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特開2023-47111マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを検出するための方法、マカダミアナッツアレルギー診断用体外診断薬、マカダミアナッツアレルゲン特異的IgE検出用キット、およびマカダミアナッツアレルゲンの検出方法
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  • 特開-マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを検出するための方法、マカダミアナッツアレルギー診断用体外診断薬、マカダミアナッツアレルゲン特異的IgE検出用キット、およびマカダミアナッツアレルゲンの検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047111
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを検出するための方法、マカダミアナッツアレルギー診断用体外診断薬、マカダミアナッツアレルゲン特異的IgE検出用キット、およびマカダミアナッツアレルゲンの検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230329BHJP
【FI】
G01N33/53 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156050
(22)【出願日】2021-09-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】510136312
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立成育医療研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】安戸 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】大矢 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】松本 健治
(72)【発明者】
【氏名】安藤 智暁
(72)【発明者】
【氏名】北浦 次郎
(57)【要約】
【課題】マカダミアナッツアレルギーの発症の原因となるIgE抗体を、従来よりも精度良く検出し得る技術を提供する。
【解決手段】対象試料中のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを検出する方法は、(a)または(b)のポリペプチドと、前記対象試料と、を接触させる接触工程と、前記接触工程後に、前記ポリペプチドと特異的に結合したIgEの有無を検出する検出工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象試料中のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを検出する方法であって、
下記(a)または(b)のポリペプチドと、前記対象試料と、を接触させる接触工程と、
前記接触工程後に、前記ポリペプチドと特異的に結合したIgEの有無を検出する検出工程と、
を含むことを特徴とする、マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、且つマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有しているポリペプチド。
【請求項2】
前記対象試料は、マカダミアナッツ粗抗原特異的IgEを含んでいることが確認された試料であることを特徴とする、請求項1に記載のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法。
【請求項3】
前記対象試料は、血液に由来する試料であることを特徴とする、請求項1または2に記載のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法。
【請求項4】
前記(a)または(b)のポリペプチドはビオチン標識されており、
ストレプトアビジン固定担体上に、前記ビオチンと前記ストレプトアビジンとの相互作用によって固定されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法。
【請求項5】
前記(a)または(b)のポリペプチドは、アミノ酸配列非特異的にビオチン標識されている、請求項4に記載のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法。
【請求項6】
下記(a)または(b)のポリペプチドを抗原として備えることを特徴とする、マカダミアナッツアレルギー診断用体外診断薬:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、且つマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有しているポリペプチド。
【請求項7】
下記(a)または(b)のポリペプチドを抗原として備えることを特徴とする、マカダミアナッツアレルゲン特異的IgE検出用キット:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、且つマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有しているポリペプチド。
【請求項8】
対象試料中のマカダミアナッツアレルゲンを検出する方法であって、
配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識する抗体またはその機能的断片と、前記対象試料と、を接触させる接触工程と、
前記接触工程後に、前記抗体またはその機能的断片と特異的に結合した抗原の有無を検出する検出工程と、
を含むことを特徴とする、マカダミアナッツアレルゲンの検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを検出するための方法、マカダミアナッツアレルギー診断用体外診断薬、マカダミアナッツアレルゲン特異的IgE検出用キット、およびマカダミアナッツアレルゲンの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナッツアレルギーは、食物アレルギーの主要な原因食品であり、全身性の症状を引き起こし、且つ重症化する傾向がある。従って、臨床現場では、ナッツアレルギーと診断された場合、食事から全てのナッツを除去するよう指導することが多い。しかし、アレルギーを誘発しない種類のナッツまでをも除去対象とすることは、食のQOL(quality of life)を低下させる。このため、安全な食生活および食のQOL向上の両方を実現するためにも、どの種類のナッツに対するアレルギーであるのか正確な診断が必要である。
【0003】
食物アレルギーの検査として、一般に、粗抗原特異的IgE検査および食物負荷試験が行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ekbote A,Hayman G, Bansal A: Macadamia nut allergy: potentially misleading specific IgE results. Allergy 2010;65:1345
【非特許文献2】WHO/IUISのALLERGEN NOMENCLATUREに開示されているマカダミアナッツアレルゲンコンポーネントの情報[令和3年6月24日検索],インターネット<URL:http://www.allergen.org/viewallergen.php?aid=1016>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、マカダミアナッツに関していえば、従来のマカダミア粗抗原を用いたマカダミアナッツ粗抗原特異的IgE抗体検査は、診断精度が高くないことが報告されており、精度の改善が望まれる(非特許文献1)。また、食物負荷試験はアナフィラキシーショックを引き起こす等のリスクがある。
【0006】
近年、ナッツ類アレルギーの診断法においては、ナッツ類アレルゲンコンポーネント特異的IgE抗体の測定に基づいた診断法(Component Resolved Diagnostics:CRD)が注目されている。この診断法は、従来のナッツ類粗抗原特異的IgE抗体の測定に基づいた診断法と比較して、診断精度がより優れていることが知られている。
【0007】
しかし、マカダミアナッツに関していえば、WHO/IUISのALLERGEN NOMENCLATUREにアレルゲンコンポーネントの情報が開示されているが、このアレルゲンコンポーネント特異的IgE抗体の測定に基づいたマカダミアナッツアレルギーの診断方法は報告されていない(非特許文献2)。
【0008】
本発明の一態様は、マカダミアナッツアレルギーの発症の原因となるIgE抗体を、従来よりも精度良く検出することが可能となる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質を抗原タンパク質として用いて被検体の血中のマカダミアナッツアレルゲンコンポーネント特異的IgE抗体(つまり、マカダミアナッツアレルギーの発症の原因となるIgE抗体)の有無を従来よりも精度良く検出することが可能となること、および被検体の血中のマカダミアナッツアレルゲンコンポーネント特異的IgE抗体の測定結果に基づき、当該被検体がマカダミアナッツアレルギーを有しているか否かを従来よりも精度良く診断するための指標を提供することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法は、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを検出する方法であって、下記(a)または(b)のポリペプチドと、前記対象試料と、を接触させる接触工程と、前記接触工程後に、前記ポリペプチドと特異的に結合したIgEの有無を検出する検出工程と、を含む構成である:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、且つマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有しているポリペプチド。
【0011】
本発明の一態様に係るマカダミアナッツアレルギー診断用体外診断薬は、下記(a)または(b)のポリペプチドを抗原として備える構成である:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、且つマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有しているポリペプチド。
【0012】
本発明の一態様に係るマカダミアナッツアレルゲン特異的IgE検出用キットは、下記(a)または(b)のポリペプチドを抗原として備える構成である:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、且つマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有しているポリペプチド。
【0013】
本発明の一態様に係るマカダミアナッツアレルゲンの検出方法は、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲンを検出する方法であって、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識する抗体またはその機能的断片と、前記接触工程後に、前記抗体またはその機能的断片と特異的に結合した抗原の有無を検出する検出工程と、を含む構成である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、対象試料中のマカダミアナッツアレルギーの発症の原因となるIgE抗体の有無を、従来よりも精度良く検出することができる。
【0015】
また、本発明の別の一態様によれば、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲンの有無を、従来よりも精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例の結果を示す図であり、試験対象患者を分類するフローチャートの図である。
図2】実施例の結果を示す図であり、参加者の血清におけるマカダミアナッツ粗抗原sIgEとマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質sIgEとを評価した結果を示した図である。
図3】実施例の結果を示す図であり、参加者の血清中のマカダミアナッツ粗抗原sIgEが0.35kU/L以上のサンプルを対象としてマカダミアナッツ粗抗原sIgEとマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質sIgEとを評価した結果を示した図である。
図4】実施例の結果を示す図であり、参加者の血清中のマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質sIgEの測定値とマカダミアナッツ粗抗原sIgEの測定値とを比較した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1.マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法>
本発明の一様態に係るマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法は、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを検出する方法であって、下記(a)または(b)のポリペプチドと、前記対象試料と、を接触させる接触工程と、前記接触工程後に、前記ポリペプチドと特異的に結合したIgEの有無を検出する検出工程と、を含む:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、且つマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有しているポリペプチド。本態様のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法によれば、被検体から採取した生体試料中のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgE抗体の有無を従来よりも精度よく検出することが可能となり、その結果、当該被検体がマカダミアナッツアレルギーを有しているか否かを精度よく診断するための指標を提供することができる。
【0018】
(接触工程)
接触工程は、前記(a)または(b)のポリペプチドと、前記対象試料と、を接触させる工程である。説明の便宜上、本接触工程を「第1の接触工程」と称することがある。前記(a)または(b)のポリペプチドは、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを検出するための抗原として用いられる。そこで、以下の説明では、前記(a)または(b)のポリペプチドを、説明の便宜上「検出用抗原」と称する。
【0019】
検出用抗原と、対象試料とを接触させる反応条件については特に限定されず、対象試料中にマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEが含まれている場合に、当該マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEと検出用抗原とが特異的に結合し、その結合が維持され得る反応条件を適宜に設定することができる。
【0020】
以下に、接触工程を例示する。例えば、検出用抗原を任意の担体に固定した状態で対象試料と接触させてもよい。その方法としては、まず、ブラックプレートを20μg/mLのストレプトアビジンを固相化することでストレプトアビジン固相化プレートを作成する。次に、ビオチン化した検出用抗原を、前記プレートのウェルに添加することで、検出用抗原をプレート上に固定する。さらに10%FBS溶液で希釈した対象試料を加え、室温で2時間インキュベートすることで、検出用抗原と対象試料とを接触させる。
【0021】
(対象試料)
本態様のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法に供される対象試料の種類は、特に限定されない。マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの存在の有無を検出することが望まれる試料は全て対象試料となる。このような対象試料としては、例えば、被検体から採取された生体試料であり、マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを含んでいる可能性のある生体試料であることが好ましい。マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを含む可能性のある生体試料としては、例えば、血液、唾液、痰、鼻水、尿、汗、涙、組織液、リンパ液等を挙げることができる。他の生体試料と比較してIgEの存在量が多く、且つ大量に採取することが可能であることから、対象試料が血液に由来する試料であることが好ましい。血液に由来する試料は、全血、血清、または血漿であってもよい。
【0022】
対象試料が採取される被検体の種類は特に限定されない。被検体としては、例えば、ヒト、ヒト以外の哺乳動物等を挙げることができる。
【0023】
マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出精度をより高める観点から、対象試料は、マカダミアナッツ粗抗原特異的IgEを含んでいることが確認された試料であることが好ましい。対象試料中に含まれているマカダミアナッツ粗抗原特異的IgEの量は特に限定されないが、従来のImmunocap法においては、マカダミアナッツ粗抗原特異的IgEが0.35kU/L以上で陽性と判定されることから、対象試料は、マカダミアナッツ粗抗原特異的IgEを0.35kU/L以上含んでいることが確認された試料であることが好ましい。
【0024】
対象試料中のマカダミアナッツ粗抗原特異的IgEの量を確認する方法はとくに限定されない。例えば、公知のImmunocap法を好適に採用することができる。マカダミアナッツ粗抗原特異的IgEを含んでいることが確認された試料において前記(a)または(b)のポリペプチドに特異的に結合するIgEの有無を検出することにより、擬陽性率を低減させることができる。その結果、マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出精度をより高めることができる。
【0025】
(マカダミアナッツアレルゲン特異的IgE)
マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEとは、マカダミアナッツアレルゲンに特異的に結合する免疫グロブリンEである。すなわち、本発明者らが見出したマカダミアナッツアレルギーにおけるアレルゲンコンポーネント(アレルギー反応を惹起させる物質で抗原ともいう)である「マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質」に特異的に結合する免疫グロブリンEである。ここで、「特異的に結合する」とは、マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEが、抗原であるマカダミアナッツアレルゲン、すなわちマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質にのみに結合し、他のタンパク質には結合しないことを意味する。本態様のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法の検出対象となるIgEは、IgE単体であってもよく、肥満細胞または好塩基球に結合したIgEであってもよい。
【0026】
(マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質)
マカダミアナッツ7Sグロブリン前駆体タンパク質は、666アミノ酸からなるタンパク質であり、プロセシングされて638アミノ酸からなるマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質となる。マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質は、自己切断することによって、MiAMP2(Macadamia integrifolia antimicrobial protein 2)a,b,cまたはVLAP(vicilin-like antimicrobial peptides)などの複数のポリペプチド鎖に分かれる(参考文献1:Marcus JP, Green JL, Goulter KC, Manners JM. A family of antimicrobial peptides is produced by processing of a 7S globulin protein in Macadamia integrifolia kernels. Plant J 1999;19:699-710.)及び参考文献2:Ehlers AM, Rohwer S, Otten HG, Brix B, Le TM, Suer W, Knulst AC. IgEbinding to vicilin-like antimicrobial peptides is associated with systemic reactions to macadamia nut. Clin Transl Allergy 2020;10:55)。従って、MiAMP2a,b,cまたはVLAPは、マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質の部分ペプチドに相当する。また、非特許文献2に記載のMac i 1も本明細書中に記載のマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質の一部に相当する。マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質は、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる。すなわち、前記(a)のポリペプチドは、野生型のマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質に相当する。尚、本明細書において、用語「タンパク質」は用語「ポリペプチド」と交換可能に使用される。
【0027】
前記(b)のポリペプチドは、マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質の変異体が意図される。前記(b)のポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列と、95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる。アミノ酸配列の同一性は、公知の遺伝子情報ソフトウェアを用いて算出することができる。
【0028】
また、前記(b)のポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列において15個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下、さらに好ましくは2個以下のアミノ酸残基に変異を有するアミノ酸配列からなる。前記「変異」は、アミノ酸残基の欠失、置換、または付加である。
【0029】
前記(b)のポリペプチドがマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有していることは、前記(b)のポリペプチドのマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合親和性を、前記(a)のポリペプチドのマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合親和性と比較することによって確認することができる。前記(b)のポリペプチドが、前記(a)のポリペプチドと同等の結合親和性を有している場合に、前記(b)のポリペプチドはマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有していると判断することができる。
【0030】
また、前記(b)のポリペプチドによるマカダミアナッツアレルギー反応の誘発性の有無を確認することによっても、前記(b)のポリペプチドがマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有していることを間接的に確認することができる。例えば、マカダミアナッツアレルギーを有する被検体の皮膚に前記(b)のポリペプチドを適用する皮膚テストを行い、前記(b)のポリペプチドを適用した部分の皮膚に腫れなどの皮膚反応が生じた場合、前記(b)のポリペプチドがマカダミアナッツアレルギー反応を誘発したと言える。アレルギー反応は、抗原とIgEとの結合の結果生じるので、アレルギー反応の有無をもって、前記(b)のポリペプチドがマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有していると判断することができる。
【0031】
前記(a)または(b)のポリペプチドは、当技術分野において公知の方法(例えば、遺伝子工学的手法)によって取得することができる。前記(a)または(b)のポリペプチドを発現させる方法は、当業者に公知の手法により適宜に行うことができる。前記ポリペプチドの発現を導くことが可能なベクターは、使用する宿主細胞の種類に応じて当業者が選択することが可能であるが、精製を容易にするために、前記(a)または(b)のポリペプチドにタグを付与することが可能なベクターであることが好ましい(例えば、pCold-ProS2ベクター)。また、宿主細胞は使用するベクターに応じて当業者が適切に選択することができる。宿主細胞は、例えば、大腸菌(E.coli)などの原核生物由来であってよい。
【0032】
以下に、前記(a)のポリペプチドの発現方法を例示する。まず、NCBI(National Center for Biotechnology Information)ウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov)より取得したマカダミアナッツ7SグロブリンmRNAシークエンス(GenBank:AF161883.1)のコドンを最適化して合成し、pCold-ProS2ベクターに挿入する。その後、大腸菌を利用して(例えば、SHuffle T7 Express lysY Competent Escherichia coli)、前記(a)のポリペプチドを発現させることができる。
【0033】
前記(a)のポリペプチドを精製する方法は、例えば、塩析、溶媒沈殿法等の溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、SDS-PAGEなどの分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。
【0034】
以下に、前記(a)のポリペプチドのHis-ProS2タグを用いた精製方法を例示する。まず、前記細胞を遠心分離によって採取し、例えば、200mM NaCl、1% Tritonを含んだ50mM Tris-HCl(pH8.0)、1mg/mL lysozyme、Halt Protease Inhibitor Cocktailを含む溶液に入れ、超音波を利用して溶解する。前記(a)のポリペプチドは、タグを取り除くことが可能なカラム(例えば、HisTrap HPカラム)を使用して精製する。例えば、ProS2タグは、Turbo 3Cプロテアーゼを使用してHisタグと分離し、タグと酵素はHisTrap HPカラムによって取り除く。前記(b)のポリペプチドについても、同様の方法によって発現させ、精製すればよい。
【0035】
前記(a)または(b)のポリペプチドは、ビオチン標識されていることが好ましく、さらにストレプトアビジン固定担体上に、前記ビオチンと前記ストレプトアビジンとの相互作用によって固定されていることが好ましい。これによって、前記ポリペプチドと特異的に結合したマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの有無を検出する工程において、既存のストレプトアビジン固層化ELISA法などの方法を利用することができるため、単純なELISA法を利用するよりも精度管理が容易になる。
【0036】
また、前記(a)または(b)のポリペプチドは、アミノ酸配列非特異的にビオチン標識されていることが好ましい。ここで、本明細書において「アミノ酸配列非特異的にビオチン標識」とは、アミノ酸が有している官能基の種類に依らずに標的タンパク質をビオチン標識することをいう。非特異的な様式によってビオチン標識することで、標的タンパク質の全長にわたり均一な頻度でビオチン標識することができる。マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質には、リジン残基が多数含まれている部位が存在するが、アミノ酸配列非特異的にビオチン標識されていることにより、特定の部位の抗原性がビオチン標識によって失われることを防ぐことができる。その結果、前記ポリペプチドとIgEとの結合性が向上し、かつ抗原性を保持できるため、高精度の検出を実現することができる。
【0037】
アミノ酸配列非特異的にビオチン標識する方法としては、例えば、光反応性のビオチン標識試薬を用いてポリペプチドを標識する方法を挙げることができる。光反応性のビオチン標識試薬としては、後述する実施例で使用したEZ-Link TFPA-PEG3-Biotin(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を挙げることができるが、これに限定されない。
【0038】
前記(a)または(b)のポリペプチドをビオチン標識する場合、前記(a)または(b)のポリペプチドには、リンカー配列を介してビオチン分子が結合されていることが好ましい。前記ポリペプチドとビオチン分子との間にリンカー配列があることにより、ビオチン標識した前記ポリペプチドをストレプトアビジン固定担体上に固定した場合に、前記ポリペプチドと固層化面との距離を確保することができる。その結果、前記ポリペプチドに対して、通常のELISA法ではIgE抗体が回り込めない方向からもIgE抗体がアクセスしやすくなるため、前記ポリペプチドとIgEとの結合性が向上し、より高精度の検出を実現することができる。リンカー配列は特に限定されないが、後述する実施例で使用したEZ-Link TFPA-PEG3-Biotin(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)のように、ポリエチレングリコールをリンカー配列として好適に使用することができる。
【0039】
(検出工程)
検出工程は、前記接触工程後に、前記ポリペプチドと特異的に結合したマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの有無を検出する工程である。説明の便宜上、本検出工程を「第1の検出工程」と称することがある。
【0040】
対象試料中のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEと前記ポリペプチドとの結合の検出は、既知の抗原抗体反応に基づく検出方法により行うことが可能である。そのような方法には、例えば、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorvent Assay)、サンドイッチ免疫測定法、イムノブロット法、免疫沈降法、イムノクロマト法、Immunocap法による検出方法を採用することができる。これらはいずれも、抗原に対象のIgEを接触させて結合させ、抗原に特異的に結合したIgEに対して酵素標識した二次抗体を作用させ、酵素の基質(通常は、発色あるいは発光試薬)を加えて酵素反応の生成物を検出することにより、抗原と対象のIgEの結合を検出する方法である。
【0041】
検出工程では、検出用抗原と特異的に結合したIgEの有無を検出できればよいが、検出用抗原と特異的に結合したIgEの量を定量してもよい。検出用抗原と特異的に結合したIgEの量は、公知の方法を用いて測定することが可能である。
【0042】
(その他の工程)
本態様のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法は、前述した第1の接触工程および第1の検出工程以外の工程を含んでいてもよい。例えば、マカダミアナッツ粗抗原と、対象試料と、を接触させる第2の接触工程と、前記第2の接触工程後に、前記マカダミアナッツ粗抗原と特異的に結合したIgEの有無を検出する第2の検出工程と、をさらに含んでいてもよい。前記第2の接触工程および前記第2の検出工程をさらに含むことにより、対象試料中のマカダミアナッツ粗抗原特異的IgEの有無を検出することができる。
【0043】
前記第2の接触工程および前記第2の検出工程は、前記第1の接触工程の前に行ってもよく、前記第1の検出工程の後に行ってもよい。前記第2の接触工程および前記第2の検出工程については、検出用抗原としてマカダミアナッツ粗抗原を用いることを除き、前記第1の接触工程および前記第1の検出工程について説明したとおりであるのでここでは説明を繰り返さない。マカダミアナッツ粗抗原は、後述する実施例に記載の方法によって調製することができる。
【0044】
第1の検出工程および第2の検出工程の結果に基づいて、対象試料中の対象試料中のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの有無を判定する判定工程をさらに含んでいてもよい。一実施形態において、判定工程では、第1の検出工程の結果から、対象試料中にマカダミアナッツ粗抗原特異的IgEが所定量以上、好ましくは0.35kU/L以上含まれており、且つ第2の検出工程の結果から前記(a)または(b)のポリペプチドに特異的に結合するIgEが含まれている場合に、当該対象試料中に、マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEが含まれていると判定すればよい。
【0045】
(検出方法によって得られた検出結果の利用)
本態様の検出方法を行うことによって得られた検出結果は、医師による診断を行う際の診断資料の1つとして利用することができる。また、上述のマカダミアナッツアレルギーを有しているか、マカダミアナッツアレルギーを有している可能性があると判定された被検体は、必要に応じて医師(被検体がヒトの場合)又は獣医師(被検体がヒト以外の哺乳動物の場合)の診断を受けた後に、マカダミアナッツアレルギーの症状の程度に応じた治療方針を決定し、当該治療方針に応じた治療を受けてもよい。ここで、「治療」とは、マカダミアナッツアレルギーの発症を防ぐこと、マカダミアナッツアレルギーの症状を改善することが意図される。マカダミアナッツアレルギーの治療方法としては、例えば、マカダミアナッツアレルゲン除去食の摂取する食事療法;マカダミアナッツアレルゲンを用いた経口免疫療法等を挙げることができる。
【0046】
<2.マカダミアナッツアレルゲン特異的IgE検出用キット>
本発明の一様態に係るマカダミアナッツアレルゲン特異的IgE検出用キットは、下記(a)または(b)のポリペプチドを抗原として備える:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、且つマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有しているポリペプチド。本態様の検出用キットによれば、<1.マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法>の項に記載の検出方法に好適に使用することができる。
【0047】
本態様のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgE検出用キットは、抗原(検出用抗原)として、マカダミアナッツ粗抗原をさらに備えていることが好ましい。マカダミアナッツ粗抗原をさらに備えていることにより、マカダミアナッツ粗抗原特異的IgEの検出結果および前記(a)または(b)のポリペプチド特異的IgEの検出結果に基づいて、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの有無をより高い精度で検出することが可能となる。
【0048】
前記(a)または(b)のポリペプチド、およびマカダミアナッツ粗抗原については、<1.マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法>の項で説明したとおりであるのでここでは説明を繰り返さない。
【0049】
検出用抗原は、基材に結合されていてもよい。基材としては、例えば、プレート、膜、カラム、ビーズ、および金コロイド等が挙げられる。基材には、蛍光タンパク質またはタグタンパク質等が固定化されていてもよい。多数の試料を並行して処理することができることから、基材は、マイクロウェルプレート(例えば、96ウェル)であることが好ましい。
【0050】
(検出用キットの形態)
本態様の検出用キットの形態は特に限定されない。例えば、アレルゲンチップ、ELISAキット、デジタルELISAキット等の形態として提供され得る。
【0051】
本態様の検出用キットは、前記(a)または(b)のポリペプチドに加えて、複数種類の他のアレルゲンを抗原として備えていてもよい。これにより、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを含む複数種類のアレルゲン特異的IgEの有無を網羅的に検出することができる。本態様の検出用キットに備えられている他のアレルゲンの種類は特に限定されない。例えば、ピーナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオ、クルミ、ピーカンナッツ、ヘーゼルナッツ、ブラジルナッツ等のナッツ類のアレルゲンを抗原として備えていることにより、対象試料中の各種ナッツ類に対するアレルゲン特異的IgEの有無を網羅的に検出することができる。
【0052】
例えば、本態様の検出キットがアレルゲンチップである場合、前記(a)または(b)のポリペプチドの複数のスポットを配置させたマイクロアレイチップとしてもよい。また、前述したような複数種類のアレルゲンを種類毎に異なるスポットとして配置したチップとしてもよい。
【0053】
本発明の一態様に係る検出用キットは、キットの形態に応じて、必要であれば、基材;各種試薬(二次抗体、レポーター分子、およびバッファー等);器具(試験管、ピペット等);検出用キットの使用説明書;対照試験用の試料等の内の少なくとも1つをさらに含んでいてもよい。なお、検出用キットの使用説明書には、例えば、<1.マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法>の項で説明した検出方法に関する具体的手順等が記載されている。
【0054】
<3.マカダミアナッツアレルギー診断用体外診断薬>
下記(a)または(b)のポリペプチドを抗原として備える、マカダミアナッツアレルギー診断用体外診断薬も本発明の範疇に含まれる:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、且つマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有しているポリペプチド。本態様の体外診断薬によれば、<1.マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法>の項に記載の検出方法を利用して、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを検出するので、より高い精度でマカダミアナッツアレルギーを診断することが可能となる。
【0055】
本態様の体外診断薬は、抗原(検出用抗原)として、マカダミアナッツ粗抗原をさらに備えていることが好ましい。マカダミアナッツ粗抗原をさらに備えていることにより、マカダミアナッツ粗抗原特異的IgEの検出結果および前記(a)または(b)のポリペプチド特異的IgEの検出結果に基づいて、より高い精度でマカダミアナッツアレルギーを診断することが可能となる。
【0056】
前記(a)または(b)のポリペプチド、およびマカダミアナッツ粗抗原については、<1.マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法>の項で説明したとおりであるのでここでは説明を繰り返さない。
【0057】
本態様の体外診断薬は、キットの形態で提供することもできる。キットの構成については、<2.マカダミアナッツアレルゲン特異的IgE検出用キット>の項で説明したとおりであるのでここでは説明を繰り返さない。
【0058】
<4.マカダミアナッツアレルゲンの検出方法>
本発明の一態様に係るマカダミアナッツアレルゲンの検出方法は、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲンを検出する方法であって、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識する抗体またはその機能的断片と、前記対象試料と、を接触させる接触工程と、前記接触工程後に、前記抗体またはその機能的断片と特異的に結合した抗原の有無を検出する検出工程と、を含む。本態様のマカダミアナッツアレルゲンの検出方法によれば、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲンの有無を従来よりも精度よく検出することが可能となる。
【0059】
(接触工程)
接触工程は、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識する抗体またはその機能的断片と、前記対象試料と、を接触させる工程である。前記配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識する抗体は、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲンを検出するための抗体として用いられる。そこで、以下の説明では、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識する抗体を、説明の便宜上「検出用抗体」と称する。
【0060】
検出用抗体と、対象試料とを接触させる反応条件については特に限定されず、対象試料中にマカダミアナッツアレルゲンが含まれている場合に、当該マカダミアナッツアレルゲンと検出用抗体とが特異的に結合し、その結合が維持され得る反応条件を適宜に設定することができる。
【0061】
(対象試料)
本態様のマカダミアナッツアレルゲンの検出方法に供される対象試料の種類は、特に限定されない。マカダミアナッツアレルゲンの存在の有無を検出することが望まれる試料は全て対象試料となる。このような対象試料としては、ヒトの体内に摂取されるか、または経皮的にもしくは粘膜を介して体内に吸収される可能性のある物品であり、より具体的には、食品、食材、飲料、医薬品、医薬部外品、化粧品等を挙げることができる。
【0062】
(配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識する抗体)
配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識する抗体は、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドの少なくとも一部をエピトープとして特異的に認識し、特異的に結合し得る抗体が意図される。
【0063】
本態様のマカダミアナッツアレルゲンの検出方法において使用する「検出用抗体」は、免疫グロブリンのすべてのクラスおよびサブクラス、ならびに抗体の機能的断片を含む形態であることを意図している。検出用抗体はポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体のいずれの天然型抗体も含む概念であり、その他に、遺伝子組換え技術を用いて製造される抗体、ならびに当該抗体の機能的断片を含む。
【0064】
「抗体の機能的断片」とは、前述の抗体の一部分の領域を有し、かつ抗原結合能を有しているもの(結合性断片と同義)を指す。天然型抗体は、特に限定はされないが、ヒト、マウス、ラット、ヤギ、ウサギ、ラクダ、ラマ、ウシ、ニワトリ、サメ、および魚を含む、あらゆる生物種に由来し得る。遺伝子組換え技術を用いて製造される抗体としては、特に限定はされないが、天然型抗体を遺伝子改変して得られるヒト化抗体および霊長類化抗体などのキメラ抗体、合成抗体、組換え抗体、変異導入抗体およびグラフト結合抗体(例えば、他のタンパク質および放射性標識などがコンジュゲートまたは融合している抗体)が挙げられ、既に遺伝子組換え技術を用いて製造された抗体に対して、前述のように天然型抗体を遺伝子改変する場合と同様の改変を施した抗体も含まれる。また、抗体の機能的断片としては、具体的には例えばF(ab’)2、Fab’、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、sFv、dsFv(disulphide stabilized Fv)およびdAb(single domain antibody)等が挙げられる(George et al, Exp. Opin. Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。
【0065】
さらに、本発明において結合性断片は、対象とするタンパク質に対して反応性を維持する範囲において変異導入された抗体断片も結合性断片の概念として含んでいる。前述の変異導入は、当業者によって適宜選択される、遺伝子改変技術等の公知の技術を用いて行われる。
【0066】
配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドの多様なエピトープを認識することができることから、検出用抗体は、ポリクローナル抗体であることが好ましい。配列番号1に示すアミノ酸配列の情報に基づけば、当業者は配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識する抗体を作製するための抗原として適切なアミノ酸配列を容易に決定することができる。
【0067】
(検出工程)
検出工程は、前記接触工程後に、検出用抗体と特異的に結合した抗原の有無を検出する工程である。ここで「抗原」は、検出用抗体によって特異的に認識されるポリペプチドであり、すなわち、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドの少なくとも一部のポリペプチドである。対象試料中の抗原と検出用抗体との結合の検出は、既知の抗原抗体反応に基づく検出方法により行うことが可能である。抗原抗体反応に基づく検出方法については、<1.マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法>の項で説明したとおりであるのでここでは説明を繰り返さない。
【0068】
検出工程では、検出用抗体と特異的に結合した抗原の有無を検出できればよいが、検出用抗体と特異的に結合した抗原の量を測定してもよい。検出用抗体と特異的に結合した抗原の量は、公知の方法を用いて測定することが可能である。
【0069】
(検出方法によって得られた検出結果の利用)
本態様の検出方法を行うことによって得られた検出結果は、食品、食材、飲料、医薬品、医薬部外品、化粧品等の製造現場における品質管理を行う際の判断資料の1つとして利用することができる。また、検出結果に応じて、対象試料からマカダミアナッツアレルゲンを除去する処理を行ってもよい。例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識する抗体を担体に固定したアフィニティーカラムを使用し、当該アフィニティーカラムに対象試料を通過させることで、対象試料からマカダミアナッツアレルゲンを除去することができる。
【0070】
本発明は前述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0071】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る、マカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法は、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEを検出する方法であって、下記(a)または(b)のポリペプチドと、前記対象試料と、を接触させる接触工程と、前記接触工程後に、前記ポリペプチドと特異的に結合したIgEの有無を検出する検出工程と、を含む方法である:(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、且つマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有しているポリペプチド。
【0072】
本発明の態様2に係るマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法は、前記の態様1において、前記対象試料は、マカダミアナッツ粗抗原特異的IgEを含んでいることが確認された試料であることが好ましい。
【0073】
本発明の態様3に係るマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法は、前記の態様1または2において、前記対象試料は、血液に由来する試料であることが好ましい。
【0074】
本発明の態様4に係るマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法は、前記の態様1~3のいずれか1つにおいて、前記(a)または(b)のポリペプチドはビオチン標識されており、ストレプトアビジン固定担体上に、前記ビオチンと前記ストレプトアビジンとの相互作用によって固定されていることが好ましい。
【0075】
本発明の態様5に係るマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEの検出方法は、前記の態様4において、前記(a)または(b)のポリペプチドは、アミノ酸配列非特異的にビオチン標識されていることが好ましい。
【0076】
本発明の態様6に係るマカダミアナッツアレルギー診断用体外診断薬は、下記(a)または(b)のポリペプチドを抗原として備える構成である:(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、且つマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有しているポリペプチド。
【0077】
本発明の態様7に係るマカダミアナッツアレルゲン特異的IgE検出用キットは、下記(a)または(b)のポリペプチドを抗原として備える構成である:(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドと配列同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、且つマカダミアナッツアレルゲン特異的IgEに対する結合性を有しているポリペプチド。
【0078】
本発明の態様8に係るマカダミアナッツアレルゲンの検出方法は、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲンを検出する方法であって、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識する抗体またはその機能的断片と、前記対象試料と、を接触させる接触工程と、前記接触工程後に、前記抗体またはその機能的断片と特異的に結合した抗原の有無を検出する検出工程と、を含む方法である。
【実施例0079】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0080】
(参加者)
全86人の参加者は、東京大学医学部附属病院、あいち小児科保健医療総合センター、独立行政法人国立病院機構三重病院、国立成育医療研究センター、山口大学医学部附属病院とその他機関より供給した。採用した参加者が属するすべての病院の倫理委員会から、倫理承認を得た。また、すべての子供および/または親から、インフォームドコンセントを得た。
【0081】
(試験対象患者基準)
20歳以下の86人を対象として、患者群は図1に従って分類した。ピーナッツおよび/またはマカダミアナッツを含むナッツ類に対する即時反応の病歴を確認し、マカダミアナッツアレルギーの確かな病歴を有する患者(n=18)を患者群とした。即時反応の病歴がない場合、食物経口負荷試験(OFC:Oral food challenge)を行い、OFC陽性者(n=27)を患者群に加え、OFC陰性者(n=41)を対照群とした。
【0082】
(OFCテスト)
OFCテストは、食物アレルギーの日本小児科ガイドラインに従い、各病院の決まった方法で行った。マカダミアナッツは、全スケジュールで3.5~10g投与した。経口摂取量の免疫性をテストした後、アレルギー反応が観察されるか否かを基準にそれぞれ陽性または陰性を判断した。
【0083】
(マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質の調製)
マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質をコードしているポリヌクレオチド(コード領域)の配列(GenBank:AF161883.1、配列番号2)は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)ウェブサイトより取得した(https://www.ncbi.nlm.nih.gov)。コードしたシークエンスは、コドンを最適化して合成した(Integrated DNA Technologies社製)。このシークエンス配列をpCold-ProS2ベクター(タカラバイオ株式会社)に挿入し、コンピテントセルとしてSHuffle T7 Express lysY Competent Escherichia coli(New England Biolabs社製)を利用してマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質を発現させた。マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質のアミノ酸配列を配列番号1に示す。
【0084】
細胞を遠心分離によって採取し、その後200mM NaCl、1% Tritonを含んだ50mM Tris-HCl(pH8.0)、1mg/mL lysozyme(Merck社製)、Halt Protease Inhibitor Cocktail(Thermo Fisher Scientific社製)を含む溶液に入れ、超音波を利用して溶解した。His-ProS2タグをつけた組み換えタンパク質は、HisTrap HPカラム(GE Healthcare社製)を使用して精製した。ProS2タグは、Turbo 3Cプロテアーゼ(Accelagen社製)を使用してHisタグと分離した。タグと酵素は、HisTrap HPカラムによって取り除いた。精製したタンパク質の濃度は、Pierce BCA Protein Assay(Thermo Fisher Scientific社製)を使用して測定した。このタンパク質は、EZ-Link TFPA-PEG3-Biotin(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を使用してビオチン化した。
【0085】
(マカダミアナッツ粗抗原の調製)
マカダミアナッツ粗抗原の調製は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社に委託して行った。
【0086】
(マカダミアナッツ粗抗原特異的IgEの測定)
血清中のマカダミアナッツ粗抗原特異的IgE量は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社に委託して、ImmunoCAP(登録商標)によって測定した。
【0087】
(マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質特異的IgEの測定)
血清中のマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質特異的IgE(マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質sIgE)量は、ストレプトアビジン固層化ELISA法によって測定した。まず、4℃の環境下において、Black 384-well plates(Greiner Bio-One社製)を20μg/mLのストレプトアビジン(Merck社製)で一晩コーティングした。その後、洗浄したプレートを10% FBSを含むリン酸バッファー塩でブロッキングし、ストレプトアビジン固相化プレートを作製した。
【0088】
50μg/mLのビオチン化組み換えマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質を、ウェルに加えた。ヒト血清サンプルを10% FBS溶液で希釈した後、ウェルに加え、室温で2時間インキュベートした。ビオチン化組み換えマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質と結合したIgEは、抗ヒトIgEウサギ抗体(Dako社製)に続いて西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗ウサギ抗体(Cell Signaling Technology社製)を順次反応させて、検出した。Western Lightning ECL Pro(PerkinElmer社製)のルミネッセンスシグナルは、GloMax ルミノメータ(Promega社製)によって測定した。
【0089】
(統計解析)
統計解析は、JMP 15(SAS Institute Inc.社製)とPrism 8(GraphPad Software社製)を使用して行った。マンホイットニーのU検定とピアソンのカイ2乗検定は、グループ間における連続型データおよびカテゴリーデータを比較した。診断のパフォーマンスは、ROC曲線(ROC:Receiver operating characteristic curve)下の面積によって評価した。
【0090】
〔実施例1〕
マカダミアナッツアレルギーが疑われる小児の臨床学的および血清学的特徴を表1にまとめた。表1に示すように、総IgE量およびアレルギー性合併症の発症人数は、患者群と対照群との間で有意な差は認められなかった。一方、マカダミアナッツ粗抗原特異的IgE(マカダミアナッツ粗抗原sIgE)の量は、対照群と比較して患者群で有意に増加した(p<0.01)。
【0091】
【表1】
【0092】
患者群および対照群の血清サンプルにおけるマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質sIgE量を、ストレプトアビジン固層化ELISA法によって解析し、マカダミアナッツ粗抗原sIgE量はImmunocap法で解析し、結果を比較した。また、患者群および対照群において検出したマカダミアナッツ粗抗原sIgE量およびマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質sIgE量のROC解析を行い、それぞれのAUC(AUC:Area under the curve)を比較した。
【0093】
結果を図2に示す。図2に示したROC曲線のグラフは、縦軸が感度を、横軸は(1-特異度)を表している。マカダミアナッツ粗抗原sIgE測定値によるROCが0.748に対して、マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質sIgE測定値によるROCは0.812であり、マカダミアナッツ粗抗原sIgE測定値によるROCよりも増加していた。また、マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質sIgEのROC解析に基づくAUC(0.834)は、マカダミアナッツ粗抗原sIgEのROC解析に基づくAUC(0.660)と比較して有意な増加を示した(p<0.01)。
【0094】
次いで、マカダミアナッツ粗抗原sIgE量が0.35kU/L以上である患者群および対照群を対象とした場合の結果を図3に示す。図3に示したROC曲線のグラフは、縦軸が感度を、横軸は(1-特異度)を表している。また、マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質sIgE測定値の結果において、測定値が陰性と認められるサンプルを点線で囲った。マカダミアナッツ粗抗原sIgE量が0.35kU/L以上である患者群および対照群を対象とした場合、マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質sIgE測定値によるROCは0.885であった。また、マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質sIgEのROC解析に基づくAUC(0.823)は、マカダミアナッツ粗抗原sIgEのROC解析に基づくAUC(0.586)と比較して対照群と患者群との間の差異がより大きくなることが示された(p<0.01)。
【0095】
血清中のマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質sIgEの測定値とマカダミアナッツ粗抗原sIgEの測定値とを比較した結果を図4に示す。図4の結果から、マカダミアナッツ粗抗原sIgEの測定値が陽性である対照群25サンプルは、マカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質sIgEの測定値において陰性であることが示された。
【0096】
〔結果〕
本発明の一態様に係る検出方法によれば、被検体の血清中のマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質特異的IgEを検出することにより、対象試料中のマカダミアナッツアレルギーの発症の原因となるIgE抗体の有無を、従来よりも精度良く検出することができることが明らかになった。そして、血清中のマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質特異的IgEを指標とすることにより、従来のマカダミアナッツ粗抗原特異的IgE値を測定する方法と比較して、被検体がマカダミアナッツアレルギーを有しているか否かをより精度良く診断するための指標を提供することが可能となることが明らかになった。
【0097】
さらには、血清中のマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質特異的IgEを指標とすることにより、従来のマカダミアナッツ粗抗原特異的IgE値に基づく診断においてマカダミアナッツアレルギー陽性と判定された症例の中から、偽陽性である陰性群の症例を高い精度で識別できることが明らかになった。これらの結果から、被検体の血清中のマカダミアナッツ7Sグロブリンタンパク質特異的IgEを検出することによって、被検体がマカダミアナッツアレルギーを有しているか否かを従来よりもより的確に診断することができる指標を提供することが可能となることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の一態様によれば、対象試料中のマカダミアナッツアレルギーの発症の原因となるIgE抗体の有無を、従来よりも精度良く検出することができる。このため、医療分野において好適に利用することができる。また、本発明の別の一態様によれば、対象試料中のマカダミアナッツアレルゲンの有無を、従来よりも精度良く検出することができる。このため、食品等の製造分野において好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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