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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004698
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】電気炉および電気炉製鋼法
(51)【国際特許分類】
   F27B 3/08 20060101AFI20230110BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20230110BHJP
   C21C 5/52 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
F27B3/08
C21C7/00 101A
C21C5/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106562
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 言生
(72)【発明者】
【氏名】浅原 紀史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直人
【テーマコード(参考)】
4K013
4K014
4K045
【Fターム(参考)】
4K013BA17
4K013CD02
4K014CA01
4K014CB05
4K014CD12
4K014CD13
4K045AA04
4K045BA02
4K045RB02
4K045RC10
(57)【要約】
【課題】安価な炭材を使用しながら加炭速度を向上し、サイクルタイムを延長することなく溶鉄への加炭を実現することのできる、電気炉および電気炉製鋼法を提供する。
【解決手段】電気炉は黒鉛電極2と炭材添加装置3を有し、鉛直下方から見た電極下端の図形重心を通る鉛直線と溶鉄静止面との交点(電極中心点22)、炭材添加装置3からの炭材の溶鉄静止面への到達位置(炭材到達点23)について、炭材到達点23と電極中心点22との距離が電極半径r以内の範囲となるよう、炭材添加装置の位置と角度が設定されており、さらに電気炉1が酸素を炉内に供給する酸素ランス8を有する場合であっても、電極中心点22から電極半径rの2倍以内の位置に酸素ランス8の酸素到達点24が位置していないことを特徴とする電気炉。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛電極を用いた電気炉において、鉛直下方から見た前記黒鉛電極下端の図形重心を通る鉛直線と溶鉄静止面との交点を「電極中心点」と呼び、前記電気炉は炭材添加装置を有し、当該炭材添加装置からの炭材の溶鉄静止面への到達位置を「炭材到達点」と呼び、前記炭材到達点と前記電極中心点との距離が電極半径以内の範囲となるよう、炭材添加装置の位置と角度が設定されており、さらに前記電気炉が酸素を炉内に供給する酸素ランスを有する場合には、前記電極中心点から電極半径の2倍以内の位置に前記酸素ランスの軸中心が向けられていないことを特徴とする電気炉。
【請求項2】
前記炭材添加装置が、吹き付けランス又は投入シュートであることを特徴とする請求項1記載の電気炉。
【請求項3】
前記炭材添加装置が、炭材の添加方向を変更可能であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電気炉。
【請求項4】
前記黒鉛電極は中空電極であり、前記炭材添加装置に代えて、又は前記炭材添加装置とともに、前記中空電極の中空部を経由して炭材を添加することを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の電気炉。
【請求項5】
酸素を炉内に供給する前記酸素ランスを有し、前記電極中心点から電極半径の2倍以上離れた位置に前記酸素ランスの軸中心が向いて設置されていることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の電気炉。
【請求項6】
黒鉛電極を用いた電気炉において溶鉄に加炭する電気炉製鋼法であって、鉛直下方から見た前記黒鉛電極下端の図形重心を通る鉛直線と溶鉄静止面との交点を「電極中心点」と呼び、前記電気炉は炭材添加装置を有し、当該炭材添加装置によって前記電極中心点から電極半径と同じ半径以内の範囲に炭材を供給し、さらに酸素を炉内に供給する酸素ランスを有する場合には、前記電極中心点から電極半径の2倍以内の位置に酸素を供給しないことを特徴とする電気炉製鋼法。
【請求項7】
前記炭材添加装置が、吹き付けランス又は投入シュートであることを特徴とする請求項6記載の電気炉製鋼法。
【請求項8】
前記炭材添加装置が、炭材の添加方向を変更可能であることを特徴とする請求項6または請求項7記載の電気炉製鋼法。
【請求項9】
前記黒鉛電極は中空電極であり、前記炭材添加装置に代えて、又は前記炭材添加装置とともに、前記中空電極の中空部を経由して炭材を添加することを特徴とする請求項6~請求項8のいずれか1項に記載の電気炉製鋼法。
【請求項10】
炭材添加とともに前記酸素ランスを用いて酸素を炉内に供給し、前記電極中心点から電極半径の2倍以上離れた位置に酸素を供給することを特徴とする請求項6~請求項9のいずれか1項に記載の電気炉製鋼法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉および電気炉製鋼法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気炉を用いた電気炉製鋼法においては、原料の溶解、また脱ガス、還元処理のため溶鉄に炭素源を供給して溶解する加炭が必要である。特に低窒素の高級鋼を製造する場合には、後工程での脱炭による脱窒促進を図るため、加炭により電気炉出鋼時の溶鉄中炭素濃度を高濃度に保つ必要がある。
【0003】
溶鉄への加炭における炭素源としては特許文献1のようなコークスや黒鉛などの炭材、特許文献2のようなフェロクロム、フェロマンガン、銑鉄などの高炭合金、さらには特許文献3のようにこれらを含有する加炭材が用いられることが知られている。特許文献1には、助燃バーナー先端部のノズルから、酸素と圧縮空気とともに圧送されてきた粉状コークスを噴出させ、未燃焼粉状コークスを溶鋼に対する加炭材及び酸化物の還元剤として用いる方法が記載されている。特許文献2には、真空脱ガス設備にて溶鋼中の炭素濃度を低下させた後、溶鋼に炭素含有物質を添加して溶鋼の炭素濃度を成分範囲内に調整する溶鋼の溶製方法が記載されている。特許文献3には、電気炉精錬におけるスラグの計算密度よりも見かけ密度が高い加炭材を溶鉄に投入する電気炉精錬方法が記載されている。
【0004】
本発明において、電気炉精錬中の溶鉄中に炭材を添加した後、溶鉄中の炭素濃度の上昇速度を「加炭速度」と呼ぶ。
【0005】
溶鉄中に添加する炭材である炭素源として、コークス等の通常の炭材を用いた場合の加炭速度は小さいためサイクルタイムの延長につながり、生産性が低下する。また、高炭合金は高価であるためコストの増加につながる。
【0006】
従来、電気炉の溶融物表面に炭材を投入して加炭を行うための炭材の供給方法としては、例えば投入シュートや、特許文献4に記載されているようなランスを用いて炭材を吹き付ける方法が知られている。特許文献4において、炭材添加方向はアーク加熱領域から外れた方向としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60-174813号公報
【特許文献2】特開2003-27128号公報
【特許文献3】特開2017-186607号公報
【特許文献4】特開2020-94247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来のいずれの投入方法を用いても、加炭速度は炭材種および溶鋼の温度によって決定するため、安価な炭材を用いる場合に加炭速度を向上させ、サイクルタイムを短縮するには至っていないのが現状である。
【0009】
本発明は、安価な炭材を使用しながら加炭速度を向上し、サイクルタイムを延長することなく溶鉄への加炭を実現することのできる、電気炉および電気炉製鋼法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]黒鉛電極を用いた電気炉において、鉛直下方から見た前記黒鉛電極下端の図形重心を通る鉛直線と溶鉄静止面との交点を「電極中心点」と呼び、前記電気炉は炭材添加装置を有し、当該炭材添加装置からの炭材の溶鉄静止面への到達位置を「炭材到達点」と呼び、前記炭材到達点と前記電極中心点との距離が電極半径以内の範囲となるよう、炭材添加装置の位置と角度が設定されており、さらに前記電気炉が酸素を炉内に供給する酸素ランスを有する場合には、前記電極中心点から電極半径の2倍以内の位置に前記酸素ランスの軸中心が向けられていないことを特徴とする電気炉。
[2]前記炭材添加装置が、吹き付けランス又は投入シュートであることを特徴とする[1]記載の電気炉。
[3]前記炭材添加装置が、炭材の添加方向を変更可能であることを特徴とする[1]または[2]記載の電気炉。
[4]前記黒鉛電極は中空電極であり、前記炭材添加装置に代えて、又は前記炭材添加装置とともに、前記中空電極の中空部を経由して炭材を添加することを特徴とする[1]~[3]のいずれか1つに記載の電気炉。
[5]酸素を炉内に供給する前記酸素ランスを有し、前記電極中心点から電極半径の2倍以上離れた位置に前記酸素ランスの軸中心が向いて設置されていることを特徴とする[1]~[4]のいずれか1つに記載の電気炉。
【0011】
[6]黒鉛電極を用いた電気炉において溶鉄に加炭する電気炉製鋼法であって、鉛直下方から見た前記黒鉛電極下端の図形重心を通る鉛直線と溶鉄静止面との交点を「電極中心点」と呼び、前記電気炉は炭材添加装置を有し、当該炭材添加装置によって前記電極中心点から電極半径と同じ半径以内の範囲に炭材を供給し、さらに酸素を炉内に供給する酸素ランスを有する場合には、前記電極中心点から電極半径の2倍以内の位置に酸素を供給しないことを特徴とする電気炉製鋼法。
[7]前記炭材添加装置が、吹き付けランス又は投入シュートであることを特徴とする[6]記載の電気炉製鋼法。
[8]前記炭材添加装置が、炭材の添加方向を変更可能であることを特徴とする[6]または[7]記載の電気炉製鋼法。
[9]前記黒鉛電極は中空電極であり、前記炭材添加装置に代えて、又は前記炭材添加装置とともに、前記中空電極の中空部を経由して炭材を添加することを特徴とする[6]~[8]のいずれか1つに記載の電気炉製鋼法。
[10]炭材添加とともに前記酸素ランスを用いて酸素を炉内に供給し、前記電極中心点から電極半径の2倍以上離れた位置に酸素を供給することを特徴とする[6]~[9]のいずれか1つに記載の電気炉製鋼法。
【発明の効果】
【0012】
アークスポットの高温場活用により、安価な炭材を使用しながら加炭速度を向上し、サイクルタイムを延長することなく溶鉄への加炭を実現した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の電気炉の一例を示す図である。
図2】炭材の吹き付けランス、酸素ランスの配置と、炭材到達点、酸素到達点の関係について示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者は安価な炭材による溶鉄への高速加炭を実現するため、電気炉におけるアークスポットの高温場を活用することを着想した。
【0015】
溶鉄中に添加された炭材の溶鉄への溶解は、炭素濃度の一次反応式として式(1)のように表されることが報告されている。
【数1】

ここでt:時間、A:反応界面積、V:溶鉄体積、k:総括反応速度定数、[C]:飽和炭素濃度、[C]:溶鉄の炭素濃度である。
【0016】
総括反応速度定数kは、炭材と溶鉄の界面における溶解反応速度定数kと溶鉄中炭素原子の物質移動係数kを用いて式(2)のように表される。炭材の溶解は上記界面での溶解と物質移動の混合律速であることが報告されている。
【数2】
【0017】
したがって、kあるいはkのいずれかまたは両方を大きくすることができれば総括反応速度定数kも大きくなり、式(1)の反応速度を増大させることが可能である。これらのうち溶解反応速度定数kは反応の活性化エネルギーEと温度Tを用いて式(3)のように表される。
【数3】

ここでA:原子の衝突頻度に関する係数である。式(3)より温度Tを高くすることでkが増大する。また、kも高温ほど大きくなることが知られているため、温度Tを高くすることによりkを増大せしめる。
【0018】
上記に基づき本発明者は、炭材を溶解させる位置における溶鉄の温度を上昇する手段として、電気炉の電極直下に生じるアークスポットの活用を着想した。通常電気炉内の溶鉄温度は高々1700℃程度であるが、電極から電極直下の溶鉄表面にかけて生じるアークは内部の温度が5000℃以上であり、溶鉄表面のアークスポットにおいても2000℃程度となる。したがって加炭の際に炭材をアークスポットに供給すれば、アークスポット以外の溶鉄に投入する場合に比べ高い温度で炭材を溶解することが可能である。このとき、例えば活性化エネルギーEが300~480kJ/mol程度のコークスにおいて、溶鉄温度が1700℃に比較して2000℃になると溶解反応速度定数kは11~47倍大きくなり、結果として加炭速度を大幅に増大せしめる。
【0019】
以下、図1図2に基づいて本発明の説明を行う。
電気炉1内の溶鉄20への炭材供給方法として、炭材添加装置3を用いることができる。炭材添加装置3としては、吹き付けランス4を用いて吹き付けガスとともに炭材を吹き付ける方法が考えられる。また、投入シュート7による添加など他の供給方法を用いることもできる。炭材添加装置3における炭材の添加方向が固定または可動式(変更可能)とすることができる。黒鉛電極が中空電極である場合には、前記炭材添加装置に代えて、又は前記炭材添加装置とともに、中空電極の中空部を経由して添加することもできる。いずれの供給方法においても、炭材の供給位置が電極下部のアークスポットとなるよう設計することで、高温のアークスポットを活用することができる。なお本実施例では電気炉に備えている電極は1本であるが、電極を複数本備える電気炉においても、いずれかの電極直下のアークスポットに炭材を供給して高温のアークスポットを活用することが可能である。
【0020】
以下、黒鉛電極を用いた電気炉において、鉛直下方から見た電極下端の図形重心を通る鉛直線と溶鉄静止面21との交点を「電極中心点22」と呼ぶ(図2(A)参照)。また、炭材添加装置3からの炭材の溶鉄静止面21への到達位置を「炭材到達点23」と呼ぶ。炭材到達点23については、事前に炭材添加装置3を用いて炭材の添加を行うことにより、位置を定めることができる。あるいは、炭材添加装置3の吐出部における炭材の速度から計算される炭材の軌跡25に基づいて炭材の溶鉄静止面21への到達位置として定めることができる(図2(A)参照)。電極直下のアークスポットに炭材を供給するためには、炭材到達点23と電極中心点22との距離が電極半径r以内の範囲となるよう、炭材添加装置3の位置と角度が設定されていればよい。
【0021】
電気炉においては脱珪、脱りんなどの酸化精錬を目的として、酸素ランス8を用いて酸素ガスを炉内の溶鉄20に向けて供給することがある。供給した酸素ガスが未溶解の炭材と反応すると加炭の障害となる。したがって加炭を目的とする炭材と酸素ガスとは離れた位置に供給する必要がある。本発明では、電気炉が酸素を炉内に供給する酸素ランス8を有する場合には、換言すれば電気炉が酸素を炉内に供給する酸素ランス8を有する場合であっても、電極中心点22から電極半径rの2倍以内の位置に酸素ランス8の軸中心26が向けられていないことを特徴とする(図2(B)参照)。酸素を炉内に供給する酸素ランス8を有する場合は、電極中心点22から電極半径rの2倍以上離れた位置に酸素ランス8の軸中心26が向いて設置されている。これにより、加炭を目的とする炭材と酸素ガスとを離れた位置に供給することができる。以下、溶鉄静止面21上で酸素ランス8の軸中心26が向けられている方向を「酸素到達点24」ともいう。
【実施例0022】
炉殻が内径で6.5m、出鋼量が105t、出鋼時に種湯15tを炉内に残す電気炉1において、本発明を実施した場合の例を、比較例とともに以下の表に示す。電気炉1において溶鋼の浴深は、炉内の溶鋼量が120tのとき1250mm、炉内の溶鋼量が15tのとき400mmとなり、原料の溶解や出鋼に伴ってこの範囲内で増減する。黒鉛電極2として、直径が24インチ、すなわち609.6mm(半径rが304.8mm)である黒鉛電極1本を備えている。
【0023】
電気炉1は、炭材添加装置3として、炭材のみを投入する投入シュート7、炭材を炉内に供給できる壁に固定された吹き付けランス4(固定ランス5)が3本(固定ランスA(5A)、固定ランスB(5B)、固定ランスC(5C))と、可動式の吹き付けランス4(可動ランス6)を備えたマニピュレータ11を有している。吹き付けランス4についてはいずれも、炭材を供給するときのキャリアガスとしてアルゴンガスを用いている。このうち壁に固定された3本の吹き付けランス4(固定ランス5)は位置や角度を変更できない構造である。
【0024】
前記壁に固定された吹き付けランス4(固定ランス5)においては、炭材供給用のノズルと酸素供給用のノズルを有しており、両者はその軸中心が51mm離れて設置されている。炭材供給用のノズル部分が、壁に固定された吹き付けランス4(固定ランス5)3本(固定ランスA、固定ランスB、固定ランスC)として機能する。また、酸素供給用のノズル部分が、酸素を炉内に供給する酸素ランス8(固定酸素ランス9)3本(固定酸素ランスA、固定酸素ランスB、固定酸素ランスC)として機能する。
【0025】
マニピュレータ11は、前記可動式の吹き付けランス4(炭材を供給する可動ランス6)とともに、酸素ランス8(可動酸素ランス10)を有している。可動ランス6と可動酸素ランス10はそれぞれ、炭材と酸素を独立して炉内に供給できる。
【0026】
投入シュート7は投入方向を変更することができ、投入シュート7から投入された炭材の炭材到達点23と電極中心点22との距離を変更することができる。マニピュレータ11も、可動ランス6(炭材吹き付け)と可動酸素ランス10の方向を変更することができる。
【0027】
固定された吹き付けランス4のうち、1本(固定ランスA(5A))は溶鉄の浴深が1250mmのときの溶鉄静止面21において、電極中心点22(鉛直下方から見た電極下端の図形重心を通る鉛直線と溶鉄静止面21との交点)から水平方向に100mm離れた位置が炭材到達点23(炭材添加装置3からの炭材の溶鉄静止面21への到達位置)になるように、ほかの2本(固定ランスB(5B)、固定ランスC(5C))は電極中心点22から635mm離れた位置が炭材到達点23となるように、炭材を供給できる位置と角度で設置されている。また、固定ランス5(炭材吹き付け用)と固定酸素ランス9は、前述のようにその軸中心が51mm離れて設置されており、固定酸素ランス9の軸中心26が向けられている方向(酸素到達点24)は、溶鉄静止面21上で、固定酸素ランスA(9A)は電極中心点22から250mm、固定酸素ランスB(9B)、固定酸素ランスC(9C)は電極中心点22から785mmの位置である。従って、同一位置の固定ランス5と固定酸素ランス9から炭材と酸素を同時に吹く場合の炭材到達点23と酸素到達点24(酸素の供給位置)は150mm離れている。
【0028】
本発明例、比較例ともにスクラップを原料とし、炭材としては無煙炭を用いた。また炭材供給に吹き付けランス4(固定ランス5、可動ランス6)を用いた場合はいずれの場合も、炭材のノズル出口における初速は平均で70m/sとした。また、酸素ランス8から酸素を供給する場合の酸素噴流の線流速は500m/sとした。
【0029】
試験においてはまず通電によりスクラップを溶解し、その後に通電を継続しながら前記吹き付けランス4から合計40kg/minで15分間炭材を添加し、または投入シュート7から炭材を投入し、炭材添加の前後で採取したメタルサンプルの炭素濃度を評価した。炭材添加前後の溶鋼中[C]濃度を分析するためのサンプリングは、炭材添加開始1分前と炭材添加終了から1分後に行っている。なお、表1に示す実施例はすべて、溶鉄の浴深が1100mmに達した時点で炭材の供給を開始した。したがって炭材の供給中に湯面が150mm上昇し、炭材の供給位置を変更しない場合は電極中心点から炭材到達点までの距離も変化した。炭材添加終了の5分後に溶鋼を電気炉より出鋼した。ここで供給される炭材がすべて炭素分であると仮定した場合溶鉄には合計で600kgの炭素分が供給されることとなる。本試験においては供給した炭素分のうち50質量%以上が溶鉄に加炭された、すなわち炭材の供給前後で溶鉄中[C]濃度が0.25質量%以上上昇した場合に、溶鉄は良好に加炭されたと評価した。
【0030】
表1に示す炭材供給条件、酸素吹き付け条件を採用して、電気炉製鋼を行った。電極中心点22と炭材到達点23の間の距離を「炭材-電極間距離」に記載し、電極中心点22と酸素到達点24との間の距離を「酸素-電極間距離」に記載している。浴深が1100mmと1250mmのそれぞれの場合について記載している。結果を表1に示す。なお、電極中心点22から見て、炭材到達点23と吹き付けランス4、酸素到達点24と酸素ランス8がそれぞれ異なった側に位置する場合、表1の数値右端に「*」を付している。表1において、本発明範囲から外れる数値に下線を付している。
【0031】
【表1】
【0032】
表1の本発明例1~7が本発明例である。
本発明例1~4は酸素吹き付けなし、炭材-電極間距離がいずれも黒鉛電極半径r(304.8mm)以内であって本発明の条件を満たし、加炭状況は良好であった。本発明例3、4は炭材添加にマニピュレータ11を使用し、このうち本発明例3では供給位置を固定とし、本発明例4では操業中の湯面の上昇に合わせて、溶鉄の浴深によらず炭材を電極中心点22に供給するようにマニピュレータ11の可動ランス6を操作した(表1の*2)。
本発明例5~8は酸素吹き付け有りの場合であり、炭材-電極間距離がいずれも黒鉛電極半径r(304.8mm)以内、かつ酸素-電極間距離は黒鉛電極半径rの2倍(609.6mm)を超えており、本発明の条件を満たし、加炭状況は良好であった。
【0033】
表1の比較例1~7が比較例である。
比較例1~3は酸素吹き付けなし、炭材-電極間距離がいずれも黒鉛電極半径r(304.8mm)を超えて本発明の条件を満足せず、加炭状況は不良であった。
比較例4~7は酸素吹き付け有りの場合であり、比較例4~6は炭材-電極間距離がいずれも黒鉛電極半径r(304.8mm)以内であったものの、酸素-電極間距離は黒鉛電極半径rの2倍(609.6mm)以内となり、本発明の条件を満足せず、加炭状況は不良であった。比較例7は炭材-電極間距離と酸素-電極間距離のいずれも本発明の条件を満足せず、加炭状況は不良であった。
【符号の説明】
【0034】
1 電気炉
2 黒鉛電極
3 炭材添加装置
4 吹き付けランス
5 固定ランス
5A 固定ランスA
5B 固定ランスB
5C 固定ランスC
6 可動ランス
7 投入シュート
8 酸素ランス
9 固定酸素ランス
9A 固定酸素ランスA
9B 固定酸素ランスB
9C 固定酸素ランスC
10 可動酸素ランス
11 マニピュレータ
20 溶鉄
21 溶鉄静止面
22 電極中心点
23 炭材到達点
24 酸素到達点
25 炭材の軌跡
26 軸中心
r 電極半径
図1
図2