(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047445
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】害虫駆除装置、害虫駆除方法および害虫駆除システム
(51)【国際特許分類】
A01M 1/00 20060101AFI20230330BHJP
A01M 1/04 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
A01M1/00 L
A01M1/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156361
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121DA21
2B121DA34
2B121DA42
2B121DA62
2B121DA63
2B121DA67
2B121EA09
2B121FA14
(57)【要約】
【課題】人体への有害性を低減しつつ効果的に殺虫効果を得ることができる害虫駆除装置、害虫駆除方法および害虫駆除システムを提供する。
【解決手段】害虫駆除装置は、駆除対象とする虫を誘引する誘引要素を発する誘虫部と、誘虫部およびその周辺領域の少なくとも一部に対して、波長190nm以上240nm未満の紫外線を放射する光源部と、光源部の点灯を制御する制御部と、を備える。また、害虫駆除装置は、波長190nm以上240nm未満の紫外線を放射する光源部と、駆除対象とする虫が往来および/または定位し得る固定領域に対して紫外線が照射されるように光源部を支持する支持部と、光源部の点灯を制御する制御部と、を備えてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆除対象とする虫を誘引する誘引要素を発する誘虫部と、
前記誘虫部およびその周辺領域の少なくとも一部に対して、波長190nm以上240nm未満の紫外線を放射する光源部と、
前記光源部の点灯を制御する制御部と、を備えることを特徴とする害虫駆除装置。
【請求項2】
前記誘虫部は、波長300nm~400nm、または、波長450nm~550nmの波長帯域に主発光帯域が含まれる誘引発光体を備えることを特徴とする請求項1に記載の害虫駆除装置。
【請求項3】
前記制御部は、少なくとも前記誘虫部が前記誘引要素を発している期間中に前記光源部が前記紫外線を放射するように、前記該光源部の点灯を制御することを特徴とする請求項1に記載の害虫駆除装置。
【請求項4】
前記誘虫部は、断続的に前記誘引要素を発することを特徴とする請求項1に記載の害虫駆除装置。
【請求項5】
前記光源部および前記誘虫部は、荷物を輸送するための輸送容器の内部に設置されており、
前記制御部は、前記輸送容器の輸送過程において前記光源部が前記紫外線を放射するように、前記光源部の点灯を制御することを特徴とする請求項1に記載の害虫駆除装置。
【請求項6】
波長190nm以上240nm未満の紫外線を放射する光源部と、
駆除対象とする虫が往来および/または定位し得る固定領域に対して前記紫外線が照射されるように前記光源部を支持する支持部と、
前記光源部の点灯を制御する制御部と、を備えることを特徴とする害虫駆除装置。
【請求項7】
前記支持部は、屋外、又は、半屋外に形成された前記固定領域に対して前記紫外線が照射されるように前記光源部を支持することを特徴とする請求項6に記載の害虫駆除装置。
【請求項8】
前記支持部は、外気温よりも温度が高い放熱領域を含む前記固定領域に対して前記紫外線が照射されるように前記光源部を支持することを特徴とする請求項6に記載の害虫駆除装置。
【請求項9】
前記固定領域は、屋内と屋外とを連通する貫通孔であり、
前記支持部は、前記貫通孔の開口部および前記貫通孔の内部の少なくとも一部に対して前記紫外線が照射されるように前記光源部を支持することを特徴とする請求項6に記載の害虫駆除装置。
【請求項10】
前記固定領域は、壁面であって、
前記支持部は、前記壁面に対して前記紫外線が照射されるように前記光源部を支持することを特徴とする請求項6に記載の害虫駆除装置。
【請求項11】
前記固定領域は、窓面であって、
前記支持部は、前記窓面に対して前記紫外線が照射されるように前記光源部を支持することを特徴とする請求項6に記載の害虫駆除装置。
【請求項12】
前記光源部から放射される前記紫外線の照射領域内に存在する人を検知する検知部をさらに備え、
前記制御部は、前記検知部により人の存在が検知された場合、前記検知部により人の存在が検知されていない場合と比較して前記光源部から放射される紫外線量を低減する、または、前記光源部からの前記紫外線の放射を停止するように、前記光源部の点灯を制御することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の害虫駆除装置。
【請求項13】
前記制御部は、予め定められた、前記光源部から放射される前記紫外線の照射領域内に前記虫が存在し得るタイミングで前記光源部から前記紫外線が放射されるように、前記光源部の点灯を制御することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の害虫駆除装置。
【請求項14】
誘虫体から駆除対象とする虫を誘引する誘引要素を発するステップと、
前記誘虫体およびその周辺領域に対して、波長190nm以上240nm未満の紫外線を照射するステップと、を含むことを特徴とする害虫駆除方法。
【請求項15】
駆除対象とする虫を誘引する誘引要素を発する誘虫体と、
前記誘虫体およびその周辺領域の少なくとも一部に、波長190nm以上240nm未満の紫外線を照射する紫外線照射装置と、を備えることを特徴とする害虫駆除システム。
【請求項16】
前記誘虫体は、照明器具、自動販売機、および可視光を透過する窓面の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項15に記載の害虫駆除システム。
【請求項17】
荷物を輸送するための輸送容器であって、
前記荷物を収容する収容空間内に設置され、波長190nm以上240nm未満の紫外線を放射する光源部と、
前記光源部の点灯を制御する制御部と、を備えることを特徴とする輸送容器。
【請求項18】
前記収容空間内に設置され、駆除対象とする虫を誘引する誘引要素を発する誘虫部をさらに備え、
前記光源部は、前記誘虫部およびその周辺領域の少なくとも一部に対して前記紫外線を放射することを特徴とする請求項17に記載の輸送容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線を照射して害虫を駆除する害虫駆除装置、害虫駆除方法および害虫駆除システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境中に存在する害虫の駆除には、殺虫剤が用いられてきた。しかしながら、殺虫剤は人体に有害であり、殺虫効果を持続的に維持させることも困難である。
他方、紫外線を用いて殺虫効果を得ることも検討されている。例えば非特許文献1は、殺菌灯(低圧水銀ランプ)から放射される主波長254nmの紫外線を害虫に照射することで、殺虫効果が得られる点を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】岡本紀久、「ゴキブリにおける紫外線の作用機構とチャバネゴキブリの防除実験」、ペストロジー学会誌、1997年、12巻、1号、p.1-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、紫外線を用いた害虫駆除は、殺虫効果が限定的と考えられており、また、殺菌灯から放射される主波長254nmの紫外線は人体への有害性も伴うことから、実用上の問題となっていた。
また、例えば波長410nmの青色光は、波長365nmの紫外線よりも殺虫効果が高いという報告がある。しかしながら、強い青色光は人の眼に悪影響を及ぼすため、有人環境下での使用は困難である。
そこで、本発明は、人体への有害性を低減しつつ効果的に殺虫効果を得ることができる害虫駆除装置、害虫駆除方法および害虫駆除システムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る害虫駆除装置の一態様は、駆除対象とする虫を誘引する誘引要素を発する誘虫部と、前記誘虫部およびその周辺領域の少なくとも一部に対して、波長190nm以上240nm未満の紫外線を放射する光源部と、前記光源部の点灯を制御する制御部と、を備える。
【0006】
本発明者は、波長190nm以上240nm未満の紫外線は、従来の波長254nmの紫外線と比較して高い殺虫効果が得られることを見出した。これは、波長190nm以上240nm未満の紫外線は、波長254nmの紫外線と比較して、虫の体表を覆っているクチクラ層に効果的に作用するためであると推察される。
この波長190nm以上240nm未満の紫外線を駆除対象とする虫(害虫)に照射することで、害虫を適切に駆除することができる。また、害虫を誘引する誘虫部およびその周辺領域の少なくとも一部に上記紫外線を照射するので、誘引された害虫に対して適切に紫外線を照射することができる。さらに、波長190nm以上240nm未満の紫外線は、人体に対して悪影響の少ない紫外線である。したがって、人体への有害性を低減しつつ効果的に殺虫効果を得ることができる。
【0007】
また、上記の害虫駆除装置において、前記誘虫部は、波長300nm~400nm、または、波長450nm~550nmの波長帯域に主発光帯域が含まれる誘引発光体を備えていてもよい。
この場合、駆除対象とする虫の走光性を利用して、当該虫を適切に誘引することができる。
【0008】
さらに、上記の害虫駆除装置において、前記制御部は、少なくとも前記誘虫部が前記誘引要素を発している期間中に前記光源部が前記紫外線を放射するように、前記該光源部の点灯を制御してもよい。
この場合、誘虫部により誘引された害虫に対して適切に紫外線を照射することができる。また、光源部を常時駆動している必要がないため、紫外線光源の使用寿命を長くすることができる。
【0009】
また、上記の害虫駆除装置において、前記誘虫部は、断続的に前記誘引要素を発してもよい。
この場合、誘虫部に害虫が集まり過ぎないようにすることができる。
【0010】
さらに、上記の害虫駆除装置において、前記光源部および前記誘虫部は、荷物を輸送するための輸送容器の内部に設置されており、前記制御部は、前記輸送容器の輸送過程において、前記光源部が前記紫外線を放射するように、前記光源部の点灯を制御してもよい。
この場合、荷物に紛れて輸送容器内に侵入した害虫を駆除することができる。したがって、例えばヒアリや菌を媒介する蚊などの外来生物が国内に定着することを抑制することができる。
【0011】
また、本発明に係る害虫駆除装置の一態様は、波長190nm以上240nm未満の紫外線を放射する光源部と、駆除対象とする虫が往来および/または定位し得る固定領域に対して前記紫外線が照射されるように前記光源部を支持する支持部と、前記光源部の点灯を制御する制御部と、を備える。
このように、波長190nm以上240nm未満の紫外線を駆除対象とする虫(害虫)が往来および/または定位し得る固定領域に照射することで、当該固定領域を往来または定位する害虫に紫外線を照射することができ、当該害虫を適切に駆除することができる。さらに、波長190nm以上240nm未満の紫外線は、人体に対して悪影響の少ない紫外線である。したがって、人体への有害性を低減しつつ効果的に殺虫効果を得ることができる。
【0012】
さらに、上記の害虫駆除装置において、前記支持部は、屋外、又は、半屋外に形成された前記固定領域に対して前記紫外線が照射されるように前記光源部を支持してもよい。この場合、屋外、又は、半屋外にいる害虫に対して紫外線を照射し、駆除することができる。
また、上記の害虫駆除装置において、前記支持部は、外気温よりも温度が高い放熱領域を含む前記固定領域に対して前記紫外線が照射されるように前記光源部を支持してもよい。この場合、害虫が定位しやすい放熱領域に対して紫外線を照射し、当該害虫を適切に駆除することができる。
【0013】
さらに、上記の害虫駆除装置において、前記固定領域は、屋内と屋外とを連通する貫通孔であり、前記支持部は、前記貫通孔の開口部および前記貫通孔の内部の少なくとも一部に対して前記紫外線が照射されるように前記光源部を支持してもよい。
例えば、居住施設などの窓(人が出入りしない窓)、換気口、通気口、排水口などを含む屋内と屋外とを連通する貫通孔は、害虫の侵入経路になり得る。このような害虫侵入経路の出入口や内部に紫外線を照射することで、この害虫侵入経路を通る害虫に対して適切に紫外線を照射し、駆除することができる。
【0014】
また、上記の害虫駆除装置において、前記固定領域は、壁面であって、前記支持部は、前記壁面に対して前記紫外線が照射されるように前記光源部を支持してもよい。
この場合、壁面に定位している害虫に対して適切に紫外線を照射し、駆除することができる。そのため、ポスター等の表示物がある壁面の場合には、景観が損なわれることを抑制することができる。
【0015】
さらにまた、上記の害虫駆除装置において、前記固定領域は、窓面であって、前記支持部は、前記窓面に対して前記紫外線が照射されるように前記光源部を支持してもよい。
この場合、窓面に定位している害虫に対して適切に紫外線を照射し、駆除することができる。
【0016】
また、上記の害虫駆除装置は、前記光源部から放射される前記紫外線の照射領域内に存在する人を検知する検知部をさらに備え、前記制御部は、前記検知部により人の存在が検知された場合、前記検知部により人の存在が検知されていない場合と比較して前記光源部から放射される紫外線量を低減する、または、前記光源部からの前記紫外線の放射を停止するように、前記光源部の点灯を制御してもよい。
この場合、人の活動範囲内において、人に対して安全に害虫駆除することができる。また、紫外線の照射領域内に人が存在しない場合には、光源部から放射される紫外線量を多くすることができるので、害虫をより効果的に駆除することができる。
【0017】
さらに、上記の害虫駆除装置において、前記制御部は、予め定められた、前記光源部から放射される前記紫外線の照射領域内に前記虫が存在し得るタイミングで前記光源部から前記紫外線が放射されるように、前記光源部の点灯を制御してもよい。
この場合、例えば害虫が活発に活動する夜間時間帯などに紫外線照射を行うようにすることができる。これにより、より適切に害虫に対して紫外線を照射することができる。予め定められたタイミングとは、動作時刻を定めるものであってもよく、環境要素(気温や湿度、明るさ等)の基準値を定め、基準値を超えたタイミングで動作させるものであってもよい。この場合、環境要素を検知するセンサを取り付けてもよい。
【0018】
また、本発明に係る害虫駆除方法の一態様は、誘虫体から駆除対象とする虫を誘引する誘引要素を発するステップと、前記誘虫体およびその周辺領域に対して、波長190nm以上240nm未満の紫外線を照射するステップと、を含む。
このように、波長190nm以上240nm未満の紫外線を駆除対象とする虫(害虫)に照射することで、害虫を適切に駆除することができる。また、害虫を誘引する誘虫体およびその周辺領域の少なくとも一部に上記紫外線を照射するので、誘引された害虫に対して適切に紫外線を照射することができる。さらに、波長190nm以上240nm未満の紫外線は、人体に対して悪影響の少ない紫外線である。したがって、人体への有害性を低減しつつ効果的に殺虫効果を得ることができる。
【0019】
さらに、本発明に係る害虫駆除システムの一態様は、駆除対象とする虫を誘引する誘引要素を発する誘虫体と、前記誘虫体およびその周辺領域の少なくとも一部に、波長190nm以上240nm未満の紫外線を照射する紫外線照射装置と、を備える。
このように、波長190nm以上240nm未満の紫外線を駆除対象とする虫(害虫)に照射することで、害虫を適切に駆除することができる。また、害虫を誘引する誘虫体およびその周辺領域の少なくとも一部に上記紫外線を照射するので、誘引された害虫に対して適切に紫外線を照射することができる。さらに、波長190nm以上240nm未満の紫外線は、人体に対して悪影響の少ない紫外線である。したがって、人体への有害性を低減しつつ効果的に殺虫効果を得ることができる。
【0020】
また、上記の害虫駆除システムにおいて、前記誘虫体は、照明器具、自動販売機、および可視光を透過する窓面の少なくとも1つを含んでよい。
この場合、照明器具や自動販売機、窓面から発せられる光に引き寄せられるように近づいた害虫に対して紫外線を照射して、駆除することができる。
【0021】
さらに、本発明に係る輸送容器の一態様は、荷物を輸送するための輸送容器であって、前記荷物を収容する収容空間内に設置され、波長190nm以上240nm未満の紫外線を放射する光源部と、前記光源部の点灯を制御する制御部と、を備える。
これにより、荷物に紛れて輸送容器内に侵入した害虫を駆除することができる。したがって、例えばヒアリや菌を媒介する蚊などの外来生物が国内に定着することを抑制することができる。このように、害虫の駆除が可能な輸送容器とすることができる。
【0022】
また、上記の輸送容器は、前記収容空間内に設置され、駆除対象とする虫を誘引する誘引要素を発する誘虫部をさらに備え、前記光源部は、前記誘虫部およびその周辺領域の少なくとも一部に対して前記紫外線を放射してもよい。
この場合、輸送容器内に侵入した害虫を誘虫部により誘引し、誘引された害虫に対して紫外線を適切に照射することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一つの態様によれば、人体への有害性を低減しつつ効果的に殺虫効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施形態の害虫駆除装置(紫外線照射器)の外観イメージ図である。
【
図2】紫外線の殺虫駆除効果を確認するための実験に用いた装置の模式図である。
【
図3】紫外線照射量と蚊の死滅率との関係を示す図である。
【
図4】波長222nmの紫外線照射後の蚊の死滅率の変化を示す図である。
【
図5】波長254nmの紫外線照射後の蚊の死滅率の変化を示す図である。
【
図7】DNAとタンパク質の紫外線吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における紫外線照射器100の外観イメージ図である。
紫外線照射器100は、駆除対象とする虫(以下、「害虫」と称す。)に対して紫外線照射を行い、当該害虫を死滅させる害虫駆除装置である。
紫外線照射器100は、人や動物の細胞への悪影響が少ない波長190nm以上240nm以下の紫外線を、害虫に対して照射して死滅させるものである。
【0026】
図1に示すように、紫外線照射器100は、筐体11を備える。筐体11には、紫外線を放射する光放射面12が形成されている。具体的には、紫外線を放射する光出射窓となる開口部11aが形成されている。この開口部11aには、例えば石英ガラスからなる窓部材が設けられており、窓部材から紫外線を放射する。また、この開口部11aには、不要な波長帯域の光を遮断する光学フィルタ等を設けることもできる。
筐体11内部には、紫外線光源として、エキシマランプ20が収容されている。エキシマランプ20は、例えば中心波長222nmの紫外線を放出するKrClエキシマランプとすることができる。なお、紫外線光源は、KrClエキシマランプに限定されるものではなく、190nm~240nmの波長範囲にある紫外線を放射する光源であればよい。
筐体11と紫外線光源(エキシマランプ20)とで光源部を構成している。
【0027】
エキシマランプ20は、両端が気密に封止された直管状の放電容器21を備える。放電容器21は、例えば石英ガラスにより構成することができる。また、放電容器21の内部には、発光ガスとして希ガスとハロゲンとが封入されている。本実施形態では、発光ガスとして、塩化クリプトン(KrCl)ガスを用いる。この場合、得られる放射光のピーク波長は222nmである。
なお、発光ガスは上記に限定されない。例えば、発光ガスとして臭化クリプトン(KrBr)ガス等を用いることもできる。KrBrエキシマランプの場合、得られる放射光のピーク波長は207nmである。
また、
図1では、紫外線照射装置100が複数(3本)の放電容器21を備えているが、放電容器21の数は特に限定されない。
【0028】
放電容器21の外表面には、一対の電極(第一電極22、第二電極23)が当接するように配置されている。第一電極22および第二電極23は、放電容器21における光取出し面とは反対側の側面(-Z方向の面)に、放電容器21の管軸方向(Y方向)に互いに離間して配置されている。
そして、放電容器21は、これら2つの電極22、22に接触しながら跨るように配置されている。具体的には、2つの電極22、23には凹溝が形成されており、放電容器21は、電極22、23の凹溝に嵌め込まれている。
【0029】
この一対の電極のうち、一方の電極(例えば第一電極22)が高圧側電極であり、他方の電極(例えば第二電極23)が低圧側電極(接地電極)である。第一電極22および第二電極23の間に高周波電圧を印加することで、ランプが点灯される。
【0030】
エキシマランプ20の光取出し面は、光出射窓に対向して配置される。そのため、エキシマランプ20から放射された光は、光出射窓を介して紫外線照射装置100の光放射面12から出射される。
ここで、電極22、23は、エキシマランプ21から放射される光に対して反射性を有する金属部材により構成されていてもよい。この場合、放電容器21から-Z方向に放射された光を反射して+Z方向に進行させることができる。
【0031】
光出射窓となる開口部11aには、上述したように光学フィルタを設けることができる。光学フィルタは、例えば、人体への悪影響の少ない波長域190nm~240nmの光(より好ましくは、波長域200nm~230nmの光)を透過し、波長240nm~280nmのUVC波長帯域をカットする波長選択フィルタとすることができる。具体的には、光学フィルタへの入射角が0度の場合に、波長190nm~240nmの波長帯域におけるピーク波長の紫外線照度に対して、波長240nm~280nmの各紫外線照度を1%以下に低減する。
【0032】
波長選択フィルタとしては、例えば、HfO2層およびSiO2層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いることができる。
なお、波長選択フィルタとしては、SiO2層およびAl2O3層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いることもできる。
このように、光出射窓に光学フィルタを設けることで、エキシマランプ20から人に有害な光が放射されている場合であっても、当該光が筐体11の外に漏洩することをより確実に抑えることができる。
【0033】
また、紫外線照射器100は、
図1に示すように、電源部15と、制御部16と、を備える。
電源部15は、電源からの電力が供給されるインバータ等の電源部材や、電源部材を冷却するためのヒートシンク等の冷却部材を含む。また、制御部16は、光源部を構成するエキシマランプ20の点灯を制御する。
【0034】
さらに、紫外線照射器100は、検知部31と、近接センサ32と、を備えていてもよい。検知部31および近接センサ32は、例えば、筐体11における光放射面12の近傍に配置することができる。
検知部31は、光放射面12から放射される紫外線が照射される領域(照射領域)内に存在する人を検知する人感センサとすることができる。人感センサは、例えば、人体などから発する熱(赤外線)の変化を検知する焦電型赤外線センサとすることができる。検知部31は、人の所在を検知している場合、検知信号を制御部16に発信する。
【0035】
距離センサ32は、光放射面12に対して直交する方向における光放射面12から対象物体までの離間距離を検知する。ここで、当該物体は、人、動物、物を含む。
距離センサ32は、例えば、赤外LEDなどの赤外線発光素子とフォトダイオードなどの受光素子とを有し、赤外線発光素子から放射され対象物によって反射された赤外線を受光素子により受光することで対象物までの距離を検知する赤外線センサとすることができる。距離センサ32は、光放射面12に対面する物体を検知している場合、検知信号を制御部16に発信する。
なお、距離センサ32は、光放射面12に対面する物体との離間距離を測定できればよく、上記の赤外線センサに限定されるものではない。
【0036】
制御部16は、検知部31や距離センサ32からの信号に基づき、エキシマランプ20から放射される紫外線量を制御することができる。具体的には、制御部16は、検知部31から照射領域内に人の所在を検知していることを示す検知信号を受信している場合に、エキシマランプ20からの紫外線量を低減する、または、エキシマランプ20からの紫外線の放射を停止するように制御することができる。
なお、制御部16は、検知部31と距離センサ32とを併用し、検知部31により照射領域内に人の所在を検知しており、距離センサ32により光放射面12から所定距離内に物体を検知している場合に、エキシマランプ20からの紫外線量を低減する、または、エキシマランプ20からの紫外線の放射を停止するように制御してもよい。
【0037】
〔検証1〕
紫外線照射量(積算光量)と虫の死滅率との関係を確認するために、以下の実験を行った。
〔実施例1〕
図2に示すように、PETケース301に蚊(メスのヒトスジシマカ)200を12匹入れ、PETケース301の開口部を通気性の高いメッシュ状の布302で覆い、蚊200が逃げ出さないよう開口部の間隙を閉鎖した。その後、PETケース301の開口部に向けて紫外線を放射する灯具310を設置した。
【0038】
灯具310には、波長190nm~240nmに発光帯域を有するKrClエキシマランプ(主波長222nm)を用いた。また、灯具310には光学フィルタを設け、KrClエキシマランプから放射される紫外線のうち波長240nm以上の紫外線をカットしてPETケース301の開口部に向けて照射した。照射される紫外線の照度(光強度)は、布302を透過した紫外線がPETケース301の底面で25μW/cm
2となるように調整した。また、PETケース301の内部(
図2では底部)には、蚊200の栄養源となる栄養部材303を配置した。栄養部材303は、砂糖水を含侵させたコットン生地で形成した。
そして、灯具310からPETケース301の内部に向けて紫外線を照射し、PETケース301の底面での紫外線照射量(積算光量)と、紫外線照射直後の蚊200の死滅率との関係を調べた。
【0039】
〔比較例1〕
実施例1と同様に、
図2に示すPETケース301に蚊(メスのヒトスジシマカ)200を12匹入れ、PETケース301の開口部を通気性の高いメッシュ状の布302で覆い、蚊200が逃げ出さないよう開口部の間隙を閉鎖した。その後、PETケース301の開口部に向けて紫外線を放射する灯具310を設置した。
【0040】
灯具310には、主波長254nmの紫外線を放射する低圧水銀灯を用いた。また、照射される紫外線の照度(光強度)は、布302を透過した紫外線がPETケース301の底面で250μW/cm
2となるように調整した。また、PETケース301の内部(
図2では底部)には、蚊200の栄養源となる栄養部材303を配置した。栄養部材303は、砂糖水を含侵させたコットン生地で形成した。
そして、灯具310からPETケース301の内部に向けて紫外線を照射し、PETケース301の底面での紫外線照射量(積算光量)と、紫外線照射直後の蚊200の死滅率との関係を調べた。
【0041】
〔検証結果1〕
実施例1および比較例1では、紫外線照射量(積算光量)が2500mJ/cm
2に達するまで実験を行った。紫外線照射量(積算光量)と蚊の死滅率との関係を
図3に示す。この
図3において、実線は実施例1の実験結果、破線は比較例1の実験結果である。
図3に示すように、実施例1では、紫外線照射を行うことで蚊の活動量が低下することが確認でき、紫外線照射量が500mJ/cm
2に達した際には3匹の蚊が死滅(死滅率25%)したことを確認した。また、紫外線照射量が750mJ/cm
2に達した際には7匹の蚊が死滅(死滅率58%)したことを確認した。さらに、紫外線照射量が2500mJ/cm
2に達したところで全ての蚊が死滅(死滅率100%)したことを確認した。
【0042】
一方、比較例1では、紫外線照射量が0mJ/cm2~2000mJ/cm2の間では蚊の死滅は確認できなかった。そして、紫外線照射量が2125mJ/cm2に達した際に1匹の蚊が死滅したことを確認した。
以上の結果から、波長190nm~240nmの波長帯域の紫外線は、主波長254nmの紫外線と比較して、殺虫効果が高いことが確認できた。また、波長190nm~240nmの波長帯域の紫外線を照射することにより、蚊の活動量が低下していくことが確認でき、従来とは異なる殺虫原理によるものと推察することができた。
【0043】
なお、主波長254nmの紫外線照射を行った場合、紫外線照射量が2125mJ/cm2を超えてから蚊の死滅率が増加するのは、DNA切断やタンパク破壊による代謝異常、生体活動阻害、やけどによる障害等、複数の要因が考えられる。特筆すべきことは、主波長222nmの紫外線は、主波長254nmの紫外線では蚊の殺虫効果が得られない2000mJ/cm2以下の紫外線照射量で蚊の殺虫効果を発揮する点である。これは、主波長222nmの紫外線は、主波長254nmの紫外線と比較して、蚊の代謝異常や、やけど障害を効果的に発生させたためと考えられる。
【0044】
〔検証2〕
また、主波長222nmの紫外線を用いた場合、紫外線の照射直後は死滅していなくても、時間差で死滅する現象を確認した。
そこで、紫外線照射後の蚊の死滅率の変化について確認するために、以下の実験を行った。
〔実施例2〕
図2に示すPETケース301に蚊(メスのヒトスジシマカ)200を12匹入れ、PETケース301の開口部を通気性の高いメッシュ状の布302で覆い、蚊200が逃げ出さないよう開口部の間隙を閉鎖した。その後、PETケース301の開口部に向けて紫外線を放射する灯具310を設置した。
【0045】
灯具310には、波長190nm~240nmに発光帯域を有するKrClエキシマランプ(主波長222nm)を用いた。また、灯具310には光学フィルタを設け、KrClエキシマランプから放射される紫外線のうち波長240nm以上の紫外線をカットしてPETケース301の開口部に向けて照射した。照射される紫外線の照度(光強度)は、布302を透過した紫外線がPETケース301の底面で25μW/cm
2となるように調整した。また、PETケース301の内部(
図2では底部)には、蚊200の栄養源となる栄養部材303を配置した。栄養部材303は、砂糖水を含侵させたコットン生地で形成した。
そして、灯具310からPETケース301の内部に所定量の紫外線を照射し、紫外線照射後の蚊200の死滅率の変化を調べた。ここで、PETケース301の底面での紫外線照射量(積算光量)は、紫外線照射の直後に蚊の死滅が確認できなかった250mJ/cm
2以下とした。具体的には、紫外線照射量0mJ/cm
2(未照射)、37.5mJ/cm
2、62.5mJ/cm
2、125mJ/cm
2の4つのパターンで検証を行った。
【0046】
〔比較例2〕
図2に示すPETケース301に蚊(メスのヒトスジシマカ)200を12匹入れ、PETケース301の開口部を通気性の高いメッシュ状の布302で覆い、蚊200が逃げ出さないよう開口部の間隙を閉鎖した。その後、PETケース301の開口部に向けて紫外線を放射する灯具310を設置した。
【0047】
灯具310には、主波長254nmの紫外線を放射する低圧水銀灯を用いた。また、照射される紫外線の照度(光強度)は、布302を透過した紫外線がPETケース301の底面で250μW/cm
2となるように調整した。また、PETケース301の内部(
図2では底部)には、蚊200の栄養源となる栄養部材303を配置した。栄養部材303は、砂糖水を含侵させたコットン生地で形成した。
そして、灯具310からPETケース301の内部に所定量の紫外線を照射し、紫外線照射後の蚊200の死滅率の変化を調べた。ここで、PETケース301の底面での紫外線照射量(積算光量)は、紫外線照射の直後に蚊の死滅が確認できなかった250mJ/cm
2以下とした。具体的には、紫外線照射量0mJ/cm
2(未照射)、37.5mJ/cm
2、62.5mJ/cm
2、125mJ/cm
2の4つのパターンで検証を行った。
【0048】
〔検証結果2〕
図4に実施例2の実験結果、
図5に比較例2の実験結果を示す。
図4および
図5において、横軸は紫外線照射後の経過日数、縦軸は蚊の死滅率である。
図4に示すように、主波長222nmの紫外線の場合、照射直後に死滅しない照射量であっても、その後、所定時間が経過すると死滅する固体が多く発生することが分かった。これは
図5に示すような、主波長254nmの紫外線照射では見られない現象である。
この
図4に示す実験結果は、主波長222nmの紫外線照射は、少ない紫外線照射量であっても、蚊の代謝異常を促進させることで、その後の生存確率を低下させる効果が期待できることを示すものである。つまり、より少ない照射量での照射や、一時的な照射、断続的な照射であっても、時間差で害虫を殺虫駆除可能であることを示すものであり、例えば動き回る害虫に対してより効果を発揮することが期待できる。
【0049】
さらに、1日(8時間)あたりの紫外線照射量を、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)やJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)において定められている波長222nmの紫外線の許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)である22mJ/cm2に設定しても、数日間照射することで蚊が死滅することを確認した。なお、上記の許容限界値の数値は、現行の数値であって、今後改定され得る数値である。
【0050】
(作用原理)
昆虫の最表層にはクチクラが存在する。
図6は、昆虫(害虫)200のクチクラの構造を示す模式図である。昆虫200のクチクラは、タンパク質と脂質とからなる薄い外クチクラ201と、タンパク質とキチンとからなる厚い内クチクラの2層構造を有する。ここで、キチンは、真皮細胞203が分泌した非細胞性層状構造物である。
【0051】
クチクラは、昆虫の体表を覆っているワックス層であり、その主成分は炭化水素である。クチクラの主成分である炭化水素は、リポホリン(リポタンパク質)によって体表へ輸送されるものと考えられている。またリポホリンは、昆虫内の脂質輸送の役割を果たし、昆虫の代謝に深く関わるタンパク質である。
このように、昆虫には、哺乳類とは異なり角質層が無く、昆虫に紫外線を照射した場合、外骨格を構成するクチクラのタンパク質に紫外線が照射される。
【0052】
昆虫の体表(外骨格)に紫外線が照射されると、表層のタンパク質に紫外線が吸収される。
ここで、波長254nmの紫外線と、波長222nmの紫外線とでは、タンパク質の吸収係数が10倍程度異なり、同じ露光量であれば波長222nmの紫外線の方が吸収されやすい。DNAとタンパク質の紫外線吸収スペクトルを
図7に示す。この
図7において、曲線AはDNAの紫外線吸収スペクトル、曲線Bはタンパク質の紫外線吸収スペクトルである。
この
図7からも明らかなように、昆虫の体表(外骨格)に波長222nmの紫外線を照射した場合は、波長254nmの紫外線を照射した場合よりも、体表のタンパク質に紫外線が効果的に吸収される。
【0053】
従来、紫外線による殺虫作用は、虫のDNAへのダメージによるものと考えられてきた。
図7に示すように、波長222nmの紫外線と波長254nmの紫外線とでは、DNAの吸収係数はほぼ同等である。しかしながら、波長254nmの紫外線は、体表のタンパク質による吸収が小さいため、体内の真皮細胞にまで紫外線が到達し、DNAにダメージを与えやすい。一方、波長222nmの紫外線は、体表のタンパク質による吸収が大きく、内部に浸透し難い。
それにもかかわらず、上記の実験において、主波長222nmの紫外線を照射した場合の方が、主波長254nmの紫外線を照射した場合よりも高い殺虫効果が発揮されたのは、クチクラ層への作用によるものであると考えられる。
【0054】
昆虫の体表(外骨格)に紫外線が照射されると、表層のタンパク質に紫外線が吸収され、これによって代謝の役割を果たすリポホリンの活動が阻害されることで、昆虫の代謝が阻害され、殺虫効果が発揮されるものと推察される。
具体的には、クチクラ層内に紫外線が効果的に吸収されることで、タンパク質自体の変性を生じさせたり、クチクラ層内に存在する酵素が紫外線を受けることで活性酸素を放出し、この活性酸素がリポホリンを酸化させ、エネルギー代謝を阻害させたりするものと推察される。
【0055】
上述したように、昆虫の体表(外骨格)に波長222nmの紫外線を照射した場合、波長254nmの紫外線を照射した場合よりも、体表のタンパク質に紫外線が効果的に吸収される。したがって、主波長222nmの紫外線を照射した場合の方が、主波長254nmの紫外線を照射した場合よりも効果的にリポホリンに作用し、高い殺虫効果が発揮されたものと推察される。
【0056】
このように、本発明者は、主波長254nmの紫外線照射によってDNAを損傷させることによる殺虫効果よりも、波長240nm未満のより短波長帯域の紫外線照射によって、より高い殺虫効果が得られるという新たな知見を得た。また、この作用は、昆虫の体表に存在するタンパク質に紫外線が効果的に吸収されることで、リポホリンの活動を阻害することによるものと考察した。
この殺虫効果は、表層がクチクラ層で構成された害虫に広く適用できる作用効果である。クチクラ層の厚みは昆虫によって異なるが、ゴキブリ等の害虫にも同様の殺虫効果が得られるものである。
【0057】
本実施形態における紫外線照射器100は、人や動物の細胞への悪影響が少なく、かつ、高い殺虫効果が得られる190nm~240nmの紫外線を、害虫に対して照射する。これにより、波長254nmの紫外線照射と比較して高い殺虫駆除効果を得ることができる。
ここで、本実施形態において、殺虫駆除対象とする害虫は、表層がクチクラ層により構成された虫であり、例えば、蚊、ユスリカ、ハエ、クモ、ゴキブリ等を含む。
【0058】
紫外線照射器100は、屋内や屋外など、任意の環境に設置することができる。
例えば、紫外線照射器100は、予め定められた害虫の往来や定位が想定される固定領域に、連続的または断続的に紫外線を照射するように設置することができる。
上記固定領域は、例えば、屋外または半屋外の道路、駐車場、広場、公園等に設定することができる。具体的には、上記固定領域は、街灯や自動販売機、券売機、屋外施設の窓や外壁、ベンチ、遊具などを含む領域とすることができる。
【0059】
また、上記固定領域は、害虫が侵入し得る経路(害虫の侵入を警戒すべき経路)である害虫侵入経路に設定することもできる。害虫侵入経路は、例えば、居住施設などの窓(人が出入りしない窓)、換気口、通気口、排水口など、屋内と屋外とを連通する貫通孔を含む。この場合、紫外線照射器100は、害虫侵入経路に指向させて紫外線照射を実行してもよい。
さらに、上記固定領域は、害虫の侵入を防止させたい領域である害虫侵入防止領域に設定することもできる。害虫侵入防止領域は、例えば、船舶や航空機の貨物室、輸送コンテナ、荷台などの領域を含む。
【0060】
また、紫外線照射器100により紫外線を照射するタイミングは、害虫が行動する時間帯や、害虫が侵入するリスクレベルが高いタイミングとすることができる。
例えば、対象の害虫が夜行性の場合、夜間の時間帯に紫外線照射器100による紫外線照射を実行してもよい。また、例えば、開閉可能な通気口や換気窓が害虫侵入経路となる場合、通気口や換気窓を開放しているタイミングで紫外線照射器100による紫外線照射を実行してもよい。これにより、害虫に対して確実に紫外線を照射して死滅させることができるので、人の活動範囲内での害虫の活動を効果的に抑止することができる。
【0061】
また、紫外線照射器100は、人の存在を検知するための検知部(人感センサ等)31を備え、紫外線の照射領域内における人の存在を検知した場合は、人の存在を検知していない場合と比較して紫外線の放射量を低減する、または、紫外線の放射を停止するようにしてもよい。逆に、紫外線照射器100は、紫外線の照射領域内における人の存在を検知していない場合は、人の存在を検知した場合と比較して紫外線の放射量を増加させるようにしてもよい。
【0062】
さらに、紫外線照射器100は、害虫を誘引する誘虫部を備えていてもよい。例えば、害虫の多くは走光性を持つため、誘虫効果の高い光源(誘引発光体)を有する誘虫部を設け、誘虫部およびその周辺領域の少なくとも一部に紫外線を照射してもよい。
本実施形態において、「走光性」とは、光源に引き寄せられるように近づく昆虫の行動のことをいい、光源そのものに向かって移動し、光源そのものに定位する行動の他に、光依存的に運動の転向角度や速度を変化させることで、結果的に光源に近づく行動や、光源が周囲に作り出した別の光刺激に対して定位することで、光源に定位したように見える行動(走暗性によって光源の周囲に近づく行動)、背光反応や光による行動抑制により移動が阻害されることで、結果として光源に近づく行動を含む。
【0063】
上記のように誘虫部やその周辺領域に紫外線を照射することで、光源および光源周囲に誘引された害虫に対して紫外線を照射することができ、害虫駆除を効果的に実現することができる。
なお、虫の誘引効果は、虫の分光視感度が関係すると考えられており、虫によって様々だが、おおよそ波長300nm~400nmの紫外線や、波長450nm~550nmの可視光に対する感度が高いと考えられている。また、光を誘引要素として用いた誘虫部においては、光以外の環境要因、例えば気温、湿度、風、大気圧、雷や稲光等の気象条件も、誘引効果に影響があると考えられている。したがって、上記波長帯域に主発光帯域が含まれる誘引発光体を用いたり光以外の環境を整えたりすることで、誘虫効果をより高めることができる。なお、主発光帯域とは、光源から出射される光の強度スペクトルにおいて、ピーク強度に対して50%以上の光強度を示す波長帯域を指すものとする。
【0064】
紫外線照射器100は、誘虫部と組合せて使用する場合、誘虫部の動作中(誘引要素を発している期間中)に誘虫部やその周辺領域に対して紫外線を照射するようにしてもよい。これにより、誘虫部によって誘引された害虫に対して適切に紫外線を照射することができる。また、紫外線照射器100の光源部を常時駆動している必要がないため、紫外線光源の使用寿命を長くすることができる。
また、誘虫部に害虫が集まり過ぎないように、誘虫部から断続的に誘引要素(例えば光)を発するようにしてもよい。
【0065】
以下、本実施形態における害虫駆除システムについて例示する。
図8は、紫外線照射器100を街灯120に設置した場合の害虫駆除システム1000Aの構成例である。
害虫駆除システム1000Aは、紫外線照射器(紫外線照射装置)100と、誘虫部(誘虫体)110と、を備える。ここで、誘虫部110は、道路や駐車場、広場、公園等の屋外に設置された街灯120が備える照明器具であり、夜間の時間帯に点灯する。
【0066】
紫外線照射器100は、例えば街灯120のポールに固定されている。具体的には、紫外線照射器100は、支持部101を備え、当該支持部101によって街灯120のポールの上端部付近に固定されている。支持部101は、紫外線照射器100から上方(斜め上方)に紫外線UVが放射されるように紫外線の放射方向を調整して、紫外線照射器100を支持する。
このように、紫外線照射器100は、誘虫部(照明器具)110またはその周辺領域に向けて紫外線UVを照射する。これにより、街灯120の照明器具に近づいた害虫200や当該照明器具に定位した害虫200に対して、適切に紫外線UVを照射することができる。
【0067】
誘虫部110は、誘虫効果を有する光を含む光を放射する光放射面を備える。誘虫部110においては、光放射面が最も輝度が高く、害虫200が誘引されやすい。そのため、紫外線照射器100は、この光放射面に紫外線を照射するように設置されていてもよい。
また、誘虫部110が放射する光は、誘引対象の虫の分光視感度に合わせて、当該虫がより誘引されやすい波長の光を含むようにしてもよい。これにより、誘虫効果を高めることができる。
【0068】
また、誘虫部110は、虫がより誘引されやすくなるように、虫を誘引したいタイミングに合わせて、誘虫効果を高める点灯モード(以下、「防虫モード」という。)を実行してもよい。防虫モードは、例えば、虫の分光視感度に合う波長帯域の光強度を強めるモード等とすることができる。
【0069】
さらに、紫外線照射器100の制御部16(
図1参照)は、誘虫部110の動作に合わせてエキシマランプ20(
図1参照)を点灯制御してもよい。
具体的には、制御部16は、誘虫部110の動作中である夜間の時間帯にエキシマランプ20から紫外線が放射されるように、当該エキシマランプ20を点灯制御することができる。これにより、誘虫部110によって誘引された害虫200に対して確実に紫外線を照射することができる。
また、制御部16は、誘虫部110が防虫モードで動作している間、エキシマランプ20から放射される紫外線量を増加させるように、当該エキシマランプ20を点灯制御してもよい。
【0070】
なお、
図8に示す害虫駆除システム1000Aにおいて、誘虫部110は街灯120が備える照明器具であるが、街灯120の例えば紫外線照射器100の近傍に、害虫200を誘引する誘引要素を発する誘虫部を別途設置してもよい。また、紫外線照射器100が当該誘虫部を備えていてもよい。この場合の誘引要素は、誘引対象とする害虫200に応じて、光、香り、熱等、適宜選択することができる。
【0071】
図8に示す害虫駆除システム1000Aでは、紫外線照射器100は街灯120のポールの上端部付近に固定され、上方にむけて紫外線UVを放射する。つまり、紫外線照射器100は、紫外線UVが街灯120近傍に存在する人に照射されないように構成されている。
そのため、この場合、紫外線照射器100から放射される紫外線量は、比較的大きく設定することが可能である。また、上述したような、検知部31により人の存在を検知した場合に紫外線の放射量を低減したり紫外線の放射を停止したりする制御は不要である。
【0072】
図9は、紫外線照射器100を自動販売機130に設置した場合の害虫駆除システム1000Bの構成例である。
害虫駆除システム1000Bは、紫外線照射器(紫外線照射装置)100と、誘虫部(誘虫体)110と、を備える。ここで、誘虫部110は、自動販売機130の光放射面である。誘虫部110は、例えば、可視光透過窓からなるディスプレイ面とすることができる。
【0073】
紫外線照射器100は、支持部101を備え、当該支持部101によって、例えば自動販売機130の上部に固定されている。支持部101は、紫外線照射器100から下方(斜め下方)に紫外線UVが放射されるように紫外線の放射方向を調整して、紫外線照射器100を支持する。
このように、紫外線照射器100は、誘虫部110またはその周辺領域に向けて紫外線UVを照射する。これにより、自動販売機130のディスプレイ面に近づいた害虫200や当該ディスプレイ面に定位した害虫200に対して、適切に紫外線UVを照射することができる。
【0074】
誘虫部110の点灯モードは、上述した害虫駆除システム1000Aと同様とすることができる。また、紫外線照射器100の点灯制御も、上述した害虫駆除システム1000Aと同様とすることができる。
なお、虫の誘引効果は、誘虫光源の明るい部分とその周囲の暗い部分との光強度差によって変わる。夜間は、昼間と同じ可視光照射量であっても虫の誘引効果が高いため、紫外線照射器100の制御部16は、夜間の時間帯にエキシマランプ20から放射される紫外線量を増加させるように、当該エキシマランプ20を点灯制御してもよい。
【0075】
また、紫外線照射器100の制御部16は、検知部31により紫外線の照射領域内に人が存在することを検知した場合に、エキシマランプ20からの紫外線量を低減する、または、エキシマランプ20からの紫外線の放射を停止するように制御してもよい。
害虫駆除を効果的に実現するためには、比較的紫外線の放射量を大きく設定する必要がある。ところが、自動販売機130のディスプレイ面には人が接近し得る。また、ディスプレイ面の近傍に設けられた押しボタン等を操作する際には、紫外線照射器100から放射された紫外線が人に照射され得る。そのため、紫外線照射器100は、検知部31により人の存在を検知した場合には、紫外線放射量を低減する、または、紫外線放射を停止する等の点灯制御を行うことが好ましい。
なお、ここでは自動販売機130について説明したが、自動券売機についても同様である。
【0076】
図10は、紫外線照射器100をコンビニエンスストア140に設置した場合の害虫駆除システム1000Cの構成例である。
害虫駆除システム1000Cは、紫外線照射器(紫外線照射装置)100と、誘虫部(誘虫体)110と、を備える。ここで、誘虫部110は、コンビニエンスストア140の光放射面である。誘虫部110は、例えば、可視光を透過する窓面とすることができる。
【0077】
紫外線照射器100は、支持部101を備え、当該支持部101によって、例えばコンビニエンスストア140の窓枠上部に固定されている。支持部101は、紫外線照射器100から下方(斜め下方)に紫外線UVが放射されるように紫外線の放射方向を調整して、紫外線照射器100を支持する。
このように、紫外線照射器100は、誘虫部110またはその周辺領域に向けて紫外線UVを照射する。これにより、例えば夜間の営業時に窓面を透過した光によって誘引されて当該窓面に近づいた害虫200や、当該窓面に定位した害虫200に対して、適切に紫外線UVを照射することができる。
【0078】
誘虫部110の点灯モードは、上述した害虫駆除システム1000Bと同様とすることができる。また、紫外線照射器100の点灯制御も、上述した害虫駆除システム1000Bと同様とすることができる。
コンビニエンスストア140の窓面には人が接近し得る。そのため、上述した害虫駆除システム1000Bと同様に、紫外線照射器100の制御部16は、検知部31により紫外線の照射領域内に人が存在することを検知した場合に、エキシマランプ20からの紫外線量を低減する、または、エキシマランプ20からの紫外線の放射を停止するように制御してもよい。
なお、ここではコンビニエンスストア140について説明したが、スーパーマーケットやドラッグストアなど、夜間の時間帯にも営業しており、可視光を透過する窓面を有する店舗についても同様である。
【0079】
図11は、紫外線照射器100を屋外の壁150に設置した場合の害虫駆除システム1000Dの構成例である。
害虫駆除システム1000Dは、紫外線照射器(害虫駆除装置)100を備える。
紫外線照射器100は、支持部101を備え、当該支持部101によって、例えば壁150の上部に固定されている。支持部101は、紫外線照射器100から下方(斜め下方)に紫外線UVが放射されるように紫外線の放射方向を調整して、紫外線照射器100を支持する。
このように、紫外線照射器100は、壁面またはその周辺領域に向けて紫外線UVを照射する。これにより、壁面に近づいた害虫200や当該壁面に定位した害虫200に対して、適切に紫外線UVを照射し、駆除することができる。
【0080】
ここで、上記壁150は、店舗の壁や、ポスター等の表示物がある壁であってよい。この場合、景観が損なわれることを適切に抑制することができる。
なお、ここでは屋外の壁150について説明したが、屋外に設置され、害虫が定位し得る構造物、例えば公園のベンチや遊具などについても同様である。
【0081】
図12は、紫外線照射器100を居住施設160に設置した場合の害虫駆除システム1000Eの構成例である。
害虫駆除システム1000Eは、紫外線照射器(害虫駆除装置)100を備える。
紫外線照射器100は、支持部101を備え、当該支持部101によって、居住施設160に設けられた貫通孔162の開口部近辺や、貫通孔162の経路途中に固定されている。具体的には、支持部101は、紫外線照射器100から貫通孔162内部に紫外線が放射されるように紫外線の放射方向を調整して、紫外線照射器100を支持する。
【0082】
貫通孔162は、居住施設160の壁に設けられた通気口や、換気ファン163が設けられた換気口といった、屋外と屋内とを連通する孔である。なお、貫通孔162は、排水口や人が出入りしない窓などであってもよい。貫通孔162は、居住空間161への害虫の侵入経路になり得る領域である。
このような害虫侵入経路に紫外線を照射することで、居住空間161に侵入しようとする害虫に対して紫外線を照射することができ、居住空間161への害虫の侵入を防ぐ効果が期待できる。また、居住空間161に侵入する前に害虫が死滅しなくても、紫外線を照射することで害虫を弱らせることができるので、居住空間161での害虫の活動を抑止することができる。
【0083】
ここで、紫外線照射器100を貫通孔162の開口部近辺に設置する場合、紫外線照射器100は、居住施設160の外壁に固定してもよいし、内壁に固定してもよい。紫外線照射器100を居住施設160の外壁に固定すれば、居住空間161において邪魔にならず、また、意図せず人に紫外線が照射されてしまうことを抑制することができる。
【0084】
図13および
図14は、荷物を輸送するための輸送容器(コンテナ)170に紫外線照射器100を設置した場合の害虫駆除システム1000Fの構成例である。
害虫駆除システム1000Fは、紫外線照射器(紫外線照射装置)100と、誘虫部(誘虫体)110、111と、を備える。ここで、誘虫部110は、誘引対象の虫の分光視感度に合わせた波長帯の光を含む光を放射する光放射面を備える光照射器とすることができる。また、誘虫部111は、誘引対象の虫が誘引行動を示す匂いを発する香り発生器とすることができる。
【0085】
紫外線照射器100は、誘虫部110、111の近傍にそれぞれ固定され、誘虫部110、111またはその周辺領域に向けて紫外線を照射する。紫外線照射器100および誘虫部110、111の設置場所は、コンテナ170内部(荷物を収容する収容空間内)の壁、床、天井など、任意の場所であってよい。これにより、誘虫部110、111により誘引された害虫に対して、適切に紫外線を照射することができる。
なお、紫外線照射器100と誘虫部110、111とは、1つの装置に搭載されて1つの害虫駆除装置を構成してもよい。
【0086】
また、紫外線照射器100および誘虫部110、111は、コンテナ170の輸送過程において動作(駆動)させるようにしてもよい。コンテナ170は、輸送中は閉鎖状態が維持される。そのため、紫外線照射器100および誘虫部110、111を輸送中に動作させることで、人が存在しない空間で害虫に対して適切に紫外線を照射することができる。したがって、紫外線照射器100から放射される紫外線量を比較的大きく設定することも可能である。これにより、コンテナ170内に存在する害虫や外来種を駆除することができる。例えば、制御部は、コンテナ170内の扉が閉鎖された後、所定のタイミングで紫外線照射器100および誘虫部110、111の動作(駆動)が実行されるよう制御するものであってもよい。また制御部は、コンテナ170内が閉鎖された後、使用者が任意のタイミングで紫外線照射器100および誘虫部110、111の動作を実行するよう、外部信号を受けて動作を行うものであってもよい。
【0087】
以上説明したように、本実施形態における害虫駆除システムは、駆除対象とする虫を誘引する誘虫部(誘虫体)110と、誘虫部110およびその周辺領域の少なくとも一部に波長190nm以上240nm未満の紫外線を照射する紫外線照射器(紫外線照射装置)100と、を備える。ここで、誘虫部110は、街灯120の照明器具や、自動販売機130のディスプレイ面、コンビニエンスストア140の窓面などとすることができる。
これにより、害虫が持つ走光性を利用して誘引した害虫に対して、適切に紫外線を照射することができる。
【0088】
また、本実施形態における紫外線照射器100は、波長190nm以上240nm未満の紫外線を放射する光源部(筐体11およびエキシマランプ20)と、駆除対象とする虫が往来および/または定位し得る固定領域に対して紫外線が照射されるように光源部を支持する支持部101と、を備える。ここで、駆除対象とする虫が往来および/または定位する領域は、上記のコンビニエンスストア140の窓面や屋外の壁150、屋内と屋外とを連通する換気口や通気口などの貫通孔162といった屋外、又は、半屋外に形成された領域や、外気温よりも温度が高い放熱領域とすることができる。
これにより、害虫が定位しやすい領域や害虫の侵入経路となり得る領域に対して紫外線を照射することができ、害虫に対して適切に紫外線を照射することができる。
【0089】
そして、害虫に対して、波長190nm以上240nm未満の紫外線、例えば波長222nmの紫外線を照射することで、害虫の体表を覆っているクチクラ層に効果的に作用し、上述したようにリポホリンを酸化させてエネルギー代謝を阻害させることができるので、例えば波長254nmの紫外線を照射した場合と比較して高い殺虫駆除効果が得られる。
【0090】
また、波長254nmの紫外線照射は、虫のDNAを損傷させて殺虫効果を得るものであり、可視光が曝露されることで回復する(光回復する)が、波長222nmの紫外線照射は、リポホリンを酸化させてエネルギー代謝を阻害させることで殺虫効果を得るものであり、上記の光回復は起こらない。
そのため、波長222nmの紫外線を用いた殺虫駆除では、1回の紫外線照射で虫の死滅に必要な照射量を照射する必要はない。つまり、一度に照射される紫外線照射量が比較的少なくても、時間を置いて紫外線照射されることで積算光量が所定量に達すれば虫は死滅する。
【0091】
本実施形態のように、虫を所定領域に誘引して紫外線照射を行ったり、虫が往来または定位し得る固定領域に紫外線照射を行ったりすることで、虫に対して複数回紫外線を照射することができるので、虫の死滅に必要な紫外線照射量(積算光量)を容易に達成することができ、確実に殺虫駆除することができる。
【0092】
さらに、波長222nmの紫外線を用いた殺虫駆除では、1日(8時間)あたりの紫外線照射量を安全規格で定められている紫外線の許容限界値(TLV)に設定しても、数日で虫を死滅させることができる。したがって、人の活動範囲内でも安全に使用可能である。
【0093】
また、波長222nmの紫外線を用いた殺虫駆除は、エネルギー代謝を阻害させて死滅させるものであり、虫を即死させるものではない。紫外線照射によりリポホリンが酸化して代謝不全が起こり、虫の活動が弱まったとしても、しばらくは動き回ることが可能である。このように、紫外線照射後すぐに死滅するわけではないので、紫外線の照射領域に大量の虫の死骸がたまってしまうといった事態は生じない。
【0094】
このように、表層にクチクラ層を有する蚊やユスリカ、ハエ、クモ、ゴキブリといった害虫に対して波長190nm以上240nm以下の紫外線を照射することで、当該害虫を効果的に駆除することができる。
例えば蚊は、ジカ熱やデング熱等の伝染病を媒介することで知られており、近年、特に問題視されているが、本実施形態における害虫駆除システムにより、媒介体を減少させる効果が期待できる。
また、輸送容器は、海外などの遠方からの輸送物を往来させるため、外来種等を広める要因に成り得るが、本実施形態における害虫駆除システムにより、外来生物(ヒアリや菌を媒介する蚊など)を適切に駆除することができ、海外から持ち込まれる外来種や病原体の国内拡散を抑止する効果が期待できる。
【0095】
以上のように、本実施形態における紫外線照射器100は、人体への有害性を低減しつつ効果的に殺虫効果を得ることができる。
【0096】
(変形例)
上記実施形態においては、紫外線照射器100が、害虫を誘引する誘引要素を発する誘虫部を備える害虫駆除装置であってもよい。ここで、誘虫部は、例えば害虫を誘引する光を発する光源(誘引発光体)を備えることができる。この場合、紫外線照射器100は、例えば筐体11内に上記誘引発光体を備え、光放射面12から害虫を誘引する光を発する構成であってよい。
【0097】
また、上記実施形態においては、紫外線光源であるエキシマランプ20は、
図1に示すように放電容器21の一方の側面に一対の電極22、23を配置した構成である場合について説明した。しかしながら、エキシマランプの構成は上記に限定されるものではない。
例えば、長尺な放電容器の両端部に、一対の環状の電極(第一電極、第二電極)が配置された構成であってもよい。また、長尺な放電容器の内部に内側電極(第一電極)を有し、放電容器の外壁面にメッシュ状(網目形状)または線形状の外側電極(第二電極)を有する構成であってもよい。さらに、別の例として、扁平状の放電容器の向かい合う2つの外側面上に、それぞれ第一電極および第二電極を有してなる、いわゆる「扁平管構造」を採用してもよい。また、円筒状の外側管と円筒状の内側管とからなる、いわゆる「二重管構造」を採用してもよい。この場合、外側管の外側面および内側管の内側面に、それぞれ網状の第一電極(外部電極)および膜状の第二電極(内部電極)が配置された構成とすることができる。
【0098】
さらに、上記実施形態においては、紫外線光源としてエキシマランプを用いる場合について説明したが、紫外線光源としてLEDを用いることもできる。
LEDとしては、例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系LED、窒化アルミニウム(AlN)系LED、酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)系LED等を採用することができる。
ここで、AlGaN系LEDとしては、中心波長が190~235nmの範囲内となるようにAlの組成を調整することが好ましい。AlN系LEDは、ピーク波長210nmの紫外線を放出する。また、MgZnO系LEDは、Mgの組成を調整することで、中心波長が222nmである紫外線を放出することができる。
また、コヒーレント光源を用いる場合は、ガスレーザや固体レーザ素子からコヒーレントな紫外光を放射させるものであってもよいし、ガスレーザや固体レーザ素子から放射される光を利用して波長の異なるコヒーレント光を新たに発生させる波長変換素子を用いて、190nm~240nmの波長帯域の紫外線を放出するものであってもよい。波長変換素子としては、例えば、レーザ素子から放射される光を周波数倍化させ、第二次高調波(SHG)や第三次高周波(THG)等の高次高周波を発生させる非線形光学結晶を用いることができる。
【符号の説明】
【0099】
11…筐体、12…光放射面、15…電源部、16…制御部、20…紫外線光源、31…検知部、32…近接センサ、100…紫外線照射器、110…誘虫部、120…街灯、130…自動販売機、140…コンビニエンスストア、150…壁、160…居住施設、161…換気口、170…輸送容器(コンテナ)、200…害虫、201…外クチクラ、202…内クチクラ、203‥真皮細胞、1000A~1000F…害虫駆除システム