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▶ 株式会社アドバンスト・スパッタテックの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047435
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】スパッタリング成膜源および成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230330BHJP
   C23C 14/35 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
C23C14/34 C
C23C14/35
【審査請求】有
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156337
(22)【出願日】2021-09-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】522176805
【氏名又は名称】株式会社アドバンスト・スパッタテック
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】岩田 寛
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029AA11
4K029AA24
4K029AA25
4K029BA45
4K029BA47
4K029BA50
4K029BC03
4K029BD01
4K029CA06
4K029DA10
4K029DC05
4K029DC13
4K029DC16
4K029DC21
4K029DC40
4K029DC43
4K029JA10
4K029KA03
(57)【要約】
【課題】被成膜体に与えるダメージの低減および成膜レートの向上を同時に実現することができるスパッタリング成膜源およびこのスパッタリング成膜源を用いた成膜装置を提供する。
【解決手段】スパッタリング成膜源は、空間20を介して対向配置されたターゲット21a、21bのそれぞれの裏面に永久磁石22a、23aおよびヨーク24aからなる磁気回路ならびに永久磁石22b、23bおよびヨーク24bからなる磁気回路がそれぞれ設けられ、ターゲット21a、21bの一端側にプラズマを遮蔽するための磁力線27を発生させるための永久磁石28a、28bが互いに対向して設けられ、これらの永久磁石28a、28bを互いに結合するヨーク29a、29b、29cがターゲット21a、21bおよびそれらの裏面の磁気回路を取り囲むように設けられる。空間20の開口部側に空間20に面するように被成膜体1が配置され、成膜が行われる。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向して配置された第1ターゲットおよび第2ターゲットと、
上記第1ターゲットの裏面に設けられた、上記第1ターゲットの外周部に対応する部分に磁化方向が上記第1ターゲットに対して垂直となるように設けられた第1永久磁石と上記第1ターゲットの中央部に対応する部分に上記第1永久磁石と逆極性となるように設けられた第2永久磁石と上記第1永久磁石および上記第2永久磁石を互いに結合する第1ヨークとにより形成された第1磁気回路と、
上記第2ターゲットの裏面に設けられた、上記第2ターゲットの外周部に対応する部分に磁化方向が上記第2ターゲットに対して垂直となり、かつ上記第1永久磁石と逆極性となるように設けられた第3永久磁石と上記第2ターゲットの中央部に対応する部分に上記第3永久磁石と逆極性となるように設けられた第4永久磁石と上記第3永久磁石および上記第4永久磁石を互いに結合する第2ヨークとにより形成された第2磁気回路と、
上記第1ターゲットの一端側に上記第1永久磁石に平行に上記第1永久磁石と同一の極性となるように設けられた第5永久磁石と、
上記第2ターゲットの一端側に上記第3永久磁石に平行に、かつ上記第5永久磁石に対向して上記第3永久磁石と同一の極性となるように設けられた第6永久磁石と、
上記第5永久磁石および上記第6永久磁石を上記第1磁気回路および上記第2磁気回路の外部で互いに結合する第3ヨークと、
を有するスパッタリング成膜源。
【請求項2】
上記第5永久磁石の上記第1永久磁石側の面に磁化方向が上記第5永久磁石の磁化方向と垂直となるように互いに逆極性の第1補助永久磁石および第2補助永久磁石が上記第5永久磁石の先端に向かって順に設けられ、上記第1補助永久磁石の上記第5永久磁石と反対側の磁極は上記第1永久磁石の上記第1ヨーク側の磁極と同じ極性であり、上記第6永久磁石の上記第3永久磁石側の面に磁化方向が上記第6永久磁石の磁化方向と垂直となるように互いに逆極性の第3補助永久磁石および第4補助永久磁石が上記第6永久磁石の先端に向かって順に設けられ、上記第3補助永久磁石の上記第6永久磁石と反対側の磁極は上記第3永久磁石の上記第2ヨーク側の磁極と同じ極性である請求項1記載のスパッタリング成膜源。
【請求項3】
上記第2永久磁石および上記第4永久磁石が上記第3ヨーク側に寄って配置されている請求項1または2記載のスパッタリング成膜源。
【請求項4】
上記第1ターゲットと上記第1永久磁石および上記第2永久磁石との間および上記第2ターゲットと上記第3永久磁石および上記第4永久磁石との間にそれぞれバッキングプレートが設けられている請求項1~3のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源。
【請求項5】
上記第1ターゲットの外周の近傍および上記第2ターゲットの外周の近傍にそれぞれターゲットシールドが設けられている請求項1~4のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源。
【請求項6】
上記第3ヨークが上記スパッタリング成膜源の筐体を兼用する請求項1~5のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源。
【請求項7】
互いに対向して配置されたターゲットおよびスパッタ粒子捕集シールドと、
上記ターゲットの裏面に設けられた、上記ターゲットの外周部に対応する部分に磁化方向が上記ターゲットに対して垂直となるように設けられた第7永久磁石と上記ターゲットの中央部に対応する部分に上記第7永久磁石と逆極性となるように設けられた第8永久磁石と上記第7永久磁石および上記第8永久磁石を互いに結合する第4ヨークとにより形成された磁気回路と、
上記ターゲットの一端側に上記第7永久磁石に平行に上記第7永久磁石と同一の極性となるように設けられた第9永久磁石と、
上記スパッタ粒子捕集シールドの一端側に上記第7永久磁石に平行に、かつ上記第9永久磁石に対向して上記第9永久磁石と同一の極性となるように設けられた第10永久磁石と、
上記第9永久磁石および上記第10永久磁石を上記磁気回路および上記スパッタ粒子捕集シールドの外部で互いに結合する第5ヨークと、
を有するスパッタリング成膜源。
【請求項8】
上記第9永久磁石の上記第7永久磁石側の面に磁化方向が上記第9永久磁石の磁化方向と垂直となるように互いに逆極性の第5補助永久磁石および第6補助永久磁石が上記第9永久磁石の先端に向かって順に設けられ、上記第5補助永久磁石の上記第9永久磁石と反対側の磁極は上記第7永久磁石の上記第4ヨーク側の磁極と同じ極性である請求項7記載のスパッタリング成膜源。
【請求項9】
上記第8永久磁石が上記第5ヨーク側に寄って配置されている請求項7または8記載のスパッタリング成膜源。
【請求項10】
上記スパッタ粒子捕集シールドの裏面にヒーターが設けられている請求項7~9のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源。
【請求項11】
上記スパッタ粒子捕集シールドは上記ターゲットに平行に設けられている請求項7~10のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源。
【請求項12】
上記スパッタ粒子捕集シールドは、上記スパッタ粒子捕集シールドと上記ターゲットとの間の距離が上記第9永久磁石および上記第10永久磁石に向かって直線的に増加するように上記ターゲットに対して傾斜している請求項7~10のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源。
【請求項13】
上記スパッタ粒子捕集シールドは、上記スパッタ粒子捕集シールドと上記ターゲットとの間の距離が上記第9永久磁石および上記第10永久磁石に向かって増加するように上記ターゲットに向かって凸の湾曲した曲線状の断面形状を有する請求項7~10のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源。
【請求項14】
上記ターゲットと上記第7永久磁石および上記第8永久磁石との間にバッキングプレートが設けられている請求項7~13のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源。
【請求項15】
上記ターゲットの外周の近傍にターゲットシールドが設けられている請求項7~14のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源。
【請求項16】
上記第5ヨークが上記スパッタリング成膜源の筐体を兼用する請求項7~15のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源。
【請求項17】
互いに平行に対向して配置された第1円筒形ターゲットおよび第2円筒形ターゲットと、
上記第1円筒形ターゲットの内部に設けられた、一方の磁極が上記第1円筒形ターゲットの内周面に対向するように、かつ上記第1円筒形ターゲットの中心軸方向に延在して設けられた第11永久磁石と上記第11永久磁石の外周を取り囲むように上記第11永久磁石から離れてかつ上記第11永久磁石と逆極性に設けられた第12永久磁石と上記第11永久磁石および上記第12永久磁石を互いに結合する第6ヨークとにより形成された第3磁気回路と、
上記第2円筒形ターゲットの内部に設けられた、一方の磁極が上記第2円筒形ターゲットの内周面に対向するように、かつ上記第2円筒形ターゲットの中心軸方向に延在して設けられた第13永久磁石と上記第13永久磁石の外周を取り囲むように上記第13永久磁石から離れてかつ上記第13永久磁石と逆極性に設けられた第14永久磁石と上記第13永久磁石および上記第14永久磁石を互いに結合する第7ヨークとにより形成された第4磁気回路と、
上記第1円筒形ターゲットに対向して上記第1円筒形ターゲットの中心軸と上記第2円筒形ターゲットの中心軸とを含む平面に平行に設けられた第15永久磁石と、
上記第2円筒形ターゲットに対向して上記平面に平行に、かつ上記第15永久磁石に対向して設けられた上記第15永久磁石と同じ極性の第16永久磁石と、
上記第15永久磁石および上記第16永久磁石を上記第3磁気回路および上記第4磁気回路の外部で互いに結合する第8ヨークと、
を有するスパッタリング成膜源。
【請求項18】
上記第15永久磁石の上記第1円筒形ターゲット側の面に磁化方向が上記第15永久磁石の磁化方向と垂直となるように互いに逆極性の第7補助永久磁石および第8補助永久磁石が上記第15永久磁石の先端に向かって順に設けられ、上記第7補助永久磁石の上記第15永久磁石と反対側の磁極は上記第15永久磁石の上記第8ヨーク側の磁極と同じ極性であり、上記第16永久磁石の上記第2円筒形ターゲット側の面に磁化方向が上記第16永久磁石の磁化方向と垂直となるように互いに逆極性の第9補助永久磁石および第10補助永久磁石が上記第16永久磁石の先端に向かって順に設けられ、上記第9補助永久磁石の上記第16永久磁石と反対側の磁極は上記第16永久磁石の上記第8ヨーク側の磁極と同じ極性である請求項17記載のスパッタリング成膜源。
【請求項19】
上記第8ヨークが上記スパッタリング成膜源の筐体を兼用する請求項17または18記載のスパッタリング成膜源。
【請求項20】
互いに対向して配置された円筒形ターゲットおよびスパッタ粒子捕集シールドと、
上記円筒形ターゲットの内部に設けられた、一方の磁極が上記円筒形ターゲットの内周面に対向するように、かつ上記円筒形ターゲットの中心軸方向に延在して設けられた第17永久磁石と上記第17永久磁石の外周を取り囲むように上記第17永久磁石から離れてかつ上記第17永久磁石と逆極性に設けられた第18永久磁石と上記第17永久磁石および上記第18永久磁石を互いに結合する第9ヨークとにより形成された磁気回路と、
上記円筒形ターゲットに対向して上記円筒形ターゲットの中心軸を含む平面に平行に設けられた第19永久磁石と、
上記スパッタ粒子捕集シールドに対向して上記平面に平行に、かつ上記第19永久磁石に対向して設けられた上記第19永久磁石と同じ極性の第20永久磁石と、
上記第19永久磁石および上記第20永久磁石を上記磁気回路および上記スパッタ粒子捕集シールドの外部で互いに結合する第10ヨークと、
を有するスパッタリング成膜源。
【請求項21】
上記第19永久磁石の上記円筒形ターゲット側の面に互いに逆極性の第11補助永久磁石および第12補助永久磁石が上記第19永久磁石の先端に向かって順に設けられている請求項20記載のスパッタリング成膜源。
【請求項22】
上記スパッタ粒子捕集シールドの裏面にヒーターが設けられている請求項20または21記載のスパッタリング成膜源。
【請求項23】
上記スパッタ粒子捕集シールドは上記平面に垂直に設けられている請求項20~22のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源。
【請求項24】
上記スパッタ粒子捕集シールドは上記平面に対して傾斜している請求項20~22のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源。
【請求項25】
上記第10ヨークが上記スパッタリング成膜源の筐体を兼用する請求項20~24のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源。
【請求項26】
請求項1~25のいずれか一項記載のスパッタリング成膜源を有する成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スパッタリング成膜源および成膜装置に関し、スパッタリング法により薄膜を成膜する各種のデバイス等の製造に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なスパッタリング成膜源は、ターゲット上のスパッタ領域が被成膜体の方向を向いているため、プラズマのみならず、ターゲット表面で反射されるスパッタガス原子あるいは分子が当該被成膜体へ大きな運動エネルギーで衝突するため、被成膜体へ多大なダメージを与えてしまい、ダメージに弱い材料、例えば有機物の発光材料や発電材料あるいは半導体シリコンのパッシベーション膜等の直上にスパッタリング法で薄膜を形成することが不可能であった。
【0003】
対向ターゲット式スパッタリング成膜源は、上記のダメージに弱い材料へのダメージを軽減させて薄膜を形成する目的で開発された成膜源である。従来の対向ターゲット式スパッタリング成膜源としては特許文献1、2に記載されたものが知られている。特許文献1には、所定の間隔を隔てて一対のターゲットを対向配置し、各ターゲットの外周に沿って永久磁石からなる磁界発生手段を設けて該ターゲット間の対向空間を囲むターゲットに垂直な対向モードの磁界と該ターゲットの外周の前方近傍から中心寄りの表面に至るマグネトロンモードの磁界を形成した対向ターゲット部を備え、該対向空間内にプラズマを形成し、該対向空間の側方に配置した基板上に薄膜を形成するようにした対向ターゲット式スパッタ装置において、マグネトロンモードの磁界を調整する磁界調整手段としての永久磁石をその磁路中に設けることが記載されている。特許文献2に記載された対向ターゲット式スパッタ装置においては、対向空間を介して一対のターゲットを配置し、その側面部に、N極とS極とが向き合うように一対の永久磁石を配置し、この一対の永久磁石の対向空間と反対側の磁極同士を磁気的に接続するためにヨークを配置する。ヨークは、一方の永久磁石の背面に配置されるコア部と、他方の永久磁石の背面に配置されるコア部と、これらの二つのコア部を接続する連結部とから構成される。これらのコア部と連結部とは強磁性体により形成される。
【0004】
しかし、本発明者の検討によれば、特許文献1、2に記載された従来の対向ターゲット式スパッタリング成膜源においては、次のような問題が存在する。すなわち、図21は、特許文献1、2に記載されている対向ターゲット式スパッタリング成膜源の代表的な実施の形態を模式的に示したものである。図21中、符号1は被成膜体、10は対向空間、11a、11bはターゲット、12a、12b、13a、13bは永久磁石、14a、14b、14cはヨーク、16a、16b、16a’、16b’、17、17’は磁力線を示す。この従来の対向ターゲット式スパッタリング成膜源においては、被成膜体1に面している対向空間10から被成膜体1に向かって図示しないスパッタ粒子が飛び出していくが、磁力線17の磁束密度が不十分だと、当該対向空間10に存在するプラズマも被成膜体1の方向に漏れ出してしまい、低ダメージの下での成膜ができない。ヨーク14aとヨーク14bとをヨーク14cで結合することにより、本従来技術よりも以前に用いられていた技術と比べると、磁力線17の磁束密度が大きくなり被成膜体1の方向に漏れ出すプラズマの量は減少したが、低ダメージ性の効果は十分でなかった。その技術的な理由は、永久磁石の外側の磁力線はN極からS極に向かうため、図21において永久磁石12aを起点とすると、そのN極から出た磁力線17は永久磁石12bのS極に入り、さらにヨーク14bからヨーク14cを経てヨーク14aに入って永久磁石12aのS極に戻る。しかし、前記した磁力線の流れは、ヨーク14bからヨーク14cを経てヨーク14aに入っていく途中で、磁力線16b’の向きと磁力線16a’の向きとがヨーク14a、14b中で反対向きのため、前記した磁力線の流れの強さが全体的に弱まってしまい、結果的に磁力線17の磁束密度も小さくなって、当該対向空間10に存在するプラズマの被成膜体1の方向に漏れ出す量が増えてしまい、低ダメージ成膜の効果が減少してしまうという問題点が存在した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-155564号公報
【特許文献2】特開2004-107733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、被成膜体に与えるダメージの低減および成膜レートの向上を同時に実現することができるスパッタリング成膜源およびこのスパッタリング成膜源を用いた成膜装置を提供することである。
【0007】
この発明が解決しようとする他の課題は、被成膜体に与えるダメージの低減および成膜レートの向上に加えて良好な膜厚分布をも同時に実現することができるスパッタリング成膜源およびこのスパッタリング成膜源を用いた成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は、
互いに対向して配置された第1ターゲットおよび第2ターゲットと、
上記第1ターゲットの裏面に設けられた、上記第1ターゲットの外周部に対応する部分に磁化方向が上記第1ターゲットに対して垂直となるように設けられた第1永久磁石と上記第1ターゲットの中央部に対応する部分に上記第1永久磁石と逆極性となるように設けられた第2永久磁石と上記第1永久磁石および上記第2永久磁石を互いに結合する第1ヨークとにより形成された第1磁気回路と、
上記第2ターゲットの裏面に設けられた、上記第2ターゲットの外周部に対応する部分に磁化方向が上記第2ターゲットに対して垂直となり、かつ上記第1永久磁石と逆極性となるように設けられた第3永久磁石と上記第2ターゲットの中央部に対応する部分に上記第3永久磁石と逆極性となるように設けられた第4永久磁石と上記第3永久磁石および上記第4永久磁石を互いに結合する第2ヨークとにより形成された第2磁気回路と、
上記第1ターゲットの一端側に上記第1永久磁石に平行に上記第1永久磁石と同一の極性となるように設けられた第5永久磁石と、
上記第2ターゲットの一端側に上記第3永久磁石に平行に、かつ上記第5永久磁石に対向して上記第3永久磁石と同一の極性となるように設けられた第6永久磁石と、
上記第5永久磁石および上記第6永久磁石を上記第1磁気回路および上記第2磁気回路の外部で互いに結合する第3ヨークと、
を有するスパッタリング成膜源である。
【0009】
このスパッタリング成膜源においては、第1磁気回路により第1ターゲットの表面にマグネトロン磁場が形成され、第2磁気回路により第2ターゲットの表面にマグネトロン磁場が形成されるようになっている。これらのマグネトロン磁場により、第1ターゲットおよび第2ターゲットの近傍にプラズマを拘束することができ、第1ターゲットおよび第2ターゲットをそれぞれ効率的にスパッタして被成膜体に薄膜を形成することができる。第3ヨークは、第1磁気回路および第2磁気回路を取り囲むように設けられることもあるし、第1磁気回路および第2磁気回路を取り囲まないように設けられることもあるし、双方に設けられることもある。
【0010】
このスパッタリング成膜源においては、被成膜体の位置における漏洩磁束密度の低減を図る観点から、好適には、第5永久磁石の第1永久磁石側の面に磁化方向が第5永久磁石の磁化方向と垂直となるように互いに逆極性の第1補助永久磁石および第2補助永久磁石が第5永久磁石の先端に向かって順に設けられ、第1補助永久磁石の第5永久磁石と反対側の磁極は第1永久磁石の第1ヨーク側の磁極と同じ極性であり、第6永久磁石の第3永久磁石側の面に磁化方向が第6永久磁石の磁化方向と垂直となるように互いに逆極性の第3補助永久磁石および第4補助永久磁石が第6永久磁石の先端に向かって順に設けられ、第3補助永久磁石の第6永久磁石と反対側の磁極は第3永久磁石の第2ヨーク側の磁極と同じ極性である。また、被成膜体側でのスパッタ量の増加を図る観点から、好適には、第2永久磁石および第4永久磁石が第3ヨーク側に寄って配置される。
【0011】
このスパッタリング成膜源においては、必要に応じて、第1ターゲットと第1永久磁石および第2永久磁石との間および第2ターゲットと第3永久磁石および第4永久磁石との間にそれぞれバッキングプレートが設けられる。これらのバッキングプレートを冷却することにより第1ターゲットおよび第2ターゲットを冷却することができる。必要に応じて、第1ターゲットの外周の近傍および第2ターゲットの外周の近傍にそれぞれターゲットシールドが設けられる。第3ヨークは、必要に応じて、スパッタリング成膜源の筐体を兼用することもある。
【0012】
このスパッタリング成膜源は、従来技術と比較してプラズマ発生機構およびスパッタ成膜源の特性が大きく異なっており、従来技術の対向ターゲット式スパッタリング成膜源はターゲット間の空間を囲むターゲットに垂直な対向モードの磁界によって発生するプラズマが当該成膜源の主なスパッタ現象を引き起こしていたが、このスパッタリング成膜源はマグネトロンモードの磁界によって発生するプラズマが当該成膜源における殆ど全てのスパッタ現象を引き起こすことに特徴があり、なおかつターゲット間の空間における被成膜体に面した側のみにおいてターゲットに垂直な対向モードの磁界を有するという特徴も併せ持つことで被成膜体方向へ漏れ出るプラズマを殆ど無くすことができ、成膜レートの向上と同時に低ダメージ性を実現することができる。また、スパッタ現象を引き起こすマグネトロンモードのプラズマは高速成膜を実現すると同時に、そのプラズマの均一性から良好な膜厚分布も同時に実現できる。
【0013】
このスパッタリング成膜源によれば、従来の対向ターゲット式スパッタリング成膜源と比較して大幅に成膜レートが向上し、かつ同時に極めて低温で成膜できる。この理由は下記の通りである。従来の対向ターゲット式スパッタリング成膜源は、図21に示す磁界分布から分かるように、対向させて設けた1対のターゲットの外周に沿って配置した永久磁石から成る磁力線、すなわち当該ターゲットに垂直な対向モードの磁力線による磁界が支配的であったため、当該磁界で発生するプラズマと当該ターゲットの界面に生じるイオンシースの厚さが大きく、そこに発生する電界強度が弱くなってしまい、十分なスパッタ成膜レートが得られなかった。同時に、当該プラズマは1対の当該ターゲットと当該磁力線で囲まれる領域の中央に集まる特性を有するため、当該ターゲットの中央付近のプラズマ密度が高くなる反面、当該ターゲットの両端部付近のプラズマ密度が低くなることで、当該ターゲット中央付近からスパッタされる成膜量が多く、かたや当該ターゲット両端部付近からスパッタされる成膜量が少ないため、膜厚分布の悪さが顕著に現れていた。さらにターゲット間の空間における被成膜体に面さないヨークで結合されてはいるものの、被成膜体に面している当該空間において対向モードの磁界が点線で示されるように弱まってしまうため、プラズマ遮蔽能力が小さくなり当該ヨークの効果の発現としては十分でなく、低ダメージ性に問題があった。これに対し、このスパッタリング成膜源によれば、後述の図1Aに示す磁界分布から明らかなように、対向モードのプラズマは殆ど有しないため、マグネトロンモードのプラズマが支配的であり、そのプラズマ密度が均一なことから、膜厚分布の良好なスパッタリング成膜源を実現することができる。さらに、被成膜体に面している第1ターゲットおよび第2ターゲットの間の空間における対向モードの磁界発生手段として1対の永久磁石が独立に存在しており、かつ当該空間における被成膜体に面さないヨークで当該1対の永久磁石が結合されているため、被成膜体に面している当該空間において対向モードの磁界が強くなり、プラズマ遮蔽能力が十分に大きいため、低ダメージ性にも優れている。
【0014】
また、この発明は、
互いに対向して配置されたターゲットおよびスパッタ粒子捕集シールドと、
上記ターゲットの裏面に設けられた、上記ターゲットの外周部に対応する部分に磁化方向が上記ターゲットに対して垂直となるように設けられた第7永久磁石と上記ターゲットの中央部に対応する部分に上記第7永久磁石と逆極性となるように設けられた第8永久磁石と上記第7永久磁石および上記第8永久磁石を互いに結合する第4ヨークとにより形成された磁気回路と、
上記ターゲットの一端側に上記第7永久磁石に平行に上記第7永久磁石と同一の極性となるように設けられた第9永久磁石と、
上記スパッタ粒子捕集シールドの一端側に上記第7永久磁石に平行に、かつ上記第9永久磁石に対向して上記第9永久磁石と同一の極性となるように設けられた第10永久磁石と、
上記第9永久磁石および上記第10永久磁石を上記磁気回路および上記スパッタ粒子捕集シールドの外部で互いに結合する第5ヨークと、
を有するスパッタリング成膜源である。
【0015】
このスパッタリング成膜源においては、被成膜体の位置における漏洩磁束密度の低減を図る観点から、好適には、被成膜体の位置における漏洩磁束密度の低減を図る観点から、好適には、第9永久磁石の第7永久磁石側の面に磁化方向が第9永久磁石の磁化方向と垂直となるように互いに逆極性の第5補助永久磁石および第6補助永久磁石が第9永久磁石の先端に向かって順に設けられ、第5補助永久磁石の第9永久磁石と反対側の磁極は第7永久磁石の上記第4ヨーク側の磁極と同じ極性である。また、被成膜体側でのスパッタ量の増加を図る観点から、好適には、第8永久磁石が第5ヨーク側に寄って配置される。第5ヨークは磁気回路およびスパッタ粒子捕集シールドを取り囲むように設けられることもあるし、磁気回路およびスパッタ粒子捕集シールドを取り囲まないように設けられることもあるし、双方に設けられることもある。
【0016】
このスパッタリング成膜源においては、必要に応じて、スパッタ粒子捕集シールドの裏面にヒーターが設けられる。このヒーターによりスパッタ粒子捕集シールドを加熱することにより、ターゲットからスパッタ粒子捕集シールドに到達するスパッタ粒子の付着確率が低下し、それによってターゲットに再付着するスパッタ粒子を増加させることができ、ひいてはターゲットの利用率の向上を図ることができる。スパッタ粒子捕集シールドは、ターゲットに平行に設けられることもあるし、スパッタ粒子捕集シールドとターゲットとの間の距離が第9永久磁石および第10永久磁石に向かって直線的に増加するようにターゲットに対して傾斜して設けられることもあるし、スパッタ粒子捕集シールドとターゲットとの間の距離が第9永久磁石および第10永久磁石に向かって増加するようにターゲットに向かって凸の湾曲した曲線状の断面形状を有するように設けられることもある。必要に応じて、ターゲットと第7永久磁石および第8永久磁石との間にバッキングプレートが設けられる。また、必要に応じて、ターゲットの外周の近傍にターゲットシールドが設けられる。必要に応じて、第5ヨークがスパッタリング成膜源の筐体を兼用することもある。
【0017】
このスパッタリング成膜源は、第1ターゲットおよび第2ターゲットを用いる上述のスパッタリング成膜源における一方のターゲットを除外し、当該除外されたターゲットの裏面に存在したマグネトロン磁場形成用の磁気回路も除外し、代わりに被成膜体に面した側のみに、除外してないターゲット裏面に設けた磁気回路の被成膜体に面した外周部永久磁石と同じ磁極の向きで永久磁石を配置したものに相当する。さらに、プラズマ発生機構とスパッタ成膜源の特性も従来技術と大きく異なっている。すなわち、従来技術の対向ターゲット式スパッタリング源では、ターゲット間の空間を囲むターゲットに垂直な対向モードの磁界によって発生するプラズマが当該成膜源の主なスパッタ現象を引き起こしていたが、このスパッタリング成膜源は、マグネトロンモードの磁界によって発生するプラズマが当該成膜源における全てのスパッタ現象を引き起こすことに特徴があり、なおかつターゲット間における被成膜体に面した側のみにおいて、ターゲットに垂直な対向モードの磁界を有するという特徴も併せ持つことで、被成膜体方向へ漏れ出るプラズマを殆ど無くすことができ、低ダメージ性を重視したスパッタ成膜を実現することができる。また、スパッタ現象を引き起こすマグネトロンモードのプラズマは、そのプラズマの均一性から良好な膜厚分布も同時に実現できる。さらに、ターゲットが片側にのみ存在する特徴から、ロールツーロール法によるフィルム成膜装置に適用することで、その効果が大きく発揮される。すなわち、当該ターゲットを上側にして当該成膜源を配置した場合、当該ターゲットのスパッタ領域近傍に存在する非スパッタ領域すなわち非エロージョン部から発生する異物が下側のターゲット上に落下した際に発生するアーク現象が、構造的に全く起こらないため、被成膜体に形成される膜中への異物混入頻度が極めて小さくなり、良好な品質のスパッタ成膜が可能になる。
【0018】
このスパッタリング成膜源によれば、後述の図2に示す磁界分布から明らかなように、マグネトロンモードのプラズマが全てであり、対向モードのプラズマは存在しないため、マグネトロンモードのプラズマ密度が均一なことから、膜厚分布の良好なスパッタリング成膜源を実現することができる。さらに、被成膜体に面しているターゲットとスパッタ粒子捕集シールドとの間の空間における対向モードの磁界発生手段として1対の永久磁石が独立に存在しており、かつ当該空間における被成膜体に面さないヨークで当該1対の永久磁石が結合されているため、被成膜体に面している当該空間において対向モードの磁界が強くなり、プラズマ遮蔽能力が十分に大きいため、優れた低ダメージ性も同時に得ることができる。
【0019】
また、この発明は、
互いに平行に対向して配置された第1円筒形ターゲットおよび第2円筒形ターゲットと、
上記第1円筒形ターゲットの内部に設けられた、一方の磁極が上記第1円筒形ターゲットの内周面に対向するように、かつ上記第1円筒形ターゲットの中心軸方向に延在して設けられた第11永久磁石と上記第11永久磁石の外周を取り囲むように上記第11永久磁石から離れてかつ上記第11永久磁石と逆極性に設けられた第12永久磁石と上記第11永久磁石および上記第12永久磁石を互いに結合する第6ヨークとにより形成された第3磁気回路と、
上記第2円筒形ターゲットの内部に設けられた、一方の磁極が上記第2円筒形ターゲットの内周面に対向するように、かつ上記第2円筒形ターゲットの中心軸方向に延在して設けられた第13永久磁石と上記第13永久磁石の外周を取り囲むように上記第13永久磁石から離れてかつ上記第13永久磁石と逆極性に設けられた第14永久磁石と上記第13永久磁石および上記第14永久磁石を互いに結合する第7ヨークとにより形成された第4磁気回路と、
上記第1円筒形ターゲットに対向して上記第1円筒形ターゲットの中心軸と上記第2円筒形ターゲットの中心軸とを含む平面に平行に設けられた第15永久磁石と、
上記第2円筒形ターゲットに対向して上記平面に平行に、かつ上記第15永久磁石に対向して設けられた上記第15永久磁石と同じ極性の第16永久磁石と、
上記第15永久磁石および上記第16永久磁石を上記第3磁気回路および上記第4磁気回路の外部で互いに結合する第8ヨークと、
を有するスパッタリング成膜源である。
【0020】
このスパッタリング成膜源においては、被成膜体の位置における漏洩磁束密度の低減を図る観点から、好適には、第15永久磁石の第1円筒形ターゲット側の面に磁化方向が第15永久磁石の磁化方向と垂直となるように互いに逆極性の第7補助永久磁石および第8補助永久磁石が第15永久磁石の先端に向かって順に設けられ、第7補助永久磁石の第15永久磁石と反対側の磁極は第15永久磁石の第8ヨーク側の磁極と同じ極性であり、第16永久磁石の第2円筒形ターゲット側の面に磁化方向が第16永久磁石の磁化方向と垂直となるように互いに逆極性の第9補助永久磁石および第10補助永久磁石が第16永久磁石の先端に向かって順に設けられ、第9補助永久磁石の第16永久磁石と反対側の磁極は第16永久磁石の第8ヨーク側の磁極と同じ極性である。必要に応じて、第8ヨークがスパッタリング成膜源の筐体を兼用することもある。第8ヨークは第3磁気回路および第4磁気回路を取り囲むように設けられることもあるし、第3磁気回路および第4磁気回路を取り囲まないように設けられることもあるし、双方に設けられることもある。
【0021】
また、この発明は、
互いに対向して配置された円筒形ターゲットおよびスパッタ粒子捕集シールドと、
上記円筒形ターゲットの内部に設けられた、一方の磁極が上記円筒形ターゲットの内周面に対向するように、かつ上記円筒形ターゲットの中心軸方向に延在して設けられた第17永久磁石と上記第17永久磁石の外周を取り囲むように上記第17永久磁石から離れてかつ上記第17永久磁石と逆極性に設けられた第18永久磁石と上記第17永久磁石および上記第18永久磁石を互いに結合する第9ヨークとにより形成された磁気回路と、
上記円筒形ターゲットに対向して上記円筒形ターゲットの中心軸を含む平面に平行に設けられた第19永久磁石と、
上記スパッタ粒子捕集シールドに対向して上記平面に平行に、かつ上記第19永久磁石に対向して設けられた上記第19永久磁石と同じ極性の第20永久磁石と、
上記第19永久磁石および上記第20永久磁石を上記磁気回路および上記スパッタ粒子捕集シールドの外部で互いに結合する第10ヨークと、
を有するスパッタリング成膜源である。
【0022】
このスパッタリング成膜源においては、被成膜体の位置における漏洩磁束密度の低減を図る観点から、好適には、第19永久磁石の円筒形ターゲット側の面に互いに逆極性の第11補助永久磁石および第12補助永久磁石が第19永久磁石の先端に向かって順に設けられる。必要に応じて、スパッタ粒子捕集シールドの裏面にヒーターが設けられる。スパッタ粒子捕集シールドは、上記の円筒形ターゲットの中心軸を含む平面に垂直に設けられることもあるし、その平面に対して傾斜して設けられることもある。必要に応じて、第10ヨークがスパッタリング成膜源の筐体を兼用することもある。第10ヨークは磁気回路およびスパッタ粒子捕集シールドを取り囲むように設けられることもあるし、磁気回路およびスパッタ粒子捕集シールドを取り囲まないように設けられることもあるし、双方に設けられることもある。
【0023】
上記のいずれかのスパッタリング成膜源に電力を供給する電源としては、直流電源、直流パルス電源、高周波電源、高周波パルス電源等が用いられ、必要に応じてこれらの中から選択される。
【0024】
上記のいずれか一つまたは二つ以上のスパッタリング成膜源を用いて様々なタイプの成膜装置を構成することができる。成膜装置は、特に制限はないが、例えば、被成膜体、典型的には基板を一方向に搬送しながら、あるいは往復運動を繰り返しながら、あるいはこれらの両方を繰り返しながら成膜を行うタイプの成膜装置、被成膜体を静止させて成膜を行うタイプの成膜装置、被成膜体を一方向に回転させながら、あるいはこの一方向の回転と逆方向の回転とを繰り返しながら、あるいはこれらの両方を繰り返しながら成膜を行うタイプの成膜装置、ロール状の被成膜体フィルムを一方向に搬送しながら、あるいは往復運動を繰り返しながら、あるいはこれらの両方を繰り返しながら成膜を行うロールツーロールタイプの成膜装置等である。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、被成膜体に与えるダメージの低減および成膜レートの向上に加えて良好な膜厚分布をも同時に実現することができるスパッタリング成膜源を得ることができ、この優れたスパッタリング成膜源を用いて高性能の成膜装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1A】この発明の第1の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図1B】この発明の第1の実施の形態によるスパッタリング成膜源のターゲットの裏面に設けられている磁気回路を示す正面図である。
図2】この発明の第2の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図3】この発明の第3の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図4】この発明の第4の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図5】この発明の第5の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図6】この発明の第6の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図7】この発明の第7の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図8】この発明の第8の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図9】この発明の第9の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図10】この発明の第10の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図11】この発明の第11の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図12】この発明の第12の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図13】この発明の第13の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図14】この発明の第14の実施の形態による成膜装置を示す正面図である。
図15】この発明の第15の実施の形態による成膜装置を示す正面図である。
図16】この発明の第16の実施の形態による成膜装置を示す正面図である。
図17】この発明の第17の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図18】この発明の第18の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図19】この発明の第19の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図20】この発明の第20の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す正面図である。
図21】従来の対向ターゲット式スパッタリング成膜源の課題を説明するための正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)について図面を参照しながら説明する。
【0028】
〈第1の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図1Aは第1の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図1Aに示すように、このスパッタリング成膜源においては、空間20を隔てて互いに対向する一対のターゲット21a、21bが互いに平行に設けられている。ターゲット21a、21bは図1Aに垂直な方向に延びた長方形の形状を有する。ターゲット21aの裏面の外周部には磁化方向がこの裏面に垂直となるように永久磁石22aが設けられ、中央部にはターゲット21aの長辺に平行に永久磁石22aと逆極性の永久磁石23aが設けられている。これらの永久磁石22a、23aのターゲット21aと反対側にはターゲット21aと同一の形状のヨーク24aが設けられている。そして、これらのターゲット21a、永久磁石22a、23aおよびヨーク24aにより磁気回路が形成されている。この磁気回路には磁力線26a、26a’、25a’が形成される。図1Bに永久磁石22a、23aおよびヨーク24aの正面図の一例を示す。図1Aにおいては、永久磁石22aのターゲット21a側の磁極がN極、ターゲット21aと反対側の磁極がS極である場合が示されているが、永久磁石22a、23aの極性は逆であってもよい。同様に、ターゲット21bの裏面の外周部には磁化方向がこの裏面に垂直となるように永久磁石22bが設けられ、中央部にはターゲット21bの長辺に平行に永久磁石22bと逆極性の永久磁石23bが設けられている。これらの永久磁石22b、23bのターゲット21aと反対側にはターゲット21bと同一の形状のヨーク24bが設けられている。そして、これらのターゲット21b、永久磁石22b、23bおよびヨーク24bにより磁気回路が形成されている。この磁気回路には磁力線26b、26b’、25b’が形成される。ターゲット21a、永久磁石22a、23aおよびヨーク24aとターゲット21b、永久磁石22b、23bおよびヨーク24bとは、空間20のターゲット21a、21bに平行な二等分面に関して互いに対称に配置されている。
【0029】
ヨーク24aの空間20と反対側に、このヨーク24aと十分に距離をとって独立な状態になっているヨーク29aがこのヨーク24aに平行に設けられている。このヨーク29aはヨーク24aよりも大きい長方形状の形状を有し、ヨーク24aを完全に覆っている。同様に、ヨーク24bの空間20と反対側に、このヨーク24bと十分に距離をとって独立な状態になっているヨーク29bがこのヨーク24bと平行に設けられている。このヨーク29bはヨーク24bよりも大きい長方形状の形状を有し、ヨーク24bを完全に覆っている。ヨーク29aの空間20側の面の一端部には磁化方向がこの面に垂直な永久磁石28aが永久磁石22aと所定の距離隔てて対向して設けられている。永久磁石28aの先端はターゲット21aの表面とほぼ同一面に位置している。永久磁石28aの磁極はヨーク29a側がS極となっている。同様に、ヨーク29bの空間20側の面の一端部には磁化方向がこの面に垂直な永久磁石28bが永久磁石22bと所定の距離隔てて対向して設けられている。永久磁石28bの先端はターゲット21bの表面とほぼ同一面に位置している。永久磁石28bの磁極はヨーク29b側がN極となっている。ヨーク29aの永久磁石28aが設けられている一端部とは反対側の端部とヨーク29bの永久磁石28bが設けられている一端部とは反対側の端部との間にはヨーク29cがヨーク29aとヨーク29bとを結合するように設けられている。ヨーク29cは、永久磁石22aの磁力線25a’および永久磁石22bの磁力線25b’がヨーク29cの中に入り込まないようこれらの永久磁石22a、22bから十分に離れた位置に設けられている。そして、ヨーク29a、29b、29cおよび永久磁石28a、28bにより磁気回路が形成されている。この磁気回路には、磁力線28a、27が形成される。ヨーク29a、29b、29cおよび永久磁石28a、28bは空間20のターゲット21a、21bに平行な二等分面に関して互いに対称に配置されている。
【0030】
図1Aに示すように、このスパッタリング成膜源においては、成膜が行われる被成膜体1は空間20に面する位置に配置される。
【0031】
このように、第1の実施の形態によれば、ターゲット21aの裏面に設けてある磁気回路のヨーク24aおよびターゲット21bの裏面に設けてある磁気回路のヨーク24bと十分に距離をとって独立な状態にしたヨーク29a、ヨーク29bを設け、ターゲット21a、21bの被成膜体1側の一端側に永久磁石28aおよび永久磁石28bを各々配置し、さらにヨーク29a、29bの空間20を介して反対側にヨーク29cを設けているので、空間20の被成膜体1側に発生するプラズマを遮蔽する磁力線27が、ターゲット21a、21b上に発生する図示しないマグネトロンプラズマを有効に遮蔽することができる。このため、被成膜体1の方向にプラズマが漏れ出すことがなくなり、低ダメージでの成膜を効果的に実現することができる。このスパッタリング成膜源は、従来技術では成膜が困難な被成膜体、すなわち有機フィルム基材、有機発光層、有機発電層、有機電子注入層、有機正孔注入層等の、低いプラズマ耐性や低い耐熱性や低い高エネルギー粒子耐性を特徴として持つ材料から成る被成膜体にも成膜を行うことができる。また、パルス出力が可能なスパッタリング用電源を使用することにより、アークが発生しやすいターゲット材料でもスパッタリング成膜が、被成膜体へのダメージを殆ど無くした状態かつ高い成膜速度で実現できることから、新たな材料の薄膜形成技術を提供することができ、新素材の薄膜形成が可能となる。このスパッタリング成膜源は、例えば、半導体デバイス、太陽電池、液晶ディスプレイ、有機EL等の各種のデバイス等において電極材料等の成膜に適用して好適なものである。
【0032】
〈第2の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図2は第2の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図2に示すように、このスパッタリング成膜源においては、永久磁石28aの永久磁石22a側の面に磁化方向が永久磁石28aの磁化方向と垂直となるように互いに逆極性の補助永久磁石M1 、M2 が永久磁石28aの先端に向かって順に設けられている。補助永久磁石M1 の永久磁石28aと反対側の磁極は永久磁石22aのヨーク24a側の磁極と同じS極であり、補助永久磁石M2 の永久磁石28aと反対側の磁極は永久磁石22aのターゲット21a側の磁極と同じN極である。同様に、永久磁石28bの永久磁石22b側の面に磁化方向が永久磁石28bの磁化方向と垂直となるように互いに逆極性の補助永久磁石M3 、M4 が永久磁石28aの先端に向かって順に設けられている。補助永久磁石M3 の永久磁石28bと反対側の磁極は永久磁石22bのヨーク24b側の磁極と同じN極であり、補助永久磁石M4 の永久磁石28aと反対側の磁極は永久磁石22aのターゲット21a側の磁極と同じS極である。その他のことは、第1の実施の形態と同様である。
【0033】
第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができることに加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、補助永久磁石M1 、M2 、M3 、M4 が設けられていることにより、被成膜体1への漏洩磁束密度を減少させることができ、それによって被成膜体1へのプラズマダメージの低減を図ることができる。
【0034】
〈第3の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図3は第3の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図3に示すように、このスパッタリング成膜源においては、第1の実施の形態によるスパッタリング成膜源におけるターゲット21b、永久磁石22b、23bおよびヨーク24bが設けられておらず、代わりにターゲット21bがあった位置にスパッタ粒子捕集シールド310が設けられている。ただし、図3においては、第1の実施の形態によるスパッタリング成膜源における空間20、ターゲット21a、永久磁石22a、23a、28a、28b、ヨーク24a、29a、29b、29c、磁力線26a、26a’、25a’、27はそれぞれ空間30、ターゲット31、永久磁石32、33、38a、38b、ヨーク34、39a、39b、39c、磁力線36、36a’、35a’、37と表されている。その他のことは、その性質に反しない限り、第1の実施の形態と同様である。
【0035】
第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、第1の実施の形態によるスパッタリング成膜源においては、例えば図1Aの上下方向が重力方向となるように設置する場合、言い換えるとターゲット21a、21bが水平となるように設置する場合には、上側のターゲット21a上でスパッタされない部位に発生する非エロージョン部から付着物が剥がれて、下側のターゲット21bの上へ落下した際にアーク放電が起き、それと同時に異物が飛散して被成膜体1を汚染してしまう。これに対し、この第2の実施の形態によるスパッタリング成膜源においては、下側のターゲット21bがあった位置にスパッタ粒子捕集シールド310が設けられていることにより、ターゲット31上でスパッタされない部位に発生する非エロージョン部から付着物が剥がれてもスパッタ粒子捕集シールド310で捕集されるため、上述のアーク放電を防止することができ、それによって異物の飛散による被成膜体1の汚染を防止することができる。
【0036】
〈第4の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図4は第4の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図4に示すように、このスパッタリング成膜源においては、第3の実施の形態によるスパッタリング成膜源において、第2の実施の形態と同様に、永久磁石38aの永久磁石32側の面に補助永久磁石M1 、M2 が設けられている。その他のことは、その性質に反しない限り、第3の実施の形態と同様である。
【0037】
この第4の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点に加えて、第2の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0038】
〈第5の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図5は第5の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図5に示すように、このスパッタリング成膜源においては、第3の実施の形態によるスパッタリング成膜源におけるスパッタ粒子捕集シールド310の裏側にヒーター41が設けられており、このヒーター41によりスパッタ粒子捕集シールド310を加熱することができるようになっている。この加熱温度は、ヒーター用電源42からヒーター41に供給される電流を制御することにより調整することができ、適温に保つことができる。
【0039】
この第5の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、ヒーター41によりスパッタ粒子捕集シールド310を加熱することができることにより、ターゲット31からスパッタ粒子捕集シールド310に到達したスパッタ粒子の付着確率が低下し、言い換えると離脱確率が向上し、その値に比例するスパッタ粒子がターゲット31に再付着することで、ターゲット31の利用効率の向上を図ることができる。
【0040】
〈第6の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図6は第6の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図6に示すように、このスパッタリング成膜源においては、第3の実施の形態によるスパッタリング成膜源においては、ターゲット21aの裏面に設けられた磁気回路を構成する中央部の永久磁石33’が中心線上に位置していたのに対し、永久磁石33’がプラズマを遮蔽する磁力線37の反対側に中心線から所定の距離だけシフトしていることが異なる。その他のことは、第3の実施の形態と同様である。
【0041】
この第6の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、ターゲット21aの裏面に設けられた磁気回路を構成する永久磁石33’がプラズマを遮蔽する磁力線37の反対側に中心線から所定の距離だけシフトしていることにより、空間30の被成膜体1側でのスパッタ量が増え、これによって低ダメージ性を維持したまま成膜レートを向上させることができる。
【0042】
〈第7の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図7は第7の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図7に示すように、このスパッタリング成膜源においては、第1の実施の形態によるスパッタリング成膜源においては、ターゲット21aの裏面に設けられた磁気回路を構成する中央部の永久磁石23aがターゲット21aの中心線上に位置し、同様にターゲット21bの裏面に設けられた磁気回路を構成する中央部の永久磁石23bがターゲット21bの中心線上に位置していたのに対し、永久磁石23a、23bがプラズマを遮蔽する磁力線27の反対側に中心線から所定の距離だけシフトしていることが異なる。その他のことは、第1の実施の形態と同様である。
【0043】
この第7の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、第6の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0044】
〈第8の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図8は第8の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図8に示すように、このスパッタリング成膜源においては、ターゲット21aがバッキングプレート71aに良熱伝導体のインジウム(図示せず)で固定されており、さらにこのバッキングプレート71aは水冷される構造になっており、筐体を兼ねるヨーク29cに対し、絶縁体から成る接続部品72aを介して電気絶縁性が確保されたボルト(図示せず)で固定されている。ターゲット21bに関しても同様であり、ターゲット21bがバッキングプレート71bに良熱伝導体のインジウムで固定されており、さらにこのバッキングプレート71bは水冷される構造になっており、筐体を兼ねるヨーク29cに対し、絶縁体から成る接続部品72bを介して電気絶縁性が確保されたボルトで固定されている。バッキングプレート71aおよび71bの材質は、好適には、熱伝導性と電気伝導性および耐腐食性のいずれにも優れている無酸素銅が使用されるが、クロム銅やリン青銅、ニッケル青銅あるいはベリリウム銅、場合によってはアルミニウムや非磁性のステンレス鋼を使用しても良い。
【0045】
また、ヨーク24aはヨーク29cに対し、非磁性体から成る接続部品74aを介して電気導通性のボルトで固定されており、電位は当該筐体を兼ねたヨーク29cとともにアース電位を確保している。バッキングプレート71aと磁気回路との間には、フッ素樹脂等からなる電気絶縁シート73aが挿入されており、電気絶縁性を高い状態で確保することができる。ターゲット21b側に関しても同様な構成になっており、ヨーク24bはヨーク29cに対し、非磁性体から成る接続部品74bを介して電気導通性のボルトで固定されており、電位は当該筐体を兼ねたヨーク29cとともにアース電位を確保している。バッキングプレート71bと磁気回路との間には、フッ素樹脂等からなる電気絶縁シート73bが挿入されており、電気絶縁性を高い状態で確保することができる。
【0046】
ターゲット21aの外周四辺端部およびそれらの外側は、ターゲットシールド75a、76aおよび図示しない二枚のターゲットシールドで囲まれており、ターゲット21aからスパッタされたスパッタ粒子が、このターゲット21a以外の部位に付着することを防ぐとともに、これらのターゲットシールドがターゲット21aおよびバッキングプレート71aから電気的に絶縁されて配置され、かつアース電位を確保されていることで、マグネトロン放電プラズマ中の過剰電子がこれらのターゲットシールドを介してプラズマ発生用直流電源77の正極に戻る構成になっている。ターゲット21b側に関しても同様であり、ターゲット21bの外周四辺端部およびそれらの外側は、ターゲットシールド75b、76bおよび図示しない二枚のターゲットシールドで囲まれており、これらのターゲットシールドはアース電位が確保され、ターゲット21bおよびバッキングプレート71bから電気的に絶縁されて配置され、かつアース電位を確保されていることで、マグネトロン放電プラズマ中の過剰電子がこれらのターゲットシールドを介してプラズマ発生用直流電源77の正極に戻る構成になっている。
【0047】
また、スパッタリング成膜を施すためのプラズマ発生用直流電源77は、負極がバッキングプレート71a、71bに電気的に接続されている。ただし、この際、ヨーク29cおよび上記のターゲットシールドとは電気的な絶縁が確保されている。ここで、バッキングプレート71a、71bへ接続するプラズマ発生用直流電源77は、各々一台ずつ独立させて接続しても良い。さらに、プラズマ発生用直流電源77は高周波電源に置き換えても良く、その際は、バッキングプレート71a、71bと高周波電源の間にインピーダンス整合器を挿入し調整することで、高周波電力をターゲット21a、ターゲット21bへ確実に伝搬させる。高周波電源をバッキングプレート71a、71bに各々独立させて接続する際は、各々にインピーダンス整合器を挿入し、さらに、各々の高周波の発振器を共通とし、位相に180°の差を設けることで、各々の高周波が干渉して発生する不具合を未然に防止することができる。
【0048】
なお、バッキングプレート71a、71bの片方に直流電源を、もう一方に高周波電源とインピーダンス整合器を接続して使用しても構わず、このようにすることで、導電性材料と絶縁性材料の合成薄膜を低ダメージで成膜できる。さらには、前記した直流電源および高周波電源には、パルス出力するものを使用しても構わず、このようにすることで、アーク放電がターゲット上で発生しやすい材料に関して、アーク放電による薄膜中への異物混入を未然に防ぎ、良品率を向上させることができる。
【0049】
ターゲット21aを冷却するため、熱伝導性が良好な状態でターゲット21aと接続
されたバッキングプレート71aが冷却水で冷却される構造になっている。典型的には、、バッキングプレート71aの内部に冷却水が流れるチャネルが構成されており、ヨーク29cおよび絶縁体から成る接続部品72aを介して、冷却水がバッキングプレート71aの内部に流入し排出する構成になっている。ターゲット21b側も同様であり、ターゲット21bを冷却するため、熱伝導性が良好な状態でターゲット21bと接続されたバッキングプレート71bが冷却水で冷却される構造になっている。典型的には、バッキングプレート71bの内部に冷却水が流れるチャネルが構成されており、ヨーク29cおよび絶縁体から成る接続部品72bを介して、冷却水がバッキングプレート71bの内部に流入し排出されるようになっている。ここでは、バッキングプレート71a、71bへ冷却水を流すチャネルは並列接続としたが、冷却能力が確保されていれば直列接続でも構わない。
【0050】
ところで、特許文献2に開示されている従来例の主要点を総括して図21に示した成膜源と比較して、図1Aに示す第1の実施の形態によるスパッタリング成膜源においては、各々の磁気回路の基本構成とその効果が大きく異なっている。具体的には、図1Aに示すように、プラズマを遮蔽する磁力線27を発生させる磁気回路が、ターゲット表面とヨークに発生して成膜に関与する磁力線、すなわちターゲット上にマグネトロンプラズマを起生する磁力線を発生させる磁気回路が各々独立して存在することから、プラズマを遮蔽する磁力線27の磁束密度を十分に高く確保できるため、高いプラズマ遮蔽効果を得ることができ、被成膜体1へのダメージをより低減することができる。さらに、図8に示すように、プラズマを遮蔽する磁力線を発生させる磁気回路の永久磁石28aのN極と永久磁石28bのS極と間の距離を、ターゲット表面とヨークに発生して成膜に関与する磁力線を発生させる永久磁石22aのN極と永久磁石22bのS極との間の距離よりも短くすることで、各々の目的として発生する磁力線の有効性が極めて効果的に実現し、より優位な低ダメージ成膜が実現できる。
【0051】
なお、特許文献2に開示されている従来例では、電子反射手段なるものがターゲト外周部に設けられており、磁界発生手段の磁極を兼ねるように強磁性体からなり、磁界発生手段の収納部となる周壁部の前面を覆い、ターゲットの周辺部に臨む幅の電子反射プレート部を、側断面がL字状の熱良導体の銅からなる取着部で支持した構成としている。このターゲットの周辺部に臨む幅の電子反射プレート部は、このスパッタリング成膜源において設けているターゲットシールド75a、76a、75b、76b等と比較して、形状的には類似しているが、その機能は大きく異なっている。すなわち、従来例における電子反射プレート部の電位はターゲットと同電位であり、その機能はプラズマ中の電子を反射することで対向モードによるプラズマを維持することに貢献するが、このスパッタリング成膜源において設けているターゲットシールド75a、76a、75b、76b等はアース電位であり、その機能はマグネトロンモードによるプラズマ中の過剰な電子をスパッタ電源に戻すことで当該プラズマを維持することである。
【0052】
特許文献2に開示されている従来例では、成膜源の被成膜体側開口部付近に発生する対向モード磁界によって、被成膜体へ到達するプラズマを遮蔽する構成になっているが、この対向モード磁界は対向モードプラズマを発生させる磁界を兼ねているため、マグネトロンモードの比率を高めて成膜速度を上げると、前記した被成膜体側開口部付近に発生する対向モード磁界が弱まって、被成膜体へ到達するプラズマを遮蔽する効果が減じてしまう問題点が存在する。しかし、このスパッタリング成膜源においては、成膜に係るプラズマはマグネトロンモード磁界によるプラズマのみで、被成膜体1へ到達するプラズマを遮蔽する磁界は、そのマグネトロンモード磁界と独立して発生し、かつ被成膜体1側開口部付近のみに発生する対向モード磁界であるため、効果的かつ確実に被成膜体1へ到達するプラズマを遮蔽することができる。
【0053】
〈第9の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図9は第9の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図9に示すように、このスパッタリング成膜源においては、第8の実施の形態において、第2の実施の形態と同様に、永久磁石28aの永久磁石22a側の面に補助永久磁石M1 、M2 が設けられ、永久磁石28bの永久磁石22b側の面に補助永久磁石M3 、M4 が設けられている。その他のことは、その性質に反しない限り、第2の実施の形態と同様である。
【0054】
この第9の実施の形態によれば、第8の実施の形態と同様な利点に加えて、第2の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0055】
〈第10の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図10は第10の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図10に示すように、このスパッタリング成膜源においては、第8の実施の形態におけるターゲット21b、永久磁石22b、23b、ヨーク24b、バッキングプレート71b、73b等が設けられておらず、代わりにターゲット21bがあった位置にスパッタ粒子捕集シールド310が設けられている。その他のことは、その性質に反しない限り、第8の実施の形態と同様である。
【0056】
この第10の実施の形態によれば、第8の実施の形態において、第3の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0057】
〈第11の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図11は第11の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図11に示すように、このスパッタリング成膜源においては、第10の実施の形態において、第2の実施の形態と同様に、永久磁石38aの永久磁石32側の面に補助永久磁石M1 、M2 が設けられている。その他のことは、その性質に反しない限り、第2の実施の形態と同様である。
【0058】
この第11の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点に加えて、第2の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0059】
〈第12の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図12は第12の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図12に示すように、このスパッタリング成膜源においては、スパッタ粒子捕集シールド310aがターゲット21aに対して、ターゲット21aとスパッタ粒子捕集シールド310aとの間の距離が永久磁石38a、38b側に向かって直線的に増加するように傾斜していることが異なる。その他のことは、第10の実施の形態と同様である。
【0060】
この第12の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、スパッタ粒子捕集シールド310aが永久磁石38a、38b側に向かって増加するように直線的に傾斜しているため、このスパッタ粒子捕集シールド310aに付着したスパッタ粒子の一部が離脱する際に、被成膜体1の方向へ進む離脱スパッタ粒子の確率が増えることで、成膜速度を向上させることができる。また、このスパッタ粒子捕集シールド310aは、第5の実施の形態におけるスパッタ粒子捕集シールド310のように裏面からヒーターで加熱することにより、被成膜体1の方向へ進む離脱スパッタ粒子の生成の確率をさらに増やすことができ、成膜速度の更なる向上が実現される。
【0061】
〈第13の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図13は第13の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図13に示すように、このスパッタリング成膜源においては、スパッタ粒子捕集シールド310bがターゲット21aに対して、ターゲット21aとスパッタ粒子捕集シールド310bとの間の距離が永久磁石38a、38b側に向かって増加するように上方に凸の曲線状の断面形状を有するように湾曲していることが異なる。その他のことは、第10の実施の形態と同様である。
【0062】
この第13の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、スパッタ粒子捕集シールド310bがターゲット21aに対して、ターゲット21aとスパッタ粒子捕集シールド310との間の距離が永久磁石38a、38b側に向かって増加するように上方に凸の曲線状の断面形状を有するように湾曲しているため、このスパッタ粒子捕集シールド310bへ付着したスパッタ粒子の一部が離脱する際に、被成膜体1の方向へ進む離脱スパッタ粒子の確率が増えることで、成膜速度を向上させることができる。また、このスパッタ粒子捕集シールド310bは、第5の実施の形態におけるスパッタ粒子捕集シールド310のように裏面からヒーターで加熱することにより、被成膜体1の方向へ進む離脱スパッタ粒子の生成の確率をさらに増やすことができ、成膜速度の更なる向上が実現される。
【0063】
〈第14の実施の形態〉
[成膜装置]
図14は第14の実施の形態による成長装置を示す。この成長装置は、第8の実施の形態によるスパッタリング成膜源を用いたものである。この成膜装置は、主に、被成膜体が基板状のものであるときに多く使用される真空成膜装置であり、また、被成膜体を搬送させながら成膜を行う成膜装置である。この成膜装置は真空槽110を有する。真空槽110内は分子流排気用ポンプのターボ分子ポンプ111、111’により高真空と呼ばれる真空圧力まで排気される。このターボ分子ポンプ111、111’の排気側には図示しない粘性流排気用ポンプが各々接続されており、真空槽110が大気圧の状態の際は、まず初めに当該粘性流排気用ポンプを起動させて10Pa前後の低圧力まで排気し、その後ターボ分子ポンプ111、111’を起動して、高真空と呼ばれる真空圧力のまで排気する構成になっている。なお、ターボ分子ポンプ111、111の代わりにクライオポンプあるいは拡散ポンプを使用しても良い。
【0064】
第1の実施の形態によるスパッタリング成膜源S1 は、その空間20の開口部が被成膜体1に向いて少なくとも一台が真空槽110の中に配置されている。スパッタリング成膜源S1 の空間20にスパッタリングガス112が導入される。被成膜体1は、搬送駆動機構(図示せず)によって矢印2で示す方向あるいはその逆方向に、一定の搬送速度で空間20に面した領域を通過する構成になっていることで、所望の膜厚を膜厚分布が良好な状態かつ低ダメージで成膜することができる。この搬送速度の制御は、駆動力を発生する電気モーターの回転速度を当該電気モーターに内蔵されたエンコーダーからの信号によりフィードバック制御を行った上で、ウォームギヤ、あるいはボールネジ、あるいはラックアンドピニオンギヤ等の変換機構で直線運動に変換することで行われる。ここで、被成膜体が搬送される直線運動の速度と電気モーターの回転運動の速度との関係は、前記した変換機構の構成により正確に決定される。なお、真空槽110内に設置するスパッタリング成膜源S1 は他のスパッタリング成膜源であっても構わず、その際には、空間20あるいは空間30が被成膜体1に向いて、少なくとも一台が設置されていれば良い。この結果として、従来よりも被成膜体1へダメージを与えずにスパッタリング成膜することが可能になる。
【0065】
加えて、被成膜体1の基板がスパッタリング成膜源の被成膜領域と比較して小さい場合は、図14における当該被成膜領域に、被成膜体1の基板を静止させて成膜することで成膜速度が向上し生産性が高くなる。加えて、被成膜領域を一定の速度で被成膜体を通過させるための機構を備えないで良いため、成長装置の大きさを小型化することができ、経済性を高めることができた。さらに、従来よりも被成膜体1へダメージを与えず、かつ高い成膜速度でスパッタリング成膜することが可能になる。
【0066】
この第14の実施の形態によれば、第8の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0067】
〈第15の実施の形態〉
[成膜装置]
図15は第15の実施の形態による成長装置を示す。この成長装置は、第8の実施の形態によるスパッタリング成膜源と第10の実施の形態によるスパッタリング成膜源とを用いたものである。この成膜装置は真空槽120を有する。真空槽120内は分子流排気用ポンプのターボ分子ポンプ121、121’により高真空と呼ばれる真空圧力まで排気される。ターボ分子ポンプ121、121’の排気側には図示しない粘性流排気用ポンプが各々接続されており、真空槽120が大気圧の状態の際は、まず初めに当該粘性流排気用ポンプを起動させて10Pa前後の低圧力まで排気し、その後ターボ分子ポンプ121、121’を起動して、高真空と呼ばれる真空圧力のまで排気する構成になっている。なお、ターボ分子ポンプ121、121’の代わりにクライオポンプあるいは拡散ポンプを使用しても良い。
【0068】
真空槽120の下部には、第14の実施の形態と同様なスパッタリング成膜源S1 が配置されている。真空槽120内には、スパッタリング成膜源S1 の上方に被成膜体支持ローラー4が設けられている。この場合、被成膜体支持ローラー4の回転軸は重力と平行な方向で設置されている。被成膜体3はこの被成膜体支持ローラー4に密着または固定される。真空槽120内にはさらに、被成膜体支持ローラー4の両側に、第10の実施の形態によるスパッタリング成膜源S2 、S3 が被成膜体支持ローラー4に対向して配置されている。スパッタリング成膜源S1 の空間20にスパッタリングガス112が導入され、スパッタリング成膜源S2 、S3 の空間30にそれぞれスパッタリングガス122、122' が導入される。被成膜体3は、回転駆動機構(図示せず)によって矢印5で示す回転方向あるいはその逆回転方向に、一定の角速度でスパッタリング成膜源S1 の空間20、スパッタリング成膜源S2 、S3 の空間30に面した領域を通過する構成になっていることで、所望の膜厚を膜厚分布が良好な状態かつ低ダメージで成膜することができる。この角速度の制御は、駆動力を発生する電気モーターの回転角速度を当該電気モーターに内蔵されたエンコーダーからの信号によりフィードバック制御を行った上で、被成膜体3を支持する被成膜体支持ローラー4へギヤの組み合わせ、タイミングベルト等により伝達される。なお、被成膜体3が搬送され周速度は、被成膜体支持ローラー4の直径と、前記した電気モーターの回転角速度制御により正確に決定される。この結果として、従来よりも被成膜体3へダメージを与えずにスパッタリング成膜することが可能になる。
【0069】
なお、この第15の実施の形態では、被成膜体支持ローラー4の回転軸が重力と平行な方向で設置されている場合を挙げたが、被成膜体支持ローラー4の回転軸が重力と垂直な方向で設置されていても差し支えない。
【0070】
第15の実施の形態によれば、被成膜体3が密着または固定される被成膜体支持ローラー4を回転しながら被成膜体3に成膜を行うタイプの成長装置において、第8および第10の実施の形態と同様な利点を得ることができることに加えて、三つのスパッタリング成膜源S1 、S2 、S3 を用いて成膜を高速で行うことができ、あるいは二種類または三種類の膜の成膜を行うことができるという利点を得ることもできる。
【0071】
〈第16の実施の形態〉
[成膜装置]
図16は第16の実施の形態による成膜装置を示す。この成膜装置は被成膜体3としてロール状のフィルムを用いるロールツーロール型成長装置である。図16に示すように、この成膜装置は真空槽130を有する。真空槽130は仕切板131、131’により上下の部屋に分けられている。真空槽130の下部の部屋には、第15の実施の形態による成膜装置と同様に、被成膜体支持ローラー4および三つのスパッタリング成膜源S1 、S2 、S3 が設置されている。スパッタリング成膜源S1 の空間20にスパッタリングガス112が導入され、スパッタリング成膜源S2 、S3 の空間30にそれぞれスパッタリングガス122、122' が導入される。仕切板131と仕切板131’との間には開口が設けられており、被成膜体支持ローラー7の最上部はこの開口に入り込んでいる。真空槽130の上部の部屋には、巻き出し側ロール132、巻き取り側ロール133、ガイドローラー134、134’が被成膜体支持ローラー4と平行に設置されている。フィルム状の被成膜体3はロールの状態で巻き出し側ロール132の部位に取り付けられ、このフィルム状の被成膜体3は巻き出し側ロール132から巻き出されて、ガイドローラー134を介して被成膜体支持ローラー4に密着しながら一定の周速度で回転している際に、前記した各々のスパッタリング成膜源S1 、S2 、S3 によって低ダメージで成膜される。その後、連続的にガイドローラー134’を介して巻き取り側ロール133で巻き取られることで、所望の膜厚を膜厚分布が良好な状態かつ低ダメージで成膜されたロール状のフィルムが完成する。なお、被成膜領域から漏れ出てくるスパッタリング粒子すなわち成膜材料は、仕切板131、131’によって遮蔽されることで、巻き出し側ロール132および巻き取り側ロール133の部位には到達しないため、余分な成膜材料が当該フィルム状の被成膜体3へ付着することを防止している。ここで、当該周速度の制御は、駆動力を発生する電気モーターの回転角速度を当該電気モーターに内蔵されたエンコーダーからの信号によりフィードバック制御を行なった上で、被成膜体を支持する被成膜体支持ローラー4へギヤの組み合わせ、タイミングベルト等により伝達される。ここで、被成膜体が搬送される周速度は、被成膜体支持ローラー4の直径と、前記した電気モーターの回転角速度制御により正確に決定される。巻き出し側ロール132および巻き取り側ロール133は電気モーターによって駆動されており、この電気モーターに掛かるトルクが常時モニターされており、当該トルクが常に前もって設定した一定の値になるように制御されている。ガイドローラー134、134’はフリーローラーであるので電気モーター等による駆動はされておらず、密着して搬送するフィルム状の被成膜体3の搬送周速度に準じて回転する機構になっている。なお、矢印5と逆向き回転の場合は、巻き出し側ロール132および巻き取り側ロール133はそれぞれの機能が逆になり、巻き出し側ロール132が巻き取り側ロール、巻き取り側ロール133が巻き出し側ロールになる。
【0072】
第16の実施の形態によれば、第15の実施の形態と同様な利点を得ることができることに加えて、従来よりも被成膜体3へダメージを与えずにスパッタリング成膜することが可能になるという利点を得ることができる。
【0073】
〈第17の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図17は第17の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。このスパッタリング成膜源はロータリー型のターゲットを用いたものである。図17に示すように、このスパッタリング成膜源においては、空間140を介して互いに対向して配置されたターゲット141a、141bを円筒型に構成し、各々を常時一定の角速度で回転させることによって、ターゲット141a、141bの長寿命化を図っている。そして、ターゲット141a、141bそれぞれに内蔵される磁気回路は、各々外周部永久磁石142a、142bと、中央部永久磁石143a 、143bと、ヨーク144a、144bとから成り、当該ターゲットの表面に各々につきマグネトロンプラズマを発生させる磁力線145a、145bを形成させる。また、ターゲット141aの裏面に設けてある磁気回路のヨーク144aおよびターゲット141bの裏面に設けてある磁気回路のヨーク144bと、十分に距離をとって独立な状態にしたヨーク29a、29bを設け、空間140側に永久磁石28a、永久磁石28bを各々配置し、さらにヨーク29a、29bの空間140の反対側にヨーク29cを設けることで、空間140の被成膜体1側に発生するプラズマを遮蔽する磁力線27が、被成膜体1の方向に漏れ出す図示しないプラズマを有効に遮蔽することができるため、低ダメージでの成膜を効果的に実現することができる。
【0074】
第17の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができることに加えて、ターゲット141a、141bの長寿命化を図ることができるという利点を得ることができる。
【0075】
〈第18の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図18は第18の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図18に示すように、このスパッタリング成膜源においては、第17の実施の形態において、第2の実施の形態と同様に、永久磁石28aのターゲット141a側の面に補助永久磁石M1 、M2 が設けられ、永久磁石28bのターゲット141b側の面に補助永久磁石M3 、M4 が設けられている。その他のことは、その性質に反しない限り、第17の実施の形態と同様である。
【0076】
この第18の実施の形態によれば、第17の実施の形態と同様な利点に加えて、第2の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0077】
〈第19の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図19は第19の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。このスパッタリング成膜源は円筒形ターゲットを用いたものである。図19に示すように、このスパッタリング成膜源においては、円筒形ターゲット151を常時一定の角速度で回転させることにより、長寿命化を図っている。そして、円筒形ターゲット151に内蔵される磁気回路は、外周部永久磁石152と中央部永久磁石153とヨーク154とから成り、円筒形ターゲット151の表面にマグネトロンプラズマを発生させる磁力線155を形成させる。この場合、円筒形ターゲット151と対向したターゲットは存在せず、代わりにスパッタ粒子捕集シールド310aが空間150を介して配置されているため、上部に配置された円筒形ターゲット141からスパッタ成膜中に堆積物が落下してもアーク放電が発生しないので、アーク発生時に飛散する異物が被成膜体1を汚染してしまうことが皆無であるという利点を有している。さらにこのスパッタ粒子捕集シールド310aは、第12の実施の形態と同様に、空間150の被成膜体1側の開口部に向かって傾斜させても良く、その場合、このスパッタ粒子捕集シールド310aへ付着したスパッタ粒子の一部が離脱する際に、被成膜体1の方向へ進む離脱スパッタ粒子の生成の確率が増えることで、成膜速度を向上させることができる。また、このスパッタ粒子捕集シールド310aは、第5の実施の形態と同様に裏面からヒーターで加熱しても良く、その場合、被成膜体1の方向へ進む離脱スパッタ粒子の生成の確率をさらに増やすことができ、成膜速度の更なる向上が実現できる。
【0078】
〈第20の実施の形態〉
[スパッタリング成膜源]
図20は第20の実施の形態によるスパッタリング成膜源を示す。図20に示すように、このスパッタリング成膜源においては、第19の実施の形態において、第2の実施の形態と同様に、永久磁石38aの円筒形ターゲット151側の面に補助永久磁石M1 、M2 が設けられている。その他のことは、その性質に反しない限り、第19の実施の形態と同様である。
【0079】
この第20の実施の形態によれば、第19の実施の形態と同様な利点に加えて、第2の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0080】
[スパッタリング成膜源の評価結果]
スパッタリング成膜源を試作し、評価を行った結果を説明する。
【0081】
図1A図7図8および図17に示すスパッタリング成膜源を試作し、成膜を行った。比較例として、図21に示す従来の対向ターゲット式スパッタリング成膜源を試作し、成膜を行った。実施例のスパッタリング成膜源と比較例のスパッタリング成膜源とにより、以下に説明するように酸化インジウム錫(ITO)膜を形成した際の、成膜中の基板温度上昇を測定することにより、基板が受けるダメージ量を比較評価した。具体的には、図1A図7図8および図17に示すスパッタリング成膜源においては、ターゲット21a、21bに酸化インジウム錫ターゲットを用い、基板には無アルカリガラス基板を用いた。効果評価用の成膜装置には、図14に示すような被成膜体搬送成膜型成膜装置を使用した。その上で、被成膜体1とした無アルカリ基板をスパッタリング成膜源の空間20の被成膜体1側の外側を一定の搬送速度で通過させて成膜を行った。搬送ラインの位置は、ターゲット21a、21bの被成膜体1側端部から100mm隔てた平面とした。
【0082】
同様に、図21に示すスパッタリング成膜源を用いた比較例においても、以下のように酸化インジウム錫膜を形成した際の、成膜中の基板温度上昇を測定することにより、基板が受けるダメージ量を比較評価した。具体的には、ターゲット11a、11bに酸化インジウム錫ターゲットを用い、基板には無アルカリガラス基板を用いた。効果評価用の成膜装置には、図14に示すような被成膜体搬送成膜型成膜装置を使用した。その上で、被成膜体とした無アルカリ基板をこのスパッタリング成膜源の空間10の被成膜体1側の外側を一定の搬送速度で通過させて成膜した。搬送ラインの位置は、ターゲット11a、11bの被成膜体1側端部から100mm隔てた平面とした。
【0083】
成膜および評価の手順は前記した両例を含め、後述する他の実施例においても共通とし以下の手順とした。まず、図14に示すように、スパッタリング成膜源および被成膜体1としての基板を配置した真空槽110内の内部を1. 5×10-4Paまで排気した後、スパッタガスとしてArガスとO2 ガスの流量比が20:1になる条件で、各々図示しない独立したマスフローコントローラーを介して、スパッタ圧力が0. 5Paになるようにスパッタリング成膜源に設けたスパッタリングガス導入口から導入し、2W/cm2 の直流電力密度にて、基板を60mm/分の搬送速度でスパッタリング成膜し、その間に成膜エリアを通過する際の基板温度上昇を当該基板に取り付けた熱電対で測定し、当該成膜エリアを通過し終えた直後の基板温度から、当該成膜エリアを通過する直前の基板温度を差し引いた温度を被成膜体の温度上昇幅とした。上述した手順による成膜方法および測定方法による各々の評価結果は表1に示す。なお、上述の実施例ではスパッタリング用電源に直流電源を使用したが、直流パルス電源、高周波電源、高周波パルス電源のいずれかを使用しても構わない。
【0084】
次に、図3図5図6図10図12図13および図19に示すスパッタリング成膜源においても同様に、酸化インジウム錫膜を形成した際の、成膜中の基板温度上昇を測定することにより、基板が受けるダメージ量を比較評価した。具体的には、ターゲット31に酸化インジウム錫ターゲットを用い、被成膜体としての基板には無アルカリガラス基板を用いた。効果評価用の成膜装置には、図14に示すような被成膜体搬送成膜型成膜装置を使用した。その上で、無アルカリ基板をスパッタリング成膜源の空間30の被成膜体1側の外側を一定の搬送速度で通過させて成膜した。搬送ラインの位置は、ターゲット31の被成膜体側端部から100mm隔てた平面とした。
【0085】
成膜および評価の手順も、図1A図7図8および図17に示すスパッタリング成膜源を用いた場合と共通とし、以下の手順とした。先ず、図14に示すように、スパッタリング成膜源および基板を配置した真空槽110内の内部を1. 5×10-4Paまで排気した後、スパッタガスとしてArガスとO2 ガスの流量比が20:1になる条件で、各々図示しない独立したマスフローコントローラーを介して、スパッタ圧力が0. 5Paになるように当該成膜源に設けたスパッタリングガス導入口から導入し、2W/cm2 の直流電力密度にて、被成膜体を60mm/分の搬送速度でスパッタリング成膜し、その間に成膜エリアを通過する際の基板温度上昇を当該基板に取り付けた熱電対で測定し、当該成膜エリアを通過し終えた直後の基板温度から、当該成膜エリアを通過する直前の基板温度を差し引いた温度を被成膜体の温度上昇幅とした。上述した手順による成膜方法および測定方法による各々の評価結果は表1に示す。なお、上述の実施例ではスパッタリング用電源に直流電源を使用したが、直流パルス電源、高周波電源、高周波パルス電源のいずれかを使用しても構わない。
【0086】
図1A図7図8および図17にそれぞれ示すスパッタリング成膜源を用いた場合を実施例1、2、3、4とした。図3図5および図6にそれぞれ示すスパッタリング成膜源を用いた場合を実施例5、6、7とした。図5に示すスパッタリング成膜源においてスパッタ粒子捕集シールド310の裏面にヒーターを設けたものを用いた場合を実施例8とした。図10に示すスパッタリング成膜源を用いた場合を実施例9とした。図12に示すスパッタリング成膜源を用いた場合を実施例10、図12に示すスパッタリング成膜源においてスパッタ粒子捕集シールド310aの裏面にヒーターを設けたものを用いた場合を実施例11とした。図13に示すスパッタリング成膜源を用いた場合を実施例12、図13に示すスパッタリング成膜源においてスパッタ粒子捕集シールド310aの裏面にヒーターを設けたものを用いた場合を実施例13とした。図19に示すスパッタリング成膜源を用いた場合を実施例14とした。図21に示すスパッタリング成膜源を用いた場合を比較例とした。
【0087】
表1は、実施例1~14および比較例について成膜の評価結果をまとめたものである。本結果から明らかなように、実施例1~4では比較例と比較して、被成膜体の温度上昇幅が小さく、明らかに低ダメージ性で優位なことが示されている。これは、プラズマ遮蔽の効果の表れである。さらに、成膜速度を比較しても実施例1~4では比較例と比較して明らかに高く優位なことが示されている。この理由は、比較例の従来技術は対向プラズマモードをベースにしているため、ターゲットとプラズマ間に生じるイオンシースが長くなり、当該イオンシースに掛かる電界強度が低下して、アルゴンイオンがターゲットに衝突する際の運動量が小さくなることでスパッタ率が低下して成膜速度が減少するためである。一方、実施例1~4ではいずれもマグネトロンプラズマモードのみを使用しているため、ターゲットとプラズマ間に生じるイオンシースが短くなり、当該イオンシースに掛かる電界強度が上昇して、アルゴンイオンがターゲットに衝突する際の運動量が大きくなることでスパッタ率が上昇して成膜速度が増加するためである。また、実施例5~14では、全ての例で比較例と比較して、被成膜体の温度上昇幅が更に小さく、明らかに低ダメージ性で優位なことが示されている。なお、成膜速度を比較すると、実施例5~14では全例について、比較例よりも低くなっているが、スパッタリング成膜源の構成によっては10%程度しか低下しておらず、図15に示すようにスパッタリング成膜源を横向きに配置した構成では、アークの発生がなく良品率を大きく向上させることができることから、実施例5~14も使い方によって大いに優位なことが示されている。
【0088】
表1
被成膜体の温度上昇幅(℃) 成膜速度(nm/min)
実施例1 6.2 3.9
実施例2 6.5 4.3
実施例3 6.2 3.9
実施例4 6.6 4.5
実施例5 3.0 2.0
実施例6 3.6 2.2
実施例7 3.1 2.2
実施例8 3.8 2.4
実施例9 3.0 2.0
実施例10 3.2 2.2
実施例11 4.0 2.4
実施例12 3.4 2.2
実施例13 4.2 2.5
実施例14 4.1 2.5
比較例 10.4 2.8
【0089】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0090】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、材料、構造、形状等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、材料、構造、形状等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1、3…被成膜体、4…被成膜体支持ローラー、20、30、140、150…空間、21a、21b、31…ターゲット、22a、22b、23a、23b、28a、28b、32、33、38a、38b、142a、142b、143a、143b、145a、145b…永久磁石、24a、24b、29a、29b、29c、34、39a、39b、39c、144a、144b…ヨーク、26a、26a’、26b、26b’、27、36、36’、37、145a、145b…磁力線、41、41a…ヒーター、42…ヒーター用電源、71a、71b…バッキングプレート、73a、73b…電気絶縁シート、77…プラズマ発生用直流電源、110、120、130…真空槽、141a、141b…円筒形ターゲット、310、310a…スパッタ粒子捕集シールド
図1A
図1B
図2
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