(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046624
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
B24B 37/24 20120101AFI20230329BHJP
B24B 37/22 20120101ALI20230329BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
B24B37/24 A
B24B37/22
B24B37/24 C
H01L21/304 622F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155325
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】川村 佳秀
(72)【発明者】
【氏名】立野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】松岡 立馬
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見沢 大和
(72)【発明者】
【氏名】越智 恵介
(72)【発明者】
【氏名】川崎 哲明
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158CB01
3C158DA12
3C158EA11
3C158EB20
3C158EB22
3C158EB29
3C158ED00
5F057AA02
5F057AA03
5F057AA24
5F057BA15
5F057CA12
5F057DA03
5F057EB03
5F057EB07
(57)【要約】
【課題】 研磨層の組成・物性等を大きく変えることなく、段差解消性能が向上する研磨パッドを提供することを目的とする。
【解決手段】 被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層と、前記研磨層の研磨面と反対側に配置されるクッション層と、を備える研磨パッドであって、
前記研磨パッド全体を曲げモードで周波数分散(25℃)による動的粘弾性試験を行った際の貯蔵弾性率E’について、1000rad/sのE’の値(E’
1000)と10rad/sのE’の値(E’
10)との比(E’
1000/E’
10)が1~2である、研磨パッド。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層と、前記研磨層の研磨面と反対側に配置されるクッション層と、を備える研磨パッドであって、
前記研磨パッド全体を曲げモードで周波数分散(25℃)による動的粘弾性試験を行った際の貯蔵弾性率E’について、1000rad/sのE’の値(E’1000)と10rad/sのE’の値(E’10)との比(E’1000/E’10)が1~2である、研磨パッド。
【請求項2】
前記1000rad/sのE’の値(E’1000)と10rad/sのE’の値(E’10)との比(E’1000/E’10)が1.4~1.9である、請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記研磨層が、中空微小球体を含むポリウレタン樹脂により形成されている、請求項1又は2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記クッション層が、含浸不織布、スポンジ材、及びスウェード材からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか一つに記載の研磨パッド。
【請求項5】
段差を有するパターンウェハを研磨した際の、研磨量が2000オングストロームとなるまでの初期研磨段階における研磨量(オングストローム)に対する段差解消量(オングストローム)が、10μmから120μmの配線幅のいずれのパターンウェハに対しても、1を超える、請求項1~4のいずれか一つに記載の研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに関する。詳細には、本発明は、光学材料、半導体ウェハ、半導体デバイス、ハードディスク用基板等の研磨に好適に用いることができる研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
光学材料、半導体ウェハ、半導体デバイス、ハードディスク用基板の表面を平坦化するための研磨法として、研磨パッドとウェハとの間にスラリー(研磨液)を供給しながら加圧した状態で相対的に摺動させて化学的作用と機械的研磨の複合作用によってウェハ表面を平坦化する化学機械研磨(chemical mechanical polishing,CMP)法が一般的に用いられている。
【0003】
CMP法について、
図1を用いて説明する。
図1のように、CMP法を実施する研磨装置1には、研磨パッド3が備えられ、当該研磨パッド3は、保持定盤16及び被研磨物8がずれないように保持するリテーナリング(
図1では図示しない)に保持された被研磨物8に当接するとともに、研磨を行う層である研磨層4と研磨層4を支持するクッション層6を含む。研磨パッド3は、被研磨物8が押圧された状態で回転駆動され、被研磨物8を研磨する。その際、研磨パッド3と被研磨物8との間には、スラリー9が供給される。スラリー9は、水と各種化学成分や硬質の微細な砥粒の混合物(分散液)であり、その中の化学成分や砥粒が流されながら、被研磨物8との相対運動により、研磨効果を増大させるものである。スラリー9は溝又は孔を介して研磨面に供給され、排出される。
【0004】
ところで、CMP法の研磨パッドとしては、研磨層に発泡ポリウレタンを用いたものが従来用いられているが、近年半導体デバイスの配線の微細化が進んでおり、パターン付きウェハ等の平坦化及び段差性能の改善が求められてきた。
【0005】
例えば、特許文献1は、研磨層のDMAで測定される貯蔵弾性率(E’)などを特定の範囲とすることにより、高い剛性と共に、特に圧縮中の高エネルギーの散逸により、金属フィーチャの少ないディッシングや、良好な平坦化、低い欠陥度を呈する研磨パッドが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、研磨層材料のプレポリマーの高分子量ポリオールとして、PPG及びPTMGの混合物を用いることで、高い平坦化効率と低い欠陥率を実現した研磨パッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2004-507076号公報
【特許文献2】特開2018-43342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の研磨パッドを調べたところ、段差解消性能としては不十分なものであった。これは、研磨層のみのDMA特性に着目されたもので、なおかつ、測定周波数は、研磨パッド中心部分の周波数である10rad/sのみを用いて求められたためであると考えられる。また、特許文献2に記載の研磨パッドは、従来研磨パッドの材料として用いられていたPTMG(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)にPPG(ポリプロピレングリコール)をブレンドするものであるため、PPG添加により、研磨層を構成するポリウレタンのソフトセグメントの構造が変化するため、硬度等の物性が変化してしまい、その他の研磨特性が不十分となる場合があった。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、研磨層の組成・物性等を大きく変えることなく、段差解消性能が向上する研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究の結果、研磨パッド全体の貯蔵弾性率E’の測定周波数に着目し、特許文献1に記載の10rad/sにおける貯蔵弾性率E’だけでなく、1000rad/sにおける貯蔵弾性率E’についても検討した結果、10rad/sにおける貯蔵弾性率E’と1000rad/sにおける貯蔵弾性率E’とが特定の比の場合に、優れた段差性能を有することを発見し、本発明を達成した。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層と、前記研磨層の研磨面と反対側に配置されるクッション層と、を備える研磨パッドであって、
前記研磨パッド全体を曲げモードで周波数分散(25℃)による動的粘弾性試験を行った際の貯蔵弾性率E’について、1000rad/sのE’の値(E’1000)と10rad/sのE’の値(E’10)との比(E’1000/E’10)が1~2である、研磨パッド。
[2] 前記1000rad/sのE’の値(E’1000)と10rad/sのE’の値(E’10)との比(E’1000/E’10)が1.4~1.9である、[1]に記載の研磨パッド。
[3] 前記研磨層が、中空微小球体を含むポリウレタン樹脂により形成されている、[1]又は[2]に記載の研磨パッド。
[4] 前記クッション層が、含浸不織布、スポンジ材、及びスウェード材からなる群より選択される少なくとも一種である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の研磨パッド。
[5] 段差を有するパターンウェハを研磨した際の、研磨量が2000オングストロームとなるまでの初期研磨段階における研磨量(オングストローム)に対する段差解消量(オングストローム)が、10μmから120μmの配線幅のいずれのパターンウェハに対しても、1を超える、[1]~[4]のいずれか一つに記載の研磨パッド。
【発明の効果】
【0011】
研磨パッド全体の動的粘弾性特性を特定の範囲にすることにより、研磨層の組成・物性を大きく変えることなく、段差解消性能が改善された研磨パッドを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図2は、段差研磨量試験における段差状態の模式図を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の研磨パッド3の斜視図(a)及び断面図(b)である。
【
図4】
図4は、被研磨物8をリテーナリング16Aの中に配置されている状態で、研磨パッド上で研磨されている様子を示す。図中矢印は、被研磨物8、研磨パッド3の回転方向を表す。
【
図5】
図5は、研磨パッド3全体に対し曲げモードで動的粘弾性試験を測定する際の概略図を示す。
【
図6】
図6は、実施例2の研磨パッド全体について、曲げモードの動的粘弾性測定を行った際の周波数に対するE’のグラフである。
【
図7】
図7は、実施例4の研磨パッド全体について、曲げモードの動的粘弾性測定を行った際の周波数に対するE’のグラフである。
【
図8】
図8は、比較例2の研磨パッド全体について、曲げモードの動的粘弾性測定を行った際の周波数に対するE’のグラフである。
【
図9】
図9は、実施例2,実施例4、比較例2の研磨パッドを用いた段差解消性能試験の結果である(Cu配線幅120μmの配線の被研磨物を用いた場合)。
【
図10】
図10は、実施例2,実施例4、比較例2の研磨パッドを用いた段差解消性能試験の結果である(Cu配線幅100μmに対して絶縁膜の幅100μmの配線の被研磨物を用いた場合)。
【
図11】
図11は、実施例2,実施例4、比較例2の研磨パッドを用いた段差解消性能試験の結果である(Cu配線幅50μmに対して絶縁膜の幅50μmの配線の被研磨物を用いた場合)。
【
図12】
図12は、実施例2,実施例4、比較例2の研磨パッドを用いた段差解消性能試験の結果である(Cu配線幅10μmに対して絶縁膜の幅10μmの配線の被研磨物を用いた場合)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、発明を実施するための形態に限定されるものではない。
【0014】
<<段差解消性能について>>
本発明は、優れた段差解消性能を有する研磨パッドに関するものである。ここで、段差解消性能とは、研磨に伴い段差(凹凸)を有するパターンウェハの段差を小さくする性能のことを言う。段差解消性能を測定する実験の模式図を
図2に示す。被研磨物において3500オングストロームの段差がある場合、段差解消性能が高い研磨パッド(点線)と、相対的に段差解消性能が低い研磨パッド(実線)を用いた場合の段差の解消状態を示す。
図2の(a)の時点では段差に差がないものの、研磨が進み、研磨量が2000オングストロームのときに、良好な段差解消性能がある研磨パッド(点線)であれば、相対的に段差解消性能が低い研磨パッド(実線)に比べて、段差が小さいことが示されており((b))、段差解消性能が高い研磨パッドは、相対的に研磨量が少なくとも段差がなくなっている((c))。点線で示す研磨パッドは、実線の研磨パッドよりも相対的に段差解消性能が高いと言える。
【0015】
<<研磨パッド>>
研磨パッド3の構造について
図3を用いて説明する。研磨パッド3は、
図3のように、研磨層4と、クッション層6とを含む。研磨パッド3の形状は円盤状が好ましいが、特に限定されるものではなく、また、大きさ(径)も、研磨パッド3を備える研磨装置1のサイズ等に応じて適宜決定することができ、例えば、直径10cm~2m程度とすることができる。
なお、本発明の研磨パッド3は、好ましくは
図3に示すように、研磨層4がクッション層6に接着層7を介して接着されている。
研磨パッド3は、クッション層6に配設された両面テープ等によって研磨装置1の研磨定盤10に貼付される。研磨パッド3は、研磨装置1によって被研磨物8を押圧した状態で回転駆動され、被研磨物8を研磨する。
【0016】
<研磨層>
(構成)
研磨パッド3は、被研磨物8を研磨するための層である研磨層4を備える。研磨層4を構成する材料は、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、及びポリウレタンポリウレア樹脂を好適に用いることができ、より好ましくはポリウレタン樹脂を用いることができる。
研磨層4の大きさ(径)は、研磨パッド3と同様であり、直径10cm~2m程度とすることができ、研磨層4の厚みは、通常1~5mm程度とすることができる。
研磨層4は、研磨装置1の研磨定盤10と共に回転され、その上にスラリー9を流しながら、スラリー9の中に含まれる化学成分や砥粒を、被研磨物8と一緒に相対運動させることにより、被研磨物8を研磨する。
研磨層4は、中空微小球体4A(発泡)が分散されている。
【0017】
(溝加工)
本発明の研磨層4の被研磨物8側の表面には、溝加工を設けることが好ましい。溝は、特に限定されるものではなく、研磨層4の周囲に連通しているスラリー排出溝、及び研磨層4の周囲に連通していないスラリー保持溝のいずれでもよく、また、スラリー排出溝とスラリー保持溝の両方を有してもよい。スラリー排出溝としては、格子状溝、放射状溝などが挙げられ、スラリー保持溝としては、同心円状溝、パーフォレーション(貫通孔)などが挙げられ、これらを組み合わせることもできる。
なお、低圧研磨加工では、被研磨物8に対する押圧力を小さくするため、研磨レート確保の観点から定盤が高速回転される。このため、スラリー9が研磨面および加工面間に層状に存在して研磨加工を妨げる、いわゆるハイドロプレーニング現象が起こる可能性がある。研磨面に溝加工を施すことでこの現象を抑制することができる。また、研磨屑の排出や研磨液の移動を促進させることも可能となる。断面形状についてもU字状、V字状、半円状のいずれでもよい。溝のピッチ、幅、深さについても、特に制限されるものではない。また、研磨パッド3の平坦性を向上させるために、研磨パッド3の研磨面側ないし研磨面と反対の面側にバフ処理などの表面研削処理をほどこしてもよい。
【0018】
(ショアD硬度)
本発明の研磨層4のショアD硬度は、特に限定されるものではないが、例えば、20~100であり、好ましくは30~80であり、さらに好ましくは40~70である。ショアD硬度が小さい場合には、低圧研磨加工で微細な凹凸を平坦化することが難しくなる。また、端部ダレに影響がでる場合もある。ショアD硬度が高すぎると、被研磨物8になどが強く擦りつけられ被研磨物8の加工面にスクラッチが発生する可能性がある
【0019】
研磨層4は、後述する中空微小球体を混合したイソシアネート基含有化合物と、硬化剤(鎖伸長剤)と、を混合した混合液を注型し硬化させた発泡体をスライスすることで形成されている。すなわち、研磨層4は、乾式成型されている。
【0020】
本発明の研磨パッド3においては、中空微小球体4Aを用いて、ポリウレタン樹脂成形体内部に気泡を内包させる。中空微小球体とは、空隙を有する微小球体を意味する。中空微小球体4Aの形状には、球状、楕円状、及びこれらに近い形状のものが含まれる。例としては、既膨張タイプのもの、及び、未膨張の加熱膨張性微小球状体を加熱膨張させたものが挙げられる。
研磨層4のショアD硬度等の物性は、研磨層4の組成、中空微小球体4Aの数や大きさ等を調整することで所望の数値範囲にすることができる。
【0021】
<クッション層>
(構成)
本発明の研磨パッド3は、クッション層6を有する。クッション層6は、研磨層4の被研磨物8への当接をより均一にすることが望ましい。クッション層6の材料としては、樹脂;前記樹脂を基材に含浸させた含浸材;合成樹脂やゴム等の可撓性を有する材料;及び前記樹脂を用いたスポンジ材が挙げられる。上記樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリブタジエン、シリコーン等の樹脂や天然ゴム、ニトリルゴム、ポリウレタンゴム等のゴムなどが挙げられる。
【0022】
クッション層6は気泡構造を有する発泡体等としてもよい。気泡構造としては、不織布等の内部に空隙が形成されたものの他、湿式成膜法により形成された涙型気泡を有するスウェード状のものや、微細な気泡が形成されたスポンジ状のものを好ましく用いることができる。
【0023】
<接着層>
接着層7は、クッション層6と研磨層4を接着させるための層であり、通常、両面テープ又は接着剤から構成される。両面テープ又は接着剤は、当技術分野において公知のもの(例えば、接着シート)を使用することができる。
研磨パッド3およびクッション層6は、接着層7で貼り合わされている。接着層7は、例えば、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系から選択される少なくとも1種の粘着剤で形成することができる。例えば、アクリル系粘着剤が用いられ、厚みが0.1mmに設定することができる。
【0024】
<貯蔵弾性率>
本発明の研磨パッド3は、研磨パッド3全体を曲げモードで周波数分散(25℃)による動的粘弾性試験を行った際の貯蔵弾性率E’について、1000rad/sのE’の値(E’1000)と10rad/sのE’の値(E’10)との比(E’1000/E’10)が1~2である。通常研磨パッドで用いられる研磨層やクッション層は周波数が大きくなるとE’の値は単調増加するため、E’1000/E’10が1未満となるものは特殊な材料となり、この様な材料は物性や研磨性能が研磨パッドとして適さないことが多く好ましくない。一方、E’1000/E’10が2を超えると、段差解消性が低くなってしまう。E’1000/E’10の好ましい範囲は、1.4以上、1.9以下であり、より好ましくは1.5以上、1.85以下である。貯蔵弾性率とは、物体に外力とひずみにより生じたエネルギーのうち物体の内部に保存する成分である。
【0025】
ここで、上記した測定周波数が選択された理由について、
図4を用いて説明する。
図4は、研磨している状態を上から見た図である。矢印は、回転方向を示す。被研磨物8は、リテーナリング16A(または保持定盤16)内に配置し、研磨パッド3の研磨層4の上に配置する。この例では、研磨層4は、矢印のように反時計回りに回転している。そして、リテーナリング16A内に配置される被研磨物は、時計周りに回転し、研磨を実行する。
従来の研磨の周波数の考え方は、研磨物と被研磨物のそれぞれの直径や速度から算出される接触時間等から、角周波数を計算しており、研磨における一般的な周波数は、おおよそ1~10rad/sの角周波数であった。これは、すなわち、研磨パッド3が、被研磨物8に接触し始めてから通過するまでに等速で変形し、被研磨物8の通過後は等速で解放され変形が元に戻るモデルから計算されたものである。
しかし、本発明に到達する際に検討したところ、実際は、被研磨物8はリテーナリング16Aにより保持されている状態である。したがって、研磨層4のある部分は、回転により、まずリテーナリング16Aに接触し、その後、被研磨物8に接触し、つぎにリテーナリング16Aに接触し、最後に開放されるものである。このような状況を考慮して計算すると、リテーナリング16Aに接触する周波数は、100~1000rad/s程度であると考えられる。つまり、研磨時の研磨パッドの挙動を動的粘弾性試のデータよりアプローチする場合、1~10rad/sのみではなく、さらに広い範囲で確認する必要がある。実際にこの様な広い範囲での周波数に対する貯蔵弾性率E’の値の変動が小さい(E’
10とE’
1000との比が1~2である)本願発明の研磨パッドでは、被研磨物の位置によってE’の値に大きな変化がないため、平坦化性能に優れるだけでなく、段差を有する被研磨物においてもその段差解消性能が優れることが分かった。
【0026】
周波数100~1000rad/sを算出する際、
図4の黒丸の符号E付近(エッジ付近)では、研磨パッドの回転方向と、被研磨物の回転方向が実質的に逆であるため、相対速度は、各速度の差となる。一方、C付近(センター付近)では、研磨パッドの回転方向と、被研磨物の回転方向が実質的に同じであるため、相対速度は、各速度の和となる。なお、M付近(ミドル付近)は、被研磨物の角速度は、0であるため、相対速度は、研磨パッドの回転速度と同じである。これらのことは、周波数は、100~1000rad/sを算出する際に使用したことは言うまでもない。
【0027】
(動的粘弾性試験)
貯蔵弾性率E’は、動的粘弾性試験(DMA)によって研磨パッド全体を曲げモードで測定する。動的粘弾性試験(DMA)は、試料に時間によって変化(振動)する歪みまたは応力を与えて、それによって発生する応力または歪みを測定することにより、試料の力学的な性質を測定する方法である。本発明の研磨パッド3全体に対し動的粘弾性試験を測定する際の概略図を
図5に示す。
図5のように上側を研磨層4の研磨面、下側をクッション層6の面にして治具12で挟み込み、微小振幅の正弦波形の歪みを与えたときの応力を測定する。すなわち、本発明では、動的粘弾性試験を研磨パッド3全体で測定するが、この「全体」とは、研磨パッドの研磨層4のみを測定するものではなく、また、クッション層6のみを測定するものでもない。研磨層4とクッション層6とが接着層で接着されている状態の研磨パッドで測定することを意味する。なお、
図5では、接着層は図示していない。
【0028】
研磨パッド3全体で貯蔵弾性率E’を測定する説明を下記する。
貯蔵弾性率E’の値は、研磨層4だけでなく、クッション層6も影響を受けるものである。従来、当該技術分野では貯蔵弾性率E’の測定は、研磨層の材料に対してのみ行ってきた。しかし、実際は、研磨層のみではなく、クッション層の材質にも大きく影響を受け、クッション層によっては、段差解消性能が大きく変わることがわかった。後述する実施例5及び6の研磨パッド全体の貯蔵弾性率E’の測定結果と、同じ研磨層であっても異なるクッション層を用いた比較例1の測定結果から明らかなように、貯蔵弾性率E’の周波数分散における挙動は、組み合わせによって大きく変わる場合があることが分かる。したがって、本発明では研磨層だけではなくクッション層を含めた研磨パッド全体での貯蔵弾性率E’を測定している。
【0029】
また一般的に、動的粘弾性試験は、曲げモードによる測定と、引張り・圧縮モードによる測定があるが、本発明では、曲げモードによる測定で行う。実際の研磨は、研磨パッド3の各層に対して、垂直方向に被研磨物8を押し付ける。したがって、その押し付け方向と同じ方向の測定モード(曲げモード)で測定すべきであることがわかった。
【0030】
なお、貯蔵弾性率E’の値は、例えば、研磨層4やクッション層6の材料を変更することや、研磨層4やクッション層6の硬度、密度、圧縮率等々の調整に加えて、研磨層4、クッション層6に含まれる気泡の大きさ、気泡の数、気泡の密度を変えることにより、調整することができるが、E’10とE’1000との比を1~2とすることが大事である。E’10とE’1000との比1~2であれば、広い周波数範囲において、貯蔵弾性率E’が大きく変動しないことを意味する。
【0031】
<<研磨パッドの製造方法>>
本発明の研磨パッド3の製造方法について説明する。
【0032】
<研磨層の材料>
研磨層4の材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、主成分としてはポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、及びポリウレタンポリウレア樹脂が好ましく、ポリウレタン樹脂がより好ましい。具体的な主成分の材料としては、例えば、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物と硬化剤とを反応させて得られる材料を挙げることができる。
【0033】
以下、研磨層4の材料の製造方法については、ウレタン結合含有イソシアネート化合物、ポリオール化合物と硬化剤を用いた例を用いて説明する。
【0034】
ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物と硬化剤とを用いた研磨層4の製造方法としては、例えば、少なくともウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物、添加剤、硬化剤を準備する材料準備工程;少なくとも、前記ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物、添加剤、硬化剤を混合して成形体成形用の混合液を得る混合工程;前記成形体成形用混合液から研磨層4を成形する硬化工程、を含む製造方法が挙げられる。
【0035】
以下、材料準備工程、混合工程、成形工程に分けて、それぞれ説明する。
【0036】
<材料準備工程>
本発明の研磨層4の製造のために、ポリウレタン樹脂成形体(硬化樹脂)の原料として、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物、硬化剤を準備する。ここで、ウレタン結合含有ポリイソシアネートは、ポリウレタン樹脂成形体を形成するための、ウレタンプレポリマーである。研磨層4をポリウレア樹脂成型体やポリウレタンポリウレア樹脂成形体にする場合は、それに応じたプレポリマーを用いる。
【0037】
以下、各成分について説明する。
【0038】
(ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物)
ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物(ウレタンプレポリマー)は、下記ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを、通常用いられる条件で反応させることにより得られる化合物であり、ウレタン結合とイソシアネート基を分子内に含むものである。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、他の成分がウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物に含まれていてもよい。
【0039】
ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物としては、市販されているものを用いてもよく、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて合成したものを用いてもよい。前記反応に特に制限はなく、ポリウレタン樹脂の製造において公知の方法及び条件を用いて付加重合反応すればよい。例えば、40℃に加温したポリオール化合物に、窒素雰囲気にて撹拌しながら50℃に加温したポリイソシアネート化合物を添加し、30分後に80℃まで昇温させ更に80℃にて60分間反応させるといった方法で製造することができる。
なお、ウレタン結合含有ポリイソシアネートは、NCO当量が、300~600程度であることが好ましい。したがって、ウレタン結合含有ポリイソシアネートが、市販品の場合は、NCO当量が上記範囲を満たすものが好ましく、合成によって製造する際は、下記する原料を適宜割合で用いることにより、上記範囲のNCO当量にすることが好ましい。
【0040】
(ポリイソシアネート化合物)
本明細書において、ポリイソシアネート化合物とは、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物を意味する。
ポリイソシアネート化合物としては、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有していれば特に制限されるものではない。例えば、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物としては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネー卜(MDI)、4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1、4-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、p-フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン-1,4-ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等を挙げることができる。これらのポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、複数のポリイソシアネート化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
なお、ポリイソシアネート化合物としては、2,4-TDI及び/又は2,6-TDIを含むことが好ましい。
【0042】
(プレポリマーの原料としてのポリオール化合物)
本明細書において、ポリオール化合物とは、分子内に2つ以上の水酸基(OH)を有する化合物を意味する。
プレポリマーとしてのウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物の合成に用いられるポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、ブチレングリコール等のジオール化合物、トリオール化合物等;ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(又はポリテトラメチレンエーテルグリコール)(PTMG)等のポリエーテルポリオール化合物を挙げることができる。これらの中でも、DEG及びPTMGが好ましい。
PTMGの数平均分子量(Mn)は、特に限定されることはなく、例えば、500~2000であるとすることができる。ここで、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)により測定することができる。なお、ポリウレタン樹脂からポリオール化合物の数平均分子量を測定する場合は、アミン分解等の常法により各成分を分解した後、GPCによって推定することもできる。
上記ポリオール化合物は単独で用いてもよく、複数のポリオール化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(添加剤)
上記したように、研磨層4の材料として、酸化剤等の添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0044】
(硬化剤)
本発明の研磨層4の製造方法では、混合工程において硬化剤(鎖伸長剤ともいう)をウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物などと混合させる。硬化剤を加えることにより、その後の成形体成形工程において、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物の主鎖末端が硬化剤と結合してポリマー鎖を形成し、硬化する。
硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)、4-メチル-2,6-ビス(メチルチオ)-1,3-ベンゼンジアミン、2-メチル-4,6-ビス(メチルチオ)-1,3-ベンゼンジアミン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[3-(イソプロピルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(1-メチルプロピルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(1-メチルペンチルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス(3,5-ジアミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,6-ジアミノ-4-メチルフェノール、トリメチルエチレンビス-4-アミノベンゾネート、及びポリテトラメチレンオキサイド-di-p-アミノベンゾネート等の多価アミン化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、3-メチル-1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3-メチル-4,3-ペンタンジオール、3-メチル-4,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、トリメチロールメタン、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコール等の多価アルコール化合物が挙げられる。また、多価アミン化合物が水酸基を有していてもよく、このようなアミン系化合物として、例えば、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等を挙げることができる。多価アミン化合物としては、ジアミン化合物が好ましく、例えば、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(メチレンビス-o-クロロアニリン)(以下、MOCAと略記する。)を用いることがさらに好ましい。
【0045】
研磨層4は、外殻を有し、内部が中空状である中空微小球体4Aを、材料を用いることにより成形することができる。中空微小球体4Aの材料としては、市販のものを使用してもよく、常法により合成することにより得られたものを使用してもよい。中空微小球体4Aの外殻の材質としては、特に制限されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエーテルアクリライト、マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキシド、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル及び有機シリコーン系樹脂、並びにそれらの樹脂を構成する単量体を2種以上組み合わせた共重合体(例えば、アクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体など挙げられる)が挙げられる。また、市販品の中空微小球体としては、以下に限定されないが、例えば、エクスパンセルシリーズ(アクゾ・ノーベル社製商品名)、マツモトマイクロスフェア(松本油脂(株)社製商品名)などが挙げられる。
中空微小球体4Aに含まれる気体としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭化水素が挙げられ、具体的にはイソブタンなどが挙げられる。
【0046】
中空微小球体4Aの形状は特に限定されず、例えば、球状及び略球状であってもよい。中空微小球体4Aの平均粒径は、特に制限されないが、好ましくは5~200μmであり、より好ましくは5~80μmであり、さらに好ましくは5~50μmであり、特に好ましくは5~35μmである。なお、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えばスペクトリス(株)製、マスターサイザ-2000)により測定することができる。
【0047】
中空微小球体4Aの材料は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは1~5質量部、さらにより好ましくは1~4質量部となるように添加する。
【0048】
また、上記の成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲において、従来使用されている発泡剤を、中空微小球体4Aと併用してもよく、下記混合工程中に前記各成分に対して非反応性の気体を吹き込んでもよい。該発泡剤としては、水の他、炭素数5又は6の炭化水素を主成分とする発泡剤が挙げられる。該炭化水素としては、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサンなどの鎖状炭化水素や、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素が挙げられる。
【0049】
<混合工程>
混合工程では、前記準備工程で得られた、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物(ウレタンプレポリマー)、添加剤、硬化剤を混合機内に供給して攪拌・混合する。混合工程は、上記各成分の流動性を確保できる温度に加温した状態で行われる。
【0050】
<成形工程>
成形体成形工程では、前記混合工程で調製された成形体成形用混合液を30~100℃に予熱した四角状の型枠内に流し込み一次硬化させた後、100~150℃程度で10分~5時間程度加熱して二次硬化させることにより硬化したポリウレタン樹脂(ポリウレタン樹脂成形体)を成形する。このとき、ウレタンプレポリマー、硬化剤が反応してポリウレタン樹脂を形成することにより該混合液は硬化する。
ウレタンプレポリマーは、粘度が高すぎると、流動性が悪くなり混合時に略均一に混合することが難しくなる。温度を上昇させて粘度を低くするとポットライフが短くなり、却って混合斑が生じて得られる発泡体に形成される、中空微小球体4Aの大きさにバラツキが生じる。反対に粘度が低すぎると混合液中で気泡が移動してしまい、得られる発泡体に略均等に分散した、中空微小球体4Aを形成することが難しくなる。このため、プレポリマーは、温度50~80℃における粘度を500~4000mPa・sの範囲に設定することが好ましい。このことは、例えば、プレポリマーの分子量(重合度)を変えることで粘度を設定することができる。プレポリマーは、50~80℃程度に加熱され流動可能な状態とされる。
【0051】
成形工程では、必要により注型された混合液を型枠内で反応させ発泡体を形成させる。このとき、プレポリマーと硬化剤との反応によりプレポリマーが架橋硬化する。
【0052】
成形体を得た後、シート状にスライスして複数枚の研磨層4を形成する。スライスには、一般的なスライス機を使用することができる。スライス時には研磨層4の下層部分を保持し、上層部から順に所定厚さにスライスされる。スライスする厚さは、例えば、1.3~2.5mmの範囲に設定されている。厚さが50mmの型枠で成型した発泡体では、例えば、発泡体の上層部および下層部の約10mm分をキズ等の関係から使用せず、中央部の約30mm分から10~25枚の研磨層4が形成される。硬化成型ステップで内部に中空微小球体4Aが略均等に形成された発泡体が得られる。
【0053】
得られた研磨層4の研磨面に、必要により溝加工を施す。研磨面に対して所要のカッターを用いて切削加工等を行うことで、任意のピッチ、幅、深さを有する溝を形成することができる。スラリー保持溝としては、例えば同心円状に形成した円形溝が挙げられ、スラリー排出溝としては、例えば格子状に形成した直線溝や研磨層の中心から放射状に形成した直線溝などが挙げられる。
【0054】
このようにして得られた研磨層4は、その後、研磨層4の研磨面とは反対側の面に両面テープが貼り付けられる。両面テープに特に制限はなく、当技術分野において公知の両面テープの中から任意に選択して使用することが出来る。
【0055】
<クッション層6の製造方法>
上記のとおり、クッション層6の材質としては、ポリエチレン、ポリエステル等の繊維からなる不織布や織布等の基材に、ウレタン等の樹脂溶液を含浸させた含浸材;ウレタン等の樹脂材料を用いたスウェード材;及びウレタン等の材料を用いたスポンジ材が挙げられるが、この中で、ポリウレタン樹脂を用いた含浸織布又は不織布;ウレタン等の樹脂材料を用いたスウェード材の製造方法に説明する。なお、クッション層6は、下記のような製造方法に沿って製造することもできるが、市販品を使用することもできる。
【0056】
<含浸材、スウェード材の場合>
クッション層6の形成工程では、クッション層6を湿式成膜する。すなわち、ポリウレタン樹脂が有機溶媒に略均一に溶解された樹脂溶液を調製する準備工程、準備工程で調製された樹脂溶液をシート状に展延し、水系凝固液中で樹脂溶液から有機溶媒を脱溶媒させてポリウレタン体を凝固再生させる凝固再生工程、凝固再生工程で凝固再生されたポリウレタン体を洗浄・乾燥してクッション層6を形成する洗浄・乾燥工程の各工程を経て形成されるが、以下、工程順に説明する。
【0057】
(準備工程)
準備工程では、ポリウレタン樹脂および必要により添加剤を有機溶媒に溶解させて樹脂溶液を調製する。樹脂溶液は、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒にポリウレタン樹脂および添加剤を略均一に溶解させ、濾過により凝集塊等を除去した後、真空下で脱泡することで調製される。有機溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)、ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略記する。)等を用いることができる。例えば、有機溶媒にDMFを用いる。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用いることができる。
【0058】
必要により添加する添加剤としては、カーボンブラック等の顔料、発泡を促進させる親水性活性剤およびポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。添加剤の種類や添加量を変えることで、クッション層6の内部に形成される涙型気泡6Aの大きさや量(個数)を制御することができる。研磨パッド3の貯蔵弾性率E’の調整は、クッション層6の物性にも影響を受けるため、適宜、材料の選定、有機溶媒の選定、樹脂および有機溶媒の混合比、涙型気泡6Aの大きさや量、クッション層6の厚みを設定することで調整する。例えば、樹脂溶液100部に対して、ポリウレタン樹脂を45~62部、DMFを8~32部の範囲にそれぞれ設定する。
【0059】
(凝固再生工程)
凝固再生工程では、準備工程で調製された樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布し(シート状に展延し)、水系凝固液に浸漬することでポリウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる。準備工程で調製した樹脂溶液を常温下でナイフコータ等の塗布機により帯状の成膜基材に略均一に塗布する。このとき、塗布機と成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、樹脂溶液の塗布厚さ(塗布量)を調整する。本例では、クッション層6の厚さが0.5~2.0mmの範囲となるように塗布量を調整する。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができる。不織布、織布を用いる場合は、樹脂溶液の塗布時に成膜基材内部への浸透を抑制するため、予め水またはDMF水溶液(DMFと水との混合液)等に浸漬する前処理(目止め)が行われる。
【0060】
樹脂溶液が塗布された成膜基材は、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする水系凝固液に浸漬される。水系凝固液中では、まず、塗布された樹脂溶液の表面にスキン層を構成する微多孔が厚み数μm程度にわたって形成される。その後、樹脂溶液中のDMFと水系凝固液との置換の進行により、ポリウレタン体が成膜基材の片面にシート状に凝固再生される。DMFが樹脂溶液から脱溶媒され、DMFと水系凝固液とが置換されることにより、ポリウレタン体中に多数の涙型気泡6Aが形成され、涙型気泡6Aを立体網目状に形成される。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水を浸透させないため、樹脂溶液の表面側(スキン層側)で脱溶媒が生じて、成膜基材側が表面側より大きな孔径の涙型気泡6Aが形成される。すなわち、ポリウレタン体の内部には、ポリウレタン体の厚み方向に沿って丸みを帯びた断面略三角状の多数の発泡6が略均等に分散した状態で形成される。
【0061】
(洗浄・乾燥工程)
洗浄・乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生された帯状(長尺状)のポリウレタン体を洗浄した後乾燥させ、クッション層6を形成する。すなわち、水等の洗浄液中で洗浄されポリウレタン体中に残留するDMFが除去される。洗浄後、ポリウレタン体をシリンダ乾燥機で乾燥させる。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。ポリウレタン体がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥し、クッション層6が形成される。
【0062】
<接合工程>
接合工程では、形成された研磨層4およびクッション層6を接着層7で貼り合わせる(接合する)。接着層7には、例えば、アクリル系粘着剤を用い、厚さが0.1mmとなるように接着層7を形成する。すなわち、研磨層4の研磨面と反対側の面にアクリル系粘着剤を略均一の厚さに塗布する。研磨層4の研磨面Pと反対側の面と、クッション層6の表面(スキン層が形成された面)と、を塗布された粘着剤を介して圧接させて、研磨層4およびクッション層6を接着層7で貼り合わせる。そして、円形等の所望の形状に裁断した後、汚れや異物等の付着が無いことを確認する等の検査を行い、研磨パッド3を完成させる。
【実施例0063】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0064】
各実施例及び比較例において、特段の指定のない限り、「部」とは「質量部」を意味するものとする。
【0065】
また、NCO当量とは、“(ポリイソシアネート化合物の質量(部)+ポリオール化合物の質量(部))/[(ポリイソシアネート化合物1分子当たりの官能基数×ポリイソシアネート化合物の質量(部)/ポリイソシアネート化合物の分子量)-(ポリオール化合物1分子当たりの官能基数×ポリオール化合物の質量(部)/ポリオール化合物の分子量)]”で求められるNCO基1個当たりのプレポリマー(PP)の分子量を示す数値である。
【0066】
(研磨層Aについて)
2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)及びジエチレングリコール(DEG)を反応させてなるNCO当量460のイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー100部に、殻部分がアクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体からなり、殻内にイソブタンガスが内包された未膨張タイプの中空微小球体2.6部を添加混合し、混合液を得た。得られた混合液を第1液タンクに仕込み、保温した。次に、第1液とは別途に、硬化剤としてMOCA25.5部及びポリプロピレングリコール(PPG)8.5部を添加混合し、第2液タンク内で保温した。第1液タンク、第2液タンクの夫々の液体を、注入口を2つ具備した混合機に夫々の注入口からプレポリマー中の末端イソシアネート基に対する硬化剤に存在するアミノ基及び水酸基の当量比を表わすR値が0.90となるように注入した。注入した2液を混合攪拌しながら予熱した成形機の金型へ注入した後、型締めをし、30分間、加熱し一次硬化させた。一次硬化させた成形物を脱型後、オーブンにて130℃で2時間二次硬化し、ウレタン成形物を得た。得られたウレタン成形物を25℃まで放冷した後に、再度オーブンにて120℃で5時間加熱してから1.3mmの厚みにスライスし、研磨層Aを得た。
【0067】
(研磨層Bについて)
研磨層Aで用いた第1液の混合液をNCO当量455のイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー100部と、未膨張タイプの中空微小球体の添加量を2.7部とした混合液とし、研磨層Aで用いた第2液をMOCA25.8部のみとした以外は、研磨層Aと同様の方法で作製し、研磨層Bを得た。
【0068】
(研磨層Cについて)
研磨層Aで用いた第1液にさらに4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)2部を混合し、未膨張タイプの中空微小球体の添加量を2.85部とし、研磨層Aで用いた第2液をMOCA28部のみとした以外は、研磨層Aと同様の方法で作製し、研磨層Cを得た。
【0069】
(研磨層としての研磨層Dについて)
ニッタ・ハース社製の商品名「IC1000」を研磨層Dとして用いた。
【0070】
(クッション層(I)乃至(V)について)
クッション層(I)の作製にポリウレタン樹脂として、ポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂を用いた。30%ポリウレタン樹脂溶液100部に対して、溶媒のDMFの25部、顔料としてカーボンブラック20%を含むDMF分散液40部、成膜安定剤の疎水性活性剤2部を添加し混合してポリウレタン樹脂溶液を調製した。得られた樹脂溶液を厚さ0.7mmでPET基材(厚さ0.188mm)に塗布し、水系凝固液中で樹脂溶液から有機溶媒を脱溶媒させ、PET基材を含めてクッション層(I)を作製した。
市販の微細気泡を有するポリウレタンシート(積水化学工業社製「セキスイスポンジ2504KMS」)をクッション層(II)とした。
市販の微細気泡を有するポリウレタンシート(イノアック社製「PORON HH-48C」)をクッション層(III)とした。
ポリエステル繊維からなる不織布(密度:0.216g/cm3)をウレタン樹脂溶液(DIC社製、商品名「C1367」)に浸漬した。浸漬後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落として、不織布に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、含浸樹脂を凝固再生させて樹脂含浸不織布を得た。その後、樹脂含浸不織布を凝固液から取り出し、さらに水からなる洗浄液に浸漬して、樹脂中のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を除去した後、乾燥させた。乾燥後、バフィング処理により表面のスキン層を除去しクッション層(IV)を作製した。クッション層(IV)の樹脂の付着率は55%、厚さは1.00mmであった。
ニッタ・ハース社製「SUBA400」を、クッション層(V)とした。
【0071】
(実施例及び比較例)
研磨層A~Dおよびクッション層(I)~(V)を厚さ0.1mmの両面テープ(PET基材の両面にアクリル系樹脂からなる接着層を備えるもの)で接合し、クッション層と接着層の反対側の面に両面テープを貼り合わせて実施例及び比較例の研磨パッドを製造した。各実施例・比較例の研磨層及びクッション層は表1に示すとおりである。
【0072】
【0073】
(動的粘弾性測定)
下記条件に基づき実施例及び比較例の研磨パッド(研磨層及びクッション層を両面テープで接着したもの)の動的粘弾性測定を行った。温度23℃(±2℃)、相対湿度50%(±5%)の恒温恒湿槽中で研磨パッドを40時間保持した乾燥状態の研磨パッドをサンプルとして用い、通常の大気雰囲気下(乾燥状態)で、曲げモードによる動的粘弾性測定を行った。曲げモードの測定条件を以下に示す。
【0074】
測定条件
測定装置 :RSA―G2(TAインスツルメント社製)
サンプル :縦5cm×横0.5cm×厚み0.125cm
試験モード :曲げモード
周波数 :約0.01~約10000(10
-2~10
4)rad/s
測定温度 :5℃、25℃、45℃
歪範囲 :0.10%
上記の通り、5℃・25℃・45℃のそれぞれの温度で周波数分散で測定を行い、温度-周波数換算則を用いて測定グラフの合成を行った。そして、0.001rad/s~100000rad/sにわたって貯蔵弾性率E’を求めた。各実施例及び比較例の測定結果を表2に示す。また、周波数に対する貯蔵弾性率E’全体的な結果については、代表的に実施例2を
図6、実施例4を
図7、比較例2を
図8に示す。
【0075】
【0076】
(段差研磨量試験(段差解消性能試験))
実施例及び比較例の研磨パッドを、研磨装置の所定位置にアクリル系接着剤を有する両面テープを介して設置し、上記研磨条件にて研磨加工を施した。段差解消性能は、100μm/100μmのディッシングを段差・表面粗さ・微細形状測定装置(KLAテンコール社製、P-16+OF)で測定することにより評価した。結果を
図9~
図12に示す。なお、ディッシングとは、主に幅広配線パターンで配線断面が皿状にくぼむ現象であり、エロージョンとは、主に微細配線部で配線と共に絶縁膜も削れてしまう現象であり、いずれも、過剰に研磨される現象である。
約3000~約3500オングストロームの段差を有するパターンウェハに対して、1回の研磨量が1000オングストロームになるように研磨レートを調整して研磨を実施し、段階的に研磨を行い都度ウェハの段差測定を実施した。縦軸のStep Heightは、段差を示す。
図9は、配線幅が120μmの配線の被研磨物を実施した結果、
図10はCu配線幅100μmに対して絶縁膜の幅100μmの配線の被研磨物を実施した結果、
図11はCu配線幅50μmに対して絶縁膜の幅50μmの配線の被研磨物を実施した結果、
図12はCu配線幅10μmに対して絶縁膜の幅10μmの配線の被研磨物を実施した結果となり、数字が小さいほど配線が微細になっている。
また、表2の段差解消性能は、研磨量が2000オングストロームとなるまでの初期研磨段階における、研磨量(オングストローム)に対する段差解消量(オングストローム)が、10μmから120μmの配線幅のいずれのパターンウェハに対しても、1を超えるものを良好として〇で示し、いずれかの配線幅で1以下となるものを不良として×で示した。なお、段差解消量は、研磨前の初期段差(約3000~約3500オングストローム)から、ある研磨時点で確認される段差を引いた値(オングストローム)で求められる。。
【0077】
(研磨条件)
使用研磨機:F-REX300X(荏原製作所社製)
Disk:A188(3M社製)
研磨剤温度:20℃
研磨定盤回転数:90rpm
研磨ヘッド回転数:81rpm
研磨圧力:3.5psi
研磨スラリー:CSL-9044C(CSL-9044C原液:純水=重量比1:9の混合液を使用)(富士フィルムプラナーソリューションズ製)
研磨スラリー流量:200ml/min
研磨時間:60秒
被研磨物: 上述のパターンウェハ
パッドブレーク:32N 10分
コンディショニング:in-situ 18N 16スキャン、Ex-situ 32N 4スキャン