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  • 特開-車両の制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047051
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/04 20060101AFI20230329BHJP
   F16H 59/14 20060101ALI20230329BHJP
   F16H 61/682 20060101ALI20230329BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20230329BHJP
   F16D 48/06 20060101ALI20230329BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20230329BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20230329BHJP
   B60W 10/11 20120101ALI20230329BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20230329BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
F16H61/04
F16H59/14
F16H61/682
F16H63/50
F16D28/00 A
F16D48/06 102
F02D29/02 301D
F02D29/02 331Z
B60W10/06
B60W10/11 300
B60W10/00 108
B60W30/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155949
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】江畑 達郎
【テーマコード(参考)】
3D241
3G093
3J057
3J552
【Fターム(参考)】
3D241AA31
3D241AE02
3D241AE30
3D241BA01
3D241CB02
3D241CC02
3D241CC08
3D241CC11
3D241DA12Z
3D241DB32Z
3D241DC01Z
3G093AA05
3G093BA23
3G093CB08
3G093DA01
3G093DB01
3G093DB03
3G093EA01
3J057BB03
3J057GB02
3J057GB11
3J057GB26
3J057HH02
3J057JJ01
3J552MA04
3J552MA13
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA24
3J552PA39
3J552RA04
3J552RB11
3J552SA09
3J552TB06
3J552UA03
3J552UA08
3J552VA41W
3J552VC02W
(57)【要約】
【課題】 AMT車両におけるACC走行中の変速動作を円滑化するうえで有利な車両の制御装置を提供する。
【解決手段】 車速とエンジン回転数に応じて変速アクチュエータおよびクラッチアクチュエータを制御して変速機構のギア段変更操作を実行するAMTコントローラ(40)と、エンジンを要求トルクに応じて制御するエンジンコントローラ(20)と、先行車がない場合は設定車速で走行し、先行車がある場合は、設定車間時間を維持して追従走行すべく加減速要求を行うACCコントローラ(10)とを備えた車両の制御装置において、ACCコントローラからの要求中にギア段変更操作が開始された場合、ギア段変更後のクラッチ係合開始時(tb)に、前記ギア段変更操作開始時(ta)の要求トルク(Tf)を開始値として要求トルク(Th)を上昇させる制御を実行するように構成されている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力を変速機構に伝達するクラッチと、
前記クラッチを係脱するクラッチアクチュエータと、
前記変速機構のギア段を変更する変速アクチュエータと、
車速とエンジン回転数に応じて前記変速アクチュエータおよび前記クラッチアクチュエータを制御して前記変速機構のギア段変更操作を実行するAMTコントローラと、
前記エンジンを要求トルクに応じて制御するエンジンコントローラと、
自車走行レーンに先行車が存在しない場合は設定車速で走行し、自車走行レーンに先行車が存在する場合は、該先行車に設定車間時間を維持して追従走行すべく、加速要求/減速要求を行うACCコントローラと、
を備えた車両の制御装置であって、
前記AMTコントローラによる前記ギア段変更操作は、前記クラッチアクチュエータによるクラッチ開放、前記変速アクチュエータによるギア段変更、前記クラッチアクチュエータによるクラッチ係合を含むものにおいて、
前記ACCコントローラからの要求中に、前記AMTコントローラによるギア段変更操作が開始された場合、ギア段変更後の前記クラッチ係合開始時に、前記ギア段変更操作開始時の要求トルクを開始値として要求トルクを上昇させる制御を実行するように構成されていることを特徴とする、車両の制御装置。
【請求項2】
前記開始値から要求トルクを上昇させる制御は、前記クラッチの係合率に応じて要求トルクを上昇させることを特徴とする、請求項1記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記ギア段変更操作が開始された場合、前記ACCコントローラは、前記開始時の要求トルクを保持し、ギア段変更後の前記クラッチ係合開始時に、前記保持した要求トルクを開始値とすることを特徴とする、請求項1または2記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記ギア段変更操作が開始された場合、前記AMTコントローラは、前記ACCコントローラの要求トルク値に拘わらず、前記ギア段変更操作開始からトルクダウンを行い、ギア段変更後の前記クラッチ係合開始時に、前記ACCコントローラの要求トルク値を目標としたトルクアップを行う、請求項1~3の何れか一項記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記開始値から要求トルクを上昇させる制御は、前記AMTコントローラによるギア段変更操作開始から終了までの前記ACCコントローラの内部目標加速度ベースの要求トルク上昇曲線を、ギア段変更後の前記クラッチ係合開始から終了までに割り当てた上昇曲線に従って実行されることを特徴とする、請求項1~4の何れか1項記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記クラッチの係合率と前記要求トルクに基づいて前記エンジンの吹き上がり限界を指定するマップを備え、前記クラッチの完全締結まで前記マップを参照して前記要求トルクを前記吹き上がり限界内で上昇させることを特徴とする、請求項1または2記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記ギア段変更操作開始時の要求トルクを開始値として要求トルクを上昇させる前記制御は、前記ACCコントローラからの加速要求中のアップシフト時に実行されることを特徴とする、請求項1~6の何れか一項記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、さらに詳しくは、AMT方式の自動変速機を備えた車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力を変速機構に伝達するクラッチを備え、変速操作とクラッチ操作を自動で行うAMT(Automated Manual Transmission)方式の自動変速機が公知である(例えば特許文献1参照)。このような自動変速機は、動力伝達効率が高く、燃費性能に優れる利点がある。
【0003】
一方、自車走行レーン前方に先行車が存在しない場合は設定車速で定速走行し、自車走行レーン前方に設定車速未満で走行する先行車が存在する場合は、設定車間時間を維持して先行車に追従走行するACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)や、自車走行レーンを認識し、自車走行レーン内での走行が維持されるように自動操舵または操舵支援を行うLKA(レーン・キーピング・アシスト)が実用化されており、さらに、ACC機能(車長方向制御)とLKA機能(車幅方向制御)を組み合わせたADAS(先進運転支援システム)等も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6245109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、AMT方式の自動変速機を備えた車両において、ACC走行中に、ACCコントローラからの加速要求/減速要求によって加速/減速する際に、車両の走行状態が変速ポイントに達すると変速動作に移行する。変速動作に移行すると、AMTコントローラは、クラッチアクチュエータおよび変速アクチュエータを制御して、クラッチ開放/ギア段変更/クラッチ係合を実行する。
【0006】
この際、AMTコントローラは、クラッチ係合時のショックを抑制するために、クラッチ係合率ゼロから係合率100%の完全係合まで所与の係合速度で係合率を上昇させる制御を行う。ところが、例えば、ACCコントローラからの加速要求は、変速動作中も継続されているので、トルク伝達可能な係合率に上昇する前に、上昇した加速要求に対応するトルク要求によりエンジンが吹き上がる傾向が認められた。
【0007】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、AMT車両におけるACC走行中の変速動作を円滑化するうえで有利な車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、
エンジンの出力を変速機構に伝達するクラッチと、
前記クラッチを係脱するクラッチアクチュエータと、
前記変速機構のギア段を変更する変速アクチュエータと、
車速とエンジン回転数に応じて前記変速アクチュエータおよび前記クラッチアクチュエータを制御して前記変速機構のギア段変更操作を実行するAMTコントローラと、
前記エンジンを要求トルクに応じて制御するエンジンコントローラと、
自車走行レーンに先行車が存在しない場合は設定車速で走行し、自車走行レーンに先行車が存在する場合は、該先行車に設定車間時間を維持して追従走行すべく、加速要求/減速要求を行うACCコントローラと、
を備えた車両の制御装置であって、
前記AMTコントローラによる前記ギア段変更操作は、前記クラッチアクチュエータによるクラッチ開放、前記変速アクチュエータによるギア段変更、前記クラッチアクチュエータによるクラッチ係合を含むものにおいて、
前記ACCコントローラからの要求中に、前記AMTコントローラによるギア段変更操作が開始された場合、ギア段変更後の前記クラッチ係合開始時に、前記ギア段変更操作開始時の要求トルクを開始値として要求トルクを上昇させる制御を実行するように構成されていることを特徴とする。
にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両の制御装置は、上記構成により、AMTコントローラによるギア段変更操作中に、ACC走行の目標トルクが上昇しても、変速操作開始時(クラッチ開放直前)の要求トルクに保持され、クラッチ係合開始時に、前記保持した要求トルクを開始値として要求トルクを上昇させるので、要求トルクと実トルクの乖離が抑制され、クラッチ係合率に対して高いエンジントルクによる吹き上がり傾向が抑制される利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車両の走行制御システムを示すブロック図である。
図2】変速動作中の要求トルクと実トルクを示すタイムチャートである。
図3】本発明実施形態に係る走行制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1において、車両1は、内燃式のエンジン2、および、エンジン2から駆動輪(6)へのトルク伝達経路にクラッチ3を介して自動変速機4を備えている。
【0012】
クラッチ3は、その係合/開放動作を行う不図示のクラッチアクチュエータを備えており、クラッチアクチュエータの動作ストロークおよび動作速度を制御することにより、クラッチ3の係合率および係合速度/開放速度を制御可能である。
【0013】
例えば、クラッチ3は、自動変速機4の入力軸に軸方向に摺動可能かつ回転不可能にスプライン係合するクラッチディスク、プレッシャープレートを介してクラッチディスクを付勢するクラッチスプリング(ダイヤフラムスプリング)を備え、クラッチアクチュエータの不作動状態では、エンジン2のクランクシャフトに連結されたフライホイールに、クラッチスプリングの付勢によりクラッチディスクが圧接され、クランクシャフトから自動変速機4に、エンジン2の動力を伝達可能である。
【0014】
そして、クラッチ3は、クラッチアクチュエータの動作により、そのストロークに応じて、クラッチレバーを介してレリーズベアリングが押圧されることで、クラッチディスクがクラッチスプリングの付勢に抗してフライホイールから離反し、エンジン2の動力伝達が遮断される。また、クラッチアクチュエータの動作ストロークによって与えられる接圧(係合率)に応じて部分的にエンジン2の動力が伝達される半クラッチ状態とすることができる。
【0015】
また、クラッチアクチュエータの動作速度を制御することで、クラッチ3の係合速度および開放速度を制御可能である。例えば、クラッチアクチュエータとして油圧アクチュエータが使用される場合は、油圧アクチュエータに供給される作動油の流量を制御し、油圧アクチュエータの動作速度を制御可能であるとともに、油圧アクチュエータの任意のストロークで油圧を保持することにより、そのストロークによって与えられる係合率を制御可能である。
【0016】
自動変速機4は、MT方式の変速機構、例えば、常時噛合シンクロメッシュを備えた平行歯車式変速機構と、そのギア段動作を行う変速アクチュエータとを備えるAMT方式の自動変速機として構成されており、車両1の走行条件に応じて変速動作を実行するAMTコントローラ40を備えている。
【0017】
変速アクチュエータは、不図示のセレクトレバーの操作位置に応じたP/R/N/Dレンジの切替と高速段/低速段の切替を行うセレクトアクチュエータと、シフト動作を行うシフトアクチュエータを含み、クラッチアクチュエータと連動して、クラッチ開放、ギア段変更、クラッチ係合からなる変速動作を実行する。なお、セレクトアクチュエータ、シフトアクチュエータとして油圧アクチュエータが使用され、それらおよびクラッチアクチュエータに油圧を供給する電動ポンプや油圧回路、アキュムレータ、電磁バルブなどがユニット化されて搭載されている。
【0018】
車両1は、不図示のアクセルペダル操作によって与えられるスロットル開度(トルク要求)や後述するACCコントローラ10の加減速指令に応じてエンジン2の出力を制御するエンジンコントローラ20を備えている。AMTコントローラ40は、エンジンコントローラ20との協調制御により、上記変速動作におけるクラッチ開放/係合動作と連動したエンジン制御を実行する。
【0019】
例えば、Dレンジが選択されている場合、AMTコントローラ40は、車速、エンジン回転数、トルク(走行抵抗)などの走行条件から決定されるギア段で走行中に、加速要求/減速要求や路面勾配の変化により、ギア段変更(シフトアップ/シフトダウン)が必要と判断されると、クラッチ開放と同時にトルク要求をゼロにしてギア段変更(シフトアップ/シフトダウン)を行い、クラッチ係合開始と同時にトルク要求を行い、クラッチ3の係合率に応じて自動変速機4に駆動トルクが伝達され、一連の変速動作が終了すると、エンジンコントローラ20によるエンジン制御に復帰する。
【0020】
車両1は、不図示のブレーキペダル操作や後述するACCコントローラ10の減速指令に応じて、左右前車輪6のブレーキ36および左右後車輪7のブレーキ37の制動力を個別に制御可能なブレーキコントローラ30と不図示のブレーキアクチュエータ(油圧アクチュエータ)、左右前車輪6の車輪速センサ36、および、左右後車輪7の車輪速センサ37を備え、ABS/車両挙動安定化装置を構成するブレーキシステムを備えている。
【0021】
以上のような基本構成を備えた車両1は、ACCコントローラ10とともにACCシステムを構成する先行車検出手段11を備えている。先行車検出手段11としては、ミリ波レーダ、単眼カメラ、ステレオカメラ、LIDERなど、自車前方の先行車や物体(障害物、構造物)の存在を検知する機能を有するとともに、先行車や障害物と自車両との相対距離(相対車間時間)を測定可能な1つまたは複数の検出手段を用いることができる。
【0022】
ACCコントローラ10は、先行車検出手段11の検出情報と、車輪速センサ36、37の検出値から算出される車速に基づいて、運転者のアクセル/ブレーキ操作に代わり、エンジンコントローラ20およびブレーキコントローラ30に加減速指令を出し、全車速域対応アダプティブ・クルーズ・コントロール(定速走行/追従走行制御/減速停止・再発進制御)を実行するように構成されている。
【0023】
すなわち、ACCコントローラ10からの減速指令を受けたブレーキコントローラ30(ブレーキコントローラ)は、ブレーキアクチュエータにブレーキ要求(液圧要求)を出し、ブレーキ36,37の制動力を制御することで車速を制御する。また、ACCコントローラ10からの加減速指令を受けたエンジンコントローラ20は、エンジン2にトルク要求を出し、アクチュエータ出力(スロットル開度)を制御することで、エンジン2のトルクを制御し、車速を制御する。
【0024】
ACCコントローラ10の上記制御により、車両1は、先行車が無い場合は設定車速を維持して定速走行し、先行車に追いついた場合には、先行車の速度に合わせて、所定の車間時間(タイムギアップ=車間距離/自車速)に応じた車間距離を維持しながら先行車に追従走行する。さらに、車両1は、追従走行中に先行車が減速停止するか、または、減速停止する先行車に追い付いた場合には、所定の車間距離を確保して減速停車し、所定時間内に先行車が発進した場合は、それに合わせて再発進して追従走行を継続する。
【0025】
以上述べたエンジンコントローラ20、AMTコントローラ40、ブレーキコントローラ30、および、ACCコントローラ10は、何れも制御プログラムや設定データなどを格納するROM、演算処理結果を一時記憶するRAM、演算処理を行うCPU、通信I/Fなどからなるマイコン(MCU)で構成され、車載ネットワーク(CANなど)を介して、先行車検出手段11および傾斜センサ12を含むセンサ群とともに相互通信可能に接続されている。
【0026】
(ACC走行による加速中の変速制御)
ところで、既に述べたように、AMTコントローラ40は、クラッチ係合時のショックを抑制するために、クラッチ係合率ゼロから係合率100%の完全係合まで所与の係合速度で係合率を上昇させる制御を行うが、ACCコントローラ10からの加速要求は、変速動作中も継続されているので、トルク伝達可能な係合率に達する前に、上昇した加速要求に対応するトルク要求がなされると、エンジンが吹き上がる虞がある。
【0027】
例えば、図2において、ACCコントローラ10からの加速要求による加速時に、車両1の走行状態が変速ポイント(ta)に達すると、エンジン2のトルク制御がAMTコントローラ40に移行し、AMTコントローラ40は、クラッチ3を開放するとともに、所定の低い要求トルク(例えば0Nm)により、エンジン2のトルクダウンを行い、クラッチオフにより実トルクTk(t)がゼロになった状態でギア段変更(この場合はシフトアップ)を行う。
【0028】
次いで、ポイント(tb)でクラッチ3の係合を開始するとともに、エンジン2のトルクアップを行い、クラッチ係合率の上昇とともに実トルクも上昇する。この際、ポイント(td)でエンジン2のトルク制御がACCコントローラ10に戻るまで、AMTコントローラ40が、ACCコントローラ10の目標加速度ベースの要求トルクTg(t)を制御目標としてトルクアップを行うと、クラッチ係合率αに対して高いエンジントルクによる吹き上がり傾向を生じる。
【0029】
そこで、本発明に係る制御では、ACCコントローラ10は、ポイント(ta)でAMTコントローラ40がギア段変更操作を開始時(クラッチ開放開始時)の要求トルクTf(t)を保持し、ギア段変更後にポイント(tb)でクラッチ係合開始時に、保持した要求トルクTf(t)を開始値として、以下のように要求トルクを上昇させる制御を実行する。
【0030】
すなわち、ACCコントローラ10は、設定車速または設定車間時間を維持するための目標車速と内部目標加速度を演算しており、この内部目標加速度ベースの要求トルクTg(t)のポイント(ta)から通常制御に戻るポイント(td)までの上昇曲線を、次式1により、ギア段変更後にクラッチ係合を開始するポイント(tb)からポイント(td)までに割り当てることでクラッチ係合率αに応じた要求トルクTh(t)の上昇曲線を得る。
(式1) Th(t)=α*Tg(t)+(1―α)*Tf(t)
【0031】
AMTコントローラ40は、ギア段変更操作開始時に保持した要求トルクTf(t)を開始値として、上記のようにクラッチ係合率αに応じた要求トルクTh(t)を制御目標としてトルクアップを行うことで、要求トルクTh(t)と実トルクTk(t)の乖離が抑制され、クラッチ係合中、特に、トルク伝達可能な係合率となるポイント(tc)以前におけるエンジン2の吹き上がり傾向を抑制するうえで有利である。
【0032】
図3は、以上述べたようなACC走行中の変速制御の流れを示している。
車両1の走行中にACC機能が起動している状態では(ステップ100)、ACCコントローラ10は、設定車速または設定車間時間を維持すべく、エンジンコントローラ20に加減速要求を行い、エンジンコントローラ20は車速等に応じた要求トルクでエンジン2を制御する(ステップ101)。
【0033】
車両1の走行状態が変速ポイントに到達し、AMTコントローラ40による変速操作(アップシフト)が開始されると(ステップ102;YES)、AMTコントローラ40によりクラッチ3が開放される(ステップ103)。これ以降、変速操作中のトルク制御はAMTコントローラ40に引き継がれ、実トルクはダウンするが、ACCコントローラ10は、クラッチオフ時の要求トルク(Tf)を保持する(ステップ104)。
【0034】
AMTコントローラ40によるシフトアップ操作が完了し、クラッチ係合が開始されると(ステップ105;YES)、ACCコントローラ10は、クラッチオフ時の要求トルク(Tf)を開始値としてクラッチ係合率αに応じて要求トルクTh(t)を上昇させる(ステップ106)。
【0035】
AMTコントローラ40は、要求トルクTh(t)を目標トルクとしてエンジン制御を行い、クラッチ係合率αの上昇とともに実トルクも上昇し、クラッチ係合が終了すると(ステップ107;YES)、ACCコントローラ10の加減速要求によるACC走行に戻る(ステップ108)。
【0036】
なお、上記実施形態では、ACCコントローラ10の内部目標加速度ベースの要求トルクTg(t)の上昇曲線をギア段変更後に割り当ててクラッチ係合率αに応じた要求トルクTh(t)の上昇曲線を得る実施形態について述べたが、他の実施形態としては、予め、クラッチ係合率αと要求トルクに基づいてエンジンの吹き上がり限界を指定する吹き上がり限界マップ(ルックアップテーブル)を、AMTコントローラ40に格納しておき、ACC走行中におけるギア段変更後、クラッチ係合開始から完全締結までの間、吹き上がり限界マップを参照して要求トルクを制限し、吹き上がり限界内で要求トルクを上昇させるように構成することもできる。
【0037】
また、上記実施形態では、ACC走行による加速中のアップシフトの場合について述べたが、ACC走行による減速中のダウンシフトについては、ACCコントローラ10による目標減速度ベースの要求トルクが、変速操作開始時の要求トルクより降下するので、吹き上がり傾向が生じることはなく、トルクの降下分はエンジンブレーキになるので、ACCコントローラ10による目標減速度ベースの要求トルクが維持されてもよい。
【0038】
一方、ACC走行による減速中のダウンシフト時にもアップシフト時と同様に、クラッチ係合開始時に変速操作開始時の要求トルクを開始値とする制御を行い、トルクの立ち上がりを早めることで、ダウンシフト中の目標減速度ベースのトルク降下に伴うエンジンブレーキが過剰になる傾向を抑制してスムーズな減速走行になるようにしてもよい。
【0039】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。
【符号の説明】
【0040】
1 車両
2 エンジン
3 クラッチ
4 自動変速機
10 ACCコントローラ
11 先行車検出手段
12 傾斜センサ
16,17 車輪速センサ
20 エンジンコントローラ
30 ブレーキ制御装置
36,37 ブレーキ
40 AMTコントローラ
図1
図2
図3