(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046931
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
H10N 10/13 20230101AFI20230329BHJP
H10N 10/17 20230101ALI20230329BHJP
H10N 10/852 20230101ALI20230329BHJP
H10N 10/01 20230101ALN20230329BHJP
【FI】
H01L35/30
H01L35/32 A
H01L35/16
H01L35/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155783
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦久
(72)【発明者】
【氏名】森田 亘
(57)【要約】
【課題】上下放熱板の重なりが抑制され、高い熱電性能が維持される熱電変換モジュールを提供する。
【解決手段】P型熱電素子層4とN型熱電素子層5とが交互に且つ互いに接するように配列された熱電変換モジュール1Aにおいて、第1の放熱板9
A、第2の放熱板9
Bは、配列方向10に間隔をおいて存在する境界6に対し、配列方向10の熱電変換素子層7の第1の表面側8
Aの境界6、熱電変換素子層7の第2の表面側8
Bの境界6に交互に覆うように設置され、P型熱電素子層4の、隣り合う第1の放熱板9
Aと第2の放熱板9
Bとの間の間隔をD
P、N型熱電素子層5の、隣り合う第2の放熱板9
Bと第1の放熱板9
Aとの間の間隔をD
N、P型熱電素子層4の長さをL
P、N型熱電素子層5の長さをL
Nとすると、比D
P/(L
P+L
N)、比D
N/(L
P+L
N)がそれぞれ0.005~0.300である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
P型熱電素子層とN型熱電素子層とが交互に且つ互いに接するように配列されてなり、従って前記P型熱電素子層と前記N型熱電素子層との境界が、前記P型熱電素子層と前記N型熱電素子層との配列方向に間隔をおいて存在する熱電変換素子層と、
前記熱電変換素子層の第1の表面側に、前記境界を跨ぐように設置されており、前記P型熱電素子層と前記N型熱電素子層とを直列に接続している電極と、
前記熱電変換素子層の前記第1の表面側に、前記境界及び前記電極を覆うように設置された第1の放熱板と、
前記熱電変換素子層の前記第2の表面側に、前記境界を覆うように設置された第2の放熱板と、
を有する熱電変換モジュールであって、
前記第1の放熱板及び前記第2の放熱板は、前記配列方向に間隔をおいて存在する前記境界に対し、前記配列方向の前記第1の表面側の前記境界、及び前記第2の表面側の前記境界に交互に覆うように設置されており、
前記P型熱電素子層の前記配列方向における隣り合う前記第1の放熱板と前記第2の放熱板との間の前記配列方向における間隔をDP、前記N型熱電素子層の前記配列方向における隣り合う前記第2の放熱板と前記第1の放熱板との間の前記配列方向における間隔をDN、前記P型熱電素子層の前記配列方向における長さをLP、前記N型熱電素子層の前記配列方向における長さをLNとすると、比DP/(LP+LN)は0.005~0.300であり、比DN/(LP+LN)は0.005~0.300である、熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記第1の放熱板及び第2の放熱板が、それぞれ独立に、金属材料、セラミック材料、金属材料と樹脂との混合物、及びセラミック材料と樹脂との混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記第1の放熱板及び第2の放熱板の熱伝導率が、それぞれ独立に、5~500W/(m・K)である、請求項1又は2に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記第1の放熱板及び第2の放熱板の厚さが、それぞれ独立に、40~550μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
前記熱電変換素子層の第1の表面側と前記第1の放熱板との間にさらに第1の基板を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項6】
前記第1の基板と前記第1の放熱板との間にさらに第1の被覆層を含む、請求項5に記載の熱電変換モジュール。
【請求項7】
前記熱電変換素子層の第2の表面側と前記第2の放熱板との間にさらに第2の基板及び/又は第2の被覆層を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項8】
前記比DP/(LP+LN)は0.010~0.270であり、前記比DN/(LP+LN)は0.010~0.270である、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エネルギーの有効利用手段の一つとして、ゼーベック効果やペルチェ効果などの熱電効果を有する熱電変換モジュールにより、熱エネルギーと電気エネルギーとを直接相互変換するようにした装置がある。
前記熱電変換モジュールとして、いわゆるインプレーン型の熱電変換素子の使用が知られている。インプレーン型は、P型熱電素子とN型熱電素子とが基板の面内方向に交互に設けられ、例えば、P型熱電素子とN型熱電素子間の接合部(境界)の下部に電極を介在させ電気的に直列接続することで構成される。通常、温度差の付与は、隣接する前記境界間に交互に効率良く行うために、P型熱電素子とN型熱電素子とからなる熱電変換素子の配列方向の上下面に、放熱板が各境界を交互に跨ぐように適宜配置することで行われる。
【0003】
このような中、特許文献1には、インプレーン型の熱電変換モジュールに用いる熱電素子層に対する放熱層の配置に関する記載がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1には、1対のP型熱電素子層とN型熱電素子層とからなる配列方向の全幅に対し、放熱層が位置する割合、かつ配列方向の1対のP型熱電素子層とN型熱電素子層とからなる接合部(境界)に放熱層を対称に配置することが開示されているが、各熱電素子層の接合部(境界)に対し放熱層の位置ずれが発生することにより、上下面に対向して交互に配置された放熱層間において、各熱電素子層の厚さ方向に沿い互いに重なりが発生した際の熱電性能の低下の抑制については記載や示唆がない。
【0006】
本発明は、上記問題を鑑み、上下放熱板の重なりが抑制され、高い熱電性能が維持される熱電変換モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、P型熱電素子層の配列方向における長さとN型熱電素子層の配列方向における長さとの和に対する、P型熱電素子層の配列方向における隣り合う第1の放熱板と第2の放熱板との間の配列方向における間隔の比、及び、P型熱電素子層の配列方向における長さとN型熱電素子層の配列方向における長さとの和に対する、N型熱電素子層の配列方向における隣り合う第2の放熱板と第1の放熱板との間の配列方向における間隔の比、をそれぞれ特定の値にすることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]を提供するものである。
[1]P型熱電素子層とN型熱電素子層とが交互に且つ互いに接するように配列されてなり、従って前記P型熱電素子層と前記N型熱電素子層との境界が、前記P型熱電素子層と前記N型熱電素子層との配列方向に間隔をおいて存在する熱電変換素子層と、前記熱電変換素子層の第1の表面側に、前記境界を跨ぐように設置されており、前記P型熱電素子層と前記N型熱電素子層とを直列に接続している電極と、前記熱電変換素子層の前記第1の表面側に、前記境界及び前記電極を覆うように設置された第1の放熱板と、前記熱電変換素子層の前記第2の表面側に、前記境界を覆うように設置された第2の放熱板と、を有する熱電変換モジュールであって、
前記第1の放熱板及び前記第2の放熱板は、前記配列方向に間隔をおいて存在する前記境界に対し、前記配列方向の前記第1の表面側の前記境界、及び前記第2の表面側の前記境界に交互に覆うように設置されており、
前記P型熱電素子層の前記配列方向における隣り合う前記第1の放熱板と前記第2の放熱板との間の前記配列方向における間隔をDP、前記N型熱電素子層の前記配列方向における隣り合う前記第2の放熱板と前記第1の放熱板との間の前記配列方向における間隔をDN、前記P型熱電素子層の前記配列方向における長さをLP、前記N型熱電素子層の前記配列方向における長さをLNとすると、比DP/(LP+LN)は0.005~0.300であり、比DN/(LP+LN)は0.005~0.300である、熱電変換モジュール。
[2]前記第1の放熱板及び第2の放熱板が、それぞれ独立に、金属材料、セラミック材料、金属材料と樹脂との混合物、及びセラミック材料と樹脂との混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]に記載の熱電変換モジュール。
[3]前記第1の放熱板及び第2の放熱板の熱伝導率が、それぞれ独立に、5~500W/(m・K)である、上記[1]又は[2]に記載の熱電変換モジュール。
[4]前記第1の放熱板及び第2の放熱板の厚さが、それぞれ独立に、40~550μmである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
[5]前記熱電変換素子層の第1の表面側と前記第1の放熱板との間にさらに第1の基板を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
[6]前記第1の基板と前記第1の放熱板との間にさらに第1の被覆層を含む、上記[5]に記載の熱電変換モジュール。
[7]前記熱電変換素子層の第2の表面側と前記第2の放熱板との間にさらに第2の基板及び/又は第2の被覆層を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
[8]前記比DP/(LP+LN)は0.010~0.270であり、前記比DN/(LP+LN)は0.010~0.270である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の熱電変換モジュール。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上下放熱板の重なりが抑制され、高い熱電性能が維持される熱電変換モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の熱電変換モジュールの実施態様を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施例に用いた熱電変換モジュールの断面図である。
【
図3】本発明の実施例に用いたP型熱電素子層及びN型熱電素子層からなる熱電変換素子層と電極との位置関係の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[熱電変換モジュール]
本発明の熱電変換モジュールは、P型熱電素子層とN型熱電素子層とが交互に且つ互いに接するように配列されてなり、従って前記P型熱電素子層と前記N型熱電素子層との境界が、前記P型熱電素子層と前記N型熱電素子層との配列方向に間隔をおいて存在する熱電変換素子層と、前記熱電変換素子層の第1の表面側に、前記境界を跨ぐように設置されており、前記P型熱電素子層と前記N型熱電素子層とを直列に接続している電極と、前記熱電変換素子層の前記第1の表面側に、前記境界及び前記電極を覆うように設置された第1の放熱板と、前記熱電変換素子層の前記第2の表面側に、前記境界を覆うように設置された第2の放熱板と、を有する熱電変換モジュールであって、
前記第1の放熱板及び前記第2の放熱板は、前記配列方向に間隔をおいて存在する前記境界に対し、前記配列方向の前記第1の表面側の前記境界、及び前記第2の表面側の前記境界に交互に覆うように設置されており、
より詳しくは、前記第1の放熱板及び前記第2の放熱板は、前記配列方向に間隔をおいて存在する前記境界を、前記配列方向の順番に交互に覆うように設置されており、
従って、各P型熱電素子層の前記配列方向における一端及び他端のうち、前記一端側を覆うように前記第1の放熱板が設置され且つ前記一端側には前記第2の放熱板は設置されておらず、前記他端側を覆うように前記第2の放熱板が設置され且つ前記他端側には前記第1の放熱板は設置されておらず、
各N型熱電素子層の前記配列方向における一端及び他端のうち、前記一端側を覆うように前記第2の放熱板が設置され且つ前記一端側には前記第1の放熱板は設置されておらず、前記他端側を覆うように前記第1の放熱板が設置され且つ前記他端側には前記第2の放熱板は設置されておらず、
前記P型熱電素子層の前記配列方向における隣り合う前記第1の放熱板と前記第2の放熱板との間の前記配列方向における間隔をDP、前記N型熱電素子層の前記配列方向における隣り合う前記第2の放熱板と前記第1の放熱板との間の前記配列方向における間隔をDN、前記P型熱電素子層の前記配列方向における長さをLP、前記N型熱電素子層の前記配列方向における長さをLNとすると、比DP/(LP+LN)は0.005~0.300であり、比DN/(LP+LN)は0.005~0.300であることを特徴としている。
本発明の熱電変換モジュールでは、P型熱電素子層の配列方向における長さとN型熱電素子層の配列方向における長さとの和に対する、P型熱電素子層の配列方向における隣り合う第1の放熱板と第2の放熱板との間の配列方向における間隔の比、及び、P型熱電素子層の配列方向における長さとN型熱電素子層の配列方向における長さとの和に対する、N型熱電素子層の配列方向における隣り合う第2の放熱板と第1の放熱板との間の配列方向における間隔の比、をそれぞれ上述した特定の値の範囲にすることにより、第1の放熱板と第2の放熱板の重なりによる面内方向に発生する温度差の低下を抑制し、高い熱電性能を維持できる。
【0011】
本明細書において「熱電変換素子層」とは、P型熱電素子層とN型熱電素子層とからなる熱電素子層の配列体を意味する。また、P型熱電素子層、N型熱電素子層のそれぞれを単に、「熱電素子層」ということがある。
また、第1の放熱板及び第2の放熱板、第1の基板及び第2の基板、第1の被覆層及び第2の被覆層、をこの順に、単に「放熱板」、「基板」、「被覆層」ということがある。
【0012】
本発明の熱電変換モジュールを、図面を使用して説明する。
【0013】
図1は、本発明の熱電変換モジュールの実施態様(基本構成)を示す断面図である。熱電変換モジュール1Aは、P型熱電素子層4とN型熱電素子層5とが面内方向に交互に且つ互いに接するように配列されており、P型熱電素子層4とN型熱電素子層5との境界6が、P型熱電素子層4とN型熱電素子層5との配列方向10に、間隔L
P又は間隔L
Nをおいて存在する熱電変換素子層7と、熱電変換素子層7の第1の表面側8
Aに、境界6を跨ぐように設置されており、P型熱電素子層4とN型熱電素子層5とを電気的に直列に接続している電極3と、熱電変換素子層7の第1の表面側8
Aに、境界6及び電極3を覆うように設置された第1の放熱板9
Aと、熱電変換素子層7の第2の表面側8
Bに、境界6を覆うように設置された第2の放熱板9
Bと、を含む。
第1の放熱板9
A及び第2の放熱板9
Bは配列方向10に間隔L
P又は間隔L
Nをおいて存在する境界6に対し、配列方向10の第1の表面側8
Aの境界6、及び第2の表面側8
Bの境界6に交互に覆うように設置されている。
ここで、D
Pは、各P型熱電素子層4の配列方向10における隣り合う第1の放熱板9
Aと第2の放熱板9
Bとの間の配列方向10における間隔を示し、D
Nは、各N型熱電素子層5の配列方向10における隣り合う第2の放熱板9
Bと第1の放熱板9
Aとの間の配列方向10における間隔を示し、L
Pは、P型熱電素子層4の配列方向10における長さを示し、L
Nは、N型熱電素子層5の配列方向10における長さを示す。また、L
Aは、第1の放熱板9
Aの長さ、L
ALは第1の放熱板の境界6を始点とした配列方向10とは反対方向の長さ、L
ARは第1の放熱板9
Aの境界9を始点とした配列方向10の長さ、L
Bは第2の放熱板9
Bの長さ、L
BLは第2の放熱板9
Bの境界を始点とした配列方向10とは反対方向の長さ、L
BRは第2の放熱板9
Bの境界を始点とした配列方向10の長さを示す。
【0014】
図2は、本発明の実施例に用いた熱電変換モジュールの断面図である。熱電変換モジュール1Bは、
図1における熱電変換モジュールの構成に加え、熱電変換素子層7(第2の表面側8
B)と第2の放熱板9
Bとの間に被覆層11
Bを備え、さらに、熱電変換素子層7(第1の表面側8
A)と第1の放熱板9
Aとの間に基板2(ポリイミド基板2a)及び被覆層11
Aを備えた構成としている。
【0015】
本発明の熱電変換モジュールにおいて、P型熱電素子層の配列方向における隣り合う第1の放熱板と第2の放熱板との間の配列方向における間隔をDP、N型熱電素子層の配列方向における隣り合う第2の放熱板と第1の放熱板との間の配列方向における間隔をDN、P型熱電素子層の配列方向における長さをLP、N型熱電素子層の配列方向における長さをLNとしたときに、比DP/(LP+LN)は0.005~0.300であり、比DN/(LP+LN)は0.005~0.300である。
比DP/(LP+LN)が0.005未満であると、P型熱電素子層の配列方向における隣り合う第1の放熱板と第2の放熱板との間の配列方向における間隔が小さくなる、又は第1の放熱板と第2の放熱板間の、P型熱電素子層の厚さ方向に沿う重なりが発生してしまうことから、温度差が当該厚さ方向に付与され易くなり、一方、配列方向に隣接する境界間には温度差が付与されにくくなる。
比DP/(LP+LN)が0.300超であると、P型熱電素子層の配列方向における隣り合う第1の放熱板と第2の放熱板との間の配列方向における間隔が大きくなり過ぎることから、配列方向に隣接する境界間への温度差の付与が抑制され易くなる。
比DP/(LP+LN)は好ましくは0.010~0.270であり、より好ましくは0.030~0.260であり、さらに好ましくは0.040~0.250である。
同様に、比DN/(LP+LN)が0.005未満であると、N型熱電素子層の配列方向における隣り合う第2の放熱板と第1の放熱板との間の配列方向における間隔が小さくなる、又は第2の放熱板と第1の放熱板間の、N型熱電素子層の厚さ方向に沿う重なりが発生してしまうことから、温度差が当該厚さ方向に付与され易くなり、一方、配列方向に隣接する境界間には温度差が付与されにくくなる。
比DN/(LP+LN)が0.300超であると、N型熱電素子層の配列方向における隣り合う第2の放熱板と第1の放熱板との間の配列方向における間隔が大きくなり過ぎることから、配列方向に隣接する境界間への温度差の付与が抑制され易くなる。
比DN/(LP+LN)は好ましくは0.010~0.270であり、より好ましくは0.030~0.260であり、さらに好ましくは0.040~0.250である。
比DP/(LP+LN)及び比DN/(LP+LN)が上記の範囲にあると、熱電変換素子層の境界に対し放熱板の位置ずれが発生した場合でも、第1の放熱板と第2の放熱板間の、熱電変換素子層の厚さ方向に沿う重なりが発生することがなく、且つ熱電性能の低下を効果的に抑制する、又は維持することができる。
【0016】
<放熱板>
本発明の熱電変換モジュールは、第1の放熱板及び第2の放熱板を含む。本発明に用いる第1の放熱板及び第2の放熱板は、P型熱電素子層とN型熱電素子層からなる熱電変換素子層の配列方向の隣接する境界間に交互に効率良く温度差を付与することができる。
【0017】
本発明に用いる放熱板は、熱電性能の観点から高熱伝導性材料を用い形成されることが好ましい。放熱板を形成する方法としては、特に制限されないが、シート状の高熱伝導性材料を、事前にフォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法が挙げられる。
【0018】
第1の放熱板及び第2の放熱板の材料としては、金属材料、セラミック材料、炭素繊維等の炭素系材料、又は、これらの材料と樹脂との混合物が挙げられる。この中で、第1の放熱板及び第2の放熱板は、それぞれ独立に、金属材料、セラミック材料、金属材料と樹脂との混合物、及びセラミック材料と樹脂との混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、金属材料及びセラミック材料からなる群から選ばれる少なくとも一種であることがさらに好ましい。
金属材料としては、金、銀、銅、ニッケル、スズ、鉄、クロム、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム、インジウム、亜鉛、モリブデン、マンガン、チタン、アルミニウム等の単金属、ステンレス、真鍮(黄銅)等のような2種以上の金属を含む合金等が挙げられる。
セラミック材料としては、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素等が挙げられる。
この中で、高熱伝導率、加工性、屈曲性の観点から、金属材料が好ましい。金属材料の中で、好ましくは銅(無酸素銅含む)、ステンレスであり、熱伝導率が高く、加工性がさらに容易であることから、銅がより好ましい。
樹脂としては、特に制限されないが、樹脂フィルム等が挙げられる。
樹脂フィルムに使用される樹脂としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ナイロン、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、芳香族系重合体等が挙げられる。
これらの中で、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート等が挙げられる。シクロオレフィン系ポリマーとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物が挙げられる。
樹脂フィルムに使用される樹脂の中で、コスト、耐熱性の観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ナイロンが好ましい。
また、樹脂には弾性率の制御、熱伝導率の制御の観点からフィラーが含まれていてもよい。
樹脂フィルムに添加されるフィラーとしては、酸化マグネシウム、無水炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミ、酸化ケイ素等挙げられる。この中で、弾性率制御、熱伝導率等の観点から酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミ、酸化ケイ素が好ましい。
【0019】
ここで、本発明に用いられる高熱伝導率を有する金属材料の代表的なものを以下に示す。
・無酸素銅
無酸素銅(OFC:Oxygen-Free Copper)とは、一般的に酸化物を含まない99.95%(3N)以上の高純度銅のことを指す。日本工業規格では、無酸素銅(JIS H 3100, C1020)および電子管用無酸素銅(JIS H 3510, C1011)が規定されている。
・ステンレス(JIS)
SUS304:18Cr-8Ni(18%のCrと8%のNiを含む)
SUS316:18Cr-12Ni(18%のCrと12%のNiとモリブデン(Mo)とを含むステンレス鋼)
【0020】
放熱板の熱伝導率は好ましくは、5~500W/(m・K)であり、より好ましくは、12~450W/(m・K)であり、さらに好ましくは15~420W/(m・K)である。放熱板の熱伝導率が上記の範囲にあると、効率よく温度差を付与することができる。
【0021】
放熱板の厚さは、40~550μmが好ましく、60~530μmがより好ましく、80~510μmがさらに好ましい。放熱板の厚さがこの範囲であれば、熱を特定の方向に選択的に放熱することができる。
【0022】
本発明の熱電変換モジュールにおいて、前記熱電変換素子層の第1の表面側と前記第1の放熱板との間に第1の基板を含むことが好ましい。
また、前記第1の基板と前記第1の放熱板との間に第1の被覆層を含むことが好ましい。
さらに、前記熱電変換素子層の第2の表面側と前記第2の放熱板との間に第2の基板及び/又は第2の被覆層を含むことが好ましい。
【0023】
<基板>
本発明に用いる第1の基板及び第2の基板は、特に制限されず、同じ材料であっても異なる材料であってもよい。屈曲性に優れ、後述する熱電半導体組成物からなる塗布膜(薄膜)を焼成(アニール)処理した場合でも、熱変形することなく、熱電変換素子層の性能を維持することができ、耐熱性及び寸法安定性が高いという点から、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムが好ましく、さらに、汎用性が高いという点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0024】
第1の基板及び第2の基板の厚さは、屈曲性、耐熱性及び寸法安定性の観点から、それぞれ独立に、好ましくは1~1000μm、より好ましくは5~500μm、特に好ましくは10~100μmである。
また、上記第1の基板及び第2の基板における、熱重量分析(TG)で測定される5%質量減少温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは400℃以上である。JIS K7133(1999)に準拠して200℃で測定した加熱寸法変化率は、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下である。JIS K7197(2012)に準拠して測定した平面方向の線膨脹係数は、好ましくは0.1~50ppm・℃-1、より好ましくは0.1~30ppm・℃-1である。
【0025】
<被覆層>
本発明に用いる第1の被覆層及び第2の被覆層は、特に制限されず、同じ仕様の層であっても異なる仕様の層であってもよく、例えば、封止層、ガスバリア層等が挙げられる。
【0026】
〈封止層〉
本発明の熱電変換モジュールは、被覆層として封止層を含んでいてもよい。封止層は、大気中の水蒸気の透過を効果的に抑制することができる機能を有する。また、用いる封止剤が粘接着性を有するときは、接着剤としても機能する。
封止層は、熱電変換素子層上に直接、または基板を介して積層されていてもよいし、後述するガスバリア層を介し積層されていてもよい。
【0027】
本発明に用いる封止層を構成する主成分は、ポリオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、又はアクリル系樹脂であることが好ましい。
また、封止層が粘接着性を有する封止剤(以下、「封止剤組成物」ということがある。)からなることが好ましい。本明細書において、粘接着性を有するとは、封止剤が、粘着性、接着性、貼り付ける常態において粘着性を有し、その後エネルギーの付加により接着し硬化することを意味する。封止層を用いることで容易に熱電変換素子層に積層することができる。また、前記放熱板、前記基板、後述するガスバリア層等への貼付も容易となる。
【0028】
ポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、カルボン酸系官能基を有するジエン系ゴム(以下、「ジエン系ゴム」ということがある。)、又は、カルボン酸系官能基を有するジエン系ゴム及びカルボン酸系官能基を有しないゴム系重合体(以下、「ゴム系重合体」ということがある。)が挙げられる。
【0029】
ジエン系ゴムは、主鎖末端及び/又は側鎖にカルボン酸系官能基を有する重合体で構成されるジエン系ゴムである。ここで、「カルボン酸系官能基」とは、「カルボキシル基またはカルボン酸無水物基」をいう。また、「ジエン系ゴム」とは、「ポリマー主鎖に二重結合を有するゴム状高分子」をいう。
ジエン系ゴムは、カルボン酸系官能基を有するジエン系ゴムであれば、特に限定されない。
ジエン系ゴムとしては、カルボン酸系官能基含有ポリブタジエン系ゴム、カルボン酸系官能基含有ポリイソプレン系ゴム、カルボン酸系官能基を含有するブタジエンとイソプレンの共重合体ゴム、カルボン酸系官能基を含有するブタジエンとn-ブテンの共重ゴム等が挙げられる。これらの中でも、ジエン系ゴムとしては、架橋後に十分に高い凝集力を有する封止層を効率よく形成し得るという観点から、カルボン酸系官能基含有ポリイソプレン系ゴムが好ましい。
ジエン系ゴムは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
ジエン系ゴム、例えば、カルボキシル基を有する単量体を用いて共重合反応を行う方法や、特開2009-29976号公報に記載される、ポリブタジエン等の重合体に無水マレイン酸を付加させる方法により、得ることができる。
【0030】
ジエン系ゴムの含有量は、封止剤組成物中、好ましくは0.5~95.5質量%、より好ましくは、1.0~50質量%、さらに好ましくは2.0~20質量%である。ジエン系ゴムの含有量が、封止剤組成物中、0.5質量%以上であることで、十分な凝集力を有する封止層を効率よく形成することができる。また、ジエン系ゴムの含有量を高くし過ぎないことで、十分な粘着力を有する封止層を効率よく形成することができる。
【0031】
本発明に用いる架橋剤は、ジエン系ゴムのカルボン酸系官能基と反応し、架橋構造を形成し得る化合物である。
架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。
【0032】
ゴム系重合体は、「25℃においてゴム弾性を示す樹脂」をいう。ゴム系重合体は、ポリメチレンタイプの飽和主鎖をもつゴムや主鎖に不飽和炭素結合をもつゴムであることが好ましい。
このようなゴム系重合体としては、具体的には、イソブチレンの単独重合体(ポリイソブチレン、IM)、イソブチレンとn-ブテンの共重合体、天然ゴム(NR)、ブタジエンの単独重合体(ブタジエンゴム、BR)、クロロプレンの単独重合体(クロロプレンゴム、CR)、イソプレンの単独重合体(イソプレンゴム、IR)、イソブチレンとブタジエンの共重合体、イソブチレンとイソプレンの共重合体(ブチルゴム、IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、スチレンと1,3-ブタジエンの共重合体(スチレンブタジエンゴム、SBR)、アクリロニトリルと1,3-ブタジエンの共重合体(ニトリルゴム)、スチレン-1,3-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、エチレン-プロピレン-非共役ジエン三元共重合体等が挙げられる。これらの中で、それ自体が水分遮断性に優れるとともに、ジエン系ゴム(A)と混ざり易く、均一な封止層を形成し易いという観点から、イソブチレンの単独重合体、イソブチレンとn-ブテンの共重合体、イソブチレンとブタジエンの共重合体、イソブチレンとイソプレンの共重合体等のイソブチレン系重合体が好ましく、イソブチレンとイソプレンの共重合体がより好ましい。
ゴム系重合体を配合する場合、その含有量は、封止剤組成物中、好ましくは0.1質量%~99.5質量%、より好ましくは10~99.5質量%、さらに好ましくは50~99.0質量%、特に好ましくは80~98.0質量%である。
【0033】
エポキシ系樹脂としては、特に制限されないが、分子内に少なくともエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ化合物が好ましい。
エポキシ基を2つ以上有するエポキシ化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、フェノール・ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾール・ノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノール・ノボラック型エポキシ樹脂)、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、2,2-ビス(3-グリシジル-4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、ジメチロールトリシクロデカンジグリシジルエーテル等が挙げられる。
これらの多官能エポキシ化合物は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
多官能エポキシ化合物の分子量の下限は、好ましくは700以上、より好ましくは1,200以上である。多官能エポキシ化合物の分子量の上限は、好ましくは5,000以下、より好ましくは4,500以下である。
多官能エポキシ化合物のエポキシ当量は、好ましくは100g/eq以上500g/eq以下、より好ましくは150g/eq以上300g/eq以下である。
【0034】
封止剤組成物中のエポキシ系樹脂の含有量は、好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは10~40質量%である。
【0035】
アクリル系樹脂としては、特に制限はないが、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が好ましい。
この(メタ)アクリル酸エステル系共重合体としては、エステル部分のアルキル基の炭素数が1~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、必要に応じて用いられる架橋性官能基含有エチレン性単量体や他の単量体との共重合体を好ましく挙げることができる。エステル部分のアルキル基の炭素数が1~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ヘキシルアクリレートn-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
必要に応じて用いられる架橋性官能基含有エチレン性単量体は、例えばヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を分子内に有するエチレン性単量体であり、好ましくはヒドロキシ基含有エチレン性不飽和化合物、カルボキシル基含有エチレン性不飽和化合物が用いられる。このような架橋性官能基含有エチレン性単量体の具体的な例としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のカルボキシル基含有エチレン性不飽和化合物が挙げられる。上記の架橋性官能基含有エチレン性単量体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
必要に応じて用いられる他の単量体としては、シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレートなどの脂環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類;塩化ビニル、ビニリデンクロリドなどのハロゲン化オレフィン類;スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル系単量体;N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミドなどのN,N-ジアルキル置換アクリルアミド類などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
以上の(メタ)アクリル酸エステル、及び必要に応じて用いられる架橋性官能基含有エチレン性単量体や他の単量体を、それぞれ所定の割合で用い、従来公知の方法を用いて共重合を行い、重量平均分子量が、好ましくは30万~150万程度、より好ましくは35万~130万程度の(メタ)アクリル酸エステル系重合体を製造する。
なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
必要に応じて用いられる架橋剤としては、従来アクリル系樹脂において架橋剤として慣用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。このような架橋剤としては、例えばポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、アジリジン系化合物、金属キレート化合物、金属アルコキシド、金属塩などが挙げられるが、前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が、架橋性官能基としてヒドロキシ基を有する場合には、ポリイソシアネート化合物が好ましく、一方カルボキシル基を有する場合には、金属キレート化合物やエポキシ化合物が好ましい。
【0036】
封止剤組成物中のアクリル系樹脂の含有量は、好ましくは30~95質量%、さらに好ましくは40~90質量%である。
【0037】
封止層を構成する封止剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分が含まれていてもよい。封止剤に含まれ得るその他の成分としては、例えば、高熱伝導性材料、難燃剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、可塑剤、消泡剤、及び濡れ性調整剤などが挙げられる。
【0038】
封止層は、1層であっても2層以上積層されていてもよい。また、2層以上積層される場合は、それらが同じであっても異なっていてもよい。
封止層の厚さは、好ましくは0.5~100μm、より好ましくは3~50μm、さらに好ましくは5~30μmである。この範囲であれば、熱電変換モジュールの前記熱電変換素子層の第1の面側及び/又は第2の面側に積層した場合、水蒸気透過率を抑制することができ、熱電変換モジュールの耐久性が向上する。
さらに、前述したように、熱電変換素子層と、封止層とが直接接することが好ましい。熱電変換素子層と、封止層とが直接接することにより、熱電変換素子層と封止層との間に大気中の水蒸気が直接存在することがないため、熱電変換素子層の水蒸気への侵入が抑制され、封止層の封止性が向上する。
【0039】
〈ガスバリア層〉
本発明の熱電変換モジュールは、被覆層としてさらにガスバリア層を含んでいてもよい。ガスバリア層は、大気中の水蒸気の透過を効果的に抑制することができる。
【0040】
ガスバリア層は、熱電変換素子層上に直接積層されていてもよいし、基材上に後述する主成分を含む層から構成され、そのいずれかの面が熱電変換素子層上に直接積層されてもよいし、封止層、基板等を介し積層されていてもよい。
本発明に用いるガスバリア層は、金属、無機化合物、及び高分子化合物からなる群から選ばれる一種以上を主成分とする。ガスバリア層によって、熱電変換モジュールの耐久性を向上させることができる。
【0041】
前記基材としては、屈曲性を有するものが用いられ、例えば、前述した放熱板の材料に用いられる樹脂を用いることができる。また、好ましい樹脂も同様である。
【0042】
金属としては、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、金、銀、銅及び錫等が挙げられ、これらを蒸着膜として用いることが好ましい。これらの中で、生産性、コスト、ガスバリア性の観点から、アルミニウム、ニッケルが好ましい。また、これらは1種単独で、あるいは合金を含め、2種以上を組み合わせて用いることができる。前記蒸着膜は、通常、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の蒸着法を用いてもよいし、蒸着法以外のDCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法等のスパッタリング法、またプラズマCVD法等の他の乾式法で成膜してもよい。なお、金属の蒸着膜等は、通常、導電性を有するため、前記基材等を介して熱電変換素子層に積層される。
【0043】
無機化合物としては、無機酸化物(MOx)、無機窒化物(MNy)、無機炭化物(MCz)、無機酸化炭化物(MOxCz)、無機窒化炭化物(MNyCz)、無機酸化窒化物(MOxNy)、及び無機酸化窒化炭化物(MOxNyCz)等が挙げられる。ここで、x、y、zは、各化合物の組成比を表す。前記Mとしては、珪素、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、インジウム、カルシウム、ジルコニウム、チタン、ホウ素、ハフニウム、又はバリウム等の金属元素が挙げられる。Mは1種単独でもよいし2種以上の元素であってもよい。各無機化合物は、酸化珪素、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ホウ素、酸化ハフニウム、酸化バリウム等の酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化マグネシウム等の窒化物;炭化珪素等の炭化物;硫化物;等を挙げることができる。また、これらの無機化合物から選ばれた2種以上の複合体(酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物、酸化窒化炭化物)であってもよい。また、SiOZnのように金属元素を2種以上含む複合体(酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物、酸化窒化炭化物も含む)であってもよい。これらは、蒸着膜として用いることが好ましいが、蒸着膜として成膜できない場合は、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、プラズマCVD法等の方法で成膜したものでもよい。
Mとしては、珪素、アルミニウム、チタン等の金属元素が好ましい。特にMが珪素の酸化珪素からなる無機層は、高いガスバリア性を有し、また、窒化珪素からなる無機層はさらに高いガスバリア性を有する。特に酸化珪素と窒化珪素の複合体(無機酸化窒化物(MOxNy))であることが好ましく、窒化珪素の含有量が多いとガスバリア性が向上する。
なお、無機化合物の蒸着膜は、通常、絶縁性を有する場合が多いが、酸化亜鉛、酸化インジウム等、導電性を有するものも含まれる。この場合、これらの無機化合物を熱電変換素子層に積層する場合、前述した基材を介して積層するか、熱電変換モジュールの性能に影響を与えない範囲で使用することになる。
【0044】
高分子化合物としては、ポリオルガノシロキサン、ポリシラザン系化合物等の珪素含有高分子化合物、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル等が挙げられる。これらの高分子化合物は1種単独で、あるいは2種以上を組合せて用いることができる。
これらの中でも、ガスバリア性を有する高分子化合物としては、珪素含有高分子化合物が好ましい。珪素含有高分子化合物としては、ポリシラザン系化合物、ポリカルボシラン系化合物、ポリシラン系化合物、及びポリオルガノシロキサン系化合物等が好ましい。これらの中でも、優れたガスバリア性を有するバリア層を形成できる観点から、ポリシラザン系化合物がより好ましい。
【0045】
また、無機化合物の蒸着膜、またはポリシラザン系化合物を含む層に改質処理を施して形成された酸素、窒素、珪素を主構成原子として有する層からなる酸窒化珪素層が、層間密着性、ガスバリア性、及び屈曲性を有する観点から、好ましく用いられる。
ガスバリア層は、例えば、ポリシラザン化合物含有層に、プラズマイオン注入処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、熱処理等を施すことにより形成できる。プラズマイオン注入処理により注入されるイオンとしては、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、及びクリプトン等が挙げられる。
プラズマイオン注入処理の具体的な処理方法としては、外部電界を用いて発生させたプラズマ中に存在するイオンを、ポリシラザン化合物含有層に対して注入する方法、または、外部電界を用いることなく、ガスバリア層形成用材料からなる層に印加する負の高電圧パルスによる電界のみで発生させたプラズマ中に存在するイオンを、ポリシラザン化合物含有層に注入する方法が挙げられる。
プラズマ処理は、ポリシラザン化合物含有層をプラズマ中に晒して、含ケイ素ポリマーを含有する層を改質する方法である。例えば、特開2012-106421号公報に記載の方法に従って、プラズマ処理を行うことができる。紫外線照射処理は、ポリシラザン化合物含有層に紫外線を照射して含ケイ素ポリマーを含有する層を改質する方法である。例えば、特開2013-226757号公報に記載の方法に従って、紫外線改質処理を行うことができる。
これらの中でも、ポリシラザン化合物含有層の表面を荒らすことなく、その内部まで効率よく改質し、よりガスバリア性に優れるガスバリア層を形成できることから、イオン注入処理が好ましい。
【0046】
金属、無機化合物及び高分子化合物を含む層の厚さは、用いる化合物等で異なるが、通常、0.01~50μm、好ましくは0.03~10μm、より好ましくは0.05~0.80μm、さらに好ましくは0.10~0.60μmである。金属、無機化合物及び樹脂を含む厚さが、この範囲であれば、水蒸気透過率を効果的に抑制できる。
【0047】
前記金属、無機化合物及び高分子化合物の、基材を有するガスバリア層の厚さは、10~80μmであることが好ましく、より好ましくは、15~50μm、さらに好ましくは20~40μmである。ガスバリア層の厚さがこの範囲にあると、優れたガスバリア性が得られるとともに、屈曲性と、被膜強度とを両立させることができる。
ガスバリア層は、1層であっても2層以上積層されていてもよい。また、2層以上積層される場合は、それらが同じであっても異なっていてもよい。
【0048】
〈電極〉
本発明に用いる電極は、熱電変換素子層を構成するP型熱電素子層とN型熱電素子層との電気的な接続を行うために設けられる。電極材料としては、金、銀、ニッケル、銅又はこれらの合金等が挙げられる。
前記電極の厚さは、好ましくは10nm~200μm、より好ましくは30nm~150μm、さらに好ましくは50nm~120μmである。電極の厚さが、上記範囲内であれば、電気伝導率が高く低抵抗となり熱電変換素子層のトータルの電気抵抗値を低く抑えられる。また、電極として十分な強度が得られる。
【0049】
〈熱電変換素子層〉
本発明に用いる熱電変換モジュールの熱電変換素子層は、前述したように、P型熱電素子層とN型熱電素子層とを含み、前記P型熱電素子層と前記N型熱電素子層とが面内方向に交互に隣接し配列され、電気的に直列接続となるように構成される。さらに、P型熱電素子層とN型熱電素子層との接続は、接続の安定性、熱電性能の観点から導電性の高い金属材料等から形成され、前述した電極材料を用いることが好ましい。
【0050】
本発明に用いる熱電変換素子層は、熱電半導体粒子、バインダー樹脂及びイオン液体を含む熱電半導体組成物からなることが好ましい。
【0051】
(熱電半導体粒子)
本発明に用いるP型熱電素子層及びN型熱電素子層からなる熱電変換素子層を構成する熱電半導体粒子としては、温度差を付与することにより、熱起電力を発生させることができる材料からなるものであれば特に制限されず、例えば、P型ビスマステルライド、N型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン-テルル系熱電半導体材料;ZnSb、Zn3Sb2、Zn4Sb3等の亜鉛-アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン-ゲルマニウム系熱電半導体材料;Bi2Se3等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi2、CrSi2、MnSi1.73、Mg2Si等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料、TiS2等の硫化物系熱電半導体材料等が用いられる。
【0052】
これらの中でも、本発明に用いる前記熱電半導体材料は、P型ビスマステルライド又はN型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料であることが好ましい。
前記P型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、BiXTe3Sb2-Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、P型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
また、前記N型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、Bi2Te3-YSeYで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3(Y=0の時:Bi2Te3)であり、より好ましくは0<Y≦2.7である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、N型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
【0053】
P型熱電素子層及びN型熱電素子層からなる熱電変換素子層に用いる熱電半導体粒子は、熱電半導体材料を、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕することが好ましい。
前記熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、エッジミル、製粉ミル、ハンマーミル、ペレットミル、ウィリーミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
【0054】
熱電半導体粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm~200μm、より好ましくは、10nm~30μm、さらに好ましくは、50nm~10μm、特に好ましくは、1~6μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
なお、熱電半導体粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(CILAS社製、1064型)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0055】
また、熱電半導体粒子は、アニール処理(以下、「アニール処理A」ということがある。)されたものであることが好ましい。アニール処理Aを行うことにより、熱電半導体粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換素子層のゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。アニール処理Aは、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体粒子に依存するが、通常、粒子の融点以下の温度で、かつ100~1500℃で、数分~数十時間行うことが好ましい。
【0056】
(バインダー樹脂)
本発明に用いるバインダー樹脂は、熱電半導体粒子間のバインダーとして働き、後述する熱電変換モジュールの屈曲性を高めることができるとともに、塗布等による薄膜の形成を容易にする。
【0057】
バインダー樹脂としては、焼成(アニール)温度で、90質量%以上が分解する樹脂であることが好ましく、95質量%以上が分解する樹脂であることがより好ましく、99質量%以上が分解する樹脂であることが特に好ましい。
また、熱電半導体組成物からなる塗布膜(薄膜)を焼成(アニール)処理等により熱電半導体粒子を結晶成長させる際に、機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される樹脂がより好ましい。
バインダー樹脂として、焼成(アニール)温度で90質量%以上が分解する樹脂、即ち、従来使用していた耐熱性樹脂よりも低温で分解する樹脂、を用いると、焼成によりバインダー樹脂が分解するため、焼成体中に含まれる絶縁性の成分となるバインダー樹脂の含有量が減少し、熱電半導体組成物における熱電半導体粒子の結晶成長が促進されるので、熱電変換素子層における空隙を少なくして、充填率を向上させることができる。
バインダー樹脂は、一態様として、焼成(アニール)温度400℃で90質量%以上が分解することが好ましい。
なお、焼成(アニール)温度で所定値(例えば、90質量%)以上が分解する樹脂であるか否かは、熱重量測定(TG)による焼成(アニール)温度における質量減少率(分解前の質量で分解後の質量を除した値)を測定することにより判断する。
【0058】
このようなバインダー樹脂として、熱可塑性樹脂や硬化性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂;ポリカーボネート;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ポリビニルピリジン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のポリビニル重合体;ポリウレタン;エチルセルロース等のセルロース誘導体;などが挙げられる。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、光硬化性アクリル樹脂、光硬化性ウレタン樹脂、光硬化性エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、熱電変換素子層の電気抵抗率の観点から、熱可塑性樹脂が好ましく、ポリカーボネート、エチルセルロース等のセルロース誘導体がより好ましく、ポリカーボネートが特に好ましい
【0059】
バインダー樹脂は、熱電半導体粒子に対する後述するアニール処理Bの温度に応じて適宜選択される。バインダー樹脂が有する最終分解温度以上で焼成(アニール)処理することが、熱電変換素子層の電気抵抗率の観点から好ましい。
本明細書において、「最終分解温度」とは、熱重量測定(TG)による焼成(アニール)温度における質量減少率が100%(分解後の質量が分解前の質量の0%)となる温度をいう。
【0060】
バインダー樹脂の最終分解温度は、通常150~600℃、好ましくは200~560℃、より好ましくは220~460℃、特に好ましくは240~360℃である。最終分解温度がこの範囲にあるバインダー樹脂を用いれば、熱電半導体材料のバインダーとして機能し、印刷時に薄膜の形成がしやすくなる。
【0061】
バインダー樹脂の熱電半導体組成物中の含有量は、0.1~40質量%、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%、特に好ましくは0.5~5質量%である。バインダー樹脂の含有量が、上記範囲内であると、熱電変換素子層の電気抵抗率を減少させることができる。
【0062】
(イオン液体)
本発明に用いるイオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、-50℃以上400℃未満のいずれかの温度領域において液体で存在し得る塩をいう。換言すれば、イオン液体は、融点が-50℃以上400℃未満の範囲にあるイオン性化合物である。イオン液体の融点は、好ましくは-25℃以上200℃以下、より好ましくは0℃以上150℃以下である。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、バインダー樹脂との相溶性に優れるため、熱電変換素子層の電気伝導率を均一にすることができる。
【0063】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウム系のアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl-、Br-、I-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、BF4
-、PF6
-、ClO4
-、NO3
-、CH3COO-、CF3COO-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、AsF6
-、SbF6
-、NbF6
-、TaF6
-、F(HF)n
-、(CN)2N-、C4F9SO3
-、(C2F5SO2)2N-、C3F7COO-、(CF3SO2)(CF3CO)N-等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体粒子及びバインダー樹脂との相溶性、熱電半導体粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。イオン液体のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl-、Br-及びI-から選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0065】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、4-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、3-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、3-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、4-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3,4-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、3,5-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4-メチル-ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージド等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、1-ブチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヨージドが好ましい。
【0066】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1、3-ジブチルイミダゾリウムメチルスルフェート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0067】
上記のイオン液体の電気伝導率は、好ましくは10-7S/cm以上、より好ましくは10-6S/cm以上である。電気伝導率が上記の範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0068】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる塗布膜(薄膜)を焼成(アニール)処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
本明細書において、「分解温度」とは、熱重量測定(TG)による焼成(アニール)温度における質量減少率が10%となる温度をいう。
【0069】
また、上記のイオン液体において、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、特に好ましくは1%以下である。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる塗布膜(薄膜)を焼成(アニール)処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0070】
イオン液体の熱電半導体組成物中の含有量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、特に好ましくは1.0~20質量%である。イオン液体の含有量が、上記の範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0071】
<無機イオン性化合物>
熱電半導体組成物には、さらに無機イオン性化合物を含んでいてもよい。
無機イオン性化合物は、少なくともカチオンとアニオンから構成される化合物である。無機イオン性化合物は室温において固体であり、400~900℃の温度領域のいずれかの温度に融点を有し、イオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体粒子間の電気伝導率の低減を抑制することができる。
【0072】
無機イオン性化合物の熱電半導体組成物中の含有量は、熱電半導体組成物が無機イオン化合物を含む場合、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、特に好ましくは1.0~10質量%である。無機イオン性化合物の含有量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下を効果的に抑制でき、結果として熱電性能が向上した膜が得られる。
なお、無機イオン性化合物とイオン液体とを併用する場合においては、熱電半導体組成物中における、無機イオン性化合物及びイオン液体の含有量の総量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、特に好ましくは1.0~10質量%である。
【0073】
<その他の添加剤>
熱電半導体組成物には、上記以外に、必要に応じて、さらに分散剤、造膜助剤、光安定剤、酸化防止剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤、樹脂安定剤、充てん剤、顔料、導電性フィラー、導電性高分子、硬化剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
熱電変換素子層の厚さは、熱電性能、屈曲性、皮膜強度の観点から、好ましくは1000μm以下、より好ましくは600μm以下、さらに好ましくは400μm以下である。
【0075】
[熱電変換モジュールの製造方法]
本発明の熱電変換モジュールの製造方法は、電極を形成する工程、熱電変換素子層を形成する工程、及び放熱板を形成する工程を含む。
以下、本発明に含まれる工程について、順次説明する。
【0076】
〈電極形成工程〉
熱電変換モジュールの製造工程においては、基板上に前述した電極材料等を用い、電極を形成する電極形成工程を含む。前記基板上に電極を形成する方法としては、前記基板上にパターンが形成されていない電極を設けた後、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法、または、スクリーン印刷法、インクジェット法等により直接電極のパターンを形成する方法等が挙げられる。
パターンが形成されていない電極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)等のドライプロセス、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、電極の材料に応じて適宜選択される。
【0077】
〈熱電素子層形成工程〉
熱電変換モジュールの製造工程には、P型熱電素子層、N型熱電素子層を形成する熱電変換素子層形成工程を含む。本発明に用いるP型熱電素子層及びN型熱電素子層は、前記基板の一方の面上に前記熱電半導体組成物から形成されることが好ましい。前記熱電半導体組成物を、前記基板上に塗布する方法としては、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スピンコート、ディップコート、ダイコート、スプレーコート、バーコート、ドクターブレード等の公知の方法が挙げられ、特に制限されない。塗膜をパターン状に形成する場合は、所望のパターンを有するスクリーン版を用いて簡便にパターン形成が可能なスクリーン印刷、スロットダイコート等が好ましく用いられる。
次いで、得られた塗膜を乾燥することにより、薄膜が形成されるが、乾燥方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。加熱温度は、通常、80~150℃であり、加熱時間は、加熱方法により異なるが、通常、数秒~数十分である。
また、熱電半導体組成物の調製において溶媒を使用した場合、加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば、特に制限はない。
薄膜形成後、さらにアニール処理(以下、アニール処理Bということがある。)を行うことが好ましい。該アニール処理Bを行うことで、熱電性能を安定化させるとともに、薄膜中の熱電半導体微粒子を結晶成長させることができ、熱電性能をさらに向上させることができる。アニール処理Bは、特に限定されないが、通常、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行われ、用いるバインダー樹脂及びイオン液体等の耐熱温度等に依存するが、100~500℃で、数分~数十時間行われる。
【0078】
〈放熱板形成工程〉
熱電変換モジュールの製造工程には、放熱板形成工程を含む。放熱板形成工程は熱電変換素子層上に放熱板を形成する工程である。
放熱板の形成は、公知の方法で行うことができ、例えば、放熱板を、熱電変換素子層の面に直接形成してもよいし、被覆層を介して形成してもよい。また、前記基板上に直接、又は、基板及び被覆層を介して形成してもよい。
前述したように、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工したものを、前記、熱電変換素子層に直接、又は被覆層を介して貼り合わせてもよい。また、前記基板上に直接、又は、基板及び被覆層を介して貼り合わせてもよい。
【0079】
〈被覆層形成工程〉
熱電変換モジュールの製造工程には、被覆層形成工程を含むことが好ましい。被覆層形成工程は、被覆層を熱電変換素子層と放熱板との間に形成する工程である。
【0080】
被覆層形成工程には、封止層形成工程を含むことが好ましい。封止層の形成は、公知の方法で行うことができ、例えば、前記熱電変換素子層の面に直接、又は前記基板を介して形成してもよい。また、予め剥離シート上に形成した封止層を、前記熱電変換素子層に貼り合わせて、封止層を熱電変換素子層に転写させて形成してもよい。さらに、封止層は、2種以上積層してよいし、他の被覆層を介してもよい。
【0081】
被覆層形成工程には、ガスバリア層形成工程を含むことが好ましい。ガスバリア層の形成は、公知の方法で行うことができ、例えば、前記熱電変換素子層の面に直接、又は前記基板を介して形成してもよい。また、予め剥離シート上に形成したガスバリア層を、前記熱電変換素子層に貼り合わせて、ガスバリア層を熱電変換素子層に転写させて形成してもよいし、ガスバリア層を有する基材を、熱電変換素子層に対向させ積層してもよい。また、ガスバリア層は、2種以上積層してもよく、他の被覆層を介してもよい。
【0082】
本発明の製造方法によれば、簡便な方法で、上下放熱板の重なりが抑制され、高い熱電性能が維持される熱電変換モジュールを製造することができる。
【実施例0083】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0084】
実施例で作製した熱電変換モジュールの出力評価、伝熱効率評価、さらに、上下放熱板間隔評価は以下の方法で行った。
(a)出力評価
実施例で作製した熱電変換モジュールの一方の面をホットプレート(アズワン社製、型名:HP-2SA)で40℃に加熱した状態で保持し、他方の面を水冷式チラー[冷却水循環装置(アズワン社製、型名:LTCi―150HP)、及び薄型水冷プレート(高木製作所社製)]で30℃に冷却することで、10℃の温度差を付与し、ディジタルハイテスタ(日置電機社製、型名:3801-50)により、熱電変換モジュールの熱電変換素子層の両端の取り出し電極部からの出力[起電力](mV/℃)を測定した。
(b)伝熱効率評価
実施例で作製した熱電変換モジュールに対し、出力評価と同様にホットプレートと水冷式チラーを用い、温度差を外部から付与した状態で、P型熱電素子層とN型熱電素子層との配列方向の、P型熱電素子層とN型熱電素子層との境界において、P型熱電素子層の両端部の境界間及びN型熱電素子層の両端部の境界間に生じた温度差ΔTTEを求め、伝熱効率[(ΔTTE/ΔTModule)×100(%)]を算出し、以下の基準で評価した。
A:伝熱効率40%以上
B:伝熱効率40%未満
ここで、ΔTTEは、熱電変換モジュールの素子1対当たりの起電力を、P型熱電素子とN型熱電素子のそれぞれのゼーベック係数[P型熱電素子(ゼーベック係数):205μV/K、N型熱電素子(ゼーベック係数):-118μV/K]の絶対値の和で除することで求めた。
また、ΔTModuleは、熱電変換モジュールの一方の面とホットプレートの間、また、熱電変換モジュールの他方の面と水冷式チラーの間に、熱電対(MiSUMi-VONA社製、型名:TH-8196)を設けた銅板を設置することにより求めた。
(c)第1の放熱板と第2の放熱板との間隔評価
実施例で作製した熱電変換モジュールのP型熱電素子層とN型熱電素子層との配列方向の断面を、デジタル顕微鏡(キーエンス社製、型名:VHX-5000)を用いて観察し、P型熱電素子層の両端の、隣接するN型熱電素子層との境界を跨ぐ第1の放熱板と第2の放熱板との間隔を測定した。同様に、N型熱電素子層の両端の、隣接するP型熱電素子層との境界を跨ぐ第1の放熱板と第2の放熱板との間隔を測定した。そして、P型熱電素子層の配列方向における長さと、N型熱電素子層の配列方向における長さとの和に対する、第1の放熱板と第2の放熱板との間隔の比をそれぞれ求めた。
なお、熱電変換素子層の厚さ方向に沿い第1の放熱板と第2の放熱板とに重なりが生じている場合は、当該重なりが生じている距離を第1の放熱板と第2の放熱板との間隔と定義し、P型熱電素子層の配列方向における長さと、N型熱電素子層の配列方向における長さとの和に対する第1の放熱板と第2の放熱板との間隔の比を求め、得られた値に負の記号を付した。
【0085】
(実施例1)
(熱電半導体粒子の作製方法)
ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるP型ビスマステルライドBi0.4Te3Sb1.6(高純度化学研究所製、最大粒径:90μm以下)を、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン社製、Premium line P-7)を使用し、粉砕することで、平均粒径1.2μmの熱電半導体粒子T1を作製した。T1の平均粒径は、粉砕して得られた熱電半導体粒子に関して、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)により粒度分布測定を行うことにより得た。
また、ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるN型ビスマステルライドBi2Te3(高純度化学研究所製、最大粒径:90μm以下)を上記と同様に粉砕し、平均粒径1.4μmの熱電半導体微粒子T2を作製した。T2の平均粒径は、T1の平均粒径と同様に粉砕して得られた熱電半導体粒子に関して、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)により粒度分布測定を行うことにより得た。
(熱電半導体組成物の作製)
・塗工液(P)
得られたP型ビスマス-テルル系熱電半導体材料の粒子T1を75.7質量%、ポリアミドイミド溶液(荒川化学工業社製、製品名:コンポラセンAI301、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:19質量%)12.7質量%、及びイオン液体(広栄化学工業社製、品名:IL-P18B)8.8質量%、希釈剤(N-メチルピロリドン:ブチルセロソルブ=8質量%:2質量%)2.8質量%を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(P)を調製した。
・塗工液(N)
得られたN型ビスマス-テルル系熱電半導体材料の微粒子T2を82.3質量%、ポリアミドイミド溶液(荒川化学工業社製、製品名:コンポラセンAI301、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:19質量%)13.2質量%、及びイオン液体(広栄化学工業社製、製品名:IL-P18B)4.5質量%を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(N)を調製した。
【0086】
(電極の形成及び配置)
図3は本発明の実施例に用いたP型熱電素子層及びN型熱電素子層からなる熱電変換素子層と電極との位置関係の一例を示す平面図であり、(a)はポリイミド基板上に形成した電極の配置に係る概念図を示し、(b)は電極上に形成したP型熱電素子層及びN型熱電素子層からなる熱電変換素子層の配置に係る概念図を示す。
電極3は、銅箔を添付したポリイミド基板2a(宇部エクシモ社製、製品名:ユピセルN、ポリイミド基板厚み:50μm、銅箔:9μm)を準備し、ポリイミド基板2上の銅箔を、塩化第二鉄溶液を用いウェットエッチングし、後述するP型熱電素子層4及びN型熱電素子層5の配列に対応するように電極パターンとして形成し、次いで、パターニングされた銅箔上に、無電解めっきによりニッケル層(厚さ:3μm)を積層し、さらにニッケル層上に無電解めっきにより金層(厚さ:40nm)を積層することで、電極3のパターン層を形成した。電極3の各サイズは、550μm×800μmであり、3aは、熱電変換素子層7の各列の連結用電極(サイズ:550μm×2.4mm)であり、3bは起電力取り出し用電極(サイズ:3mm×5mm)であり、6はP型熱電素子層4とN型熱電素子層との境界を示す。
【0087】
(熱電素子層の形成及び配置)
前記ポリイミド基板2a上の電極3上に、長さ1mm(LP)×0.8mmのP型熱電素子層4と、長さ1mm(LN)×0.8mmのN型熱電素子層5とが交互に配置されるように、まず、上記で調製した塗工液(N)を、板厚が80μm、開口が1mm×0.8mmの印刷版を用いて、スクリーン印刷法により前記ポリイミド基板2a上に塗布し、温度125℃で、10分間大気下で乾燥し、次いで、同様に、上記で調製した塗工液(P)を、板厚が30μm、開口が1mm×0.8mmの印刷版を用いて、前記ポリイミド基板2a上に塗布し、温度125℃で、10分間大気下で乾燥した。さらに、得られたそれぞれの薄膜に対し、水素とアルゴンの混合ガス(水素:アルゴン=3体積%:97体積%)雰囲気下で、加温速度5K/minで昇温し、310℃で30分間保持し、アニール処理を行うことにより、熱電半導体粒子を結晶成長させ、P型熱電素子層4及びN型熱電素子層5を作製した。
得られたP型熱電素子層4とN型熱電素子層5は、長さ0.8mmの辺で接するように隣接して1つの対となっている。P型熱電素子層4及びN型熱電素子層5は、合計408対形成され、ポリイミド基板2の面内に、電気的に直列になるように配置され、熱電変換素子層7を構成しており、該熱電変換素子層7は折り返し構造を有している。具体的には、P型熱電素子層4とN型熱電素子層5とを17対連結したものを一列として、これを24列設けた。熱電変換素子層7の各列は、連結用電極3aにより、電気的に直列接続されている。なお、上記熱電変換素子層7及び電極3の配置は、概念的に示したものであり、実際に作製した熱電変換素子層7及び電極3とは、サイズ比及び個数が異なる。
【0088】
(被覆層及び放熱板の配置)
図2を用い、作製した熱電変換モジュールの断面構成を説明する。
アルミニウム膜を蒸着したPETフィルム(三菱伸銅社製、PETフィルム厚さ:12μm、アルミニウム膜厚さ:4nm)を用い、その両面に粘接着性を有する接着層(ソマール社製、商品名:EP-0002EF-01MB、厚さ:25μm)をラミネートした構成の被覆層11
Bを作製した。ラミネートは、70℃で行った。
ポリイミド基板2a上のP型熱電素子層4とN型熱電素子層5とからなる熱電変換素子層7の第2の表面側8
Bには上記の被覆層11
Bを介して、また熱電変換素子層7の第1の表面側8
Aにはポリイミド基板2a、及び粘接着性を有する接着層(ソマール社製、商品名:EP-0002EF-01MB、厚さ:25μm)の単層からなる被覆層11
Aをこの順に介して、高熱伝導性材料(銅箔)からなる以下の第1の放熱板9
A、第2の放熱板9
Bを、
図2に示すように、境界6を跨ぐように配置した。
・第1の放熱板9
A
(C1020、熱伝導率:398(W/m・K)、厚さ:200μm、L
A:0.500mm、L
AL:0.250mm、L
AR:0.250mm、奥行き:100mm)
・第2の放熱板9
B
(C1020、熱伝導率:398(W/m・K)、厚さ:200μm、L
B:0.500mm、L
BL:0.250mm、L
BR:0.250mm、奥行き:100mm)
[D
P:0.500mm、D
N:0.500mm、L
P:1.000mm、L
N:1.000mm、D
N:0.500mm、比D
P/(L
P+L
N):0.250、比D
N/(L
P+L
N):0.250]
【0089】
熱電変換素子層7への被覆層11Bのラミネート及び基板への粘着層の単層からなる被覆層11Aのラミネートは、真空下、90℃、0.2MPaで10秒間行った。また、被覆層11Bへの第2の放熱板9Bのラミネート及び接着層の単層からなる被覆層11Aへの第1の放熱板9Aのラミネートは、真空下、90℃で10秒間行った。その後、常圧下、150℃で30分間、熱電変換モジュールを静置し、粘接着性を有する接着層を硬化させ、熱電変換モジュールを得た。
【0090】
(実施例2)
実施例1において、第1の放熱板9A及び 第2の放熱板9Bを以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして熱電変換モジュールを作製した。
・第1の放熱板9A
(C1020、熱伝導率:398(W/m・K)、厚さ:200μm、LA:0.750mm、LAL:0.375mm、LAR:0.375mm、奥行き:100mm)
・第2の放熱板9B
(C1020、熱伝導率:398(W/m・K)、厚さ:200μm、LB:0.750mm、LBL:0.375mm、LBR:0.375mm、奥行き:100mm)
[DP:0.250mm、DN:0.250mm、LP:1.000mm、LN:1.000mm、比DP/(LP+LN):0.125、比DN/(LP+LN):0.125]
【0091】
(実施例3)
実施例1において、第1の放熱板9A及び 第2の放熱板9Bを以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして熱電変換モジュールを作製した。
・第1の放熱板9A
(C1020、熱伝導率:398(W/m・K)、厚さ:200μm、LA:0.750mm、LAL:0.300mm、LAR:0.450mm、奥行き:100mm)
・第2の放熱板9B
(C1020、熱伝導率:398(W/m・K)、厚さ:200μm、LB:0.750mm、LBL:0.450mm、LBR:0.300mm、奥行き:100mm)
[DP:0.100mm、DN:0.400mm、LP:1.000mm、LN:1.000mm、比DP/(LP+LN):0.050、比DN/(LP+LN):0.200]
【0092】
(比較例1)
実施例1において、第1の放熱板9A及び 第2の放熱板9Bを以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして熱電変換モジュールを作製した。
・第1の放熱板9A
(C1020、熱伝導率:398(W/m・K)、厚さ:200μm、LA:1.000mm、LAL:0.420mm、LAR:0.580mm、奥行き:100mm)
・第2の放熱板9B
(C1020、熱伝導率:398(W/m・K)、厚さ:200μm、LB:1.000mm、LBL:0.580mm、LBR:0.420mm、奥行き:100mm)
[DP:-0.080mm、DN:0.080mm、LP:1.000mm、LN:1.000mm、比DP/(LP+LN):-0.040、比DN/(LP+LN):0.040]
【0093】
(比較例2)
実施例1において、第1の放熱板9A及び 第2の放熱板9Bを以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして熱電変換モジュールを作製した。
・第1の放熱板9A
(C1020、熱伝導率:398(W/m・K)、厚さ:200μm、LA:1.100mm、LAL:0.450mm、LAR:0.650mm、奥行き:100mm)
・第2の放熱板9B
(C1020、熱伝導率:398(W/m・K)、厚さ:200μm、LB:1.100mm、LBL:0.650mm、LBR:0.450mm、奥行き:100mm)
[DP:-0.300mm、DN:0.100mm、LP:1.000mm、LN:1.000mm、比DP/(LP+LN):-0.150、比DN/(LP+LN):0.050]
【0094】
実施例1~3及び比較例1~2で作製した熱電変換モジュールの出力[起電力]、伝熱効率及び上下放熱板間隔の評価結果を表1に示す。
【0095】
【0096】
第1の放熱板9Aと第2の放熱板9B間の間隔DP、第2の放熱板9Bと第1の放熱板9A間の間隔DN、P型熱電素子層の長さ(配列方向)LP、及びN型熱電素子層の長さ(配列方向)LNを用いて定義される、比DP/(LP+LN)、比DN/(LP+LN)が、本発明に規定される特定の値を満たす実施例1~3は、これを満たさない比較例1~2に比べ、起電力及び伝熱効率が優れており、熱電性能の低下が抑制されることが分かる。
本発明の熱電変換モジュールの構成は、上下放熱板の重なりによる面内方向に発生する温度差の低下が抑制され、高い熱電性能を維持できることから、インプレーン型の熱電変換モジュールに適用される。