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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046724
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】光硬化性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/35 20200101AFI20230329BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20230329BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230329BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20230329BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
A61K6/35
A61K6/60
C08L101/00
C08K5/07
C08K5/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155470
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】木下 雅貴
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達矢
【テーマコード(参考)】
4C089
4J002
【Fターム(参考)】
4C089AA03
4C089BC02
4C089BC05
4C089BC08
4C089BD01
4C089BD03
4C089BE03
4C089CA10
4J002BC021
4J002BC061
4J002BG041
4J002BG051
4J002BG061
4J002BG101
4J002BN151
4J002EE046
4J002EE056
4J002EH047
4J002EH077
4J002EH107
4J002EN028
4J002EN068
4J002EN108
4J002FD010
4J002FD140
4J002FD150
4J002GB01
(57)【要約】
【課題】光硬化性粉液型義歯床用裏装材の粉材として好適に使用される、α-ジケトン化合物及び非晶性樹脂粉体を含む粉体組成物において、長期間保存したときに起こる凝集を抑制する方法を提供し、延いては保存安定性の高い粉液型義歯床用裏装材を効率的に製造できる方法を提供する。
【解決手段】α-ジケトン化合物及び非晶性樹脂粉体を含む原料粉体を40℃以上で且つ前記非晶性樹脂のガラス転移点よりも低い熱処理温度で処理することにより、積極的に非晶性樹脂粒子を凝集させると共に昇華及び凝華作用によりα-ジケトン化合物を凝集粒子の表面に付着させる。その後、この凝集粒子を解砕し、得られた粉体組成物を粉材として使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性樹脂粉体:100質量部と、α-ジケトン化合物粉末:0.05~1.0質量部とを含む原料粉体を準備する原料粉体準備工程;
前記原料粉体を40℃以上で且つ前記非晶性樹脂のガラス転移点よりも低い熱処理温度で処理して、前記非晶性樹脂粉体を構成する非晶性樹脂が凝集した粗大凝集粒子であって、その表面にα-ジケトン化合物が存在する粗大凝集粒子を得る凝集化工程;及び
前記粗大凝集粒子を粉砕する粉砕工程;
を含み、
前記粗大凝集粒子の粉砕物である凝集粒子を含む粉体組成物を得る、
ことを特徴とする粉体組成物の製造方法。
【請求項2】
前記原料粉体が、レーザー回折法で測定した平均粒子径(50%体積平均粒子径)が1~300μmである非晶性樹脂粉体と、レーザー回折法で測定した平均粒子径(50%個数平均粒子径)が50~300μmの範囲内であるα-ジケトン化合物粉末と、を含む、請求項1に記載の粉体組成物の製造方法。
【請求項3】
前記原料粉体が、レーザー回折法で測定した平均粒子径(50%体積平均粒子径)が0.01~0.2μmである無機微粒子を、非晶性樹脂粉体:100質量部に対して0.03~0.3質量部含む、請求項1又は2に記載の粉体組成物の製造方法。
【請求項4】
前記凝集化工程において、常圧、前記熱処理温度下に前記原料粉体を静置することにより粗大凝集粒子を得る、請求項1~3の何れか一項に記載の粉体組成物の製造方法。
【請求項5】
前記粉砕工程で、光学顕微鏡で測定される前記凝集粒子の最大粒子径が0.3mm以下となるように前記粗大凝集粒子の粉砕を行う、請求項1~4の何れか一項に記載の粉体組成物の製造方法。
【請求項6】
重合性単量体及び第三級アミン化合物を含む液材と、樹脂粒子及びα-ジケトン化合物を含む粉体組成物からなる粉材と、からなる光重合タイプの義歯床用裏装材を製造する方法であって、
前記粉材を構成する前記粉体組成物を請求項1~5の何れか一項に記載の製造方法によって製造することを特徴とする、前記義歯床用裏装材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物の製造方法に関する。更に詳しくは、光重合タイプの義歯床用裏装材に好適な光硬化性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の口腔粘膜と適合が悪くなった義歯を補修する材料として義歯床用裏装材があり、当該義歯床用裏装材としては、樹脂粒子を主成分とする粉材と、重合性単量体を主成分とする液材と、からなる粉液型が広く知られている。このような粉液型義歯床用裏装材では、粉材と液材を混ぜてペーストを得、これを義歯上に盛りつけ、口腔粘膜との適合を図った後に最終硬化させて使用されるが、使用する硬化触媒の種類に応じて、化学重合タイプと光重合タイプの2つのタイプがある。
【0003】
すなわち、化学重合タイプは、化学重合開始剤と重合性単量体とが共存することによりラジカルが発生し、重合硬化が起こるものであり、通常、粉材と液材とを混和するだけで重合硬化が起こる。これに対し、光重合タイプでは、光重合開始剤を励起する光(以下、単に「活性光」ともいう。)を照射することによりラジカルを発生させて重合硬化を行うものであり、通常、粉材と液材を混和した後に得られたペーストを義歯に盛上げ、口腔内との適合を図った後、口腔外で専用の光照射器を用いた光照射により最終硬化が行われる。このため、光重合タイプでは、最終硬化を行う前の、ゴム弾性が発現した状態の義歯床用裏装材を口腔内から撤去するため、アンダーカットのある様な症例でも痛みを伴うことなく患者への処置を行うことが可能となる。
【0004】
光重合タイプの義歯床用裏装材においては、材料の保存時の安定性を高めることを目的として、光重合開始剤としては、α-ジケトン化合物と第三級アミン化合物とを組合せたものを使用し、両者を粉材と液材の別々に添加することが一般に行われている。
【0005】
このような光重合タイプの義歯床用裏装材としては、たとえば、(a)重合性単量体、(d)第三級アミン化合物、(e)水中(25℃)での酸解離定数が3.0以上で同一分子内にカルボニル基を2つ以上有するα-ヒドロキシカルボン酸からなる液材と、(b)ゲルパーミネーションクロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量が3~200万である樹脂粒子、(c)α-ジケトン化合物からなる粉材とからなるものが知られており(特許文献1参照。)、このような義歯床用裏装材の最終硬化は、通常、活性光として360~500nm程度の波長域(α-ジケトン化合物の主たる吸収域である)を含む光を、当該波長領域における光強度が50~6000mW/cm程度となるような出力で照射できる光源を用いた専用光照射器を使用して行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6779506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したようなα-ジケトン化合物と第三級アミン化合物の組み合わせからなる光重合開始剤を用いた粉液型における触媒成分の粉材と液材への振り分けは、基本的には任意であるが、特許文献1に記載された義歯床用裏装材のように、粉材にα-ジケトン化合物を、液材に第三級アミン化合物を、それぞれ配合して分包することが多い。
【0008】
ところが、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載されたような義歯床用裏装材において、樹脂粒子とα-ジケトン化合物を含むようにした粉材では、常温による長期間の保管や、突発的に温度が上昇した状態での保管によって、粉材が凝集してしまうことがあることが明らかとなった。
【0009】
粉材が凝集してしまうと、義歯床用裏装材として使用するために粉材と液材を混和してペーストを調製する際に、凝集した成分が溶解し難くなる。そして、ペーストの粘度上昇スピードが設計値から変化してしまい、操作感の不良が生じたり、凝集成分が溶け残ったまま硬化して材料が脆弱になってしまったりするという問題が発生する。
【0010】
そこで本発明は、樹脂粒子とα-ジケトン化合物を含む粉材において、保管中における粉材の凝集を防止する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、非晶性樹脂粉体:100質量部と、α-ジケトン化合物粉末:0.05~1.0質量部とを含む原料粉体を準備する原料粉体準備工程;前記原料粉体を40℃以上で且つ前記非晶性樹脂のガラス転移点よりも低い熱処理温度で処理して、前記非晶性樹脂粉体を構成する非晶性樹脂が凝集した粗大凝集粒子であって、その表面にα-ジケトン化合物が存在する粗大凝集粒子を得る凝集化工程;及び前記粗大凝集粒子を粉砕する粉砕工程;を含み、前記粗大凝集粒子の粉砕物である凝集粒子を含む粉体組成物を得る、ことを特徴とする粉体組成物の製造方法である。
【0012】
上記形態の製造方法(以下、「本発明の組成物製法」ともいう。)においては、前記原料粉体が、レーザー回折法で測定した平均粒子径(50%体積平均粒子径)が1~300μmである非晶性樹脂粉体と、レーザー回折法で測定した平均粒子径(50%個数平均粒子径)が50~300μmの範囲内であるα-ジケトン化合物粉末と、を含むことが好ましい。
【0013】
また、前記原料粉体が、レーザー回折法で測定した平均粒子径(50%体積平均粒子径)が0.01~0.2μmである無機微粒子を、樹脂粉体:100質量部に対して0.03~0.3質量部含むことが好ましい。
【0014】
さらに、前記凝集化工程において、常圧、前記熱処理温度下に前記原料粉体を静置することにより粗大凝集粒子を得ることが好ましい。
【0015】
本発明の第二の形態は、重合性単量体及び第三級アミン化合物を含む液材と、樹脂粒子及びα-ジケトン化合物を含む粉体組成物からなる粉材と、からなる光重合タイプの義歯床用裏装材を製造する方法であって、前記粉材を構成する前記粉体組成物を本発明の組成物製法によって製造することを特徴とする、前記義歯床用裏装材の製造方法(以下、「本発明の裏装材製法」ともいう。)である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の組成物製法によれば、長期間保管しても凝集が起こり難い、義歯床用裏装材の粉材として好適に使用できる粉体組成物を効率的に製造することが可能となる。そして、該製造方法で製造された粉体組成物を粉材とする本発明の裏装材製法で製造された(光硬化タイプの)義歯床用裏装材は、常温での長期間の保管や不測の温度上昇による粉材の凝集が起こり難いため、保存安定性に優れ、製造初期と同等の使用感や硬化特性を長期間維持することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者等は、前記課題を解決すべく、先ず、樹脂粒子とα-ジケトン化合物とを含む粉材の凝集特性について検討を行った。その結果、粉材中のα-ジケトン化合物が昇華性を有しており、α-ジケトン化合物が昇華後、粉材系中の樹脂粒子表面に固化することで、隣接する樹脂粒子同士を固着させ、粉材を凝集させていることを突き止めた。そこで、該知見に基づきα-ジケトン化合物の昇華-凝華特性を制御する方法についてさらに検討を行った結果、積極的に上記凝集を行って粉材を一旦粗大凝集粒子とし、これを粉砕した場合には、(粉砕物は)再凝集し難いことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0018】
このような優れた効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のように推測している。すなわち、樹脂粒子とα-ジケトン化合物を混合した直後は、樹脂粒子とα-ジケトン化合物は夫々分散しており、凝集がない状態であるが、熱処理により生じた粗大凝集粒子では、昇華したα-ジケトン化合物が周囲に拡散してから樹脂粒子の表面で凝華することによって広く均一に分散して存在するようになるとともに、熱処理中に起こった樹脂粒子の(α-ジケトン化合物で覆われていない)表面におけるポリマー鎖どうしの僅かな絡み合いが固定化された状態となっていると考えられる。そして、上記粗大凝集粒子を粉砕した場合には、得られる殆どの粉砕粒子(凝集粒子)の表面は(少なくともその一部が)α-ジケトン化合物で覆われた状態となり、樹脂粒子の表面ポリマー同士の接触が阻害されて、凝集が起こり難くなったものと推定している。
【0019】
このように、本発明の組成物製法及び本発明の裏装材製法は、従来の光重合開始剤を用いた粉液型裏装材の粉材として使用されているような樹脂粉体とα-ジケトン化合物粉末とを含む原料粉体を一度凝集させてから解砕する点に大きな特徴を有する。原料粉体を構成する原材料ついては、上記従来の粉材で使用されるものと特に変わる点はない。また、本発明の裏装材製法で得られる裏装材における液材は従来の(重合性単量体及び第三級アミン化合物を含む)液材と特に変わる点はない。これらを含めて、本発明について以下に詳しく説明する。
【0020】
なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0021】
1.本発明の組成物製法
本発明の組成物製法は、以下の(1)原料粉体準備工程、(2)凝集化工程、および(3)粉砕工程を含み、上記粉砕工程で得られた(粗大凝集粒子の粉砕物である)凝集粒子を含む粉体組成物を得る、ことを特徴とする。以下、これら各工程について説明する。
【0022】
(1)原料粉体準備工程
原料粉体準備工程では、非晶性樹脂粉体:100質量部と、α-ジケトン化合物粉末:0.05~1.0質量部とを含む原料粉体を準備する。原料粉体は、上記条件を満足するものであれば、光重合開始剤を用いた粉液型裏装材の粉材をそのまま使用してもよいし、別途調製してもよい。別途調製する場合には、所定量の各成分を混合すればよい。混合は、例えば、容器自体が回転する揺動ミキサーや、回転羽根による羽根撹拌装置等を用いて好適に行うことができる。なお、原料粉体に含まれるα-ジケトン化合物の量は、非晶性樹脂粉体の量と比べて少量であることから、粉体の取り扱いやすさなどを考慮して、混合に際しては、あらかじめ一部の非晶性樹脂粉体と混ぜ合わせてマスターバッチとして混合してもよい。
以下、原料粉体の成分となる各種原材料及び配合量等について説明する。
【0023】
(1-1)非晶性樹脂粉体
原料粉体で好適に使用される非晶性樹脂粉体としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体等からなる非晶性樹脂粒子を挙げることができる。これら非晶性樹脂粒子は、単独で使用してもよいし、複数種類を組み合わせて使用してもよい。本発明の組成物製法の目的物である粉体組成物が歯科用、特に義歯床用裏装材用である場合には、液材への溶解性の良さやペースト状態での粘度上昇性能の良さなどから、ポリメタクリル酸エチルを用いることが好ましい。
【0024】
これら非晶性樹脂は、架橋型と非架橋型のいずれでも問題ないが、義歯床用裏装材用である場合には、非架橋型の樹脂粒子が一般に使用される。このとき、樹脂粒子の液材への溶解性や適切なペーストの粘度上昇タイミングなどの点から、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される上記非晶性樹脂の重量平均分子量は3~200万であることが好ましく、凝集化工程で得られる凝集体の粉砕(解砕)が行い易いという理由から、3~100万の範囲であることが好ましい。
【0025】
前記非晶性樹脂粉体を構成する樹脂粒子の形状は特に制限されず、球状、不定形のいずれであってもよい。また、その粒径も特に限定されず、平均粒子径の異なる複数の樹脂粒子を併用してもよい。
【0026】
ただし、本発明の組成物製法の目的物である粉体組成物が歯科用、特に義歯床用裏装材用である場合には、レーザー回折法で測定した平均粒子径(50%体積平均粒子径)が1~300μmである非晶性樹脂粒子を使用することが好ましい。さらに、凝集化工程で得られる凝集体の粉砕(解砕)が行い易いという理由から、平均粒子径は5~300μmであることがより好ましい。また、樹脂(1次)粒子は、真球度が0.6以上の球状粒子であることが好ましい。なお、非晶性樹脂粉体の窒素吸着法によるBET比表面は、通常、0.5~10m/gの範囲である。
【0027】
(1-2)α-ジケトン化合物
α-ジケトン化合物は、最大吸収波長を350~700nmに有し、活性光によりラジカルのような重合に有効な活性種を発生させる機能を有する化合物である。活性種は通常、重合性単量体または他の物質との間でエネルギー移動あるいは電子移動の結果生じる。
【0028】
本発明で好適に使用されるα-ジケトン化合物としては、カンファーキノン、ベンジル、カンファーキノンスルホン酸、アセナフテンキノン、1,2-ナフトキノン、1,2-フェナントレンキノン、9,10-フェナントレンキノン等を挙げることができる。これらの中でも、歯科用、特に義歯床用裏装材用途である場合には、重合活性の高さ、生体への安全性の高さ等からカンファーキノンが特に好適に使用される。中でも、凝集化工程を速やかに行えるという観点から、平均粒子径(50%個数平均粒子径)が50~300μm以下であるもの、特に50~200μm以下であるものを使用することが好ましい。なお、ここでいう平均粒子径は、レーザー回折法によって測定される値を意味する。
【0029】
α-ジケトン化合物の粒子径は、乾式粉砕や湿式粉砕などの粉砕で条件を調整することにより制御可能であり、また、平均粒子径は、あらかじめ所望の目開きのふるいを用いることで制御することができる。
【0030】
原料粉体におけるα-ジケトン化合物の配合量は、多すぎると義歯床用裏装材の粉材として使用したときに硬化体が軟らかくなる傾向にあり、少なすぎると本発明の効果が得られにくくなることから、前記非晶性樹脂粉体100質量部に対してα-ジケトン化合物は0.05~1.0質量部である必要がある。
【0031】
(1-3)無機微粒子
粉砕工程における解砕(粉砕)を容易にし、且つ(再)凝集防止効果を高めるという理由から、原料粉体には無機微粒子を配合することが好ましい。解砕が容易になるのは、無機微粒子が樹脂粒子間に介在する状態で粉材が凝集することで、解砕時に無機微粒子が解砕の起点となるためであると推測される。また、再凝集の抑制は、解砕した粉材において、α-ジケトン化合物で覆われた樹脂粒子同士の間に無機微粒子が介在することで、樹脂粒子同士が接触しにくくなるためであると推測される。
【0032】
無機微粒子を配合する場合の無機粒子は、前記非晶性樹脂粉体を構成する樹脂粒子より十分に小さいことが好ましく、レーザー回折法で測定した平均粒子径(50%体積平均粒子径)が0.01~0.2μmであることが好ましい。また、配合量は、効果の観点から前記非晶性樹脂粉体100質量部に対して0.03~0.3質量部であることが好ましい。
【0033】
好適に使用される無機微粒子としては、石英、シリカ、アルミナ、シリカチタニア、シリカジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等を挙げることができる。また、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等の水酸化物;又は酸化亜鉛、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等の酸化物;からなるカチオン溶出性無機粒子も好適に使用することができる。中でも所望の粒子径が入手しやすい点から、シリカ微粒子を使用することが好ましい。
【0034】
上記した無機微粒子は、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理することが、重合性単量体とのなじみをよくし、機械的強度や耐水性を向上させる上で望ましい。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。
【0035】
(1-4)その他の成分
原料粉体には、目的に応じその性能を低下させない範囲で有機顔料、無機顔料、紫外線吸収剤などを加えてもよい。また、その他開始剤成分として、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物類などを加えてもよい。
【0036】
(2)凝集化工程
凝集化工程では、前記原料粉体を40℃以上で且つ前記非晶性樹脂のガラス転移点:Tgよりも低い熱処理温度で処理して、前記非晶性樹脂粉体を構成する非晶性樹脂が凝集した粗大凝集粒子であって、その表面にα-ジケトン化合物が存在する粗大凝集粒子を得る。熱処理温度が40℃未満の時は、凝集化に長時間を要し、ガラス転移点を超える場合には、おそらく非晶性樹脂粒子同士のみで凝集が生じたり、昇華したα-ジケトン化合物が散逸したりすることにより所期の効果が得られ難い。効果の観点からは、40℃以上で且つTgよりも20℃低い温度~Tgよりも5℃低い温度の範囲の温度で熱処理することが好ましい。なお、凝集化工程では熱処理によって起こるα-ジケトン化合物の昇華-凝華によって、得られる粗大凝集粒子の表面にはα-ジケトン化合物が存在することになる。
【0037】
なお、非晶性樹脂のガラス転移点:Tgは、汎用的なホモポリマーのTgは文献や書籍でよく知られており、不明な場合は示差走査熱量計を用いて簡単に測定することができる。
【0038】
α-ジケトン化合物が昇華して系外に散逸するのを防止するため、上記熱処理は、原料粉体を密閉容器内に収容してから温度調整ができる恒温器で保管すればよい。容器の材質としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、PET樹脂などの樹脂容器、その他にガラス、ホーロー、ステンレス、磁器などが挙げられるが、成型性や密閉性を保ちやすいなどの理由から樹脂容器であることが好ましい。また、環境光から保護する観点から、使用する容器に黒色顔料を配合して遮光性を高めることが好ましい。黒色顔料としてはカーボンブラック、ペリレンブラック、アニリンブラック、酸化鉄などが挙げられる。容器としては、昇温設備のある揺動ミキサーを用いることも可能であり、この場合には、凝集化工程終了後、そのまま粉砕工程を行うことができる。
【0039】
前記熱処理は、常圧、前記熱処理温度下に前記原料粉体を静置することにより行うことが好ましい。
【0040】
前記熱処理により、原料粉体が粒子径2mm以上、好ましくは3mm以上の粗大粒子の形成が確認できれば、熱処理を終了してよい。粗大粒子の形成及び粉末の存在有無は、目視で確認することができる。通常、熱処理によりこの程度の粗大粒子が形成されれば、α-ジケトン化合物の昇華-凝華により粗大粒子の表面にα-ジケトン化合物が付着する。このような昇華-凝華により原料粉体調製時に存在したα-ジケトン化合物粉末(粒子)は消失し、目視でその存在が確認できなくなる。熱処理工程をより確実に行うという観点から、少量サンプリングして光学顕微鏡観察によりα-ジケトン化合物粉末(粒子)は消失を確認することが好ましい。なお、α-ジケトン化合物は、(α-ジケトン化合物は可視光線の光の波長で励起されることと関連して黄緑色~黄色~褐色などの色調を有するので)目視及び光学顕微鏡などで容易に確認することができる。
【0041】
凝集化工程における前記熱処理時間は、熱処理温度やα-ジケトン化合物の配合量により異なるが、通常、8時間~10日程度である。
【0042】
(3)粉砕工程
粉砕工程では、前記工程で得られた前記粗大凝集粒子を粉砕する。なお、粉砕は、通常、熱処理後の原料粉体を室温程度に冷却した後に行われる。粗大凝集粒子を粉砕する方法については特に制限はなく、例えば、ロール粉砕、ボールミル、羽根撹拌、ハンマーミル、ジェットミルなどの装置を用いてもよいし、処理後、粗大凝集粒子が収容された容器を振り混ぜることで凝集した粉材を壁面に衝突させて粉砕したり、袋内に移して揉みほぐしたりしてもよい。
【0043】
ただし、高速度の羽根撹拌を用いる場合等、強いせん断力が長時間負荷される場合には、非晶性樹脂粉体を構成する(1次)粒子が変形してしまい、例えば粉液型の義歯床用裏装材の用途においてペースト流動性や粘度上昇のタイミングが変化するおそれがあるため、注意が必要である。このため、粉砕装置を用いて機械的に粉砕する場合には、予め条件と粉砕効率や粒子の変形などを確認しておくことが好ましい。
【0044】
粉砕(解砕)において、粗大凝集粒子を全て1次粒子の状態に解砕することはできず、粉砕後に得られる粉体組成物おいては凝集粒子が含まれる。粉砕(解砕)の程度は、用途によって適宜決定すればよいが、義歯床用裏装材における粉材であれば、該用途におけるペーストの粘度上昇性能を損なわせないという観点から、粉砕後に得られる凝集粒子の最大直径が0.3mm以下となるように粉砕することが好ましい。凝集粒子の最大直径は、粉砕後に得られた凝集粒子0.1gを透明な樹脂フィルムの上に載せ、凝集を解砕させないように優しく5cm四方に広げて、倍率が100倍のミクロメータ付き光学顕微鏡などの観察で確認すればよい。なお、篩を用いた分級を行うと組成が原料粉体と異なってしまうことがあるため、粗大粒子が存在する場合には、分級は行わずに、装置の出力を高くしたり処理時間を長くしたりして、全量について所望の粒子径になるまで粉砕(解砕)を行うことが好ましい。
【0045】
なお、粉砕工程では、前記凝集化工程で、昇華-凝華によって粗大凝集粒子の表面に付着せず、その内部に残ったα-ジケトン化合物を解砕された粒子の表面に付着させる機能も有し、このことによっても再凝集防止効果が得られるようになる。
【0046】
2.本発明の裏装材製法
本発明の組成物製法で得られる粉体組成物は、即時重合レジン、歯科用接着剤など、様々な用途に使用できるが、光重合タイプの義歯床用裏装材の粉材として特に好適に使用できる。すなわち、重合性単量体及び第三級アミン化合物を含む液材と、樹脂粒子及びα-ジケトン化合物を含む粉体組成物からなる粉材と、からなる光重合タイプの義歯床用裏装材を製造する方法であって、前記粉材を構成する前記粉体組成物を本発明の組成物製法によって製造することを特徴とする本発明の裏装材製法によれば、保管中における粉材の凝集を防止され、使用時における適切なペースト流動性や粘度上昇のタイミングが長期間安定した義歯床用裏装材を製造することが可能となる。
【0047】
なお、本発明の裏装材製法における液材の製造方法は、従来の光重合開始剤を用いた粉液型裏装材における液材の製造方法と特に変わる点はなく、重合性単量、第三級アミン化合物及びその他必要に応じて配合される成分を、それぞれ必要量を計量して混合すればよい。
【0048】
重合性単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルプロピオネート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリル系モノマー;1,6-ビス((メタ)アクリロイルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリル系モノマー;トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の三官能(メタ)アクリル系モノマー;などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル系モノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。特に、単官能の(メタ)アクリル系モノマーと二官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとを併用すると得られる硬化体の強度、耐久性等の機械的物性も良好なものとすることができるので好ましい。
【0049】
第三級アミン化合物としては、p-ジメチルアミノ安息香酸メチル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートなどが挙げられる。第三級アミン化合物の配合量は、重合性単量体100質量部対して、0.1~2質量部が好ましい。
【0050】
その他成分としては、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などの非重合性酸性化合物;エッセンス、フレーバー、製油などの香料などが挙げられる。その他成分の配合量は重合性単量体100質量部対して、0.005~0.05質量部が好ましい。
【実施例0051】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
【0052】
まず、各実施例および比較例において原料粉体(粉材)の調製に用いた物質等の名称、特性、略号(略号を用いた場合)と評価方法について説明する。
【0053】
(1)非晶性樹脂粉体
・PEMA35:球状ポリエチルメタクリレート粒子(平均粒径35μm、重量平均分子量50万。Tg=65℃)
・PEMA2:球状ポリエチルメタクリレート粒子(平均粒径2μm、重量平均分子量50万。Tg=65℃)
・PEMA5:球状ポリエチルメタクリレート粒子(平均粒径5μm、重量平均分子量50万。Tg=65℃)
・PEMA100:球状ポリエチルメタクリレート粒子(平均粒径100μm、重量平均分子量50万。Tg=65℃)
・PEMA200:球状ポリエチルメタクリレート粒子(平均粒径200μm、重量平均分子量50万。Tg=65℃)
・PEMA35A:球状ポリエチルメタクリレート粒子(平均粒径35μm、重量平均分子量5万。Tg=65℃)
・PEMA35B:球状ポリエチルメタクリレート粒子(平均粒径35μm、重量平均分子量20万。Tg=65℃)
・PEMA35C:球状ポリエチルメタクリレート粒子(平均粒径35μm、重量平均分子量100万。Tg=65℃)
・PEMA35D:球状ポリエチルメタクリレート粒子(平均粒径35μm、重量平均分子量200万。Tg=65℃)。
【0054】
(2)α-ジケトン化合物
・CQ:カンファーキノン(融点203℃)
・B:ベンジル(融点96℃)。
【0055】
(3)無機微粒子
・シリカ微粒子:レオロシール(平均粒子径120nm)。
【0056】
実施例1
非晶性樹脂粉体としてのPEMA35:100質量部、及びα-ジケトン化合物としてのCQ(平均粒子径:100~200μmのもの):0.3質量部を、ねじ込みフタで密閉できる体積100mlのポリプロピレン樹脂製ボトル内に導入した後にふたを閉めて、揺動ミキサーで混合することにより原料粉体を調製した(原料粉体準備工程)。
【0057】
次いで、上記容器を揺動ミキサーから取り外し、フタを締めた状態で、55℃の恒温器(ヤマト科学社製インキュベーター)内に保管した。その後、毎日、容器に振動を与えないように容器のフタを取り去り、内部の粉材に凝集体を生じているかを確認し、凝集体が確認できないか、あるいは確認できても凝集体のサイズが2mm以下の状態であれば、まだ凝集が生じていないと判定し、密閉して55℃での保管を継続した。原料粉体中に2mm以上の凝集体が初めて確認された日数(本実施例では4日)を熱処理期間(時間)とし、熱処理を終了させた。なお、このような決定方法から明らかなように、熱処理期間(日数)は、原料粉体の55℃保管時の凝集期間(時間)に相当するものである。
【0058】
熱処理終了後の原料粉体を確認したところ粒径2mm以上の粗大粒子が多数形成されていることを再度目視で確認した。また、粗大粒子を数粒子サンプリングし、光学顕微鏡で観察するとCQ粒子が無くなっており、すべてのCQ粒子は昇華および凝華により凝集体表面に付着したものと推測された(凝集化工程)。
【0059】
その後、容器内で凝集した粉材を振り混ぜて粗大粒子を解砕した。解砕の判定は容器内部の、粉材0.1gを透明な樹脂フィルムの上に取り出し、優しく5cm四方に広げて、ミクロメータ付きの顕微鏡観察にて凝集粒子が0.3mm以下になるまで繰り返し行った(粉砕工程)。
【0060】
得られた粉体組成物(粉材)の一部を用いて次のようにして、再凝集性の評価を行った。すなわち、再凝集性の評価は、上記した熱処理期間の決定と同様に、上記粉体組成物を容器内に密閉した状態で再度55℃の恒温器にて加熱保管して毎日確認を行い、粉材中に2mm以上の凝集体が生じるまでの日数を再凝集期間とした。その結果、再凝集するまでに要した日数は22日間であり、原料粉体をそのまま保管したときよりも18日間長くなった。
【0061】
また、光重合タイプの粉液型義歯床用裏装材として使用した場合における、(粉材と液材を混合して得られる)ペーストのペースト性状や硬化性に及ぼす影響を確認するため、上記凝集化工程及び粉砕工程を行って得られた粉材と液材を用いたペースト1と、これら工程を行わない原料粉体(上記と同様に調製した原料粉体で、調製後三日以内のもの)を用いたペースト2について稠度と硬化深さを測定し、結果の比較を行った。このとき、液材としては、2-メタクリロキシエチルプルピオネート:50質量部及び1,9-ノナメチレンジオールジメタクリレート:50質量部の混合物からなる重合性単量体に第三級アミン化合物としてのp-ジメチルアミノ安息香酸エチル:0.5質量部、及びその他成分としてのリンゴ酸:0.01質量部を加え、撹拌することにより調製したものを使用した。稠度及び硬化深さの測定方法並びに結果を以下に示す。
【0062】
<稠度>
測定方法: 粉材1.8g(180質量部)と液材1.0g(100質量部)とをラバーカップ内に入れ、20秒間混和した後、目盛りつきのシリンジにペースト(粉材と液材とを混合してなる光硬化性組成物)を充填した。混和開始から1分30秒後にポリプロピレンフィルム上にペースト0.5mL吐出し、さらにもう1枚のポリプロピレンフィルムを介し、混和開始から2分経過した時点で7.355Nの重りで5分間荷重した。その後、伸び広がったペーストの直径4点を計測しその平均値を稠度とした。
結果:ペースト1の稠度1は45mm、ペースト2の稠度2は47mmであり、両者に有意の差は見られなかった。
【0063】
<光硬化深さ>
測定方法: 粉材1.8g(180質量部)と液材1.0g(100質量部)とをラバーカップ内に入れ、20秒間混和した。内径4mmφ、外径6mmφ、高さ10mmの円筒状黒色ゴム管内に練和したペースト(粉材と液材とを混合してなる光硬化性組成物)を充填して両面をポリプロピレンフィルムで圧接した。その後、ペーストを充填した円筒状黒色ゴム管の片側末端から、歯科技工用光重合装置αライトV(MORITA社製)を用いて波長465~475nmの活性光(光出力密度100mW/cm)を5分間照射し、硬化体を作製した。サンプルを黒色ゴム管から取り出し、未硬化部分を取り除いてから、硬化した部分の長さをノギスで測定したものを光硬化深さとした。
結果: ペースト1の光硬化深さ1は4.4mmで、ペースト2の光硬化深さ2は4.4mmであり、両者に有意の差は見られなかった。
【0064】
比較例1
実施例1と同様にして原料粉体調製及び凝集化処理を行い、粉砕工程を行わずに、凝集化処理によって得られたものを粉材として使用する他は、実施例1と同様にしてペースト性状評価及び硬化体性状評価を行った。その結果、稠度が66mm、光硬化深さが3.8mmであり、前記ペースト2の値から有意に変化していた(稠度は長くなり、光硬化深さは浅くなっていた)。
【0065】
比較例2
実施例1と同様にして原料粉体調製を行い、恒温槽の温度を25℃とするほかは実施例1と同様に凝集化工程を行ったところ、2mm以上の凝集体が生じるまで70日を要した。
【0066】
比較例3
実施例1と同様にして原料粉体調製を行い、70℃の恒温槽内に1日放置した。その結果、原料粉体が容器内で強固に凝集してしまい、同様の方法では粉砕工程を行うことができなかった。
【0067】
実施例2~9
使用するα-ジケトン化合物を表1に示すように変更し、更に凝集化工程における熱処理温度及び時間を表1に示すように変更する以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0068】
再凝集に要した期間を表1に合わせて示す。なお、表1における熱処理期間(時間)は、実施例1と同様に、毎日の観察結果、初めて2mm以上の凝集体が確認され、その日で熱処理を打ち切った日を意味するので、再凝集に要するまでの日数がそれよりも長くなっていれば再凝集が抑制されたことになる。また、稠度及び硬化深さについては実施例1と同様に有意の差は見られなかった。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例2は、熱処理温度を45℃に下げた例であり、処理日数は長期化しているが許容の範囲内である。実施例3~5は、使用したCQの平均粒子径を変化させた例であり、平均粒子径が大きくなるほど、最低限必要な熱処理日数が長くなる傾向にある。実施例6~8は、CQの配合量を変化させた例であり、配合量が多いほど最低限必要な熱処理日数は短くなる傾向にある。実施例9は、CQに代えてBを用いた例であり、同様の効果が確認された。
【0071】
実施例10~17
使用する非晶性樹脂粉体を表2に示すように変更し、更に凝集化工程における熱処理温度及び時間を表2に示すように変更する以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0072】
再凝集に要した期間を表2に合わせて示す。なお、稠度及び硬化深さについては実施例1と同様に有意の差は見られなかった。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示される実施例のうち実施例1,10~13は、非晶性樹脂粉体であるPEMA粉体の平均粒子径を変化させたものである。これらの結果から非晶性樹脂粉体の平均粒子径は効果に大きな影響は与えないが、平均粒子径2μmのPEMAを用いた実施例11では平均粒子径35μmのPEMAを用いた実施例1と比べて凝集が解れにくく解砕が困難になったほか、再凝集するまでの日数が実施例1よりも短くなった。これらは、樹脂粒子の平均粒子径が小さくなることで粒子同士の接触点が多くなり、凝集が強固となったものと考えられる。
【0075】
さらに、実施例1、14~17は、同一平均粒子径であるPEMAの重量平均分子量を変化させたものであり、これらの結果から上記重量平均分子量も効果には大きな影響を与えないことが分かる。なお、重量平均分子量200万のものを用いた実施例17では、実施例1と比べて凝集の解砕が困難であった。これは樹脂粒子を構成するポリマー分子量が大きいことで樹脂粒子間のポリマー分子鎖の絡み合いが多くなったためであると考えられる。
【0076】
実施例18~20
PEMA35:100質量部及びCQ(平均粒子径:100~200μmのもの):0.3質量部にさらにシリカ微粒子を混合する他は実施例1と同様にして原料粉体を調製した。なお、シリカ微粒子の配合量は、実施例18:0.15質量部、実施例19:0.03質量部及び実施例20:0.3質量部としている。得られた各原料粉体を用い、実施例1と同様にして粉材の調製及び評価を行った。その結果、実施例18及び20では、再凝集は50日間以上経過しても生じず、実施例19で再凝集するまでに要した日数は29日間であった。結果を表3に示す。なお、ペースト状態及び硬化体性状についてはいずれの実施例においても有意の差は見られなかった。また、何れの実施例においても、粉砕工程においては、実施例1の粉砕工程よりも容易に凝集を解砕することができた。
【0077】
【表3】