(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047187
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】防犯ボルト
(51)【国際特許分類】
F16B 41/00 20060101AFI20230329BHJP
F16B 37/14 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
F16B41/00 Q
F16B37/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156140
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(74)【代理人】
【識別番号】100126170
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 義之
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 和興
(57)【要約】
【課題】頭部の工具との係合構造が外部から認識できないため、不正に外しにくい上、必要な場合には、容易に外すことが可能で実用的な防犯ボルトを提供する。
【解決手段】防犯ボルト1は、外周にネジ溝を螺刻した円柱状のネジ軸4の基端に、工具と係合可能な被係合部6を設けたネジ軸4より大径の頭部9を連設してなるボルト本体2と、ボルト本体2の頭部9を覆うための変形可能な金属薄板によって形成されたキャップ3とによって構成されている。また、キャップ3は、半球状に形成されており、頂部に非円柱状のダミー係合凹部として機能する凹部7が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周にネジ溝を螺刻した円柱状のネジ軸の基端に、工具と係合可能な被係合部を設けた頭部を連設してなるボルト本体と、前記頭部を覆うためのキャップとからなる防犯ボルトであって、
前記キャップが、変形可能な薄板によって形成されたものであることを特徴とする防犯ボルト。
【請求項2】
前記被結合部が、特定形状の工具のみと結合可能なものであることを特徴とする請求項1に記載の防犯ボルト。
【請求項3】
前記キャップが、半球状に形成されており、頂部に非円柱状のダミー係合凹部を形成したものであることを特徴とする請求項1、または2に記載の防犯ボルト。
【請求項4】
前記キャップの表面に、前記頭部の前記被結合部の形状と関連した情報が表示されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の防犯ボルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防犯機能を備えた締着用のボルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボルトおよびナットは、複数の部材を締着状態で保持することができるとともに、必要に応じてその締着状態を容易に解除することができるため、締着部材として様々な用途に用いられているが、車両のナンバープレートや自動車やオートバイ等のステアリング部におけるキーシリンダ等の用途においては、盗難等の犯罪を防止する目的から、容易に締着状態を解除できないことが望まれる。
【0003】
そのため、頭部(ヘッド部分)が、通常の扁平な六角柱状以外の形状に形成されており、特殊な工具を用いなければ締着状態を解除できないように構成された防犯ボルトや、頭部にカバーを外れないように装着した防犯ボルトが開発されている。そして、そのような頭部にカバーを装着した防犯ボルトとしては、特許文献1の如く、頭部の周面に周状の溝を形成したボルト本体と、バネ材で構成されており周面に複数の爪状ストッパーを内向きに突設した円柱状のカバーとによって構成されており、カバーの爪状ストッパーをボルト本体の頭部の周状の溝に係合させることによって、ボルト本体の頭部を取り外しにくいカバーによって被覆するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特殊工具のみと係合する特殊な形状の頭部を有する防犯ボルトは、一定の防犯効果を奏するものの、頭部の形状に合わせて特殊工具を形成する(模倣する)ことが可能であるため、長期間に亘って高い防犯効果を持続させることは困難である。一方、上記特許文献1の如き、従来のボルト本体の頭部をカバーで被覆するタイプの防犯ボルトは、頭部の形状に合わせてカバーを形成しなければならないため、製造にコストが掛かる上、締着状態を解除する必要が生じた場合に、容易にカバーを取り外すことができない、という不具合がある。
【0006】
本発明の目的は、上記従来の防犯ボルトにおける問題点を解消し、頭部の構造が外部から見えなくなっており、不正に取り外しにくい上、締着状態を解除する必要が生じた場合には、容易に取り外すことが可能で実用的な防犯ボルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、外周にネジ溝を螺刻した円柱状のネジ軸の基端に、工具と係合可能な被係合部を設けた頭部を連設してなるボルト本体と、前記頭部を覆うためのキャップとからなる防犯ボルトであって、前記キャップが、変形可能な薄板によって形成されたものであることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記被結合部が、特定形状の工具のみと結合可能なものであることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載された発明は、請求項1、または2に記載された発明において、前記キャップが、半球状に形成されており、頂部に非円柱状のダミー係合凹部を形成したものであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載された発明は、1~3のいずれかに記載された発明において、前記キャップの表面に、前記頭部の前記被結合部の形状と関連した情報が表示されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の防犯ボルトは、ボルト本体の頭部がキャップ(カバー)で覆われており、頭部における工具との係合構造(所謂、ドライブ部分)が外部から目視できなくなっているため、高い防犯機能を奏する。その一方、締着を解除する必要が生じた場合には、防犯ボルトの形状・構造を予め知らされている正規の作業者が、頭部の被係合部に合致した工具をキャップの上側から押し付けて、金属薄板からなるキャップを被係合部の形状に合わせて変形させることにより、当該工具によって容易に取り外すことができる。
【0012】
請求項2に記載の防犯ボルトは、頭部の被係合部の形状(たとえば、三角柱状等の特定の形状)に合致した特定形状の工具(たとえば、三角柱状の凹部を有するスパナ等)をキャップの上側から押し付けなければ、キャップを被係合部の形状に合わせて変形させることができないので、より高い防犯機能を奏する。
【0013】
請求項3に記載の防犯ボルトは、キャップの半球状体の頂部にダミー係合凹部(すなわち、不正な取り外しを意図する者を騙すための見せ掛けのドライブ構造)が設けられており、不正な取り外しを意図する者が、そのダミー係合凹部の形状に合致した工具を挿入して回転させても、工具が空回りするだけであり、ボルト本体の頭部を回転させるための構造がより分かりにくくなっているので、非常に高い防犯機能を奏する。
【0014】
請求項4に記載の防犯ボルトは、防犯ボルトの形状・構造を予め知らされている正規の作業者であれば、キャップの表面に表示された情報に基づいて、頭部の被結合部の形状、構造やレイアウト等を把握することができるので、締着を解除する必要が生じた場合に、非常に容易に取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】キャップの断面を示す説明図(
図2におけるA-A線断面図)である。
【
図4】防犯ボルトの使用方法を示す説明図(正面図)である(aは、ボルト本体およびナットによって締着物を被締着物に締着した状態を示したものであり、bは、ボルト本体の頭部にキャップを装着した状態を示したものである)。
【
図5】防犯ボルトの使用方法を示す説明図である(aは、キャップの上に工具をボルト本体の頭部の被係合部に係合可能に配置させた状態を示したものであり、bは、キャップの上から工具をボルト本体の頭部の被係合部に係合させた状態を示したものである)。
【
図6】キャップの変更例を示す説明図(平面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る防犯ボルトの一実施形態について、図面に基いて詳細に説明する。
【0017】
<防犯ボルトの構造>
図1、
図2は、防犯ボルトを示したものであり、防犯ボルト1は、ボルト本体2とキャップ(カバー)3とによって構成されている。ボルト本体2は、金属(ステンレス)によって一体的に形成されており、外周にネジ溝を螺刻した(ネジ山を形成した)円柱状のネジ軸4の基端に、ネジ軸4より大径の頭部(ヘッド部)9が連設されている。当該頭部9は、扁平な円錐台状に形成されたベース部分5と、そのベース部分5の上方に設けられた扁平な六角柱状の被係合部6とによって構成されている。なお、被係合部6の上側の周縁は、R状に面取りされた状態になっている。また、ベース部分5の下側には、扁平な円柱状の台座部が形成されている。
【0018】
一方、キャップ3は、金属(ステンレス)からなる厚さが20μmの薄板によって、略半球状(中空の半球状)に形成されており、外周縁が一定の幅で内側に折り返されて、折り返し部8が形成された状態になっている(
図3参照)。そして、頂部(半球の中央の部分)に、ダミー係合凹部として機能する扁平な六角柱状の凹部7が形成されている。また、キャップ3の外面には、3本の表示線10,10・・が、中心から放射する方向に沿って、互いに等間隔になるように(中心に対して等角度になるように)印字されている。
【0019】
<防犯ボルトの使用方法および作用>
図4、
図5は、上記の如く構成された防犯ボルト1の使用方法を示したものである。防犯ボルト1によって、締着物Oを被締着物Bに締着する際には、
図4(a)の如く、締着物Oおよび被締着物Bのネジ挿通孔を挿通させた防犯ボルト1のネジ軸4の先端側に、ナットNを螺合させて締め付ける。しかる後、
図4(b)の如く、ボルト本体2の頭部9に、キャップ3を装着する。そのようにボルト本体2の頭部9にキャップ3を装着する際には、折り返し部8の内周縁を頭部9の円錐台状のベース部分5の周縁に当接させた状態で、キャップ3を下側に押し込むことによって、容易に頭部9に装着することができる。また、そのようにボルト本体2の頭部9にキャップ3を装着する際には、3本の表示線10,10・・の方向と、頭部9に形成された扁平な六角柱状の被係合部6の外周の鉛直な稜線とを合致させる(
図4(c)参照)。
【0020】
上記の如く、締着物Oと被締着物Bとの締着に供された防犯ボルト1は、頭部9が不透明なキャップ3によって覆われており、不正に防犯ボルト1を取り外したい者は、キャップ3の外側から頭部9の形状(被係合部6の形状)を認識できないため、取り外すことができない。
【0021】
一方、締着を解除する必要が生じた場合には、正規の作業者(すなわち、防犯ボルト1の形状・構造を予め知らされている作業者)は、適切な工具(たとえば、スパナ)を用いて、容易に防犯ボルト1を回転させて、締着を解除することができる。
図5は、防犯ボルト1による締着を解除する様子を示したものであり、締着を解除する作業者は、
図5(a)の如く、キャップ3に印字された表示線10,10・・に基づいて、頭部9の被係合部6の形状(扁平な六角柱状の被係合部6の平行な二面の間隔)に合致した適正な工具(たとえば、スパナ)Tを、被係合部6と噛み合うように配置させることが可能となる。すなわち、作業者は、工具Tの平行な二面の中間線Lの方向を、表示線10,10・・の内の一つに合致させることによって、工具Tの位相(水平面内における向き)を、キャップ3内の頭部9の被係合部6(すなわち、六角柱状体)の位相に合致させることができる。
【0022】
そして、上記の如く、工具Tの位相をキャップ3内の頭部9の被係合部6の位相に合致させた作業者は、当該工具Tを、キャップ3の上から(外から)、頭部9へ押し付ける。そのように作業者が、工具Tを、キャップ3の上から(外から)頭部9へ押し付けると、
図5(b)の如く、工具Tの形状および頭部9の被係合部6の形状に沿って、金属薄板からなるキャップ3が変形し、工具Tと頭部9の被係合部6との間に挟み込まれるとともに、キャップ3を中間に介在させた状態で、工具Tの平行な二面と、頭部9の被係合部6の平行な二面とが当接し合う。そのため、作業者は、工具Tによって防犯ボルト1を回転させて取り外すことが可能となる。
【0023】
<防犯ボルトの効果>
防犯ボルト1は、上記の如く、ボルト本体2の頭部9が変形可能な金属薄板によって形成されたキャップ3によって覆われており、頭部9における工具Tとの係合構造が外部から目視できなくなっているため、高い防犯機能を奏する。その一方、締着を解除する必要が生じた場合には、正規の作業者(すなわち、防犯ボルト1の形状・構造を予め知らされている作業者)が、頭部9の被係合部6に合致した工具Tをキャップ3の上側から押し付けて、金属薄板からなるキャップ3を被係合部6の形状に合わせて変形させることにより、当該工具Tによって容易に取り外すことができる。
【0024】
また、防犯ボルト1は、キャップ3が半球状に形成されており、頂部に非円柱状の凹部(ダミー係合凹部)7を形成したものであり、不正な取り外しを意図する者が、当該凹部7の形状に合致した工具T’を挿入して回転させても、工具T’が空回りするだけであり、頭部9を回転させるための構造がより分かりにくくなっているので、非常に高い防犯機能を奏する。
【0025】
加えて、防犯ボルト1は、キャップ3の表面に、頭部9の被結合部6の形状と関連した情報としての表示線10,10・・が印字されており、正規の作業者であれば、キャップ3の表面に印字された表示線10,10・・に基づいて、頭部9の被結合部6の位相(水平面内の向き)を把握することができるので、締着を解除する必要が生じた場合に、非常に容易に取り外すことができる。
【0026】
<防犯ボルトの変更例>
本発明に係る防犯ボルトは、上記した実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、ボルト本体、キャップの材質、形状、構造等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。たとえば、本発明に係る防犯ボルトは、上記実施形態の如く、ボルト本体およびキャップがステンレスによって形成されたものに限定されず、ボルト本体および/またはキャップが鉄、アルミニウム等の他の金属によって形成されたもの等でも良い。加えて、キャップは、上記実施形態の如く、変形可能な金属薄板によって形成されたものに限定されず、合成樹脂からなる変形可能な薄板によって形成されたもの等に変更することも可能である。
【0027】
また、本発明に係る防犯ボルトは、上記実施形態の如く、ボルト本体の頭部の被係合部が扁平な六角柱状であるものに限定されず、被係合部が三角柱状、四角柱状、五角柱状、八角柱状等であるもの(すなわち、特定形状の工具のみと係合可能であるもの)や、被係合部がマイナスあるいはプラスのネジ溝を刻設した円柱状体であるもの等に変更することも可能である。
【0028】
一方、キャップは、上記実施形態の如く、ステンレスからなる薄板によって形成されたものに限定されず、他の金属からなる薄板によって形成されたものに変更することも可能である。なお、ステンレスあるいは鉄からなる厚みが10~100μmの薄板によって形成されたキャップを用いると、適切な工具を上から(外から)押し付ける際に、大きな力を加えなくても、当該工具の形状およびボルト本体の頭部の被係合部の形状に沿って容易に変形するため、防犯ボルトの締着の解除が非常に容易なものとなる、というメリットがある。
【0029】
また、キャップは、上記実施形態の如く、ボルト本体の頭部の被係合部の位相(水平面内における向き)に関連した表示線を印字したものに限定されず、頭部の被結合部の形状と関連した情報が表示されていないものでも良いし、
図6(a)の如く、ボルト本体の頭部の被係合部の形状や構造に関する情報(たとえば、六角柱状体の平行な二面の間隔等)を、バーコードや当事者間で取り決めた暗号等(表示部11)によって表示したもの等でも良い。加えて、キャップは、ダミー係合凹部の形状を頭部の被結合部の形状と関連付けたもの(たとえば、上記実施形態の如く、ダミー係合凹部の水平断面形状をボルト本体の頭部の被結合部の水平断面形状と同一にしたものや、ダミー係合凹部の平行な二面の向きをボルト本体の頭部の被結合部の平行な二面の向きと同一にしたもの)でも良い。そのような構成を採用することによって、正規の作業者が短時間の内に適正な工具で確実に締着状態を解除することが可能になる、というメリットがある。
【0030】
さらに、キャップは、ボルト本体の頭部への装着を容易なものとするために、
図6(b)の如く、周状の端縁(たとえば、折り返し部)に、ノッチ12,12・・を設けたもの等でも良い。加えて、キャップは、上記実施形態の如く、作業者が、工具を用いることなくボルト本体の頭部に装着できるものに限定されず、ボルト本体の頭部を被覆するように配置させた後に周縁等をカシメ止めすることによって取り外しできないように装着するもの等でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る防犯ボルトは、上記の如く優れた防犯効果を奏するものであるので、車両のナンバープレートや自動車やオートバイのステアリング部におけるキーシリンダ等の通常の取り外しが予定されない用途の締着部材として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0032】
1・・防犯ボルト
2・・ボルト本体
3・・キャップ
6・・被係合部
7・・凹部(ダミー係合凹部)
9・・頭部
10・・表示線
11・・表示部
O・・締着物
B・・被締着物