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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047188
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】磁気粘弾性流体および装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/44 20060101AFI20230329BHJP
   F16F 9/53 20060101ALI20230329BHJP
   F16F 9/46 20060101ALI20230329BHJP
   F16F 15/18 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
H01F1/44 170
F16F9/53
F16F9/46
F16F15/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156141
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000230054
【氏名又は名称】日本ペイントホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】坂本 裕之
(72)【発明者】
【氏名】椎名 茉友
【テーマコード(参考)】
3J069
5E041
【Fターム(参考)】
3J069DD25
3J069EE35
5E041BD07
5E041CA10
(57)【要約】
【課題】磁性粒子の長期間の分散安定性に優れ、流動性にも優れる磁気粘弾性流体を提供すること。
【解決手段】磁性粒子と、分散媒とを含む磁気粘弾性流体であって、分散媒が1分子内に2個以上のアミド基を有する有機化合物を含み、磁気粘弾性流体の総体積に対する、有機化合物の体積の割合が、48~85%である、磁気粘弾性流体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子と、分散媒と、を含む磁気粘弾性流体であって、
前記分散媒が、1分子内に2個以上のアミド基を有する有機化合物を含み、
前記磁気粘弾性流体の総体積に対する、前記有機化合物の体積の割合が、48~85%である、磁気粘弾性流体。
【請求項2】
前記有機化合物が、式(1):
【化1】
を有し、
式中、Lは、価数yの連結基であり、
Rは、水素またはメチル基であり、
Aは、アルキレン基であり、
xは、1~30の数であり、
yは、2以上の数である、請求項1に記載の磁気粘弾性流体。
【請求項3】
前記連結基が、炭化水素基である、請求項2に記載の磁気粘弾性流体。
【請求項4】
前記Lが、アルキレン基である、請求項2に記載の磁気粘弾性流体。
【請求項5】
前記Lが、炭素数2~8のアルキレン基である、請求項4に記載の磁気粘弾性流体。
【請求項6】
前記磁性粒子の平均粒子径が、1~50μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気粘弾性流体。
【請求項7】
前記磁気粘弾性流体が、樹脂粒子を含まない、請求項1~6のいずれか一項に記載の磁気粘弾性流体。
【請求項8】
ロボット、ブレーキ、クラッチ、ダンパ、ショックアブソーバー、制震装置、ハプティクス、力触覚提示装置、医療機器、福祉機器および吸着装置からなる群より選択される装置に、請求項1~7のいずれか一項に記載の磁気粘弾性流体を用いた、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気粘弾性流体および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気粘性流体(Magneto Rheological Fluid、以下、「MR流体」ともいう)は、鉄などの磁性粒子を分散媒であるシリコーンオイルなどの基油に分散させた流体である。MR流体は、MR流体に外部から磁場を印加していない状態では、分散媒中に磁性粒子がランダムに浮遊し、一方、MR流体に外部から磁場を印加した状態では、磁場の方向に沿って磁性粒子が鎖状に連結した多数のクラスタを形成する性質を有する。これにより、MR流体は、磁場の印加と非印加によってクラスタの形成と解除を制御することができ、クラスタが形成されるとMR流体の見かけ上の粘度が変化し、降伏応力が増大する。MR流体は磁場の印加によって力およびトルクを伝達したり、減衰させることができる。そのため、MR流体は、ダンパなどへの応用が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
MR流体は、通常、ある一定の応力を発生させるために粒径が数μm~数十μmの大きな磁性粒子を用いることから、MR流体を放置しておくと磁性粒子が沈降して分散媒から分離してしまう問題がある。磁性粒子が沈降して固まった状態でMR流体を用いた装置を作動させようとすると、装置が作動しないおそれまたは装置の機構を損傷してしまうおそれがある。
【0004】
本発明者らは、特許文献1および2において、磁性粒子の長期間の分散安定性に優れ、磁場印加条件下での降伏応力の最大変化量が大きい磁気粘弾性流体を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6434672号公報
【特許文献2】特許第6682608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MR流体では、磁性粒子の長期間の分散安定性に優れることに加えて、MR流体の流動性に優れることも求められる。MR流体の流動性が低いと、MR流体を使用する機械または装置にMR流体を充填することが困難になることがある。また、MR流体の流動性が低いと、過剰に高い無励磁トルクとなることで、逆可動性という優位な特徴が失われる。
【0007】
流動性とは一般に一定しないで流れうごく性質を意味するが、本発明における流動性は、固定化された形状がクリープ現象を生じて初期の形状を一定時間で維持できなくなり、流動する性質を表す。
【0008】
また、磁性粒子の長期間の分散安定性に優れ、磁性粒子が分散媒から分離しなかったとしても、MR流体の流動性が低く、MR流体全体が固化した状態になるとMR流体を装置などにおいて使用することができなくなる。加えて、その固化したMR流体を強い力で撹拌して、MR流体の流動性を回復する必要がある。
【0009】
そこで、本発明は、磁性粒子の長期間の分散安定性に優れ、流動性にも優れる磁気粘弾性流体を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の別の目的は、長期間の安定駆動および機構信頼性に優れた装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る磁気粘弾性流体は、磁性粒子と、分散媒と、を含む磁気粘弾性流体であって、
前記分散媒が1分子内に2個以上のアミド基を有する有機化合物を含み、
前記磁気粘弾性流体の総体積に対する、前記有機化合物の体積の割合が、48~85%である、磁気粘弾性流体である。これによって、磁性粒子の長期間の分散安定性に優れ、磁気粘弾性流体の流動性にも優れる。
【0012】
本発明に係る磁気粘弾性流体の一実施形態では、前記有機化合物が、式(1):
【化1】
を有し、
式中、Lは、価数yの連結基であり、
Rは、水素またはメチル基であり、
Aは、アルキレン基であり、
xは、1~30の数であり、
yは、2以上の数である。
【0013】
本発明に係る磁気粘弾性流体の一実施形態では、前記連結基が、炭化水素基である。
【0014】
本発明に係る磁気粘弾性流体の一実施形態では、前記Lが、アルキレン基である。
【0015】
本発明に係る磁気粘弾性流体の一実施形態では、前記Lが、炭素数2~8のアルキレン基である。
【0016】
本発明に係る磁気粘弾性流体の一実施形態では、前記磁性粒子の平均粒子径が、1~50μmである。
【0017】
本発明に係る磁気粘弾性流体の一実施形態では、前記磁気粘弾性流体が、樹脂粒子を含まない。
【0018】
本発明に係る装置は、ロボット、ブレーキ、クラッチ、ダンパ、ショックアブソーバー、制震装置、ハプティクス、力触覚提示装置、医療機器、福祉機器および吸着装置からなる群より選択される装置に、上記いずれかの磁気粘弾性流体を用いた装置である。これによって、長期間の安定駆動および機構信頼性に優れる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、磁性粒子の長期間の分散安定性に優れ、流動性にも優れる磁気粘弾性流体を提供することができる。また、本発明によれば、長期間の安定駆動および機構信頼性に優れた装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0021】
本発明において、2以上の実施形態を任意に組み合わせることができる。
【0022】
本発明において、用語「固形分」は、固形分、不揮発分および有効成分を包括する概念である。
【0023】
本明細書において、数値範囲は、別段の記載がない限り、その範囲の上限値および下限値を含むことを意図している。例えば、48~85%は、48%以上85%以下の範囲を意味する。
【0024】
本発明において、平均粒子径とは、粒子径分布の中央値(メジアン径)を意味する。平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置または走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いて測定する。
【0025】
(磁気粘弾性流体)
本発明に係る磁気粘弾性流体は、磁性粒子と、分散媒と、を含む磁気粘弾性流体であって、
前記分散媒が1分子内に2個以上のアミド基を有する有機化合物を含み、
前記磁気粘弾性流体の総体積に対する、前記有機化合物の体積の割合が、48~85%である、磁気粘弾性流体である。
【0026】
以下、本発明の磁気粘弾性流体が含む各成分について説明する。
【0027】
・磁性粒子
磁性粒子としては、磁場印加条件下で降伏応力が変化する磁性粒子であればよく、公知の磁性粒子を用いることができる。磁性粒子は、1種単独で用いてもよいし、材料または平均粒子径の異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0028】
磁性粒子の材料としては、例えば、鉄、窒化鉄、炭化鉄、カルボニル鉄、二酸化クロム、低炭素鋼、ニッケル、コバルト;アルミニウム含有鉄合金、ケイ素含有鉄合金、コバルト含有鉄合金、ニッケル含有鉄合金、バナジウム含有鉄合金、モリブデン含有鉄合金、クロム含有鉄合金、タングステン含有鉄合金、マンガン含有鉄合金、銅含有鉄合金などの鉄合金および上記材料の酸化物;ガドリニウム、ガドリニウム有機誘導体からなる常磁性、超常磁性、強磁性化合物粒子などが挙げられる。
【0029】
磁性粒子としては、カルボニル鉄が好ましい。
【0030】
磁性粒子の平均粒子径は、例えば、1~50μmである。一実施形態では、磁性粒子の平均粒子径は、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、9μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、35μm以上、40μm以上または45μm以上である。別の実施形態では、磁性粒子の平均粒子径は、50μm以下、45μm以下、40μm以下、35μm以下、30μm以下、25μm以下、20μm以下、15μm以下、10μm以下、9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、4μm以下、3μm以下または2μm以下である。
【0031】
磁性粒子は、上記磁性粒子(平均粒子径が1μm以上の大磁性粒子)に加えて、より小さい平均粒子径の小磁性粒子を用いてもよいし、用いなくてもよい。
【0032】
小磁性粒子の材料としては、例えば、鉄、フェライト(Mn(II)、Co(II)、Ni(II)、Cu(II)、Zn(II)などの鉄(III)酸塩)、マグネタイト(Fe(II)の鉄(III)酸塩)などが挙げられる。フェライトとしては、例えば、Mnフェライト、Mn-Znフェライト、Mn-Mgフェライト、Mn-Mg-Srフェライト、Mgフェライト;アルカリ金属、アルカリ土類金属、軽金属類を含有する上記フェライトなどが挙げられる。この他、前述の材料も挙げられる。
【0033】
小磁性粒子としては、マグネタイトおよびフェライトからなる群より選択される1種以上が好ましい。
【0034】
一実施形態では、小磁性粒子は、Mn-Mg-Srフェライトである。
【0035】
小磁性粒子の平均粒子径は、例えば、20~300nmである。小磁性粒子の平均粒子径は、降伏応力と沈降抑制の観点から、40~200nmが好ましい。
【0036】
磁性粒子が小磁性粒子を含む場合、小磁性粒子の割合は、例えば、磁性粒子の合計質量に対して、例えば、5質量%未満である。
【0037】
本発明に係る磁気粘弾性流体の一実施形態では、前記磁性粒子の平均粒子径が、1~50μmである。すなわち、この実施形態では、磁性粒子は、小磁性粒子を含まない。
【0038】
本発明の磁気粘弾性流体では、磁性粒子は、分散性を高めるためのシランカップリング剤などによる表面処理をしてもよいし、表面処理をしなくてもよい。本発明の磁気粘弾性流体では、後述する樹脂粒子を用いることにより、磁性粒子の表面処理をしなくとも、磁性粒子の長期の優れた分散安定性が得られる。
【0039】
一実施形態では、磁性粒子は、分散性を高めるためのシランカップリング剤などによる表面処理をされていない。
【0040】
本発明の磁気粘弾性流体における磁性粒子の量は、後述する1分子内に2個以上のアミド基を有する有機化合物の体積の割合が、磁気粘弾性流体の総体積に対して48~85%となる量であれば特に限定されない。本発明の磁気粘弾性流体における磁性粒子の体積の割合は、例えば、磁気粘弾性流体の総体積に対して52%以下である。一実施形態では、本発明の磁気粘弾性流体における磁性粒子の体積の割合は、磁気粘弾性流体の総体積に対して52%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下または5%以下である。別の実施形態では、本発明の磁気粘弾性流体における磁性粒子の体積の割合は、磁気粘弾性流体の総体積に対して5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、30%以上、40%以上または50%以上である。
【0041】
・分散媒
本発明の磁気粘弾性流体の分散媒は、1分子内に2個以上のアミド基(-CON(R)-)を有する有機化合物(以下、単に「分散媒化合物」ということがある。)を含み、磁気粘弾性流体の総体積に対する、分散媒化合物の体積の割合が、48~85%である。
【0042】
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明の磁気粘弾性流体において、このような分散媒化合物を含む分散媒を用いることによって磁性粒子の長期間の分散安定性に優れ、磁気粘弾性流体の流動性にも優れる理由は、例えば、分散媒化合物1分子のアミド基が2個以上であることによって、アミド基が1個である場合よりも、磁性粒子表面へアミド基によって分散媒化合物が吸着しやすくなり、磁性粒子の分散性を高めるためと推測される。
【0043】
分散媒化合物は、ノニオン性、カチオン性、アニオン性のいずれでもよい。一実施形態では、分散媒化合物は、ノニオン性である。
【0044】
例えば、分散媒化合物は、式(1):
【化2】
を有し、式(1)中、Lは、価数yの連結基であり;Rは、水素またはメチル基であり;Aは、アルキレン基であり;xは、1~30の数であり;yは、2以上の数である。
【0045】
Lの連結基としては、例えば、直鎖、分岐または環状の有機基が挙げられる。有機基としては、例えば、脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素などの炭化水素が挙げられる。脂肪族炭化水素は、飽和脂肪族炭化水素でもよいし、不飽和結合を1以上有する不飽和脂肪族炭化水素でもよい。
【0046】
一実施形態では、連結基は、炭化水素基である。
【0047】
一実施形態では、Lは、飽和または不飽和のアルキレン基である。別の実施形態では、Lは、飽和または不飽和の炭素数2、3、4、5、6、7または8のアルキレン基である。さらに別の実施形態では、Lは、飽和または不飽和の4個の炭素を有するアルキレン基である。
【0048】
価数y、すなわち、アミド基の数は、2以上の数であり、例えば、2、3、4または5である。
【0049】
Rは、水素またはメチル基である。Rがメチル基の場合(-CON(CH)-)よりもRが水素の場合(-CONH-)の方が、アミド基の電子求引性が高まり、磁性粒子へのアミド基による分散媒化合物の吸着性が高まることが推測される。
【0050】
Aは、飽和または不飽和のアルキレン基であり、例えば、炭素数2、3、4、5または6のアルキレン基が挙げられる。アルキレン基は、直鎖、分岐または環状のいずれでもよい。
【0051】
xは、1~30の数である。AO基の繰り返し数の増加によって分散媒化合物の疎水性を高めて磁性粒子の分散安定性をより高める観点から、xは、4以上が好ましい。一実施形態では、xは、1以上、2以上、3以上、4以上、6以上、8以上、10以上、12以上、14以上、16以上、18以上または20以上である。別の実施形態では、xは、30以下、20以下、18以下、16以下、14以下、12以下、10以下、8以下、6以下、4以下、3以下または2以下である。
【0052】
一実施形態では、式(1)の分散媒化合物は、式(2):H-(OA)x-NRCO-L-CONR-(AO)x-H(すなわち、式(1)においてy=2)である。別の実施形態では、式(1)の分散媒化合物は、式(2):H-(OA)x-NHCO-L-CONH-(AO)x-H(すなわち、式(1)においてy=2)である。
【0053】
分散媒化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
分散媒の合計質量に対する分散媒化合物の割合は、例えば、50質量%以上である。一実施形態では、分散媒の合計質量に対する分散媒化合物の割合は、50質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上または100質量%である。別の実施形態では、分散媒の合計質量に対する分散媒化合物の割合は、100質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、または60質量%以下である。
【0055】
本発明の磁気粘弾性流体の分散媒には、分散媒化合物以外の分散媒、例えば、特許文献1もしくは2などの分散媒、またはシリコーンオイル、フッ素オイルもしくはパラフィンなどの分散媒が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0056】
本発明の磁気粘弾性流体の総体積に対する、分散媒化合物の体積の割合は、48~85%である。分散媒化合物の体積の割合が48%以上であることによって、磁気粘弾性流体の流動性が高まる。また、分散媒化合物の体積の割合が85%以下であることによって、磁性粒子の長期間の分散安定性に優れる。一実施形態では、磁気粘弾性流体の総体積に対する、分散媒化合物の体積の割合は、48%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上または80%以上である。別の実施形態では、磁気粘弾性流体の総体積に対する、分散媒化合物の体積の割合は、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下または50%以下である。
【0057】
・その他の添加剤
本発明に係る磁気粘弾性流体には、上述した成分以外に、分散助剤、樹脂粒子、レオロジーコントロール剤、金属型清浄分散剤、無灰型清浄分散剤、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤、さび止め剤、摩擦調整剤、固体潤滑剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、消泡剤、着色剤、粘度指数向上剤及び流動点降下剤などのその他の添加剤を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。これらその他の添加剤はそれぞれ、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
・分散助剤
分散助剤は、一般に用いられる非水性または水性の湿潤分散剤を用いることができる。分散助剤が有する磁性体吸着に寄与する官能基は酸性、塩基性、塩のいずれでもよいが、一部の材質の磁性粒子との相互作用が少ないことから、塩基性または塩が好ましい。分散助剤の分子量は、低分子量のものから高分子量のものまで、分散媒との組合せから適切なものを選択すればよい。分散助剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
分散助剤を用いる場合、その量は適宜調節すればよい。例えば、分散助剤の割合は、磁性粒子の質量と分散媒の質量と分散助剤の質量との合計質量に対して0.5~10質量%である。
【0060】
一実施形態では、磁気粘弾性流体は、分散助剤を含まない。別の実施形態では、磁気粘弾性流体は、分散助剤を含む。
【0061】
・樹脂粒子
樹脂粒子は、樹脂製の粒子であり、磁性粒子の分散安定性に寄与する。樹脂粒子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
樹脂粒子の材料としては、特に限定されず、公知の樹脂を適宜選択して用いればよい。樹脂粒子の材料としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、セルロース樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエーテル樹脂、シリコーン樹脂、アルキド樹脂などを挙げることができる。
【0063】
アクリル樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのモノマーの単独重合体または共重合体であってもよいし、これらのモノマーの1種以上と、エチレン、スチレンなどのモノマーとの共重合体(例えば、エチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体など)であってもよいし、これらの重合体または共重合体の変性体(例えば、フッ素置換アクリル樹脂)であってもよい。
【0064】
樹脂粒子は、コア-シェル粒子であって、コアおよびシェルが、それぞれ、上述した材料の1種または2種以上からなるコア-シェル粒子であってもよい。
【0065】
樹脂粒子は、例えば、樹脂中のポリマー同士が架橋されていない非架橋樹脂粒子でもよいし、樹脂中のポリマー同士が架橋されている架橋樹脂粒子でもよい。架橋樹脂粒子は、非架橋樹脂粒子よりも耐熱性や耐溶剤性に優れることから、磁気粘弾性流体を適用した装置の摺動などによる熱や分散媒体そのものによって溶融し難く、より安定した磁場発生応力が得られるため好ましい。
【0066】
架橋樹脂粒子は、特に限定されず、公知の架橋樹脂粒子を用いることができる。架橋樹脂粒子としては、例えば、特許文献2に記載の樹脂粒子;国際公開第2015/152187号に記載の有機樹脂粒子(A);特開2010-024289号公報に記載の架橋樹脂粒子;特開2009-235351号公報に記載のエチレン性不飽和モノマーを主体として得られた架橋構造を有する樹脂からなる樹脂粒子、内部架橋したウレタン樹脂からなる樹脂粒子、内部架橋したメラミン樹脂からなる架橋樹脂粒子などの架橋樹脂粒子;特開2009-114392号公報に記載のカルボキシル基含有アクリル樹脂である架橋樹脂粒子;特開平6-025567号公報に記載の内部架橋構造を持つ、アクリル系樹脂微粒子などが挙げられる。
【0067】
一実施形態では、樹脂粒子は、架橋樹脂粒子である。別の実施形態では、樹脂粒子は、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、およびこれらの変性体からなる群より選択される1種以上である。さらに別の実施形態では、樹脂粒子は、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、およびこれらの変性体からなる群より選択される1種以上の架橋樹脂粒子である。
【0068】
一実施形態では、アクリル樹脂は、アクリル酸エステル重合体、メタクリル酸エステル重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、およびこれらの変性体からなる群より選択される1種以上である。
【0069】
樹脂粒子の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されず、適宜調節することができる。一実施形態では、樹脂粒子のMwは、1,000以上、5,000以上、6,000以上、10,000以上、50,000以上、100,000以上、500,000以上または1,000,000以上である。また、別の実施形態では、樹脂粒子のMwは、10,000,000以下、5,000,000以下、3,000,000以下、1,000,000以下、500,000以下、300,000以下、100,000以下または50,000以下である。
【0070】
樹脂粒子の平均粒子径は、例えば、20~1500nmである。一実施形態では、樹脂粒子の平均粒子径は、50nm以上、80nm以上、100nm以上、150nm以上、200nm以上、300nm以上、400nm以上、500nm以上、600nm以上、700nm以上、800nm以上、900nm以上、1000nm以上、1100nm以上、1200nm以上、1300nm以上または1400nm以上である。また、別の実施形態では、樹脂粒子の平均粒子径は、1400nm以下、1300nm以下、1200nm以下、1100nm以下、1000nm以下、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、500nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下または150nm以下である。
【0071】
樹脂粒子の平均粒子径は、20~1500nmの範囲内であればよく、平均粒子径の異なる樹脂粒子を2種以上組み合わせて用いてもよい。例えば、平均粒子径20~200nmの第1の樹脂粒子と、平均粒子径200nmより大きく1500nm以下の第2の樹脂粒子とを組み合わせて用いてもよい。
【0072】
樹脂粒子を配合する場合、樹脂粒子の質量の割合は、例えば、磁気粘弾性流体の合計質量に対して、0.3~20質量%である。一実施形態では、当該割合は、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、10質量%以上または15質量%以上である。また、別の実施形態では、当該割合は、19質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下または1質量%以下である。
【0073】
本発明に係る磁気粘弾性流体の一実施形態では、前記磁気粘弾性流体が、樹脂粒子を含まない。
【0074】
・磁気粘弾性流体の調製方法
磁気粘弾性流体の調製方法は特に限定されず、磁性粒子と、分散媒と、必要に応じてその他の添加剤とを任意の順序で混合して調製することができる。例えば、磁気粘弾性流体の調製方法は、分散媒と磁性粒子とを準備し、磁性粒子に、分散媒を添加して撹拌し、次いで、任意に、分散助剤などのその他の添加剤を添加して撹拌する。
【0075】
本発明に係る磁気粘弾性流体の用途は、特に限定されず、公知のMR流体の用途に使用することができる。磁気粘弾性流体の用途としては、例えば、ロボット、ブレーキ、クラッチ、ダンパ、ショックアブソーバー、制震装置、ハプティクス、力触覚提示装置、医療機器、福祉機器および吸着装置などが挙げられる。
【0076】
(装置)
本発明に係る装置は、ロボット、ブレーキ、クラッチ、ダンパ、ショックアブソーバー、制震装置、ハプティクス、力触覚提示装置、医療機器、福祉機器および吸着装置からなる群より選択される装置に、上記いずれかの磁気粘弾性流体を用いた装置である。これによって、長期間の安定駆動および機構信頼性に優れる。
【実施例0077】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0078】
実施例で用いた材料は以下のとおりである。
・磁性粒子:カルボニル鉄粉、BASF社製の商品名「CIP-SQ」、平均粒子径4.5μm、密度7.87(g/cc)
・分散媒
アジピン酸ジアミド:青木油脂工業社製、商品名「AA PO-20」、アミド基2個、式(2)でLが炭素数4のアルキレン基、Aが炭素数3のアルキレン基、xが20、Rが水素である。密度0.92(g/cc)
コハク酸ジアミド:青木油脂工業社製、商品名「SA PO-20」、アミド基2個、式(2)でLが炭素数2のアルキレン基、Aが炭素数3のアルキレン基、xが20、Rが水素である。密度0.92(g/cc)
コハク酸ジアミド:青木油脂工業社製、商品名「SA PO-4」、アミド基2個、式(2)でLが炭素数2のアルキレン基、Aが炭素数3のアルキレン基、xが4、Rが水素である。密度0.93(g/cc)
・比較分散媒
ポリオキシエチレンオレイルアミド:青木油脂工業社製、商品名「ブラウノン O-15」、アミド基1個、オレイン酸アミドのポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレンの繰り返し数7、密度0.92(g/cc)
コハク酸ジエステル:青木油脂工業社製、商品名「SAES PO-4」、示性式:H(OCOCOCCOO(CO)H、密度0.91(g/cc)
・樹脂粒子:スチレン-アクリル酸共重合体微粒子(架橋樹脂粒子)、日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製の商品名「MG-451」、平均粒子径100nm、密度1.01(g/cc)
【0079】
実施例で用いた装置は以下のとおりである。
3本ロール分散機:EXAKT社製の商品名「50I」
レオメータ:アントンパール社製の商品名「MCR 302」、ダブルギャップ構造MRDセル(磁場測定ユニット)を搭載
【0080】
(実施例1~11および比較例1~4)
表1に示す配合(質量%)で磁性粒子、分散媒、比較分散媒および樹脂粒子を準備した。容器に磁性粒子を充填し、次いで分散媒および比較分散媒のいずれかまたは両方を添加して、均一になるまで簡易に撹拌した。その後、その混合物を3本ロール分散機を用いて、最も開度を狭めた条件で、5回通して分散させて、磁気粘弾性流体または比較MR流体を調製した。
【0081】
【表1】
【0082】
調製した各磁気粘弾性流体または比較MR流体について、以下のように、分散安定性と、流動性と、降伏応力の最大変化量とを測定した。
【0083】
(分散安定性)
磁気粘弾性流体または比較MR流体を調製後、直ちに30mLサンプル管の肩部まで磁気粘弾性流体または比較MR流体を充填し、25℃で静置して貯蔵した。貯蔵後90日における磁気粘弾性流体または比較MR流体について、サンプル管の肩部から、分散媒と磁性粒子とが分離した界面までの距離(分離幅)を測定し、以下の基準で分散安定性を評価した。分離幅が小さいほど、分散安定性に優れる。貯蔵後90日時点で基準A、BまたはCである場合、合格である。
・基準
A:分離は見られない
B:分離幅が5mm以下
C:分離幅が5mm超え10mm以下
D:分離幅が10mm超え
【0084】
(流動性)
容器から2ccの固定化された磁気粘弾性流体または比較MR流体を平板上に取り出し、25℃で5分間静置した。そして、その磁気粘弾性流体または比較MR流体の状態を観察し、以下の基準で評価した。
合格:磁気粘弾性流体または比較MR流体が流動して平坦になった
不合格:磁気粘弾性流体または比較MR流体が初期形状を維持していた
【0085】
(降伏応力の最大変化量)
レオメータに0.6mLの磁気粘弾性流体または比較MR流体を充填し、磁束密度1T(テスラ)の磁場印加条件で、歪み10%、10Hz周波数振動解析を実施した。その磁場印加条件下で発生したせん断降伏応力(Pa)を測定し、以下の基準で評価した。その結果を表1に合わせて示す。
A:せん断降伏応力が20000Pa超え
B:せん断降伏応力が7000Pa超え~20000Pa以下
C:せん断降伏応力が7000Pa以下
【0086】
表1に示したように、本発明によれば、磁性粒子の長期間の分散安定性に優れ、流動性にも優れる磁気粘弾性流体を提供することができた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、磁性粒子の長期間の分散安定性に優れ、流動性にも優れる磁気粘弾性流体を提供することができる。また、本発明によれば、長期間の安定駆動および機構信頼性に優れた装置を提供することができる。