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特開2023-47080ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法並びに成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047080
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法並びに成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20230329BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20230329BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20230329BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230329BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20230329BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20230329BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20230329BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
C08L23/10
C08K3/34
C08L21/00
C08K3/013
C08K5/20
C08L53/00
C08L23/12
C08L83/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156010
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】597044128
【氏名又は名称】いその株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592190970
【氏名又は名称】株式会社イクヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加賀 正剛
(72)【発明者】
【氏名】坪井 淳
(72)【発明者】
【氏名】大出 敏雄
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC002
4J002BB123
4J002BB141
4J002BP021
4J002CP034
4J002DJ046
4J002DJ050
4J002EP010
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD070
4J002FD080
4J002FD090
4J002FD100
4J002FD170
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】
安定して高い耐傷付き性を有し、かつ、低コストのポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法並びに成形体を提供することを目的としている。
【解決手段】
ポリプロピレンホモポリマー(A)0~30質量部と、ポリプロピレンブロックコポリマー(B)50~90質量部と、エラストマー(C)10~30質量部と、無機充填材(D)0質量部以上と、を成分(A)~成分(D)の合計が100質量部となるように含有する本体部と、シリコーンガム(E)を含有する添加材と、を含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンホモポリマー(A)0~30質量部と、
ポリプロピレンブロックコポリマー(B)50~90質量部と、
エラストマー(C)10~30質量部と、
無機充填材(D)0質量部以上と、を成分(A)~成分(D)の合計が100質量部となるように含有する本体部と、
シリコーンガム(E)を含有する添加材と、を含むことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記シリコーンガム(E)の含有量が前記本体部100質量部に対して0.5質量部以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記シリコーンガム(E)の含有量が前記本体部100質量部に対して1.0質量部以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記シリコーンガム(E)の含有量が前記本体部100質量部に対して3.0質量部以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
少なくとも滑材として脂肪酸アミドを含まないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記無機充填材(D)はタルクであり、前記タルクの粒径は、4~5μmであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記無機充填材(D)はタルクであり、前記タルクを10~30質量部含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリプロピレンホモポリマー(A)を10~30質量部含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物から形成される成形体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1つに記載のポリプロピレン系樹脂組成物から形成される自動車の内外装部品。
【請求項11】
ポリプロピレンホモポリマー(A)0~30質量部と、
ポリプロピレンブロックコポリマー(B)50~90質量部と、
エラストマー(C)10~30質量部と、
無機充填材(D)0質量部以上と、を成分(A)~成分(D)の合計が100質量部となるように混合した混合物である本体部と、
シリコーンガム(E)を含有する添加材と、を溶融混練する工程を含むことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法並びに成形体に関し、特に、耐傷付き性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法並びに成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、成形性に優れ、かつ、低コストであるため、様々な成形体の材料として使用されている。その際に、ポリプロピレンに用途に応じた機能を付加するための他の成分が添加されることも多い。例えば、自動車の内装部品、外装部品に多く使われているポリプロピレン系樹脂組成物として、ゴム成分を添加することで耐衝撃性を改善したものや、タルク等の無機充填剤を添加して剛性を改善したものがある。
【0003】
一方、ポリプロピレンの成形品は、一般的に傷が付き易く、耐傷付き性の改善が望まれている。例えば、特許文献1には、耐傷付き性を改良するために脂肪酸アミドが添加されたポリプロピレン系樹脂組成物が開示されている(段落[0071]-[0073]など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6243729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなポリプロピレン系樹脂組成物は、耐傷付き性を改良するために添加される脂肪酸アミドが高価であるため、実際に成形品の材料として使用するにはコストが高くなりすぎるという問題があった。
【0006】
また、脂肪酸アミドは、成形品の表面に移動(ブリード)することで耐傷付き性を発現する。しかし、ブリードした脂肪酸アミドが拭き取り等によって成形品の表面から除去されれば耐傷付き性が低下するため、耐傷付き性が安定して得られないことも懸念されていた。
【0007】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、安定して高い耐傷付き性を有し、かつ、低コストのポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法並びに成形体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレンホモポリマー(A)0~30質量部と、ポリプロピレンブロックコポリマー(B)50~90質量部と、エラストマー(C)10~30質量部と、無機充填材(D)0質量部以上と、を成分(A)~成分(D)の合計が100質量部となるように含有する本体部と、シリコーンガム(E)を含有する添加材と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法は、ポリプロピレンホモポリマー(A)0~30質量部と、ポリプロピレンブロックコポリマー(B)50~90質量部と、エラストマー(C)10~30質量部と、無機充填材(D)0質量部以上と、を成分(A)~成分(D)の合計が100質量部となるように混合した混合物と、シリコーンガム(E)を含有する添加材と、を溶融混練する工程を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例及び比較例の動摩擦係数を示す図である。
図2】実施例及び比較例の耐傷付き試験後のテストピースの外観を示す図である。
図3】実施例のポリプロピレン系樹脂組成物中のシリコーンガムの分布を模式的に示す図である。
図4】比較例のポリプロピレン系樹脂組成物中の脂肪酸アミドの分布を模式的に示す図である。
図5】実施例1についてシリコーンガムの配合量を変化させた際の動摩擦係数を比較して示す図である。
図6】実施例2についてシリコーンガムの配合量を変化させた際の動摩擦係数を比較して示す図である。
図7】実施例1についてシリコーンガムの配合量を変化させた際の耐傷付き試験後のテストピースの外観を示す図である。
図8】実施例2についてシリコーンガムの配合量を変化させた際の耐傷付き試験後のテストピースの外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物について詳細に説明する。
【0012】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレンホモポリマー(A)0~30質量部と、ポリプロピレンブロックコポリマー(B)50~90質量部と、エラストマー(C)10~30質量部と、無機充填材(D)0質量部以上と、を成分(A)~成分(D)の合計が100質量部となるように含有する本体部と、シリコーンガム(E)を含有する添加材と、を含む。本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の各成分について以下に説明する。
【0013】
以下の説明において、成分(A)~成分(D)からなる混合物を「主材料」又は「本体部」と称する。
【0014】
[ポリプロピレンホモポリマー(A)]
本発明に用いられるポリプロピレンホモポリマー(A)としては、プロピレンモノマーを単独重合させたポリプロピレン単独重合体を用いる。例えば、自動車の内装部品又は外装部品(以下、単に内外装部品とも称する)に本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を用いる場合、ポリプロピレンホモポリマー(A)として、例えば、ISO1133に準拠し、温度230℃、荷重21Nの条件で測定したメルトフローレート(MFR)が30~50g/10minのポリプロピレン単独重合体を用いることができる。
【0015】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、主材料100質量部中に、0~30質量部のポリプロピレンホモポリマー(A)を含み、一実施例においては、10~30質量部のポリプロピレンホモポリマー(A)を含む。
【0016】
[ポリプロピレンブロックコポリマー(B)]
本発明に用いられるポリプロピレンブロックコポリマー(B)は、エチレンープロピレンブロック共重合体である。
【0017】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、主材料100質量部中に、50~90質量部のポリプロピレンブロックコポリマー(B)を含む。
【0018】
例えば、自動車の内装部品又は外装部品に本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を用いる場合、ポリプロピレンブロックコポリマー(B)として、例えば、ISO1133に準拠し、温度230℃、荷重21Nの条件で測定したMFRが30~50g/10minのエチレンープロピレンブロック共重合体を用いることができる。
【0019】
[エラストマー(C)]
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、その耐衝撃性を担保するためのゴム成分として、エラストマー(C)を含む。本発明のエラストマー(C)として、例えば、エチレンープロピレンゴム(EPM)又はEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)を用いることができる。
【0020】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、主材料100質量部中に、例えば、10~30質量部のエラストマー(C)を含む。本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の成形品を自動車の内外装部品に用いる場合、エラストマー(C)を上記のように配合することによって、当該成形品として求められる耐衝撃性が担保される。
【0021】
なお、エラストマー(C)として、ポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)等のポリオレフィンとEPM又はEPDM等のゴム成分オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を用いてもよい。
【0022】
[無機充填材(D)]
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、その剛性を担保するための補強材として、無機充填材を含んでいてもよい。当該無機充填材として、例えば、タルク(含水珪酸マグネシウム(MgSi10(OH)))を用いることができる。
【0023】
無機充填剤(D)としてタルクを用いる場合、主材料100質量部中のタルクの含有量は、例えば、自動車の内外装部品に用いる際の剛性に鑑みて、例えば10~30質量部である。
【0024】
例えば、ポリプロピレン系樹脂組成物の無機充填剤(D)としてタルクを用いる場合、当該樹脂組成物の成形体の表面に傷がついた場合に、タルクの影響で傷の部分が白化して目立ちやすくなる傾向がある。このような傷の白化を抑制する観点から、粒径の小さいタルクを使用することが好ましい。剛性を担保する観点からは、粒径の或る程度大きいタルクを使用することが好ましい。
【0025】
このように、傷の白化の抑制及び剛性の担保を考慮すると、タルクの粒径は、例えば4.0~5.0μm、例えば4.5~4.8μmであることが好ましい。なお、タルクの粒径はこれに限られず、成形体の物性に関する要求を満たすことができれば粒径が4μm以下のタルク又は粒径が5.0μm以上のタルクを使用してもよい。
【0026】
なお、本発明における無機充填材はタルクに限られず、例えば、マイカ(含水ケイ酸アルミニウムカリウム)、ガラス繊維等の無機充填材を用いてもよい。また、2種以上の無機充填材を組み合わせて用いてもよい。なお、成形品の意匠性、特に成形品の表面を所望の状態とすることを考慮すれば、無機充填材としてタルクを用いることが好ましい。
【0027】
[シリコーンガム(E)]
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、シリコーンガム(E)を含む。本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に用いるシリコーンガム(E)は、高分子量のシリコーンガムである。本発明におけるシリコーンガム(E)は、例えば、分子量が数10万であり、粘度が数百万mm/sであることが好ましい。本願の発明者らは、シリコーンガムを添加することで、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の耐傷付き性が向上することを見出した。
【0028】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、主材料100質量部に対して、例えば0.5質量部以上、好ましくは1.0質量部以上のシリコーンガム(E)を含有する。主材料100質量部に対して、0.5質量部以上のシリコーンガムを添加する等、シリコーンガムを有意に添加することで、ポリプロピレン系樹脂組成物の動摩擦係数が下がり、耐傷付き性が向上する効果が実証されている。実証の結果については後述する。
【0029】
例えば、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を用いて自動車の内外装部品を成形する場合、シリコーンガムの添加量が多くなると、機械的特性の観点から、自動車の内外装部品として適さない可能性がある。また、シリコーンガムの添加量が多くなりすぎると、コスト面から、自動車の内外装部品の材料として適さない可能性がある。これらのことを考慮してシリコーンガムの添加量の上限が決定されてもよい。
【0030】
耐傷付き性及び機械的特性の観点から、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、好ましくは主材料100質量部に対して、例えば、1.0~3.0質量部のシリコーンガム(E)を含有する。さらに好ましくは、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、主材料100質量部に対して、1.0~1.5質量部のシリコーンガム(E)を含有する。
【0031】
シリコーンガム(E)を添加する際に、例えば、シリコーンガム(E)を含有するマスターバッチを用いることができる。例えば、シリコーンガム(E)を含有するマスターバッチを用いる場合、マスターバッチ中に含まれるシリコーンガム(E)の重量が、成分(A)~成分(D)の合計100質量部に対して、0.5質量部以上の目標の添加量となるように当該マスターバッチを配合する。
【0032】
例えば、シリコーンガム(E)を50重量%含有するマスターバッチを用いて、主材料100質量部に対してシリコーンガム(E)を1.0質量部以上添加する場合、成分(A)~成分(D)の合計100質量部に対して、当該マスターバッチを2.0質量部以上配合する。
【0033】
当該マスターバッチの残りの50重量%を占める材料は、例えばポリプロピレンである。例えば、シリコーンガム(E)を含むマスターバッチとして、東レダウコーニング社製のシリコーンガムMB50―001を用いることができる。
【0034】
なお、マスターバッチを使用せずに、シリコーンガム(E)を主材料に直接混合してもよい。
【0035】
[その他の添加材]
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、耐候剤、帯電防止剤、酸化防止剤、顔料等の添加材を必要に応じて含んでいてもよい。言い換えれば、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、本体部と、シリコーンガム(E)を含む添加材とを含む。
【0036】
なお、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、さらに、滑材として脂肪酸アミドを含んでいてもよい。脂肪酸アミドとして、例えば、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド等が挙げられる。
【0037】
なお、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の1つの実施形態として、少なくとも滑材として脂肪酸アミドを含まないものが挙げられる。
【0038】
[プロピレン系樹脂組成物及び成形体の製造方法]
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレンホモポリマー(A)0~30質量部と、ポリプロピレンブロックコポリマー(B)50~90質量部と、エラストマー(C)10~30質量部と、無機充填材(D)0質量部以上と、を成分(A)~成分(D)の合計が100質量部となり、かつ、0.5質量部以上のシリコーンガム(E)を含むように配合して、必要に応じてその他の添加剤を配合することにより製造することができる。各成分及び添加剤を混合する順序は任意である。例えば、すべての成分及び添加剤を同時に混合してもよく、一部の成分を先に混合してもよい。
【0039】
例えば、成分(A)~(E)及びその他の添加材をタンブラーミキサーで混合し、押出機等の溶融混練機能を有する装置により加工温度180℃~250℃に加熱しつつ混練したものをダイから押し出して切断することによって、ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得ることができる。
【0040】
本明細書において、上記の成分(A)~(E)を少なくとも含有して溶融混練された組成物及び当該組成物をペレット状にしたものをポリプロピレン系樹脂組成物と称する。
【0041】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、射出成形や押出成形等の加工法により、様々な成形品に加工することができる。例えば、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、射出成形によって自動車の内装部品又は外装部品に加工され得る。
【0042】
例えば、射出成形機において、ホッパーからペレット状のポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンブロックコポリマー及びエラストマーとともにタルク、シリコーンガムのマスターバッチ及びその他の添加材を入れ、外部ヒーターによって加熱することで樹脂材料を溶融させつつ、スクリューの回転によって混練して得られるポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形することによって、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の成形体を製造することができる。
【0043】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を用いた成形体は、優れた耐傷付き性を示す。例えば、無機充填材としてタルクを配合した場合でも、傷が付きにくいため、たとえ傷がついても浅いもので済み、傷が目立ち難い。さらに、配合するタルクの粒径を微細にすれば、傷がついても白化しにくく目立ち難い。
【実施例0044】
本発明の具体的な実施例に係るポリプロピレン系樹脂組成物及びその物性について以下に説明する。
【0045】
[実施例1]
ポリプロピレンホモポリマー15質量部と、エチレン-プロピレンブロックコポリマー52質量部と、エラストマー13質量部と、タルク20質量部と、シリコーンガム1.5質量部とを配合して、実施例1のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0046】
ポリプロピレンホモポリマーとして、株式会社プライムポリマー製のJ108Mを用いた。
【0047】
エチレン-プロピレンブロックコポリマーとして、日本ポリプロ株式会社(JPP)製のBC04BAを用いた。
【0048】
エラストマーとして、三井化学株式会社製のDF640を用いた。
【0049】
シリコーンガムについては、分子量が数10万であり、粘度が数百万mm/sであるシリコーンガムを用いて調製され、当該シリコーンガムを50重量%含有するマスターバッチを使用した。具体的には、東レダウコーニング社製のシリコーンガムMB50―001を用いた。
【0050】
また、実施例1において、粒径4.5μmのタルクを使用した。
【0051】
なお、実施例1のポリプロピレン系樹脂組成物は、少なくとも滑材として脂肪酸アミドが添加されていない。
【0052】
[実施例2]
エチレン-プロピレンブロックコポリマー67質量部と、エラストマー13質量部と、タルク20質量部と、シリコーンガム1.5質量部とを配合して、実施例2のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0053】
エチレン-プロピレンブロックコポリマーとして、MFR30~50g/10minのエチレンープロピレンブロック共重合体を用いた。
【0054】
エラストマーとして、エチレンープロピレンゴム(EPM)を用いた。
【0055】
シリコーンガムについては、分子量が数10万であり、粘度が数百万mm/sであるシリコーンガムを用いて調製され、当該シリコーンガムを50重量%含有するマスターバッチを使用した。具体的には、東レダウコーニング社製のシリコーンガム MB50―001を用いた。
【0056】
また、実施例2において、粒径5.0μmのタルクを使用した。
【0057】
なお、実施例2のポリプロピレン系樹脂組成物は、少なくとも滑材として脂肪酸アミドが添加されていない。
【0058】
[実施例3]
実施例1の組成に加えて、エルカ酸アミド0.3質量部をさらに配合して、実施例3のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0059】
[実施例4]
実施例2の組成に加えて、エルカ酸アミド0.3質量部をさらに配合して、実施例4のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0060】
[比較例]
エチレン-プロピレンブロックコポリマー67質量部と、エラストマー13質量部と、タルク20質量部と、を配合して、比較例のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。比較において、粒径10-13μmのタルクを使用した。
【0061】
言い換えれば、比較例は、実施例2よりも粒径の大きいタルクが配合されており、かつ、シリコーンガムを含まない組成である。
【0062】
なお、実施例1~4及び比較例の各々について、上記の成分を配合する際に、黒色顔料1.5質量部、耐候剤0.4質量部、帯電防止剤0.3質量部、酸化防止剤0.2を添加した。
【0063】
[テストピース]
実施例1~4及び比較例の各々について、各成分を混合した混合物を溶融混練した。溶融混練は、具体的には、東芝機械製の射出成形機EC-75Sにてシリンダー温度をホッパーに近い方から190℃(供給部C1)、200℃(樹脂溶融部C2)、210℃(樹脂溶融部C3)、及びノズル温度200℃で行った。
【0064】
その後、射出成形により、耐傷付き性の評価及び物性試験のための各テストピース(試験片)を作成した。耐傷付き性評価用のテストピースの表面は、光沢面及びシボ面の2種類の表面とした。
【0065】
[耐傷付き性]
耐傷付き性の評価は、摩擦係数の測定及び外観観察により行った。
【0066】
摩擦係数の測定は、以下の条件にて行った。
条件A:荷重200g、傷長さ50mm、往復回数1、移動速度50mm/s、サファイヤ針(R0.7)
条件B:荷重300g、傷長さ100mm、往復回数1、移動速度100mm/s、SUS針(φ1.2R0.7)
条件C:荷重1000g、傷長さ100mm、往復回数5、移動速度100mm/s、SUS針(φ1.2R0.7)
実施例1、実施例2、及び比較例のテストピースの表面について、条件Cによる耐傷付き試験後の外観観察を行った。
【0067】
[物性試験]
以下の条件で物性試験を行った。
【0068】
メルトフローレートは、ISO1133に準拠し、温度230℃、荷重21Nの条件で測定した。
【0069】
シャルピー衝撃強さは、ISO179-1に準拠し、ノッチ付き試験片を用いて23℃で測定を実施した。
【0070】
引張降伏応力は、ISO527-1に準拠し、速度50mm/minの条件で測定した。
【0071】
引張破壊ひずみは、ISO527-1に準拠し、速度50mm/minの条件で測定した。
【0072】
引張弾性率は、ISO527-1に準拠し、引張速度1.0mm/minの条件で測定した。
【0073】
曲げ強さは、ISO178に準拠し、速度2.0mm/minの条件で測定した。
【0074】
曲げ弾性率は、ISO178に準拠し、速度2.0mm/minの条件で測定した。
【0075】
ロックウェル硬さは、ISO2039-2に準拠し、Rスケールを使用して測定した。
【0076】
荷重たわみ温度は、ISO75-1に準拠し、荷重0.45MPaで測定した。
【0077】
比重は、ISO1183に準拠し、水中置換法により測定した。
【0078】
[結果]
表1に、実施例1~4及び比較例の各々のポリプロピレン系樹脂組成物について、各成分の配合割合とともに、動摩擦係数及び機械特性の試験結果を示す。
【0079】
【表1】
【0080】
また、図1は、表1に示す動摩擦係数の測定結果を示す図である。表1及び図1において、光沢面の試験片について条件A(荷重200g)で測定した結果について「光沢A」、シボ面の試験片について条件Aで測定した結果について「シボA」と表示している。条件B(荷重300g)及び条件C(荷重1000g)についても同様に、「光沢B」、「シボB」、「光沢C」、「シボC」について動摩擦係数の測定結果を示している。
【0081】
表1及び図1に示すように、実施例1~4は、測定条件A~Cのすべてについて、動摩擦係数の測定結果が比較例よりも低くなっている。また、動摩擦係数は、全体として、実施例3及び4と比較して、実施例1及び2の方が僅かに低い傾向にある。
【0082】
実施例1及び2の結果より、シリコーンガムの配合によって比較例よりも動摩擦係数が低下したと考えられる。また、実施例1及び2と、実施例3及び4との比較により、シリコーンガムに加えてエルカ酸アミドをさらに配合しても、動摩擦係数は殆ど変わらないか僅かに高くなることがわかった。
【0083】
図2に示す画像は、実施例1、実施例2、及び比較例の各々のシボ面のテストピースの表面について、条件Cによる耐傷付き試験後に撮影した画像である。図2中、上段の画像の一部を拡大した画像を下段に示している。
【0084】
実施例1及び2では、比較例よりも傷が浅く、目立たない。本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、シリコーンガムを配合することにより、成形体の表面の摩擦係数が低下したことが主な要因となって傷が付きにくくなったと考えられる。また、タルクの粒径を小さくしたことにより、傷がついても白化しにくくなり、目立たなくなったと考えられる。
【0085】
再び表1を参照し、物性試験の結果について比較すると、実施例1~4では、比較例よりも曲げ弾性率がわずかに低くなっている。これに関連して、引張弾性率、荷重たわみ温度についても、実施例1~4では、比較例よりもわずかに低くなっている。
【0086】
これらのことから、比較例のポリプロピレン系樹脂組成物と比較して、実施例1~4のポリプロピレン系樹脂組成物は、ゴム弾性が僅かに高まった状態にあると考えられる。このことも、実施例1~4のポリプロピレン系樹脂組成物の耐傷付き性が比較例よりも高いことの一因と考えられる。
【0087】
図3及び図4を参照しつつ、シリコーンガムの配合によって耐傷付き性が向上したメカニズムについて考察する。
【0088】
図3は、シリコーンガムが添加されており、脂肪酸アミドが添加されていない本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の成形体10の表面近傍及び内部におけるシリコーンガム11の分布を模式的に示す図である。図3中、10Sは、成形体10の表面を示している。
【0089】
図3に示すように、シリコーンガム11は、ポリプロピレン系樹脂組成物中に均一に分散しており、時間が経過してもその分布は変化しないものと考えられる。図3に示す表面~表面近傍のシリコーンガム11の存在によって、摩擦係数が低下したと考えられる。
【0090】
また、図3に示すように、シリコーンガム11が成形体10中に均一に分散することによって、成形体10の全体に、ゴム弾性が付加されたものと推測できる。成形体10は、摩擦係数の低下に加えて、ゴム弾性が高まったことによって、より傷が付きにくくなったと考えられる。
【0091】
以上より、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、シリコーンガムが添加されていることにより、主として摩擦係数の低下によって耐傷付き性が向上し、これに加えて、弾性係数が僅かに低下したこと、すなわちゴム弾性が僅かに強化されたことによって、さらに耐傷付き性が向上したと考えられる。
【0092】
なお、上記の実施例1~4において、曲げ弾性率が僅かに低下したが、成形体に求められる条件を満たしていれば問題はない。例えば、自動車の内外装部品としては、曲げ弾性率2200MPa±500MPaであればよい。
【0093】
図4は、シリコーンガムが添加されておらず、脂肪酸アミドが添加されている従来のポリプロピレン系樹脂組成物の成形体20の表面近傍及び内部における脂肪酸アミド21の分布を模式的に示す図である。図4中、20Sは、成形体20の表面を示している。
【0094】
脂肪酸アミド21は、親水性のアミド基22と疎水性の脂肪酸基(炭化水素基)23とからなる。脂肪酸アミド21は、成形直後(図4中、(a))は比較的均一に分散していても、次第に表面20Sに向かって移動し、一定時間(例えば、十数時間~数十時間)が経過すると、表面20S上に膜を形成(ブリード)する(図4中、(b))。
【0095】
成形体20の表面に脂肪酸アミド21の膜が形成されると、当該膜によって、摩擦係数が低くなり、傷がつきにくくなる。この脂肪酸アミド21の膜は、例えば、成形体20の表面から拭き取り等により除去されると、再び表面に膜が形成されるまでに数十時間程度の時間を要し、その間は耐傷付き性が低下する。
【0096】
また、成形体20の表面の脂肪酸アミド21の膜は、繰り返し除去されると、成形体20内部に含まれる脂肪酸アミド21が枯渇し、脂肪酸アミドの膜が形成されなくなり、耐傷付き性が低下する。
【0097】
これに対して本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、シリコーンガムを含んでおり、脂肪酸アミドを添加しなくても摩擦係数が低く、高い耐傷付き性を示す。シリコーンガムは、ブリードせず、分子量が非常に大きいので拭き取りによって除去されることもなく、長期間安定して、耐傷付き性を維持することができる。
【0098】
図5は、上記の実施例1のポリプロピレン系樹脂組成物について、シリコーンガムの添加量を主材料100質量部に対して0.5質量部、1.0質量部及び1.5質量部に変化させて表面が光沢面となるように成形した成形体(以下、「光沢面サンプル」とも称する)及び表面がシボ面となるように成形した成形体(以下、「シボ面サンプル」とも称する)の動摩擦係数を上述の測定条件C(荷重1000g)にて測定した結果を示す。
【0099】
図5に示すように、主材料100質量部に対して0.5質量部、1.0質量部、及び1.5質量部のシリコーンガムを添加した光沢面サンプル及びシボ面サンプルの動摩擦係数は、シリコーンガムを添加していない比較例の光沢面の動摩擦係数0.309(表1参照、条件C光沢)及びシボ面の動摩擦係数0.338(表1参照、条件Cシボ)と比較して十分に小さい。
【0100】
また、図5に示すように、光沢面サンプル及びシボ面サンプルのいずいれにおいても、シリコーンガムの添加量が主材料100質量部に対して1.0質量部及び1.5質量部のサンプルでは、0.5質量部のサンプルよりも動摩擦係数が小さい値となっている。このように、図5より、本願発明に係る実施例1のポリプロピレン系樹脂組成物について、表面を光沢面とした成形体及び表面をシボ面とした成形体は、シリコーンガムの添加量が多くなると動摩擦係数が小さくなるか又は値を維持しつつ推移する傾向があることがわかる。
【0101】
一般的に、動摩擦係数が小さくなると、耐傷付き性が高くなる傾向がある。従って、実施例1のポリプロピレン系樹脂組成物の表面を光沢面とした成形体及び表面をシボ面としたサンプルは、シリコーンガムの添加量が多くなってくると表面の耐傷付き性が高く維持される傾向があるといえる。
【0102】
図6は、上記の実施例2のポリプロピレン系樹脂組成物について、シリコーンガムの添加量を主材料100質量部に対して0.5質量部、1.0質量部及び1.5質量部に変化させた光沢面サンプル及びシボ面サンプルの動摩擦係数を測定条件C(荷重1000g)にて測定した結果を示す。なお、表1に示したように、実施例2のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレンホモポリマーを含まない点及び粒径5.0μmのタルクを使用している点で実施例1のポリプロピレン系樹脂組成物と異なる。
【0103】
図6に示すように、主材料100質量部に対して0.5質量部、1.0質量部、及び1.5質量部のシリコーンガムを添加した光沢面サンプル及びシボ面サンプルの動摩擦係数について、比較例の光沢面の動摩擦係数0.309(表1参照、条件C光沢)及びシボ面の動摩擦係数0.338(表1参照、条件Cシボ)と比較して十分に小さい。
【0104】
また、図6に示すように、光沢面サンプル及びシボ面サンプルのいずいれにおいても、シリコーンガムの添加量が主材料100質量部に対して1.0質量部及び1.5質量部のサンプルでは0.5質量部のサンプルよりも動摩擦係数が小さい値となっている。このように、図6より、本願発明に係る実施例2のポリプロピレン系樹脂組成物について、表面を光沢面とした成形体及び表面をシボ面とした成形体は、シリコーンガムの添加量が多くなると動摩擦係数が小さくなるか又は値を維持しつつ推移する傾向があることがわかる。
【0105】
上記したように、一般的に、動摩擦係数が小さくなると、耐傷付き性が高くなる傾向がある。従って、実施例2のポリプロピレン系樹脂組成物の表面を光沢面とした成形体及び表面をシボ面とした成形体は、シリコーンガムの添加量が多くなってくると表面の耐傷付き性が高く維持される傾向があるといえる。
【0106】
図7に、図5において動摩擦係数を示した実施例1のポリプロピレン系樹脂組成物の光沢面サンプル及びシボ面サンプルについての、耐傷付き試験後の表面の外観観察の結果を、シリコーンガムを含まない比較例と比較して示す。
【0107】
図7からわかるように、シリコーンガムを添加したいずれのサンプルも(図7中、(a)~(c))、比較例よりも傷が目立たない。さらに、シリコーンガムの添加量が主材料100質量部に対して1.0質量部及び1.5質量部では、傷が殆ど白化しておらず、傷がより目立ち難くなっている。この傾向は、特に光沢面で顕著である。シリコーンガムの添加量が主材料100質量部に対して1.0質量部及び1.5質量部の光沢面サンプルの表面は、傷が非常に浅く、図7中の画像においても殆ど視認できない程度である。
【0108】
このように、実施例1をベースにしたサンプルについて、シリコーンガムの添加量が主材料100質量部に対して有意である0.5質量部で耐傷付き性が向上し、1.0質量部以上では耐傷付き性が大きく向上することが確認された。
【0109】
図8に、図6に示した実施例2のポリプロピレン系樹脂組成物の光沢面サンプル及びシボ面サンプルについての、耐傷付き試験後の表面の外観観察の結果を比較例と比較して示す。実施例2についての各サンプルについても、実施例1の場合と同様の傾向がみてとれる。すなわち、図8からわかるように、シリコーンガムを添加したいずれのサンプルも(図8中、(a)~(c))、比較例よりも傷が目立たない。さらに、シリコーンガムの添加量が主材料100質量部に対して1.0質量部及び1.5質量部では、傷が殆ど白化しておらず、傷がより目立ち難くなっている。
【0110】
シリコーンガムの添加量を主材料100質量部に対して有意である0.5質量シリコーンガムが添加されていれば耐傷付き性が向上し、1.0質量部以上では耐傷付き性が大きく向上することが実施例2をベースにしたサンプルについても確認された。
【0111】
上記したように、図5及び図6に示す動摩擦係数の測定結果において、本願発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、シリコーンガムの添加量が多くなると、成形体の動摩擦係数が小さくなるという傾向があることがわかった。また、図7及び図8に示した外観観察結果から、シリコーンガムの添加量が多くなると、傷が付きにくく、傷がついても目立ち難く、高い耐傷付き性が得られることがわかった。特に、シリコーンガムの配合量を主材料100質量部に対して1.0質量部以上とした場合、十分に動摩擦係数が低く、より高い耐傷付き性が得られることがわかった。
【0112】
シリコーンガムの含有量が多くなると、弾性率が低下していき、多くなりすぎると、例えば、自動車の内外装部品の材料として適さなくなる可能性がある。主材料100質量部に対してシリコーンガムの添加量が3.0質量部程度までであれば、自動車の内外装部品として十分な弾性率を有し耐傷付き性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物が得られる。
【0113】
上述の図5図8の結果より、本願発明のポリプロピレン系樹脂組成物の主材料100質量部に対してシリコーンガムの添加量が多くなると、成形体の表面の動摩擦係数小さくなるか又は値を維持しつつ推移する傾向があり、表面の耐傷付き性が高く維持される傾向があるといえる。よって、本願発明のポリプロピレン系樹脂組成物の主材料100質量部に対して3.0質量部のシリコーンガムを添加して成形した成形体についても、動摩擦係数が比較例と比較して十分に低く、十分な耐傷付き性が得られると考える。
【0114】
また、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を自動車の内外装部品として用いる場合、コストの面から、主材料100質量部に対してシリコーンガムの添加量を例えば2.5質量部以下とすることが好ましく、1.5質量部以下とすることがより好ましい。
【0115】
なお、上記の実施例3、4では、シリコーンガムに加えてエルカ酸アミドを添加することによって耐傷付き性が向上する効果は見られなかった。シリコーンガムによってエルカ酸アミドのブリードが阻害され、エルカ酸アミドによる摩擦係数を低下させる効果が抑制されたものと考えられる。
【0116】
以上、詳細に説明したように、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレンホモポリマー(A)0~30質量部と、ポリプロピレンブロックコポリマー(B)50~90質量部と、エラストマー(C)10~30質量部と、無機充填材(D)0質量部以上と、を成分(A)~成分(D)の合計が100質量部となるように含有する本体部と、シリコーンガム(E)を含有する添加材とを含み、その成形体は、高い耐傷付き性を有する。
【0117】
本発明によれば、高価な脂肪酸アミドを添加する必要が無いので、低コストを維持したまま、ポリプロピレン系樹脂組成物の耐傷付き性を向上することができる。本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に含有されるシリコーンガムは、高い耐傷付き性を安定して長期間にわたって維持することができる。
【0118】
従って、本発明によれば、安定して高い耐傷付き性を有し、かつ、低コストのポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造方法並びに成形体を提供することができる。
【符号の説明】
【0119】
10、20 成形体
10S、20S 表面
11 シリコーンガム
21 脂肪酸アミド
22 アミド基
23 脂肪酸基
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8