(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047019
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20230329BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A62B18/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155907
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 研
【テーマコード(参考)】
2E185
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185BA04
2E185CC32
2E185CC73
(57)【要約】
【課題】リフトアップ(小顔)効果と、通気性とを両立することのできるマスクを提供する。
【解決手段】着用者の顎部分を覆い、第1の生地から構成される第1の部分と、着用者の鼻部分を覆い、第2の生地から構成される第2の部分とを有し、第1の生地の伸長回復率E1と、第2の生地の伸長回復率E2との比(ΔE)は、35~85%である、マスク。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の顎部分を覆い、第1の生地から構成される第1の部分と、着用者の鼻部分を覆い、第2の生地から構成される第2の部分とを有し、
前記第1の生地の伸長回復率E1と、前記第2の生地の伸長回復率E2との比(ΔE)は、35~85%である、マスク。
【請求項2】
前記第1の生地は、アルカリ減量速度の異なる2種の繊維と弾性繊維とを含み、
前記第2の生地は、前記アルカリ減量速度の異なる2種の繊維のうち、アルカリ減量速度がより小さい繊維と、弾性繊維とを含む、請求項1記載のマスク。
【請求項3】
前記第1の生地は、ナイロン繊維と、ポリエステル繊維と、ポリウレタン繊維とを含み、
前記第2の生地は、ナイロン繊維と、ポリウレタン繊維とを含む、請求項1または2記載のマスク。
【請求項4】
着用者が着用する際に接触する面側に、ダブルラッセル生地が設けられた、請求項1~3のいずれか1項に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクに関する。より詳細には、本発明は、リフトアップ(小顔)効果と、通気性とを両立することのできるマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着用者が着用することにより、リフトアップ(小顔)効果を付与することを目的としたマスクが開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のマスクは、顔を着圧してフィット感を向上させ、小顔効果を得ることを目的とする。しかしながら、特許文献1に記載のマスクは、通気性(呼吸のしやすさ)が劣る。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、リフトアップ(小顔)効果と、通気性とを両立することのできるマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明のマスクには、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)着用者の顎部分を覆い、第1の生地から構成される第1の部分と、着用者の鼻部分を覆い、第2の生地から構成される第2の部分とを有し、前記第1の生地の伸長回復率E1と、前記第2の生地の伸長回復率E2との比(ΔE)は、35~85%である、マスク。
【0008】
このような構成によれば、マスクは、着用者の顎部分を覆う第1の部分によって、着用者の顔に対する着圧が向上し、優れたフィット感が得られる。その結果、マスクは、小顔効果を付与し得る。一方、マスクは、鼻部分を覆う第2の部分によって、優れた通気性を有し、かつ、着用者の顔に対する肌当りを軽減することができる。その結果、マスクは、リフトアップ(小顔)効果と、通気性とを両立することができる。
【0009】
(2)前記第1の生地は、アルカリ減量速度の異なる2種の繊維と弾性繊維とを含み、前記第2の生地は、前記アルカリ減量速度の異なる2種の繊維のうち、アルカリ減量速度がより小さい繊維と、弾性繊維とを含む、(1)記載のマスク。
【0010】
このような構成によれば、マスクは、抜蝕等のアルカリ処理によって、第1の部分の生地(第1の生地)を残しながら、第2の部分からアルカリ減量速度の大きい繊維を除去して第2の生地を作製することができる。その結果、マスクは、アルカリ処理によって容易に作製されやすい。
【0011】
(3)前記第1の生地は、ナイロン繊維と、ポリエステル繊維と、ポリウレタン繊維とを含み、前記第2の生地は、ナイロン繊維と、ポリウレタン繊維とを含む、(1)または(2)記載のマスク。
【0012】
このような構成によれば、マスクは、抜蝕等のアルカリ処理によって、第1の生地を残しながら、第2の部分からアルカリ減量速度の大きい繊維(ポリエステル繊維)を除去して、ナイロン繊維とポリウレタン繊維とを含む第2の生地を作製することができる。その結果、マスクは、アルカリ処理によって容易に作製されやすい。得られたマスクは、着用者の顎部分を覆う第1の部分ではナイロン繊維とポリウレタン繊維のほか、ポリエステル繊維が残されており、着用者の顔に対する着圧が向上し、優れたフィット感が得られる。その結果、マスクは、小顔効果を付与し得る。一方、マスクは、鼻部分を覆う第2の部分ではナイロン繊維とポリウレタン繊維とを含む。これにより、マスクは、優れた通気性を有し、かつ、着用者の顔に対する肌当りを軽減することができる。その結果、マスクは、リフトアップ(小顔)効果と、通気性とを両立することができる。
【0013】
(4)着用者が着用する際に接触する面側に、ダブルラッセル生地が設けられた、(1)~(3)のいずれかに記載のマスク。
【0014】
このような構成によれば、マスクは、着用者が着用した際に、口元周りの保形性が維持されやすく、かつ、優れた通気性が得られやすい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リフトアップ(小顔)効果と、通気性とを両立することのできるマスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態のマスクの模式的な斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態のマスクの縫製前の状態を説明する模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<マスク>
本発明の一実施形態のマスクについて、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態のマスク1の模式的な斜視図である。本実施形態のマスク1は、着用者の顎部分を覆い、第1の生地から構成される第1の部分R1と、着用者の鼻部分を覆い、第2の生地から構成される第2の部分R2とを有する。第1の生地の伸長回復率E1と、第2の生地の伸長回復率E2との比(ΔE)は、35~85%である。以下、それぞれの構成について説明する。
【0018】
なお、本実施形態のマスク1は、着用者の顎部分を覆う第1の部分R1と、着用者の鼻部分を覆う第2の部分R2とを有していればよく、その他の部分については特に限定されない。たとえば、マスク1は、着用者が着用する際に、口部分、鼻部分および頬部分を覆うマスク本体部P1と、マスク本体部P1の両側面に設けられ、着用者の耳にかけることによりマスク1を着用者に着用させるための一対の耳掛け部P2とを有する。マスク本体部P1は、上記した第1の部分R1および第2の部分R2を有する。耳掛け部P2は、公知のマスクに設けられる耳掛け部P2と同様であり、適宜の伸縮性を有するひも状または帯状の部材である。本実施形態では、第2の生地からなる帯状の耳掛け部P2が設けられた態様が例示されている。
【0019】
(第1の部分R1)
第1の部分R1は、着用者の顎部分を覆い、第1の生地から構成される部分である。マスク1は、このような第1の部分R1を有していることにより、着用者の顔に対する着圧が向上し、優れたフィット感が得られる。その結果、マスク1は、小顔効果を付与し得る。
【0020】
第1の部分R1は、マスク本体部P1のうち、着用者の顎部分を覆う位置に設けられていればよく、顎部分を覆う位置に加えて、他の位置に設けられていてもよい。本実施形態では、第1の部分R1は、着用者の顎の先端部分(オトガイ部)、下顎の体部分、角部分、頬部分の一部を覆う位置に対応する部分である。また、第1の部分R1の形状は特に限定されない。第1の部分R1は、優れた小顔効果が得られるように、着用者の顎部分に加え、頬部分の一部を覆う位置に対応する部分に設けられることが好ましい。
【0021】
また、マスク1において第1の部分R1の占める面積は特に限定されない。第1の部分R1は、耳掛け部P2を除くマスク本体部P1のうち、15%以上を占めることが好ましく、20%以上を占めることがより好ましい。また、第1の部分R1は、耳掛け部P2を除くマスク本体部P1のうち、40%以下を占めることが好ましく、30%以下を占めることがより好ましい。第1の部分R1の面積が上記範囲内であることにより、マスク1は、着用者の顔に対する着圧が向上しやすく、より優れたフィット感が得られやすい。
【0022】
第1の部分R1を構成する第1の生地は特に限定されない。一例を挙げると、第1の生地は、各種織物または編物からなり、アルカリ減量速度の異なる2種の繊維と弾性繊維とを含むことが好ましい。なお、本実施形態において、「アルカリ減量速度」は、1重量%苛性ソーダ水溶液で95℃10分間減量処理を行った後の減量率をいう。
【0023】
アルカリ減量速度の異なる2種の繊維は特に限定されない。一例を挙げると、アルカリ減量速度の異なる2種の繊維は、ポリエチレンテレフタレートなどからなるポリエステル繊維、および、常圧タイプまたは高圧タイプのカチオン可染ポリエステル繊維、6ナイロン繊維および66ナイロン繊維などのナイロン繊維、綿および麻などのセルロース系繊維、アセテートなどの半合成繊維等である。なお、本実施形態において、アルカリ減量速度の異なる2種以上の繊維には、後述する弾性繊維は含まれない。
【0024】
組み合わせる2種の繊維は、アルカリ減量速度差が100%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましい。アルカリ減量速度差が100%以上であることにより、たとえば、後述する抜蝕等のアルカリ処理を行った場合に、一方の繊維がアルカリによって適切に減量され、他方の繊維が減量されずに適切に残りやすい。
【0025】
一例を挙げると、組み合わせる2種の繊維は、アルカリ減量速度がより小さい繊維がナイロン繊維であり、アルカリ減量速度がより大きい繊維がポリエステル繊維であることが好ましい。
【0026】
また、弾性繊維は特に限定されない。一例を挙げると、弾性繊維は、ポリウレタン繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維等である。これらの中でも、弾性繊維は、高伸度、高回復性という理由により、ポリウレタン繊維であることが好ましい。
【0027】
その結果、本実施形態の第1の生地は、ナイロン繊維と、ポリエステル繊維と、ポリウレタン繊維とを含むことが好ましい。このような第1の生地からなる第1の部分R1は、後述する抜蝕等のアルカリ処理によって、ポリエステル繊維が減量されて除去されやすい。また、このような抜蝕等のアルカリ処理によって、第1の生地からポリエステル繊維が減量された生地(すなわち第2の生地)が得られ得る。このように、本実施形態のマスク1は、抜蝕等のアルカリ処理を行うことにより、第1の部分R1から、第2の部分R2を設けることができ、第1の部分R1と第2の部分R2とを縫製等により繋げる必要がなく、製造しやすい。
【0028】
なお、ポリウレタン繊維にはエーテル系ポリウレタン繊維、エステル系ポリウレタン繊維がある。本実施形態において、ポリウレタン繊維は、耐アルカリ性が優れるエーテル系ポリウレタン繊維であることが好ましい。なお、本実施形態において、耐アルカリ性とは、6質量%濃度の苛性ソーダ水溶液に5分間浸漬後の強度維持率が60%以上であることをいう。
【0029】
また、第1の生地がナイロン繊維と、ポリエステル繊維と、ポリウレタン繊維とを含む場合において、ナイロン繊維と、ポリエステル繊維と、ポリウレタン繊維との割合は、ナイロン繊維が35~80質量%であり、ポリウレタン繊維が20~65質量%であり、ポリエステル繊維が30~55質量%(ただし、これらの合計は100質量%を超えない)であることが好ましい。これにより、得られるマスク1は、適度な伸縮性を有しつつ、かつ、着用者に対して適度な着圧を付与し得る。
【0030】
第1の生地の伸長回復率E1は特に限定されない。一例を挙げると、第1の生地の伸長回復率E1は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。また、第1の生地の伸長回復率E1は、70%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましい。ただし、伸長回復率E1は、後述する第2の生地の伸長回復率E2との比(ΔE)が35%~85%となる。第1の生地の伸長回復率E1が上記範囲内であることにより、マスク1は、回復性がよく、フィット感が良好になるという利点がある。なお、本実施形態において、生地の伸長回復率は、伸長に対する生地の抵抗力(生地を一定伸長した時の応力)に基づいて算出し得る。
【0031】
具体的には、定速伸長形引張試験機を用い、300mm/minの速度で80%伸長までの伸長回復を3回繰り返し、3回目のSSカーブより30%回復時の荷重の値を用いる。応力の測定は、より詳細には次のように行う。幅25mm、引っ張り長さ100mm、チャック掴み代長100mmの試料を作製する。仮に試験片の大きさがそれよりも小さくても差し支えはないが、その場合測定誤差が大きくなるので、切り離せる限りでできるだけ大きな試験片を採取することが好ましい。その後、300mm/minの速度で180mm(80%伸長)まで伸ばした後、荷重を取り去り初期設定の100mmまで回復させる。この動作を3回繰り返し、3回目のSSカーブより締め付け応力値を読み取る。応力値の測定は、オートグラフ((株)島津製作所製、AG-IS型)を用い、幅25mm、引っ張り長さ100mm、チャック掴み代長100mmの試料で行う。すなわち、300mm/minの速度で180mm(80%伸長)まで伸ばした後、荷重を取り去り初期設定の100mmまで回復させるという動作を3回繰り返し、3回目のSSカーブより30%回復時の荷重を読み取る。さらに、本実施形態のマスクにおける、第1の部分および第2の部分のみからなる試料をそれぞれ作製し、これらの応力比率を求める。すなわち、第1の部分のみからなる試料の応力をE1、第2の部分のみからなる試料の応力をE2とし、次式により伸長回復率の比(ΔE)を算出する。
伸長回復率の比ΔE(%)=(E1÷E2)×100
【0032】
(第2の部分R2)
第2の部分R2は、着用者の鼻部分を覆い、第2の生地から構成される部分である。マスク1は、このような第2の部分R2を有していることにより、優れた通気性を有し、かつ、着用者の顔に対する肌当りを軽減することができる。また、第2の部分R2は、第1の部分R1よりも柔らかく、高伸度である。
【0033】
第2の部分R2は、マスク本体部P1のうち、着用者の鼻部分を覆う位置に設けられていればよく、鼻部分を覆う位置に加えて、他の位置に設けられていてもよい。本実施形態では、第2の部分R2は、上記した第1の部分R1以外の部分である。第2の部分R2は、優れた通気性を有し、柔らかく高伸度であるため、鼻部分に加えて、口部分を覆う位置に設けられることが好ましい。これにより、マスク1は、着用者の呼吸を妨げにくい。
【0034】
また、マスク1において第2の部分R2の占める面積は特に限定されない。第2の部分R2は、耳掛け部P2を除くマスク本体部P1のうち、40%以上を占めることが好ましく、50%以上を占めることがより好ましい。また、第2の部分R2は、耳掛け部P2を除くマスク本体部P1のうち、80%以下を占めることが好ましく、65%以下を占めることがより好ましい。第2の部分R2の面積が上記範囲内であることにより、マスク1は、伸びやすいことで着用しやすく、着用感・フィット感も良好という利点がある。
【0035】
第2の部分R2を構成する第2の生地は特に限定されない。一例を挙げると、第2の生地は、各種織物または編物からなり、上記したアルカリ減量速度の異なる2種の繊維のうち、アルカリ減量速度がより小さい繊維と、上記した弾性繊維とを含むことが好ましく、ナイロン繊維とポリウレタン繊維とを含むことが好ましい。このような第2の生地からなる第2の部分R2は、上記した第1の生地に対して、抜蝕等のアルカリ処理を行うことにより、第1の生地を構成するアルカリ減量速度がより大きい繊維(たとえばポリエステル繊維)を減量して除去することにより得られ得る。このように、本実施形態のマスク1は、抜蝕等のアルカリ処理を行うことにより、第1の部分R1から、第2の部分R2を設けることができ、第1の部分R1と第2の部分R2とを縫製等により繋げる必要がなく、製造しやすい。
【0036】
なお、第2の部分R2は、第1の生地からなるマスク1に、抜蝕等のアルカリ処理を行うことによって設けられる場合のほか、第1の生地とは別に準備されたな第2の生地を用いて設けられてもよい。
【0037】
また、第2の生地がナイロン繊維と、ポリウレタン繊維とを含む場合において、ナイロン繊維と、ポリウレタン繊維との割合は、ナイロン繊維が40~70質量%であり、ポリウレタン繊維が30~60質量%(ただし、これらの合計は100質量%を超えない)であることが好ましい。これにより、得られるマスク1は、適度な伸度を有しつつ、かつ、着用者に対して良好な肌当りとなり得る。
【0038】
第2の生地の伸長回復率E2は特に限定されない。一例を挙げると、第2の生地の伸長回復率E2は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。また、第2の生地の伸長回復率E2は、60%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。ただし、伸長回復率E2は、上記した第1の生地の伸長回復率E1との比(ΔE)が35%~85%となる。第2の生地の伸長回復率E2が上記範囲内であることにより、マスク1は、回復性がよく、着用感、フィット感が良好という利点がある。
【0039】
マスク1全体の説明に戻り、第1の生地の伸長回復率E1と、第2の生地の伸長回復率E2との比(ΔE)は、35%以上であればよく、45%以上であることが好ましい。また、比(ΔE)は、85%以下であればよく、75%以下であることが好ましい。比(ΔE)が35%未満である場合、マスク1は、適度な着圧が得られにくくなり、フィット感が劣るおそれがある。また、マスク1は、生地の強度が低下するおそれがある。一方、比(ΔE)が85%を超える場合、マスク1は、小顔効果が得られにくくなるおそれがある。
【0040】
本実施形態のマスク1は、着用者が着用する際に接触する面側に、ダブルラッセル生地(図示せず)が設けられることが好ましい。これにより、マスク1は、着用者が着用した際に、口元周りの保形性が維持されやすく、かつ、優れた通気性が得られやすい。
【0041】
ダブルラッセル生地は、1本の糸から編目を作りながらループと呼ばれる輪をつなぎ合わせて作られる生地である。ダブルラッセル生地は、ループがもつ弾力性で伸長力に寄与することができ、ループから空気を透過させることができる。このため、ダブルラッセル生地が、着用者が着用する際に接触する面側に用いられることにより、マスク1は、より通気性が確保され得る。
【0042】
ダブルラッセル生地を構成する繊維は特に限定されない。一例を挙げると、ダブルラッセル生地を構成する繊維は、天然繊維、化学繊維のいずれであってもよく、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、セルロース系繊維(綿、レーヨン、ポリノジック、リヨセル等)、ポリウレタン系繊維、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、アセテート系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、毛(羊毛、獣毛等)等を単独で用いた糸、または、これら繊維を混用した糸等である。糸の種類は、モノフィラメント、マルチフィラメント、撚糸、カバードヤーン、コアヤーン等であってもよく、伸縮加工や嵩高加工等を施したものであってもよい。
【0043】
ダブルラッセル生地をマスク1に取り付ける方法は特に限定されない。一例を挙げると、ダブルラッセル生地は、マスク1に対して縫製により取り付けることができる。
【0044】
以上、本実施形態によれば、マスク1は、着用者の顎部分を覆う第1の部分R1によって、着用者の顔に対する着圧が向上し、優れたフィット感が得られる。その結果、マスク1は、小顔効果を付与し得る。一方、マスク1は、鼻部分を覆う第2の部分R2によって、優れた通気性を有し、かつ、着用者の顔に対する肌当りを軽減することができる。その結果、マスク1は、リフトアップ(小顔)効果と、通気性とを両立することができる。
【0045】
<マスク1の製造方法>
本発明の一実施形態のマスク1の製造方法は、第1の生地を準備する準備工程と、第1の生地の一部を抜蝕加工し、抜蝕加工のされていない第1の部分と、抜蝕加工のされた第2の生地からなる第2の部分とを設ける抜蝕工程とを含む。以下、それぞれの構成について説明する。
【0046】
(準備工程)
図2は、本実施形態のマスク1の縫製前の状態を説明する模式的な平面図である。準備工程は、上記した第1の生地2を準備する工程である。準備工程において準備される第1の生地2は、各種模様や色彩が付与されてもよい。第1の生地2は、平面上の生地として準備される。
図2に示されるように、平面状の第1の生地2において、裁断すべきマスクの形状が定められる。具体的には、マスク1(
図1参照)を着用者が着用する際に、顔の右半分に対応する右部分と、左半分に対応する左部分とが、それぞれ別々に、平面上の第1の生地上に定められる。
【0047】
(抜蝕工程)
抜蝕工程は、第1の生地2の一部に抜蝕剤を付与し、第1の生地2におけるアルカリ減量速度の異なる2種の繊維のうち、アルカリ減量速度がより大きい繊維を除去する抜蝕加工を行う工程である。
図2に示されるように、まず、抜蝕工程では、平面上の第1の生地2上において、抜蝕加工を行わない部位R3と、抜蝕加工を行う部位R4が特定される。次いで、抜蝕加工を行う部位R4に対して、抜蝕加工がおこなわれる。これにより、抜蝕加工を行わない部位R3は、第1の生地がそのまま残る。一方、抜蝕加工を行う部位R4は、第1の生地2からアルカリ減量速度がより大きい繊維が除去され、第2の生地が形成される。
【0048】
抜蝕剤は特に限定されない。一例を挙げると、抜蝕剤は、グアニジン弱酸塩、フェノール類、アルコール類、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物等である。これらの中でも、抜蝕剤は、得られる抜蝕効果が大きく、環境および安全面で優れている点で、グアニジン弱酸塩であることが好ましく、作業の安全性や装置が腐蝕されにくいという点などから、炭酸グアニジンであることがより好ましい。
【0049】
抜蝕剤の付与方法は特に限定されない。一例を挙げると、抜蝕剤の付与方法は、インクジェット法、スクリーンプリント、ロータリープリント等である。本実施形態のマスク1の製造方法は、品位をよく(抜蝕の柄際をきれいに加工する)するという理由から、インクジェット法により抜蝕剤を付与することが好ましい。
【0050】
インクジェット法は、従来公知のインクジェット記録装置を用いて実施し得る。インクジェット法としては、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式、インクミスト方式、磁性インク方式等の連続方式のほか、ピエゾ方式、バブルジェット(登録商標)方式、静電吸引方式、ドライジェット方式等のオン・デマンド方式等のいずれが採用されてもよい。これらの中でも、インク吐出量の安定性および連続吐出性が優れる点、比較的安価である点から、インクジェット法は、ピエゾ変換方式であることが好ましい。
【0051】
抜蝕工程における抜蝕剤の付与量は、1g/m2以上であることが好ましく、5g/m2以上であることがより好ましい。一方、抜蝕剤の付与量は、50g/m2以下であることが好ましく、30g/m2以下であることがより好ましい。抜蝕剤の付与量が上記範囲内である場合、第1の生地は、充分に抜蝕加工が行われやすい。
【0052】
また、抜蝕剤の濃度としては、インク中、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。また、抜蝕剤の濃度は、インク中、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。抜蝕剤の濃度が上記範囲内である場合、生地は充分に抜蝕加工が行われやすい。また、インクは、抜蝕剤の析出物が発生しにくく、ノズル詰まり等が発生しにくい。その結果、インクは、長時間安定して吐出されやすい。
【0053】
インクの粘度は、25℃において、1cps以上であることが好ましい。また、インクの粘度は、10cps以下であることが好ましく、5cps以下であることがより好ましい。インクの粘度が上記範囲内である場合、インクは、ノズルから吐出されやすく、かつ、吐出されたインク滴が飛翔中に分裂しにくく、目的の場所に着弾しやすい。その結果、抜蝕部と非抜蝕部とが明確に区分けされやすい。
【0054】
また、インクは、抜蝕剤のほか、適宜、湿潤剤、pH調整剤、キレート剤、防腐剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、水溶性有機溶媒等が含有されてもよい。湿潤剤としては、固体湿潤剤または液体湿潤剤が例示される。一例を挙げると、固体湿潤剤は、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、カプロラクタム、尿素等や、ペントース、ヘキトース等の単糖類、二糖類、三糖類といった多糖類およびこれらの誘導体や、糖アルコールまたはデオキシ糖といった糖類の還元誘導体や、アルドン酸またはウロン酸といった糖類の酸化誘導体、糖類の脱水誘導体、アミノ酸、チオ糖類等の固体湿潤剤等である。液体湿潤剤は、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のポリエチレングリコールまたはジプロピレングリコール等のポリ低級アルキレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコール(モノまたはジ)メチルエーテル等の(モノまたはポリ)低級アルキレングリコール(モノまたはジ)アルキルエーテル類、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール等の高沸点低揮発性の低級多価アルコール等である。
【0055】
pH調整剤としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸水素カリウム等の無機塩基、酒石酸、乳酸、フタル酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸等の有機酸や硫酸等の鉱酸またはその塩が例示される。
【0056】
防腐剤としては、o-フェニルフェノールナトリウム、ホルマリン、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、Na-2-ピリジンチオール-1-オキシド、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリス-s-トリアジン、テトラクロルイソフタロニトリル、Zn-2-ピリジンチオ-ル-1-オキシドの他に、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン等のイソチアゾリン系化合物等が例示される。
【0057】
粘度調整剤としては、セルロース類、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマー、ノニオン系界面活性剤等が例示される。
【0058】
水溶性有機溶媒としては、アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトンアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等が例示される。
【0059】
このように、抜蝕剤を含むインクが、第1の生地のうち、第2の生地を設けるべき部分に付与されることにより、第1の生地を構成するアルカリ減量速度の異なる2種の繊維のうち、アルカリ減量速度がより大きい繊維が除去される。
【0060】
抜蝕工程を経た生地は、熱処理、洗浄処理等が通常行われる。熱処理は、乾熱処理であってもよく、湿熱処理であってもよい。熱処理の温度および時間は、第1の生地を構成する繊維の種類によって適宜決定される。一例を挙げると、熱処理の温度は、130~190℃であることが好ましい。また、熱処理の時間は、1~10分間程度であることが好ましい。
【0061】
洗浄処理は、アルカリ減量速度がより大きい繊維の分解物を、生地から充分に脱落させるために実施される。洗浄処理の条件は、特に限定されない。一例を挙げると、洗浄処理は、1~5g/Lとなるよう界面活性剤を使用し、70~100℃の熱水にて10~60分間処理することにより行われ得る。熱水に代えて、2~15g/Lとなるよう水酸化ナトリウム溶液が使用されてもよい。
【0062】
界面活性剤としては、特に限定されない。一例を挙げると、界面活性剤は、アルキルポリオキシエチレングリコール等である。
【0063】
その後、マスクの形状に沿って、平面上の第1の生地が、マスクの形状に沿って裁断される。次いで、マスクの右部分および左部分、耳掛け部が組み立てられ、マスク1(
図1参照)が作製される。
【0064】
以上、本実施形態によれば、第1の生地のうち、着用者の鼻部分を覆う位置に対応する部分を含むよう抜蝕加工を行うことにより、第1の生地を構成する繊維からアルカリ減量速度がより大きい繊維を抜蝕加工により除去することができる。これにより、着用者の顎部分を覆い、第1の生地から構成される第1の部分R1と、着用者の鼻部分を覆い、第2の生地から構成される第2の部分R2とを有するマスク1(
図1参照)を作製することができる。
【0065】
なお、本実施形態では、抜蝕加工を行うことにより、第1の生地から第2の生地を作製する方法を例示した。これに代えて、本実施形態のマスクは、第1の生地と第2の生地とをそれぞれ別々に準備し、縫製等を行うことにより作製されてもよい。
【実施例0066】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0067】
<実施例1>
表1に記載の組織および糸使いの条件を採用し、
図1~
図2に示されるマスクを縫製した。得られたマスクに関して、以下の方法によって、伸長時の応力(LD(cN))およびULD(回復時の応力(cN))を測定し、伸長回復率E1、伸長回復率E2およびその比(ΔE)を測定した。また、得られたマスクに関して、通気度、リフトアップ(小顔)効果を評価した。なお、表1において、実施例1「両面6cメッシュ」とは、丸編の組織を意味する。「NYCD 55T-43」とは、NY 22T-7 SDとCD 33T-36をインターレースした原糸のデニール、フィラメントカウントで、NYはナイロン、CDは常圧可染ポリエステルを意味する。「PU 33T」とは、ポリウレタンのデニールを意味する。「CD50.4% NY33.6% PU16%」とは、実施例1の使用原糸の混率を意味する。「ベタ」とは、全面抜蝕されているか、全面抜蝕されていないかを意味する。また、抜蝕加工は、以下に示す抜蝕性インクをオン・デマンド方式シリアル走査型インクジェット印捺装置を用いて塗布し、乾燥後165℃で10分間湿熱処理した。さらに、DXK-10N(一方社油脂工業(株)製、減量促進剤)、苛性ソーダを5g/Lを含むソーピング浴にて、70℃で30分間処理して洗浄することで捺染物を得た。
[抜蝕性インク]
炭酸グアニジン(抜蝕剤) 20%
尿素(溶解安定剤) 5%
ジエチレングリコール(乾燥防止剤) 5%
水 70%
合計 100%(質量%)
[インクジェット印捺条件]
印捺装置:オン・デマンド方式シリアル走査型インクジェット印捺装置
ノズル径:50μm
駆動電圧:100V
周波数:5kHz
解像度:360dpi
拘束繊維除去部分の抜蝕剤インク付与量:40g/m
2
【0068】
<実施例2>
表1に示される条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、マスクを作製し、評価した。なお、表1において、実施例2「ベアスムース」とは、丸編の組織を意味する。「NYCD 55T-56」とは、NY 22T-20 SDとCD 33T-36をインターレースした原糸のデニール、フィラメントカウントで、NYはナイロン、CDは常圧可染ポリエステルを意味する。「PU 44T」とは、ポリウレタンのデニールを意味する。「CD50.4% NY30.3% PU24.3%」とは、実施例2の使用原糸の混率を意味する。
【0069】
<実施例3>
表1に示される条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、マスクを作製し、評価した。なお、表1において、実用例3「レース花柄 ジャガード」とは、タテ編の組織を意味する。「NY 56T-34」とは、ナイロンのデニール、フィラメントカウントを意味する。「CD 33T-36」とは、常圧可染ポリエステルのデニール、フィラメントカウントを意味する。「PU 33T、235T」とは、ポリウレタンのデニールを意味する。「NY48% CD32% PU22%」とは、実施例3の使用原糸の混率を意味する。また、緯方向の伸度が伸びず測定時の伸度測定ができなかったという理由により、CD(未抜部)の緯のベタは、空欄である。
【0070】
<比較例1>
表1に示される条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、マスクを作製し、評価した。なお、表1において、比較例1「ハイパワー品番」とは、丸編の組織のベアスムースを意味する。
【0071】
<比較例2>
表1に示される条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、マスクを作製し、評価した。なお、表1において、比較例2「無地生地」とは、丸編の組織のベアスムースを意味する。
【0072】
(伸長回復率E1、伸長回復率E2およびその比(ΔE))
JIS L 1096に準拠して、伸長時の応力(LD(cN))およびULD(回復時の応力(cN))を測定し、伸長回復率E1、伸長回復率E2およびその比(ΔE)を測定した。なお、マスク着用時の伸びは、30%と想定されるため、30%伸長時の応力を想定した。具体的には、定速伸長形引張試験機を用い、300mm/minの速度で80%伸長までの伸長回復を3回繰り返し、3回目のSSカーブより30%回復時の荷重の値を用いた。より詳細には、幅25mm、引っ張り長さ100mm、チャック掴み代長100mmの試料を作成し、300mm/minの速度で180mm(80%伸長)まで伸ばした後、荷重を取り去り初期設定の100mmまで回復させた。この動作を3回繰り返し、3回目のSSカーブより締め付け応力値を読み取った。応力値の測定は、オートグラフ((株)島津製作所製、AG-IS型)を用い、幅25mm、引っ張り長さ100mm、チャック掴み代長100mmの試料で行った。すなわち、300mm/minの速度で180mm(80%伸長)まで伸ばした後、荷重を取り去り初期設定の100mmまで回復させるという動作を3回繰り返し、3回目のSSカーブより30%回復時の荷重を読み取った。さらに、本実施形態のマスクにおける、第1の部分および第2の部分のみからなる試料をそれぞれ作製し、これらの応力比率を求めた。すなわち、第1の部分のみからなる試料の応力をE1、第2の部分のみからなる試料の応力をE2とし、次式により伸長回復率の比(ΔE)を算出した。
伸長回復率の比ΔE(%)=(E1÷E2)×100
【0073】
(通気度)
通気度(単位:cm3/(cm2・s))通気性試験機((株)東洋精機製作所製)を用いて、試験片を取り付け125Phaになるように空気を吸引しその時の空気流量を測定した。
【0074】
(リフトアップ(小顔)効果)
作製したマスクを、被験者に着用させ、フェイスラインが上がって見えるかを別の被験者が目視で評価した。
○:フェイスラインが上がって見えた。
×:フェイスラインが上がって見えなかった。
【0075】
【0076】
表1に示されるように、伸長回復率E1と伸長回復率E2との比(ΔE)が35~85%の範囲内であった実施例1~3のマスクは、フェイスラインを上げて、小顔に見せる効果があり、かつ、通気性が優れていた。一方、比較例1~2のマスクは、フェイスラインを上げる効果がなく、通気性が悪かった。