(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047453
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】ラビリンチュラ類の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20230330BHJP
【FI】
C12N1/12 C
C12N1/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156374
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】橋本 唯史
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA83X
4B065AC20
4B065BB14
4B065BB26
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA44
4B065CA49
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】
木本類および/または草本類中を加水分解して得られる糖液のpHを5前後の弱酸性液に調整した糖液でも培養が阻害されないラビリンチュラ類の培養方法に関する。木質バイオマス原料に左右されず、得られた糖液を栄養塩にして安定した培養成績を示すラビリンチュラ類を提供に関する。
【解決手段】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、優れた耐酸性を示すラビリンチュラ類を見出した。そしてかかるラビリンチュラ類を培養することにより良質なタンパク質とEPAを大量に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木本類および/または草本類を加水分解して得られる糖液中で培養可能なラビリンチュラ類。
【請求項2】
硫酸および/または亜硫酸による加水分解で得られる請求項[1]に記載の糖液中で培養可能なラビリンチュラ類。
【請求項3】
pH4.2~5.5である請求項[1]または[2]に記載の糖液中で培養可能なラビリンチュラ類。
【請求項4】
オーランチオキトリウム属、シゾキトリウム属、スラウストキトリウム属、又は、ウルケニア属である請求項 [1]~[3]に記載のラビリンチュラ類。
【請求項5】
オーランチオキトリウム属(FERM AP-22414)である請求項[1]~[3]に記載のラビリンチュラ類。
【請求項6】
請求項[1]~[3]に記載の糖液を用いるラビリンチュラ類の培養方法。
【請求項7】
請求項[1]~[3]に記載の糖液を用いるオーランチオキトリウム属、シゾキトリウム属、スラウストキトリウム属、又は、ウルケニア属であるラビリンチュラ類の培養方法。
【請求項8】
請求項[1]~[3]に記載の糖液を用いるオーランチオキトリウム属(FERM AP-22414)であるラビリンチュラ類の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従属栄養生物であるラビリンチュラ類の培養方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、微細藻類を利用して有用物質を生産する技術が盛んに開発されている。ある種の微細藻類は、細胞内に大量の脂質を蓄積するため、この能力を利用した機能性成分、整理活性物質、バイオ燃料等の生産について実用化が進められている。また、クロレラ、スピルリナ、ユーグレナ等の微細藻類は、栄養素を豊富に含んでいるため健康食品や飼料への利用が拡大している。
【0003】
また、近年、微細藻類の近縁の原生生物であるラビリンチュラ類に注目が集まっている。ラビリンチュラ類、光合成をおこなわない従属栄養性の海生真核微生物であり、亜熱帯や熱帯を中心に広く分布している。ラビリンチュラ類にはドコサヘキサ塩酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)を含む高度不飽和脂肪酸(PUFA)高度不飽和脂肪酸(PUFA)高度不飽和脂肪酸(PUFA)や、スクアレン等の高級炭化水素を細胞内に大量に蓄積するものが報告されている他、増殖速度が速く、アミノ酸スコアが高い特徴が見られる。
【0004】
従来、DHAやEPAの供給源としては、主に青魚などの海産魚類が利用されてきた。海産魚類から採取された魚油中の脂肪酸は、輸送中等に生成した酸化体や海中で蓄積した化学物質を除いたり、脂肪酸群中のDHAやEPA純度を高めたりする目的で、エステル交換、蒸留、疎水クロマトグラフィー等の精製処理を施されている。これに対し、ラビリンチュラ類を利用すると、水産資源との競合が無くなり、安定供給が可能になる他、酸化による劣化や不純物の混入も低減することが見込まれるため、DHAやEPAの低コスト化が進むものと期待されている。
【0005】
従属栄養生物ラビリンチュラ類を増殖されるための培地としては、特許文献1もしくは特許文献2に記載されているように、一般的にGYT培地が用いられている。GYT培地は、グルコースを20g/L、トリプトン10g/L、酵母エキス5g/Lの濃度で含む基本組成であり、天然海水や人工海水を用いて調製されるが、一般的に用いられるGYT培地のように高価なタンパク質分解物を含む培地では、ラビリンチュラ類等の従属栄養生物の大量培養を行う場合に、採算を取るのが難しいという問題がある。
【0006】
また、細菌類が混入するとラビリンチュラ類は増殖できないため、無菌での培養が必要であった(非特許文献1)。無菌的なタンクなどによる培養が必須であることは、そのタンクの培養環境の維持などにもコストがかかるという欠点があった。無菌的なタンクなどによる培養が必須であることは、そのタンクの培養環境の維持などにもコストがかかるという欠点があった
【0007】
低コストで培養するために乳清を培地成分に入れる方法(特許文献3)や、無菌でない環境として珪藻との二員培養を行い、珪藻類を餌として捕食させてラビリンチュラ類を増殖させることができる方法(特許文献4)が挙げられるが、いずれも十分とは言えず改良の余地があった。
【0008】
ところで、近年石油価格の高騰および地球温暖化等の問題から、再生可能な資源であるバイオマスを培養糖源として用いる技術開発が精力的に進められている。特にそのうち食糧と競合しない木本類および/または草本類を加水分解して得られる糖液の活用が活発化している。木本類および/または草本類中にはセルロース以外にヘミセルロース(例えば、針葉樹ではマンナン類、広葉樹ではキシラン類など)が含まれている。かかるヘミセルロースが分解されることにより生成された単糖が、培養に利用されている。
【0009】
しかしながら、木本類および/または草本類中を加水分解して得られる糖液のpHを5前後の弱酸性液に調整した場合、糖液が酢酸や亜硫酸、フルフラールなどの培養阻害物質を大量に含んでいるために、培養の安定性や微生物の生存低下等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006-304685号公報
【特許文献2】国際公開第2012-077799号公報
【特許文献3】特許6429162号
【特許文献4】特開2017-051187号公報
【非特許文献1】Porter,(1990) Phylum Labyrinthulomcota.In: Margulis L, Corliss JO, Melkonian M, Chapman DJ (eds) Handbook of Protoctista. Jones and Bartlett, Boston, pp 388―398
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は木本類および/または草本類中を加水分解して得られる糖液のpHを5前後の弱酸性液に調整した糖液でも培養が阻害されないラビリンチュラの培養方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、優れた耐酸性を示すラビリンチュラ類を見出した。そしてかかるラビリンチュラ類を培養することにより良質なタンパク質とEPAを大量に製造できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下の[1]~[8]である。
[1]木本類および/または草本類を加水分解して得られる糖液中で培養可能なラビリンチュラ類。
[2]硫酸および/または亜硫酸による加水分解で得られる請求項[1]に記載の糖液中で培養可能なラビンチュラ類。
[3]pH4.2~5.5である請求項[1]または[2]に記載の糖液中で培養可能なラビンチュラ類。
[4]オーランチオキトリウム属、シゾキトリウム属、スラウストキトリウム属、又は、ウルケニア属である請求項 [1]~[3]に記載のラビリンチュラ類。
[5]オーランチオキトリウム属(FERM AP-22414)である請求項[1]~[3]に記載のラビリンチュラ類。
[6]請求項[1]~[3]に記載の糖液を用いるラビリンチュラ類の培養方法。
[7]請求項[1]~[3]に記載の糖液を用いるオーランチオキトリウム属、シゾキトリウム属、スラウストキトリウム属、又は、ウルケニア属であるラビリンチュラ類の培養方法。
[8]請求項[1]~[3]に記載の糖液を用いるオーランチオキトリウム属(FERM AP-22414)であるラビリンチュラ類の培養方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば木質バイオマス原料に左右されず、得られた糖液を栄養塩にして安定した培養成績を示すラビリンチュラ類を提供することができる。かかるラビリンチュラ類を用いて培養を行うことによって、安定したタンパク質およびEPAを供給が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係るラビリンチュラ類の培養方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明で培養する生物としてはラビリンチュラ類が好ましい。ラビリンチュラ類はストラメノパイルに属する化学合成従属栄養性の海生真核生物であり、滑走運動や遊走細胞を生じるなど、運動性を有する卵菌類に分類されている。ラビリンチュラ類は増殖速度が比較的早く、同化により産生した脂肪酸エステル、炭化水素、リン脂質、糖脂質等の各種の脂質を細胞内に油滴として蓄積する能力を持つため、有用物質の生産に好適に用いられる。
【0016】
一般には、ラビリンチュラ類は、ラビリンチュラ科(Labyrinthulidae)と、ヤブレツボカビ科(Thraustochytriidae)とに大別されており、ラビリンチュラ属(Labyrinthula)、オーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium)、シゾキトリウム属(Schizochytrium)、スラウストキトリウム属(Thraustochytrium)、アプラノキトリウム属(Aplanochytrium)、オブロンギキトリウム属(Oblongichytrium)、ボトリオキトリウム属(Botryochytrium)、ジャポノキトリウム属(Japonochytrium)等が属している。
【0017】
培養するラビリンチュラ類としては、オーランチオキトリウム属、シゾキトリウム属、又は、スラウストキトリウム属がより好ましい。これらの種類は、脂質等の産生能が比較的高く、DHA、EPA等の高度不飽和脂肪酸や、アスタキサンチン、β-カロテン等のカロテノイドや、スクアレン等の炭化水素類を産生し得るため、食用の用途や、バイオ燃料用原料の用途等に好適に用いられる。
【0018】
培養するラビリンチュラ類としては、特に、オーランチオキトリウム属が好ましい。オーランチオキトリウム属には、DHA、EPA等の高度不飽和脂肪酸(PUFA)の他、アルツハイマー症や2型糖尿病の改善に効果があるとされている奇数脂肪酸を産生するものがある。また、リシン等の必須アミノ酸や、コラーゲンの原料となるプロリンを豊富に含んでおり、藻体の約9割が脂肪酸とアミノ酸で構成されているため、栄養価が高い特徴がある。
【0019】
本発明の好ましい一形態としては、例えばオーランチオキトリウム属RD013560株が挙げられる。RD013560株は下記の通り寄託されている。
受託番号:FERM P-22414
受託日:2021年3月15日
寄託先:独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)
【0020】
ラビリンチュラ類は、木本類および/または草本類を加水分解して得られる糖液であって、pH4.2~5.5で増殖することができる。
【0021】
ラビリンチュラ類はpH4.2~5.5好ましくは4.4~5.0の木本類および/または草本類を加水分解して得られる糖液中で増殖能を有する。これにより弱酸性~酸性条件下での発酵が可能となるので、雑菌汚染対策を取りながらも効率的な培養が実現できる。
【0022】
木本類としては、各種の針葉樹(まつ、すぎ、つが、ひのき、ヘムロック、ダグラスファー、ラジアーパイン等)、広葉樹(ユーカリ、ハンノキ、ぶな、かば、なら、しい等)が挙げられる。これらの中から1種を選択して用いてもよいし、2種以上を選択し組み合わせて用いてもよい。
【0023】
草本類としては、わら、稲、麦等が挙げられる。これらの中から1種を選択して用いてもよいし、2種以上を選択し組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明においては、木本類および/または草本類を加水分解して得られる糖液が用いられる。すなわち、木本類を加水分解して得られる糖液、草本類を加水分解して得られる糖液、或いは、木本類および草本類を加水分解して得られる糖液が用いられる。中でも、木本類を加水分解して得られる糖液が好ましい。木本類および/または草本類を加水分解して得られる糖液は、パルプ製造の際の排液(パルプ排液)として得ることができる。
【0025】
加水分解の条件は特に限定されない。例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素による加水分解などが挙げられる。このうち酸加水分解が好ましく、硫酸および亜硫酸のいずれか、あるいは両方による加水分解がより好ましく、亜硫酸による加水分解がさらに好ましい。なお、本発明において硫酸としては、硫酸およびその塩を用いることができ、また、亜硫酸としては、亜硫酸およびその塩を用いることができる。
【0026】
硫酸および/または亜硫酸による、木本類および/または草本類の加水分解の条件は特に限定されない。硫酸、亜硫酸、または、硫酸と亜硫酸の両方を、原料である木本類および/または草本類に添加して行うことができるが、硫酸と亜硫酸、亜硫酸と亜硫酸の塩、濃硫酸と希硫酸のいずれを用いるかによって、好ましい添加量、酸加水分解時の温度、酸加水分解時間が異なるため、適宜これらの条件を調整することが必要である。
【0027】
木本類および/または草本類を加水分解して得られる糖液は、ラビリンチュラ類を培養する前に、pH4.2~5.5、好ましくはpH4.4~4.8に調整(中和)することが好ましい。これにより、ラビリンチュラ類を効率よく増殖させることができる。尚、木本類および/または草本類を加水分解して得られる糖液が、pHの調整(中和)を行わなくとも上記pHの範囲内である場合には、pHの調整(中和)工程は省略することができる。
【0028】
糖液のpH調整は、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化ナトリウムなどの試薬の添加などによればよく、特に限定されない。
【0029】
なお、加水分解に亜硫酸を用いる場合、加水分解終了段階で亜硫酸がブドウ酒等の保存剤として添加される量の10倍以上含まれている。亜硫酸は経験的にH++HSO3態が最も抗菌性が高いが、pH5前後(弱酸性)でこの形が増加する。よって、糖液のpHを5前後とすることにより、雑菌汚染を有効に防ぐことができる。糖液のpH5.5を超えると、上記したラビリンチュラ類は安定した増殖が可能であるが、水酸化マグネシウムスラリーの析出等がある他、雑菌汚染が起こり易くなる。
【0030】
木本類および/または草本類を加水分解して得られる糖液中の組成は、その原料である木本類、草本類の種類、加水分解の条件などによって異なり、一様に規定することはできないが、ヘキソースではグルコース、マンノース、ガラクトース、ペントースではキシロース、アラビノースなどの糖を含んでいる。
【0031】
ラビリンチュラ類を培養するための培地は、木本類および/または草本類を加水分解して得られる糖液に加えて、一般的な炭素源、窒素源、ビタミン、ミネラル等の他の栄養素や、リン酸塩等の各種の緩衝剤や、塩化ナトリウム等の等張化剤や、二員培養のための細菌、酵母、珪藻等の微生物や、寒天等の培地成分を含有してもよい。また、天然海水を用いて調製されてもよいし、人工海水を用いて調製されてもよい。
【0032】
一般的な培地成分の具体例としては、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、スクロース、マルトース等の炭素源や、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸類、ペプチド、タンパク質、尿素、アンモニア、アンモニウム塩、硝酸塩等の窒素源や、酵母エキス等のエキス類や、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビオチン、葉酸、ビタミンB12等のビタミンや、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、硫黄、鉄、コバルト、銅、亜鉛、マンガン、モリブデン等のミネラルが挙げられる。
【0033】
人工海水を調製するための海水塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ストロンチウム、塩化アンモニウム、塩化鉄、塩化マンガン、塩化コバルト、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト、硫酸銅、硫酸亜鉛、モリブデン酸ナトリウム、臭化カリウム、ホウ酸等を用いることができる。
【0034】
本発明において、木本類および/または草本類を加水分解して得られる糖液で培養する条件は、pH5前後の条件で生育可能であるラビリンチュラ類を用いるのであれば特に制限はない。具体的には、木本類および/または草本類を加水分解して得られる糖液に対しラビリンチュラ類を添加して、必要に応じて撹拌させればよい。培養温度は、通常は30℃以下であり、ラビリンチュラ類の生存率の点からは25℃以下であることが好ましい。また、下限は15℃以上であることが、発酵速度の低下のおそれを防ぐ点で好ましい。最も好ましくは、20℃~25℃である。
【0035】
ラビリンチュラ類は糖液に添加する前に前培養を行ってもよく、その場合の培地としては糖蜜培地、GYT培地などが例示される。発酵方式としては、通常糖液の発酵の際用いられる方式ならいずれも採用可能である。かかる発酵法式としては回分法、繰り返し回分発酵法、菌体リサイクル連続発酵法、固定化菌体法などが例示される。中でも菌体リサイクル連続発酵法は、本発明におけるラビリンチュラ類の特色を生かして、雑菌汚染対策を採りつつ安定的な培養が可能となるので好ましい。
【0036】
次に、ラビリンチュラ類の培養により得られる培養組成物、及び、培養組成物の製造方法について説明する。
【0037】
本実施形態に係る培養組成物の製造方法は、前記のラビリンチュラ類の培養方法を利用して培養組成物を製造する方法であり、乳清を含む培地を用いてラビリンチュラ類を培養する工程と、培養したラビリンチュラ類を含む培地を濃縮又は乾燥させて培養組成物を得る工程と、を含む。この製造方法によると、ラビリンチュラ類自体を主成分とする培養組成物が得られる
【0038】
培養するラビリンチュラ類としては、有用物質の産生能を有する種類が好ましい。有用物質としては、例えば、DHA、EPA等の高級不飽和脂肪酸、そのモノエステル、ジエステル、トリグリセリドや、リン脂質、糖脂質や、高級アルカジエン、高級アルカトリエン、トリテルペン、テトラテルペン等の高級炭化水素や、必須アミノ酸、それを含むタンパク質や、多糖類や、色素や、ビタミン、生理活性物質等が挙げられる。
【0039】
(高度不飽和脂肪酸)
本発明において、高度不飽和脂肪酸(PUFA)とは、炭素数18以上、二重結合数3以上の脂肪酸であり、より好ましくは炭素数20以上、二重結合数3以上の脂肪酸である。具体的にはリノール酸(LA,18:2n-6),α-リノレン酸(ALA, 18:3n-3)、γ-リノレン酸(GLA, 18:3n-6)、ステアリドン酸(STA, 18:4n-3)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA, 20:3n-6)、エイコサテトラエン酸(ETA, 20:4n-3)、アラキドン酸(ARA, 20:4n-6)、エイコサペンタエン酸(EPA, 20:5n-3)、ドコサテトラエン酸(DTA,22:4n-6)、n-3ドコサペンタエン酸(n-3DPA, 22:5n-3)、n-6ドコサペンタエン酸(n-6DPA, 22:5n-6)、ドコサヘキサエン酸(DHA, 22:6n-3)等が例示される。本明細書において、アラキドンサンはARAとも表される。全脂肪酸組成とは、微生物を培養、凍結乾燥後、脂肪酸をメチルエステル化し、GCを用いて解析した場合に検出される脂肪酸、具体的には炭素鎖14から22の脂肪酸の組成のことをいう。
【0040】
培養するラビリンチュラ類としては、DHA及びEPAのうちの少なくとも一方を細胞内に蓄積する種類がより好ましい。また、オーランチオキトリウム属、シゾキトリウム属、又は、スラウストキトリウム属がより好ましく、オーランチオキトリウム属が特に好ましい。このような種類であると、産生されたDHAやEPAが酸化され難い細胞内に蓄積されるため、DHAやEPAの酸化を抑制して各種の用途に供することができる。
【0041】
ラビリンチュラ類は、例えば、食用、飼料、肥料、工業用原料等の各種の用途に用いることができる。食用の用途の具体例としては、一般食品、健康食品、食品素材、飲料素材等が挙げられる。また、飼料の具体例としては、家畜用飼料、家禽用飼料、養殖用飼料、ペット用飼料等が挙げられる。また、工業用原料の具体例としては、バイオ燃料用原料、飼料用原料、肥料用原料、化学品原料、医薬品原料等が挙げられる。
【実施例0042】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
国内産広葉樹雑木を主体とした材構成チップを亜硫酸蒸解(150℃、9時間)した時に発生した蒸解抽出液(固形分15%w/v)1Lに人工海水粉末を19.1g加え、水酸化マグネシウムでpH5.0に中和した。その後、糖濃度が3.0%になるように水で希釈した。これを糖液培地(ヘキソース濃度0.9%、ペントース濃度2.1%)とした。
別にラビリンチュラ類、オーランチオキトリウム属(RD013560株)をGYT培地100mL、23℃でフルグロースまで前培養を行い、実施例1の糖液培地でOD660nmの吸光度を菌体量指標にして増殖性の評価を実施した。表1に培養48時間後の菌体濃度を示す。
【0044】
【0045】
(実施例2)
国内産針葉樹雑木を主体とした材構成チップを実施例1と同様の条件で亜硫酸蒸解した時に発生した蒸解抽出液(固形分15%w/v)1Lに人工海水粉末を19.1g加え、水酸化マグネシウムでpH5.0に中和した。その後、糖濃度が3.0%になるように水で希釈した。これを糖液培地(ヘキソース濃度2.0%、ペントース濃度1.0%)とした。
別にラビリンチュラ類、オーランチオキトリウム属(RD013560株)、(A013857株)、(A013857株)、シゾキトリウム属(S13702株)、オブロンギキトリウム属(O010672株)、ウルケニア属(RD013864)をGYT培地100mL、23℃でフルグロースまで前培養を行い、実施例1の糖液培地でOD660nmの吸光度を菌体量指標にして増殖性の評価を実施した。表2に培養48時間後の菌体濃度を示す。
【0046】
【0047】
(GC―MSによる脂肪酸分析)
次に、実施例1の培地で培養、集菌、洗浄した後に凍結乾燥を施したオーランチオキトリウム属(RD013560株)を脂肪酸メチル化キットを用いて、メチル化しGC―MSを用いて定量分析を行った。条件は下記に示す。カラムはSHIMADU #CB20―M225―025を用い、50℃(0.5min保持)→40℃/minで昇温→175℃(0min保持)→15℃/minで昇温→210℃(0min保持)→5℃/minで昇温→240℃(15min保持) 計26.96minの分析条件に供したところ、EPA濃度は1%、DHA濃度は15%であった。その他にもPUFA由来のピークが検出された
【0048】
(図:GC-MSチャート)
1.ミリスチン酸由来
2.ペンタデシル酸由来
3.パルミチン酸由来
4.マルガリン酸由来
5.ステアリン酸由来
9.オズボンド酸由来
【0049】
(タンパク質の濃度)
実施例1の培地で培養、集菌、洗浄した後に凍結乾燥を施したオーランチオキトリウム属(RD013560株)に含まれる有機窒素の濃度(質量%)を、ケルダール法で分析し、試料に含まれる有機窒素量×6.25として算出された値をタンパク質量として用いてタンパク質濃度を算出した。表3に示す。
【0050】
【0051】
上記の結果から豊富なタンパク質とPUFAをラビリンチュラ類が生産していることを確認した。