(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004669
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊、粉末、並びに層状ケイ酸塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/42 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
C01B33/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106511
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000110251
【氏名又は名称】トピー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】清家 隆一
(72)【発明者】
【氏名】倉谷 昌人
(72)【発明者】
【氏名】林 剛芳
(72)【発明者】
【氏名】夏目 健
(72)【発明者】
【氏名】黒田 真人
(72)【発明者】
【氏名】安孫子 昌周
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA04
4G073BA63
4G073BD13
4G073BD21
4G073CA06
4G073CM07
4G073CM22
4G073CP01
4G073FC02
4G073FC27
4G073FD01
4G073FD25
4G073FD30
4G073GA01
4G073GA03
4G073GA11
4G073GA40
4G073GB10
4G073UB13
4G073UB31
4G073UB35
(57)【要約】
【課題】クリストバライト不純物量を低減した膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊及び粉末を提供すること。簡易な方法で、クリストバライト不純物量の少ない膨潤性層状ケイ酸塩を製造する製造方法を提供すること。
【解決手段】膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊におけるクリストバライトの含有率が1質量%未満である。膨潤性層状ケイ酸塩の製造方法は、膨潤性層状ケイ酸塩を合成するための原料の混合物を加熱して溶融する加熱工程と、加熱工程により溶融された溶融物を100℃/分以上の冷却速度で少なくとも900℃まで冷却して膨潤性層状ケイ酸塩の鉱塊を生成する冷却工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨潤性合成層状ケイ酸塩を含み、
クリストバライトの含有率が1質量%未満である、膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊。
【請求項2】
(060)面のX線回折ピークより決定される膨潤性合成層状ケイ酸塩の平均結晶子サイズが14nm~18nmである、請求項1に記載の鉱塊。
【請求項3】
前記膨潤性合成層状ケイ酸塩がナトリウム四ケイ素雲母である、請求項1又は2に記載の鉱塊。
【請求項4】
1つの鉱塊が10g以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の鉱塊。
【請求項5】
膨潤性合成層状ケイ酸塩の粉末を含み、
前記膨潤性合成層状ケイ酸塩が平均粒子径5μm~30μmの粉末であり、
膨潤性合成層状ケイ酸塩1質量部に対して、クリストバライトが2×10-3質量部以下である、粉末。
【請求項6】
(060)面のX線回折ピークより決定される膨潤性合成層状ケイ酸塩の平均結晶子サイズが14nm~18nmである、請求項5に記載の粉末。
【請求項7】
前記粉末が水性媒体中に分散したスラリーの形態にある、請求項5又は6に記載の粉末。
【請求項8】
前記膨潤性合成層状ケイ酸塩がナトリウム四ケイ素雲母である、請求項5~7のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項9】
膨潤性層状ケイ酸塩を合成するための原料の混合物を加熱して溶融する加熱工程と、
前記加熱工程により溶融された溶融物を100℃/分以上の冷却速度で少なくとも900℃まで冷却して膨潤性層状ケイ酸塩の鉱塊を生成する冷却工程と、を含む、膨潤性層状ケイ酸塩の製造方法。
【請求項10】
前記鉱塊中のクリストバライト含有率は、前記鉱塊の質量に対して1質量%以下である、請求項9に記載の膨潤性層状ケイ酸塩の製造方法。
【請求項11】
前記鉱塊を湿式又は乾式で粉砕して膨潤性層状ケイ酸塩の粉末を作製する粉砕工程をさらに含む、請求項9又は10に記載の膨潤性層状ケイ酸塩の製造方法。
【請求項12】
前記膨潤性層状ケイ酸塩がナトリウム四ケイ素雲母である、請求項9~11のいずれか一項に記載の膨潤性層状ケイ酸塩の製造方法。
【請求項13】
前記鉱塊に含まれるクリストバライトを除去するための除去工程を含まない、請求項9~12のいずれか一項に記載の膨潤性層状ケイ酸塩の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊に関する。本開示は、膨潤性合成層状ケイ酸塩の粉末を含む粉末に関する。また、本開示は、層状ケイ酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層状ケイ酸塩の製造方法として溶融合成法が知られている(例えば、特許文献1参照)。溶融合成法においては、層状ケイ酸塩の化学組成に応じて配合した原料を加熱して溶融させ、生じた溶融体を冷却することによって結晶化した層状ケイ酸塩を製造する。特許文献1に記載の製造方法においては、当該原料を20分以内に融解させ、溶融体を0.01℃/分~50℃/分の冷却速度で冷却している。
【0003】
特許文献2には、クリストバライトを含むスメクタイト型粘土鉱物を、クリストバライトの結晶構造が実質上消失する条件でアルカリ処理する、合成ヘクトライトの製法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4216510号公報
【特許文献2】特開昭62-59518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的な溶融合成法によれば、不純物としてクリストバライトが生成する。特許文献1に記載の方法においては、原料を急速に融解させることによって、膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊中のクリストバライト不純物を低減させている。しかしながら、特許文献1に記載の方法によっても、まだなお、膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊中に3体積%(約2.6質量%)のクリストバライトが含まれており、さらにクリストバライトを低減できることが期待されている。
【0006】
膨潤性合成層状ケイ酸塩は、通常、鉱塊を粉砕することによって粉末化される。そこで、粉砕後、分級によるクリストバライトの除去も検討される。しかしながら、分級処理ではクリストバライト量を低減することは困難であると共に、膨潤性合成層状ケイ酸塩のロスも多くなってしまう。
【0007】
特許文献2に記載の方法においては、アルカリ処理によって粘度鉱物中のクリストバライトを処理している。しかしながら、特許文献2に記載のようなアルカリ処理によっても、膨潤性合成層状ケイ酸塩中のクリストバライトを低減することは困難である。また、アルカリ処理のような工程を増やすと、膨潤性合成層状ケイ酸塩の製造コストの増大につながる。
【0008】
そこで、クリストバライト不純物量を低減した膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊及び粉末が求められている。また、簡易な方法で、クリストバライト不純物量の少ない層状ケイ酸塩を製造する製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1視点によれば、膨潤性合成層状ケイ酸塩を含み、クリストバライトの含有率が1質量%未満である、膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊が提供される。
【0010】
本開示の第2視点によれば、膨潤性合成層状ケイ酸塩の粉末を含む粉末が提供される。膨潤性合成層状ケイ酸塩が平均粒子径5μm~30μmの粉末である。膨潤性合成層状ケイ酸塩1質量部に対して、クリストバライトが2×10-3質量部以下である。
【0011】
本開示の第3視点によれば、膨潤性層状ケイ酸塩を合成するための原料の混合物を加熱して溶融する加熱工程と、加熱工程により溶融された溶融物を100℃/分以上の冷却速度で少なくとも900℃まで冷却して膨潤性層状ケイ酸塩の鉱塊を生成する冷却工程と、を含む、膨潤性層状ケイ酸塩の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本開示の膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊に含まれる不純物であるクリストバライトの量は少ない。本開示の膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊によれば、不純物の少ない膨潤性合成層状ケイ酸塩の粉末を得ることができる。
【0013】
本開示の粉末に含まれる不純物であるクリストバライトの量は少ない。本開示の粉末によれば、クリストバライトに起因する悪影響を低減することができる。
【0014】
本開示の層状ケイ酸塩の製造方法によれば、簡易な方法で膨潤性合成層状ケイ酸塩に含まれる副生成物であるクリストバライトの量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】試験例1及び試験例4における生成物のX線回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記各視点の好ましい形態を以下に記載する。
【0017】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(060)面のX線回折ピークより決定される膨潤性合成層状ケイ酸塩の平均結晶子サイズが14nm~18nmである。
【0018】
上記第1視点の好ましい形態によれば、膨潤性合成層状ケイ酸塩がナトリウム四ケイ素雲母である。
【0019】
上記第1視点の好ましい形態によれば、1つの鉱塊が10g以上である。
【0020】
上記第2視点の好ましい形態によれば、(060)面のX線回折ピークより決定される膨潤性合成層状ケイ酸塩の平均結晶子サイズが14nm~18nmである。
【0021】
上記第2視点の好ましい形態によれば、粉末が水性媒体中に分散したスラリーの形態にある。
【0022】
上記第2視点の好ましい形態によれば、膨潤性合成層状ケイ酸塩がナトリウム四ケイ素雲母である。
【0023】
上記第3視点の好ましい形態によれば、鉱塊中のクリストバライト含有率は、鉱塊の質量に対して1質量%以下である。
【0024】
上記第3視点の好ましい形態によれば、膨潤性層状ケイ酸塩の製造方法は、鉱塊を湿式又は乾式で粉砕して層状ケイ酸塩の粉末を作製する粉砕工程をさらに含む。
【0025】
上記第3視点の好ましい形態によれば、膨潤性層状ケイ酸塩がナトリウム四ケイ素雲母である。
【0026】
上記第3視点の好ましい形態によれば、膨潤性層状ケイ酸塩の製造方法は、鉱塊に含まれるクリストバライトを除去するための除去工程を含まない。
【0027】
以下の説明において、図面参照符号は発明の理解のために付記しているものであり、図示の態様に限定することを意図するものではない。また、図面は、本開示の膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊及び粉末、並びにそれらの製造方法についての理解を助けるためのものであって、図示の形状、寸法、縮尺等図面の形態に膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊及び粉末、並びにそれらの製造方法を限定することを意図するものではない。各実施形態において、同じ要素には同じ符号を付してある。
【0028】
本開示において、鉱塊とは、膨潤性合成層状ケイ酸塩の原料を溶融させた溶融体を冷却して生成された膨潤性合成層状ケイ酸塩の塊のことをいう。鉱塊には、粉末に粉砕する前の状態の塊も含まれる。また、鉱塊は、膨潤性合成層状ケイ酸塩の製造後の無垢の塊に限定されない。鉱塊には、製造後の鉱塊をより小さな塊に分割ないし破砕した鉱塊も含まれる。鉱塊の大きさは層状ケイ酸塩の製造スケール及びその後の処理に依存する。鉱塊は、例えば、10グラム以上、100グラム以上、1キログラム以上、10キログラム以上、50キログラム以上、又は100キログラム以上とすることができる。また、鉱塊は、200キログラム以下、100キログラム以下、50キログラム以下、10キログラム以下、1キログラム以下、100グラム以下、又は50グラム以下とすることができる。鉱塊の形状は、溶融体の冷却時の形状、分割・破砕後の形状等に依存する。
【0029】
本開示において、膨潤性とは、水を含んで膨張する(体積が増大)することをいう。特に明記が無い限り、本開示において、膨潤性合成層状ケイ酸塩は、乾燥した状態の合成層状ケイ酸塩、すなわち膨潤していない状態の合成層状ケイ酸塩を指す。
【0030】
本開示の膨潤性層状ケイ酸塩は、以下の式で表すことができる。
X1/3~1Y2~3Z4O10F2
上記式中、X、Y、Zの位置に置換可能な元素をイオンの形で示すと次の通りである。
X:Na+、Li+、K+、Ca2+、Sr2+、Ba2+;
Y:Mg2+、Li+、Ni2+、B3+、Co3+、Zn2+、Mn3+、Al3+、Cr3+、Fe2+、Fe3+;
Z:Al3+、Si4+、Ge4+、B3+、Fe3+、Ti4+。
【0031】
層状ケイ酸塩としては、例えば、膨潤性雲母(膨潤性マイカ)を挙げることができる。雲母としては、例えば、ナトリウム四ケイ素雲母(NaMg2.5(Si4O10)F2)を挙げることができる。
【0032】
本開示の第1実施形態に係る膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊について説明する。
【0033】
鉱塊は膨潤性合成層状ケイ酸塩を含む。膨潤性合成層状ケイ酸塩の含有率は、鉱塊の質量に対して、99質量%以上、99.5質量%以上、又は99.9質量%以上とすることができる。不純物が検出されない場合、鉱塊は実質的に膨潤性合成層状ケイ酸塩100質量%とみなすことができる。
【0034】
鉱塊中のクリストバライトは、鉱塊の質量に対して、1質量%未満であると好ましく、0.5質量%以下であるとより好ましく、0.1質量%以下であるとさらに好ましい。鉱塊中のクリストバライトの量は、X線回折に基づく定量分析において検出限界未満であるとさらに好ましい。クリストバライトは、膨潤性合成層状ケイ酸塩の製造時の副生成物である。
【0035】
鉱塊中のクリストバライト含有率は、例えば、X線回折に基づく内部標準法による定量分析により測定することができる。内部標準法においては、クリストバライトを定量するための、クリストバライトと内部標準試料(例えば、アルミナ)とのX線回折ピークの積分強度の相関を示す検量線を作成する。検量線は、クリストバライトの量を変化させたクリストバライトと内部標準試料の複数の混合物についてX線回折パターンを測定し、クリストバライトの量Xに対してクリストバライト由来ピークの積分強度I1/内部標準試料由来ピークの積分強度I2をプロットして作成することができる。作成した検量線から傾きaを求める。クリストバライトを定量する測定試料に所定量の内部標準試料を添加及び混合し、測定試料のX線回折パターンを測定する。所定のクリストバライトのピークの積分強度I1(例えば、2θ=31.4°付近にあるピーク(ミラー指数(hkl):102)の積分強度)及び内部標準試料のピークの積分強度I2(例えば、アルミナであれば、2θ=25.5°付近にあるピーク(ミラー指数(hkl):012)の積分強度)を読み取る。以下の式より、クリストバライト含有率X(質量%)を算出することができる。
X(質量%)=(I1/I2)/a=I1/(I2×a)
【0036】
膨潤性合成層状ケイ酸塩の平均結晶子サイズは14nm以上であると好ましい。また、平均結晶子サイズは18nm以下であると好ましい。膨潤性合成層状ケイ酸塩が合成雲母である場合、結晶子サイズは、(060)面のX線回折ピークに基づき、以下の式より算出することができる。平均結晶子サイズは、3回の測定値の平均値とすることができる。
D=Kλ/(Bcosθ)
D:結晶子サイズ(nm)、K:シェラー定数、λ:X線の波長(nm)、B:回折線幅の広がり(半値全幅(FWHM))(ラジアン)、θ:ブラッグ角(ラジアン)
【0037】
本開示の第1実施形態に係る膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊に含まれる不純物、特にクリストバライト、の含有量は1質量%未満と非常に少ない。これにより、鉱塊を粉砕するだけで、不純物の少ない膨潤性合成層状ケイ酸塩の粉末、すなわち第2実施形態に係る粉末、を得ることができる。
【0038】
本開示の第2実施形態に係る粉末について説明する。
【0039】
粉末は、膨潤性合成層状ケイ酸塩の粉末を含む。膨潤性合成層状ケイ酸塩の粉末は、第1実施形態に係る鉱塊を粉砕して粉末化したものとすることができる。粉末の粒子形状は、例えば、板状形状、薄片形状、鱗片形状等の形状とすることができる。
【0040】
粉末中の粒子(膨潤性合成層状ケイ酸塩含む)の平均粒子径は特に限定されない。粉末は、目的に応じた平均粒子径を有することができる。平均粒子径としては、メジアン粒子径(粒子径の中央値)を採用することができる。例えば、粉末のメジアン粒子径は、0.1μm以上、1μm以上、2μm以上、5μm以上、7μm以上、又は10μm以上とすることができる。また、メジアン粒子径は、200μm以下、100μm以下、50μm以下、40μm以下、30μm以下、20μm以下、10μm以下、又は5μm以下とすることができる。メジアン粒子径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定によって測定することができる。
【0041】
粉末中の粒子(膨潤性合成層状ケイ酸塩含む)の平均厚さは、例えば、1nm以上、5nm以上、10nm以上、50nm以上、0.1μm以上、及び0.3μm以上とすることができる。また、粉末中の粒子の平均厚さは、例えば、1μm以下、0.5μm以下、0.3μm以下、0.2μm以下、0.1μm以下、又は80nm以下とすることができる。平均厚みの測定方法は、特に限定されないが、例えば、電子顕微鏡の傾斜観察によって任意の個数の粒子の厚みを測定し、それらの平均値として算出することができる。
【0042】
粉末中の粒子(膨潤性合成層状ケイ酸塩含む)の平均アスペクト比(メジアン粒子径/平均厚さ)は、例えば、20以上、50以上、70以上、100以上、200以上、300以上、400以上、又は500以上とすることができる。また、粉末中の粒子の平均アスペクト比の上限は特に限定されず、粘度の観点から10,000以下であると好ましい。粉末中の粒子の平均アスペクト比は、例えば、5,000以下、4,000以下、3,000以下、2,000以下、1,000以下、500以下、400以下、300以下、200以下、150以下、100以下、又は80以下とすることができる。平均アスペクト比の決定方法は、特に限定されないが、例えば、電子顕微鏡の傾斜観察によって決定した任意の個数の粒子径と厚みを測定し、得られたメジアン粒子径の値を平均厚みの値で割ることで算出することができる。
【0043】
粉末中の膨潤性合成層状ケイ酸塩の結晶子サイズは、第1実施形態と同様とすることができる。結晶子サイズが小さくなることにより、粒子をより薄くすることができると考えられる。
【0044】
粉末中の膨潤性合成層状ケイ酸塩粉末の含有率は、粉末の質量に対して、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、又は99.9質量%以上とすることができる。また、粉末中に他の粉末及び不純物が検出されない場合、粉末中の膨潤性合成層状ケイ酸塩の含有率は100質量%とみなすことができる。粉末中の膨潤性合成層状ケイ酸塩の定量方法は、含有する他の粉末に応じて適宜選択することができる。例えば、X線回折に基づく内部標準法が選択肢に挙げられる。また、膨潤性合成層状ケイ酸塩がフッ素を含有する場合、フッ素の成分分析が選択肢に挙げられる。
【0045】
本開示の粉末において、クリストバライトは、膨潤性合成層状ケイ酸塩1質量部に対して、2×10-3質量部以下、より好ましくは1.5×10-3質量部以下、より好ましくは1×10-3質量部以下、より好ましくは5×10-4質量部以下、より好ましくは1×10-4質量部以下であると好ましい。クリストバライトは、さらに好ましくは検出限界未満であると好ましい。粉末中のクリストバライトの量は、上述のX線回折に基づく内部標準法による定量分析によって測定することができる。
【0046】
本開示の粉末は、膨潤性合成層状ケイ酸塩以外の粉末を含むこともできる。
【0047】
本開示の粉末は、乾燥した粉末の形態とすることができる。また、本開示の粉末は、分散媒中に分散したスラリー(懸濁液)の形態とすることもできる。分散媒としては、例えば、水、エタノール等の低級アルコール、これらの混合物等を適用することができる。スラリー中の粉末(乾燥状態)の含有率は、例えば、スラリーの質量に対して、0.1質量%以上、3質量%以上、又は10質量%以上とすることができる。スラリー中の粉末の含有率は、例えば、スラリーの質量に対して、50質量%以下、30質量%以下、又は15質量%以下とすることができる。
【0048】
本開示の粉末においては、膨潤性合成層状ケイ酸塩に対するクリストバライトの相対量が低くなっている。これにより、クリストバライトによる弊害を小さくすることができる。例えば、本開示の粉末が合成雲母粉末である場合、本開示の粉末を皮膚外用剤に適用すると、クリストバライトを約2~10%含有している合成雲母粉末を適用した場合に比べて、クリストバライトに起因する異物感を低減でき、使用者はより滑らかな使用感を得ることができる。また、本開示の粉末を肌に塗布した際には、肌により密着して、落ちにくい粉末とすることができる。さらに、本開示の粉末をガスバリア膜に適用すると、クリストバライトを約数2~10%含有している合成雲母粉末を適用した場合に比べて、バリア性能を向上させることができる。
【0049】
本開示の第3実施形態に係る層状ケイ酸塩の製造方法について説明する。
【0050】
本開示の製造方法は、層状ケイ酸塩の原料を溶融する加熱工程と、加熱工程において溶融された溶融体を冷却する冷却工程と、を含む。
【0051】
層状ケイ酸塩の原料としては、従来公知の内熱式溶融法で使用されるものを用いることができる。例えば、上記の膨潤性合成層状ケイ酸塩の構成元素を含む原料を、目的とする化学組成に応じて混合使用すればよい。例えば、膨潤性層状ケイ酸塩がナトリウム四ケイ素雲母(NaMg2.5(Si4O10)F2)である場合の原料としては、SiO2、MgO及びNa2SiF6をモル比3.15~3.85:2.25~2.75:0.45~0.55で混合したものを用いることができる。また、長石、かんらん石、タルク等の天然鉱物をSi、Al、Mg源として使用しても差し支えない。前記X、Y、Zを他の元素で置換する場合には、上記に例示した化合物等の混合物に、置換する元素の酸化物、フッ化物、炭酸塩等を配合して溶融すればよい。
【0052】
原料を溶融する溶融炉としては、例えば、一般的な内熱式溶融炉、外熱式溶融炉、高周波誘導加熱炉等を使用することができる。中でも高周波誘導加熱炉が好適に用いられる。内熱式溶融炉及び高周波誘導加熱炉を使用する場合、規格投入量よりも実際の原料投入量を減らすことで融解に要する加熱時間が短時間となるように調整することができる。また、外熱式溶融炉においては、室温下で炉内に配合原料を入れるのではなく、あらかじめ炉内を加熱しておき炉内温度が1200℃以上になった時点で原料を投入することで融解に要する加熱時間を短時間に調整することができる。
【0053】
原料を溶融するための加熱温度は、1200℃~1800℃、好ましくは1400℃~1600℃である。
【0054】
冷却工程においては、溶融体を100℃/分以上、好ましくは150℃/分以上、より好ましくは200℃/分以上、の冷却速度で急冷する。急冷は、溶融状態から少なくとも900℃までの温度領域で行うと好ましい。900℃未満の温度領域は放冷であってもよい。急冷速度を100℃/分以上とすると、副生成物であるクリストバライトの生成量を減少させることができる。冷却工程における温度は、溶融体の外面温度(放射温度)である。
【0055】
溶融体を急冷する方法は、特に限定されず、いずれの方法であってもよい。例えば、溶融体を炉外に取り出した後水冷ジャケットを設けた鋳型で急冷する方法、冷却床で急冷する方法等を適用することができる。鋳型の冷却は、水冷、空冷いずれの方法であってもよい。冷却床の構造は、冷却ジャケットを設けた構造を採用することができる。
【0056】
これにより、第1実施形態に係る膨潤性合成層状ケイ酸塩を得ることができる。冷却工程により得られた鉱塊中のクリストバライトの含有率は、上記に示した鉱塊中の含有率とすることができる。
【0057】
第3実施形態に係る層状ケイ酸塩の製造方法は、冷却工程で得られた鉱塊の少なくとも一部を粉砕して層状ケイ酸塩の粉末を作製する粉砕工程をさらに含むことができる。粉砕方法は、特に限定されず、いずれの方法であってもよい。例えば、最初に、膨潤性層状ケイ酸塩の鉱塊を、ジョークラッシャー、ハンマークラッシャー等の一般的な破砕機で粗粉砕する。この後、粗粉砕原料を、ハンマーミル、ロールミル、レイモンドミル等の乾式粉砕機で粉末化して、層状ケイ酸塩の粉末を製造することができる。粉砕方法は、湿式であってもよいし、乾式であってもよい。粉砕は、粉末が所望の平均粒子径を有するように行うことができる。粉砕工程により、第2実施形態に係る粉末を製造することができる。粉砕工程によって得られた粉末中のクリストバライトの含有率は、上記に示した粉末中の含有率とすることができる。
【0058】
湿式において粉砕する場合、水性媒体中で粉砕することができる。水性媒体としては、例えば、水、エタノールを含むアルコール類等を使用することができる。粉砕後、膨潤性合成層状ケイ酸塩が分散したスラリー(懸濁液)を得ることができる。
【0059】
粉砕工程によって得られた粉末を水性媒体中に分散させることにより、膨潤性合成層状ケイ酸塩の粉末が分散したスラリーを得ることができる。
【0060】
第3実施形態に係る層状ケイ酸塩の製造方法は、クリストバライトを除去する除去工程を含まなくてもよい。除去工程としては、例えば、粉末を分級してクリストバライトを除去する方法、鉱塊又は粉末を加熱してクリストバライトを除去する方法、粉末をアルカリ処理してクリストバライトを除去する方法を挙げることができる。これにより、工程数を削減することができる。
【0061】
本開示の製造方法によらずに製造した鉱塊及び粉末中に副生成物であるクリストバライトが5質量%以上含まれている場合、上述の除去方法をもってしてもクリストバライト含有率を1質量%以下にすることが困難である。
【0062】
第3実施形態に係る層状ケイ酸塩の製造方法によれば、第1実施形態に係る膨潤性合成層状ケイ酸塩の鉱塊、及び第2実施形態に係る粉末を製造することができる。
【0063】
第3実施形態に係る層状ケイ酸塩の製造方法によれば、層状ケイ酸塩の合成時に副生成物であるクリストバライトの生成を抑制することができる。これにより、純度の高い層状ケイ酸塩を製造することができる。
【0064】
本開示の層状ケイ酸塩の鉱塊、及び粉末は、その組成、構造、特定等によって直接特定することが困難であるか、又はおよそ実際的ではない場合がある。このような場合には、本開示の層状ケイ酸塩の鉱塊、及び粉末は、その製造方法によって特定することが許されるべきものである。
【実施例0065】
以下に、本開示の層状ケイ酸塩の鉱塊、粉末、及び層状ケイ酸塩の製造方法について、例を挙げて説明する。しかしながら、層状ケイ酸塩の鉱塊、粉末、及び層状ケイ酸塩の製造方法は、以下の例に限定されるものではない。
【0066】
[試験例1]
二酸化ケイ素51.9Kg、酸化マグネシウム24.9Kg、及びケイフッ化ナトリウム23.2Kgを配合した溶融原料100Kgを内熱式溶融炉で炭素電極を使用して1450℃まで昇温した後10分間保持し、原料混合物を溶融させた。炉内から溶融体を取り出し、水冷ジャケットを設けた鉄製の鋳型に入れ、203℃/分の冷却速度で900℃まで急冷した。その後、室温まで冷却して結晶化させて膨潤性合成層状ケイ酸塩のナトリウム四ケイ素雲母の鉱塊を得た。得られた鉱塊についてクリストバライトの含有量を測定した。
【0067】
[試験例2]
冷却速度以外は試験例1と同様の方法で鉱塊を作製した。試験例2においては、溶融体を115℃/分の冷却速度で急冷した。得られた鉱塊についてクリストバライトの含有量を測定した。
【0068】
[試験例3]
冷却方法以外は試験例1と同様の方法で鉱塊を作製した。試験例3においては、溶融体を、水冷ジャケットを設けた冷却床に流し込み、321℃/分の冷却速度で急冷した。得られた鉱塊についてクリストバライトの含有量を測定した。
【0069】
[試験例4]
ナトリウム四ケイ素雲母の化学組成に配合した溶融原料100Kgを内熱式溶融炉で炭素電極を使用して1450℃まで昇温した後10分間保持し、原料混合物を溶融させた。炉内から溶融体を取り出し、鉄製の鋳型に入れ、36℃/分の冷却速度で900℃まで冷却した。その後、室温まで冷却して結晶化させて鉱塊を得た。得られた鉱塊についてクリストバライトの含有量を測定した。
【0070】
[クリストバライト含有率の測定]
各試験例におけるクリストバライト生成量は、X線回折に基づく内部標準法により測定した。内部標準物質としてはアルミナを用いた。予め、クリストバライト生成量を特定するための検量線を作成した。クリストバライトの割合を1質量%、10質量%、25質量%、及び50質量%と変えた、アルミナ20質量%、クリストバライト及びフッ化カルシウム(残余、希釈物質)の混合物について、それぞれ、X線回折パターンを測定した。各X線回折チャートについて、2θ=25.6°付近にあるアルミナピーク(ミラー指数(hkl):012)の積分強度I2及び2θ=31.4°付近にあるクリストバライトピーク(ミラー指数(hkl):102)の積分強度I1を読み取った。そして、クリストバライト含有率に対してクリストバライトピークの積分強度I1/アルミナピークの積分強度I2をプロットして検量線を作成した。作成した検量線の傾きaを測定した。作成した検量線の傾きaは0.0462であった。
【0071】
次に、各試験例で得られた鉱塊のX線回折パターンを測定した。まず、各試験例で得られた鉱塊を粉末にして乾燥させた。次に、各試験例の粉末0.800±0.001gと内部標準物質であるアルミナ0.200±0.001gを秤量し、混合した。混合した試料についてX線回折装置(MiniFlex600-C(株式会社リガク製))によりCu-Kα線を用いてX線回折パターンを測定した。各X線回折チャートにおいて、2θ=31.4°付近にあるクリストバライトピーク(ミラー指数(hkl):102)の積分強度I1(cps)及び2θ=25.6°付近にあるアルミナピーク(ミラー指数(hkl):012)の積分強度I2(cps)を読み取った。そして、以下の式より、各試験例で製造した合成雲母中に含まれるクリストバライト含有率Xを算出した。表1に、クリストバライト含有率の測定結果を示す。表1において、「0.1未満」とは、クリストバライトの有意なピークを検出できなかったために、すなわち、クリストバライトピークの積分強度がゼロであったために、クリストバライト含有率が検出限界未満であったことを示す。
【0072】
X(質量%)=(I1/I2)/0.0462=I1/(I2×0.0462)
【0073】
図1に、試験例1及び試験例4における生成物のX線回折パターンの対比図を示す。
図2に、
図1に示すX線回折パターンにおけるクリストバライトのピークの拡大図を示す。
図3に、
図1に示すX線回折パターンにおけるアルミナ(内部標準物質)のピークの拡大図を示す。
【0074】
【0075】
図1及び
図2に示すように、
図1冷却速度を100℃/分以上とした試験例1~3においては、いずれもX線回折パターンにおいてクリストバライトが検出されなかった。一方、冷却速度を36℃/分とした試験例4においては、鉱塊中9.6質量%のクリストバライトが検出された。これより、原料の溶融体を100℃/分以上とすることにより、副生成物であるクリストバライトの生成を抑制できることが分かった。
【0076】
[試験例5]
試験例1で作製したナトリウム四ケイ素雲母の鉱塊5gを100mlのイオン交換水に投入し12時間攪拌後、遠心分離機で分級し、平均粒子径10μmのスラリーを得た。スラリーは十分な粘性を有し、コーティング材料として好適であった。
【0077】
鉱塊を粉砕して粉末の形態に変化させても、粉末におけるクリストバライト含有率、及び合成雲母1質量部に対するクリストバライト量は、試験例1~4と同じであった。
【0078】
[試験例6:結晶子サイズの測定]
試験例1~4で製造した合成雲母について、結晶子サイズを測定した。結晶子サイズは、X線回折により、(060)面に由来する2θ=約61°付近にあるピークの半値幅を測定し、以下の式より算出した。X線はCuKα線を用い、λ=0.154nmとした。Kは0.89とした。結晶子サイズは、3回のX線回折測定の平均値とした。測定結果を表2に示す。
【0079】
D=Kλ/(Bcosθ)
D:結晶子サイズ(nm)、K:シェラー定数、λ:X線の波長(nm)、B:半値幅(rad)、θ:ブラッグ角(rad)
【0080】
【0081】
試験例1~3で製造した試験例6-1~6-3の合成雲母粉末においては、試験例4で製造した試験例6-4の合成雲母粉末よりも結晶子サイズが小さくなった。試験例6-1~6-3の合成雲母は急冷によって結晶化させたため、結晶子が小さくなったものと考えらえる。結晶子サイズが小さくなることにより、膨潤性合成層状ケイ酸塩の粒子をより薄くすることができると考えられる。
【0082】
[試験例7:摩擦試験]
膨潤性合成層状ケイ酸塩中のクリストバライトの含有率が膨潤性合成層状ケイ酸塩を塗布したときの摩擦感に与える影響を試験した。摩擦試験においては、平均摩擦係数(MIU)及び摩擦係数の平均偏差(MMD)を測定した。MIUは、膨潤性合成層状ケイ酸塩粉末を塗布したときに塗布者が感じるすべりやすさを表している。MIUの値が小さくなるほど塗布者は滑りやすさを感じることになる。MIUの値は0.8未満であることが好ましい。MMDは、膨潤性合成層状ケイ酸塩粉末を塗布したときに塗布者が感じるなめらかさ、ざらつき感を表している。MMDの値が小さくなるほど塗布者はなめらかさを感じることになる。
【0083】
摩擦試験には、クリストバライト含有率が検出限界未満(0.1質量%未満)の試験例1で製造した合成雲母の鉱塊と、クリストバライトを9.6質量%含有する試験例4で製造した合成雲母の鉱塊を、それぞれ、レイモンドミルによって粉末化した粉末を用いた。試験例1及び4の鉱塊は、同一の方法で同一の程度に粉末化した。試験例7-1と7-3の粉末は同一ロットの粉末である。試験例7-2と7-4の粉末は同一のロットの粉末である。摩擦試験は、シリコンセンサーを用いる摩擦感テスターKES-KS(カトーテック社製)を使用した。人工皮革上に粉末を0.01g均一に塗布して試験を行った。各試験例の粉末について3回測定を行い、その平均値を算出した。MIUの測定結果を表3に示す。MMDの測定結果を表4に示す。測定条件は以下の通りである;
SENS:H
摩擦静荷重:25gf
測定距離:20mm
測定速度:1mm/sec
センサー:10mm角センサー
温度:20.5℃±2℃
湿度:60%±2℃
【0084】
【0085】
【0086】
試験例7-1及び7-2のMIUは0.8未満であり、いずれも滑りやすい粉末であった。また、試験例7-3の粉末のほうが試験例7-4よりもなめらかであり、ざらつきがなかった。合成雲母の粒子形状は平板形状(鱗片形状)であるが、クリストバライトの粒子形状は平板以外の形状である。このため、試験例1から得た粉末においては異物がなくなったため、よりなめらかでざらつきがないと考えられる。これより、本開示の粉末は、肌への適用に適していることが分かった。
【0087】
また、試験例7-3の粉末のほうがMMDの値が小さかった、これは、粉末を塗膜した際に、凹凸が少なく、均一に整列しやすく密に並びやすいことを意味する。これより、後記試験例8に示すように、本開示の粉末は、ガスバリア性の向上にも適していることが分かった。
【0088】
[試験例8:ガスバリア試験]
クリストバライト含有率が検出限界未満(0.1質量%未満)の試験例1で製造した合成雲母粉末、並びにクリストバライトを9.6質量%含有する試験例4で製造した合成雲母粉末を塗布したフィルムについてガスバリア性能(水蒸気透過性)を試験した。
【0089】
ガスバリア試験は、カップ法(JISZ0208)に準拠して行った。ガスバリア試験には、試験例1で製造した鉱塊、並びに試験例4で製造した鉱塊を、それぞれ、レイモンドミルによって粉末化した粉末を用いた。試験例1及び4の鉱塊は、同一の方法で同一の程度に粉末化した。
【0090】
各試験例の合成雲母粉末を水中に分散させてスラリーを作製した。このスラリーに、粉末と水溶性樹脂の合計質量がスラリーの質量に対して15質量%となるように、ポリウレタン水溶性樹脂(タケラック(登録商標)WPB-341(三井化学エムシー社))を添加、混合し、塗布液を作製した。塗布液中の合成雲母粉末の含有率が、水溶性樹脂と粉末の合計質量に対して、無添加(0質量%)、10質量%、及び20質量%と異なる塗布液をそれぞれ作製した。次に、塗布液を厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)に、乾燥前の厚さで10μmとなるように塗布し、乾燥機内で乾燥させた。得られたフィルムを装着し、吸湿剤として塩化カルシウム7gを収容した試験カップを温度40℃、湿度90%RHに調整した恒温恒湿槽に24時間静置した。以下の式より、水蒸気透過度(WVTR;Water Vapor Transmission Rate)を算出した。水蒸気透過度は以下の式より算出した。表5に、測定結果(g/(m2・day))を示す。
【0091】
WVTR(g/(m2・day))=(水蒸気暴露後の試験カップの質量(g)-水蒸気暴露前の試験カップの質量(g))/フィルム面積(m2)
【0092】
【0093】
表5に示す水蒸気透過度の数値が大きいほど、フィルムのガスバリア性能が低いことを表す。クリストバライト量が少ない合成雲母を塗布したフィルムは、クリストバライト量が多い合成雲母を塗布したフィルムよりもガスバリア性能が高かった。不純物であるクリストバライトが少ない方が、粉末とPETフィルムとの間隙を少なくしてガスバリア性能が高められたと考えられる。また、粉末粒子がより薄くなったために、ガスバリア性能が高められたとも考えられる。
【0094】
[試験例9:アルカリ処理によるクリストバライト除去試験]
上記試験例4で作製した合成雲母の粉末について、アルカリ処理によるクリストバライトの除去を試みた。試験例4で作製した鉱塊から、クリストバライトを9.6質量%含有する合成雲母粉末を作製し、5質量%となるように粉末を水に分散させてスラリーを作製した。水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又は水酸化マグネシウムを表6に示す量でスラリーに添加して95℃~98℃で5時間加熱した。加熱処理後、処理物を乾燥し、粉砕して粉末化した。クリストバライトの含有率は、X線回折に基づく内部標準法により測定した。アルカリ処理条件及びクリストバライト残存量を表6に示す。試験例9-2~9-4は、試験例9-1と同じ製造ロットの合成雲母をアルカリ処理したものである。表6に示す減少率は、試験例9-1のクリストバライトの含有率に対する変化率である。
【0095】
【0096】
いずれのアルカリ処理でもクリストバライトの大部分が残存していた。アルカリ処理ではクリストバライトの含有率を1質量%以下にすることが困難であることが分かった。
【0097】
[試験例10:熱処理によるクリストバライト除去試験]
上記試験例4で作製した鉱塊から作製した合成雲母の粉末について、熱処理によるクリストバライトの除去を試みた。粉末20gを、それぞれ、450℃、650℃、及び850℃で熱処理した。熱処理条件、並びにクリストバライトの含有率及び変化率を表7に示す。試験例10-2~10-4は、試験例10-1と同じ製造ロットの合成雲母を熱処理したものである。表7に示す変化率は、試験例10-1のクリストバライトの含有率に対する変化率である。
【0098】
【0099】
粉末を熱処理するとクリストバライトが減少する傾向があった。しかしながら、いずれの熱処理でもクリストバライトの大部分が残存していた。熱処理ではクリストバライトの含有率を1質量%以下にすることが困難であることが分かった。
【0100】
[試験例11:分級によるクリストバライト除去試験]
上記試験例4で作製した合成雲母の粉末について、分級処理によるクリストバライトの除去を試みた。分級処理は、膨潤性合成層状ケイ酸塩を水に分散した後、遠心分離により行った。分級前に比べて、合成雲母は約30質量%減少したが、クリストバライトの含有率は変化しなかった。したがって、分級処理ではクリストバライトの除去は困難であることが分かった。
【0101】
本発明の膨潤性合成層状ケイ酸塩、粉末及びそれらの製造方法は、上記実施形態及び実施例に基づいて説明されているが、上記実施形態及び実施例に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、明細書及び図面に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本発明の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0102】
本発明のさらなる課題、目的及び形態(変更形態含む)は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【0103】
本書に記載した数値範囲については、別段の記載のない場合であっても、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし範囲が本書に具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
本開示の膨潤性合成層状ケイ酸塩、粉末、混合粉末、及びこれらの製造方法は、例えば、化粧料、塗料、金属イオン吸着剤、フィルム、ナノコンポジット材、紙・フィルム・塗料その他のガスバリア性向上材、インキ・塗料・化粧料の粘性調整材、樹脂等の改質材、難燃性材料、耐薬品性材料、イオン吸着材、ガスケット材、潤滑剤、伝導性材料、レーザーマーキング材料、感熱記録材料、分散剤、描画材、分散剤等に適用することができる。