(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047190
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】保全計画支援方法及び保全計画支援装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/20 20230101AFI20230329BHJP
G06Q 50/06 20120101ALI20230329BHJP
【FI】
G06Q10/00 300
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156143
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】樫又 恒一
(72)【発明者】
【氏名】河野 尚幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC06
5L049CC15
(57)【要約】
【課題】原子力プラントの保全計画について、保全実施時期を適切に設定できる保全計画支援方法を提供する。
【解決手段】保全計画支援方法は、原子力プラントの保全計画作成を支援する保全計画支援装置の保全計画支援方法であって、保全計画をする際に、保全周期の延伸の検討を行う機器に対し劣化予測を行う部品を決定する部品決定ステップ(ステップS102)と、決定された部品に対し、劣化トレンドデータ及び保全実施劣化量を決定し、劣化トレンドデータ及び保全実施劣化量に基づき保全周期を提案する周期提案ステップ(ステップS103)と、提案された保全周期が、EPRI(Electric Power Research Institute)のPMBD(Preventive Maintenance Basis Database)で整理されている保全周期と比較する比較ステップ(ステップS104、ステップS802)と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力プラントの保全計画作成を支援する保全計画支援装置の保全計画支援方法であって、
保全計画をする際に、保全周期の延伸の検討を行う機器に対し劣化予測を行う部品を決定する部品決定ステップと、
前記決定された部品に対し、劣化トレンドデータ及び保全実施劣化量を決定し、前記劣化トレンドデータ及び前記保全実施劣化量に基づき保全周期を提案する周期提案ステップと、を有することを特徴とする保全計画支援方法。
【請求項2】
前記保全計画支援方法は、さらに、
前記提案された保全周期が、EPRI(Electric Power Research Institute)のPMBD(Preventive Maintenance Basis Database)で整理されている保全周期と比較する比較ステップを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の保全計画支援方法。
【請求項3】
前記部品決定ステップにおいて、
前記保全周期の延伸の検討を行う機器について保全の項目である部品・部位、劣化メカニズム、劣化の影響を抽出し第1情報とする第1ステップと、
前記保全周期の延伸の検討を行う機器について、EPRI(Electric Power Research Institute)のPMBD(Preventive Maintenance Basis Database)で整理されているFailure Location、Degradation Mechanism、Degradation Influenceを含む項目を抽出し第2情報とする第2ステップと、を有し、
前記第1情報と前記第2情報とを項目ごとに比較し、その比較結果を出力部に出力することで、保全計画を支援する
ことを特徴とする請求項1に記載の保全計画支援方法。
【請求項4】
前記周期提案ステップにおいて、
前記保全実施劣化量の決定を行う際、部品の環境条件、要求性能、材質、形状を含む情報からより信頼性の高い予測を実施可能にする保全実施劣化量を、代表劣化量として選択する
ことを特徴とする請求項1に記載の保全計画支援方法。
【請求項5】
前記周期提案ステップにおいて、
前記決定された部品に使用される高分子材料について、部品劣化の確認に材料の官能基量を赤外分光法にて測定し、これを基準とした劣化の評価を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の保全計画支援方法。
【請求項6】
前記部品決定ステップにおいて、前記保全周期の延伸の検討を行う機器に対し劣化予測を行う部品を決定する際に、機器の保全周期の検討を行ううえで機器を構成する部品に着目し、保全タスクの目的と実施範囲から保全周期に影響を与える部品を特定し、この部品に対して、機器性能低下に寄与する劣化の検討を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の保全計画支援方法。
【請求項7】
前記部品決定ステップにおいて、
前記特定された部品の劣化を検討する際、前記保全タスクと対象機器について検討すべき項目について、EPRI(Electric Power Research Institute)のPMBD(Preventive Maintenance Basis Database)と比較を行いその妥当性確認を行う
ことを特徴とする請求項6に記載の保全計画支援方法。
【請求項8】
原子力プラントの保全計画作成を支援する保全計画支援装置であって、
保全計画をする際に、保全周期の延伸の検討を行う機器に対し劣化予測を行う部品を決定する部品決定部と、
前記決定された部品に対し、劣化トレンドデータ及び保全実施劣化量を決定し、前記劣化トレンドデータ及び前記保全実施劣化量に基づき保全周期を提案する周期提案部と、を有することを特徴とする保全計画支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所における機器の保全周期の延伸計画及び定期検査計画を支援する保全計画支援方法及び保全計画支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における原子力発電所では東日本大震災後、新規性基準により定められた新たな基準により、追加設備の設置を行うこととなり従来計画に比べ運営管理を行う設備が増加した。これにより従来の計画から設備建設コストが増加することとなったため、原子力発電所を管理、運営する事業者にとってこれらの設備の維持コストを削減や設備利用率を高めることが電力の安価な供給に必要となる。
【0003】
原子力発電所の経済性を高める方法の一つとして、保全タスクのコストを低減させる方法がある。保全タスクを低減させることにより人的リソースの削減やプラントの停止を伴う点検の期間を短縮することが可能である。保全タスクの低減として日本国内で一般的に行われている時間基準保全に着目し各種提案されている。時間基準保全とは保全対象である機器の稼働時間や設置からの時間経過を基準とし、規定の時間に達したとき特定の保全タスクを行う手法である。
【0004】
特許文献1では、建設エリアに施工される複数の構成要素からなるプラントの建設工事または更新工事の計画作成を支援するプラントの工事計画支援装置において、過去に実施された工事(以下、過去工事という)の実績データを複数蓄積したデータベース手段と、予定される工事(以下、予定工事という)と同一または類似する、工事対象の型式及び工事部位を入力する入力手段と、入力手段により入力された工事対象の型式及び工事部位に対応する過去工事の実績データをデータベース手段から抽出する実績データ抽出手段と、実績データ抽出手段で抽出された実績データを用いて、予定工事の作業内容とその時系列順が設定された工程計画表を作成する計画作成手段とを備えることが提案されている。
【0005】
特許文献2では、プラント保守作業管理装置が保守作業のスケジュール作成に必要な対象機器に関する情報と、保守作業内容に関する情報と、作業者及び作業機材に関する情報とを含むデータを格納するデータベースと、スケジュール作成上必要最小限の情報を提示してユーザにデータを設定させ、このユーザ設定のデータに基づいてデータベースの情報を取得して作業間の干渉を回避しつつ最適なスケジュールを作成し、必要に応じてメッセージを出力するスケジュール管理支援モジュールと、ワークステーションの入力装置、スクリーン、ハンディーターミナルの少なくとも一つを含む入出力装置と、入出力装置を介して入力されたユーザの命令に基づいてスケジュール管理支援モジュールの命令を実行し、処理結果を入出力装置に出力する情報演算処理装置とを有することが提案されている。
【0006】
特許文献3では、稼動している機器の部品の寿命特性を検出する複数のサイトと、このサイト群とネットワークを介して接続され、サイト群の個々の部品の寿命特性を一括管理する部品寿命管理サーバとを有する部品寿命管理システムであって、部品寿命管理サーバは、サイト群からネットワークを介して送信される各サイトの部品の寿命特性データを受信する受信手段と、この寿命特性データを用いて部品の余寿命を予測する余寿命予測手段と、サイト毎及び部品毎に部品の余寿命を整理し余寿命データベースを記憶する記憶手段と、この余寿命データベースに基づき部品の余寿命状況または交換部品の情報を出力する処理手段と、を備えた部品寿命管理システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-170496号公報
【特許文献2】特開平08-129414号公報
【特許文献3】特開2003-157330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
原子力プラントにおいてリスク情報や機器の劣化に基づいた、より信頼性が高く効率化された保全を提供する必要がある。その手段として、安全性及び経済性の両面で最も効果的なタイミングで保全活動を行うことが考えられる。機器の劣化を把握し、劣化状況に合わせ保全を行うことで安全性を保ったままコストを最小限に抑えことができる。しかし、そのためには保全実施時期を適切に判断し、長期的な計画を作成することが必要である。
【0009】
本発明は、前記の課題を解決するための発明であって、原子力プラントの保全計画について、保全実施時期を適切に設定できる保全計画支援方法及び保全計画支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明の保全計画支援方法は、原子力プラントの保全計画作成を支援する保全計画支援装置の保全計画支援方法であって、保全計画をする際に、保全周期の延伸の検討を行う機器に対し劣化予測を行う部品を決定する部品決定ステップ(例えば、ステップS102)と、前記決定された部品に対し、劣化トレンドデータ及び保全実施劣化量を決定し、前記劣化トレンドデータ及び前記保全実施劣化量に基づき保全周期を提案する周期提案ステップ(例えば、ステップS103)と、を有することを特徴とする。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、原子力プラントの保全計画について、保全実施時期を適切に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る保全計画支援装置の構成を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る保全計画支援処理を示すフローチャートである。
【
図3】保全周期の延伸の検討を行う機器に対し劣化予測を行う部品・部位選定処理を示すフローチャートである。
【
図4】機器の保全周期に影響を与える部品とその劣化メカニズム、機能喪失までの寿命等を抽出、表示例を示す図である。
【
図5】保全周期の延伸検討処理を示すフローチャートである。
【
図6】機器の重要度から機器の保全実施劣化量推奨値の設定処理を示すフローチャートである。
【
図7】機器の保全実施劣化量推奨値の設定イメージを示す図である。
【
図8】PMBDと保全周期の比較による保全重要度のギャップ分析処理を示すフローチャートである。
【
図9】次回定検のコスト的最適化処理を示すフローチャートである。
【
図10】機器性能と相関関係がある物理量の時間変化の例を示す図であり、符号が10Aのグラフは破断伸びの場合、符号が10Bのグラフは官能基量の場合である。
【
図11】本実施形態に係る作業工程最適化支援装置の構成を示す図である。
【
図12】作業工程最適化支援装置による作業計画の作成支援処理を示すフローチャートである。
【
図13】計画実行性の評価結果の表示例を示す図である。
【
図14】作業習熟度の評価結果の表示例を示す図である。
【
図15】作業人数による作業効率の変化例を示す図である。
【
図16】作業人数による作業効率係数決定処理を示すフローチャートである。
【
図17】作業グループごとの作業習熟度評価処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態では、原子力発電所における機器の保全周期の延伸計画及び定期検査計画の支援方法を提案している。まず、本実施形態で使用する用語、特徴等を説明する。
【0014】
<用語の定義等>
劣化とは、機器に要求される機能・性能の低下全般を意味する。例えば最大流量100L/mのポンプに求められている流量が50L/mであるとき、ポンプの性能が100L/mを下回るときは「機能低下」、50L/mを下回るときは「機能喪失」と区別するが、どちらも劣化により発生する。
【0015】
劣化量とは、機器を構成する部品・部位等(以降表記をまとめ「部品」とする)の材料・機械・電気的な物理量の変化が機器の機能・性能の低下と関連付けられるとき、この物理量の測定値あるいは推定値とする。部品は劣化と関連付けられる物理量を複数持つと考えられる。本実施形態では特定環境下での時間的変化による機器性能の変化と、特定環境下での時間的変化と劣化量の変化を明らかにすることで代表的な物理量の変化による劣化を予測する。ここで使用する劣化量を代表劣化量と呼ぶ。
【0016】
劣化トレンドデータとは、時間による代表劣化量の変化を表すデータである。この劣化トレンドデータは機器の部品・部位の環境条件によりそれぞれ作成される。現在から代表劣化量が機能喪失または保全タスクが必要であると判断される劣化量となるまでの時間を機器の余寿命と呼ぶ。
【0017】
代表劣化量や劣化トレンドデータは、実機測定データや環境試験データ等を根拠として作成される。劣化トレンドデータの作成に用いる代表劣化量により劣化予測の精度が変化する。測定精度の高い測定値や実験値を利用や部品劣化との相関性が高い劣化量を利用することでより精度高い劣化トレンドデータを作成することができる。このため代表劣化量は、測定値の精度が高く、測定方法が簡便でデータの収集が容易であることが望ましい。
【0018】
(特徴)
本実施形態では機器の機能が喪失した場合のリスクの観点から、機能要求を満たした状態を維持するための保全周期として劣化量しきい値を設定する。リスクの観点は大きく分けると安全性に係るリスク、経済性に係るリスクがある。原子力発電所の場合、通常これらリスクを考慮し、機器の重要度分類がされている。
【0019】
保全計画支援装置は、機器の重要度分類、劣化トレンドデータの特性、保全タスクのコスト評価、等に基づき保全タスク実施の適切なタイミングを、劣化トレンドデータを基準とし保全実施劣化量を設定する。劣化トレンドデータの特性では、劣化量の変化カーブや分解能、最小検出可能劣化量等を考慮し、機器機能・性能の限界値に対する裕度が設定される。
【0020】
保全タスクのコスト評価では、対象部位の保全を実施する際のコストを比較する。例えば、保全計画支援装置は、ある部品の保全タスクが複数種類から選択可能な場合、時間基準保全と事後保全のコストを比較する等により、よりコストが低くなる手法を選択し、その手法の適応可能な劣化量の限界値等も考慮し、劣化トレンドデータから劣化量しきい値として設定する。
【0021】
保全計画支援装置は、劣化トレンドデータの特性や保全コストを考慮し、保全タスクを実施するタイミングを劣化量しきい値として適切に設定し、実施することで安全性を担保し、保全コスト抑える効果が期待できる。
【0022】
<保全計画支援装置>
図1は、本実施形態に係る保全計画支援装置100の構成を示す図である。保全計画支援装置100は、処理部110、記憶部120、入力部130、出力部140、通信部150を有する。処理部110は、保全周期の延伸を検討する保全周期延伸部111、EPRI(Electric Power Research Institute)のPMBD(Preventive Maintenance Basis Database)と保全周期の比較による保全重要度ギャップ分析部112を有する。保全周期延伸部111には、保全計画をする際に、保全周期の延伸の検討を行う機器に対し劣化予測を行う部品を決定する部品決定処理部111Aと、決定された部品に対し、劣化トレンドデータ及び保全実施劣化量を決定し、劣化トレンドデータ及び前記保全実施劣化量に基づき保全周期を提案する周期提案処理部111B等を有する。記憶部120には、機器の劣化分析121、保全タスクの一覧122、機器の保全実施劣化量設定情報123、処理部出力情報124等が記憶されている。
【0023】
なお、EPRIとは米国の電力研究所である。PMBD(Preventive Maintenance Basis Database(予防保全基準データベース))とは、EPRIの下で特定の機器ごとに作成されたPM(予防保全)テンプレートを集約したデータベースである。
【0024】
図1において、処理部110は、中央演算処理装置(CPU)であり、RAMやHDD等に格納される各種プログラムを実行する。記憶部120は、HDDであり、保全計画支援装置100が処理を実行するための各種データを保存する。入力部130は、キーボードやマウス等のコンピュータに指示を入力するための装置であり、プログラム起動等の指示を入力する。出力部140は、ディスプレイ等であり、保全計画支援装置100による処理の実行状況や実行結果等を表示する。通信部150は、ネットワークNWを介して、他の装置と各種データやコマンドを交換する。
【0025】
また、保全計画支援装置100は、外部記憶装置のデータベース装置200を有する。データベース装置200には、劣化関連DB210、機器重要度関連DB220、規制関連DB230、保全タスク関連DB240、EPRI PMBD関連DB250等を有する。なお、DBはデータベースを意味する。
【0026】
各DBに格納されるデータについて説明する。
劣化関連DB210に格納されている劣化関連データとは、機器や部品の劣化特性を示すデータ(劣化の影響、劣化事象と使用環境、劣化の検出方法、劣化の是正方法)保全・故障の実績(As-foundデータ)、劣化試験データ、PMBD(Preventive Maintenance Basis Database)等、機器の劣化に関連するデータである。
【0027】
機器重要度関連DB220に格納されている機器重要度関連データとは、原子力発電所における機器の保全重要度分類、安全性・経済性の重要度、機器の要求機能データ等機器の重要度に関連するデータである。
【0028】
規制関連DB230に格納されている規制関連データとは、国内の規制要求に関するデータである。
【0029】
保全タスク関連DB240に格納されている保全タスク関連データとは、保全対象機器、機器の保全周期根拠、保全タスク、保全タスクに関わる付帯作業、これら作業実施の必要リソースやコスト情報等である。
【0030】
EPRI PMBD関連DB250に格納されているデータとは、保全に関する情報(Criticality、Duty Cycle、Service Conditions、Task(保全方法)、Baseline(保全周期)、Failure Mode(故障モード))等を国内の保全対象機器と比較を行うために抽出されたデータである。
【0031】
<全体の処理フロー>
図2は、本実施形態に係る保全計画支援処理S100を示すフローチャートである。なお、保全計画支援処理S100には、定検計画最適化支援処理を含む(詳細は
図12を参照し後記する)。
【0032】
ステップS101において、処理部110は、
図1の保全計画支援装置100及び
図11で示す作業工程最適化支援装置WPOに格納されているデータベースの構築を行う。
【0033】
ステップS102において、処理部110は、保全の延伸検討を行う機器に対し劣化予測を行う機器の部品・部位を選定する。詳細は
図3、
図4を参照して後記する。
【0034】
ステップS103において、処理部110は、ステップS102にて選定した部品に対する劣化予測と寿命延伸を行う。部品の劣化量を予測することで新たに部品の寿命延伸が可能であるか検討を行う。部品の寿命が延伸されることで機器保全タスクの実施を延伸することが可能となり、より効果的なタイミングで保全タスクを実施することができるようになる。詳細は
図5~
図7を参照して後記する。
【0035】
ステップS104において、処理部110は、延伸された保全周期はリスクの観点から許容範囲内か検討を行う。詳細は
図8を参照して後記する。ステップS104で、延伸後の保全周期の安全性と経済性のリスクが許容範囲内でない場合(ステップS104;No)、ステップS103に戻り、延伸後の保全周期の安全性と経済性のリスクが許容範囲内である場合(ステップS104;Yes)、ステップS105に進む。
【0036】
ステップS105において、処理部110は、許容範囲と判断された保全周期を適応し、定検計画の最適化を行う。詳細は
図9を参照して後記する。
【0037】
ステップS106において、作業工程最適化支援装置WPO(
図11参照)は、最適化された定検計画は実施可能か検討を行う。詳細は
図11~
図17を参照して後記する。
【0038】
定検計画が実施可能と判断されたとき(ステップS106;Yes)、ステップS107に進み、定検計画が実施可能と判断されないとき、ステップS105に戻る。
【0039】
ステップS107において、処理部110は、定検を実施し、各種実績データの収集とそれらデータのフィードバックを行い、次回以降の定検計画の改善に役立てる。
【0040】
計画された保全の実施時に実際の作業時間の計装や保全対象部品の各種劣化量の取得等保全実績となるデータの取得を行う。取得対象とする機器や部品の選択を支援のため、データベースよりデータの取得方法や所要時間等を表示して実施を支援する。これらにより取得したデータをデータベースへ格納し、次回以降の保全周期の延伸検討や定検計画の作成・検討にフィードバックする。そして、ステップS101に戻る。
【0041】
次に主要なステップの詳細について説明する。
<ステップS102の詳細>
図3は、保全周期の延伸の検討を行う機器に対し劣化予測を行う部品選定処理S300を示すフローチャートである。
図3は
図2のステップS102の詳細である。
図3において、左側の列は、保全計画支援装置100の処理であり、右側の列は、保全計画者(検討者)の処理である。
【0042】
部品選定処理S300は、機器の保全周期延伸のため、機器がどの様な劣化に基づいて保全周期が決められているのか分析を行う。機器の保全周期は機器に要求される機能・性能が維持できるように設定されている。機器を構成する部品単位で考えると機器の役割に基づき最も脆い部品を基準とし機器の保全周期が定められていると考えることができる。
【0043】
ステップS301では、保全を行う電力事業者やメーカ等の保全計画者が保全周期の延伸検討を行う機器を決定する。
ステップS302では、保全計画支援装置100は、データベースより選定された機器(対象機器)の部品単位での劣化関連データを抽出する。
ステップS303では、保全計画支援装置100は、抽出された部品の中で、機器の保全周期に影響を与える部品とその劣化メカニズム、機能喪失までの寿命等を抽出し、抽出結果と、部品に対応する保全タスクを
図4のように表示する。
【0044】
図4は、機器の保全周期に影響を与える部品とその劣化メカニズム、機能喪失までの寿命等を抽出、表示例を示す図である。
図4は、原子力プラントに使用される機器として台数や種類も多く存在する弁からボール弁の例を示している。保全計画支援装置100によりデータベース装置200からボール弁の劣化関連データが抽出され、保全周期に影響を与える部品とその劣化メカニズム、機能喪失までの寿命等を、出力部140に表示する。
【0045】
これにより、保全計画者は、機能喪失までの寿命が短い部品の寿命が延伸されることで従来の保全周期延伸の検討を行うことができる。
【0046】
図3に戻り、ステップS304では、保全計画者は、ステップS303にて情報に不足があると判断された場合、機器の設計データ等から部品に関する情報を追加する。
【0047】
ステップS305では、保全計画支援装置100は、ステップS303にて抽出した情報とPMBDより抽出した劣化モード情報の比較を実施し出力する。検討すべき部品とその劣化メカニズム、劣化の影響をPMBDのFailure Modesと比較する。抽出された機器の検討範囲に差異がないかを対象機器の境界(Component Boundary)にて確認する。さらに機器に対して劣化モードが示されている、部品(Failure Location)、劣化メカニズム(Degradation Mechanism)、劣化の影響(Degradation Influence )を比較する。
【0048】
ステップS306では、保全計画者は、比較の結果から考慮すべき部品、劣化モードに抜け漏れないか検討を行う。抜け漏れがある場合(ステップS306;No)、考慮すべき項目か検討し、必要であればステップS304に戻り機器の設計データやPMBD等を参考とし、部品の劣化影響や劣化モードについてデータの取得や補充を行う。また、PMBD機器の保全タスク(Tasks)からタスク目的(Task Objective)、タスク内容(Task Content)が保全周期延伸対象機器の保全タスクと比較を行い保全タスクによる目的と範囲に差異がないか確認を行う。差異がある場合は考慮する必要があるかどうか判断する。比較の結果抜け漏れがないと判断されたとき(ステップS306;Yes)、ステップS307へ進む。
【0049】
ステップS307では、保全計画支援装置100は、各部品の寿命が延伸されることで延伸可能な保全周期とそれを適応する場合のコスト低減量を、出力部140に表示する。
【0050】
ステップS308では、保全計画者は、寿命が延伸されることが保全コストの削減に有効であるか検討する。機器は通常複数の部品の組み合わせからなるため、例えばある保全周期の延伸目標を決める。保全計画者は、部品Aの寿命延伸が保全周期の延伸に資するか、コスト低減に有効か判断する。部品Aの寿命を延ばし、さらに部品Bも含め寿命を延伸することでよりコスト低減に有効か等を判断する。また、保全計画者は、検討のコストを考慮し、余寿命の延伸検討を行う部品を決定する。
【0051】
ステップS309では、保全計画支援装置100は、延伸後の保全周期が国内の規制要求を満たすか確認する。コスト的に有効な周期延伸を行うと明らかに規制要求等を超えてしまう場合は検討を行わない。
【0052】
ステップS310では、保全計画者は、劣化予測及び寿命延伸検討を行う部品を決定する。すなわち、寿命延伸により保全タスクの延伸が期待できる機器部品が選ばれているため、保全計画者は、この部品の寿命延伸検討を行うことに決定することができる。
【0053】
<ステップS103の詳細>
図5は、保全周期の延伸検討処理S500を示すフローチャートである。
図5は
図2のステップS103の詳細である。
図5において、左側の列は、保全計画支援装置100の処理であり、右側の列は、保全計画者(検討者)の処理である。
【0054】
機器・部品の故障・機能低下には様々な環境的要因があり、これらが時間の経過とともに劣化として蓄積していくことが一般的である。また、その要因は複数からなると考えられる。この劣化要因の劣化量を予測することでより精度の高い保全周期を提案することができる。劣化量とは、部品の材料・機械・電気的劣化等に起因する測定値または推測値を示す。このような劣化量の時間的変化に関する特性は、事前の劣化試験やシミュレーション、実機計測に基づいて特定、収集され、データベースへ格納される。
【0055】
ステップS501では、保全計画者は、余寿命延伸検討を行う部品を決定する。ここでは原則として
図3のステップS310にて決定した部品を検討対象とする。
【0056】
ステップS502では、保全計画支援装置100は、データベースより対象部品の劣化関連データ(部品の劣化メカニズム、劣化検知方法、劣化試験データ、故障実績データ等)を抽出する。
【0057】
ステップS503では、保全計画支援装置100は、データベースより対象部品の劣化予測に利用可能な劣化量、また形状、材質等の特性が類似する部品の劣化量を出力部140に表示する。
【0058】
ステップS504では、保全計画者は、劣化予測を行う部品に対し劣化予測を行う代表劣化量を決定する。劣化との相関性が高い、現場での簡便な計測・記録が可能、劣化量の変化が時間に対して線形等で予測が容易か等の劣化予測をより高い精度で行える劣化量を代表劣化量として選択する。なお、この時選択する代表劣化量は1種類でなくてもよい。また、保全計画支援装置100は、データベースから対象部品の機器の種類、材質、形状、環境条件、要求性能等から類似した条件の劣化トレンドデータを参照し精度の高い代表劣化量の選択を支援する。
【0059】
ステップS505では、保全計画支援装置100は、実機測定データ、試験データ、環境条件等から、選択した代表劣化量から時間変化による劣化量変化の関係を予測した劣化トレンドデータを作成する。すなわち、保全計画支援装置100は、劣化トレンドデータは劣化試験データ(EQ試験データ)、現場測定データ(As-Foundデータ)等を基準とし、代表劣化量の変化特性や機器の環境条件により劣化トレンドデータを作成する。
【0060】
ステップS506では、保全計画者は、劣化トレンドデータの確認を行い、データの補正、マージン管理等を行い、劣化トレンドデータを決定する。
【0061】
ステップS507では、保全計画支援装置100は、機器の重要度より保全実施劣化量の推奨値を作成し、出力部104に表示し、保全周期を提案する。
【0062】
作成した劣化トレンドデータにより当該部品ごとの時間的変化による劣化予測を行うことができる。ここで部品の重要度を考慮し劣化量が規定値に達したとき保全タスクを行うことが望ましいとする保全実施劣化量を作成する。部品の重要度とは、安全性に係る重要度と経済性に係る重要度がある。例えば安全性に係る重要度は当該部品の位置する機器の安全性に寄与する重要度や劣化量の検出精度・確認頻度により評価される。また、経済性重要度は、当該部品の保全に係るタスク実施に掛かるコスト、部品の劣化による機器の機能喪失が発電量に与える影響等により評価される。これらを考慮し安全性が担保された状態でより経済性の最も良くなる保全実施劣化量を定める。これにより機器部品の寿命が延伸される場合、機器の保全タスク実施周期を延伸する。
【0063】
図6は、機器の重要度から機器の保全実施劣化量推奨値の設定処理S600を示すフローチャートである。
図7は、機器の保全実施劣化量推奨値の設定イメージを示す図である。
【0064】
図6において、保全計画支援装置100は、機器の安全重要度は高いか否かを判定し(ステップS601)、機器の安全重要度が高い場合(ステップS601;Yes)、機器要求機能が低下する劣化量から安全マージンを取り保全実施劣化量を設定し(ステップS602)、処理を終了する。一方、機器の安全重要度が高くない場合(ステップS601,No)、ステップS603へ進む。
【0065】
保全計画支援装置100は、機器機能の低下や喪失が経済性の低下へ影響するか否かを判定し(ステップS603)、経済性の低下へ影響する場合(ステップS603;Yes)、経済性への影響量と保全タスクのコストを考慮し、適切な保全実施劣化量を設定し(ステップS604)、処理を終了する。一方、経済性の低下へ影響しない場合(ステップS603;No)、ステップS605に進む。ステップS605において、保全計画支援装置100は、機能喪失が予想される劣化量を保全実施劣化量に設定し、処理を終了する。
【0066】
図7を参照すると、ステップS602の設定は、安全重要機能に係る機器のため、計測(予測)裕度(マージン)を持って保全すること(〇参照)を意味し、ステップS604の設定は、故障や機能低下の前に保全すること(△参照)を意味し、ステップS605の設定は、故障を確認してから保全すること(□参照)を意味する。
【0067】
図5に戻り、ステップS508では、保全計画者は、表示された推奨値を参考にして保全実施劣化量、保全周期を決定する。
【0068】
ステップS509では、保全計画支援装置100は、決定された保全実施劣化量に到達するまでの時間を部品の余寿命に設定しデータベースに格納する。
【0069】
<ステップS104の詳細>
図8は、PMBDと保全周期の比較による保全重要度のギャップ分析処理S800を示すフローチャートである。
図8は
図2のステップS104の詳細である。ステップS104は、保全計画支援装置100は、延伸後の保全周期の安全性と経済性のリスクは許容範囲内かを判定している。設定した保全実施劣化量により延伸された保全周期が国内規制要求を満たすか確認を行う。規制要求を逸脱していた場合、規制要求内で実施可能な範囲で保全周期を延伸する。また、周期延伸について従来の保全周期との違いについて説明性確認を行う。説明性が十分でない場合、不十分であった項目・要素について情報の取得が可能か検討する。取得可能であれば情報の取得を行い保全周期の延伸を行う。
【0070】
ステップS801では、保全計画支援装置100の保全重要度ギャップ分析部112(
図1参照)は、対象機器・部品情報を抽出する。すなわち、保全重要度ギャップ分析部112は、保全周期延伸を行った機器と同じ種類の機器について保全タスクの種類、保全タスクの実施周期、タスク目的を抽出する。
【0071】
ステップS802では、保全重要度ギャップ分析部112は、延伸された保全タスクとその周期について、PMBDとの比較を行う。劣化トレンドデータを作成した際の環境条件、保全タスクの内容と目的を抽出しPMBDとの比較を行う。PMBDのTasksからタスク目的(Task Objective)、タスク内容(Task Content)、機器の環境(運用)条件の8パターンの分類Criticality(Critical/Non- Critical)、Duty Cycle(HI/LO)、Service Conditions(Severe/Mild)とこれに定められている保全周期を抽出し比較を行う。
【0072】
なお、PM(予防保全)テンプレートでは、CriticalityがCriticalとNon-Criticalに、Duty CycleがHighとLowに、Service ConditionsがSevereとMildにそれぞれ分かれており、この3項目の組合せにより8パターンが分類されている。
【0073】
ステップS803では、保全重要度ギャップ分析部112は、比較した保全周期が、国内≧米国であるか否かを判定し、国内≧米国である場合(ステップS803;Yes)、ステップS804に進み、国内<米国である場合(ステップS803;No)、ステップS805に進む。すなわち、保全周期比較結果から安全性・経済性重要度について再評価を行う。
【0074】
ステップS804では、国内の保全周期が米国の保全周期より長い場合(国内≧米国)、当該機器の安全性の重要度の考え方が異なることが考えられる。保全重要度ギャップ分析部112は、当該機器について国内と米国でどの様な安全性に係る役割、安全マージンの考え方等安全性の差についてギャップ分析を行い、保全実施劣化量の設定が最適であったかを検討し、ステップS806において、より安全性に担保された保全周期になるよう再定義を行う。
【0075】
ステップS805では、国内の保全周期が米国より短い場合(国内<米国)、当該機器の経済性の重要度の考え方が異なることが考えられる。当該機器の導入・運用コスト、保全コスト、発電リスク等プラントの経済性に係る考え方の差についてギャップ分析を行い、保全実施劣化量の設定が最適であったかを検討し、ステップS806において、より経済性に優れた保全周期になるよう再定義を行う。
【0076】
<ステップS105の詳細>
図9は、次回定検のコスト的最適化処理S900を示すフローチャートである。
図9は
図2のステップS105の詳細である。ステップS105において、定検計画のシミュレーションと最適化を行う。
【0077】
再定義された機器の保全周期からより効果的に保全の経済性向上を行うためには、それぞれのタスク周期延伸のみならずリソースを効率よく運用するための実施計画の作成が必要である。日本国内の原子力発電所の場合、約1年に1度、定期検査(定検)として原子炉を停止し点検を行うことが定められている。この定検をベースとして原子炉停止中の設備点検計画を適切に立てることで原子力発電所の発電停止期間を最小限にし、設備利用率を高めることが求められている。また、保全タスクを実施する際に系統の隔離作業や高所作業用の足場設置等の付帯作業が発生する場合があり、これらは保全タスクに比べても十分な工数を要する場合がある。これらを適切に調整、計画することで発電所保全コストの全体最適化を行うことができる。
【0078】
例えば、同一エリアにあり、保全タスクの実施に高所作業用足場が必要である機器A,Bがあり、それぞれ保全タスク実施周期が5年と6年であったとする。このとき機器Bの保全タスク実施周期を6年から5年にすることで増加するコストと高所作業用足場の設置回数の減少により減少するコストを長期的に見積り、よりコストの少ない方法を選択することで保全に掛かる全体コストを最適化することができる。しかし、このような部分的調整により発電停止期間等にも影響が出ることも考えられる。全体最適化を目指すとき考慮すべき項目は膨大なものとなり人力での最適化は高度な熟練度を持った専門家の多大な労力を必要とする作業になってしまう。このため各項目のデータベースでの整理と最適化処理を装置により支援することで計画作成工数の削減も期待できる。
【0079】
まず、ステップS901では、処理部110(
図1参照)は、保全対象機器とその保全タスク関連情報を抽出する。保全対象機器とは保全周期により次回定検にて点検が必要と判断されている機器である。また、保全タスク関連情報とは、保全タスクや付帯作業の前後関係、作業に必要な時間、必要なリソース、それらのコスト情報である。
【0080】
ステップS902では、処理部110は、抽出した保全タスク情報より仮工程を作成しこれに掛かる時間をプラントの停止期間とし予測する。ここで予測されたプラント停止期間は後にコスト評価を行う際の基準とする時間となる。
【0081】
ステップS903では、処理部110は、仮工程に対し各保全タスクのコストを計算する。各保全タスクのコストとは、保全タスクの実施コストと付帯作業に掛かるコストを合わせてのものである。同一の作業が複数の保全タスクに寄与する付帯作業の場合それらを考慮し各保全タスクのコストとして振り分ける。
【0082】
ステップS904では、処理部110は、ステップS902にて仮工程から実施予定の保全タスクと同一の付帯作業を伴う保全タスクを抽出する。
【0083】
ステップS905では、処理部110は、前記した例のような保全タスクの周期を早めに実施した際(前倒しで行った際)のコストの増減をシミュレーションする。コスト増減は次回以降定検での付帯作業削減によるコストの減少、消耗部品等の交換を保全周期より早く実施したことによるコストの増加、また、作業リソースの増減、プラント停止期間の増減による設備利用率(発電量)の増減等を考慮し、長期的なシミュレーションを行うことにより保全タスクの実施時期によるコストの比較を行う。また、保全タスクの周期を延伸することで他の保全タスクや付帯作業の実施にコスト減少の見込まれる影響を与える保全タスクを保全周期延伸検討候補としてシミュレーション結果から抽出する機能を持つ。
【0084】
ステップS906では、処理部110は、シミュレーション結果から保全タスクの実施を次回定検に早めることで長期的にコストの低減が図れる保全タスクを抽出する。
【0085】
<ステップS106の詳細>
図11は、本実施形態に係る作業工程最適化支援装置WPOの構成を示す図である。
図12は、作業工程最適化支援装置WPOによる作業計画の作成支援処理を示すフローチャートである。
図12は
図2のステップS106の詳細である。ステップS106において、最適化された定検計画は実施可能か否かを検討する。すなわち、最適化された保全タスクの実行計画を工程化し、工程作成者の入力した想定されるリソースと期間で実施可能か支援装置によるレビューを行う。実行性評価から実施可能か判断する。
【0086】
図11は、本実施形態に係る作業工程最適化支援装置WPOの構成を示す図である。作業工程最適化支援装置WPOは、処理部10、記憶部20、入力部30、出力部40、通信部50を有する。処理部10は、作業工程最適化部11、作業計画評価部12を有する。作業計画評価部12は、作業時間に関する評価、被ばくに関する評価、作業計画の懸案項目の抽出、作業計画と作業実績との比較等の機能を有する。記憶部20には、被ばく管理情報21、工程進捗状況22、リソース情報23、作業者の作業習熟度24、処理部出力情報25等が記憶されている。
【0087】
また、作業工程最適化支援装置WPOは、外部記憶装置のデータベース装置60を有する。データベース装置60には、作業の基本情報DB61、プラント環境情報DB62、点検実績情報DB63、作業者情報DB64、リアルタイム更新情報DB65、新たな知見や対策等情報DB66等を有する。
【0088】
各DBに格納される情報について説明する。
作業の基本情報DB61は、作業を行うための条件、手順、必要リソース、他作業との前後関係を含む作業を実施するための必要情報のDBである。プラント環境情報DB62は、点検を実施する際の作業区域の躯体情報、3D-CAD情報、線量分布情報、及び作業中足場情報を含む作業者の作業環境に関する情報のDBである。点検実績情報DB63は、過去に実施された原子力プラント等の点検時における作業工程、作業ごとの詳細計画(作業手順)、作業内容、作業時間、作業人数、作業者の作業習熟度情報、作業者被ばく情報及び作業実施結果情報を含む情報のDBである。
【0089】
作業者情報DB64は、点検作業に従事する作業者個人及びグループの作業経験情報、教育・トレーニングの実績情報、放射線管理情報及び資格等の取得情報を含む作業者の技能と被ばくに関する情報のDBである。リアルタイム更新情報DB65は、進行中の点検における作業進捗情報及び作業者被ばく情報を含む進行中作業に係る情報のDBである。新たな知見や対策等情報DB66は、点検方法の改善技術や方法を含む過去の実績以外から得られる改善に関わる情報のDBである。
【0090】
処理部10について説明する。
作業工程最適化部11は、工程作成に係る各作業の条件を指定することで作業の基本情報、プラント環境情報、作業者情報、点検実績情報を含むDBから入力条件を満たすように作業工程の自動作成を行う機能を有する。
【0091】
作業計画評価部12は、作成された工程からDBの情報より作業完了時間、作業者の被ばく量の予測を行う。また、作業計画評価部12は、作業計画と作業実績の比較部にて作業の計画と過去実績データの比較結果を表示する機能を有する。ここで比較結果により差異が大きいと判断される項目を改善項目として表示する作業計画の改善項目提案機能を有する。さらに、作業計画評価部12は、シミュレーションを行うための作業手順や作業場所の躯体データ、過去の同一作業及び類似作業の実績情報を含む関係情報を表示参照できる機能を有する。
【0092】
次に、作業工程最適化支援装置WPOによる定期検査の点検計画、点検工程の作成の支援を、
図12の定検計画支援処理S230のフローチャートを用いて、さらに詳細に説明する。適宜
図11を参照する。
図12において、左側の列は、作業工程最適化支援装置WPOの処理であり、右側の列は、工程作成者の処理である。
【0093】
<詳細例1:定期検査計画の支援>
(ステップS200~ステップS202)
工程作成者は、次回定期検査時に実施される保全項目を決定する。その後保全項目の実施に必要な作業項目を確定する。
【0094】
国内原子力発電所の定期点検では保全実施の対象となる設備・機器はそれらに設定されている保全周期に基づいて保全タスクの実施時期が決められる。この保全周期は設備・機器の種類、設置環境、機能等によりさまざまであり適切な周期内での実施が必要である。
【0095】
この作業周期ごとにそれぞれの設備・機器の保全を行うことが保全タスクの実施において最も効率的だが、作業足場の設営や大型重機の使用等点検を行う際に工数が大きい準備作業が必要な箇所の点検においてはその都度準備を行うことでコストや時間が多く掛かってしまう。複数回にわたる原子力発電所の定期点検を考えるにあたり特定の準備作業が必要な作業について作業の実施時期を適切に調整することは、定期点検期間の短縮及び作業者の被ばく低減において有効となる場合がある。作業工程最適化支援装置WPOは、作業実施時期の適切な選定を支援する。
【0096】
作業工程最適化支援装置WPOは、データベース(DB)より作業準備について共通の項目を有し、関係する作業エリアにて行われる作業を抽出し整理する。これら作業の実施履歴と点検周期を抽出し整理する。作業の準備について共通の項目かつ関係作業エリアで実施される作業に対し、準備内容、作業エリア、保全周期、これら作業の前後関係等の情報を出力部40の表示装置に表示する。この情報により各作業について共通の準備作業が必要な保全タスクが明確となり、準備作業に掛かるコストと保全タスクコストとその周期から最適な実施時期の検討を支援する。この情報により次回定検にて実施する作業を決定することができる。
【0097】
(ステップS203)
工程作成者は、現場作業情報の測定・収集を行う。作業者が作業準備を行うエリア、移動経路、作業を行うエリアの躯体情報及び設置される足場情報等の情報を整理する。作業手順の検討、危険予測や被ばく量の推定に使用されるため、必要に応じ3D-CAD等3次元データの取得やガンマスキャン等による線量分布等の情報を取得する。この情報をプラント環境情報DB62に整備し、これらの情報に更新がないか確認を行う。
【0098】
(ステップS204)
工程作成者は、保全実績データを収集する。これは過去に行った保全の実績データすなわち、過去の保全計画、実績データ及び改善に資する分析データ等の情報等である。この情報を保全実績情報、新たな知見や対策等情報DB66へ整備し、これらの情報に更新がないか確認を行う。
【0099】
(ステップS205、ステップ206)
工程作成者は、確定した実施作業から各作業実施条件を入力する(ステップ205)。過去実績から機器スペックや手法の改善による作業効率の大幅な向上等を見込む場合は以後の評価、レビューで参照ができるようこれら情報を入力し、必要に応じ作業の基本情報DB61へ格納し整理する。
【0100】
作業工程最適化支援装置WPOは、入力された情報とデータベースの情報を基にして、全体工程を作成する。このとき、各作業の作業必要人数、作業必要時間、被ばく量予想を過去実績データ等から参照可能なように、作業工程最適化支援装置WPOは、工程作成者の入力を支援する。
【0101】
その後、作業工程最適化支援装置WPOは、各作業実施における制約や前後関係の整理、クリティカルパスを作成、その他作業を、クリティカルパスを基準として作業人数の平準化に着目してスケジューリングを行い、作業工程が作成される(ステップ206)。
【0102】
作業人数の平準化とは、定期検査(定検)の実施にあたり作業の進行に必要な最低作業人数の工程の進行による変化を少なくすること、すなわちピーク作業人数とボトム作業人数の差を可能な限り抑えることである。作業工程最適化支援装置WPOは、全体工程に対して必要作業人数の変化をグラフ等で視覚化し作業人数のピークから実施時期を前後に移動可能か検討を行うための情報を支援する。この支援のために全体工程の時間的スケジュールと必要作業人数を示す図表及び各作業の制約と前後関係を、出力部40の表示装置により表示する。作業人数ピークを平準化することで定期検査期間中の余剰リソースを減少させる効果が期待できる。
【0103】
(ステップS207)
工程作成者は、作業工程を基に作業に必要となる人員を確保する。確保した作業人数の個人データを集める。個人データとは作業者個人の作業実績、資格、教育・トレーニング記録及び放射線管理情報を含む情報を作業者情報DB64へ整備する(作業人数の確保及び作業者の個人データの収集)。
【0104】
(ステップS208)
作業工程最適化支援装置WPOは、各作業計画のレビューに必要なデータとして作業番号、作業内容、作業手順、作業必要人数、作業必要時間、被ばく量予測、作業エリア、作業に必要な特殊技能、作業に必要な機器、作業に必要な道具等の情報を抽出する(作業計画レビューに必要な情報を抽出)。
【0105】
(ステップS209)
作業工程最適化支援装置WPOは、抽出した情報より各作業項目単位で作業計画の評価を行う。各作業計画の評価(レビュー)は作業項目単位で推定作業完了時間、推定被ばく量によって評価される。作業工程最適化支援装置WPOは、全体工程作成時の作業時間、推定被ばく量と比較を行い、ギャップとその原因が懸案項目として
図13、
図14のアウトプットイメージのように推定作業完了時間、推定被ばく量を出力し作業計画のレビューを支援する。レビューの支援で予測される推定作業時間Tは、(2)式のように算出される。
【0106】
W=T′×α′×β′ ・・・(1)
T=W/(α×β) ・・・(2)
X=T×I ・・・(3)
ここで、過去データを基にした仕事量をW、過去実績作業時間をT′(H)、過去実績作業人数による作業効率係数をα′、過去作業者の作業習熟度係数をβ′、推定作業時間をT(H)、計画時の作業人数による作業効率係数をα、計画時の作業熟練度係数をβ、作業終了時作業者の推定被ばく線量をX(Sv)、作業空間の単位時間あたりの線量をI(Sv)とする。
【0107】
作業工程最適化支援装置WPOは、(1)式より過去データを基に各作業番号単位で仕事量Wを算出する。より詳細なデータがある場合、手順番号単位で仕事量を算出する。作業工程最適化支援装置WPOは、(2)式より仕事量を基にして推定作業時間Tを算出し、(3)式より推定作業時間から推定被ばく量Xを算出する。
【0108】
作業工程最適化支援装置WPOは、作業者以外のリソース(重機等)によって作業時間が大きく変わる作業は作業項目を作成し、別途シミュレーション等で推定作業時間を評価する。
【0109】
推定作業時間算出の際、作業人数による作業効率の変化を考慮する。仕事量の算出に用いた過去データから作業人数に変化がある場合、作業人数増減が作業の生産性へ与える影響を作業効率係数α,α′として考慮する。また、作業習熟度は作業グループごとに作業に必要な技能を評価し、生産性へ与える影響を作業習熟度係数β,β′として考慮する。
【0110】
作業人数による作業効率係数の変化と作業習熟度係数は、作業の性質を考慮する必要があるため
図15、
図16、
図17を参照して説明する。
【0111】
図15は、作業人数による作業効率の変化例を示す図である。適宜
図11を参照して説明する。
図15に示すように作業のタイプにより作業人数の増加による作業効率の変化の仕方はそれぞれ異なる場合がある。
図15の符号15Aのグラフの場合は、作業人数の増加とともに、作業効率があがる場合である。
図15の符号15Bのグラフの場合は、作業人数の増加とともに作業効率があがるが飽和する場合である。
図15の符号15Cのグラフの場合は、作業人数の増加とともに、作業効率がステップ状にあがる場合である。
【0112】
図15に示す作業効率に基づく作業効率係数の例を表1に示す。表1の左側は、
図15の符号15Aのグラフに対応し、表1の右側は、
図15の符号15Cのグラフに対応する。
【表1】
【0113】
図16は、作業人数による作業効率係数決定処理S400を示すフローチャートである。適宜
図11、
図15を参照して説明する。
作業工程最適化支援装置WPOの処理部10は、評価する作業の効率が作業人数の変化によりどの様に変化するか検討しモデルを設定する(ステップS401)。この作業人数と作業効率の変化モデルの検討において、作業工程最適化支援装置WPOがデータベースに十分な情報を持つとき過去データを基にモデルを作成する。データが十分でない場合は関連情報の表示を行い工程作成者のモデル検討を支援する。
【0114】
処理部10は、作業の実施における作業人数の最大人数と最少人数を設定する(ステップS402;人数の上限、下限の設定)。これは作業実施において物理構成上の作業人数の上限と下限の人数を定めることで、作業現場で実行不可能な人数を想定で作業効率へ寄与することを防止する。また、作業人数の入力の間違い、現場にて作業者の不足による作業の中断や大幅な作業者の過多となるのを防止することができる。
【0115】
処理部10は、作業実施における人数を計画し決定する(ステップS403)。そして、処理部10は、作業人数による作業効率変化のモデルから、仕事量と作業時間推定に用いる作業効率係数を決定する(ステップS404)。
【0116】
図17は、作業グループごとの作業習熟度評価処理S700を示すフローチャートである。適宜
図11を参照して説明する。作業習熟度は習熟度をランク分けし、それぞれの作業に必要な技能習熟度を評価する。作業の性質ごとに必要技能と基準を設け習熟度をランク分けし作業効率に係る作業習熟度係数を設ける。作業習熟度評価処理S700では、作業時間に影響を与える作業習熟度の評価を行うが、必要に応じ同様に作業品質について評価を行い作業計画に反映することができる。
【0117】
作業工程最適化支援装置WPOの処理部10は、作業の基本情報を出力部40の表示部に表示し(ステップS701)、工程作成者は、当該作業を行うにあたり必要な技能・資格を抽出する(ステップS702)。作業工程最適化支援装置WPOにより、工程作成者の当該作業を行うにあたり必要な技能・資格の抽出を支援することができる。
【0118】
処理部10は、作業の基本情報と過去の作業者データを出力部40の表示装置に表示し(ステップS703)、工程作成者は、抽出された技能・資格より過去データや作業シミュレーション等から作業遂行時間へ影響を与える項目を評価・設定する(ステップS704)。作業工程最適化支援装置WPOにより、作業遂行時間へ影響を与える項目を評価・設定を支援することができる。
【0119】
処理部10は、過去データや参考データを抽出し、出力部40の表示装置に表示し(ステップS705)、工程作成者は、作業タイプにより作業効率を上げるために必要な作業経験者や有資格者の割合等が変わるため、作業タイプを考慮し各評価項目の評価条件を検討し設定する(ステップS706)。
【0120】
処理部10は、計画中の定検担当の作業グループの作業者情報を抽出し、作業習熟度の評価を行う(ステップS707)。
【0121】
作業習熟度に基づく作業習熟度係数の例を表2に示す。表2の左側は、個人で作業できる場合で、超音波探傷点検の場合である。表2の右側は、グループで作業する場合で、機器の分解点検や取り換えの場合である。
【表2】
前記説明したように、(2)式により作業人数による作業効率係数と作業習熟度係数とを考慮し推定作業時間を算出することができる。
【0122】
ステップS209の処理に戻り(
図12参照)、作業工程最適化支援装置WPOは、表示されるレビュー支援には算出結果に加え、計算に使用した各項をデータベースと比較してステップS206で作成した全体工程に設定されている作業時間、作業人数、計画した被ばく量にて実施可能か実行性についての評価を出力部40の表示装置に表示する(作業計画を評価)。この評価結果により計画された全体工程に遅延の発生や品質の低下が起こらないように対策が必要であるか懸案項目を検討することを支援することができる。
【0123】
(ステップS210、ステップS211)
工程作成者は、評価結果より各作業の計画についてレビューを行う(ステップS210)。計画される作業にとって作業の実行性に対して懸案となる項目がある場合、懸案項目に対する対策を行うと判断し、対策が必要と判断された懸案項目に対して対策を実施する(ステップS211)。ここで今回計画している定検以降の点検作業へ資するデータ収集等の長期的な対策が検討される場合この実施の可否を決める。
【0124】
<実施する対策の例>
(1)特別な技能が必要な場合や、作業が複雑であり知識や経験が作業の生産性に大きく影響する作業に対して、作業者の作業習熟度が十分でないと評価されている場合を想定する。定検作業の実施前に教育及び作業トレーニングを実施することで作業習熟度の向上を図り、計画通りに作業を完了させるための実行性を高めることができる。
【0125】
(2)作業エリアの線量率が想定より高く被ばく量が計画より多くなる場合、また作業者個人の累計被ばく量が許容範囲を超えるより多くなる場合。作業エリアの放射線環境改善または作業者の配置変更が考えられる。環境改善のため作業エリア、作業準備エリア及び移動経路において線量の高い場所に対する化学除染や遮蔽の設置、水質管理法の改善等を検討する。
【0126】
(3)計画では実績データと比較して作業人数・作業機器が不足している場合、配置の変更・リソースの追加を検討する。放射線環境改善の対策実施後も作業者個人の累計被ばく量が許容範囲より大きくなる場合も作業者の配置変更を検討する。
【0127】
(4)作業実績よりの遅れや手戻りが多く発生する作業について、現場にてより生産性が高くなるよう、また作業の間違いが起こらないよう作業手順の見直しを行う。また作業を確実に実施し、やり直しが発生しないように作業現場にて作業手順を表示する情報支援を行う。
【0128】
前記(2)、(3)にて行われる配置変更を行う際は変更に起因して作業人数、作業習熟度、個人の累計被ばく量が変化するため変更のある作業について再度評価を行う必要がある。しかし、工程最適化を行う際の調整や対策の実施結果を反映し、データベース装置200と作業工程最適化支援装置WPOにより再評価が容易に行えるため、細かな配置変更の調整を行いやすくなる効果がある。対策の検討にあたり十分なデータが無いと判断される場合、必要な実績データを検討する。また、次回定検以後の点検を見据え、作業データを収集する計画を立てる。
【0129】
作業工程最適化支援装置WPOは、ステップS211にて行った各対策の効果を評価し作業計画のレビューに反映する。作業工程最適化支援装置WPOは、対策の実施内容を、定期検査終了時に実施した対策の効果を評価できるようリアルタイム更新情報としてリアルタイム更新情報DB65に記録し、評価結果は次回以降の定期検査での改善検討のために点検実績情報として記録する。
【0130】
(ステップS213、ステップS214)
作業工程最適化支援装置WPOは、対策の効果が反映された作業の実行性について再評価を行う(全体作業工程の再評価)。工程作成者は、この結果を踏まえ再度全体工程について変更を行う場合(ステップS214;No)、現状作成されている全体工程を基にステップS205へ戻り再検討を行う。
【0131】
(ステップS215)
工程作成者は、ステップS214の再レビューから全体工程の実行性が十分であると判断される場合(ステップS214;Yes)、ステップS215で全体工程を決定する。
【0132】
次に、ステップS102の実施例、ステップS103の実施例について説明する。
<ステップS102(部品決定ステップ)の実施例>
保全周期の延伸の検討を行う機器に対し劣化予測を行う部品を選定する。原子力プラントに使用される機器として台数や種類も多く存在する弁からボール弁を例にして機器部品の選定を行う。
【0133】
保全計画支援装置100によりデータベースからボール弁の劣化関連情報が抽出され、
図4に示すような機器の保全周期に影響を与える部品とその劣化メカニズム、機能喪失までの寿命等を表示する。
【0134】
さらに、PMBDより抽出表示した情報に対応する、劣化メカニズム、劣化の影響をPMBDのFailure Modesと比較する。まず、抽出された機器の検討範囲に差異がないかを対象機器の境界(Component Boundary)にて確認する。その後、機器に対して劣化モードが示されている、部品(Failure Location)、劣化メカニズム(Degradation Mechanism)、劣化の影響(Degradation Influence)を比較し劣化分析表として
図4に示すような劣化関連情報と同様に表に整理され左右または上下に並べ比較の結果を出力部140(
図1参照)に表示する。
【0135】
すなわち、原子力プラントの保全計画作成を支援する保全計画支援装置の保全計画支援方法は、部品決定ステップにおいて、保全周期の延伸の検討を行う機器について保全の項目である部品・部位、劣化メカニズム、劣化の影響を抽出し第1情報とする第1ステップと、保全周期の延伸の検討を行う機器について、EPRI(Electric Power Research Institute)のPMBD(Preventive Maintenance Basis Database)で整理されているFailure Location、Degradation Mechanism、Degradation Influenceを含む項目を抽出し第2情報とする第2ステップと、を有し、第1情報と第2情報とを項目ごとに比較し、その比較結果を出力部に出力することで、保全計画を支援することができる。
【0136】
比較の結果、考慮すべき部品、劣化モードに抜け漏れがないか検討を行う。抜け漏れがある場合、考慮すべき項目であるか検討し、必要であると判断されれば機器の設計データやPMBDを参考とし、部品の劣化影響や劣化モードについてデータの取得や補充を行う。また、PMBD機器の保全タスク(Tasks)、タスク目的(Task Objective)、タスク内容(Task Content)と保全周期延伸対象機器の保全タスクの比較を行い保全タスクの目的と範囲に差異がないか確認を行う。差異がある場合は考慮する必要があるかどうか検討し、必要に応じて保全の方法や範囲を見直す。
【0137】
次に、各部品の寿命が延伸されることで延伸可能な保全周期と延伸した際のコスト低減量をデータベースから抽出し表示する。寿命が延伸されることが保全コストの削減に有効であるか検討する。例えば部品パッキンの寿命を延伸することで対応する保全タスクの保全周期の延伸にどれほど資するか、コスト低減に有効か判断する。また、機器は通常複数の部品の組み合わせからなり保全タスクの実施範囲が複数の部品を対象としている場合、例えば
図4におけるパッキン、ボルト、躯体接合材を対象とする保全タスクの実施周期が5年と設定されているとする。この保全周期の延伸を行うとき、これら三つの部品について考慮し保全周期の延伸を行わなければならない。ここでパッキンの寿命が5年、ボルトの寿命が7年、躯体接合材の寿命が10年と設定されているとき、保全周期を延伸するにはまずパッキンの寿命から検討する必要がある。ここでパッキンの寿命が7年以上に延伸されたとき保全周期は7年に延伸できる。このように保全タスクの対象となる部品すべての寿命を考慮する必要がある。
【0138】
また、保全周期の効果的な延伸のため保全タスクをどの程度延伸することが望ましいか目標を設定し、これを達成するためのコストと保全周期延伸により期待されるコスト低減量を比較する。これは、定検計画の最適化に資する検討であり、保全タスクの実施に付帯する別作業が必要である場合等、同時期に実施することで保全周期延伸による工数の減少により大きな影響が期待できるためであり、特に他の保全タスクと共通の付帯作業を持つ保全タスクで検討を行う。
【0139】
目標とした周期まで延伸後の保全周期が国内の規制要求より適応が可能であるか確認する。コスト的に有効な周期延伸を行うと明らかに規制要求等を超えてしまう場合は目標とする保全周期の変更しコスト的検討を再度行うか部品の寿命延伸の検討を行わない。
以上の検討により機器部品の寿命延伸検討を行う機器を選択する。
【0140】
<ステップS103(周期提案ステップ)の実施例>
図4に示したパッキンを例に説明する。
例えば、弁の接合部に使用される高分子材料で形成されたパッキンに着目し、ある使用部位での劣化量、劣化トレンドデータ、余寿命を予測する場合を想定する。このパッキンに求められる機能要求を接合部から内部流体の漏えいを防ぐこととし、機能要求を維持することが可能な余寿命を劣化トレンドデータにより予測する。
【0141】
まずはパッキンの劣化関連データを抽出する。劣化関連データはパッキンの劣化メカニズム、劣化影響、劣化検出方法、保全実績、使用環境情報、材料データ等である。抽出した情報からパッキンの劣化トレンドデータ作成に使う劣化量を決める。
【0142】
劣化の要因はパッキンの使用されている配管や弁等接合部の圧力、流体からの影響(温度、化学反応)や放射線による影響等複数の環境要因が考えられる。原子力プラントで使用される場合の環境条件は概ね当該部品が使用されている系統が起動している場合と停止している場合に分かれそれぞれ一定の条件であるため劣化は起動中の時間変化と相関関係を持つと考えることができる。
【0143】
高分子材料には圧縮永久ひずみ測定、硬度測定等劣化量を確認する方法は種々あるが、原子力プラントで劣化量を確認するとき作業員の負担と被ばく軽減の観点から劣化量の確認は簡便でありまた性能低下と高い相関を持つことが好ましい。また非破壊測定であることが望ましい。
【0144】
図10は、機器性能と相関関係がある物理量の時間変化の例を示す図であり、符号が10Aのグラフは破断伸びの場合、符号が10Bのグラフは官能基量の場合である。グラフ10A、グラフ10Bは、いずれも劣化量として部品劣化の劣化評価・予測に利用することができるがこの中でより性能低下と相関を示し、また時間変化による劣化量の変化が予測しやすい物理量であることが望ましい。
図10の例ではグラフ10Aに示す破断伸びより、グラフ10Bに示す官能基量による劣化予測の方が時間変化を基準として劣化進行が予測し易いと言える。
【0145】
本実施例では、高分子材料に対し、赤外線分光法等を用い、赤外吸収スペクトルを測定し、測定された酸化劣化による官能基量の変化を代表劣化量とし機械的物性の限界値に対する割合に基づいて現状の劣化量を判断する。原子力プラントにおける高分子材料の多くは、常時高線量の放射線に晒されるため、一般製品用の材料を用いる場合には、短い時間間隔で定期検査を行う必要がある。高分子材料は、放射線環境下において、酸化劣化が促進されることが知られている。酸化劣化の促進は吸収線量におおむね依存するため、高分子材料の放射線環境下での使用時間と劣化量は比例関係を示す。
【0146】
劣化トレンドデータは、試験データ、実機測定データの劣化量の時間的変化とそれらの環境条件を基に支援装置により作成される。同一または類似部品の劣化トレンドデータまた試験・実機測定データのそれぞれの環境条件により得られた劣化特性から環境条件の違いを割合に換算し劣化トレンドデータを自動で見積もり、これらの条件の差と共に表示する。検討者はこれを参照し必要に応じ補正やマージンの設定等を行い劣化トレンドデータとする。
【0147】
劣化トレンドデータにより時間的な劣化量の変化から部品の劣化を予測可能となったため、部品に対応する保全タスク実施のタイミングを機器の重要度より決定する。劣化トレンドデータから既定の劣化量に達したときパッキンの性能は低下し、さらに劣化量が増加しある量に達すると機能喪失となる。ここで保全を行うタイミングは、パッキンに求められている性能により選択することが適切である。例えば、パッキンの流体を漏らさないという要求機能がどの程度まで担保される必要があるかということは部品の重要度で定められる。パッキンが使用されている機器内部の流体が漏えいすることでプラントの安全性に影響を与える場合や発電量の低下等で経済性に影響を与える場合、もしくは軽微な漏えいであれば影響を与えない場合等が想定される。これらパッキンはそれぞれの重要度により適切な劣化量をもって保全を実施することが望ましい。ここでパッキンに要求される重要度は機器や系統に求められる要求機能とその重要度から決めることができる。本実施形態では、
図4のように部品に対する保全タスクを実施する劣化量(寿命)を機器の安全性と経済性の重要度から推奨値として表示する。また、このとき劣化量の分解能、最小検出可能劣化量等を表示し、保全計画者による保全実施劣化量の決定を支援する。
【0148】
さらに、対象部位の保全を実施する際のコスト比較を表示する。例えば、故障前に行う保全と故障後に部品交換となる場合のコストを比較する等、ある部品の保全タスクが複数種類から選択可能な場合、よりコストが低くなる手法を選択し、その手法が適応可能な劣化量の限界値を劣化トレンドデータから保全実施劣化量として設定できる。
【0149】
劣化トレンドデータの特性や保全コストの比較を行い、保全タスクを実施するタイミングを保全実施劣化量として適切に設定し、実施することで安全性を担保し、保全コスト抑える効果が期待できる。
【0150】
これらの情報から、保全計画者により保全実施劣化量が決定される。決定した保全実施劣化量から部品の寿命、現在から保全実施劣化量になるまでの時間を余寿命とする。また、保全実施までの時間が延伸された部品に対応する保全タスクの実施周期の延伸を行う。これら部品の寿命、余寿命、新たな保全周期をデータベースに記録する。
【0151】
以上、本実施形態の保全計画支援方法は、原子力プラントの保全計画作成を支援する保全計画支援装置の保全計画支援方法であって、保全計画をする際に、保全周期の延伸の検討を行う機器に対し劣化予測を行う部品を決定する部品決定ステップ(ステップS102)と、決定された部品に対し、劣化トレンドデータ及び保全実施劣化量を決定し、劣化トレンドデータ及び前記保全実施劣化量に基づき保全周期を提案する周期提案ステップ(ステップS103)と、を有する。これにより、原子力プラントの保全計画について、保全実施時期を適切に設定できる。
【0152】
保全計画支援方法は、さらに、提案された保全周期が、EPRI(Electric Power Research Institute)のPMBD(Preventive Maintenance Basis Database)で整理されている保全周期と比較する比較ステップ(例えば、ステップS104、ステップS802)を有する。
【0153】
部品決定ステップにおいて、保全周期の延伸の検討を行う機器について保全の項目である部品・部位、劣化メカニズム、劣化の影響を抽出し第1情報とする第1ステップと、保全周期の延伸の検討を行う機器について、EPRI(Electric Power Research Institute)のPMBD(Preventive Maintenance Basis Database)で整理されているFailure Location、Degradation Mechanism、Degradation Influenceを含む項目を抽出し第2情報とする第2ステップと、を有し、第1情報と第2情報とを項目ごとに比較し、その比較結果を出力部に出力することで、保全計画を支援することができる。
【0154】
周期提案ステップにおいて、保全実施劣化量の決定を行う際、部品の環境条件、要求性能、材質、形状を含む情報からより信頼性の高い予測を実施可能にする保全実施劣化量を、代表劣化量として選択することができる。
【0155】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0156】
10 処理部
11 作業工程最適化部
12 作業計画評価部
20 記憶部
30 入力部
40 出力部
50 通信部
60 データベース装置
61 作業の基本情報DB
62 プラント環境情報DB
63 点検実績情報DB
64 作業者情報DB
65 リアルタイム更新情報DB
66 新たな知見や対策等情報DB
100 保全計画支援装置
110 処理部
111 保全周期延伸部
111A 部品決定処理部(部品決定部)
111B 周期提案処理部(周期提案部)
112 保全重要度ギャップ分析部
120 記憶部
121 機器の劣化分析
122 保全タスク一覧
123 機器の保全実施劣化量設定情報
124 処理部出力情報
200 データベース装置
210 劣化関連DB
220 機器重要度関連DB
230 規制関連DB
240 保全タスク関連DB
250 EPRI PMDB関連DB
S100 保全計画支援処理
S230 定検計画支援処理
S300 部品選定処理
S400 作業効率係数決定処理
S500 保全周期の延伸検討処理
S600 機器の保全実施劣化量推奨値の設定処理
S700 作業グループごとの作業習熟度評価処理
S800 保全重要度のギャップ分析処理
WPO 作業工程最適化支援装置