(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046815
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】気密容器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 1/06 20060101AFI20230329BHJP
【FI】
H01S1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155614
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 一嘉
(57)【要約】
【課題】加熱圧着等の、気密性を効果的に高めることができる態様を採用しても、光透過部の平行度を高めることができる、気密容器及びその製造方法を提供する。
【解決手段】第1,第2の主面5,6を有し、第1,第2の主面5,6間を貫通している第1,第2の貫通孔13,14が設けられており、かつ内側面8及び外側面7を有するセル本体2と、第1,第2の蓋部材3,4とを備え、外側面7が火造り面であり、かつ入光面及び出光面を含み、第1の貫通孔13が、入光面及び出光面の間に位置しており、内側面8の、第1の貫通孔13に面している第1の内側面8aが入光面に対向し、第2の内側面8bが出光面に対向しており、第3,第4の内側面8c,8dが第1,第2の内側面8a,8bに接続されており、複数の第2の貫通孔14が設けられており、少なくとも2つの第2の貫通孔14が、第3,第4の内側面8c,8dを挟み互いに対向していることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向し合う第1の主面及び第2の主面を有し、前記第1の主面及び前記第2の主面間を貫通している第1の貫通孔及び第2の貫通孔が設けられており、かつ前記第1の主面及び前記第2の主面に接続されている内側面及び外側面を有する、セル本体と、
前記セル本体の前記第1の主面上に設けられており、前記第1の貫通孔及び前記第2の貫通孔の一方側を塞いでいる第1の蓋部材と、
前記セル本体の前記第2の主面上に設けられており、前記第1の貫通孔及び前記第2の貫通孔の他方側を塞いでいる第2の蓋部材と、
を備え、
前記外側面が火造り面であり、かつ入光面及び出光面を含み、
前記第1の貫通孔が、前記入光面及び前記出光面の間に位置しており、前記内側面が、前記第1の貫通孔に面している第1から第4の内側面を有し、前記第1の内側面が前記入光面に対向しており、前記第2の内側面が前記出光面に対向しており、前記第3の内側面及び前記第4の内側面がそれぞれ、前記第1の内側面及び前記第2の内側面に接続されており、
複数の前記第2の貫通孔が設けられており、少なくとも2つの前記第2の貫通孔が、前記第3の内側面及び前記第4の内側面を挟み互いに対向している、気密容器。
【請求項2】
平面視において、前記入光面及び前記出光面が互いに対向し合う方向を第1の方向とし、前記第1の方向と直交する方向を第2の方向としたときに、前記セル本体が、前記第2の方向において、前記第1の貫通孔を挟み対向し合う第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の貫通孔、前記第1の領域及び前記第2の領域のそれぞれの中央の、前記第1の方向における位置が同じであり、前記第1の領域及び前記第2の領域の前記第1の方向に沿う寸法が、前記第1の貫通孔の前記第1の方向に沿う寸法の80%であり、
前記第1の領域及び前記第2の領域のそれぞれに、少なくとも1つの前記第2の貫通孔が設けられており、前記第1の領域における前記第2の貫通孔の総容積と、前記第2の領域における前記第2の貫通孔の総容積とが同じである、請求項1に記載の気密容器。
【請求項3】
平面視において、前記第1の貫通孔の中央を通り、かつ前記第1の方向と平行に延びる軸を第1の対称軸とし、前記第1の貫通孔の中央を通り、かつ前記第2の方向と平行に延びる軸を第2の対称軸としたときに、前記複数の第2の貫通孔が、前記第1の対称軸及び前記第2の対称軸のうち少なくとも一方に対して線対称に配置されている、請求項2に記載の気密容器。
【請求項4】
前記複数の第2の貫通孔が、前記第1の対称軸及び前記第2の対称軸の双方に対して線対称に配置されている、請求項3に記載の気密容器。
【請求項5】
前記複数の第2の貫通孔の平面視における形状がいずれも円形である、請求項1~4のいずれか1項に記載の気密容器。
【請求項6】
前記第2の貫通孔が2つ設けられている、請求項1~5のいずれか1項に記載の気密容器。
【請求項7】
平面視において、前記第1の貫通孔の中央が、前記セル本体の中央と一致しており、
平面視において、前記入光面及び前記出光面が互いに対向し合う方向を第1の方向とし、前記第1の方向と直交する方向を第2の方向としたときに、前記第1の貫通孔の前記第1の方向に沿う寸法が、前記第1の貫通孔の前記第2の方向に沿う寸法よりも大きい、請求項1~6のいずれか1項に記載の気密容器。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の気密容器を製造する方法であって、
リドロー成形により、プリフォームから前記セル本体を形成する工程と、
前記セル本体の前記第1の主面上に前記第1の蓋部材を接合する工程と、
前記セル本体の前記第2の主面上に前記第2の蓋部材を接合する工程と、
を備える、気密容器の製造方法。
【請求項9】
前記プリフォームに、前記第1の貫通孔及び前記複数の第2の貫通孔を形成するための複数の孔部を形成した後に、リドロー成形により前記セル本体を形成する工程を行う、請求項8に記載の気密容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子時計は、セシウム(Cs)やルビジウム(Rb)等のアルカリ金属原子におけるエネルギー遷移に基づいて発振する原子発振器を備えており、この原子発振器は、長期的に高精度な発振特性が得られる発振器として知られている。原子発振器の動作原理は、いくつかの方式に区別されるが、量子干渉効果(CPT:Coherent Population Trapping)を利用した原子発振器は、水晶発振器と比較して3桁程度高い周波数安定性を有することが知られている。
【0003】
このような原子発振器では、原子セル内にガス状のアルカリ金属が封入されて用いられる。また、原子発振器として必要な性能を確保するため、原子セル内には、さらに窒素(N2)やネオン(Ne)、アルゴン(Ar)などのバッファガスが封入されて用いられている。
【0004】
下記の特許文献1には、原子セルの一例が開示されている。この原子セルは、貫通孔を有する胴体部と、貫通孔の開口を塞ぐ1対の窓部とを有する。胴体部及び1対の窓部により囲まれた内部空間内に、ガス状のアルカリ金属が封入されている。1対の窓部のうち一方が、励起光が入射する入射側窓部である。他方が、励起光が出射する出射側窓部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
胴体部及び窓部の接合には、例えば、オプティカルコンタクトによる接合が考えられる。しかしながら、オプティカルコンタクトは胴体部及び窓部の表面の状態に依存するため、安定的に接合することが困難であり、原子セルの内部に存在するバッファガスがセル外部に漏洩する、いわゆるセル抜けが生じることがある。接着剤を用いた接合も考えられるが、高い遮蔽性を維持することは困難であり、大気中のヘリウム(He)が原子セルの内部に侵入するおそれがある。そのため、時間経過による周波数変動が生じ易いという問題がある。
【0007】
そこで、胴体部及び窓部をガラスとした上で、加熱圧着、すなわち溶着により接合することが考えられる。しかしながら、溶着は、ガラスの屈伏点から軟化点の温度域において行う必要があり、窓部の表面に加圧による痕跡が残りがちである。なお、溶着以外の接合においても、窓部と胴体部とに加える圧力により、窓部の表面に接合の痕跡が残るおそれがあり、これにより、双方の窓部において、接合の痕跡の残り具合が異なることがある。そのため、励起光が入射する部分及び出射する部分における平行度が損なわれ、光透過性が損なわれるおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、加熱圧着等の、気密性を効果的に高めることができる態様を採用しても、光透過部の平行度を高めることができる、気密容器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る気密容器は、対向し合う第1の主面及び第2の主面を有し、第1の主面及び第2の主面間を貫通している第1の貫通孔及び第2の貫通孔が設けられており、かつ第1の主面及び第2の主面に接続されている内側面及び外側面を有する、セル本体と、セル本体の第1の主面上に設けられており、第1の貫通孔及び第2の貫通孔の一方側を塞いでいる第1の蓋部材と、セル本体の第2の主面上に設けられており、第1の貫通孔及び第2の貫通孔の他方側を塞いでいる第2の蓋部材と、を備え、外側面が火造り面であり、かつ入光面及び出光面を含み、第1の貫通孔が、入光面及び出光面の間に位置しており、内側面が、第1の貫通孔に面している第1から第4の内側面を有し、第1の内側面が入光面に対向しており、第2の内側面が出光面に対向しており、第3の内側面及び第4の内側面がそれぞれ、第1の内側面及び第2の内側面に接続されており、複数の第2の貫通孔が設けられており、少なくとも2つの第2の貫通孔が、第3の内側面及び第4の内側面を挟み互いに対向していることを特徴とする。
【0010】
平面視において、入光面及び出光面が互いに対向し合う方向を第1の方向とし、第1の方向と直交する方向を第2の方向としたときに、セル本体が、第2の方向において、第1の貫通孔を挟み対向し合う第1の領域及び第2の領域を有し、第1の貫通孔、第1の領域及び第2の領域のそれぞれの中央の、第1の方向における位置が同じであり、第1の領域及び第2の領域の第1の方向に沿う寸法が、第1の貫通孔の第1の方向に沿う寸法の80%であり、第1の領域及び第2の領域のそれぞれに、少なくとも1つの第2の貫通孔が設けられており、第1の領域における第2の貫通孔の総容積と、第2の領域における第2の貫通孔の総容積とが同じであることが好ましい。この場合、平面視において、第1の貫通孔の中央を通り、かつ第1の方向と平行に延びる軸を第1の対称軸とし、第1の貫通孔の中央を通り、かつ第2の方向と平行に延びる軸を第2の対称軸としたときに、複数の第2の貫通孔が、第1の対称軸及び第2の対称軸のうち少なくとも一方に対して線対称に配置されていることがより好ましい。そしてこの場合、複数の第2の貫通孔が、第1の対称軸及び第2の対称軸の双方に対して線対称に配置されていることがさらに好ましい。
【0011】
複数の第2の貫通孔の平面視における形状がいずれも円形であることが好ましい。
【0012】
第2の貫通孔が2つ設けられていることが好ましい。
【0013】
平面視において、第1の貫通孔の中央が、セル本体の中央と一致しており、平面視において、入光面及び出光面が互いに対向し合う方向を第1の方向とし、第1の方向と直交する方向を第2の方向としたときに、第1の貫通孔の第1の方向に沿う寸法が、第1の貫通孔の第2の方向に沿う寸法よりも大きいことが好ましい。
【0014】
本発明に係る気密容器の製造方法は、上記気密容器を製造する方法であって、リドロー成形により、プリフォームからセル本体を形成する工程と、セル本体の第1の主面上に第1の蓋部材を接合する工程と、セル本体の第2の主面上に第2の蓋部材を接合する工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
プリフォームに、第1の貫通孔及び複数の第2の貫通孔を形成するための複数の孔部を形成した後に、リドロー成形によりセル本体を形成する工程を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加熱圧着等の、気密性を効果的に高めることができる態様を採用しても、光透過部の平行度を高めることができる、気密容器及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る原子セルを示す斜視図である。
【
図5】原子セルの第1の貫通孔内にアルカリ金属を封入する方法の例を説明するための正面断面図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態におけるセル本体の領域を説明するための、
図3に示す断面に相当する部分を示す断面図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態の第1の変形例におけるセル本体の、
図3に示す断面に相当する部分を示す断面図である。
【
図8】本発明の気密容器の製造方法における、プリフォームを用意する工程の一例を説明するための斜視図である。
【
図9】本発明の気密容器の製造方法における、中間体を得る工程の一例を説明するための斜視図である。
【
図10】本発明の気密容器の製造方法における、セル本体を得る工程の一例を説明するための正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0019】
(原子セル)
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る原子セルを示す斜視図である。
図2は、
図1中のI-I線に沿う断面図である。
図3は、
図1中のII-II線に沿う断面図である。
【0020】
図1に示すように、原子セル1は、セル本体2と、第1の蓋部材3と第2の蓋部材4とを備える。原子セル1は、本発明の気密容器である。もっとも、本発明の気密容器は原子セルには限定されず、例えば波長変換部材等の、気密性が求められる部材に適用することができる。
【0021】
図2に示すように、セル本体2は、第1の主面5及び第2の主面6並びに外側面7及び内側面8を有する。第1の主面5及び第2の主面6は対向し合っている。外側面7及び内側面8は、第2の主面6に接続されている。さらに、外側面7は、第1の主面5に接続されている。
【0022】
セル本体2には、第1の貫通孔13と、2つの第2の貫通孔14とが設けられている。第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14は、第1の主面5及び第2の主面6間を貫通している。2つの第2の貫通孔14は、第1の貫通孔13を挟み、互いに対向している。さらに、セル本体2には、2つの連通部15が設けられている。各連通部15は、第1の貫通孔13及び各第2の貫通孔14を連通させている。なお、連通部15は少なくとも1つ設けられていればよい。第1の貫通孔13及び少なくとも1つの第2の貫通孔14が連通していればよい。
【0023】
本実施形態では、連通部15は、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14を接続している溝部である。連通部15は、第1の主面5側に開口している。もっとも、連通部15の配置は上記に限定されない。
【0024】
図1及び
図3に示すように、平面視において、第1の貫通孔13は、矩形の形状を有し、第2の貫通孔14は円形の形状を有する。なお、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14の平面視における形状は上記に限定されない。第1の貫通孔13の平面視における形状は、例えば、略矩形状の形状であってもよく、四角形以外の多角形状の形状であってもよい。第2の貫通孔14の平面視における形状も、多角形状等であってもよい。
【0025】
各第2の貫通孔14の容積は、第1の貫通孔13の容積よりも小さい。具体的には、各第2の貫通孔14における第1の主面5に開口している部分の面積は、第1の貫通孔13における第1の主面5に開口している部分の面積よりも小さい。同様に、各第2の貫通孔14における第2の主面6に開口している部分の面積は、第1の貫通孔13における第2の主面6に開口している部分の面積よりも小さい。
【0026】
図1に示すように、セル本体2の外側面7は、第1の外側面7a、第2の外側面7b、第3の外側面7c及び第4の外側面7dを含む。第1の外側面7a及び第2の外側面7bは対向し合っている。第3の外側面7c及び第4の外側面7dは対向し合っており、かつ第1の外側面7a及び第2の外側面7bに接続されている。第1の外側面7a及び第2の外側面7bは平面状の形状を有する。他方、第3の外側面7c及び第4の外側面7dは曲面状の形状を有する。セル本体2の平面視における外形の形状は、略楕円形である。もっとも、セル本体2の平面視における外形の形状は上記に限定されず、例えば、矩形等であってもよい。本明細書において平面視とは、
図1における上方から見る方向をいう。
【0027】
図3に示すように、内側面8は、第1の貫通孔13に面している。第1の主面5において第1の貫通孔13が開口している部分は、第1の主面5及び内側面8が接続されている部分である。内側面8は、第1の内側面8a、第2の内側面8b、第3の内側面8c及び第4の内側面8dを含む。第1の内側面8a及び第2の内側面8bは対向し合っている。第3の内側面8c及び第4の内側面8dは対向し合っており、かつ第1の内側面8a及び第2の内側面8bに接続されている。第1の内側面8a、第2の内側面8b、第3の内側面8c及び第4の内側面8dは平面状の形状を有する。第1の内側面8aは第1の外側面7aに対向している。第2の内側面8bは第2の外側面7bに対向している。
【0028】
図1に示すように、一方の上記連通部15は、第3の内側面8cの一部において開口している。他方の連通部15は、第4の内側面8dの一部において開口している。
【0029】
第1の主面5上に、上記第1の蓋部材3が接合されている。第1の蓋部材3は、第1の貫通孔13及び2つの第2の貫通孔14の一方側、並びに2つの連通部15を塞いでいる。第2の主面6上に、上記第2の蓋部材4が接合されている。第2の蓋部材4は、第1の貫通孔13及び2つの第2の貫通孔14の他方側を塞いでいる。本実施形態において、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4と、セル本体2との平面視における形状は同じであり、略楕円形である。もっとも、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の形状は、第1の貫通孔13、第2の貫通孔14及び連通部15を塞ぐことができる形状であればよい。第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の形状は、例えば、円板状または矩形板状等であってもよい。
【0030】
原子セル1は、アルカリ金属やバッファガスが封入される容器であり、原子セル1の第1の貫通孔13内にガス状のアルカリ金属やバッファガスが封入されて用いられる。原子セル1は、原子発振器に用いられる。
図1に示すように、光源から出射された光Aが原子セル1に入射し、第1の貫通孔13を通る。そして、原子セル1から光Bが出射する。具体的には、本実施形態では、第1の外側面7aが入光面であり、第2の外側面7bが出光面である。第1の外側面7aから入射した光Aは、第1の貫通孔13内のアルカリ金属に照射される。そして、光Bが第2の外側面7bから出射する。原子セル1から出射した光Bは、光検出器に入射する。これにより、信号が取得される。なお、アルカリ金属としては、セシウム(Cs)やルビジウム(Rb)を用いることができる。バッファガスとしては、窒素(N
2)やネオン(Ne)、アルゴン(Ar)を用いることができる。
【0031】
本実施形態の特徴は、セル本体2の外側面7が火造り面であり、かつ入光面及び出光面を含み、2つの第2の貫通孔14が、第3の内側面8c及び第4の内側面8dを挟み互いに対向していることにある。それによって、加熱圧着等の、気密性を効果的に高めることができる態様を採用しても、光透過部の平行度を高めることができる。この詳細を以下において説明する。
【0032】
本明細書において、火造り面とは、リドロー成形等の加熱成形によって形成された平滑な面をいう。具体的には、本明細書において、火造り面の算術平均粗さ(Ra)は1nm以下である。原子セル1においては、入光面及び出光面が火造り面であり、平滑であるため、入光面及び出光面において光の散乱が生じ難く、光透過性を高めることができる。加えて、入光面及び出光面がセル本体2の外側面7に含まれるため、加熱圧着等により加えられる圧力により、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の表面に接合の痕跡が残ったとしても、原子セル1の光透過性は影響され難い。なお、本明細書における算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601:2013に基づく。
【0033】
もっとも、外側面及び内側面が互いに対向している部分が略平行ではない場合には、セル本体における光が入射または出射する部分の厚みは不均一になる。この場合、光が原子セル1を通過する位置により、光が原子セル1を通過する距離は異なる。例えば、原子発振器の製品の製造ばらつきにより、光源と原子セル1との位置関係にばらつきが生じる場合には、原子セル1における光を透過させる位置にもばらつきが生じる。そのため、通過した光の信号の状態にもばらつきが生じる。
【0034】
例えば、第2の貫通孔14を1つだけ設けた場合には、リドロー成形等の加熱成形時において、内側面8に歪みが生じるおそれがある。そのため、上記のように、外側面7及び内側面8が互いに対向している部分が略平行ではなくなるおそれがある。より具体的には、第1の外側面7a及び第1の内側面8a並びに第2の外側面7b及び第2の内側面8bが略平行ではなくなるおそれがある。これは、第1の貫通孔13の周囲の構成が非対称であるためと考えられる。
【0035】
これに対して、本実施形態においては、
図3に示すように、2つの第2の貫通孔14が、第3の内側面8c及び第4の内側面8dを挟み互いに対向している。それによって、第1の貫通孔13の周囲の構成における対称性を高めることができる。これにより、リドロー成形等の加熱成形時において、内側面8に歪みが生じ難い。よって、セル本体2における光透過部の平行度を高めることができる。光透過部の平行度が高いとは、例えば、第1の外側面7aと平行な面を基準面としたときに、第1の内側面8a、第2の内側面8b及び第2の外側面7bのいずれもが、該基準面と平行に近いことをいう。原子セル1のセル本体2では、第1の外側面7aと、第1の内側面8a、第2の内側面8b及び第2の外側面7bとは略平行である。なお、本発明でいう略平行とは、平面同士のなす角の角度が0.5°以下であることをいう。略平行である場合、上記角度は、0.2°以下であることが好ましい。
【0036】
本実施形態において、入光面及び出光面がセル本体2の外側面7に含まれるため、加熱圧着等により加えられる圧力により、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の表面に接合の痕跡が残ったとしても、原子セル1における光透過部の平行度は影響され難い。よって、加熱圧着等の、気密性を効果的に高めることができる態様を採用しても、光透過部の平行度を高めることができる。そして、上記平行度が高いことにより、セル本体2における光が入射する部分の厚みを均一にすることができ、かつ光が出射する部分における厚みを均一にすることができる。よって、原子発振器の製品の製造ばらつきにより、光源と原子セル1との位置関係にばらつきが生じる場合においても、製品毎において、光が原子セル1を通過する距離を均一にすることができる。従って、原子セル1を通過する光の信号を、光検出器よって安定的に取得することができる。
【0037】
なお、セル本体2に用いられるガラスとしては、特に限定されず、例えば、無鉛ガラス、有鉛ガラス、またはビスマス系ガラス等を用いることができる。
【0038】
無鉛ガラスとしては、例えば、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50%~70%、Al2O3 10%~20%、B2O3 0%~10%、MgO 0%~5%、CaO 15%~30%、R2O(Rは、Li、Na及びKから選択される少なくとも1種を表す)0%~5%、及びP2O5 0%~3%を含有する、アルミノ珪酸塩系ガラスを用いることができる。
【0039】
有鉛ガラスとしては、例えば、ガラス組成として、質量%で、SiO2 10%~45%、PbO 40%~75%、及びK2O 0.5%~10%を含有する、鉛系ガラスを用いることができる。
【0040】
ビスマス系ガラスとしては、例えば、ガラス組成として、質量%で、Bi2O3 5%~80%、B2O3 5%~35%、ZnO 0%~20%、SiO2 0%~20%、及びSrO 0%~30%を含有する、ガラスを用いることができる。
【0041】
セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4は、同系統のガラス組成を有することがより好ましい。セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4は、同じガラス組成を有することがさらに好ましい。それによって、セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の熱膨張係数を整合させることができ、剥離を回避する等の接合の安定性を高めることができる。従って、原子セル1の気密性を効果的に高めることができる。なお、本明細書において「同系統のガラス組成」のガラスとは、ガラス組成として含有される上位3成分が互いに一致することを指す。また、本発明において、「同じガラス組成」のガラスとは、互いにガラス組成として含有される各成分が一致し、一方のガラスの組成に対して他方のガラスの各成分の含有量の差が+5%~-5%の範囲内であるものを含む。
【0042】
本実施形態において光透過部の平行度を高めることができる効果の詳細を、本実施形態及び比較例におけるセル本体を比較することにより示す。比較例のセル本体102は、
図4に示すように、第2の貫通孔14が1つのみ設けられている点において本実施形態と異なる。
図4中の破線は、第1の外側面7aと平行の基準面を示す。
【0043】
ガラス組成で、質量%表記で、SiO2 55%、Al2O3 12%、B2O3 5%、MgO 2%、CaO 25%、Na2O 1%を含有するアルミノ珪酸塩系ガラスを用いて、本実施形態及び比較例のセル本体を、リドロー成形により作製した。
【0044】
第1の外側面7a及び第1の内側面8aがなす角の角度をθ1とし、第1の外側面7a及び第2の内側面8bがなす角の角度をθ2とし、第1の外側面7a及び第2の外側面7bがなす角の角度をθ3とする。本実施形態においては、θ1、θ2及びθ3のいずれもが0.1°であった。これに対して、比較例では、θ1は0.5°であり、θ2及びθ3は1°であった。このように、本実施形態においては、光透過部における平行度を高めることを確認でき、光透過性をより確実に高めることができる。
【0045】
本実施形態においては、光透過性及び気密性を両立することができる。気密性を高められることにより、大気中のHeが原子セル1の内部に侵入し難い。さらに、原子セル1の内部に封入されているバッファガスのセル抜けが生じ難い。それによって、原子発振器における発振周波数の経時変化を生じ難くすることができる。
【0046】
原子セル1においては、外側面7だけでなく、内側面8も火造り面である。よって、第1の貫通孔13に光が入射するとき、及び第1の貫通孔13から光が出射するときにおいても、光の散乱が生じ難い。よって、光透過性をより一層高めることができる。
【0047】
本実施形態では、セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4は、同じガラスにより構成されている。なお、セル本体2の材料は上記に限定されず、外側面7を火造り面とすることができ、かつ光透過性を有する材料であればよい。第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の材料は上記に限定されず、例えば、金属、水晶またはシリコン等により構成されていてもよい。もっとも、セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4は、ガラスにより構成されていることが好ましい。それによって、セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の熱膨張係数を整合させることができ、剥離を回避する等の接合の安定性を高めることができる。
【0048】
図5は、原子セルの第1の貫通孔内にアルカリ金属を封入する方法の例を説明するための正面断面図である。セル本体2における一方の第2の貫通孔14は、アルカリ金属Mが封入されたアンプル19等を配置するために設けられている。これに限られず、双方の第2の貫通孔14にアンプル19等を配置しても構わない。第2の貫通孔14内に配置されたアンプル19に、原子セル1の外側からレーザー光Lを照射することにより、アンプル19を割り、ガス状のアルカリ金属が第2の貫通孔14内に放出される。なお、アンプル19内に固体状のアルカリ金属Mが封入されている場合には、加熱によりアルカリ金属Mをガス化させてもよい。ガス状のアルカリ金属は、連通部15を通り、第1の貫通孔13内にも拡散する。もっとも、アルカリ金属を原子セル1内に封入する方法は上記に限定されない。例えば、アルカリ金属を原子セル1内に直接的に配置した後に、加熱によりアルカリ金属をガス化させてもよい。あるいは、アルカリ金属をガス状の状態において、原子セル1内に直接封入してもよい。
【0049】
以下において、本発明における好ましい構成を示す。
【0050】
図6は、第1の実施形態におけるセル本体の領域を説明するための、
図3に示す断面に相当する部分を示す断面図である。セル本体2は第1の領域C1及び第2の領域C2を有する。具体的には、平面視において、入光面及び出光面が互いに対向し合う方向を第1の方向yとし、第1の方向yと直交する方向を第2の方向xとしたときに、第1の領域C1及び第2の領域C2は、第2の方向xにおいて、第1の貫通孔13を挟み互いに対向している。第1の貫通孔13、第1の領域C1及び第2の領域C2のそれぞれの中央の、第1の方向yにおける位置は同じである。第1の領域C1及び第2の領域C2の第1の方向yに沿う寸法は、第1の貫通孔13の第1の方向yに沿う寸法の80%である。
【0051】
第1の領域C1及び第2の領域C2のそれぞれに、少なくとも1つずつの第2の貫通孔14が設けられており、第1の領域C1における第2の貫通孔14の総容積と、第2の領域C2における第2の貫通孔14の総容積とが同じであることが好ましい。それによって、第1の貫通孔13の周囲の構成における対称性をより確実に高めることができ、リドロー成形等の加熱成形時において、より確実に内側面8に歪みを生じ難くすることができ、これにより外側面7及び内側面8が互いに対向している部分を略平行にできる。従って、光透過部の平行度をより確実に高めることができる。
【0052】
図6に示すように、平面視において、第1の貫通孔13の中央を通り、かつ第1の方向yと平行に延びる軸を第1の対称軸Oyとし、第1の貫通孔13の中央を通り、かつ第2の方向xと平行に延びる軸を第2の対称軸Oxとする。複数の第2の貫通孔14が、第1の対称軸Oy及び第2の対称軸Oxのうち少なくとも一方に対して線対称に配置されていることが好ましい。それによって、第1の貫通孔13の周囲の構成における対称性を効果的に高めることができ、リドロー成形等の加熱成形時において、より確実に内側面8に歪みを生じ難くすることができ、これにより外側面7及び内側面8が互いに対向している部分を略平行にできる。従って、光透過部の平行度をより確実に高めることができる。
【0053】
本実施形態のように、複数の第2の貫通孔14が、第1の対称軸Oy及び第2の対称軸Oxの双方に対して線対称に配置されていることがより好ましい。それによって、第1の貫通孔13の周囲の構成における対称性をより一層高めることができ、リドロー成形等の加熱成形時において、より確実に内側面8に歪みを生じ難くすることができ、これにより外側面7及び内側面8が互いに対向している部分を略平行にできる。従って、光透過部の平行度をより確実に高めることができる。なお、第2の貫通孔14が第2の対称軸Oxに対して線対称に配置されているとは、本実施形態のように、第2の貫通孔14が第2の対称軸Ox上に配置されており、かつ第2の貫通孔14の形状が第2の対称軸Oxに対して線対称である場合も含む。
【0054】
複数の第2の貫通孔14の平面視における形状が同じであることが好ましい。それによって、第1の貫通孔13の周囲の構成における対称性をより確実に高めることができ、リドロー成形等の加熱成形時において、より確実に内側面8に歪みを生じ難くすることができ、これにより外側面7及び内側面8が互いに対向している部分を略平行にできる。従って、光透過部の平行度をより確実に高めることができる。
【0055】
複数の第2の貫通孔14の平面視における形状が、円形であることがより好ましい。この場合には、第1の貫通孔13の周囲の構成における対称性を容易に、かつより確実に高めることができ、リドロー成形等の加熱成形時において、より確実に内側面8に歪みを生じ難くすることができ、これにより外側面7及び内側面8が互いに対向している部分を略平行にできる。従って、光透過部の平行度をより確実に高めることができる。
【0056】
第1の領域C1及び第2の領域C2のそれぞれに、1つずつの第2の貫通孔14が設けられていることがさらに好ましい。この場合には、第1の領域C1における第2の貫通孔14の総容積と、第2の領域C2における第2の貫通孔14の総容積とを容易に同じにすることができる。双方の総容積を同じとした場合には、上述したように、リドロー成形等の加熱成形時において、より確実に内側面8に歪みを生じ難くすることができ、これにより外側面7及び内側面8が互いに対向している部分を略平行にできる。従って、光透過部の平行度をより確実に高めることができる。
【0057】
平面視において、第1の貫通孔13の中央が、セル本体2の中央と一致しており、平面視において、第1の貫通孔13の第1の方向yに沿う寸法が、第1の貫通孔13の第2の方向xに沿う寸法と等しいことが好ましい。この場合には、第2の貫通孔14の、内側面8の歪みに対する影響が小さい。
【0058】
なお、第1の領域C1及び第2の領域C2には、それぞれ複数の第2の貫通孔14が設けられていてもよい。この例を以下において示す。
【0059】
(変形例)
図7は、第1の実施形態の第1の変形例におけるセル本体の、
図3に示す断面に相当する部分を示す断面図である。本変形例においては、第1の領域C1及び第2の領域C2に、それぞれ2つの第2の貫通孔が設けられている。第1の領域C1における2つの第2の貫通孔14は、第2の対称軸Oxに対して線対称に配置されている。同様に、第2の領域C2における2つの第2の貫通孔14も、第2の対称軸Oxに対して線対称に配置されている。さらに、第1の領域C1の2つの第2の貫通孔14及び第2の領域C2の2つの第2の貫通孔は、第1の対称軸Oyに対して線対称に配置されている。本変形例においては、全ての第2の貫通孔14の容積は同じである。本変形例においても、第1の実施形態と同様に、加熱圧着等の、気密性を効果的に高めることができる態様を採用しても、光透過部の平行度を高めることができる。
【0060】
(製造方法)
図8は、気密容器の製造方法における、プリフォームを用意する工程の一例を説明するための斜視図である。
図9は、気密容器の製造方法における、中間体を得る工程の一例を説明するための斜視図である。
図10は、気密容器の製造方法における、セル本体を得る工程の一例を説明するための正面断面図である。
【0061】
気密容器としての原子セル1の製造方法において、セル本体2をリドロー成形により形成する。具体的には、
図8に示すように、リドロー成形に用いるプリフォーム22を、切削加工等によって用意する。平面視において、プリフォーム22の少なくとも一部の外形の形状と、得ようとするセル本体2の外形の形状とは、相似の関係を有する。
【0062】
次に、プリフォーム22に、第1の孔部23及び複数の第2の孔部24を設ける。
図8に示す例においては、プリフォーム22に、2つの第2の孔部24を設ける。より具体的には、得ようとするセル本体2の第1の領域C1に相当する部分と、第2の領域C2に相当する部分とに、1つずつ第2の孔部24を設ける。
【0063】
平面視において、第1の孔部23の形状と、得ようとするセル本体2の第1の貫通孔13の形状とは、相似の関係を有する。同様に、平面視において、第2の孔部24の形状と、得ようとするセル本体2の第2の貫通孔14の形状とは、相似の関係を有する。第1の孔部23及び第2の孔部24は、例えば、ドリルによる切削加工や超音波加工等により形成することができる。第1の孔部23及び第2の孔部24は、貫通孔であってもよく、あるいは、貫通孔ではなくともよい。なお、プリフォーム22には、第1の孔部23及び第2の孔部24を必ずしも設けなくともよい。
【0064】
次に、
図9に示すように、プリフォーム22を加熱し、引き延ばす。次に、プリフォーム22における引き延ばされた部分を切断することにより、中間体25を得る。
図9中のD-D線は、プリフォーム22が切断されていることを示す。上記切断は、例えば、ダイシングソーやガラスカッターにより行うことができる。中間体25は、第1の貫通孔13及び複数の第2の貫通孔14を有する。中間体25の第1の貫通孔13は、プリフォーム22における第1の孔部23から形成される。中間体25の第2の貫通孔14は、プリフォーム22における第2の孔部24から形成される。
【0065】
さらに、中間体25は、外側面7及び内側面8を有する。中間体25は、上記の通りリドロー成形により形成されている。そのため、外側面7は火造り面である。さらに、プリフォーム22に第1の孔部23が形成された状態においてリドロー成形を行うことによって、内側面8をも火造り面とすることができる。
図9に示す工程を繰り返すことにより、1個のプリフォーム22から複数の中間体25を得る。
【0066】
なお、プリフォーム22に第1の孔部23及び複数の第2の孔部24を設けない場合には、それぞれの中間体25に第1の貫通孔13及び複数の第2の貫通孔14を設けてもよい。もっとも、プリフォーム22に第1の孔部23及び複数の第2の孔部24を設けることが好ましい。それによって、上記のように、内側面8を火造り面とすることができる。加えて、各中間体25に第1の貫通孔13及び複数の第2の貫通孔14を設ける工程を削減できる。よって、生産性を高めることができる。
【0067】
次に、
図10に示すように、第1の貫通孔13及び各第2の貫通孔14を連通させるように、複数の連通部15を設ける。複数の連通部15は、例えば、ドリルによる切削加工や超音波加工等により形成することができる。本実施形態においては、第1の主面5における第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14の間の部分に、溝を設けることによって、連通部15を形成する。これにより、セル本体2を得る。もっとも、少なくとも1つの連通部15を設ければよい。
【0068】
一方で、
図1に示した第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4を用意する。次に、セル本体2の第1の主面5と第1の蓋部材3とを接合する。このとき、第1の貫通孔13及び複数の第2の貫通孔14の一方側、並びに複数の連通部15を、第1の蓋部材3により塞ぐ。さらに、セル本体2の第2の主面6と第2の蓋部材4とを接合する。このとき、第1の貫通孔13及び複数の第2の貫通孔14の他方側を、第2の蓋部材4により塞ぐ。以上により、
図1に示す原子セル1を得る。
【0069】
なお、アルカリ金属を原子セル1に封入する際には、セル本体2と双方の蓋部材とを接合する前に、アルカリ金属が封入されたアンプル等をセル本体2内に配置すればよい。具体的には、例えば、セル本体2の第2の主面6と第2の蓋部材4とを接合する。次に、セル本体2の少なくとも1つの第2の貫通孔14内にアンプル等を配置する。その後、セル本体2の第1の主面5と第1の蓋部材3とを接合する。なお、セル本体2の第1の主面5と第1の蓋部材3との接合に際しては、第1の貫通孔13及び第2の貫通孔14内にバッファガスを導入し、このバッファガス雰囲気において接合を行う。本発明においては、原子セル1内におけるアルカリ金属はガス化前の固体等の状態であってもよいし、ガス状の状態であってもよいし、アンプルに封入された状態であってもよい。原子セル1の使用時に、第1の貫通孔13内にガス状のアルカリ金属が封入されていればよい。
【0070】
セル本体2と、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との接合は、加熱圧着により行うことが好ましい。この場合には、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の表面において、加圧の痕跡が残る場合もある。これに対して、本実施形態においては、入光面及び出光面はセル本体2の外側面7に含まれるため、光透過部の平行度が損なわれ難い。よって、上記接合に加熱圧着を用いる場合に、本発明は好適である。しかも、原子セル1の気密性を効果的に高めることができる。
【0071】
加熱圧着においては、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4を構成するガラス材料の屈伏点以上、軟化点以下の温度域まで、第1の蓋部材3、第2の蓋部材4及びセル本体2を加熱し、荷重を印加することが好ましい。荷重を加える際には、セル本体2と、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4を挟持する。加熱圧着における圧力は、1kPa以上とすることが好ましく、10kPa以上とすることがより好ましい。それによって、原子セル1の気密性を効果的に高めることができる。しかも、本実施形態においては、原子セル1における光透過部の平行度は損なわれ難い。なお、加熱圧着における圧力は、0.5MPa以下であることが好ましく、0.1MPa以下であることがより好ましい。
【0072】
加熱圧着により上記接合を行う場合には、セル本体2の第1の主面5及び第2の主面6、並びに第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の接合面を研磨する必要はない。よって、生産性を高めることができる。もっとも、上記各接合面を、接合前に研磨してもよい。この場合、接合面の算術平均粗さ(Ra)は、0.3nm以下であることが好ましく、0.2nm以下であることがより好ましく、0.1nm以下であることがさらに好ましい。なお、上記接合は、加熱圧着以外の方法により行ってもよい。
【0073】
セル本体2と、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との接合は、オプティカルコンタクトにより行ってもよい。この場合には、接合前に、セル本体2の第1の主面5及び第2の主面6、並びに第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の接合面を研磨する。第1の蓋部材3、第2の蓋部材4及びセル本体2の接合面の算術平均粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、0.6nm以下であることがより好ましく、0.4nm以下であることがさらに好ましい。加熱温度としては、第1の蓋部材3、第2の蓋部材4及びセル本体2を構成するガラスのガラス転移温度以下とすることが好ましく、400℃以下とすることがより好ましく、300℃以下とすることがさらに好ましい。また、オプティカルコンタクトにおける加圧の圧力としては、10MPa以上とすることが好ましく、100MPa以上とすることがより好ましい。それによって、原子セル1の気密性を効果的に高めることができる。しかも、上記のように、原子セル1における光透過部の平行度は損なわれ難い。なお、オプティカルコンタクトにおける圧力は、300MPa以下であることが好ましく、200MPa以下であることがより好ましい。
【0074】
セル本体2と、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との接合は、陽極接合により行ってもよい。陽極接合は、例えば、300℃以上、350℃以下の温度で行うことができる。陽極接合は、例えば、大気圧雰囲気下で行うことができる。陽極接合は、例えば、250V以上、300V以下の電圧で行うことができる。この場合、ガラス組成中のアルカリ含有量により電圧を増加させてもよい。また、陽極接合は、例えば、0.1MPa以上、0.3MPa以下の加圧下で行うことができる。この場合、セル本体2、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4の厚みに応じて圧力を大きくしてもよい。
【0075】
セル本体2と、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との接合は、レーザーシールにより行ってもよい。レーザーシールは、ガラスフリットを用いて行うことが好ましい。ガラスフリットとしては、例えば、ビスマス系ガラスを用いることができる。ビスマス系ガラスのガラス組成は、例えば、モル%で、Bi2O3 39%、B2O3 23.7%、ZnO 14.1%、Al2O3 2.7%、CuO 20%、Fe2O3 0.6%とすることができる。
【0076】
レーザーシールによる接合の一例では、まず、ガラスフリット、樹脂、溶剤を含むペーストを用意する。次に、このペーストをセル本体2の第1の主面5及び第2の主面6上に塗布及びグレーズ(加熱処理)し、額縁状の封着材料層を形成する。次に、封着材料層を形成したセル本体2の第1の主面5及び第2の主面6上に、それぞれ、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4を載置する。これにより、セル本体2の第1の主面5及び第2の主面6と第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との間に封着材料層を配置することができる。なお、額縁状の封着材料層は、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4側に形成してもよい。あるいは、セル本体2の第1の主面5及び第2の主面6と第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との両方に封着材料を塗布してもよい。次に、レーザー光を、第1の蓋部材3を通して照射し、一方の封着材料層を加熱溶融する。同様に、レーザー光を、第2の蓋部材4を通して照射し、他方の封着材料層を加熱溶融する。これらにより、封着材料層を軟化変形させることにより、セル本体2の第1の主面5及び第2の主面6と第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4とを気密封着して接合することができる。なお、レーザー光としては、例えば、波長808nm、3W~20Wの半導体レーザーを用いることができる。
【0077】
また、セル本体2と、第1の蓋部材3及び第2の蓋部材4との接合は、樹脂接着剤や無機接着剤等の接着剤を用いて行ってもよい。
【0078】
本発明の気密容器を原子セルとして用いる場合、例えば、波長の異なる2種類の光による量子干渉効果を利用してアルカリ金属を共鳴遷移させる原子発振器に用いることができる。もっとも、光及びマイクロ波による二重共鳴現象を利用してアルカリ金属を共鳴遷移させる原子発振器に用いてもよく、特に限定されない。なお、本発明の気密容器は原子セルには限定されず、例えば波長変換部材等の、気密性が求められる部材に適用することもできる。
【符号の説明】
【0079】
1…原子セル
2…セル本体
3…第1の蓋部材
4…第2の蓋部材
5…第1の主面
6…第2の主面
7…外側面
7a~7d…第1~第4の外側面
8…内側面
8a~8d…第1~第4の内側面
13…第1の貫通孔
14…第2の貫通孔
15…連通部
19…アンプル
22…プリフォーム
23…第1の孔部
24…第2の孔部
25…中間体
102…セル本体