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特開2023-47210ウィービング制御方法、溶接制御装置、溶接システム、溶接方法及びウィービング制御プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047210
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】ウィービング制御方法、溶接制御装置、溶接システム、溶接方法及びウィービング制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20230329BHJP
   B23K 37/02 20060101ALI20230329BHJP
   G05B 19/4093 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
B23K9/12 350F
B23K37/02 B
B23K9/12 350Z
B23K9/12 331D
G05B19/4093 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156169
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】518112321
【氏名又は名称】コベルコROBOTiX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 太
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 博文
(72)【発明者】
【氏名】戸田 忍
(72)【発明者】
【氏名】児玉 克
【テーマコード(参考)】
3C269
【Fターム(参考)】
3C269AB12
3C269AB33
3C269BB03
3C269EF02
3C269EF20
(57)【要約】
【課題】ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて下向溶接、横向溶接、立向溶接といった各種姿勢溶接で良好な溶接品質を得るためのウィービング制御方法を提供する。
【解決手段】ウィービング制御方法は、ウィービングパターンを決めるための基準距離に係るウィービング基準軌跡の条件を少なくとも設定する、設定ステップと、設定ステップに基づいて決定されたウィービングパターンに基づき、可搬型溶接ロボットを移動させるロボット移動機構へ指令するための速度条件を、あらかじめ定めた複数の方向成分ごとに算出する、速度条件算出ステップと、を有し、速度条件算出ステップにおいて算出された複数の方向成分それぞれの速度条件に対する、停止信号の指令並びに停止信号を指令した直後又はあらかじめ定めた停止時間の経過後に行う発進信号の指令を、少なくともウィービング端の到達時において同期させる。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて、開先を有するワークを溶接するためのウィービング制御方法であって、
ウィービングパターンを決めるための基準距離に係るウィービング基準軌跡の条件を少なくとも設定する、設定ステップと、
前記設定ステップに基づいて決定されたウィービングパターンに基づき、前記可搬型溶接ロボットを移動させるロボット移動機構へ指令するための速度条件を、あらかじめ定めた複数の方向成分ごとに算出する、速度条件算出ステップと、
を有し、
前記速度条件算出ステップにおいて算出された前記複数の方向成分それぞれの前記速度条件に対する、停止信号の指令並びに前記停止信号を指令した直後又はあらかじめ定めた停止時間の経過後に行う発進信号の指令を、少なくともウィービング端の到達時において同期させる、
ことを特徴とするウィービング制御方法。
【請求項2】
前記方向成分は、前記ワークの溶接線方向、前記溶接線方向に対し垂直となる開先幅方向、及び前記溶接線方向及び前記開先幅方向それぞれに対し垂直となる開先深さ方向のうち少なくとも2つから選択される、
請求項1に記載のウィービング制御方法。
【請求項3】
前記ロボット移動機構のうち前記可搬型溶接ロボットを前記溶接線方向に移動させる機構として、前記可搬型溶接ロボットを前記ガイドレールに沿って移動させるX軸移動機構を有し、
前記ロボット移動機構のうち前記可搬型溶接ロボットを前記開先幅方向及び前記開先深さ方向のそれぞれに移動させる機構として、前記可搬型溶接ロボットに備えたY軸移動機構及びZ軸移動機構を有する、
請求項2に記載のウィービング制御方法。
【請求項4】
前記可搬型溶接ロボットを前記溶接線方向に移動させる機構として、更に、前記可搬型溶接ロボットに備えた近似直線移動機構を含む、
請求項3に記載のウィービング制御方法。
【請求項5】
前記方向成分ごとの前記速度条件として、第1速度設定値VLと、前記第1速度設定値VLよりも大きく、かつ、ウィービング幅ごとに変動する第2速度設定値VHを有する場合に、
前記発進信号から前記停止信号を発するまでの前記速度条件において、前記発進信号後に前記第1速度設定値VLを設け、前記第1速度設定値VL後に前記第2速度設定値VHを設け、前記第2速度設定値VH後に前記第1速度設定値VLを再度設け、再度設けた前記第1速度設定値VL後に前記停止信号を設ける速度条件プロセスを、
前記発進信号の指令を行うごとに繰り返す、
請求項1~4のいずれか1項に記載のウィービング制御方法。
【請求項6】
前記第1速度設定値VLから前記第2速度設定値VHまでの期間を立上り期間とし、前記第2速度設定値VHから再度設けた前記第1速度設定値VLまでの期間を立下り期間とする場合に、
前記立上り期間及び前記立下り期間それぞれにおける前記速度条件の傾きの絶対値は固定値である、
請求項5に記載のウィービング制御方法。
【請求項7】
前記ウィービング基準軌跡の条件は、前記ウィービングパターンを決めるための前記基準距離として、溶接中心線に対して一方の側で隣り合う前記ウィービング端間の距離であるピッチPtを含む、
請求項2~4のいずれか1項に記載のウィービング制御方法。
【請求項8】
前記ウィービング端が前記Ptの1/2であるPt/2に位置するように、前記ウィービング基準軌跡を決定する、
請求項7に記載のウィービング制御方法。
【請求項9】
前記ウィービング端を除く位置において前記停止信号の指令及び前記発進信号の指令を設ける場合に、
前記停止信号の指令及び前記発進信号の指令を、前記ウィービング端と前記Pt/2の間に設ける、
請求項8に記載のウィービング制御方法。
【請求項10】
前記ウィービング基準軌跡の条件は、
前記Pt/2に位置する一方側の前記ウィービング端の位置をシフトさせるために設定されるシフト量として、少なくとも1つの前記方向成分を有する、
請求項8又は9に記載のウィービング制御方法。
【請求項11】
前記シフト量を設定する前記方向成分は、少なくとも前記溶接線方向であって、
前記溶接線方向における溶接進行方向に前記ウィービング端の位置をシフトさせる、
請求項10に記載のウィービング制御方法。
【請求項12】
前記溶接の停止中又は前記溶接中にトーチ角度を変更する場合に、
前記ロボット移動機構のうち前記可搬型溶接ロボットを前記溶接線方向に移動させる機構として、前記可搬型溶接ロボットを前記ガイドレールに沿って移動させるX軸移動機構と、前記可搬型溶接ロボットに備えた近似直線移動機構とで構成され、
前記X軸移動機構に基づく移動速度と前記近似直線移動機構に基づく移動速度の組合せにより、前記溶接線方向への前記可搬型溶接ロボットの移動速度を制御する、
請求項2~4のいずれか1項に記載のウィービング制御方法。
【請求項13】
前記ウィービング基準軌跡の条件は、それぞれの前記ウィービング端における停止時間、前記開先幅方向のウィービング幅、前記開先深さ方向のウィービング幅、及び前記ウィービングにおける往路と復路の速度比のうち少なくとも一つを含む、
請求項2に記載のウィービング制御方法。
【請求項14】
ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて、開先を有するワークを溶接するためのウィービング制御に用いる溶接制御装置であって、
ウィービングパターンを決めるための基準距離に係るウィービング基準軌跡の条件を少なくとも設定する、設定ステップと、
前記設定ステップに基づいて決定されたウィービングパターンに基づき、前記可搬型溶接ロボットを移動させるロボット移動機構へ指令するための速度条件を、あらかじめ定めた複数の方向成分ごとに算出する、速度条件算出ステップと、
を有し、
前記速度条件算出ステップにおいて算出された前記複数の方向成分それぞれの前記速度条件に対する、停止信号の指令並びに前記停止信号を指令した直後又はあらかじめ定めた停止時間の経過後に行う発進信号の指令を、少なくともウィービング端の到達時において同期させる機能を有する、
ことを特徴とする溶接制御装置。
【請求項15】
請求項14に記載の溶接制御装置を備える、溶接システム。
【請求項16】
請求項15に記載の溶接システムを用いた溶接方法。
【請求項17】
ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて、開先を有するワークを溶接するためのウィービング制御に用いるウィービング制御プログラムであって、
ウィービングパターンを決めるための基準距離に係るウィービング基準軌跡の条件を少なくとも設定する、設定ステップと、
前記設定ステップに基づいて決定されたウィービングパターンに基づき、前記可搬型溶接ロボットを移動させるロボット移動機構へ指令するための速度条件を、あらかじめ定めた複数の方向成分ごとに算出する、速度条件算出ステップと、
を有し、
前記速度条件算出ステップにおいて算出された前記複数の方向成分それぞれの前記速度条件に対する、停止信号の指令並びに前記停止信号を指令した直後又はあらかじめ定めた停止時間の経過後に行う発進信号の指令を、少なくともウィービング端の到達時において同期させる機能を実行させる、
ことを特徴とするウィービング制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可搬型溶接ロボットを用いて開先を有するワークを溶接するためのウィービング制御方法、溶接制御装置、溶接システム、溶接方法及びウィービング制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
造船、鉄骨、橋梁等における溶接構造物の製造において、工場内における溶接作業は、作業能率を重視し、主に下向姿勢溶接を対象に定置型で大型の多軸溶接ロボットを適用したシステムが多用されている。なお、定置型の多軸溶接ロボットを適用したシステムとは、例えば、被溶接物(以降、「ワーク」と称することもある。)を定置型のポジショナーに設置し、多軸溶接ロボットを用いて自動溶接するタイプの溶接ロボットシステムのことである。一方、大型の多軸溶接ロボットが適用できない現場溶接や、小物部材や複雑な形状の部材の溶接は、半自動溶接といった手動溶接や、作業員が一人で運ぶことができる軽量小型の可搬型溶接ロボットを用いた自動溶接が多用されている。特に、可搬型溶接ロボットは、持ち運びできる特長を活かして現場溶接での適用が進められている。
【0003】
ところでアーク溶接法では、被溶接物の溶接継手に対して、十分な溶け込みと適正な溶接余盛形状を得るために、溶接継手の開先幅方向や開先深さ方向に溶接トーチを揺動させながら、溶接線方向に溶接していくことが行われている。この溶接トーチの揺動は、「ウィービング」、「オシレート」又は「運棒」と呼ばれており、溶接姿勢に合わせてウィービングパターンが異なってくる。なお、以降、溶接トーチの揺動を「ウィービング」として称し、このウィービングによって形成される軌跡を「ウィービングパターン」として称して説明する。このような溶接トーチのウィービングを、上述した多軸溶接ロボットや可搬型溶接ロボット等に行わせることで、十分な溶け込みと適正な溶接余盛形状を得ることができるとともに、溶接の自動化が可能となる。
【0004】
ここで特許文献1では、多関節溶接ロボットと回転ポジショナーと組み合わせた定置型の溶接装置が示されており、また、特許文献1の図17に示すように、横向溶接においてウィービングを鋸歯状にして適正な溶接肉盛りが得られることが示されている。さらに、立向溶接においてウィービングを矩形状にして適正な溶接肉盛りが得られることも示されている。
【0005】
また、特許文献2では、移動や溶接準備が容易な軽量小型の溶接装置として、X,Y,Z方向の直交3軸と溶接トーチを揺動するための駆動軸が組み込まれた自動溶接装置が示されている。そして特許文献2では、共有メモリから読み出した溶接速度に基づいてモータを制御して溶接速度を所定の速度とし、溶接揺動制御部は各領域の溶接層毎にモータを制御して、底面幅に応じた振幅となるように溶接トーチ部を揺動することが示されている。
【0006】
さらに、特許文献3では、ガイドレール上を移動する、X,Y、Z方向の直交3軸に、更に溶接トーチを傾けるT軸を加えた可搬型の自動溶接装置が示されている。そして特許文献3では、開先形状を計測した2点間を領域に分け、前1点と後1点で計算される溶接速度を直線補間して各領域の溶接条件を決め、決定した溶接速度に従って各領域のオシレート条件を設定し、溶接中に溶接トーチをオシレートすることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-202673号公報
【特許文献2】特公平8-15665号公報
【特許文献3】特開2021-16881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1における立向溶接と横向溶接でのウィービングは、鋸歯状や矩形状といった複雑なウィービングパターンを適用することで適正な溶接肉盛りが得られるとされており、このような特殊なウィービングパターンは、複数の自由度を有する多関節ロボットを使えば容易に実現できるものの、多関節ロボットを構成要素とする自動溶接装置を、可搬型溶接ロボットのように現場溶接に適用するのは、装置重量や設置時間を考えても実用的でなく困難である。
【0009】
また、特許文献2や3における溶接装置は、可搬型溶接ロボットにおいてウィービング専用の揺動機構又は溶接トーチを開先幅方向に移動させる移動機構を利用し、溶接中に溶接トーチを往復動させることによりウィービングを行うものであるが、いずれにおいても決定した溶接速度に従ってウィービング条件を設定し、溶接中に溶接トーチをウィービングさせるものである。すなわち、決定した溶接速度ごとにウィービング条件が異なることになるため、常に溶接速度とウィービング条件を一対で管理する必要がある。
【0010】
ここで、図28(a)は、決定した溶接速度に対してウィービング周期が適正な場合のウィービングの動きを示している。この状態に対し、仮に溶接速度がより大きくなると、図28(b)に示すようにウィービングパターンの隙間が広がり、このウィービングパターンの隙間ではアークが届かない場所ができてしまい、開先内の溶け込み不足が懸念される。
【0011】
また、ウィービングでは、開先壁の十分な溶け込みが得られるように、ウィービング両端で停止時間を設ける場合がある。ウィービング両端で停止時間を設ける目的は、停止した場所に溶接アークを留めて入熱を上げ、十分な溶け込みを得ることである。しかしながら、特許文献2や3に記載の可搬型溶接ロボットでは、溶接トーチはウィービング両端で留まりつつも、溶接線方向に移動してしまう。したがって、入熱点である溶接アークが移動していくため、本来の目的を達成できない。さらに、仮に溶接速度が大きくなると、図29のように、ウィービングパターンの隙間が広がり、このウィービングパターンの隙間ではアークが届かない場所ができてしまい、開先内の溶け込み不足が懸念される。
【0012】
図28(b)や図29に示した上記の懸念事象は、いずれもウィービングと溶接線方向の移動が同期せず、各々単独で動くためである。このような事象が起こらないようにするには、決定した溶接速度ごとに周期、幅、停止時間などのウィービング条件を管理しなければならない。なお、溶接長が長くなり、溶接速度を決定する開先形状の計測点が複数になると、管理が煩雑化し、ウィービング条件を含む溶接条件の誤りを招くおそれもある。
【0013】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて下向溶接、横向溶接、立向溶接といった各種姿勢溶接で良好な溶接品質を得るための、ウィービング制御方法、溶接制御装置、溶接システム、溶接方法及びウィービング制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、ウィービング制御方法に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて、開先を有するワークを溶接するためのウィービング制御方法であって、
ウィービングパターンを決めるための基準距離に係るウィービング基準軌跡の条件を少なくとも設定する、設定ステップと、
前記設定ステップに基づいて決定されたウィービングパターンに基づき、前記可搬型溶接ロボットを移動させるロボット移動機構へ指令するための速度条件を、あらかじめ定めた複数の方向成分ごとに算出する、速度条件算出ステップと、
を有し、
前記速度条件算出ステップにおいて算出された前記複数の方向成分それぞれの前記速度条件に対する、停止信号の指令並びに前記停止信号を指令した直後又はあらかじめ定めた停止時間の経過後に行う発進信号の指令を、少なくともウィービング端の到達時において同期させる、
ことを特徴とするウィービング制御方法。
【0015】
また、本発明の上記目的は、溶接制御装置に係る下記[2]の構成により達成される。
[2] ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて、開先を有するワークを溶接するためのウィービング制御に用いる溶接制御装置であって、
ウィービングパターンを決めるための基準距離に係るウィービング基準軌跡の条件を少なくとも設定する、設定ステップと、
前記設定ステップに基づいて決定されたウィービングパターンに基づき、前記可搬型溶接ロボットを移動させるロボット移動機構へ指令するための速度条件を、あらかじめ定めた複数の方向成分ごとに算出する、速度条件算出ステップと、
を有し、
前記速度条件算出ステップにおいて算出された前記複数の方向成分それぞれの前記速度条件に対する、停止信号の指令並びに前記停止信号を指令した直後又はあらかじめ定めた停止時間の経過後に行う発進信号の指令を、少なくともウィービング端の到達時において同期させる機能を有する、
ことを特徴とする溶接制御装置。
【0016】
また、本発明の上記目的は、溶接システムに係る下記[3]の構成により達成される。
[3] 上記[2]に記載の溶接制御装置を備える、溶接システム。
【0017】
また、本発明の上記目的は、溶接方法に係る下記[4]の構成により達成される。
[4] 上記[3]に記載の溶接システムを用いた溶接方法。
【0018】
また、本発明の上記目的は、ウィービング制御プログラムに係る下記[5]の構成により達成される。
[5] ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて、開先を有するワークを溶接するためのウィービング制御に用いるウィービング制御プログラムであって、
ウィービングパターンを決めるための基準距離に係るウィービング基準軌跡の条件を少なくとも設定する、設定ステップと、
前記設定ステップに基づいて決定されたウィービングパターンに基づき、前記可搬型溶接ロボットを移動させるロボット移動機構へ指令するための速度条件を、あらかじめ定めた複数の方向成分ごとに算出する、速度条件算出ステップと、
を有し、
前記速度条件算出ステップにおいて算出された前記複数の方向成分それぞれの前記速度条件に対する、停止信号の指令並びに前記停止信号を指令した直後又はあらかじめ定めた停止時間の経過後に行う発進信号の指令を、少なくともウィービング端の到達時において同期させる機能を実行させる、
ことを特徴とするウィービング制御プログラム。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて下向溶接、横向溶接、立向溶接といった各種姿勢溶接で良好な溶接品質を得るための、ウィービング制御方法、溶接制御装置、溶接システム、溶接方法及びウィービング制御プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明に係る溶接システムの一実施形態の概略図である。
図2図2は、図1に示す可搬型溶接ロボットの概略側面図である。
図3図3は、図2に示す可搬型溶接ロボットの斜視図である。
図4図4は、図2に示す近似直線移動機構の拡大図である。
図5図5は、基準速度設定波形を示すグラフである。
図6図6は、ワークの開先部位の模式斜視図である。
図7図7は、曲線を含む開先に対し、直線のガイドレールを適用した可搬型溶接ロボットの模式的な斜視図である。
図8図8は、溶接線位置検知点間における溶接速度を示すタイムチャートである。
図9図9は、下向溶接におけるウィービングパターンを模式的に示す斜視図である。
図10図10(a)は、ウィービング速度のタイムチャートであり、図10(b)は、溶接速度のタイムチャートである。
図11図11は、図10に示すタイムチャートにおけるウィービングパターンを示すグラフである。
図12図12は、両端に停止時間が設定されたウィービングのタイムチャートである。
図13図13は、図12に示すタイムチャートにおけるウィービングパターンを示すグラフである。
図14A図14Aは、X,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービングパターンを示す斜視図である。
図14B図14Bは、図14AにおけるA矢視図である。
図15図15は、X,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービングのタイムチャートである。
図16図16は、図15に示すタイムチャートにおけるウィービングパターンを示すグラフである。
図17図17は、横向溶接でのウィービングパターンの模式図である。
図18図18(a)は、図17に示すウィービングパターンを実現するための、ウィービング速度のタイムチャートであり、図18(b)は、図17に示すウィービングパターンを実現するための、溶接速度のタイムチャートである。
図19図19は、鋸歯状のウィービングパターンの模式図である。
図20図20(a)は、図19に示す鋸歯状のウィービングパターンを実現するための、ウィービング速度のタイムチャートであり、図20(b)は、図19に示す鋸歯状のウィービングパターンを実現するための、溶接速度のタイムチャートである。
図21図21は、鋸歯状のウィービングパターンを示すグラフである。
図22図22は、立向溶接の斜視図である。
図23図23(a)は、図22に示す立向溶接のウィービングパターンの一例のB矢視図であり、図23(b)は、他の一例のB矢視図であり、図23(c)は、さらに他の一例のB矢視図である。
図24図24は、X,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービングパターン及び各方向の溶接速度及びウィービング速度を纏めて示すタイムチャートである。
図25図25は、X軸の移動機構による溶接トーチのXA方向移動と、溶接トーチ回転駆動部による溶接トーチのXB方向移動との組合せにより、両開先端を溶接する状態を示す模式図である。
図26図26は、X軸の移動機構による溶接トーチのXA方向移動と、溶接トーチ回転駆動部による溶接トーチのXB方向移動との組合せにより、溶接トーチの溶接ワイヤ先端位置が移動することなく、トーチ角度を変更する状態を示す模式図である。
図27図27は、図26に示すトーチ角度を変更するためのタイムチャートである。
図28図28(a)は、溶接速度とウィービング周期が適正な場合のウィービングを示す図であり、図28(b)は、溶接速度が過大な場合のウィービングを示す図である。
図29図29は、端停止し、かつ溶接速度が過大な場合のウィービングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る溶接システムについて図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態は、可搬型溶接ロボットを用いた場合の一例であり、本発明の溶接システムは、本実施形態の構成に限定されるものではない。
【0022】
<溶接システムの構成>
図1は、本実施形態に係る溶接システムの構成を示す概略図である。溶接システム50は、図1に示すように、可搬型溶接ロボット100と、送給装置300と、溶接電源400と、シールドガス供給源500と、制御装置600と、を備えている。
【0023】
[制御装置]
制御装置600は、ロボット用制御ケーブル610によって可搬型溶接ロボット100と接続され、電源用制御ケーブル620によって溶接電源400と接続されている。制御装置600は、あらかじめ可搬型溶接ロボット100の動作パターン、溶接開始位置、溶接終了位置、溶接条件、ウィービング等を定めたティーチングデータを保持するデータ保持部601を有し、このティーチングデータに基づいて可搬型溶接ロボット100及び溶接電源400に対して指令を送り、可搬型溶接ロボット100の動作及び溶接条件を制御する。
【0024】
また、制御装置600は、後述するセンシングにより得られる検知データから開先形状情報を算出する開先形状情報算出部602と、該開先形状情報をもとに上記ティーチングデータの溶接条件を補正して取得する溶接条件取得部603と、を有する。そして、上記開先形状情報算出部602と溶接条件取得部603により、制御部604が構成されている。
【0025】
さらに、制御装置600は、ティーチングや可搬型溶接ロボット100のマニュアル操作等を行うためのコントローラとその他の制御機能をもつコントローラが、一体となって形成されている。ただし、制御装置600は、これに限られるものではなく、ティーチングを行うためのコントローラ及びその他の制御機能をもつコントローラの2つに分ける等、役割によって複数に分割してもよいし、可搬型溶接ロボット100に制御装置600を含めてもよい。また、本実施形態においては、ロボット用制御ケーブル610及び電源用制御ケーブル620を用いて信号が送られているが、これに限られるものではなく、無線で送信してもよい。なお、溶接現場における使用性の観点から、ティーチングや可搬型溶接ロボット100のマニュアル操作等を行うためのコントローラと、その他の制御機能をもつコントローラの2つに分けるのが好ましい。
【0026】
[溶接電源]
溶接電源400は、制御装置600からの指令により、消耗電極である溶接ワイヤ211及びワークWに電力を供給することで、溶接ワイヤ211とワークWとの間にアークを発生させる。溶接電源400からの電力は、パワーケーブル410を介して送給装置300に送られ、送給装置300からコンジットチューブ420を介して溶接トーチ200に送られる。そして、図2に示すように、溶接電源400からの電力は、溶接トーチ200先端のコンタクトチップを介して、溶接ワイヤ211に供給される。なお、溶接作業時の電流は、直流又は交流であってもよく、また、その波形は特に問わない。よって、電流は、矩形波や三角波などのパルスであってもよい。
【0027】
また、溶接電源400は、例えば、パワーケーブル410がプラス電極として溶接トーチ200側に接続され、パワーケーブル430をマイナス電極としてワークWに接続される。なお、これは逆極性で溶接を行う場合であり、正極性で溶接を行う場合はプラス電極のパワーケーブルがワークW側に接続され、マイナス電極のパワーケーブルが、溶接トーチ200側と接続されていればよい。
【0028】
[シールドガス供給源]
シールドガス供給源500は、シールドガスが封入された容器、バルブ等の付帯部材から構成される。シールドガス供給源500から、シールドガスがガスチューブ510を介して送給装置300へ送られる。送給装置300に送られたシールドガスは、コンジットチューブ420を介して溶接トーチ200に送られる。溶接トーチ200に送られたシールドガスは、溶接トーチ200内を流れて、ノズル210にガイドされ、溶接トーチ200の先端側から噴出する。本実施形態で用いるシールドガスとしては、例えば、アルゴン(Ar)や炭酸ガス(CO)又はこれらの混合ガスを用いることができる。
【0029】
[送給装置]
送給装置300は、溶接ワイヤ211を繰り出して溶接トーチ200に送る。送給装置300により送られる溶接ワイヤ211は、特に限定されず、ワークWの性質や溶接形態等によって選択され、例えば、ソリッドワイヤやフラックス入りワイヤが使用される。また、溶接ワイヤの材質も問わず、例えば、軟鋼でもよいし、ステンレスやアルミニウム、チタンといった材質でもよい。さらに、溶接ワイヤの線径も特に問わないが、本実施形態において好ましい線径は、上限は1.6mmであり、下限は0.9mmである。
【0030】
本実施形態に係るコンジットチューブ420は、チューブの外皮側にパワーケーブルとして機能するための導電路が形成され、チューブの内部に溶接ワイヤ211を保護する保護管が配置され、シールドガスの流路が形成されている。ただし、コンジットチューブ420は、これに限られるものではなく、例えば、溶接トーチ200に溶接ワイヤ211を送給するための保護管を中心にして、電力供給用ケーブルやシールドガス供給用のホースを束ねたものを用いることもできる。また、例えば、溶接ワイヤ211及びシールドガスを送るチューブと、パワーケーブルとを個別に設置することもできる。
【0031】
[可搬型溶接ロボット]
可搬型溶接ロボット100は、図2及び図3に示すように、ガイドレール120と、ガイドレール120上に設置され、該ガイドレール120に沿って移動するロボット本体110と、ロボット本体110に載置されたトーチ接続部130と、を備える。ロボット本体110は、主に、ガイドレール120上に設置される本体部112と、この本体部112に取り付けられた固定アーム部114と、この固定アーム部114に矢印R方向に回転可能な状態で取り付けられた溶接トーチ回転駆動部116と、から構成される。
【0032】
トーチ接続部130は、図4に示すように、摺動テーブル169とクランク170を介して、溶接トーチ回転駆動部116に取り付けられている。トーチ接続部130は、溶接トーチ200を固定するトーチクランプ132及びトーチクランプ134を備えている。また、本体部112には、溶接トーチ200が装着される側とは反対側に、送給装置300と溶接トーチ200を繋ぐコンジットチューブ420を支えるケーブルクランプ150が設けられている。
【0033】
また、本実施形態においては、ワークWと溶接ワイヤ211間に電圧を印加し、溶接ワイヤ211がワークWに接触したときに生じる電圧降下現象を利用して、開先10の表面等をセンシングするタッチセンサを検知手段とする。検知手段は、本実施形態のタッチセンサに限られず、画像センサ、レーザーセンサ等、又はこれら検知手段の組み合わせを用いてもよいが、装置構成の簡便性から本実施形態のタッチセンサを用いることが好ましい。
【0034】
ロボット本体110の本体部112は、図2の矢印Xで示すように、紙面に対して垂直方向であって溶接線方向となるX軸方向に、ロボット本体110をガイドレール120に沿って移動させるX軸移動機構181を備える。また、本体部112は、固定アーム部114を本体部112に対して、スライド支持部113を介して、X軸方向及びZ軸方向に対して垂直となる開先10の幅方向であるY軸方向へ移動させるY軸移動機構182を備える。さらに、本体部112は、X軸方向に対し垂直となる開先10の深さ方向にロボット本体110を移動させるZ軸移動機構183を備える。
【0035】
さらに、図4に示すように、トーチ接続部130が取り付けられた摺動テーブル169、クランク170及び溶接トーチ回転駆動部116は、溶接ワイヤ211の先端を近似直線に沿って移動させる近似直線移動機構180を構成している。
【0036】
具体的には、溶接トーチ回転駆動部116に固定された不図示のモータの回転軸168にクランク170が固定され、該クランク170の先端が、摺動テーブル169の一端に連結ピン171により連結されている。摺動テーブル169は中間部に長溝169aを備え、溶接トーチ回転駆動部116に固定された固定ピン172が長溝169aに摺動自在に嵌合する。
【0037】
これにより、不図示のモータによってクランク170が回転軸168を中心として回動すると、摺動テーブル169は、固定ピン172を支点として回動すると共に、嵌合する固定ピン172に案内されて長溝169aに沿って移動する。すなわち、溶接トーチ200が取りつけられたトーチ接続部130は、クランク170が図3及び図4に示す矢印Rに示すように回動することで、溶接トーチ200を傾けながら、X軸方向に対し溶接ワイヤ211の先端を図4に仮想線ILで示す近似直線に沿って駆動する。なお、本実施形態においてX軸方向へ移動する機構は、上述のX軸移動機構181と近似直線移動機構180があり、以降、これらの機構を区別して説明する場合には、X軸移動機構181によってX軸方向に移動するときは「XA軸方向」と示し、近似直線移動機構180によってX軸方向に移動するときは「XB軸方向」と示し、どちらの機構も特に問わない場合は、単に「X軸方向」と記載して説明するものとする。
【0038】
また、溶接トーチ回転駆動部116は、図2に矢印Rで示すように、固定アーム部114に対して回転可能に取り付けられており、最適な角度に調整して固定することができる。
【0039】
以上のように、ロボット本体110は、その先端部である溶接トーチ200を、3つの方向、すなわちX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に対し、4つの自由度、すなわち、近似直線移動機構180、X軸移動機構181、Y軸移動機構182、Z軸移動機構183により駆動可能である。ただし、ロボット本体110は、これに限られるものでなく、用途に応じて、任意の数の自由度で駆動可能としてもよい。
【0040】
以上のように構成されることで、トーチ接続部130に取り付けられた溶接トーチ200の溶接ワイヤ211の先端部は、任意の方向に向けることができる。すなわち、ロボット本体110は、ガイドレール120上をX軸方向に駆動可能である。また、溶接トーチ200は、開先10の幅方向であるY軸方向又は開先10の深さ方向であるZ軸方向に駆動可能である。また、クランク170による駆動により、例えば、前進角又は後退角を設ける等の施工状況に応じて、溶接トーチ200を傾けることができる。
【0041】
ガイドレール120の下方には、例えば磁石などの取付け部材140が設けられており、ガイドレール120は、取付け部材140によってワークWに対して着脱が容易となるように構成されている。可搬型溶接ロボット100をワークWにセットする場合、オペレータは可搬型溶接ロボット100の両側把手160を掴むことにより、可搬型溶接ロボット100をワークW上に容易にセットすることができる。
【0042】
<可搬型溶接ロボットの各駆動軸の移動速度設定方法>
可搬型溶接ロボット100の溶接トーチ200をX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向のいずれかに移動させる、X軸移動機構181、Y軸移動機構182、Z軸移動機構183及び近似直線移動機構180の各駆動軸には、ステッピングモータが使われている。ステッピングモータの回転軸は減速機に結合し、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の移動機構では減速機の回転軸にピニオンが取り付けられている。
【0043】
XA軸方向ではガイドレール120に取り付けたラックと噛み合いながらXA軸方向の駆動がなされる。また、Y軸方向ではスライド支持部113に取り付けたラックと噛み合いながらY軸方向の駆動がなされる。同様に、Z軸方向も可搬型溶接ロボット100の内部にあるZ軸方向のスライド支持部に取り付けたラックと噛み合いながらZ軸方向の駆動がなされる。
【0044】
XB軸方向は、溶接トーチ回転駆動部116の減速機の回転軸168に、クランク170が取り付けられており、クランク170を回転させることで溶接トーチ200を傾けながら、溶接ワイヤ211先端をXB軸方向に移動させることができる。溶接トーチ回転駆動部116は、溶接トーチ200のトーチ角度を設定可能であり、また、溶接ワイヤ211の先端がXB軸方向へ移動する移動速度や移動距離も設定可能である。
【0045】
X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の発進から停止までの移動速度のプロセスは、ステッピングモータの特性に基づき、図5に示すような波形をした速度の加減速を伴って、速度設定を行っている。設定速度VHが本来の移動速度となるが、その前後には加速時間Tsu1及び減速時間Tsu2をそれぞれ設けており、発進側では第1速度設定値である初期速度VLから、第2速度設定値である設定速度VHに加速し、また、停止側では設定速度VHから初期速度VLに減速して停止することになる。発進から停止までの移動時間THは加速時間Tsu1、減速時間Tsu2及びその間の設定速度VHで移動する期間を含むが、加速時間Tsu1及び減速時間Tsu2は、各軸の負荷や設定速度によって変わり、概ね数十ミリ秒から数百ミリ秒となる。なお、設定速度VHより低速の初期速度VLを設けた理由は、停止状態から直接的に設定速度VHまで加速すると、ステッピングモータが追従できずに脱調するおそれがあるためである。
【0046】
また、溶接ビードとなる溶融池は、熱源であるアークの直下に存在することで安定した状態を保ち、良好な溶接ビードを形成することができる。設定速度VHが初期速度VLを超える場合、溶接速度、すなわちアークの移動速度を急激に設定速度まで変化させると、母材が十分に溶ける前に熱源であるアークが一気に移動してしまうため、母材の溶融が不十分となり、溶融池はアークの直下に存在できなくなり、溶接速度が一気に変化したところだけ不整な溶接ビードとなる。これを避けるため、アークの移動速度を設定速度VHに到達させるときには、初期速度VLから設定速度VHまでは、アークの移動速度をスロープ状に徐々に加速させることで、アークの移動に溶融池の形成も追従させ、アークの直下に溶融池が存在するようにさせる。
【0047】
したがって、設定速度VHが初期速度VL以下の場合は、加速時間Tsu1及び減速時間Tsu2は必要なく、図5は設定速度VHから始まる矩形型となる。図5に示す波形を一つの単位として、これを組み重ねることで各方向に移動する。つまり、図5の設定が繰り返されるたびに、停止信号及び発進信号の指令が同期して発出されて、発進及び停止を繰り返しながらX軸方向、Y軸方向、Z軸方向へ溶接トーチ200が移動することになる。なお、初期速度VLから設定速度VHの速度変化の傾き、設定速度VHから初期速度VLの速度変化の傾き、すなわちこれらの加速度は、上記した脱調のおそれのない範囲の一定値とするのがよく、あらかじめ定めた傾きに基づいて、加速時間Tsu1及び減速時間Tsu2が決定されるとよい。
【0048】
[溶接線位置検知点Pの溶接条件の取得]
図6は、ワークWの開先部位の斜視図を示しており、開先10の長手方向である溶接線方向は直線だけでなく曲線も含み、さらに、開先10の幅方向においてルートギャップGAが変化する開先10を溶接するときの模式斜視図である。また、図7は、図6のような曲線も含んだ開先10に対し、直線のガイドレール120に可搬型溶接ロボット100を設置したときの模式的な斜視図である。
【0049】
開先10を溶接する際には、あらかじめ可搬型溶接ロボット100の動作、及び溶接条件を設定したティーチングプログラムを作成し、溶接開始前に、ガイドレール120に沿って移動する可搬型溶接ロボット100を用いて、溶接時の溶接条件を補正又は取得する。詳細には、例えば、制御装置600の動作信号に基づいて、可搬型溶接ロボット100を駆動して開先形状の自動センシングを開始し、開先形状情報を算出し、さらに溶接条件を演算して自動ガスシールドアーク溶接を行う。
【0050】
すなわち、ティーチングプログラムの作成時又は補正時の設定ステップにおいて、少なくとも後述するウィービング基準軌跡の条件を設定した後、開先形状情報を算出し、さらに溶接条件を算出する段階において、この溶接条件の算出時に少なくとも速度条件算出ステップを有し、この速度条件算出ステップにおいて各移動機構180、181、182及び183へ指令するための速度条件を、複数の方向成分ごとに算出して自動ガスシールドアーク溶接を行う。
【0051】
ここで、本実施形態において、設定ステップで設定される「ウィービング基準軌跡の条件」とは、ウィービングパターンを決めるための基準距離に係る条件であって、本実施形態に関しては、X軸方向の基準距離、Y軸方向の基準距離、Z軸方向の基準距離のうち少なくとも二つの情報が含まれる。より具体的に、図24の左に示す図のように、X軸方向の基準距離を示す項目としては、後述するピッチPt、Y軸方向の基準距離を示す項目としてY軸のウィービング幅YO、Z軸方向の基準距離を示す項目としてZ軸のウィービング幅ZOが挙げられる。なお、本実施形態において、ピッチPt及びウィービング幅ZOはあらかじめ設定されるものであり、ウィービング幅YOは、後述する開先形状情報算出工程によって算出されたギャップ幅に基づいて、設定値が変化する。
【0052】
また、設定ステップにおいて設定される条件は、ウィービング基準軌跡の条件以外にも、後述するウィービング端の停止時間の条件、ウィービング往復路の速度比Gの条件、任意の位置を任意の方向にシフトさせるシフト量の条件等が挙げられる。なお、ウィービング端の停止時間の条件は、端停止する位置に応じて設定値を設ければよく、例えば、ウィービング端の停止時間T1、もう一方のウィービング端の停止時間T2というように分けて設定できるようにすると好ましい。
【0053】
さらに、任意の位置を任意の方向にシフトさせるシフト量の条件について詳細は後述するが、図24の左に示す図のように、本実施形態においては、紙面に対し上側のウィービング端YOの位置を、X軸方向にシフトする距離XOをシフト量として設定する。ウィービング基準軌跡の条件によって決定するウィービングパターン、すなわち、図24の左に示す図の実線で示す軌跡を、便宜上、標準ウィービングパターンとするのであれば、その標準ウィービングパターンから、紙面に対し上側のウィービング端の位置を、X軸方向に、シフト量XOとして設定された数値分の距離をシフトさせると、図中の点線で示す軌跡のように鋸歯状の特殊なウィービングパターンを適用することができる。なお、このシフト量XOはあらかじめ固定値として設定していてもよいし、例えば、溶接前、又は溶接中のギャップ変動に基づいて、その都度設定値を変化させてもよい。
【0054】
センシングは、上述したタッチセンサによって、センシング工程において開先形状、板厚、始終端等をセンシングする。
【0055】
センシング工程では、例えば、図6に示すように、開先10の溶接開始点10sから溶接終了点10eまでの溶接区間において、開先が直線だけでなく曲線も含み、ルートギャップGAも変化して、場所ごとに開先形状が異なるような場合には、逆台形状の断面形状である開先10の断面形状を、開先形状検知位置F(F,F,・・・,F)として複数箇所、本実施形態では6箇所、センシングする位置を設ける。
【0056】
なお、本実施形態では、開先形状検知位置Fと溶接線WLとの交点を、溶接線位置検知点P(P~P)とする。溶接線WLとは、ワークW上の開先10における任意の位置に設定した、溶接ワイヤ211先端の移動軌跡のことであり、溶接トーチ200の先端は溶接線WL、すなわちX軸方向に沿って、開先幅方向、すなわちY軸方向にウィービングする。
【0057】
詳細には、溶接開始点10sに最も近接する開先形状検知位置Fを、第1開先形状検知位置F(F)とし、溶接終了点10eに最も近接する開先形状検知位置Fを、第2開先形状検知位置F(F)として、可搬型溶接ロボット100がガイドレール120上を移動しながらタッチセンサによりセンシングを行う。第1開先形状検知位置Fs及び第2開先形状検知位置Feの位置設定は、ティーチング等によってあらかじめ制御装置600に入力してもよい。
【0058】
センシング工程の後、センシング工程で得た各開先形状検知位置F(F~F)での開先断面形状の検知データから、開先形状の開先角度、板厚、ルートギャップGA、ワーク端部W間の距離L等を算出する。なお、これらの算出工程を以降、「開先形状情報算出工程」と称する。そして、各開先形状検知位置F(F~F)で算出した開先形状をもとに、溶接線WLにおける各溶接線検知点P(P~P)の溶接条件を算出し、制御装置600内で取得又はあらかじめ設定した溶接条件に対して補正する溶接条件算出工程を経て、実際に溶接を実施する際の溶接条件が決定される。ここで取得した各溶接線検知点P(P~P)の溶接条件で溶接ビードを積層して行くと、開先内での溶接ビードの積層数、パス数は同じとなる。そして、各溶接線検知点P(P~P)の溶接条件には、例えば、1パス毎の溶接電流、溶接電圧、溶接速度、溶接トーチの溶接ワイヤ先端の狙い位置、ウィービング幅、等が含まれる。
【0059】
[溶接線位置検知点P間のウィービングにおけるX軸方向の移動速度(溶接速度)の制御方法]
続いて、本実施形態に係る溶接システム50を用いた溶接線位置検知点P間の溶接速度の制御方法について詳細に説明する。
溶接線位置検知点Pの溶接速度は、先の溶接条件算出工程で見出されており、隣接する溶接線位置検知点(Pn-1,P)の間の溶接速度は、隣接する溶接線位置検知点(Pn-1,P)の間のX軸方向の移動距離DXに対し、ウィービングパターンを決めるための基準距離に係る要素の一つであるピッチPtを基準に分割して段階的に変化させて、隣接する溶接線位置検知点(Pn-1,P)での溶接速度を補完するように決める。次に詳しく説明する。
【0060】
図3のように、ガイドレール120は、溶接する開先10に沿って設置されるので、開先10はX軸方向に沿っていると見なして、溶接速度とX軸方向の移動速度は同じとする。つまり、隣接する溶接線位置検知点(Pn-1,P)での溶接速度は、溶接線位置検知点(Pn-1,P)でのX軸方向の移動速度と同じとする。この定義に基づき、次のように算出する。
まず、隣接する溶接線位置検知点(Pn-1,P)間のX軸方向の移動距離DXを、あらかじめ設定した仮のピッチPt’で除して、式(1)に示すように仮の分割数m’を求める。
【0061】
【数1】
【0062】
続いて、仮の分割数m’の小数点以下を切捨てた整数を正式の分割数mとして、式(2)によりΔDを求める。
【0063】
【数2】
【0064】
そして、式(3)により正式なピッチPtを求める。
【0065】
【数3】
【0066】
なお、ここでの計算は、溶接線位置検知点(Pn-1,P)間のX軸方向の移動距離DXを、ピッチPtにより整数の分割数m個に端数がなく分割できるようにしたことを意味している。ここで求めたピッチPtと分割数mは、後述するようにウィービング条件を決める単位ともなる。
【0067】
次に、ピッチPtごとに区切られた部分の溶接速度VX、すなわちX軸方向の移動速度を求める。
式(4)に示すように、溶接線位置検知点(Pn-1,P)で算出した溶接速度(VXPn-1,VXP)の差を分割数mで除して、ピッチPtごとの増減分となる溶接速度ΔVXを求める。
【0068】
【数4】
【0069】
式(4)を用いて、ピッチPtごとの溶接速度は、式(5)に示すとおりとなる。
【0070】
【数5】
【0071】
ここで、kは1~mまでの整数であり、式(4)及び式(5)からVX=VXPなる。
【0072】
なお、式(5)からピッチPtごとの溶接速度VXが求められるが、溶接速度VXは、さらにピッチPtの1/2が後述するとおり、ウィービング時のウィービング端に位置することになるので、一端停止するように設定される。これも後述するウィービング条件を決めるための設定となる。このようにして得られる溶接線位置検知点(Pn-1,P)間での溶接速度VXの制御を表したのが、図8となる。溶接速度VXは、図5で説明したように台形型の速度設定を単位として、X軸方向の移動速度、すなわち溶接速度の制御がされることが分かる。
【0073】
つまり、溶接線位置検知点(Pn-1,P)間の溶接速度VXは、X軸方向の移動距離DXに対しピッチPtを基準にΔVXだけ段階的に変化させ、ピッチPtの1/2ごとに発進及び停止を繰り返す。本実施形態の図6では、隣接する溶接線位置検知点間(P,P)、(P,P)、(P,P)、(P,P)、(P,P)で、図8と同じように溶接速度VXを求めることで、開先10の全長に渡って溶接速度VXが決められる。ピッチPtは後述するウィービングの往復周期に影響する値であり、本実施形態では、ウィービングの目的である開先10の断面を溶接金属で埋めていくのに適正となる、ピッチPt=5~10mmの範囲で設定される。
【0074】
例えば、上記特許文献3では、溶接速度を開先2点間の溶接速度を用いて直線補間により決定しており、溶接速度は開先2点間で連続している。特許文献3も含めて、一般的に溶接速度は、一定か又は連続して変化させることが常識とされているが、本実施形態では、ウィービング端の位置に合わせて上記説明のようにピッチPtの1/2ごとに発進と停止を繰り返す。この制御は、図28(b)や図29に示した課題を解決する手段となる。
【0075】
なお、溶接中に溶接速度VXが、ピッチPtの1/2ごとに、設定速度VHに達するまで、数十ミリ秒から数百ミリ秒の加速度領域を有するが、上述のように溶接現象に対しては影響のない加速度であり、溶接品質に問題はない。
【0076】
[溶接線位置検知点P間のウィービングパターンの制御方法]
制御装置600内では、各溶接線検知点Pの溶接条件が算出され、例えば、狙い位置やウィービング幅も決定される。ウィービングの行為は、ロボット本体110が溶接しながらガイドレール120上をX軸方向に移動し、溶接トーチをY軸方向又はZ軸方向に揺動させることで、開先10の断面を溶接金属で埋めていくことが目的である。そして、ウィービング幅の項目はウィービングの重要な要素となるため、Y軸方向及びZ軸方向のうち少なくとも一つのウィービングの幅は、この目的に合うように決定されることが好ましい。
【0077】
続いて、本実施形態に係る溶接システム50を用いた、溶接線位置検知点P間のウィービングパターンの制御方法について説明する。
【0078】
<基本の制御方法>
まず下向溶接を例に、基本の制御方法について説明する。なお、ここでは、ウィービング端がピッチPt/2に位置し、溶接トーチがX軸方向及びY軸方向の2方向への移動を伴うウィービングの制御方法について説明する。
【0079】
図9は、隣接する溶接線位置検知点(Pn-1,P)間の下向溶接におけるウィービングパターンULを模式的に示している。溶接トーチは、開先10内をX軸方向のピッチPtで一往復する。すなわち、Pt/2に位置するウィービング端までを往路とし、次のPt/2に位置するもう一方のウィービング端までを復路とし、ウィービングを繰返す。このウィービングのX軸方向の移動速度は、図10で示す溶接速度VX(kは1,2,3,4・・・mが入る)の設定に従って、X軸方向へロボット本体110がレール上を走行し、また、Y軸方向の移動速度、すなわちウィービング速度は、図10で示すウィービング速度VYA及びVYB(kは、1,2,3,4・・・mが入る。)の設定に従って、図9のウィービングパターンULが描かれる。
【0080】
このときのウィービング幅は、後述の式(7)で決まり、図9に示す溶接線位置検知点Pn-1のスタートではウィービング幅YOから始まり、終了する溶接線位置検知点Pではウィービング幅YOm(=YOP)で終わる動きをする。この動きは、溶接線位置検知点(Pn-1,P)で算出したウィービング幅(YOPn-1,YOP)の差を分割数mで除したウィービング幅増減ΔYOで、段階的に変化させてウィービング幅(YOPn-1,YOP)を補完するように制御している。
【0081】
さらに詳細に説明する。溶接線位置検知点(Pn-1,P)のウィービング幅(YOP
n-1,YOP)の間のウィービング幅増減ΔYOは、下記式(6)で示される。
【0082】
【数6】
【0083】
したがって、溶接線位置検知点(Pn-1,P)間のウィービング幅YOは、下記式(7)で示される。
【0084】
【数7】
【0085】
ここで、kは1~mまでの整数であり、式(6)及び(7)から、YO=YOPなる。
【0086】
すなわち式(7)は、溶接線位置検知点(Pn-1,P)間を分割数m個に分割し、各分割した領域においては、この式(7)によってウィービング幅YOが決まることを意味している。なお、分割数mは、溶接速度VXの設定に使った整数である。
【0087】
本実施形態では、X軸方向の任意の移動距離、すなわち、より具体的には、X軸方向の溶接線位置検知点(Pn-1,P)間の距離を分割数mで分割したピッチPtの領域内で、溶接速度VXとウィービング速度VYを同期させて、溶接トーチの動きを制御している。溶接トーチがX軸方向にピッチPt分の距離を移動する時間TXは、その領域で設定される式(5)の溶接速度VXを用いて、下記式(8)~式(10)となる。
【0088】
【数8】
【0089】
【数9】
【0090】
【数10】
【0091】
式(9)及び式(10)は、その半分の時間、すなわち、溶接トーチがX軸方向にピッチPtの1/2ずつ動く時間に分けており、後述するウィービングの往路時間と復路時間にそれぞれ対応する。
【0092】
また、溶接トーチがX軸方向にピッチPtの1/2だけ動く速度、すなわち往路におけるX軸方向の移動速度VXA、及び復路におけるX軸方向の移動速度VXBは、式(9)及び式(10)に対応するように表すと、下記式(11)及び式(12)となる。
【0093】
【数11】
【0094】
【数12】
【0095】
一方、溶接トーチはY軸方向へウィービング幅YOだけ一往復するので、そのときのY軸方向の移動速度、すなわち、ウィービング速度を上述の往路、復路に分けて表すことにする。
溶接トーチがウィービングの往路にかかる時間は、溶接トーチがX軸方向にピッチPtの1/2だけ動く時間と同じである。また、復路にかかる時間も溶接トーチがX軸方向にピッチPtの1/2だけ動く時間と同じである。それぞれの時間は、式(9)及び式(10)から求まり、さらにウィービング幅YOは式(7)で求められているので、ウィービング速度は、下記式(13)及び式(14)となる。
【0096】
【数13】
【0097】
【数14】
【0098】
なお、式(13)が往路のウィービング速度であり、式(14)が符号を逆にして復路のウィービング速度を表している。
【0099】
図10には、式(5)、式(8)、式(9)、式(10)、式(11)、式(12)、式(13)及び式(14)から求めた、ウィービング速度VYと溶接速度VXのタイムチャートを表しており、図11はそのときの溶接トーチのウィービングパターンを示す。
【0100】
図10に示すように、溶接速度VX及びウィービング速度VYとも、図5で説明した台形型の速度設定を単位として、この組み合わせで制御される。また、図中の丸付き数字の0~8の時刻には、溶接速度VXとウィービング速度VYが同時に一端停止し、同時に動き出す。つまり、溶接速度VXの発進停止に合わせて、ウィービング速度VYも同じタイミングで発進停止を行うように同期して、溶接トーチをウィービングする。このときのウィービングの軌跡を表したものが、図11である。図10の丸付き数字の0~8の時刻での溶接トーチの位置が、図11の丸付き数字の0~8の位置である。
【0101】
図11から分かるように、X軸方向のピッチPtで溶接トーチがPt/2で往路、Pt/2で復路の一往復する動きを繰返しながら溶接トーチをウィービングさせている。言い換えると、本実施形態では、溶接速度VXに関係なく、X軸方向のピッチPtでウィービングパターンが決まる。
【0102】
これにより、図28(b)で説明した課題、つまり、溶接速度VXの影響により、ウィービングの周期が意図せず広がり、ウィービング間にアークが届かない場所ができて開先内での溶け込み不足となる懸念が無くなる。本実施形態では、溶接速度VXに依存することなく、確実に狙った位置へ、狙った軌道で、狙った時刻に溶接トーチを移動させてウィービングを行うことができるため、本来の目的である開先10の断面を溶接金属で埋めていくことが効率的に行われ、結果として優れた溶接品質を得ることができる。
【0103】
<両端停止時間の制御方法>
さらに、ウィービングでは、開先壁の十分な溶け込みが得られるように、ウィービング両端で停止時間(以降、ウィービング両端の停止時間を単に「停止時間」とも称する。)を設ける場合がある。本実施形態における両端停止の制御法につき、引き続き下向溶接を例に次に説明する。
【0104】
図11におけるウィービング上側の端部、すなわち丸付き数字の1、3、5及び7における停止時間をT1、下側の端部、すなわち丸付き数字の2、4、6及び8における停止時間をT2とする。上述のとおり、本発明の課題解決を勘案すると、ウィービング両端での停止時間の有無に関係なく、溶接トーチがX軸方向に対し、ピッチPtだけ進む時間は常に変化しないようにしなければならない。これは、停止時間が有りの場合や、後述するZ軸方向のウィービングを追加しても、溶接線位置検知点(Pn-1,P)間の溶接時間は変化させず、制御装置600の溶接条件算出工程で得られた溶接線位置検知点(Pn-1,P)の溶接速度を維持させるためである。そのため、ウィービング端部で停止時間がある場合の溶接トーチがY軸方向へウィービング幅YOを一往復する時間TYは、式(8)からT1,T2を減じた下記式(15)に置き換わる。
【0105】
【数15】
【0106】
ここで、kは1~mまでの整数とする。なお、停止時間T1,T2を設けた分だけ、溶接速度VXは速くならなければならず、式(15)を使い、かつ、式(9)、式(10)、式(11)及び式(12)から溶接速度VXが求められる。
【0107】
一方、ウィービング幅YOを一往復する時間TYは短くなり、ウィービング速度はその分早く移動することになる。その時のウィービング速度VYは、同様に式(15)を使い、かつ、式(9)、式(10)、式(13)及び式(14)から求められる。
【0108】
図12は、両端停止時間を設定したタイムチャートを示している。図中、丸付き数字の1’→1,2’→2,・・・8’→8の間で示す停止時間があっても、図10の場合と同様、溶接速度VXとウィービング速度VYは、発進と停止が同期した動きを繰り返している。このときのウィービングパターンを図13に示す。図12中の丸付き数字の時刻での溶接トーチの位置が、図13の丸付き数字の位置である。ウィービング両端で停止時間T1,T2の停止があるが、ウィービングパターンは停止時間のない図11と同じである。停止時間中は、溶接トーチは動くことなくウィービング両端に留まるように制御される。
【0109】
これにより、図29で説明した課題、つまり、設定した停止時間に基づき、溶接トーチのY軸方向移動がウィービング両端で留まりながら溶接線方向に移動したとしても、溶接速度の影響で、X軸方向のウィービング間隔が広がり、そのウィービング間隔でアークが届かない場所ができてしまうことで発生する、開先内の溶け込み不足の懸念が無くなる。
【0110】
本実施形態では、ウィービング両端での停止時間の有無にかかわらず、また、溶接速度の大小にも関わらずウィービングパターンは常に変化することなく、狙った位置に、狙った軌道で、狙った時間に溶接トーチを動かすことができ、本来の目的である開先10の断面を溶接金属で埋めていくことが効率的に行われる。
【0111】
<X,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービングの制御方法>
開先の裏面にセラミックなどの絶縁材を張り付けて、裏側にも溶接ビードが形成されるようにする裏当溶接法では、開先裏面側の溶接ビード、すなわち裏ビードを確実に形成させるために、開先中央部で良好な溶け込みが得られるように、ウィービングを制御することが考えられる。
【0112】
本実施形態では、一例として、上記したX軸方向とY軸方向への移動を伴うウィービングの基本の制御方法に加え、開先中央部の溶け込みを促進するように、ウィービング中央部で溶接トーチをZ軸方向、すなわち、開先深さ方向へ動作させるようにウィービングを制御できる。このようなX,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービングの制御方法について次に説明する。
【0113】
図14A及び図14Bには、基本の制御法で説明したY軸方向のウィービングに、開先板厚方向であるZ軸方向のウィービング幅も加えたX,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービング制御方法でのウィービングパターンを示す。
【0114】
上記のとおり、一例として裏当溶接を行う場合には、開先板厚方向のウィービング幅ZOを設定する。溶接トーチはX軸方向にピッチPt動く間にY軸方向にウィービング幅YOを一往復する。さらに、Z軸方向へは、Y軸方向のウィービング往路の間で1回、復路で1回、1往復するようなウィービングを行う。図14Aに示すように、丸付き数字の0→1’’→1→2’’→2が、X軸方向に溶接トーチがピッチPt動く軌跡である。以後、これをピッチPtごとに繰り返して、図8で示す溶接速度VXの設定でX軸方向へロボット本体110がガイドレール上を走行し、ウィービングパターンULが描かれる。
【0115】
Z軸方向のウィービング速度VZは、ウィービング幅ZOを設定して、式(16)及び式(17)となる。
【0116】
【数16】
【0117】
【数17】
【0118】
ここで、kは1~mまでの整数とする。なお、式(16)はZ軸方向の往路のウィービング速度VZであり、式中のTAは式(9)から求められる。また、式(17)は、符号を逆にした復路のウィービング速度VZであり、式中のTBは式(10)から求められる。
図15は、X,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービングのタイムチャートを示している。図中に示す溶接速度VXは式(11)及び式(12)から、また、ウィービング速度VYは式(13)及び式(14)から、そしてウィービング速度VZは式(16)及び式(17)からそれぞれ求められる。
【0119】
図中の丸付き数字の0~8は、基本の制御法で示した図10と同じ時刻の番号である。図中、丸付き数字の1’’~8’’はZ軸方向のウィービング端に溶接トーチが位置したときの時刻を表している。Y軸方向ウィービングの両端部に加えて、Z軸方向のウィービング端部でも、X,Y,Z3軸方向の移動速度は、発進、停止を同期するように各駆動軸が制御される。
【0120】
このときのウィービングパターンを図16に示す。図15に示す丸付き数字での溶接トーチ位置を、図16の同じ丸付き数字で示している。この丸付き数字は、図14Aの丸付き数字の位置と同じである。本実施形態では、基本の制御法と同じく、X,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービングにおいても、溶接速度VXに影響されることなく、狙った位置に、狙った軌道で、狙った時刻に溶接トーチを確実に移動させてウィービングすることができる。
また、先に説明したように、X,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービングにおいても、Y軸方向ウィービングの両端部で停止時間を設けることもできる。さらに、Z軸方向のウィービング端部にも、Y軸方向ウィービングの両端部に停止時間を設定した要領で、停止時間を設定できる。
【0121】
[往復するウィービング速度の制御方法]
可搬型溶接ロボット100を使った横向溶接は、図3のワークWを垂直に立てた場合となり、可搬型溶接ロボット100とワークWの位置関係は変わらないため、下向溶接でのウィービング設定がそのまま使えることになり、基本の制御方法、両端停止時間の制御方法及びX,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービング制御方法が適用できる。
【0122】
横向溶接の特徴として、アークによって溶けた溶接ワイヤとワークWの溶融金属は、重力の影響を受けて垂れ下がるようになり、適正な溶接ビードの形状を形成できず、良好な溶接継手を造れなくなるおそれがある。この対策として、往復するウィービング速度を変えて、溶融金属の垂れ下がりを抑制し、さらにアークで溶融金属を押し上げるような動きをさせる方法が考えられる。言い換えれば、ウィービング往復時のウィービング速度の制御が求められる。
【0123】
次に、一例として横向溶接における往復するウィービング速度の制御方法について、本実施形態を説明する。なお、往復するウィービング速度の制御は、上記のとおり、横向溶接に対して特に効果的であるため、一例として、本実施形態を横向溶接の場合で説明するものであって、横向溶接のみに限られたものではなく、様々な溶接姿勢に対して適用してもよい。
【0124】
<横向溶接に有効な往復するウィービング速度の制御方法>
図17は、横向溶接でのウィービングパターンを模式的に示した図である。先に説明したように、横向溶接では溶融金属が重力の影響を受けて、図中Y軸方向のプラス側に垂れ下がるようになる。一方、溶接トーチは、ウィービングにより開先内を上下に揺動しており、溶接トーチが開先内の下側、すなわちY軸方向のプラス側であり、重力が作用する方向に動くときに、溶融金属の垂れ下がりを助長するおそれがある。そこで、溶接トーチが開先内の下側に動くときには、速く動かして素早くウィービングの下側端停止位置に向かわせ、溶接トーチが開先内の上側、すなわち、Y軸方向のマイナス側であり、重力が作用する反対方向に動くときには、ゆっくりと動かして、垂れ下がる溶融金属をアークで押し上げるような作用を狙う動きをさせることができる。
このような、ウィービングの往路と復路でウィービングの移動速度を変える場合のウィービング制御方法を説明する。
【0125】
ウィービングの往路と復路でウィービング速度が同じ場合は、先に示した基本の制御法の中の式(13)及び式(14)で示している。図17に示す本実施形態では、ウィービングの往路、すなわち、Y軸方向のプラス側への移動と復路、すなわち、Y軸方向のマイナス側への移動で、ウィービング速度比を設けることで、ウィービング速度を制御する。ウィービング速度の比率をGとすると式(18)で示す関係となる。
【0126】
【数18】
【0127】
ここで、VYAは往路のウィービング速度、VYBは復路のウィービング速度を示しており、kは1~mまでの整数である。この式(18)は、復路のウィービング速度VYBは、往路のウィービング速度VYAのG倍で動くことを示している。
【0128】
このように、往復するウィービング速度を変えても、溶接トーチがX軸方向にピッチPtだけ進む時間TXは変化しないようにしなければならない。これは、ウィービング速度の増減に関係なく、溶接線位置検知点(Pn-1,P)間の溶接時間が変化しないようにするためである。そのため、時間TXは維持したまま、ウィービング速度の増減に合わせて、ウィービングの往路及び復路での移動時間を制御する必要がある。
【0129】
つまり、溶接トーチが往路のウィービング幅YOを移動し終わるに要する時間をTA、同じように復路に要する時間をTBとすると、式(19)及び(20)の関係となる。
【0130】
【数19】
【0131】
【数20】
【0132】
ここで、kは1~mまでの整数である。また、TXは式(8)から求められる。
【0133】
往路及び復路でのウィービング速度は、ウィービング幅YOをそれぞれ式(19)及び式(20)の時間で除して、下記式(21)及び式(22)となる。
【0134】
【数21】
【0135】
【数22】
【0136】
式(21)のVYAはY軸方向のプラス側への移動であるウィービング往路の移動速度であり、式(22)のVYBは、符号を逆にしてY軸方向のマイナス側への移動であるウィービング復路の移動速度を示している。なお、YOは式(7)から求められる。
【0137】
同じく、溶接トーチがX軸方向にピッチPtを移動する速度は、Y軸方向のウィービングの往路と復路の部分に分けてピッチPtの1/2を式(19)及び式(20)で除して、次の式(23)及び式(24)となる。
【0138】
【数23】
【0139】
【数24】
【0140】
ここで、kは1~mまでの整数である。なお、式(23)のVXAは溶接トーチがウィービング幅YOをY軸方向のプラス側に移動する往路のときのX軸方向の移動速度であり、式(24)のVXBは溶接トーチがウィービング幅YOをY軸方向のマイナス側に移動する復路のときのX軸方向の移動速度である。
【0141】
そして、式(19)~式(24)をタイムチャートで表したのが図18である。下向溶接の基本の制御方法と同じように、図中の丸付き数字の0~8の時刻で、X,Y軸方向の発進、停止のタイミングは同期しており、ウィービング往路と復路の速度の比率Gによって、溶接トーチがX軸方向にピッチPtだけ進む時間TXは維持されたまま、ウィービング速度VYと溶接速度VXが変化する制御方法となっている。ピッチPt内では溶接速度VXは変化するものの溶接線位置検知点(Pn-1,P)間の溶接時間は変わらず、距離DXも変わらないので、全体として溶接速度VXは変わらないことになる。
【0142】
このときのウィービングパターンは、下向溶接の基本の制御方法で示した図11と同じである。本実施形態では、上記のとおりウィービング速度を変化させても、基本の制御方法と同じく、狙った位置に、狙った軌道で、狙った時刻に溶接トーチを確実に移動させてウィービングすることができる。
【0143】
<特殊ウィービングパターンの制御方法>
先に述べたように、横向溶接の特徴として、アークによって溶けた溶接ワイヤとワークWの溶融金属は、重力の影響を受けて垂れ下がるようになり、適正な溶接ビードの形状が得られ難く、良好な溶接継手が得られなくなるおそれがある。この対策として、往復するウィービング速度を変えて溶融金属の垂れ下がりを抑制し、垂れ下がる溶融金属をアークで押し上げるような動きをさせるウィービング制御方法を先に示した。
【0144】
さらに、ウィービングパターンを特殊な軌跡に変えて、垂れ下がる溶融金属をアークでより押し上げるような作用を狙うこともできる。よって、次に、特殊ウィービングパターンの制御方法について、特殊ウィービングパターンとして、鋸歯状のウィービングパターンの場合を例にした本実施形態を説明する。なお、特殊ウィービングパターンの制御についても、横向溶接に限られたものではなく、様々な溶接姿勢に対して用いられてもよい。
【0145】
図19は、横向溶接で有効な特殊ウィービングパターンの模式的な斜視図を示す。開先10内で溶接トーチを鋸歯状に動かして、溶融金属を開先10の断面に適正に埋めていくことができる。鋸歯状のウィービングパターンは、上記特許文献1にも多関節ロボットを使った溶接装置によって実現できることが示されているが、本実施形態では、可搬型溶接ロボット100においてX軸方向及びY軸方向の駆動を組み合わせることで、鋸歯状のウィービングパターンを実現している。
【0146】
本実施形態での鋸歯状のウィービングパターンは、基本の制御方法で示したウィービングパターン、図11に丸付き数字の1、3、5及び7で示した上側端部をX軸方向にシフトする設定とすることで造り出すことができる。この時のシフト量をXOと設定する。
【0147】
本制御方法でも、溶接トーチのY軸方向へのウィービング幅、時間及び速度ともに基本の制御方法で示したものと同じであり、ウィービング幅は式(7)から、ウィービング時間は式(9)及び式(10)から、ウィービング速度は式(13)及び式(14)から求まる。
【0148】
一方、X軸方向の移動距離は、まず、溶接トーチがウィービング往路を動く時間に、X軸方向へはピッチPtの1/2に加えてシフト量XOの距離を動くことになる。逆に、溶接トーチがウィービング復路を動く時間には、X軸方向へはピッチPtの1/2動くところを余分にシフト量XOだけ動き過ぎているので、シフト量XOだけ戻る必要がある。これらの関係から、ピッチPtの1/2におけるX軸方向の移動速度を求めると、下記式(25)及び式(26)に示すとおりになる。
【0149】
【数25】
【0150】
【数26】
【0151】
ここで、式(25)のVXAは、溶接トーチがウィービング往路を動いているときのX軸方向の移動速度である。また、式(26)のVXBは、溶接トーチがウィービング復路を動いているときのX軸方向の移動速度である。式中のTAは式(9)から、TBは式(10)から求められる。なお、kは1~mまでの整数である。
【0152】
式(13)、式(14)、式(25)及び式(26)を使ってタイムチャートで表すと図20となり、このときのウィービングパターンを図21に示す。図20中の丸付き数字は、基本制御の図10と同じく、X軸方向とY軸方向の発進、停止の同期を取った時刻であり、そのときの溶接トーチの位置が図21図19の同じ丸付き数字の位置に該当する。
【0153】
シフト量XOの値によって変わるが、図20から分かるように、溶接トーチがウィービング復路を動いているときのX軸方向の速度はマイナスとなる。つまり、これは、溶接トーチが、溶接方向とは逆の方向に戻ってくる動きを示している。この動きを行うことで、図21のウィービングパターンから分かるように、鋸歯状の軌跡となるウィービングが行われる。鋸歯状の形を形成する三角、すなわち、図中、丸付き数字の0、1及び2、丸付き数字の2、3及び4、丸付き数字の4、5及び6、丸付き数字の6、7及び8により形成される形は、シフト量XOの値によって変えることができる。
もちろん、ピッチPt内では溶接速度VXがマイナスとなる設定があるが、溶接線位置検知点(Pn-1,P)間の溶接時間は変わらず、距離DXも変わらないので全体として、溶接速度VXは変わらないことになる。
本実施形態では、このような鋸歯状ウィービングを行った場合でも、狙った位置に、狙った軌道で、狙った時刻に溶接トーチを制御できる。
【0154】
[立向溶接に有効なウィービングパターンの制御方法]
可搬型溶接ロボット100を使った立向溶接の斜視図を図22に示す。可搬型溶接ロボット100とワークWの開先10との位置関係は下向溶接で示した図3と変わらないので、下向溶接でのウィービング設定をそのまま使うことができ、基本の制御方法、両端停止時間の制御方法及びX,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービング制御方法が適用できる。
【0155】
図23に本実施形態での立向溶接に対するウィービングパターンを示す。図23(a)、(b)及び(c)は図22の視点Bから見た図であり、基本の制御、両端停止時間の制御及びX,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービング制御によるウィービングパターンULを示す。
【0156】
また、立向溶接では、溶融金属でできた溶融池が、図中、Z軸方向のマイナス側である開先外側に垂れやすく、開先10の壁への入熱が少なく溶け込みが不十分になる場合もある。このときは、開先10の両側壁が溶け込みやすいように、溶接トーチを開先10の壁に沿ってウィービングすることもできる。これは、図23(c)に示すように、X,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービング制御方法を応用して、Z軸方向に2点の停止位置を設定することで可能となる。さらに、いずれの停止位置についても停止時間を設定することもできる。
【0157】
なお、図24において、これまでに説明したX,Y,Z3軸方向の移動を伴うウィービング制御のウィービングパターンと、溶接速度VX、ウィービング速度VY及びVZの関係を纏めて示している。
【0158】
[近似直線移動機構を用いたウィービング制御方法]
ところで、本実施形態の可搬型溶接ロボット100は、溶接トーチ200を傾けながらX軸方向に溶接ワイヤ211の先端を、ほぼ直線的に駆動可能な近似直線移動機構180(図4参照)を有している。ここでは、X軸の移動機構によるガイドレール120に沿う可搬型溶接ロボット100の移動方向をXA方向とし、近似直線移動機構180による溶接トーチ200の移動方向をXB方向として、区別して説明する。
【0159】
開先始端及び開先終端に溶融池を堰止めるセラミックタブ、スチールタブ等のフェイス板がある場合には、近似直線移動機構180を使って溶接トーチ200を開先の長手方向に倒して、溶接ワイヤ先端を母材とフェイス板との接合隅に対向させて、開先端部の溶接残しを無くすことが行われる。
【0160】
つまり、図25に示すように、溶接開始点10sの面にフェイス板350がある場合、図中、丸付き数字の1で示すように、自動的に又は手動で傾けた溶接トーチ200の溶接点を開先始端に定めて開先溶接を開始し、近似直線移動機構180によって溶接ワイヤ先端をXB方向に移動させ、図中、丸付き数字の2で示す適正な溶接トーチ角度となるまで溶接トーチ200の傾きを戻す。適正な溶接トーチ角度になれば、今度は、X軸の移動機構を使ってXA方向に丸付き数字の3で示す開先終端の直前まで溶接を続ける。再び、近似直線移動機構180によって溶接トーチ200を傾けて丸付き数字の4で示す開先終端まで自動的に溶接する。このような、XB方向の溶接ワイヤ211の先端の移動により、これまでに説明したX軸の移動機構によるXA方向の移動に置き換えても、同じウィービング制御ができる。
また、XA方向とXB方向の移動速度を同じ速度とし、移動方向のみを逆方向にすることによって、溶接ワイヤ211先端の位置をほぼ変えることなく、溶接トーチ200のトーチ角度を制御して回動させる、溶接トーチの回動制御方法が可能となる。
【0161】
<溶接トーチの回動制御方法>
図26において、XA方向とXB方向の移動速度を同じ速度とし、移動方向を逆方向にすることによって、溶接トーチのトーチ角度を制御して回動させたときの溶接トーチの動きを模式的に示す。これにより、溶接ワイヤ211先端の位置をほぼ変えることなく、溶接トーチ200が回動できるので、例えば、図中θ3で示す溶接トーチを前進角で紙面右の方向へ溶接していた場合、溶接終端部から連続して折り返し溶接するときなど、この回動制御方法を適用して、溶接終端部で溶接ワイヤ211の先端位置を変えることなく溶接トーチのトーチ角度を図中θ3’で示す溶接方向の前進角に変えて、そのまま連続溶接できるようになる。
【0162】
このときのタイムチャートを図27に示す。XA方向には速度Vθの設定で時間Tθの間隔で発進停止を繰り返す。XB方向では、XA方向の移動を打ち消すように、マイナスの速度VθとXA方向と同じ間隔で逆方向の動きを繰り返すことで、XA方向及びXB方向の移動が相殺され、溶接ワイヤ先端の位置は変わらずに、溶接トーチ200のトーチ角度を変えて回動させることができる。速度Vθ及び時間Tθは、溶接に影響ない範囲で設定される。
【0163】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0164】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
【0165】
(1) ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて、開先を有するワークを溶接するためのウィービング制御方法であって、
ウィービングパターンを決めるための基準距離に係るウィービング基準軌跡の条件を少なくとも設定する、設定ステップと、
前記設定ステップに基づいて決定されたウィービングパターンに基づき、前記可搬型溶接ロボットを移動させるロボット移動機構へ指令するための速度条件を、あらかじめ定めた複数の方向成分ごとに算出する、速度条件算出ステップと、
を有し、
前記速度条件算出ステップにおいて算出された前記複数の方向成分それぞれの前記速度条件に対する、停止信号の指令並びに前記停止信号を指令した直後又はあらかじめ定めた停止時間の経過後に行う発進信号の指令を、少なくともウィービング端の到達時において同期させる、
ことを特徴とするウィービング制御方法。
この構成によれば、ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて下向溶接、横向溶接、立向溶接といった各種姿勢溶接で良好な溶接品質を得ることができる。
【0166】
(2) 前記方向成分は、前記ワークの溶接線方向、前記溶接線方向に対し垂直となる開先幅方向、及び前記溶接線方向及び前記開先幅方向それぞれに対し垂直となる開先深さ方向のうち少なくとも2つから選択される、
(1)に記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、溶接トーチを溶接線方向に対し垂直となる開先幅方向及び溶接線方向及び開先幅方向それぞれに対し垂直となる開先深さ方向にウィービング制御できる。
【0167】
(3) 前記ロボット移動機構のうち前記可搬型溶接ロボットを前記溶接線方向に移動させる機構として、前記可搬型溶接ロボットを前記ガイドレールに沿って移動させるX軸移動機構を有し、
前記ロボット移動機構のうち前記可搬型溶接ロボットを前記開先幅方向及び前記開先深さ方向のそれぞれに移動させる機構として、前記可搬型溶接ロボットに備えたY軸移動機構及びZ軸移動機構を有する、
(2)に記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、溶接トーチを3軸方向に移動できる。
【0168】
(4) 前記可搬型溶接ロボットを前記溶接線方向に移動させる機構として、更に、前記可搬型溶接ロボットに備えた近似直線移動機構を含む、
(3)に記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、近似直線移動機構により溶接トーチをさらに溶接線方向に移動できる。
【0169】
(5) 前記方向成分ごとの前記速度条件として、第1速度設定値VLと、前記第1速度設定値VLよりも大きく、かつ、ウィービング幅ごとに変動する第2速度設定値VHを有する場合に、
前記発進信号から前記停止信号を発するまでの前記速度条件において、前記発進信号後に前記第1速度設定値VLを設け、前記第1速度設定値VL後に前記第2速度設定値VHを設け、前記第2速度設定値VH後に前記第1速度設定値VLを再度設け、再度設けた前記第1速度設定値VL後に前記停止信号を設ける速度条件プロセスを、
前記発進信号の指令を行うごとに繰り返す、
(1)~(4)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、溶接トーチをX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向に移動させる各移動機構の駆動源をステッピングモータで構成する場合、ステッピングモータの脱調を防止できる。
【0170】
(6) 前記第1速度設定値VLから前記第2速度設定値VHまでの期間を立上り期間とし、前記第2速度設定値VHから再度設けた前記第1速度設定値VLまでの期間を立下り期間とする場合に、
前記立上り期間及び前記立下り期間それぞれにおける前記速度条件の傾きの絶対値は固定値である、
(5)に記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、ステッピングモータの脱調を防止して安定して作動できる。また、立上り期間及び立下り期間においてもアークの移動に溶融池の形成を追従でき、溶融池をアークの直下に存在させて、良好な溶接ビードを形成できる。
【0171】
(7) 前記ウィービング基準軌跡の条件は、前記ウィービングパターンを決めるための前記基準距離として、溶接中心線に対して一方の側で隣り合う前記ウィービング端間の距離であるピッチPtを含む、
(2)~(4)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、ピッチPtを基準距離としてウィービング基準軌跡を決定できる。
【0172】
(8) 前記ウィービング端が前記Ptの1/2であるPt/2に位置するように、前記ウィービング基準軌跡を決定する、
(7)に記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、ウィービングの往路と復路を対称に設定できる。
【0173】
(9) 前記ウィービング端を除く位置において前記停止信号の指令及び前記発進信号の指令を設ける場合に、
前記停止信号の指令及び前記発進信号の指令を、前記ウィービング端と前記Pt/2の間に設ける、
(8)に記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、開先の壁に沿ってウィービングすることができ、立向溶接での良好な継手に有効である。
【0174】
(10) 前記ウィービング基準軌跡の条件は、
前記Pt/2に位置する一方側の前記ウィービング端の位置をシフトさせるために設定されるシフト量として、少なくとも1つの前記方向成分を有する、
(8)又は(9)に記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、鋸歯状のウィービングパターンを形成できる。
【0175】
(11) 前記シフト量を設定する前記方向成分は、少なくとも前記溶接線方向であって、
前記溶接線方向における溶接進行方向に前記ウィービング端の位置をシフトさせる、
(10)に記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、鋸歯状のウィービングパターンを形成できる。
【0176】
(12) 前記溶接の停止中又は前記溶接中にトーチ角度を変更する場合に、
前記ロボット移動機構のうち前記可搬型溶接ロボットを前記溶接線方向に移動させる機構として、前記可搬型溶接ロボットを前記ガイドレールに沿って移動させるX軸移動機構と、前記可搬型溶接ロボットに備えた近似直線移動機構とで構成され、
前記X軸移動機構に基づく移動速度と前記近似直線移動機構に基づく移動速度の組合せにより、前記溶接線方向への前記可搬型溶接ロボットの移動速度を制御する、
(2)~(4)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、溶接ワイヤの先端位置を移動させることなくトーチ角度を変更できる。
【0177】
(13) 前記ウィービング基準軌跡の条件は、それぞれの前記ウィービング端における停止時間、前記開先幅方向のウィービング幅、前記開先深さ方向のウィービング幅、及び前記ウィービングにおける往路と復路の速度比のうち少なくとも一つを含む、
(2)に記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、溶接条件に合わせて任意のウィービングパターンを設定できる。
【0178】
(14) ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて、開先を有するワークを溶接するためのウィービング制御に用いる溶接制御装置であって、
ウィービングパターンを決めるための基準距離に係るウィービング基準軌跡の条件を少なくとも設定する、設定ステップと、
前記設定ステップに基づいて決定されたウィービングパターンに基づき、前記可搬型溶接ロボットを移動させるロボット移動機構へ指令するための速度条件を、あらかじめ定めた複数の方向成分ごとに算出する、速度条件算出ステップと、
を有し、
前記速度条件算出ステップにおいて算出された前記複数の方向成分それぞれの前記速度条件に対する、停止信号の指令並びに前記停止信号を指令した直後又はあらかじめ定めた停止時間の経過後に行う発進信号の指令を、少なくともウィービング端の到達時において同期させる機能を有する、
ことを特徴とする溶接制御装置。
この構成によれば、ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて下向溶接、横向溶接、立向溶接といった各種姿勢溶接で良好な溶接品質を得ることができる。
【0179】
(15) (14)に記載の溶接制御装置を備える、溶接システム。
この構成によれば、ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて下向溶接、横向溶接、立向溶接といった各種姿勢溶接で良好な溶接品質を得ることができる。
【0180】
(16) (15)に記載の溶接システムを用いた溶接方法。
この構成によれば、ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて下向溶接、横向溶接、立向溶接といった各種姿勢溶接で良好な溶接品質を得ることができる。
【0181】
(17) ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて、開先を有するワークを溶接するためのウィービング制御に用いるウィービング制御プログラムであって、
ウィービングパターンを決めるための基準距離に係るウィービング基準軌跡の条件を少なくとも設定する、設定ステップと、
前記設定ステップに基づいて決定されたウィービングパターンに基づき、前記可搬型溶接ロボットを移動させるロボット移動機構へ指令するための速度条件を、あらかじめ定めた複数の方向成分ごとに算出する、速度条件算出ステップと、
を有し、
前記速度条件算出ステップにおいて算出された前記複数の方向成分それぞれの前記速度条件に対する、停止信号の指令並びに前記停止信号を指令した直後又はあらかじめ定めた停止時間の経過後に行う発進信号の指令を、少なくともウィービング端の到達時において同期させる機能を実行させる、
ことを特徴とするウィービング制御プログラム。
この構成によれば、ガイドレール上を移動する可搬型溶接ロボットを用いて下向溶接、横向溶接、立向溶接といった各種姿勢溶接で良好な溶接品質を得ることができる。
【符号の説明】
【0182】
開先形状検知位置
G 往路と復路の速度比
溶接線位置検知点
VXP 溶接線位置検知点Pでの溶接速度
YOP 溶接線位置検知点Pでのウィービング幅
Pt ピッチ(基準距離)
T1、T2 停止時間
Tsu1 加速時間(立上り期間)
Tsu2 減速時間(立下り期間)
UL ウィービングパターン
VH 設定速度(第2速度設定値)
VL 初期速度(第1速度設定値)
VX 溶接速度(X軸方向速度)
VY ウィービング速度(Y軸方向速度)
VZ ウィービング速度(Z軸方向速度)
WL 溶接線
ワーク
XO シフト量
YO ウィービング幅
ZO ウィービング幅
θ3 トーチ角度
10 開先
50 溶接システム
100 可搬型溶接ロボット
120 ガイドレール
180 近似直線移動機構
181 X軸移動機構(可搬型溶接ロボットをガイドレールに沿って移動させる移動機構)
182 Y軸移動機構(開先幅方向を移動する機構)
183 Z軸移動機構(開先深さ方向を移動する機構)
600 制御装置(溶接制御装置)
図1
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