってしまう。
【0261】
同様に、例えば、吐出冷媒圧力Pdが所定の目標吐出冷媒圧力PDOに近づくように制御されるサイクルにおいて、室内凝縮器13における送風空気の加熱能力を増加させるために、圧縮機11の冷媒吐出能力を増加させたとする。この場合も、サイクルを安定的に作動させることができなくなってしまう可能性がある。
【0262】
より詳細には、圧縮機11の冷媒吐出能力を増加させると、室内凝縮器13へ流入する吐出冷媒の有する熱量が増加するので、吐出冷媒圧力Pdが上昇する。このため、吐出冷媒圧力Pdを目標吐出冷媒圧力PDOに近づけるために、バイパス側流量調整弁14dが絞り開度を増加させて、室内凝縮器13へ流入する吐出冷媒の有する熱量を減少させることが考えられる。
【0263】
ところが、バイパス側流量調整弁14dが絞り開度を増加させて、吐出冷媒圧力Pdを目標吐出冷媒圧力PDOに近づけることができたとしても、吸入冷媒へ供給される熱量が供給過多になっていると、吸入冷媒圧力Psが上昇し続けてしまう。その結果、サイクルを安定的に作動させることができなくなってしまう。
【0264】
これに対して、本実施形態の車両用空調装置1のホットガス暖房モードおよびホットガス除湿暖房モードでは、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、バイパス側流量調整弁14dの作動を制御する。従って、目標高低圧差ΔPOを適切に決定しておくことで、圧縮機11の仕事量を、送風空気を適切に加熱可能な熱量となるように調整することができる。
【0265】
その結果、ホットガス暖房モードおよびホットガス除湿暖房モードのように、主に圧縮機の仕事によって生じた熱を用いて送風空気を加熱する運転モードであっても、サイクルを安定的に作動させることができる。すなわち、送風空気を加熱する際の作動の安定性を向上させることができる。
【0266】
また、本実施形態の目標高低圧差決定部は、ホットガス暖房モードおよびホットガス除湿暖房モード時に、目標吹出温度TAOの上昇に伴って、目標高低圧差ΔPOを増加させるように決定している。これによれば、送風空気の加熱温度の上昇に伴って、圧縮機11の仕事量を増加させることができる。従って、目標高低圧差ΔPOを、適切に決定することができる。
【0267】
また、本実施形態の吐出能力制御部60aは、ホットガス暖房モードおよびホットガス除湿暖房モード時に、吸入冷媒圧力Psが、それぞれ第1目標吸入冷媒圧力PSO1および第2目標吸入冷媒圧力PSO2に近づくように、圧縮機11の作動を制御する。
【0268】
これによれば、それぞれの運転モードにおいて、圧縮機11の吐出流量Grを安定化させることができる。従って、目標高低圧差ΔPOを変化させることによって、圧縮機11の仕事量を、より精度良く調整することができる。
【0269】
また、本実施形態のバイパス側制御部60cは、フィードフォワード制御によって、バイパス側流量調整弁14dの作動を制御している。これによれば、圧縮機11の仕事量を速やかに変化させて、室内凝縮器13における送風空気の加熱能力を速やかに適切な値に調整することができる。
【0270】
また、本実施形態の車両用空調装置1の単独暖機モードでは、外気等から吸熱した熱を用いることなく、圧縮機11の仕事によって生じた熱を用いて、低圧側加熱対象物であるバッテリ70を暖機している。このため、単独暖機モードでは、圧縮機11の仕事量が、バッテリ70を暖機するために適切な熱量となるように、制御対象機器の作動を適切に制御する必要がある。
【0271】
例えば、吐出冷媒圧力Pdが所定の目標吐出冷媒圧力PDOに近づくように制御されるサイクルにおいて、チラー20および低温側熱媒体回路30によって構成される低圧側加熱部におけるバッテリ70の加熱能力を増加させるために、圧縮機11の冷媒吐出能力を増加させたとする。この場合、サイクルを安定的に作動させることができなくなってしまう可能性がある。
【0272】
より詳細には、圧縮機11の冷媒吐出能力を増加させると、吐出冷媒圧力Pdが上昇する。このため、吐出冷媒圧力Pdを目標吐出冷媒圧力PDOに近づけるために、上流側減圧部である冷却用膨張弁14cの絞り開度を増加させることが考えられる。
【0273】
ところが、冷却用膨張弁14cの絞り開度を増加させると、チラー20へ流入する冷媒の圧力が上昇して、高低圧差ΔPが縮小してしまう。このため、低圧側加熱部におけるバッテリ70の加熱能力を増加させることができなくなってしまう。その結果、圧縮機11の冷媒吐出能力をさらに増加させなければならなくなってしまい、サイクルを安定的に作動させることができなくなってしまう。
【0274】
これに対して、本実施形態の車両用空調装置1の単独暖機モードでは、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、冷却用膨張弁14cの作動を制御する。従って、目標高低圧差ΔPOを適切に決定しておくことで、圧縮機11の仕事量を、バッテリ70を適切に暖機可能な熱量となるように調整することができる。
【0275】
その結果、単独暖機モードのように、圧縮機の仕事によって生じた熱のみを用いてバッテリ70を暖機する運転モードであっても、サイクルを安定的に作動させることができる。すなわち、バッテリ70を暖機する際の作動の安定性を向上させることができる。
【0276】
また、本実施形態の単独暖機モードでは、チラー20に、冷却用膨張弁14cにて減圧された冷媒を流入させる。これによれば、単独暖機モードでは、チラー20に、吐出冷媒よりも低い圧力の冷媒を流入させることができる。従って、単独暖機モードを実行するために、チラー20の耐圧性を向上させる必要もない。
【0277】
また、本実施形態の車両用空調装置1の除霜モードでは、外気等から吸熱した熱を用いることなく、圧縮機11の仕事によって生じた熱のみを用いて、高圧側加熱対象物である室外熱交換器15に霜を加熱している。このため、除霜モードでは、圧縮機11の仕事量が、室外熱交換器15に着いた霜を加熱するために適切な熱量となるように、制御対象機器の作動を適切に制御する必要がある。
【0278】
例えば、吸入冷媒圧力Psが所定の目標吸入冷媒圧力PSOに近づくように制御されるサイクルにおいて、室外熱交換器15によって構成される高圧側加熱部における霜の加熱能力を増加させるために、圧縮機11の冷媒吐出能力を増加させたとする。この場合、サイクルを安定的に作動させることができなくなってしまう可能性がある。
【0279】
より詳細には、圧縮機11の冷媒吐出能力を増加させると、吸入冷媒圧力Psが低下する。このため、吸入冷媒圧力Psを目標吸入冷媒圧力PSOに近づけるために、下流側減圧部である除霜用流量調整弁14eの絞り開度を増加させることが考えられる。
【0280】
ところが、除霜用流量調整弁14eの絞り開度を増加させると、室外熱交換器15へ流入する冷媒の圧力が低下して、高低圧差ΔPが縮小してしまう。このため、高圧側加熱部ついた霜の加熱能力を増加させることができなくなってしまう。その結果、圧縮機11の冷媒吐出能力をさらに増加させなければならなくなってしまい、サイクルを安定的に作動させることができなくなってしまう。
【0281】
これに対して、本実施形態の車両用空調装置1の除霜モードでは、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、除霜用流量調整弁14eの作動を制御する。従って、目標高低圧差ΔPOを適切に決定しておくことで、圧縮機11の仕事量を、室外熱交換器15を適切に除霜可能な熱量となるように調整することができる。
【0282】
その結果、除霜モードのように、圧縮機の仕事によって生じた熱のみを用いて室外熱交換器15を除霜する運転モードであっても、サイクルを安定的に作動させることができる。すなわち、室外熱交換器15を除霜する際の作動の安定性を向上させることができる。
【0283】
また、本実施形態の車両用空調装置1の除霜モード時に、室内送風機52から送風された送風空気を、室内凝縮器13にて加熱して車室内へ吹き出してもよい。これによれば、除霜モードであっても、車室内の暖房を継続することができる。
【0284】
(第2実施形態)
本実施形態では、本発明に係るヒートポンプサイクル装置を定置用の暖房装置2に適用した例を説明する。本実施形態の暖房装置2は、ヒートポンプサイクル10a、制御装置601を有している。
【0285】
ヒートポンプサイクル10aは、
図14に示すように、圧縮機11、上流側膨張弁14f、室内凝縮器13を有している。
【0286】
上流側膨張弁14fは、吐出冷媒を減圧させる上流側減圧部である。上流側膨張弁14fの基本的構成は、バイパス側流量調整弁14d等と同様である。
【0287】
本実施形態の室内凝縮器13は、上流側膨張弁14fから流出した冷媒と室内送風機52から空調対象空間へ向けて送風された送風空気とを熱交換させる加熱用熱交換部である。室内凝縮器13では、上流側膨張弁14fから流出した冷媒の有する熱を送風空気へ放熱させて、送風空気を加熱する。
【0288】
従って、本実施形態の送風空気は、低圧側加熱対象物である。室内凝縮器13は、バイパス側流量調整弁14dから流出した冷媒を熱源として送風空気を加熱するとともに、冷媒を圧縮機11の吸入口側へ流出させる低圧側加熱部である。
【0289】
また、制御装置601の基本的構成は、第1実施形態で説明した制御装置60と同様である。本実施形態の制御装置601は、第1実施形態で説明した制御プログラムのステップS3に対応する目標温度決定部S31、制御プログラムのステップS11に対応する目標高低圧差決定部S111等を有している。
【0290】
次に、上記構成における本実施形態の暖房装置2の作動について説明する。本実施形態の暖房装置2の基本的作動は、第1実施形態で説明した車両用空調装置1の単独暖機モードの作動と同様である。
【0291】
暖房装置2では、制御装置601に接続された操作パネル691の作動スイッチが投入状態(ON)にされると、制御装置601が制御プログラムを実行する。暖房装置2の制御プログラムでは、第1実施形態と同様に、所定の周期毎に、制御用のセンサ群の検出信号および操作パネルの操作信号を読み込んで、目標吹出温度TAOおよび目標高低圧差ΔPOを決定する。
【0292】
さらに、制御装置601は、空調対象空間へ吹き出される送風空気の温度が目標吹出温度TAOとなるように、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。
【0293】
具体的には、圧縮機11については、制御装置601は、第1実施形態の単独暖機モードと同様に、吸入冷媒圧力Psが目標吸入冷媒圧力PSOに近づくように、圧縮機11の冷媒吐出能力(すなわち、回転数)を制御する。
【0294】
また、制御装置601は、第1実施形態の単独暖機モードと同様に、フィードフォワード制御手法を用いて、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、上流側膨張弁14fの絞り開度を調整する。
【0295】
従って、暖房装置2のヒートポンプサイクル10aでは、第1実施形態の単独暖機モードで説明した
図11のモリエル線図と同様に、冷媒の状態が変化する。従って、室内送風機52から送風された送風空気が、室内凝縮器13にて、上流側膨張弁14fから流出した冷媒と熱交換して加熱される。そして、加熱された送風空気が空調対象空間へ吹き出されることによって、空調対象空間の暖房が実現される。
【0296】
本実施形態の暖房装置2によれば、第1実施形態の単独暖機モードと同様の効果を得ることができる。つまり、本実施形態の暖房装置2では、圧縮機の仕事によって生じた熱のみを用いて送風空気を加熱する運転モードであっても、サイクルを安定的に作動させることができる。すなわち、低圧側加熱対象物である送風空気を加熱する際の作動の安定性を向上させることができる。
【0297】
(第3実施形態)
本実施形態では、本発明に係るヒートポンプサイクル装置を定置用の暖房装置3に適用した例を説明する。本実施形態の暖房装置3は、ヒートポンプサイクル10b、制御装置601を有している。
【0298】
ヒートポンプサイクル10bは、
図15に示すように、圧縮機11、室内凝縮器13、下流側膨張弁14gを有している。
【0299】
本実施形態の室内凝縮器13は、圧縮機11から吐出された吐出冷媒と室内送風機52から空調対象空間へ向けて送風された送風空気とを熱交換させる加熱用熱交換部である。室内凝縮器13では、吐出冷媒の有する熱を送風空気へ放熱させて、送風空気を加熱する。
【0300】
下流側膨張弁14gは、室内凝縮器13から流出した冷媒を減圧させて、圧縮機11の吸入口側へ流出させる下流側減圧部である。下流側膨張弁14gの基本的構成は、バイパス側流量調整弁14d等と同様である。
【0301】
従って、本実施形態の送風空気は、高圧側加熱対象物である。室内凝縮器13は、吐出冷媒を熱源として、送風空気を加熱する高圧側加熱部である。第2実施形態と同等の構成を採用することができる。
【0302】
次に、上記構成における本実施形態の暖房装置3の作動について説明する。本実施形態の暖房装置3の基本的作動は、第1実施形態で説明した車両用空調装置1の除霜モードの作動と同様である。
【0303】
暖房装置3では、制御装置601に接続された操作パネル691の作動スイッチが投入状態(ON)にされると、制御装置601が制御プログラムを実行する。暖房装置3の制御プログラムでは、第1実施形態と同様に、所定の周期毎に、制御用のセンサ群の検出信号および操作パネルの操作信号を読み込んで、目標吹出温度TAOおよび目標高低圧差ΔPOを決定する。
【0304】
さらに、制御装置601は、空調対象空間へ吹き出される送風空気の温度が目標吹出温度TAOとなるように、その他の制御対象機器の作動を適宜制御する。
【0305】
具体的には、圧縮機11については、制御装置601は、第1実施形態の除霜モードと同様に、吸入冷媒圧力Psが目標吸入冷媒圧力PSOに近づくように、圧縮機11の冷媒吐出能力(すなわち、回転数)を制御する。
【0306】
また、制御装置601は、第1実施形態の除霜モードと同様に、フィードフォワード制御手法を用いて、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、下流側膨張弁14gの絞り開度を調整する。
【0307】
従って、暖房装置3のヒートポンプサイクル10bでは、第1実施形態の除霜モードで説明した
図13のモリエル線図と同様に、冷媒の状態が変化する。従って、室内送風機52から送風された送風空気が、室内凝縮器13にて、吐出冷媒と熱交換して加熱される。そして、加熱された送風空気が空調対象空間へ吹き出されることによって、空調対象空間の暖房が実現される。
【0308】
本実施形態の暖房装置3によれば、第1実施形態の除霜モードと同様の効果を得ることができる。つまり、本実施形態の暖房装置3では、圧縮機の仕事によって生じた熱のみを用いて送風空気を加熱する運転モードであっても、サイクルを安定的に作動させることができる。すなわち、高圧側加熱対象物である送風空気を加熱する際の作動の安定性を向上させることができる。
【0309】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0310】
(1)上述の実施形態では、本発明に係るヒートポンプサイクル装置を空調装置に適用した例を説明したが、ヒートポンプサイクル装置の適用対象は空調装置に限定されない。例えば、加熱対象物、低圧側加熱対象物、および高圧側加熱対象物として、生活用水等を加熱する給湯装置に適用してもよい。
【0311】
(2)本発明に係るヒートポンプサイクル装置の構成は、上述の実施形態に開示された構成に限定されない。
【0312】
上述の第1実施形態では、加熱部として室内凝縮器13を採用した例を説明したが、加熱部は室内凝縮器13に限定されない。例えば、加熱部として、高温側熱媒体を循環させる高温側熱媒体循環回路に、高温側ポンプ、水-冷媒熱交換器、ヒータコア等を配置したものを採用してもよい。
【0313】
高温側ポンプは、高温側熱媒体を水-冷媒熱交換器の水通路へ圧送するポンプである。高温側熱媒体としては、低温側熱媒体と同種の流体を採用することができる。水-冷媒熱交換器は、圧縮機11から吐出された高圧冷媒と高温側ポンプから圧送された高温側熱媒体とを熱交換させる熱交換器である。ヒータコアは、水-冷媒熱交換器にて加熱された高温側熱媒体と送風空気とを熱交換させる加熱用熱交換器である。
【0314】
そして、ヒータコアを室内空調ユニット50の空気通路内に室内凝縮器13と同様に配置する。これによれば、ホットガス暖房モード時等に、吐出冷媒を熱源として、高温側熱媒体を介して間接的に加熱対象物である送風空気を加熱することができる。
【0315】
もちろん、第2実施形態の低温側加熱部である室内凝縮器13に代えて、高温側熱媒体循環回路を用いた低温側加熱部を採用してもよい。第3実施形態の高温側加熱部である室内凝縮器13に代えて、高温側熱媒体循環回路を用いた高温側加熱部を採用してもよい。
【0316】
上述の第1実施形態では、ヒートポンプサイクル10内の余剰液相冷媒を蓄える気液分離器として、アキュムレータ23を採用した例を説明したが、アキュムレータ23に代えて、レシーバを採用してもよい。レシーバは、室内凝縮器13から流出した冷媒の気液を分離して、サイクル内の余剰液相冷媒を蓄える高圧側の気液分離器である。
【0317】
また、アキュムレータ23に代えて、レシーバを採用した場合は、ホットガス暖房モードおよびホットガス除湿暖房モード時に、吸入冷媒の過熱度SHが予め定めた基準過熱度KSHとなるように、制御装置60が加熱部側減圧部の作動を制御すればよい。
【0318】
吸入冷媒の過熱度SHは、蒸発器側冷媒温度圧力センサ62dによって検出された蒸発器側冷媒温度Teおよび蒸発器側冷媒圧力Pe、あるいは、チラー側冷媒温度圧力センサ62eによって検出されたチラー側冷媒温度Tcおよびチラー側冷媒圧力Pcを用いて算定することができる。
【0319】
さらに、アキュムレータ23を廃止して、室内凝縮器13として、サブクール型の熱交換器を採用してもよい。サブクール型の熱交換器は、冷媒を凝縮する凝縮部、凝縮部にて凝縮した冷媒を気液分離して液相冷媒を蓄える受液部、および受液部から流出した液相冷媒を過冷却する過冷却部を有している。
【0320】
上述の第1実施形態では、機械的機構で構成された蒸発圧力調整弁19を採用した例を説明したが、もちろん電気的機構で構成された蒸発圧力調整弁を採用してもよい。電気的機構で蒸発圧力調整弁としては、暖房用膨張弁14a等と同様の構成の可変絞り機構を採用することができる。
【0321】
また、上述の実施形態では、ヒートポンプサイクル10、10a、10bの冷媒として、R1234yfを採用した例を説明したが、これに限定されない。例えば、R134a、R600a、R410A、R404A、R32、R407C、等を採用してもよい。または、これらの冷媒のうち複数種を混合させた混合冷媒等を採用してもよい。さらに、冷媒として二酸化炭素を採用して、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力以上となる超臨界冷凍サイクルを構成してもよい。
【0322】
また、上述の実施形態の低温側熱媒体および高温側熱媒体として、エチレングリコール水溶液を採用した例を説明したが、これに限定されない。高温側熱媒体および低温側熱媒体として、例えば、ジメチルポリシロキサン、あるいはナノ流体等を含む溶液、不凍液、アルコール等を含む水系の液冷媒、オイル等を含む液媒体等を採用してもよい。
【0323】
(3)本発明に係るヒートポンプサイクル装置の制御態様は、上述の実施形態に開示された制御態様に限定されない。
【0324】
上述の第1実施形態では、各種運転モードを実行可能な車両用空調装置1について説明したが、上述した全ての運転モードを実行可能である必要はない。少なくとも、ホットガス暖房モード、ホットガス除霜暖房モード、単独暖機モード、および除霜モードのいずれか1つが実行できれば、サイクルの安定性を向上させて、加熱対象物を適切に加熱する効果を得ることができる。
【0325】
また、上述の実施形態では、高低圧差制御を行う際に、吐出冷媒温度圧力センサ62aによって検出された吐出冷媒圧力Pd、および吸入冷媒温度圧力センサ62fよって検出された吸入冷媒圧力Psを用いて、高低圧差ΔPを算出したが、これに限定されない。例えば、吐出冷媒温度Tdにおける飽和圧力から、吸入冷媒温度Tsにおける飽和圧力を減算した値を高低圧差ΔPとして用いてもよい。
【0326】
また、上述の第1実施形態のホットガス暖房モードは、極低外気温時に実行される運転モードなので、バッテリ70を冷却する必要がない。これに対して、低外気温時には、バッテリ70の暖機が必要となることもある。そこで、ホットガス暖房モード時に、バッテリ温度TBが基準下限温度KTBL以下となった際に、低温側ポンプ31を作動させて、バッテリ70を暖機するホットガス暖房暖機モードを実行してもよい。
【0327】
また、上述の第1実施形態のホットガス暖房モードでは、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、バイパス側流量調整弁14dの作動を制御した例を説明したが、これに限定されない。
【0328】
例えば、制御装置60は、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御してもよい。この場合、制御装置60は、吸入冷媒圧力Psが第1目標吸入冷媒圧力PSO1に近づくように、バイパス側流量調整弁14dの作動を制御すればよい。さらに、過冷却度SC1が第1目標過冷却度SCO1に近づくように、冷却用膨張弁14cの作動を制御すればよい。
【0329】
例えば、制御装置60は、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、冷却用膨張弁14cの作動を制御してもよい。この場合、制御装置60は、吸入冷媒圧力Psが第1目標吸入冷媒圧力PSO1に近づくように、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御すればよい。さらに、過冷却度SC1が第1目標過冷却度SCO1に近づくように、バイパス側流量調整弁14dの作動を制御すればよい。
【0330】
この際、アキュムレータ23に代えて、レシーバを採用している場合には、過冷却度SC1を調整していた制御対象機器によって、吸入冷媒の過熱度SHが予め定めた基準過熱度KSHとなるように調整すればよい。
【0331】
ホットガス除湿暖房モードにおいても同様の制御を採用することができる。すなわち、例えば、ホットガス除湿暖房モード時に、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御してもよい。あるいは、ホットガス除湿暖房モード時に、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、冷却用膨張弁14cの絞り開度を調整してもよい。
【0332】
また、上述の第1実施形態の車両用空調装置1の単独暖機モード、および第2実施形態の暖房装置2では、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、上流側減圧部の作動を制御した例を説明したが、これに限定されない。
【0333】
例えば、制御装置60は、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御してもよい。この場合、制御装置60は、吐出冷媒圧力Pdが単独暖機モード用の目標吐出冷媒圧力PDO1に近づくように、上流側減圧部の作動を制御してもよい。
【0334】
また、上述の第1実施形態の車両用空調装置1の除霜モード、および第3実施形態の暖房装置3では、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、下流側減圧部の作動を制御した例を説明したが、これに限定されない。
【0335】
例えば、制御装置60は、高低圧差ΔPが目標高低圧差ΔPOに近づくように、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御してもよい。この場合、制御装置60は吸入冷媒圧力Psが除霜モード用の第3目標吸入冷媒圧力PSO3に近づくように、下流側減圧部の作動を制御してもよい。
【符号の説明】
【0336】
1、2、3 車両用空調装置、暖房装置(ヒートポンプサイクル装置)
11 圧縮機
12a 第1三方継手(分岐部)
12f 第6三方継手(合流部)
13 室内凝縮器(加熱部)
14c 冷却用膨張弁(加熱部側減圧部)
14d バイパス側流量調整弁(バイパス側流量調整部)
14f 上流側膨張弁(上流側減圧部)
14g 下流側膨張弁(下流側減圧部)
21a バイパス通路