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  • 特開-焼結鉱の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047300
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/20 20060101AFI20230329BHJP
【FI】
C22B1/20 B
C22B1/20 J
C22B1/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134689
(22)【出願日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2021155382
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 一昭
(72)【発明者】
【氏名】松村 勝
(72)【発明者】
【氏名】矢部 英昭
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001BA14
4K001CA33
4K001CA36
4K001CA39
4K001CA41
4K001CA42
4K001GA10
4K001KA06
4K001KA07
(57)【要約】
【課題】二段装入二段点火法において、歩留および生産率を改善する。
【解決手段】焼結機内に下段系の配合原料造粒物を装入することで、下段原料充填層を形成する工程と、下段原料充填層上に上段系の配合原料造粒物を装入することで、上段原料充填層を形成する工程と、下段原料充填層の表面および上段原料充填層の表面をそれぞれ点火するとともに、下方吸引により、下段原料充填層および上段原料充填層中に酸素を含む気体を大気圧で導入する工程とを含み、上段原料充填層の点火完了後に上段原料充填層の表面側から下方吸引される気体の少なくとも一部を、酸素濃度26体積%以上46体積%以下の酸素富化ガスとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結機内に下段系の配合原料造粒物を装入することで、下段原料充填層を形成する工程と、
前記下段原料充填層上に上段系の配合原料造粒物を装入することで、上段原料充填層を形成する工程と、
前記下段原料充填層の表面および前記上段原料充填層の表面をそれぞれ点火するとともに、下方吸引により、前記下段原料充填層および前記上段原料充填層中に酸素を含む気体を大気圧で導入する工程とを含み、
前記上段原料充填層の点火完了後に前記上段原料充填層の表面側から下方吸引される気体の少なくとも一部を、酸素濃度26体積%以上46体積%以下の酸素富化ガスとすることを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
焼結機の機長方向において、上段用点火炉出口から排鉱端部までの区間の中間の位置を中間位置、前記上段用点火炉出口から前記中間位置までの区間を前半区間とした際に、
前記酸素富化ガスが供給される領域は、前記前半区間の一部を含む領域であることを特徴とする請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
焼結機の機長方向において、上段用点火炉出口から排鉱端部までの区間の中間の位置を中間位置、前記上段用点火炉出口から前記中間位置までの区間を前半区間、前記中間位置から前記排鉱端部までの区間を後半区間とした際に、
前記酸素富化ガスが供給される領域は、少なくとも前記前半区間に該当する部分を含み、かつ、前記前半区間に該当する部分が前記後半区間に該当する部分よりも長いことを特徴とする請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
焼結機の機長方向において、上段用点火炉出口から排鉱端部までの区間の中間の位置を中間位置、前記上段用点火炉出口から前記中間位置までの区間を前半区間とした際に、
前記酸素富化ガスが供給される領域は、前記前半区間、又は、前記前半区間の一部であることを特徴とする請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項5】
前記下段原料充填層の配合原料として、700℃における燃焼速度が0.0022(1/sec)以上の高燃焼性炭材を配合することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項6】
前記高燃焼性炭材は、ロガ指数10未満の石炭を乾留したチャーを含むことを特徴とする請求項5に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項7】
前記高燃焼性炭材は、アブラ椰子核殻炭を含むことを特徴とする請求項5に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉原料用の焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法、特に二段装入二段点火焼結法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉製銑の主原料である焼結鉱は、通常、次のように製造される。まず、焼結鉱製造用の原料として、鉄鉱石(粉)等の鉄原料、スケール・製鉄ダスト等の含鉄雑原料、橄欖岩等のMgO含有副原料、石灰石等のCaO含有副原料、返鉱、燃焼熱によって焼結鉱を焼結(凝結)させる燃料となる炭材(凝結材)などを、所定の割合で混合する。混合した配合原料を造粒して配合原料造粒物とする。次に、配合原料造粒物を、ホッパより、下方吸引式のドワイトロイド(DL)式焼結機のパレット(焼結パレット)上に搭載して、配合原料の充填層(以下、原料充填層、又は原料層という)を形成する。形成した原料充填層の上部(表面)から、点火炉(点火炉)により原料充填層中の炭材に点火する。そして、パレットを連続的に移動させながらパレットの下方から空気を吸引する。吸引により原料充填層内に酸素を供給し、原料充填層中の炭材の燃焼を上部から下部に向けて進行させて、炭材の燃焼熱により原料充填層を順次焼結させる。焼結により得られた焼結部(シンターケーキ)は、所定の粒度に粉砕、篩分け等により整粒され、高炉の原料である焼結鉱となる。
【0003】
このようなDL式焼結機による焼結鉱の製造方法において、特許文献1には、原料充填層の形成と点火を二段以上の多段で行う多段装入多段点火焼結法が提案されている。多段装入多段点火焼結法の一例である二段装入二段点火焼結法(以下、二段装入二段点火法ともいう)では、造粒した配合原料を焼結機の層高方向に2回に分けて順に装入して二段の原料充填層(上段原料充填層と下段原料充填層)を形成するとともに、各原料充填層の表面に点火し、下方から空気を吸引することにより、各層の焼結反応を同時並行に進行させて焼結する方法である。
【0004】
二段装入二段点火焼結法においては、原料充填層を二段にして、二段で同時に焼結を進行させるため、生産量がほぼ倍増する。また、上段原料充填層(以下、上段層という)の焼結に使用された排ガスを、下方吸引により下段原料充填層(以下、下段層という)の焼結に再使用するため、排ガス量が低減(半減)するという利点がある。その一方で、上段層の焼結に使用されて酸素分圧が低下したガス(排ガス)が、下段層の焼結に使われ、下段層では低酸素分圧下での焼結となる。そのため、下段層中の炭材の燃焼が不完全となり、焼結に必要な熱量が不足して焼結反応の進行が妨げられ、下段層の焼結鉱の強度が低下するという問題があった。
【0005】
これに対して、吸引ガスの酸素富化を行う提案がなされている。
特許文献2には、焼結機全体から吸引される主排ガス中の酸素濃度を計測し、その酸素濃度が6%以上となるように、原料層表面から吸引されるガス(以下、吸引ガスという)中の酸素濃度を調整する技術が開示されている。実施例においては、吸引ガスの酸素濃度21%から25%までの範囲について検証しており、酸素富化による強度の改善効果が確認されている。
【0006】
また、特許文献3では、二段装入二段点火焼結法において加圧された酸素含有ガスを供給する方法が開示されている。そこでは、加圧される酸素含有ガスの酸素濃度として12~40%が好ましいとの記載がある。
【0007】
また、特許文献4には、一段装入で形成した装入層(原料充填層)において、点火炉でその上表面に点火することに加えて、装入層の上流端の中段部に側方からバーナーで点火することで、二段点火焼結法を実現する技術が開示されている。また、点火炉の下流側における吸引ガスの酸素富化により、下層の燃焼不足を解消することが提案されている。実施例においては、吸引ガス酸素濃度21%から46%までの範囲について検証しており、酸素富化による生産率向上と強度改善が確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭47-26304号公報
【特許文献2】特開昭62-60828号公報
【特許文献3】特開2000-17343号公報
【特許文献4】特開2015-157980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2の二段装入二段点火法の検証においては、吸引ガスの酸素濃度が25%を超える領域の検討はされていない。また、特許文献3の吸引される酸素含有ガスは、加圧された状態であって、通常の大気圧で吸引する二段装入二段点火法への示唆はない。
【0010】
また、特許文献4は、あくまで一度に原料を装入して一段の装入層を形成する一段装入法に対して、二段点火技術を適用した際の検証結果が開示されているものである。配合原料は、装入シュートを介して焼結機パレット内に充填される際に、粒度が小さいものは原料層の上層側に、粒度が大きいものは原料層の下層側に多く配置される粒度偏析を伴って装入される。その結果、たとえば、細かい粒子からなる炭材は、原料層の上層側に多く分布することとなる。一段装入法における下層は、二度に分けてそれぞれの装入層を形成する二段装入法における下段層に比べて、原料粒度が粗くなり、また、炭材濃度が低くなる。一方、このような層厚(層高)方向の粒度偏析や炭材分布の違いにより、焼結時の層内温度や通気性などの焼成条件が変わり、歩留や生産性に影響を与えることが一般的に知られている。
【0011】
また、特許文献4の技術において、下層の点火は、装入層の上流端の中段部に側方からフレーム(火炎)を当てて行う。パレット上の装入層はパレットとともに排鉱端側に移動してしまうことから、二段点火法における点火炉による点火に比べて、必然的に点火時間が短くなる。また、点火中の下層とフレームとの間には、ホッパから供給された配合原料造粒物が入り込む。そのため、実機操業において下層の投入熱量が低下し、十分に焼結反応が進まない虞がある。装入層の上流端である斜面に向けてフレームを吹き付けるため、粒度偏析などにも影響が及ぶことが考えられる。以上より、発明者らは、特許文献3の知見からは、二段装入二段点火法における吸引ガス酸素富化の効果を想定することはできないと考えた。
【0012】
本発明者らは、上記の問題に鑑みて、二段装入二段点火法において、大気圧で吸引されるガスの酸素濃度を、25%を超える高酸素濃度領域に設定した際の歩留および生産性(生産率)への影響の検討を試みた。
【0013】
本発明の目的は、二段装入二段点火法において、歩留および生産率の改善を可能とする焼結鉱の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)焼結機内に下段系の配合原料造粒物を装入することで、下段原料充填層を形成する工程と、
前記下段原料充填層上に上段系の配合原料造粒物を装入することで、上段原料充填層を形成する工程と、
前記下段原料充填層の表面および前記上段原料充填層の表面をそれぞれ点火するとともに、下方吸引により、前記下段原料充填層および前記上段原料充填層中に酸素を含む気体を大気圧で導入する工程とを含み、
前記上段原料充填層の点火完了後に前記上段原料充填層の表面側から下方吸引される気体の少なくとも一部を、酸素濃度26体積%以上46体積%以下の酸素富化ガスとすることを特徴とする焼結鉱の製造方法。
(2)焼結機の機長方向において、上段用点火炉出口から排鉱端部までの区間の中間の位置を中間位置、前記上段用点火炉出口から前記中間位置までの区間を前半区間とした際に、前記酸素富化ガスが供給される領域は、前記前半区間の一部を含む領域であることを特徴とする(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
(3)焼結機の機長方向において、上段用点火炉出口から排鉱端部までの区間の中間の位置を中間位置、前記上段用点火炉出口から前記中間位置までの区間を前半区間、前記中間位置から前記排鉱端部までの区間を後半区間とした際に、
前記酸素富化ガスが供給される領域は、少なくとも前記前半区間に該当する部分を含み、かつ、前記前半区間に該当する部分が前記後半区間に該当する部分よりも長いことを特徴とする(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
(4)焼結機の機長方向において、上段用点火炉出口から排鉱端部までの区間の中間の位置を中間位置、前記上段用点火炉出口から前記中間位置までの区間を前半区間とした際に、
前記酸素富化ガスが供給される領域は、前記前半区間、又は、前記前半区間の一部であることを特徴とする(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
(5)前記下段原料充填層の配合原料として、700℃における燃焼速度が0.0022(1/sec)以上の高燃焼性炭材を配合することを特徴とする(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の焼結鉱の製造方法
(6)前記高燃焼性炭材は、ロガ指数10未満の石炭を乾留したチャーを含むことを特徴とする(5)に記載の焼結鉱の製造方法。
(7)前記高燃焼性炭材は、アブラ椰子核殻炭を含むことを特徴とする(5)に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、二段点火法において、上段点火完了後に、上段層の表面から酸素濃度26体積%(vol%)以上46体積%(vol%)以下の酸素富化ガスを吸引することで、歩留、および生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態である二段装入二段点火焼結法による焼結鉱製造工程を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1を参照して本発明の一実施形態である二段装入二段点火焼結法について、説明する。
図1は、造粒した配合原料を二段に装入して、上段原料充填層(以下、上段層という)と下段原料充填層(以下、下段層という)とを形成し、上段層と下段層のそれぞれに点火して焼結を実施する二段装入二段点火焼結法による焼結鉱製造工程を示す概要図である。
【0018】
まずは従来技術としての二段装入二段点火焼結法の一例について説明する。
図1に示す例では、上段層20を形成する上段用配合原料と、下段層10を形成する下段用配合原料とが別系統(2系統)で準備されて、別系統で焼結機100のパレット(図示は省略)上に装入される。具体的には、下段用の原料は、下段原料槽群1Dの各原料槽(1D~1D)内に貯留され、必要な種類と量の原料が所定の割合で切り出されて配合される。配合された下段用の原料(下段用配合原料)は、下段用ドラムミキサー1Aに投入されて混合され、水分が加えられて造粒される。また、上段用の原料は、上段原料槽群2Dの各原料槽(2D~2D)内に貯留され、必要な種類と量の原料が所定の割合で切り出されて配合される。配合された上段用の原料(上段用配合原料)は、上段用ドラムミキサー2Aに投入されて混合され、水分が加えられて造粒される。なお、下段用及び上段用の原料の炭材には粉コークスや無煙炭などが用いられる。例えば、粉コークスと無煙炭の両方を原料として用いる場合には、それぞれを別の原料槽に貯留してもよいし、粉コークスと無煙炭とを所定の割合で混合した状態で1つの原料槽に貯留してもよい。
【0019】
造粒された下段用配合原料(下段用配合原料造粒物)は、下段用ホッパ1Bから、床敷鉱を敷きつめたパレット上に装入されて、下段層10(下段原料充填層)を形成する。下段層10は、パレットをパレット進行方向5へ移動させることにより、下段用点火炉1C下まで移動し、そこで、下段用点火炉1Cにより下段層10表面の炭材に点火される。点火後、パレット下の風箱(図示は省略)を介して、下方から空気を吸引する下方吸引6により、下段層10の焼結が開始される。下段層10の焼結は、引き続く下方吸引6により下方に進行し、下段層燃焼帯10Aを形成する。
【0020】
焼結が開始された下段層10が上段用ホッパ2B下まで移動したとき、上段用ドラムミキサー2Aにより造粒された上段用配合原料(上段用配合原料造粒物)は、上段用ホッパ2Bから、点火後の下段層10上に装入されて、上段層20(上段原料充填層)を形成する。上段層20は、パレットをパレット進行方向5へ移動させることにより、上段用点火炉2C下まで移動し、そこで、上段用点火炉2Cにより上段層20表面の炭材に点火される。点火後、下方吸引6により、上段層20の焼結が開始される。上段層20の焼結は、引き続く下方吸引6により下方に進行し、上段層燃焼帯20Aを形成する。
【0021】
下段層10の下段層燃焼帯10A、および、上段層20の上段層燃焼帯20Aは、その後の更なる下方吸引6により、同時並行で焼結が進行し下降する。下段層燃焼帯10A、上段層燃焼帯20Aがそれぞれの層の最下部まで到達すると、炭材の燃焼による焼結が終了し、下段層10および上段層20は焼結部3となる。最終的に、焼結が完了した焼結部3は、パレット終端より排鉱される。
【0022】
本発明の焼結鉱の製造方法においては、焼結機内に下段系の配合原料造粒物を装入することで、下段原料充填層を形成する工程と、下段原料充填層上に上段系の配合原料造粒物を装入することで、上段原料充填層を形成する工程と、下段原料充填層の表面および上段原料充填層の表面をそれぞれ点火するとともに、下方吸引により、下段原料充填層および上段原料充填層中に酸素を含む気体を大気圧で導入する工程とを含み、上段原料充填層の点火完了後に上段原料充填層の表面側から大気圧で下方に吸引される気体を、酸素濃度26vol%以上46vol%以下の酸素富化ガスとすることを特徴とする。具体的には、図1に示すように、焼結機100は、酸素富化ガス供給設備7を備えている。酸素富化ガス供給設備7は、フード8と、このフード8内に酸素富化ガスを供給するガス管9とを有し、上段原料充填層の上方(表面側)に酸素濃度26vol%以上46vol%以下の酸素富化ガスを供給する。供給された酸素富化ガスは、風箱の下方吸引6により、原料充填層内に導かれて焼結反応を進行させ、風箱により排ガスとして回収される。
また、フード8を設けず、ガス管9から上段原料充填層の表面に向けて酸素ガスを噴射し、大気とともに吸引させてもよい。このとき、上段原料充填層の表面での酸素濃度が26vol%以上46vol%以下となるように、ガス管9から噴射される酸素ガスの供給量を調整する。
【0023】
以下、酸素富化ガスを供給する際の好ましい範囲(領域)について、焼結機100の機長方向(パレット進行方向5)において、上段用点火炉出口Xから排鉱端部Yまでの区間(全区間)の中間の位置を中間位置Z、上段用点火炉出口Xから中間位置Zまでの区間を前半区間、中間位置Zから排鉱端部Yまでの区間を後半区間として説明する。
【0024】
フード8を設ける区間、すなわち、原料充填層の表面に酸素富化ガスを供給する範囲(酸素富化領域)は、焼結機100の機長方向において、前半区間(上段用点火炉出口Xから中間位置Zまでの区間)の一部を含む領域であることが好ましい。また、少なくとも前半区間に該当する部分を含み、かつ、前半区間に該当する部分が後半区間(中間位置Zから排鉱端部Yまでの区間)に該当する部分よりも長いことが好ましい。さらに、原料充填層の表面に酸素富化ガスを供給する範囲(酸素富化領域)は、前半区間であること、または、前半区間の一部であることがより好ましい。
【0025】
この根拠は後述する実施例にて、酸素富化ガスの供給範囲を、中間位置Zから排鉱端部Yまでの範囲(後半区間)とするよりも、上段用点火炉出口Xから中間位置Zまでの範囲(前半区間)、またはその一部(前半区間の一部)とした方が有効であったことによる。また、酸素富化領域を全区間の一部とする場合において、前半区間での酸素富化の方が後半区間での酸素富化よりも有効である理由は、以下のように考えられる。
【0026】
酸素富化は、酸素不足により下段層中の炭材燃焼が不活発(不完全)となる状況を改善するために実施され、酸素富化を実施した区間では炭材燃焼が活発になり、焼結機内部の温度を適切に高温に維持できる。前半区間において酸素富化を実施した場合には、前半区間での高温維持により、後半区間で酸素富化を実施しなかった場合でも焼結機内部の温度を高温に維持し、焼結反応を進行させることができる。一方、前半区間において酸素富化を行わず後半区間で酸素富化を実施した場合は、前半区間において炭材燃焼が不活発となり焼結機内部の温度が低下してしまうため、その後の後半区間で酸素富化を実施しても、焼結機内部の温度を十分に回復することが難しくなる。このため、前半区間での酸素富化が好ましい。
【0027】
また、焼結機においては、配合原料装入時に粒度偏析を付けており、鉄鉱石などの主原料と比べて粒度の細かい炭材は上方で濃度が高くなる。このため、二段装入二段点火においては、下段層、上段層それぞれで、上方が下方よりも炭材量が多い。炭材量が多いほど燃焼に必要となる酸素量が多くなるため、層上方の燃焼区間に該当する前半区間で酸素富化する方が好ましい。酸素ガスのコストを抑えるなどのために酸素富化領域を限定する場合は、以上の理由により、少なくとも前半区間の一部が含まれる領域(段落0024に記載の各領域)とすることが好ましい。
【0028】
なお、上段用配合原料および下段用配合原料の配合は、同一でも異なっていてもよい。また、同一とする場合には、上段用配合原料および下段用配合原料を別系統(2系統)で準備するのではなく、同一系統で準備してもよい。
【0029】
ここで、後述する実施例で示すように、本発明の焼結鉱の製造方法において、下段用の原料の炭材の一部または全部に高燃焼性炭材を使用することが好ましい。高燃焼性炭材とは、表1に例示するように、700℃における燃焼速度(燃焼速度(700℃))が0.0022(1/sec)以上の炭材(凝結材)であり、石炭チャーやアブラ椰子核殻炭(PKS炭)や木材を乾留して製造した木炭チャーなどが該当する。なお、高燃焼性炭材は、コークスや無煙炭よりも燃焼開始温度が低い。
【0030】
【表1】
【0031】
アブラ椰子核殻炭(PKS炭)は、アブラ椰子核殻(Palm Kernel Shell)を加熱処理(乾留)して製造した固体炭化物である。また、石炭チャーは、例えば、ロガ指数10未満の低流動性石炭を原炭として乾留して製造した焼結用炭材(チャー)である。石炭チャーは、原料となる石炭(混炭を含む)を、熱分解炉(例えばロータリーキルン)により乾留して製造される。ロガ指数10未満の低流動性石炭を原炭とすることにより、高燃焼性の石炭チャーを製造することができる。なお、石炭の流動性とは、加熱時の低分子化の度合に起因する特性であり、低流動性石炭は加熱時の低分子化が生じにくい特性を有する石炭である。
【0032】
ロガ指数はJIS-M8801に規定されているロガ試験方法によって算出される。ロガ試験方法について、以下に説明する。
まず、粒径が200μm以下である低品位炭1gと標準無煙炭5gを、るつぼ中で十分混合する。標準無煙炭としては、灰分(無水ベース)が4.0%以下であり、揮発分(無水ベース)が5.0~6.5%であり、粒径が300~400μmである無煙炭が用いられる。次に、耐熱鋼おもりを用いて、るつぼ中の低品位炭及び標準無煙炭に対して、所定時間(少なくとも30秒)の間、一定の荷重(59N)を加える。
【0033】
次に、炉内温度が850±10℃に設定された電気炉内に上述したるつぼを配置して、15分間、低品位炭及び標準無煙炭を加熱(乾留)する。そして、加熱したるつぼを耐熱板に配置して45分間冷却した後、るつぼの内容物(以下、乾留物という場合がある)の質量を測定するとともに、1mmの円孔板ふるいを用いて、篩上の乾留物の質量を測定する。
【0034】
次に、るつぼの内容物(乾留物)をドラムに入れて、ドラムを所定の回転速度(50rpm)で5分間回転させることにより、乾留物に対して破壊処理を行う。ドラムの内径は200mm、ドラムの深さは70mmであり、ドラムの内周壁には、長さ70mm、幅30mmの2枚の羽根が対称に配置されている。
【0035】
次に、1mmの円孔板ふるいを用いて、破壊処理後の乾留物の篩い分けを行い、篩上の質量を測定する。上述した破壊処理を3回繰り返して行い、下記式(1)に基づいてロガ指数を算出する。式(1)において、RIはロガ指数である。mは、乾留後のるつぼの内容物(乾留物)の全質量[g]、mは、1回目の破壊処理を行う前における篩上の乾留物の質量[g]、mは、1回目の破壊処理を行った後における篩上の乾留物の質量[g]である。mは、2回目の破壊処理を行った後における篩上の乾留物の質量[g]、mは、3回目の破壊処理を行った後における篩上の乾留物の質量[g]である。
【0036】
【数1】
【0037】
表1で示す燃焼速度(700℃)は、以下のように算出される。
まずは、装置内の熱天秤に測定対象となる試料10mgを設置し、装置内部を充分に窒素によってパージした後、窒素を200ml/min流通させた状態で、100℃/minの昇温速度にて加熱を行う。試料温度が700℃に到達後、直ちに流通ガスを窒素から空気200ml/minへ切り替え、その重量減少を測定し、その結果得られた反応時間t(流通ガスを窒素から空気へ切り替えてからの経過時間)と、反応率X(X=[各時間における重量減少量-測定終了時における未燃物重量]/[試料の初期重量-測定終了時における未燃物重量])のデータとを得る。そして、各反応率における反応速度dX/dtを算出し、X=0~0.5までの平均値を算出して、その平均値を700℃における燃焼速度とする。
【0038】
二段装入二段点火法では、上段層に比べて下段層では供給されるガスの酸素濃度が低い。高燃焼性炭材は燃焼開始温度が低いので、低酸素環境下による低い温度状況下でも燃焼するため、燃焼不良(炭材の燃え残り)を抑制することができる。ここで、後述する実施例で示すように、下段層での高燃焼性炭材の使用に、酸素富化を組み合わせると、生産率、歩留が大きく改善する。この効果には、以下の理由が考えられる。表1に示すように、高燃焼性炭材の燃焼速度は速い。しかしながら、高燃焼性炭材を使用しても、酸素富化を実施しない場合、燃焼不良の抑制は可能だが、酸素不足により燃焼速度が十分な速さとならず不活発であり、焼結機内部における適切な高温温度維持が難しい。一方、酸素富化を実施すると、酸素濃度により高燃焼性炭材の燃焼速度を調整することができる。酸素富化を実施することにより、焼結速度を速めて炭材燃焼を活発にすることができ、焼結機内部の温度を適切に高温に維持できる。さらに、高燃焼性炭材は燃焼速度(700℃)が速いので、高燃焼性炭材を焼結工程で使用すると、炭材全量の燃焼完了までの時間が短くなり、焼結完了までの時間も短くなる。焼結完了までの時間が短くなることで、単位時間での焼結鉱製造量が増えることとなり、生産率(t-焼結鉱/day/m(t/d/m))が高くなる。よって、下段層へ高燃焼性炭材を積極的に配合することが、生産性向上(焼結速度向上)に効果的である。
【0039】
高燃焼性炭材の下段層への配合は、以下のように行う。
図1に示すように、上段層20を形成する上段用配合原料と、下段層10を形成する下段用配合原料とが別系統(2系統)とする。そして、下段原料槽群1Dの原料槽(1D~1D)の中に高燃焼性炭材を貯留する原料槽を設ける。例えば、下段原料槽群1Dの原料槽1D(第1炭材槽)には高燃焼性炭材以外の炭材(例えば、コークス又は/及び無煙炭)を、原料槽1D(第2炭材槽)には高燃焼性炭材(例えば、石炭チャー又は/及びPKS炭)を貯留する。2種類以上の高燃焼性炭材以外の炭材、2種類以上の高燃焼性炭材を使用する場合は、種類ごとに貯留する原料槽を設けてもよい。
【実施例0040】
本発明の効果を実証する実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
発明者らは、DL焼結機による焼結を模擬できる焼結鍋試験(直径300mm)を行い、本発明の効果を検証した。焼結鍋試験装置は、DL焼結機のようにパレットによる原料充填層の移動こそないが、所定の大きさの容器に配合原料を装入して、上面から着火して下方吸引により焼結を進行させる試験装置である。
後述する表3に示すように、比較例1~4と、発明例1~10の13の実験を行った。
【0042】
(原料配合)
表2は、原料とその配合割合を示す。表2に示すように、配合原料は、配合原料aと配合原料bの2種類用意した。配合原料のうち、新原料である鉄鉱石A~D、橄欖岩、生石灰、および石灰石は、表2に示す割合で配合した。鉄鉱石A~Dは異なる産地のものを使用した。また、凝結材(炭材)は、新原料を100質量%として外数で4.5質量%配合した。炭材として、配合原料aでは粉コークスを配合し、配合原料bでは粉コークスと高燃焼性炭材であるPKS炭とを半量ずつ配合した。また、後述する表3に示すように、比較例4と発明例9,10の下段層においてのみ、配合原料bを使用した。すなわち、比較例4および発明例9,10では、下段層にPKS炭を凝結材として配合している。
【0043】
【表2】
【0044】
(造粒方法)
上段層の原料および下段層の原料のそれぞれを、別々に造粒した。造粒は、ドラムミキサー(直径600mm、回転数25rpm)を用いて4分間混合後、配合原料に対して7.2質量%の水分を添加し、さらに4分間処理した。
【0045】
(試験水準)
以下に、試験水準を示す。表3の上段に示すように、比較例1~4、発明例1~10において、上段層の表面側から供給され、大気圧で下方に吸引される吸引ガスの酸素濃度の条件を、21vol%(酸素富化なし)以上50vol%以内の範囲で変えて、二段装入二段点火を実施した。また、詳細は後述するが、酸素富化ガスの供給は、比較例2~3、発明例1~3,7~10の焼結鍋試験では実機における前半区間(上段用点火炉出口から排鉱端部までの区間の前半部分)に該当する層高範囲(位置)とし、発明例4では後半区間(上段用点火炉出口から排鉱端部までの区間の後半部分)に該当する層高範囲、発明例5では前半区間一部に該当する層高範囲、発明例6で前半区間および後半区間の両方(全区間)に該当する層高範囲とした。なお、比較例1では酸素富化を行っていない。
【0046】
【表3】
【0047】
(焼成条件)
二段装入の各層厚は、下段層500mm、上段層300mmとした。鍋は、高さ500mmの円柱形の下段用鍋(直径300mm)と、高さ300mmの円柱形の上段用鍋(直径300mm)の2本を準備した。
まず、下段用鍋および上段用鍋に造粒した下段用配合原料および上段用配合原料を装入して、下段層の層高を500mm、上段層の層高を300mmとした。そして、層高500mmの下段用鍋をセットして、下段層の表面に1分間点火した。その後、下段用鍋の上に、層高300mmの上段用鍋をセットして、上下二段での焼結の進行を実現するために、層高320mm位置(下段層の下面から320mm位置)の温度上昇確認後(後述する熱電対による温度測定による)に、上段層の表面に1分間点火した。吸引圧は、点火開始から1200mmAq(11.8kPa)一定とした。
【0048】
(焼結時間)
層高440mm,320mm,230mm,170mm位置に熱電対を挿入し、層内温度を測定した。上段層の焼結完了と下段層の焼結完了の遅い方を、原料充填層全体(上段層および下段層)としての焼結完了とみなすため、440mm位置の熱電対の2回目の温度上昇開始時刻(上段層の焼結完了)までの所要時間と風箱位置の排ガス温度のピーク時刻(下段層の焼結完了)までの所要時間の2つのうち長い方を、原料充填層全体の焼結時間とした。焼結完了となった時刻から3分後に吸引を停止し、焼結終了とした。
【0049】
(酸素富化)
表3に示すように、酸素富化は、前半区間の一部、前半区間、後半区間、全区間の4つのパターンで実施した。前半区間の一部の条件では上段点火開始直後から、230mm位置温度上昇タイミングまで酸素富化を実施した。前半区間の条件では、上段点火開始直後から、上段層の層高のほぼ半分の位置に該当する170mm位置温度上昇タイミングまで酸素富化を実施した。後半区間の条件では、170mm位置温度上昇タイミングから実験終了まで酸素富化を実施した。全区間の条件では、上段点火開始直後から実験終了まで酸素富化を実施した。
【0050】
(歩留)
歩留は、以下のように測定した。焼結後、得られた焼結ケーキを、2mの高さから4回落下処理を行い、粒径+5mm(5mm超)を焼結成品として質量を求めた。シンターケーキの総質量に対するこの焼結成品の割合(質量%)を、ここでの成品歩留(+5mm%)と定義した。
【0051】
(生産率)
生産率は、上述のように測定した焼結時間に基づいて、以下の式(2)により求めた。
生産率=成品量(t)/焼結面積(0.07m)/焼結時間(日) ・・・(2)
【0052】
(焼結鉱強度)
焼結鉱強度は、JIS M8712(2009)に基づいて、冷間強度(回転強度指数TI)を測定した。ただし、供試試料の質量は15kg(15mm-40mmサイズ)とした。なお、強度測定においては、下段焼結鉱(下段用鍋内の焼結鉱)のみ測定をおこなった。測定に用いる装置は円筒容器(直径1000mm、奥行き500mm)であり、供試試料をこの中に入れて回転速度25rpmで8分間回転する。回転後回収した焼結鉱について+6mmの質量を求め、供試試料15kgに対するこの焼結鉱の割合(質量%)を冷間強度とした。
【0053】
(試験結果)
表3の下段に、試験結果を示す。
高燃焼性炭材を使用しないケースの試験結果では、表3に示すように、比較例1、2に対して、発明例1~8では、歩留だけでなく、生産率が大幅に向上した。また、強度については、発明例1では、比較例1、2と略同程度であったが、発明例2~8では向上した。酸素濃度50vol%の比較例3では、酸素濃度46vol%の発明例8よりも、歩留、強度、及び生産率が低下している。このことから、過大な酸素富化は不要であり、酸素濃度は26vol%から46vol%が望ましいことがわかった。また、酸素濃度を36vol%で一定とし、酸素富化位置を変えた発明例3~5の結果から、以下のことがわかった。酸素富化は後半区間よりも前半区間の方が有効である(発明例3、4の比較)。また、前半区間よりも前半区間一部の方が効果は劣るが、酸素富化を行う区間の長さに対する歩留、強度、生産率の改善率(比較例1を基準)を求めると、前半区間一部の方が効率的に効果を享受できる(発明例3、5の比較)。
【0054】
高燃焼性炭材を使用したケースの試験結果は以下のようになった。比較例4に示すように、酸素富化をせずに高燃焼性炭材(PKS炭)を下段層に配合した場合、PKS炭を配合していない比較例1よりも歩留、生産率ともに低下している。この結果に対して、PKS炭を下段層に配合するとともに酸素富化を行った発明例9においては、酸素富化をせずに高燃焼性炭材(PKS炭)を下段層に配合した比較例4と酸素富化もPKS炭の配合も行っていない比較例1よりも生産率、歩留が顕著に改善した。また、供給ガス酸素濃度を高めた発明例10においては、PKS炭を配合せずに酸素富化を行った発明例8と比べて、歩留を高位に維持したまま、下段層の強度が向上し、生産性もさらに大きく向上している。PKS炭に限らず、高燃焼性炭材である石炭チャーでも同様の効果が見られた。これらの結果により、高燃焼性炭材の使用と酸素富化の組み合わせが有効であることがわかった。
【符号の説明】
【0055】
100…焼結機、1A…下段用ドラムミキサー、1B…下段用ホッパ、1C…下段用点火炉、1D…下段用原料槽群(下段原料槽1D~1D)、2A…上段用ドラムミキサー、2B…上段用ホッパ、2C…上段用点火炉、2D…上段用原料槽群(上段原料槽2D~2D)、3…焼結部、5…パレット進行方向、6…下方吸引、7…酸素富化ガス供給設備、8…フード、9…ガス管、10…下段層、10A…下段層燃焼帯、20…上段層、20A…上段層燃焼帯、X…上段用点火炉出口、Y…排鉱端部、Z…中間位置
図1