(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046919
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】熱処理装置
(51)【国際特許分類】
C21D 9/28 20060101AFI20230329BHJP
C21D 1/42 20060101ALI20230329BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20230329BHJP
H05B 6/36 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
C21D9/28 B
C21D1/42 J
C21D1/42 G
H05B6/10 331
H05B6/36 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155768
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトサーモシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】中田 綾香
(72)【発明者】
【氏名】山本 亮介
【テーマコード(参考)】
3K059
4K042
【Fターム(参考)】
3K059AA09
3K059AB24
3K059AB25
3K059CD72
4K042AA14
4K042AA15
4K042AA23
4K042BA13
4K042DA01
4K042DA06
4K042DB01
4K042DC04
4K042DF02
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】被処理物の太さを変更したときでもコイルを構成する部材間の相対位置を変更しなくても済む、熱処理装置を提供する。
【解決手段】熱処理装置1は、軸状の被処理物100を誘導加熱するコイル20と、コイル20へ電流を供給する電源3と、有する。コイル20は、被処理物100の軸方向Sに沿って延びる2本の加熱導体21,22を含む。2本の加熱導体21,22は、電源3と接続され、2本の加熱導体21,22の間の距離D3は、被処理物100の軸断面における外寸D100の最大値D102より小さい値に設定されている。被処理物100へ2本の加熱導体21,22を対向させて、2本の加熱導体21,22と被処理物100を相対回転させながら誘導加熱する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状の被処理物を誘導加熱するコイルと、
前記コイルへ電流を供給する電源と、
を備える熱処理装置において、
前記コイルは、前記被処理物の軸方向に沿って延びる2本の加熱導体を含み、
前記2本の加熱導体は、前記電源と接続され、前記2本の加熱導体の間の距離は、前記被処理物の軸断面における外寸の最大値より小さい値に設定され、
前記被処理物へ前記2本の加熱導体を対向させて、前記2本の加熱導体と前記被処理物を相対回転させながら誘導加熱する熱処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱処理装置において、
前記コイルは、前記2本の加熱導体の端部同士を接続する接続導体を含み、
前記接続導体と前記被処理物との距離が、前記2本の加熱導体と前記被処理物との距離よりも大きい値に設定される熱処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱処理装置において、
前記2本の加熱導体は、前記被処理物の軸断面における前記外寸に対応させた位置に配置され、前記被処理物の軸方向の前記外寸に連動して前記2本の加熱導体の間の距離が設定される熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シャフト等の金属軸を被処理物として、この被処理物に焼入処理等の熱処理を施すための誘導加熱コイルが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の高周波加熱コイルは、太さが異なる被処理物であってもコイルを交換することなく良好な加熱を行うことができるようにすることを目的としている。この高周波加熱コイルは、高周波電源と接続された第1加熱コイルと、この第1加熱コイルによる誘導電流が流れる第2加熱コイルとを有している。
【0003】
第1加熱コイルと第2加熱コイルとは、回転可能に支持された被処理物の軸芯線に対して直交する方向に相対的に移動可能に構成されている。そして、太さが異なる被処理物を誘導加熱する際には、第1加熱コイルと第2加熱コイルとを相対移動させる。これにより、2つの加熱コイル間の距離を変更し、2つの加熱コイル間に被処理物が挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、第1加熱コイルと第2加熱コイルとを相対移動させる設備が必要である。加熱コイルは、大電流が流れて発熱するので、内部に冷却水通路が設けられている。このため、2つの加熱コイルを相対移動させるためには冷却水通路の相対移動も考慮する必要があり、設備が大がかりになってしまう。さらに、特許文献1に記載の構成では、被処理物の太さが変更される毎に、第1加熱コイルと第2加熱コイルとを相対移動させてこれらのコイル間の相対距離を設定する必要がある。浸炭処理等において、被処理物のうちの特に表面を均等に加熱するためには、加熱コイルと被処理物との相対距離を設定しなければならず、2つの加熱コイルの相対位置を設定する作業工程に手間がかかる。
【0006】
上記の課題に鑑み、本発明の目的の一つは、被処理物の太さを変更したときでもコイルを構成する部材間の相対位置を変更しなくても済む、熱処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる熱処理装置は、軸状の被処理物を誘導加熱するコイルと、前記コイルへ電流を供給する電源と、を備える熱処理装置において、前記コイルは、前記被処理物の軸方向に沿って延びる2本の加熱導体を含み、前記2本の加熱導体は、前記電源と接続され、前記2本の加熱導体の間の距離は、前記被処理物の軸断面における外寸の最大値より小さい値に設定され、前記被処理物へ前記2本の加熱導体を対向させて、前記2本の加熱導体と前記被処理物を相対回転させながら誘導加熱する。
【0008】
(2)前記コイルは、前記2本の加熱導体の端部同士を接続する接続導体を含み、前記接続導体と前記被処理物との距離が、前記2本の加熱導体と前記被処理物との距離よりも大きい値に設定される場合がある。
【0009】
(3)前記2本の加熱導体は、前記被処理物の軸断面における前記外寸に対応させた位置に配置され、前記被処理物の軸方向の前記外寸に連動して前記2本の加熱導体の間の距離が設定される場合がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、被処理物の太さを変更したときでもコイルを構成する部材間の相対位置を変更しなくても済む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の熱処理装置の模式的な平面図であり、誘導加熱位置に被処理物が配置された状態を示している。
【
図2】
図2は、熱処理装置の誘導加熱コイルの一部を拡大した斜視図である。
【
図3】
図3は、誘導加熱コイル、および、誘導加熱位置にある被処理物等を示す斜視図である。
【
図4】
図4(A)は、
図3のIVA-IVA線に沿う断面図であり、断面の奥側の図示を一部省略している。
図4(B)は、
図3のIVB-IVB線に沿う断面図であり、断面の奥側の図示を省略している。
【
図5】
図5は、被処理物の外寸に応じた誘導加熱位置を説明するための概念的な平面図である。
【
図7】
図7は、誘導加熱コイルに第3部分が設けられた変形例を示す図である。
【
図8】
図8(A)は、被処理物が円錐台状で且つ、2つの加熱導体が被処理物の形状に沿った形状に配置された変形例を示す模式的な斜視図である。
図8(B)は、
図8(A)のVIIIB-VIIIB線に沿う断面図であり、断面の奥側部分の図示は省略している。
【
図9】
図9は、2本の加熱導体が複数対設けられた変形例を示す図である。
【
図10】
図10は、誘導加熱コイルを回転させる変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、本発明の熱処理装置1の模式的な平面図であり、誘導加熱位置P1に被処理物100が配置された状態を示している。
図1では、電気的な接続を示す線は破線の矢印で示している。
図2は、熱処理装置1の誘導加熱コイル20の一部を拡大した斜視図である。
図3は、誘導加熱コイル20、および、誘導加熱位置P1にある被処理物100等を示す斜視図である。
図4(A)は、
図3のIVA-IVA線に沿う断面図であり、断面の奥側の図示を一部省略している。
図4(B)は、
図3のIVB-IVB線に沿う断面図であり、断面の奥側の図示を省略している。
【0014】
なお、以下では、各図に示すように、熱処理装置1の誘導加熱コイル20を正面から見た状態を基準として、左右方向X、前後方向Y、および、上下方向Zを規定する。また、特に説明なき場合、被処理物100が誘導加熱位置P1に配置されている状態を基準として説明を行う。本実施形態では、被処理物100の軸方向Sは、上下方向Zと平行である。なお、被処理物100の軸方向Sが水平方向、または、水平面に対して傾斜した方向を向いた状態で被処理物100が熱処理装置1によって誘導加熱されてもよい。
【0015】
図1~
図4(B)を参照して、熱処理装置1は、誘導加熱によって被処理物100に熱処理を施すように構成されている。この熱処理は、加熱処理である。加熱処理の一例として、焼入のための加熱処理、浸炭加熱処理、均熱処理などを例示することができる。熱処理装置1は、バッチ処理装置であり、被処理物100を1つ毎に誘導加熱する。熱処理装置1は、大気雰囲気下で被処理物100を誘導加熱してもよいし、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で被処理物100を誘導加熱してもよい。
【0016】
本実施形態では、被処理物100は、金属部品であり、たとえば、トルク伝達シャフトの素材としての金属軸である。なお、被処理物100は、一般的な長尺な金属軸に限らず、金属リング等、軸方向が短い形態であっても含まれる。本実施形態では、被処理物100は、中空シャフトである。本実施形態の被処理物100は、当該被処理物100の軸方向Sの任意の位置において、軸方向Sと直交する断面での断面形状が、所定の肉厚を有する円形である。本実施形態では、被処理物100が中空軸である形態を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。被処理物100は、中実軸であってもよい。
【0017】
本実施形態では、被処理物100は、軸方向Sの位置によって、軸方向Sと直交する断面の形状が異なっている。本実施形態では、被処理物100は、第1軸部分101と、第1軸部分101の外寸よりも大きい外寸(外径)の第2軸部分102と、を含んでいる。軸方向Sにおける被処理物100の各部の外寸D100は、本実施形態では2種類存在しており、第1軸部分101の外寸D101と、第2軸部分102の外寸D102と、を有している。外寸D102は、被処理物100の外寸D100の最大値である。本実施形態では、第1軸部分101と第2軸部分102とは、同軸に配置されているけれども、同軸に配置されず、一方が他方に対して偏心していてもよい。
【0018】
熱処理装置1は、誘導加熱コイル20と、誘導加熱コイル20へ電流を供給する電源3と、被処理物100を支持および搬送する支持機構4と、制御部5と、を有している。
【0019】
電源3は、商用電源に接続される電源回路であり、商用電源を所定の電圧、電流、および、周波数の電力に変換して誘導加熱コイル20へ出力する。なお、電源3は、誘導加熱コイル20が被処理物100へ磁束を作用させて被処理物100を誘導加熱できればよく、高周波電源に限定されない。
【0020】
誘導加熱コイル20は、被処理物100を誘導加熱するために設けられている。本実施形態では、誘導加熱コイル20は、銅等、高周波電流を流されることで交番磁束を発生する材料で形成されている。誘導加熱コイル20は、複数の部材をろう付け等によって互いに固定することで形成されていてもよいし、ロストワックス製法または金属積層造型法等によって形成された一体成形品であってもよい。誘導加熱コイル20の後述する加熱導体21,22と、接続導体25,26とは、同じ素材で構成されてもよいし、別の素材で構成されてもよい。
【0021】
誘導加熱コイル20は、本実施形態では、縦向きに配置された被処理物100を誘導加熱する。このため、誘導加熱コイル20は、被処理物100の軸方向Sに沿って(上下方向Zに沿って)細長い形状に形成されている。誘導加熱コイル20は、中空形状に形成されており、誘導加熱コイル20の内部に冷却水通路が形成されている。冷却水は、図示しない冷却水ポンプを用いて、誘導加熱コイル20と図示しない熱交換器とを循環し、誘導加熱コイル20を冷却する。
【0022】
誘導加熱コイル20は、中空の細長い素材を誘導加熱コイル20の形状に成形することで形成されている。誘導加熱コイル20の長手方向と直交する断面における誘導加熱コイル20の断面形状は、本実施形態では、四角環状形状(正方形の環状形状)である。
【0023】
なお、誘導加熱コイル20の上記断面形状は、円環形状、楕円環形状、四角形以外の多角形の環状形状であってもよく、具体的な形状は限定されない。誘導加熱コイル20は、電源3から電力を与えられることで、被処理物100を誘導加熱する。本実施形態では、誘導加熱コイル20は、軸方向Sにおける被処理物100の全域に亘って被処理物100を加熱する。また、誘導加熱コイル20は、中実コイルであることにより内部が詰まった形状であってもよい。
【0024】
誘導加熱コイル20は、被処理物100の軸方向Sに沿って延びる2本の加熱導体である第1加熱導体21および第2加熱導体22と、これらの加熱導体21,22同士を接続する第1接続導体25および第2接続導体26と、電源3に接続される第1端子27および第2端子28と、を有している。
【0025】
第1加熱導体21および第2加熱導体22は、被処理物100に交番磁束を与えて被処理物100に渦電流を発生させるために設けられている。第1加熱導体21および第2加熱導体22は、本実施形態では、上下方向Zに細長い形状に形成されており、左右方向Xに向かい合って配置されている。本実施形態では、加熱導体21,22は、端子27,28との連結部以外は左右対称な形状に形成されている。誘導加熱コイル20の加熱導体21,22、接続導体25,26、および、端子27,28は、本実施形態では一体成形品であり、互いの相対位置が一定である。
【0026】
上下方向Z(軸方向S)における加熱導体21,22の長さは、被処理物100の全長よりも長い。これにより、加熱導体21,22からの磁束を軸方向Sにおける被処理物100の全域に作用して被処理物100を誘導加熱するように被処理物100を配置できる。本実施形態では、各加熱導体21,22の一側面21e,22e(被処理物100を向く平面であり、縦向きの平面)は、被処理物100の中心軸線B1を向いている。
【0027】
加熱導体21,22は、被処理物100の外形に合わせた形状に形成されている。具体的には、加熱導体21,22は、第1部分21a,22aと、第2部分21b,22bと、を有している。
【0028】
本実施形態では、第1部分21a,22aの下方に第2部分21b,22bが並んでいる。
【0029】
第1部分21a,22aは、第1軸部分101と対向配置される部分である。第1部分21a,22aと第1軸部分101とは、軸方向Sと直交する方向(水平方向)に対向している。軸方向Sにおいて、各第1部分21a,22aの長さは、第1軸部分101の長さよりも長いことが好ましい。この好ましい構成であれば、軸方向Sにおいて各第1部分21a,22aが配置されている領域内に第1軸部分101の全体を配置できる。よって、第1部分21a,22aからの磁束を第1軸部分101の全域に均等に作用させて第1軸部分101に均等に渦電流を発生させて誘導加熱できる。また、第1部分21a,22aの上端部21f,22fに対して下方の位置に第1軸部分101を配置でき、第1接続導体25と第1軸部分101との距離をより広くして第1接続導体25からの磁束を第1軸部分101の上端に到達し難くできる。これにより、第1接続導体25からの磁束に起因して第1軸部分101に生じる渦電流による余分な加熱を抑制できる。
【0030】
第2部分21b,22bは、第2軸部分102と対向配置される部分である。第2部分21b,22bと第2軸部分102とは、軸方向Sと直交する方向(水平方向)に対向している。軸方向Sにおいて、各第2部分21b,22bの長さは、第2軸部分102の長さよりも長いことが好ましい。この好ましい構成であれば、軸方向Sにおいて各第2部分21b,22bが配置されている領域内に第2軸部分102の全体を配置できる。よって、第2部分21b,22bからの磁束を第2軸部分102の全域に均等に作用させて第2軸部分102に均等に渦電流を発生させて誘導加熱できる。また、第2部分21b,22bの下端部21g,22gに対して上方の位置に第2軸部分102を配置でき、第2接続導体26と第2軸部分102との距離をより広くして第2接続導体26からの磁束を第2軸部分102の下端に到達し難くできる。これにより、第2接続導体26からの磁束に起因して第2軸部分102に生じる渦電流による余分な加熱を抑制できる。
【0031】
2本の加熱導体21,22は、被処理物100の軸断面における外寸D100に対応させた位置に配置され、被処理物100の軸方向Sの各位置での外寸D100に連動して2本の加熱導体21,22の間の距離D3が設定されることで、被処理物100と2本の加熱導体21,22とが対向する距離D10を確保するように設定されている。
【0032】
本実施形態では、軸方向Sから見て、第2部分21b,22bは、対応する第1部分21a,22aに対して被処理物100から遠ざかる方向側の領域に配置されている。本実施形態では、第2部分21b,22bは、加熱導体21,22の対応する一側面21e,22eと直交する方向に沿って、対応する第1部分21a,22aから所定のオフセット量OF(
図4(A)に図示)オフセットして配置されている。これにより、被処理物100の中心軸線B1から各第1部分21a,22aまでの距離よりも、被処理物100の中心軸線B1から各第2部分21b,22bまでの距離のほうが長い。一方で、本実施形態では、オフセット量OFは、概ね、第2軸部分102の半径と第1軸部分101の半径との差とされている。これにより、加熱導体21,22の各第1部分21a,22aと被処理物100の第1軸部分101とが対向する距離D10(最短距離D11)と、加熱導体21,22の各第2部分21b,22bと被処理物100の第2軸部分102とが対向する距離D10(最短距離D12)とが揃えられている。
【0033】
なお、本実施形態では、第1部分21a,22aが第1軸部分101と対向配置され、第2部分21b,22bが第2軸部分102と対向配置される形態を例に説明しているけれども、必ずしもこの通りでなくてもよい。例えば、第1軸部分101のうち第2軸部分102側の下端部と第2部分21b,22bとが水平に向かい合うように対向配置されてもよいし、第2軸部分102のうち第1被処理物100側の上端部と第1部分21a,22aとが水平に向かい合うように対向配置されてもよい。
【0034】
被処理物100の誘導加熱時には、周方向Cにおいて、被処理物100の一部が、第1加熱導体21と第2加熱導体22との間に配置される。2本の加熱導体21,22の間の距離D3は、被処理物100の軸断面における外寸D100の最大値D102より小さい値に設定されている。本実施形態では、第1加熱導体21と第2加熱導体22が被処理物100の一部を挟むように配置されている箇所では、軸方向Sの各位置において、2本の加熱導体21,22の間の距離D3が、当該位置における被処理物100の外寸D100より小さい値に設定されている。
【0035】
図4(A)および
図4(B)を参照して、本実施形態では、第1軸部分101が配置されている箇所において、2本の加熱導体21,22の間の距離D3(D31)が、第1軸部分101の外寸D101未満に設定されている(D31<D101)。同様に、本実施形態では、第2軸部分102が配置されている箇所において、2本の加熱導体21,22の間の距離D3(D32)が、第2軸部分102の外寸D102未満に設定されている(D32<D102)。
【0036】
誘導加熱位置P1の被処理物100は、被処理物100の中心軸線B1から後述する被処理物搬入方向A1の奥側に進んだ箇所(奥部105)において、少なくとも一部が加熱導体21,22に挟まれている。中心軸線B1から奥部105までの距離D4(前後方向Yにおける中心軸線B1と加熱導体21,22との距離)が規定されている。軸方向Sの各部において、距離D4の上限は、当該部分での被処理物100の半径未満である。一方で、軸方向Sの各部において、奥部105に対して後述する被処理物搬出方向A2側に位置する箇所(手前部106)は、加熱導体21,22によって挟まれていない。本実施形態では、被処理物100の中心軸線B1は、加熱導体21,22で挟まれた領域から被処理物搬出方向A2側に進んだ箇所に位置している。
【0037】
上述の構成により、加熱導体21,22および接続導体25,26によって環状に形成されている誘導加熱コイル20の内周の外側に被処理物100を配置して誘導加熱が行われる。
【0038】
再び
図1~
図4(B)を参照して、本実施形態では、開放角θ(
図1に図示)が約90度に設定されている。開放角θは、例えば軸方向Sから見て、中心軸線B1から加熱導体21,22の一側面21e,22eの中心に向かう2つの直線がなす角度のうちの劣角をいい、被処理物100の大きさ・熱処理品質に関わる被処理物100と誘導加熱コイル20との相対位置関係・被処理物100の取り付け取り外しの作業性などから設計的に設定される。開放角θは、例えば、30度~150度に設定される。開放角θをこの数値範囲に設定することで、周方向Cにおいて2本の加熱導体21,22が適度に離隔した距離を確保できる。これにより、周方向Cにおいて加熱導体21,22からの磁束が被処理物100に到達する領域を十分に多くでき、被処理物100の広い範囲に渦電流を発生させて誘導加熱できる。さらに、2本の加熱導体21,22の間の距離D3が被処理物100の外寸D100の最大値D102以上にならないように加熱導体21,22を配置できる。なお、開放角θは、上述した角度範囲に限定されない。
【0039】
加熱導体21,22の上端部21f,22fは、被処理物100の上方に位置している。同様に、加熱導体21,22の下端部21g,22gは、被処理物100の下方に位置している。
【0040】
加熱導体21,22の上端部21f,22f同士が、第1接続導体25によって互いに接続されている。同様に、加熱導体21,22の下端部21g,22g同士が、第2接続導体26によって互いに接続されている。加熱導体21,22は、接続導体25,26によって接続されていることで、直列コイルを構成している。
【0041】
接続導体25,26は、本実施形態では、軸方向Sと直交する方向に延びており、水平に配置されている。被処理物100と第1接続導体25との距離(最短距離)が、第1距離D5(D51)として規定されている。第1距離D51は、本実施形態では、第1軸部分101から第1接続導体25までの距離である。同様に、被処理物100と第2接続導体26との距離(最短距離)が、第1距離D5(D52)として規定されている。第1距離D52は、本実施形態では、第2軸部分102から第2接続導体26までの距離である。
【0042】
被処理物100から加熱導体21,22までの距離(最短距離)が、第2距離D6として規定されている。本実施形態では、第2距離D6は、加熱導体21,22の何れかの第1部分21a,22aと第1軸部分101との距離、または、加熱導体21,22の何れかの第2部分21b,22bと第2軸部分102との距離の最小値である。本実施形態では、第2距離D6=距離D11=距離D12である。本実施形態では、第1距離D5は、第2距離D6よりも大きくされている(D51>D6、D52>D6)。すなわち、接続導体25,26と被処理物100との距離D51,D52が、2本の加熱導体21,22と被処理物100との距離D6よりも大きい値に設定されている。これにより、接続導体25,26からの磁束は、被処理物100の軸方向両端部に届きにくくされており、被処理物100の軸方向両端部において当該磁束に起因する渦電流による加熱が抑制されている。
【0043】
本実施形態では、接続導体25,26は、何れも、左右対称に形成されているけれども、左右非対称に形成されていてもよい。各接続導体25,26は、軸方向Sから見て、矩形枠の一部を切り取った形状に形成されている。本実施形態では、各接続導体25,26は、軸方向Sと直交する水平領域内において、第1加熱導体21から一旦、被処理物100の径方向に概ね沿って被処理物100から遠ざかるように延び、次いで、向きを90度変更して第2加熱導体22側に延び、次いで、左右方向Xにおける加熱導体21,22間の中央位置で向きを90度変更して前後方向Yの手前側に延び、次いで、被処理物100の径方向に沿って被処理物100側に向けて延びて第2加熱導体22に繋がっている。
【0044】
第1端子27および第2端子28は、電源3からの高周波電力を加熱導体21,22へ供給するために設けられている。加熱導体21,22は、端子27,28を介して電源3に接続されている。本実施形態では、端子27,28は、第2加熱導体22に接続されている。具体的には、軸方向Sにおける第2加熱導体22の中間部に端子27,28の一端が繋がっている。端子27,28の他端は、直接、または、コネクタ等の他の導電部材(図示せず)を介して電源3の電極に接続されている。
【0045】
なお、本実施形態では、端子27,28は、第2加熱導体22に接続されているけれども、この通りでなくてもよい。端子27,28の一端は、加熱導体21,22、および、接続導体25,26の何れかに接続されていればよい。また、本実施形態では、直列配置された導体21,22,25,26が、端子27,28を介して電源3に接続された形態であるけれども、この通りでなくてもよい。例えば、加熱導体21,22を物理的に独立して配置し、加熱導体21,22間で直接電流が流れない構成であってもよい。具体的には、第1加熱導体21の上端および下端のそれぞれにケーブル等の導電部材を接続し、これらの導電部材を介して電源3と第1加熱導体21とを接続するとともに、第2加熱導体22の上端および下端のそれぞれにケーブル等の導電部材を接続し、これらの導電部材を介して電源3と第2加熱導体22とを接続してもよい。また、第1加熱導体21が接続される電源回路と第2加熱導体22が接続される電源回路とが互いに独立した別個の電源回路であってもよい。
【0046】
次に、支持機構4について説明する。
【0047】
支持機構4は、被処理物100を支持するとともに、被処理物100を誘導加熱コイル20に対して移動可能とするように構成されている。支持機構4は、被処理物100を、誘導加熱時の位置である誘導加熱位置P1と、誘導加熱コイル20から退避した退避位置P2(
図1に図示)との間で搬送する。退避位置P2は、例えば、被処理物100を熱処理装置1から出し入れする位置、または、被処理物100を熱処理装置1内の他の搬送機構(図示せず)との間で受け渡しする位置である。
【0048】
支持機構4は、被処理物100が載せられる支持台41と、支持台41を搬送する搬送機構42と、を有している。
【0049】
支持台41は、回転モータ43と、回転モータ43によって回転されるホルダ44と、を有している。
【0050】
回転モータ43は、被処理物100の誘導加熱時に被処理物100をホルダ44とともに軸方向Sに延びる軸線(例えば、被処理物100の中心軸線B1)回りに回転させる。回転モータ43は、ハウジング43aと、ハウジング43aから突出する出力軸43bと、を有している。出力軸43bにホルダ44が取り付けられている。
【0051】
ホルダ44は、シャフト45と、シャフト45の下部に取り付けられる載置部46と、シャフト45の上部に取り付けられるキャップ47と、を有している。
【0052】
シャフト45は、出力軸43bと一体回転可能に連結されており、出力軸43bに支持されている。なお、シャフト45は、図示しない減速機構を介して出力軸43bに連結されていてもよい。シャフト45は、本実施形態では、上下方向Zに延びている。シャフト45と出力軸43bとは、取り外し可能に取り付けられてもよいし、一体成形されていてもよい。
【0053】
載置部46は、例えば環状板で形成されており、シャフト45に保持されている。載置部46は、シャフト45に対して着脱可能であることが好ましい。この場合、被処理物100の大きさに応じた大きさの載置部46がシャフト45に取り付けられる。
【0054】
なお、載置部46は、被処理物100を載せることが可能な形状であればよく、シャフト45への取付構造は限定されず、また、シャフト45と一体成形されていてもよい。また、載置部46の孔部を雌ねじ孔にするとともにシャフト45の外周に雄ねじを形成し載置部46とシャフト45とをねじ結合してもよい。この場合、シャフト45に対する載置部46の高さ位置を調整することで、シャフト45に対する被処理物100の高さ位置を調整でき、その結果、誘導加熱コイル20に対する被処理物100の高さ位置を調整できる。載置部46に被処理物100が載せられている状態では、シャフト45は、被処理物100を軸方向Sに貫通している。
【0055】
キャップ47は、例えば環状板で形成されており、シャフト45に貫通されている。キャップ47は、被処理物100の上端を載置部46側に押さえている。
【0056】
キャップ47は、被処理物100の上端に載せられることが可能な形状であればよく、シャフト45への取付構造は限定されない。例えば、キャップ47の孔部を雌ねじ孔にするとともにシャフト45の外周に雄ねじを形成しキャップ47とシャフト45とをねじ結合してもよい。この場合、キャップ47と載置部46とで被処理物100を上下方向Zに押さえつけることで被処理物100をシャフト45に一時的に固定できる。
【0057】
なお、シャフト45を回転モータ43の出力軸43bに対して着脱することで、ホルダ44および被処理物100を一括して回転モータ43から取り外すことができる。上記の構成を有する支持台41(回転モータ43、および、ホルダ44)は、搬送機構42によって誘導加熱位置P1と退避位置P2との間を搬送される。
【0058】
搬送機構42は、例えば、電動モータを含むアクチュエータであり、被処理物100を中心軸線B1回りに支持台41を回転移動させるように構成されている。搬送機構42は、誘導加熱コイル20の加熱導体21,22に対して、少なくとも軸方向Sと直交する方向(水平方向)に支持台41を移動させることが可能な構成であればよい。
【0059】
搬送機構42は、例えば、支持台41を誘導加熱位置P1と退避位置P2との間で直線移動させるリニアアクチュエータである。本実施形態では、搬送機構42は、電動モータ43のハウジング43aを支持しており、このハウジング43aを誘導加熱位置P1と退避位置P2との間で移動させる。なお、搬送機構42は、支持台41を誘導加熱位置P1と退避位置P2との間で、中心軸線B1と平行な回転軸線回りを往復移動(揺動)するロータリーアクチュエータであってもよい。
【0060】
制御部5は、PLC(Programmable Logic Controller)等を用いて形成されている。制御部5は、電源3、回転モータ43、および、搬送機構42と電気的に接続されている。制御部5は、例えば、電源3の出力値(電流、電圧、および、周波数)と、電源3から誘導加熱コイル20への電力供給のオン/オフと、を制御する。制御部5は、電源3の制御について、電源3から誘導加熱コイル20への電力供給のオン/オフのみを制御してもよい。制御部5は、回転モータ43の駆動のオン/オフを制御する。制御部5は、搬送機構42の動作の制御を通じて被処理物100を位置制御する。
【0061】
制御部5は、被処理物100の外寸D100に応じた誘導加熱位置P1の位置情報を記憶している。例えば、熱処理装置1に備えられた図示しない操作部が作業員によって操作されることで、被処理物100の外寸D100に応じた誘導加熱位置P1の位置が設定される。
【0062】
図5は、被処理物100の外寸D100に応じた誘導加熱位置P1を説明するための概念的な平面図である。
図5では、相対的に小径の被処理物100(1001)の外縁形状と相対的に大径の被処理物100(1002)の外縁形状とを示している。
【0063】
図5を参照して、制御部5は、相対的に小径の被処理物1001が誘導加熱される場合には、誘導加熱位置P1(P11)を、相対的に誘導加熱コイル20の奥側に設定する。これにより、被処理物1001と加熱導体21,22の第1部分21a,22aとの距離D10が所定値に設定される。一方、制御部5は、相対的に大径の被処理物1002が誘導加熱される場合には、誘導加熱位置P1(P12)を、相対的に誘導加熱コイル20の手前側に設定する。これにより、被処理物1002と加熱導体21,22の第1部分21a,22aとの距離D10が上記所定値と同じ値に設定される。
【0064】
このように、支持機構4の搬送機構42は、被処理物100の外寸D100に応じて誘導加熱コイル20に対する誘導加熱位置P1を変更する。
【0065】
なお、被処理物100の外寸D100にかかわらず、誘導加熱位置P1での被処理物100と加熱導体21,22との距離D10、例えば第1軸部分101と加熱導体21,22の第1部分21a,22aとの距離D11が一定の値(固定値)となることが好ましい。この好ましい構成であれば、被処理物100の外寸D100の値にかかわらず、加熱導体21,22と被処理物100との距離(ギャップ)を一定にできる。よって、被処理物100の外寸D100の具体的な値にかかわらず、加熱導体21,22から被処理物100へ作用する磁束の磁束密度をより均等にでき、その結果、被処理物100毎の加熱量のばらつきをより小さくできる。よって、被処理物100の品質をより均等にできる。
【0066】
なお、被処理物100の外寸D100にかかわらず、誘導加熱位置P1での被処理物100と加熱導体21,22との距離D10について、例えば第2軸部分102と加熱導体21,22の第2部分21b,22bとの距離D12が一定の値(固定値)としてもよい。この場合も、上述した、距離D11が一定の値(固定値)となるようにした場合の構成と同様の理由により、被処理物100の品質をより均等にできる。このように、被処理物100の外寸D100にかかわらず、被処理物100の各部と加熱導体21,22との距離D10のばらつきが最小となるように誘導加熱位置P1が設定されることが好ましい。
【0067】
以上が、熱処理装置1の概略構成である。次に、熱処理装置1における熱処理動作の一例を説明する。
【0068】
図1~
図4(B)を参照して、熱処理装置1における被処理物100の熱処理動作は、退避位置P2において、被処理物100を取り付けられたホルダ44が、回転モータ43に設置された状態から開始される。この状態から、制御部5は、搬送機構42を駆動して被処理物100および支持台41を退避位置P2から誘導加熱位置P1に搬送する。次に、制御部5は、回転モータ43の出力軸43bを回転させつつ、電源3からの電力供給をオンにする。これにより、高周波電力が誘導加熱コイル20に供給される。これにより、被処理物100へ2本の加熱導体21,22を対向させて、2本の加熱導体21,22と被処理物100を中心軸線B1回りに相対回転させながら誘導加熱する。このとき、被処理物100は、加熱導体21,22で挟まれた箇所において加熱導体21,22からの磁束を受けて渦電流を生じ、誘導加熱される。被処理物100は、回転モータ43で回転されていることにより、加熱導体21,22で挟まれる領域が周方向Cに順次移動する。その結果、被処理物100は、当該被処理物100の周方向Cの全域に亘って誘導加熱される。
【0069】
誘導加熱開始から所定時間経過すると、制御部5は、電源3からの電力供給をオフにするとともに回転モータ43の出力軸43bの回転を停止する。その後、制御部5は、搬送機構42を駆動することで、被処理物100および支持台41を誘導加熱位置P1から退避位置P2へ搬送し、被処理物100の加熱処理を完了する。
【0070】
以上説明したように、本実施形態によると、2本の加熱導体21,22の間の距離D3は、被処理物100の軸断面における外寸D100の最大値D102より小さい値に設定されており、2本の加熱導体21,22と被処理物100を相対回転させながら誘導加熱が行われる。この構成によると、2本の加熱導体21,22は、被処理物100のうち最も太い箇所を避けた箇所を挟んだ状態で、被処理物100と相対回転しながら被処理物100を誘導加熱する。これにより、被処理物100の周方向Cにおける各部を2本の加熱導体21,22と最も近い箇所に順次配置できる。すなわち、被処理物100と2本の加熱導体21,22とのギャップである距離D10を軸方向Sにおける被処理物100の各部において同じにした状態で、被処理物100を誘導加熱できる。よって、1つの被処理物100内において、周方向Cの各部に均等に磁束を作用させて誘導加熱できる。この誘導加熱時、2本の加熱導体21,22は、瞬間的には被処理物100の周方向Cにおける被処理物100の狭い一部に磁束を作用させて誘導加熱すれば、当該2本の加熱導体21,22と相対回転している被処理物100の周方向全域を均等に加熱できる。このため、2本の加熱導体21,22は、被処理物100の外寸にかかわらず、被処理物100の上記狭い一部を誘導加熱できればよい。そして、被処理物100の外寸D100に応じて2本の加熱導体21,22と被処理物100との相対位置を適宜設定すれば、被処理物100の外寸にかかわらず、2本の加熱導体21,22と被処理物100との相対距離(ギャップ)の変化を最小限に抑制しつつ、被処理物100の狭い一部を同様の磁束密度で誘導加熱できる。すなわち、被処理物100の外寸D100の値にかかわらず、2本の加熱導体21,22による加熱条件の変化を最小限にできる。しかも、被処理物100の外寸D100に応じて2本の加熱導体21,22と被処理物100との相対距離を設定すればよいので、被処理物100の外寸D100に応じて2本の加熱導体21,22同士の相対位置を変更しなくても済む。以上の次第で、熱処理装置1によると、異なる太さの別個の被処理物100を均等に誘導加熱できる。また、熱処理装置1によると、被処理物100の太さを変更したときでも誘導加熱コイル20を構成する部材21,22間の相対位置を変更しなくても済む。
【0071】
また、本実施形態によると、接続導体25,26と被処理物100との距離D51,D52が、それぞれ、2本の加熱導体21,22と被処理物100との距離D6よりも大きい値に設定されている(D51>D6,D52>D6)。この構成によると、接続導体25,26と被処理物100との距離が相対的に大きいことにより、接続導体25,26からの磁束が被処理物100に届きにくくされている。これにより、被処理物100のうち特に接続導体25,26付近において、接続導体25,26からの磁束での誘導加熱に起因する過熱を抑制できる。本実施形態では、接続導体25,26付近に被処理物100の端部が配置されているけれども、被処理物100の上端部および下端部が過熱することを抑制できる。一方で、2本の加熱導体21,22と被処理物100との距離が相対的に小さいことにより、2本の加熱導体21,22からの磁束を確実に被処理物100に作用させて被処理物100を確実に誘導加熱できる。
【0072】
また、本実施形態によると、2本の加熱導体21,22は、被処理物100の軸断面における外寸D100に対応させた位置に配置され、被処理物100の外寸D100に連動して2本の加熱導体21,22の間の距離D10が設定されている。これにより、被処理物100と2本の加熱導体21,22とが対向する距離を確保されている。この構成によると、被処理物100の軸方向Sの各位置における軸方向Sと直交する断面において、2本の加熱導体21,22と被処理物100との相対距離(ギャップ)をより均等にできる。これにより、軸方向Sの各位置において、2本の加熱導体21,22から被処理物100に作用する磁束の密度をより均等にして誘導加熱による加熱量をより均等にできる。よって、被処理物100全体をより均等に誘導加熱できる。
【0073】
本発明は、上述の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載の範囲内において、種々の変更が可能である。以下では、上述の実施形態と異なる点について主に説明し、上述の実施形態と同様の構成には図に同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0074】
(1)上述の実施形態では、軸方向Sから見た接続導体25,26のそれぞれの形状は、矩形枠の一部に相当する形状を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。軸方向Sから見た接続導体25,26のそれぞれの形状は、例えば、三角形枠、五角形枠等の多角形枠の一部に相当する形状であってもよいし、馬蹄形状、円弧枠の一部に相当する形状、楕円枠の一部に相当する形状等であってもよい。また、接続導体25,26が被処理物100に干渉せず、且つ、第1距離D5(D51,D52)が第2距離D6以上である限りにおいて、接続導体25,26の形状および大きさは、上述した大きさに限定されない。
【0075】
(2)また、上述の実施形態では、接続導体25,26が軸方向Sと直交する水平方向に沿って横向きに配置されている形態を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、接続導体25,26は、加熱導体21,22から遠ざかるに従い被処理物100から遠ざかるようにして水平方向に対して傾斜していてもよい。また、各接続導体25,26と被処理物100との距離が十分に大きいことにより接続導体25,26からの磁束の密度が被処理物100において十分に小さく、接続導体25,26による被処理物100の加熱量が十分に小さい場合がある。この場合には、接続導体25,26は、加熱導体21,22から遠ざかるに従い被処理物100との距離が近づくようにして水平方向に対して傾斜していてもよい。
【0076】
例えば、
図6の変形例で示すように、接続導体25,26は、縦向きに配置されていてもよい。
図6は、接続導体25,26の変形例を示す図である。この変形例の場合、接続導体25,26は、加熱導体21,22の対応する上端部21f,22fおよび下端部21g,22gから軸方向Sに沿って遠ざかるように延びつつ、加熱導体21側の部分同士と加熱導体22側の部分同士が繋がっている。この場合の接続導体25,26は、軸方向Sと直交する方向から見て、多角形枠の一部に相当する形状に形成されていてもよいし、馬蹄形状、円弧枠の一部に相当する形状、楕円枠の一部に相当する形状等であってもよい。接続導体25,26は、上述の実施形態、および、
図6に示す変形例では、軸方向Sに対称に配置されているけれども、軸方向Sに非対称に配置されていてもよい。
【0077】
(3)また、上述の本実施形態では、軸方向Sにおける被処理物100の全域を誘導加熱する形態を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、軸方向Sにおける被処理物100の一部のみを誘導加熱コイル20で加熱してもよい。この場合、2つの加熱導体21,22の全長(軸方向Sの長さ)は、実施形態で説明した構成よりも短くてもよい。
【0078】
(4)また、上述の実施形態では、被処理物100の外寸が異なる部分が2つ存在する形態(2つの軸部分101,102が存在する形態)を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、
図7の変形例に示すように、被処理物100は、第1軸部分101および第2軸部分102に加えて、第3軸部分103を含んでいてもよい。
【0079】
図7は、誘導加熱コイル20に第3部分21c,22cが設けられた変形例を示す図である。第3軸部分103の外寸D100(D103)は、軸部分101,102の外寸D100(D101,D102)よりも大きく、被処理物100における外寸の最大値である。この場合、被処理物100の誘導加熱時において、誘導加熱コイル20の各加熱導体21,22は、第1および第2部分21a,22a,21b,22bに加えて、第3部分21c,22cを含んでいる。第3部分21c,22cは、第3軸部分103とは軸方向Sに直交する方向に対向配置されている。第3部分21c,22cは、第2部分21b,22bに対して被処理物100から遠ざかる方向側の領域に配置されている。2本の加熱導体21,22の間の距離D3は、被処理物100の軸断面における外寸D100の最大値D103より小さい値に設定される。
【0080】
加熱導体21,22と第3部分21c,22cと第3軸部分103との距離D10(D13)は、加熱導体21,22と第2部分21b,22bと第2軸部分102との距離D10(D12)と同じであることが好ましい。同様に、上記距離D13は、加熱導体21,22と第1部分21a,22aと第1軸部分101との距離D10(D11)と同じであることが好ましい。この構成であれば、2本の加熱導体21,22は、被処理物100の軸断面における外寸D100に対応させた位置に配置され、被処理物100の軸方向Sの各位置における外寸D100に連動して2本の加熱導体21,22の間の距離D3が設定されることで、被処理物100と2本の加熱導体21,22とが対向する距離D10を確保される。よって、第1~第3軸部分101~103のそれぞれにおいて、加熱導体21,22から作用する磁束の密度をより均等にでき、磁束によって生じる渦電流による加熱量をより均等にできる。その結果、第1~第3軸部分101~103の熱処理品質をより均等にできる。
【0081】
(5)なお、軸方向Sにおける第1加熱導体21の第1~第3部分21a,21b,21cの並び順と、第2加熱導体22の第1~第3部分22a,22b,22cの並び順、すなわち、軸部分101,102,103の並び順は、
図7に一例を示されているけれども、特に限定されない。一方で、第1軸部分101と第1部分21a,22aとの距離D10(D11)と、第2軸部分102と第2部分21b,22bとの距離D10(D12)と、第3軸部分103と第3部分21c,22cとの距離D10(D13)は、揃っていることが好ましい。
【0082】
(6)なお、被処理物100において、外寸が異なる軸部分が4種類以上設けられてもよい。この場合、軸方向Sの各位置において、各第1および第2加熱導体21,22と対応する軸部分との距離が概ね一致するように加熱導体21,22の形状が設定されることが好ましい。
【0083】
(7)また、軸方向Sに沿って2つの第1軸部分101,101の間に第2軸部分102が配置される構成の被処理物100を誘導加熱コイル20で誘導加熱してもよい。この場合、加熱導体21,22は、それぞれ、軸方向Sに沿って第1部分21a,22a、第2部分21b,22b,第1部分21a,22aの順に配置される。また、軸方向Sに沿って2つの第2軸部分102,102の間に第2軸部分102が配置される構成の被処理物100を誘導加熱コイル20で誘導加熱してもよい。この場合、加熱導体21,22は、それぞれ、軸方向Sに沿って第2部分21b,22b、第1部分21a,22a、第2部分21b,22bの順に配置される。
【0084】
(8)また、被処理物100は、外寸が単一である直線状シャフトであってもよい。この場合、各加熱導体21,22は、軸方向Sに沿って直線状に配置される。
【0085】
(9)また、被処理物100は、円錐台形状に形成されることで外寸が軸方向Sに沿って連続的に変化する構成であってもよい。
図8(A)は、被処理物100が円錐台状で且つ、2つの加熱導体21,22が被処理物100の形状に沿った形状に配置された変形例を示す模式的な斜視図である。
図8(B)は、
図8(A)のVIIIB-VIIIB線に沿う断面図であり、断面の奥側部分の図示は省略している。
【0086】
図8(A)および
図8(B)を参照して、この変形例での被処理物100の外周面は、円錐台形状に形成されている。軸方向Sに対して被処理物100の外周面が傾斜角θ’で傾斜している。被処理物100の外寸D100は、被処理物100の下方に進むほど大きくされており、被処理物100の下端における外寸D100’が、被処理物100の軸断面における外寸の最大値である。被処理物100の肉厚は、軸方向Sの各部において、一定でもよいし、被処理物100の下方に進むに従い大きくされていてもよく、具体的な値は限定されない。
【0087】
2本の加熱導体21,22は、被処理物100の軸方向Sに沿って延びている。各加熱導体21,22は、軸方向Sに対して傾斜角θ’で傾斜しており、本変形例では、左右対称に配置されている。2本の加熱導体21,22の間の距離D3は、被処理物100の軸断面における外寸の最大値D100’より小さい値に設定されている。
【0088】
また、2本の加熱導体21,22は、被処理物100の軸断面における外寸D100に対応させた位置に配置され、被処理物100の軸方向Sの各位置における外寸D100に連動して2本の加熱導体21,22の間の距離が設定されることで、被処理物100と2本の加熱導体21,22とが対向する距離D10を確保するように設定されている。より具体的には、軸方向Sに対する被処理物100の外周面の傾斜角と、加熱導体21,22の傾斜角とが何れも同じ傾斜角θ’である。この構成であれば、円錐台形状の被処理物100が配置されている箇所における軸方向Sの各位置において、加熱導体21,22と被処理物100との距離D10を一定の値にできる。よって、軸方向Sの各部において、加熱導体21,22から被処理物100に作用する磁束の密度をより均等にでき、磁束の作用によって発生する渦電流による被処理物100の加熱量を被処理物100の各部においてより均等にできる。
【0089】
(10)また、上述の実施形態では、2本の加熱導体21,22が一対設けられている形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。
図9の変形例に示すように、2本の加熱導体が複数対(
図9では、2対)設けられていてもよい。
図9は、2本の加熱導体が複数対設けられた変形例を示す図である。
図9では、誘導加熱コイル20に加えて、誘導加熱コイル20Aが設けられている。すなわち、熱処理装置1は、第1の対の加熱導体21,22と、第2の対の加熱導体21A,22Aと、を有している。加熱導体21A,22Aは、加熱導体21,22に対して前後方向Yの手前側で且つ左右方向Xの外側に配置されている点以外は、加熱導体21,22と同じ形状に形成されている。加熱導体21A,22Aの上端部は、第1接続導体25Aで接続され、加熱導体21A,22Aの下端部は、第2接続導体(図示せず)で接続されている。第1の対の加熱導体21,22と、第2の対の加熱導体21A,22Aとは、軸方向Sにおける各部の位置が揃えられていることが好ましい。この場合、各誘導加熱コイル20,20Aに、電源3からの高周波電力が供給される。各誘導加熱コイル20,20Aの高周波電流の位相は、揃えられている。この変形例では、2組の加熱導体21,22;21A,22Aによって、短時間でより多くの磁束を被処理物100に作用させて被処理物100により多くの渦電流を発生させて被処理物100をより高速で加熱できる。
【0090】
(11)また、上述の実施形態では、軸方向Sに直交する断面における被処理物100の断面形状が円環状である形態を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。被処理物100の上記断面形状は、楕円の環状であってもよいし、三角形以上の多角形の環状であってもよいし、規則性のない環形状であってもよい。被処理物100の断面形状が円環形以外の場合であっても、誘導加熱時に被処理物100が回転モータ43によって回転されるので、被処理物100の周方向の全域に渦電流を発生して被処理物100の全体に誘導加熱を行うことができる。被処理物100の断面形状が円環形以外の場合、被処理物100最大外寸D100は、軸方向Sと直交する断面における被処理物100の中心軸線B1から最も遠い箇所と中心軸線B1との距離をいう。
【0091】
(12)また、上述の各実施形態および各変形例では、誘導加熱コイル20,20Aは回転させさず、被処理物100を回転モータ43によって回転させる形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、誘導加熱コイル20を被処理物100回りに回転させてもよい。
図10は、誘導加熱コイル20を回転させる変形例を示す図である。
図10を参照して、この変形例では、熱処理装置1は、誘導加熱コイル20を被処理物100の周囲に回転させるコイル回転機構50を有している。コイル回転機構50は、誘導加熱コイル20(加熱導体21,22、接続導体25,26および端子27,28)を中心軸線B1回りに回転させることが可能な構成であれば、具体的な構成は限定されない。本変形例では、コイル回転機構50は、第1接続導体25に固定された回転部材51と、回転部材51を回転させるコイル回転モータ52と、を有している。コイル回転モータ52は、制御部5に接続されており、制御部5によって動作を制御される。コイル回転モータ52の出力軸に例えばピニオンギヤが一体回転可能に連結され、回転部材51の外周に形成された外歯部がこのピニオンギヤに噛み合っている。端子27,28は、例えば、誘導加熱コイル20の回転範囲内で端子27,28との接続状態を維持可能な可撓性のケーブルを介して電源3に接続されている。これにより、周方向Cにおける誘導加熱コイル20の位置にかかわらず、端子27,28と電源3との接続状態が維持される。なお、加熱導体21,22と被処理物100とを相対回転可能な構成であればよく、この変形例において、回転被処理物100を回転させる回転モータ43が省略されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、熱処理装置として、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 熱処理装置
3 電源
20 コイル
21,22 加熱導体
25,26 接続導体
100 被処理物
D3 2本の加熱導体の間の距離
D51,D52 接続導体と被処理物との距離
D6 2本の加熱導体と被処理物との距離
D100 外寸
D100’ 外寸の最大値
D102 外寸の最大値
S 軸方向