(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047107
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】プライマー、及び建材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 183/00 20060101AFI20230329BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
C09D183/00
C09D5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156043
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】501352619
【氏名又は名称】三商株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】服部 絵美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 圭一
(72)【発明者】
【氏名】広田 正之
(72)【発明者】
【氏名】森田 武
(72)【発明者】
【氏名】水落 秀木
(72)【発明者】
【氏名】浅井 信雄
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DA162
4J038DL001
4J038DM002
4J038GA09
4J038JC30
4J038PB05
4J038PC06
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】基材に難燃性を付与することができるプライマー、及び建材の製造方法を提供すること。
【解決手段】プライマーは、式(1)で表されるシラン化合物、又は前記シラン化合物の重合体を含む。式(1):(R
1O)
xSiR
2
y(xは1以上3以下の数である。yは1以上3以下の数である。xとyとの和は4である。R
1は、H、CH
3、又はC
2H
5である。R
2は有機置換基である。前記プライマーに含まれるR
2の少なくとも一部は炭素数1~3の有機置換基R
2aである。前記プライマーにおいて、R
2aのモル数は、R
2aではないR
2のモル数の4倍以上である。)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるシラン化合物、又は前記シラン化合物の重合体を含むプライマー。
式(1) (R1O)xSiR2
y
(xは1以上3以下の数である。yは1以上3以下の数である。xとyとの和は4である。R1は、H、CH3、又はC2H5である。R2は有機置換基である。前記プライマーに含まれるR2の少なくとも一部は炭素数1~3の有機置換基R2aである。前記プライマーにおいて、R2aのモル数は、R2aではないR2のモル数の4倍以上である。)
【請求項2】
請求項1に記載のプライマーであって、
前記重合体はオリゴマー又はレジンである、
プライマー。
【請求項3】
基材にプライマーを塗布してプライマー層を形成し、
前記プライマー層の上に被覆層を形成し、
前記プライマーは、下記式(1)で表されるシラン化合物、又は前記シラン化合物の重合体を含むプライマーである、
建材の製造方法。
式(1) (R1O)xSiR2
y
(xは1以上3以下の数である。yは1以上3以下の数である。xとyとの和は4である。R1は、H、CH3、又はC2H5である。R2は有機置換基である。前記プライマーに含まれるR2の少なくとも一部は炭素数1~3の有機置換基R2aである。前記プライマーにおいて、R2aのモル数は、R2aではないR2のモル数の4倍以上である。)
【請求項4】
請求項3に記載の建材の製造方法であって、
前記基材は木材から成る、
建材の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の建材の製造方法であって、
前記重合体はオリゴマー又はレジンである、
建材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はプライマー、及び建材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材を難燃化する方法として、難燃剤を木材に浸透させる方法がある。難燃剤を木材に浸透させる方法は、特許文献1に開示されている。プラスチックを難燃化する方法として、プラスチックの組成を変更する方法がある。プラスチックの組成を変更する方法は特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-137805号公報
【特許文献2】特開2000-273298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
難燃剤を木材に浸透させるためには特殊な装置が必要である。また、難燃剤を木材に浸透させるためには、多くの時間とエネルギーとを要する。プラスチックの組成を変更する方法の場合、プラスチックの組成が限定される。
【0005】
本開示の1つの局面では、基材に難燃性を付与することができるプライマー、及び建材の製造方法を提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面は、下記式(1)で表されるシラン化合物、又は前記シラン化合物の重合体を含むプライマーである。
式(1) (R1O)xSiR2
y
(xは1以上3以下の数である。yは1以上3以下の数である。xとyとの和は4である。R1は、H、CH3、又はC2H5である。R2は有機置換基である。前記プライマーに含まれるR2の少なくとも一部は炭素数1~3の有機置換基R2aである。前記プライマーにおいて、R2aのモル数は、R2aではないR2のモル数の4倍以上である。)
本開示の1つの局面であるプライマーを基材に塗布することにより、基材の難燃性を高めることができる。
【0007】
本開示の別の局面は、基材にプライマーを塗布してプライマー層を形成し、前記プライマー層の上に被覆層を形成し、前記プライマーは、下記式(1)で表されるシラン化合物、又は前記シラン化合物の重合体を含むプライマーである、建材の製造方法である。
【0008】
式(1) (R1O)xSiR2
y
(xは1以上3以下の数である。yは1以上3以下の数である。xとyとの和は4である。R1は、H、CH3、又はC2H5である。R2は有機置換基である。前記プライマーに含まれるR2の少なくとも一部は炭素数1~3の有機置換基R2aである。前記プライマーにおいて、R2aのモル数は、R2aではないR2のモル数の4倍以上である。)
本開示の別の局面である建材の製造方法により製造した建材は難燃性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図5】プライマー層が木材の燃焼を抑制するメカニズムを表す説明図である。
【
図6】実施例12における発熱量と発熱速度との測定結果を表すグラフである。
【
図7】比較例5における発熱量と発熱速度との測定結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
1.建材の構成
(1)基材
建材は基材を備える。基材として、例えば、可燃性の基材が挙げられる。可燃性の基材として、例えば、木材等が挙げられる。木材として、例えば、厚さ12mm、幅100mm、長さ2000mmのスギ製材等が挙げられる。
【0011】
基材は木材に限定されず、任意に選択できる。基材として、例えば、プラスチック、木質建材、紙、布等が挙げられる。プラスチックとして、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、発泡ポリスチレン樹脂等が挙げられる。木質建材として、例えば、製材、集成材、合板、単板積層材(LVL)、直交集成板(CLT)、中密度繊維板(MDF)等が挙げられる。基材の形態は特に限定されない。基材の形態として、例えば、柱状、板状、シート状、布状等が挙げられる。
【0012】
基材として、例えば、木質の構造部材が挙げられる。木質の構造部材として、例えば、柱、梁、壁、床等が挙げられる。
柱として、例えば、角形柱がある。長手方向に直交する断面での角形柱の断面形状は、例えば、正方形である。正方形の一辺の長さは、例えば、90mm以上1100mm以下である。
【0013】
梁として、例えば、角形梁がある。長手方向に直交する断面での角形梁の断面形状は、例えば、長方形である。長方形の一辺の長さは、例えば、90mm以上800mm以下である。前記一辺に隣接する辺の長さは、例えば、90mm以上1200mm以下である。角形梁の長さは特に限定されないが、例えば、3000mm以上10000mm以下である。
【0014】
壁の形状は、例えば、長方形である。長方形の短辺の長さは、例えば、3000mm以下である。長方形の短辺の長さは、例えば、500mm以上である。長方形の長辺の長さは、例えば、12000mm以下である。長方形の長辺の長さは、例えば、2000mm以上である。
【0015】
基材として、例えば、木材の表面に板状又はシート状の部材を取り付けたものが挙げられる。板状又はシート状の部材として、例えば、石膏ボード、耐火シート、化粧材等が挙げられる。
(2)被覆層の構成
建材は被覆層を備える。被覆層は後述するプライマー層の上に形成されている。被覆層は、例えば、塗膜と、ガラス繊維部と、を備える。塗膜は、加熱により発泡する。ガラス繊維部は、ガラス繊維クロス又はガラス繊維不織布から成る。ガラス繊維部の少なくとも一部は、塗膜に埋め込まれている。
【0016】
例えば、
図1に示すように、建材1は、基材3と、プライマー層4と、被覆層5とを備
える。被覆層5はプライマー層4の上に形成されている。被覆層5は、塗膜7と、ガラス繊維部9とを備える。
図1に示す形態では、ガラス繊維部9の全部が、塗膜7に埋め込まれている。塗膜7はガラス繊維部9の内部に含浸している。
【0017】
厚さ方向において、ガラス繊維部9は、被覆層5の厚み方向における中央5Aよりも、被覆層5の表面5Bの側にあることが好ましい。ガラス繊維部9が、中央5Aよりも表面5Bの側にある場合、発泡抑制効果が一層高い。発泡抑制効果とは、塗膜7が過度に発泡することを抑制する効果である。
【0018】
被覆層5は、プライマー層4の側に、ガラス繊維部9を含まない部分(以下では非含有部5Cとする)を有することが好ましい。非含有部5Cは、例えば、塗膜7のみから成る。被覆層5が非含有部5Cを有する場合、発泡抑制効果が一層高い。
【0019】
例えば、
図2に示すように、建材1は、基材3と、プライマー層4と、被覆層5とを備える。被覆層5はプライマー層4の上に形成されている。被覆層5は、塗膜7と、ガラス繊維部9とを備える。
図2に示す形態では、ガラス繊維部9の表面9Aが、被覆層5の表面5Bと一致している。塗膜7はガラス繊維部9の内部に含浸している。被覆層5は、プライマー層4の側に、非含有部5Cを有することが好ましい。被覆層5が非含有部5Cを有する場合、発泡抑制効果が一層高い。
【0020】
ガラス繊維クロス又はガラス繊維不織布を構成するガラスとして、例えば、アルミナ硼けい酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス等が挙げられる。アルミナ硼けい酸ガラスは熱膨張率が低く、熱衝撃に強いため、ガラス繊維クロス又はガラス繊維不織布を構成するガラスとして好ましい。ガラス繊維クロス又はガラス繊維不織布を構成するガラスのうち、97質量%以上がアルミナ硼けい酸ガラスであることが好ましい。
【0021】
ガラス繊維クロス又はガラス繊維不織布に含まれる集束剤として、例えば、でんぷん、アクリル樹脂、PVA、EVA等が挙げられる。ガラス繊維クロス又はガラス繊維不織布における集束剤の含有量は、3質量%以下であることが好ましい。
【0022】
ガラス繊維クロスにおける縦方向での織り密度は、30本/25mm以上、70本/25mm以下であることが好ましく、53本/25mmであることがさらに好ましい。ガラス繊維クロスにおける横方向での織り密度は、30本/25mm以上、70本/25mm以下であることが好ましく、48本/25mmであることがさらに好ましい。
【0023】
縦方向又は横方向における織り密度が70本/25mm以下である場合、ガラス繊維クロスへの塗料組成物の染み込みが一層良好になる。縦方向又は横方向における織り密度が30本/25mm以上である場合、発泡抑制効果が一層高い。
【0024】
ガラス繊維クロスの織り方として、平織が好ましい。ガラス繊維クロス又はガラス繊維不織布の単位面積当たりの質量は、70g/m2以上150g/m2以下が好ましく、92g/m2が一層好ましい。
【0025】
ガラス繊維クロス又はガラス繊維不織布の厚さは、0.05mm以上0.20mm以下が好ましく、0.09mm以上0.1mm以下がさらに好ましい。
ガラス繊維クロス又はガラス繊維不織布の縦方向での引張強さは、300N/25mm以上1000N/25mm以下が好ましく、510N/25mmがさらに好ましい。ガラス繊維クロス又はガラス繊維不織布の横方向での引張強さは、300N/25mm以上1000N/25mm以下が好ましく、451N/25mmがさらに好ましい。
【0026】
塗膜7の単位面積当たりの質量は、例えば、250g/m2以上550g/m2以下である。塗膜7のうち、ガラス繊維部9に含侵しているか、ガラス繊維部9よりも表面5Bの側にある部分の単位面積当たりの質量は75g/m2以上275g/m2以下であることが好ましい。この場合、発泡抑制効果が一層高い。
【0027】
例えば、
図3に示すように、被覆層5は、ガラス繊維部を備えず、塗膜7を備える。例えば、被覆層5は、塗膜7のみから成る。塗膜7の単位面積当たりの質量は、例えば、250g/m
2以上550g/m
2以下である。
(3)塗料組成物の構成
塗膜7は、塗料組成物を塗布することにより形成される。塗料組成物として、例えば、(a)水溶性メラミン樹脂と、(b)縮重合リン酸エステルと、(c)リン酸、ホウ酸、アンモニウム塩、及びアンモニア水のうちの1以上と、を含有する塗料組成物(以下では特定塗料組成物とする)が挙げられる。特定塗料組成物は、(d)分子構造中にアミノ基を有する化合物、(e)カオリン、及び(f)ガラス繊維のうちの1以上をさらに含んでいてもよい。
【0028】
なお、塗膜7を形成するために使用される塗料組成物は、加熱により発泡する塗膜を形成できるものであれば、他の塗料組成物であってもよい。他の塗料組成物を塗布して形成された塗膜7は、透明性を有することが好ましい。
【0029】
(3-1)(a)水溶性メラミン樹脂
特定塗料組成物は水溶性メラミン樹脂を含む。水溶性メラミン樹脂は、例えば、アルデヒド類とメラミンとをアルカリ触媒存在下で反応させることにより製造することができる。水溶性メラミン樹脂の製造方法は、例えば、特許第257115号公報、特開昭51-114492号公報、特開2006-124457号公報等に開示されている。
【0030】
水溶性メラミン樹脂として、例えば、メチロールメラミン樹脂、アルコキシ化メチロールメラミン樹脂等が挙げられる。メチロールメラミン樹脂として、例えば、モノメチロールメラミン樹脂、ジメチロールメラミン樹脂、トリメチロールメラミン樹脂等が挙げられる。アルコキシ化メチロールメラミン樹脂として、例えば、メチロールメラミン樹脂、メチル化メチロールメラミン樹脂、メトキシメチロール化メラミン樹脂、ブチル化メチロールメラミン樹脂等が挙げられる。
【0031】
アルコキシ化メチロールメラミン樹脂は完全にアルコキシ化されていてもよいし、メチロール基が残存していてもよいし、イミノ基が残存していてもよい。また、特定塗料組成物は、水溶性メラミン樹脂とフェノール樹脂等との共重合体を含んでいてもよい。水溶性メラミン樹脂のうち、メチロールメラミン樹脂が一層好ましい。
【0032】
特定塗料組成物がメチロールメラミン樹脂を含む場合、基材3の難燃性と、塗膜7の透明性とが一層顕著になる。なお、本明細書において透明とは、完全な透明には限定されず、例えば、半透明であってもよい。
【0033】
(3-2)(b)縮重合リン酸エステル
特定塗料組成物は縮重合リン酸エステルを含む。縮重合リン酸エステルは、ポリリン酸とアルコールとの縮合反応により得られるエステルである。アルコールとして、例えば、脂肪族アルコール、グリコール、多価アルコール、グリセリン等が挙げられる。
【0034】
脂肪族アルコールとして、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール等が挙げられる。グリコールとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。多価アルコールとして、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタ
エリスリトール、トリペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0035】
縮重合リン酸エステルとして、多価アルコールを用いて得られた縮重合リン酸エステルが好ましい。特定塗料組成物が、多価アルコールを用いて得られた縮重合リン酸エステルを含む場合、基材3の難燃性と、塗膜7の透明性とが一層顕著になる。縮重合リン酸エステルとして、ペンタエリスリトールを用いて得られた縮重合リン酸エステルが一層好ましい。特定塗料組成物が、ペンタエリスリトールを用いて得られた縮重合リン酸エステルを含む場合、基材3の難燃性と、塗膜7の透明性とが一層顕著になる。
【0036】
水溶性メラミン樹脂100質量部に対する縮重合リン酸エステルの配合割合は、好ましくは120質量部以上350質量部以下であり、より好ましくは130質量部以上200質量部以下であり、最も好ましくは170質量部である。
【0037】
水溶性メラミン樹脂100質量部に対する縮重合リン酸エステルの配合割合が120質量部以上350質量部以下である場合、基材3の難燃性と、塗膜7の透明性とが一層顕著になる。水溶性メラミン樹脂に過剰の縮重合リン酸エステルを混合した場合、基材3の難燃性と、塗膜7の透明性とが一層顕著になる。
【0038】
(3-3)(c)成分
特定塗料組成物は(c)成分を含む。(c)成分は、リン酸、ホウ酸、アンモニウム塩、及びアンモニア水のうちの1以上を含む。(c)成分は、例えば、リン酸とホウ酸との両方を含む。アンモニウム塩として、例えば、リン酸アンモニウム塩、ホウ酸アンモニウム塩等が挙げられる。
【0039】
アンモニウム塩及びアンモニア水から、アンモニアが徐々に揮発する。揮発したアンモニアは水溶性メラミン樹脂の硬化を遅らせる。
水溶性メラミン樹脂100質量部に対する(c)成分の配合割合は、好ましくは15質量部以上90質量部以下であり、より好ましくは20質量部以上50質量部以下であり、最も好ましくは31質量部である。
【0040】
水溶性メラミン樹脂100質量部に対する(c)成分の配合割合が15質量部以上90質量部以下である場合、基材3の難燃性と、塗膜7の透明性とが一層顕著になる。(c)成分が水溶性メラミン樹脂に対し過剰のリン酸又はホウ酸を含む場合、水溶性メラミン樹脂の硬化が促進される。
【0041】
また、(c)成分が水溶性メラミン樹脂に対し過剰のリン酸又はホウ酸を含む場合、余剰のリン酸又はホウ酸がプライマー層4の水酸基と化学結合し、塗膜7とプライマー層4との密着性が向上する。また、余剰のリン酸又はホウ酸は、火災時の燃焼熱により分解した水溶性メラミン樹脂と化学結合することで、基材3の難燃性を一層高める。余剰のリン酸又はホウ酸は、水溶性メラミン樹脂の熱分解により生ずる水酸基と化学結合すると推測される。
【0042】
(3-4)(d)分子構造中にアミノ基を有する化合物
特定塗料組成物は、(d)分子構造中にアミノ基を有する化合物(以下では(d)成分ともいう)を含む。特定塗料組成物が(d)成分を含むことにより、常温における特定塗料組成物の硬化が速くなる。常温における特定塗料組成物の硬化が速くなると、垂直面に特定塗料組成物を塗付した場合の垂れが少なくなる。
【0043】
(d)成分として、例えば、尿素、メラミン、脂肪族アミン、芳香族アミン、複素環式アミンが挙げられる。
脂肪族アミンとして、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジン等が挙げられる。
【0044】
芳香族アミンとして、例えば、アニリン、フェネチルアミン、トルイジン、カテコールアミン、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン等が挙げられる。
複素環式アミンとして、例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オキサゾール、チアゾール、4-ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
【0045】
(d)成分として、二以上のアミノ基を有するもの、又は尿素が好ましい。二以上のアミノ基を有する(d)成分として、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0046】
特定塗料組成物が(d)成分として、二以上のアミノ基を有するもの、又は尿素を含む場合、常温における特定塗料組成物の硬化が一層速くなる。
常温における特定塗料組成物の硬化が一層速くなる理由は、水溶性メラミン樹脂に残留するホルムアルデヒドと(d)成分との重縮合物が特定塗料組成物の流動性を低下させるためであると推測される。なお、(d)成分とホルムアルデヒドとの重縮合物は、後述する(D)成分である。
【0047】
水溶性メラミン樹脂100質量部に対する(d)成分の配合割合は、好ましくは0.05質量部以上5質量部以下であり、より好ましくは0.5質量部以上5質量部以下であり、特に好ましくは2.5質量部である。水溶性メラミン樹脂100質量部に対する(d)成分の配合割合が0.05質量部以上5質量部以下である場合、常温における特定塗料組成物の硬化が一層速くなる。
【0048】
(3-5)(e)カオリン
特定塗料組成物は、例えば、(e)カオリンをさらに含む。カオリンとして、ハロイサイト(Al2Si2O5(OH) 4・2H2O)が好ましい。ハロイサイトはチューブ状の結晶構造を有する。ハロイサイトは、外側にシロキサン(-Si-O-Si-)を有し、内側にアルミノール(-Al-O-Al-)を有している。そのため、ハロイサイトの表面は酸性を呈する。
【0049】
特定塗料組成物がカオリンを含む場合、特定塗料組成物の硬化が速くなる。特定塗料組成物がハロイサイトを含む場合、特定塗料組成物の硬化が一層速くなる。
カオリンの粒子径は1μm以上10μm以下であることが好ましい。カオリンの粒子径が1μm以上10μm以下である場合、特定塗料組成物の硬化が一層早くなる。
【0050】
水溶性メラミン樹脂100質量部に対するカオリンの配合割合は、好ましくは20質量部以上250質量部以下であり、より好ましくは50質量部以上200質量部以下であり、最も好ましくは150質量部以上180質量部以下である。水溶性メラミン樹脂100質量部に対するカオリンの配合割合が250質量部以下である場合、塗膜7が白濁することを抑制できる。
【0051】
(3-6)(f)ガラス繊維
特定塗料組成物は、例えば、(f)ガラス繊維をさらに含む。ガラス繊維の形態は、例えば、パウダー状である。特定塗料組成物がガラス繊維を含む場合、加熱発泡後の断熱層の形状保持性が向上する。ガラス繊維の直径は、5μm以上20μm以下であることが好
ましく、10μmであることがさらに好ましい。ガラス繊維の長さは、10μm以上300μm以下であることが好ましく、30μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。ガラス繊維の長さをガラス繊維の直径で除した値を、ガラス繊維のアスペクト比とする。ガラス繊維のアスペクト比は、1.5以上5.5以下であることが好ましい。
【0052】
ガラス繊維は、パウダー又はミルドと呼ばれることがある。ガラス繊維として、表面処理されていないものが好ましい。ガラス繊維の市販品として、ミルドファイバー(セントラルグラスファイバー(株))、ミルドファイバー(旭ファイバーグラス(株))、PFカットファイバー(日東紡績(株))、ミルドファイバ(日本電気硝子(株))等が挙げられる。
【0053】
(3-7)他の成分
特定塗料組成物は、例えば、難燃性、塗膜7の透明性、及び塗膜7の硬化の速さを著しく損なわない範囲で、通常の塗料に使用される添加剤、顔料等を含むことができる。添加剤として、例えば、増粘剤、pH調整剤、分散剤、湿潤剤、防腐剤、染料等、消泡剤、顔料等が挙げられる。
【0054】
増粘剤として、例えば、ポリビニルアルコール、ウレタン変性ポリエーテル、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。pH調整剤として、例えば、アンモニア水、アミン等が挙げられる。顔料として、例えば、無機顔料、有機顔料、体質顔料等が挙げられる。無機顔料として、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。有機顔料として、例えば、キナクリドン、アゾ顔料等が挙げられる。体質含量として、例えば、シリカ、硫酸バリウム、タルク、マイカ等が挙げられる。
【0055】
特定塗料組成物は、例えば、酸を含む。酸は、水溶性メラミン樹脂の硬化を促進する。酸として、例えば、スルホン酸、カルボン酸等が挙げられる。スルホン酸として、例えば、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸として、例えば、酢酸、クエン酸、マレイン酸、アクリル酸等が挙げられる。
【0056】
特定塗料組成物は、例えば、塗膜7の透明性を著しく損なわない範囲で、発泡性耐火被覆の成分を含む。発泡性耐火被覆の成分として、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン、多価アルコール等が挙げられる。多価アルコールとして、例えば、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0057】
(3-8)特定塗料組成物の形態
特定塗料組成物の形態は、例えば、第1剤と第2剤とにより構成される2液の形態である。第1剤は水溶性メラミン樹脂を含む。第2剤は、縮重合リン酸エステルと、(c)成分とを含む。第1剤と第2剤とは、使用前に混合される。特定塗料組成物の形態が2液の形態である場合、特定塗料組成物の貯蔵安定性が高い。
【0058】
(d)成分は、第2剤に含まれ、第1剤には含まれないことが好ましい。(d)成分が第2剤に含まれ、第1剤には含まれない場合、特定塗料組成物の貯蔵安定性が一層高い。
(4)塗膜7
塗膜7は、例えば、(A)水溶性メラミン樹脂と、(B)縮重合リン酸エステルと、(C)リン酸、ホウ酸、アンモニウム塩、及びアンモニアのうちの1以上と、を含む。塗膜7は、例えば、(D)分子構造中にアミノ基を有する化合物とホルムアルデヒドとの重縮合物、(E)カオリン、及び(F)ガラス繊維のうちの1以上をさらに含む。
【0059】
(A)水溶性メラミン樹脂は、例えば、特定塗料組成物に含まれる(a)水溶性メラミン樹脂と同様のものである。(B)縮重合リン酸エステルは、例えば、特定塗料組成物に
含まれる(b)縮重合リン酸エステルと同様のものである。
【0060】
塗膜7において、水溶性メラミン樹脂100質量部に対する縮重合リン酸エステルの配合割合は、好ましくは120質量部以上350質量部以下であり、より好ましくは130質量部以上200質量部以下であり、最も好ましくは170質量部である。
【0061】
塗膜7において、水溶性メラミン樹脂100質量部に対する縮重合リン酸エステルの配合割合が120質量部以上350質量部以下である場合、建材1の難燃性と、塗膜7の透明性とが一層顕著になる。水溶性メラミン樹脂に過剰の縮重合リン酸エステルを混合した場合、建材1の難燃性と、塗膜7の透明性とが一層顕著になる。
【0062】
(C)成分は、基本的には、特定塗料組成物に含まれる(c)成分と同様のものである。ただし、(C)成分における選択肢の1つは、アンモニア水ではなくアンモニアである。
塗膜7において、水溶性メラミン樹脂100質量部に対する(C)成分の配合割合は、好ましくは15質量部以上90質量部以下であり、より好ましくは20質量部以上50質量部以下であり、最も好ましくは31質量部である。
【0063】
塗膜7において、水溶性メラミン樹脂100質量部に対する(C)成分の配合割合が15質量部以上90質量部以下である場合、建材1の難燃性と、塗膜7の透明性とが一層顕著になる。(C)成分が水溶性メラミン樹脂に対し過剰のリン酸又はホウ酸を含む場合、水溶性メラミン樹脂の硬化が促進される。
【0064】
また、(C)成分が水溶性メラミン樹脂に対し過剰のリン酸又はホウ酸を含む場合、余剰のリン酸又はホウ酸がプライマー層4の水酸基と化学結合し、塗膜7とプライマー層4との密着性が向上する。また、余剰のリン酸又はホウ酸は、火災時の燃焼熱により分解した水溶性メラミン樹脂と化学結合することで、建材1の難燃性を一層高める。余剰のリン酸又はホウ酸は、水溶性メラミン樹脂の熱分解により生ずる水酸基と化学結合すると推測される。
【0065】
(D)成分における分子構造中にアミノ基を有する化合物は、例えば、特定塗料組成物に含まれる(d)成分と同様のものである。
塗膜7において、水溶性メラミン樹脂100質量部に対する(D)成分の配合割合は、好ましくは0.05質量部以上5質量部以下であり、より好ましくは0.5質量部以上5質量部以下である。水溶性メラミン樹脂100質量部に対する(D)成分の配合割合が0.05質量部以上5質量部以下である場合、建材1を製造するとき、常温における塗膜7の硬化が一層速くなる。
【0066】
塗膜7は、例えば、(E)カオリンを含む。(E)カオリンは、例えば、特定塗料組成物に含まれる(e)成分と同様のものである。
塗膜7において、水溶性メラミン樹脂100質量部に対するカオリンの配合割合は、好ましくは20質量部以上250質量部以下であり、より好ましくは50質量部以上200質量部以下であり、最も好ましくは150質量部以上180質量部以下である。水溶性メラミン樹脂100質量部に対するカオリンの配合割合が250質量部以下である場合、塗膜7が白濁することを抑制できる。
【0067】
塗膜7は、例えば、(F)ガラス繊維を含む。(F)ガラス繊維は、例えば、特定塗料組成物に含まれる(f)成分と同様のものである。塗膜7は、例えば、特定塗料組成物における「他の成分」を含んでいてもよい。
【0068】
なお、塗膜7は、加熱により発泡する作用を奏する限り、特定塗料組成物以外の塗料組成物を塗布して形成された塗膜7であってもよい。塗膜7は、透明性を有することが好ましい。
(5)プライマー及びプライマー層4
建材1はプライマー層4を備える。プライマー層4は、プライマーを基材3の表面に塗布することにより形成される。プライマーは、下記式(1)で表されるシラン化合物、又は、そのシラン化合物の重合体を含む。
【0069】
式(1) (R1O)xSiR2
y
(xは1以上3以下の数である。yは1以上3以下の数である。xとyとの和は4である。R1は、H、CH3、又はC2H5である。R2は有機置換基である。前記プライマーに含まれるR2の少なくとも一部は炭素数1~3の有機置換基R2aである。前記プライマーにおいて、R2aのモル数は、R2aではないR2のモル数の4倍以上である。)
有機置換基とは、アルキル基を意味する。有機置換基として、例えば、CH3、C2H5、C3H7、C3H6NH2、フェニル基等が挙げられる。R2aとして、例えば、CH3、C2H5、C3H7、C3H6NH2等が挙げられる。重合体として、例えば、オリゴマー、レジンが挙げられる。
【0070】
式(1)で表されるシラン化合物として、例えば、メチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシランの加水分解生成物等が挙げられる。メチルトリメトキシシランの加水分解生成物の化学式は、(HO)3SiCH3である。
【0071】
式(1)で表されるシラン化合物の重合体として、例えば、メトキシ基を有するメチルシリコーンオリゴマー、メチルシリコーンレジン等が挙げられる。プライマーの成分として、メチルトリメトキシシラン、又はその加水分解生成物が最も好ましい。
【0072】
プライマーの塗布量は、有効成分換算で、10~200g/m2が好ましく、30~100g/m2がさらに好ましい。有効成分とは、プライマーに含まれる式(1)で表されるシラン化合物、又はそのシラン化合物の重合体である。有効成分換算の塗布量とは、単位面積当たりの有効成分の質量である。
【0073】
プライマーの塗布量が、有効成分換算で、10~200g/m2である場合、基材3の難燃性が一層高い。プライマーの塗布量が、有効成分換算で、30~100g/m2である場合、基材3の難燃性が特に高い。
【0074】
xが1であるシラン化合物をM単位とする。xが2であるシラン化合物をD単位とする。xが3であるシラン化合物をT単位とする。シラン化合物の重合体は、例えば、M単位とD単位とから成る。この場合、シラン化合物の重合体は、直鎖状のポリマーとなる。シラン化合物の重合体は、例えば、T単位を含む。この場合、シラン化合物の重合体の分子構造は分岐した構造となり、シラン化合物の重合体はレジンとなる。
【0075】
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のエトキシシランの市販品として、例えば、KBM(信越化学工業社製)、WACKER SILANE(旭化成ワッカーシリコーン社製)XIAMETER、DOWSIL(ダウ・東レ社製)Silquest(モメンティブ社製)等が挙げられる。
【0076】
メトキシ基を有するメチルシリコーンオリゴマー及びメチルシリコーンレジンの市販品として、例えば、KR-251、KR-242A、X-40-2406M、KR-220L、KR-255(信越化学工業社製)、SILRES MSE 100、SILRES KX、SILRES HK46、SILRES BS45、SILRES(旭化成ワッカーシ
リコーン社製)、DOWSIL US-CF-2403 Resin(ダウ・東レ社製)M120XB、SS4267、SR1000(モメンティブ社製)等が挙げられる。
2.建材1の製造方法
建材1は、例えば、以下の方法で製造できる。まず、
図4のS1に示すように、基材3の表面にプライマーを塗布し、プライマー層4を形成する。
【0077】
次に、プライマー層4の上に被覆層5を形成する。被覆層5がガラス繊維部9を備える場合、被覆層5の形成方法は、例えば、以下のとおりである。S2に示すように、プライマー層4の上に塗料組成物を塗布し、第1塗膜11を形成する。塗料組成物は、例えば、特定塗料組成物である。次に、第1塗膜11が硬化し、流動性を失うまで放置する。放置時間は、例えば、数時間~数週間である。
【0078】
次に、S3に示すように、第1塗膜11の上にガラス繊維部9を載せる。次に、S4に示すように、ガラス繊維部9の上から塗料組成物を塗布し、第2塗膜13を形成する。S4で塗布する塗料組成物は、例えば、S2で塗布した塗料組成物と同じ種類の塗料組成物である。第2塗膜13を形成するために塗布する塗料組成物の少なくとも一部は、ガラス繊維部9に染み込む。次に、第2塗膜13を硬化させる。
【0079】
以上の工程により、被覆層5が形成され、建材1が完成する。第1塗膜11と第2塗膜13とが、被覆層5を構成する塗膜7となる。第1塗膜11は、非含有部5Cとなる。S4で塗布する塗料組成物が十分多い場合、
図1に示すように、ガラス繊維部9の全部が、塗膜7に埋め込まれている。S4で塗布する塗料組成物が少ない場合、
図2に示すように、ガラス繊維部9の表面9Aと、被覆層5の表面5Bとが一致している。第2塗膜13は、塗膜7のうち、ガラス繊維部9に含侵しているか、ガラス繊維部9よりも表面5Bの側にある部分である。
【0080】
また、被覆層5がガラス繊維部9を備えない場合は、プライマー層4の上に塗料組成物を塗布し、塗膜7を形成する。この場合、塗膜7は被覆層5に対応する。
3.プライマー及び建材の製造方法が奏する効果
(3-1)プライマーを用いて形成したプライマー層4は、基材3の燃焼を抑制する。その理由は以下のように推測される。通常時は、
図5に示すように、基材3に含まれるセルロースのOH基と、プライマー層4に含まれるシラン化合物のR
1O基、又はそれが加水分解して生じたOH基とが水素結合している。また、プライマー層4に含まれるシラン化合物は、塗膜7と脱水縮合により結合している。
【0081】
火災のとき、基材3のOH基とプライマー層4のOH基とが脱水縮合して基材3の表面にSiO基が生じる。その結果、基材3の難燃性が向上する。
R2aの炭素数が1~3であることにより、基材3の難燃性が一層向上する。プライマー層4において、R2aのモル数が、R2aではないR2のモル数の4倍以上であることにより、基材3の難燃性が一層向上する。
【0082】
(3-2)建材1の周囲で火災が発生し、被覆層5が加熱されると、被覆層5に含まれる塗膜7は発泡する。その結果、被覆層5は断熱層を形成する。形成された断熱層は基材3の燃焼を抑制する。被覆層5がガラス繊維部9を含む場合、ガラス繊維部9は発泡抑制効果を奏する。
【0083】
(3-3)塗膜7は、例えば、特定塗料組成物の塗布により形成された塗膜である。その場合、建材1は、基材3の燃焼を一層抑制できる。
(3-4)塗膜7の単位面積当たりの質量は、例えば、250g/m2以上550g/m2以下であり、塗膜7のうち、ガラス繊維部9に含侵しているか、ガラス繊維部9より
も表面5Bの側にある部分の単位面積当たりの質量は、例えば、75g/m2以上275g/m2以下である。その場合、建材1の発泡抑制効果は一層高い。
【0084】
(3-5)被覆層5は、例えば、非含有部5Cを備える。その場合、建材1の発泡抑制効果は一層高い。
4.実施例
(4-1)プライマーの製造
プライマーP1~P4を製造した。プライマーP1は、メチルメトキシシランから成る。プライマーP1において、有効成分はメチルメトキシシランである。プライマーP2は、以下の組成を有する。
【0085】
(プライマーP2)
3-アミノプロピルトリメトキシシラン:100質量部
イソパラフィン:200質量部
消泡剤:1質量部
プライマーP2において、有効成分は3-アミノプロピルトリメトキシシランである。
【0086】
プライマーP3は、メトキシ基を有するメチルシリコーンオリゴマーから成る。メトキシ基を有するメチルシリコーンオリゴマーは、第1のシラン化合物と第2のシラン化合物との重合体である。第1のシラン化合物は、式(1)において、R1がCH3であり、R2がCH3であり、xが3であり、yが1であるシラン化合物である。第2のシラン化合物は、式(1)において、R1がCH3であり、R2がフェニル基であり、xが3であり、yが1であるシラン化合物である。メトキシ基を有するメチルシリコーンオリゴマーは、第1のシラン化合物及び第2のシラン化合物を、酸の存在下で加水分解縮合して製造される。メトキシ基を有するメチルシリコーンオリゴマーは、1モルの第1のシラン化合物に対し、0.25モルの第2のシラン化合物を含む。メトキシ基を有するメチルシリコーンオリゴマーの重量平均分子量は800~1300である。プライマーP3において、全成分が有効成分である。
【0087】
プライマーP4は、メチルシリコーンレジンから成る。メチルシリコーンレジンは、第3のシラン化合物と第4のシラン化合物との重合体である。第3のシラン化合物は、式(1)において、R1がHであり、R2がCH3であり、xが2であり、yが2であるシラン化合物である。第4のシラン化合物は、式(1)において、R1がHであり、R2がCH3であり、xが3であり、yが1であるシラン化合物である。メチルシリコーンレジンは、第3のシラン化合物及び第4のシラン化合物を、酸の存在下で加水分解縮合して製造される。メチルシリコーンレジンの重量平均分子量は700である。プライマーP4において、全成分が有効成分である。
【0088】
(4-2)特定塗料組成物の製造
以下の各成分を混合することで、特定塗料組成物の第1剤と第2剤とを製造した。
<第1剤>
水溶性メラミン樹脂:20質量部
ガラス繊維:50質量部
カオリン:1.5質量部
湿潤剤:0.5質量部
<第2剤>
縮重合リン酸エステル:30質量部
リン酸:5質量部
尿素:0.5質量部
第1剤及び第2剤は、それぞれ、溶媒として水を含んでいた。第1剤及び第2剤のそれ
ぞれにおいて、全質量に対する不揮発分の質量比は76質量%であった。第1剤に含まれるガラス繊維の直径は10μmであり、繊維長は30~50μmであった。
【0089】
(4-3)建材1の製造
(i)実施例1
基材3として、矩形の板状のスギ集成材を用意した。基材3の寸法は、縦99mm、横99mm、厚さ15mmであった。
図4のS1に示すように、基材3の表面に、前記(4-1)で製造したプライマーP1を、刷毛塗の方法で塗布し、プライマー層4を形成した。プライマーP1の有効成分換算での塗布量は35g/m
2であった。なお、プライマーを塗布する方法は、ローラーやスプレーを用いる方法でもよい。
【0090】
次に、
図4のS2に示すように、特定塗料組成物を塗布し、第1塗膜11を形成した。特定塗料組成物は、100質量部の第1剤と、100質量部の第2剤とを混合したものであった。
次に、第1塗膜11が硬化し、流動性を失うまで16時間放置した。第1塗膜11の単位面積当たりの質量は228g/m
2であった。第1塗膜11の単位面積当たりの質量は、不揮発成分の単位面積当たりの質量である。
【0091】
次に、
図4のS3に示すように、第1塗膜11の上にガラス繊維クロスから成るガラス繊維部9を載せた。ガラス繊維クロスを構成するガラスのうち、97質量%以上はアルミナ硼けい酸ガラスであった。ガラス繊維クロスに含まれる集束剤はアクリル樹脂であった。ガラス繊維クロスにおける集束剤の含有量は13質量%であった。ガラス繊維クロスにおけるガラスの含有量は87質量%であった。
【0092】
ガラス繊維クロスにおける縦方向での織り密度は、53本/25mmであった。ガラス繊維クロスにおける横方向での織り密度は、48本/25mmであった。ガラス繊維クロスの織り方は平織であった。ガラス繊維クロスの単位面積当たりの質量は、150g/m2であった。ガラス繊維クロスの厚さは、0.1mmであった。
【0093】
次に、
図4のS4に示すように、ガラス繊維部9の上から特定塗料組成物を塗布し、第2塗膜13を形成した。次に、第2塗膜13を硬化させた。第2塗膜13の単位面積当たりの質量は114g/m
2であった。第2塗膜13の単位面積当たりの質量は、不揮発成分の単位面積当たりの質量である。
【0094】
以上の工程により、実施例1の建材1が完成した。第1塗膜11と第2塗膜13とが、被覆層5を構成する塗膜7となった。第1塗膜11は、非含有部5Cとなった。
図1に示すように、ガラス繊維部9の全部が、塗膜7に埋め込まれた。第2塗膜13は、塗膜7のうち、ガラス繊維部9に含侵しているか、ガラス繊維部9よりも表面5Bの側にある部分となった。
【0095】
(ii)実施例2~6
基本的には実施例1の場合と同様にして、実施例2~6の建材1を製造した。ただし、プライマーの種類とプライマーの塗布量とを、表1に示すとおりとした。
【0096】
【0097】
(iii)比較例1、2
基本的には実施例1の場合と同様にして、比較例1、2の建材1を製造した。ただし、
比較例1では、プライマー層4を形成しなかった。比較例2では、プライマーP1~P4の代わりに、アクリル樹脂を塗布してプライマー層4を形成した。
【0098】
(iv)実施例7
基本的には実施例1の場合と同様にして、実施例7の建材1を製造した。ただし、プライマーP1の有効成分換算での塗布量を50g/m2とした。また、被覆層5を形成するとき、ガラス繊維クロスを使用しなかった。被覆層5は塗膜7のみから成る。被覆層5を形成するとき、特定塗料組成物を2回塗布した。1回目の塗布で形成された塗膜を塗膜Aとする。2回目の塗布で形成された塗膜を塗膜Bとする。塗膜A、Bの単位面積当たりの質量を表2に示す。
【0099】
【0100】
(v)実施例8~11
基本的には実施例7の場合と同様にして、実施例8~11の建材1を製造した。ただし、プライマーの種類とプライマーの塗布量とを、表2に示すとおりとした。
【0101】
(vi)比較例3、4
基本的には実施例7の場合と同様にして、比較例3、4の建材1を製造した。ただし、比較例3では、プライマー層4を形成しなかった。比較例4では、プライマーP1~P4の代わりに、アクリル樹脂を塗布してプライマー層4を形成した。
【0102】
(vii)実施例12、比較例5
基本的には実施例7の場合と同様にして、実施例12の建材1を製造した。ただし、実施例12では、基材3の厚さは30mmであった。また、実施例12では、塗膜7の塗布量は228g/m2であった。基本的には実施例12の場合と同様にして、比較例5の建材1を製造した。ただし、比較例5では、プライマー層4を形成しなかった。
(4-3)実施例1~11及び比較例1~4の建材1の評価
実施例1~11及び比較例1~4の建材1について試験を行った。ISO5660-1に規定されているコーンカロリーメータ法により、試験体に対して50kW/m2の輻射強度で10分間加熱した場合の総発熱量及び最大発熱速度を測定した。測定値を以下の評価基準にあてはめて、難燃性を評価した。評価結果を表1及び表2に示す。基準試料とは、実施例1~6及び比較例2については比較例1である。実施例7~11及び比較例4については比較例3である。
【0103】
(総発熱量に基づく難燃性の評価基準)
◎:基準試料に比べて総発熱量が減少した。減少幅は20%を超えていた。
〇:基準試料に比べて総発熱量が減少した。減少幅は10%を超え、20%以下であった。
【0104】
△:基準試料に比べて総発熱量が減少した。減少幅は0%を超え、10%以下であった。
×:基準試料に比べて総発熱量が同等以上であった。
(最高発熱速度に基づく難燃性の評価基準)
◎:基準試料に比べて最高発熱速度が減少した。減少幅は20%を超えていた。
【0105】
〇:基準試料に比べて最高発熱速度が減少した。減少幅は10%を超え、20%以下であった。
△:基準試料に比べて最高発熱速度が減少した。減少幅は0%を超え、10%以下であった。
【0106】
×:基準試料に比べて最高発熱速度が同等以上であった。
(4-4)実施例12及び比較例5の建材1の評価
実施例12及び比較例5の建材1について、コーンカロリーメータ法により発熱量と発熱速度とを測定した。実施例12の測定結果を
図6に示す。比較例5の測定結果を
図7に示す。実施例12では、比較例5に比べて、発熱ピークが抑制されていた。また、実施例12では、比較例5に比べて、着火時間が遅くなっていた。
【0107】
5.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0108】
(5-1)プライマーP2に含まれるイソパラフィンの質量は、0~500質量部の範囲内で適宜調整できる。また、プライマーP2に含まれる消泡剤の質量は、5質量部以下の範囲内で適宜調整できる。
【0109】
(5-2)例えば、第2塗膜13の上に、さらに別の塗膜を形成してもよい。
【符号の説明】
【0110】
1…建材、3…基材、4…プライマー層、5…被覆層、5A…中央、5B…表面、5C…非含有部、7…塗膜、9…ガラス繊維部、9A…表面、11…第1塗膜、13…第2塗膜