(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047459
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】患者確認システム
(51)【国際特許分類】
G16H 10/00 20180101AFI20230330BHJP
【FI】
G16H10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156386
(22)【出願日】2021-09-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、「戦略的イノベーション創造プログラム AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」、「人工知能を有する統合がん診療支援システム」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【弁理士】
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一洋
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】松下 亜由子
(72)【発明者】
【氏名】小口 正彦
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】配膳、診療、処置の際に患者の誤認を防止する患者確認システムを提供する。
【解決手段】誤認防止システムは、画像を用いて誤認を防止する。誤認防止システムは、患者情報が記録されている患者情報記録部と、画像情報を得る画像取得部と、患者情報と画像情報との比較を行う比較部を備える。比較部は患者情報により得られた行われるべき処置或いは供給すべき物と画像情報とを比較し、一致及び/又は不一致を表示する。患者情報は食事情報であり、画像情報が配膳された主食、主菜及び副菜情報である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を用いて誤認を防止するシステムであって、
患者情報が記録されている患者情報記録部と、
画像情報を得る画像取得部と、
患者情報と画像情報との比較を行う比較部を備え、
前記比較部は患者情報により得られた行われるべき処置、あるいは供給すべき物と画像情報とを比較し、一致及び/又は不一致を表示することを特徴とする画像による誤認防止システム。
【請求項2】
前記患者情報が食事情報であり、
前記画像情報が配膳された主食、主菜、及び副菜情報であることを特徴とする請求項1記載の誤認防止システム。
【請求項3】
前記食事情報、及び前記画像情報はスマートグラスを介して取得され、
仮想ディスプレイ上に比較結果が表示されることを特徴とする請求項2記載の誤認防止システム。
【請求項4】
前記患者記録部に記録されている前記食事情報は、コード発行部によりコードに変換され食札上にコードとして表示され、前記食事情報と前記画像情報が比較されることを特徴とする請求項2、又は3記載の誤認防止システム。
【請求項5】
画像を用いて誤認を防止するシステムであって、
患者情報が記録されている患者情報記録部と、
画像情報を得る画像取得部と、
患者情報と画像情報との比較を行う比較部を備え、
患者情報が患者IDであり、画像情報より得られた患者IDとが一致した場合には次の工程を行うこと許容し、
一致しない場合には警告を発することを特徴とする画像による誤認防止システム。
【請求項6】
前記患者情報と画像情報との比較は生体認証によって行い、前記生体認証が一致した場合には、
行われるべき処置の実施を許容することを特徴とする請求項5記載の誤認防止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者を識別し、確認するシステムに関する。具体的には、給食や薬等の誤配が生じることがないように、また、患者を誤認することなく診察や処置を行うことを支援するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
病院においては、誤認によって大きな事故につながる可能性があることから、個々の患者を識別し、確認することは重要である。例えば、食物アレルギーのある患者にアレルギー食材が入った食事を配膳する誤配、他の患者に対して投与すべき薬剤を誤って投与する、あるいは投与量を誤る等の誤投与は重大な事故となる可能性がある。また、患者を取り違えて治療や処置を行うことは、大きな事故につながることから、事故を未然に防止するためには確実な患者確認が必要不可欠である。患者を識別し、供給される給食や薬が適切であるか、処置を行うべき患者かを確認することは基本的なことであり重要であることから、患者自身に氏名を言ってもらうなど各医療機関でルールが定められている。しかし、各医療機関でルールが定められているにも関わらず、依然として事故が発生していることも事実である。医療機関では、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士、調理師をはじめ、多くのスタッフが様々な場面で患者とかかわっていることから、確認をサポートするシステムの確立が望まれている。
【0003】
例えば、病院において食事を供給する調理室では、患者の病状によって特別な制限のない一般食(常食)、カロリー制限、タンパク質制限、あるいは手術後の食事など病態に応じた治療食を調理している。主食をとってみても、ご飯、3分粥、5分粥、7分粥、あるいは重湯など、軟らかさの異なるものが主食として提供されている。さらに、食物アレルギーがある患者に対しては、アレルゲンとなる食品が含まれないように管理を行わなければならない。さらに、宗教上の禁忌がある場合もあり、給食として提供する食事の管理には細かい配慮が必要となっている。そのため、病院の調理室では患者毎に配慮した給食を配膳する必要があり、細かい確認作業のために多くの時間と労力がさかれている。
【0004】
また、患者に投与する薬に関しても、処方薬、持参薬、投与順序、投与時間等、配慮すべき点が多く、多くの確認作業が必要となっている。また、患者の治療や処置を行う際には、患者の確認は事故を防ぐために非常に重要である。
【0005】
そのため、病院内の様々な場面において患者の確認が的確に行われるようなシステムが構築されている。例えば、給食においてアレルギー情報を適切に管理する方法が開示されている(特許文献1~3)。特許文献1には、電子カルテに記載されている患者のアレルゲンを食事箋に禁止食材として付記することにより、アレルギー疾患の原因物質となる食材が使用されることを防止するシステムが記載されている。特許文献2には、患者のアレルギー情報に変更があった場合に、すでに発行されている食事オーダーとの整合性をチェックする方法が開示されている。特許文献3には、電子カルテシステムの表示方法により患者のアレルギー情報の見落とし防止を図るプログラム、及びシステムが開示されている。しかしながら、いずれの特許文献もカルテ情報が食事オーダーに反映されるシステムではあるものの、調理室での配膳時の誤配、あるいは病室で患者に食事を配るときの誤配を防止するシステムとはなっていない。多くの患者が入院している病院では、患者一人一人のトレイに配置された食札を見ながら配膳し最終確認をしているが、見落とし、誤配が生じることがある。さらに、近年では患者の個人情報保護の観点から病室入り口の名札を廃止している病院も多い。そのため、患者が病室にいれば食札に記載されている名前が患者本人の名前であるかを確認して配膳することができるが、患者がいない場合に確認することができず、誤配するなどの問題も生じている。
【0006】
また、処置や投薬の際の患者の取り違え防止については、従来から治療や処置の前、あるいは薬の受け渡し時等、患者に氏名をフルネームで言ってもらう、生年月日を言ってもらう、リストバンドや診察券のバーコードで確認するなど、それぞれの状況に応じてルールが定められている。しかし、勘違いや思い込み、あるいは焦りなどにより、確認工程が確実に行われずに患者誤認が生じ、医療事故につながった例が年に10件程度報告されている。また、公益財団法人日本医療機能評価機構のまとめによれば、医療事故につながらなかったものの、いわゆるヒヤリハット事例として報告されている事例は毎年6000件を超えている。
【0007】
重大な医療事故が起こらないように、処置や投薬時において患者の取り違えを防止し、医療従事者の負担を軽減するシステムとして特許文献4及び5が開示されている。特許文献4には、患者の指紋のパターン情報から二次元バーコードを発行し、指紋確認装置によって、本人確認を行い、IDカードの紛失や取り違えが生じても、医療ミスが生じにくいシステムが開示されている。特許文献5には、静脈、指紋、声紋などの患者特有の識別特徴情報を確認することによる患者誤認防止システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003-216738号公報
【特許文献2】特開2014-71758号公報
【特許文献3】特開2020-115291号公報
【特許文献4】特開2001-134700号公報
【特許文献5】特開2007-304975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
いずれのシステムも病院内で個々の場面を想定した患者の誤認防止システムであり、総合的な誤認防止システムとはなっていない。そのため、給食、投薬、診察、処置と様々な場面で個別に誤認を防止するシステムが必要となり、かえって煩雑になる可能性が高い。本発明は、様々な場面において患者の誤認を防止する統一的なシステム、簡便に確認できるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の誤認防止システムに関する。
(1)画像を用いて誤認を防止するシステムであって、患者情報が記録されている患者情報記録部と、画像情報を得る画像取得部と、患者情報と画像情報との比較を行う比較部を備え、前記比較部は患者情報により得られた行われるべき処置、あるいは供給すべき物と画像情報とを比較し、一致及び/又は不一致を表示することを特徴とする画像による誤認防止システム。
(2)前記患者情報が食事情報であり、前記画像情報が配膳された主食、主菜、及び副菜情報であることを特徴とする(1)記載の誤認防止システム。
(3)前記食事情報、及び前記画像情報はスマートグラスを介して取得され、仮想ディスプレイ上に比較結果が表示されることを特徴とする(2)記載の誤認防止システム。
(4)前記患者記録部に記録されている前記食事情報は、コード発行部によりコードに変換され食札上にコードとして表示され、前記食事情報と前記画像情報が比較されることを特徴とする(2)、又は(3)記載の誤認防止システム。
(5)画像を用いて誤認を防止するシステムであって、患者情報が記録されている患者情報記録部と、画像情報を得る画像取得部と、患者情報と画像情報との比較を行う比較部を備え、患者情報が患者IDであり、画像情報より得られた患者IDとが一致した場合には次の工程を行うこと許容し、一致しない場合には警告を発することを特徴とする画像による誤認防止システム。
(6)前記患者情報と画像情報との比較は生体認証によって行い、前記生体認証が一致した場合には、行われるべき処置の実施を許容することを特徴とする請求項5記載の誤認防止システム。
(7)前記患者情報が投薬情報であり、前記画像情報が投薬する薬剤の画像であることを特徴とする(1)記載の誤認防止システム。
(8)前記投薬情報、及び前記画像情報はスマートグラスを介して取得され、仮想ディスプレイ上に比較結果が表示されることを特徴とする(7)記載の誤認防止システム。
(9)画像を用いて誤認を防止するシステムであって、患者情報が記録されている患者情報記録部と、画像情報を得る画像取得部と、患者情報と画像情報との比較を行う比較部と、コード発行部とを備え、患者情報記録部に登録された患者に処方すべき薬の情報及び患者IDはコード発行部によりコードに変換され、薬袋上にコードとして表示され、画像取得部によって得られる患者の画像から取得される患者IDとコードから得られる患者IDとの一致及び/又は不一致を表示することを特徴とする画像による誤認防止システム。
(10)さらに、前記画像取得部によって得られる薬袋内の薬剤画像と、コードから得られる処方情報との一致及び/又は不一致を表示することを特徴とする(9)記載の画像による誤認防止システム。
(11)画像を用いて誤認を防止するシステムであって、患者情報が記録されている患者情報記録部と、画像情報を得る画像取得部を備え、画像情報取得部により病室番号を取得し、取得された病室番号を患者情報記録部に照会し、患者情報を取得することを特徴とする画像による誤認防止システム。
(12)オンライン診療における画像を用いて誤認を防止するシステムであって、患者情報が記録されている患者情報記録部と、画像情報を得る画像取得部を備え、画像取得部により患者の顔画像を取得し、取得された患者画像を患者情報記録部に照会し、予め患者情報記録部に患者情報として登録されている患者顔画像によって認証することを特徴とする画像による誤認防止システム。
(13)画像を用いて患者の喫食率を算出するシステムであって、患者情報が記録されている患者情報記録部と、画像情報を得る画像取得部と、患者情報と画像情報との比較を行う比較部を備え、前記患者情報が患者の食事情報であり、前記画像情報が食事後の患者のトレイの情報であり、前記食事情報と画像情報から患者の摂取した食事量を算出し、喫食率を電子カルテシステムに自動登録することを特徴とする喫食率算出システム。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(A)患者の禁忌情報、食事箋の情報を食事情報として伝達するシステムを模式的に示す図。(B)食札の例を示す図。(C)食札情報の取得、比較を模式的に示す図。
【
図2】患者情報と画像情報から配膳内容をチェックするフローを示す図。
【
図3】患者情報と患者生体情報を比較して正しい処置が行われるようにチェックするフローを示す図。
【
図4】病室番号をスマートデバイスを介して確認することにより、患者情報が表示される例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、病院内で患者確認が必要となる場面において、画像を用いて患者誤認が生じることを防止する統一的なシステムに関する。また、ここで「病院内」とは、オンライン診療のように、病院内の医師が自宅にいる患者を診療する場合も含む。医療現場において、確認が必要となるのは、具体的には、手術や処置などの際の患者確認、及び処置内容・手技の確認、投薬の際の患者及び薬剤の確認、給食の配膳の際の確認等が挙げられる。本発明は、各医療機関で行われている通常の患者の誤認を防止するための方法やルール、例えばリストバンド、診察券による確認、患者本人に氏名と生年月日を言ってもらうなど、従来から行われている基本的な方法に加えて、患者誤認を防止するシステムに関する。また、診察券、リストバンドといった通常の確認方法を取ることが難しいオンライン診療における患者確認方法に関する。具体的には、患者確認が必要な給食、投薬、処置時等において、患者画像、あるいは給食、投与する薬の画像を用いて誤認防止をするシステムに関する。
【0013】
ここで、患者情報とは、患者情報記録部に記録されている情報をいう。具体的には、電子カルテシステム等に登録されている各患者固有の情報、すなわち患者ID、患者IDに紐付けられている検査データ、オーダー情報、医師及び栄養士、看護師など医師以外のスタッフの所見等、患者に関する全ての情報をいう。例えば、給食においては、アレルギー情報等、患者の食事に関する禁忌情報や、食箋による食事の指示等を指す。診療においては、患者に投与すべき医薬品情報、行うべき処置に関する情報を指す。患者情報は、電子カルテによって登録され、患者情報記録部である電子カルテシステム内のデータベースに格納され、電子カルテシステムによって管理されている。また、顔認証等の生体認証を行う場合には、予め患者の顔画像等も患者情報として患者情報記録部に登録されている。
【0014】
また、画像情報とは、画像取得装置の画像取得部によって得られる画像情報をいう。例えば、給食においては、スマートグラスを介して確認する配膳すべき主食、主菜等を、投薬の場合には、スマートグラス等によって得られる実際の薬剤等を画像情報と言う。なお、ここで画像取得装置とは、スマートデバイス、具体的にはスマートグラス、タブレット、スマートフォン、スマートウォッチ等、画像情報を得ることができる装置、具体的にはカメラ機能を備えたスマートデバイスを好ましく使用することができる。また、後述のように、給食の場合は、患者情報もスマートグラスを介して食札上のQRコード(登録商標)から確認される。
【0015】
診療における画像情報とは、顔認証等の生体認証情報から得られる情報や病室番号等であり、電子カルテシステムに照会されることによって、登録されている患者IDと紐付けられ、患者情報を得ることができる。患者情報と画像情報とは、電子カルテシステム内のコンピュータである比較部によって比較され、患者IDと画像情報とが一致しているかを確認し、誤っている場合には警告を発するように設定されている。
【0016】
まず、給食の誤配膳防止システムについて説明する。患者の食事に関する禁忌情報は、入院時、あるいは入院が決まった際に、医師、看護師等のヒアリングによって、患者カルテに禁忌情報として記入される。ここで、患者の食事に関する禁忌情報とは、アレルギーのような身体症状が生じるために禁忌とされる食品だけではなく、ハラル等、宗教上の禁忌を含み、患者が摂取することができない食品全般の情報である。また、患者の状態や治療によって生じる食事の制限に関しては、医師によって食事箋により指示される。カルテに登録された患者のアレルギー情報等の食事に関する禁忌情報と、医師によって食事箋により指示された情報は、食事情報として電子カルテにより調理室に送られる(
図1(A))。調理室では、送られた情報により、どのような主菜、副菜、主食をいくつ作るかを集計し、各患者に何を配膳するかについて把握することができる。
【0017】
調理室のシステムでは、管理栄養士が立てた献立からレシピを把握し、用いる食材、調味料等が把握される。レシピから使用する食材や調味料が特定されることから、禁忌とすべき食事情報をより正確に照合することができる。調味料として加えた食品に含まれるアレルギー食材等もこのシステムによって把握することができる。また、喫食率の計算も、食材や調味料が特定されていることから、患者が摂取した塩分、タンパク質量等の計算も可能となる。
【0018】
各患者の献立は、食札として印刷されトレイに置いてあり、調理室では食札にしたがって調理した食事を患者のトレイに配膳していく。食札には、患者の氏名、一般食、治療食等の食事の種別、食物アレルギーや禁忌の有無、食事箋の指示にしたがった内容の献立が記載されている(
図1(B))。食札にはさらに配膳すべき食事の献立、アレルギーなどの禁忌情報を含む食事情報が、バーコード、あるいはQRコードのような二次元コードにコード発行部において変換され、コード化された食事情報が印刷されている。
【0019】
調理室スタッフはスマートグラスをかけて、食札に印刷されている二次元コード等の情報に従い配膳を行う(
図1(C))。具体的には、スタッフがこれから配膳する料理を指定し、その料理名が食札上のQRコードに含まれる場合には、スマートグラス内の仮想ディスプレイにおいてQRコードに重ねて○が表示される。例えば、調理スタッフが「主菜・サバ味噌煮」と配膳する料理を指定する。指定方法は音声入力でも、後述のようにAI(人工知能)により提供される料理を学習させ、配膳するものをスマートグラスにより確認することによって指定してもよい。調理スタッフがトレイ上の食札のQRコードを確認し、QRコードにサバ味噌煮が配膳すべき主菜として含まれている場合には、スマートグラス内の仮想ディスプレイにおいてQRコードに重ねて○が表示される。サバに対してアレルギーがある患者、あるいは、治療食として別の主菜を提供すべき患者の場合には、QRコード上に重ねて×が表示される。スタッフは食札に重ねて表示される○や×の表示を確認しながら主菜を配膳していけばよい。スタッフは、表示された内容にしたがって、ハンズフリーで主菜、副菜等の配膳を行うことができるため、非常に効率的かつ正確に配膳を行うことができる。
【0020】
病院の給食は一定の期間で同じものが繰り返し提供されることから、その種類は限られている。そこで、給食で提供される料理を予めAIにより学習させておく。配膳が終了した後に、配膳した料理が正しいか確認する際にも、スマートグラスで食札のQRコードと配膳した料理が一致するかを確認すればよい。スマートグラスによって、配膳すべき主菜、あるいは副菜であるかを認識することができるとともに、間違って配膳を行った場合、あるいは配膳を忘れた場合には、表示されている情報のうえに警告が重ねて表示され、配膳ミスを防止することができる。その結果、各患者に配膳すべきものをミスすることなくトレイのうえに配膳することができる。また、AIによって食事内容が学習されていることから、後述する喫食率の算出を行うことができる。
【0021】
配膳が終わった後に配膳された食事に誤りがないかチェックする際にも、スマートグラスをかけ、食札に記載されているコードを読み取り、次にトレイに配膳されている食事内容を確認する(
図2)。具体的には、コードから読み取られた情報と、トレイに載っている食事が一致している場合には、合格、あるいは○が仮想ディスプレイ上に表示され、異なる場合には、間違って配膳されたものに×が表示されるなどの警告が発せられる。警告が発せられた場合には、誤って配膳されたものを正しく配膳し、再度確認を行う。スマートグラスによって、食札情報、配膳情報を見るだけで、配膳が正確に行われたかを確認することができるため非常に効率良く配膳チェックが終了する。
【0022】
各病室において、患者に配膳を行う場合にも、スタッフはスマートグラスをかけて配膳を行う。患者が在室の場合には、患者に直接氏名を確認する、患者のリストバンド、ベッドに表示されている患者情報、あるいは後述する顔認証などの生体認証システムにより患者の確認を行う。食札上のコードと患者情報を照合することにより、間違いなく配膳することができる。また、患者が不在の場合であっても、後述のように病室の部屋番号をスマートグラスで確認することにより、患者氏名が確認できるようになっているため、患者に直接確認することができなくても、各病室の患者を把握し、誤配を防止することができる。各患者に配膳する際にも、確認された患者情報と食札情報が一致しない場合には、警告が発せられるため、誤配膳を防止することができる。
【0023】
病院においては、各患者の喫食率は、患者の栄養状態を把握するために重要な情報となる。多くの場合には、看護師が食後に患者から聞き取りを行った結果や、トレイを下げる際に確認した結果をカルテに登録している。患者の申告にしても、看護師による記録にしても、例えば、主菜は1/2程度摂取など、漠然とした報告である場合も多く、一応の目安程度にしかなっていない。より細かい喫食率を記録することができれば、患者の栄養状態をより正確に把握することが可能となり、治療に積極的に役立てることができる。本発明の画像による認識を用いれば、以下のように患者の喫食率も簡単に算出することができる。
【0024】
患者の食事が終了すると、各トレイはそのまま調理室に戻される。調理室ではスマートグラスをかけたスタッフが食札上のコードを読み取りつつ、戻ってきたトレイの状況を見る。各患者に配膳された献立内容は食札情報から得ることができるので、食後の各容器の状況から、AIが自動的に各患者の喫食率を算出する。算出された喫食率は、食札上の患者情報から取得される患者IDによって、自動的に電子カルテに登録される。各患者が何をどの程度摂取したかを自動的に算出し、記録することができるため、病室において看護師が各患者から聞き取りを行う手間を軽減することができるだけではなく、統一した基準でより詳細に喫食率を記録することができる。また、栄養士も喫食率を確認することができることから、喫食率により患者の栄養が偏っていることが疑われる場合には、補助食品の提供等、必要な栄養が取れるように提案を行うことができる。
【0025】
次に、投薬、処置時における患者取り違え防止について説明する。患者は初診時、あるいは入院時に、生体認証登録を行ってもらう。ここでは、顔認証を例に説明するが、指紋認証、静脈認証、声紋認証、虹彩認証など、どのような生体認証システムでも用いることができる。各患者の生体認証情報は、患者IDと紐付けられ、データベースに登録される。
【0026】
用いる生体認証システムは、非接触であること、麻酔下など患者の意識がない状態でも容易に認証が可能であることから、顔認証システムが望ましい。また、患者は感染症予防等のためにマスクをして来院することも多いことから、登録時はマスクなしで登録した場合でも、マスクをした状態で認証できるようなシステムであることが好ましい。
【0027】
登録された認証用画像は、患者IDと紐付けられていることから、上述のように食事を患者に配膳する際や、処置を行う際の患者認証に利用することができる(
図3)。多数の診察室が並んでいる医療機関において、患者を呼び入れた際に、異なる診察室に入室してしまった患者であっても、タイミング良く入室してきた場合には、思い込みで診察、処置を行ってしまうといった事故が発生することがある。これを未然に防ぐために画像による確認を用いることができる。例えば、診察、あるいは処置時に、医療従事者が患者を診察室や処置室に呼び入れる場合、診察室や処置室の前にカメラやタブレットなどの撮像装置が配置されており、患者入室時に画像が取得される。医療従事者が呼び入れるべき患者として電子カルテ等で確認している患者IDと、生体認証により得られた患者IDが照合される。処置すべき患者IDと生体認証によって得られた患者IDとが一致した場合には、正しい患者である旨の表示が医療従事者のディスプレイ上に表示される。生体認証により得られた情報が、処置すべき患者の患者IDと一致しなかった場合には、医療従事者の端末に認証ができなかった旨が通知される。さらに、患者の画像情報から、診察室・処置室内にいる患者の患者IDがデータベースに照会され、患者情報が表示される。そのため、医療従事者は画像情報により取得された患者IDを確認し、正しい処置が行われるように手配することができる。また、患者の顔認証は、オンライン診療時の誤認防止としても活用することができる。予め電子カルテシステムに登録されている顔画像情報と、モニター上の患者の顔画像を照合し、同一であると認証された場合に、診療を開始するシステムとすれば、オンライン診療による誤認を防止することができる。
【0028】
また、手術などの処置を行う場合には、麻酔前に患者本人に氏名(フルネーム)、生年月日を言ってもらうなど通常のルールに従って本人確認を行うことはもちろんだが、手術室において、執刀医はスマートグラス越しに顔認証で本人確認を行う。顔認証であれば、麻酔中でも可能であり、手術前に患者を確認できることから誤認を生じることがない。さらに、認証された患者にオーダーされた手術について、おおよその手術部位、例えば、右肺、左乳房、前立腺などの情報が拡張現実により患者の上に表示される。また、併せて事前に検討していた手術の術式等についても表示される。これにより、患者誤認だけではなく、思い込みによるミス等を防止することができる。
【0029】
また、投薬も画像を利用して確認することができる。スマートグラス、あるいはタブレット等の撮像装置によって投与すべき薬剤と、患者の画像を確認する。薬剤はPTP包装シート等に印字されているバーコード(GTIN)を利用して確認することができる。あるいは、薬剤は予めAIを画像によって薬剤の種類、製剤量が識別できるように学習させておけば、一包化されている場合にも判定することができる。撮像装置によって取得された投薬予定の薬剤情報と、顔認証から得られた患者IDから、電子カルテに記載されている投薬情報と照合を行う。あるいは、薬袋に、処方箋によって調剤した薬剤の情報、及び患者IDをQRコード等によって付与しておき、患者に薬を渡すときに確認してもよい。具体的には、患者に薬を渡すときに、スマートグラス等を介して薬袋のQRコードから患者IDを取得し、顔認証によって照合し、患者本人であることを確認する。薬剤情報に関しては、QRコードの処方情報とカメラに映る実際の薬剤とを比較することにより、確認を行えば良い。なお、患者IDは、画像による生体認証だけではなく、リストバンド、あるいは診察券のコードによって取得してもよい。薬剤情報と、電子カルテに記載されている患者に投薬すべき薬剤の投薬情報が一致しない場合には、警告が発せられることにより誤認を防止することができる。
【0030】
また、患者の個人情報保護の観点から、患者氏名を病室に表示しない病院が多くなっている。投薬、処置などの際に、患者を確認する場合に、病室番号をスマートグラス見る、あるいはスマートデバイスのカメラで読み取ると、患者情報が表示される(
図4)。給食を配膳する場合には、病室番号とともに表示される患者氏名と食札を照合することにより、誤配膳を防止することができる。また、医師や看護師がスマートデバイスで病室番号を読み取った場合には、スマートデバイスのログイン者情報から、ログインしている医師等が担当している患者の場合には、患者氏名の前に担当患者であることが強調表示される。また、主治医情報も表示されることから、担当ではない看護師であっても連絡を取るべき医師が即時に分かる等のメリットがある。
【0031】
上記説明してきたように、従来から行われている患者確認の方法に加えて、画像を利用した確認を加えることによって、様々な誤認を防止することができるだけではなく、積極的に情報を得るためにも活用することができる。また、画像による誤認防止は、病院内だけではなく、介護施設、教育施設等、様々な施設において応用することも可能である。