(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046890
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】モデル学習装置、性能評価装置、モデル学習方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F02C 7/00 20060101AFI20230329BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20230329BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
F02C7/00 A
G06N20/00 130
F01D25/00 V
F01D25/00 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155730
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 愛里梨
(72)【発明者】
【氏名】岸 真人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慶太
(72)【発明者】
【氏名】森 圭祐
(57)【要約】
【課題】ガスタービン性能の推定精度を向上させることができるモデル学習装置を提供する。
【解決手段】モデル学習装置は、ガスタービンの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、前記ガスタービンの経年劣化に関連する第2説明変数と、前記ガスタービンの性能値を表す目的変数とを取得するデータ取得部と、前記第2説明変数に基づく前記ガスタービンの経年劣化カーブを表す指数関数を設定する指数関数設定部と、前記目的変数を前記第1説明変数及び前記指数関数で表した回帰式からなるモデルについて、前記第1説明変数が前記ガスタービンの性能に与える影響度合いを示す第1係数と、前記経年劣化カーブが静定する値を示す第2係数とを学習する第1学習部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、前記ガスタービンの経年劣化に関連する第2説明変数と、前記ガスタービンの性能値を表す目的変数とを取得するデータ取得部と、
前記第2説明変数に対応する前記ガスタービンの経年劣化カーブを表す指数関数を設定する指数関数設定部と、
前記目的変数を前記第1説明変数及び前記指数関数で表した回帰式からなるモデルに含まれる、前記第1説明変数が前記ガスタービンの性能に与える影響度合いを示す第1係数と、前記経年劣化カーブが静定する値を示す第2係数とを演算する第1学習部と、
を備えるモデル学習装置。
【請求項2】
前記第2説明変数は、前記ガスタービンの前回の定期検査からの運転時間であり、前記運転時間は前記定期検査を行う毎にゼロに再設定される、
請求項1に記載のモデル学習装置。
【請求項3】
前記第1学習部は、複数の前記第2説明変数それぞれに対応する複数の前記第2係数を演算する、
請求項1又は2に記載のモデル学習装置。
【請求項4】
前記指数関数に含まれる変数であって、前記経年劣化カーブの形状を決定する変数の値を演算する第2学習部を更に備える、
請求項1から3の何れか一項に記載のモデル学習装置。
【請求項5】
前記指数関数設定部は、1つの前記第2説明変数につき、第1指数関数及び第2指数関数からなる2つの前記指数関数を設定する、
請求項1から3の何れか一項に記載のモデル学習装置。
【請求項6】
前記指数関数設定部は、1つの前記第2説明変数につき、第1指数関数及び第2指数関数からなる2つの前記指数関数を設定し、
前記第2学習部は、前記第1指数関数及び前記第2指数関数それぞれに含まれる第1変数及び第2変数を演算する、
請求項4に記載のモデル学習装置。
【請求項7】
ガスタービンの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、前記ガスタービンの経年劣化に関連する第2説明変数とを入力とし、前記ガスタービンの性能値を出力とするモデルであって、請求項1から5の何れか一項に記載のモデル学習装置により学習済みのモデルに基づいて、前記環境条件による前記ガスタービンの性能への影響を補正するための補正値を算出する補正値算出部と、
特定の環境条件及び運転条件における前記ガスタービンの性能を示す第1性能値を前記補正値で補正して、前記ガスタービンの基準条件下における性能を表す性能値を評価する評価部と、
を備える性能評価装置。
【請求項8】
ガスタービンの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、前記ガスタービンの経年劣化に関連する第2説明変数と、前記ガスタービンの性能値を表す目的変数とを取得するステップと、
前記第2説明変数に基づく前記ガスタービンの経年劣化カーブを表す指数関数を設定するステップと、
前記目的変数を前記第1説明変数及び前記指数関数で表した回帰式からなるモデルに含まれる、前記第1説明変数が前記ガスタービンの性能に与える影響度合いを示す第1係数と、前記経年劣化カーブが静定する値を示す第2係数とを演算するステップと、
を有するモデル学習方法。
【請求項9】
ガスタービンの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、前記ガスタービンの経年劣化に関連する第2説明変数と、前記ガスタービンの性能値を表す目的変数とを取得するステップと、
前記第2説明変数に基づく前記ガスタービンの経年劣化カーブを表す指数関数を設定するステップと、
前記目的変数を前記第1説明変数及び前記指数関数で表した回帰式からなるモデルに含まれる、前記第1説明変数が前記ガスタービンの性能に与える影響度合いを示す第1係数と、前記経年劣化カーブが静定する値を示す第2係数とを演算するステップと、
をモデル学習装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モデル学習装置、性能評価装置、モデル学習方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン性能を評価する技術として、実機データに基づいたガスタービン特性モデルを構築し、各環境条件の影響度を推定する手法がある。例えば特許文献1には、線形重回帰分析を用いてガスタービンの各特性をモデル化する技術や、ニューラルネットワークを用いて非線形の特性をモデル化する技術が記載されている。
【0003】
また、ガスタービン性能は外部条件(大気温度や大気圧力など)による変化が大きい。このため、例えば新設運転開始時やアップグレード工事後に実施する性能計測では、外部条件に左右されないよう、計測した結果を予め定めた方法で基準条件下での数値に補正して評価する。基準条件への補正方法として、予め用意した環境条件ごとに独立した感度カーブ(補正カーブ)で割り戻す方法が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
線形重回帰等を用いた線形モデルでは、簡潔で理解しやすく、説明変数毎に独立して特性を得ることができる。しかしながら、線形モデルは線形表現しかできないため、ガスタービン特性を精度よく表せない可能性がある。そうすると、ガスタービン性能の推定精度が低下する可能性がある。
【0006】
また、ニューラルネットワーク等を用いた非線形モデルはブラックボックス的であり、専門知識に精通していない技術者では妥当性を理解することが困難な、複雑なモデルとなってしまう場合がある。また、このようなモデルは、全環境条件(説明変数)の影響が含まれた特性が出力されるものであり、説明変数毎に独立した特性を得ることができない。そうすると、非線形モデルでは、計測結果を基準条件下での数値に補正することができないので、新設運転開始時やアップグレード工事後に実施する性能計測において、ガスタービン性能を正しく評価することが困難となる。
【0007】
本開示は、このような課題に鑑みてなされたものであって、ガスタービン性能の推定精度を向上させることができるモデル学習装置、性能評価装置、モデル学習方法、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様によれば、モデル学習装置は、ガスタービンの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、前記ガスタービンの経年劣化に関連する第2説明変数と、前記ガスタービンの性能値を表す目的変数とを取得するデータ取得部と、前記第2説明変数に基づく前記ガスタービンの経年劣化カーブを表す指数関数を設定する指数関数設定部と、前記目的変数を前記第1説明変数及び前記指数関数で表した回帰式からなるモデルに含まれる、前記第1説明変数が前記ガスタービンの性能に与える影響度合いを示す第1係数と、前記経年劣化カーブが静定する値を示す第2係数とを演算する第1学習部と、を備える。
【0009】
本開示の一態様によれば、性能評価装置は、ガスタービンの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、前記ガスタービンの経年劣化に関連する第2説明変数とを入力とし、前記ガスタービンの性能値を出力とするモデルであって、上述の態様に係るモデル学習装置により学習済みのモデルに基づいて、前記環境条件による前記ガスタービンの性能への影響を補正するための補正値を算出する補正値算出部と、特定の環境条件及び運転条件における前記ガスタービンの性能を示す第1性能値を前記補正値で補正して、前記ガスタービンの基準条件下における性能を表す第2性能値を評価する評価部と、を備える。
【0010】
本開示の一態様によれば、モデル学習方法は、ガスタービンの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、前記ガスタービンの経年劣化に関連する第2説明変数と、前記ガスタービンの性能値を表す目的変数とを取得するステップと、前記第2説明変数に基づく前記ガスタービンの経年劣化カーブを表す指数関数を設定するステップと、前記目的変数を前記第1説明変数及び前記指数関数で表した回帰式からなるモデルに含まれる、前記第1説明変数が前記ガスタービンの性能に与える影響度合いを示す第1係数と、前記経年劣化カーブが静定する値を示す第2係数とを演算するステップと、を有する。
【0011】
本開示の一態様によれば、プログラムは、ガスタービンの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、前記ガスタービンの経年劣化に関連する第2説明変数と、前記ガスタービンの性能値を表す目的変数とを取得するステップと、前記第2説明変数に基づく前記ガスタービンの経年劣化カーブを表す指数関数を設定するステップと、前記目的変数を前記第1説明変数及び前記指数関数で表した回帰式からなるモデルに含まれる、前記第1説明変数が前記ガスタービンの性能に与える影響度合いを示す第1係数と、前記経年劣化カーブが静定する値を示す第2係数とを演算するステップと、をモデル学習装置に実行させる。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係るモデル学習装置、性能評価装置、モデル学習方法、及びプログラムによれば、ガスタービン性能の推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の第1の実施形態に係るモデル学習装置の機能構成を示す図である。
【
図2】本開示の第1の実施形態に係る性能評価装置の機能構成を示す図である。
【
図3】本開示の第1の実施形態に係るモデル学習装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】本開示の第1の実施形態に係る指数関数の一例を示す図である。
【
図5】本開示の第1の実施形態に係る性能評価装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】本開示の第2の実施形態に係る劣化カーブの一例を示す図である。
【
図7】本開示の第3の実施形態に係るモデル学習装置の機能構成を示す図である。
【
図8】本開示の第3の実施形態に係るモデル学習装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】本開示の第4の実施形態に係るモデル学習装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】本開示の第4の実施形態に係る指数関数の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の実施形態>
以下、本開示の第1の実施形態に係るモデル学習装置及び性能評価装置について、図を参照しながら説明する。
【0015】
(モデル学習装置の機能構成)
図1は、本開示の第1の実施形態に係るモデル学習装置の機能構成を示す図である。
モデル学習装置1は、ガスタービンGTの実機データ(計測されたセンサ値、指令値等)を入力とし、ガスタービン性能の推定値を出力とするモデルを学習する。
【0016】
図1に示すように、モデル学習装置1は、プロセッサ10と、メモリ11と、ストレージ12と、インタフェース13とを備えている。
【0017】
プロセッサ10は、予め用意されたプログラムに従って動作することで種々の機能を発揮する。プロセッサ10の機能については後述する。
【0018】
メモリ11は、いわゆる主記憶装置であって、プロセッサ10の動作に必要な記憶領域を有する。
【0019】
ストレージ12は、いわゆる補助記憶装置であって、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの大容量記憶デバイスである。
【0020】
インタフェース13は、外部機器と接続するためのインタフェース(通信インタフェース)である。インタフェース13は、例えばモデル学習装置1の操作者(ガスタービンの技術者等)の操作を受け付ける入力装置14と接続される。インタフェース13は、通信回線を介して、ガスタービンGT及び性能評価装置2と通信可能に接続される。インタフェース13は、ガスタービンGTから実機データを受信する。受信した実機データはストレージ12に記憶される。また、インタフェース13は、性能評価装置2に学習済みのモデルを送信する。
【0021】
また、
図1を参照しながら、プロセッサ10の機能について説明する。
図1に示すように、プロセッサ10は、データ取得部100、指数関数設定部101、及び第1学習部102としての機能を発揮する。
【0022】
データ取得部100は、ガスタービンGTの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、ガスタービンGTの経年劣化に関連する第2説明変数と、ガスタービンGTの性能値を表す目的変数とを学習データとして取得する。第1説明変数、第2説明変数、及び目的変数は、ガスタービンGTの各部に設けられたセンサで計測された計測値、ガスタービンGTに入力された指令値等である。
【0023】
具体的には、第1説明変数は、ガスタービンGTの性能に影響を与える環境条件(ガスタービンの設置環境、運転条件等)に関連する実機データである。第1説明変数は、例えば、大気温度、大気圧力、運転時間、湿度、ガスタービン識別情報(機種、号機等を示す情報)、IGV(Inlet Guide Vane)開度(又はΔIGV開度)等である。
【0024】
第2説明変数は、ガスタービンGTの経年劣化に関連する実機データである。第2説明変数は、例えばガスタービンGTの運転時間である。
【0025】
目的変数は、ガスタービンGTの性能を表す実機データである。目的変数は、例えば、ガスタービン効率、圧力比、吸気流量、排ガス温度、圧縮機効率等である。
【0026】
指数関数設定部101は、第2説明変数に基づくガスタービンGTの経年劣化カーブを表す指数関数を設定する。
【0027】
第1学習部102は、目的変数を第1説明変数及び指数関数で表した回帰式からなるモデルについて、第1説明変数がガスタービンGTの性能に与える影響度合いを示す第1係数と、経年劣化カーブが静定する値を示す第2係数とを学習する。
【0028】
(性能評価装置の機能構成)
図2は、本開示の第1の実施形態に係る性能評価装置の機能構成を示す図である。
性能評価装置2は、モデル学習装置1が学習したモデルに基づいて、ガスタービンGTの性能を評価する。
【0029】
図2に示すように、性能評価装置2は、プロセッサ20と、メモリ21と、ストレージ22と、インタフェース23とを備えている。
【0030】
プロセッサ20は、予め用意されたプログラムに従って動作することで種々の機能を発揮する。プロセッサ20の機能については後述する。
【0031】
メモリ21は、いわゆる主記憶装置であって、プロセッサ20の動作に必要な記憶領域を有する。
【0032】
ストレージ22は、いわゆる補助記憶装置であって、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの大容量記憶デバイスである。
【0033】
インタフェース23は、外部機器と接続するためのインタフェース(通信インタフェース)である。インタフェース23は、例えば性能評価装置2の操作者(ガスタービンの技術者等)の操作を受け付ける入力装置24と接続される。インタフェース23は、通信回線を介して、ガスタービンGT及びモデル学習装置1と通信可能に接続される。インタフェース23は、ガスタービンGTから実機データを受信する。また、インタフェース13は、モデル学習装置1から学習済みのモデルを受信する。受信した実機データ及び学習済みモデルはストレージ22に記憶される。
【0034】
また、
図2を参照しながら、プロセッサ20の機能について説明する。
図2に示すように、プロセッサ20は、条件設定部201、補正値算出部202、及び評価部203としての機能を発揮する。
【0035】
条件設定部201は、ガスタービンGTの基準条件を設定する。基準条件は、ガスタービンGTの特性評価の基準となる環境条件(例えば、大気温度、大気圧力等)である。本実施形態では、条件設定部201は、性能評価装置2の操作者が入力装置24を介して入力した値を基準条件として設定する。
【0036】
補正値算出部202は、モデル学習装置1により学習済みのモデルに基づいて、ガスタービンGTの設置環境における環境条件がガスタービンGTの性能へ与える影響を補正するための補正値を算出する。
【0037】
評価部203は、特定の環境条件及び運転条件におけるガスタービンGTの性能を示す第1性能値を補正値で補正して、ガスタービンGTの基準条件下における第2性能値を評価する。
【0038】
(モデル学習装置の処理)
ここでは、本実施形態に係るモデル学習装置1が学習するモデルについて説明する。モデル学習装置1は、機械学習手法の1つである線形重回帰に指数関数を組み込んだ回帰式からなるモデルを学習する。このモデルは、次の式(1)で表される。
【0039】
【0040】
ここで、yは目的変数であり、ガスタービンGTの性能値(例えば、ガスタービン出力等)を示す。
【0041】
x1、x2、…、xnは説明変数である。説明変数のうち、x1、x2、…は第1説明変数であり、ガスタービンGTの性能に影響を与える環境条件(ガスタービンの設置環境、運転条件等)に関連する実機データ(例えば、大気温度、大気圧力等)を示す。また、説明変数のうち、xnは第2説明変数であり、ガスタービンGTの経年劣化に関連する実機データ(例えば、運転時間等)を示す。
【0042】
第2説明変数(xn)については、上式(1)に示すように、指数関数で表される。この指数関数は、ガスタービンGTの経年劣化カーブを決定するものである。本実施形態に係るモデルは、上式(1)に示すように、1つの第2説明変数xnに対応する2つの指数関数を含む。2つの指数関数それぞれに含まれるa、bは、経年劣化カーブの曲がり方(形状)を決定するための変数(第1変数、第2変数)である。例えば、上式(1)の第1変数aは経年劣化カーブの下限を決定し、第2変数bは経年劣化カーブの上限を決定する。
【0043】
Constは定数(オフセット)である。
【0044】
A、B、…、N、N´は係数(第1係数、第2係数)である。A、B、…は第1説明変数に乗じる第1係数であり、第1説明変数がガスタービンGTの性能に与える影響度合いを示す。N、N´は第2説明変数の指数関数に乗じる第2係数であり、指数関数から得られる経年劣化カーブが静定する値(静定先)を示す。
【0045】
図3は、本開示の第1の実施形態に係るモデル学習装置の処理の一例を示すフローチャートである。
次に、
図3を参照しながら、モデル学習装置1の学習処理について説明する。
【0046】
モデル学習装置1のデータ取得部100は、ガスタービンGTの実機データを学習データとして取得する(ステップS01)。実機データには、ガスタービンGTの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、ガスタービンGTの劣化に関連する第2説明変数と、ガスタービンGTの性能値を表す目的変数とが含まれる。なお、第1説明変数、第2説明変数、及び目的変数として、どのデータを取得するかは、予め設定されていてもよいし、モデル学習装置1の操作者が任意に変更してもよい。
【0047】
次に、指数関数設定部101は、第2説明変数に対応する指数関数の設定を行う。具体的には、指数関数設定部101は、指数関数に含まれる変数を設定する(ステップS02)。本実施形態に係るモデルは、1つの第2説明変数xnにつき、2つの指数関数を有している。このため、指数関数設定部101は、モデル学習装置1の操作者が指定した値に基づいて、2つの指数関数それぞれに含まれる第1変数a及び第2変数bを設定する。
【0048】
図4は、本開示の第1の実施形態に係る指数関数の一例を示す図である。
例えば、操作者は、
図4に示すようにガスタービンGTの過去の実機データをグラフ上にプロットして、変数のおおよその値を算出する。
【0049】
操作者は、算出した値を、入力装置14を介してモデル学習装置1に入力して指定する。そうすると、指数関数設定部101は、操作者により指定された値に第1定数(例えば、「1/2」)を乗じた第1変数aと、第2定数(例えば、「2」)を乗じた第2変数bとを算出する。なお、他の実施形態では、操作者が第1変数a及び第2変数bの値を直接指定してもよい。
【0050】
図4の例では、第1変数aを含む第1指数関数により下限を表す経年劣化カーブC1と、第2変数bを含む第2指数関数により上限を表す経年劣化カーブC2が得られる。また、モデル学習装置1がモデルを学習することにより、ガスタービンGTの経年劣化カーブC3を推定することができる。
【0051】
次に、第1学習部102は、係数(第1係数、第2係数)及びオフセットを演算する(ステップS03)。
【0052】
第1学習部102は、学習したモデルの決定係数R2を算出する(ステップS04)。決定係数R2は、演算した係数及びオフセットを含む回帰式(上式(1))が実際のデータにどの程度当てはまっているかを示す指標であり、「1」に近いほど精度が高い(実際のデータに当てはまっている)ことを示す。決定係数R2の求め方は既知であるため、説明は省略する。決定係数R2を算出すると、第1学習部102は、モデルの学習を終了する。また、第1学習部102は、演算した係数及びオフセットを含むモデルを学習済みモデルとして、性能評価装置2に送信する。
【0053】
このようにして学習されたモデルは、上式(1)で表される回帰式において、第1説明変数x1、x2、…を含む項で環境条件に起因する性能への影響を推定し、第2説明変数xnを含む項で経年劣化に起因する性能への影響を推定している。また、回帰式において、非線形性を示す経年劣化については、指数関数で組み込まれている。これにより、従来の線形モデル(線形重回帰分析を用いたモデル等)と比較して、経年劣化の傾向をより正確に表現することが可能となる。
【0054】
また、従来の線形モデルでは、環境条件と経年劣化を分離していなかったため、経年劣化による性能への影響が説明変数の係数に盛り込まれてしまい、モデルの精度が低下する要因となっていた。これに対し、本実施形態に係るモデルは、経年劣化を別の項(指数関数を含む項)で考慮しているため、第1説明変数の性能に対する影響度合い(感度)をより正確に表すように、第1係数の学習精度を高めることが可能である。これにより、ガスタービンGTの実体にあった高精度な性能を推定可能なモデルを得ることができる。
【0055】
さらに、本実施形態に係るモデルは、1つの第2説明変数につき、第1指数関数及び第2指数関数からなる2つの指数関数を含んでいる。第2説明変数に対応する指数関数を1つのみとした回帰式では、ガスタービンGTの劣化カーブを単純な指数関数の形で表すことしかできないため、自由度が低くなる。そうすると、劣化カーブが単純な指数関数の形に当てはまらない場合があると、劣化カーブの精度が上がりにくくなってしまう。本実施形態に係るモデルは、1つの第2説明変数が2つの指数関数で表されることにより、1つの指数関数では表せない、自由度の高いガスタービンGTの劣化カーブを得ることができる。
【0056】
また、他の実施形態では、モデル学習装置1は、1つの第2説明変数を3つ以上の指数関数で表したモデルを学習してもよい。しかしながら、このように1つの第2説明変数を3つ以上の指数関数で表したモデルでは、各々の指数関数の差が小さくなり、多重共線性が起こりやすくなる可能性や、回帰式が複雑化して可読性が悪くなる可能性がある。このため、本実施形態では、1つの第2説明変数に対応する指数関数を2つだけに限定することにより、多重共線性が生じるデメリットや、可読性が悪くなるデメリットを抑制することができる。
【0057】
(性能評価装置の処理)
図5は、本開示の第1の実施形態に係る性能評価装置の処理の一例を示すフローチャートである。
以下、
図5を参照しながら、性能評価装置2の評価処理について説明する。なお、性能評価装置2のストレージ22には、モデル学習装置1から受信した学習済みのモデルが予め記憶されている。
【0058】
性能評価装置2の条件設定部201は、性能評価装置2の操作者が入力した値に基づいて、ガスタービンGTの基準条件を設定する(ステップS12)。
【0059】
補正値算出部202は、学習済みモデルに基づいて、ガスタービンGTの設置環境における環境条件がガスタービンGTの性能へ与える影響を補正するための補正値を算出する(ステップS13)。
【0060】
例えば、ガスタービンGTが熱帯地に設置されており、現在の設置環境における大気温度が「35度」であったとする。一方で、ガスタービンGTの特性評価を行う際の基準となる大気温度が「20度」であったとする。この場合、ガスタービンGTの基準条件(すなわち、大気温度=20度)におけるガスタービンGTの性能を正しく評価するためには、モデルに含まれる第1説明変数のうち、大気温度に対応する第1説明変数の劣化カーブで割り戻す必要がある。
【0061】
上記したように、本実施形態に係る学習済みモデルは、環境条件による影響と、経年劣化による影響とを分離した回帰式であり、第1説明変数にかかる第1係数は、第1説明変数の性能に対する感度のみを表した値となっている。このため、補正値算出部202は、学習済みモデルから、第1説明変数毎に独立した劣化カーブを得ることが可能である。上記した例のように、大気温度を基準条件に戻して性能評価を行いたい場合には、補正値算出部202は、学習済みモデルから大気温度に対応する第1説明変数の劣化カーブを求めて、性能値を補正するための補正値を算出する。
【0062】
次に、評価部203は、特定の環境条件及び運転条件におけるガスタービンGTの性能を示す第1性能値を、ステップS13で求めた補正値で補正した第2性能値を評価する(ステップS14)。第1性能値は、例えば、環境条件において定格運転を行ったとき等のガスタービンGTの性能値であり、予めストレージ22に記憶されたものを読み出してもよいし、性能評価装置2の操作者が手動で入力してもよい。また、性能値の補正方法は、例えば特許文献1に記載のような方法であってもよい。
【0063】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係るモデル学習装置1は、ガスタービンGTの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、ガスタービンGTの経年劣化に関連する第2説明変数と、ガスタービンGTの性能値を表す目的変数とを取得するデータ取得部100と、第2説明変数に対応するガスタービンGTの経年劣化カーブを表す指数関数を設定する指数関数設定部101と、目的変数を第1説明変数及び指数関数で表した回帰式からなるモデルに含まれる、第1説明変数がガスタービンGTの性能に与える影響度合いを示す第1係数と、経年劣化カーブが静定する値を示す第2係数とを演算する第1学習部102と、を備える。
【0064】
モデル学習装置1は、このように非線形性を示す経年劣化を指数関数で表したモデルを学習することにより、ガスタービンGTの環境条件と経年劣化との両方の実体をより正確に推定することができる高精度な予測モデルを得ることができる。
【0065】
また、従来の線形モデル(線形重回帰分析を用いたモデル等)では、経年劣化による性能への影響が説明変数の係数に盛り込まれてしまい、モデルの精度が低下する要因となっていた。これに対し、本実施形態に係るモデルは、環境条件による影響と、経年劣化による影響とを、それぞれ別の項で表している。このため、本実施形態に係るモデルは、第1説明変数の性能に対する影響度合い(感度)をより正確に表すように、第1係数の学習精度を高めることが可能である。これにより、ガスタービンGTの性能の推定精度をより向上させることができる。
【0066】
本実施形態に係るモデルは、回帰式により表現できるため、簡潔で可読性の高い、高精度な劣化カーブを得ることができる。これにより、ガスタービンGTの技術者の習熟度合いに関わらず、ガスタービンGTの劣化カーブを容易に把握することが可能となる。
【0067】
また、本実施形態に係るモデル学習装置1において、指数関数設定部101は、1つの第2説明変数につき、第1指数関数及び第2指数関数からなる2つの指数関数を設定する。
【0068】
このようにすることで、モデル学習装置1は、1つの第2説明変数に対し指数関数のみを含むモデルよりも劣化カーブの自由度を高めることができるとともに、1つの第2説明変数に対応する指数関数が多すぎることによる多重共線性が生じるデメリットや、可読性が悪くなるデメリットを抑制することができる。
【0069】
なお、上式(1)において、回帰式が第2説明変数を1つのみ含む例が示されているが、これに限られることはない。他の実施形態では、回帰式に複数の第2説明変数xn1、xn2、…が含まれていてもよい。この場合、指数関数設定部101は、複数の第2説明変数それぞれについて、2つずつ指数関数を設定する。また、指数関数設定部101は、全ての指数関数について個別に変数(「1つ目の第2説明変数xn1の第1指数関数の第1変数a1及び第2指数関数の第2変数b1」、「2つ目の第2説明変数xn2の第1指数関数の第1変数a2及び第2指数関数の第2変数b2」、…)を設定する。また、第1学習部102は、複数の第2説明変数xn1、xn2、…それぞれに対応する複数の第2係数N1、N1´、N2、N2´、…を演算する。
【0070】
このようにすることで、モデル学習装置1は、経年劣化に関連する複数の第2説明変数が関連している場合であっても、より予測精度の高いモデルを得ることができる。
【0071】
また、本実施形態に係る性能評価装置2は、モデル学習装置1により学習済みのモデルに基づいて、環境条件によるガスタービンGTの性能への影響を補正するための補正値を算出する補正値算出部202と、特定の環境条件及び運転条件におけるガスタービンGTの性能を示す第1性能値を補正値で補正して、ガスタービンGTの基準条件下における性能を表す第2性能値を評価する評価部203と、を備える。
【0072】
このようにすることで、性能評価装置2は、ガスタービンGTの現在の劣化度合い及び将来の劣化予測を推定することができるとともに、基準条件下におけるガスタービンGTの性能を評価することもできる。
【0073】
<第2の実施形態>
次に、本開示の第2の実施形態に係るモデル学習装置について説明する。
第1の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
本実施形態に係るモデル学習装置1は、定期検査によって運転時間が0にクリアされることを考慮したモデルを学習する。
【0074】
定期検査は、例えば、メジャー点検(全体の点検)、タービン点検、燃焼器点検、翼洗浄点検の4つの種別があるとする。また、運転時間は、運転開始からの総運転時間AOHp、前回のメジャー点検からの運転時間AOHm、前回のタービン点検からの運転時間AOHt、前回の燃焼器点検からの運転時間AOHc、及び前回の翼洗浄点検からの運転時間AOHwがそれぞれ個別に計測されている。運転時間AOHmは、メジャー点検を行う毎に0にクリアされる。他の運転時間AOHt、AOHc、AOHwについても同様である。
【0075】
(モデル学習装置の処理)
ここでは、本実施形態に係るモデル学習装置1が学習するモデルについて説明する。モデル学習装置1が学習するモデルは、次の式(2)で表される回帰式からなる。
【0076】
【0077】
第1の実施形態と同様に、yは目的変数、x1、x2、…は第1説明変数、Constは定数(オフセット)、A、B、…は第1説明変数に乗じる第1係数である。
【0078】
xn1、xn2は第2説明変数である。本実施形態では、第2説明変数は、定期点検毎に0にクリアされる運転時間である。例えば、xn1は前回のメジャー点検からの運転時間AOHm、xn2は前回のタービン点検からの運転時間AOHtである。
【0079】
第2説明変数(xn1、xn2)については、第1の実施形態と同様に、指数関数で表される。上式(2)の第1変数a及び第2変数bは、一つ目の第2説明変数xn1に対応する経年劣化カーブの下限及び上限を決定する。また、上式(2)の第1変数c及び第2変数dは、二つ目の第2説明変数xn2に対応する経年劣化カーブの下限及び上限を決定する。指数関数設定部101は、第1の実施形態と同様に、操作者が入力した値に基づいて、第1変数及び第2変数の値を設定する。
【0080】
なお、第2説明変数の数は2つに限られることはなく、定期点検の種別数に応じて第2説明変の数を増やしてもよい。例えば、上記したように、4種の定期点検を行う場合には、4つの第2説明変数を組み込んでもよい。
【0081】
N1、N´1、N2、N´2は第2説明変数の指数関数に乗じる第2係数である。第1の実施形態と同様に、各第2説明変数の指数関数で表される経年劣化カーブの静定先に相当する。
【0082】
なお、モデル学習装置1が第1係数、第2係数、オフセットを学習する方法は、第1の実施形態と同様である。
【0083】
図6は、本開示の第2の実施形態に係る劣化カーブの一例を示す図である。
図6には、上式(2)から得られる劣化カーブを例示したものが示されている。劣化カーブD2は、期間MI毎にメジャー点検を行った場合の劣化カーブを示す。劣化カーブD3は、期間TI毎にタービン点検を行った場合の劣化カーブを示す。劣化カーブD4は、期間CI毎に燃焼器点検を行った場合の劣化カーブを示す。劣化カーブD5は、一定期間毎に翼洗浄点検を行った場合の劣化カーブを示す。劣化カーブD1は、メジャー点検、タービン点検、燃焼器点検、及び翼洗浄点検では回復しない何らかの要因による劣化カーブを表している。
上式(2)において定期点検の種別毎に分割して回帰式に組み込むことによって、
図6に示すように、定期点検それぞれに対応する性能値の変化を精度よく表現することができる。これにより、ガスタービン性能の推定精度を更に向上させることができる。
【0084】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係るモデル学習装置1において、第2説明変数は、ガスタービンGTの前回の定期検査からの運転時間であり、運転時間は定期検査を行う毎にゼロに再設定されるものである。
【0085】
このようにすることで、モデル学習装置1は、定期点検による性能値の変化(劣化カーブの変化)を精度よく推定可能なモデルを得ることができる。
【0086】
<第3の実施形態>
次に、本開示の第3の実施形態に係るモデル学習装置について説明する。
上述の各実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
本実施形態に係るモデル学習装置1は、指数関数に含まれる変数を更に学習する。
【0087】
図7は、本開示の第3の実施形態に係るモデル学習装置の機能構成を示す図である。
図7に示すように、本実施形態に係るモデル学習装置1において、プロセッサ10は、第2学習部103としての機能を更に発揮する。
【0088】
第2学習部103は、経年劣化カーブの形状を決定する指数関数の変数の値を学習する。
【0089】
(モデル学習装置の処理)
ここでは、本実施形態に係るモデル学習装置1が学習するモデルについて説明する。モデル学習装置1が学習するモデルは、次の式(3)で表される回帰式からなる。
【0090】
【0091】
第1の実施形態と同様に、yは目的変数、x1、x2、…は第1説明変数、xnは第2説明変数、Constは定数(オフセット)、A、B、…は第1説明変数に乗じる第1係数、Nは第2説明変数の指数関数に乗じる第2係数である。
【0092】
なお、本実施形態に係るモデルにおいて、回帰式は、1つの第2説明変数につき、指数関数を1つのみ含む。ガスタービンGTの経年劣化カーブが一般的な指数関数から得られるカーブで表すことができる場合は、このように、第2説明変数毎の指数関数を1つに減らしてもよい。したがって、指数関数の変数も1つのみ(変数aのみ)となる。なお、上述の第1の実施形態及び第2の実施形態に係るモデル(式(1)及び式(2)の回帰式)についても同様に、指数関数を1つに減らしてもよい。
【0093】
図8は、本開示の第3の実施形態に係るモデル学習装置の処理の一例を示すフローチャートである。
次に、
図8を参照しながら、モデル学習装置1の学習処理について説明する。
【0094】
モデル学習装置1のデータ取得部100は、ガスタービンGTの実機データを学習データとして取得する(ステップS21)。
【0095】
次に、指数関数設定部101は、第2説明変数の指数関数の変数aを設定する(ステップS22)。指数関数設定部101は、モデル学習装置1の操作者が指定した値を、変数aの初期値として設定する。
【0096】
次に、第1学習部102は、係数(第1係数、第2係数)及びオフセットを演算する(ステップS23)。また、第1学習部102は、演算した係数及びオフセットを含むモデルの決定係数R
2を算出する(ステップS24)。ステップS23~S24の処理は、第1の実施形態(
図3のステップS03~S04)と同じである。
【0097】
第1学習部102は、ステップS22、又は後述のステップS27で設定した指数関数の変数aと、ステップS23で演算した係数及びオフセットと、ステップS24で算出した決定係数R2とをセットにしてストレージ12に保存する(ステップS25)。
【0098】
次に、第1学習部102は、収束条件を満たしたか判断する(ステップS26)。例えば、第1学習部102は、所定回数連続で決定係数R2が前回より大きくならなかった場合、収束条件を満たしたと判断する(ステップS26;YES)。所定回数は、例えば100回である。この回数は、操作者が任意に設定してもよい。
【0099】
収束条件を満たした場合(ステップS26;YES)、第1学習部102は、ストレージ12に保存されたセットのうち、最大の決定係数R2を含むセットを解とする(ステップS28)。これにより、上式(3)で表される回帰式の第1係数A、B、…と、第2係数N、N´と、オフセットConstに加えて、指数関数の変数aの値が決定する。また、第1学習部102は、決定したセットを含むモデルを学習済みモデルとして、性能評価装置2に送信する。
【0100】
一方、収束条件を満たしていない場合(ステップS26;NO)、第2学習部103は、指数関数の変数aの新たな値を設定する(ステップS27)。第2学習部103は、線形探索、二分探索等の手法を用いて、変数aの新たな候補値を設定する。また、第1学習部102は、ステップS23において、ステップS27で新たに設定した変数aを用いて、第1係数、第2係数、及びオフセットを再度、演算する。第1学習部102及び第2学習部103は、収束条件を満たすまで、ステップS27及びS23~S25の処理を繰り返し実行する。
【0101】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係るモデル学習装置1は、ガスタービンGTの経年劣化カーブの形状を決定する指数関数の変数の値を学習する第2学習部を更に備える。
【0102】
このようにすることで、モデル学習装置1は、指数関数の変数についても最適化することができるので、ガスタービンGTの性能の推定精度を更に向上させることができる。
【0103】
<第4の実施形態>
次に、本開示の第4の実施形態に係るモデル学習装置について説明する。
上述の各実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
本実施形態に係るモデル学習装置1において、指数関数設定部101は、1つの第2説明変数につき2つの指数関数を設定し、第2学習部103は、これら2つの指数関数それぞれに含まれる複数の変数を学習する。
【0104】
(モデル学習装置の処理)
図9は、本開示の第4の実施形態に係るモデル学習装置の処理の一例を示すフローチャートである。
以下、
図8を参照しながら、モデル学習装置1の学習処理について説明する。ここでは、モデル学習装置1が第1の実施形態に係るモデル(式(1)の回帰式)を学習する例について説明する。なお、モデル学習装置1が第2の実施形態に係るモデル(式(2)の回帰式)を学習する場合も、処理の流れは同じである。
【0105】
モデル学習装置1のデータ取得部100は、ガスタービンGTの実機データを学習データとして取得する(ステップS31)。
【0106】
次に、指数関数設定部101は、第2説明変数に対応する指数関数の設定を行う。本実施形態に係るモデルは、上式(1)で示すように、1つの第2説明変数に対し、2つの指数関数(第1指数関数及び第2指数関数)を有している。このため、指数関数設定部101は、第2説明変数の第1指数関数の第1変数aと、第2指数関数の第2変数bとをそれぞれ設定する(ステップS32)。なお、指数関数設定部101は、初回のみ、モデル学習装置1の操作者が指定した値に基づいて、第1変数a、第2変数bの初期値を設定する。当該処理は、第1の実施形態(
図3のステップS02)と同じである。
【0107】
次に、第1学習部102は、係数(第1係数、第2係数)及びオフセットを演算する(ステップS33)。また、第1学習部102は、演算した係数及びオフセットを含むモデルの決定係数R
2を算出する(ステップS34)。ステップS33~S34の処理は、第3の実施形態(
図8のステップS23~S24)と同じである。
【0108】
第1学習部102は、ステップS32、又は後述のステップS37で設定した第1指数関数の第1変数a及び第2指数関数の第2変数bと、ステップS33で学習した係数及びオフセットと、ステップS34で算出した決定係数R2とをセットにしてストレージ12に保存する(ステップS35)。
【0109】
次に、第1学習部102は、収束条件を満たしたか判断する(ステップS36)。例えば、第1学習部102は、第3の実施形態と同様に、所定回数連続で決定係数R2が前回より大きくならなかった場合、収束条件を満たしたと判断する(ステップS36;YES)。
【0110】
収束条件を満たした場合(ステップS36;YES)、第1学習部102は、ストレージ12に保存されたセットのうち、最大の決定係数R2を含むセットを解とする(ステップS38)。これにより、上式(1)で表される回帰式の第1係数A、B、…と、第2係数N、N´と、オフセットConstに加えて、第1指数関数に含まれる第1変数a及び第2指数関数に含まれる第2変数bの値が決定する。また、第1学習部102は、決定したセットを含むモデルを学習済みモデルとして、性能評価装置2に送信する。
【0111】
一方、収束条件を満たしていない場合(ステップS36;NO)、第2学習部103は、第1指数関数の第1変数a及び第2指数関数の第2変数bの新たな値をそれぞれ設定する(ステップS37)。第2学習部103は、第3の実施形態と同様に、線形探索、二分探索等の手法を用いて、第1変数a及び第2変数bの新たな候補値をそれぞれ設定する。また、第1学習部102は、ステップS33において、ステップS37で新たに設定した第1変数a及び第2変数bを用いて、第1係数、第2係数、及びオフセットを再度、演算する。第1学習部102及び第2学習部103は、収束条件を満たすまで、ステップS37及びS33~S35の処理を繰り返し実行する。
【0112】
図10は、本開示の第4の実施形態に係る指数関数の一例を示す図である。
図10には、第1指数関数及び第2指数関数から得られる劣化カーブC4の一例が示されている。このように、本実施形態に係るモデルは、複数の指数関数を含むことにより、1つの指数関数では表せない、自由度の高い劣化カーブを得ることができる。
【0113】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係るモデル学習装置1において、指数関数設定部101は、1つの第2説明変数につき、第1指数関数及び第2指数関数からなる2つの指数関数を設定し、第2学習部103は、第1指数関数及び第2指数関数それぞれに含まれる第1変数a及び第2変数bを学習する。
【0114】
例えば、第3の実施形態に係るモデルのように、第2説明変数に対応する指数関数を1つのみとした回帰式では、ガスタービンGTの劣化カーブを指数関数の形で表すことしかできない。しかしながら、劣化カーブが指数関数の形に当てはまらない、
図10に示すような形状となる場合がある。これに対し、本実施形態に係るモデルは、1つの第2説明変数が第1指数関数及び第2指数関数からなる2つの指数関数で表されることにより、1つの指数関数では表せない、自由度の高いガスタービンGTの劣化カーブを得ることができる。また、モデル学習装置1は、これら2つの指数関数に含まれる第1変数a及び第2変数bをそれぞれ学習することで、ガスタービンGTの劣化カーブをより精度よく推定可能なモデルを得ることができる。
【0115】
また、他の実施形態では、モデル学習装置1は、1つの第2説明変数を3つ以上の指数関数で表したモデルを学習してもよい。しかしながら、このように1つの第2説明変数を3つ以上の指数関数で表したモデルでは、各々の指数関数の差が小さくなり、多重共線性が起こりやすくなる可能性や、回帰式が複雑化して可読性が悪くなる可能性がある。このため、本実施形態では、1つの第2説明変数に対応する指数関数を2つだけに限定することにより、劣化カーブの自由度を確保しつつ、多重共線性が生じるデメリットや、可読性が悪くなるデメリットを抑制することができる。
【0116】
以上のとおり、本発明に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0117】
<付記>
上述の実施形態に記載のモデル学習装置、性能評価装置、モデル学習方法、及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0118】
(1)本開示の第1の態様によれば、モデル学習装置(1)は、ガスタービンの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、ガスタービンの経年劣化に関連する第2説明変数と、ガスタービンの性能値を表す目的変数とを取得するデータ取得部(100)と、第2説明変数に基づくガスタービンの経年劣化カーブを表す指数関数を設定する指数関数設定部(101)と、目的変数を第1説明変数及び指数関数で表した回帰式からなるモデルに含まれる、第1説明変数がガスタービンの性能に与える影響度合いを示す第1係数と、経年劣化カーブが静定する値を示す第2係数とを演算する第1学習部(102)と、を備える。
【0119】
モデル学習装置は、このように非線形性を示す経年劣化を指数関数で表したモデルを学習することにより、ガスタービンの環境条件と経年劣化との両方の実体をより正確に推定することができる高精度な予測モデルを得ることができる。
【0120】
(2)本開示の第2の態様によれば、第1の態様に係るモデル学習装置(1)において、第2説明変数は、ガスタービンの前回の定期検査からの運転時間であり、運転時間は定期検査を行う毎にゼロに再設定される。
【0121】
このようにすることで、モデル学習装置は、定期点検による性能値の変化(劣化カーブの変化)を精度よく推定可能なモデルを得ることができる。
【0122】
(3)本開示の第3の態様によれば、第1又は第2の態様に係るモデル学習装置(1)において、第1学習部(102)は、複数の第2説明変数それぞれに対応する複数の第2係数を演算する。
【0123】
このようにすることで、モデル学習装置は、経年劣化に関連する複数の第2説明変数が関連している場合であっても、より予測精度の高いモデルを得ることができる。
【0124】
(4)本開示の第4の態様によれば、第1から第3の何れか一の態様に係るモデル学習装置(1)は、指数関数に含まれる変数であって、経年劣化カーブの形状を決定する変数の値を演算する第2学習部(103)を更に備える。
【0125】
このようにすることで、モデル学習装置は、指数関数の変数についても最適化することができるので、ガスタービンの性能の推定精度を更に向上させることができる。
【0126】
(5)本開示の第5の態様によれば、第1から第3の何れか一の態様に係るモデル学習装置(1)において、指数関数設定部(101)は、1つの第2説明変数につき、第1指数関数及び第2指数関数からなる2つの指数関数を設定する。
【0127】
このようにすることで、モデル学習装置は、1つの第2説明変数に対し指数関数のみを含むモデルよりも劣化カーブの自由度を高めることができるとともに、1つの第2説明変数に対応する指数関数が多すぎることによる多重共線性が生じるデメリットや、可読性が悪くなるデメリットを抑制することができる。
【0128】
(6)本開示の第6の態様によれば、第4の態様に係るモデル学習装置(1)において、指数関数設定部(101)は、1つの第2説明変数につき、第1指数関数及び第2指数関数からなる2つの指数関数を設定し、第2学習部(103)は、第1指数関数及び第2指数関数それぞれに含まれる第1変数及び第2変数を演算する。
【0129】
このようにすることで、モデル学習装置は、1つの第2説明変数に対し指数関数のみを含むモデルよりも劣化カーブの自由度を高めることができるとともに、1つの第2説明変数に対応する指数関数が多すぎることによる多重共線性が生じるデメリットや、可読性が悪くなるデメリットを抑制することができる。また、モデル学習装置は、これら2つの指数関数に含まれる第1変数及び第2変数をそれぞれ演算することで、ガスタービンの劣化カーブをより精度よく推定可能なモデルを得ることができる。
【0130】
(7)本開示の第7の態様によれば、性能評価装置(2)は、ガスタービンの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、ガスタービンの経年劣化に関連する第2説明変数とを入力とし、ガスタービンの性能値を出力とするモデルであって、第1から第5の何れか一の態様に係るモデル学習装置(1)により学習済みのモデルに基づいて、環境条件によるガスタービンの性能への影響を補正するための補正値を算出する補正値算出部(202)と、特定の環境条件及び運転条件におけるガスタービンの性能を示す第1性能値を補正値で補正して、ガスタービンの基準条件下における性能を表す第2性能値を評価する評価部(203)と、を備える。
【0131】
このようにすることで、性能評価装置は、ガスタービンの現在の劣化度合い及び将来の劣化予測を推定することができるとともに、基準条件下におけるガスタービンの性能を評価することもできる。
【0132】
(8)本開示の第8の態様によれば、モデル学習方法は、ガスタービンの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、ガスタービンの経年劣化に関連する第2説明変数と、ガスタービンの性能値を表す目的変数とを取得するステップと、第2説明変数に基づくガスタービンの経年劣化カーブを表す指数関数を設定するステップと、目的変数を第1説明変数及び指数関数で表した回帰式からなるモデルに含まれる、第1説明変数がガスタービンの性能に与える影響度合いを示す第1係数と、経年劣化カーブが静定する値を示す第2係数とを演算するステップと、を有する。
【0133】
(9)本開示の第9の態様によれば、プログラムは、ガスタービンの性能に影響を与える環境条件を表す第1説明変数と、ガスタービンの経年劣化に関連する第2説明変数と、ガスタービンの性能値を表す目的変数とを取得するステップと、第2説明変数に基づくガスタービンの経年劣化カーブを表す指数関数を設定するステップと、目的変数を第1説明変数及び指数関数で表した回帰式からなるモデルに含まれる、第1説明変数がガスタービンの性能に与える影響度合いを示す第1係数と、経年劣化カーブが静定する値を示す第2係数とを演算するステップと、をモデル学習装置(1)に実行させる。
【符号の説明】
【0134】
1 モデル学習装置
10 プロセッサ
100 データ取得部
101 指数関数設定部
102 第1学習部
103 第2学習部
11 メモリ
12 ストレージ
13 インタフェース
14 入力装置
2 性能評価装置
20 プロセッサ
201 条件設定部
202 補正値算出部
203 評価部
21 メモリ
22 ストレージ
23 インタフェース
24 入力装置
GT ガスタービン