(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046956
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/12 20060101AFI20230329BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20230329BHJP
H02J 3/18 20060101ALI20230329BHJP
H02J 3/01 20060101ALI20230329BHJP
H02J 3/26 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
H02M1/12
H02M7/48 S
H02J3/18 142
H02J3/01
H02J3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155818
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 元紀
(72)【発明者】
【氏名】久保田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】新井 卓郎
【テーマコード(参考)】
5G066
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5G066EA03
5G066FA02
5G066FB13
5G066GA02
5H740AA01
5H740BA12
5H740BB05
5H740BB08
5H740NN03
5H740NN08
5H770AA05
5H770BA11
5H770DA01
5H770DA03
5H770DA24
5H770DA30
5H770DA31
5H770DA41
5H770HA02Y
(57)【要約】
【課題】 スイッチ素子の破壊やコンデンサの寿命低下を防ぐことができる信頼性にすぐれた電力変換装置を提供する。
【解決手段】 電力変換装置は、三相交流電源の各電源ラインに接続されそれぞれが複数の単位変換器を直列接続してなるマルチレベル変換器と、制御手段とを備える。制御手段は、前記負荷に流れる電流の高調波成分を検出し、その高調波成分を抑制するために前記各電源ラインに流すべき補償電流を求め、その補償電流が得られるよう前記マルチレベル変換器の出力電圧を制御するとともに、前記各電源ラインと前記マルチレベル変換器との間に流れる電流の実効値が閾値に収まるよう前記補償電流の値を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷が接続される三相交流電源の各電源ラインにその負荷とは並列の関係に接続される電力変換装置であって、
前記各電源ラインに接続され、それぞれが複数の単位変換器を直列接続してなるマルチレベル変換器と、
前記負荷に流れる電流の高調波成分を検出し、その高調波成分を抑制するために前記各電源ラインに流すべき補償電流を求め、その補償電流が得られるよう前記マルチレベル変換器の出力電圧を制御するとともに、前記各電源ラインと前記マルチレベル変換器との間に流れる電流の実効値が閾値に収まるよう前記補償電流の値を制御する制御手段と、
を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記負荷に流れる負荷電流を検出する第1検出手段と、
前記各電源ラインから前記マルチレベル変換器への入力電流を検出する第2検出手段と、
をさらに備え、
前記制御手段は、
前記第1電流検出手段で検出される負荷電流の高調波成分を検出する高調波検出部と、
前記高調波検出部で検出される前記高調波成分を抑制するために前記各電源ラインに流すべき補償電流を算出する補償電流算出部と、
前記補償電流算出部で算出される前記補償電流にゲインを乗算するゲイン乗算部と、
前記ゲイン乗算部の乗算がなされた前記補償電流を得るのに必要な前記マルチレベル変換器の出力電圧を制御する電圧制御部と、
前記補償電流算出部で算出される前記補償電流または前記第2電流検出手段で検出される入力電流に基づいて、前記各電源ラインと前記マルチレベル変換器との間に流れる電流の実効値を算出する実効値算出部と、
前記実効値算出部で算出される実効値と閾値とを比較し、その比較結果に応じて前記乗算部の前記ゲインを制御するゲイン制御部と、
を含む、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記ゲイン制御部は、前記実効値算出部で算出される前記実効値が前記閾値以下の場合は前記ゲインを“1”に設定し、前記実効値算出部で算出される前記実効値のいずれかが前記閾値より大きい場合はその閾値と前記実効値のうち最大値との比を前記ゲインとして設定する、
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記三相交流電源の電圧の不平衡率を算出し、算出した不平衡率が設定値未満の場合は前記マルチレベル変換器を作動し、前記算出した不平衡率が前記設定値以上の場合は前記マルチレベル変換器を停止する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、負荷が接続される三相交流電源の各電源ラインにその負荷とは並列の関係に接続される電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器等の負荷が接続される三相交流電源の各電源ラインにその負荷とは並列の関係に接続され、その負荷に流れる電流に含まれる高調波成分を抑制するアクティブフィルタ等の電力変換装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三相交流電源の電圧に不平衡が生じた場合、各電源ラインと電力変換装置との間に流れる各相電流に不平衡が生じる。各電源ラインと電力変換装置との間に流れる各相電流に不平衡が生じると、電力変換装置における特定の相のスイッチ素子やコンデンサに電流が集中し、スイッチ素子の破壊やコンデンサの寿命低下を招く可能性がある。
【0005】
本発明の実施形態の目的は、スイッチ素子の破壊やコンデンサの寿命低下を防ぐことができる信頼性にすぐれた電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の電力変換装置は、三相交流電源の各電源ラインに接続されそれぞれが複数の単位変換器を直列接続してなるマルチレベル変換器と、制御手段とを備える。制御手段は、前記負荷に流れる電流の高調波成分を検出し、その高調波成分を抑制するために前記各電源ラインに流すべき補償電流を求め、その補償電流が得られるよう前記マルチレベル変換器の出力電圧を制御するとともに、前記各電源ラインと前記マルチレベル変換器との間に流れる電流の実効値が閾値に収まるよう前記補償電流の値を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】一実施形態における電源電圧の零クロス点検出回路の構成を示す図。
【
図4】一実施形態における制御部の要部の構成を示すブロック図。
【
図5】一実施形態における線間電圧および負荷電流の波形を示す図。
【
図6】一実施形態における入力電流の実効値の変化の例を示す図。
【
図7】一実施形態における初期充電時の各コンデンサ電圧の変化の例を示す図。
【
図8】一実施形態における制御部の制御を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、三相交流電源1のR相,S相,T相電源ライン(第1,第2,第3電源ライン)Lr,Ls,Ltに負荷である例えば空気調和機2が接続されている。空気調和機2は、ブリッジ接続した複数のダイオードにより電源ラインLr,Ls,Ltの電源電圧Er,Es,Etを整流する整流回路3、この整流回路3の出力電圧が直流リアクトル4を介して印加される直流コンデンサ5、この直流コンデンサ5の電圧を所定周波数の交流電圧に変換し出力するインバータ6、このインバータ6の出力により動作する圧縮機モータ7などを含む。
【0009】
この空気調和機2が接続されている電源ラインLr,Ls,Ltに、本実施形態の電力変換装置10が、空気調和機2とは並列の関係に接続されている。
【0010】
電力変換装置10は、初期充電回路A、バッファリアクトル11r,11s,11t、この初期充電回路Aおよびバッファリアクトル11r,11s,11tを介して電源ラインLr,Ls,Ltに一端が接続され他端が相互接続(スター結線)されたクラスタ(第1,第2,第3クラスタ)12r,12s,12t、電源ラインLr,Ls,Ltにおける初期充電回路Aの接続位置より空気調和機2側の位置に配置され電源電圧Er,Es,Etおよび空気調和機2に流れる電流(負荷電流という)Ir,Is,Itを検出する検出部(第1検出手段)13、初期充電回路Aとバッファリアクトル11r,11s,11tとの間の通電路に配置され電源ラインLr,Ls,Ltとクラスタ12r,12s,12tとの間に流れる電流Irm,Ism,Itmを検出する検出部(第2検出手段)14、電源ラインLr,Ls,Ltに接続され線間電圧Ers,Est,Etrの零クロス点を検出する検出部15、これら検出部13,14,15の検出結果に応じてクラスタ12r,12s,12tを制御する制御部16を含む。なお、これらのクラスタ12r,12s,12tによってマルチレベル変換機12が形成されている。すなわち、制御部16は、マルチレベル変換機12を制御する。
【0011】
初期充電回路Aは、電源ラインLr,Ls,Ltとバッファリアクトル11r,11s,11tとの間の通電路に挿入された抵抗器Rr,Rs,Rt、およびこれら抵抗器Rr,Rs,Rtに並列接続された開閉器Sr,Ss,Stを含む。開閉器Sr,Ss,Stは、制御部16によって開閉が制御されるリレー接点または半導体スイッチであり、三相交流電源1の電源投入時はそれまでのオフ状態を継続することで抵抗器Rr,Rs,Rtを介したコンデンサ充電用の通電路を形成し、電源投入から所定時間が経過したところでターンオンすることにより抵抗器Rr,Rs,Rtに対するバイパス通電路を形成する。所定時間とは、クラスタ12r,12s,12tにおける各単位変換器20r~20tのコンデンサ25が十分に充電されるのに要する時間である。なお、抵抗器Rr,Rs,Rtを複数の正特性サーミスタに置き換える構成としてもよい。
【0012】
電源ラインLrに接続されたクラスタ12rは、それぞれが複数レベル(マルチレベル)の直流電圧をスイッチングにより選択的に生成し出力する複数の単位変換器(セル)20rを直列接続(カスケード接続)してなるいわゆる多直列変換器クラスタであり、各単位変換器20rの出力電圧(セル出力電圧)を足し合わせることにより高調波を低減するための正弦波に近い波形の交流電圧Vrmを生成し出力する。
【0013】
各単位変換器20rは、一対の出力端子、それぞれ寄生ダイオードDを有するスイッチ素子21,22,23,24、これらスイッチ素子21~24を介して上記出力端子に接続されたコンデンサ(直流コンデンサ)25、このコンデンサ25の電圧(コンデンサ電圧)Vcを検出して制御部16に知らせる電圧検出部26などを含み、スイッチ素子21~24のオン,オフ(開閉)による複数の通電路の選択的な形成により複数レベル(正レベル・零レベル・負レベル)の直流電圧を生成し出力する。スイッチ素子21~24は、半導体スイッチ素子であり例えばMOSFETやIGBTが用いられる。
【0014】
電源ラインLsに接続されたクラスタ12sは、それぞれが複数レベルの直流電圧をスイッチングにより選択的に生成し出力する複数の単位変換器20sを直列接続してなるいわゆる多直列変換器クラスタであり、各単位変換器20sの出力電圧(セル出力電圧)を足し合わせることにより高調波を低減するための正弦波に近い波形の交流電圧Vsmを生成し出力する。各単位変換器20sの構成は、各単位変換器20rの構成と同じである。
【0015】
電源ラインLtに接続されたクラスタ12tは、それぞれが複数レベルの直流電圧をスイッチングにより選択的に生成し出力する複数の単位変換器20tを直列接続してなるいわゆる多直列変換器クラスタであり、各単位変換器20tの出力電圧(セル出力電圧)を足し合わせることにより高調波を低減するための正弦波に近い波形の交流電圧Vtmを生成し出力する。各単位変換器20tの構成は、各単位変換器20rの構成と同じである。
【0016】
検出部15は、線間電圧Ers,Est,Etrの零クロス点を検出するもので、
図2に示す構成の零クロス点検出回路を3相分有している。この3つの零クロス点検出回路の構成は同じであり、線間電圧Ersの零クロス点検出回路の構成を代表として
図2に示している。
【0017】
線間電圧Ersの零クロス点検出回路は、電源ラインLr,Lsの線間電圧Ersをダイオード31および抵抗器32を介してフォトカプラ33のフォトダイオード33aに加え、一定の直流電圧Vを抵抗器34を介してフォトカプラ33のフォトトランジスタ33bのコレクタ・エミッタ間に加え、フォトトランジスタ33bのコレクタ・エミッタ間に生じる電圧Vroを零クロス点検出信号として出力する。すなわち、線間電圧Ersの変化に応じてフォトダイオード33aが発光と消光を繰り返し、その発光と消光に応じたフォトトランジスタ33bのオン,オフにより、
図3に示すように線間電圧Ersの零クロス点ごとに電圧が高レベルと低レベルに変化する波形の零クロス点検出信号Vroを出力する。Vroが高レベルから低レベルに変化する時点、低レベルから高レベルに変化する時点が零クロス点である。同様に、線間電圧Estの零クロス点検出回路は零クロス点検出信号Vsoを出力し、線間電圧Etrの零クロス点検出回路は零クロス点検出信号Vtoを出力する。
【0018】
制御部16は、電源に流れる電流、すなわち後述する電流(Ir+Irm)、(Is+Ism)、(It+Itm)、をできるだけ電源電圧Er,Es,Etと同期した正弦波に近づけるために、検出部13で検出される負荷電流Ir,Is,Itの高調波成分を検出し、その高調波成分を抑制するために電源ラインLr,Ls,Ltに流すべき補償電流(負荷電流Ir,Is,Itに足し合わせるべき補償電流)を算出し、その補償電流を得るのに必要なマルチレベル変換器の出力電圧(交流電圧)Vrm,Vsm,Vtmを算出し、その出力電圧Vrm,Vsm,Vtmが得られるようにマルチレベル変換器12における各単位変換器20r~20tのスイッチングを制御する。マルチレベル変換器12から電源ラインLr,Ls,Ltに交流電圧Vrm,Vsm,Vtmが供給されることにより、負荷電流Ir,Is,Itに含まれる高調波成分を抑制することができる。すなわち、電力変換装置10はいわゆるアクティブフィルタとして動作する。
【0019】
とくに、制御部16は、電源ラインLr,Ls,Ltとマルチレベル変換器12との間に流れる電流Irm,Ism,Itmの実効値が閾値(所定の上限値)に収まるよう、上記補償電流の値を制御(フィードバック制御)する。以下、電流Irm,Ism,Itmのことをマルチレベル変換器12への入力電流という。
【0020】
制御部16は、これらの制御を実行する具体的な手段として、
図4に示す高調波検出部41、補償電流算出部42、ゲイン乗算部43、電圧制御部44、座標変換部45、実効値算出部46、ゲイン制御部47を含む。
高調波検出部41は、検出部13で検出される負荷電流Ir,Is,Itの高調波成分Irh,Ish,Ithを検出する。補償電流算出部42は、高調波検出部41で検出される高調波成分Irh,Ish,Ithを抑制するために電源ラインLr,Ls,Ltに流すべき補償電流(負荷電流Ir,Is,Itに足し合わせるべき補償電流)の回転座標軸上の指令値(補償電流指令値という)Id,Iqを算出する。ゲイン乗算部43は、補償電流算出部42で算出される補償電流指令値Id,IqにゲインKをそれぞれ乗算し、その乗算結果を補償電流指令値Idref,Iqrefとして出力する。電圧制御部44は、ゲイン乗算部43から出力される補償電流指令値Idref,Iqrefに追従する入力電流Irm,Ism,Itmを生じさせるために必要なマルチレベル変換器12の出力電圧(交流電圧)Vrm,Vsm,Vtmを算出する。
【0021】
制御部16は、この電圧制御部44で算出される出力電圧Vrm,Vsm,Vtmがマルチレベル変換器12で得られるよう、マルチレベル変換器12における各単位変換器20r~20tの出力電圧を制御する。
【0022】
座標変換部45は、補償電流算出部42で算出される補償電流指令値Id,Iqを座標変換により静止座標軸上の入力電流指令値Irm_ref,Ism_ref,Itm_refに変換する。実効値算出部46は、座標変換部45で得られる入力電流指令値Irm_ref,Ism_ref,Itm_refに基づき、マルチレベル変換器12への現時点の入力電流Irm,Ism,Itmの実効値Irm_rms,Ism_rms,Itm_rmsを算出する。
【0023】
ゲイン制御部47は、実効値算出部46で算出される実効値Irm_rms,Ism_rms,Itm_rmsと予め定めている閾値Imとを比較し、その比較結果に応じて乗算部43のゲインKを制御する。具体的には、実効値Irm_rms,Ism_rms,Itm_rmsが閾値Im以下の場合、ゲインKを“1”に設定する(K=“1”)。実効値Irm_rms,Ism_rms,Itm_rmsのいずれかが閾値Imより大きい場合、閾値Imと実効値Irm_rms,Ism_rms,Itm_rmsのうち最大値との比(Im/実効値の最大値)をゲインK(=“1”未満)として設定する。
【0024】
電源電圧Er,Es,Etが不平衡状態にある場合の線間電圧Ers,Est,Etrおよび負荷電流Ir,Is,Itの例を
図5に示し、それに伴う入力電流Irm,Ism,Itmの実効値Irm_rms,Ism_rms,Itm_rmsの変化の例を
図6に示している。
【0025】
すなわち、電源電圧Er,Es,Etが不平衡状態にあるとき、負荷電流Ir,Is,Itがアンバランスとなる。アンバランスとなった負荷電流Ir,Is,Itを補償する電流Irm,Ism,Itmをマルチレベル変換器12が出力するため、このままでは、特定相のクラスタに電流が多く集中することになり、例えば
図6のように入力電流Irmの実効値Ir_rmsが大きく上昇して閾値Imを超えてしまい、クラスタ12rにおける各単位変換器20rのスイッチ素子21~24の破壊やコンデンサ25の寿命低下を招く可能性がある。
【0026】
そこで、入力電流Irmの実効値Irm_rmsが閾値Imに達したところで、高調波抑制用の補償電流指令値Id,Iqに対するゲインKを通常の“1”未満の値とすることで、入力電流Irmの実効値Irm_rmsを閾値Im以下に抑制することができる。ここで、ゲインKは、閾値Imと実効値Irm_rms,Ism_rms,Itm_rmsのうち最大値との比(Im/実効値の最大値)が設定されている。この結果、実効値Irm_rms,Ism_rms,Itm_rmsのうち最大値を示している電流が閾値Imに収まるようになる。一方、最大値ではない実効値の電流は、このゲインKの低下に伴いより低い値に制御されるが、各実効値Irm_rms,Ism_rms,Itm_rmsは一律の比率(ゲインK)低下させられるため、高調波抑制用の補償電流は同じ比率で低減される。そして、これにより、クラスタ12rにおける各単位変換器20rのスイッチ素子21~24の破壊やコンデンサ25の寿命低下を防ぐことができる。
【0027】
なお、電源電圧Er,Es,Etが不平衡状態にある場合にクラスタ12r,12s,12tの各コンデンサ25を初期充電した際の各コンデンサ電圧Vcの変化を
図7に示している。Vcrはマルチレベル変換器12rにおける各コンデンサ電圧Vcの平均値、Vcsはマルチレベル変換器12sにおける各コンデンサ電圧Vcの平均値、Vctはマルチレベル変換器12tにおける各コンデンサ電圧Vcの平均値である。この例では、コンデンサ電圧平均値Vcr,Vcsはほぼ同じ値で推移し、コンデンサ電圧平均値Vctはコンデンサ電圧平均値Vcr,Vcsより低い値で推移している。つまり、コンデンサ電圧平均値Vcr,Vcs,Vctがアンバランスとなる。
【0028】
制御部16は、検出部15で得られる零クロス点信号Vro,Vso,Vto、クラスタ12rにおける各単位変換器20rの各電圧検出部26で検出される各コンデンサ電圧Vcの平均値Vcr、クラスタ12sにおける各単位変換器20sの各電圧検出部26で検出される各コンデンサ電圧Vcの平均値Vcs、クラスタ12tにおける各単位変換器20tの各電圧検出部26で検出される各コンデンサ電圧Vcの平均値Vct、クラスタ12rにおける各単位変換器20rの個数N、クラスタ12sにおける各単位変換器20sの個数N、クラスタ12tにおける各単位変換器20tの個数Nを用いる下式の演算により、線間電圧Ers,Est,Etrを求める。√2は“2”の平方根である。
【0029】
Ers=(Vcr-Vcs)×N/√2
Est=(Vcs-Vct)×N/√2
Etr=(Vct-Vcr)×N/√2
そして、制御部16は、求めた線間電圧Ers,Est,Etrを用いる下式の演算により、不平衡率を求める。
不平衡率=(線間電圧Ers,Est,Etrと平均電圧Eaveとの差の最大値)/(平均電圧Eave)×100%
ここで、平均電圧Eaveは、線間電圧Ers,Est,Etrの平均値のことで、(Ers+Est+Etr)/3として求める。この平均電圧Eaveと線間電圧Ers,Est,Etrとの差(絶対値)Eave-Ers,Eave-Est,Eave-Estのうち最も大きい値を、平均電圧Eaveで除算して得られる値の百分率で表現したものが不平衡率である。
【0030】
制御部16は、
図8のフローチャートに示すように、電源電圧Er,Es,Etの不平衡率を算出し(S1)、算出した不平衡率が設定値未満たとえば10%未満であるか否かを判定する(S2)。
【0031】
不平衡率が10%未満の場合(S2のYES)、制御部16は、入力電流Irm,Ism,Itmの実効値Irm_rms,Ism_rms,Itm_rmsを上記ゲインKの制御により閾値Im以下に抑制できるとの判断の下に、高調波を抑制するためのマルチレベル変換器12の作動を続ける(S3)。
【0032】
不平衡率が10%以上の場合(S2のNO)、制御部16は、入力電流Irm,Ism,Itmの実効値Irm_rms,Ism_rms,Itm_rmsを上述の閾値Im以下に抑制することは難しいとの判断の下に、マルチレベル変換器12を停止し、マルチレベル変換器12を保護する。
【0033】
上記実施形態では、クラスタ12r,12s,12tのそれぞれの他端を相互接続(スター結線)する構成の電力変換装置について説明したが、クラスタ12r,12s,12tを電源ラインLr,Ls,Ltの相互間に接続するいわゆるデルタ結線の電力変換装置においても同様に実施可能である。
【0034】
その他、上記実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態および変形例は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
1…三相交流電源、Lr,Ls,Lt…電源ライン、3…空気調和機(負荷)、10…電力変換装置、12…マルチレベル変換器、12r,12s,12t…クラスタ、16…制御部、20r,20s,20t…単位変換器、21~24…スイッチ素子、25…コンデンサ