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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047117
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】光軸調整装置および光通信装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 33/16 20060101AFI20230329BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20230329BHJP
   H02K 11/215 20160101ALI20230329BHJP
   H02P 25/034 20160101ALI20230329BHJP
【FI】
H02K33/16 B
G02B26/10 Z
H02K11/215
H02P25/034
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156058
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 正光
【テーマコード(参考)】
2H045
5H540
5H611
5H633
【Fターム(参考)】
2H045AF12
2H045BA12
5H540AA10
5H540BA06
5H540EE05
5H540FA03
5H540FA13
5H540FC05
5H611AA01
5H611BB01
5H611BB07
5H611BB08
5H611PP05
5H611QQ03
5H611RR02
5H611UA02
5H633BB03
5H633BB15
5H633BB20
5H633GG02
5H633GG06
5H633GG08
5H633GG10
5H633GG16
5H633GG23
5H633HH03
5H633HH05
5H633HH08
5H633HH13
(57)【要約】
【課題】ウェッジプリズムによる光ビームの進行方向の制御を高い精度で実現する。
【解決手段】光軸調整装置(1)は、回転軸(CA)を軸として回転可能に配置されている第一ウェッジプリズム(31)、第二ウェッジプリズム(32)と、これらのそれぞれを回動させるためのボイスコイルモータと、出射光の特定の向きに対応するウェッジプリズムの回転角度に応じてボイスコイルモータの通電を制御するCPU(21)とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の軸を回転軸として回動可能に配置されているウェッジプリズムと、
前記ウェッジプリズムを回動させるためのボイスコイルモータと、
前記ウェッジプリズムの出射光の光軸の特定の向きに対応する前記ウェッジプリズムの回転角度に応じて前記ボイスコイルモータにおける通電を制御するための制御装置と、
を有する光軸調整装置。
【請求項2】
前記ボイスコイルモータは、
前記ウェッジプリズムに対して固定され、前記ウェッジプリズムの回転軸に沿う方向の磁界を発生させるための磁石と、
前記ウェッジプリズムを回動可能に支持する支持体に対して固定され、前記ウェッジプリズムの回動方向および前記磁界の向きの両方に交差する方向に延在する部分を含むコイルと、
を有する、請求項1に記載の光軸調整装置。
【請求項3】
前記コイルは、平面視したときに前記回転軸から外側に向けて広がる扇形の形状を有する、請求項2に記載の光軸調整装置。
【請求項4】
前記磁界の磁束密度を検出するためのホール素子をさらに有し、
前記制御装置は、前記ホール素子による磁束密度の検出値に応じて、前記ウェッジプリズムの出射光の光軸の特定の向きを実現する前記ウェッジプリズムの回転角度を取得する、
請求項2または3に記載の光軸調整装置。
【請求項5】
複数の前記ボイスコイルモータを有し、一枚の前記ウェッジプリズムの回転方向における二か所以上に前記ボイスコイルモータが配置されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の光軸調整装置。
【請求項6】
複数の前記ボイスコイルモータのそれぞれは、前記ウェッジプリズムを平面視したときに、前記回転軸を中心とする回転対称の位置に配置されている、請求項5に記載の光軸調整装置。
【請求項7】
一対の前記ウェッジプリズムを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の光軸調整装置。
【請求項8】
二対以上の前記ウェッジプリズムを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の光軸調整装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の光軸調整装置を備える光通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光軸調整装置および光通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信においては、ビームの目的地までの中間伝送装置の数を減らすことが、効率を高める観点から好ましい。このためには、送受信のより高い精度が要求される。光通信における送信や受信では、一般に、光ビームの拡散と集光にレンズが用いられる。また、集光の精度を高めるために、図20に示されるように、発光素子110からレンズ130に向けて出射される光ビームLBの進行方向をウェッジプリズム対140によって制御し、光ビームLBを発信する技術が知られている。ウェッジプリズムによる光ビームの進行方向の制御は、ウェッジプリズムの回動によって実現される。ウェッジプリズムを回動させる技術には、回動の駆動源に中空モータを用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/024340号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中空モータは、構造的に微振動を発生させやすい。したがって、中空モータを駆動源としてウェッジプリズムの回動を実現する場合では、ウェッジプリズムによる光ビームの進行方向の高精度な制御が十分に発現されない場合がある。特に、光通信では、スラスト方向の揺れが大きい場合に、性能の著しい低下が生じやすい。このように、光通信におけるウェッジプリズムによる光ビームの進行方向の制御では、より高い精度の制御を実現する観点から検討の余地が残されている。
【0005】
本発明の一態様は、ウェッジプリズムによる光ビームの進行方向の制御を高い精度で実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光軸調整装置は、特定の軸を回転軸として回動可能に配置されているウェッジプリズムと、前記ウェッジプリズムを回動させるためのボイスコイルモータと、前記ウェッジプリズムの出射光の光軸の特定の向きに対応する前記ウェッジプリズムの回転角度に応じて前記ボイスコイルモータにおける通電を制御するための制御装置と、を有する。
【0007】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光通信装置は、上記の本発明の光軸調整装置を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、ウェッジプリズムによる光ビームの進行方向の制御を高い精度で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る光軸調整装置の構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る光軸調整装置のスラスト方向における構造を説明するために当該構造を模式的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態におけるコイルを模式的に示す平面図である。
図4】本発明の一実施形態におけるウェッジプリズムに対応して配置されるコイルの配置を模式的に示す図である。
図5】本発明の一実施形態におけるコイルを含む電気回路の一例を模式的に示す図である。
図6】本発明の実施形態における基板に形成される凹条を模式的に示す図である。
図7】本発明の一実施形態における磁石とコイルの位置関係を模式的に示す図である。
図8】本発明の実施形態における回動の推力の発生を説明するための図である。
図9】本発明の実施形態における回動の推力の向きを説明するための図である。
図10】本発明の実施形態におけるコイルの通電の制御を説明するための図である。
図11】本発明の実施形態における、ホール素子の検出値とウェッジプリズムの回転角度との関係を模式的に示す図である。
図12】本発明の実施形態における、ウェッジプリズムの回転角度とウェッジプリズムから出射される光ビームの屈折角との関係を模式的に示す図である。
図13】本発明の実施形態における一対のウェッジプリズムによる光ビームの光軸の向きの調整を説明するための図である。
図14】本発明の実施形態における二対のウェッジプリズムによる光ビームの光軸の向きの調整を説明するための図である。
図15】本発明の一実施形態に係る光通信装置の構成を模式的に示す図である。
図16】従来の光通信装置の構成の一例を模式的に示す図である。
図17】本発明の実施形態における回転体の重心が回転軸から外れるときのコイルの第一の配置例を模式的に示す図である。
図18】本発明の実施形態における回転体の重心が回転軸から外れるときのコイルの第二の配置例を模式的に示す図である。
図19】本発明の実施形態におけるコイルと電源との電気回路の他の例を模式的に示す図である。
図20】従来の光通信装置の構成の他の例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔光軸調整装置〕
[構成]
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る光軸調整装置の構成を模式的に示す図である。図2は、本発明の一実施形態に係る光軸調整装置のスラスト方向における構造を説明するために当該構造を模式的に示す図である。図1および図2に示されるように、光軸調整装置1は、基板2と、基板2の一主面上に支持されるウェッジプリズム対3と、基板2上にウェッジプリズム対3を収容するケーシング4とを有している。
【0011】
基板2は、平面視したときに円環状の形状を有する板材である。基板2は、その平面形状の中央に円形の孔を有している。この孔の中心を通り、基板の一主面と直交する軸を回転軸CAとする。
【0012】
基板2は、CPU21、第一コイル22、第二コイル23、第一ホール素子24および第二ホール素子25を有している。CPU21は、不図示の電源から第一コイル22、第二コイル23への通電を制御する。第一コイル22および第二コイル23は、基板2の一主面上に配置されている。
【0013】
図3は、本発明の一実施形態におけるコイルを模式的に示す平面図である。第一コイル22および第二コイル23は、いずれも、図3に示されるように、平面視したときに略扇形に巻かれている導線によって構成されている。なお、第一コイル22および第二コイル23の略扇形における中心軸に沿う方向が当該略扇形の直線状の外周縁部となす角度をθで表す。このように、第一コイル22および第二コイル23は、いずれも、平面視したときに回転軸から外側に向けて広がる扇形の形状を有している。
【0014】
第一コイル22と第二コイル23は、それぞれ、複数配置されており、第一コイル22または第二コイル23のそれぞれは、平面視したときの回転対称の位置に配置される。第一コイル22と第二コイル23は、それぞれ同様に配置されている。
【0015】
図4は、本発明の一実施形態におけるウェッジプリズムに対応して配置されるコイルの配置を模式的に示す図である。たとえば、第一コイル22は、図4に示されるように、平面視したときの回転軸CAを回転の中心とする三回回転対称の位置に配置されている。第二コイル23も、第一コイル22と同様の三回回転対称の位置に配置される。なお、図4中、符号31は後述する第一ウェッジプリズムを表し、符号35は後述する第一枠を表す。
【0016】
同一平面状に第一コイル22および第二コイル23が配置される場合では、第一コイル22と第二コイル23は、平面視したときの位置が互いにずれるように配置される。たとえば、第一コイル22と第二コイル23のそれぞれが三回回転対称の位置に配置される場合では、第一コイル22と第二コイル23は、互いに60°回転した位置となる位置関係で配置される。
【0017】
第一コイル22および第二コイル23は、それぞれ、電源に接続される。図5は、本発明の一実施形態におけるコイルを含む電気回路の一例を模式的に示す図である。図5に示されるように、三つの第一コイル22が直列に電源に接続され、三つの第二コイル23が直列に電源に接続される。
【0018】
図6は、本発明の実施形態における基板に形成される凹条を模式的に示す図である。基板2は、図2に示されるように、その一主面上にボール受け部29を有している。ボール受け部29は、その平面形状が円弧状の突条部である。ボール受け部29の頂部には、ボール受け部29の長軸方向に沿って凹条26が形成されている。
【0019】
凹条26は、図6に示されるような、基板2の周方向(ボール受け部29の長軸方向)に沿う平面形状を有している。凹条26にはボール27が収容される。基板2におけるボール受け部29および凹条26は、平面視したときに周方向に隣り合う第一コイル22と第二コイル23との間に、ウェッジプリズム対3の回動方向への移動距離に応じた適当な大きさに形成される。凹条26およびボール27については後に説明する。なお、図中の矢印は、ウェッジプリズムの回動方向を示している。
【0020】
一方、図1に示されるように、第一コイル22には第一ホール素子24が対応して配置されており、第二コイル23には第二ホール素子25が対応して配置されている。ホール素子は、コイルに対応する後述する磁石とヨークとの間に形成される磁場に応じた電圧力を出力する素子である。たとえば、回転軸CAに沿う方向においては、第一ホール素子および第二ホール素子25は、いずれも、磁石に対してコイルとは反対側に配置、例えば基板2に埋設、されている。そして、平面視した場合では、第一ホール素子24は、第一コイル22における略扇形の内側に配置されており、第二ホール素子25は、第二コイル23における略扇形の内側に配置されている。それぞれのホール素子は、CPU21に接続されている。
【0021】
さらに、図2に示されるように、基板2におけるコイルとは反対側の主面上には、ヨークが配置されている。ヨークは、磁石が形成する磁界の向きを、回転軸CAに沿う方向であって、かつコイルの導線の延出方向に対して直交する方向により揃えるために配置される。すなわち、第一コイル22には第一ヨーク28が対応して配置されており、第二コイル23には第二ヨークが対応して配置されている。
【0022】
ウェッジプリズム対3は、図1に示されるように、第一ウェッジプリズム31と第二ウェッジプリズム32とを有する。第一ウェッジプリズム31および第二ウェッジプリズム32は、いずれも、円形の平面形状を有し、その中心軸に対して直交する一端面と当該一端面に対して斜めに傾斜する他端面とを有している。ウェッジプリズムにおける一端面の平面方向に対する他端面の傾斜角を頂角とも言う(図16参照)。
【0023】
第一ウェッジプリズム31には第一磁石33が対応して配置されており、第二ウェッジプリズム32には第二磁石34が対応して配置されている。たとえば、第一ウェッジプリズム31は、図4に示されるように、円環板状の第一枠35における中央の円形の孔に嵌められており、第一磁石33は、第一ウェッジプリズム31の外周側において第一枠35に固定されている(図2参照)。同様に、第二ウェッジプリズム32は、円環板状の第二枠における中央の円形の孔に嵌められており、第二磁石34は、第二ウェッジプリズム32の外周側において第二枠に固定されている。
【0024】
図1に示されるように、第一ウェッジプリズム31および第二ウェッジプリズム32は、いずれも、基板2の中央の円形の開口上に配置され、回転軸CAを軸として回動可能に支持される。第一枠35および第二枠は、いずれも、基板2と同様に、その一主面において、周方向に沿う平面形状を有する前述の凹条を有している。当該凹条には、前述のボールが収容されている。そして、基板2の第一主面にある凹条26と第一枠35の第一主面にある凹条36とが向かい合うように、第一ウェッジプリズム31が基板2の上に重ねられる。また、例えば、第一枠35の第二主面にある凹条と第二枠の第一主面にある凹条とが向かい合うように、第二ウェッジプリズム32が第一ウェッジプリズム31の上に重ねられる。
【0025】
向かい合う凹条は、凹条に収容されるボールを共有する。たとえば、図2に示されるように、基板2の凹条26のボール27は、第一枠35の凹条36にも収容される。このような凹条26、36によってボール27の転がる方向が規定され、ボール27がスペーサとして機能するともにウェッジプリズムの回動時には転がりながら移動する。よって、第一枠35と第二枠は、より円滑に回動可能となる。
【0026】
図7は、本発明の一実施形態における磁石とコイルの位置関係を模式的に示す図である。図7に示されるように、第一ウェッジプリズム31は、第一枠35に保持されている第一磁石33が基板2上の第一コイル22上を通過し、移動する。第二ウェッジプリズム32も同様に、第二枠に保持されている第二磁石34が基板2上の第二コイル23上を通過し、移動する。
【0027】
ケーシング4は、図2に示されるように、その一端側では基板2の一主面上に固定され、第一枠35を外周側から囲む周壁部41と、周壁部41の一端縁から内側に延出して第一枠35の第二主面に当接する円環部42とを有している。ケーシング4は、凹条26、36を向かい合わせてボール27を介して互いに重なる基板2と第一枠35とを、回転軸CAに沿う方向におけるこれらの位置関係を維持するように、回動可能に保持している。
【0028】
本実施形態では、基板2とそれに重なる第一枠35との重なり方向における上記のような位置関係は、ウェッジプリズム間の位置関係に適用され得る。すなわち、本実施形態では、同様の重なり方向の位置関係が、回転軸CAに沿う方向において隣り合う第nウェッジプリズムと第(n+1)ウェッジプリズムとの間、例えば第一ウェッジプリズム31および第一枠35と第二ウェッジプリズム32および第二枠との間で成立してもよい。
【0029】
[ウェッジプリズムの回動]
本実施形態におけるウェッジプリズムの回動について、第一ウェッジプリズムの回動を例に説明する。図8は、本発明の実施形態における回動の推力の発生を説明するための図である。図8に示されるように、第一枠35の第一磁石33と第一ヨーク28との間には矢印Mで示す向きの磁界が形成される。図示の方向へ第一コイル22に電流を流すと、白抜きの矢印で示す方向の推力が生じる。第一ヨーク28および第一コイル22は基板2に対して固定されており、第一枠35は基板2に対して回動可能に配置されていることから、第一枠35が白抜きの矢印の方向に移動する。
【0030】
図9は、本発明の実施形態における回動の推力の向きを説明するための図である。第一コイル22は、前述したように、略扇形の平面形状を有し、その直線状の外周縁部は、平面形状の中心軸に沿う方向に対してθ°の角度で交差する。このため、図9に示されるように、第一コイル22の直線状の外周縁部においては、白抜きの矢印で示されるような、平面視したときに当該外周縁に対して直交する方向へ、第一枠35、すなわち第一ウェッジプリズム31を回動させる推力が発生する。この推力の向きは、第一枠35が回動するときの第一磁石33の中心が描く円形の軌跡を示す線分Lに実質的に沿う方向となっている。このように、第一コイル22および第一磁石33は、第一コイル22への通電によって第一ウェッジプリズム31を回動させるボイスコイルモータを構成している。
【0031】
ボイスコイルモータによるウェッジプリズムの回動は、CPU21によって制御される。図10は、本発明の実施形態におけるコイルの通電の制御を説明するための図である。図10に示されるように、ホール素子は、磁場(磁束密度)に応じた電圧を出力する。CPU21は、ホール素子から出力される電圧に応じて、ウェッジプリズムの回転角度(現在角度)を取得する。
【0032】
図11は、本発明の実施形態における、ホール素子の検出値とウェッジプリズムの回転角度との関係を模式的に示す図である。本発明の実施形態では、コイルと磁石の中心位置、すなわちウェッジプリズムの回転移動の範囲の中心を、そのウェッジプリズムを含む光軸調整の機構の基準位置としている。図11では、当該基準位置を原点(中心)とし、ウェッジプリズムの回転移動による磁束密度の変化が電圧値として表される。ウェッジプリズムの回転角度は、図11から明らかなように、基準位置を中心とする電圧の特定の範囲において、ホール素子が検出する電圧値(磁束密度)と一次式に近似可能である。現在角度は、当該一次式に基づいて算出してもよいし、当該特定の範囲における当該電圧値と回転角度とのデータを格納したマップから取得してもよい。
【0033】
上記の磁束密度の特定の範囲は、光軸調整装置を用いて測定してもよいし、コンピュータシミュレーションなどの計算によって求めてもよい。このようにCPU21は、例えば第一磁石33が形成する磁界の磁束密度に応じて第一ウェッジプリズム31の回転角度を取得する。
【0034】
次いで、CPU21は、目標とするウェッジプリズムの回転角度(目標回転角度)を取得する。図12は、本発明の実施形態における、ウェッジプリズムの回転角度とウェッジプリズムから出射される光ビームの屈折角との関係を模式的に示す図である。ウェッジプリズムによる光ビームの屈折角は、図12に示されるように、ウェッジプリズムの回転角度の特定の範囲において、当該回転角度と一次式で近似可能である。目標回転角度は、光軸調整装置1の位置情報に対する光通信すべき他の光通信装置の位置情報に基づいて取得してもよいし、特定のプログラムによって決められてもよい。上記の回転角度の特定の範囲は、図11に示される電圧値と回転角度との、一次式に近似可能な範囲に対応した範囲であってよい。このようにして、CPU21は、ホール素子からの出力値に応じて光ビームの位置を平面座標上に算出することができる。そして、CPU21は、上記の位置情報に基づき、ウェッジプリズムの目標回転角度を取得する。
【0035】
次いで、CPU21は、現在角度と目標回転角度とに応じて、当該目標回転角度を実現する電力の出力値の情報、例えば電流のオンオフにおけるオンの特定の時間幅に応じた信号、を取得する。
【0036】
次いで、CPU21は、取得した電力の出力値の情報に基づいて、電源からの電力の供給を制御する。こうして、第一コイル22には、当該目標回転角度を実現させる電力が電源から供給され、第一ウェッジプリズム31が目標回転角を実現する位置まで回動する。
【0037】
[主な作用効果]
光軸調整装置1は、回転軸CAを軸として回動可能に配置されているウェッジプリズムを含む。このように、光軸調整装置1は、光ビームの進行方向を調整するための光学素子として、ウェッジプリズムを使用する。そして、光軸調整装置1は、ウェッジプリズムによる光ビームの進行方向の制御により、光通信の送受信において顕在化する光通信装置における光学的な構成の位置のズレを吸収している。本実施形態では、高い精度でウェッジプリズムの回動を制御することが可能であり、その結果、光通信の精度向上に著しい効果を発揮する。
【0038】
光軸調整装置1は、ウェッジプリズムを回動させるためのボイスコイルモータを含む。ウェッジプリズムを含む従来の機構では、前述したように、ウェッジプリズムの回動の駆動源として中空モータが一般に使用される。このため、回動のための構造の大きさあるいは重さが、ウェッジプリズムそのものに比べて大きくなり、その結果、光軸調整装置1の大きさおよび重さが大きくなる。
【0039】
光軸調整装置1は、ウェッジプリズム一つ一つに対応する回動機構として、ボイスコイルモータを有する。一般的な中空モータは、磁気回路の吸着と反発により回転力を発生させる。これに対して、ボイスコイルモータは、フレミングの左手の法則による推力を発現する。本実施形態では、フレミングの左手の法則に基づいて、磁界および電流の向きが適切に設定されることにより、ボイスコイルモータによるウェッジプリズムの回動の推力を、ウェッジプリズムの回動方向に向けることが可能である。このように、ボイスコイルモータは、ウェッジプリズムの回動方向に推力を生じさせる。よって、ウェッジプリズムのスラスト方向(回転軸CAに沿う方向)への揺れが抑制される。
【0040】
ボイスコイルモータは、他のモータに比べて幅を取らないため小型化に有利である。また、ボイスコイルモータは、簡易な構造で実現されるため、他のモータに比べてモータの重量を軽くすることが可能である。たとえば、ボイスコイルモータは、ウェッジプリズムと一体的に配置され、ウェッジプリズムの回転軸に沿う方向の磁界を発生させるための磁石を含んでもよい。このように、ウェッジプリズムと一体的に磁石が配置されることによりボイスコイルモータが構成され得るため、小型化および軽量化の実現に有利である。
【0041】
ボイスコイルモータは、ウェッジプリズムの回動方向および磁石による磁界の向きの両方に交差する方向に電気が流れるコイルを含む。本実施形態では、当該コイルは、ウェッジプリズムを回動可能に支持する支持体となる基板2に対して固定される。このように、本実施形態では、ボイスコイルモータにより生じるウェッジプリズムの回動を推進させる力を、当該ウェッジプリズムの回転方向に向けて生じさせる。よって、当該ボイスコイルモータによる当該推進させる力のロスが軽減する。なお、基板2は、ケーシング4に固定されている。したがって、ウェッジプリズムを回動可能に支持する支持体は、ケーシング4であってもよい。
【0042】
本実施形態において、コイルの平面形状は、ウェッジプリズムの回動方向に上記の推力を発生させる形状となっている。すなわち、コイルは、平面視したときに光軸調整装置における回転軸CAから外側に向けて広がる扇形の形状を有する。このため、本実施形態では、磁界中の通電方向が、ウェッジプリズムの円形の回動軌道に対して90°で交差する方向となる。したがって、ウェッジプリズムを回動させる推力の向きが、当該扇形の直線状の外縁部に対して実質的に直交する方向となり、推力のロスがより一層軽減される。
【0043】
光軸調整装置1は、複数のボイスコイルモータを有している。そして、複数のボイスコイルモータのそれぞれは、一枚のウェッジプリズムに対して、ウェッジプリズムの回転方向における二か所以上の各位置に配置されている。一枚のウェッジプリズムを一つのボイスコイルモータで回動させることも可能であるが、ウェッジプリズム側に配置される磁石の磁力により、ウェッジプリズムがスラスト方向への吸着と反発に伴い移動する可能性がある。光軸調整装置1の回動の制御において、このような移動を回動と判断される可能性がある。
【0044】
また、ウェッジプリズムの回動において、ウェッジプリズムの一部分に力が集中やすく、このため、ウェッジプリズムの回動に伴う振動が生じやすい。その結果、ウェッジプリズムにおける回動の位置が誤って認識される可能性がある。さらに、ボイスコイルモータを構成するコイルおよび磁石、任意に配置されるヨーク、がより大きくなる。このため、ウェッジプリズムの重量のバランスが悪くなり、ウェッジプリズムの回動が楕円を描き、一定とならない可能性が考えられる。
【0045】
このように、一枚のウェッジプリズムを一つのボイスコイルモータで回動させる場合では、ウェッジプリズムの回動位置の判定において無視できない誤差が生じる可能性があり、これらの事象により、光ビームの通信精度が低下する可能性が考えられる。
【0046】
光軸調整装置1が複数のボイスコイルモータを有する構成では、複数のコイルが、ウェッジプリズムの回転方向においてバランスよく配置され得る。たとえば、複数のボイスコイルモータのそれぞれは、ウェッジプリズムを平面視したときに、回転軸CAを中心とする回転対称の位置に配置される。このように、いわゆる等配ピッチを採用し、特定の円周上における等間隔の位置に磁気回路を形成する。このため、磁気回路が一部分に集中することが回避され、ウェッジプリズムのスラスト方向への変位がより抑制される。よって、光軸調整装置の性能がより安定しやすい。
【0047】
光軸調整装置1は、ウェッジプリズムの出射光の光軸の特定の向きに対応するウェッジプリズムの回転角度に応じてボイスコイルモータにおける通電を制御するための制御装置であるCPU21を含む。また、当該回転角度を検出するために、第一磁石33および第二磁石34が形成するそれぞれの磁界の磁束密度を検出するホール素子を使用する。すなわち、CPU21は、ホール素子による磁束密度の検出値に応じて、ウェッジプリズムの出射光の光軸の特定の向きを実現するウェッジプリズムの回動角度を取得する。このように本実施形態では、ウェッジプリズムの回動角度の制御を電子制御で行う。したがって、ギヤ機構による当該回動角度の制御よりも高い精度で、ウェッジプリズムの回動角度が制御される。
【0048】
一般に、ウェッジプリズムによる光ビームの光軸の向きの制御は、ウェッジプリズムの回動により行われる。この回動による光ビームの移動は、単純にウェッジプリズムの頂角による屈折で行われる。本実施形態では、光軸調整装置1は、一対のウェッジプリズムを有する。二枚のウェッジプリズムの組み合わせにより、光軸調整装置1から出射する光ビームの光軸の方向が、回転軸に直交する平面座標系における位置で制御される。
【0049】
図13は、本発明の実施形態における一対のウェッジプリズムによる光ビームの光軸の向きの調整を説明するための図である。図13に示されるように、ウェッジプリズム対3において、第一ウェッジプリズム31および第二ウェッジプリズム32のそれぞれを回動させる。図中の矢印は、ウェッジプリズム対3におけるウェッジプリズムの回動方向を示している。それにより、回転軸CAに直交するいかなる方向にも、ウェッジプリズムを通過する光の光軸の方向を調整することが可能となる。なお、図13および図14において、図中の矢印は、ウェッジプリズム対3におけるウェッジプリズムの回動方向を示している。
【0050】
図14は、本発明の実施形態における二対のウェッジプリズムによる光ビームの光軸の向きの調整を説明するための図である。各ウェッジプリズムの回動角度を小さくしたい場合、あるいは、光ビームの屈折角を大きくとりたい場合は、ウェッジプリズムの数を増やすことにより対応することが可能である。すなわち、その場合は、各ウェッジプリズムおよび磁石をさらに配置し、磁石に対応するコイルを適宜に配置すればよい。このように、ウェッジプリズム対3は、複数あってもよく、図14に示されるように、二つのウェッジプリズム対3(四枚のウェッジプリズム)を有していてよい。
【0051】
本実施形態では、光軸調整装置1は、二対のウェッジプリズムを有していてよく、あるいは二対以上のウェッジプリズムを有していてもよい。回転軸CAに沿って併設されるウェッジプリズムの数が増えると、ウェッジプリズムのより小さな回動角度でウェッジプリズムの光ビームの所望の屈折角を実現することが可能である。ウェッジプリズムの数を増やしてウェッジプリズムの回動角度を小さくすることは、個々のウェッジプリズムの回転の移動距離が小さくなることから、光ビームの光軸の向きの調整の高速化に有利である。
【0052】
光ビーム通信では、通信に際して通信相手を探しだす機能(後述のビーコン)がある。このような通信相手の探索では、ランダムに光ビームを照射して、相手の位置を探し出す。一例として、光ビームの照射による探索は、特定の矩形の平面領域を設定し、当該平面領域を光ビームで走査することによって行われる。より具体的な例としては、当該平面領域における光ビームの横方向(左から右、右から左)の走査を、通信相手が検出されるまで、縦方向の位置を順次変えながら繰り返す方法が挙げられる。このような光ビームの走査では、ウェッジプリズムの回転角度がより小さくなると、ウェッジプリズムの回転の移動距離がより小さくなり、光ビームの光軸の向きの変更がより速く行われる。したがって、光ビームの走査速度をより速くすることが可能であり、その結果、通信相手をより迅速に検出することが可能になる。このように、二対以上のウェッジプリズムを有することは、一定の範囲の周期的な移動が速い高周波数の光ビームの走査においてより一層効果的である。
【0053】
また、通常、ケーシング4は、高周波数での電極供給による振動を受けやすい。ウェッジプリズムの数を増やし、ウェッジプリズムの回動角度をより小さくすることは、電極供給に伴うケーシング4の振動を抑制する観点からも好適である。
【0054】
本実施形態では、回転軸CAに沿う方向で隣接する相対的に回動可能な部材、例えば基板2、第一枠35および第二枠などは、対向する主面に凹条26、36を有し、当該凹条に収容されるボール27を介して、回転軸CAに沿う方向で隣接している。このため、ウェッジプリズムがその回動方向へ円滑に回動可能である。また、ボールのサイズを調整することにより、コイルと磁石とのクリアランスが一定になる。その結果、ウェッジプリズムの回動の有無に関わらず、磁石が形成する磁界が安定する。
【0055】
本実施形態では、ウェッジプリズムの通電時における回動方向の推力は、実質的にはウェッジプリズムの回動のみに使用される。本実施形態では、ケーシング4が、回転軸CAに沿う方向(スラスト方向)においてウェッジプリズムを拘束する。よって、ウェッジプリズムの回動の有無に関わらず、スラスト方向におけるウェッジプリズム間の位置が固定される。その結果、安定した磁界が形成されるとともに安定したウェッジプリズムの回動が実現される。
【0056】
本実施形態では、三つの第一コイル22を三回回転対称の位置に配置し、電源に対してそれぞれの第一コイル22を直列に接続する電気回路を形成している。このように複数のコイルを共通の電源で通電させることから、本実施形態では、第一ウェッジプリズム31を回動させる三つのボイスコイルモータへの通電のタイミングが実質的に同時となる。よって、回動の初期に起こるウェッジプリズムのスライド動作が起こりにくい。また、コイルの電気回路がシンプルに構成されることから、光軸調整装置1が多数(例えば二対以上)のウェッジプリズムを有する場合により有効である。
【0057】
また、コイルへの電力の供給は、前述したようなパルス幅変調(PWM)によるスイッチング駆動によって実施可能である。この場合、電源のオンオフに伴う電力の損出をより抑制することが好ましく、このような電力の損失を抑制する観点から、上記の直列回路のようなスイッチング部の少ない電気回路の構成が好ましい。
【0058】
〔光通信装置〕
本発明の一実施形態に係る光通信装置は、前述の本発明の実施形態に係る光軸調整装置と有する。当該光通信装置は、発信装置であれば発光素子を、受信装置であれば受光素子をさらに有する。
【0059】
発光素子および受光素子には、光半導体を使用することが可能である。発光素子は、例えば電気を光に変換する素子であればよい。発光素子の例には、発光ダイオードおよび半導体レーザが含まれる。受光素子は、例えば光を電気に変換する素子であればよい。受光素子の例には、フォトダイオードおよびCMOSイメージセンサが含まれる。
【0060】
本実施形態の光通信装置は、本実施形態の効果が得られる範囲において、光軸調整装置あるいは発光素子および受光素子以外の他の構成をさらに含んでいてもよい。このような他の構成の例には、集光レンズおよび拡散レンズなどの光学素子、発光素子または受光素子と光軸調整装置とを回動可能に支持するための架台、光通信装置からユーザへの、またはユーザから光通信装置への信号を送受信するための無線通信装置、などが含まれる。
【0061】
図15は、本発明の一実施形態に係る光通信装置の構成を模式的に示す図である。図15に示されるように、光通信装置100は、発光素子110と、光軸調整装置120とを有している。光軸調整装置120は、二つのウェッジプリズム対3A、3Bを有する以外は、前述の光軸調整装置1と同様に構成されている。ウェッジプリズムの回転軸CAに直交する平面であって、当該平面における水平方向をヨー方向、当該平面における垂直方向をピッチ方向とする。光軸調整装置のうちの一方のウェッジプリズム対3Aは、例えばピッチ方向への屈折を制御する。光軸調整装置のうちの他方のウェッジプリズム対3Bは、例えばピッチ方向への屈折を制御する。
【0062】
光通信装置100は、ビーコンに好適に用いられる。ビーコンとは、広い範囲に光ビームを照射して、通信相手に自分の位置を知らせる機能である。広い空間で通信相手の位置を正確に捕捉することは難しい。ビーコンでは、光ビームをおおよその方向に向けて、検索する範囲で照射する。当該検索は、前述したように光ビームの走査によって実行され得る。光の照射方向は、ピッチ方向の角度とヨー方向の角度との合成によって決められる。
【0063】
光通信装置100は、光軸調整装置を特定の方向に向けるためのさらなる回頭のための機構を有していてもよい。このさらなる機構は、例えばモータを用いて構成することが可能であり、光軸調整装置を特定の向きに向けている間に振動が実質的に発生しない機構から適宜に採用され得る。
【0064】
光軸調整装置120は、光軸調整装置1と同様に、ボイスコイルモータを採用したウェッジプリズムの回動システムを採用している。このため、小型化および軽量化を実現するのに好適である。さらに、小型化および軽量化が実現可能なため、さらなる高速駆動が可能となる。そのため、光ビームによる通信相手を検索する照射範囲を従来の光通信装置に比べてより短時間での光ビームの照射が可能となり、また通信相手をより早く発見することが可能となる。
【0065】
図16は、従来の光通信装置の構成を模式的に示す図である。従来の光通信装置200、例えばジンバル機構を有する光通信装置は、図16に示されるように、発光素子を含む照射光学系を有する本体210と、本体210を支持する架台220とを有する。本体210は、照射光学系をピッチ方向に沿って回動させる第一中空モータをさらに有する。また、架台220は、本体210をヨー方向に沿って回動させる第二中空モータをさらに有する。ジンバル機構を有する光通信装置200では、照射光学系とは別に、二方向へ回動させるための二つの中空モータを要する。このため、光通信装置200が大型化する。また、本体210および架台220の回動において中空モータによる微振動が発生しやすく、照射光学系からの光ビームが振動し、光通信の精度が低下しやすい。
【0066】
〔その他の実施形態〕
本発明の実施形態は、光通信において光ビームの送信経路をウェッジプリズムにより屈折させ、規定の範囲内に光ビームを収束させる技術であって、光軸を調整する装置における光軸調整の精度をより高める技術に関する。本発明の実施形態は、本発明の実施形態の効果が得られる範囲において、前述した以外の構成を含んでいてもよい。
【0067】
たとえば、本発明の実施形態では、ウェッジプリズムに対応するコイルの配置および大きさは一様でなくてもよい。光ビーム通信を行う場合に、光通信装置の取り付け状態は常に同じ状態ではなく、様々な取り付け姿勢を許容し得ることが好ましい。図17は、本発明の実施形態における回転体の重心が回転軸から外れるときのコイルの第一の配置例を模式的に示す図である。図18は、本発明の実施形態における回転体の重心が回転軸から外れるときのコイルの第二の配置例を模式的に示す図である。
【0068】
たとえば、図17に示されるように、光通信装置の特定の姿勢における回転体(例えば第一枠、磁石)の重心G1の位置が、回転体の平面形状における中心(回転軸CA)よりもずれることがある。この場合には、等間隔に配置された三つの第一コイル22の一つを、巻き数のより大きな第一コイル22Aに置き換えてもよい。この場合、回転体の中心が図17に示されるようにずれた場合に、より大きなコイルのボイスコイルモータの出力が他のボイスコイルモータよりも大きくなり、円滑な回転を実現する観点から好ましい。
【0069】
また、図18に示されるように、光通信装置の特定の姿勢における回転体の重心G2の位置が、回転体の平面形状における中心(回転軸CA)よりもずれている場合には、重心G2により近い位置により多くのコイルを配置してもよい。たとえば、三つの第一コイル22を等間隔で配置する仕様から、一つの第一コイル22を、重心を挟む位置に配置される二つの第一コイル22B、22Bに置き換えてもよい。このような場合では、第一コイル22の数が三つから四つになるため、四つの第一コイルが等間隔となるように、四回回転対称の位置に第一コイルを配置することが好ましい。
【0070】
図17および図18に示されるようなコイルの配置は、光通信装置の取り付け姿勢に関わらずに、光通信の性能を安定させる観点から有利である。
【0071】
本発明の実施形態では、図19に示されるように、コイルごとに電源を接続してコイルに電力を供給してもよい。図19は、本発明の実施形態におけるコイルと電源との電気回路の他の例を模式的に示す図である。個別にコイルに電源を接続する形態では、前述の回転体の重心Gの位置が回転体の回転中心からずれている場合に、コイルごとの通電量を個別に適宜に設定することによって、回転体の回転をより安定させることが可能である。したがって、このような形態も、光通信装置の取り付け姿勢に関わらず光通信の性能を安定させる観点から有利である。
【0072】
本発明の実施形態において、磁石が形成する磁界の磁束密度に応じたウェッジプリズムの回動角度が一次式に近似可能な範囲は、形成される磁界および供給される電力などに応じて適宜に調整可能である。
【0073】
本発明の実施形態は、光ビームの光軸のより高速な調整において効果的である。光ビームの通信では、通信相手が常時固定される状態とは限らず、ゆっくりと移動するなど、通信相手との位置関係が相対的に変化する場合があり得る。このような場合でも通信相手の移動範囲が予想可能で、通信相手に合わせて光ビームの光軸方向を移動させることで対応可能であれば、光ビームを追従させることで通信状態を維持することが可能となる。すなわち、通信相手の位置が変化することが予めわかっている場合など、通信相手との通信が途絶える可能性がある場合は、前述したビーコンによって定期的な状態確認を行い、安定した通信を確保できる。電波での通信と比較した場合、光通信のようなより指向性の高い通信方法では、高精度で通信相手の位置を常時把握しなければならない。本発明の実施形態では、前述した電子技術によるウェッジプリズムの回転制御、および、前述した特定のボイスコイルモータを含む高精度アクチュエータの採用、によって、光通信における通信相手の位置を高精度で把握することを実現している。
【0074】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0075】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態に係る光軸調整装置(1)は、回転軸(CA)を軸として回動可能に配置されているウェッジプリズム(第一ウェッジプリズム31など)と、ウェッジプリズムを回動させるためのボイスコイルモータと、ウェッジプリズムの出射光の光軸の特定の向きに対応するウェッジプリズムの回動角度に応じてボイスコイルモータにおける通電を制御するための制御装置(CPU21)とを有する。また、本発明の実施形態に係る光軸調整装置(100)は、上記の本発明の実施形態に係る光軸調整装置を備える。よって、本発明の実施形態は、例えば前述した中空モータを回動の駆動源として用いる従来の光軸調整装置に比べて、ウェッジプリズムによる光ビームの進行方向の制御を高い精度で実現することができる。
【0076】
ボイスコイルモータは、ウェッジプリズムに対して固定され、ウェッジプリズムの回転軸に沿う方向の磁界を発生させるための磁石(第一磁石33など)と、ウェッジプリズムを回動可能に支持する支持体(基板2など)に対して固定され、ウェッジプリズムの回動方向および前記磁界の向きの両方に交差する方向に延在する部分を有するコイル(第一コイル22など)と、を有していてもよい。この構成は、光軸調整装置の小型化および軽量化を実現する観点からより一層効果的である。
【0077】
コイルは、平面視したときに回転軸から外側に向けて広がる扇形の形状を有していてもよい。この構成は、ウェッジプリズムの回動における推力のロスを軽減する観点からより一層効果的である。
【0078】
光軸調整装置は、磁石による磁界の磁束密度を検出するためのホール素子をさらに有し、制御装置は、ホール素子による磁束密度の検出値に応じて、ウェッジプリズムの出射光の光軸の特定の向きを実現するウェッジプリズムの回転角度を取得してもよい。この構成は、ウェッジプリズムの回転角度を迅速かつ簡易に求める観点からより一層効果的である。
【0079】
光軸調整装置は、複数のボイスコイルモータを有し、一枚のウェッジプリズムの回動方向における二か所以上にボイスコイルモータが配置されていてもよい。この構成は、光軸調整装置の性能の安定性を高める観点からより一層効果的である。
【0080】
複数のボイスコイルモータのそれぞれは、ウェッジプリズムを平面視したときに、回転軸を中心とする回転対称の位置に配置されていてもよい。この構成は、磁気回路の集中によってウェッジプリズムがスラスト方向に変位することを抑制する観点からより一層効果的である。
【0081】
光軸調整装置は、一対のウェッジプリズムを有していてもよい。この構成は、ウェッジプリズムの回転角度を小さくして電力供給に伴う振動の発生を抑制する観点からより効果的である。光軸調整装置は、二対以上のウェッジプリズムを有していてもよい。この構成は、上記の観点からより一層効果的である。
【0082】
本発明の実施形態に係る光軸調整装置および光通信装置によれば、より省電力でより高精度の光通信の実現が期待される。これにより、産業の生産性のさらなる向上およびさらなる経済成長がもたらされることが期待される。本発明の実施形態によれば、このようにして持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できることが期待される。
【符号の説明】
【0083】
1、120 光軸調整装置
2 基板
3、3A、3B、140 ウェッジプリズム対
4 ケーシング
21 CPU(制御装置)
22、22A、22B 第一コイル
23 第二コイル
24 第一ホール素子
25 第二ホール素子
26、36 凹条
27 ボール
28 第一ヨーク
29 ボール受け部
31 第一ウェッジプリズム
32 第二ウェッジプリズム
33 第一磁石
34 第二磁石
35 第一枠
41 周壁部
42 円環部
100、200 光通信装置
110 発光素子
130 レンズ
210 本体
220 架台
CA 回転軸
G1、G2 重心
LB 光ビーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20