(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047218
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】パラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル微粒子を含む水分散体
(51)【国際特許分類】
A61K 8/37 20060101AFI20230329BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
A61K8/37
A61Q17/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156177
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】591051885
【氏名又は名称】リードケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松澤 孝泰
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB211
4C083AB221
4C083AB241
4C083AB242
4C083AC102
4C083AC252
4C083AC341
4C083AC342
4C083AC372
4C083AC432
4C083AC442
4C083AC542
4C083AC662
4C083AC852
4C083AD042
4C083AD092
4C083AD202
4C083AD352
4C083AD642
4C083BB01
4C083CC05
4C083CC19
4C083DD31
4C083DD39
4C083EE01
4C083EE06
4C083EE17
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】水への溶解性が低いパラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)の水分散体を提供し、これを配合した皮膚外用剤を提供すること。
【解決手段】累積度数分布における50体積%粒子径(D50)が50乃至1,000nmであるパラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)微粒子を含む水分散体及びこれを配合した皮膚外用剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
累積度数分布における50体積%粒子径(D50)が50乃至1,000nmであるパラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)微粒子を含む水分散体。
【請求項2】
前記MMPC微粒子が、累積度数分布における50体積%粒子径(D50)が100乃至500nmである、
請求項1に記載の水分散体。
【請求項3】
さらに、平均粒子径が1乃至1,000nmである金属酸化物微粒子を含む、
請求項1又は請求項2に記載の水分散体。
【請求項4】
前記金属酸化物微粒子が、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される金属酸化物の微粒子である、
請求項3に記載の水分散体。
【請求項5】
前記金属酸化物微粒子が、微粒子表面がシリカ被覆された金属酸化物微粒子である、請求項4に記載の水分散体。
【請求項6】
さらに、界面活性剤を含む、請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載の水分散体。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のうちいずれか一項に記載の水分散体を配合してなる皮膚外用剤。
【請求項8】
パラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)と水とを含む混合液を調製する工程、及び
該混合液を湿式粉砕する工程を含む、
累積度数分布における50体積%粒子径(D50)が50乃至1,000nmであるパラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)微粒子を含む水分散体の製造方法。
【請求項9】
前記混合液が、さらに金属酸化物微粒子を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記金属酸化物微粒子が、微粒子表面がシリカ被覆された金属酸化物微粒子である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記混合液が、さらに界面活性剤を含む、請求項8乃至請求項10のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線吸収剤に関し、詳細には分散性に優れたパラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル微粒子を含む水分散体及びそれを配合した皮膚外用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紫外線の皮膚に対する有害性の認識が広まるにつれ、化粧品分野などにおいて紫外線防御剤の需要は高まり、様々な製品形態にて、紫外線防御剤を配合した製品が使用されている。
紫外線はその波長により、長波長のUVA(320~400nm)、中波長のUVB(280~320nm)、短波長のUVC(100~280nm)に分類され、オゾン層の吸収をあまり受けずに地表に到達するUVAとUVBがヒトへの影響を及ぼす紫外線として対応が求められる。
紫外線防御剤は、紫外線吸収剤と紫外線散乱剤に大別される。前者の紫外線吸収剤では、これまで、即時的な日焼け(サンバーン)を引き起こすUVBを効率よく抑制するべく、UVB吸収剤が主に活用されてきた。近年、光老化防止の意識の高まりから、皮膚のより深部の真皮まで到達し、シミやシワ、DNA損傷による皮膚がん発症などの原因となるUVAの防御が注目され、UVA吸収剤への要望が高まっている。
例えば、UVBだけでなくUVA領域まで紫外線吸収域が及ぶパラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニルが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記パラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(以下、MMPCとも称する)は優れたUVB吸収能に加えUBA吸収能を併せ持つ化合物であり、日焼け止め等に配合する紫外線吸収剤として非常に有用である。ただし、該化合物は室温で結晶形態を有し、水に対して溶解性が低いことが、化粧品等の皮膚外用剤に配合する際の障害となる。そのため、MMPCを脂溶性成分に溶解し、これを界面活性剤、高分子化合物などの成分と組み合わせて乳化分散させたものを皮膚外用剤等に使用していた。しかし本態様は多量の脂溶性成分の配合を要するため、皮膚外用剤としたときにベタつきなど使用感の悪化や洗浄性の悪化に加え、界面活性剤等の他の配合成分による皮膚刺激性が増すなどの問題が生じ得るものであった。
【0005】
本発明は、水への溶解性が低いパラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)の水分散体を提供することを課題とし、さらに該水分散体を配合した皮膚外用剤を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、これまで脂溶性成分への溶解が必須とされたMMPCを平均粒径が1μmを下回る程度にまで微粒子化することにより、脂溶性成分に溶解させずともMMPCの水分散体の提供が可能となることを見出した。そして該水分散体を用いた皮膚外用剤に適用することで、これまでベタつき等により使用感が悪いとされたMMPC含有の皮膚外用剤において、水分が多く清涼感のある使用感を実現できることを見出した。更に本発明者らは、前記のMMPCの水分散体において紫
外線散乱剤となる金属酸化物微粒子を配合することにより、相乗的な紫外線防御効果を得られることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、第1観点として、累積度数分布における50体積%粒子径(D50)が50乃至1,000nmであるパラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)微粒子を含む水分散体に関する。
第2観点として、前記MMPC微粒子が、累積度数分布における50体積%粒子径(D50)が100乃至500nmである、第1観点に記載の水分散体に関する。
第3観点として、さらに、平均粒子径が1乃至1,000nmである金属酸化物微粒子を含む、第1観点又は第2観点に記載の水分散体に関する。
第4観点として、前記金属酸化物微粒子が、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される金属酸化物の微粒子である、第3観点に記載の水分散体に関する。
第5観点として、前記金属酸化物微粒子が、微粒子表面がシリカ被覆された金属酸化物微粒子である、第4観点に記載の水分散体に関する。
第6観点として、さらに、界面活性剤を含む、第1観点乃至第5観点のうちいずれか一項に記載の水分散体に関する。
第7観点として、第1観点乃至第6観点のうちいずれか一項に記載の水分散体を配合してなる皮膚外用剤に関する。
第8観点として、パラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)と水とを含む混合液を調製する工程、及び
該混合液を湿式粉砕する工程を含む、
累積度数分布における50体積%粒子径(D50)が50乃至1,000nmであるパラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)微粒子を含む水分散体の製造方法に関する。
第9観点として、前記混合液が、さらに金属酸化物微粒子を含む、第8観点に記載の製造方法に関する。
第10観点として、前記金属酸化物微粒子が、微粒子表面がシリカ被覆された金属酸化物微粒子である、第9観点に記載の製造方法に関する。
第11観点として、前記混合液が、さらに界面活性剤を含む、第8観点乃至第10観点のいずれか一項に記載の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のMMPC微粒子を含有する水分散体は、MMPC結晶原末と比べて優れた紫外線抑制作用を有し、従来の脂溶性成分に前溶解して用いたMMPCと遜色のない紫外線抑制作用を有する。
また本発明は、これまで水への溶解性が低く脂溶性成分の使用が必須とされたMMPCの水分散体であり、水溶性成分だけでも皮膚外用剤への製剤化の道が開け、脂溶性の溶解剤を用いた際に生じるベタつきが少ないなど、使用感に優れた製剤を提供できる。
さらに、MMPCが溶媒に溶解していないため、化合物としての安定性が高いだけでなく、皮膚への吸収が抑制されることが期待でき、長期間の連続使用においても皮膚刺激性が少なく、安全性の高い製剤の提供が期待できる。
【0009】
また本発明のMMPC微粒子を含有する水分散体は、金属酸化物微粒子と組み合わせることで、紫外線吸収という有機系紫外線吸収剤の特徴と、散乱・分散という無機散乱剤の特徴をあわせ持ち、金属酸化物微粒子単体で使用した場合に比べて相乗的な紫外線抑制作用を有する。
また本発明の水分散体は金属酸化物微粒子の配合により、その分散状態がより安定化し、MMPC微粒子の濃度が比較的高濃度であっても分散状態を良好に保つことができる。そのため、これを希釈して皮膚外用剤とすることで、使用感がよい皮膚外用剤を提供でき
る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1はMMPC結晶の粒度分布を示す図である。
【
図2】
図2は粉砕後のMMPC微粒子の粒度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の水分散体に関して更に説明する。
なお本発明は、以下の本明細書に記載された実施形態や具体的な実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
【0012】
〈パラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)〉
本発明の水分散体は、紫外線吸収剤としてパラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)微粒子を含む。
MMPCは下記一般式Iで表される化合物であり、融点が93~94℃の白色結晶である。MMPCはUVA域に強い吸収能を有し、UVB域にも吸収能を有する広範囲な波長において紫外線抑制作用を有する。
【化1】
【0013】
本発明に係るMMPC微粒子は、累積度数分布における50体積%粒子径(D50)が50乃至1,000nmである粒子を用いることができる。
本発明における50体積%粒子径とは、動的光散乱法により測定される体積基準による50%体積径の値を採用できる。
好ましくは、前記MMPC微粒子の粒子径(D50)は100乃至500nmとすることができ、また150nm乃至350nmとすることができる。
なお上記MMPC微粒子の形状は特に限定されず、例えば、球状、多面体状、角状、中空状、棒状、板状、もしくは不定形状などであってもよい。
【0014】
前記MMP微粒子は、MMPC原末を粉砕によって微粒子化して得られる。該MMPC原末は一般に10μm乃至500μm程度の大きさを有する。
原末を粉砕により微粒子化する方法としては、メディア撹拌粉砕機による湿式粉砕などを採用することができる。本方法は、微小なビーズからなる粉砕メディアとともに、粉砕対象物を含有する液を撹拌し、メディアの剪断力で対象物を粉砕、分散させ、ナノレベルの微粒子を得る方法である。メディア撹拌粉砕機は、使用する粉砕メディアや目標到達粒子径などにより分類され、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、バスケットミルなどの名称で知られている。
【0015】
本発明の水分散体中のパラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニルの濃度は、例えば1~50質量%とすることができ、10~30質量%とすることができる。MMPCの濃度が高すぎると水分散体の粘度が上昇してMMPCの均一な分散が困難となり得、またMMPCの濃度が低すぎた場合、最終製品となる皮膚外用剤中でのMMPCの濃度が低下するた
め、目的にあわせてMMPCの濃度を選択すればよい。
【0016】
〈金属酸化物微粒子〉
本発明の水分散体は、上記MMPCに加えて、平均粒子径が1乃至1,000nmである金属酸化物微粒子を含有することができる。
【0017】
金属酸化物微粒子は、当該技術分野において紫外線散乱剤として使用され得、例えば酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される金属酸化物の微粒子を使用することができる。これらは1種を単独で、また2種以上を組み合わせて用いてもよく、また2種以上の金属の複合酸化物であってもよい。
金属酸化物微粒子の形状は特に限定されず、例えば、球状、多面体状、角状、中空状、コア-シェル状、多孔質状、棒状、板状、もしくは不定形状などをとることができる。
【0018】
また上記金属酸化物微粒子は、その表面が親水性に処理されてなることで、水分散体への分散性が良好となるため好ましく、該親水性処理は常法によって行うことができる。親水性処理としては、例えば、微粒子表面をシリカ被覆すればよい。
【0019】
本発明に用いる金属酸化物微粒子は、好ましくは、表面がシリカ被覆された微粒子であり、例えば平均粒子径が1~1000nmに微粒子化されたシリカ被覆酸化チタンまたはシリカ被覆酸化亜鉛を用いることができる。
【0020】
本発明の水分散体において、金属酸化物微粒子の配合量は特に限定されず、例えば、上記MMPCの配合量(質量)に対して1~200質量%とすることができ、また20~100質量%、あるいは30~50質量%とすることができる。金属酸化物微粒子の配合量が少ない場合、目的とする紫外線散乱効果を得ることができず、すなわち配合による恩恵を得られず、また配合量が多すぎた場合には皮膚に適用した際に白残りの原因となるなど、使用感を悪化させる虞がある。
【0021】
〈界面活性剤〉
本発明の水分散体には界面活性剤を配合できる。界面活性剤の使用により、前記MMPC微粒子や金属酸化物微粒子の水への分散性を高め、本発明の水分散体の安定状態を良好に保つことができる。
本発明で使用可能な界面活性剤として、特に限定されるものではないが、皮膚外用剤への適用を考慮し、低皮膚刺激性・低毒性のもの、例えば非イオン性の界面活性剤を挙げることができる。
具体的には、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、アルキル(ポリ)グルコシド、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。なかでも、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20EO)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、デシルグリコシド、ラウリン酸ポリグリセリル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、モノラウリン酸ポリエチレングリコール等を挙げることができ、これらは室温で液状である観点からも好適である。
また本発明の水分散体に用いられる界面活性剤のHLB値は、水への分散であることから、10以上であることが好ましい。
【0022】
本発明の水分散体において、界面活性剤の配合量は特に制限はないが、例えば、上記MMPCの配合量(質量)に対して1~100質量%とすることができ、また5~30質量%とすることができる。界面活性剤の配合量が少ない場合、目的とする分散性向上の効果
を得るこができず、また配合量が多すぎた場合には皮膚に適用した際にべとつきの原因となるなど、使用感を悪化させる虞がある。
【0023】
[皮膚外用剤]
本発明の水分散体は、皮膚外用剤への使用に適し、当該皮膚外用剤も本発明の対象である。
本発明の水分散体を皮膚外用剤に配合する場合、その配合量は目的とする紫外線吸収能に応じて適宜決定すればよいが、通常、皮膚外用剤の全質量に対して、MMPCが0.001乃至30質量%、また0.01乃至15量%、例えば1乃至10質量%、あるいは5乃至10質量%などとなるように配合することができる。
【0024】
本発明の皮膚外用剤は、これまで医薬品、医薬部外品、化粧品等に使用されてきた形態を制限することなく適用可能である。
例えば、軟膏、クリーム、乳液、液体、ゲル、スプレー、また貼付剤等の製品形態を挙げることができ、また化粧水(ローション)、美容液、日焼け止め、口紅、フェイスカラー、アイライナー、ヘアスプレー、ヘアトニック、ヘアリキッド等の種々の医薬品、医薬部外品、化粧品への適用が可能である。
【0025】
本発明の皮膚外用剤には、上記水分散体の他に、医薬品や医薬部外品、化粧品に通常配合可能な成分、例えば、MMPC以外のその他の紫外線吸収剤、水溶性基剤、溶剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、油脂類、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、低級アルコール、多価アルコール、エステル類、シリコーン類、被膜形成剤、キレート剤、糖類、アミノ酸類、有機アミン類、pH調整剤、安定化剤、酸化防止剤、香料、色素等を配合することができる。
【0026】
〈その他 紫外線吸収剤〉
その他の紫外線吸収剤としては、従来使用されている紫外線吸収剤(紫外線吸収化合物)を制限することなく使用でき、本発明に係るMMPC微粒子とその他の紫外線吸収剤と組み合わせることで紫外線吸収効果を高めることが期待できる。特にUVA吸収能を有する紫外線吸収剤と組合わせることで、MMPCの主たる吸収域であるUVB領域とあわせ、広範囲な波長域の紫外線を吸収することができる。
【0027】
その他の紫外線吸収化合物としては、皮膚外用剤に適用が可能な紫外線吸収化合物であれば特に限定されず、例えば、UVA吸収能を有する紫外線吸収剤として、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール(MBBT)、4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン(BMDBM)、2-4[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル]安息香酸ヘキシル、ジヒドロキシジメトキベンゾフェノンジスルホン酸ナトリウム(オキシベンゾン-9)、ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸2-エチルヘキシル、テレフタリリデンジカンフルスルホン酸、オキソチアゾリジン等を挙げることができる。
またUVAとUVBの双方に吸収があるとみられる紫外線吸収剤として、ジヒドロキシベンゾフェノン(オキシベンゾン-1)、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン(オキシベンゾン-2)、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン(オキシベンゾン-3)、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン(オキシベンゾン-6)、ドロメトリゾールトリシロキサン、4-ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、トリスビフェニルトリアジン等を挙げることができる。
さらにUVB吸収能を有する紫外線吸収剤として、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル(EHMC)、サリチル酸2-エチルヘキシル、ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸及びその水和物(オキシベンゾン-4)、2-シアノ-3,3-ジフェニル
-2-プロペン酸 2-エチルヘキシルエステル(オクトクリレン)等を挙げることができる。
これらその他の紫外線吸収化合物は、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
その他の紫外線吸収剤の配合量は、目的とする紫外線吸収能に応じて適宜決定すればよいが、上記MMPCの配合量(質量)に対して、例えば1~100質量%とすることができる。
【0029】
〈水溶性基剤〉
水溶性基剤は、前記MMPC微粒子の分散性を向上させることが期待できる。
本発明で使用可能な水溶性基剤として、特に限定されるものではないが、例えば、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトールなどのアルコール及びグリコール類;カラギーナン、キサンタンガム、ペクチン、プルラン、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー、アクリレーツコポリマーなどの水溶性高分子;などを挙げることができる。該水溶性高分子は増粘剤としての役割も果たす。
水溶性基剤の配合量は特に制限はないが、例えば、上記MMPCの配合量(質量)に対して1~1000質量%とすることができる。
【0030】
[水分散体の製造方法]
本発明はまた、パラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)微粒子を含む水分散体の製造方法も対象とする。
該製造方法は、パラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)の結晶原末と水とを混合する工程と、該混合液を上述したメディア撹拌粉砕機などにより湿式粉砕する工程とを含む。
本製造方法により得られるMMPC微粒子は、累積度数分布における50体積%粒子径(D50)が50乃至1,000nmであるものを得ることができる。
【0031】
なお、好ましい態様において、上記混合液はさらに上記金属酸化物微粒子を含み、また上記界面活性剤を含み得る。すなわち、MMPC結晶原末と金属酸化物微粒子と界面活性剤とを含む混合液を湿式分散させて、MMPC微粒子を含む水分散体を製造することができる。
一般に粉砕されて粒子径が小さくなると比表面積が増大し、粒子の破砕面が高活性となり、再凝集を起こしやすいことが知られている。さらに、MMPC結晶は比較的軟らかい結晶であり、湿式分散時の粉砕メディアの衝突エネルギーが十分に伝わりにくく、元より粉砕が難しい化合物であるとされていた。また、MMPC結晶の湿式粉砕にあっては、従来公知の界面活性剤を配合しても、得られた一次粒子がやがて大きな二次粒子となり、紫外線吸収能が鈍化することが本発明者らによって確認された。
本発明者らはこの点をさらに改良するべく、MMPC結晶の湿式粉砕時に金属酸化物微粒子を添加することで、粉砕時及び粉砕後の微粒子の分散性がより良好なものとなることを見出した。これは一因として、MMPC結晶の湿式粉砕時、金属酸化物微粒子がMMPC結晶に対して叩くように衝突することで、MMPC粉砕物の表面の少なくとも一部に金属酸化物微粒子が付着し、その結果、MMPC粉砕物(微粒子)間の相互作用が少なくなり、さらには結晶表面が金属酸化物微粒子により親水性に変化して水への分散性が向上したことで、MMPC微粒子の再凝集が生じにくくなったと考えられる。
特に表面をシリカで被覆した金属酸化物微粒子を用いた場合、負に帯電した表面シリカのイオン的な反発力によって、分散状態がより安定化されると考えられる。
【実施例0032】
以下に本発明の実施例をあげて、本発明についてさらに詳細な説明を行なうが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、配合量は全て質量%で示す。
【0033】
[参考例]
パラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニルの結晶50gと精製水450gを混合して混合液とし、これをビーズミル(ラボスター(登録商標)ミニ LMZ015)、アシザワ・ファインテック株式会社)を使用し、直径0.1mmと0.05mmのジルコニアビーズを用い、2段階で湿式粉砕・分散させて、MMPC微粒子が分散した白色の分散液を得た。
【0034】
得られたMMPC微粒子が分散した白色分散液について、マイクロトラックベル(株)(旧 日機装(株))の粒子径分布測定装置:マイクロトラック UPA150ST(動的光散乱(DLS)法)により粒度分布を得た。また粉砕前のMMPC結晶について、マイクロトラック MT3300EXII(レーザ回折・散乱法)により粒度分布を得た。
図1に粉砕前のMMPC結晶の粒度分布を、
図2に白色分散液(MMPC粉砕後)の粒度分布を示す。
図1及び
図2に示すように、粉砕前のMMPC結晶は、およそ10μm乃至500μmの粒径を有し、累積度数分布における50体積%粒子径(D
50)は104.9μm(
図1)であるのに対し、粉砕後のMMPC微粒子は、およそ50nm乃至2000nmの粒径を有し、累積度数分布における50体積%粒子径(D
50)は263nm(
図2)であることが確認された。
【0035】
[例1~例6]
累積度数分布における50体積%粒子径(D50)が250nmのMMPC微粒子を用い、下記表1及び表2に示す処方にて各成分を混合し、例1~例6の乳液を得た。なお以下の例において、乳液等の製剤調製に使用したMMPC微粒子分散液の配合量は、すべて、MMPC微粒子自体の配合量である。
得られた例1~例6の乳液について、下記〈紫外線抑制効果:評価方法〉にてSPF値を測定した。
得られた結果を表2にあわせて示す。
【0036】
〈紫外線抑制効果:評価方法〉
得られた製剤を、1.3mg/cm2となるようにヘリオプレートHD6(Helioscreen社製)上に均一に塗布し、小さいスポット状にまんべんなくサンプルをのせ、最初の約30秒は軽く塗り広げ、後の約30秒は強くすりこむように塗り広げ、暗所で15分間放置し、測定サンプルとした。
SPFアナライザー(SPF-290S、Optometrics社製)を用いて、in vitroにてSPF値を測定した。
【0037】
【0038】
【0039】
表2に示すように、金属酸化物微粒子(紫外線散乱剤)のみを配合した例1の乳液のSPF値は3.08と低く、これにUVA吸収剤であるメチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール(MMBT)を50%含有するチノソルブMを配合した例2の乳液(SPF値:4.47)、又はMMPCの乳鉢粉砕物を配合した例3の乳液(SPF値:7.11)にあっては、SPF値の多少の増加は認められたものの、低い値にとどまった。
一方、MMPC微粒子分散液(50体積%粒子径(D50)250nm)を配合した例4の乳液はSPF値が5.39であり、上記例1及び例2よりもSPF値が高く、またMMPC乳鉢粉砕物と金属酸化物微粒子の併用例(例3)に迫る結果となった。MMPC微粒子分散液と金属酸化物微粒子を併用した例5の乳液は、MMPC乳鉢粉砕物との併用例である例3と比べてSPF値が42.43に大きく増加した。さらにチノソルブMを配合した例6のSPF値は表示上限の50を超える結果となった。なお、MMPC微粒子分散液を配合せずに金属酸化微粒子にチノソルブMを添加した配合例(例1から例2)と比べても、例5から例6の乳液においてそのSPF値が大きく上昇する結果となった
【0040】
表2の結果より、MMPCの乳鉢粉砕物と比べてMMPC微粒子分散液はそれ自体の紫外線防御効果が高いこと、また金属酸化物微粒子自体の紫外線防御効果は大きくないものの(例1)、MMPC微粒子と金属酸化物微粒子とを併用することにより(例5)、SPF値が相乗的に増加することが確認された。これは、製剤中を光が透過する際、金属酸化物微粒子によって散乱された光はその行路が長くなり、その分、製剤中の紫外線吸収剤(MMPC)との接触機会が増加し、それによりMMPCの光吸収が増加したことが一因と考えられる。UVA吸収剤であるメチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール(MMBT)では、金属酸化物微粒子との相乗的なSPF値の上昇はみられていないことから、金属酸化物微粒子との併用による相乗効果は、MMPC微粒子特有の効果と考えられる。
【0041】
[例7~例12]
<例7>
ポリソルベート80(オレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、日油株式会社)24gを精製水336gに溶解し、シリカ被覆酸化チタン微粒子(マックスライトTS-043、昭和電工株式会社、酸化チタン90%、シリカ10%、平均粒子径32nm)120gを分散させた液に、パラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニル(MMPC)の結晶(原末)120gを添加し、混合した。その液を、ビーズミル(ラボスター(登録商標)ミニ LMZ015、アシザワ・ファインテック株式会社)を使用し、直径0.5m
mのジルコニアビーズを用いて粉砕した。
その分散液について、さらに、ビーズミル(ラボスター(登録商標)ミニ DMS65、アシザワ・ファインテック株式会社)を使用し、直径0.1mmと0.05mmのビーズを用い、2段階で粉砕・分散させて微粒子化し、白色の分散液を得た。
【0042】
<例8>
ラウリン酸ポリグリセリル-6(NIKKOL Hexaglyn 1-L、日光ケミカルズ株式会社)20gを精製水450gに溶解し、シリカ被覆酸化亜鉛微粒子(マックスライトZS-64、昭和電工株式会社、酸化亜鉛80%、シリカ20%、平均粒子径31nm)30gを分散させた。その液に、パラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニルの結晶(原末)100gを添加し、例2に示すように、直径0.5mm、0.1mm、0.05mmのジルコニアビーズを用いて3段階で粉砕分散し、白色の分散液を得た。
【0043】
<例9>
ラウリン酸ポリグリセリル-6(NIKKOL Hexaglyn 1-L、日光ケミカルズ株式会社)20gを精製水450gに溶解し、日局酸化チタン30gを分散させた液を、ビーズミル(ラボスター(登録商標)ミニ LMZ015、アシザワ・ファインテック株式会社)で、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて粉砕した。
この分散液に、パラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニルの結晶(原末)100gを添加し、さらに上記ビーズミルとビーズを用いて粉砕分散し、白色の分散液を得た。
その分散液について、さらに、ビーズミル(ラボスター(登録商標)ミニ DMS65、アシザワ・ファインテック株式会社)を使用し、それぞれ直径0.1mmと0.05mmのビーズを用い、2段階で粉砕・分散させて微粒子化し、白色の分散液を得た。
【0044】
<例10>
例7において、ポリソルベート80のかわりに、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(NIKKOL BL-9EX、日光ケミカルズ株式会社)を用いた以外は、例7と同様に操作して、白色の分散液を得た。
【0045】
<例11>
例8において、ラウリン酸ポリグリセリル-6のかわりに、マイドール10(花王株式会社、デシルグルコシド40%)を用いた以外は、例8と同様に操作して、白色の分散液を得た。
【0046】
<例12>
シリカ被覆酸化チタンを用いない以外は、例7と同様に操作して、白色の分散液を得た。
【0047】
[試験例:分散液 性状評価]
例7と例12の分散液について、マイクロトラックベル(株)(旧 日機装(株))の粒子径分布測定装置:マイクロトラック UPA150ST(動的光散乱(DLS)法)により粒度分布を得て、MMPCの平均粒子径(累積度数分布における50体積%粒子径(D50))を算出した。
また各分散液を調製後、室温にて1週間保管し、1週間経過後における分散液の外観及び容器底部に沈降する成分の有無(○:沈降成分あり、△:沈降成分ややあり、×:沈降成分が多く分散液が分離している)を目視にて確認した。
得られた結果を表3に示す。
【0048】
【0049】
表3に示すように、例7及び例12のいずれの分散液も平均粒子径(D50)が1μm未満の微粒子化されたMMPC水分散体が得られた。
また例12の分散液は、分散液調製後1週間経過後において、沈降成分がやや認められた概ね良好な分散状態を有していた。
特に金属酸化物微粒子を配合した例7は、より平均粒子径が小さい微粒子が得られ、また分散液調製後1週間経過後においても良好な分散状態を有していた。この理由として、上述したように湿式分散時、MMPC結晶が粉砕されて微粒子化されると、その少なくとも一部の表面に金属酸化物微粒子が付着し、それにより微粒子化されたMMPCの少なくとも一部の表面が親水性に変化することで、水との親和性が増加し、分散性向上の一因となったと考えられる。また、MMPC結晶は比較的軟らかいため、上述したようにビーズの衝突による粉砕が比較的難しいためと考えられる。
【0050】
[例13~例16]
下記表4に示す処方にて各成分を混合し、例13~例16の乳液を得た。
得られた例13~例16の乳液について、前記〈紫外線抑制効果:評価方法〉と同様の手段にて、SPFアナライザー(SPF-290S、Optometrics社製)を用いて、in vitroにてSPF値を測定した。
得られた結果を表4にあわせて示す。
【0051】
【0052】
表4に示すように、MMPC微粒子分散液の配合量に応じて、SPF値が増加傾向にあることが確認された。
【0053】
[例17~例18]
<例17>参考例10%
例7で得られた分散液2.5gに、マクロゴール400(ポリエチレングリコール(400)、Leutrol E400、BASF社)1g、アクリレーツコポリマー(エマルジョン、DERMACYL AQF、アクゾノーベル社、固形分45%)0.44g加え混合した後、最後に精製水を加えて10gとし、混合して白色乳液を得た。
【0054】
<例18>
パラメトキシケイヒ酸2-メチルフェニルの結晶(原末)0.5gに、脂溶性成分としてシクロヘキサンジカルボン酸ビスエトキシジグリコール(ネオソリューアクリオ、日本精化株式会社)3g、ラウロイルサルコシンイソプロピル(エルデュウ(登録商標)SL-205、味の素株式会社)1g及びアジピン酸ジイソプロピル(日光ケミカルズ株式会社)1gを加えて加温溶解した。これに、ポリソルベート80(オレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、日油株式会社)を0.5g、マクロゴール400(ポリエチレングリコール(400)、Leutrol E400、BASF社)を1g、アクリレーツコポリマー(エマルジョン、DERMACYL AQF、アクゾノーベル社、固形分45%)0.44g、シリカ被覆酸化チタン微粒子(マックスライトTS-043、昭和電工株式会社、酸化チタン90%、シリカ10%、平均粒子径32nm)0.5gを加え混合した。最後に精製水を加えて10gとし、混合乳化し、白色乳液を得た。
【0055】
[皮膚外用剤の官能評価]
例17及び例18の乳液を用いて、5人の被験者による官能評価を実施した。
5人の被験者の各上腕部に例17又は例18の乳液を塗布し、その使用感を、皮膚外用剤として要求される主な官能評価の項目(塗布時ののび、べたつき、白残り、洗浄性、総合評価)にて以下の<5段階評価>で評価した。得られた5段階評価の平均点を算出し、該平均点をさらに下記の<4段階評価>にて評価した。
なお洗浄性については、塗布1時間後、塗布部を水道水で洗浄したときの乳液の残存感を評価した。
得られた結果を表5に示す。
<5段階評価>
5点:良い 4点:やや良い 3点:普通 2点:やや悪い 1点:悪い
<4段階評価>
◎:4点以上 ○:3点以上4点未満 △:2点以上3点未満 ×:2点未満
【0056】
【0057】
表5に示すように、MMPC微粒子分散液を用いた例17の乳液は塗布時の伸びがよく、さっぱりとしてべたつきが無かった。また、塗布時の白残りもほとんどなく、塗布後の洗浄も容易であった。
一方、MMPC原末を脂溶性成分に溶解した例18の乳液は、塗布時ののびがやや悪く、油性感があってべたつき、塗布後洗浄してもぎらつき感が残った。
【0058】
[例19~例22]
下記表6に示す処方にて各成分を混合し、例19~例20のクリーム又は例21~例22の乳液を得た。
得られた例19~例20のクリーム又は例21~例22の乳液について、前記〈紫外線抑制効果:評価方法〉と同様の手段にて、SPFアナライザー(SPF-290S、Optometrics社製)を用いて、in vitroにてSPF値を測定した。
得られた結果を表6にあわせて示す。
【0059】
【0060】
表6に示すように、本発明に係るMMPC微粒子分散液を用いて、30以上もの高いSPF値を有するクリーム又は乳液処方を得ることができる。