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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047351
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】光学製品及び光学製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/118 20150101AFI20230329BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20230329BHJP
   C23C 14/10 20060101ALI20230329BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
G02B1/118
C23C14/08 A
C23C14/10
C23C28/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179820
(22)【出願日】2022-11-09
(62)【分割の表示】P 2022554259の分割
【原出願日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2021155902
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】西本 圭司
(72)【発明者】
【氏名】井上 知晶
【テーマコード(参考)】
2K009
4K029
4K044
【Fターム(参考)】
2K009AA01
2K009BB02
2K009BB24
2K009CC02
2K009CC03
2K009DD04
2K009DD12
4K029AA09
4K029AA11
4K029AA24
4K029BA44
4K029BA46
4K029BA58
4K029BB02
4K029BC07
4K029CA06
4K029DA04
4K029DA10
4K029DC03
4K029DC16
4K029DC34
4K029GA01
4K029GA02
4K029JA02
4K029JA06
4K044AA12
4K044AA16
4K044AB02
4K044BA10
4K044BA13
4K044BA14
4K044BA18
4K044BB01
4K044BB03
4K044BC11
4K044CA13
4K044CA16
(57)【要約】
【課題】微細な凹凸構造を有しながら、熱によるクラックの発生がより抑制されて、より耐熱性に優れる光学製品、及びその光学製品を容易に作成可能な製造方法を提供する。
【解決手段】光学製品1は、基材2と、その成膜面Fに形成される光学膜4と、を備えている。光学膜4は、微細な凹凸構造と、基材2に接する空孔6と、を有している。微細な凹凸構造は、毛羽状構造、ピラミッド群状構造、及び剣山状構造の少なくとも何れかであっても良い。又、光学膜4は、AlO(0<y<1.5)及びSiO(0<z<2)を含んでいても良い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の成膜面に直接又は介装膜を介して形成される光学膜と、
を備えており、
前記光学膜は、
微細な凹凸構造と、
前記基材に接する空孔と、
を有している
ことを特徴とする光学製品。
【請求項2】
基材と、
前記基材の成膜面に直接又は介装膜を介して形成される光学膜と、
を備えており、
前記光学膜は、
微細な凹凸構造と、
前記微細な凹凸構造と前記基材との間に配置されるベース部と、
を有しており、
前記ベース部を構成する元素に、Al、Si及びOが含まれ、
前記ベース部を構成する元素のうち、Al及びSiの少なくとも一方が、Oの元素数を除く元素数において過半数を占めており、
前記ベース部の密度は、前記ベース部と同じ元素比の材料により真空蒸着で形成された場合の膜である真空蒸着膜の密度より低い
ことを特徴とする光学製品。
【請求項3】
前記微細な凹凸構造は、毛羽状構造、ピラミッド群状構造、及び剣山状構造の少なくとも何れかである
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学製品。
【請求項4】
前記光学膜は、AlO(0<y<1.5)及びSiO(0<z<2)を含む
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学製品。
【請求項5】
前記空孔の最大寸法は、1nm以上300nm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項6】
前記ベース部の密度は、前記成膜面又は前記介装膜の空気側の面からの距離に応じ、その距離が40nm以上100nm以下となる範囲内において最大値を持つ状態で変化し、当該最大値は、前記真空蒸着膜の密度の85%以下である
ことを特徴とする請求項2に記載の光学製品。
【請求項7】
前記基材は、プラスチック製である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項8】
アルミニウム、アルミニウム合金、又はアルミニウムの化合物である1以上の層を有するAl系製造中間膜を、基材の成膜面に、各前記層の物理膜厚が何れも53.5nm以下である状態で成膜する製造中間膜形成工程と、
前記Al系製造中間膜付きの前記基材を、80℃以上沸騰温度未満のシリカを含有する純水に浸漬する浸漬工程と、
を備えている
ことを特徴とする光学製品の製造方法。
【請求項9】
前記Al系製造中間膜は、Al、Al、AlN及びAlONの少なくとも何れかである
ことを特徴とする請求項8に記載の光学製品の製造方法。
【請求項10】
前記Al系製造中間膜付きの前記基材を前記水溶液へ浸漬することにより、前記Al系製造中間膜が光学膜に変化し、
前記光学膜は、微細な凹凸構造と、前記基材に接する空孔と、を有している
ことを特徴とする請求項8に記載の光学製品の製造方法。
【請求項11】
前記Al系製造中間膜付きの前記基材を前記水溶液へ浸漬することにより、前記Al系製造中間膜が光学膜に変化し、
前記光学膜は、微細な凹凸構造と、前記微細な凹凸構造と前記基材との間に配置されるベース部と、を有しており、
前記ベース部を構成する元素に、Al、Si及びOが含まれ、
前記ベース部を構成する元素のうち、Al及びSiの少なくとも一方が、Oの元素数を除く元素数において過半数を占めており、
前記ベース部の密度は、前記ベース部と同じ元素比の材料により真空蒸着で形成された場合の膜である真空蒸着膜の密度より低い
ことを特徴とする請求項8に記載の光学製品の製造方法。
【請求項12】
前記微細な凹凸構造は、毛羽状構造、ピラミッド群状構造、及び剣山状構造の少なくとも何れかである
ことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の光学製品の製造方法。
【請求項13】
前記光学膜は、AlO(0<y<1.5)及びSiO(0<z<2)の少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の光学製品の製造方法。
【請求項14】
前記空孔の最大寸法は、10nm以上500nm以下である
ことを特徴とする請求項10に記載の光学製品の製造方法。
【請求項15】
前記ベース部の密度は、前記成膜面からの距離に応じて変化し、前記真空蒸着膜の密度の85%以下である
ことを特徴とする請求項11に記載の光学製品の製造方法。
【請求項16】
前記浸漬工程において、前記Al系製造中間膜付きの前記基材を、2秒間以上20分間以下で浸漬する
ことを特徴とする請求項8に記載の光学製品の製造方法。
【請求項17】
前記浸漬工程の前において、80℃未満の液体に浸漬する前浸漬工程を有している
ことを特徴とする請求項8に記載の光学製品の製造方法。
【請求項18】
前記浸漬工程の後において、80℃未満の液体に浸漬する後浸漬工程を有している
ことを特徴とする請求項8に記載の光学製品の製造方法。
【請求項19】
前記基材は、プラスチック製である
ことを特徴とする請求項8に記載の光学製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な凹凸を有する膜が形成された光学製品、及びその光学製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2012-198330号公報)には、曲面を有する基材の最表面に、アルミニウム又はその化合物の微細な凹凸構造の層が、気相成膜及び60℃以上沸騰温度以下の水熱処理によって形成されることが記載されている。
その凹凸構造における凸部の平均高さは、5~1000nm(ナノメートル)程度である。
このような微細な凹凸構造の膜(モスアイ)における密度は、基材側から空気側に向かって低下する。よって、その膜の屈折率が徐々に変化する。従って、その膜は、光学的な界面を無くすような作用をしたり、低屈折率の薄膜と同様となるような作用をしたりする。その膜は、それらの作用により、反射防止効果を呈して、反射防止膜として使用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-198330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の微細な凹凸構造では、熱によりクラックが発生する可能性が存在する。
【0005】
そこで、本開示の主な目的は、微細な凹凸構造を有しながら、熱によるクラックの発生がより抑制されて、より耐熱性に優れる光学製品を提供することである。
又、本開示の他の主な目的は、微細な凹凸構造を有しながら、熱によるクラックの発生がより抑制されて、より耐熱性に優れる光学製品を、容易に作成可能な光学製品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記主な目的を達成するために、基材と、前記基材の成膜面に直接又は介装膜を介して形成される光学膜と、を備えており、前記光学膜は、微細な凹凸構造と、前記基材に接する空孔と、を有している光学製品が提供される。
更に、上記主な目的を達成するために、基材と、前記基材の成膜面に直接又は介装膜を介して形成される光学膜と、を備えており、前記光学膜は、微細な凹凸構造と、前記微細な凹凸構造と前記基材との間に配置されるベース部と、を有しており、前記ベース部を構成する元素に、Al、Si及びOが含まれ、前記ベース部を構成する元素のうち、Al及びSiの少なくとも一方が、Oの元素数を除く元素数において過半数を占めており、前記ベース部の密度は、前記ベース部と同じ元素比の材料により真空蒸着で形成された場合の膜である真空蒸着膜の密度より低い光学製品が提供される。
又、上記他の主な目的を達成するために、アルミニウム、アルミニウム合金、又はアルミニウムの化合物である1以上の層を有するAl系製造中間膜を、基材の成膜面に、各前記層の物理膜厚が何れも53.5nm以下である状態で成膜する製造中間膜形成工程と、前記Al系製造中間膜付きの前記基材を、80℃以上沸騰温度未満のシリカを含有する純水に浸漬する浸漬工程と、を備えた光学製品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示の主な効果は、微細な凹凸構造を有しながら、熱によるクラックの発生がより抑制されて、より耐熱性に優れる光学製品が提供されることである。
又、本開示の他の主な効果は、微細な凹凸構造を有しながら、熱によるクラックの発生がより抑制されて、より耐熱性に優れる光学製品を、容易に作成可能な光学製品の製造方法が提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(A)は本発明の第1形態に係る光学製品の模式的な断面図であり、(B)は本発明の第2形態に係る光学製品の模式的な断面図である。
図2図1の光学製品に係る製造中間体の模式的な断面図である。
図3】(A)~(F)は、図1の光学製品の製造方法に係る模式図である。
図4】製造中間体の製造装置の模式的な上面図である。
図5図4の製造装置に係る動作例のフローチャートである。
図6】実施例1における垂直入射光の片面反射率に係るグラフである。
図7】実施例2における垂直入射光の片面反射率に係るグラフである。
図8】実施例3における垂直入射光の片面反射率に係るグラフである。
図9】実施例1と同様の観察対象の表面におけるSEMの観察像(5000倍)である。
図10図9の観察対象の表面におけるSEMの観察像(10000倍)である。
図11図9の観察対象の断面におけるSEMの観察像である。
図12図11におけるAl-Kα線,Si-Kα線オーバーラップ画像(グレースケール化)に、第1エリアが併せて示されたものである。
図13図11におけるAl-Kα線,Si-Kα線オーバーラップ画像(グレースケール化)に、第2エリアが併せて示されたものである。
図14図11におけるAl-Kα線,Si-Kα線オーバーラップ画像(グレースケール化)に、第3エリアが併せて示されたものである。
図15】比較例1における垂直入射光の片面反射率に係るグラフである。
図16】比較例2における垂直入射光の片面反射率に係るグラフである。
図17】比較例3における垂直入射光の片面反射率に係るグラフである。
図18】実施例4における垂直入射光の片面反射率に係るグラフである。
図19】実施例5における垂直入射光の片面反射率に係るグラフである。
図20】実施例4と同様の観察対象の断面におけるSEMの観察像である。
図21図20におけるAl-Kα線,Si-Kα線オーバーラップ画像(グレースケール化)である。
図22】比較例4における垂直入射光の片面反射率に係るグラフである。
図23】基板の成膜面からの距離と、その距離における実施例1,4の光学膜の面状部分でのAl元素比率との関係を示すグラフである。
図24】基板の成膜面からの距離と、その距離における実施例1,4の光学膜の面状部分での密度比率との関係を示すグラフである。
図25】基板の成膜面からの距離と、その距離における実施例1,4の光学膜の面状部分での屈折率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施の形態の例が、適宜図面を用いて説明される。
尚、本発明は、以下の例に限定されない。
【0010】
[第1形態の構成等]
図1(A)に示されるように、本発明の第1形態の光学製品1は、基材2と、基材2の成膜面F上に形成された光学膜4と、を備えている。
光学製品1は、透光性を有する反射防止部材として用いられる。即ち、光学製品1において、光学膜4により、光学製品1への入射光I(入射角θ)の強度に対する反射光Rの強度が抑制される。
尚、光学製品1は、反射防止部材以外に用いられても良い。
【0011】
基材2は、光学製品1が形成されるベースであり、ここでは板状(基板)である。基材2は、透光性を有しており、基材2の可視域(ここでは400nm以上750nm以下)の波長を有する光である可視光の内部透過率は、ほぼ100%となっている。尚、基材2の形状は、平板状であっても良いし、曲板状であっても良いし、レンズ形状であっても良いし、ブロック状等の板状以外であっても良い。
基材2の材料(材質)として、例えばプラスチック(合成樹脂)が用いられ、より詳しくはポリカーボネート樹脂(PC)等の熱硬化性樹脂が用いられる。尚、基材2の材料は、PCに限られず、例えばポリウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4-メチルペンテン-1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、あるいはこれらの組合せであっても良い。
【0012】
基材2の成膜面Fは、1つの面に配置されており、光学膜4は、成膜面Fに直接設けられている。
尚、光学膜4は、板状の基材2における第1面及び第2面の双方に設けられても良いし、ブロック状の基材2等において3面以上設けられても良い。又、光学膜4と基材2との間に、ハードコート膜等の介装膜が設けられても良い。介装膜は、1つの層を有する単層膜であっても良いし、複数の層を有する多層膜であっても良い。かような介装膜が設けられた場合、光学膜4は、基材2に間接的に形成される。
【0013】
光学膜4は、微細な凹凸構造5を有している。光学膜4の密度は、基材2側(成膜面F側,下側)から表面側(空気側,上側)にかけて低くなる。
光学膜4における元素の主成分は、Al,Si,Oである。ここでの主成分は、Al,Si,Oを合わせたものが、他の成分に対して、元素比で過半数となる成分であるところ、重量比率で過半数となる成分であっても良いし、体積比率で過半数となる成分であっても良い。かような主成分に関する事項は、光学膜4以外についても、適宜妥当する。
Al,Si,Oの元素比は、光学膜4の表面部(空気側部分,微細な凹凸構造5の先端側部分,上部)、中間部、下部(成膜面F側部分,微細な凹凸構造5の基端側部分)においてそれぞれ異なる。
光学膜4の厚さ、即ち微細な凹凸構造5の大きさ(膜厚方向の大きさ)は、例えば1nm以上1000nm以下程度(ナノサイズオーダー)であり、好ましくは1nm以上800nm以下であり、より好ましくは5nm以上500nm以下である。微細な凹凸構造5の大きさが可視光の波長程度より短ければ、光学膜4における可視光の散乱が少なく、光学膜4は透明となる。又、ある程度の厚さがあった方が、光学膜4の製造がより容易になる。
光学膜4における微細な凹凸構造5は、例えば毛羽状構造、ピラミッド群状構造、若しくは剣山状構造、又はこれらの組合せである。
【0014】
光学膜4は、複数の空孔6を有している。
各空孔6は、光学膜4の下部であるベース部7に配置されている。各空孔6の一部又は全部は、基材2(成膜面F)に接しており、即ち光学膜4の界面に配置されている。
かような各空孔6により、基材2の線膨張係数と光学膜4の線膨張係数との相違による応力が緩和され、光学膜4における熱によるクラックの発生が抑制される。特に、プラスチック製の基材2の線膨張係数と、Al,Si,Oを主成分とする光学膜4の線膨張係数とは相違することが殆どであり、プラスチック製の基材2上の光学膜4において、より効果的にクラックの発生が抑制される。プラスチック製の基材2の線膨張係数は、Al系あるいはSi系の光学膜4の線膨張係数に対して大きい傾向にある。尚、ガラス製の基材2の線膨張係数と、Al系あるいはSi系の光学膜4の線膨張係数との差の絶対値は、プラスチック製の基材2の線膨張係数と、Al系あるいはSi系の光学膜4の線膨張係数との差の絶対値より小さい傾向にある。
各空孔6の最大寸法は、例えば1nm以上300nm以下程度(ナノサイズオーダー)であり、好ましくは2nm以上200nm以下であり、より好ましくは5nm以上100nm以下である。各空孔6の最大寸法は、例えば成膜面Fの接線方向での寸法である。各空孔6の高さは、例えば光学膜4の物理膜厚の0.1%以上50%以下であり、好ましくは1%以上40%以下であり、より好ましくは2%以上20%以下である。各空孔6の高さが小さ過ぎると、それらの形成がより困難となり、又応力緩和効果がより不十分となる。又、各空孔6の高さが大き過ぎると、それらの形成がより困難となり、又光学膜4自体の強度がより不十分となる。
【0015】
光学膜4のベース部7は、微細な凹凸構造5の基礎である。尚、ベース部7の物理膜厚は、均一であっても良いし、不均一であっても良い。又、微細な凹凸構造5の根元の位置が大部分で上下しているとき等、厳密に微細な凹凸構造5とベース部7とが分けられず、これらの境界部があいまいで、これらが渾然一体となっている場合がある。
ベース部7は、空孔6を含む分、空孔6がないことを除きベース部7と同形状である膜体に比べて低密度である。即ち、ベース部7の密度は、ベース部7と同形状の膜であってベース部7と同じ元素比の材料により真空蒸着で形成された膜(真空蒸着膜)の密度より低い。
【0016】
[第2形態の構成等]
本発明の第2形態の光学製品51は、光学膜の構成を除き、第1形態と同様に成る。第1形態と同様にある部材及び部分には、第1形態と同じ符号が付されて、適宜説明が省略される。
図1(B)に示されるように、第2形態の光学製品51は、基材2と、基材2の成膜面F上に形成された光学膜54と、を備えている。
【0017】
光学膜54は、微細な凹凸構造5と、ベース部57と、を備えている。
ベース部57は、空孔6が見受けられないことを除き、第1形態のベース部7と同様に成る。ベース部57の密度は、ベース部57と同形状の膜であってベース部57と同じ元素比の材料により真空蒸着で形成されたもの、即ちベース部57の薄膜の密度より低い。
【0018】
[製造方法等]
第1形態及び第2形態等の光学製品1,51は、図2に示される製造中間体20から製造され得る。製造中間体20は、基材2と、成膜面Fに成膜されたAl系製造中間膜22と、を備える。
Al系製造中間膜22の材質は、ここではAl,AlN(窒化アルミニウム)である。窒化アルミニウムにおけるAlとNとの元素比は、安定して存在するものであればどのようなものであっても良い。
Al系製造中間膜22は、Al製のAl層とAlN製のAlN層とを含む多層膜(Al+AlN)であっても良い。例えば、成膜面Fの上にAl層が成膜され、その上にAlN層が成膜されても良い。あるいは、成膜面Fの上にAlN層が成膜され、その上にAl層が成膜されても良い。
尚、Al系製造中間膜22の材質は、アルミニウム合金、又はアルミニウムの化合物等でも良く、例えばAl,AlON(酸窒化アルミニウム)、あるいはこれらとAl,AlNとを含む群から少なくとも2つを選択した組合せであっても良い。酸窒化アルミニウムにおけるAlとNとの元素比、AlとOとの元素比、及びOとNとの元素比についても、窒化アルミニウムの場合と同様である。又、複数のAl系製造中間膜22が存在する場合、一部のAl系製造中間膜22の材質が他のAl系製造中間膜22の材質と異なっていても良い。
アルミニウム合金,アルミニウム化合物は、アルミニウムを主成分とした合金,化合物であっても良い。ここでの主成分は、他の成分に対して、重量比率で過半数となる成分であっても良いし、体積比率で過半数となる成分であっても良いし、元素比で過半数となる成分であっても良い。
1つの層を有する単層のAl系製造中間膜22の物理膜厚は、十分な耐熱性を有する微細な凹凸構造5を得る観点から、53.5nm以下とされる。複数の層を有する複層のAl系製造中間膜22における各層の物理膜厚は、十分な耐熱性を有する微細な凹凸構造5を得る観点から、何れも53.5nm以下とされる。
【0019】
図3は、図1の光学製品1,51の製造方法に係る模式図である。図3において、光学膜4の物理膜厚は基材2の物理膜厚に対して誇張されている。又、図3では、第1形態に係る空孔6を有する光学膜4(光学製品1)が代表的に描かれているところ、各種の条件(設定値)を調整した状態で図3と同様な製造方法を実施すると、第2形態に係る低密度のベース部57を有する光学膜54(光学製品51)が製造される。以下、主に第1形態の光学膜4の製造方法が、代表的に説明される。
図3(A)に示される基材2の成膜面Fに対し、図3(B)に示されるように、Al系製造中間膜22が成膜される(製造中間膜形成工程)。Al系製造中間膜22は、物理蒸着法(Physical Vapor Deposition(PVD),真空蒸着及びスパッタリング等)、あるいは原子層堆積(Atomic Layer Deposition)等により、基材2に直接形成される。尚、基材2の両面にAl系製造中間膜22を成膜すれば、基材2の両面に光学膜4が形成される。
【0020】
Al,AlN製のAl系製造中間膜22がDCスパッタ成膜装置101でのDCスパッタにより形成される形態が、以下説明される。
【0021】
図4は、DCスパッタ成膜装置101の模式的な上面図である。
DCスパッタ成膜装置101は、ドラム型スパッタ成膜装置(カルーセル型スパッタリング装置)であり、基材2における成膜面FにAl系製造中間膜22を成膜するものである。
DCスパッタ成膜装置101は、成膜室としての真空室102と、その中央部において自身の軸周りで回転可能に配置された円筒状のドラム104と、を備えている。ドラム104の外周円筒面には、成膜対象としての基材2が、成膜面Fを外側に向けた状態で保持されている。
【0022】
真空室102の一面には、スパッタ源110が配置されている。
スパッタ源110は、ターゲットTをセットするスパッタカソード112と、一対の防着板114と、スパッタガスが適宜流量調整のうえで導入されるスパッタガス導入口116と、を備えている。
スパッタカソード112は、外部直流電源(図示略)と接続されている。
防着板114は、ターゲットTとこれに対向するドラム104の部分との間を、他の真空室102の内部部分から区切るように配置されている。
スパッタガス導入口116は、防着板114によって区切られた空間へ向けてスパッタガスを流す。
尚、真空室102の別の一面等において、1以上の別のスパッタ源(第2スパッタ源、第3スパッタ源,・・・)が配置されていても良い。第2スパッタ源等は、スパッタ源110と同様に、ターゲットをセットするスパッタカソードと、一対の防着板と、スパッタガス導入口と、を備えていても良い。
【0023】
更に、真空室102の他の一面には、ラジカル源130が配置されている。
ラジカル源130は、ガスをバルブ132により流量調整のうえで導入可能なラジカルガス導入口134と、加速電圧用電源(図示略)により電圧が印加されて放電されることでプラズマを発生可能なガン136と、を有する。
ガン136による放電は、例えば高周波放電であり、好ましくはRF(Radio Frequency)放電である。
ラジカルガス導入口134から真空室102の内部に導入されたガスは、ガン136が発生したプラズマによりラジカル化する。ドラム104上の基材2がこのプラズマ中を通過することにより、成膜面F等において反応及び改質の少なくとも一方がなされる。
【0024】
加えて、ラジカル源130の両脇には、排気部140が設けられている。各排気部140では、真空室102内の排気が行われる。
尚、スパッタ源110、ラジカル源130及び各排気部140の少なくとも何れかの配置、及び設置数は、上述のものに限定されない。スパッタ源110、及びラジカル源130の少なくとも一方における電流(電圧)は、直流に係るものであっても良いし、低周波あるいは高周波の交流に係るものであっても良い。
【0025】
次いで、DCスパッタ成膜装置101の動作例(Al系製造中間膜22の製造方法の例)が、主に図5に基づいて説明される。
【0026】
まず、基材2がドラム104にセットされると共に、Al製の板状のターゲットTがセットされる(ステップS1)。
次に、真空室102の内部が排気される(ステップS2)。
続いて、ドラム104が回転され、ドラム104に保持された基材2が、スパッタ源110,ラジカル源130の各内側を順次繰り返し高速で通過するようにされる(ステップS3)。
次いで、基材2のクリーニングが行われる(ステップS4)。即ち、ラジカル源130のラジカルガス導入口34から酸素(O)ガスが導入された状態で、ガン136に高周波電圧が印加されて、ラジカル酸素が生成され、移動している基材2に対して所定時間照射される。かようなラジカル酸素の照射により、基材2表面に有機物等が付着していたとしても、有機物等はラジカル酸素及びプラズマで発生する紫外線によって分解剥離され、基材2の成膜面F等がクリーニングされる。かようなクリーニングにより、後に形成する膜の密着性が向上する。
【0027】
続いて、Al系製造中間膜22が、所定のプロセス条件でのスパッタにより形成される(ステップS5)。
例えば、Al製のAl系製造中間膜22は、ドラム104の回転が維持された状態で、スパッタ源110のスパッタガス導入口116から希ガス(Arガス等)が導入され、スパッタカソード112に直流電圧が印加(DC放電)されることで形成される(DCスパッタ)。ターゲットT表面のAlは、Arによるスパッタにより1以上のAl原子としてスパッタアウトし、それらのAl原子が基材2の表面上に堆積して、Al製のAl系製造中間膜22が得られる。
又、AlN製のAl系製造中間膜22は、ドラム104の回転が維持された状態で、スパッタ源110のスパッタガス導入口116から希ガス及び窒素(N)ガスが導入され、スパッタカソード112に交流電圧が印加されることで形成される(反応性スパッタ)。NガスがRF放電中に導入されると、Nはラジカルとなり活性を呈する。よって、Al系製造中間膜22は、AlとNの化合物(AlN;0<x<1)製の薄膜となる。当該xの値は、プロセス条件等により調整可能である。
あるいは、AlN製のAl系製造中間膜22は、ドラム104の回転が維持された状態で、スパッタ源110のスパッタガス導入口116から希ガスが導入され、スパッタカソード112に直流電圧が印加され、更にラジカル源130がNガスの導入と共に作動されることで形成される(RAS(Radical Assist Sputter)方式)。ラジカル源130の作動は、ラジカルガス導入口134からNガスが導入された状態で、ガン136に高周波電圧が印加されて行われる。当該作動により、ラジカル窒素が生成される。基材2がスパッタ源110の隣接部位を通過するときに基材2上にAlが堆積し、基材2がラジカル源130の隣接部位を通過するときに基材2上のAlが窒化される。かようにAlの堆積及び窒化が繰り返されることで、基材2上にAlN(AlN;0<x<1)製の薄膜が成膜される。尚、ラジカル源130において、Nガスと共に、希ガスが導入されても良い。
各種のAl系製造中間膜22の膜厚は、他のプロセス条件に鑑みた成膜時間(放電時間)の長短により調整される。即ち、Al系製造中間膜22の膜厚は、スパッタカソード112への投入電力が一定であり、単位時間当たりの成膜される物理膜厚である成膜レートが一定である場合には、スパッタリングの時間の長短により制御される。よって、所望の膜厚に相当する時間が経過した時点で、スパッタカソード112,122及びガン136への電圧印加が停止されて、Al系製造中間膜22の成膜が完了する。
【0028】
Al系製造中間膜22の形成が完了すれば、ドラム104が止められ、適宜冷却が行われた後、Al系製造中間膜22付き基材2が取り出される(ステップS6)。
尚、Al系製造中間膜22と基材2との間に、DCスパッタ成膜装置101あるいは別の装置によって更に1以上の介装膜が付与されても良い。
【0029】
又、Al系製造中間膜22は、蒸着により形成されても良い。
Al系製造中間膜22の蒸着においては、真空状態の成膜室内において、Alの顆粒が電子ビーム(EB)により加熱されても良い。この際、真空状態の成膜室内において、Nガス等が導入されても良い。
【0030】
かようなAl系製造中間膜22付きの基材2、即ち製造中間体20は、図3(C)に示されるように、槽B内の溶液SLに浸漬される(浸漬工程)。
溶液SLの溶媒は、例えば水(HO)である。溶液SLは、好ましくは純水である。
すると、図3(D)に示されるように、Al系製造中間膜22は、微細な凹凸構造5を有する光学膜4を発生させる。即ち、Al系製造中間膜22は、光学膜4となる。
より詳しくは、Al系製造中間膜22は、溶液SL中において、Al系の多数の微細な毛羽、角錐、円錐、針状体等を、膜厚方向に成長させる。尚、浸漬時の製造中間体20の姿勢(向き)は、図3で示されるような水平姿勢に限られない。又、同時に浸漬される製造中間体20の個数は、複数であっても良い。
溶液SLの温度は、毛羽状構造等をなるべく短時間で得る観点から、ここでは80℃以上である。Al系製造中間膜22の毛羽状構造等への変化は、80℃以上の溶液SL中で起こる。又、溶液SLの温度は、例えば80℃以上沸騰温度(1気圧で100℃)未満であり、又は80℃以上90℃以下である。沸騰温度以上とするには、沸騰を維持するか、加圧等の特殊な処理を水に施すか、水以外を用いるかしなければならず、手間がかかる。又、沸騰現象により、溶液SLが比較的に激しく運動し、その分微細な凹凸構造5が成長し難くなる。溶液SLの温度は、何れかの段階で80℃以上の溶液SLを製造中間体20に適用させることを前提として、80℃未満であっても良い。
又、溶液SLへの浸漬時間は、光学膜4をなるべく短時間で得る観点から、例えば2秒間以上20分間以下であり、又は5秒間以上10分間以下であり、あるいは15秒間以上5分間以下であり、又は1分間以上3分間以下である。浸漬時間が短いと、光学膜4が十分に得られず、浸漬時間が長いと、処理時間が長くなり効率がその分悪くなる。
【0031】
更に、溶液SLは、微量のSiO(シリカ)が水(HO)に溶けたものであり、換言すれば、微量のシリカの水溶液である。尚、純度の極めて高い純水若しくは純度が通常程度である純水において、微量のシリカは完全に排除されずに残っている。
すると、Al系製造中間膜22は、Al系及びSi系の微細な凹凸構造5となる。即ち、Al系製造中間膜22は、シリカを取り込みつつ光学膜4となり、光学膜4の材質は、AlO(0<y<1.5)及びSiO(0<z<2)の混合物となる。
より詳しくは、Al系製造中間膜22は、溶液SLにおける水との部分的な溶解を伴った反応によりAl系に変化しつつ、溶液SLにおける微量のSiOを、基材2と反対側において徐々に吸着し、微細な凹凸構造5を有するように集める。Al系製造中間膜22は、溶液SL中において、上記混合物に係る多数の微細な毛羽、角錐、円錐、針状体等を、膜厚方向に成長させる。
溶液SLにおけるSiOの濃度は、濃過ぎると光学膜4に取り込まれ難くなることから、好ましくは、10mg/l(ミリグラム毎リットル)以下であり、更には2mg/l以下である。10mg/lは、純度が通常程度である純水におけるSiOの濃度に相当し、2mg/lは、純度が通常に比べて高い純水におけるSiOの濃度に相当する。即ち、溶液SLとして、好ましくは純水が用いられる。
【0032】
その後、図3(E)に示されるように、光学膜4付きの基材2が槽Bから取り出され、乾燥されることで、図3(F)に示されるように、光学製品1が完成する。
乾燥は、例えば80℃の温風を吹きかけて行われる。温風の吹きかけにより、自然乾燥の場合より速く乾燥がなされる。効率に比べ質を重視する場合等において、自然乾燥がなされても良い。温風の温度は、60℃以上100℃以下であっても良いし、70℃以上90℃以下であっても良い。又、乾燥が省略されても良い。
尚、図3(C)~(E)が複数回繰り返されても良い。この場合、一部において槽B(溶液SLの温度等)が他と異なっていても良い。又、図3(E)における乾燥が適宜省略されても良い。例えば、溶液SLの温度を順に60,80,90℃とした第1槽,第2槽,第3槽が設けられ、製造中間体20が順に第1槽,第2槽,第3槽,第2槽,第1槽にそれぞれの所定時間だけ浸漬され、その5回の浸漬の後で乾燥がなされても良い。同じ溶液SLの温度に係る複数の槽が設けられても良い。かように製造中間体20に適用される溶液SLの温度が、毛羽状構造等への変化に係る80℃以上に向けて、80℃の溶液SLの適用前に60℃の溶液SLの適用をする等、段階的に上げられることで、熱衝撃を緩和して、光学膜4の質を向上することができる。溶液SLの温度が段階的に下げられても、同様に熱衝撃が緩和され、光学膜4の質が向上する。溶液SLの温度の段階的な上げ下げは、双方を省略しても良いし、少なくとも一方を行っても良いし、双方を行っても良い。80℃以上の溶液SLに浸漬する前に80℃未満の溶液SLに浸漬する工程は、前浸漬工程である。又、80℃以上の溶液SLに浸漬した後で80℃未満の溶液SLに浸漬する工程は、後浸漬工程である。前浸漬工程及び後浸漬工程の少なくとも一方における溶媒又は溶解物質は、浸漬工程と異なっていても良い。
【0033】
かような製造方法により、第1形態に係る下部(ベース部7)に空孔6を有し上部に微細な凹凸構造5を有する光学膜4(光学製品1)、あるいは第2形態に係る下部に上記真空蒸着膜より低密度であるベース部57を有し上部に微細な凹凸構造5を有する光学膜54(光学製品51)が製造される。
尚、各種の条件(設定値)次第で、第1形態と第2形態の中間形態に係る光学膜が形成されることもある。例えば、全体で互いに大きさの異なる空孔6を有すると共に、上記真空蒸着膜より低密度であるベース部57を有する光学膜である。
【実施例0034】
次いで、本発明の好適な実施例、及び本発明に属さない比較例が説明される。
尚、本発明は、以下の実施例に限定されない。又、本発明の捉え方により、下記の実施例が実質的には比較例となったり、下記の比較例が実質的には実施例となったりすることがある。
【0035】
≪実施例1~3の製造等≫
実施例1~3は、上述の実施形態(主に第1形態)に対応する。
実施例1~3の基材2は、1辺5cm(センチメートル)の正方形の平板である。実施例1~3の基材2の材質は、それぞれ2種用意され、1つはプラスチック製であり、PC(三菱ガス化学株式会社製EP-9000)であって、もう1つは白板ガラス製である。よって、実施例1~3のPC製の基材2の線膨張係数は、白板ガラス製の基材2と比べて大きい。PC製の基材2の肉厚は、0.5mm(ミリメートル)である。白板ガラス製の基材2の肉厚は、1.7mmである。
【0036】
次の表1の上部に示されるように、実施例1において、Al製のAl系製造中間膜22は、DCスパッタにより、物理膜厚を13.8nmとした状態で、各基材2に形成される。スパッタガス導入口116からのArガスの流量は300sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)とされ、スパッタカソード112の電力は3000W(ワット)とされる。ラジカル源130は、ここでは作動しない。又、各製造中間体20は、60℃の純水に1分間浸漬され、80℃の純水に1分間浸漬され、90℃の純水に10分間浸漬され、80℃の純水に1分間浸漬され、60℃の純水に1分間浸漬された後、80℃の温風で3分間乾燥され、光学製品1とされる。
実施例2において、Al系製造中間膜22は、各基材2に全2層で形成される(Al+AlN)。それぞれ、基材2側のAl製の1層目は、実施例1と同様のDCスパッタにより、物理膜厚を13.8nmとした状態で形成される。又、空気側のAlN製の2層目は、RAS方式により、スパッタガス導入口116からのArガスの流量が120sccmとされ、スパッタカソード112の電力が6000Wとされ、ラジカルガス導入口134からのNガスの流量が50sccmとされ、ガン136の電力が2000Wとされた状態で、物理膜厚を40nmとして、各基材2に形成される。各Al系製造中間膜22の物理膜厚は、53.8nmである。各製造中間体20の浸漬及び乾燥は、実施例1と同等である。
実施例3において、AlN製のAl系製造中間膜22は、反応性スパッタにより、物理膜厚を13.8nmとした状態で、各基材2に形成される。スパッタガス導入口116からのArガスの流量は300sccmとされ、スパッタガス導入口116からのNガスの流量は20sccmとされ、スパッタカソード112の電力は3000Wとされる。ラジカル源130は、ここでは作動しない。各製造中間体20の浸漬及び乾燥は、実施例1と同等である。
【0037】
【表1】
【0038】
≪比較例1~3の製造等≫
次の表2の上部に示されるように、比較例1において、Al製のAl系製造中間膜22は、RAS方式により、スパッタガス導入口116からのArガスの流量が150sccmとされ、スパッタカソード112の電力が5000Wとされ、ラジカルガス導入口134からのOガスの流量が50sccmとされ、ラジカルガス導入口134からのArガスの流量が50sccmとされ、ガン136の電力が500Wとされた状態で、物理膜厚を150nmとして、実施例1と同じ基材2(PC製及びプラスチック製)にそれぞれ形成される。各製造中間体20の浸漬及び乾燥は、実施例1と同等である。
比較例2において、AlN製のAl系製造中間膜22は、反応性スパッタにより、物理膜厚を110nmとした状態で、実施例1と同じ基材2(PC製及びプラスチック製)にそれぞれ形成される。スパッタガス導入口116からのArガスの流量は300sccmとされ、スパッタガス導入口116からのNガスの流量は20sccmとされ、スパッタカソード112の電力は3000Wとされる。ラジカル源130は、ここでは作動しない。各製造中間体20の浸漬及び乾燥は、実施例1と同等である。
比較例3において、AlN製のAl系製造中間膜22は、反応性スパッタにより、物理膜厚を138nmとした状態で、実施例1と同じ基材2(PC製及びプラスチック製)にそれぞれ形成される。スパッタガス導入口116からのArガスの流量は300sccmとされ、スパッタガス導入口116からのNガスの流量は20sccmとされ、スパッタカソード112の電力は3000Wとされる。ラジカル源130は、ここでは作動しない。各製造中間体20の浸漬及び乾燥は、実施例1と同等である。
【0039】
【表2】
【0040】
≪実施例1~3の特性等≫
図6は、実施例1のPC製の基材2の成膜面Fに対して垂直に(入射角θ=0°で)入射する可視域及び隣接域の光の片面反射率のグラフである。このグラフによれば、実施例1において、可視光に対する低反射(例えば可視域全域で2%以下あるいは1.5%以下)が実現していることが分かる。又、上記表1の下部に示されるように、双方の基材2における実施例1の外観には、クラック及び白濁は見受けられず、当該外観は均一なものとなっている。尚、図6において、基材2が白板ガラス製である実施例1の場合(白板ガラス)の片面反射率が併せて示される。
図7は、PC製基材2の実施例2の垂直入射光の片面反射率のグラフである。このグラフによれば、実施例2において、可視光に対する低反射(例えば可視域全域で1.5%以下)が実現していることが分かる。又、上記表1の下部に示されるように、双方の基材2における実施例2の外観には、クラック及び白濁は見受けられず、当該外観は均一なものとなっている。尚、図7において、白板ガラス製基材2の実施例2の片面反射率が併せて示される。
図8は、PC製基材2の実施例3の垂直入射光の片面反射率のグラフである。このグラフによれば、実施例3において、可視光に対する低反射(例えば可視域全域で4.5%以下)が実現していることが分かる。又、上記表1の下部に示されるように、双方の基材2における実施例3の外観には、クラック及び白濁は見受けられず、当該外観は均一なものとなっている。尚、図8において、白板ガラス製基材2の実施例3の片面反射率が併せて示される。
【0041】
更に、次の要領で、実施例1における光学膜4の構造及び成分が観察された。
即ち、PC製基板の片面に、実施例1と同じ製法で光学膜4が作製され、銅製の試料ホルダに入る大きさに、Ga(ガリウム)ビームでカットされた(FIB(Focused Ion Beam)加工)。そして、光学膜4付き基板が試料ホルダに入れられ、光学膜4の構造を保存するため、光学膜4付きカット基板に、カーボン製の保護膜を被せて、観察対象が作成された。
この観察対象が、走査電子顕微鏡(SEM)で観察されると共に、この観察対象への特性X線の照射により、光学膜4の元素分析が行われた。
SEMは、高分解能走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM-7800F Prime」)であり、加速電圧3.5kV(キロボルト)、真空度100Pa(パスカル)の設定において用いられた。
【0042】
図9は、観察対象表面(上面)におけるSEMの観察像(5000倍)である。図10は、観察対象表面におけるSEMの観察像(10000倍)である。図11は、観察対象の垂直断面におけるSEMの観察像である。図12は、観察対象の垂直断面におけるAlのKα線及びSiのKα線の強度分布に応じ、画素(Al:赤色,Si:緑色)の濃さをその画素の位置における強度が強いほど比例的に濃くした画像(Al-Kα線,Si-Kα線オーバーラップ画像)がグレースケール化され、更に、第1エリア(Area #1)が併せて示されたものである。図13は、観察対象の垂直断面におけるAl-Kα線,Si-Kα線オーバーラップ画像(グレースケール化)に、第2エリア(Area #2)が併せて示されたものである。図14は、観察対象の垂直断面におけるAl-Kα線,Si-Kα線オーバーラップ画像(グレースケール化)に、第3エリア(Area #3)が併せて示されたものである。
これらの図によれば、基材2の上に、微細な凹凸構造5を有する光学膜4が、形状及び構造の異なる状態で層状に存在する。微細な凹凸構造5は、毛羽状構造、ピラミッド群状構造、及び剣山状構造の少なくとも何れかである。
そして、光学膜4の下部(ベース部7)である第3エリア(図14)は、層状となっており、その層状部分には、複数の空孔6が存在する。第3エリアにおける元素の割合は、O:61.59%,Al:24.74%,Si:13.67%である。よって、光学膜4の下部は、適宜化学的安定性等に鑑みれば、AlO(0<y<1.5)及びSiO(0<z<2)の混合物から成ると言える。
又、光学膜4の中央部である第2エリア(図13)は、微細な凹凸構造5における凸部の根元部分に相当し、その元素の割合は、O:60.00%,Al:36.28%,Si:3.72%である。よって、光学膜4の中央部の主成分は、AlO(0<y<1.5)であり、光学膜4の中央部の他の成分は、SiO(0<z<2)である。
更に、光学膜4の上部である第1エリア(図12)は、微細な凹凸構造5における凸部の先端部分に相当し、その元素の割合は、O:71.16%,Al:11.27%,Si:17.57%である。よって、光学膜4の上部は、AlO(0<y<1.5)及びSiO(0<z<2)の2つの化合物から成る。
かように、光学膜4には、Al系製造中間膜22には存在しないSiが存在する。このSiは、浸漬時に水溶液に含まれるシリカを取り込んだものである。
【0043】
尚、Al系製造中間膜22の材質及び膜厚、溶液SLの温度等の各種の製造条件の違いにより、光学膜4の上部、中央部、及び下部の少なくとも何れか2つは、明確に分かれる場合があるし、厳密には分かれず、例えば成分が膜厚方向(膜に垂直な方向)の位置に応じて徐々に変化する場合もある。
後者の場合、各種部分の境界が不明瞭であることがある。又、この場合、典型的には、中間部でAlの成分比が高く、上部及び下部でAlに対するSiOの成分比が増加する。
更に、凸部分等は、Alを主成分とする微細な凹凸構造5の核(骨子)と、その核の一部又は全部を覆うSiOを主成分とするコートと、を有し得る。
【0044】
又、白板ガラス製の基材2上の各光学膜4の外観には、実施例1~3と同様に、クラック及び白濁は見受けられない。
【0045】
≪比較例1~3の特性等≫
図15は、PC製基材2の比較例1の垂直入射光の片面反射率のグラフである。このグラフによれば、比較例1において、可視光に対する低反射(例えば可視域全域で1%以下)が実現していることが分かる。しかし、上記表2の下部に示されるように、比較例1の外観において、クラックが発生している。尚、図15において、白板ガラス製基材2の比較例1の片面反射率が併せて示される。
図16は、PC製基材2の比較例2の垂直入射光の片面反射率のグラフである。このグラフによれば、比較例2において、可視光に対する低反射(例えば可視域全域で2%以下)が実現していることが分かる。しかし、上記表2の下部に示されるように、比較例2の外観において、白濁が発生している。比較例2の白濁部分が、顕微鏡により、多数の微細なクラックの集合体であるものと観察された。尚、図16において、白板ガラス製基材2の比較例2の片面反射率が併せて示される。
図17は、PC製基材2の比較例3の垂直入射光の片面反射率のグラフである。このグラフによれば、比較例3において、可視光に対する低反射(例えば可視域全域で2%以下)が実現していることが分かる。しかし、上記表2の下部に示されるように、比較例3の外観において、白濁(多数の微細なクラックの集合体)が発生している。尚、図17において、白板ガラス製基材2の比較例3の片面反射率が併せて示される。
【0046】
尚、白板ガラス製の基材2上における比較例1~3と同様の各光学膜の外観には、PC製の基材2上における比較例1~3と異なり、クラック及び白濁は見受けられない。これは、白板ガラスの線膨張係数が、PC製の基材2に対して小さく、Al系あるいはSi系の光学膜4の線膨張係数により近いことによる。
【0047】
≪実施例1~3のまとめ等≫
実施例1~3は、基材2と、その成膜面Fに直接形成される光学膜4と、を備えており、光学膜4は、微細な凹凸構造5と、基材2に接する空孔6と、を有している。
よって、実施例1~3では、基材2の熱膨張と光学膜4の熱膨張との差に基づく応力が空孔6で緩和され、熱によるクラックの発生が抑制されて、より耐熱性が優れたものとなる。実施例1~3と異なり、空孔6を有さないPC製の基材2上における比較例1~3は、成膜時等にクラック(微細なもの(白濁)を含む)を生じる。
【0048】
更に、実施例1~3では、微細な凹凸構造5は、毛羽状構造、ピラミッド群状構造、及び剣山状構造の少なくとも何れかである。よって、微細な凹凸構造5を有する光学膜4が、より容易に形成される。
又、実施例1~3では、光学膜4は、AlO(0<y<1.5)及びSiO(0<z<2)を含む。よって、微細な凹凸構造5及び空孔6を有する光学膜4が、より容易に形成される。
又更に、実施例1~3では、空孔6の最大寸法は、1nm以上300nm以下である。又、実施例1~3では、複数の空孔が連結した構造、及び柱状構造で上部と下部をつないだ構造の少なくとも一方を持つものもある。よって、光学膜4は、応力緩和機能を有しつつ、十分な強度を有するものとなる。
【0049】
加えて、実施例1~3の製造方法は、アルミニウム、又はアルミニウムの化合物である1以上の層を有するAl系製造中間膜22を、基材2の成膜面Fに、各層の物理膜厚が何れも53.5nm以下である状態で成膜する製造中間膜形成工程(図3(B),図4図5)と、Al系製造中間膜22付きの基材2(製造中間体20)を、80℃以上沸騰温度未満のシリカを含有する純水に浸漬する浸漬工程(図3(D))と、を備えている。
よって、微細な凹凸構造5を有して反射防止機能を呈すると共に、空孔6を有して耐熱機能を呈する光学膜4が、より容易に形成される。
尚、実施例1~3以外に、物理膜厚が53.5nm以下であるアルミニウム合金製のAl系製造中間膜22付きの基材2を80℃以上沸騰温度未満のシリカを含有する純水に浸漬して光学膜4が種々作成され、微細な凹凸構造5及び耐熱性の具備が確認された。更に、実施例1~3以外に、各層の物理膜厚が53.5nm以下である3層以上のAl系製造中間膜22を80℃以上沸騰温度未満のシリカの水溶液(純水)に浸漬して光学膜4が種々作成され、微細な凹凸構造5及び耐熱性の具備が確認された。これらに対し、110nm以上の物理膜厚を有するAl系の製造中間膜を実施例1~3と同様に浸漬した比較例1~3では、微細な凹凸構造5が得られたものの、耐熱性が得られなかった。
【0050】
又、実施例1~3の製造方法では、Al系製造中間膜22は、Al、Al、AlN及びAlONの少なくとも何れかである。よって、微細な凹凸構造5及び耐熱性を有する光学膜4が、より容易に得られる。
更に、実施例1~3の製造方法では、Al系製造中間膜22付きの基材2をシリカを含有する純水へ浸漬することにより、Al系製造中間膜22が光学膜4に変化し、光学膜4は、微細な凹凸構造5と、基材2に接する空孔6と、を有している。よって、微細な凹凸構造5及び耐熱性を有する光学膜4が、より容易に得られる。
又、実施例1~3の製造方法では、微細な凹凸構造5は、毛羽状構造、ピラミッド群状構造、及び剣山状構造の少なくとも何れかである。よって、微細な凹凸構造5を有する光学膜4が、より容易に形成される。
更に、実施例1~3の製造方法では、光学膜4は、AlO(0<y<1.5)及びSiO(0<z<2)の少なくとも一方を含む。よって、微細な凹凸構造5及び空孔6を有する光学膜4が、より容易に形成される。
加えて、実施例1~3の製造方法では、空孔6の最大寸法は、10nm以上500nm以下である。よって、応力緩和機能を有しつつ、十分な強度を有する光学膜4の製造方法が提供される。
【0051】
又、実施例1~3の製造方法では、浸漬工程において、Al系製造中間膜22付きの基材2を、2秒間以上20分間以下で浸漬する。よって、微細な凹凸構造5及び空孔6を有する光学膜4が、より容易に、より効率良く形成される。
更に、実施例1~3の製造方法では、浸漬工程の前において、80℃未満の液体に浸漬する前浸漬工程を有している。よって、熱の作用を受け易い、毛羽状構造、ピラミッド群状構造、及び剣山状構造の少なくとも何れかに変化する前のAl系製造中間膜22が予熱され、熱の作用をより緩やかにして、光学膜4におけるクラック及び白濁の少なくとも一方の発生が抑制される。微細な凹凸構造5及び空孔6を有する光学膜4が、熱衝撃によるクラックの発生等が抑制された状態で、より容易に形成される。
加えて、実施例1~3の製造方法では、浸漬工程の後において、80℃未満の液体に浸漬する後浸漬工程を有している。よって、微細な凹凸構造5及び空孔6を有する光学膜4が、熱衝撃によるクラックの発生等が抑制された状態で、より容易に形成される。
又、実施例1~3の製造方法では、プラスチック製(PC製)の基材2の場合を含む。この場合、ガラス製の基材2に比べて内部応力の大きいプラスチック製の基材2においても応力緩和機能により更に安定した光学膜4が製造可能となる。
【0052】
≪実施例4~5の製造等≫
実施例4~5は、上述の実施形態(主に第2形態)に対応する。
実施例4~5の基材2は、実施例4において白板ガラス製の基材2が用いられなかったことを除き、実施例1~3と同様である。
【0053】
次の表3の左上部に示されるように、実施例4において、Al製のAl系製造中間膜22は、RAS方式により、物理膜厚を50nmとした状態で、PC製基材2に形成される。スパッタガス導入口134からのArガスの流量は150sccmとされ、スパッタガス導入口116からのOガスの流量は50sccmとされ、スパッタカソード112の電力は5000Wとされ、ラジカル源130の電力は500Wとされる。製造中間体20の浸漬及び乾燥は、実施例1と同等である。
実施例5において、Al製のAl系製造中間膜22は、RAS方式により、物理膜厚を50nmとした状態で、実施例4と同様に(但し実施例5ではPC製及び白板ガラス製の双方の基材2に対し)形成される。又、各製造中間体20は、60℃の純水に1分間浸漬され、80℃の純水に1分間浸漬され、98℃の純水に10分間浸漬され、80℃の純水に1分間浸漬され、60℃の純水に1分間浸漬された後、80℃の温風で3分間乾燥され、光学製品51とされる。
【0054】
【表3】
【0055】
≪比較例4の製造等≫
上記表3の右上部に示されるように、比較例4において、Al製のAl系製造中間膜22は、RAS方式により、物理膜厚を50nmとした状態で、実施例5と同様に2種の基材2に形成される。又、各製造中間体20は、60℃の水道水に1分間浸漬され、80℃の水道水に1分間浸漬され、90℃の水道水に10分間浸漬され、80℃の水道水に1分間浸漬され、60℃の純水に1分間浸漬された後、80℃の温風で3分間乾燥される。水道水におけるシリカの濃度は、純水におけるシリカの濃度より大きく、例えば20mg/l程度である。
【0056】
≪実施例4~5の特性等≫
図18は、PC製基材2の実施例4の垂直入射光の片面反射率のグラフである。このグラフによれば、実施例4において、可視光に対する低反射(例えば可視域全域で2%以下)が実現していることが分かる。又、上記表3の下部に示されるように、実施例4の外観には、クラック及び白濁は見受けられず、当該外観は均一なものとなっている。
図19は、PC製基材2の実施例5の垂直入射光の片面反射率のグラフである。このグラフによれば、実施例5において、可視光に対する低反射(例えば可視域全域で2.5%以下)が実現していることが分かる。又、上記表3の下部に示されるように、双方の基材2における実施例5の外観には、クラック及び白濁は見受けられず、当該外観は均一なものとなっている。尚、図19において、白板ガラス製基材2の実施例2の片面反射率が併せて示される。
【0057】
更に、実施例1の場合と同じ要領で、実施例4と同じ製法で作製された光学膜54の観察対象における光学膜54の構造及び成分が観察された。
図20は、観察対象の垂直断面におけるSEMの観察像である。図21は、観察対象の垂直断面におけるAlのKα線及びSiのKα線の強度分布に応じ、画素(Al:赤色,Si:緑色)の濃さをその画素の位置における強度が強いほど比例的に濃くした画像(Al-Kα線,Si-Kα線オーバーラップ画像)をグレースケール化したものである。
これらの図によれば、実施例4に係る観察対象の基材2の上に、微細な凹凸構造5を有する光学膜54が存在する。微細な凹凸構造5は、毛羽状構造、ピラミッド群状構造、及び剣山状構造の少なくとも何れかである。
そして、光学膜54の下部(実施例1の第3エリアに相当する部分)は、微細な空孔を含んだ膜状となっており、その膜状部分、即ちベース部57には、実施例1に係る空孔6のように大きな空孔は見受けられないものの、微細な空孔が存在する。かような微細な空孔の存在により、ベース部57の密度は、仮に光学膜54の下部を同じ(下部において平均的な)元素比で真空蒸着した場合の蒸着膜の密度より低くなっていることが分かる。光学膜54の下部におけるベース部57は、適宜化学的安定性等に鑑みれば、AlO(0<y<1.5)及びSiO(0<z<2)の混合物から成ると言える。
又、光学膜54の中央部(実施例1の第2エリアに相当する部分)は、微細な凹凸構造5における凸部の根元部分に相当する。光学膜54の中央部の主成分は、AlO(0<y<1.5)であり、光学膜54の中央部の他の成分は、SiO(0<z<2)である。
更に、光学膜54の上部(実施例1の第1エリアに相当する部分)は、微細な凹凸構造5における凸部の先端部分に相当する。光学膜54の上部は、AlO(0<y<1.5)及びSiO(0<z<2)の混合物から成る。
かように、実施例4の光学膜54には、Al系製造中間膜22には存在しないSiが存在する。このSiは、浸漬時に取り込まれたシリカに由来する。
【0058】
≪比較例4の特性等≫
図22は、比較例4の垂直入射光の片面反射率のグラフである。このグラフによれば、比較例4において、可視光に対する低反射(例えば可視域全域で8%以下)が比較的に低いレベルで実現していることが分かる。しかし、上記表3の下部に示されるように、比較例4では、双方の基材2において、微細な凹凸構造5が形成されていない。尚、図22において、白板ガラス製基材2の比較例4の片面反射率が併せて示される。
【0059】
≪実施例1,4の特性(Al分布、密度分布及び屈折率分布)等≫
図23は、上述のSEM観察及び元素分析により取得した、基板の成膜面Fからの距離(垂直距離,nm,横軸)と、その距離における実施例1,4の光学膜4,54の面状部分でのAl元素比率(無単位,縦軸)との関係を示すグラフである。Al元素比率は、Si及びAlに対するAlの元素の存在比率、即ち「Alの元素数/(Siの元素数+Alの元素数)」を求めたものである。
このグラフによれば、実施例1,4において、垂直距離が65nm±25nm(40nm以上90nm以下)の範囲内においてAl元素比率の極大値が位置し、その極大値における垂直距離より大きい垂直距離の側(空気側)へ行くに従い、又その極大値における垂直距離より小さい垂直距離の側(基材2側)へ行くに従い、Al元素比率が減少していることが分かる。
又、極大値は、0.80以上0.95以下の範囲内に位置することが分かる。即ち、実施例1,4の光学膜4,54は、65nm又はこれに隣接する垂直距離において、0.80~0.95の範囲内の最大Al元素比率を有する。
そして、かようなAl元素比率の分布は、比較的に大きな空孔6を有するか(実施例1,光学膜4)、あるいは微細な空孔を有するか(実施例4,光学膜54)を問わず同様であることが分かる。
尚、極大値が位置する垂直距離の範囲の下限は、例えば、30nmであっても良いし、35nmであっても良いし、45nmであっても良いし、50nmであっても良い。又、極大値が位置する垂直距離の範囲の上限は、例えば、80nmであっても良いし、85nmであっても良いし、95nmであっても良いし、100nmであっても良い。更に、極大値の範囲の下限は、例えば、0.75(0.80-0.5)であっても良いし、0.55(0.80+0.5)であっても良い。加えて、極大値の範囲の上限は、例えば、1.0(0.95+0.5)であっても良いし、0.90(0.95-0.5)であっても良い。これらの上限及び下限の変更例は、以下の各種の極大値の範囲及び垂直距離の範囲において、同様に妥当する。又、垂直距離は、光学膜4,54が基材2の成膜面Fに間接的に(介装膜を介して)形成された場合、介装膜の上面(光学膜4,54の最下面)からの距離となる。
【0060】
図24は、上述のSEM観察及び元素分析により取得した、基板の成膜面Fからの距離(垂直距離,nm,横軸)と、その距離における実施例1,4の光学膜4,54の面状部分での密度比率(無単位,縦軸)との関係を示すグラフである。密度比率は、バルクの密度に対する密度の比率、即ち「密度/バルクの密度」であり、1で当該面状部分の密度がバルク同等であることを示す。
このグラフによれば、実施例1,4において、垂直距離が65nm±25nmの範囲内において密度比率の極大値が位置し、その極大値における垂直距離より空気側へ行くに従い、又その極大値における垂直距離より基材2側へ行くに従い、密度比率が減少していることが分かる。
又、極大値は、0.70以上0.85以下の範囲内に位置することが分かる。即ち、実施例1,4の光学膜4,54は、65nm又はこれに隣接する垂直距離において、バルク薄膜の密度の70~85%程度の最大密度を有する。又、この範囲内で密度が最大値をとる。
そして、かような密度比率の分布は、比較的に大きな空孔6を有するか(実施例1,光学膜4)、あるいは微細な空孔を有するか(実施例4,光学膜54)を問わず同様であることが分かる。
又、光学膜4,54の垂直方向における密度比率がかような分布をしているのであれば、光学膜4,54の垂直方向における密度も又、同様な分布をしていることになる。
【0061】
図25は、上述のSEM観察及び元素分析により取得した、基板の成膜面Fからの距離(垂直距離,nm,横軸)と、その距離における実施例1,4の光学膜4,54の面状部分での屈折率(無単位,縦軸)との関係を示すグラフである。
このグラフによれば、実施例1,4において、垂直距離が65nm±25nmの範囲内において屈折率の極大値が位置し、その極大値における垂直距離より空気側へ行くに従い、又その極大値における垂直距離より基材2側へ行くに従い、屈折率が減少していることが分かる。
又、極大値は、1.45以上1.55以下の範囲内に位置することが分かる。即ち、実施例1,4の光学膜4,54は、65nm又はこれに隣接する垂直距離において、1.50程度の屈折率を有する。尚、極大値の下限は、1.48でも良いし、1.42でも良いし、1.40でも良い。又、極大値の上限は、1.52でも良いし、1.58でも良いし、1.60でも良い。
そして、かような屈折率の分布は、比較的に大きな空孔6を有するか(実施例1,光学膜4)、あるいは比較的に小さな空孔を有するか(実施例4,光学膜54)を問わず同様であることが分かる。
【0062】
≪実施例4~5のまとめ等≫
実施例4~5は、基材2と、その成膜面Fに直接形成される光学膜54と、を備えており、光学膜54は、微細な凹凸構造5と、微細な凹凸構造5と基材2との間に配置されるベース部57と、を有しており、ベース部57を構成する元素に、Al、Si及びOが含まれ、ベース部57を構成する元素のうち、Al及びSiの少なくとも一方が、Oの元素数を除く元素数において過半数を占めており、ベース部57の密度は、ベース部57と同形状の膜であってベース部57と同じ元素比の材料により真空蒸着で形成された場合の膜である真空蒸着膜の密度より低い。
よって、実施例4~5では、基材2の熱膨張と光学膜54の熱膨張との差に基づく応力が低密度のベース部57で緩和され、熱によるクラックの発生が抑制されて、より耐熱性が優れたものとなる。
尚、実施例1~3も、空孔6を有することから、ベース部7の密度は、その蒸着膜の密度より低いと言える。
【0063】
更に、実施例4~5では、微細な凹凸構造5は、毛羽状構造、ピラミッド群状構造、及び剣山状構造の少なくとも何れかである。よって、微細な凹凸構造5を有する光学膜54が、より容易に形成される。
又、実施例4~5では、光学膜54は、AlO(0<y<1.5)及びSiO(0<z<2)を含む。よって、微細な凹凸構造5を有する光学膜54が、より容易に形成される。
【0064】
加えて、実施例4~5の製造方法は、アルミニウム、又はアルミニウムの化合物である1以上の層を有するAl系製造中間膜22を、基材2の成膜面Fに、各層の物理膜厚が何れも53.5nm以下である状態で成膜する製造中間膜形成工程(図3(B),図4図5)と、Al系製造中間膜22付きの基材2(製造中間体20)を、80℃以上沸騰温度未満のシリカを含有する純水に浸漬する浸漬工程(図3(D))と、を備えている。
よって、微細な凹凸構造5を有して反射防止機能を呈すると共に、低密度のベース部57を有して耐熱機能を呈する光学膜54が、より容易に形成される。特に、実施例5の製造方法では、98℃(沸騰温度より僅かに低い温度)の純水への浸漬によっても、反射防止機能及び耐熱機能を呈する光学膜54が得られている。
比較例4の製造方法では、高濃度のシリカを有する水道水への浸漬を行っているところ、微細な凹凸構造5を有する光学膜4,54は得られない。
尚、実施例4~5以外に、物理膜厚が53.5nm以下であるアルミニウム合金製のAl系製造中間膜22付きの基材2を80℃以上沸騰温度未満のシリカの水溶液(純水)に浸漬して光学膜4,54が種々作成され、微細な凹凸構造5及び耐熱性の具備が確認された。更に、実施例4~5以外に、各層の物理膜厚が53.5nm以下である3層以上のAl系製造中間膜22を80℃以上沸騰温度未満のシリカの水溶液(純水)に浸漬して光学膜4,54が種々作成され、微細な凹凸構造5及び耐熱性の具備が確認された。
傾向として、物理膜厚が40nmを超えて53.5nm以下であるアルミニウム合金製のAl系製造中間膜22付きの基材2を80℃以上沸騰温度未満のシリカの水溶液(純水)に浸漬した場合、空孔6が見受けられないものの蒸着膜より低密度であるベース部57を有する微細な凹凸構造5付きの光学膜54が、形成され易かった。尚、このように必ずなる訳ではないようであり、他の諸条件の状況次第で変わる可能性が存在する。
【0065】
又、実施例4~5の製造方法では、Al系製造中間膜22は、Alである。よって、微細な凹凸構造5及び耐熱性を有する光学膜54が、より容易に得られる。
更に、実施例4~5の製造方法では、Al系製造中間膜22付きの基材2をシリカの水溶液(純水)へ浸漬することにより、Al系製造中間膜22が光学膜54に変化し、光学膜54は、微細な凹凸構造5と、微細な凹凸構造5と基材2との間に配置されるベース部57と、を有しており、ベース部57を構成する元素に、Al、Si及びOが含まれ、ベース部57を構成する元素のうち、Al及びSiの少なくとも一方が、Oの元素数を除く元素数において過半数を占めており、ベース部57の密度は、ベース部57を同じ元素比の材料により真空蒸着で形成された場合の膜である真空蒸着膜の密度より低い。よって、微細な凹凸構造5及び耐熱性を有する光学膜54が、より容易に得られる。
又、実施例4~5の製造方法では、微細な凹凸構造5は、毛羽状構造、ピラミッド群状構造、及び剣山状構造の少なくとも何れかである。よって、微細な凹凸構造5を有する光学膜54が、より容易に形成される。
更に、実施例4~5の製造方法では、光学膜54は、AlO(0<y<1.5)及びSiO(0<z<2)の少なくとも一方を含む。よって、微細な凹凸構造5を有する光学膜54が、より容易に形成される。
加えて、実施例4の製造方法では、ベース部57の密度は、成膜面Fからの距離に応じて変化し、上記真空蒸着膜の密度の85%(密度比率0.85)以下である。よって、応力緩和機能を有しつつ、十分な強度を有する光学膜54の製造方法が提供される。
【0066】
又、実施例4~5の製造方法では、浸漬工程において、Al系製造中間膜22付きの基材2を、2秒間以上20分間以下で浸漬する。よって、微細な凹凸構造5を有する光学膜54が、より容易に、より効率良く形成される。
更に、実施例4~5の製造方法では、浸漬工程の前において、80℃未満の液体に浸漬する前浸漬工程を有している。よって、微細な凹凸構造5を有する光学膜54が、熱衝撃によるクラックの発生等が抑制された状態で、より容易に形成される。
加えて、実施例4~5の製造方法では、浸漬工程の後において、80℃未満の液体に浸漬する後浸漬工程を有している。よって、微細な凹凸構造5を有する光学膜54が、熱衝撃によるクラックの発生等が抑制された状態で、より容易に形成される。
又、実施例4~5の製造方法では、プラスチック製(PC製)の基材2の場合を含む。この場合、ガラス製の基材2に比べて内部応力の大きいプラスチック製の基材2においても応力緩和機能により更に安定した光学膜54が製造可能となる。
【符号の説明】
【0067】
1,51・・光学製品、2・・基材、4,54・・光学膜、5・・微細な凹凸構造、6・・空孔、7,57・・ベース部、22・・Al系製造中間膜、F・・成膜面、SL・・溶液(水溶液)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【手続補正書】
【提出日】2022-12-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の成膜面に直接又は介装膜を介して形成される光学膜と、
を備えており、
前記光学膜は、
微細な凹凸構造と、
前記微細な凹凸構造と前記基材又は前記介装膜との間に配置されるベース部と、
を有しており、
前記ベース部を構成する元素に、Al、Si及びOが含まれ、
前記ベース部を構成する元素のうち、Al及びSiの少なくとも一方が、Oの元素数を除く元素数において過半数を占めており、
前記ベース部の密度は、前記ベース部と同じ元素比の材料により真空蒸着で形成された場合の膜である真空蒸着膜の密度より低い
ことを特徴とする光学製品。
【請求項2】
前記微細な凹凸構造は、毛羽状構造、ピラミッド群状構造、及び剣山状構造の少なくとも何れかである
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項3】
前記光学膜は、AlO(0<y<1.5)及びSiO(0<z<2)を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項4】
前記ベース部の密度は、前記成膜面又は前記介装膜の空気側の面からの距離に応じ、その距離が40nm以上100nm以下となる範囲内において最大値を持つ状態で変化し、当該最大値は、前記真空蒸着膜の密度の85%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項5】
前記基材は、プラスチック製である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れかに記載の光学製品を製造する方法であって、
アルミニウム、アルミニウム合金、又はアルミニウムの化合物である1以上の層を有するAl系製造中間膜を、基材の成膜面又は介装膜の表面に、各前記層の物理膜厚が何れも53.5nm以下である状態で、スパッタリングにより成膜する製造中間膜形成工程と、
前記Al系製造中間膜付きの前記基材を、シリカを10mg/l以下の濃度で含有する80℃以上98℃以下の純水に浸漬する浸漬工程と、
を備えており、
前記浸漬工程により、前記Al系製造中間膜が前記光学膜に変化する
ことを特徴とする光学製品の製造方法。
【請求項7】
前記Al系製造中間膜は、Al、Al、AlN及びAlONの少なくとも何れかである
ことを特徴とする請求項6に記載の光学製品の製造方法。
【請求項8】
前記浸漬工程において、前記Al系製造中間膜付きの前記基材を、2秒間以上20分間以下で浸漬する
ことを特徴とする請求項6に記載の光学製品の製造方法。
【請求項9】
前記浸漬工程の前において、80℃未満の液体に浸漬する前浸漬工程を有している
ことを特徴とする請求項6に記載の光学製品の製造方法。
【請求項10】
前記浸漬工程の後において、80℃未満の液体に浸漬する後浸漬工程を有している
ことを特徴とする請求項6に記載の光学製品の製造方法。
【請求項11】
前記基材は、プラスチック製である
ことを特徴とする請求項6に記載の光学製品の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
上記主な目的を達成するために、基材と、前記基材の成膜面に直接又は介装膜を介して形成される光学膜と、を備えており、前記光学膜は、微細な凹凸構造と、前記微細な凹凸構造と前記基材又は前記介装膜との間に配置されるベース部と、を有しており、前記ベース部を構成する元素に、Al、Si及びOが含まれ、前記ベース部を構成する元素のうち、Al及びSiの少なくとも一方が、Oの元素数を除く元素数において過半数を占めており、前記ベース部の密度は、前記ベース部と同じ元素比の材料により真空蒸着で形成された場合の膜である真空蒸着膜の密度より低い光学製品が提供される。
又、上記他の主な目的を達成するために、アルミニウム、アルミニウム合金、又はアルミニウムの化合物である1以上の層を有するAl系製造中間膜を、基材の成膜面又は介装膜の表面に、各前記層の物理膜厚が何れも53.5nm以下である状態で、スパッタリングにより成膜する製造中間膜形成工程と、前記Al系製造中間膜付きの前記基材を、シリカを10mg/l以下の濃度で含有する80℃以上98℃以下の純水に浸漬する浸漬工程と、を備えた光学製品の製造方法が提供される。