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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046920
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】熱処理装置、および、熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/10 20060101AFI20230329BHJP
【FI】
H05B6/10 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155769
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトサーモシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】中田 綾香
(72)【発明者】
【氏名】幸田 尚久
(72)【発明者】
【氏名】山本 亮介
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB28
3K059AD05
3K059CD55
3K059CD72
(57)【要約】
【課題】開口が形成された被処理物を誘導加熱する際に、開口の縁部の過熱を抑制でき、且つ、被処理物の大きさが変わる度に治具と被処理物との相対位置を調整する手間を省略できる、熱処理装置、および、熱処理方法を提供する。
【解決手段】熱処理装置1は、磁性体である被処理物100と、被処理物100を誘導加熱するコイル2と、過熱抑制治具20と、を有する。被処理物100には開口101,102が設けられる。開口の縁部105,106において、誘導加熱により開口101,102の周辺に流れる電流が集中する箇所へ対向するように過熱抑制治具20が配置される。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体である被処理物と、
前記被処理物を誘導加熱するコイルと、
を備える熱処理装置において、
前記被処理物には開口が設けられ、
前記開口の縁部において、前記誘導加熱により前記開口の周辺に流れる電流が集中する箇所へ対向するように配置される治具を備えている、熱処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱処理装置であって、
前記治具が前記開口から前記被処理物の外方へ突出される、熱処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱処理装置であって、
前記誘導加熱時の前記治具と前記開口の縁部との間には隙間が設けられている、熱処理装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の熱処理装置であって、
前記治具は、少なくとも前記開口の縁部と対向する箇所が、絶縁体で形成されている、熱処理装置。
【請求項5】
磁性体である被処理物をコイルで誘導加熱する熱処理方法において、
前記被処理物の開口の縁部において誘導加熱により前記開口の周辺に流れる電流が集中する箇所へ対向するように治具を配置して、誘導加熱を行う熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理装置、および、熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の構成では、歯車のエッジの周辺に電磁波吸収部材を配置して高周波加熱を行なう。電磁波吸収部材は、例えば純鉄のような透磁率の比較的低い材料で作成される。そして、歯車の誘導加熱の際には、歯車のエッジ付近の磁束を歯車のエッジに近づかないようにして磁束密度が低減されることで、エッジの過度な温度上昇を阻止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-295925号公報([要約]、[0021])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成では、電磁波吸収部材は、歯車のエッジを挟むように歯車の軸方向両側に配置されている。このため、歯車の大きさが変わる度に、歯車と電磁波吸収部材との相対位置を調整するという手間のかかる作業が必要である。また、歯車と電磁波吸収部材を支持する装置側との相対位置を調整するということは、装置側を動かすことになる為、歯車を交換するような作業に比べ手間となり、作業性に改善の余地がある。
【0005】
上記の課題に鑑み、本発明の目的の一つは、開口が形成された被処理物を誘導加熱する際に、開口の縁部の過熱を抑制でき、且つ、被処理物の大きさが変わる度に治具と被処理物との相対位置を調整する手間を省略できる、熱処理装置、および、熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる熱処理装置は、磁性体である被処理物と、前記被処理物を誘導加熱するコイルと、を備える熱処理装置において、前記被処理物には開口が設けられ、前記開口の縁部において、前記誘導加熱により前記開口の周辺に流れる電流が集中する箇所へ対向するように配置される治具を備えている。
【0007】
(2)前記治具が前記開口から前記被処理物の外方へ突出される場合がある。
【0008】
(3)前記誘導加熱時の前記治具と前記開口の縁部との間には隙間が設けられている場合がある。
【0009】
(4)前記治具は、少なくとも前記開口の縁部と対向する箇所が、絶縁体で形成されている場合がある。
【0010】
(5)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる熱処理方法は、磁性体である被処理物をコイルで誘導加熱する熱処理方法において、前記被処理物の開口の縁部において誘導加熱により前記開口の周辺に流れる電流が集中する箇所へ対向するように治具を配置して、誘導加熱を行う。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、開口が形成された被処理物を誘導加熱する際に、開口の縁部の過熱を抑制でき、且つ、被処理物の大きさが変わる度に治具と被処理物との相対位置を調整する手間を省略できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の熱処理装置の模式的な平面図である。
図2図2は、誘導加熱コイル、および、被処理物等を示す斜視図である。
図3図3は、図2の一部を拡大した図である。
図4図4は、被処理物の開口に過熱抑制治具が挿入された状態を示す断面図であり、2つの開口が紙面の左右に並んだ状態を見ている。
図5図5は、被処理物の開口に過熱抑制治具が挿入された状態を示す断面図であり、2つの開口が紙面の前後に並んだ状態を見ている。
図6図6(A)は、第1実施形態の第1変形例を示す図である。図6(B)は、第1実施形態の第2変形例を示す図である。
図7図7(A)は、第1実施形態の第3変形例を示す図である。図7(B)は、第1実施形態の第4変形例を示す図である。
図8図8は、第1実施形態の第5変形例を示す図である。
図9図9は、第2実施形態に係る熱処理装置および被処理物を示す模式的な断面図である。
図10図10は、第2実施形態において被処理物の開口に過熱抑制治具が挿入された状態を示す一部断面図であり、2つの開口が紙面の前後に並んだ状態を見ている。
図11図11(A)は、第2実施形態の第1変形例を示す図である。図11(B)は、第2実施形態の第2変形例を示す図である。
図12図12(A)は、第2実施形態の第3変形例を示す図である。図12(B)は、第2実施形態の第4変形例を示す図である。
図13図13は、第2実施形態の第5変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、本発明の熱処理装置1の模式的な平面図である。図2は、誘導加熱コイル2、および、被処理物100等を示す斜視図である。図3は、図2の一部を拡大した図である。図4は、被処理物100の開口101,102に過熱抑制治具20が挿入された状態を示す断面図であり、2つの開口101,102が紙面の左右に並んだ状態を見ている。図5は、被処理物100の開口101,102に過熱抑制治具20が挿入された状態を示す断面図であり、2つの開口101,102が紙面の前後に並んだ状態を見ている。
【0015】
なお、以下では、特に説明なき場合、被処理物100が縦向きに配置されている状態を基準として説明を行う。本実施形態では、被処理物100の軸方向Sは、上下方向(鉛直方向)と平行である。
【0016】
図1図4を参照して、熱処理装置1は、誘導加熱によって被処理物100に熱処理を施すように構成されている。この熱処理は、加熱処理である。加熱処理として、焼入のための加熱処理、浸炭加熱処理、均熱処理などを例示することができる。例えば浸炭加熱処理では、被処理物100の表面温度を精度よく均等にする必要がある。熱処理装置1は、バッチ処理装置であり、被処理物100を1つ毎に誘導加熱する。熱処理装置1は、大気雰囲気下で被処理物100を誘導加熱してもよいし、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で被処理物100を誘導加熱してもよい。本実施形態では、浸炭ガス雰囲気下で被処理物100に浸炭処理を行う。
【0017】
本実施形態では、被処理物100は、金属部品であり、たとえば、トルク伝達シャフトの素材としての中空の金属軸である。なお、被処理物100は、一般的な長尺な金属軸に限らず、軸方向が短い形態であっても含まれる。被処理物100は、開口が形成され且つ誘導加熱可能な磁性体であればよい。被処理物100の材質として、SCM材、SCR材等の合金鋼を例示できる。なお、本実施形態では、被処理物100が中空軸である形態を例に説明するけれども、被処理物100は、当該被処理物100の径方向に貫通する開口が形成された中実シャフトであってもよい。
【0018】
被処理物100には、開口101,102が設けられている。本実施形態の開口101,102は、被処理物100を当該被処理物100の径方向に貫通する貫通孔であり、被処理物100の径方向に並んでいる。なお、開口101,102の何れかかが省略されてもよいし、開口101,102の少なくとも一方が被処理物100の軸方向Sに沿って複数形成されていてもよい。
【0019】
本実施形態の各開口101,102は、軸方向Sに細長い矩形状に形成されているとともに四隅が滑らかな湾曲形状に形成されている。なお、各開口101,102は、縦長形状に限らず、軸方向Sに短く被処理物100の周方向Cに長い横長形状であってもよい。
【0020】
開口101は、開口の縁部105によって区画されており、開口102は開口の縁部106によって区画されている。開口の縁部105,106は、何れも、軸方向Sに沿って延びる一対の第1縁部111,111と、周方向Cに沿って延びる一対の第2縁部112,112と、複数(本実施形態では、4つ)のコーナー部113と、を有している。
【0021】
第1縁部111,111は、軸方向Sに沿って延びる縁部であり、周方向Cに向かい合っている。第2縁部112,112は、周方向Cに沿って延びる縁部であり、軸方向Sに向かい合っている。各コーナー部113は、円弧形状をしており、対応する2つの縁部111,112に連続している。
【0022】
熱処理装置1は、被処理物100と、誘導加熱コイル2と、電源3と、被処理物100を支持する支持機構4と、を有している。
【0023】
電源3は、商用電源に接続される交流電源回路であり、商用電源を所定の電圧、電流、および、周波数の電力に変換して誘導加熱コイル2へ出力する。なお、誘導加熱コイル2が被処理物100へ磁束を作用させて被処理物100を誘導加熱できればよく、電源3は、交流電源に限定されない。
【0024】
誘導加熱コイル2は、銅等、高周波電流を流されることで交番磁束を発生する材料で形成されている。誘導加熱コイル2は、電源3から上述した交流電力を与えられることで、被処理物100を誘導加熱する。誘導加熱コイル2は、被処理物100の軸方向Sに沿って細長い形状に形成されている。実施形態では、誘導加熱コイル2は、軸方向Sにおける被処理物100の全域に亘って被処理物100を加熱する。
【0025】
誘導加熱コイル2は、誘導加熱時の被処理物100の軸方向Sに沿って延び互いに向かい合って配置される第1加熱導体5および第2加熱導体6と、これらの加熱導体5,6同士を接続する第1接続導体7および第2接続導体8と、電源3に接続される第1端子9および第2端子10と、を有している。
【0026】
第1加熱導体5および第2加熱導体6は、被処理物100に交番磁束を与えて被処理物100に渦電流を発生させるために設けられている。第1加熱導体5および第2加熱導体6は、本実施形態では、軸方向Sに細長い形状に形成されている。
【0027】
軸方向Sにおける加熱導体5,6の長さは、被処理物100の全長よりも長い。加熱導体5,6の上端部と下端部との間に被処理物100の開口101,102が配置されており、加熱導体5,6への通電によって発生する磁束が、開口の縁部105,106を含む被処理物100の全体を通過する。
【0028】
本実施形態では、第1加熱導体5と第2加熱導体6とは直列に接続されて互いに平行である。誘導加熱コイル2に交流電流が流れているときにおいて、第1加熱導体5および第2加熱導体6には、軸方向Sを向く電流が流れる。この構成により、被処理物100には、加熱導体5,6の周囲に軸方向Sと直交する磁束(水平方向の磁束)が作用する。そして、被処理物100には、この磁束による渦電流が生じる。被処理物100の開口の縁部105,106において、渦電流の流れ方向の主成分は、矢印E1に示すように、軸方向Sである。すなわち、本実施形態では、開口101,102の周囲において、矢印E1に流れる電流によって開口の縁部105,106が加熱されると考えることができる。
【0029】
加熱導体5,6の上端部同士が、第1接続導体7によって互いに接続されている。同様に、加熱導体5,6の下端部同士が、第2接続導体8によって互いに接続されている。
【0030】
第1端子9および第2端子10は、電源3からの高周波電力を加熱導体5,6へ供給するために設けられている。本実施形態では、端子9,10は、第2加熱導体6に接続されている。具体的には、軸方向Sにおける第2加熱導体6の中間部に端子9,10の一端が繋がっている。端子9,10の他端は、直接、または、コネクタ等の他の導電部材(図示せず)を介して電源3の電極に接続されている。
【0031】
次に、被処理物100を支持する支持機構4について説明する。
【0032】
支持機構4は、回転モータ11と、回転モータ11によって回転されるホルダ12と、過熱抑制治具20と、を有している。
【0033】
回転モータ11は、誘導加熱時に被処理物100をホルダ12とともに被処理物100の中心軸線回りに回転させる。回転モータ11は、本実施形態では、被処理物100の下方に配置されているけれども、被処理物100の上方に配置されていてもよい。回転モータ11の出力軸にホルダ12が取り付けられている。
【0034】
ホルダ12は、シャフト13と、シャフト13の下部に取り付けられる載置部14と、シャフト13の上部に取り付けられるキャップ15と、を有している。
【0035】
シャフト13は、回転モータ11の出力軸によって回転される。シャフト13は、本実施形態では、軸方向Sに延びている。
【0036】
載置部14は、例えば環状板で形成されており、シャフト13に保持されている。載置部14に被処理物100が載せられている。載置部14に被処理物100が載せられている状態では、シャフト13は、被処理物100を軸方向Sに貫通している。
【0037】
キャップ15は、例えば環状板で形成されており、シャフト13に貫通されている。キャップ15は、被処理物100の上端を載置部14側に押さえている。
【0038】
過熱抑制治具20は、開口の縁部105,106において、誘導加熱により開口101,102の周辺に流れる電流が集中する箇所へ対向するように配置される治具である。過熱抑制治具20は、被処理物100の開口101,102に挿入されている。過熱抑制治具20は、誘導加熱により開口の縁部105,106に流れる渦電流の流れ方向の主成分E1と直交する方向(本実施形態では、周方向C)において開口の縁部105,106に隣接配置された治具であるともいえる。過熱抑制治具20は、例えば、開口101,102に挿入された状態でシャフト13に通されることでシャフト13に保持される。また、過熱抑制治具20は、シャフト13から抜き取られることで、開口101,102を通して被処理物100から取り出すことができる。本実施形態では、過熱抑制治具20は、開口101,102が並んでいる方向に細長い四角柱状に形成されている。
【0039】
過熱抑制治具20は、磁性体からなる治具本体20aと、治具本体20aの外表面に形成され過熱抑制治具20の外表面を構成する絶縁体(絶縁層)20bと、を有している。
【0040】
治具本体20aは、高周波電流が流れている加熱導体5,6によって生じる磁束を吸収する材料としての磁性体で構成されている。治具本体20aを構成する磁性体は、高周波電流が流れている加熱導体5,6によって生じ且つ開口の縁部105,106を通る磁束を吸収する性質を有していればよい。このような磁性体として、銅、アルミニウム等の非鉄金属、非鉄金属の合金、炭素鋼、ステンレス鋼を例示できる。銅、アルミニウム等は、非磁性体として扱われる場合もあるが、本実施形態では、磁性体として扱う。
【0041】
炭素鋼として、S10C,S20C等の低炭素鋼(機械構造用炭素鋼、JIS(日本産業規格))を例示できる。
【0042】
ステンレス鋼として、SUS304等のオーステナイト系ステンレス、SUS430等のフェライト系ステンレス、および、SUS410等のマルテンサイト系ステンレスを例示できる。
【0043】
治具本体20aは、導電性を有している。治具本体20aは、導電性を有していることで、高周波電流が流れている加熱導体5,6からの磁束によって被処理物100とともに誘導加熱される。
【0044】
本実施形態では、治具本体20aは、SUS304で構成されている。すなわち、治具本体20aを難浸炭で且つ融点の高いステンレス鋼で形成している。これにより、複数の被処理物100を繰り返し浸炭加熱したときにおける、治具本体20aの炭素濃度上昇を少なくできる。その結果、治具本体20aの炭素濃度上昇に起因する耐溶融性能の低下を通じて、過熱抑制治具20の耐久性を高めることができる。よって、過熱抑制治具20を繰り返し利用できる回数をより多くできる。
【0045】
なお、本実施形態では、前述したように、被処理物100の材質は、SCM材等の合金鋼であり、常温では磁性体である。一方、本実施形態の被処理物100は、誘導加熱時の温度域であるオーステナイト温度域では、磁性が弱まる。また、治具本体20aは、誘導加熱時にオーステナイト域まで加熱される。このとき、過熱抑制治具20の透磁率と被処理物100の透磁率とは、概ね等価となる。
【0046】
絶縁体20bは、治具本体20aと、被処理物100の開口の縁部105,106と、の間で導通による溶着(接合)を抑制するために設けられている。絶縁体20bは、治具本体20aの外表面に例えばセラミック等の絶縁体で形成されている。絶縁体20bは、誘導加熱コイル2の誘導加熱時において被処理物100と過熱抑制治具20との間で導通しなければよく、具体的な材質および厚みは限定されない。より具体的には、絶縁体20bは、過熱抑制治具20のうち、少なくとも開口の縁部105,106と向かい合って配置される箇所の外表面を構成していることが好ましい。絶縁体20bは、僅かな厚みの層であり、過熱抑制治具20の外表面形状は、治具本体20aの外表面形状と同じであるといえる。なお、過熱抑制治具20と開口の縁部105,106との距離が、過熱抑制治具20と開口の縁部105,106とで導通を生じない程度に大きい場合には、絶縁体20bが省略されてもよい。
【0047】
過熱抑制治具20には、貫通孔20cが形成されており、この貫通孔20cにホルダ12のシャフト13が通されている。過熱抑制治具20は、シャフト13に取り外し可能に保持されている。本実施形態では、特に言及なき場合、過熱抑制治具20がシャフト13に保持され且つ開口101,102に挿入されている状態を基準に説明する。
【0048】
過熱抑制治具20は、本実施形態では、開口101,102を開口101,102が並ぶ方向から見たときに、開口の縁部105,106と略相似な外形(本実施形態では、矩形形状)を有している。
【0049】
過熱抑制治具20は、軸方向Sに沿って延びる一対の第1側面21,21と、軸方向Sと直交する方向に沿って延びる一対の第2側面22,22と、複数(本実施形態では、4つ)のコーナー部23と、を有している。
【0050】
一対の第1側面21,21は、開口の縁部105,106の対応する第1縁部111,111と周方向Cに向かい合っている。一対の第2側面22,22は、開口の縁部105,106の対応する第2縁部112,112と軸方向Sに向かい合っている。コーナー部23は、径方向から見て円弧形状をしており、対応する2つの側面21,22に連続している。
【0051】
本実施形態では、誘導加熱時の過熱抑制治具20と開口の縁部105,106との間には隙間Gが設けられている。本実施形態では、過熱抑制治具20の全体が、開口の縁部105,106から離隔している。これにより、浸炭ガスが開口の縁部105,106と過熱抑制治具20との間を通ることができ、開口の縁部105,106の浸炭をより均等に行うことができる。誘導加熱時において、過熱抑制治具20と、開口の縁部105,106の第1縁部111との隙間Gは、第1縁部111,111の磁束が過熱抑制治具20に吸収されるように、且つ、過熱抑制治具20と開口の縁部105,106との間での熱伝導をしないように設定されている。上記隙間Gを適度な大きさとすることで、開口の縁部105,106の磁束を治具本体20aが吸収する効果をより確実に発揮できる。また、上記隙間Gをゼロより大きくすることで、過熱抑制治具20を被処理物100に接触させずに済み、過熱抑制治具20から開口の縁部105,106への熱伝導による開口の縁部105,106の温度低下を抑制できる。
【0052】
前述したように、本実施形態では、誘導加熱により開口の縁部105,106に流れる電流の流れ方向の主成分E1は、軸方向Sとなる。このため、開口の縁部105,106のうち、第1縁部111,111に流れる電流量が特に大きくなって過熱される傾向にある。すなわち、第1縁部111,111は、誘導加熱により開口101,102の周辺に流れる電流が集中する箇所となる。このように、過熱される傾向にある第1縁部111,111と対向するように、過熱抑制治具20の第1側面21,21が沿わされている。本実施形態では、誘導加熱により開口の縁部105,106に流れる電流の流れ方向の主成分E1と直交する方向(本実施形態では、周方向C)における開口の縁部105,106の最も幅広の幅広部103(一対の第1縁部111,111)が存在している。そして、この幅広部103(一対の第1縁部111,111)と前記直交する方向(周方向C)に並ぶようにして、過熱抑制治具20が開口101,102に挿入されている。
【0053】
上述した過熱抑制治具20の配置により、開口の縁部105,106の磁束、特に、第1縁部111,111の磁束を過熱抑制治具20で吸収している。これにより、第1縁部111,111に流れる電流の値が被処理物100の他の部分の電流値よりも大きくなることを抑制されている。過熱抑制治具20と開口の縁部105,106との隙間Gは、過熱抑制治具20と第1縁部111,111との間において最も小さくされていることが好ましい。より具体的には、過熱抑制治具20の一方の第1側面21と開口の縁部105,106の対応する第1縁部111との距離A1よりも、一方の第2側面22と対応する第2縁部112との距離A2のほうが小さいことが好ましい(A1<A2)。これにより、開口の縁部105,106のなかで、誘導加熱によって特に過熱されやすい第1縁部111,111の磁束を、より確実に過熱抑制治具20で吸収できる。なお、距離A1=A2であってもよい。
【0054】
本実施形態では、過熱抑制治具20の一部が、開口101,102から被処理物100の外方に突出している。本実施形態では、過熱抑制治具20は、シャフト13から開口の縁部105,106に向けて延びて開口101,102を貫通しており、さらに、被処理物100の径方向外方に突出している。本実施形態では、過熱抑制治具20の両端部20d,20dが、被処理物100から突出している。これにより、開口の縁部105,106の磁束を過熱抑制治具20でより吸収しやすい。被処理物100の外周面からの過熱抑制治具20の突出量Bと、過熱抑制治具20による、開口の縁部105,106の磁束を吸収する量とは、ある値までは相関がある。しかしながら、上記突出量Bが大きすぎても、開口の縁部105,106の磁束を過熱抑制治具20が吸収できる量は飽和する。よって、上記突出量Bは、開口の縁部105,106の磁束を吸収する効果に応じて適宜設定されることが好ましい。
【0055】
また、開口101,102が並ぶ方向における過熱抑制治具20の両端部20d,20dのそれぞれにおいて、一対の第1側面21,21が向かい合う方向のコーナー部20e,20eは、丸い形状よりは角張ってる形状のほうが、開口の縁部105,106の磁束を吸収し易い。これにより、過熱抑制治具20の両端部20d,20dが、エッジ効果によって開口の縁部105,106の磁束をより多く吸収できる。
【0056】
上記の構成を有する熱処理装置1において、被処理物100の開口の縁部105,106において誘導加熱により開口101,102の周辺に流れる電流が集中する第1縁部111,111へ対向するように過熱抑制治具20を配置して、誘導加熱を行う。
【0057】
以上説明したように、本実施形態によると、被処理物100の誘導加熱時、被処理物100の開口の縁部105,106は、被処理物100の他の部分と比べてエッジ効果によって過熱されやすい傾向にある。しかしながら、開口の縁部105,106が一律に過熱されるのではなく、誘導加熱により開口の縁部105,106に流れる電流が集中する第1縁部111,111(幅広部103)が最も高温となる。そして、被処理物100の誘導加熱時に電流が集中し高温となりやすい第1縁部111,111からの磁束を吸収し易い位置に過熱抑制治具20を配置することで、第1縁部111,111の周囲における磁束密度の偏りが低減されて開口の縁部105,106の電流の分布をより均等にできる。その結果、第1縁部111,111におけるジュール熱による過熱を抑制できる。すなわち、被処理物100における開口の縁部105,106の過熱を抑制できる。しかも、過熱抑制治具20を開口101,102内に挿入する構成である。このため、被処理物100の大きさ(開口101,102の外側部分の大きさ)が変更されても、それに合った過熱抑制治具20を挿入するだけでよいので、従来のように装置の位置を変更するような大掛かりな作業をしなくてもよい。よって、被処理物100の大きさが変わる度に過熱抑制治具20と被処理物100との相対位置を調整するために装置側を動かす手間を省略でき、ユーティリティが向上する。このような作業性の向上を通じて、被処理物100の加工に必要な時間を短縮できる。よって、被処理物100の生産効率の向上を通じて被処理物100の製造コストを低減できる。
【0058】
また、本実施形態によると、過熱抑制治具20(端部20d,20d)が開口101,102から被処理物100の外方へ突出している。この構成によると、過熱抑制治具20が開口101,102から突出することで、開口101,102周辺の磁束を過熱抑制治具20に吸収する量をより多くできる。これにより、開口の縁部105,106における誘導加熱時のエッジ効果が低減され、電流が第1縁部111,111に集中することを抑制できる。その結果、開口の縁部105,106の各部における加熱量の偏りを抑制できる。
【0059】
また、本実施形態によると、誘導加熱時の過熱抑制治具20と開口の縁部105,106との間に隙間Gが設けられている。この隙間Gは、開口の縁部105,106の磁束が過熱抑制治具20に吸収されるように、且つ、過熱抑制治具20と開口の縁部105,106との間の熱伝導がされないように設定されている。過熱抑制治具20と開口の縁部105,106との隙間Gを適度な大きさとすることで、開口の縁部105,106周辺の磁束を過熱抑制治具20に吸収する効果を発揮でき、開口の縁部105,106の過熱を抑制できる。また、過熱抑制治具20と開口の縁部105,106との間に隙間Gを設けることで、誘導加熱時に過熱抑制治具20から開口の縁部105,106への熱伝導を抑制でき、この熱伝導に起因する開口の縁部105,106の温度低下を抑制できる。よって、被処理物100の温度を、開口の縁部105,106の周囲とそれ以外とで偏ることを抑制できる。
【0060】
また、本実施形態によると、過熱抑制治具20は、少なくとも開口の縁部105,106と対向する箇所が、絶縁体20bで形成されている。この構成によると、被処理物100の開口の縁部105,106と過熱抑制治具20とが短絡によって溶着(接合)することを防止できる。
【0061】
以下では、上述の第1実施形態の構成と異なる点について主に説明し、同様の構成には図に同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0062】
<第1実施形態の変形例>
次に、第1実施形態の変形例を説明する。第1実施形態の変形例では、誘導加熱コイル2が第1加熱導体5および第2加熱導体6を有している構成を前提に説明する。
【0063】
<過熱抑制治具の表面に起伏が形成された変形例>
第1実施形態では、過熱抑制治具20の一対の第2側面22,22が平坦である形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。過熱抑制治具20の外表面に起伏形状が存在していてもよい。
【0064】
図6(A)は、第1実施形態の第1変形例を示す図である。図6(A)では、一方の開口101側の構成を図示し、他方の開口102側の構成は、一方の開口101側の構成と同じであるので図示を省略している。図6(A)に示すように、過熱抑制治具20Aの一対の第2側面22A,22Aのそれぞれに凹部が形成されていてもよい。この場合、過熱抑制治具20Aの断面形状は、H形状である。誘導加熱時、開口の縁部105,106において、第2縁部112,112の電流の流れ方と第1縁部111,111の電流の流れ方が異なる。第1縁部111,111には渦電流が集中する一方、第2縁部112,112には、第1縁部111,111に流れるほどの大きな電流は流れない。よって開口の縁部105,106において、第1縁部111,111の発熱量よりも第2縁部112,112の発熱量のほうが小さい。このため、第2縁部112,112を通る磁束を過熱抑制治具20Aで吸収する必要性は、第1縁部111,111を通る磁束を過熱抑制治具20で吸収する必要性と比べて低い。よって、第2側面22A,22Aと、第2縁部112,112との間の空間が、第1側面21A,21Aと、第1縁部111,111との間の空間より広くされていても、開口の縁部105,106の過熱を過熱抑制治具20Aで抑制する効果を十分に発揮できる。
【0065】
<被処理物の開口の形状、および、過熱抑制治具の形状の変形例>
第1実施形態では、開口101,102が細長い孔である形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。開口は、丸孔であってもよい。
【0066】
図6(B)は、第1実施形態の第2変形例を示す図である。図6(B)では、一方の開口101B側の構成を図示し、他方の開口102B側の構成は、一方の開口101B側の構成と同じであるので図示を省略している。図6(B)に示すように、この変形例では、開口101B,102Bは、単一の曲率半径を有する丸孔である。この変形例では、開口の縁部105B,106Bは、丸い縁部である。そして、被処理物100において、誘導加熱により開口の縁部105B,106Bに流れる電流の流れ方向の主成分E1は、軸方向Sである。開口の縁部105B,106Bにおいては、軸方向Sと直交する方向(本変形例では、周方向C)における最も幅広の幅広部103Bにおいて、渦電流が主成分E1にスムーズに流れる構成となっている。このため、開口の縁部105B,106Bにおいて、上記幅広部103Bに渦電流が集中して最も過熱され易い。
【0067】
そこで、本変形例では、過熱抑制治具20Bは、開口の縁部105B,106Bにおいて、誘導加熱により開口101B,102Bの周辺に流れる電流が集中する幅広部103Bへ対向するように配置される。より具体的には、過熱抑制治具20Bは、幅広部103Bに対して主成分E1と直交する方向(周方向C)に並ぶように、開口101B,102Bに挿入されている。過熱抑制治具20Bは、開口の縁部105B,106Bの直径よりも小さな外径の円柱形状に形成されている。
【0068】
この変形例によると、誘導加熱コイル2に高周波電流が流れることで幅広部103Bに流れる磁束を過熱抑制治具20Bで吸収できる。これにより、幅広部103Bにおけるジュール熱による過熱が抑制され、開口の縁部105B,106Bにおける過熱を抑制できる。
【0069】
なお、図6(B)に示す変形例では、開口101B,102Bが並ぶ方向から見たときの過熱抑制治具20Bの形状が、開口101B,102Bの丸孔形状と相似な円形形状であった。しかしながら、この通りでなくてもよい。
【0070】
図7(A)は、第1実施形態の第3変形例を示す図である。図7(A)では、一方の開口101B側の構成を図示し、他方の開口102B側の構成は、一方の開口101B側の構成と同じであるので図示を省略している。図7(A)に示すように、過熱抑制治具20Cは、誘導加熱により開口の縁部105B,106Bに流れる電流の流れ方向の主成分E1と直交する方向(本変形例では、周方向C)に相対的に長く、主成分E1と平行な方向に相対的に短い扁平な四角柱状に形成されている。図7(A)に示す過熱抑制治具20Cの断面形状は、周方向Cにおける端面の形状が滑らかに丸い長方形であるといえる。
【0071】
過熱抑制治具20Cは、主成分E1と直交する周方向Cにおいて開口の縁部105B,106Bと向かい合う一対の第1側面21C,21Cと、主成分E1と平行な軸方向Sにおいて開口の縁部105B,106Bと向かい合う一対の第2側面22C,22Cと、を有している。
【0072】
一対の第1側面21C,21Cは、開口の縁部105B,106Bの直径よりも小さな外径を有する円弧面であり、幅広部103Bと対向しており、幅広部103Bとは主成分E1と直交する周方向Cに対向している。一対の第2側面22C,22Cは、主成分E1と直交する方向に延びる平坦面であり、起伏形状を有していてもよい。開口の縁部105B,106Bから一対の第1側面21C,21Cまでの周方向Cに沿った距離A1Cは、開口の縁部105B,106Bから一対の第2側面22C,22Cまでの軸方向Sに沿った距離A2Cよりも小さい(A1C<A2C)。過熱抑制治具20Cと開口の縁部105B,106Bとの距離の最小値は、幅広部103Bと一対の第1側面21C,21Cとの距離であることが好ましい。これにより、開口の縁部105B,106Bのうち渦電流が集中して最も過熱されやすい幅広部103Bを通過するように作用する磁束を過熱抑制治具20Cで効率よく吸収でき、幅広部103Bの渦電流による過熱を抑制できる。
【0073】
なお、第1実施形態および上述の各変形例では、開口101,102および開口101B,102Bの何れもが、軸方向Sにおける被処理物100の中間位置に形成された形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。開口は、軸方向Sにおける被処理物100の端部に形成されていてもよい。
【0074】
図7(B)は、第1実施形態の第4変形例を示す図である。この変形例では、開口101D,102Dは、軸方向Sにおける被処理物100の例えば一端(上端)に形成されている。開口101D,102Dの形状は、第1実施形態の開口101,102のうちの上側の一部を水平に切り取った形状に相当するU字状の開口部分である。
【0075】
各開口の縁部105D,106Dは、軸方向Sに沿って延びる一対の第1縁部111D,111Dと、周方向Cに沿って延びる一つの第2縁部112Dと、複数(本実施形態では、2つ)のコーナー部113Dと、を有している。
【0076】
第1縁部111D,111Dは、軸方向Sに沿って延びる縁部である。第2縁部112D,112Dは、周方向Cに沿って延びる縁部である。コーナー部113Dは、円弧形状をしており、対応する2つの縁部111D,112Dに連続している。
【0077】
本変形例においても、第1実施形態と同様に、誘導加熱により開口の縁部105D,106Dに流れる電流の流れ方向の主成分E1は、軸方向Sとなる。このため、開口の縁部105D,106Dのうち、軸方向Sと直交する方向に最も幅広の幅広部103D(第1縁部111D,111D)に流れる電流値が特に大きくなって過熱される傾向にある。このように、渦電流が集中して過熱される傾向にある第1縁部111D,111Dに対向する箇所に、過熱抑制治具20Dの第1側面21D,21Dが配置されている。換言すれば、誘導加熱により開口の縁部105D,106Dに流れる電流の流れ方向の主成分E1と直交する周方向Cにおける開口の縁部105D,106Dの最も幅広部分である一対の第1縁部111D,111Dと周方向Cに並ぶようにして、過熱抑制治具20Dが開口101D,102Dに挿入されている。
【0078】
上述した過熱抑制治具20Dの配置により、開口の縁部105D,106Dの磁束を過熱抑制治具20Dで吸収し、第1縁部111D,111Dに流れる電流値が被処理物100の他の部分の電流値よりも大きくなることが抑制されている。過熱抑制治具20Dと開口の縁部105D,106Dとの隙間は、過熱抑制治具20Dと第1縁部111D,111Dとの間において最も小さくされていることが好ましい。より具体的には、過熱抑制治具20Dの一方の第1側面21Dと対応する第1縁部111Dとの距離A1Dが、一方の第2側面22Dと対応する第2縁部112Dとの距離A2Dよりも小さくされていることが好ましい(A1D<A2D)。これにより、開口の縁部105D,106Dのなかで、誘導加熱によって特に過熱されやすい第1縁部111D,111Dの周囲の磁束を、より確実に過熱抑制治具20Dで吸収できる。なお、距離A1D=A2Dであってもよい。
【0079】
この変形例において、過熱抑制治具20Dに代えて、断面H字形状過熱抑制治具20Aが用いられてもよい。
【0080】
なお、図7(B)に示す変形例では、開口101D,102Dが並ぶ方向にみたときにおける開口101D,102Dの形状が、軸方向Sに細長いU字形状であった。しかしながら、この通りでなくてもよい。
【0081】
図8は、第1実施形態の第5変形例を示す図である。図8では、一方の開口101E側の構成を図示し、他方の開口102E側の構成は、一方の開口101E側の構成と同じであるので図示を省略している。
【0082】
図8に示すように、開口101E,102Eが並ぶ方向にみたときにおける開口101E,102Eの形状は、半円形状である。この構成において、誘導加熱により開口の縁部105E,106Eに流れる電流の流れ方向の主成分E1は、軸方向Sとなる。そして、開口の縁部105E,106Eのうち、主成分E1と直交する周方向Cにおける最も幅広の幅広部103Eに電流が集中し電流値が特に大きくなって過熱される傾向にある。このように、過熱される傾向にある幅広部103Eと対向するように、過熱抑制治具20Eが配置される。過熱抑制治具20Eの形状は、過熱抑制治具20Bと同様の円柱形状である。
【0083】
上述した過熱抑制治具20Eの配置により、開口の縁部105E,106Eの磁束を過熱抑制治具20Eで吸収し、幅広部103E,103Eへの電流の集中による過熱が抑制されている。
【0084】
なお、図8に示す変形例において、過熱抑制治具20Eに代えて細い形状の過熱抑制治具20Cが用いられてもよい。
【0085】
また、図8に示す変形例では、開口101E,102Eが並ぶ方向にみたときにおける開口の縁部105E,106Eの形状は、半円形状であった。しかしながら、この通りでなくてもよい。開口101E,102Eが並ぶ方向にみたときにおける開口の縁部105E,106Eの形状は、半円以外の円弧形状であってもよい。この場合、開口の縁部105E,106Eの角度範囲は、各開口の縁部105E,106Eの曲率中心回りの開口の縁部105E,106Eの角度であり、0度を超えて180度未満であってもよいし、180度を超えて360度未満であってもよい。このような開口の縁部においても、過熱抑制治具20Eによる磁束吸収によって、過熱を抑制できる。
【0086】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。図9は、第2実施形態に係る熱処理装置1Fおよび被処理物100を示す模式的な断面図である。図10は、第2実施形態において被処理物100の開口101,102に過熱抑制治具20Fが挿入された状態を示す一部断面図であり、2つの開口101,102が紙面の前後に並んだ状態を見ている。
【0087】
第2実施形態が第1実施形態と異なっているのは、主に、誘導加熱コイル2Fが螺旋状のコイルで被処理物100を誘導加熱する点と、過熱抑制治具20Fが第1実施形態の過熱抑制治具20と比べて縦長である点と、にある。誘導加熱コイル2Fは、螺旋状の加熱導体16を含んでいる。加熱導体16の長手方向Dは、螺旋方向である。加熱導体16の両端部は、電源(図示せず)と電気的に接続されており、この電源から高周波電流等、加熱導体16に磁束を発生させる電流を与えられる。
【0088】
被処理物100の上端部、中間部、および、下端部が、加熱導体16で囲まれた空間に配置されている。
【0089】
本実施形態では、高周波電流を流されている加熱導体16が発生する磁束によって、被処理物100に渦電流が生じる。加熱導体16が螺旋状に延びていることにより、誘導加熱により開口の縁部105,106に流れる電流の流れ方向の主成分E1Fは、被処理物100の周方向Cに沿った方向となる。
【0090】
このため、開口の縁部105,106うち、周方向Cに沿って延びる第2縁部112,112に電流が集中しこの第2縁部112,112に流れる電流値が特に大きくなって過熱される傾向にある。このように、電流が集中し過熱される傾向にある第2縁部112,112へ対向するように、過熱抑制治具20Fの第2側面22F,22Fが配置されている。換言すれば、誘導加熱により開口の縁部105,106に流れる電流の流れ方向の主成分E1Fと直交する方向(本実施形態では、軸方向S)における開口の縁部105,106の最も幅広の幅広部103F(一対の第2縁部112,112)と軸方向Sに並ぶようにして、過熱抑制治具20Fが開口101,102に挿入されている。
【0091】
上述した過熱抑制治具20Fの配置により、開口の縁部105,106の磁束を過熱抑制治具20Fで吸収し、開口の縁部105,106の第2縁部112,112に電流が集中することで第2縁部112,112に流れる電流の値が被処理物100の他の部分の電流値よりも大きくなることが抑制されている。過熱抑制治具20Fと開口の縁部105,106との隙間は、過熱抑制治具20Fと第2縁部112,112との間において最も小さくされていることが好ましい。より具体的には、過熱抑制治具20Fの一方の第1側面21Fと開口の縁部105,106の対応する第1縁部111との距離A1Fよりも、一方の第2側面22Fと対応する第2縁部112との距離A2Fのほうが小さいことが好ましい(A1F>A2F)。これにより、開口の縁部105,106のなかで、誘導加熱によって電流が集中し特に過熱されやすい第2縁部112,112の磁束を、より確実に過熱抑制治具20Fで吸収できる。なお、距離A1F=A2Fであってもよい。
【0092】
<第2実施形態の変形例>
次に、第2実施形態の変形例を説明する。第2実施形態の変形例では、誘導加熱コイル2Fの加熱導体16が被処理物100を誘導加熱する構成を前提に説明する。
【0093】
<過熱抑制治具の表面に起伏が形成された変形例>
第2実施形態では、過熱抑制治具20Fの一対の第1側面21F,21Fが平坦である形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。過熱抑制治具20Fに代えて、外表面に起伏形状が存在する過熱抑制治具20Gが用いられてもよい。
【0094】
図11(A)は、第2実施形態の第1変形例を示す図である。図11(A)では、一方の開口101側の構成を図示し、他方の開口102側の構成は、一方の開口101側の構成と同じであるので図示を省略している。図11(A)に示すように、過熱抑制治具20Gは、I字形状(横向きのH字形状)となるように配置される。過熱抑制治具20Gにおいては、一対の第1側面21G,21Gが、開口の縁部105,106の一対の第1縁部111,111とそれぞれ周方向Cに向かい合う。そして、一対の第2側面22G,22Gが、一対の第2縁部112,112とそれぞれ軸方向Sに向かい合う。誘導加熱時、開口の縁部105,106において、第2縁部112,112の電流の流れ方と第1縁部111,111の電流の流れ方が異なる。第2縁部112,112には渦電流が集中する一方、第1縁部111,111には、第2縁部112,112に流れるほどの大きな電流は流れない。よって、開口の縁部105,106において、第2縁部112,112の発熱量よりも第1縁部111,111の発熱量のほうが小さい。このため、第1縁部111,111を通る磁束を過熱抑制治具20Gで吸収する必要性は、第2縁部112,112を通る磁束を過熱抑制治具20Gで吸収する必要性と比べて低い。よって、第1側面21G,21Gと、第1縁部111,111との間の空間が、第2側面22G,22Gと、第2縁部112,112との間の空間より広くされていても、開口の縁部105,106の過熱を過熱抑制治具20Gで抑制する効果を十分に発揮できる。
【0095】
<被処理物の開口の形状、および、過熱抑制治具の形状の変形例>
第2実施形態では、開口101,102が細長い孔である形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。開口は、丸孔であってもよい。
【0096】
図11(B)は、第2実施形態の第2変形例を示す図である。図11(B)では、一方の開口101B側の構成を図示し、他方の開口102B側の構成は、一方の開口101B側の構成と同じであるので図示を省略している。図11(B)に示すように、この変形例では、開口101B,102Bは、単一の曲率半径を有する丸孔である。そして、この変形例では、被処理物100において、誘導加熱により開口の縁部105B,106Bに流れる電流の流れ方向の主成分E1Fは、周方向Cである。そして、開口の縁部105B,106Bにおいては、周方向Cと直交する方向(本変形例では、軸方向S)における最も幅広の幅広部103Hにおいて、渦電流が主成分E1Fにスムーズに流れる構成となっている。このため、開口の縁部105B,106Bにおいて、幅広部103Hに渦電流が集中して最も過熱され易い。
【0097】
そこで、本変形例では、過熱抑制治具20Hは、開口の縁部105B,106Bにおいて、誘導加熱により開口101B,102Bの周辺に流れる電流が集中する幅広部103Hへ対向するように配置される。より具体的には、過熱抑制治具20Hは、幅広部103Hに対して主成分E1Fと直交する軸方向Sに並ぶように、開口101B,102Bに挿入されている。過熱抑制治具20Hの構成は、第1実施形態の第2変形例における過熱抑制治具20Bと同様の円筒形状である。
【0098】
この変形例によると、誘導加熱コイル2Fに高周波電流が流れることで幅広部103Hに流れる磁束を過熱抑制治具20Hで吸収できる。これにより、幅広部103Hにおけるジュール熱による過熱が抑制され、開口の縁部105B,106Bにおける過熱を抑制できる。
【0099】
なお、図11(B)に示す変形例では、開口101B,102Bが並ぶ方向から見たときの過熱抑制治具20Hの形状が、開口101B,102Bの丸孔形状と相似な円形形状であった。しかしながら、この通りでなくてもよい。
【0100】
図12(A)は、第2実施形態の第3変形例を示す図である。図12(A)では、一方の開口101B側の構成を図示し、他方の開口102B側の構成は、一方の開口101B側の構成と同じであるので図示を省略している。図12(A)に示すように、過熱抑制治具20Iは、誘導加熱により開口の縁部105B,106Bに流れる電流の流れ方向の主成分E1Fと直交する方向(本変形例では、軸方向S)に相対的に長く、主成分E1Fと平行な方向(本変形例では周方向C)に相対的に短い扁平な四角柱状に形成されている。過熱抑制治具20Iの断面形状は、軸方向Sの端面の形状が滑らかに丸い長方形であるといえる。
【0101】
過熱抑制治具20Iは、第1実施形態の第3変形例における横向きの過熱抑制治具20Cを縦向きに配置したといえる。過熱抑制治具20Iは、主成分E1Fと直交する軸方向Sにおいて開口の縁部105B,106Bと向かい合う一対の第1側面21I,21Iと、主成分E1と平行な周方向Cにおいて開口の縁部105B,106Bと向かい合う一対の第2側面22I,22Iと、を有している。
【0102】
開口の縁部105B,106Bから一対の第1側面21I,21Iの何れかまでの軸方向Sに沿った距離A1Iは、開口の縁部105B,106Bから一対の第2側面22I,22Iの何れかまでの周方向Cに沿った距離A2Iよりも小さい(A1I<A2I)。過熱抑制治具20Iと開口の縁部105B,106Bとの距離の最小値は、幅広部103Hと一対の第1側面21I,21Iとの距離A1Iであることが好ましい。これにより、開口の縁部105B,106Bのうち渦電流が集中して最も過熱されやすい幅広部103Hを通過する磁束を過熱抑制治具20Iで効率よく吸収でき、幅広部103Hの渦電流による過熱を抑制できる。
【0103】
なお、第2実施形態および上述の各変形例では、開口101,102および開口101B,102Bの何れもが、軸方向Sにおける被処理物100の中間位置に形成された形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。開口は、軸方向Sにおける被処理物100の端部に形成されていてもよい。
【0104】
図12(B)は、第2実施形態の第4変形例を示す図である。この変形例では、開口101D,102Dは、軸方向Sにおける被処理物100の例えば上端に形成されている。開口101D,102Dの形状は、第2実施形態の開口101,102のうちの上側の一部を水平に切り取った形状に相当する。
【0105】
本変形例においても、第2実施形態と同様に、誘導加熱により開口の縁部105D,106Dに流れる電流の流れ方向の主成分E1Fは、周方向Cとなる。このため、開口の縁部105D,106Dのうち、第2縁部112Dに渦電流が集中して過熱される傾向にある。このように、渦電流が集中して過熱される傾向にある第2縁部112Dに対向する箇所に、過熱抑制治具20Jの第2側面22Jが配置されている。換言すれば、誘導加熱により開口の縁部105D,106Dに流れる電流の流れ方向の主成分E1Fと直交する方向(本実施形態では、軸方向S)における開口の縁部105D,106Dの最も幅広の幅広部103J(第2縁部112D)と軸方向Sに並ぶようにして、過熱抑制治具20Jが開口101D,102Dに挿入されている。
【0106】
上述した過熱抑制治具20Jの配置により、開口の縁部105D,106Dの磁束を過熱抑制治具20Jで吸収し、第2縁部112Dに流れる渦電流の電流値が被処理物100の他の部分の渦電流の電流値よりも大きくなることが抑制されている。過熱抑制治具20Jと開口の縁部105D,106Dとの隙間は、過熱抑制治具20Jと第2縁部112D,112Dとの間において最も小さいことが好ましい。より具体的には、過熱抑制治具20Jの一方の第1側面21Jと対応する第1縁部111Dとの距離A1Jよりも、一方の第2側面22Jと第2縁部112Dとの距離A2Jのほうが小さいことが好ましい(A1J>A2J)。これにより、開口の縁部105D,106Dのなかで、誘導加熱によって特に過熱されやすい第2縁部112D(幅広部103J)の周囲の磁束を、より確実に過熱抑制治具20Jで吸収できる。なお、距離A1J=A2Jであってもよい。
【0107】
この変形例において、過熱抑制治具20Jに代えて、第1側面21J,21Jに起伏が形成された過熱抑制治具、例えば断面H形状の過熱抑制治具が用いられてもよい。
【0108】
なお、図12(B)に示す変形例では、開口101D,102Dが並ぶ方向にみたときにおける開口101D,102Dの形状が、軸方向Sに細長いU字形状であった。しかしながら、この通りでなくてもよい。
【0109】
図13は、第2実施形態の第5変形例を示す図である。図13では、一方の開口101E側の構成を図示し、他方の開口102E側の構成は、一方の開口101E側の構成と同じであるので図示を省略している。
【0110】
図13に示すように、開口101E,102Eが並ぶ方向にみたときにおける開口101E,102Eの形状は、半円形状である。この構成において、誘導加熱により開口の縁部105E,106Eに流れる電流の流れ方向の主成分E1Fは、周方向Cとなる。そして、開口の縁部105E,106Eのうち、主成分E1と直交する軸方向Sにおける最も幅広の幅広部103Kに電流が集中しこの幅広の幅広部103Kでの電流値が特に大きくなって過熱される傾向にある。このように、特に過熱される傾向にある幅広部103Kと向かい合うように、過熱抑制治具20Kが配置される。過熱抑制治具20Kの形状は、第2実施形態の第2変形例の過熱抑制治具20Hと同様の円柱形状である。
【0111】
上述した過熱抑制治具20Kの配置により、開口の縁部105E,106Eの周辺の磁束を過熱抑制治具20Kで吸収し、幅広部103Kに流れる電流値が被処理物100の他の部分の電流値よりも大きくなることが抑制されている。
【0112】
なお、図13に示す変形例において、過熱抑制治具20Kに代えて、第2実施形態の第3変形例の過熱抑制治具20Iが用いられてもよい。
【0113】
また、図13に示す変形例では、開口101E,102Eが並ぶ方向にみたときにおける開口の縁部105E,106Eの形状は、半円形状であった。しかしながら、この通りでなくてもよい。開口101E,102Eが並ぶ方向にみたときにおける開口の縁部105E,106Eの形状は、半円以外の円弧形状であってもよい。この場合、開口の縁部105E,106Eの角度範囲は、各開口の縁部105E,106Eの曲率中心回りの開口の縁部105E,106Eの角度であり、0度を超えて180度未満であってもよいし、180度を超えて360度未満であってもよい。このような開口の縁部においても、過熱抑制治具20Kによる磁束吸収によって、開口の縁部の過熱を抑制できる。
【0114】
なお、上述の各実施形態および各変形例では、被処理物の軸方向から見て、過熱抑制治具は、被処理物の周方向における全ての範囲で開口から被処理物の径方向に突出する形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、被処理物の軸方向から見て、過熱抑制治具は、被処理物の周方向における一部のみの範囲が開口から被処理物の径方向に突出していてもよい。例えば、過熱抑制治具は、軸方向から見て、矩形等の多角形であり、且つ、過熱抑制治具の全長が被処理物の外径と同じであってもよい。この場合、軸方向から見たときに、被処理物の周方向における過熱抑制治具の中央部は、被処理物から突出していない一方で、上記周方向における過熱抑制治具の端部(過熱抑制治具の角部)は、被処理物から突出することとなる。このような構成であっても、過熱抑制治具が被処理物の開口から被処理物の外方へ突出しているといえる。
【0115】
本発明は、上述の各実施形態および各変形例に限定されず、特許請求の範囲に記載の範囲内において、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、熱処理装置、および、熱処理方法として、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0117】
1,1F 熱処理装置
2,2F コイル
20A,20B,20C,20D,20E,20F,20G,20H,20I,20J,20K 治具
20b 絶縁体
20d 長手方向端部(治具の一部)
103,103B,103E,103H,103J,103K 幅広部(電流が集中する箇所)
100 被処理物
101,101B,101D,101E 開口
102,102B,102D,102E 開口
105,105B,105D,105E 開口の縁部
106,106B,106D,106E 開口の縁部
G 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13