(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004746
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】防潮壁およびその構成方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/10 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
E02B3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106636
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】518411567
【氏名又は名称】景観技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107825
【弁理士】
【氏名又は名称】細見 吉生
(72)【発明者】
【氏名】喜田 俊雄
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA03
2D118AA12
2D118AA23
2D118AA28
2D118BA03
2D118BA05
2D118BA07
2D118BA09
2D118CA02
2D118CA07
2D118FB03
2D118GA19
(57)【要約】
【課題】 堤の上部に透明板が配置された防潮壁であって、簡単な作業で構成でき、現地での工事期間を大幅に短縮することができる好ましい防潮壁とその構成方法を提供する。
【解決手段】 略U字状の横断面形状を有する金属枠体20を、上向きに開いた空間を内側に有する状態で堤2の上部に固定し、各透明板10の下方縁部10aと当該各透明板の厚さ方向に寸法を変え得る寸法変更部材33とを金属枠体20の内側に挿入し、各透明板10を、下方縁部10aを寸法変更部材33で押圧することによって金属枠体20に固定する。発明では、その金属枠体20を、アンカーボルト3で固定すること等により、堤2の上部に設置する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
四辺形状の複数の透明板が堤の上部に配置された防潮壁であって、
略U字状の横断面形状を有する金属枠体が、上向きに開いた空間を内側に有する状態で堤の上部に固定され、各透明板の下方縁部と当該各透明板の厚さ方向に寸法を変え得る寸法変更部材とが上記金属枠体の内側に挿入され、上記各透明板が下方縁部を上記寸法変更部材で押圧されることにより上記金属枠体に固定されていること、
および、上記金属枠体が、アンカーボルトで固定されることにより、または、堤を構成するプレキャストコンクリートブロックに埋め込まれることにより、堤の上部に設置されている
ことを特徴とする防潮壁。
【請求項2】
上記寸法変更部材は、上記各透明板の下方縁部に対し、堤の長さ方向に間隔をおいた複数箇所であって高さ方向にも間隔をおいた複数箇所を押圧するよう、上記金属枠体内に複数配置されていることを特徴とする請求項1に記載の防潮壁。
【請求項3】
上記寸法変更部材と上記各透明板との間にライナー板がはさまれていて、
当該ライナー板は、堤の長さ方向に間隔をおいて配置された上記複数の寸法変更部材で押圧される長さを有するとともに、各寸法変更部材で押圧される各部分がそれぞれ独立して厚さ方向に変位することを可能にする切れ目を有している
ことを特徴とする請求項1または2に記載の防潮壁。
【請求項4】
上記の寸法変更部材が、雄ねじ部材と雌ねじ部材とが結合されたものであって、堤の長さ方向に間隔をおいた上記複数箇所において上記ライナー板に取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の防潮壁。
【請求項5】
上記複数の透明板が堤の長さ方向に連なるよう並べて配置されていて、隣接する2枚の透明板の間に、接着性と深部硬化性とを有するコーキング材が充填されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の防潮壁。
【請求項6】
上記複数の透明板が堤の長さ方向に連なるよう並べて配置されていて、隣接する2枚の透明板における少なくとも対向する端面付近の双方の上端部に、一体の連結キャップが被さって取り付けられていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の防潮壁。
【請求項7】
上記の連結キャップは内外に金属板が重ねられたものであり、外側の金属板は連続した一枚の板であり、内側の金属板は、隣接する上記2枚の透明板のうち一方に被さる部分の変位と他方の透明板に被さる部分の変位とが影響し合わないようにする不連続部分を双方の部分の間に有するものであることを特徴とする請求項6に記載の防潮壁。
【請求項8】
略U字状の横断面形状を有する金属枠体であって、請求項1~7のいずれかに記載の防潮壁を構成するために、上向きに開いた内側の空間がその長さ方向に連なるよう複数個が並べて配置され、アンカーボルトによって堤の上部に固定されることを特徴とする金属枠体。
【請求項9】
略U字状の横断面形状を有する金属枠体が、上向きに開いた空間を内側に有する状態で上部に埋め込まれていて、請求項1~7のいずれかに記載の防潮壁を構成するために、上記金属枠体の上記空間がその長さ方向に連なるよう複数個が並べて配置されることを特徴とする防潮壁用プレキャストコンクリートブロック。
【請求項10】
四辺形状を有する複数の透明板が堤の上部に配置された防潮壁の構成方法であって、
略U字状の横断面形状を有する金属枠体を、堤の上部に、アンカーボルトで固定することにより、または、堤を構成するプレキャストコンクリートブロックに埋め込むことにより、上向きに開いた空間を内側に有する状態で固定し、
上記透明板のそれぞれの下方縁部を上記金属枠体の内側に挿入するとともに、
長さ方向に沿った複数の部分がそれぞれ独立して厚さ方向に変位し得るよう当該各部分の間に切れ目を有するライナー板を、上記透明板の下方縁部に接するように上記金属枠体の内側に挿入し、
上記金属枠体内で上記ライナー板を介して上記透明板の下方縁部を厚さ方向に押圧する複数の寸法変更部材を、金属枠体の内側に挿入したうえ、上記ライナー板の上記切れ目をはさんだ複数の部分と高さ方向に間隔をおいた複数箇所とを当該押圧部材で押圧することにより、上記透明板の下方縁部を上記金属枠体に固定する
ことを特徴とする防潮壁の構成方法。
【請求項11】
上記透明板を、下方縁部を上記金属枠体に固定して、堤の長さ方向に並ぶよう複数配置したのちに、隣接する2枚の透明板における少なくとも対向する端面付近の双方の上端部に一体のキャップを被せて取り付けるとともに、隣接する2枚の透明板の間に、接着性と深部硬化性とを有するコーキング材を充填する
ことを特徴とする請求項10に記載した防潮壁の構成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製の堤の上部に透明板(透明な樹脂板またはガラス板)が配置された防潮壁(淡水用の防水壁を含む)とその構成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高潮や洪水等による浸水のおそれがある地域では、海や川に防潮壁を築いて水の浸入等を防止することが広く行われている。防潮壁は、一般的にはコンクリート等で形成されるが、コンクリートのみだと景観にすぐれないうえ、水位の上昇時等にも、防潮壁を通して海や河川等の様子を知ることができない。そこで、下記の特許文献1では、アクリル等の透明板を一部に使用する防潮壁が提案されている。
【0003】
特許文献1には、
図11に示す構成の透明板付き防潮壁が記載されている。その防潮壁は、1)海岸または河岸におけるコンクリート製の堤2’の上部に溝(外溝部)3’を形成し、2)その溝3’の内側に、横断面形状が略U字状の金属枠体20’を挿入し、3)溝3’の内側であって金属枠体20’の外側にモルタル5’等を流し込んで固化させ、4)そうして固定した金属枠体20’の内側に透明板10’の下方縁部10a’を挿入し、ねじ式の押圧用部材33’等を用いて拘束する、といった手順で、堤2’の上部に透明板10’を取り付けるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図11に示す防潮壁に関しては、堤が築かれた現地において、堤の上部に溝を形成したうえ、溝の内側に挿入して固定する金属枠体の位置や角度を正確に定める必要がある。複数の透明板を堤の長さ方向に連なるよう並べて配置するとき、透明板はその下方縁部のみが支持されることになるため、金属枠体の位置や角度が不適切であれば透明板を正規の位置・姿勢に配置することができないからである。
金属枠体の位置等を正確に定める必要上、
図11の防潮壁では、金属枠体20’の外側に、突出量調整が可能なボルト4’が複数本取り付けられている。それらボルト4’の突出量を調整することによって、溝3’の内側において金属枠体20’の位置や角度を定めるのである。
【0006】
しかし、堤の上部に溝を掘り、さらにその内側に位置調整しながら金属枠体を設置したうえモルタル等で固めるという現地での作業は、必ずしも容易ではない。天候によっては作業の難しい日があるうえ、モルタル等が固化するまでの養生も必要なので、金属枠体の内側に下方縁部を挿入して透明板の取り付けを行うまでにはかなりの日数が必要になる。
【0007】
本発明の目的は、堤の上部に透明板が配置された防潮壁であって、簡単な作業で構成できるうえ、現地での工事期間を大幅に短縮することができる好ましい防潮壁とその構成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の防潮壁は、四辺形状の複数の透明板(樹脂板やガラス板を含む。半透明のものをも含む)が堤の上部に配置されたものであって、
・ 略U字状の横断面形状を有する金属枠体が、上向きに開いた空間を内側に有する状態で堤の上部に固定され、各透明板の下方縁部と当該各透明板の厚さ方向に寸法を変え得る寸法変更部材とが上記金属枠体の内側に挿入され、上記各透明板が下方縁部を上記寸法変更部材で押圧されることにより上記金属枠体に固定されていること、
・ および、上記金属枠体が、アンカーボルトで固定されることにより、または、堤を構成するプレキャストコンクリートブロックに埋め込まれていることにより、堤の上部に設置されていることを特徴とするものである。
この発明の一例を
図1・
図5等に示している。すなわち、堤の上部にアンカーボルトによって金属枠体を固定し(
図1)、またはプレキャストコンクリートブロックに埋め込むことによって金属枠体を固定し(
図5)、それぞれの金属枠体の内側に透明板の下方縁部を寸法変更部材とともに挿入し、寸法変更部材にて透明板の下方縁部を押圧することによって透明板を固定している。
【0009】
本発明の防潮壁によると、透明板を固定するための金属枠体を堤の上部に設置する作業が簡単になり、金属枠体の位置や角度の精度を確保しやすいうえに防潮壁の工事期間を短縮することができる。特許文献1に記載の例のように現地で堤の上部に溝を掘る必要がなく、金属枠体を現地の堤にアンカーボルトで固定するか、または、工場内で金属枠体が埋め込まれたプレキャストコンクリートブロックを現地に設置するだけでよいからである。金属枠体の位置や角度の調整は、同枠体をアンカーボルトで固定する場合には、金属枠体に設けるボルト挿通用の穴に調整しろを設けたり、同枠体と堤との間に適宜の厚み調整板(シム)をはさんだりすることによって行うことができ、養生期間は不要である。また、プレキャストコンクリートブロックを利用する場合には、同ブロックを工場内で製造する際に同枠体の位置や角度の精度を高くすることが難しくないため、現地では、そのブロックを正しく並べて置くだけで必要な位置調整が実現できる。
なお、堤の上部に透明板が配置された本発明の防潮壁は、透明板(の上部)に達する高さまで浸水防止ができるため防潮能力が高いほか、透明板を有するために景観上有利である。また、災害時に海や河川の様子を見て警戒レベルを把握し得る点でも、安全性に優れている。
【0010】
上記の防潮壁に関し、
・ 寸法変更部材は、上記各透明板の下方縁部に対し、堤の長さ方向に間隔をおいた複数箇所であって高さ方向にも間隔をおいた複数箇所を押圧するよう、上記金属枠体内に複数配置されていると好ましい。
図3や
図8等には、寸法変更部材をそのように配置した例を示している。
なお、寸法変更部材は、金属枠体の内側で透明板の厚さ方向に寸法を変え得るものであり、寸法をねじによって変更するねじ式のものや、くさびを用いて変更するくさび式、封入体の圧力または組織もしくは化学構造の変化によって変更する膨張体式のもの等を使用できる。
【0011】
透明板の下方縁部を押圧する寸法変更部材は、堤の長さ方向における複数箇所に配置されるのが一般的である(前掲の特許文献1においても同様である)。しかし、従来はすべての寸法変更部材を同一の高さに配置していたため、傾かないようにしっかりと透明板を固定するうえでは不利な面があった。
しかしながら、上記のように高さ方向にも間隔をおいた複数箇所を押圧するように寸法変更部材を配置すると、傾かないように透明板をしっかりと固定することができ、水圧に抗する防潮堤の強度が高くなる。高さの異なる複数箇所を押圧するのであれば、透明板の背面(寸法変更部材で押圧される側とは反対側の面)と金属枠体との間に適宜に厚み調整板をはさむことによって透明板の鉛直度合いの調整をすることも可能になる。
【0012】
また、上記の防潮壁において、
・ 寸法変更部材と各透明板との間にライナー板がはさまれていて、
・ 当該ライナー板は、堤の長さ方向に間隔をおいて配置された上記複数の寸法変更部材で押圧される長さを有するとともに、各寸法変更部材で押圧される各部分がそれぞれ独立して厚さ方向に変位することを可能にする切れ目を有していると、さらに好ましい。
図3・
図8に例示したライナー板にもそのような構成を採用している。
【0013】
金属等でできたライナー板を上記のように寸法変更部材と透明板との間にはさむと、寸法変更部材の押圧力が透明板上の限られた狭い範囲に作用することが避けられるため、透明板の割れ・破損を防止するうえで有利である。しかし、透明板の厚さが均一でなくまたはその表面に凹凸がある場合等には、金属等による硬めのライナー板を使用した場合、それぞれの寸法変更部材による押圧力が透明板に確実に作用するとは限らない。実際、透明板としてよく使用されるアクリル板には厚さのばらつきが少なくなく、JIS K6718-1:2000によれば、呼び厚さ25mmのアクリル板の厚さの許容値は±2.9mmであり、厚さが増すと許容範囲はさらに拡大する。
その点、上記のとおり切れ目を有するライナー板を使用すると、各寸法変更部材が押圧するライナー板上の各部分がそれぞれ独立して厚さ方向に変位するため、透明板の厚さが不均一であっても、またその表面に凹凸が存在していても、各寸法変更部材の押圧力が透明板に確実に作用する。そのため、透明板を強く安定的に固定することが可能になる。
【0014】
上記防潮壁においては、また、
・ 上記の寸法変更部材が、雄ねじ部材と雌ねじ部材とが結合されたものであって、堤の長さ方向に間隔をおいた上記複数箇所において上記ライナー板に取り付けられているなら、さらに好ましい。
図3に、寸法変更部材がライナー板に取り付けられた例を示している。
図8の例も同様の構成である。
【0015】
雄ねじ部材と雌ねじ部材とが結合された寸法変更部材は、それらのねじ部材の間に相対回転を与えると全体の長さが変わるため、上記金属枠体の内側において透明板の下方縁部を押圧する手段として使用できる。そうした寸法変更部材が複数個、上記ライナー板の、堤の長さ方向(および高さ方向)に間隔をおいた複数の適切な箇所に、一方の部材を溶接する等によって取り付けられていると、ライナー板と複数の寸法変更部材とを用いて透明板の下方縁部を押圧する作業が簡単になる。金属枠体の内側に透明板の下方縁部とともに上記ライナー板を挿入すると、それだけで、寸法変更部材も金属枠体の内側の適切な箇所に配置されることになるからである。
【0016】
上記防潮壁において、さらに、
・ 複数の透明板が堤の長さ方向に連なるよう並べて配置されていて、隣接する2枚の透明板の間に、接着性と深部硬化性とを有するコーキング材が充填されているのも、きわめて好ましい。
図4・
図8には、隣接する透明板の間にそのようなコーキング材が充填された例を示している。
【0017】
隣接する2枚の透明板の間に、上記のとおり接着性と深部硬化性とを有するコーキング材を充填すると、それら2枚の透明板の間に多少の隙間があっても止水性を確保することができる。当該コーキング材が、隣接する2枚の透明板に強く接着するとともに、透明板同士の隙間に充填された部分が、表面から離れた深部においても硬化して十分な強度を発揮するからである。それに基づいて、隣接する透明板の間に数mm~数十mm(最大50mm程度)の隙間があっても支障がないように防潮壁を構成することが可能である。そうなると、透明板の設置に関する自由度が増すため、防潮堤の施工工事が大幅に簡単化されるという利点もある。
【0018】
上記防潮壁における透明板に関しては、また、
・ 複数の透明板が堤の長さ方向に連なるよう並べて配置されていて、隣接する2枚の透明板における少なくとも対向する端面付近の双方の上端部に、一体の連結キャップが被さって取り付けられているのも好ましい。
図8・
図9に、隣接する2枚の透明板にそのような一体の連結キャップを被せて取り付けた例を示す。
【0019】
隣接する2枚の透明板の上端部に、双方にまたがるように一体の連結キャップが被せられると、当該2枚の透明板の間に多少の角度差(いずれかが他方に対して厚さ方向へ傾いていること)があったとき、連結キャップで拘束することにより透明板の上端部のずれを矯正して当該角度差をなくすことができる。また、透明板同士の継目部分における外観を向上させることもできる。なお、上記のように隣接する2枚の透明板の間にコーキング材を充填する場合には、そのコーキング材の施工前、またはコーキング材が硬化する前に上記連結キャップを被せてずれを矯正するのがよい。
【0020】
上記連結キャップが取り付けられる場合、とくに、
・ 上記の連結キャップが、内外に金属板が重ねられたものであり、外側の金属板は連続した一枚の板であり、内側の金属板は、隣接する上記2枚の透明板のうち一方に被さる部分の変位(弾性変形にともなう変位)と他方の透明板に被さる部分の変位(弾性変形にともなう変位)とが影響し合わないようにする不連続部分を双方の部分の間に有するものであると、さらに好ましい。
図10に、そのような連結キャップの一例を示している。
【0021】
厚さが数十mmの透明板については、製造上の事情によって数mm程度の厚さのばらつきが生じがちである(アクリル板に関するJISの厚さの許容値について前記した)。隣接する2枚の透明板の間にそのような厚さの差がある場合、1枚の金属板のみでできた単純な連結キャップを被せると、そのキャップが、厚い側の透明板とは強く結合する一方、その結合によりキャップの全体が変位して隙間が開いてしまい、薄い側の透明板との結合が緩くなる恐れがある。その点、上記のように、連結キャップが内外に金属板が重ねられたものであり、内側の金属板が間に不連続部分を有するものであると、隣接する双方の透明板に対して常にしっかりと結合させることができる。しかも、外側の金属板が連続した一枚の板である以上、外観上の不利も生じない。
【0022】
発明による金属枠体は、
・ 略U字状の横断面形状を有する金属枠体であって、上記した防潮壁を構成するために、上向きに開いた内側の空間がその長さ方向に連なるよう複数個が並べて配置され、アンカーボルトによって堤の上部に固定されることを特徴とするものである。
図1・
図2に、そのような金属枠体を例示している。
【0023】
略U字状の横断面形状を有するこの金属枠体は、上記のとおり複数個を並べて配置して堤の上部に固定すると、前述のようにその内側に透明板の下方縁部と寸法変更部材とを挿入等することにより、四辺形状の複数の透明板が堤の上部に配置された防潮壁を、簡単かつ適切に構成することができる。
【0024】
発明によるプレキャストコンクリートブロックは、
・ 略U字状の横断面形状を有する金属枠体が、上向きに開いた空間を内側に有する状態で上部に埋め込まれていて、上記した防潮壁を構成するために、上記金属枠体の上記空間がその長さ方向に連なるよう複数個が並べて配置されることを特徴とするものである。
図6に、そのようなコンクリートブロックの一例を示している。
【0025】
略U字状の横断面形状を有する金属枠体を上部に埋め込んだこのプレキャストコンクリートブロックは、海岸や川岸等に上記のとおり複数個を並べて堤を構成するように配置したうえ、前述のようにその金属枠体の内側に透明板の下方縁部と寸法変更部材とを挿入等することにより、四辺形状の複数の透明板が堤の上部に配置された防潮壁(
図8参照)を簡単かつ適切に構成することができる。
【0026】
発明による防潮壁の構成方法は、複数の透明板を有する上記のような防潮壁を構成する方法であって、
1) 略U字状の横断面形状を有する金属枠体を、堤の上部に、アンカーボルトで固定することにより、または、堤を構成するプレキャストコンクリートブロックに埋め込むことにより、上向きに開いた空間を内側に有する状態で固定し、
2) 透明板のそれぞれの下方縁部を上記金属枠体の内側に挿入するとともに、
3) 長さ方向に沿った複数の部分がそれぞれ独立して厚さ方向に変位し得るよう当該各部分の間に切れ目を有するライナー板を、上記透明板の下方縁部に接するように上記金属枠体の内側に挿入し、
4) 上記金属枠体内で上記ライナー板を介して上記透明板の下方縁部を厚さ方向に押圧する複数の寸法変更部材を、金属枠体の内側に挿入したうえ、上記ライナー板の上記切れ目をはさんだ複数の部分と高さ方向に間隔をおいた複数箇所とを当該押圧部材で押圧することにより、上記透明板の下方縁部を上記金属枠体に固定する
ことを特徴とする。
このようにする防潮壁の構成方法によれば、複数の透明板が堤の上部に配置された前述の防潮壁を適切に構成することができる。
【0027】
上記の構成方法については、
・ 透明板を、下方縁部を上記金属枠体に固定して、堤の長さ方向に並ぶよう複数配置したのちに、隣接する2枚の透明板における少なくとも対向する端面付近の双方の上端部に、一体のキャップを被せて取り付けるとともに、隣接する2枚の透明板の間に、接着性と深部硬化性とを有するコーキング材を充填するととくに好ましい。
このようにすると、隣接する2枚の透明板について上端部のずれを矯正して両者間の角度差をなくせるとともに、両者間に多少の隙間があっても上記コーキング材によって止水性を確保することができる。
【発明の効果】
【0028】
発明の防潮壁またはその構成方法によれば、透明板を固定するための金属枠体を堤の上部に設置する作業が簡単になり、金属枠体の位置や角度の精度を確保しやすく、また、防潮壁の工事期間を短縮することができる。さらには、透明板をしっかりと固定できる、透明板の厚さが均一でない場合や透明板の表面に凹凸がある場合等にも適切に対応できる、隣接する2枚の透明板間の連結を好ましい状態にすることができる、といった有利な防潮壁を構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】発明の一実施例を示した図で、
図1(a)は防潮壁1の正面図であり、同(b)は同(a)におけるb-b断面図である。
【
図2】上記防潮壁1の平面図であって、
図1(a)におけるII-II矢視図である。
【
図3】防潮壁1で使用しているライナー板32(寸法変更部材33が取り付けられたもの)を示す図であって、
図3(a)は側面図、同(b)は平面図、同(c)は正面図、同(d)は底面図である。
【
図4】防潮壁1において、隣接する2枚の透明板10の間にコーキング材42を充填し付着させるための手順を、
図4(a)~(c)に示している。
【
図5】発明の別の実施例を示す図であって、
図5(a)は防潮壁51の正面図であり、同(b)は同(a)におけるb-b断面図である。
【
図6】上記防潮壁51に使用するプレキャストコンクリートブロック53を示す横断面図であって、下部を地中に埋めた状態を示している。
【
図7】上記プレキャストコンクリートブロック53が有する金属枠体70内に、透明板60の下方縁部60aを挿入し固定した状態を示す横断面図である。
図5(b)の一部の詳細図でもある。
【
図8】
図5(b)におけるVIII-VIII断面図であって、透明板60とライナー板82、寸法変更部材83等を示す図である。
【
図9】
図8におけるIX-IX矢視図であって、防潮壁51上部についての平面図である。
【
図10】防潮壁51において隣接する2枚の透明板60の間に使用する連結キャップ93を示す図であって、
図10(a)は正面図、同(b)は同(a)のb-b断面図、同(c)は同(a)のc-c断面図である。
【
図11】従来の(特許文献1に記載の)防潮壁における透明板10’の取付け構造を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1~
図4に、発明の第一の実施例を示す。
この例は、
図1(a)のように、たとえば既設のコンクリート製の堤2の上部に、長さ方向に連続するように複数の透明板1を取り付けるものである。この例では、各透明板10として、高さが約1m、長さが約2m、厚さが30mmのアクリル板を使用している。透明板1の取り付けは、
図1(b)に示す金属枠体20を用いて行う。その詳細は下記のとおりである。
【0031】
金属枠体20は、概ねU字形の横断面をもつ部分と、堤2の上部に据え付けるためのベース板とを一体にしたものである。U字形の横断面をもつ部分は、L字形の鋼材21・22を溶接することによって形成し、さらにもう一つのL字形の鋼材23を外側に溶接することにより、左右にベース板25の部分を形成している。U字形の横断面を形成した鋼材21・22・23とベース板25との間には、補強用のリブ26を溶接している。なお、使用環境を考慮し、金属枠体20としては、錆びにくいステンレス鋼や耐食性に優れるめっき鋼板を使用する。
【0032】
上記のように形成した金属枠体20は、ベース板25の複数箇所に形成したボルト挿通孔に、コンクリート製の堤2の上部に埋め込んだアンカーボルト3を通したうえ、二重のナットを用いて固定している。堤2の上部とベース板25との間には、厚み調整板4をはさみ付けている。
【0033】
堤2の上部に固定した金属枠体20には、上向きに開いた略U字形の溝状の空間があるため、その空間内に透明板10の下方縁部10aを挿入して固定する。挿入の際には、まず、透明板10の下端部を載せるゴム製のブロック31を溝の底部に設置し、続いて、透明板10の下方縁部10aとともにライナー板32を挿入する。ライナー板32は金属製の板であり、雄ねじと雌ねじとを結合させてなる寸法変更部材33を複数個、溶接によって取り付けたものである。透明板10に対して寸法変更部材33が海または河川の側(
図1(b)の左方)に位置するよう、それらを金属枠体20の内側に挿入したうえ、各寸法変更部材33のねじを操作して同部材33を伸長させれば、透明板10を、ライナー板32を介して押圧し、金属枠体20の内側に拘束することができる。そのうえで、ライナー板32の上部の隙間をパッキン34によって塞ぐと、金属枠体20への透明板10の取り付けが完了する。
【0034】
ライナー板32には、
図2に示すとおり、堤2の長さ方向に複数個の寸法変更部材33を取り付けている。寸法変更部材33は、
図3(a)・(c)に示すように、ライナー板32上で高さ方向に間隔をおいた2位置に分けて取り付けてもいる。
ライナー板32は、
図3の各図に示すように、透明板10と寸法変更部材33との間にはさまれる平板状部分32aと、上部の屈曲部分32bと下部の屈曲部分32cとを有していて、寸法変更部材33は平板状部分32aに取り付けている。屈曲部分32b・32cを設けているのは、金属枠体20内での位置を安定させることと、上部にパッキン34を取り付けやすくするためである。寸法変更部材33の操作が可能なように、上部の屈曲部分32bは
図3(b)のとおり不連続に形成している。
【0035】
そしてライナー板32には、
図3(c)に示すとおり、隣り合う寸法変更部材33の間に切れ目32dを設けている。切れ目32dは、ライナー板32の上記平板状部分32aの全幅にわたる長さを有するが、下部の屈曲部分32cには達していないため、ライナー板32を分断するものではない。こうした切れ目32dがあることから、寸法変更部材33を伸長させるとき、ライナー板32の各部はそれぞれの寸法変更部材33で押圧されてしなやかに撓むことができる。そのため、透明板10であるアクリル板に厚さのばらつきや表面の凹凸が存在している場合にも、各寸法変更部材33による押圧力を、ライナー板32の各部が透明板10の全域に確実に作用させることができる。
【0036】
金属枠体20を堤2の長さ方向に並べて配置するため、透明板10も、隣接の透明板10との間に多少の隙間(間隔が20mm前後)をおいて長さ方向に連なることになる。隣接する2枚の透明板10の端面間には、
図1(a)に示すとおりコーキング材42を充填する。コーキング材42としては、アクリル板に対する接着性と深部硬化性とを有するシーリング材、たとえば、信越化学工業(株)製の3成分系(主剤・硬化剤・カラーGXを含む)シリコーンシーリング材「マリンシーラントGX」を使用する。
【0037】
隣接する2枚の透明板10の間にコーキング材42を充填する際の要領を
図4に示している。すなわち、金属枠体20を用いて取り付けた透明板10の端面10bの最下部に、
図4(a)に示すスポンジ材41を同(b)のように挿入または接着し、そのうえで、隣接する透明板10との間に
図4(c)のようにコーキング材42を充填する。
【0038】
つづく
図5~
図10に、発明の第二の実施例を示す。
この例では、まず、コンクリートのプレキャストを行う工場内で、
図6に示すプレキャストコンクリートブロック53を複数製造し、それらを、海岸または河岸に並べて設置する。そして、
図5(a)・(b)に示すように、上記ブロック53で形成されたコンクリート製の堤52の上部に透明板60(
図1~
図4の例で使用したものとほぼ同じサイズのアクリル板)を並べて取り付けることにより、防潮壁51を構成する。
【0039】
プレキャストコンクリートブロック53は、図示のように横断面がL形のもので、1個の長さ(堤52の長さ方向の寸法)は約2mである。L形の上向きの部分がある側を海や河川の側に向け、底辺の部分等を地中に埋めて堤52を構成する。
図6のとおり、上向きの部分の最上部に、概ねU字形の横断面をもつ金属枠体70を埋め込んでいる。金属枠体70としてはU字の溝形の鋼材を用いてもよいが、この例では、断面がL字形の一対の鋼材71・72を溶接することにより使用している。ブロック53を工場内で製造することから、金属枠体70の位置精度等を高くできるため、
図5のようにブロック53を並べて配置すると金属枠体70も直線状に並び、上向きに開放された内側の空間が長さ方向に連続することになる。なお、この例でも、金属枠体70等の金属材としては、ステンレス鋼や耐食性めっき鋼板等を使用する。
【0040】
この例においても、透明板60は、
図7のようにその下方縁部60aを金属枠体70の内側に挿入することによって取り付けている。すなわち、上記のとおりブロック53に埋め込んだ金属枠体70の内側の空間に、ゴム製のブロック81をまず設置し、続いて、透明板60の下方縁部60aとともにライナー板82を挿入する。ライナー板82には、雄ねじと雌ねじとを結合させてなる寸法変更部材83が複数個、溶接により取り付けられている。それらを挿入したうえで、各寸法変更部材83のねじを操作してその寸法を拡大すると、ライナー板82を介して透明板60の下方縁部60aを厚さ方向に押圧することができ、金属枠体70の内側に透明板60を拘束して固定することができる。その後、ライナー板82の上部にパッキン84を被せることにより、金属枠体70と透明板60との間の隙間を封じる。
【0041】
プレキャストコンクリートブロック53の金属枠体70に、上記のようにして透明板60を取り付けた状態を
図8および
図9に示している。
この例で使用したライナー板82は、先に示した実施例で使用したライナー板32(
図3参照)と同様のものである。すなわちライナー板82には、
図8のように、寸法変更部材83を、長さ方向に間隔をおいて複数個取り付け、また高さ方向にも間隔をおいて上下の2位置に取り付けている。また、各寸法変更部材83で押圧される各部分がそれぞれ独立して厚さ方向に変位することを可能にするよう、上下に延びた切れ目82dを、隣り合う寸法変更部材83との間に設けている。
また、
図8・
図9に示すように、ライナー板82に、寸法変更部材83を取り付けた平板状部分82aに加えて、上部の屈曲部分82bと下部の屈曲部分82cとを形成していることも、先の実施例におけるライナー板32と同じである。
【0042】
並べて配置したプレキャストコンクリートブロック53の上部にそれぞれ透明板60を取り付けたのち、
図8のように、隣接する2枚の透明板60の間にある隙間(間隔は20mm前後)にコーキング材92を充填する。この例でも、コーキング材42としては、アクリル板に対する接着性と深部硬化性とを有するシーリング材(たとえば、前述のシリコーンシーリング材「マリンシーラントGX」)を使用している。なお、透明板60の下方縁部60aが挿入された金属枠体70の範囲には、スポンジ材91を取り付けている(
図4の例におけるスポンジ材41の使用と同様)。
【0043】
さらに、隣接する2枚の透明板60の各端面付近には、
図8のように、双方の上端部にまたがる一体の連結キャップ93を被せて取り付けている。連結キャップ93は逆U字形状の横断面を有する金属製のもので、上記のコーキング材92が固化する前の段階でこれを被せることにより、当該2枚の透明板60の間の角度差を矯正することができる。透明板60の継目部分の外観を向上させる利点もある。
【0044】
上記した連結キャップ93は、
図10のように構成したものである。すなわち、外側金属板93aと内側金属板93bとを内外に重ね、また、内側金属板93bの対向する内側面にシリコンゴムスポンジ93dを張り付けている。外側金属板93aは一枚の連続した板であるが、内側金属板93bは、
図10(c)に示すように、対向する側部の2箇所に上下に延びたスリット93cを形成したものである。こうしたスリット93cがあることにより、内側金属板93bにおいて、上記2枚の透明板60のうち一方に被さる部分の変形が、他方の透明板60に被さる部分の変形によって影響を受けることがない。そのために連結キャップ93は、透明板60同士に厚さの差がある場合にもしっかりと適切に装着することができる。
なお、このような連結キャップは、先の実施例(
図1~
図4)の防潮壁1においても、透明板10の接続部分に使用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1・51 防潮壁
2・52 堤
3 アンカーボルト
53 プレキャストコンクリートブロック
10・60 透明板
10a・60a 下方縁部
20・70 金属枠体
32・82 ライナー板
32d・82d 切れ目
33・83 寸法変更部材
42・92 コーキング材
93 連結キャップ
93c スリット(不連続部分)