(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047305
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】Nd-Fe-B系磁性体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20230329BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20230329BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230329BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20230329BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20230329BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20230329BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20230329BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20230329BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20230329BHJP
C22C 45/00 20230101ALI20230329BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230329BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
C22C28/00 A
B22F3/00 F
B22F1/05
B22F3/24 K
B22F3/24 B
B22F9/04 D
B22F9/04 C
B22F9/04 E
B22F9/08 A
C22C45/00
B22F1/00 Y
C22C33/02 H
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139853
(22)【出願日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】202111121731.8
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】310005618
【氏名又は名称】煙台東星磁性材料株式有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100139033
【弁理士】
【氏名又は名称】日高 賢治
(72)【発明者】
【氏名】王伝申
(72)【発明者】
【氏名】楊昆昆
(72)【発明者】
【氏名】彭衆傑
(72)【発明者】
【氏名】丁開鴻
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BA08
4K017BB01
4K017BB05
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5E040AA04
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5E040NN17
5E062CD04
5E062CG02
5E062CG05
(57)【要約】
【課題】低コストでありながら従来の磁性体と同程度の性能を有するNd-Fe-B系磁性体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Nd-Fe-B系磁性体の原料は、Nd-Fe-B系合金、低融点合金及びその他添加剤を含み、Nd-Fe-B系合金は、重量百分率で28%≦R≦30%の希土類元素Rと、重量百分率で0.8%≦B≦1.2%のBと、重量百分率で0%≦M≦3%のMと、を含み、Mは、Co、Tiの少なくとも一つであり、低融点合金は、CeCu、CeAl、CeGaのいずれ一つ又は複数を含み、拡散源は、R1xR2yHzM1-x-y-zの式で示され、R1はNd、Prの少なくとも一つ、R2はHо、Gdの少なくとも一つ、HはTb、Dyの少なくとも一つ、MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも一つである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶粒界に希土類元素を拡散させたNd-Fe-B系磁性体であって、
前記Nd-Fe-B系磁性体の原料は、Nd-Fe-B系合金、低融点合金及びその他添加剤を含み、
前記Nd-Fe-B系合金は、重量百分率で28%≦R≦30%の希土類元素Rと、重量百分率で0.8%≦B≦1.2%のBと、重量百分率で0%≦M≦3%のMと、を含み、
前記Rは、Nd、Prの少なくとも一つ、
前記Mは、Co、Tiの少なくとも一つ、
その他の成分はFeであり、
前記低融点合金は、CeCu、CeAl、CeGaのいずれ一つ又は複数を含み、各成分の重量百分率は、0%≦CeCu≦3%、0%≦CeAl≦3%、0%≦CeGa≦3%であり、
拡散源は、R1xR2yHzM1-x-y-zの式で示され、
R1はNd、Prの少なくとも一つ、
R2はHо、Gdの少なくとも一つ、
HはTb、Dyの少なくとも一つ、
MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも一つであり、
x、y、zはそれぞれ重量百分率で、15%<x<50%、0%<y≦10%及び40%≦z≦70%である、
ことを特徴とするNd-Fe-B系磁性体。
【請求項2】
Nd-Fe-B系磁性体の製造方法であって、
(ステップ1)重量百分率で28%≦R≦30%と、重量百分率で0.8%≦B≦1.2%と、重量百分率で0%≦M≦3%を含み、前記RはNd、Prの少なくとも一つ、前記MはCo、Tiの少なくとも一つ、その他の成分はFeである原料を、溶錬、ストリップキャストによってNd-Fe-B系合金薄片を作成し、
(ステップ2)前記Nd-Fe-B系合金薄片を150~400μmの大きさに粉砕して粉体とし、低融点合金の粉末と混合して前記Nd-Fe-B系合金薄片の前記粉体に前記低融点合金の粉体をコーティングし、前記低融点合金はCeCu、CeAl、CeGaのいずれか一つ又は複数であり、各成分の重量百分率は、0%≦CeCu≦3%、0%≦CeAl≦3%及び0%≦CeGa≦3%であり、混合後に水素吸脱処理を行い、ジェットミルによる粉砕処理、磁場配向成型、焼結処理及び時効処理を行って前記Nd-Fe-B系磁性体を作成し、
(ステップ3)焼結後の前記Nd-Fe-B系磁性体を所望の形状に機械加工し、その後前記Nd-Fe-B系磁性体の表面に拡散源をコーティングして拡散源薄膜を形成し、前記拡散源はR1xR2yHzM1-x-y-zの式で示され、R1はNd、Prの少なくとも一つ、R2はHо、Gdの少なくとも一つ、HはTb、Dyの少なくとも一つ、MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも一つであり、x、y、zはそれぞれ重量百分率で、15%<x<50%、0%<y≦10%及び40%≦z≦70%であり、
(ステップ4)前記拡散源をコーティングした前記Nd-Fe-B系磁性体に拡散処理及び時効処理を行う、
ことを特徴とするNd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項3】
前記(ステップ2)における前記水素吸脱処理は、水素吸着及び脱水素処理を含み、水素吸着温度は100~300℃、脱水素温度は400~600℃である、
ことを特徴とする請求項2に記載のNd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項4】
前記(ステップ2)における前記水素吸脱処理の水素含有量は1000ppm未満であり、酸素含有量は500ppm未満である、
ことを特徴とする請求項2に記載のNd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項5】
前記(ステップ2)における前記低融点合金の粉末の平均粒子径は200nm~4μmであり、
前記ジェットミルによる粉砕後の合金粉末の平均粒子径は3~5μmである、
ことを特徴とする請求項2に記載のNd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項6】
前記(ステップ2)における前記焼結処理の温度は980~1060℃、焼結時間は6~15時間、前記時効処理の第1次時効温度は850℃、第1次時効時間は3時間、第2次時効温度は450~660℃、第2次時効時間は3時間である、
ことを特徴とする請求項2に記載のNd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項7】
前記(ステップ3)における前記拡散源の製造方法は、噴霧製粉、アモルファスストリップ又はインゴットのいずれかである、
ことを特徴とする請求項2に記載のNd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項8】
前記(ステップ4)における前記拡散処理の温度は850~930℃、拡散時間は6~30時間、前記時効処理の温度は420~680℃、時効時間は3~10時間である、
ことを特徴とする請求項2に記載のNd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項9】
前記(ステップ4)における前記時効処理の昇温速度は1~5℃/分であり、降温速度は5~20℃/分である、
ことを特徴とする請求項8に記載のNd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nd-Fe-B系磁性体の技術分野に属し、特に低コストで製造可能な希土類磁性体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd-Fe-B系焼結永久磁性体は、電子情報機器、医療機器、新エネルギー自動車、家電、ロボット等のハイテク分野で広く利用されている。過去数十年の発展の過程において、Nd-Fe-B系永久磁性体の発展は目覚ましく、多くの産業分野において必要不可欠な機能性材料となっている。周知の通り、希土類元素の中でも豊富に存在するCeは、NdやPrよりも遙かに安価であり、CeによってNdやPrNdを部分的に代替することで磁性体としての性能を維持できれば、原材料コストの大幅な削減が可能となる。
【0003】
また従来の磁性体製造では重希土類元素であるTbやDyを大量に使用することで磁性体性能を高めていたがコストが高騰していた。その後、結晶粒界拡散技術の登場によって重希土類元素の含有量を大幅に削減することができたものの、昨今の重希土類元素の価格高騰に伴い、結果としてコストも高騰したままである。このように、重希土類元素含有量の低減は依然として重要な技術課題である。拡散のメカニズムによれば、重希土類元素を拡散して硬化させたNd2Fe14Bの主相は、多くのコアシェル構造が形成されるため、保磁力が向上する。拡散源の研究は磁性体分野における重要な研究テーマである。
【0004】
一方、NdやPrNdの一部をCeに置換すると、磁性体の保磁力は明らかに低下してしまう。そのため、重希土類合金を拡散源として拡散させることで、Nd-Fe-B系磁性体に同一の性能を奏させていた。重希土類元素を拡散させることで保磁力は顕著に向上するものの、重希土類元素は希少で高価であることから、コスト増は避けられなかった。更に、Ceを含む磁性体は、結晶粒界及び拡散源の融点が低いことから、拡散後の磁性体の耐熱性能に劣るという課題があった。
【0005】
結晶粒界相に関する特許出願は数多あり、例えば、中国特許公開番号CN108417380Aには、磁性体の表面にCex(LREaHRE1-a)yM100-x-y合金をコーティングする技術が開示されており、Ceを含む磁性体に当該合金を拡散させることで、コスト削減及び磁性体の耐熱性能を向上させている。また、中国特許公開番号CN111640549Aには、重希土類元素、Co元素及び微量元素を組み合わせて添加することで、材料の磁気モーメントとミクロ構造を効果的に制御し、希土類焼結永久磁性材料の結晶粒界相及び結晶粒界の構造を改良してCo含有アモルファス結晶粒界を形成し、高温安定性を有する希土類焼結永久磁性材料を製造する技術が開示されている。しかしながら、いずれの技術においても、低融点拡散源の拡散による低コスト磁性体の保磁力の大幅な向上及び優れた高温安定性は両立できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許CN108417380A公報
【特許文献2】中国特許CN111640549A公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、従来技術が有する上記不備を解消し、低コストでありながら従来の磁性体と同程度の性能を有するNd-Fe-B系磁性体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本願の第一発明は、結晶粒界に希土類元素を拡散させたNd-Fe-B系磁性体であって、
前記Nd-Fe-B系磁性体の原料は、Nd-Fe-B系合金、低融点合金及びその他添加剤を含み、
前記Nd-Fe-B系合金は、重量百分率で28%≦R≦30%の希土類元素Rと、重量百分率で0.8%≦B≦1.2%のBと、重量百分率で0%≦M≦3%のMと、を含み、
前記Rは、Nd、Prの少なくとも一つ、
前記Mは、Co、Tiの少なくとも一つ、
その他の成分はFeであり、
前記低融点合金は、CeCu、CeAl、CeGaのいずれ一つ又は複数を含み、各成分の重量百分率は、0%≦CeCu≦3%、0%≦CeAl≦3%、0%≦CeGa≦3%であり、
拡散源は、R1xR2yHzM1-x-y-zの式で示され、
R1はNd、Prの少なくとも一つ、
R2はHо、Gdの少なくとも一つ、
HはTb、Dyの少なくとも一つ、
MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも一つであり、
x、y、zはそれぞれ重量百分率で、15%<x<50%、0%<y≦10%及び40%≦z≦70%である、ことを特徴とする。
【0009】
さらに上記目的を達成するため、本願の第二発明は、上記Nd-Fe-B系磁性体の製造方法であって、
(ステップ1)重量百分率で28%≦R≦30%と、重量百分率で0.8%≦B≦1.2%と、重量百分率で0%≦M≦3%を含み、前記RはNd、Prの少なくとも一つ、前記MはCo、Tiの少なくとも一つ、その他の成分はFeである原料を、溶錬、ストリップキャストによってNd-Fe-B系合金薄片を作成し、
(ステップ2)前記Nd-Fe-B系合金薄片を150~400μmの大きさに粉砕して粉体とし、低融点合金の粉末と混合して前記Nd-Fe-B系合金薄片の前記粉体に前記低融点合金の粉体をコーティングし、前記低融点合金はCeCu、CeAl、CeGaのいずれか一つ又は複数であり、各成分の重量百分率は、0%≦CeCu≦3%、0%≦CeAl≦3%及び0%≦CeGa≦3%であり、混合後に水素吸脱処理を行い、ジェットミルによる粉砕処理、磁場配向成型、焼結処理及び時効処理を行って前記Nd-Fe-B系磁性体を作成し、
(ステップ3)焼結後の前記Nd-Fe-B系磁性体を所望の形状に機械加工し、その後前記Nd-Fe-B系磁性体の表面に拡散源をコーティングして拡散源薄膜を形成し、前記拡散源はR1xR2yHzM1-x-y-zの式で示され、R1はNd、Prの少なくとも一つ、R2はHо、Gdの少なくとも一つ、HはTb、Dyの少なくとも一つ、MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも一つであり、x、y、zはそれぞれ重量百分率で、15%<x<50%、0%<y≦10%及び40%≦z≦70%であり、
(ステップ4)前記拡散源をコーティングした前記Nd-Fe-B系磁性体に拡散処理及び時効処理を行う、ことを特徴とする。
【0010】
前記(ステップ2)における前記水素吸脱処理は、水素吸着及び脱水素処理を含み、水素吸着温度は100~300℃、脱水素温度は400~600℃である、ことを特徴とする。
【0011】
前記(ステップ2)における前記水素吸脱処理の水素含有量は1000ppm未満であり、酸素含有量は500ppm未満である、ことを特徴とする。
【0012】
前記(ステップ2)における前記低融点合金の粉末の平均粒子径は200nm~4μmであり、
前記ジェットミルによる粉砕後の合金粉末の平均粒子径は3~5μmである、 ことを特徴とする。
【0013】
前記(ステップ2)における前記焼結処理の温度は980~1060℃、焼結時間は6~15時間、前記時効処理の第1次時効温度は850℃、第1次時効時間は3時間、第2次時効温度は450~660℃、第2次時効時間は3時間である、ことを特徴とする。
【0014】
前記(ステップ3)における前記拡散源の製造方法は、噴霧製粉、アモルファスストリップ又はインゴットのいずれかである、ことを特徴とする。
【0015】
前記(ステップ4)における前記拡散処理の温度は850~930℃、拡散時間は6~30時間、前記時効処理の温度は420~680℃、時効時間は3~10時間である、ことを特徴とする。
【0016】
前記(ステップ4)における前記時効処理の昇温速度は1~5℃/分であり、降温速度は5~20℃/分である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、拡散処理前のNd-Fe-B系磁性体に低価格のCeを含む低融点合金を用いることにより、Nd、Prの使用量を削減し、低コストでありながら従来と同程度の保磁力を有する高性能なNd-Fe-B系磁性体を得ることができる。さらに重希土類元素が深くまで拡散された2~3層構造及び結晶粒界構造が形成されることで、優れた耐熱性能を実現できる。すなわち本発明によれば、磁性体中のNd、Pr元素の含有量を低減して磁性体の製造コストを削減し、かつ耐熱性能を改善することができ、製造プロセスは簡易で大量生産も実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本願発明の実施例について詳細に説明する。なお下記実施例は、本発明の解釈のみに用いるものであり、本願発明に係る構成を限定するものではない。
【0019】
本願発明に係る拡散処理前のNd-Fe-B系磁性体は、Nd-Fe-B系合金原料、低融点合金及びその他添加剤を混合して作成する。前記低融点合金はCeCu、CeAl、CeGaのいずれか一つ又は複数を含み、各成分の重量百分率は、0%≦CeCu≦3%、0%≦CeAl≦3%、0%≦CeGa≦3%とした。前記拡散源は、R1xR2yHzM1-x-y-zの式で示され、R1はNd、Prの少なくとも一つ、R2はHо、Gdの少なくとも一つ、HはTb、Dyの少なくとも一つ、MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Snの少なくとも一つである。x、y、zはそれぞれ重量百分率で、15%<x<50%、0%<y≦10%及び40%≦z≦70%とした。
【0020】
Nd-Fe-B系合金原料の成分には、重量百分率で28%≦R≦30%の希土類元素Rと、重量百分率で0.8%≦B≦1.2%のBと、重量百分率で0%≦M≦3%のMと、を含ませた。前記Rは、Nd、Prの少なくとも一つ、前記Mは、Co、Tiの少なくとも一つ、その他の成分はFeである。
【0021】
磁性体の耐熱性を向上させる元素であるHo、Gdを含む重希土類合金を拡散源とした。これによって、磁性体の保磁力を大幅に向上させるだけでなく、優れた耐熱性能を具備させることが可能となる。
【0022】
Ce合金を用いてNd、Pr元素の含有量を少なくしても、磁性体の保磁力は大きく向上し(8~11.5kOe増加)、磁性体の製造コストを大幅に削減できる。
【0023】
重希土類元素を深くまで拡散させて形成した2~3層構造及び結晶粒界構造によって、優れた耐熱性能を得た。
【0024】
Nd-Fe-B系合金と低融点合金の粉末の混合方法は、当業者の公知の方法であり、ミキサーで均一に混合し、Nd-Fe-B系合金と低融点合金の粉末を混合する際に潤滑剤を始めとするその他の添加剤を添加することが好ましい。この潤滑剤は常用される潤滑剤であり、潤滑剤の種類、用量及び用法については、当業者の公知のものであり、特に限定はされない。
【0025】
本願発明に係る製造方法は、Nd-Fe-B系磁性体を製造した後に、所望するサイズの磁性体へと機械加工し、拡散源をコーティングし拡散及び時効処理を行うものである。具体的には以下を参照されたい。
【0026】
表1に示す各成分を用いて実施例1~29、比較例1~7に係る拡散処理前の磁性体素地を作成した。実施例1~29は磁性体素地の原料として、CeCu、CeAl、CeGaからなる低融点合金の粉末を用いた。比較例1~7はCe成分を含まないものとした。各成分の単位は重量百分率(wt%)である。
【0027】
【0028】
表1の空欄は、その元素を含まないことを示す。成分構成は上記の通りである。実施例1~29のNd-Fe-B系磁性体の製造方法は以下の通りである。
【0029】
(1)ストリップキャストNd-Fe-B系合金薄片を溶錬し、その後150~400μmのNd-Fe-B系合金薄片に粉砕した。
【0030】
(2)粒子径200nm~4μmのCeCu、CeAl、CeGa粉末(低融点合金粉末)と上記粉砕したNd-Fe-B系合金薄片とを混合し、Nd-Fe-B系合金薄片に低融点合金粉末をコーティングした。
【0031】
(3)混合した材料を水素吸脱処理した。水素吸着温度は100~300℃、脱水素温度は400~600℃である。ジェットミルを用いて粒度D50で粒子径3~5μmに粉砕した。
【0032】
(4)ジェットミル粉砕後の低融点合金粉末を含むNd-Fe-B系合金粉末を磁場配向成型及び冷間等静圧プレスして素地を作成した。
【0033】
(5)上記素地を真空で焼結し、Arガスで急速冷却し、その後第1次時効処理及び第2次時効処理を行って、磁性体素地を作成した。
【0034】
比較例1~7はCeCu、CeAl、CeGa粉末を添加しないだけで、その他の製造方法は、各実施例と同じである。
【0035】
実施例1~29、比較例1~7に係る拡散処理前の磁性体の磁気特性を測定した。各実施例、各比較例における具体的なパラメータを表2で示す。
【0036】
【0037】
その後、機械加工によって実施例1~29、比較例1~7に係る拡散処理前の磁性体を所定サイズのサンプルへと切断し、サンプルのC軸に垂直な二つの面に拡散源スラリーを塗布し、拡散処理、時効処理によって最終的な磁性体を得た。
【0038】
実施例1~29、比較例1~7ともに、重希土類合金を拡散源した。具体的な拡散源、拡散処理・時効処理のパラメータ、磁気特性を表3で示す。
【0039】
【0040】
実施例1~4及び比較例1については、Ceの含有量以外は、Nd-Fe-B系磁性体の成分及びサイズは同一である。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは260μm、水素吸着温度は100℃、脱水素温度は450℃、酸素含有量は750ppm、低融点合金粉末の平均粒子径D50は1μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3μmであった。同一の拡散温度及び時効温度で、PrHoDyCuを拡散させた。実施例1~4及び比較例1の残留磁束密度Brは、各々0.22、0.21、0.23、0.20、0.23kGs低下し、保磁力Hcjは、各々11.61、11.20、11.30、11.20、10.21kOe増加した。このことから、Ceを用いた磁性体の磁気特性はいずれも改善されたことが分かる。更に、実施例1と比較例1の性能差は0.30kOeしかないものの、Hcjの温度係数は基本的に同一であり、比較例1の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.520%、実施例1の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.521%と大差がないことから、低コストのCe含有磁性体の方がコスト面で優れていることが分かる。
【0041】
実施例5~8及び比較例2については、Ceの含有量以外は、Nd-Fe-B系磁性体の成分及びサイズは同一である。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは290μm、水素吸着温度は200℃、脱水素温度は550℃、酸素含有量は800ppm、低融点合金粉末の平均粒子径D50は1μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3.5μmであった。同一の拡散温度及び時効温度で、NdHoDyCuCoを拡散させた。実施例5~8及び比較例2の残留磁束密度Brは、各々0.20、0.21、0.25、0.23、0.22kGs低下し、保磁力Hcjは、各々11.6、11.3、11.6、11.2、10.01kOe増加した。このことから、Ceを用いた磁性体の磁気特性はいずれも改善されたことが分かる。更に、実施例5と比較例2の性能差は0.30kOeしかないものの、Hcjの温度係数は基本的に同一であり、比較例2の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.490%、実施例5の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.495%と大差がないことから、低コストのCe含有磁性体の方がコスト面で優れていることが分かる。
【0042】
実施例9~12及び比較例3については、Ceの含有量以外は、Nd-Fe-B系磁性体の成分及びサイズは同一である。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは240μm、水素吸着温度は300℃、脱水素温度は600℃、酸素含有量は600ppm、低融点合金粉末の平均粒子径D50は800nm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は4μmであった。同一の拡散温度及び時効温度で、PrGdTbCuZnを拡散させた。実施例9~12及び比較例3の残留磁束密度Brは、各々0.22、0.22、0.23、0.22、0.23kGs低下し、保磁力Hcjは、各々12.95、12.60、12.70、12.70、11.35kOe増加した。このことから、Ceを用いた磁性体の磁気特性はいずれも改善されたことが分かる。更に、実施例9と比較例3の性能差は0.20kOeしかないものの、Hcjの温度係数は基本的に同一であり、比較例3の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.440%、実施例9の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.440%と同一であったことから、低コストのCe含有磁性体の方がコスト面で優れていることが分かる。
【0043】
実施例13~16及び比較例4については、Ceの含有量以外は、Nd-Fe-B系磁性体の成分及びサイズは同一である。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは150μm、水素吸着温度は190℃、脱水素温度は500℃、酸素含有量は700ppm、低融点合金粉末の平均粒子径D50は4μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は5μmであった。同一の拡散温度及び時効温度で、PrGdDyCuGaを拡散させた。実施例13~16及び比較例4の残留磁束密度Brは、各々0.25、0.27、0.26、0.24、0.25kGs低下し、保磁力Hcjは、各々9.20、9.40、9.50、9.00、7.90kOe増加した。このことから、Ceを用いた磁性体の磁気特性はいずれも改善されたことが分かる。更に、実施例13と比較例4の性能差は0.40kOeしかないものの、Hcjの温度係数は基本的に同一であり、比較例4の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.485%、実施例13の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.486%と大差がないことから、低コストのCe含有磁性体の方がコスト面で優れていることが分かる。
【0044】
実施例17~20及び比較例5については、Ceの含有量以外は、Nd-Fe-B系磁性体の成分及びサイズは同一である。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは400μm、水素吸着温度は250℃、脱水素温度は550℃、酸素含有量は900ppm、低融点合金粉末の平均粒子径D50は1μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3μmであった。同一の拡散温度及び時効温度で、PrHoDyCuGaTiを拡散させた。実施例17~20及び比較例5の残留磁束密度Brは、各々0.24、0.22、0.23、0.22、0.25kGs低下し、保磁力Hcjは、各々10.90、10.60、10.50、10.10、9.28kOe増加した。このことから、Ceを用いた磁性体の磁気特性はいずれも改善されたことが分かる。更に、実施例17と比較例5の性能差は0.20kOeしかないものの、Hcjの温度係数は基本的に同一であり、比較例5の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.490%、実施例17の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.490%と同一であったことから、低コストのCe含有磁性体の方がコスト面で優れていることが分かる。
【0045】
実施例21~24及び比較例6については、Ceの含有量以外は、Nd-Fe-B系磁性体の成分及びサイズは同一である。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは260μm、水素吸着温度は150℃、脱水素温度は530℃、酸素含有量は600ppm、低融点合金粉末の平均粒子径D50は2μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は4μmであった。同一の拡散温度及び時効温度で、PrHoDyCuAlSnを拡散させた。実施例21~24及び比較例6の残留磁束密度Brは、各々0.20、0.23、0.23、0.20、0.20kGs低下し、保磁力Hcjは、各々10.10、9.70、9.60、9.40、8.67kOe増加した。このことから、Ceを用いた磁性体の磁気特性はいずれも改善されたことが分かる。更に、実施例21と比較例6の性能差は0.30kOeしかないものの、Hcjの温度係数は基本的に同一であり、比較例6の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.500%、実施例21の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.500%と同一であったことから、低コストのCe含有磁性体の方がコスト面で優れていることが分かる。
【0046】
実施例25~28及び比較例7については、Ceの含有量以外は、Nd-Fe-B系磁性体の成分及びサイズは同一である。Nd-Fe-B系合金薄片の平均サイズは270μm、水素吸着温度は180℃、脱水素温度は560℃、酸素含有量は700ppm、低融点合金粉末の平均粒子径D50は1.5μm、ジェットミル粉砕後の合金粉末の平均粒子径D50は3μmであった。同一の拡散温度及び時効温度で、PrGdDyCuMgを拡散させた。実施例25~28及び比較例7の残留磁束密度Brは、各々0.22、0.24、0.18、0.21、0.21kGs低下し、保磁力Hcjは、各々9.87、9.90、9.45、9.07、8.27kOe増加した。このことから、Ceを用いた磁性体の磁気特性はいずれも改善されたことが分かる。更に、実施例25と比較例7の性能差は0.10kOeしかないものの、Hcjの温度係数は基本的に同一であり、比較例7の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.550%、実施例25の保磁力温度係数がβHcj150℃=-0.550%と同一であったことから、低コストのCe含有磁性体の方がコスト面で優れていることが分かる。
【0047】
以上の実施例を参照することで、本明細書に列挙した以外のその他原料及び条件等であっても、同様に本発明の低コスト希土類磁性体を製造することができる。
【0048】
本願発明に係る重希土類合金拡散源を拡散させたCe含有磁性体と通常のNd、Pr磁性体を対比した結果、Ce含有磁性体は、コスト優位性が明らかであり、かつ保磁力の増加幅が通常のNd、Pr磁性体よりも大きい。拡散源及びCe含有の総合作用によって、Ce含有磁性体は多くの磁性体ラインナップを揃えることができコスト優位性を有する。