(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046827
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】角パイプ形状湾曲長尺材作製方法およびチャンネル材湾曲成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 7/06 20060101AFI20230329BHJP
【FI】
B21D7/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155627
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000207816
【氏名又は名称】大豊精機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智正
(72)【発明者】
【氏名】門間 義明
(72)【発明者】
【氏名】恒川 国大
【テーマコード(参考)】
4E063
【Fターム(参考)】
4E063AA11
4E063BA06
4E063CA07
4E063JA04
4E063MA18
(57)【要約】
【課題】 実用的な長尺材の湾曲成形方法を提供する。
【解決手段】 例えば、長尺材としてチャンネル材14を湾曲させる際、チャンネル材の長手方向におけるある箇所16を当金20に支持させかつその箇所より一端側の部分22を保持した状態で、その箇所よりも他端側の箇所24を押すことによって、その当金に支持させた箇所においてそのチャンネル材を屈曲させる屈曲工程を、当金に支持させる箇所をずらしつつ繰り返し行うことで、そのチャンネル材を湾曲させる。つまり、湾曲の曲率半径よりも小さな曲率半径の屈曲をその屈曲の位置をずらしながら複数回施す。ベンダを用いる場合には、湾曲に合った専用のロール型が必要となるが、本湾曲成形方法によれば、専用のロール型が必要とされない。少ない数の湾曲長尺材を作製する場合に、特に有効である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が角パイプ形状をなし湾曲した長尺材を作製する方法であって、
それぞれが、ウェブとそのウェブの両側の1対のフランジとを有する長尺材である1対の真直ぐなチャンネル材を準備するチャンネル材準備工程と、
前記1対のチャンネル材を前記フランジどうしが重なり合うように向かい合わせたものを、長手方向におけるある箇所を当金に支持させかつその箇所より一端側の部分を保持した状態で、その箇所よりも他端側の箇所を押すことによって、その当金に支持させた箇所において屈曲させる屈曲工程を、前記当金に支持させる箇所をずらしつつ繰り返し行うことでそれら1対のチャンネル材を一緒に湾曲させるチャンネル材湾曲成形工程と、
前記湾曲させた1対のチャンネル材のフランジどうしを溶接する溶接工程と
を含む角パイプ形状湾曲長尺材作製方法。
【請求項2】
前記チャンネル材湾曲成形工程において、前記1対のチャンネル材の各々を、その各々の前記1対のフランジの一方が湾曲の内側に、他方が外側になる向きに湾曲させる請求項1に記載の角パイプ形状湾曲長尺材作製方法。
【請求項3】
前記屈曲工程の前に、前記1対のチャンネル材を前記フランジどうしが重なり合うように向かい合わせたものに対して、湾曲させる部分において、前記1対のチャンネル材に囲まれた空間内に、芯金として機能する物体を充填させる芯金充填工程を行い、
前記屈曲工程が終了した後に、前記湾曲させた1対のチャンネル材を互いに分離させ、前記芯金として機能した物体を取り出す芯金取出工程を行う請求項1または請求項2に記載の角パイプ形状湾曲長尺材作製方法。
【請求項4】
前記チャンネル材湾曲成形工程を、1対のチャンネル材を向かい合わせたものを別のチャンネル材でカバーして行う請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の角パイプ形状湾曲長尺材作製方法。
【請求項5】
ウェブとそのウェブの両側の1対のフランジとを有する長尺材であるチャンネル材を湾曲形状に成形する方法であって、
チャンネル材の長手方向におけるある箇所を当金に支持させかつその箇所より一端側の部分を保持した状態で、その箇所よりも他端側の箇所を押すことによって、その当金に支持させた箇所においてそのチャンネル材を屈曲させる屈曲工程を、
前記当金に支持させる箇所をずらしつつ繰り返し行うことで、そのチャンネル材を湾曲させるチャンネル材湾曲成形方法。
【請求項6】
前記チャンネル材の1対のフランジの一方を前記当金に支持させ、他方を押すようにして前記屈曲工程を行うことで、前記チャンネル材の前記1対のフランジの一方が湾曲の内側に、他方が外側になる向きにそのチャンネル材を湾曲させる請求項5に記載のチャンネル材湾曲成形方法。
【請求項7】
前記チャンネル材とは別のチャンネル材を用い、前記屈曲工程において、それらチャンネル材と別のチャンネル材とを前記フランジどうしが重なり合うように向かい合わせたものを湾曲させる請求項5または請求項6に記載のチャンネル材湾曲成形方法。
【請求項8】
前記屈曲工程の前に、前記チャンネル材と前記別のチャンネル材とを前記フランジどうしが重なり合うように向かい合わせたものに対して、湾曲させる部分において、前記チャンネル材と前記別のチャンネル材とに囲まれた空間内に、芯金として機能する物体を充填させる工程と、
前記屈曲工程が終了した後に、湾曲させた前記チャンネル材と前記別のチャンネル材とを互いに分離させ、前記芯金として機能した物体を取り出す工程を含む請求項7のいずれか1つに記載のチャンネル材湾曲成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面が角パイプ形状をなし湾曲した長尺材を作製する方法、および、ウェブとそのウェブの両側の1対のフランジとを有する長尺材であるチャンネル材を湾曲させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湾曲した長尺材(以下、「湾曲長尺材」という場合がある)を作製する場合、例えば、下記特許文献に記載されているように、真直ぐな長尺材をベンダを用いて湾曲させることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載されているようなベンダを用いた湾曲成形は、湾曲部の内側に配置するロール型(内側型)を、その湾曲の曲率半径に応じて準備する必要があり、少ない数(小ロット)の成形品しか作製しない場合には、そのロール型を作製するためのコストが割高となってしまう。さらに、曲率半径の異なる湾曲部が存在する成形品では、ロール型作製コストは、相当に高いものとなってしまう。したがって、少ない数の湾曲長尺材を作製するための方法として、実用的な方法が望まれている。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、断面が角パイプ形状をなす湾曲長尺材の実用性の高い作製方法、および、長尺材であるチャンネル材を湾曲成形するための実用性の高い方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明の角パイプ形状湾曲長尺材作製方法は、
断面が角パイプ形状をなし湾曲した長尺材を作製する方法であって、
それぞれが、ウェブとそのウェブの両側の1対のフランジとを有する長尺材である1対の真直ぐなチャンネル材を準備するチャンネル材準備工程と、
前記1対のチャンネル材を前記フランジどうしが重なり合うように向かい合わせたものを、長手方向におけるある箇所を当金に支持させかつその箇所より一端側の部分を保持した状態で、その箇所よりも他端側の箇所を押すことによって、その当金に支持させた箇所において屈曲させる屈曲工程を、前記当金に支持させる箇所をずらしつつ繰り返し行うことでそれら1対のチャンネル材を一緒に湾曲させるチャンネル材湾曲成形工程と、
前記湾曲させた1対のチャンネル材のフランジどうしを溶接する溶接工程と
を含むことを特徴とする。
また、本発明のチャンネル材湾曲成形方法は、
ウェブとそのウェブの両側の1対のフランジとを有する長尺材であるチャンネル材を湾曲形状に成形する方法であって、
チャンネル材の長手方向におけるある箇所を当金に支持させかつその箇所より一端側の部分を保持した状態で、その箇所よりも他端側の箇所を押すことによって、その当金に支持させた箇所においてそのチャンネル材を屈曲させる屈曲工程を、
前記当金に支持させる箇所をずらしつつ繰り返し行うことで、そのチャンネル材を湾曲させることを特徴とする。
なお、本発明のチャンネル材湾曲成形方法は、上記本発明の角パイプ形状湾曲長尺材作製方法におけるチャンネル材湾曲成形工程の上位概念的な方法と考えることができ、チャンネル材湾曲成形工程と同様に、チャンネル材とは別のチャンネル材を、フランジどうしが重なり合うように向かい合わせた状態で、一緒に湾曲させるようにしてもよい。この場合、2つのチャンネル材の一方が、他方の湾曲成形を適切に行わせるためのサポータ的な役割を果たすためのダミーチャンネル(カバーチャンネル)とされてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の角パイプ形状湾曲長尺材作製方法、詳しくは、それのチャンネル材湾曲成形工程、および、本発明のチャンネル材湾曲成形方法では、長尺材であるチャンネル材が、屈曲工程を繰り返して湾曲させられる。詳しく言えば、湾曲の曲率半径よりも小さな曲率半径の屈曲がその屈曲の位置をずらしながら施される。つまり、チャンネル材が、曲率半径の小さな屈曲を距離をおいて連ねることで、近似的な湾曲に成形されるのである。本発明の角パイプ形状湾曲長尺材作製方法によれば、比較的高価なロール型を湾曲に合せて作製することなく、たとえ数の少ない湾曲長尺材であっても、簡便に作製することが可能となる。同様に、本発明のチャンネル材湾曲成形方法によれば、高価なロール型を湾曲に合せて作製することなく、たとえ数の少ないチャンネル材であっても、簡便に湾曲成形することが可能となる。
【発明の態様】
【0007】
本発明の角パイプ形状湾曲長尺材作製方法,チャンネル材湾曲成形方法は、鋼,アルミニウム合金等、塑性変形する一般的な金属材料の長尺材に対して広く適用可能である。
【0008】
本発明の角パイプ形状湾曲長尺材作製方法(以下、単に、「湾曲長尺材作製方法」という場合がある)におけるチャンネル材準備工程は、予定した形状寸法のチャンネル材を購入することによって準備する工程であってもよく、また、板材を、シェアリング等によって所定の寸法に切断し、その切断したものを、ブレーキプレス等によって曲げることによって作製する工程であってもよい。
【0009】
本発明の湾曲長尺材作製方法のチャンネル材湾曲成形工程(以下、単に、「湾曲成形工程」という場合がある)、および、チャンネル材とは別のチャンネル材を、フランジどうしが重なり合うように向かい合わせた状態で、一緒に湾曲させる場合の、本発明のチャンネル材湾曲成形方法(以下、単に、「湾曲成形方法」という場合がある)において、2つチャンネル材を向かい合せる場合、2つのチャンネル材の一方の1対のフランジの両方が、他方の1対のフランジの内側になるようにしてもよく、2つのチャンネル材の一方の1対のフランジの一方が、2つのチャンネル材の他方の1対のフランジの一方の内側に、2つのチャンネル材の他方の1対のフランジの他方が、2つのチャンネル材の一方の1対のフランジの他方の内側になるようにしてもよい。簡単に言えば、2つのチャンネルの一方を他方に被せるようにしてもよく、2つのチャンネルを互い違いに組み合わせるようにしてもよいのである。
【0010】
また、本発明の湾曲長尺材作製方法の湾曲成形工程および本発明の湾曲成形方法における湾曲させる向きは、特に限定されないが、例えば、チャンネル材のウェブが湾曲の内側に1対のフランジの先端が湾曲の外側になる向き,若しくは、チャンネル材のウェブが湾曲の外側に1対のフランジの先端が湾曲の内側になる向きとしてもよい。いわゆる「横向き」に湾曲させてもよいのである。一方で、1対のフランジの一方が湾曲の内側に、他方が湾曲の外側になる向きとしてもよい。いわゆる「縦向き」に湾曲させてもよいのである。
【0011】
本発明の湾曲長尺材作製方法の湾曲成形工程および本発明の湾曲成形方法は、例えば、チャンネル材を挟むようにして配設された2つの側板と、それら側板の間に設けられた当金とを有する治具を用いて行うことが可能である。その治具にチャンネル材をセットし、当金から長手方向に所定距離離れた箇所を、例えば、油圧式のピストン等で押すことによって、屈曲工程を行うようにすればよい。当金によって支持される箇所,プランジャ等による押し量(押しストローク)を、適切に設定することによって、所望の曲率半径を有する湾曲形状に近似した湾曲形状に、チャンネル材を湾曲成形することが可能となる。
【0012】
例えば、チャンネル材を上述の縦方向に湾曲させる場合、湾曲の外側のフランジは、比較的大きく凹み、湾曲の内側のフランジには、波打つような皺が発生する。このような現象をできるだけ緩和するために、本発明の湾曲長尺材作製方法の湾曲成形工程、および、2つのチャンネル材を向かい合わせて行う本発明の湾曲成形方法では、湾曲させる部分において、2つのチャンネル材で囲まれた空間内に、芯金(「マンドレル」と呼ぶこともできる)として機能する物体を充填させてもよい。つまり、湾曲成形工程の前に、芯金充填工程を行えばよいのである。この充填物体には、例えば、硬質のウレタンゴムや、可撓性のある板材を積層したもの等を採用することができる。また、2つのチャンネル材を向かい合せたものに、さらに、別のチャンネル材でカバーして、本発明の湾曲長尺材作製方法の湾曲成形工程および本発明の湾曲成形方法を実施してもよい。なお、芯金として機能した物体は、例えば、2つのチャンネル材を湾曲成形した後、それら2つのチャンネル材を互いに分離させて取り出せばよい。つまり、湾曲成形工程の後に、芯金取出工程を行ってもよいのである。
【0013】
本発明の湾曲長尺材作製方法では、湾曲成形工程の後、湾曲させられた1対のチャンネル材のフランジどうしを溶接する。この溶接は、例えば、フランジどうしを重ね合わせて行う場合には、隅肉溶接,栓止め溶接等にて行えばよく、また、例えば、フランジの先端どうしを突き合わせて行う場合には、突き合わせ溶接等にて行えばよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例の角パイプ形状湾曲長尺材作製方法が適用される湾曲長尺材である自動車用シャシフレームのサイドメンバを説明するための図である。
【
図2】作製されるサイドメンバの断面、および、そのサイドメンバを分割して作製する態様について説明するための図である。
【
図3】作製されるべき設計上の湾曲長尺材、および、実際に作製される湾曲長尺材を示す図である。
【
図4】長尺材であるチャンネル材を湾曲成形する際に、ある箇所においてそのチャンネル材を屈曲させる様子を示す模式的な斜視図である。
【
図5】屈曲部をずらしながら屈曲を繰り返して、チャンネル材が湾曲させられる様子を示す図である。
【
図6】長尺材を湾曲させる際に用いる湾曲成形装置を示す図である。
【
図7】湾曲成形に際して2つのチャンネル材を向かい合せた状態、および、芯金等の湾曲部の変形を防止するための手段が施された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の実施例である角パイプ形状湾曲長尺材作製方法、および、それに含まれるチャンネル材湾曲成形方法を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【実施例0016】
[A]作製する湾曲長尺材
実施例の角パイプ形状湾曲長尺材作製方法によって作製する湾曲長尺材は、
図1(a)に示すような自動車のシャシフレームを構成する左右のサイドメンバ10R,10Lである。左右のサイドメンバ10R,10Lは、対称であり、それらの各々の作製方法は、その対称であることによる違いがあるだけである。そのことに鑑み、以下の説明は、それらサイドメンバ10R,10Lを代表して、右側のサイドメンバ10Rについてだけ行う。なお、以下の説明において、サイドメンバ10R,10Lは、サイドメンバ10と総称する場合があることとする。
【0017】
サイドメンバ10は、
図1(b)の正面図に示すように、前方側,後方側に、上下方向に湾曲した部分、言い換えれば、縦向きに湾曲した部分である湾曲部12f1,12f2,12r1,12r2を有している。また、
図1(c)の平面図に示すように、前後方向の中央部に、車幅方向に湾曲した、言い換えれば、横向きに湾曲した部分である2つの湾曲部12c1,12c2を有している。なお、湾曲部12f1,12f2,12r1,12r2,12c1,12c2は、それらを互いに区別する必要がない場合には、湾曲部12と総称する場合があることとする。
【0018】
サイドメンバ10は、断面が概して角パイプ形状をなしている。角パイプの長尺材をパイプベンダによって湾曲成形することによって作製してもよいが、当該シャシフレームが試作品であり、サイドメンバ10を少ない数しか作製する必要がないため、パイプベンダのロール型の製造コストや、芯金等を用いた湾曲成形の際の湾曲部の変形(凹み,皺等)への対処の困難さ等に鑑み、
図2(a)の断面図に示すように、それぞれが長尺材である2つのチャンネル材14を接合するようにして作製されている。2つのチャンネル材14は、その1つが、車両の外側に位置する外側チャンネル材14oであり、別の1つが、車両の内側に位置する内側チャンネル材14iである。なお、それらを互いに区別する必要がない場合には、チャンネル材14と総称することとする。
【0019】
外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iは、同種の鋼材であるが、
図2(a)に示すように、互いに板厚が異なる。外側チャンネル材14oの板厚をt
o,内側チャンネル材の板厚をt
iとすれば、外側チャンネル材14oは、内側チャンネル材14iよりも厚くされている。つまり、t
o>t
iとされている。外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iは、ともに、ウェブ14wとそのウェブ14wの両側の1対のフランジ14fとを有している。外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iは、フランジ14fどうしが重なり合うように向かい合わせた状態で、詳しく言えば、外側チャンネル材14oの1対のフランジ14fの各々の内面に、内側チャンネル材14iの1対のフランジ14fの外面が接する状態で、接合されている。さらに詳しく言えば、外側チャンネル材14oの1対のフランジ14fの各々先端と、内側チャンネル材14iの1対のフランジ14fの各々の外面とが、隅肉溶接Wによって接合されている。
【0020】
図2(b)に示すように、サイドメンバ10は、3つのピースを作製し、それら作製した3つのピースを長手方向に接合して作製する。3つのピースは、車両の前方側から順に、フロントピース10f,センタピース10c,リアピース10rと呼ぶことができる。フロントピース10fには、上記湾曲部12f1,12f2が、センターピース10cには、上記湾曲部12c1,12c2が、リアピース10rには、上記湾曲部12r1,12r2が、それぞれ含まれる。
【0021】
図2(b)から解るように、フロントピース10fとセンタピース10cとの接合部では、フロントピース10fの外側チャンネル材14oが内側チャンネル材14iから長手方向に延び出しており、センタピース10cの内側チャンネル材14iが外側チャンネル材14oから長手方向に延び出している。同様に、リアピース10rとセンタピース10cとの接合部では、リアピース10fの外側チャンネル材14oが内側チャンネル材14iから長手方向に延び出しており、センタピース10cの内側チャンネル材14iが外側チャンネル材14oから長手方向に延び出している。つまり、接合部は、それの接合強度を向上させるため、外側チャンネル材14oと内側チャンネル材14iとが互い違いとなるように接合されている。なお、接合部においては、外側チャンネル材14oどうし,内側チャンネル材14iどうしが、突合せ溶接によって接合されている。
【0022】
[B]湾曲長尺材の作製方法
先に説明したように、サイドメンバ10は、フロントピース10f,センタピース10c,リアピース10rをそれぞれ作製し、作製したそれらを接合することによって、作製する。フロントピース10f,センタピース10c,リアピース10rの各々が、湾曲長尺材と考えることができる。以下、フロントピース10f,センタピース10c,リアピース10rの総称として湾曲長尺材10Tという概念を用い、その湾曲長尺材10Tの作製方法について説明する。なお、以下の説明において、湾曲長尺材10Tを構成するチャンネル材自体を、チャンネル材14,外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iと呼ぶ場合があることとする。
【0023】
湾曲長尺材10Tの作製は、概ね、1対のチャンネル材14としての真直ぐな外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iを準備するチャンネル材準備工程と、外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iを一緒に湾曲させるチャンネル材湾曲成形工程と、それら湾曲させた外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iのフランジ14fどうしを溶接する溶接工程とを含んで構成されている。以下に、それらの工程を順次、詳しく説明する。
【0024】
(a)チャンネル材準備工程
外側チャンネル材14oと内側チャンネル材14iとの少なくとも一方が、例えば、市販されている形状寸法のものであれば、その少なくとも一方を購入すればよい。しかしながら、外側チャンネル材14oと内側チャンネル材14iとのいずれかが、市販されていない場合、言い換えれば、一般的な規格サイズのものでない場合には、チャンネル材14自体を作製すればよい。具体的に言えば、作製するチャンネル材14に求められる板厚tの板材を、シェアリング等によって所望の寸法に切断し、その切断した板材を、ブレーキプレス等によって折り曲げることにより、所望のウェブ幅,フランジ幅を有する真直ぐなチャンネル材14を得ることができる。このチャンネル材14の作製方法については、板金加工における一般的な方法であるため、詳しい説明については省略する。
【0025】
(b)チャンネル材湾曲成形工程
i)基本的手法
本チャンネル材湾曲成形工程は、外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iを一緒に湾曲させる工程であるが、1つのチャンネル材14だけに対しても、実施できる。そこで、1つのチャンネル材14に対する湾曲成形を例にとって、チャンネル材湾曲成形工程の基本的な手法を説明する。なお、本チャンネル材湾曲成形工程が、チャンネル材湾曲成形方法の実施例である。
【0026】
設計上で作製すべき湾曲長尺材10Tを基準湾曲長尺材10T
*とすれば、その基準湾曲長尺材10T
*は、
図3(a)に示すように、湾曲領域A,湾曲領域B,湾曲領域Cの3つが連続する1つの湾曲部12を有している。いずれの湾曲領域A,B,Cも、チャンネル材14の1対のフランジ14fの一方が湾曲の内側に、他方が湾曲の外側となるような向きに湾曲している。いわゆる縦方向に湾曲している。湾曲領域A,湾曲領域Bは、湾曲の向きが同じであり、湾曲の曲率半径(内側のフランジ14fの外面の曲率半径)Rは、湾曲領域AがR
A,湾曲領域BがR
B(>R
A)とされている。一方、湾曲領域Cは、湾曲領域A,Bとは反対向きに湾曲しており、曲率半径R
Cは、湾曲領域Bの曲率半径R
Bと等しくされている。ちなみに、湾曲領域A,湾曲領域B,湾曲領域Cは、それぞれ、角度範囲がθ
A,θ
B,θ
Cとなっている。
【0027】
図3(b)を参照しつつ説明すれば、本チャンネル材湾曲成形工程は、基準湾曲長尺材10T
*の曲率半径R
A,R
B,R
Cより小さな曲率半径Rである基本曲率半径R
0の曲げを、間隔をおいて複数行うことで、基準湾曲長尺材10T
*に近似した形状の湾曲長尺材10Tを実現させる工程である。上記「曲げ」は、「湾曲」より曲率半径Rが小さく、湾曲と区別するため、以下、「屈曲」と呼ぶこととすれば、本チャンネル材湾曲成形工程は、端的には、基本曲率半径R
0でチャンネル材14を屈曲させる屈曲工程を繰り返し行うことで、チャンネル材14を湾曲させる工程と考えることができる。
【0028】
図3(b)においては、各屈曲工程において屈曲される部分である屈曲部16に、屈曲工程の実行順に、番号が付されており、また、それら屈曲部16の間に、屈曲させられていない部分である直線部18が、網掛けを付されて表されている。
【0029】
屈曲工程は、
図4に模式的に示すように、屈曲部16となる箇所を当金20によって下方から支持させ、その支持箇所より一端側の部分を受け金22によって保持し、他端側の箇所をピストンによって押下げることによって行われる。詳しく言えば、縦方向に湾曲させるため、チャンネル材14の1対のフランジ14fの一方を当金20に支持させ、他方を受け金22に保持させた状態において、他方をピストンによって押下げることによって行われる。ちなみに、図では、ピストンの先端に取付けられる押下ヘッド24のみが、表されている。
【0030】
上述したような屈曲工程では、ピストンの押下ヘッド24、当金20,受け金22に図に示すような力が作用することで、チャンネル材14は、屈曲部16において屈曲させられる。なお、受け金22による保持は、ピストンによる押下げによって、屈曲部16となる箇所より一端側が跳ね上がることを防止するだけであるが、チャンネル材14の長手方向への移動をも禁止するようにしてもよい。なお、当金20は、チャンネル材14のスプリングバックを考慮して、上面が、基本曲率半径R0よりある程度小さな半径を有する部分円筒側面とされている。
【0031】
長手方向における当金20とピストンの押下ヘッド24との距離である当金押下ヘッド間距離L0を固定的に設定し、チャンネル材14の一端側の端と当金20との長手方向における距離である当金チャンネル端間距離L,押下ヘッド24の押下量S,押下ヘッド24の押下力Fを適切に設定することで、任意の位置において任意の量だけチャンネル材14を屈曲させることが可能である。なお、押下量S,押付力Fは、チャンネル材のスプリングバックを考慮しつつ設定することが望ましい。また、押付力Fに代えて、受け金22や当金20に作用する力を採用してもよい。
【0032】
そして、チャンネル材14を図に示す送り方向に送りつつ、言い換えれば、当金20に支持させる箇所である屈曲部16を一端側にずらしつつ、上記屈曲工程を繰り返すことで、チャンネル材14を、適切に湾曲させることが可能となる。上記
図3(b)の湾曲長尺材10Tは、
図5に示すように、屈曲工程を10回行うことで湾曲成形が可能となる。ちなみに、
図5における工程番号は、
図3(b)の湾曲部16の番号と対応している。図から解るように、第7工程と第8工程との間で、チャンネル材14の上下が反転させられる。
【0033】
なお、ここでは、1つのチャンネル材14の湾曲成形の基本的手法について説明したが、先に説明したように、本チャンネル材湾曲成形工程は、上記フロントピース10f,センタピース10c,リアピース10rのそれぞれに対する工程であり、外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iを一緒に湾曲させる工程となる。
【0034】
ii)チャンネル材湾曲成形装置
チャンネル材湾曲成形工程は、
図6(a)に斜視図を示すようなチャンネル材湾曲成形装置(以下、単に、「湾曲成形装置」という場合がある)を用いて行う。この湾曲成形装置は、互いに間隔を隔てて配設された1対の基板30を有する治具32と、治具32に取付けられた油圧シリンダ34とを含んで構成されている。
【0035】
正面図である
図6(b)をも参照しつつさらに説明すれば、治具32は、スペーサ36を交換することによって、1対の基板30の間隔を調整可能とされており、縦方向に湾曲させるフロントピース10f,リアピース10rと、横方向に湾曲させるセンターピース10cとで、その間隔が変更される。ちなみに、フロントピース10f,リアピース10rの湾曲成形では、
図2(a)で示すよりも、外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iのフランジ14fの重なり代が大きくされるため、外側チャンネル材14oのフランジ14fの幅寸法に基づいて、1対の基板30の間隔が設定される。一方、センターピース10cの湾曲成形では、外側チャンネル材14oのウェブ14wの幅寸法に基づいて、1対の基板30の間隔が設定される。
【0036】
1対の基板30の間に、当金20が配置され、1対の基板30を貫通するようにして棒状の受け金22が配置される。上記押下ヘッド24は、油圧シリンダ34のピストン38の先端に、着脱可能に取付けられる。油圧シリンダ34には、図示しない油圧ユニットから、加圧された作動油が供給される。なお、当金20,押下ヘッド24は、1対の基板30の間隔に応じたものが配置され、取付けられる。
【0037】
さらに、湾曲成形装置には、上述の押下量Sを把握するために、例えば、レーザ式の変位計40等を設けてもよく、上述の当金チャンネル端間距離Lを管理するために、例えば、ストッパ42をサーボ制御によって移動させるストッパ装置44を設けてもよく、また、上述の押下力Fを測定するために、例えば、ピストン38に、歪ゲージ,ロードセル等を有する荷重センサ46を設けてもよい。それら変位計40,ストッパ装置44,荷重センサ46等によって得られる屈曲工程に関するデータを活用することにより、精度のよいチャンネル材14の湾曲成形を、繰り返し実行することが可能となる。
【0038】
iii)湾曲部の変形への対処
長尺材を湾曲成形する場合、湾曲部に変形が生じる。具体的には、例えば、湾曲の外側の部分では、凹みが生じ、内側の部分では、面の波打ち、すなわち、皺が生じる。長尺材がチャンネル材の場合、左右,上下のいずれかにおいて対称とはならないため、フランジとウェブとのなす角度の変化等、チャンネル材特有の変形も生じ得る。そのことを考慮して、本チャンネル材湾曲成形工程は、
図7(a)に示すように、1対のチャンネル材14、すなわち、外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iを、それらのフランジ14fどうしが重なるように向かい合わせて行う。つまり、単に、2つのチャンネル材14の湾曲成形を同時に行うことによる生産性の向上効果のためだけでなく、1対のチャンネル材14の一方が他方のサポータとなり、また、他方が一方のサポータとなる利点を得るべく、2つのチャンネル材14に対して、同時にかつ一緒に、湾曲成形を行うのである。
【0039】
さらに、本チャンネル材湾曲成形工程では、
図7(b)に示すように、外側チャンネル材14oの外側に、サポータとして機能するダミーチャンネル(カバーチャンネル)50を被せ、かつ、湾曲部となる部分の、外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iに囲まれた空間内に、芯金(マンドレル)として機能する物体(以下、単に、「芯金」という場合がある)52を充填させた状態で、湾曲成形を行う。ちなみに、
図7(b)に示す芯金52は、硬質ウレタンである。なお、芯金52として、
図7(c)に示すように、湾曲方向に応じて板52pを積層させてもよい。上記のようなダミーチャンネル50,芯金52の作用により、湾曲長尺材10Tの湾曲部12における上記変形が、効果的に抑制されることになる。
【0040】
芯金52の充填は、上記屈曲工程を開始する前に、行えばよい。つまり、屈曲工程の前に、芯金充填工程を行えばよい。芯金52の取り出しは、屈曲工程が終了した後に、湾曲させた外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iを互いに分離させて行えばよい。つまり、屈曲工程の後に、芯金取出工程を行えばよい。角パイプの長尺材を湾曲成形する場合には、適正な芯金の設計,セット,調整等は、比較的難度が高く、かつ、厄介な作業であるが、本チャンネル材湾曲成形工程では、芯金52の充填を、外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iを向かい合せる際に容易に行うことができ、芯金52の取り出しを、外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iが湾曲させられているにも拘わらず、外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iを分離させることで、容易に行うことができるのである。
【0041】
(c)溶接工程
溶接工程では、まず、チャンネル材湾曲成形工程を経て、湾曲させられた外側チャンネル材14o,内側チャンネル材14iは、
図2(a)に示すような状態となるように、適当な治具を用いて、セットされる。そのセットされた状態で、図に示すように、フランジ14fどうしが、隅肉溶接Wされる。この隅肉溶接は、適当な強度が得られる限り、湾曲長尺材10Tの全長に渡って連続して行われる必要はなく、例えば、適切なピッチのタック溶接となるように行えばよい。溶接は、CO
2アーク溶接,TIG溶接等、当該湾曲長尺材10Tの材質等におうじて、適正な方法で行えばよい。当該溶接工程は、一般的な工程であるため、詳しい説明は省略する。